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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫

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魔王復活 二

 憲兵により連れて行かれた先は、王城に併設された牢屋であった。

 奇しくもいつぞや、首都カリスを訪れて間もない頃のこと、メルセデスちゃんと共にプリズンブレイクした牢である。牢内にはちらほら人の姿が見受けられる。その只中を歩み、一番に奥まった場所へと我が身は放られた。交渉の余地はおろか、言い訳を口にする猶予も与えられなかった。

「…………」

 檻の中、一人になったところで、さて、どうしよう。

 今の自分なら、牢を脱するなど朝飯前だ。

 素手で魔法さえ跳ね返すステータス具合を鑑みれば、両手に格子を引き千切ることさえ、不可能ではないように思われる。っていうか、さっき軽く握ってみたけれど、ちょっと歪んだし。

 つまり、我が身は安全。余裕。

 エディタ先生風に言えば最強、無敵。

 しかしながら、それは全て物質的な問題だ。

「……流石にヤバイじゃんね」

 ノイマン氏を助けたい。

 その為に必要なのは、全てを焼きつくす巨大なファイアボールや、どんな怪我や病気も癒やす回復魔法ではない。どれだけ偉い奴に大上段から構えられても、これを笑い飛ばせるだけの地位と金と名誉である。

 それも間男が所属するペニー帝国という枠組みの中でのもの。

「…………」

 問題が自身の身の上に限られるのであれば、ほとぼりが覚めるまで、牢屋で食っちゃ寝しているのも一つの選択肢だった。だが、今はそういった気分にもなれない。一秒でも多くの時間を活動していたい。

 働いていたい。

 地位と金と名誉が、欲しい。

「……タナカよ」

 あれこれ考えていると、不意に名前を呼ばれた。

 胡座をかいた上で、視線を床に落としていた手前、その存在に気付くのが遅れた。顔を上げると、いつの間にやってきたのか、牢の外に立つ者の姿がある。その姿は地下牢という陰湿な空間に酷く不釣り合いな、豪奢極まるもの。

「これはこれは、陛下。お一人でこのような場所へ如何様ですか」

「この度は随分と大きく失敗したようだな」

「失敗とは?」

「流石に大聖国を敵に回してまで、お主を庇うことはできん」

 わざわざ陛下自ら、醤油顔の下へ面会に来てくれたようだ。

 もしかして、暇なのだろうか。

 お供の一人も連れずにやってくるとか、なかなか大したものだ。

「もう少し上手くやる男だと思っていたのだが、私は買いかぶり過ぎたろうか?」

「私は私が最善だと考えたところを致したに過ぎません。今回の一件に関しても、決して後悔をしておりません。もちろん、反省すべき点を挙げることはできますが、恐らくそれでも、結果は変わらなかったことでしょう」

「……そうか」

「はい」

 今この場で陛下を倒したら、クーデターとか達成できるだろうか。

 いいや、それは無理だろう。

 王族と並ぶ形で貴族の派閥が力を持っているペニー帝国だ。山を一つ崩したところで、生まれた空白地帯は、他に多く並ぶ山々に飲まれる限りである。それこそ貴族を全て追放するくらいの勢いで至らなければ不可能だ。

 そして、全てを追放したところで、ノイマン氏の自尊心は満たされない。

 尊厳と名誉は戻らない。

 もっと別の方法が必要だ。正攻法が。

「お主は、何がやりたいのだ? 聖女を討ってどうする?」

「陛下も薄々はお気づきでしょう。大聖国が語るお告げと勇者の枠組みは、彼の国の国益を支える限りです。そして、魔王は五百年前から聖女の下にありました。これが彼女の手により、先日、この世に解き放たれました」

「…………」

「当代の魔王は人類を侮蔑しております。近い将来、人類を滅ぼすべく動くことでしょう。それまでの間に我々は、彼の存在に抗するべく備えなければなりません。でなければ、人の世は容易に終わってしまうことでしょう」

「……そのような与太話を信じろと?」

「私の言葉を信じたのなら、次世代の大聖国はペニー帝国で決まりですね」

「つまりなんだ? お主は魔王を倒す算段があると?」

「算段の有無ではありません。魔王を倒さなければ、ペニー帝国に限らず、人の世が終わってしまうのです。大聖国の聖女様もまた、その事実を正しく理解しております。しかし、同じ結果を目指すのであれば、私のほうが遥かに近い場所に立っています」

「…………」

「如何ですか? ペニー帝国の主人は、私の言葉を信じて下さいますか?」

「……残念だが、私にそのような暇はない」

「確かに、とても残念なお返事です」

「お主に与えた領土は、フィッツクラレンス家のものとなった」

 事実上のお家取り壊し宣言。

 タナカ男爵終了のおしらせ。

 一方でどうやらリチャードさんは、上手く動いてくれたようだ。

 これで最悪、ドラゴンシティに居する面々は守られる。いや、どちらかと言えば、ロリゴンをイタズラに刺激したペニー帝国が、勝手に滅んでゆく未来を防いだ、という側面の方が大きいのかも知れない。

 どちらにせよ、これを確認出来た時点で、首都での目的は達せられた。

「大聖国はお主の行いを激しく非難する一方、その処遇に対しては寛大な姿勢を見せている。聖女は今回の一件を、お主個人に対しては無条件で許すそうだ。その身を害するような真似は決して行わぬようにと、この私まで釘を刺されてしまった」

「……そのようですか」

 十中八九でエディタ先生の活躍を耳としたが所以だろう。

 東の勇者さまから伝えられたところ、最強モードとなった金髪ロリムチムチ先生による報復を恐れての対応と思われる。こんなことなら醤油顔も彼女の前でハッスルしておけば良かった。

「とは言え、釈放する訳にはいかん」

「…………」

「何か言うことはないのか?」

「ございません」

「……そうか。では、このまま檻の中で生涯を老いてゆくがいい」

 多少ばかりを語ったところで、陛下が踵を返した。

 最後は無表情。

 そのまま醤油顔の収まる牢屋から去っていく。果たして彼は何の為に、わざわざこのような場所まで足を運んだのだろう。流石にこればかりは分からない。まさか謝罪が欲しかった訳でもあるまい。

「あぁ、一つありました」

「なんだ? 言ってみろ」

 ふと、ここ数日の出来事を思い起こしたところで、自然と口が動いた。

 陛下がこちらを振り返る。

 そんな彼に最後のご挨拶を。

「バカンス、とても楽しめました。ありがとうございます」

 パンモロ接待メイドさん、最高でした。

 ただ、お返事はこれといって返って来なかった。



◇◆◇



【ソフィアちゃん視点】

 探しました。それはもう必死になって探しました。

 お粉を。

 しかしながら、私はこれを見つけることができませんでした。自身に割り当てられた居室はもとより、応接室や執務室、キッチンなど、大聖国から戻って以降、歩きまわった場所は全て確認いたしました。

 それでも見つからないのです。

「…………」

 どこへ行ってしまったのでしょうか。紛失に気づいて当初は、他の方に見つけられては大変だと焦っておりました一方、半刻ほどを血眼となり探したところで、今はもう二度とお粉を楽しむことができないのだという、その事実に悲しみを感じております。

 なるほど、これが依存性というヤツなのですね。

 お粉したいです。

 おまたぐしょぐしょです。

「……あ、諦めましょうか」

 自らに言い聞かせるよう呟きます。

 口で言うのは簡単です。

 余裕綽々です。

 けれど、意識は完全にお粉に飲まれております。

 実家の手伝いをしていた時分には、まるで手の届かなかった品でしょうか。しかし、いつぞやドラゴン退治に際して頂戴した金貨の他、ここ最近では、タナカさんから頂戴したお給料や報奨金が、かなりの額、自室には蓄えられております。

 こちらを利用すれば、お粉の一袋や二袋、恐らく余裕でしょう。

 もしかしたら十袋くらい、楽しめるかもしれません。

 首都カリスでも、お粉の密売は日常的に行われていると聞きます。お金を持っていけば、女性でも購入することができるのだとか。お店の常連さんにも、一人二人、その手の方がいらっしゃり、過去に何度か誘われた経験もございます。

「うぅ……」

 これはいけません。

 とても危険な気がしますよ。

 身の破滅が、チラリ、自らの向かう先に垣間見えました。

 きっと、一度でも身近に感じてしまったのが良くないのでしょう。

 お粉、お粉が欲しいです。



◇◆◇



 王様が去ってからしばらく、醤油顔は牢屋のなかで一人会議だ。

 ノイマン氏の復権方針を巡り、あれこれと頭を悩ませていた。

 かれこれ数刻ばかりが経過しただろうか。なかなか良い案は浮かばず、時間だけが淡々と過ぎていく。あまり長く牢の中に過ごすつもりもないのだけれど、状況が状況なだけあって、無計画に動くのも憚られる。

 そんなこんなで、石畳の冷たさに尻を冷やしながら、自問自答の繰り返し。気づけば時間は過ぎていた。グゥグゥと耳喧しくも鳴く腹の虫に、段々と空腹を感じ始める。

 そうした頃合いのこと、不意に地下牢へ響く音があった。

「き、貴様っ、覚えていろっ!?」

 女の叫び声だ。

 これと時を同じくして、ガシャン、金属のぶつかり合う硬い音。

 たぶん、格子に作られた牢屋の戸口が、閉められた音だろう。

 どうやら誰か、新たに牢へと放り込まれたようだ。

「くっ……まさか、またも……」

 ところで、ふと気付く。

 その声はどこか、過去に聞いた覚えのある響き。

 自然と音の聞こえてきた方を眺める。すると、フロアの中央、四方の壁を格子により作られた、特注の牢屋に人の姿が。どこぞの情報に従えば、いわゆる女性向けの陵辱スペース。つい今し方まで空っぽであった空間。

 そこに収まる女性の姿が。

「もしかしてメルセデスさん、ですか?」

「っ!?」

 その名を読んだところ、檻の中の彼女に反応があった。

 ビクリ、肩を揺らしたかと思えば、慌ててこちらを振り返る。

 すると、どうしたことか。

「タ、タナカっ!?」

「これはまた、妙なところでお会いしましたね」

 まさかのガチレズ女騎士である。

 もしかして、彼女にとっての投獄とは、割と日常的なイベントだったりするのだろうか。流石に近衛としておかしいと思う。どれだけ不祥事に恵まれているのだ。しかし、事実として牢屋には、薄着一枚に剥かれた知り合いの姿があった。

「貴様こそ、ど、どうしてこのような場所にいるっ!」

 それはこちらの台詞である。

 ただまあ、今は素直に答えておこう。

 下らない勘違いなど受けては大変だからな。

「少々厄介な相手に睨まれましてね……」

「……宰相か?」

「いいえ、聖女様ですよ」

「な、なんだとっ!?」

 既に宮中では噂になっているという。今更隠し立てしたところで、相手の不安感を煽るばかりだろう。そう考えたところで、素直にお伝えさせて頂く。相手はメルセデスちゃんだし、知ったところでどうだ、ということもあるまい。

 すると、彼女は表情は驚愕の一色に。

「まさか会ったのかっ!? あの歴代随一の美貌を持つといわれる聖女にっ!」

「ええまあ、多少ばかり話をさせて頂きましたよ」

「くっ、どうして私を誘わなかったっ!? ありえんっ!」

「…………」

 やっぱりか。

 そんなこったろうと思ったよ。心の底から悔しそうな顔をするガチレズ女騎士。その立ち振舞に少なからず安堵を覚えている自分がいた。紛争騒動の最中に別れて以降、久方ぶりの顔合わせだというのに、まるで昨日別れたばかりのような感覚がある。

「そちらこそ、どうしてこのような場所に?」

「……そ、それは、そのだな……なんだ、まあ……」

「また、謂れのない人物を歯牙に……」

 どうしようもない近衛騎士だ。

 羨まし過ぎる。

「違うっ! ただ、お、王女殿下が、その、なんというかっ……」

「王女様がどうかしたのですか?」

「…………」

 問いかけると、続くところを失ってしまうメルセデスちゃん。

 王女様と言えば、いつぞや学技会の折にはセックスのお誘いを下さった美少女だ。このようなブサメンにも性のチャンスを与えて下さった、女神と称しても過言ではないお方であらせられる。とてもではないが、あのセコい陛下の娘さんとは思えないほど、寛容な心の持ち主だろう。

「王女様は素晴らしい方だと思います」

「そんな馬鹿なっ!?」

「……そうなのですか?」

「王女殿下は、お、王女殿下は、だな……」

 こちらの言葉に反応して、物言いたげな表情となるガチレズ女騎士。

 ただ、どうしても続きが出てこない。

 王女様に弱みでも握られているのだろうか。メルセデスちゃんが女性を相手に気後れするなど珍しい。大公爵令嬢であるエステルちゃん相手にも、果敢にセクハラを繰り返していた彼女らしからぬ振る舞いだ。

「言い難いことであれば、無理にとは言いませんが……」

「……王女殿下は、嗜虐趣味が過ぎるお方なのだ」

「嗜虐趣味、ですか?」

「素知らぬ顔で甘やかし、幸福を与え、これが極まったところで、落すのだ」

「…………」

 おうふ、そいつは初耳だ。

 っていうか、思ったよりも刺激的なお話じゃないですか。

「そこで見せる、落とされた者の絶望の表情が、他の何よりも好きなのだ。これを眺める為には、どのような犠牲も厭わない。それこそ、ご自身の身体さえをも容易に与えて、ただただ、最後に落ちる者の絶望を、あの穏やかな笑みの裏側で楽しんでおられるのだ」

「……な、なるほど」

「王女殿下が自らの足でお立ちになってから本日まで、僅か数年の間に、近衛は半数が入れ替わっている。それもこれも全ては殿下の性癖が示すところ。特に男性兵は大半が喰われたところで、極刑の憂き目を見ている。殿下は淫乱と鬼の気質がある」

 マジかよ。

 それ本当かよ。

 でも、思い当たるフシがあり過ぎる。

「いつぞやの病も、あの娘に恨みを持った者の犯行だろう」

「そのような背景があったのですか……」

 あれって自業自得だったのかよ。

「だが、私は負けぬ! いつか、いつか必ずや、あの娘を調教してやるのだ!」

「…………」

 そしてまあ、こっちもこっちでバイタリティ半端ねぇのな。

 まさか抵抗の最中にあるとは思わなかった。ここまで来ると、メルセデスちゃんの性癖もある種の武器である。どうやら一連のトークで興奮させてしまったらしく、目元は血走っているし、王女様のことも娘呼ばわりだし。

「メルセデスさんもまた、戦ってらっしゃったのですね」

「ああ、そういうことだ! 必ずやこの腹の上に侍らしてくれるっ!」

 おかげでメルセデスちゃんが牢屋に入っている理由も判明だろうか。

 その勢いづいた語り草に、根拠のない頼もしさを感じてしまった。

 それがどれだけ下らないことであったとしても、一生懸命になっているヤツとは、得てして輝いて見えるものだ。二回も牢屋に突っ込まれて、それでもめげないとか別次元だけどな。今も現在進行形でガッツポーズとかキメているし。

 一頻り性癖を誇ったところで、今一度、ガチレズの意識が醤油顔に向かう。

「しかし、そういう貴様こそ何故に大人しく捕まっているんだ? この程度の牢屋であれば、抜け出すなど造作も無いことだろう。ここの檻はファーレン様が作られたものだ。貴様に壊せぬ道理はない」

「確かにそうかもしれません。ですが、その先に勝利はないのです」

「……どういうことだ?」

「実は私の親しい方が、私のせいで社会的に困窮しております。その名誉は地に落ちて、自尊心もまた泥まみれとなってしまいました。私はこれをどうにかして、同じ土俵で誰もが認める挽回を、この手に実現したいのです」

「社会的に困窮というのは、どういったことだ?」

「平たく言うと、長らく家を留守にしたせいで奥さんをライバルに寝取られてしまったのです。更に首都カリスに構えたローン持ちの自宅を追い出された上、仕事さえ失ってしまいました。今後、ペニー帝国での就職は絶望的でしょう」

「き、貴様、どれだけ酷いことをしたのだ? そんなのあんまりだろう……」

「ええまあ、ですから、どうにかしたいと考えております」

 メルセデスちゃんに指摘されると、殊更に酷いことのように思えてくるわ。いや、事実としてこの上なく酷いのだけれど、三割増しというか、これ以上にダメな奴はいないと思わせるだけの説得力がある。

「つまり、その者をすくい上げる為に、この国で成功したいと」

「ええ、そういうことです」

「いちいち細かいことを気にする男だ」

「男にとっては非常に大切なことです」

「貴様ならば全てを滅ぼしてしまうことも、不可能ではないのではないか?」

「それでは意味がありません。彼の名誉は永遠に失われます」

「……できないとは言わないのだな」

「仮に今この瞬間、目の前で貴方の生命が危地に晒されたとあれば、それも吝かではありません。しかしながら、私は未だ、この国に幾らばかりかの執着があります。これを否定してまで、全てを無かったことにはしたくない」

「恐ろしい男だな。何故に女として生まれなかった。あまりにも惜しい」

 知るかよ。

 なんか思春期の学生っぽいトークが最高だわ。

 性転換しても、このガチレズに調教されるのだけは――。

「…………」

 それはそれで、アリなのかもしれないが、今は考えるべきではない。ただ、贅沢を言うのならば、今の姿で調教を提案されたかった。そうしたら童貞は、身も心も捧げて従順なマゾ奴隷へとジョブチェンジできたことだろう。

「しかし、それなら聖女を浚いに行くのが最善だろうな」

「……そうでしょうか?」

「私なら貴様を手伝うことができる。さぁ、すぐにでも出発しようではないか。貴様の魔法を用いれば、そう手間はあるまい? 必ずや貴様の野望を達成させてやる。今し方に語ってみせた男の名誉も、早急に挽回されることだろう!」

「…………」

 物は言いようってヤツだよな。

 メルセデスちゃんの中では、既に聖女様の調教がスケジュールされている。確かに外見だけならば、その姿は一級品であった。更に彼女の周囲には膜確の美少女が多数存在している。二、三人ばかり攫って、ザーメン水車に括り付けてジャバジャバさせたい。

「……そうですね」

 個人的にもそれが良いような気がしてきた。

 あそこは彼女の独裁政権だ。

 トップを叩くというのは、非常に効率的な方法である。

 しかし、叩くだけでは意味がない。自身が権力を得る為には、その先が大切だと思う。より具体的には、拠り所となる組織が必要だ。聖女様を倒しただけでは、次に力を持っている組織の台頭の助力となるばかりで、自分自身の立場はなんら変わりない。

 人の信念とは非常に面倒なものである。

 それこそ絶体絶命に至るまで、人は甘い汁を手放そうとはしない。如何に優れた社員がいようとも、課長や部長はその立場を譲ろうとはしない。当然だ。年収が大きく下がるからな。ボーナスだって、社内の扱いだって、段違いである。

 結局、その立場を上役が諦める頃には、会社自身が価値を失っているという。

 故にこれまでも見送ってきたのだが。

「だろう!? さぁ、行くぞっ! 大聖国へっ!」

 鎖に足を繋がれた姿格好のまま、それでも顔を輝かせて吠えるガチレズ。

 そんな彼女にどう答えたものか、頭を悩ませる。

 すると、不意に他所から声が。

「また随分と楽しそうなお話をしていますわね」

 若い女性の声だった。

 耳に覚えがある。

 どこで聞いただろうか。

 自然と意識を向ける。

 すると、そこには王女様の姿が。

「お、王女殿下……」

 ピクリ、メルセデスちゃんの身体が震えた。

 王女様は地下牢の通路を我々の側に向かい、出入り口の方から歩んでくる。その後ろには武装した三名の兵に連れられて、五、六名ほど囚人と思しき風貌の男性が連なる。彼らは一様に手枷を嵌められており、足にも互いを結び合うよう鎖が伸びる。

 ちょっと良くわからない集団だ。

 一団はフロア中央、メルセデスちゃんが収まる牢の前までやってきた。醤油顔の檻とは距離にして数メートル。囚人たちのハァハァという息遣いが、こちらまで聞こえてくる。すぐ傍らに立った王女様の姿と相まって、とても絵になる光景だ。

「貴方に素敵な差し入れを持ってきたのです」

「……くっ」

 ガチレズ女騎士の表情が目に見えてこわばる。

 彼女が入れられている檻の用途を思い起こして、囚人たちの役割に判断がいった。薬でも打たれているのか、血走った目で牢の中の彼女を見つめている点からも間違いあるまい。これはもしかしてあれか。メルセデスちゃんの陵辱タイム、始まりの予感。

「そちらの男性には見覚えがあります。タナカ男爵、だったでしょうか?」

 王女様の意識がこちらに向かう。

 我々のトークを耳にしていたようだけれど、どこまで聞いていたのだろう。

「それも全ては過去のお話です。今はただのタナカでございます、殿下」

「……つまらないですね」

「つまらない、ですか? 私になにか至らないところでも?」

 いつぞや学技会の折、ファックのお誘いを受けた際とは打って変わって、不機嫌を顕とされていらっしゃる。醤油顔の大聖国ので不手際を受けて、父親共々恨みをかってしまっただろうか。親子仲が良好であった点は、過去にドラゴン退治の一件で確認している。パパの何気ない愚痴を耳にして、という可能性は非常に高い。

 ただ、続けられたところは完全に明後日なもの。

「平民から貴族に取り立てられて、幸福の最中、自らの失態から立場を取り上げられて、牢屋に入れられた。だというのに、どうして貴方はそうまでも平然としているのですか? まさか狂ってしまったのですか?」

 なるほど。

 ガチレズ女騎士の語ってみせたところは正しかったよう。

「別に平然とはしていませんよ」

「……この近衛とは親しいのですか?」

「ええまあ、友人と称して差し支えない間柄かと」

「そうですか。ならばそこで、大人しく見ていると良いですわ。手も足も出ないまま、友人が汚らしい罪人から寄って集って犯される姿を。そして、理解すると良いのです。自らが如何に無力であるかを」

「…………」

 素晴らしい提案だ。

 むしろウェルカム。

 メルセデスちゃんが囚人相手に全穴輪姦、アヘ堕ちしてしまう姿を拝見したい。ザー汁まみれの近衛レズが魅せるピースサインをチェケラッチョ。これは最高のタイミングで牢屋に突っ込まれたな。

 もしも対象がエディタ先生やゴッゴルちゃんだったら、押し入ってでも止めるけれど、メルセデスちゃんだったら、まあいいやって、なるじゃん。本人も似たようなことをしてきた訳だし、こちらとしても素直にオナニーできるって寸法よ。

 きっとカジュアルに輪姦されてくれることだろう。

「ま、待ってください、殿下っ!」

「なんですか? メルセデス。今回は以前のようにはいきませんよ。その心を完全にへし折ってあげましょう。今の貴方ならば、それは良い声で泣き叫び、やがては壊れてくれることでしょうね」

 ニィと屈折した笑みを浮かべる王女様。

 そんな彼女にメルセデスちゃんは訴える。

「お言葉ですが、殿下、その男は決して自らの無力を嘆いたりしませんっ! むしろ、今、心の内側で喜びを湛えていることでしょう。その男は私が輪姦されている姿に喜びこそすれど、嘆くことなどあり得ないっ!」

 おい、ちょっと待てよ。

 なにバラしてんだよ、この子は。

「……また詭弁を。そこまでして助かりたいのですか?」

「違うっ! 本当だっ! その男は私を助けない! 絶対に!」

 メルセデスちゃんが吠えると同時、場の皆々の視線がこちらに向かう。

 このまま無力な自分を演出し、格子を両手で掴みながら、メルセデスちゃんの名前など叫びつつ楽しませて頂こうとプランニングした矢先の出来事である。後日、先週は楽しませて頂きましたと、友人の肩を叩き、睨み睨まれ大人のシチュエーション。

 だというに、そんなこと言われたら、助けざるを得ないじゃないか。

 勝手に脳筋認定していたけれど、意外と知恵が働くぞ、このガチレズ女騎士。

「まさか私が貴方の危地を喜んでいると?」

「違うのか?」

「…………」

 彼女の視線が、醤油顔の顔から離れて、下半身へと向かう。

 気づかれてしまった。

 ポジショニングの為に、ポケットへ差し込まれた右手の存在に。

「どうした?」

「流石にそれは酷い言いようではありませんか?」

「ふ、ふふっ……」

 こちらを見つめる彼女の口元には、自らの勝利を理解して笑みが。

 くそう。

「……大切な友人を罪人の慰みものにするのは気が引けます」

 適当を語ったところで、立ち上がる醤油顔。

 正面に並ぶ格子に両手を伸ばして、これを左右に引っ張る。

 想像したよりも容易に、金属製の棒は歪んだ。

「なっ……」

 王女様を筆頭として、彼女を守るべく並び立った兵士も、更に兵士に連れられて後ろに控えた罪人も、誰も彼もが酷く驚いた顔付きとなる。唯一、例外があるとすれば、それは自らの思惑通り事を進めてみせたガチレズ女騎士くらいなものか。

 幅を広げた格子の間から牢屋の外に出る。

 これを確認したところで、メルセデスちゃんが問うてきた。

「良かったのか? 近衛の輪姦ショーが台無しだ」

「次の機会には呼んで下さい。すぐに参ります」

「馬鹿を言え、誰が男などに犯されてやるものか」

 まあいいや、どうせ出る予定だったのだ。

 このタイミングで王女様やとエンカウントしたのも、きっと何かの縁だろう。

 予期せずスポンサーが見つかったのだし、ここは一つチャレンジ。

「貴様、何をしたっ!?」

 それまで王女様の傍らに構えていた兵たちが、槍を構えて前に出る。

 うち一人が吠える間のこと、彼らは綺麗に横一列となり、こちらに対するよう自らの身体で壁を作った。その背後では驚愕の表情をそのままに王女様と、彼女の後ろに手足を繋がれた囚人たちが続く。

「王女様、ご提案がございます」

 そんな面々に醤油顔はご提案させて頂く。

「……なんですか?」

「私は貴方に、より魅力的な絶望をご提供できます。如何ですか?」

 この期に及んで贅沢を言っている余裕はない。

 使えるものは何でも使おう。

 むしろ、平凡極まる陛下より、こちらの王女様の方が、色々と仕出かしてくれそうで、なんだかちょっと楽しくなってきたわ。やっぱり、男の仕事はこうじゃなきゃいけないと思うのよ。ギリギリ一杯な感じが脇汗ぐっしょりじゃんね。

 転職って、やっぱりこういう感じがないとな。

 胸がドキドキですわ。

「見たくはありませんか? 彼の大国の聖女が見せる絶望を」

「それはまた、随分と魅力的な提案ですね」

「お耳に入れさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「……そうですね。場所を改めましょう」

「ありがとうございます」

 一度折れてしまった心は、決して元に戻らない。

 だから、折れる前に頑張るわ。

 ノイマン氏の自尊心、絶対に取り戻して見せるのだから。
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