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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫

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サキュバス 一

 リチャードさんに案内された先、訪れたるはエステルちゃんの居室だ。

 一同を引き連れての移動である。

 中央には天蓋の付けられたキングサイズのベッドが設けられている。そこに敷かれたシーツの上、仰向けに横たわるロリビッチを皆で囲う形だろうか。瞑られた両の瞳の間には、深くシワが寄っている。ハァハァと息を荒げる様子はとても辛そうだ。

「随分と苦しそうにされていますが……」

「数日前からこの調子なのです」

「承知しました」

 兎にも角にも回復魔法である。

 そういうことであれば、全力で撃たせて頂こう。両手を彼女の胸のあたりに向けて伸ばす。もちろん触れない。というか、別に腕を動かす必要もないのだけれど、こういうアクションがあった方がリチャードさんも安心するだろう。

「むぅんっ……」

 ついでに掛け声とか出してヒール。

 ベッドの下に魔法陣が浮かび上がる。長方形の寝台を飲み込んで余りある大きさだ。そこから間髪を容れず、光の粒が立ち登り始める。ふわふわとした暖かな輝きが、魔法陣の中央、対象の肉体を癒やしてゆく。

「お、おぉ……表情が和らいでゆくっ」

 リチャードさんの嬉しそうな声が部屋に響いた。

 どうやら回復魔法は効果があったよう。

 体調不良の原因は知れないが、まあ、悪いものでも食べたのだろう。もしかしたら、食ザーのし過ぎでお腹を壊したとか、普通にあり得るじゃんね。なんかあれって、飲むとお腹壊すっていうし。ネットの掲示板で自称女子高生が質問とかしてたし。

 ロリビッチの寝息が穏やかなったところで回復魔法を止める。

 醤油顔が腕を下げると共に、魔法陣は四散して、同時に輝きも失われた。数瞬ばかり間を置いて、空に浮かんでいた光の粒もまた雪が溶けるように消える。部屋は元あった落ち着きを取り戻した。

「……これで大丈夫でしょうか」

 呼吸を正しくしたエステルちゃんを確認してひとりごちる。

 すると早々のこと、リチャードさんから感謝の声が。

「ありがとうございます! 本当に、本当にありがとうございます!」

「私もまた彼女には幾度となく助けられてきましたから、おあいこですよ」

「こうしてタナカさんに診て頂く以前にも、ファーレン卿に診ていただいたのです。しかし、それでも原因が分からないままでして、これはいよいよかと、悲観的な気持ちになっておりました。何はともあれ容体が落ち着いてくれて、とても助かりました」

「それは良かったです」

 慈しむ眼差しでロリビッチを見つめるリチャードさん全力でパパしてる。

 なんかちょっと羨ましい。

 でも、自分には絶対に無理だな。娘とかまだ早い。イケメンになって輪姦や乱交に飽きてからでなければ、人は穏やかな心で子供を作ることなど不可能だと思う。だって、性的な目で見つめちゃうから。犯しちゃうから。

「しかし、ファーレンさんでも原因が分からないというのは気になりますね」

 チラリ、皆々の視線が部屋の一角に向かう。

 そこには今まさに話題に挙がった魔導貴族の姿が。

「うむ、色々と確認はしてみたのだが、どうにも思い当たる節がなくてな……」

 所在なさ気に呟く姿は、魔法キチガイらしくない。魔法の研究の為、引きこもっていたのか、無精髭の伸び放題な姿格好が、そんな立ち振舞いの残念さに拍車を掛ける。それでも格好良いものだから、もうイケメンは手に負えない。

「病後を見守る意味でも、もう少しばかり粘ってはみませんか?」

「もちろんそのつもりだ。このままでは納得がいかん」

「ありがとうございます」

 相変わらずな魔道貴族からのお返事に、少しばかり気分が軽くなる。

 ただ、そうした感慨も僅かな間のことであった。

「うぅっ……」

 ベッドの上からうめき声が挙がった。

 まさかと意識をロリビッチに移す。

 すると、今し方に穏やかとなった呼吸が、再び乱れ始めていた。

「まさか……」

「リズっ!?」

 大慌てで娘の腕を取るリチャードさん。

 皆々の視線がエステルちゃんに向かう。

『おい、今ので治ったんじゃなかったのか?』

「……そのつもりだったのですが」

 出し惜しみなどしていない。全力でやらせて頂きましたとも。実際、魔法を放って直後は容体が回復した。しかしながら、どうしたことか、数分ばかりを眺めていれば、ロリビッチの眉間には再びシワが寄って、ハァハァと息遣いも苦しそうに。

 そういうことなら、もう一回、もう一回チャレンジだ。

「リチャードさん、もう一度エステルさんに、回復魔法を掛けてみます」

「ええ、お、お願いしますっ!」

 ベッド脇、エステルちゃんの手を両手に握ったまま、こちらを見上げる彼の表情からは、普段の余裕が消えていた。本当に娘のことが大切なのだろう。今更ながら実感するフィッツクラレンス家の親子仲だ。

「むぅんっ!」

 さっきより大きめの発声と共に回復魔法を撃ち放つ。

 魔法陣もサイズこそ変わらずとも、心なしか輝きが増して思える。

 立ち上る光の粒も然り。

 しかし、結果は変わらなかった。一度は安定に向かった体調も、僅か数分ばかりを数えれば、再び元あったところに戻ってしまう。まさか諦めきれなくて、二度、三度、或いは持続型だとか、持てる限りを試してみた。

 けれど、魔法の効能が切れたところで、途端に体調は悪化してゆく。

 回数を重ねる都度、苦痛と安楽の間で表情を変化させるロリビッチ。その移り変わりは、傍目にも非常に心苦しいものだった。十数回を試したところで、他の誰でもないリチャードさんから、待ったが掛かった。

「ありがとうございます、タナカさん。これ以上は……」

「……そうですね。身体に負担となりかねません」

 どうしたことだろう。これまで如何様な怪我や病であっても治してきた回復魔法が通じない。ステータス的に考えて、自分に治せないとあらば、それこそ残すところ希望は神様くらいなものではなかろうか。

「な、治せないのか? 貴様の回復魔法でっ」

 エディタ先生からもツッコミを頂戴だ。

 心苦しいぜ。

「すみません、どうやらそのようです」

「……少し、見ても良いか?」

「ええ、お願いします」

 リチャードさんが頷くに応じて、先生はエステルちゃんの下へ。

 ベッドの縁に立ち、枕の上、顕となったオデコに指先で触れる。

 すると、どうしたことだろう、ロリビッチのお肌に変化が訪れた。先生が触れた頭部はもとより、リチャードさんが握っている手や、掛け布団から垣間見える首筋など、各所が紫色に染まっていく。

「っ!?」

 誰より驚いたのは先生だった。

 大慌てで飛び退いたかと思えば声を上げる。

「な、なんだこれはっ!?」

 当然、それは我々も同様に浮かんだ疑問である。

「エディタさん、い、一体なにをっ!?」

「リズっ! リズっ!?」

 リチャードさんの口から悲鳴じみた声が上がる。

 これを耳として、殊更に必至となるのが金髪ロリムチムチ先生だ。

「わ、私じゃない! 私じゃないぞっ!? ちょっと触ってみただけだっ! べ、べ、べべべ、別に変なことしてないっ! 本当だぞっ!? 少しばかり霊体の具合を確認しようと思っただけでっ!」

 部屋の中央に設けられたベッド。これを囲うように並んだ面々から、全方位より見つめられて、右へ左へ、前へ後ろへ、全力で言い訳を並べる先生、最高に小物感迸る。もちろん、嘘を付いているとは思わない。

 ただ、タイミングが悪くて、皆々の視線は肌を変色させてゆくロリビッチと、先生との間で行ったり来たりである。それが当人に取っては責められているように思えるのだろう。見る見るうちに泣きそうな表情となる金髪ロリムチムチ先生かわいい。

 完全にハズレくじを引いた形だ。

 というか、先生の引くクジには、きっとハズレしか入っていないのだと思う。

「ほ、ほ、本当だっ、私はなんにもっ……」

 そんな涙目エルフさんを救ったのは魔導貴族だった。

「まさか、これは……」

「な、何かご存知ですか!? ファーレン卿っ!」

「リチャードよ、布団を剥ぎ取るぞ」

 一言断りを入れたところで、魔道貴族が動いた。

 宣言通り、エステルちゃんの上に乗っていた掛け布団が、ばさりと剥がされる。同時に顕となったのは、汗にしっとりと濡れたロリロリでビッチビチな肉体だ。ふわり香ったメスのスメルが童貞の股間を刺激する。マジ香り高い。

「やはりかっ!」

「リズっ!?」

 エステルちゃんの肉体は変化していた。

 背中からはシーツを押し出すよう、二翼一対の翼が伸びている。おしりの辺りからは先の尖った尻尾が。更に我々が慄いている間も変化は続く。側頭部からは角が今まさに、肌を押し破ってニョキニョキと。

「ファーレン卿! これは一体どういったことですかっ!? リズの身に一体、な、何が起こっているというのですかっ!? このような話を、わ、わ、私は聞いたことがありませんっ! まさか、この子は私の娘ではっ……」

「落ち着けリチャード、この娘は間違いなく貴様の子供だ」

「で、ですがっ!」

 慌てるリチャードさんを魔道貴族が窘める。

 その傍ら、ボソリとエディタ先生が呟いた。

「な、なるほど、サキュバスの先祖返りか」

「サキュバス、ですか?」

 どこかで見聞きした覚えのある単語に思わず聞き返し振り返る。

 すると、彼女は落ち着きを取り戻し、ツラツラと語り始めた。。

「サキュバスに限らず人に近しい種は、様々な生き物と子を為すことができる。そうして生まれた生き物がサキュバスとなるか、別の生き物となるか、詳しい仕組みは知られていない。ただ、後者として生まれた者やその子孫は、稀に先祖返りすることがある」

「なるほど」

 思い出した、あれだ、ほら、ステータス画面で見たじゃんね。

 サキュバスハーフ。

「それが今まさに我々の目の前で起こっているのだろう」

「つまりリズは、さ、サキュバスとなってしまうのですかっ!?」

「……まあ、その、なんだ。その可能性は非常に高い」

「なっ……」

 リチャードさんの表情が驚愕に固まる。

 そりゃそうだろう。

 命に別状がないとは言え、彼ら家庭の立場を思えば、人間を辞めた時点で死んだにも等しい。ここ最近の出来事を思えば、ただでさえロリビッチは目立つところに居たのだ、今まで通りの生活を取り繕う方法など皆無である。

「何か方法はっ! 元に戻す方法はないのですかっ!?」

「いや、そればかりは聞いたことがない……すまない」

「そんなっ!」

 今にも泣き出しそうな表情だ。

 ここまで感情的なリチャードさん、初めて見た。

 おかげでお部屋の空気は、もう、やばい。居た堪れない。

 そんな彼に金髪ロリムチムチ先生からトドメが。

「先祖返りという現象は様々な種に見られる。しかし、その仕組みは個々の生き物で異なってくる。これがマーメイドの類であれば、回避する方法が無いでもないのだが、サキュバスは流石に私も知らないのだ」

 大魔導云々を耳とした後であることも手伝い、言葉がやたらと重く感じられる。そのお口からダメだと言われてしまうと、もう絶対にダメだと感じてしまう。人間として生きる道は残されていないのだと。

 いいじゃん。

 それいいじゃん。

 個人的にはサキュバスなエステルちゃん、大歓迎。ただのビッチより、サキュバスビッチの方が、なんかこう、非処女であることに対する抵抗が下がる気がする。種族補正で好感度アップだよ。むしろ率先して推していきたい。

 しかしながらパパさんの手前、素直に喜べないのが辛いところだ。

「どなたが知見のある方に心当たりはありませんか?」

「すまない。サキュバス自体、それなりに希少な種であってな……」

「そうですか」

 先生が一頻りを語ったところで、お部屋が完全にお通夜モード。

 誰も彼もは口を噤んで、段々と肌の色を変えてゆくロリビッチを眺めるばかり。時折、酷く辛そうにあがる苦悶の声が、殊更に深刻な容体として見る者に訴える。もしも彼女が膜付だったら、きっと浚っていただろうな。処女サキュバスとか愛しすぎる。

 そうした最中のこと、不意に声が響いた。

「わ、私、知ってるぞ……」

 ショタチンポだった。

 呟いたその姿は、何故か酷く萎縮して見える。まるで何か疚しいものでも、胸の内に抱えているような物言いだろうか。怖ず怖ずと歩を進めると共に、リチャードさんの傍ら、醤油顔の傍らまでやってくる。

 そして今一度、か細い声で呟いた。

「……その状態から、元に戻る方法」

 当然、パパさんは興奮もそのまま、ショタチンポに問いかける。

「ほ、本当ですかっ!? どうすれば娘はっ、も、元にっ!」

「…………」

 酷く対象的な二人だった。

 もしかしてあれか。ペニー帝国のお貴族様に与するような真似は、アウフシュタイナー的に気分がよろしくないとか、そういう感じだろうか。伊達に実家を粛清されていない。フィッツクラレンス家といえば、同国を代表する公爵家であるからして。

「アウフシュタイナー家の貴方に、このような事を頼むのは間違っているとは、重々承知しております。ですが、どうか、どうか娘を、リズを助ける方法を、教えてください。娘さえ助かるならば、私はどうなっても構いません。家も、全て放棄いたします」

 おぉ、すげぇ。

 リチャードさんがお家放棄宣言とか、相当なものだ。

 対して、ショタチンポからのお返事は意外なものだった。

「べ、別に家がどうこうとか、そういうのは関係ないっ!」

「であれば、な、なにをっ……」

「過去の怨恨から、知り合いの不幸を見逃すほど、私は心の小さな人間じゃない! 何故なら私は、アウフシュタイナー家の人間だからっ! そ、それ以上、同じような世迷い事を繰り返すなら教えないぞっ!?」

「っ……」

 凄むショタチンポ。

 これにはリチャードさんも息を呑んだ。

だってめっちゃくちゃ格好良かった。チラリとゴンちゃんの様子を窺えば、彼は何を語るでもなく、腕組などして満足気に頷いている。アウフシュタイナー的に考えても、今のお返事は満足のいくものであったよう。

 なんで竿とか付いてるんだよもう。

「……ありがとうございます」

「ただ、その、これから言うことを聞いても、引かないで欲しい……」

「引く? 何故そのような必要がありますかっ!」

 感極まった様子でリチャードさん。

 眦には薄っすらと涙すら浮かんでいる。

 そんな彼の振る舞いに流されてだろう、ショタチンポは続けた。

「……精気だよ」

「はい?」

 なんか今、聞きたくないフレーズが耳に入った。

「だから、せ、せ、精気! 男の精気を飲ませればいいんだよっ!」

「…………」

 一瞬、皆々の顔がポカンとなる。

 ややあって、リチャードさんの顔が激昂した。

 般若になった。

「……それは私に対する当て付けですか?」

「違うっ! 本当なんだっ! 信じてくれよっ!」

「相手がサキュバスだからと、適当なことを言っているのではありませんか? そもそも何故に、そのような事を知っているのですか? まさかサキュバスの知り合いが居るなどと、眉唾な理由を語るのではありませんね?」

 すると、今にも泣き出しそうな表情となるショタチンポ。

 ただ、それでも彼は萎えなかった。

 酷く怯えた眼差しが、ほんの僅か醤油顔に向けられた。

 然る後に続くところが述べられる。

「……私が、そうだったから」

「そんな馬鹿なっ! 私を騙して嘲け笑おうとでもっ!?」

 なるほど、醤油顔的には納得の理由だよ。

 しかしながら、精気とは具体的にどのような物質なのだろうか。まるで考えが及びませぬ。まったくもって分かりませんな。恐らくはきっと、こちらの世界で語られるところ、体力や魔力的な存在でありましょう。

 例えばMPとか、HPとか、そういう感じの。

「リチャードさん」

「なんですか? タナカさん」

「彼の言葉は本当です。どうか信じてあげてはくれませんか?」

「タナカさん、貴方までそのようなことを言うのですか!? どこからどう見ても人間ではないですか! それに彼は男だっ! 見た目は女のようですが、その性別に関して、私はゴンザレスさんから伺っていますっ!」

「ですが信じて下さい。彼はサキュバスです」

「インキュバスの間違いでは!?」

 それ、俺も突っ込みたかったよ。

 前からずっと気になってた。

「それでも彼はサキュバスなのです」

 ただ、ステータスにそう書いてあるんだから、仕方がないじゃん。

 悔しいけどサキュバスなんだよ。

 西の勇者さまとか、完全に空気だ。まるで状況についていけてない。え、マジ? って顔でショタチンポのことを見ている。

「まあ待て落ち着け、リチャードよ。サキュバスには激しい飲精衝動というものがある。これは全てのサキュバスに共通して存在しており、同種族にとっては抗いがたい欲求なのだという。それこそ人にとっての食事と同様に」

 ここへ来て魔道貴族から救いの言葉が。

 良かった。助かったぞ。

「吸血鬼の吸血衝動などは貴様も耳としたことがあるだろう。生物固有の欲求というものは、人を離れて様々なところで確認することができる。それは種として生き延びる為、決して欠かせない行いだ」

「しかしっ……」

「何事も試して見なければ分からない。そうではないか?」

 いいや、違う。これは救いじゃない。

 単純に、ヤツの知的好奇心へ火が点いただけだ。

 しかしながら、魔法キチガイが間に入ったことで、リチャードさんに僅かながら落ち着きが生まれた。考慮の余地と見て良いだろう。勇気を出してカミングアウトしてくれたショタチンポの為にも、ここは検証に移るべきではなかろうか。

「アーシュさん。しかしそうなると、貴方はもしかして男性の……」

「ち、違うっ! 男は男でも自分のだっ! これまでも、これからも、自分とオッサンの以外は絶対に飲んでないし、飲まないっ! 本当だっ! 本当なんだよっ! だ、だ、だから、こんなこと人前で言いたくなかったっ!」

「…………」

 そんなこと聞いてねぇよ。

 あと今の台詞、聞き方によってはオッサンのまで飲んだ風になってるじゃん。

 そういうの止めようよ。

「つまり、精気への欲求を我慢すると、先祖返りが発生すると」

「凄く、どうしようもなく、飲みたくなるんだよ。とてもじゃないが耐えられない。それでも私は男だから、た、耐えてた。耐えてたんだよ。そしたら、今見ているみたいに、肌の色が変わり始めて、胸まで膨らみ初めて、それで、このままじゃ不味いと思って……」

「飲んだら治った、と」

「……うん」

 今にも消えてしまいそうな頷き。

 見た目完全に美少女の黒髪ツインテールだから性質が悪い。

 一向に女装を止める気配のないショタチンポの立ち振舞いは、学園都市を発って以降、更に磨きが掛かって思える。先程も部屋を移動する際、わざわざ醤油顔の前を陣取り、やたらとお尻をふりふりしながら歩いていた。

「ということですが、リチャードさん、如何ですか?」

「…………」

 提案しておいてなんだけれど、自他共に認める親馬鹿な彼には、些か酷な決断だろうか。愛する愛娘に選びうる選択は二つに一つ。このままサキュバスとなるか、飲精を乗り越えて人間を維持するか。

「こうなってから三日くらいは持つけど、それ以降は私も経験がないから……」

 追い打ちを掛けるよう、ショタチンポが語る。

 こんな状態で三日も我慢するとか、とんでもない精神力じゃんね。

 数瞬の後、判断は下された。

「……わかりました」

 覚悟を決めた表情で、リチャードさんは宣言した。

「娘に、飲ませます」

 問題は誰のを飲ませるか、だ。

 リチャードさんの脳内では、未だ処女設定の膜付ロリビッチ。

 罪深きは他の誰でもない、彼女自身ではなかろうか。

 そもそもアレンのヤツが、ちゃんと定期的にゴックンさせていれば、こんなことにはならなかったのだ。フィッツクラレンスの皆様はおろか、本人さえも気づくことなく、日々は過ぎていった筈である。

「我々は他所で待っていますね」

 リチャードさんにお声掛けして廊下に向かう。

 自然と他の面々もまた、同様に歩みは外へ。

 しかしながら、そんな醤油顔の肩が、ガッシと掴まれた。

「待ってください、タナカさん」

「……リチャードさん?」

「まさか父親である私からなど、そのようなことは決して許されません」

 マジな顔で見つめられる。

 スゲェ怖い。

 チンピラに胸ぐら掴まれて顔近づけられたような感じ。

「ですが他に選択肢はありませんよ」

「…………」

 今後も継続して飲ませて行かなければならないのだから、これを機会に家族の仲を深めるのが、お互いの為じゃんね。まさか夜な夜な娘に隠れて、妻にも内緒であれこれするパパの図とか、絶対にアウトだと思うもの。

 怖いもの見たさ的にドキドキしている自分も確かだけれど。

「……いいえ、駄目です」

「それではサキュバスであることを許容するのですか?」

「タナカさん」

「なんですか?」

「貴方のモノを下さい」

「…………」

 それ、理由や背景を理解していても、男に言われると鳥肌立つわ。

 背中にブツブツってきたもの。

「無理です。それこそ彼女に対する裏切りとなりますよ」

「それ以外に方法はありません」

「だとすれば、私はアレンさんを名指しさせて頂きます。エステルさんは彼と共に首都カリスにおりました。恐らく彼は自らの命と引き換えに、彼女の命を優先して、こちらまでやって来たのでしょう」

 チラリ、我々の視線が向かう先にはイケメン。

 今まさに部屋を後とするべく踵を返したアレンの姿がある。

「彼こそ相応しい。エステルさんも決して嫌がらないでしょう」

「……ぐ」

 父親としてのあれこれが、アレンを選ぶことに拒否感を発して思える。

 しかし、この場は流石に飲んでもらいたい。

 いや、飲むのはリチャードさんではないのだが、とか、もういいやそういうの。

「ま、待ってくださいっ! 僕などよりタナカさんの方がっ!」

 こちらに向き直ったアレンが吠えた。

 いやいや、遠慮するなよイケメン。

 これまで幾度となく飲ませてきただろうに。

 今更過ぎるだろ。

 今日この日までロリビッチが真っ当に人として過ごしてきたのが、何よりの証拠ではなかろうか。っていうか、冷静さを取り戻し、その事実に気づいたリチャードさんの近い将来を思うと、胃が痛くなってきそうだわ。

 あぁ、あれこれと考えていたら、段々と悲しくなってきた。

 美少女がイケメンのエナジーを経口摂取とか、ぜんぜん楽しくない。

 個人的には近親相姦の方がワクワクする。事後のエステルちゃんの反応とか気になる。父親と娘の距離感とか、どうなってしまうのだろうか。あ、でも、リチャードさんにベタ惚れのロリビッチはあまり見たくないな。

「それでは失礼します」

「ま、待ってくださっ……」

 リチャードさんを振りきって、醤油顔はフェードアウト。

 しようとしたら、今度は腕を掴まれた。

 止めろよ、掴まないでくれよ。

 今このタイミングで野郎と接したくない。

「私に一つ、案があります! こちらならば自身も納得できます!」

「……一応、お聞きさせて頂きます」

 皆々の注目が集まる。

 リチャードさんは血走った目で、早口に語り始めた。



◇◆◇



 今、我々の目の前には三つのグラスが、テーブルの上に並んでいる。

 内側にはミルクが半分ほど注がれている。町長宅のお台所から拝借してきたものだ。事情を知らない者が見れば、飲みかけのミルクグラスであると判断するだろう。別段、何を意識することもない。

 しかしながら、正直なところ自分は、これをあまり眺めていたくはない。

「用意が整いましたね」

「……本当に続けるつもりですか?」

「当然です」

 醤油顔の問いかけにリチャードさんは深々と頷いて応じる。

 正気の沙汰とは思えない。

「…………」

「…………」

 場所は変わらずドラゴンシティに所在するエステルちゃんのお部屋だ。

 同所には自分とリチャードさんの他、アレンの姿だけがある。

 先程までは大勢で詰めかけていた為、随分と手狭く感じていたお部屋が、しかし、今は非常に広々として感じられる。そして目の前、綺麗に横並びとなりテーブルに乗ったグラスが、酷く存在感を醸してはギラギラと。

 一方で我々は非常にスッキリしている。

「…………」

 このようなことになりたくなかった。

 けれど、リチャードさんは覚悟を決めてしまった。その瞳には力強い意志が見て取れる。何が何でもやり切るのだという絶対の意志が。ブサメンとヤリチンには、これを否定するだけの力がない。

「それではシャッフルしましょう」

 厳かな調子で語り、リチャードさんがテーブルに向かう。

「お二人は後ろを向いていて下さい」

「分かりました」

「は、はいっ……」

 言われるがまま回れ右。

 ややあって肩越しに聞こえてきたのは、テーブルの上、コツコツとグラスの動く小さな音だ。三つ並んだそれが、今まさにリチャードさんの手により、場所を入れ替えられているのだろう。

 数十秒ばかりが経過しただろうか。

「向き直って下さって結構です」

 指示が為された。

 言われるがままに元あったとおり、テーブルの側に向かう。

 そこには変わらずグラスが三つ。

「次はアレンさん、貴方の番です」

「……はい」

 つまり、そういうことだ。

 リチャードさん、アレン、自分の順番で、テーブルの上に置かれたグラスを並び替えてゆく。各人が並び替えている最中、他の二人はこれを確認することは叶わない。すると不思議、グラスの並びは元あった順番を変えて、誰もが知らない順不同へ。

「さて、最後にタナカさん、お願いします」

「わかりました」

 入れ替わり立ち代り、我々の手により順番を入れ替えたグラスは、最終的にリチャードさんの手により一つが選ばれる。それは果たして当初、右にあったグラスだろうか、左にあったグラスだろうか、それとも中央にあったグラスだろうか。

 誰にも分からない。

 誰にも。

 そんなグラスが、厳かにも慎重な扱いで、眠れるビッチの口元に運ばれる。

 当人が知らぬ間に、ミルクはさらさらと、ロリビッチの咥内に流れていった。

 だがしかし、それでも変化は訪れない。

 容体が回復しない。

 しばらく待ったところで、リチャードさんが呟いた。

「……量が足りないのかもしれませんね」

「た、確かにそうですね! 僕もそう思いますっ!」

 アレンが間髪を容れずに頷いた。

 なるほど、確かにその可能性は否定できない。こんなことならショタチンポに必要な量を確認しておけば良かった。最悪、全員が協力する必要性さえ生まれてくる。なんて考えたところで、不意に成果物が想像されて、腕や背中に鳥肌の立つ感触が。

「次のを飲ませます」

 我々に宣言するよう呟いて、リチャードさんが二つ目のグラスを手に取った。

 お代わりミルクが、エステルちゃんの可愛らしいお口に運ばれてゆく。
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