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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫

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大聖国 五


 大聖国を訪れて二日目、縦ロールが本格的に活動を始めた。

「……おはようございます」

 より具体的に言えば、今まさに目覚めた我が肉体の上、縦ロールが腰を落ち着けていらっしゃる。自転車の荷台にでも乗るよう、足を片側に揃えてムッチリお尻を臍の上にドスン。目覚めるまでは不快であった腹部の圧迫感が、即座に快楽と変わった。

「さっさと起きなさぁい?」

「貴方が乗っていると起きられませんよ」

「奴隷の癖に随分と偉そうなことを言うじゃないのぉ」

「……奴隷、ですか?」

「わたくしは言ったわよぉ? バカンスの最中、貴方は私の奴隷であると」

「なるほど? 今もバカンスの只中であると」

「違うのかしらぁ?」

「…………」

 なるほど、奴隷バトルは続行という訳だ。

 受けて立とうじゃないか。

 などと考えたところで、ちょっと待った。同所にはエディタ先生もご一緒しているぞ。まさか無様は見せられない。後日ゴッゴルちゃんに読心されるのは快感だから良いのだけれど、先生からリアルタイムで冷たい目に見つめられるのは、流石に回避するべきだろう。だって嫌われたくないもの。

「…………」

「どうしたのかしらぁ?」

「今のタナカ男爵は、仕事の最中にあるのではないかと思いまして」

「それならそれで別に構わないけれど、当然レシピは教えられないわねぇ」

「なっ……」

 そういえばそうだった。

 元はといえば育毛剤が欲しくて始めた奴隷プレイであった。完全に失念していた。手段が目的とすり替わった瞬間を今まさに実感だろうか。手段最高。世の中、往々にして手段の方が心地よいものだ。

 しかし、だからといって育毛を諦める訳にはいかない。

 異性のハゲに対する許容は恐ろしいほどに低いのだから。

 例えば同期入社の出世頭、高級スーツの良く似合うイケメン営業マンB君。三十路を過ぎたあたりでハゲ発症。途端に失速。半年で心を病み、遂には会社まで辞めてしまった。なんでも結婚を約束していた同棲四年の彼女に振られたらしい。風のうわさでは、実家でライトセイバーを振るお仕事に就いているという。

「……分かりました」

 まさか認める訳にはいかない。

 ハゲとは人を殺すに足りえる病だ。

「そぉう? なら貴方は今この瞬間なにをすべきか、分かるわよねぇ?」

「……くっ」

 大丈夫。

 くっ、って言っておけば、大丈夫。

 エディタ先生の存在を含めて、縛りプレイで挑む奴隷プレイ開始の予感だ。



◇◆◇



 ファーストプレイは朝食でのこと。

 縦ロールと連れ合い、屋敷の一階に設えられた食堂まで移動した。すると、そこには既にエディタ先生の姿がある。夜型の生活が板についている金髪ロリムチムチ先生としては、ドラゴンシティで寝起きしていた時分と比較して幾分か早い起床だろうか。

 席についてお行儀よく座っていた先生。

 どうやら食事を食べずに待っていてくれたようだ。テーブルにはクロスの上へ綺麗に並べられて手付かずの食器具と、湯気の上がらなくなったティーカップが置かれている。少し高めの椅子に座り、床まで届かない足をプラプラさせているのラブリー。

 ただ、その揺れもこちらの顔を確認すると同時にピンと伸びて静止だ。

「ぁ……ど、どうしたのだっ!? その娘と朝から一緒に……」

「部屋の前で偶然にも会いまして」

「そ、そうなのか? そうか、なるほど、そ、それならあり得る!」

「ええ、あり得ますね」

 キモロンゲの姿は窺えない。

 まあ、ヤツはどうでもいいや。

 好き好んで眺めたい面ではない。

「食べずに待っていてくださったのですか? お心遣い痛み入ります」

「いや、わ、わ、私も今来たところだっ!」

 先生に謝辞など述べつつ、対面の席に腰を落ち着かせて頂く。すると、それが当然だと言わんばかり、隣の席には縦ロールが座った。縦長のやたらと広い食卓の中央、一人と二人でこれを挟む形だろうか。

「あ……」

 不意に先生のお口から声が。

「なぁに? どうかしたのかしらぁ?」

「べ、べつに、どうもしないが……」

「そぉう?」

 我々が腰掛けると、即座に動いたメイドさん数名が食器具を運んできた。醤油顔と縦ロールの他、エディタ先生の分も合わせて三人前の配膳である。前菜とスープが続けざまに卓上へ並べられる。朝の空きっ腹には堪らない香りが鼻腔をくすぐる。

 応じてグゥと、どこからともなく腹の鳴る音が聞こえてきた。

「っ……」

 出処は言うまい。

 そして、ここでも給仕のメイドさん一同は、誰も彼も深々と腰を曲げると共に、腰をやたらと後方へ突き出すよう、前屈姿勢で仕事を行っている。どうやら大聖国が誇るおもてなしの心は、昨日より変わらず継続して行われるようだ。

 やっぱり今日も穿いていないのだろうか。

 豊満な尻肉が太ももと接することで、膨らみの触れ合う間に生まれた陰りが良い。自然と視線の向かう先に戸惑ってしまう。まだ窺い知れぬミニスカの秘密に胸がドキドキである。なんてエッチなメイドさんたちなのだろう。

「お、おいっ!」

 エディタ先生が吠えた。

 お腹グーの照れ隠しだろうか。

「なんですか? エディタさん」

「折角の食卓なのだから、た、楽しんで食べるべきだろう? 会話などして!」

「ええ、そのとおりですね」

 致し方なし、チラリチラリとメイドさんへ向けていた意識を正面へ。惜しむべくは全力で足を組んでいる先生の、しかし、テーブルの天板に邪魔されて寸毫も股ぐらの窺えない位置関係だろうか。

 おかげでことある毎にお世話を焼いてくれるメイドさんの、バックで突っ込んで下さいと言わんばかり、後方にクイと持ち上げられた腰やら臀部やらに意識が向かってしまうのも致し方のなきこと。

 見たい。見たすぎる。布切れの向こう側を。

「このサラダ、う、うまいぞっ! うますぎる!」

「なるほど、確かに美味しいですね」

「だろうっ!?」

 ただ、エディタ先生の舌鼓を無視する訳にはいかない。

 手を動かしてムシャムシャとさせて頂こう。

 まさかチャンスを狙っていると気付かれてしまっては大変だ。

「このソースがなかなか、うまいではないか! ああ、美味だ!」

「そうですね。私も好みです」

「本当かっ!?」

 どこか覚えのあるトークの流れだな。はて、どこで交わしたものだったか。

 などとやっていたら、カチャン、甲高い音が食堂に響いた。

 何事かと音の聞こえてきた側に意識を向ければ、すぐ隣、縦ロールの手元からフォークが消えている。自然と視線が下に向かったところ、それは彼女の足元に床に落ちていた。テーブルの下、彼女のつま先より数センチの位置だ。

「あらぁん? 食器が落ちてしまったわぁ」

 チラリ、その視線がこちらに向けられる。

 なんてわざとらしい。

 奴隷に拾わせるべく算段だろう。

 よしきた、受けて立とうじゃないかこのやろう。

 奴隷バトルの開始だ。

「すみませんが、こちらの彼女にフォークの代わりを……」

 先手必勝、メイドさんに代わりの食器をお願いする。

 しようとした。

 一方でメイドさんは音を耳として直後、既に動き出している。

 にも関わらず、縦ロールは語ってみせる。

「拾って貰えないかしらぁ?」

「……私がですか?」

「レディーに床へ落ちた食器を拾えと言うのかしらぁ?」

「ん? なにを言っているのだ? 食器など自分で拾えば……」

 エディタ先生の突っ込みも尤もなこと。

 しかしながら、今の醤油顔は縦ロールに逆らう力を持たない。ゆっくりと椅子から立ち上がったところで、腰を曲げて膝を床に突き、彼女の足元に両手を侍らせる。

 自然とロリ巨乳の素足が鼻先数十センチまで接近。相変わらずのロングスカートが故、太ももまでは拝めない。だがそれでも、脹脛の柔らかそうなお肉が急接近。

 決して縦ロールの足元に傅きたい訳ではない。

 だが、育毛剤のレシピを手に入れる為には仕方がないのだ。

 あぁ、仕方がない、仕方がない。なんて仕方がないんだろう。

「お、おい!」

 エディタ先生のサウンドを耳としながら、右手をフォークに伸ばす。

 その手が金属製のそれを掴んだ途端、縦ロールの足が動いた。

 より正確にはこちらの手の甲を上から押さえつけるよう、足が降ってきた。多少の気遣いか、それとも奴隷期間後の報復に少なからずビビっているのか、靴を脱いで靴下でのアクション。最高だ。ロリータの体温が感じられる踏み踏み、最高だ。

「っ……」

「ふふ、うふふふふ」

 更に続けざま、今度は後頭部までもに足の裏がのしっと。

「…………」

 ヤバイ。

 ロリータに踏まれるの快感。

 キモい中年野郎を無料で踏んでくれるなんて、なんて良いヤツなんだ縦ロール。アキバなら五千円が最低ライン。十代ともなれば非合法。プライスレス。

 キモロンゲが忠誠を誓ってしまうのも無理はない。こんなご褒美を定期的に頂戴できるならば、男という生き物はたとえ火の中水の中というやつだ。

「な、なにをやっているんだ?」

 いかん。

 エディタ先生がテーブルの下を覗きこむよう身体を動かされた。

 ピンチの予感。

 すると途端、さっと音もなく引いてみせる縦ロールの右足と左足。元在った通り靴の中に収まったところで、当の本人は素知らぬ顔というやつだ。

 先生の視界がこちらを捕らえる直前には、全てが事もなしの体へ。

「……おい、いつまでフォークを拾っているんだ?」

「すみません。少し無理な姿勢をしたところで、腰が痛みまして」

「え? だ、大丈夫なのか?」

「はい。回復魔法ですぐに癒えました」

「そうか? なら、まあ、いいんだが……」

 セーフ。

 ギリギリセーフ。

 その事実が快感。

 いかんな、このままだと国へ帰るころにはすっかり調教されていそうだ。

 しかしながら、ちょっと待てよ。冷静に考えると、縦ロールってば膜付だし、それも悪くないよな気がする。愛するご主人様からのご褒美膜付セックスとか、少し歪だけれど、脱童貞するは最高にロマンティックな気がしてきた。

 サド行為が愛に変わる瞬間をこの目で捉えてみたい。

「あの、か、代わりをお持ちいたしました」

 こちらが身体を起こすと同時、傍らから声がかかる。

 メイドさんが代わりのフォークを持ってきてくださったようだ。

「ありがとうございます。こちらの彼女に」

「はい」

 縦ロールの手前に新しいフォークが置かれる。

 一連の立ち振舞は決して短くない時間を同所に働いているのだろう。酷く洗練された立ち振舞であった。この子が今まさにノーパンだと思うと、決してブツが露出している訳ではないのに、下手なエロ動画より余程のこと興奮してしまう。

「それとこちらはすみませんが、落としてしまったものなので……」

 縦ロールの唾液付きフォークを差し出す。

 しくった。

 一回くらい口に含んでおくべきだった。

 処女の唾液エリクサー。

「わざわざありがとうございます」

 受け取るメイドさんは、自らの両手をこちらの手に添えて、あれだ、ほら、コンビニでお釣りを受け取る時に、最上位オプションを頂戴したようなスタイルで受け取って下さった。人肌の暖かさに右手が包み込まれる喜び。

 これが大聖国のお持て成しの心というやつか。

 ピンポイントで童貞の弱いところを突いてくれる。

「それとタナカ男爵にお客様がお見えになっております」

「私にですか?」

「はい、聖女さまがいらっしゃっております」

「なるほど」

 どういったご用件だろう。

 相手の肩書を思えば、悠長に食事を摂っている場合じゃなさそうだ。

「すぐに向かいます」

「いえ、既にこちらへいらっしゃっております。お通しさせて頂きました」

「え? そうなんですか?」

 恭しく口上を続けるメイドさんの背後、食堂の出入り口より歩み来る人影が。

 まさか忘れる筈もない。つい先日に顔を会わせたばかりの人物である。スタスタと軽い歩みでこちらに向かってくる。メイドさん一同も暫定主人が醤油顔である以前、そもそも使えるべきは彼女なので、食事中だろうがなんだろうが、その意向は絶対なのだろう。

 ちなみに聖女様の傍らには他にお連れの姿も見つけられない。もしかして一人でやって来たのだろうか。だとすれば、偉そうな肩書に対して、随分とフットワークが軽い人物だろう。どこぞの魔法キチガイが思い起こされる。

「食事中にすみません。私もご一緒してよろしいですか?」

「これはこれは聖女さま。是非ともご一緒できたらと」

 醤油顔の言葉を確認したところで、メイドさんは会釈と共に下がった。同時、他に控えたメイドさんたちが動いて、すぐさま聖女さまの席を用意してゆく。これといって言葉が飛び交うこともなく、早々に一席が設けられる様は酷く洗練させて窺えた。

 一方で当の聖女さまはと言えば、なんだろう、エディタ先生を見て固まっている。

「聖女さま、私の連れがどうかされましたか?」

「え? あ、いいえ? なんでもないですよ」

「そうですか?」

 見られた側も気についたようで、しきりに首を傾げている。どうやら先生の側は取り立てて思うところもないようだ。如何に先生が優れた錬金術師とはいえ、聖女様なる肩書の持ち主が一方的に知っているという状況は自然じゃない。

 それでもまあ、今この場で追求するようなことではないよな。

「失礼しますね」

 小さく会釈を一つして、用意された席に腰を落ち着ける聖女様。位置的にはエディタ先生の隣、縦ロールの正面といった形となる。見ず知らずのお偉いさんを傍らに置いて、コミュ障を遺憾なく発揮する先生の動きがラブい。

 醤油顔もまた自らの席に戻ったところで、お食事は再開だろうか。

「ところで聖女さま、本日はどのようなご用件で?」

「そう大したことではないのですが、一つ伝え忘れたことがあります」

 スプーンでスープをゆっくりとかき混ぜながら、彼女は醤油顔に意識を向けた。何気ない仕草が様になっている。こちらと視線があったところで、ニコリ、朗らかな笑みを浮かべる様子はマジ天使。

 その穏やかな笑顔にドキリと胸を高鳴らせつつ、童貞野郎の手はティーカップへ。自ずと滲み出る毒男感が伝わらないよう、これに口元を隠しては、多少ばかりを口に含んで喉を湿らせる。異性の笑顔ほど童貞の心に響くものはない。

 人間、慣れないものにはいつだって弱いのだ。

「ここは気に入ってもらえましたか?」

「ええ、素晴らしい屋敷をありがとうございます」

「それはなによりです」

 一方で彼女が同所の履いてないメイドによる酒池肉林コースを理解して、あれこれ語っているのだと思うと、一転してその笑顔にエロスがプラスだ。知っているのだろう。まさか知っていない訳がないだろう。

 そう考えるとリチャードさん並に腹の中が真っ黒い相手と言える。男の落とし方というやつをよく理解していらっしゃる。童貞の下半身は陥落寸前でございます。下手を打ったら喰われるのはこちらが故、少なからず気を引き締めてのトークである。

 朝一の食事時を狙ったのは不意打ちだろうか。

 分からないな。

 こちらの聖女さまに関しては、情報がまるで足りていない。

「ところでタナカ男爵は、大聖国の街に興味がありますか?」

「ええまあ、そうですね。とても素晴らしい街並だと思います」

「もしよければ改めて案内の者をと考えたのですが、いかがですか? 私自身が案内しても良いのですが、如何せん街では人目を引いてしまいます。代わりに中央修道院でも指折りの修道女に声を掛けております」

「それはまた、お心遣い痛み入ります」

 こちらのお屋敷へ訪れるまでも、 数多並んだ教会の類には少なからず興味を引かれていた。これを見て回るのは悪くないご提案だ。宗教立国の歴史的建造物を観光とか、いよいよ本格的にバカンスっぽくなってきたじゃないか。

「では後ほどに顔合わせと致しましょう」

「ありがとうございます」

「今回用意した修道女は若い生娘です。大聖国に生まれ育ったが故、国外を禄に知りません。差し支えなければタナカ男爵より、色々と教えてあげてください。喜んで自らの知見を広めるべく働くことでしょう」

「え? あ、はい。どうも色々とすみません」

 マジか。今の台詞マジか。

 最高にセックスな気配を感じる。大聖国ヤバい。想像した以上にアダルトなお国柄の予感がビンビン丸。お偉方も顔を合わせたのは目の前の聖女様くらいで、キモいおっさん系とのエンカウントはゼロ。

 しかも、ゼロ距離から膜確のお知らせ。

 このままでは良くないな、完全に主導権を握られてしまっているぞ。

 そんな現状が極めて快感である。

「ところで私からも一つよろしいでしょうか?」

「なんですか? 私に答えられることならなんでも」

 伊達に勇者選定をお告げしていない。こちらの聖女さまであれば、勇者と魔王の関係も少なからずご存知なのではなかろうか。キモロンゲが齎したところと、世間が呟くところ、両者の差異を確認できたら行幸だ。

 一歩、踏み込ませていただこう。

「先代魔王に関して伺わせていただけたらと」

「……先代魔王、ですか?」

「はい」

 学園都市で垣間見た元魔王の強さは異常だった。

 同じモノが現れた時、人類はどうするつもりだろう。

「先の聖戦に関しては当時を知る方も多いでしょう。市井にも噂の類が色々と呟かれているところです。あれは実のところ、かなり正確なものでして、私が知る事実もそう大差ないと思います。それでよろしければ、どうぞ何でも訪ねて下さい」

「なるほど、そういった意味ですと、見ての通り私は異国の出でありまして、その手の話題に幾分か疎くあります。お恥ずかしながら、先代の勇者がどのようにして先代魔王を打倒せしめたのか、それさえも知らないのです」

「そういうことですか。それなら詳しくお話しましょう」

「ありがとうございます」

 居住まいを正すと共に無学を装い拝聴させて頂く。

 キモロンゲが同席していないのが残念だ。

「先代魔王は暗黒大陸に顕現しました。これが凡そ今から百年ほど前のこととなります。当時の聖女は私から数えて四代前となります。予言を行ったのもまた当時の聖女であり、その導きにより現れた勇者がこれを討ちました」

 これまでとは少しばかり変化を見せた口調。宗教立国が誇る聖女の肩書にふさわしく、自らの下へ集った信徒へ信仰の是を聴かせるよう、厳かにも暖かな口調だろうか。年若い少女にも関わらず、なかなか堂に入った語り調子だ。

 醤油顔は黙って耳を傾ける。

「先代の勇者は辺境の地の出身であり、名もない寒村より聖女の導きに従い、ここ大聖国を訪れました。当時の記録では、聖女はこれを自ら歓迎したといいます。そして、各国を代表する優秀な仲間と出会い、共に魔王討伐の旅に出たのです」

 数に物を言わせて物量で押し倒した訳ではなさそうだ。

 少数精鋭ってやつだろう。

 人体の可能性が現代日本より遥かに高い世界観が所以、あるいは魔法の存在がこれを助けて思える。思い起こせば現代社会だって兵器競争は一騎当千が流行の先端にあった。さしずめ勇者様とそのパーティーは、有権者にとって生ける兵器的な扱いなのだろうな。

「旅は長く厳しいものであったといいます。勇者は仲間と共に世界を渡り歩き、魔王の復活に関する情報を集めました。そうして数年の後、遂には魔王城へ到達し、激しい戦闘の既に先代の魔王を打ち倒しました」

 しかし、まるで凹凸の感じられないお話だ。

 もう少し盛り場とかなかったのかよって。

 ロリゴンのここ数ヶ月の生活の方が、よっぽど起伏あるだろ。

「今でも勇者が旅した地域には、その栄誉を称える伝説が残っているそうです。ここ大聖国には先代勇者に限らず、先々代、先々々代と、各代の勇者と魔王に対する資料が沢山ありますので、もしも気になるのであれば案内をしますよ」

「なるほど」

「なにか質問などありますか? 私に答えられることであれば何でも答えます」

 要約すると、剣と魔法のファンタジー。

 ミクロな視点から見れば、胸を打たれるような人間ドラマや、興味を引く展開など、色々とあるのかもしれない。けれど、今のお話からではそれらも窺い知れないところ。

「先代魔王の名前などご存知でしょうか?」

「魔王の名前もご存じないのですか?」

 酷く驚いた顔をする聖女さま。

 どうやらこちらの世界においては常識の範疇らしい。

「恥ずかしながら、酷い田舎の出となりまして……」

「……そうですか」

 魔王被害がそれほど深刻ではなかったペニー帝国に生活していた為、これといって耳とする機会もなかった。そちらさんと比較すればエステルちゃんの実家の方が遥かに大衆からは恐れられていたような気がする。

「先代魔王の名前はローストといいます。恐ろしいまでの魔力を誇り、その腕の一振りで人類の大軍勢を滅ぼしたとも伝えられています。先代勇者はこれに対する為、魔王の魔力を封じ込める為の宝具、モッチャリを用いて最終決戦に挑んだと言われています」

「なるほど」

 いよいよ雲域が怪しくなってきた。

 こちらの理解するところとは完全に別人だ魔王。

 ステータスがバグってるとか、元魔王との表記が先代より前、先々代から以前を指しているのであれば矛盾はない。しかしながら、キモロンゲとのやり取りを思い起こせば、流石に疑問も一入といったところ。

「あれこれと大変に恐縮ですが、先代から以前、歴々の魔王に関しても名前を教えていただいてよろしいでしょうか? これから大聖国の方々と関係を持つ運びとなった折には、知らぬままというのも失礼に当たるかと思いまして」

「はい、そういうことであればお教え致しましょう。先々代の魔王はムニエル、その前がソテー、三代前がポワレ、そして、五代前がエリンとなります。いずれも一騎当千の凶悪な魔王たちでした。人類のみならず世界の敵と称しても過言ではありません」

「なるほど」

 自分が確認した元魔王の名前はエリン氏だ。キモロンゲ曰く五百年前に猛威を振るった先代の魔王さま。仮に大聖国が訴えるところ、魔王が百年周期で入退場を繰り返していたとすれば、五代前の魔王と合致する。

 一方で魔王という存在を人類の視点に立って考える。

 我々人からしたら魔王と思えるほどに凶悪な某かが、約百年周期でどこかに現れる。その偶然を魔王という枠組みに捕らえたのなら、決してあり得ない話ではない。ちょっと強い魔族的サムシングを、人々が魔王として認定してしまう可能性は高い。

 人と魔族のステータス差を思えば、キモロンゲだって十分に魔王である。

 現代日本においても、人類の観点からあれこれと生物の枠組みを決めたところ、後々に遺伝子を解析してみたら、それはこれまでカテゴライズされていた範疇とは全く別の進化を辿った生き物であったとか、ざらに転がっている。

 こちらの世界でもまた、魔王がそういった扱いを受けていても不思議ではない。

 キモロンゲが主張するところとの相違も然り。

 ただ、そうなると大聖国産のお告げはどうなるのってところに落ち着く。

「…………」

 少なくとも神様から頂戴しているという点はダウトだ。

 十中八九でお告げ作成委員会的な集まりがあるのだろう。

 きっと勇者と魔王を巡る一連のビジネスは、大聖国にとって相応に美味しい話なのだろう。そうでなければ他国との関係をリスクとして、ああだこうだと囃し立てる旨味はないように思える。思い起こせば我らが陛下も寄付だ負担だと嘆いていた。

 結果として百年に一度の頻度で復活する魔王さま。

 おう、なんとなく見えてきた気がする。

「他になにかありますか?」

「そうですね……」

 しかしながら、それでも気になるのが五代目の魔王。

 学園都市でエンカウントしたヤツは圧倒的だった。

 大聖国換算で五代前の勇者パーティーはどれほど優秀だったのだろう。自分とロリゴン、ゴッゴルちゃん、キモロンゲが組んでも、まるで勝てる気がしない。キメラ体なる中途半端な状態でもあれだ。もし人並みの知性を伴っていたらと、考えるだけでも恐ろしい。

「五代前の魔王に関して伺いたいのですが」

「はい、なんですか?」

「当時の勇者さまは、どうやって魔王を倒したのですか?」

「……そうですね」

 正直、想像がつかなかった。

 最強魔法的な何かがあったのだろうか。

「詳しいところは大図書館の蔵書を漁る必要があります。ただ、私が知る限りの話とはなりますが、当時の勇者に付き従いパーティーとして共に行動していた聖女が、自らの命と引き換えに放った極大魔法により打倒したとあります」

「なるほど」

 聖女さま凄いな。

「五代前の勇者パーティーは非常な苦戦を強いられたようで、その一撃を放つ為、共に旅をしていた誰もが命を落としたとの記録があります。幸いにも、当時の聖女は危ういところを生きながらえて、ここ大聖国まで戻ったそうです」

「すると生きて帰ったのは、当時の聖女さまだけだったのですか?」

「ええ、そうなりますね」

「それはまたなんとも、とても大変な戦いであったのですね」

「ええ、記録にもそのように残っております」

 当時の聖女さま最強伝説らしい。

 現代の大聖国が誇る強権を思えば、分からないでもない結末だ。親ばかで財布の紐が極めて硬いペニー帝国の陛下さえ、口先で動かしてしまう昨今の聖女さま事情。それもこれも五代前の聖女様の頑張りと、以降、同国のせせこましい勇者と魔王プッシュが成し得た賜物ということだろう。ありがちな強権の生い立ちである。

「お、おいっ」

 おっと、ここへ来てエディタ先生からお声が掛かった。

 なんだろう。

「どうされましたか? エディタさん」

「……いや、その、なんだ」

 ちょっと先生の様子がおかしい。

 なんだろう。

 めっちゃ語りたそうな表情している。でも、どこか後ろめたいような。勇気を振り絞って口を開きかけて、けれど、途中で諦めてしまってパクパクと。そんな複雑な顔芸をされていらっしゃる。

 そして、最終的に落ち着いたところはといえば――。

「やっぱり、な、なんでもない……」

「よろしいのですか? なにか疑問でもあるのであれば伺いますが」

「大丈夫だ! 疑問もない! 大丈夫、大丈夫だ! 気にするな!?」

「そうですか? であれば良いのですが」

 よく分からないけれど、本人が構わないと主張しているのだから、これ以上を問い掛けるのは憚られる。もしかしたら時間をおいて教えてくれるかもしれない。その時が来るのを大人しく待つのが良さそうだ。

 場を取り成すよう、醤油顔は聖女様に向かってお礼の一つでも。

「ありがとうございます。色々と理解が捗りました」

「そうですか? 役に立てたのであれば幸いです」

 しかし、そうなると当代の聖女さまも相当に強かったりするのだろうか。

 例えば学園都市でエンカウントした元魔王さまとか倒せちゃうくらい。

 ヤバイ。

 それは興奮するぞ。

 セイントオマンコに逆レイプされたい欲高まるわ。

 やっぱり男だったら騎乗位だよな。

 ステータスウィンドウさん、頼みます。



名前:イード・S・エルメス
性別:女
種族:人間
レベル:373
ジョブ:聖女
HP:13110/13110
MP:106150/106740
STR:7010
VIT:8655
DEX:91204
AGI:6871
INT:100559
LUC:15420



 これはまた、随分なものですわ。

 暗黒大陸で出会ったゴースト系のモンスターが、こんな感じのステータスだったような気がする。ぶっちゃけ現行の勇者様パーティーより、こちらの聖女様を出動させた方が効率的だと感じるくらいだ。

 きっと西の勇者パーティーと単騎で良い試合をするのではなかろうか。

 エディタ先生くらいならワンパンだろ。

「私の顔になにか付いていますか?」

「いえいえ、そんなことはございません」

 その姿をまじまじと眺めてしまう。

 自身が出会った範疇では、彼女こそ人類最強だ。聖女の称号は伊達じゃない。もしかせずとも、彼女はお飾りなどではなく、本当に一国の代表なのかも。そう思わせるだけの値がツラツラと並んでいらっしゃる。

「ただ、こうしてお話をさせて頂いて、その洗練された語りに驚きました。伊達に大聖国の代表を勤めていらっしゃらない。感服いたしました。当代の聖女様が多くの民に愛されている理由を理解した次第にございます」

「……私がですか?」

「はい」

「いえ、聖女だ何だと持て囃されてはいますが、私は歳半端な娘に過ぎませんよ」

 謙遜だろうか。

 ここは一つヨイショしておこう。相手はグローバルに幅を利かせる宗教国家のトップだ。良い印象を持っていただければ、今後の醤油顔の活動にも益のある話である。それになにより目の前の女体はエロ可愛い。尽くすことに抵抗は皆無だ。

「そうでしょうか? 私には聖女さまが将来、大きなことを成されるように思えます」

「大きなこと、ですか?」

「それだけのポテンシャルを私は聖女さまに感じました。一介の男爵風情が過ぎたお言葉を申し訳ありません。ですが、その姿を一目見た時から、他の方とはことなる何かを感じてしまいましたので」

「……そうですか?」

「はい、間違いありません」

 ちょっと臭くなり過ぎたけれど、まあいいだろう。

 こういうのは少しやり過ぎるくらいが調度良いのだ。

 そんなこんなで聖女様と過ごすお食事の時間は過ぎていった。

 ちなみに彼女は我々と同じメニューを食べ終えたところで、案内役だという修道女を紹介するやいなや、自身の屋敷へと帰っていた。これでなかなか忙しい身分なのですよ、とは本人の談である。

 食後は小休止を挟んで大聖国を観光の予定である。

 極めて順調ではないか、我らが大聖国観光は。

 いよいよ訪れてしまうのかもしれんな、童貞の時代というやつが。



◇◆◇



【ソフィアちゃん視点】

 慣れないことはしない方が良いですね。

 迷子になってしまいました。

「…………」

 深夜に宿屋を後として以降、街を彷徨うこと延々と。エルフさんを探すべく聞き込みに精を出していたところ、気付けば自らの所在が覚束ない有様です。空には陽が昇っております。しかしながら、どれだけ歩もうとも記憶に残る景色は見えてきません。

 宿屋の名前を覚えていなかったのが運の尽きです。

 完全に行く先を失ってしまいました。

「……どうしましょう。眠いですね」

 歩みはお宿を取った繁華街とは似ても似つかない界隈を歩んでおりました。段々と格調高い建物が増えてゆきます。流石にこれは引き返したほうが良いのではと、幾度目になるとも知れない疑念が脳裏を流れます。

 直後、私の背後よりガラガラと音を立てて進み来る馬車が。

 界隈を進む馬車となれば、登場されている方の身分も相応です。大慌てに脇へと飛び退いた私は、その傍ら頭を下げてやり過ごします。思い起こせばメイド姿な身の上、下手に目立っては死活問題です。

 段々と遠退いてゆく馬車を眺めて考えます。

 幾らばかりか進んだところで、それは道路から敷地に向かい、大きな門の内側へと入ってゆきました。格子の開いては閉じる間、垣間見えたのは手入れの行き届いた広大なお庭と、その先に鎮座するお屋敷です。

 非常に大きなお屋敷でした。門が閉ざされても、垣根を超えて上階を窺うことができます。この界隈でも際立って大きくて、とても荘厳な雰囲気の感じられる建物です。やたらと尖った屋根が特徴的ですね。

「…………」

 こういうところに住んで、何不自由なく暮らしたいですね。

 そう願わずにはいられない豪邸です。

 自然と歩みは動いて、今し方に馬車の消えていった門の下へ。夜通し歩いていた為、心身ともに疲弊しています。頭は碌に働かなくて、だからでしょう、ふらふらとお屋敷に吸い寄せられるよう、歩み寄ってしまいました。

「…………」

 ドラゴンさんとゴッゴルさんはどうしていらっしゃるでしょうか。

 お二人にはご迷惑を掛けてしまいました。

 手伝うつもりが、これでは完全なお荷物じゃないですか。

 せめてタナカさんの居場所くらい突き止めなければ、お二人に顔向けできません。だというに眠いし疲れたしで、頭はまともに動いてくれません。温かいお風呂に入って、ふかふかのお布団で眠りたいです。

 こんなことなら首都に行きたいなんてお願いしなければ良かったです。

 ドラゴンシティ、とても快適でございました。

「……タナカさん、どこにいるんですかぁ」

 徹夜明けの妙なテンションも手伝い、門の前に立ち荒んでは、呆と敷地内の様子を眺めておりました。歩くのに疲れたとも言います。金属の格子の先に立派なお屋敷を眺めて、その内側に設えられているだろうあれこれが妄想されます。

「…………」

 お風呂に入りたいです。

 ベッドで眠りたいです。

 いよいよ挫けそうになって来た頃合いのことでした。

 不意に背後から声が掛かりました。

「そんなところでサボってないで、さっさと仕事に戻りなさい!」

「え?」

 振り返ると、すぐ後ろにメイド姿の女性がいらっしゃいました。

 年の頃は二十代中頃ほどでしょうか。肩に掛かるほどで切りそろえられた茶色い髪と、同じ色の瞳。これといって特徴のない方です。かなり長いことメイドをしているようで、水仕事に荒れた指先には小さな切り傷が幾つも浮かんでおりました。

 買い物の帰りでしょうか。両手には大きなバッグを持っております。

「すっとぼけた顔してるんじゃないよ! ほら、ちゃっちゃと動く!」

「わ、私ですか?」

「アンタ以外に誰がいるって言うんだい!」

「……あ」

 思い起こせば今の私もまたメイド姿です。

 そんな私の姿を勘違いしたのでしょう。

 間違いありません。

「ほらっ! さっさと……」

 一歩を踏み出した名も知れぬメイドの女性。

 その表情がくしゃり、殊更に不機嫌なものとして歪みました。

「……アンタ、臭いわね。仕事に戻る前に身体を拭いなさい。いいわね?」

「…………」

 彼女の仰ることは十分に理解できます。ミカちゃん主催の食事会に参加して以降、ずっと今の姿格好だったりします。下着さえ変えておりません。正直、かなり不衛生な状態にございます。

 しかしながら面と向かって言われるとショックです。

「あの、わ、私は……」

「いちいち口答えしない! ちゃんとお給金分は働くのっ!」

「あ、ちょっ……」

 背中をグイグイと押されます。

 追い立てられた先は、今し方に馬車が入っていったもんの先です。

 弁明している猶予はありませんでした。

 有無を言わさずお屋敷の中まで連れ込まれてしまいました。
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