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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫

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大聖国 十一


 空に浮かび上がること、屋敷の屋根にほど近い高さのこと。

 そこには何者かの姿があった。

「……マジか」

 多分、魔王さまの転生体とやらだろう。

 外見年齢はロリゴンと同じくらい。何よりも特徴的なのは、その真っ白な肉体だ。腰下まで伸びた長い髪、人間と比較して幾分か強靭に思われる両手の爪、ホクロ一つ見つけられない艶やかな肌、形の良い整った眉毛、その何も彼もが白い。

 その姿は空に浮かぶ雲のように真っ白だった。

 唯一の例外は瞳。

 他の部位が白一色の只中、瞳だけが真っ赤に色付いて、浮かび上がるようにギョロリギョロリと動いている。ロリゴンの色彩が反転した眼球も印象的であったが、こちらもまたインパクトは大きい。猫のそれを思わせる縦長な瞳孔が、酷くキツい印象を与える。

「…………」

 兎にも角にもコミュニケーションだ。

 交渉に臨むべく、身体を彼女の正面数メートルの地点に飛ばす。

 すると、相手はこちらに気づいた様子で、顔を向けてきた。

「……どうも、はじめまして」

「…………」

 仮にキモロンゲの言葉が正しければ、目の前の魔王さまは生まれて間もない生き物となる。愚直に信じるのであれば、それは知性的な面でも赤子に等しいということだろう。言語を介することが不可能である可能性もある。

「もしよろしければ、名前など伺いたいのですが……」

「…………」

 じっと見つめられる。

 しかしながら、反応は一向に帰ってこない。

 さて、これはどうしたものか。

 とりあえず、ステータスとか確認するべきか。

 キモロンゲの言葉がどこまで正しいかは知れない。仮に全てが真実であったのなら、今の時点では、そう大した脅威足り得ない。当面は保留で問題ない。一方でヤツの言葉が嘘であったのなら、割と死活問題だ。

 学園都市に眺めた先代魔王様のステータスが脳裏に甦る。

 ステータスウィンドウ、カモ――。

「あぁっ! なんて神々しい姿なのでしょうっ!」

 足元から凄まじい勢いで、聖女様が飛行魔法により飛んできた。

 発せられたところ、その意識が魔王様に向かっているのは間違いない。彼女は瞬く間に高度を上げると、醤油顔を超えて、真っ白な彼女の傍らまで移動した。互いに手を伸ばせば触れ合えるだけの距離だ。

 爆発の怪我は完全に癒えている。

 回復魔法を自身に使ったのだろう。

「初めまして、ですね。私が貴方の母親となる存在です」

「…………」

 聖女様、速攻だよ。

 次世代の魔王様を自分の部下にする気、満々である。

 ここまで露骨だと、逆に清々しいほど。

「貴方を迎え入れる準備は万全です。他のどこの国の貴族や王族が用意するより優れた環境で、この世の新しい理を学んでゆきましょう。そこでの生活はこの世界の誰もが羨むものに違いありません。さぁ、私と共に来て下さい!」

 聖女様は喜々として腕を差し伸べる。

 あまりにも堂々とした立ち振舞だ。まるで根拠など存在しないにも関わらず、彼女の言葉に正当性を感じてしまいそうになる。極めて麗しい見た目と相まっては、その腕の先に導きを感じてしまった勇者様も、決して少なくないことだろう。

 これがカリスマというヤツか。

 爆発でボロボロになった衣服も気にならないほど。

 後ろからお尻の谷間が丸見えなのマジ結婚したいんだけど。

 キモロンゲの言葉を信じるならば、彼女は五百年に渡り大聖国を収めてきた稀代の独裁者。その影響力は広く他国にも及ぶ。時代を超えて海千山千の貴族たちとやり合ってきた経験は伊達ではない。あまりにも打たれ強い。

「あぁ、その前に貴方に名前を差し上げなければなりませんね。大丈夫です、こんなこともあろうかと、素敵な名前をちゃんと考えておりました。貴方は我々の行く先を導く希望。その赤く力強い瞳の輝きは高貴なる意志の現れ。貴方の名前はスカ……」

「ニンゲンとは、なんと醜い生き物なのじゃろうな」

「……え?」

 ようやっと魔王さまから声が発せられた。

 これを耳として、聖女様の表情が凍った。

 雪の精かと見紛わんばかりの幼く美しい外見とは対照的に、声色は年老いた老婆を思わせる嗄れたものであった。長らく封ぜられていた為、痛めてしまったのだろうか。いや、まさか、そんなことはないと思うけれど。

「どうしたのですか? なにか気になる点が……」

 続けられたところ、聖女様の言葉は最後まで音にならなかった。

 何気ない調子で魔王さまの腕が振るわれる。

 同時、彼女の肉体は臍の辺りで、上下真っ二つと切断された。

「なっ……」

 表情を驚愕の一色に染めて、地上に落ちてゆく。

 ややあって、ドスン、ドスン、汁気を伴った重たい音が、二つばかり連なり響いた。これに間髪を容れず、どこの誰とも知れない女性の悲鳴が、彼女の落ちた先から幾つか連なるように上がった。

 ちらり視線をやれば、屋敷の敷地内、建物の外、地面に転がる聖女さまと、その姿を目の当たりとした、見知らぬメイドさんたちの姿が見て取れた。未だ意識はあるようで、時折、ピクリピクリと身体の震える様子が窺える。

 流石は聖女様、伊達にレベル三桁していない。即死は免れたよう。

 その肉体に回復魔法など掛けつつ、醤油顔の意識は再び魔王さまへ。

 幾ら虚を突いたとはいえ、レベル三桁中頃の彼女を一撃である。まさか、真っ当なステータスではないだろう。少なくとも暗黒大陸で出会ったトリさんと同じか、それ以上の相手であることは間違いない。



名前:スカ
性別:女
種族:ハイデーモン
レベル:5938
ジョブ:魔王
HP:21950000/21950000
MP:108900000/108900000
STR:10537500
VIT:9677402
DEX:3204442
AGI:4204442
INT:10778030
LUC:2023329



 最高に魔王している。こいつがラスボスだ。間違いないわ。

 キモロンゲのヤツ、後で覚えていろよ。

 あと、聖女様の台詞が途中だったせいで、名前が残念なことになってる。

 たぶん、スカーレットとか、そういう名前にしたかったのだろう。

 可哀想に。

「先ほどの発言の意図を確認したいのですが……」

「数百年の歳月、あの者の傍らで人の営みを眺めていた。自ら動くこと叶わず、訴えること叶わず、ただ延々と繰り返される行いは、余りにも愚かで、生まれて間もない我の心を痛めるに、十分なものじゃった」

「な、なるほど」

 どうやら魔王さま、封印の中で意識だけは覚醒していたらしい。

 転生だの封印だの、詳しい仕組みは分からない。

 ただ事実として、魔王さまは色々と見聞きしていたよう。聖女様の傍ら、共に見てきた風景が如何様なものか、子細はまるで知れない。ただ、その多くが碌でもない光景であっただろうことは想像に難くない。

 生まれて間もない精神の情緒教育には、きっと最悪だ。

「余りある時間を用いて、我は考えておった。なにが良くなかったのじゃろうかと。幸か不幸か、あの者は顔が広く、また、世界中を巡る機会を持っておった。故に我は多くの事物を見聞きして、その先にあるものを考えるだけの猶予を得ることができた」

「…………」

 しかも、待機時間を瞑想に費やした為か、既に精神が達観していらっしゃる。今し方の物言いからして、受肉するには最悪のタイミングでなかろうか。なにより問題なのは、封印された状態でもレベルがちゃっかり上がっていること。

 里子に出した実娘が、グレてヤクザの彼氏と共に実家へ返って来た的な。

「そして、幾度となく繰り返し考えたところで、答えは出た」

「というと?」

「ニンゲンは、この世界に不要な生き物じゃ」

 魔王育成計画、開始直後からバッドエンディング一直線の予感。

 自分自身、人類の素晴らしさを説くような性格はしていないし、語るつもりだって寸毫も持ち合わせていない。むしろ人外ロリータ最強伝説。しかしながら、黙って大人しく殺されるほど大人しくもなければ、童貞のまま死ぬのも絶対に嫌である。

 どうにか考えを改めて頂けるよう、説得しなければ。

 今し方に確認したステータスを鑑みれば、相手は単騎で人類を滅ぼすだけのポテンシャルを秘めている。恐らく当人もこれを理解した上で、あれこれと語っているに違いない。その立ち振舞には圧倒的な余裕が見て取れる。

「……流石にそれは極論ではありませんかね?」

「次は貴様じゃ」

 いかん、この魔王様、ロリゴンと同じで手が早いタイプのロリータだ。

 気づけば振るわれた腕が、目前まで迫っていた。聖女様に与えたものと同様、横薙ぎの一閃である。こちらの首を狙うよう、右から左に手刀が急接近である。回避は諦めて、無敵の回復魔法でこれに備える。

 ただ、一方的にやられるばかりでは、後々に響きそうなので、ここは是が非でも反抗しておきたいところ。相手は王様属性だ。キモロンゲのような部下連中が他に控えていると考えると、下手に舐められては面倒なことになるぞ。

「ふんぬっ!」

 ゼロ距離で魔王様の脇腹にファイアボールをお見舞いだ。

 ただ、あまり大きく炸裂させる訳にはいかない。近所には他に友人知人の姿がある。よって大きさは控えめ。炸裂も控えめ。代わりに熱量で攻める。とにかく高温を意識してファイア。すると、生み出されたのは真っ青な炎を湛えた火球だ。

「っ!?」

 直後、首元に激痛が走ると共に、視界が大きく揺れる。

 景色が凄まじい勢いで流れてゆく。

 空の一点、ほんの一瞬ばかり魔王様の肉体が目に入った。彼女の正面には、今まさに首から上を失っただろう醤油顔のボディーが浮かぶ。直後、自らの生み出した真っ青なファイアボールが、彼女の腹の辺りで炸裂する。

「っ……」

 数瞬の後、視界は暗転。

 前後不覚となる。

 以前、紛争地帯で経験したそれと同様の感覚だろうか。

 ややあって、再び元の光景が戻った。

 本人の時間軸では一瞬の出来事であるが、一連の反応には数秒ほどを要したと思われる。たぶん探せば地上には、今まさに落ちた首から上が転がっていることだろう。生首は後でちゃんと焼却処分しておかないと。

 反射的に自らの肉体を見下ろすと、今の今まで小奇麗だった貴族のおべべが、自らの血液に濡れて真っ赤となっている。更にファイアボールの炸裂を受けて、所々が焦げている。もう少し爆発が強かったら素っ裸だったろう。どうやら上手いこと調整できたようだ。

 身体の無事を確認したところで、改めて周囲の光景を眺める。すると、対面にはこちらと同様、真っ白な肌を血で赤く染めた魔王さまが浮かんでいる。残念ながら、初撃で打倒するまでには至らなかったようだ。

「……そのようななりをして、ニンゲンではないのかぇ?」

 いつの間にやら、彼女を包んでいた炎は失われている。直撃を与えただろう脇腹の辺りでは、肉が膨らみ、皮膚が張られて、抉れた肉体に対する治癒が今まさに完了のお知らせである。こちらと同様、回復魔法により復帰したのだろう。

 ロリゴンもそうだったけど、この世界のボスキャラは普通に全快魔法を使うからな。



名前:スカ
性別:女
種族:ハイデーモン
レベル:5938
ジョブ:魔王
HP:21950000/21950000
MP:105900000/108900000
STR:10537500
VIT:9677402
DEX:3204442
AGI:4204442
INT:10778030
LUC:2023329



 しかも意外と消費していない予感。

 これはちょっと厳しいかも知れない。

 対して自分はどんなもんだ。



名前:タナカ
性別:男
種族:人間
レベル:315
ジョブ:錬金術師
HP:390800/390800
MP:820000140/820000140
STR:19001
VIT:72010
DEX:30900
AGI:61012
INT:50800100
LUC:-50200



 正直、扱いに困るよな、こういうキャラクター。

 学園都市での一件が原因だろうか、レベルが百くらい上がっている。おかげでLUCのマイナス値が大変なことになっている。魔王様が復活した原因、もしかしてコレなんじゃなかろうかとか、思わず勘ぐってしまう。

「…………」

 いやでも、醤油顔を大星国に呼んだのは聖女様だしな。

 根本的なきっかけは聖女様だ。

 大丈夫。

 たぶん、気のせいだ。そういうことにしておこう。

「我の言葉が聞こえぬかぇ?」

「いいえ? ちゃんと聞こえていますよ」

 おうふ、魔王様からお返事の催促を頂戴してしまった。

 醤油顔を見つめる眼差しが、ファイアボールの前後で多少ばかり変化して思える。打倒こそ至らなかったものの、牽制程度にはなったようだ。ただ、これ以上は流石に厳しいような気がする。多分、このまま続けたら競り負ける気がする。

 今し方に頂戴した一撃必殺の首切りフックを避けながら、人里の上空、街の住民に気を使いつつファイアボールを投擲すること幾百回とか、そんなの絶対に不可能である。途中で集中力が切れて、叩き落とされる未来が容易に想像された。

「今の炎は、ニンゲンが扱うには、些か練度が過ぎた代物じゃろう」

「もしも魔族だと主張したら、私とつがいになって下さいますか?」

「…………」

 どうしよう。

 本格的にどうしよう。

 ロリゴンやゴッゴルちゃんに協力して貰えたら、倒せるだろうか。いや、それでも確実とは言えない。なにより二人が怪我をするかもしれない。死んじゃうかもしれない。そう考えると、まさかヘルプを頼むなんてできない。

 どうにかして一人で切り抜けないと。

「……我が滅ぼすべきはニンゲンだ」

「それは聞きました」

 醤油顔を目前に眺めて、思案顔となる魔王さま。

 今し方に垣間見た手の速さを思えば、随分と長らく感じられる。

 どうだろう。

「いかがしました?」

 ややあって、彼女の口は再び開かれた。

「我もまた、良からぬ奢りに動かされていたようじゃ。確実に事を為すには、十分に策を練る必要があるじゃろう。この場に貴様を討つことは諦めよう。じゃが、近いうちに必ず、他のニンゲンと共に、その首を引っこ抜いてくれようぞ」

 ふわり、真っ白な身体が宙を舞う。

 醤油顔から離れるよう、一層高い位置まで一息に飛び上がった。

「待って下さい、貴方とは話したいことが多くあります」

 近いうちっていつだよ。

 その辺りのスケジュールはちゃんと教えて欲しいじゃん。

「我はない」

「っ……」

 そして、魔王さまはこちらが訴えるも虚しく、どこへとも飛んでいってしまった。

 まさか追いかけることは叶わない。

 ステータス的にもレベル的にも、完全に格上の相手だ。今でこそ回復魔法のただ一点に考慮の余地を得た。INT一点豪華主義が所以、他の残念なパラメータ事情を知られてしまったら、一転して攻勢を受ける可能性が高い。

 ここは彼女の言葉ではないが、こちらも十分に策を練る必要がある。

「…………」

 本格的にどうしよう。

 バカンス気分など、完全に吹き飛んでしまったぞ。

 自然と頭を抱えるよう、視線は自らの足元の側へ。すると、地上の一角、今まさに火花を散らす界隈を確認した。なにやら派手に土埃が上がっている。まさか復活した聖女様が、ロリゴンあたりとドンパチ始めたのだろうか。

 あれこれと考えたところで、気づいた。

 戦っているの、もしかしなくてもエディタ先生じゃん。更に同所には、何故かソフィアちゃんの姿もある。二人と争っているのは東の勇者様だ。我らがメイドさんを人質に取った勇者さまと、先生が相対する形だろうか。

 思い起こせば、西の勇者さまより確認していた。先生を捉えた実働部隊は、他の誰でもない東の勇者様であると。恐らく牢屋より脱走した金髪ロリムチムチ先生を目撃して、争いが巻き起こったのだろう。

 ちなみに聖女様の姿は窺えない。

「…………」

 どうして、ソフィアちゃんが一緒なのだろう。

 分からない。

 ただまあ、いずれにせよ醤油顔の行うべくは決まっている。

「お助けせねば」

 先生の無事な姿を確認して、心が暖かくなるのを感じる。

 とっても嬉しい。



◇◆◇



 飛行魔法を飛ばすこと屋敷の中庭へ。

 東の勇者様を威嚇する為、先生の名前など叫びつつ格好良く登場しようと考えた。右斜め上の角度から侵入して、勇者さまの手からソフィアちゃんを回収の上、地面をズサササと軽く滑るように、両者の間へ身を割り込ませる感じで。

 しかしながら、そうした醤油顔の思惑は容易に破られた。

 今まさにソフィアちゃんの下へ進路を取った瞬間、その姿が忽然と消えたのだ。

「っ……」

 目標を見失ったところで急制動。

 かと思えば、消えたメイドさんの姿が、先生の傍らに像を結んだ。それこそまるで、キモロンゲが得意とする空間魔法のようだ。エディタ先生にはそのような高等な行い、絶対に不可能である。これまでの交流が教えてくれる。

 咄嗟にヤツの存在を探すが、それらしい姿は見つけられない。

 そうこうするうちに、先生と勇者さまの間でトークが発生。

「不本意だが、見せてやろう。魔王を倒した魔法ってやつを……」

「な、なんだとっ!?」

 余裕に満ち溢れた表情で語ってみせるエディタ先生。

 対して、酷く狼狽して思える勇者様。

「言っておくが、今の私は最強だぞ?」

 ステータス的に考えて、勇者さまパーティーと先生では、圧倒的に先生が不利である。ソフィアちゃんのLUCは童貞だけの秘密だし、この状況で金髪ロリムチムチ先生が誇る理由など一つもない。

 だというに、先生の顔には笑みが。

 しかも、自ら最強宣言。

 最弱の間違いではなかろうか。

「ほざけっ!」

 当然、東の勇者さまが攻勢に移った。

 正面に掲げられた両手の平から、バチバチと雷が放たれる。

 これは不味い。大慌てで回復魔法を先生とソフィアちゃんの足元に放つ。ブォンと大きめの魔法陣が、二人の身体を治めるよう地面に描かれた。気づけばMPの都合も考えず、無我夢中で二人に対して無敵魔法キラキラ。

 なんて考えておりました。

「ふん、他愛無い」

 酷く淡々とした言葉と共に、先生が腕を振るった。

 まるで羽虫でも叩くよう、酷く適当な振る舞いだろうか。

 応じて雷撃は、明後日な方向へ進路を取るよう弾かれた。

 回復魔法の出る幕はない。

「なっ……」

 驚愕する東の勇者様とパーティーの面々。

 一方で落ち着いた様子、空に浮かんだ醤油顔に視線をくれるのがエディタ先生。数瞬遅れて、自らの足元に浮かんだ魔法陣に気づいた様子だ。

 その顎が空に向かい上げられたところ、頭上に浮かんだ自分と視線が合う。青い色のクリクリとした大きな瞳が非常に愛らしい。金髪碧眼百点満点。

「すみません、駆けつけるのが遅れました」

 飛行魔法で急接近の後、先生の傍らに着地。

 回復魔法はキャンセルだ。魔法陣がスゥと音もなく消え失せる。

 早々、東の勇者さまから声が上がった。

「き、貴様はっ……」

 忌々しげな表情で睨んでくれる。

 それこそ親の敵でも見つめるようだ。

「お久しぶりですね。かれこれ学園都市以来でしょうか?」

「まさか、そのエルフを庇い立てするつもりか? その者は聖女様より、捕縛の命が出されている。これを庇うなど、大聖国を敵に回すも等しい。否、我らが神に弓引くにも等しい行いなのだぞっ!?」

「ならば私は、神を討ち取るも吝かではありません」

「なっ……き、貴様っ、ここをどこだと思っているっ!」

 中年野郎のロリータに対する執着心を舐めるなよ。

 勇者様の勇気と同じくらい、こっちは淫気を滾らせているのだ。街角で不意に見かけた見ず知らずのOLパンチラですら、数年越しで覚えている童貞のCGギャラリー力は、湯船に生えた頑固なカビより尚の事しつこい。

 そんな中年野郎に対して、繰り返しおパンツをご開帳して下さったお方なのだ。

 絶対にお守りするじゃん。

「お、おいっ、それは流石に言い過ぎじゃっ……」

 止めに入る先生の傍ら、醤油顔は東の勇者様に物申す。

「エディタさんに仇なすというのであれば、たとえ勇者様であったとしても、決して手加減しません。二度と我々に手を出す気など起こらないよう、それはもう徹底的に争わせて頂きたい」

 声色を厳しくして述べさせて頂いた。

 決まったな。

 先生のポイント稼いでやったぜ。

 ゴッゴルフリーな現場だから、これでもかと格好つけてやったぜ。

 ただ、意気揚々と当の本人へ向き直ったところ――。

「待てっ! こ、この場は私の戦いだっ! 貴様は引っ込んでいろ!」

 エディタ先生から異議ありを受けた。

 しかも引っ込んでいろとのお達し。

「いえ、ですがお二人の安全を思えば……」

「今の私は、さ、さ、最強なんだよっ! 最強っ! 無敵っ! 全能!」

 つい今し方にも耳とした響きだよ、最強。

 更に無敵と全能をプラス。

 まさか吠えられるとは思わなくて、咄嗟に萎縮してしまう童貞の心。

 その隙に先生は、東の勇者様に対して、右腕を掲げて手の平を正面へ。ロリムチムチな太股は揺るぎなく大地を踏みしめて、足元にはブォン、金色に光り輝く魔法陣が浮かび上がった。

「これからは、わ、わ、私が守る側だっ!」

 ちらり、先生の視線がこちらに流れる。

 地面に描かれたは魔法陣は、瞬く間に輝きを増して、煌々と力強い光を発し始めた。直視するには厳しくて、自然と目元に手を添える。そうこうするうちに中心からは力強い風など発せられ始めたから、いよいよ先生らしくない演出だ。

 なにがどうなっている。

「エディタさん、これはっ……」

 尋ねるけれど、お返事は帰ってこない。

 相当にテンションが上がって思える。身につけた裾長いローブや、腰下まで伸びた金髪が、風に当てられて激しくはためく。とても格好いい。まるで歴戦の大魔法使いさながらの立ち振舞ではありませんか。

「当代の勇者に、魔法のいろはを手ほどきしてやろう」

「こ、このエルフっ! なにをっ……」

 一歩、金髪ロリムチムチ先生が東の勇者さまに向かい踏む。

 対して彼と彼のパーティーは、気圧された様子で一歩を後退。

 なんということだろう、先生が東の勇者さま一行を圧倒している。

「魔王を倒したいのだろう? またとない機会だぞ」

「ふざけるなっ! お、俺は勇者だっ! 選ばれし者なんだっ!」

 緊張に耐えかねた東の勇者様が、手にした剣を振るった。

 応じて切っ先より生まれた稲妻が先生の下に走る。

 先程よりも勢いがある。

 自然と頭を両手でかばって蹲るガクブルな先生が想像される。当然、醤油顔はこれに回復魔法を放つべく両手を前に。しかしながら、飛来した輝きは先程と同様、先生が何気なく振るった左手の平に弾かれた。

 お手々でポイだ。

「どうした? この程度では魔王はおろか、下級魔族にも苦労するだろう」

「そんな、ば、馬鹿なっ……」

「よく見ておくがいい。これが本当の魔法という現象だ」

 なにやらモニョモニョと呪文を唱え始める金髪ロリムチムチ先生。

 舌足らずな感じがラブリーだ。

 今の今まで東の勇者様に向けて掲げられていた右腕が、意気込みを表明するに同じく、明後日な方向へ。延々と続く青空の先、雲以外なにも存在していない空の一角に固定された。その行いに果たして如何様な意味があるのだろうか。

 疑問に思った直後、反応は訪れた。

 手の平より先、中空に魔法陣が浮かび上がる。

 球状に立体的なデザインで描かれたそれは、バレーボールサイズほどの大きさ。足元のものと同じ金色の輝きに形作られている。随所に訳の分からない文字や図形が並び、表面を滑るように流れている。

 めっちゃ格好いい。

「一度しかやらないから、ちゃんと見ていろよ? い、いいな?」

 先生が呟く応じて、その中央から輝きが発せられた。

 発せられて直前は細い光の筋。けれど、数瞬の後には厚みを増した。腕を掲げた空のある地点へ、吸い込まれるように伸びていく。太い太いと評判の縄文杉より幾倍も太い。まるでSF映画に眺めるビーム砲さながら。

 それが雲をも貫いて伸びてゆく。

「なっ……」

 不意に届けられた驚愕は誰のものだろう。

 際しては轟音が界隈に響き渡った。ズドンっと力強い響きと共に発射されて以降、ブォンブォンブォンと重低音が大気のみならず、大地までをも震わせる。腹を内側から抉られるような響きだ。足元にはビリビリと痺れるような感覚が。

 まるでどうにも、先生らしからぬ威力だった。

 ロリゴンに比肩するのではなかろうか。

 しばらくして、光の帯が消え失せる。

 近隣一帯に静けさが戻った。誰もは驚きの只中、今し方に放たれた魔法の跡を眺めるばかり。光が通過した辺りでは雲が散り散りとなり、綺麗に空の青を円形に映す。少しばかり動きを早くした周囲の雲の流れは、まるで唾液に解ける綿菓子のよう。

 自身は元より、東の勇者様とそのパーティーメンバー、更にはソフィアちゃんに至るまで、一様に瞳を見開いていた。ポカンと事の成り行きを眺めていた。いつだか自身が学園都市に召喚したFランを思わせる圧倒感である。

 これに満足したのか、先生が東の勇者様に向けて、ドヤ顔で呟いた。

「どうだ? い、言っただろう? 今の私は最強だと!」

 決め台詞まで格好いいから困る。

 ただ、長らく続いた弱小隠居生活の影響か、若干、口元が覚束ないぜ。

 そんな先生が大好きです。

「くっ、お、お、覚えていろっ!?」

 先生の最強っぷりを目の当たりとして、東の勇者の肉体が浮かび上がる。

 どうやら飛行魔法で退場のお知らせ。

 リーダーが身を浮かばせるに応じて、パーティーメンバーの面々もまた、次々に空へと舞い上がる。チラリ、チラリ、こちらを悔しそうな表情で睨みながらも、聖女様宅の中庭より去っていった。その姿はすぐに小さくなって、空の一角に消えた。

 依然として問題は山積みだが、とりあえず一息だろうか。
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