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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫
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サキュバス 二

活動報告を更新しました。
 結論から言うと、エステルちゃんの容体は二杯目で改善した。

 三杯目は可及的速やかに廃棄された。

 苦しそうだった表情は穏やかなものとなり、呼吸も落ち着いた。紫色へと変色していた肌の色は元来の白に元通り、羽や尻尾もいつの間にやら引っ込んでいた。全てが元の鞘といった形だ。今は穏やかな調子で眠りについている。

 どうやらミルクは効果を見せたようだった。

 精液もミルクもサキュバスにとっては似たようなものなのだろう。

 おかげで感謝の極みにあるのがリチャードさん。

「大変に申し訳ありませんでした。このとおりです」

 再び集まった皆々の目前、ショタチンポの前で綺麗な土下座をキメている。耳として当初、嘘だのガセだのと騒いでしまった彼である。娘の無事が確認されたことで、自ずと頭を下げている次第だった。

 この人がブサメン以外に頭を下げるシーン、初めて見たような。

「べ、別に謝罪なんていらない! 僕はアウフシュタイナー家の人間として、当然の行いをしたまでだ! 謝罪される謂れがなければ、感謝される謂れもない! さっさとその頭を上げてくれよっ!」

 一方で謝罪を受ける側はと言えば、やたらと格好の良いこと語っている。

 マジイケメン。

 でも君、飲んでるんだよね。

「それに、その……アンタはオッサンの知り合いだったし……」

 チラリ、ショタチンポから視線が向けられた。

 応じてゆらりとスカートの裾が動く。自然と視線が向かった先、その裾が短くなっている点に気付いた。つい先程、サキュバス騒動の為に部屋を出る前と後で、膝上十数センチほどの差異が感じられる。

 めっちゃアピールされてる予感。

「流石にそれは卑しいぞ、アーシュ」

「うっ……」

 ざまぁ、ゴンちゃんから駄目だしされてやんの。

 その調子でショタチンポには、醤油顔と十分に距離を置いて頂きたい。如何にスティックの存在が確認されたとはいえ、チェック柄のミニスカートとか童貞には刺激が強い。ルアーで釣られる魚って、こういう気分なんだろう。悔しすぎる。

「謝罪と賠償をさせて下さい。どうか、お願い致します」

「だから要らないって言ってるだろっ」

「私は貴方を侮辱した。その事実は決して許されるものではない。それも酷く一方的且つ感情的な行いから、貴方の尊厳の全てを否定する形で侮辱したのです。もしも私が貴方の立場にあれば、三代先に伝えるほどの憤りを覚えている筈です」

「だったらなんだっていうんだよ」

「なんでも仰って下さい。貴方にお礼をしたいのです」

 床に両手両膝を突いた姿勢のまま、ショタチンポを見上げるリチャードさん。どうやらブラフの類ではなく、本当に申し訳ないと思っているのだろう。ここまで下手に出る彼の姿は初めて見る。

 ただ、あんまり必至な顔をすると危険だぞ。

 出口に入口を突っ込まれてしまうぞ。

「ペニー帝国の貴族はいつだってそうだ。口では偉そうなことを語っておきながら、三日も経てば忘れている。今だってオッサンの目があるから、こんなことをしてるんだろ? ああ、それなら言ってやるさ。私の願いはアウフシュタイナー家の復興だ!」

 これまた大きく出たな、ショタチンポ。

 だがしかし、リチャードさんは有限実行の男だぞ。

「…………」

「どうなんだよ? 無理だろ? だったら最初から偉そうなこと言うなよ!」

「……今すぐには難しいですね。しかし、いつか必ず」

「ふん、どうだか」

 ショタチンポがペニー帝国に良くない感情を抱いているのは、今し方のやり取りからも明らかなとおり、周知の事実である。尚且つ、ゴンザレスほど大人びていない彼だから、ここいらが引き際だろう。

 続くところ醤油顔が音頭を取らせてもらおうか。

「ところで、アーシュさんに確認したいことが」

「な、なんだよ?」

 リチャードさんから外れた視線がこちらに向かう。

「今後の話となりますが、サキュバスの発作を抑える為には、どの程度の期間で如何程の摂取が必要となるのでしょうか? 目安となる値があれば、次は慌てなくても良いよう、事前に教えて頂けるとありがたいのですが」

「本人は知ってないのか? これまでどうしてたんだよ」

「というと?」

「これは私の場合だけど、せ、精通した頃から、もう発作があったから……」

「…………」

 いかんぞ、ショタチンポの素朴な疑問が、エステルちゃんのビッチを皆様にお披露目だ。ハッと何かに気づいた様子で、リチャードさんの視線がアレンに向かう。娘の処女性を信じて止まなかったパパが、遂に事実に気づいた予感。

 まさか放り置いてはイケメンの命に関わる。

「ご家族の反応を確認する限り、恐らく今回の発作こそ彼女にとっては初めてのものと思われます。人間の性成熟に個体差があるように、サキュバスの先祖返りに関しても、個体差があるのでしょう」

「それなら私の身体に限っての話だけど、かなり長い期間我慢しないかぎり、ああはならない。ちゃんと計測した訳じゃないけど、乾きを感じ始めてから、数ヶ月は我慢しないと、ああいうふうにはならなかった」

「なるほど、貴重な情報をありがとうございます」

「我慢の度合いは人それぞれだから、当面は観察したほうが良いと思う」

 伊達に学園都市とやらへ主席入学していない。歳の割にしっかりとしたお返事だ。彼と同年代であった頃の自分を想像する。果たして立場在る大人を相手に、ここまでハキハキと受け答えできただろうか。

 いやいや、絶対に無理だったろうな。

「それが良さそうですね」

「それでその、も、もしよければ私にも、オッサンのを飲ませて欲しいっ! オッサンのなら毎日でも飲みたいっ! 我慢できないワケじゃないけれど、それでも、か、乾くには違いないから、だから、もしもくれるって言うなら、あのっ……」

「流石にそれは受けられませんよ」

「……ご、ごめん」

 しかし、数ヶ月とは随分な期間だ。

 概算でもドラゴン退治から以降、ロリビッチは誰ともフィーバーしていないことになる。記憶を失う以前であれば、まあ、分からないでもない。けれど、喪失後もというのは想定外だ。てっきりアレンと仲良くしているものだとばかり。

 もしかして、あれか。アレンが律儀にも我慢していのか。

 エステルちゃんが我慢する理由はない。学園都市で接していた限りであっても、アレンに対するラブは出会って当初の彼女を髣髴とさせるものであった。逆レイプしかねない勢いがあった。めっちゃ羨ましかった。

 なかなかどうして、ヤリチンらしくない展開じゃないか。

 同時にロリビッチがロリビッチたる所以を理解である。

 魔道貴族曰く、飲精衝動。

 人が喉の渇きから水を求めるのに等しい欲求であるらしい。そんなものがあったら、男を求めてしまうのも仕方がないことかもしれない。もちろん、だからといって非処女を認める訳にはいかない。

 ただ、童貞の女体に対する評価は、常に正当でなければならない。

 故に与えようと思う。

 名誉処女の称号を。

「…………」

 いや、やっぱ止めておこう。

 名誉とか、そういう話じゃないんだよ。

 一度失われた心の膜は、決して元には戻らないのだ。



◇◆◇



 サキュバス騒動が落ち着いたところで、場所は再び応接室へ。

 そこで醤油顔から上司へ、ここ数日の出来事に対する報告会となった。誰に何を報告するのかと言えば、リチャードさんに大聖国での一悶着をご報告だ。今後の対応次第では、彼の立場すら揺るがしかねない事案が並ぶこととなった。

 リゾートの最中、聖女様にお呼ばれしたところから始まり、大聖国での出来事を一つの漏れもなくお話した。正直、信じてもらえるか否か、不安があった。どれもこれも歴史の教科書に掲載されかねない出来事であったから。

「なるほど、やはり大聖国からのお告げはペテンでしたか」

「はい」

 ただ、大聖国の在り方に対しては、リチャードさんも疑問を持っていたようだ。こちらに関しては思ったよりすんなりと納得してもらえた。一方で疑念の声が上げられたのは、魔王の復活を巡るあれこれだ。

「しかしながら、魔王が復活というのは本当なのですか?」

「この目で確認しました。間違いありません」

「あのエルフの女性が、先代勇者のパーティーであったというのも……」

「間違いありません」

「…………」

 如何せん昔話が重要なところを占めている手前、証拠の類が手元にない。それこそ子供に語って聴かせるお伽噺が飛び出してきたよう。これでもう少しエディタ先生に威厳とかあったら、信憑性など伴ったのかもしれない。

 ただ、どこからどう見ても先生はロリムチムチである。その太股に魅せられて、自らもまたステータスの確認を怠ってしまったほどの威力を誇る。こればかりは仕方がない。世の中そういうものだ。幸せだ。

「……タナカさんがそこまで仰るのであれば、確かなのですね」

「信じてくださりありがとうございます」

「西の勇者様が一緒にいらっしゃった点から、そのように判断しました」

 どんな状況でも客観的な情報からの判断を行うリチャードさん、とても頼りになる。ここ最近は、こうして自らの判断理由を伝えてくれる程度には仲良くなれたのも大きい。信用されていると考えて良いだろう。

「なるほど」

 一方で勇者さまグッジョブ。一緒に行動していて助かった。

 ただ、それも今この瞬間までである。今の彼は非常に面倒な立場にいる。聖女様がどのような対応を見せるかは分からないが、ドラゴンシティの今後を思えば、ここいらでパージするのが賢い領主の立ち振舞だろう。

 しかしながら、彼はエディタ先生の恩人だ。

「タナカさん、西の勇者は如何されるつもりですか?」

「そうですね……」

 リチャードさんから直球が飛んできた。

 彼の首を手土産として、再び聖女様に擦り寄るか、それとも彼を中心として独自路線を貫くか。聖女様の性格と、我々が保有する戦力を考慮すれば、いずれとも舵を切ることはできるだろう。

 多少ばかり悩んだ振りをして、醤油顔はお答えだ。

「当面は彼を担いでゆくのが良いかと思われます」

 まさか先生の恩人を見捨てるなんて出来ないじゃんね。

「私は反対します」

「魔王の力は本物です。仮に人類社会を敵に回してでも、我々は団結しているべきでしょう。近い将来、魔王は人類に対して動きます。その際に我々を守るのは、他の誰でもない我々自身の結束となるでしょう。彼はその要となる存在です」

「……どれだけ先のことでしょうか?」

「それは分かりません」

「だとすると、流石にそれは……」

「ですから、リチャードさんは早い内に、私を切り離して下さい」

「確かに貴方の言うとおり、私は損得で動く人間です。先月までの私であれば、まず間違いなく、そのように判断していたことでしょう。いいえ、今もそうするべきだと、胸の内で訴えるものがあります」

「頼もしい限りですね」

「ですが今の私は自分を、そこまで義理人情に薄い人間だとは思いたくない」

「私は貴方が義理や人情を無視して動くような方だと思ったことは一度もありませんよ。娘さんを見つめるその眼差しは、紛いなく人の親のそれでした。その事実は私にとって、ある種の信用足りえるものです」

「……随分と語られますね」

「これはビジネスですよ、リチャードさん。貴方は貴方ができることを。私は私ができることを、それぞれ精一杯しましょう。別に義理を欠く訳ではありません。タナカ男爵はフィッツクラレンス公爵を信頼しておりますし、決して損をさせるつもりはありません」

 この期に及んで日和られては大変だ。

 リチャードさんにはリチャードさんらしく動いていただきたい。紳士にお伝えさせていただく。あまり切りたくないカードではあるけれど、今後のドラゴンシティを思えば、他に選択肢がないのもまた事実だ。きっと、今の彼ならば上手くやってくれるだろう。

 チラリ、窓の外を眺めてはお伝えさせて頂いた。

「……なるほど」

「よろしいでしょうか?」

 しばらく考えたところ、パパさんは目を瞑り数瞬ばかり。

 ややあって、再び瞳が開かれたところ、その表情は平素からの彼だ。

 どうやら理解してくださったようだ。

「分かりました。謹んでお受けさせて頂きます」

「ありがとうございます」

「そういうことであれば、私は早急に首都カリスへ戻ります。以後は顔を合わせることも控えたほうが良いでしょう。もしも何かあれば、別の形で連絡を入れさせて頂きます。よろしいでしょうか?」

「お手数をおかけしますが、よろしくお願いします」

「ご武運を祈っております。タナカさん」

 小さく会釈をして、リチャードさんは応接室より去っていた。



◇◆◇



 リチャードさんを見送り、自室へ戻らんとする最中のことだった。

 そろそろ陽も下がろうかという頃合いのこと。

『おい』

 部屋の前の廊下で、ロリゴンと遭遇した。

 なにやら壁により掛かり、腕組みなどしつつ、こちらを見つめてくれている。偶然という訳ではなさそうだ。もしかしてブサメンに用事だろうか。考えたところで、ふと思い起こされたのはドラゴンシティの塔を巡る一件である。

「クリスティーナさん、どうしました? こんなところで」

『っ……』

 適当を語ったところ、クワッと恐ろしいまでに瞳が見開かれた。

 目元の強烈な彼女にやられると、非常に恐ろしげなものとして映る。夕暮れ時の薄暗く物静かな屋敷の廊下。ゆらりと一歩を踏み出した彼女の姿に、人ならざるところを強く感じて、危機感を覚える。

 次の瞬間にでも殴りかかってきそうな気配だ。

「冗談ですよ。すみませんが、案内をお願いしてもよろしいですか?」

 大丈夫。二度は忘れない。

 流石に申し訳ないと思うもの。

『……付いて来い』

「ありがとうございます」

 思い起こせばロリゴンと二人きりって、初めてじゃなかろうか。

 先をゆく小さな背中を追って歩む。

 途中では誰に出会うこともなかった。ここ最近は屋敷で生活する人も増えて、割と人口密度の高い町長宅なのだけれど、たまにはそういうこともあるのかもしれない。そのまま玄関を過ぎて屋外に出る。

 すると早々、視界の一角に姿を現したのが問題の塔だ。

 離れていても目に入る。

 リチャードさんの話では、遠く首都カリスからでも確認できるのだとか。

「恐ろしく高い建物ですね」

『ふふん、なんせ世界一だからなっ!』

「それは凄い」

 空に向かい伸びたそれは、雲を貫いて、先端が見えないほどの高さを誇る。恐らく正確な高さを測ること不可能だろう。もしも崩れたら、街もただでは済まないな、などと考えたところで、まあ、ロリゴン製なら当面は大丈夫だろうとも楽観的に構えている。

 ややあって、辿り着いた先は問題の塔を根本から眺める位置だろうか。

 ドラゴンシティの中央に設えられていた。

 塔の根本は幾らか太くなっている。高い位置に向かって段々と細くなり、一定の高さ以上では、延々と同じデザインが続いてゆく。創作話の類に眺めるバベルの塔を思い起こせば、まさにドンピシャな外見だろうか。

「しかしこれはまた、随分と大層なものを作られましたね……」

 見上げると首が痛くなるほど。

 正直、中の具合がまるで想像できない。

『わ、悪いか?』

「いいえ、構いませんよ。他の三人から話は聞いています」

 ドラゴンシティの運営は代表をロリゴンに据えて、ソフィアちゃん、ゴンザレス、ノイマン氏の三人による議院ドラゴン内閣制だ。あの三人が頷いたのであれば、こちらとしても否定するつもりはない。好き勝手にやって頂ければ幸いだ。

『……だったら文句とか言うなよな』

「文句じゃありませんって」

 ビクリ、身体を震わせたかと思えば、小さく溜息など吐いて安堵のロリゴン。

 ゴンちゃんもノリノリだったみたいだし、無事に魔道貴族からお墨付きも頂戴した。そこまで問題となることはないだろう。ただ、ここまでの規模となると、流石に用途が思いつかないのが目下の課題だろうか。

 流石に階段で登り降りできる高さじゃない。

 当面はロリゴンの巣だろうか。

『こ、こっちだっ! 中に入るぞっ!』

「はい」

 施工主に連れられて、いざ塔の中へ。



◇◆◇



 建物内部は地上にほど近いフロアに関して、既に黄昏の団による手が入っているようであった。エントランスには絨毯が敷かれていたり、壁には飾りの類が掛けられていたりと、トリクリスのお城を髣髴とさせる。

 ただ、これといって用途は見えてこない。

 恐らくゴンちゃんもまた、同所の利用には頭を悩ませているのだろう。テナントの入居を待つ新規物件のような様相である。まあ、ロリゴンがセカンドハウスを主張するならば、それも構わない。なんだかんだで町長宅は人が増えてきたから。

『こっちだっ』

 その歩みに導かれて、フロア中央に設けられた階段へ向かう。

 大きくうねりの効いたデザインは、いわゆる螺旋階段。一階フロアより発して、建物の外郭に沿うように敷かれており、上の階に続いている。エレベータなどという洒落たものは存在していないようで、フロアの区切りを超えて階段はどこまでも伸びて思える。

 これを延々と歩むこと数十フロア。

 ゴンちゃん部隊の手入れも、地上階から数フロアを数えるに留まっていた。下手をしたら、この塔の延面積だけで、ドラゴンシティ全体を超えるのではなかろうか。流石に全てのフロアを整えるだけの余裕はなさそうだ。

「……これはどこまで続いているんですか?」

『も、もう少しだ。黙って歩けっ!』

「あど何フロアくらいでしょうか?」

『…………』

 ロリゴンのヤツ、かなり調子に乗っていたようだ。

 このまま歩いて向かったのでは、日が暮れてしまうぞ。

「外から飛んでゆきませんか?」

『……分かった』

 よかった、本人も気にはなっていたらしい。

 承諾を得たところで飛行魔法を行使、窓から外に出る。既に結構な高さまで来ていたようで、眼下に眺める町並みは、その隅から隅まで確認できた。草原の只中、背の高い壁に囲まれた在り方は、城塞都市っぽい感じが格好いいぞ。

『お、おい、行くぞっ!』

「そうですね」

 ぶぉんと勢い良く高みを目指し飛んでゆく。

 負けるものかと、その後を下方から追いかける。当然、視界にはスカートの内に覗くオパンツ。本日のメニューは食い込み気味のTバック。ムッチリとした尻肉に黒い生地が良く映える。ちょろんと小さい尻尾とか生えてるのラブい。

 今晩のおかずは決定的である。

 我々は一息に最上階を目指した。



◇◆◇



 辿り着いた先、塔の頂上には神殿地味た建物が設けられていた。

 太い丸柱が幾つも縦に並ぶ、パルテノン神殿的なそれである。規模にして百平米かそこらだろうか。雲より高い位置、四方を空の青に囲まれて、ポツネンと静かに佇む様子は、なんというか、こう、妙に神聖な感じがする。

 内側から神様の類でも出てきそうな。

『ど、どうだ?』

 すぐ隣に立ったロリゴンが、めっちゃワクワクした顔で問うてくる。

 キラキラと星を飛ばさん勢いで、上目遣いに見上げてくる。

「……どうやらこの手の魔法に関しては、貴方に一日の長があるようですね」

『っ……』

 素直にお伝えしたところ、その表情が強張った。

 もしかして、お返事に失敗しただろうか。

 などと考えたところで、次の瞬間――。

『そ、そうかっ! 認めるかっ!? この私の魔法をっ!』

 ロリゴンのほっぺのお肉が、むにっと盛り上がった。

 満面の笑みだ。

「ええ、ここ最近の留守を、少しばかり後悔しています。たかだか数週にも関わらず、随分と離されてしまったような気がします。塔の高さも然ることながら、こうして高みに作られた神殿の荘厳さは、なかなかどうして、見事ではありませんか」

 薄く被る雲に囲まれたロケーションが、極めて神秘的な雰囲気を醸し出して思える。最初にお目見えした時、全身がゾワゾワっとしたもの。思わず一歩を踏み留まってしまったくらい。

『貴様はすぐにどこかへ行ってしまうからなっ! 悔しいか? 悔しいだろう? ふふん! それが嫌ならば、しばらくは大人しくしていろ! そして、もう少しこの街を大きくするんだっ!』

「そうですね。それが良いかもしれませんね……」

 大聖国との一件を思えば、当面は大人しくしているべきだろう。

 下手に動いてリチャードさんの足を引っ張ては大変だ。

 今我々に出来ることは、魔王の来襲に備えて策を巡らせる限り。

『こ、こっちだっ! 付いて来いっ!』

「まだ何か?」

『当然だっ! へ、部屋っ! 部屋作ったっ!』

「なるほど」

 促されるまま、ロリゴンの後に続いて神殿に向かった。



◇◆◇



 神殿の内部は、だだっ広い居室であった。

 塔と同様に総石造り。ただし、中層階や高層階とは異なり、低層階と同様に絨毯が敷かれており、調度品の類まで運び込まれている。部屋の中央には巨大な天蓋付きのベッド。シーツまで敷かれて、すぐにでも居住に耐えうる設備が整っていた。

 ただ、現時点においては未使用なのか、生活感の類は皆無である。シーツの類もピンとシワ一つなく張られて、とても綺麗なものだ。新築マンションのモデルルームでも眺めているような気分である。

「こちらは?」

『……部屋』

 それは見れば分かるがな。

「クリスティーナさんの居室ですか?」

『べ、別に、私のじゃないっ!』

「では、どなたの部屋になるのでしょうか?」

『……誰の部屋だっていいだろ? 誰のだって』

 ツカツカと歩んだロリゴンが、ぽふり、ベッドに腰を落ち着けた。

 これまた絵になる光景だ。

 中身はドラゴンだけれど、昨今の外見は完全に美少女枠だから。

『どうした? す、座れよっ』

「そうですね」

 お誘いを受けたところ、人一人分の間隔を空けて隣に失礼する。

 かなり良いベッドのようで、腰を落ち着けるに際しても、軋みが鳴ることはなかった。ふんわりとした感触がお尻を受け止めてくれる。よくよく見てみれば、シーツに限らず枕のカバーまで、ピンと綺麗に張られているではないか。

 まさか、ロリゴンが自分で敷いたのだろうか。

 最中の様子を想像して、少しばかり微笑ましい気分となった。

『よ、良い部屋だとは思わないか?』

「そうですね。素晴らしいと思います」

 ペニー帝国の見栄っ張りな貴族たちが知ったら、顔を赤くして嫉妬しそうなロケーションである。こんな場所で脱童貞できたら、それはもう最高にロマンチックだろう。生まれてきて良かったとか、心の底から思えるのではなかろうか。

「このような場所で、永遠に、穏やかに、時間を過ごして行きたいです」

 思わず弱音が零れた。

 疲弊した心が癒されるのを感じる。

 柱の合間より差し込む西日が、普段より強く眼に映る。

 天上が近いからだろうか。

『……手伝ってやっても、いいぞ』

「手伝うとは?」

『ニンゲンは脆くて儚い』

 脱人類か。

 悪くない提案だ。

 しかし、それは童貞を脱してからのお話である。

「ありがたい申し出ですが、今はまだ、遠慮しておきます」

『ふんっ……』

 そっぽを向かれてしまった。

 止めろよ。

 甘えたくなるじゃないか。

 ロリゴンなんかに、バブみを感じてしまった。

「もう少しばかり、地上で一緒に頑張ってはもらえませんか?」

『っ……』

「もちろん無理にとは言いませんが……」

『か、勝手なニンゲンだな! 自分のことばかりじゃないかっ』

「申し訳ないとは思ってます」

『……好きにすればいいだろ』

「よろしいので?」

『す、少しくらいなら、付き合ってやる。私は寛大なドラゴンだからなっ!』

「ありがとうございます」

 なんだかんだで、仲良くなったものだ。

 出会って当初からは想像もつかない。

「また少し、貴方と仲良くなれた気がします」

『っ……な、な、なに言ってるんだっ? あぁっ!?』

「非常に頼もしいですよ」

『ぐるるるるっ』

 威嚇された。

 もしかしたら、こちらのお部屋、魔道貴族の為に作ったのかもしれない。

 二つ並んだ枕を眺めたところで、少し切ない気持ちとなった。



◇◆◇



 日が暮れたところで、塔から町長宅に戻った。

 ロリゴンはもうしばらく居るとのことで、一人先に帰って来た次第である。以後、食事を取って、お風呂に入ってと、残すところ就寝するばかり。ここ最近は忙しかったし、早めに眠ろうかと寝台に向かう。

 その最中、部屋のドアがノックされた。

「はい、すぐに出ますんで」

 スリッパをパタパタと鳴らしてお出迎え。

 すると、ドアを開けた先にはゴッゴルちゃんの姿が。

「お話」

 開口一番、求められてしまったぜ。

「……そういえば、約束をしておりましたね」

 明確にいつとは握っていなかったけれど、大聖国から戻ったらお話すると、確かに約束していた。それが彼女としては、今この瞬間なのだろう。ただ、醤油顔の同伴なく一人で町長宅を歩きまわっているのはよろしくない。

 万が一にもキモロンゲやロリゴン辺りとニアミスしたら大変だ。

「お話」

「しかし、こちらの屋敷を勝手に歩きまわると、貴方にも危険が……」

「お話」

「…………」

 今日のゴッゴルちゃん、いつも以上で押しが強いぞ。

 やっぱり、郊外に一人暮らしって寂しいものなのかも知れない。

 高齢童貞だからこそ理解できる独り身の辛みとか、確かにある。休日の夜など、ふと無性に誰かと話がしたくなって、けれど親しい友だちとか碌にいなくて、致し方なくバーやスナックに通ってしまうのだ。

 自らを振り返ったところで、把握だよゴッゴルちゃん。

「お話」

「分かりました。部屋にどうぞ」

 眠りたい気持ちも強いが、ここは一つ、彼女を接待させて頂こう。

 今回の一件、ゴッゴルちゃんが一緒でなければ、今頃は大聖国で、より面倒なことになっていただろう。エディタ先生の進退もどうなっていたことか。そう考えると、今回のMVPは彼女で間違いない。感謝の気持ちを込めてトークだ。

「……ありがとう」

「いえ、それはこちらの台詞ですよ」

 醤油顔の傍らを過ぎて室内に向かう褐色ロリータ銀髪系。

 際しては、ふわり、良い香りが鼻腔を擽る。しっとりとした髪の毛を鑑みるに、お風呂に入って間もないよう。湯上がり美少女、たまらんね。たったそれだけのことで、瞬く間に眠気が霧散してゆくのを感じる。

 大好きだ。



◇◆◇



 ソファーに並び腰掛けて、ああだこうだと適当を交わす。

 これといって話題に規則性はない。その時々によって、好みの食事だとか、苦手なものだとか、あれこれと語る。ただ、お喋りを好む割に、口数の少ないゴッゴルちゃんだから、主に喋るのはこちらとなる。

 ちなみに現在の話題はロリゴンが建てた塔となる。

「……といったもので、非常に素晴らしい作りでした」

「あのドラゴンは?」

「もうしばらく、同所で過ごすと言ってましたよ。恐らく自身の施工を楽しんでいるのでしょう。頂上に設けられた神殿のベッドの上、雲より高いところで迎える夜明けは、堪らない贅沢でしょう。差し込む陽光からの目覚めは、それはもう格別だと思います」

「……そう」

「彼女がなんの為に塔を為したのかは知れません。ただ、彼女と共にあのベッドへ入る男がいるとしたら、それは類まれなる幸せ者でしょう。想像しただけで、思わず嫉妬してしまいますよ」

 どれだけ愛されているのだと。

 やっぱり、魔導貴族と一歩を踏み出してしまったのだろうか。

 考えるだけで切なさ迸るぜ。

「…………」

「どうしました?」

「……別に」

「そうですか? もしかして、塔の話は気に入りませんか?」

「そうじゃない」

「すると、いよいよ眠くなってきましたか?」

 既に日も変わって思える。

 こちらとしては朝まで生ゴッゴルの気概で臨んでいるけれど、本人が眠いと訴えるのであれば、決して無理をするつもりはない。自室まで戻るのが面倒であれば、この部屋のベッドを使ってくださっても何ら問題ございません。

 学園都市と同様、ここのベッドにも是非ゴッゴル臭を頂戴したい。

「眠くない」

「そうですか? なら良いのですが……」

 くそう、拒否られてしまった。

 残念である。

「今喋ったことを、あのドラゴンには伝えた?」

「そこまで語ってはいませんね」

「どこまで伝えた?」

「どこまでというと、まあ、素晴らしい建物であるとは伝えましたが……」

 流石に褒めすぎても露骨に映りそうだからな。

 こういうのは距離感が大切じゃんね。

 アレンのようにイケメンであれば、他にやり方もあると思う。しかしながら、ブサメンに取り得る選択肢は、非常に狭いのだ。いやでも、本当に凄かったんですよ、ゴッゴルさん。いつかロリゴンが飽きたら、一泊させてもらおうかと企んでいるくらいだし。

 シーツのピンと伸びたベッドの、こう、とても寝心地の良さそうな。

「……そう」

「ええ、そうなんですよ。本当に素晴らしかったです」

「…………」

 物言いたげな眼差しを頂戴する。

 もしかして、今の受け答えに失態でもあったろうか。

「なにか飲み物でも、用意しましょうか?」

「いらない」

 物言いたげな眼差しでジッと見つめられる。果たして彼女は何を考えているのだろう。知りたいような、知りたくないような。その瞳を近しい距離から眺めていると、不意に吸い込まれてしまいそうな感慨に襲われる。

「そうですか? では、他の話に移りましょうか」

「……少しくらいなら、あのドラゴンに伝えるべき」

「というと?」

「今の」

「大丈夫でしょうか? あまり褒めると、また良くない方向に転がるかもしれません。もちろん、だからといって彼女を毛嫌いしている訳ではありませんし、相応の好意も抱いているのですけれど」

「……貴方が想像するより、あのドラゴンは人間を理解している」

「そうでしょうか?」

「そう。少なくとも貴方よりは、遥かに知的であり、賢くある」

「確かにそうでしたね……」

「でも、少しだけ。ほんの少しだけ」

 ご指摘されたところは、ついつい忘れそうになる事実だ。ロリータフルな外見とは一変、ヤツの実態はエディタ先生以上に齢を重ねた、老齢の巨大ドラゴンであることを。恐らく醤油顔の交友関係において、最年長なのではなかろうか。

 だというに本日など、真下から豪快にスカートの内側を拝見させて頂いた手前、完全に下校途中の女子小学生を慈しむが如く見ておりましたとも。最近、下着からちょろりんと覗いた小さな尻尾が、気になって仕方がない。ギュッてしたい。ギュッて。

「何色だった?」

 黒でした。

「黒が好き?」

 大好きです。

 でも、穿いていない方がもっと好きです。

 ノーパンミニスカ最高です。

「ちゃんと喋る」

「ゴッゴルさんも随分、セクハラというものを理解してきていますね」

「貴方が教えた」

「…………」

 叶うことなら今後とも、習慣として継続頂きたい。

 美少女から逆セクされるの非常に嬉しい。異性から頂戴する能動的なアクションが極めて愛おしい。愛されるより愛したいとか、完全にイケメンの理論である。セクハラするよりセクハラされたい。

「返事は?」

「分かりました。いつか暇を見て伝えます」

「そうするといい」

 くそう、お説教されてしまったぜ。

 なんて心地良いのだろうな。

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