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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫

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大聖国 三

なろうリーディングシアターの抽選に申し込んでみました。
主役はピーちゃんです。

 急遽繰り上げられたバカンスは、残すところ数日ばかり。

 勇者さまパーティーとのトークは無事に終えられた。その後の面倒に関しては、メイドさん一同にお任せである。お部屋の案内から施設の説明までお願いしてきた。自然と手持ち無沙汰となり、醤油顔は応接室から居室のリビングまで戻った。

 同所では縦ロールがソファーにくつろいでいた。傍らにはキモロンゲの姿もある。暇そうに酒などチビチビと飲んでいた。足を組んでいるにも関わらずパンチラが望めないのは、彼女が長いスカートを着用しているからだ。

 一度で良いから酔った勢いに暴行とか働かれてみたい。

「ドリスさん、数日後に大聖国へ向かうこととなりました」

 ほうれんそうって大切だと思うの。

 結果として、判断や対処が自分に回ってくる運命だとしても。

「え? 急にどうしたことかしらぁ?」

 大聖国からお告げが発せられました。東西の勇者さまより同行を願われました。あれやこれや。今し方に確認した事柄を端的にお伝えさせていただく。改めて自らの口にしてみると、理不尽極まりない展開だなと思い知らされる。

 ただ、今回は見ず知らずの聖女様が相手だから、立場の弱い側が折れるしかない。下手に逆らって後から面倒となったら大変だ。勇者様方の話を聞いた感じ、我らが陛下と同じかそれ以上に強権と思われるが故。

「……そうなのぉ?」

「ええ、そうなのです」

「ふぅん?」

 耳としてしばらく、おほほは考えるような態度を見せる。

 ただ、それも大した間ではない。

「そういうことなら、わたくしも一緒に行こうかしらぁ?」

「何故ですか?」

「だって、今の貴方の主人は、このわたくしなのよぉ?」

「……なるほど」

 まさか縦ロールのヤツ、出向先でも奴隷プレイを続けるつもりだろうか。今まさに気づいたところ、パブリックな危うい魅力が背筋をゾクゾク、凄まじい勢いで駆け抜けるのを感じてしまったよ。

「そういうことなら、さっさと済ませてしまうのが良いわぁ」

「というと?」

「面倒な仕事であれば、先に済ませてしまった方が、よりバカンスを楽しめるというものではないかしらぁ? それにリゾート先を見ず知らずの相手と共有するのも、なんだか癪じゃなぁい」

「なるほど、確かにおっしゃるところは尤もですね」

 今の縦ロールの意見、賛成。

 夏休みの宿題とか、早めに終わらせるタイプの学生だったよ。

「では、そのような形で進めましょう」

「そうよぉ? それが良いわぁ」

 早々にでも勇者さま方に連絡を入れてこようか。

 彼らとしても、我々が早めに動くことは益のある話である。東の勇者さまとか、西の勇者さまの気遣いを速攻でチクリに行っちゃったしな。後者の心遣いへ答える為にも、縦ロールからのご提案は悪くない。

「それでは急な話ですが、勇者様方にご連絡を入れてきましょう」

 とかなんとか、今後の予定を巡り話をしている最中のことだった。

 いざ客間に向かうべく、ソファーより腰を上げた瞬間である。

 バシャァン、大きな音が響いた。

 音源は屋外から。何事かと皆々の意識が無かった先は、大きめの窓ガラスを超えてテラスとなる。そこに設けられたプールに立ち上る、巨大な水しぶきがあった。飛び散った水滴の幾らかが窓ガラスに当たっては、たらたらと雫を垂らしてゆく。

 どうやら何某か空から降ってきたようだ。

「なんですかね?」

「こ、今度は何かしらぁっ?」

 殺人メイドの一件も手伝い、自然と身構えてしまう。

 それは縦ロールもまた同様のよう。表情を厳しくすると同時、ソファーに腰を落ち着けたまま身構えてみせる。傍らでは彼女を守るべく動いたキモロンゲが、プールとご主人様との間に入って臨戦態勢だ。

 ただ、しばらく経っても、それ以上の変化は見られない。

 なんだろう。

 隕石でも降ってきたのだろうか。

「……確認してきます」

「え、ええ、頼もうかしらぁ」

 一言、断りを入れてテラスへ。

 窓ガラスを開け放ったところ、プールへと視線をやる。

 するとどうしたことか。

「エ、エディタさんっ!?」

「…………」

 そこには意識を失い、うつ伏せでプールにプカプカと浮かぶ先生の姿があった。

 両手両足は水中にだらんと垂れて、なんとも情けない姿勢である。腹で浮いている。また、濡れたワンピースは肌にぴたりとくっついて、生地越しにムッチリとボディーラインを浮かび上がらせている。尻肉の割れ目までハッキリと窺える。

 こいつは大変だ。



◇◆◇



 プールから金髪ロリムチムチ先生を回収の上、全力で回復魔法させて頂いた。

 場所は変わらずリビング。

 一刻を争う状況と判断したところで、ソファーへ身体を仰向けに横とさせて頂き、繰り返し、繰り返し、幾十回か回復魔法を行使させて頂いた。決して濡れたワンピース越しにスジマン鑑賞がしたかった訳ではない。

 更に続けざま、人工呼吸へ移ろうとした間際、先生は意識を戻された。

「……エディタさん、大丈夫ですか?」

「っ……」

 瞳が大きく見開かれると同時、跳ねるような勢いで上半身が起こされた。

 自然とこちらは顔を遠退けて距離を取る。

 未遂だ。未遂である。

 おかげで両者の頭部はぶつかり合わずに済んだ。

「痛むところなど、ありませんか?」

「こ、ここはっ……」

「ペニー帝国所有のリゾート地ですが、エディタさんこそ何故に空から?」

「え? あ、い、いやっ、それはそのっ……」

 首都カリスのご自宅にいらっしゃるものだとばかり思っていた。もしかして先生もバカンスだろうか。いやしかし、この界隈はお貴族様専用らしい。第一、空から降ってきた理由には続かない。

 あれこれと考えてみても、さっぱりわからない。

 まあいいか。

 濡れ濡れの先生を拝めたのだから、万事幸せではないか。乳首の形までハッキリと確認できてしまう。更に視線を下方へ修正すれば、そこには薄い生地越し、見事に浮かび上がった丘が我々の行く手を阻む。

「とりあえず、濡れた服の変わり用意しましょう」

「あ……き、聞かないのか?」

「というと?」

 これ以上見ていたら、触ってしまう。

 先生の大切なところ、絶対に触ってしまうよ。

「いや、ほ、ほら、今の質問の続きとか……」

「尋ねて構わないのであれば、まあ、こちらも改めて尋ねますけれど」

「…………」

 すると、しばらくを悩んで、先生は続けられた。

 酷く遠慮がちな眼差しで。

 おずおずと。

「……わ、私も一緒にリゾートを楽しんで、良いだろうか?」

「ええ、エディタさんであれば大歓迎です」

「っ……」

 むしろ願ったりかなったり。

 などと心中では狂喜乱舞していたところ。途端、くしゃり、金髪ロリムチムチ先生の顔が歪んだ。怒ってはいない。かといって、笑っているようにも思えない。なんとも複雑な表情である。ただ、やたらと魅力的な。

「ど、どうされました?」

「いや、べ、べ、別にっ、なんでもないっ! なんでもっ!」

 大慌てに明後日な方を向いて、目元をグシグシとやり始める。

 理由は知れないが、まあ、本人がなんでもないというのだから、深く追求するのは止めておこう。割と普通じゃない登場をされたところで、先生にもきっと色々とあったのだろうと自己完結しておく。もしかしたら傷心旅行とか、そういう感じで。

「…………」

 ところで先生、ちゃんと体調は回復したのだろうか。

 以前はショタチンポのステータス確認を後回しにしてえらい目にあった。ここは一つ、先生の具合を確認させて頂こう。実は先生が男かもしれないとか、決して疑っている訳ではないぞ。伊達に生スージーを拝んでいない。信じてる。

 カモン、ステータスウィンドウ。



名前:エロイーズ・ヴァージン
性別:女
種族:ハイエルフ
レベル:2019
ジョブ:錬金術師
HP:3110/3110
MP:6150/6740
STR:914
VIT:655
DEX:1204
AGI:870
INT:5509
LUC:120



 おぉ、なんだこれ。

 先生ってばレベル高い癖に、やたらとステータスが低いぞ。

 ショタチンポより弱いのではなかろうか。流石にこれはヤバイ。保護欲を刺激されてしまったぞ。突出してLUCの値が低いところとか、親近感が湧くと同時に、これまでの残念シーンが脳裏に蘇っては心がホコホコする。

 愛してしまいたい気分だわ。

「どうしたんだ? い、いきなり目を見開いたりして……」

「あ、いえ、なんでもありません。気になさらないで下さい」

 落ち着かなければ、落ち着いて対処しなければ。

 でなければ、今この瞬間にでも、先生のこと抱きしめてしまいそうになる。

 生中出しマンに変身してしまいそうだ。

「ただその、なんというか、もしも困ったことなどありましたら、是非私を頼ってやって下さい。私に出来ることであれば、必ずエディタさんの力になります」

「え?」

 きょとんとする先生、愛しすぎる。

 ギュッてしたい、ギュッて。



◇◆◇



 縦ロールとの打ち合わせに従い、我々は早々に大聖国入りする運びとなった。

 移動に際しては、勇者様方が飛空艇に乗り付けていたので、こちらに同乗させて頂く運びとなった。大聖国の大使が学園都市を訪れるのに利用していた船だという。フィッツクラレンス家のそれに負けず劣らず、非常に豪華な作りであった。

 リゾート地が大聖国に近しいこともあって、半日ほどを揺られれたところで、目的地まで辿り着いた。なんでもリゾート地界隈の物流は同国が握っているらしく、同所に避暑地を設けるのは、大聖国が掲げた教義に対する各国の誠意なのだそうな。

 その話だけでも、大聖国とやらの力が相当なものだと分かる。伊達に剣と魔法のファンタジーしていない。探せば本当に神様とか出てきそうな世界観が、宗教を支える屋台骨となっているのだろう。おかげで今回の旅の基本方針は決定である。

 長いものには巻かれろってやつだ。

 もちろん、移動の最中には西の勇者様と会話をする機会を得て、少しばかり確認した。幾らお告げとはいえ、醤油顔を呼び出すことそのものが神託ではなかろう。場末の男爵風情に大宗教国家さまがどのようなご用件でしょうかと。

 しかしながら、答えは勇者さまもご存じなかった。もしろん嘘をついていないという保証はない。ただ、皮肉っぽい語り調子とは対照的に性根の真っ直ぐな西の勇者さまだから、たぶん本当に知らないのだろう。なんだかんだでパシリに使われてるっぽい。

 そんなこんなで辿り着いた先、訪れたるは大聖国。

 今に立つのは船着場に在って、街を見渡すことの出来る桟橋の先。

 崖の上に設けられた、清水の舞台的な空間を石造りの西欧ファンタジーなアレンジで想像すればドンピシャである。そこに幾隻も船が止まっている。飛空艇が空を行く乗り物である都合、そのようなロケーションに所在しているのだろう。

「……かなり、栄えているのですね」

「当然のことだろうさ。近隣各国は基本的に大聖国を支持しているからね。仮にペニー帝国の王であったとしても、おいそれと歯向かうことはできないだろう。国としての規模こそ小さいけれど、経済力はピカイチなのさ」

 醤油顔の何気ないつぶやきの答えてくれたのは西の勇者ピエールだ。

「なるほど」

 舞台の先、綺麗に整理された町並みを目の当たりとしては納得だろうか。

「それで、これからどうするのかしらぁ?」

 宣言通り付いてきた縦ロールと、傍らにキモロンゲ。

 いつもの位置取りで並び立ち、桟橋から眼下を望む姿は、極めて様になっている。時折、ひゅうと吹いた風に自慢の縦ロールを揺らせる姿は、まるで映画のワンシーンのよう。強気な眼差しに腕を組む様子がよく似合っている。

「さて、それは私にも判断しかねますが……」

「大聖国は久しぶりだから、とても楽しみだわぁ」

「経験があるのですか?」

「以前、数週ばかり滞在したことがあるのよぉ」

「家族旅行かなにかですか?」

「そんなところかしらぁ? まあ、そう大したものではないのだけれどぉ」

 聖地巡礼というやつだろうか。

 事前に勇者様へ確認したところ、こちらの世界の多くの人たちは表向き、大聖国が掲げる宗教に賛同しているのだという。自ずと思い浮かべるのは歴史の教科書に眺めたインノケンティウス三世時代のキリスト教あれこれ。

 他国の貴族まで足を運ばせるとは大したものだ。

「スターさん、これから我々はどちらに向かうのでしょうか?」

 ひとまず縦ロールから問われたところで、醤油顔はご質問を西の勇者さまへ。

「聖女様の下まで案内させてもらう運びとなっているね」

「なるほど、聖女様ですか……」

 そういえば、大聖国の身分ってどうなっているんだろう。

 以前、アレンのヤツがあれこれと教えてくれたことを思い起こす。聖職者にもペニー帝国の貴族に相当する身分的なものが存在するのだと。やはり総本山で聖女様となると、それなりにお偉いんだろうな。

 こんなことなら、もう少し詳しく確認しておくんだった。

 大きな企業の事業部長くらいを想定しているのだけれど。

 ところで貴族って、名刺とか持ち歩いてないのかね。あれこれ偉そうに身の上を述べるシーンは幾度となく眺めてきたけれど、紙切れを交換するシーンは一度も目の当たりとした覚えがない。試しに配ってみたらプチ流行るかもしれない。

 ペニー帝国に戻ったら、リチャードさんあたりに小ネタを振ってみようか。

「……気になるかい? 聖女様が」

「それはまあ、こうして呼びだされた訳ですから……」

 いずれにせよ前に進む他にあるまい。

 仮に無視して帰っても、きっと陛下に行けって再命令されるだろうし。

「…………」

 しばらくを眺めていたところ、ふと、お隣で渋い顔をするエディタ先生が目についた。思い起こせば学園都市でも、訪れて当初、難しそうな顔をされていた。こちらで眺めるお顔はと言えば、殊更に顰められて思える。

「エディタさん、どうかされましたか?」

「あ、あぁ、いや、なんでもない。気にするな」

 気にするなと言われて気にせず済ませるのは難しい。相手がエディタ先生級の美少女となれば殊更に。憂いのある表情で意味深な態度を取られると、思わずルート攻略したくなるのが童貞って生き物だ。

「そうですか? 体調が悪いようであれば……」

「仮に悪くなっても、貴様の魔法があれば問題ないだろう?」

 適当を語りかけたところ、遮られてしまった。

 もしかして船酔いの類だろうか。

 自然と思い起こされたのは、ゲロゲロとやっているエステルちゃんの姿。もしも彼女が処女であったのなら、足元に生まれ落ちたもんじゃを畜生スタイルで頂戴することも吝かではなかった。

「そういうことであれば、今この場で回復魔法を行使したいほどには貴方の体調が不安です。必要なのであれば素直に仰って頂けると、私としても非常に安心できます」

「っ……」

 ビクリ、先生の方が震えた。

「やはり体調が悪いのではないですか?」

「き、気にするなっ! まるで関係ない!」

「本当に大丈夫ですか?」

「だが、貴様の心遣いには、か、か、感謝する! 喜ばしいことだ!」

「いえ、こちらこそ差し出がましいことをすみません。ですが決して無理はしないよう、お願い致します。先生に万が一があっては、私も心穏やかではいられませんから」

 しまった、感極まって先生呼ばわりしてしまったぞ。

 それもこれも先生のステータグがヘッポコだから悪いのだ。どうしても優しくしたくなってしまうのだよ。しかしながら今回に限っては、そうした醤油顔のミスに突っ込みが入ることもない。

「あ、いや、だから、べ、別にそういうのは……」

 モジモジと所在なさ気にされていらっしゃる。

 ご自慢の太ももを擦り合わせてムチムチと。

 どうやら今のシーンは、先生呼ばわりしても問題ないケースであったよう。

「……エディタさん?」

「…………」

 その顔色を窺うよう問いかける。

 すると、先生はプイとそっぽを向いてしまった。童貞的にダメージ小。何故なのですか。詳しいところは知れないが、ここは距離を置かざるを得ない。誰にだって突っ込んでほしくない杞憂の一つや二つはあるだろう。

 そういうところへ軽快なステップで踏み込んでいけるのはイケメンにのみ許された行いだ。ブサメンは少しばかり離れたところから見守るのが最善である。精々、先生になにかあったときには、全力でお守りさせて頂こう。

 つい数刻前に眺めたステータスが、嘗てない勢いで保護欲を刺激してくれるから。

「そろそろいいかい? 案内をしたいと思うのだがね」

 そうこうしていると、先導する西の勇者さまから声が掛かった。

 修学旅行の引率よろしく、こちらが落ち着くのを待っていて下さったようだ。ツンツンしがちな東の勇者さまと違って、西の勇者さまは穏やかな感じが良いですよね。今後とも仲良くしてゆきたいと強く思います。

「ご迷惑をすみません。よろしくお願いします」

「こっちだ。僕に付いてくると良い」

「はい」

 その立ち振舞は随分と熟れて思える。

 少なからず同都市に覚えがありそうだ。勇者云々を先導するのが大聖国とやらの役割であることを鑑みれば、こちらこそが彼にとってはホームなのかもしれない。そう考えると顔が利くのも自然な流れだろう。

「ご案内のほどよろしくお願いいたします」

「ああ、任せておくと良い」

 素直に頷いてイケメン勇者と美しい仲間たちの後に続いた。



◇◆◇



 飛空艇の停留所から歩むことしばらく。

 我々の歩みは石造りの巨大な建造物に向かった。その内はペニー帝国のお城と遜色ない造りをしており、端的に称すれば豪華絢爛に尽きる。バッキンガム宮殿的な施設を想定すれば、まさにドンピシャだ。

 なんでも首都カリスにおける王城のような位置づけにある建物らしい。

 これを西の勇者様の案内で進む。

 外廊下より進むこと内廊下へ。

 建物内には各所に得体のしれないオブジェや神秘的な絵画が飾られて、いよいよ宗教法人的な面が見え隠れし始めて思える。突っ込みの一つでも入れようものなら、延々とその生い立ちから語られてしまいそうな気配を感じる。

 ややあって、訪れた先は謁見の間を直前に控えて、待機室。

 扉数枚を隔てた先に聖女様が待っているのだという。

 ちなみに問題の肩書であるが、どうやら同国の代表に等しいそうだ。想像した以上にお偉いよう。ただ、実権を伴うか否かは知れない。本人は幼い少女で、傍らにタイムキーパーの爺さんが立っている可能性も高い。

「国外の貴族がこうも容易に一国の代表へ謁見が叶うものなのでしょうか?」

 自然と疑問が浮かんだところ、お尋ねさせて頂く。

 述べた先は西の勇者ピエールだ。

「細かいところは僕らも分からない。ただ、これは向こうからの意志らしいね」

「……なるほど」

 殊更にお告げとやらが分からないな。

 具体的にどういった内容なのだろう。

「僕らは呼ばれてはいないので、申し訳ないけれど謁見には君一人で謁見に望んで欲しい。儀礼の類はペニー帝国のそれで行ってもらえれば問題ないだろう」

「承知しました」

 唯一、楽しみがあるとすれば、それは相手が女性であるということ。

 キーワードは聖女様。

 もしも御年が十代であったのなら。玉座が少しばかり高くあったのなら。お召し物の裾が多少でも短くあったのなら。その僅かな可能性に掛けて、前向きな気持ちでクエストに挑むべく意識を改める。ムービーのスキップは無しだ。

「なにか質問はあるかい?」

「いえ、大丈夫です」

 敢えて情報は仕入れない。

 万が一にも自分より年上の女性とか言われたら、やる気とか散ってしまうからな。回れ右して帰りたくなってしまうからな。やはり聖女というからには、十代は譲れない。いや、最悪二十代であっても、裏切りのダークムチムチくらい美魔女していれば、或いは。

「…………」

「……どうしたんだい? 妙な顔をして」

「いえ、なんでもありません」

 そうこうしていると、不意にエディタ先生が声を上げた。

「西の勇者、ひ、一つ訪ねたい!」

 酷く緊張した表情で西の勇者さまを見つめている。飛空艇で乗り込んでから今この瞬間に至るまで、どこかソワソワしていた先生だ。同所に何かしら思うところがあるのは間違いないだろう。まさか勇者様に惚れたとか、そういうオチだったら童貞が凹むぞ。

「なんだい?」

「と、と、当代の聖女は、どういった人物なんだ?」

 よかった、先生が問われたところは完全に想定外。まだ見ぬ聖女様に興味津々のご様子である。もしかして先生、レズビアンだったりするのだろうか。いや、それはない。自著で元カレがどうこうと書いていたから大丈夫のはず。

「聖女さまが気になるのかい?」

「いや、べ、別に、そう大したことではないのだが……」

 逆に勇者さまから問い返されて、所在なさげにも勢いを失う先生可愛い。それだったら最初から尋ねなければ良いのに、それでも訪ねたいほどの理由があるのかと邪推すると、なんだろう、俄然気になってしまうじゃないですか。

「……少し、気になったんだよ」

「なるほど」

 小さく頷いて、西の勇者ヘンリーは続けた。

「とても気さくな、若くして人格者であると思う」

「そ、そうなのか?」

「少なくとも僕がやり取りした限り、という条件は付くけれど」

「……そう、なのか」

 答える先生が、どことなく釈然としない表情だ。

 今の回答の何が気に入らないのだろうか。錬金術師などという理知的な仕事に就いていらっしゃる都合、もしかしたら宗教的なあれこれには厳しい側面を備えているのかもしれない。何事も実験して検証しないと信じることが出来ない人っているよな。

「なにか気になることがあるのですか?」

 思わず問い掛けてしまったぞ。

「あ、い、いや、別になんでもないっ、なんでもないぞっ!?」

「そうですか?」

「ああそうだっ! そうだともっ! だから貴様は気にするなっ!」

「わかりました」

「う、うむっ」

 少しばかり挙動不審だけれど、まあ、先生はいつもこんな感じだ。

 今の段階で取り立ててどうこうする必要はないだろう。もしも御身の周辺で本格的に面倒が起こり始めたのなら、その時にこそ助太刀させて頂けば良い。興味本位であれこれ聞き立てて嫌われたくないしな。

「それでは行きましょうか」

「あ、はい」

 西の勇者ピエールに連れられて、いざ聖女様の下へ。



◇◆◇



 西の勇者様に促されるまま、辿り着いた先は謁見の間的なスペース。

 首都カリスやトリクリスのお城に眺めたそれらとは幾らかデザインの方向性が異なる。宗教色が強くて、ステンドグラスが各所に張られていたり、正体不明の石像が並べられていたりと、教会的な雰囲気を感じる。

 ただ、最奥に少しばかり盛り上がったスペースがあり、そこに玉座が設けられているのは変わらない。偉い人が立ちたがる場所というのは、どこでも大差無いようだ。そういえばドラゴンシティって、この手の施設とか一つもないよな。

 ロリゴンが欲しがったら作るとしようか。

「この度は忙しいところ、よくぞ足を運んでくれました」

「はっ」

 そんな場所で片膝を突いて、頭を垂れているのが今の自分が置かれた状況だ。

 謁見中の礼儀に関してはペニー帝国のそれで構わないと、事前に西の勇者様より頂戴していた。しかしながら、ペニー帝国のそれも碌に理解していないので、例によってそれっぽい感じで振る舞っている。

「面を上げて下さい」

「はっ」

 とりあえず、はっ、って言っときゃ間違いない。

 たぶん。

「なるほど、確かに黄色い肌と平たい顔をしているのですね」

「はい、少しばかり遠い国の出となりまして」

 あまりコンプレックスに触れてやらないで下さい。実際問題、こっちに来てから周りが揃って彫り深い族ばかりだから、少なからず思うところあるじゃんね。せめて千人に一人でも同じようなアジアンフェイスがいたら、少しは救われたと思うんだ。

「遠いところよくぞ参りました。私は貴方を歓迎します」

「ありがたきお言葉にございます」

 ところで問題の聖女様はと言えば、でらべっぴん。

 全身を包むのは純白の法衣とベール。ハロウィンに向けて作られた少しエッチな修道女のコスプレ衣装を、大枚はたいて全力で再構築したような代物だ。艶のある生地はペニー帝国の貴族連中が着用していた衣服のそれと比較しても良い物に映る。

 なにより注目すべき点は、法衣の裾が短い。

 太もも丸見え。

 エロい。

 良い。

 更にご指摘させて頂けば、衣服は薄い生地に作られており、尚且つ身体のラインが如実に窺えるデザインは、彼女が如何に大きなオッパイの持ち主であるかを物語ってくれる。下ること腹部と腰回りが引き締まったところで、お尻はふっくらと来たものだ。

 年の頃は十代中ほどと思われる。とてもお若い。しかしながら、その女性的な肉付きと柔和な表情、穏やかな口調は、年齢以上の母性を感じさせる。この子ならどこまでも甘えさせてくれるのではないか、そんな予感が膝枕からの頭ナデナデを切に求めてしまう。

「こちらには到着して間もないと聞きましたが」

「はっ、船が着き次第に参らせて頂きました」

「急かしてしまったようでごめんなさい」

「いえ、勿体なきお言葉です」

 やるじゃないか、大聖国。

 思ったよりも来て良かった感あるわ。

 しかも今この瞬間、謁見の間には自分と聖女様のふたりきり。ペニー帝国だと周りに取り巻きの貴族がいたり、王様の隣にはタイムキーパーの爺さんがいたりと、酷く落ち着かない環境であった。一方でこちらは百平米近い空間にふたりきりである。

 ちなみにエディタ先生と縦ロール、キモロンゲには控室でお待ちいただいている。引率であった西の勇者ピエールも然り。なんでも呼ばれたのは自分だけとのことで、今まさにタイマントークと相成った次第である。

 おかげでミニ丈法衣のギリギリ太ももを存分にチラチラできるぞ。

「どうしても貴方に伝えたいことがあったのです」

「私に伝えたいこと、ですか?」

「はい、そうです」

 ジッとこちらの目を見て語る聖女様。

 人と話をするときは相手の目を見て話すだなんて、イケメン限定のルールだとばかり思っていた。ブサメンが行おうものなら、防犯ブザー余裕じゃないですか。それがどうしたことだ、聖女様は出会って間もない醤油顔の顔を見つめて下さる。

 なんて良い人だ。

「それは大聖国の方が仰る、お告げというものなのでしょうか?」

「お告げとも関わりのあることです」

「……どのようなことなのでしょうか?」

「今、我々の世界は魔王の復活を目前に控えて、嘗てない危機的状況にあります。魔王は非常に強大です。これを打倒する為には、種族や国の垣根を超えて、多くの民が団結する必要があることでしょう」

 おっと、いきなり魔王きた。

 やっぱり魔王絡みだったよ。

「そちらのお話であれば、私も各所より伺いました。その為に当代の勇者さまが選抜されて、打倒魔王を目標に掲げると共に、日々を尽力されているのだとか。実際に私も彼らが戦う姿を確認しております」

「ええ、そうですね。しかしながら当代の魔王は先代や先々代の魔王と比較して、殊更に強大且つ凶悪なものであるのです。その事実を知る我々は人類の代表として、魔王復活に備えるべく動いているのです」

「なるほど」

 つまり、勇者さまだけじゃ足りないと。

 なんだか途端にきな臭くなってきたぞ。

 そもそも大聖国から発せられている魔王の情報に対して、本家本元の魔族であるキモロンゲの話には隔たりが大きい。前者が先代、先々代と約百年刻みで魔王の復活を語っているのに対して、後者は数百年のスパンがあるという。

 嘘を付いているのは誰なのだろう。

 聖女様だろうか。

 こういう展開のセオリーだと、背後に黒幕で老害キャラが鉄板だよな。

「このようなことを言うのは申し訳ないのですが、タナカ男爵、どうか私の力になっては貰えませんか? 学園都市での活躍は耳に及んでおります。その力をどうか、大聖国に貸していただきたいのです」

「お話を聞くことはできると思います。しかしながら、私もまたペニー帝国に籍を置く身の上、事情によってはご期待に添えない場合も出てくると思われます。少しばかり踏み込んだお話はできませんでしょうか?」

「……そうですね」

 少しばかり考える素振りを見せる聖女様。

 むーんと困った様子も微笑ましい。

「私に関してどのような噂をお耳とされたのかは知れません。ですが、この身はペニー帝国に仕える場末の男爵に過ぎません。魔王と勇者だなどと大きなお話、とてもではありませんが、両手にあまる仕事ではないかと」

「タナカ男爵が危惧するところは尤もです」

「ありがとうございます」

「ですが、だからといって備えることをせず、その時を待つのはあまりにも愚かです。故に私は大聖国の代表として、貴方に声を掛けさせて頂きました。全てをタナカ男爵に、という訳ではありません。その点だけは誤解なきよう」

「承知いたしました」

 今のって社畜的に信用ならない慰めナンバーワンだよな。

 そういう人ほど顧客に頭が上がらず、ヤバい案件とか取ってくるのだ。

「いかがでしょうか?」

「お話がお話ですので、即答致しかねます」

「それでは提案なのですが、しばらく大聖国に滞在していただくというのは如何でしょうか? 我々はタナカ男爵の来訪を歓迎させて頂きます。ご自身の目で見て触れていただければ、きっと我が国の良さをご理解して頂けると思います」

「あ、いえ、すみません。実は他に……」

「ペニー帝国からは休暇の最中と聞いております。もしよろしければ、大聖国が誇る持て成しを味わって頂けたらと思います。ペニー帝国のそれに勝るとも劣らないものをご提供できると思いますよ」

「…………」

 どうしよう。

 天秤に乗ったのは陛下ご提供のリゾート地と大聖国のおもてなし。前者滞在中に発生したパンモロメイド殺人事件を鑑みれば、ここは素直に応じておいた方が良いような。再び戻ったところで第二、第三のパンモロメイドが襲い掛かってこないとも知れない。

 自分だけならまだしも、エディタ先生と合流した昨今、些末なリスクであっても回避するべきだと思う。なにせ先生のステータスは貧弱だ。隙を突かれればそこいらのモブっぽい方々が相手でも、一撃必殺とか、十分にあり得る展開じゃないですか。

「承知いたしました。大変に恐縮ですが、しばらくご厄介になります」

「とても喜ばしいお返事です、タナカ男爵。どうぞゆっくりしていって下さい」

「お気遣いありがとうございます」

 それに大聖国のおもてなしとやらも、気にならないでもないし。
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