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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫
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大聖国 六


【ソフィアちゃん視点】

 あれよあれよと通された先はお屋敷の一室です。

 必至の弁明も虚しく、与えられたのは同所に勤めるメイドとしての仕事でした。こちらの部屋を主人が戻るまでに掃除をしておくようにと、メイド長を名乗る壮年女性から厳しい口調で命令されてしまいました。そうです。路上に出会った彼女です。

 唯一、幸いであった点があるとすれば、身体を拭う機会に恵まれたことでしょうか。衣服も新しくなりまして、首都カリスの学園寮で頂戴したメイド服から代わり、どこともしれないお屋敷指定のメイド服に着替えました。身体がスッキリしました。

「…………」

 ただ、それでも肝心の中身は徹夜明けにございます。

 まさか真っ当に掃除など叶う筈もございません。疲労困憊にございます。そもそもこちらは、どなた様のお屋敷でしょうか。やたらと豪華な居室を眺めては、思わず息を呑んでしまいます。学園寮や飛空艇のお部屋も豪華でしたが、こちらはそれ以上です。

 それとなく部屋を確認していたところ、ふと、絵が目につきました。

 高そうな額縁に彩られて、壁にかけられた一枚の絵です。肖像画の類でしょうか。誰ともしれない人たちが四人ばかり、横に並んでいます。背景はどこでしょうか。お城のようですが、私には見当が付きません。

 誰もが笑顔を浮かべて、笑っていらっしゃいます。とても仲が良さそうです。男性が一人と女性が三人ですね。ハーレムというヤツでしょうか。でも、こうしてみると女性の仲が良すぎて男性が少し距離を置いているようにも。

「……あれ?」

 なんとはなしに眺める先、ふと親近感を感じました。

 絵の中で並ばれた方々のうち、お一人にどこか覚えがあります。三名いらっしゃる女性のうち、二人と少しだけ距離をおいて佇まれるローブ姿の女性です。フードを被っている為、どうにも顔立ちがハッキリしないのですが、その目元や口元にどことなく覚えが。

「どこかで見たような……」

 ただ、どこで見たのか思い出せません。

 とても身近であったような気がするのですが。

「まあ、そういうこともありますよね」

 俗に言うそっくりさんというヤツですね。

 このような立派なお部屋に飾られている絵ですから、そこに描かれるような方が、私の知り合いである筈がありません。多少を疑問に思ったところで、けれど、徹夜明けの頭は早々に考えることを放棄でしょうか。

 むしろ、そんな体たらくのメイドですから、自ずと意識が向かう先はベッド。

 ベッドでございます。

「…………」

 こちらのお部屋に設けられているのは、贅沢にも天蓋付きのベッドです。

 眠いからでしょう、非常に魅力的に映ります。

 綺麗に敷かれたシーツの張りが、睡眠欲を刺激いたします。

「……あぁ」

 ダメです。

 欲求には逆らえません。

 歩みは自然と移ろい、その下まで向かいました。

「……あ」

 ばたり、倒れた先に与えられた感触は至福でした。

 綺麗に洗濯されたシーツのさらさらとした感触と、その先に待つベッドの柔らかな反発に全身が悲鳴を上げます。もうこのまま眠らせて欲しいと、切に訴えております。まさか、この欲求に逆らうことはできません。

 しかし、部屋主の方に見つかったら大変です。

 これだけ豪華なお部屋ですから、住まわれているかたの身分も相応の筈です。

 万が一にも見つかった日には打ち首獄門は免れません。

「でも、き、きもちいですよぉ……」

 眠りたいです。

 身体を綺麗に拭って衣服も着替えたところ、身体は睡眠を欲しております。気を抜けば次の瞬間にでも、意識を失ってしまいそうな心地良さがありました。ここ最近は規則正しい生活をしていた分、殊更に求めてしまいます。

 そうした最中のこと、不意に耳へ届いたのが足音です。

 部屋の外、ドア越しに誰かの歩む音が。

「っ!?」

 咄嗟、意識を覚醒させたメイドは慌てます。

 それはもう慌てます。

 慌てに慌てた結果、気付けば同室に設えられた衣装棚へ逃げ込んでおりました。

 別に隠れる必要などなんら無かったのですが、今まさに他所様のベッドへ身体を横たえていた罪悪感が、自然とそのように動いておりました。バタン、大慌てで戸口を閉めたところで、自分は何をやっているのかと後悔でしょうか。

 素直に掃除の最中であったと訴えれば良かったのです。

 ですが、既にそれも叶いません。

 私が衣装棚へ逃げこむと同時、お部屋の出入り口が開かれました。

 どうやら部屋の主人が戻られたようです。

 このタイミングで姿を現しては、完全にダメなメイドです。

 確実に打ち首獄門メイドです。

「…………」

 自らに出来ることはと言えば、息を潜めて佇む限りです。

 静かに。静かに。

 すると、自然と聞こえてきたのは、今まさに戻られた方の声でしょうか。年若い女性を思わせる声が響いてきます。年頃は自分と同じか、少し若いくらいかと思われます。こちらの部屋の持ち主でしょうか。

「なんということ!? 有り得ないっ! まさか、あのエルフが生きているなんてっ! しかも私がわざわざ呼び寄せた男と一緒なんて、どういうことっ!? もしかして、わ、私のことを殺しに来たのっ!?」

 随分と落ち着きのないお声です。

 怒りと焦りの交じり合った感情が手に取るよう窺えます。

 この様子では、衣装棚に身を隠したメイドなど露見した日には、どのような罰を受けることか。更にベッドのシーツへシワを作ったことがバレたのなら、ええ、その場で私刑も十分に考えられます。まさか無事には帰して貰えないでしょう。

 困りました。これは困りましたよ。

「あああああ、どうしてっ!? あの男はどこまで知っているのっ!?」

 ヒステリックな声がメイドの心をシクシクと痛めつけます。

 これは焦りますよ。

「こんなの藪蛇じゃない! どうして!? どうしてっ!? あの子はいつも私の邪魔ばっかりしてっ! 他の連中は全部死んだのに、アイツだけ、アイツだけずっとしぶとく生き残ってっ! 私はただ私兵が欲しかっただけなのにっ!」

 ドスンと低い音が響きました。

 恐らくはベッドかソファーにでも、身体を落ち着けられたのでしょう。薄暗い衣装棚の内側、やけに大きく響く音から、あれこれと想像してしまいます。戸口の隙間から外の様子を窺おうとも考えたのですが、視界の範囲に人の姿は確認できませんでした。

「…………」

 音が響いてからしばらく、静かな時間が流れます。

 どうしたのでしょう。もしかして眠ってしまったのでありましょうか。いえいえ、あれだけ興奮していた方が、そう容易に眠る筈がありません。

 などとあれこれ考えていたら、続くところがボソリと聞こえてきました。

「……いいえ、むしろこれはチャンスよ」

 なんでしょう、急に声色が変わりました。

 こういうコロコロと感情が変化する方って、危ないと聞きます。

 絶対にこの部屋の主は危ない人ですよ。

「死に損ないのエルフを捕まえて、あの男を抱き込みましょう。ジャーナル教授を圧倒する戦力は譲れない。ペニー帝国には勿体無いわ。あぁ、それともいっそのこと洗脳してしまおうかしら? けれど、学園都市から聞いた話が本当なら分の悪い賭けよね……」

 穏やかではない呟きが聞こえてきました。

 殺し、殺しだそうです。

 更に洗脳とのお達しです。

「そうよ、大切な人を奪われた私は、大切なものを奪う資格があるわ! だから、あのエルフへ目にものを見せて上げる。今日という日まで、私のことを苦しめてきた、あの肉々しい女をっ! 絶対に許さないっ!」

 よく分かりませんが、恐ろしい執念を感じます。

 正直、お顔を窺うのが怖いほどです。

「それでも不安だわ。居ても立ってもいられないわ。どうにかなってしまいそう。それもこれも、あのエルフが悪いのよ。どれだけ私のことを苦しませれば気が済むのかしら? 絶対に殺さなくちゃ。ここで確実に殺してしまわないと」

「…………」

 どうにも物騒な言葉ばかりが聞こえてきます。

 おかげで無性にオシッコがしたい気分です。

「あああああ、もう、不安で気が狂ってしまいそう! もっと、もっともっと私を守る力が必要だわ! あのエルフばかりじゃない! 下賤な者たちが襲ってくるのよっ!? 忌々しいっ! だって仕方がないじゃない! 全ては過去のことなのよっ!?」

 というか、こちらのお部屋の主人は、割と危ない人のようですね。

 心を病んでしまっている気配がヒシヒシと感じられます。

 お貴族さまを筆頭として、豪商の方や、高位に位置する司祭の方など、一定以上の身分にある方は、常に誰かから命や財産を狙われていると聞きます。いわゆる派閥争いというヤツですね。

 思い起こせば学園寮でのこと、エステルさまの命が狙われた現場に居合わせたことがあります。きっと、ああいうのが日常茶飯事なのだと思います。

 過去に身内から襲われたことが原因で疑心暗鬼となり、食事も手を付けられず、餓死されてしまった貴族さまもいらっしゃるそうです。たぶん、こちらのお部屋の方も、そういった背景から焦られているのでしょう。

 そうこうしていると、コンコン、ドアのノックされる音が響きました。

 来客でしょうか。

 メイド的にはチャンスです。

 このまま部屋の外へ向かってくれたら、その隙に脱出です。

「失礼します」

 ガチャリ、ドアが開かれるに応じて、新しい声が響きました。

 少しばかり齢の入った女性と思われます。

「どうしたのですか? メイドを呼んだ覚えはありませんよ?」

 どうやら部屋を訪れたのはメイドのようです。

 応じる部屋の主はといえば、これまでの独り言とは一変、お上品な口調となります。なかなか面の皮が厚い方ですね。ここまで露骨な代わり身を目の当たりとしては、ますます身バレする訳にはいかなくなりました。

 なんかもう凄く怖いです。

「騎士の方より、異教徒を捕縛したとのご連絡がありました」

「あら、そうですか? それでは早急に地下牢へ向かわねばなりませんね」

「よろしくお願い致します」

「まったく困ったものですね。正しき在り方を理解できない者たちは。こうまでも我々が行く先を照らしているのに、どうして道を誤ってしまうのでしょう。聖女としてこれほど嘆かわしいことはありません」

「はい。差し当たりましては、新しい器具が到着しておりますが……」

「本当ですか? それは素晴らしいですね! 是非とも試してみましょう」

「承知いたしました」

「邪教に溺れ汚れてしまった肉体を、正しき教えにより浄化してあげるのです」

「よろしくお願い申し上げます」

「ああそれと、私の名前で勇者たちに言伝を……」

 ギィ、バタン。部屋のドアの閉じられる音が響きました。

 ややあって、どことなく楽しそうな声色と共に、二つの足音が遠ざかってゆきます。どうやらお迎えに上がったメイドの方と共に、お部屋の主人も出て行かれたようです。少しばかり衣装棚のドアを押して、室内の様子を確認でしょうか。

「…………」

 大丈夫です。

 どなたの姿も確認できません。

「……チャンスですね」

 このような危ないお屋敷、まさか長居はできません。

 さっさと逃げさせて頂きましょう。



◇◆◇



 観光。観光である。

 聖女様よりご紹介された修道女さんに促されるがまま、醤油顔は大聖国が誇る町並みに向かい観光へと繰り出す運びとなった。共連れはナビゲータの同修道女さんの他にエディタ先生、そして、いつの間にやら縦ロールとキモロンゲといった具合だ。

 今は教会の礼拝堂前、屋外の広まった場所を歩んでいる。

「ふぅん? 随分と凝った造りじゃないのぉ」

「ペニー帝国にも幾つか教会はありますが、やはり総本山とだけあって、こちらの方が造詣に拘られて思えますね。建物の規模や造りの細かさがまるで異なって思えます。見ているだけでも飽きません」

 我々が向かった先は大聖国に数多ある教会の一つ。

 特にその中でも指折りと称される建物だ。

 ミラノの大聖堂を思わせるやたらと重々しく刺々しいゴシック風の造りが印象的である。きっと地下には牢屋とかあって、魔女的な身分の女性が、エッチに折檻されているのではないかと、自ずと妄想してしまうほどだ。

 規模もかなりのもので、建物の他に庭やら何やらを含めると、敷地面積全体としては東京ドーム並ではなかろうか。行き交う人々の姿も相応である。我々を案内して下さる修道女の方と同じ格好をした女性が随所に見受けられる。

「こちらは大聖国でも随一の造詣を誇る教会にございます」

 建物の正面を歩むに際しては、修道女さんが満面の笑みとともに、ツアーガイドさながら、ご説明をして下さる。際してはやたらと前屈みとなり、乳尻太股をアピールして頂けるから、今日は最高の観光日和だ。

 たぶん、穿いていないのだろう。

「なるほど、大聖国でも随一ですか。確かに素晴らしい」

「あらぁ? 異国の出に教会の良し悪しが分かるのかしらぁ?」

「私の生まれ故郷にも似たような文化はございましたので」

「ふぅん?」

 ぶっちゃけ目で楽しむ以上のところは、まるで分かってないけどな。どれもこれも似たようなものだし、建物の良し悪しなどサッパリである。そういった意味では、むしろ修道女さんのスカートの中に興味津々でございます。

「どうかしましたか?」

「べつにぃ? ただ、どうにも気に入らないわねぇ」

「……というと?」

「今この瞬間、自らの立場を忘れているのかしらぁ?」

「…………」

 縦ロールの瞳にサドの炎が灯る。挑戦的な表情で醤油顔を煽ってくれる。調教の兆しがヒシヒシと。もしかして屋外プレイ開幕の予感。キツい目元に定評のある彼女だから、睨まれると堪らない。ゾクゾクしてしまう。

「ど、どうしたんだ?」

 その姿を目の当たりとしたことで、エディタ先生が慌て始める。

 醤油顔と彼女の間に何かしらの関係を疑っているのだろう。もしも先生が一緒でなければ、公道ハイハイも辞さない覚悟であった。しかしながら、先生が一緒とあっては、くそう、ヤバイな。ソフィアちゃんではないが、脇の下が湿るのを感じる。

「私になにか至らないところでも?」

「そうねぇ……」

 その場に立ち止まると同時、意味ありげに顎など指先に擦ってみせる。

 いやしかし待てよ、落ち着いて考えよう。

 先生は膜なし。

 縦ロールは膜確。

 どちらを優先すべきは明白ではないか。

 ああ、そのとおりだ。この身は卑しくも損得を正しく捉えて止まない。処女と非処女、いずれを選ぶべくか明確である。ここ最近は一緒に行動する機会も増えたし、もしかしたら、もしかしてしまうかもしれないじゃないか。

 縦ロールなエンディングが近い。

 更に修道女さんの前でハードプレイを主張しておけば、今後は大聖国が誇る御持て成し組の皆さまも、サディスティック路線でアプローチして下さるかも知れない。膜確美少女からの集団逆レイプこそ非モテの理想。

「……そうですね。ご指摘のとおり、自身の過ちとは往々にして見つけにくい」

「なぁに?」

「私に落ち度があるのであれば、この場でズバリ、ご指摘下さいドリスさん」

 胸を張ってどんと来い。

 すると途端に狼狽え始めるのが、愛しの処女膜。

「……な、なによ? その態度は」

「態度ですか? 取り立てて、普段と何ら変わりないつもりですが」

「っ……」

 こういう時に限って、意中の相手は尻込みして思える。

 さっさと公道ハイハイを命ずるべきだ。

 今ならお馬さん大安売りだわ。

「ふんっ! ま、まあ良いわっ!」

「…………」

 意外と押しに弱いのが、縦ロールの良いところであり悪いところでもある。

 ただ、同時に少しばかりホッとしている自分再発見。

 このギリギリ感が良い。

 とかなんとか、割と楽しんで観光している最中のことだった。

『おい、み、見つかったかっ!?』

「見つからない」

『ぐるるるるる、あの娘、いったい何処へ行ったんだっ』

「……もう少し捜索の範囲を広げてみる」

『くそうっ、エルフに続いてあのニンゲンまでも……』

 どこか見覚えのある連中が礼拝堂の傍ら、顔を合わせている。言葉を交わす両者の間には、数メートルばかり距離が設けられて、道行く者たちが奇異の視線を投げかける。ただ、本人たちはこれを気にした様子も見られない。

「お、おい、あれは……」

 エディタ先生も気づいたようだ。

「うちの町長とロコロコさんですね」

 後者はゴッゴル的外見を庇ってだろう、全身を覆うローブ姿。目深に被ったフードからは髪の色を窺うことも叶わない。一方で前者は平素と変わらない出で立ちだ。真っ黒な髪と完全に色素の反転した眼球の黒は見紛う筈もない。

 どうして彼女たちがこのような場所に居るのだろう。

 いや、思い起こせば先生も首都カリスにご在宅であった筈だ。

 もしかしてあれか、先生の落下はロリゴンの行いか。

 いずれにせよ二人を放っておく訳にはいくまい。エディタ先生と縦ロール、それと案内の修道女さんに断りを入れて、彼女たちの下まで歩みを向ける。ちょうど二人が向かい合う中間地点を目指してのこと。

 当然、こちらの姿が視界に入ったところで、二人から反応があった。

『っ!?』

「あ……」

 咄嗟、身構えるロリゴン。

 一方でぼんやりと口を開くゴッゴルちゃん。

 対象的な二人だ。

「このような場所で出会うとは奇遇ですね。どうされました?」

『なっ、ぐっ……これは、そ、そのっ……』

 早々に焦り始めるロリゴン可愛い。

 きっと後ろめたいことでもあるのだろう。

 取り立ててドラゴンシティでの就業を強制した覚えもないし、留守にしたからといって非難するつもりもない。もともと自由奔放を地で行く彼女だから、これをどうこうすることは不可能だと思われる。

 ただ、視線を合わして即座、ついと逸らされた視線には興味を惹かれる。

 思い起こせばいつだって挑むような視線を向けてきた彼女だから、これはなかなか、滅多でない行いではないか。それもこちとら、ドラゴンシティで約束を反故にした身の上、文句の一つでも飛んでくるものだとばかり。

「もしかして私が約束を破ったことで、文句を伝えに?」

『ぐっ……』

 続くところ要領を得ないロリゴン。

 なんかいつもの横柄ドラゴンとは違う。

 代わりにゴッゴルちゃんが教えてくれた。

「エルフとメイドが行方不明」

「え?」

 端的ながら非常に重要な情報をありがとうございます。

 割と大したニュースのような。

「でも、前者は貴方と一緒だったよう」

 呟いてゴッゴルちゃんの視線が醤油顔の後方へ。

 そこには恐らく今に彼女が語ったところ、エルフさんの姿が見つけられることだろう。このやり取りを耳として、ロリゴンもまたエディタ先生の姿を確認だろうか。次の瞬間、耳やかましいほどの咆哮があがった。

『き、貴様っ! そこでなにをしているっ!?』

 問われた先生は、ビクリ、方を震わせると共に、あせあせと返答を。

「いや、な、なにをと言われても、その男と一緒に、か、か、観光を……」

『観光っ!? 私たちは貴様を探してたのにっ! さ、探してたのにっ……』

 なんとなく見えたぞ、ロリゴンが必至な理由。

 同時に空からエディタ先生が降ってきた顛末。

 とりあえず、場所を変えようか。流石にここだと人目を引いてしまう。すぐ傍らで所在なさ気に、おろおろとしていらっしゃる修道女さんにお伺いを立てる。

「すみません、この辺りで落ち着いて話せる場所などありませんか?」

「え? あ、は、はいっ! ご案内させて頂きます!」

 相変わらずの笑顔で頷いて下さる修道女さん。

 これでもかと露出された上乳が最高にプリティーですよ。

 処女のお乳だと思うと、感動も三割増しじゃんね。



◇◆◇



 貴族や位の高い聖職者が利用するのだという飲食店に案内して頂いた。

 個室前提の作りが、あれこれ適当を話すには調度良い。広さ的にもゴッゴル距離を設けて余るだけの空間がありがたい。店員さんにチップを渡して、飲み物だけ軽く注文したところで、いざ、我々はテーブルを囲う運びとなった。

 縦長なテーブルの片側には醤油顔と縦ロール、エディタ先生が。もう一方には一人でロリゴンが。ゴッゴルちゃんは例によって部屋の隅のほうで体育座りしている。修道女さんには申し訳ないけれど席を外して頂いた。

「なるほど、ソフィアさんが昨晩から……」

『な、なんだよっ!? 文句あるのかっ! あぁっ!?』

 吠えるロリゴン、全力で警戒姿勢だ。

 なんでも醤油顔と縦ロールの後を付けていたらしい面々。道中でエディタ先生を落っことし、更には大聖国でソフィアちゃんと別れてしまったらしい。流石はロリゴン。お使い達成率ゼロパーセントは伊達じゃない。

 先生なら空を飛べそうなものだけれど、なんでもロリゴンが空を飛ぶ際に展開する飛行障壁とやらに当てられて、それだけの余裕がなかったそうだ。落下の最中、ブレーキを掛けるのが精々であったとか。

「…………」

 今回ばかりは流石にロリゴンのことを責められない。

 色々と不平や不満を溜めてしまったのだろう。

 塔を見て回る約束をすっぽかしたのなど最たる。まさかここまで大事になっているとは思わなかった。想像した以上に醤油顔との約束を大切にしてくれていたよう。申し訳ないと感じる一方で、どこか喜びを感じている自分を再発見だろうか。

 無性にロリゴンのこと愛おしい。思い起こせば自分とのお出かけを楽しみにしてくれた異性って、ロリゴンが初めてじゃなかろうか。万が一にもこれがラブ由来だとしたら、それこそ膜の有無を関係なく求婚してしまいそう。愛してる。ごめんなさい。

 記憶喪失以前のロリビッチはどうかと問われれば、あれはどうにも人として常軌を逸していたというか、現実感が皆無であったというか、童貞的にリアルじゃなかったんだよな。アニメでも見ていたほうがまだリアリティあったし。

『お、おいっ! なんとか言ったらどうだ!? やるのかっ!? あぁっ!?』

「いえ、今回の件は私にも過失があるようで、本当にすみませんでした」

『……おいこら、今謝るのは卑怯だ。ずるい』

「そうですね。仰るとおりです。そちらに関しては改めて」

 伊達にエンシェントしていない。

 ご尤もな突っ込みを頂戴してしまった。

 改めて土下座させて頂こう。

 無性に不浄の鱗とかペロペロしたくなってきた。

「急いでソフィアさんを探すとしましょう」

 迷子になったのがロリゴンやゴッゴルちゃんであれば、これといって心配することもなかったのだけれど、ソフィアちゃんはどうだろう。やたらとLUCが高かったことを思い起こせば、むしろ心配無用な気がしないでもないけれど。

 いやいや、そういった感じで放置した結果が今まさに。

 ここは本腰入れてちゃんと捜索しなければ。

 万が一にも悪い男に騙されて、大切な膜を失ってしまったら、あぁ、大変なことだ。処女の頃を知っていた非処女のメイドさんにお世話して頂くとか、日々の生活、何気ないシーンで逐一メンタル削られそうじゃん。きっと半年は持つまい。

「ど、どの辺りで見失ったんだ?」

 エディタ先生から質問が飛ぶ。

 ソフィアちゃんのことを心配して下さっているのだろう。

 先生は心優しいからな。

『……宿屋だ』

「宿屋? どういうことだ?」

「寝ていた筈が消えてた」

 ゴッゴルちゃんから補足が入った。

 なるほど。

 まるで意味がわからないな。

「すみません、もう少し詳しく窺いたいのですが」

『ね、寝入っているところまでは確認したっ! だが、明け方に戻ったらいなかったんだっ! 出掛けているのだと思って待ってみたけど、戻ってこないっ! わ、私たちのせいじゃないぞっ!?』

「なるほど」

 ますます分からないわ。

「それはいつ頃のことですか?」

『今朝だっ!』

 絶妙に判断が難しいな。

 そのタイミングだと、宿屋から発ったのはソフィアちゃんの意志のような気がする。まさか彼女をピンポイントで狙う手合が存在するとも思えない。慣れない異国の食事から、トイレで腹痛に苦しんでいるとか、そういう可能性の方が高いような。

「一度、ソフィアさんが取った宿屋に戻りましょうか」

 面々を促して、一路、場所をソフィアちゃんが抑えた宿屋に移動である。



◇◆◇



【ソフィアちゃん視点】

 見ず知らずのお屋敷を彷徨っている最中、非常に刺激的な光景を目の当たりと致しました。お部屋の中では、肌も顕わな姿格好の男女が眠りこけていらっしゃいます。女性は須く修道女と思われます。一方で男性は大半が身なりの良い貴族風の方々です。

 これってあれでしょうか、いわゆるその手のあれでしょうか、上流階級様に対するお接待というヤツなのでございましょうね。そこらかしこにお汁の飛び散った室内は目も当てられないような惨状にございます。

 うら若き乙女としては、興味も自然と湧いてしまいます。

 ただ、一頻りを確認したところで、貴族さま方がどなたも総じて中年、それもお腹のふっくらとされた方と知れたところで、興味も半減といったところでしょうか。同じ女性である修道女の姿は、それ以上に見ていても楽しいものではありません。

 当然、私も僅か開いたドアの隙間から、惨状を垣間見て回れ右でした。

 しかしながら、踵を返す間際のことにございます。お部屋のの中央、テーブルの上に乗せられたものに意識を奪われました。これでもかと真っ白な粉が、こんもりと盛られているではないですか。

「…………」

 露骨なまでに怪しい気配を感じます。

 まさか真っ当な食品ではないでしょう。

 自然と思い起こされたのは、ミサちゃん主催の食事会です。

 気持よくなれるお薬です。

「…………」

 自然と意識が向かった先は、お部屋で倒れた皆さまです。完全に意識を失っていらっしゃいますね。誰も彼も気持ちよさそうな顔で眠っております。仮に一人、メイドがお部屋に失礼しても、たぶん、バレることはないのではないでしょうか。

 そうです。

 再び目覚めた時、少しばかり白いサラサラが目減りしていたとしても。

「……失礼しますね」

 メイドは素直な生き物です。

 あの時のフワフワとした感じ、忘れられぬ快楽にございます。

 気づけば己が手は、卓上より白い粉を採集しておりました。同じく卓上、放置された空の革袋へ、これを収めさせて頂きます。全部を頂戴しては流石にバレてしまいます。三分の二ほど頂戴いたしました。

「……ふふ」

 なんでしょう。

 まだお粉を口にした訳ではないのに、オマタがジクジクとします。

 これは危険ですね。

 急いでこちらのお屋敷を脱出しましょう。

 そして宿屋で存分に、こちらのお粉を楽しむべきだと強く思います。

 いいえ、違います。調査です。知的好奇心というヤツですよ。
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