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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫
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大聖国 二



 その日その瞬間、我が身は馬となった。

 両手両膝を床について、四足走行。居室から食堂までの道のりをゆっくりと進む。背中にはずっしりとした他人の重みが。より詳細なところを述べるならば、暖かくプニプニとした処女の尻肉が、童貞野郎の背筋を温めてくださっている。

「ほらぁ? さっさと前に進みなさぁい」

「…………」

 ペチペチとお尻を手のひらで叩かれる。

 最高だよ縦ロール。

 アナルに指を突っ込んでください。

「おい、貴様……」

「なんですか? ゲロスさん」

 すぐ傍ら、自らの足に歩むキモロンゲからお声がけを頂戴する。互いの顔が位置する関係上、こちらが一方的に見下される形だろうか。しかしながら、その事実がなんら気にならないほど、背中が温い。あっとうてきに温い。お漏らししても良いんだぜ。

「……まさか楽しんでやいないか?」

「そんな馬鹿な」

 その顔には訝しげな表情が浮かべられている。

 まったくもってその通りでございます。

 だがしかし、これを気付かれる訳にはいかない。縦ロールには今現在の被虐スタイルで残るバカンス期間を楽しんで頂きたいと切に願う。まさか楽しんでいることがバレてしまったら、なんの為に奴隷契約を結んだのか分からないではないか。

「今この場で貴方の主人を振り落としてしまったも良いのですよ?」

「そんなことをしたら、未来永劫レシピは手に入らないわよぉ?」

「くっ……」

 とりあえず、くっ、とか言っておくぜ。

 最高に、くっ、な気分だわ。

 くっ、背中が心地良すぎるぜ。

「いい気分だわぁっ! とぉっても良い気分だわぁぁああっ!」

 縦ロールの喉が震える都度、その振動が彼女の身体を伝わり、自らの背中に届けられる。僅かばかりの震えさえも今は心地良い。時折、身動ぎに際して尻肉の擦れる感覚など夢見心地である。

 この旅行、正解だろ。

 縦ロールと二人で来て良かった。もしもエステルちゃんやエディタ先生、アレンなど他者の目があったのなら、ここまでハッスルすることは不可能であった。今後の領地経営にも影響を出しかねないお馬さん具合だ。

「おぉぉぉぉっっほほほほほほほほほ!」

「くっ……」

 縦ロールの尻肉ってばゴージャス。

 安産型だ。

 胸ばかりでなく尻まで末恐ろしい金髪ロリ巨乳である。

「おぉぉぉぉぉぉぉぉっおほほほほほほほほほほほほほほほほほほお!」

 当然、ゴッゴルちゃんには後日マインドレイプされること必至。

 しかしながら、それはそれできっと気持ち良い。セカンドレイプというヤツだろう。実際に目前で披露する訳でなければ、まあいいやって思う。むしろ彼女には率先して読まれたい。セカンド逆レイプ最高。

 童貞のプライドなんて、処女の尻肉を前としたら、きっとそんなもんだ。

「ほらぁ、もっと早く歩きなさぁい! 急ぎなさぁい!」

「くっ……」

 くっ、癖になりそうだ。

 お馬さん、頑張って食堂を目指すわ。

 これはもうバカンスの間、ずっとご指名頂けるよう張り切ろう。

 キモロンゲには絶対に譲ってあげないのだぜ。

「ご、ご主人、そこだ! そこが食堂のようだっ!」

 そうした醤油顔の活躍が気に入らないのか、兄弟子奴隷が行く先を指先に指し示しては、嬉々として声を上げる。めっちゃ必至に指差している。腕をブンブンと振っている。今すぐにでも醤油顔の上から腰を上げてくれと、願わんばかりの態度は、完全に屈服してしまった奴隷のそれだ。

 まさかここまでとは思わなかっただろキモロンゲ。

 やはり魔族も処女膜には勝てなかったか。

「あらぁん、残念ねぇ」

「こ、ここから先は私がご主人の足となりますっ!」

 目がマジだ。

 邪魔の一つでもしようものなら、次の瞬間にでも攻撃魔法とか撃たれそう。

 語ると同時、ヤツの身体が動いた。深刻そうな表情をそのまま、お馬のポーズを取ってみせる。醤油顔の傍ら、並走する形である。足が長いから、非常に格好良い感じのお馬さんになってやがる。

 ポニーと競走馬くらい違いがあるのではなかろうか。

「そうねぇ? どうせなら席まで運んでもらおうかしらぁ?」

 ここで醤油顔は一計を案じる。

 今のスタイルで進めば、施設を運営するメイドさんや執事の方々にお馬さんをお披露目すること必至。これまでこそ幸か不幸か、誰の目にも留まらぬまま来れたものの、以降は非常に難しい。

 もしも人目から逃れることを考えるのであれば、キモロンゲに縦ロールの運搬を任せるのが妥当である。そして、お馬の役割を終えた自らは他人のふり。二人の後からぬくぬくと入室させていただく訳だ。

「…………」

 舐めるなよ、童貞の触れ合い願望を。

 あいわかった。

「くっ……くっ……」

 不服のボイスを響かせながらも、その実、歩みは軽い。

 思わず二回もサウンドしてしまったわ。

 ゆっくりと、それでも着実に、四足歩行は食堂へ向かう。

「うふっ、ふっ、ふふふふふふっ、いいわぁ、これ、ほんとうにいいわぁっ!」

「ご主人っ!?」

 縦ロールのご満悦。

 心なしか尻肉から伝わる熱が暖かさを増してありがとうございます。

 醤油顔的にも、最高に心地良いです。

 ウィンウィンの関係とは、恐らく今のような状況を言うのだろう。

 今まさに勝ち組の風格である。

「ほらっ! さっさと食堂に入りなさぁいっ!」

「くっ……」

 ぺしん、縦ロールにおしり叩かれるの心の底から嬉しい。

 自然とその歩みも早くなろうというものだ。

 いざ食堂へ凱旋。

 周囲からは居合わせたメイドさんや執事から好奇の視線を向けられるけれど、まるで気にならない。縦ロールの尻肉を背中に味わっているという事実が、他の一切合財をどうでも良いものとして認識させる。

 膜確のムッチリ尻肉喜ばし過ぎる。

 正直エレクチオン。

 大丈夫、四つん這いだから目立たない。

「おぉぉぉおおおおぉっっほほほほほほほほほほほほっ!」

 縦ロールの咆哮と相まっては、傍目、きっと訳の分からない状況。

 俺、なってみせるわ、立派なサラブレッドに。

 種付馬的な意味で。

 ただ、そうした覚悟も向かって数歩ばかりを歩んだところで、失われる。

「タ、タナカっ!?」

 どことなく耳に覚えのある声だった。

 自然と顔は声の聞こえてきた側に向かう。お馬さん歩行の都合、顎を上げて頭上を見上げる形だろうか。そこまでして、ようやっと相手の姿を確認するまでに至った。そこには豪奢なソファーに腰掛けて、見覚えのある顔が幾つか並んでいた。

 東西の勇者パーティーの面々である。

 ちなみに問い掛けて来たのは西の勇者ピエールだ。通りで覚えのある声色だと思った。学園都市で別れて以来だろうか。東の勇者パーティーも含めて、暗黒大陸での出会いから、なにかと縁のある方々である。

 彼を除く他の面々は、醤油顔のお馬さん具合に圧倒されて声も出ないよう。

「き、君はいったい、いや、君の上に座っているのは……」

「…………」

 どうして勇者さま方がこんなところにいるのだろう。

 っていうか、全力で見られてしまったではないか。

 慄いていると、傍らよりメイドさんが駆け寄ってきた。

「ゆ、勇者さまがタナカ男爵を訪ねていらっしゃいましたところ、これより、お、お、お部屋までお声がけに向かわせて頂こうと考えていたのですがっ、あの、これはその、い、行き違いなどございましたら申し訳ないと、あの……」

 なるほどね。

 でもここって食堂だよな?

「あ、あらぁ? もしかして少し面倒な状況かしらぁ?」

 流石の縦ロールもこれは想定外のよう。

 少なからず悩んでいる様子が、尻肉の動く気配から察せられる。

 どうやら彼女も勇者さまの顔は知っているようだ。っていうより、学園都市の会合で生勇者を目の当たりとしていた。なにかとメディアへの露出も多いようなので、きっとその顔は世間に広く知れ渡っているのだろう。

 まあ、存分に悩むと良い。

 見られてしまったものは仕方がない。

「……そちらの彼女は君にとって、どのような立場の相手なのだろうか?」

「…………」

 奴隷とご主人様だよ。悪いかよ。

 当面、東西の勇者様パーティーに対しては謎キャラで進めるつもりだった。なのに出会って早々これでは、謎が謎を呼びすぎて、もはや何が何やら分からないではないか。完全に色物キャラである。

 なんてあれこれ考えていたら、今まさに問題のご主人様が語る。

「こ、ここは食堂ではなかったのかしらぁ?」

「こちらは、あの、お、応接室にございます……」

 答えたのは今し方に駆け寄ってきたメイドさん。

「……応接室?」

「は、はい」

 ちくしょう、キモロンゲの野郎がナビにミスった。

 どこが食堂だよ、応接室じゃんかよ。

 疑問を持たなかった自分も悪いんだけれど。

 さて、どのように話を運んだものか、流石に頭を悩ませてしまう。続くところ路線がまるで見えてこない。ただ、そうしたこちらの困惑を知ってか知らずか、先んじて口を開いたのは相手の側だ。

「君が傅くような存在に、正直、僕はそう多く当てがない……」

 よくよく見てみると、勇者様はマジ顔だった。

 全力でビビってるフェイスだった。

「……そうですかね?」

 強張った頬の肉だとか、少なからず震えて思える喉元だとか、一連の様子を改めて判断すると、どうやら全力で勘違いして思われる勇者さまパーティーだろうか。少なからず畏怖の窺える振る舞いは、マゾ趣味の変態野郎を見つめるそれとは程遠い。

 西の勇者さま当人のみならず、同じパーティーの仲間である女僧侶だとか、女魔法使いだとか、お仲間の皆さまも同様に戦慄を感じていらっしゃる。これは東の勇者さま及びそのパーティーも同様だ。

 どうやら縦ロールを醤油顔の上司か何かと勘違いしたのだろう。思い起こせば学園都市でも一緒に貴族席へ腰掛けていた。その辺りのあれやこれやを鑑みての判断だろうか。首の皮一枚で繋がった感じあるわ。

「おぉぉぉぉぉぉっっほほほほほほほほほほほほっ!」

 突如として響き渡るおほほの旋律。

 何事かと皆々の意識が向かった先、そこには手の甲を口元に当てて、ありったけの声量で吠える膜付ロリ巨乳の姿がある。胎動するロリボディーから、尻肉の震える様子が背中越しに伝わる。甚だ気持ちいいんですけど。

「わたくしはこれで失礼するわぁっ! あとで報告を忘れないことねぇっ!?」

 どうやら彼女は相手の驚愕を利用する形で場を切り抜ける算段のよう。

 すっくと醤油顔の背中から立ち上がる縦ロール。背中に感じていた暖かな感触が失われる。まるで自らの半身を失ったかのような、圧倒的喪失感に苛まれる。僅かばかり汗ばんで湿度を伴うシャツの、途端に冷えて冷たくなりゆく感じが切ない。

 踵を返した彼女は、スタスタと歩みも早く、応接室からさよならバイバイ。キモロンゲももれなく続いて、後には四つん這いの姿勢で固まる、アジアンフェイスだけがポツネンと残された。最強に残念なヴィジュアルじゃんね。

 ややあって、再三に渡り西の勇者ピエールから声が。

「タナカ男爵、君に話があるのだが……」

 止めてよ。

 四つん這いの中年野郎に真顔で話しかけないでよ。

「……聞きましょうか」

 致し方なし。

 自らの足に立ち上がり、空いた対面のソファーへと向かった。

 最高にダンディーだろう。



◇◆◇



 縦ロールが逃げたところで、東西の勇者さまとのトークタイム。

 人払いの行われた応接室には自分と勇者さまパーティーの面々だけが残る。向かい合わせに並んだソファーの一つに二人の勇者さまが腰掛けて、その後ろに仲間が並ぶ形だろうか。対面には醤油顔がソロという布陣である。

 相手方には少なからず警戒の意志が見て取れる。

 恐らく、目の前の平たい黄色が妙な動きをしたら、的な考慮が働いているのだろう。

 先のお馬さんプレイが、彼らの疑念を殊更に煽ってしまったのは想像に硬くない。東の勇者様とか、極めて厳つい眼差しにこちらを見つめてくれている。彼の頭の中で自分と縦ロールがどのような関係として扱われているのか非常に気になるところだ。

「君を大聖国まで招待したいのだよ」

 いの一番、西の勇者ピエールは語ってみせた。

 まるで意図が知れない。

 ちなみに交渉は彼に一任されているのか、他の面々は黙っている。

「……私を大聖国に?」

「聖女さまから受けたお告げさ。早急にペニー帝国のタナカ男爵を自らの元まで連れてくるように、とのことだね。僕としても正直、これまでのお告げとは趣が異なるところ、色々と疑問を感じているのだけれど」

「それはまた、随分と具体的な内容ですね」

「申し訳ないのだが、我々とともに来てはもらえないだろうか?」

 ジッと真正面から真剣な眼差しに見つめてくれる西の勇者ピエール。

 きっと相当に急かされてここまでやってきたのだろう。

 学園都市からこのリゾート地までは馬車で十数日といったところ。まさか陸路を向かったのでは、こうして顔を合わせることも叶うまい。飛空艇でやって来たのは間違いない。それだけ急いでいたことが窺える。

 とか考えたところで、ふと気づいた。

 どうして彼らは醤油顔が絶賛リゾート中であると知ったのか。

 ペニー帝国の王様からこちらのご案内を受けたのは昨日の出来事である。以降、今この瞬間へ至るまでに情報を仕入れて、自らの足に現地へ向かうというのは、相当に難易度の高いお話ではなかろうか。

 それこそペニー帝国の王様へダイレクトアタックする必要がある。

「ところで勇者さま、よく私がここに居ると分かりましたね?」

 図らずして謎キャラっぽい言動だ。

 オフの謎キャラ、主人公と遭遇って感じ。

 すると、彼は少しばかり口元に笑みを浮かべて語る。

「ペニー帝国の王に尋ねる機会を得たのだよ。ああいや、その言い方は正しくないな。正確には聖女さまからペニー帝国に対して、タナカ男爵の予定を巡り、問い合わせを行ったらしい。お告げを得た時点で、既に大聖国は動いていたそうだよ」

「……なるほど」

 両国の地理を思えば、十中八九で例の魔導通信とやらが活躍したのだろう。

 以前、トリクリスでメルセデスちゃんの昇進を巡り、エステルちゃんが動き回っていたときも、同じような魔法的通信を利用して首都カリスのパパと連絡とか取っていた。本人から聞いたところ、非常に高価な代物だが、それなりに普及しているとのこと。

 それと同じものが各国間を結ぶホットラインとして敷設されているのだろう。だとしても一国の主に直通とか、聖女様の発言力どんだけだよとは思う。きっと中世ヨーロッパと同じで、宗教の類が大きな力を持っている世界観なんだろうな。

「そういった意味では、そちらの上司の理解は得ているようなものになる」

「……ちなみに、それはいつ頃の出来事でしょうか?」

「学園都市でキメラ騒動があった翌日のことだね」

「翌日?」

「市街の状況を確認していた最中、ジャーナル教授と大聖国の大使を交えた話し合いで、君のことが話題に挙がったのだよ。その時点で大聖国の大使には、ペニー帝国が誇るタナカ男爵の活躍が伝わっている」

「…………」

「お告げがあったのは、その翌々日のことさ。今の内容で僕らの下まで指示が走った。おかげでキメラ騒動から間もなく、学園都市を発つことになってね。大聖国の大使が乗り付けた飛空艇でひとっ飛びさ」

「なるほど、通りでお早い到着だと思いました」

 つまり自身がショタチンポ地獄を巡りドラゴンシティで慌てている一方、グローバル人材たちは既に動いていた訳だ。っていうか、王様、後々から面倒になるのが嫌で、平たい黄色に一切合財を丸投げしやがったな。

 どおりで気前良くリゾート地など、ご提供してくれる訳だ。面倒事の舞台が国外へ向かうようぶん投げたのである。こっちから有給の申請を尋ねさせておいて、さも自分は忘れていたような振る舞いで。それでも確実に裏では糸が引かれていたと。

 陛下、マジ陛下だわ。

 おかしいと思ったんだ。パンモロ義務のメイドさんが屯する国管理のリゾート地にカップルでご招待なんて。騙された自分の愚かを嘆いてしまう。こんなことなら一回くらい、召喚魔法デリヘルしておくんだった。

「一つ確認したいのですが、構いませんか?」

「うん、なんだい?」

「お告げが発せられたタイミング、あまりにも良すぎませんかね?」

「君の言わんとするところは分かるよ」

「実際のところ、どうなのでしょうか?」

「申し訳ないけれど、僕の口からは伝えられない。ただ、受け取り方は人それぞれさ。君のように感じる者もいれば、それが必然だと、この世界の運命を語る者もいる。そして、大聖国はどちらかというと後者の側さ」

 チラリ、東の勇者様を眺めては語る西の勇者様。

 自然と前者の表情が不服そうに歪んだが、何を語ることもなかった。

 どうやらこの場の仕切りは西の勇者様に任されているのだろう。

「そうですか」

「ということで、こちらとしてはご同行を願いたいのだけれど」

 そう言われてしまうと、こちらからは確認する術がない。ペニー帝国云々が本当であれば、断ることは難しい。西の勇者ピエールの言葉ではないが、醤油顔の現在の上司は陛下で間違いないからな。

 今後ともペニー帝国でお貴族様したい派閥としては、返答は決まっている。

 ロリゴンが愛するドラゴンシティの為、新米領主は頑張る訳だ。

「……承知いたしました」

「いいのかい?」

「上からの言葉であれば、従わざるを得ません」

「本当に良いのかい? 今更僕が尋ねるのもなんだが……」

 語る調子は少なからず気後れして思える。問答無用で押しかけてきた割には、妙なところで気を使ってくれる。自分たちが無理を押し付けているのは十分に理解しているのだろう。勇者様とは言っても、こうなっては完全に中間管理職のそれだよな。

「仕方がありません」

「僕からすると、正直、どうして君が一介の王如きに仕えているのか、まるで理解が出来ない。君ほどの力があれば、勇者の立場から言うのもなんだけれど、そこいらの国を従えるなど児戯にも等しい行いだろう」

「それでも守らねばならない生活というものが、この世にはあるのですよ」

 大切なのは至って普通の青春。

 この醤油顔に、万が一にも惚れてくれるかも知れない膜確な美少女と、日常的なイチャラブセックス。その為には国がどうだとか、そういうスケールの大きな話は不要である。意識すべきは何気ない日常に潜むエロスからの純愛ラブ結合。

 石油王に女が股を開くなど、当然のことじゃないか。

 そういうのは童貞ロマンティック的に少し違う。

「……なるほど、そうだったのかい」

 などと考えていたところ、いつになく真面目な表情で頷いた勇者ピエール。

 これまで目の当たりとしたなかでも、一等に深刻そうな眼差しを頂戴だ。他にパーティーメンバーの面々も、なにやら顔を伏せたり、視線を明後日な方向へ向けたり、憐憫のそれを醸して思える。

「やはり先程の少女は君の……」

 あれこれブツブツと呟いては、一人で勝手に自己完結している。

 理由は知れないが、それならそれで良い。適当に勘違いさせておこう。

「ところで、お告げに従うのは構わないのですが、一点お願いが」

「なんだい?」

「移動するにも支度も必要です。時間を貰えませんか?」

 せめてリゾートお宿で一泊くらいしたい。

 パンモロなメイドさんに朝を起こされてみたい。

「そういうことなら、向こう数日はこちらに滞在するのが良いだろう。君が満足するまで、とまでは言えないけれど、大切な者と過ごす久方ぶりの休みを、どうか楽しんでもらいたい。多少の遅れは僕らが君を探すのに要した時間としよう」

「……よろしいので?」

 なんか気遣われている予感。

 気遣って下さる分には嬉しいから良いのだけれど。ただ、なんなこう、職場で童貞バレしたときと同じ気配を感じる。彼の頭のなかで今の自分はどのような立ち位置にあるのだろうか。本格的に分からない。

「そのくらい叶わずして、なにが勇者だろうか? 僕はそう思う」

 胸を張り、堂々と語ってみせる勇者ピエール格好いい。

 最高に輝いてる。

 コイツ、マジでイケメンだな。

 一方で疑問の声を上げるのが東の勇者様だ。

「待てっ! 我々の使命はこの男を聖女様の下まで連れてゆくことだ。お告げとして与えられた使命を、貴様は自らの裁量で捻じ曲げようと言うのか!? それは勇者として許されない行いだろうっ!」

「僕は連れて行かないとは言っていない。ただ、その支度に少しばかり時間が掛かるだろうと判断したのだよ。相手は他国の貴族だ。彼自身は男爵に過ぎないが、裏にはどれだけの大物が控えているともしれない。無理をしては大きな問題となりかねない」

「だが我々は勇者だ、聖女様からのお告げは絶対だ!」

「ならば君は私の判断を聖女様にご報告してくれたまえよ」

「……正気か?」

「ああ、そうだよ」

「…………」

 相変わらず仲が悪いっぽい東西の勇者様。

 ただ、以前に暗黒大陸で眺めた際と比較しては、幾分か交友を回復して思える。出会って当初の彼らは碌に会話をすることも出来ていなかった。どうしてこの二人を一緒に勇者認定したんだよと突っ込みたくなるほどだ。

「分かった。余すこと無く報告させてもらおう」

「ああ、好きにすれば良いさ」

 東の勇者さまは西の勇者さまが頷くに応じて、ソファーより腰を上げた。

 かと思えば、これ以上は用もないと言わんばかり、マントを翻して応接室より去っていった。彼の後を追うよう、パーティーメンバーもまたこれに続いた。同勇者様を除くメンバーに関しては、最後の最後まで、こちらの様子を気にしていた。

 仲間の退出を見送ったところで、西の勇者ピエールが呟く。

「ということで、今後の予定に関してだけれど、大丈夫そうかい?」

「ええ、そのように」

「それじゃあ、数日したら迎えに来るよ」

 西の勇者ピエールもまた腰を浮かす。

 ここで醤油顔は彼に待ったを。

「あ、お待ち下さい」

「ん? なんだい?」

「折角の機会ですから、皆さまもこちらの施設にご滞在下さい。その間の諸経費に関しては、ペニー帝国として持たせて頂きます。束の間の休息かとは思いますが、皆さまもまた連日の仕事と移動でお疲れでしょう」

 せめて陛下には散財してもらおう。

 こうなったら食べるだけ食べて、飲めるだけ飲んでやるんだわ。

 ざまぁ見ろだぜ。

「え? い、いいのかい?」

「そちらの予定に差支えがなければ、ですが」

「……なんだろう。もの凄く嬉しい気分だよ、タナカ男爵」

 答えるところ、勇者さまの表情が殊更に穏やかなものとなった。

 頂戴したお言葉は意外と想定外。

 なんだろうね。やっぱり勇者というのも、相応に疲れる肩書なのだろうな、とか思った。自然と仲間意識が芽生えてしまったよ。色々と気を利かせて頂いた都合、せめて、ここでは寛いで頂きたいと強く思う。

「では、小難しい話はこれまでということで……」

 ソファーテーブルに置かれたベルを鳴らす。

 これを鳴らすと、メイドさんがパンモロで駆けつけてくれるそうだ。



◇◆◇



【ソフィアちゃん視点】

 今、私は空を飛んでおります。

 それはもう凄まじい勢いで飛んでおります。つい数日前、タナカさんに乗せていただいた飛空艇など比較になりません。はるか遠くの景色でさえ、凄まじい勢いで後ろへ、後ろへと流れてゆくのですから。

「ひ、ひぃぃっ……」

 口を開けば自然と悲鳴が漏れます。

 怖いです。

 とても怖いです。

 しかも今回は、これまでの移動と少しばかり事情が異なっております。過去、ドラゴンさんに運ばれる際には、他にどなたか前に座られておりました。しかしながら、今現在は私が先頭となっております。

 誰にも捕まることが叶わず跨るドラゴンさん、この上なく恐ろしいです。

 ちなみに私の後ろにはエルフさんが乗っていらっしゃいます。ギュッと後ろからしがみつかれる圧迫感は、たぶん、これまでの私がそうであったように、とても必死なものです。お腹に回された腕が力強く腹部を締め付けます。

 その感覚が、なんでしょう、頑張らなければという気持ちに繋がります。とても怖いですけれど、頑張らなければという心持ちにさせてくれます。多分、胸の下に眺めるか細いエルフさんの腕が、そうさせるのでしょう。

『おい、本当にこっちで正しいのだろうなっ!?』

「……間違いない」

『くっ、だったらどうして未だに到着しないっ……』

 ドラゴンさんの行く先にはゴッゴルさんが先行しております。

 なんでも昨晩、タナカさんの心を読んで、その行く先を確認したのだそうです。おかげでタナカさんを見失ってしまったドラゴンさんは、しかしながら、今も目的地を目指して空を進むことができていらっしゃいます。

 なんて考えていたのですが。

「たぶん、この辺り」

『たぶん?』

「……たぶん」

『貴様、ま、まさか大雑把にしか理解していないなっ!?』

「…………」

『ぐっ……』

「でも、見失ったのは私だけのせいではない」

『それは貴様が自信満々に語ってみせるから、あ、あまり近づくと気付かれると言うから、わざわざ距離をおいたんじゃないか! それがたぶん、たぶん、たぶんだなどとっ、ど、ど、どうするんだっ!?』

 たしかにそんな話もされておりました。

「……私がそんなことを?」

 あ、ゴッゴルさん、目が泳いています。

 そうした彼女の言葉を受けて、ドラゴンさんが動きました。

『い、言ったじゃないかっ!』

 空をとぶ勢いもそのままに、大きく腕が振るわれます。

 応じて巨大な炎の塊が撃ちだされました。タナカさんが好んで使われる魔法と同じっぽいです。ファイアボールというのでしょうか。首都カリスの実家くらいなら、丸っと収まってしまいそうな大きさです。

「っ!?」

『くたばれっ!』

 間一髪、これをゴッゴルさんは跳ねるよう、真横に飛んで回避されました。

 空の上だというのに器用なものです。

 その事実が気に入らないのでしょう、ドラゴンさん、ますます興奮です。

『このっ、このっ、このぉっ!』

「っ……」

 次々と炎が撃ちだされてゆきます。

 これを避けることゴッゴルさん、ヒュンヒュンと。

 おかげでドラゴンさんに運ばれる我々はといえば、堪ったものではなりません。腕が振るわれる都度、身体が右へ左へ傾くばかりか、更にゴッゴルさんがあっちこっちに移動するものですから、真上に進んでみたり、真下に進んでみたり、一回転してみたり。

「は、はひぃぃぃっ!」

「ぬぉおああああああああああああああああ!」

 自然と悲鳴も上がります。

 咄嗟に前屈みとなり、ドラゴンさんの首へ両腕を回すよう抱きつきます。普通に座っていては振り落とされてしまいます。万が一にも落ちてしまったのなら、魔法の使えないメイド風情、地上に激突死は免れません。

「あひぃぃいいいい、助けてくださいぃぃぃぃいっ! ど、どうかぁぁぁっ」

 都合、その頭をギュッと抱くような形でしょうか。

『お、おいこら、首に引っ付くなっ!』

「でも、お、お、落ちて、落ちてしまいますっ……」

『くっ……』

 すると、どうしたことでしょう、ドラゴンさんが大人しくなりました。

 今の今まで逆さまになっていた姿勢が、元在ったとおり上向きとなります。どうやら私の言葉を耳としてくださったようです。ありがとうございます。ありがとうございます。本当に心の底からありがとうございます。

『……貴様やそのゴッゴル、エルフが怪我をしたら、アイツが怒るっ』

 プイとそっぽを向いては、小さく語られます。

 タナカさんのおかげで九死に一生を得ました。いえ、そもそもタナカさんと出会っていなければ、ドラゴンさんとも出会うことなどなかったのではありますが。ただ、今は深くは考えず、穏やかとなった背を甘受いたしましょう。

 ドラゴンさんが暴れるのを止めるに応じて、距離を取っていたゴッゴルさんもまた、こちらに向かい以前と間隔まで戻ってまいりました。タナカさん曰く、槍が届かない距離というヤツでしょうか、ゴッゴルさんの射程圏外です。

 よくよく見てみると、彼女は衣服や髪の一部が焦げてしまっています。それでも今し方、お尻の下から響いた言葉を思えば、少なからず手加減された結果なのでしょう。なんとなくですが、お二人の力関係が分かったような気がします。

 ややあって、ゴッゴルさんがドラゴンさんに呟かれました。

「……ごめんなさい」

 思ったより素直に誤ってしまうゴッゴルさん可愛いです。

 これには謝られた側もしょっぱい顔でしょうか。

『っ……だ、だったらさっさとアイツを見つけるんだよっ!』

「分かった。地上に下りて探してくる」

 ちらり、ゴッゴルさんが視線を向けた先、眼下には建物の並びが広がります。海辺に作られた町並みは、そこいらの集落とは一線を画しております。どれもこれも非常に手間の掛かった、有り体に言えば高級そうな建物ばかりです。

 いわゆるリゾート地というヤツでしょう。

 ゴッゴルさんの仰るとおり、たぶん、タナカさんはこの辺りにいらっしゃるのだと思います。しかしながら、かなりの規模で広がる同所においては、そこからたった一人の人を探すことは、極めて大変な行いのように思われます。

『そんなの日が暮れてしまうだろうがっ』

「…………」

 個人的には素直に諦めて首都カリスに帰るのが良いと思います。

 ただ、おふた方にその選択肢はなさそうです。

 なんてあれこれ考えていたところ、ふと、違和感に気付きました。

 今の今までお腹の辺りにあった圧迫感がございません。

 どうしたことでしょう。

 ふと気になって後ろを振り返ります。

 すると――――。

「……あ」

 エルフさんの姿がこつ然と消えておりました。

 影も形もございません。

『あぁ? 今度はどうした?』

 私の声に反応して、ドラゴンさんもまたご自身の背中を振り返られます。当然、彼女の視界にもエルフさんは映りません。自ずとゴッゴルさんの意識もこちらに向けられたところ、全員がエルフさんの姿が失われたことを理解でしょうか。

「……エルフ、おちた?」

 ボソリ、ゴッゴルさんが呟かれました。

「…………」

『…………』

 思い起こせば、宙返りの最中に大きな悲鳴が聞こえたような気がします。

 凡そ女性の声らしからぬ響きであったとは、今更ながら。

「あ、あ、あのっ、エルフさんが、おち、おち、おちてっ……」

 どうしましょう。

 どうしましょう。

 エルフさん、空を飛べたような気がします。

 でも、空にはそれらしい姿も見えません。

「……飛行魔法の障壁にぶつかった?」

『ぐっ……』

「だとすれば、相当に負傷してい……」

『て、手分けして探すぞっ! いいなっ!? わ、分かったなっ!?』

「……分かった」

 紆余曲折の末、我々はエルフさんを探すこととなりました。

 ドラゴンさんとゴッゴルさん、互いに頷きあったところで、地上に向かい一直線です。都合、私はドラゴンさんと共に急降下となります。もう悲鳴さえ上げる余裕がありません。目を瞑って、ただ一生懸命にしがみつくばかりです。

 タナカさんの下へ辿り着く目処は、当分立ちそうにございません。

 エルフさん、どうか、どうかご無事で。

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