挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫
77/131

学園都市 十

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。

 ピーちゃんに発する騒動のおかげで、気付けばレポートの発表会も当日だ。

 妙な別れ方をしたおかげで、事前に打ち合わせの一つも行えないまま、我々は会場へ足を運ぶこととなった。なんでも発表会は学園関係者であれば自由に見学が可能だそう。多分に不安を孕みつつの来訪である。

 会場は中央に所在する教室の一つで行われるそう。規模はエディタ先生が行った講演の会場とは一変して、数十人が収まるばかりの部屋である。大学の少し大きめの講義室を想定すればドンピシャ。自分たちの他にも父兄だろう方々の姿がちらほら見て取れる。

 発表は課題を担当する教師の司会進行で恙無く行われた。生徒たちが指示される毎に教壇へと上がり、自らのまとめたレポートの内容を説明してゆく。これを他の生徒と聴講者の皆で席から一様に眺める形だ。

「……来たぞ。あの貴族が教えた生徒たちの発表だ」

「そのようですね」

 次はエステルちゃんが担当したイジメっ子グループだ。

 ちなみにその次がJCとのことで、なんと大取りである。

「それでは発表を始めます!」

 課題はグループでの作業も許可されているようで、これまで行われてきた発表は全てが、生徒数名からによるものだった。対してJCは一人。今更ながら彼女がいじめられっ子であることを意識させられる展開だろうか。

 我々の眺める先、少年たちの発表は進められてゆく。

 内容は想像した以上に小奇麗なものとしてまとまっていた。これといってオチは用意されていない反面、指摘する箇所も見当たらない。十代前半から中頃と思われる子どもたちがまとめたにしては理路整然としていた。

 そこいらの学部生の卒論と比較しても遜色ないように思われる。聴講する側にも心地よく入り込んでくる。自身が過去に行った発表と比較してどうよと問われたら、少なからず悩んでしまいそうなほど。

 ちょっと敗北感とか感じてしまった。

 もしもこれをエステルちゃんの監修から成したというのであれば、もしかしたら自分はとても惜しい相手を逃したのかもしれない、なんて思わないでもない。賢いロリ、可愛い。でも大切なのは膜、膜だよな。そう、膜なんだ。

 自らに言い聞かせるよう、少年たちの発表を耳とした。

 結果として、彼らの発表はこれまでで一番の拍手により終えられた。

 まったくもって喝采然り。

「……中等部の発表も捨てたものではないな」

「そうですね」

 我らが金髪ロリムチムチ先生も少なからず興味を示して思える。

 お世辞の類を言わない先生が仰るのだから間違いない。

 ちなみにゴッゴルちゃんはお留守番だ。大変に申し訳ないのだけれど、例によって要らぬ誤解を防ぐ為の処置である。ここ最近はお留守番の機会が増えた為、近いうちに徹夜トークを約束させられた。際しては夜食を作れともご所望だ。頑張ろうと思う。

 ゴッゴルちゃん、何が好物だろう。オチンポかな。

「それでは最後の発表に移ります」

 担当教諭が題目を進める。

 続くところ、壇上へ上がったのは我らがJCである。

 足取りはしっかりとしたもの。

 ガクブル体質な先生とは対照的、随分と落ち着いて見える。アウフシュタイナー家の出というのは決して伊達ではないよう。ここぞという場面で一際強いのが、あの家の血筋なのではと、そこはかとなく考えている。

 頑張れJC。

 負けるなJC。

 我々は君のことを応援しているぞ。

「それでは発表を始めて下さい」

「はい」

 促されるに応じて、彼女は自らの発表を始める。

 内容は事前に幾度となく検討を繰り返したものであるから、こちらも頭に入っている。ただ、それをどのように口頭でお伝えするか。文字では小奇麗に纏められていても、いざ人に話すとなると勝手は大きくことなるだろう。

 だからこその心配であったのだけれど、驚いた。

 粛々と語られる内容は、およそJCらしからぬもの。

 実地によるポーションの作成手順や、その材料となる薬草の類の産出地に関する情報など、当初、彼女の意向により削除されたあれやこれやが、ふんだんに盛り込まれていた。それでいてレポートの趣旨を離れることなく、議論は展開されてゆく。

「お、おい、これは……」

「ええ、エディタさんの言わんとすることは理解できます」

 監修を務めた金髪ロリムチムチ先生もビックリしたよう。

 更に驚いたこと、終ぞ最後まで決して目を通すことをしなかった先生の著作からも引用が為されており、更にそこから一捻り加えられた考察が続く。述べられたところは我々が作成したマナポーションに対する改良案までにも及んだ。

 おかげで最後は我々も口を塞いで、彼女の発表に大人しく聞き入っていた。

 時間にして小一時間ほどだろうか。

 他の生徒たちの発表と比較しては幾倍もの長さである。ただ、教師はこれを途中で止めることなく最後まで見守った。やがて、結論であるところの文句が、他の誰でもない発表者であるJCの口から述べられる。

「これより私は、ライフポーションの製造に可能性を提示いたします」

 ペコリ、お辞儀をするに応じてツインテールが前面に垂れる。

 対して会場からは、これまでで一番の拍手が与えられた。

 もちろん我々もパチパチさせて頂いた。全力でパチパチだ。

「……なかなかやるじゃないか」

 ちらり隣の席を伺えば、壇上の彼女を見つめるエディタ先生の眼差しが、生徒を眺める教師のそれから、自身と同じ錬金術師を見つめるそれに変わっていた。まるで新しく生まれたライバルの存在に興奮しているようだ。

「そのようですね。とても素晴らしい発表でした」

 しかし、これはどういった心変わりだろう。

 完全に覚醒しているぞJC。

 本当に同一人物なのか。

 もしかしてキモロンゲに格好の良いところを見せたかったのだろうか。だとすれば残念ながら、ヤツはこの場に座していない。ここまで彼女は頑張ったのだ、悔しいけれど、こんなことなら縦ロールと共に連れてくれば良かった。

 アウフシュタイナー家の血は伊達じゃないな。

 やれば出来る子。

 ゴンちゃんと同じ家の子というのも納得である。

「それでは総評に入りたいと思います」

 そうこうしていると壇上に担当教諭の姿が戻った。

 どうやら発表会はこれで終わりのよう。

「おそらく皆さんも薄々は理解していると思いますが、今回の発表は事前に回収したレポートの出来栄えが発表の順番となっています。発表が早かった方は、より学業に励むよう努力して下さい。また発表が遅かった方も、決して慢心なきよう日々を過ごして下さい」

 おう、なかなかファンキーな先生だ。

 もしも日本の学校でやったら一発で苦情が入るだろう。

 個人的にはこういう公平且つ整然とした評価って大好きだけれどな。

「取り分け最後のアウフシュタイナーさんによる発表は素晴らしいものでした。中等部の課題という範疇を超えて、一つの論文として体を成したものでしょう。こちらに関しては、次のポーション学会へ申請を出そうと思います」

 壇上の先生が語るに応じて、席からは生徒たちの慄く声が響いた。

 どうやらそれなりに価値のある学会らしい。

 やったじゃん、JC。

「アウフシュタイナーさん。素晴らしい発表でしたよ」

「……ありがとうございます」

「それではこれにて発表会を終了といたします。もしも質問などある方は、この後で個別に時間を取りますので、私の方にいらして下さい。アウフシュタイナーさんには別途、こちらから声を掛けさせて頂きます」

 そんなこんなでJC大盛況のうちに発表会は閉会となった。



◇◆◇



 発表会が終えられて直後、席を立つ醤油顔を呼ぶ声が上がった。

「タナカ男爵! ちょ、ちょっと待ちなさいよっ!」

「……なんですか?」

 声色から容易に判断がついた。

 それとなくを装い振り返れば、そこにはロリビッチの姿がある。当然のように彼女もまた発表会を見に来ていたようだ。イジメっ子三名の面倒を見ていたのだから、やはり、その行く先が気になるのは道理というもの。

 もしかして自らの教え子が負けた腹いせに詰るつもりだろうか。

 良いだろう。

 受けて立とう。

 童貞だとかロリコンだとか色々とセクシャルに罵倒して欲しい。

「ほらっ! な、なんでも命じなさいよっ!」

「……どういうことですか?」

「勝負は勝負よ! 甚だ不服だけれど、身分の上下は関係ないわっ!」

「勝負?」

「や、約束したじゃないのっ! レポートの発表会で勝負をすると!」

「あぁ……」

 なるほど、どうやら以前に話した靴を舐めて云々の続きだろう。

 前から思っていたのだけれど、エステルちゃん、こういうところで無駄に律儀だよな。ゾフィーちゃんあたりだったら、絶対に見て見ぬふり、そのままフェードアウトするだろう。いの一番に教室から逃げ出す彼女の姿が容易に想像できる。

「いえ、勝負は引き分けです」

「な、なんですってっ!?」

「今回の成果に対して、私は大した働きをしていません。発表者である彼女と、これを支えたエディタさんの働きのほうが遥かに大きいでしょう。ですから私とエリザベス様との駆け引きはドローとすべきです」

「……なによそれ」

 エステルちゃんの担当した子たちも頑張った。伊達に最後から二番目を担当していない。もしも本日のJCが自身と出会って当初のニートっ子であったのなら、もしもエディタ先生が技術サポートに回っていなかったのなら、順番は前後していた可能性が高い。

「そ、そんなの納得がいかないわっ!」

「とは言われても事実ですので」

「私がパパの娘だから遠慮しているの? もしもそうなら甚だ不服だわっ!」

「いえ、そういう訳ではありませんが」

「だったら勝敗のペナルティは正しく運用されるべきよっ!」

「…………」

 とは言われても、さて、どうしたものか。

 チラリ、エディタ先生に視線を向ければ、こちらはこちらで何やら難しい表情をしていらっしゃる。まさかお伺いを立てるのも違うだろうから、適当なところでロリビッチには満足感を得てもらいたいものだけれど。

 オマンコ触らせて下さいってお願いしたら触らせてくれるだろうか。

 いつか脱童貞したあかつきには、土下座セックスってやつを経験してみたい。誠心誠意心を込めて頼めば、し、仕方ないわね! みたいな感じでブサメン相手でも無料でヤらせてくれる母性豊かなビッチ子ちゃん、最高に可愛いと思う。

 ロリビッチとはそれくらいの距離感が理想だ。

「それなら一つ、よろしいでしょうか?」

「な、なによっ!? 早く言いなさいっ!」

「これからもアレンさんとは仲良くしてください。彼はとても素敵な男性です。まあ、改めて私から申し上げることもない事実であるとは思いますけれど」

「えっ……」

「ここ最近、どうも不仲が目立つので心配しておりました」

「…………」

「私からは以上です」

「え? あ、ちょ、ちょっとっ!」

 これ以上は藪蛇だ。

 もしもロリビッチが処女であったのら、幾らでもお願いしたいことはあった。あれこれ挙げることができた。まったくもって、世の中とは上手くいかない。傷ついたブサメンは地雷を踏み抜く前においとまさせてもらおうか。

「行きましょう、エディタさん」

「い、いいのかっ!?」

「はい」

 こちらが歩みだせば、後を追うよう先生が付いてくる。

 直ぐに横並びとなり、我々は教室を後とした。

 否、後としようとしたところで、更に別所よりお声がけを頂戴した。

「おい、オ、オッサンっ!」

 JCだ。

 今度はJCからトークイベント発生である。

 ここ数日で見慣れた制服姿。ピンとつり上がった眼差しはどことなくエステルちゃんを髣髴とさせる。チェックの柄のスカートから伸びた、スラリとした太ももは程よく肉づいてムチムチ。小さめの体操服を着用させて地球回し鑑賞会を敢行したくなる。

「どうしました?」

「ちょっと、私に付き合えよっ!」

「構いませんが……」

 今度はなんだよ。



◇◆◇



 場所を移して屋外、校舎裏。

 石材から建てられた背の高い建物と、同じく石造りの塀との間に生まれた数メートルばかりの空間。人気も皆無の裏路地といった体であって、小奇麗に掃除こそされているものの、随分とひっそりして思える。

 学生の時分を思い起こしてはノスタルジア感じちゃう。

 対面には二、三メートルほどの間隔を開けてJCが立つ。なんでも二人だけで話がしたいとのこと。仕方がないのでエディタ先生には先に部屋へと戻ってもらい、自分だけでこれに望むこととなった。

「それで、お話とはなんでしょうか?」

 この雰囲気、過去にも経験あるわ。

 お手紙デリバリー系イベントだわ。

 きっとマゾ魔族に連絡を取りたいのだろう。相手が他国の貴族の舎弟とあっては直接窺うことも難しい。自然と我が身が伝書鳩役に任命されたのだろう。中学校の頃には周りがイケメンばかりであった都合、数度に渡りデリった経験を誇る。

 曰く、田中くんに頼むと告白成功率高いらしいぜ。

「それは、そ、そのっ……」

「私にできることであれば、ご相談に乗りますよ」

 もう配達業は卒業した筈だった。

 ただ、つい先日のピーちゃん戦に見せた勇姿や、本日の発表会を目の当たりとした後では、これを叶えてあげることも吝かではない。美少女の頑張る姿っていうのは、やはり、いつ見ても良いものだ。

「なんでもおっしゃって下さい。好きに使って下さって結構です」

 多少のパシリは任せとけ。

「……本当か?」

「ええ、私になにができますか? 出来る限り叶えてみせます」

「だ、だったら……」

 とても穏やかな調子でJCからの返答を待つ。

 言いよどむ彼女はとても可愛らしい。顔を真赤にして、太ももをもじもじと擦り合わせて、上目遣いにこちらを見つめては、視線を合わせたり、逸したり、合わせたり、逸したり。どんだけ興奮しているんだよ。

 ああそうだ、事前にマゾ魔族にはちゃんとダメ出ししておかないとならない。もしも下手に扱ったのなら、そちらのご主人さまが酷いことになってしまうんだぜと。ヤリ逃げなんて許しませんと。

 子供を持つってこんな気持ちなんだろうか。

 ほんの僅かばかりの家庭教師期間がブサメンに母性を与えてくれた。

「……わ、私の恋人になってくれっ!」

「…………」

 子供を持つってこんな気持ちなんだろうか。

 ほんの僅かばかりの家庭教師期間がブサメンに母性を与えてくれた。

「……なんですかそれは」

「え? だ、だって言ったよなっ!? 出来る限り叶えてくれるってっ!」

「いえ、まあ……」

「だったら、わ、私と、私と付き合ってくれよっ!」

 放課後。

 校舎裏。

 女子学生。

 処女。

 告白。

 付き合ってくださいと言われた人は誰。

「……私が貴方とですか?」

「ほ、他に誰が居るんだよっ!?」

「いえ、ですがそれは……」

 様々なキーワードが頭のなかでグルグルと。

 安定していた胸の鼓動が急激に早まる。脈動の一回一回が酷く痛い。全身からぶわっと汗が吹き出す。ただ立っているだけにも関わらず、平衡感覚が失われてゆく。気付けば喉がやたらと乾いている。

 何が起こった。

 この身になにが起こった。

 まるでお酒にでも深く酔ったよう。酷く簡単な思考ですら、てんで纏めることができないまま発散してゆく。今という瞬間が瞬く間に現実味を失って、自分はどうしてこのような場所に立っているのかと。

 いやまて、まて、これも経験ある。

 経験あるぞ。

「オッサン、私と、私と付き合ってくれっ!」

「…………」

「……オッサン?」

 酷く心配そうな表情となるJC。

 この演技上手さんめ。

 その顔を視界に収めたところで、反射的に口は動いていた。

「冗談はほどほどにしましょう。いたずらにも限度がありますよ」

 どうやらブサメンスレイヤーが発動したようだ。

 レポートが完成するまであれこれと無茶振りしてきた意趣返しだろうか。思い起こせば最中は若い子との交流が楽しくて、少なからず弄ってしまった気がしないでもない。だって相手はチェック柄のミニスカートがよく似合う現役女子学生。

 だとすれば、ここは広い懐で笑って迎えるのが出来る男のスタイルだろう。

「じょ、冗談なんかじゃない!」

「こんな頭もハゲかかった中年をからかうのは感心しませんね。とはいえ、レポートを作るに差し当たっては、適当に扱ってしまったことも幾度かありました。謝罪を求めるというのであれば、場を改めて伺わせて頂きます」

「からかってもいない! オッサンならハゲてても好きだ!」

「仮にそうだとしても、私と貴方、どれだけ歳が離れていると思……」

 気づいたらJCが目前まで接していた。

 するりと伸びた腕が、こちらの頭部を浚うよう伸ばされて、強引にも引かれる。無理な姿勢から自然と腰を曲げたところで、更に接近するのが相手の顔だった。ふんわりと甘い香りが鼻腔を擽る。

 互いの鼻先が接するかと思ったところで、先んじて唇に触れるものが。

「っ……」

「んっ……」

 暖かな感触があった。

 口。

 互いの前歯が当たるほどに強く。

 ガチンと。

「っ!?」

「んぅ……」

 更に閉じられたままの唇を割って、何かが強引に入ってきた。

 ざらざらとしている。

 固い。

 でも、温かい。

 粘膜の。

「っ……」

「んっ、ぅっ……」

 異物感から反射的に顔を退けようと思って、けれど、それが舌ベラであると知って、同時に後頭部へ回された腕の暖かさを皮膚で感じて、自らに与えられたものを理解する。判断に躊躇する。行いに躊躇する。

 だって、心地が良い。

 ただ接しているだけなのに、とても心地良い瞬間だった。

 過去に経験した幾百回の回復魔法よりも癒やされた。

 数秒だろうか、数十秒だろうか。

 分からない。

 舌は全てをさらっていった。同じ舌も、歯も、歯茎も、頬の内側も、その届きうる全てを、丹念になぞっていった。まるで口の内側を洗われているようだった。自分のものとは違う味が、隅から隅まで広がっていた。

 ややあって、唇が離される。

 距離を取るに応じては糸を引いて、その中ほどより千切れてプツリ。

 垣間見えた瞬間の光景が、やけに印象的に脳内へ響いた。

「……いきなりなんの真似ですか?」

 口元がおぼつかない。

 ぬめりのせいだ。

 思考まで滑る。

 一方で彼女はといえば、殊更に勢いをまして語る。

「オッサン、私と付き合ってくれよっ! いいだろっ!?」

「いいえ、ですから私と君とは……」

「年齢なんてどうだっていいじゃんかよ! 好きなんだからっ!」

 好きなんだから。

 好きなんだから。

 好きなんだから。

 わぁい。

「……わ、私でよければ」

 気付けば告白は、自らの内側に染み渡っていった。

 まるで夢でもみているような、覚束ない感覚の只中であった。夢見心地というのは、きっと今まさに自身が感じている酷く曖昧で幸福感に満ち溢れた瞬間を指し示しての言葉だろう。これほど合点のゆく形容はない。

 ただ、得てして夢とは覚めるものだ。

 どこまでも曖昧だった意識は、他所よりの音から覚醒する。

「お、おい、馬鹿っ! 押すなっ!」

「ちょっと、そっちこそ妙なところを触ってっ!」

「あぁんもぉ! 動かないでほしいわぁっ!」

「ご主人っ!」

 耳に覚えのある声が、校舎裏に連なるよう響いた。同時に何某か、後方に人の気配が生まれた。それはドタバタと、重みのあるものが地面に倒れる音と共に、自分とJCの下にまで届けられる。

 自然と我々の意識はそちらに向かう。

 視界に映ったのは誰も彼も、顔に覚えのある相手ばかりであった。

 やるじゃん。



◇◆◇



 今、自分とJCの見つめる先には見知った相手が並んでいる。

 エステルちゃんを筆頭として、エディタ先生、縦ロール、キモロンゲといった塩梅だ。どうやら自分とJCとのあれやこれやを、校舎の影に隠れて、その角から今の今まで窺っていたようである。教室から付けて来たのだろう。

 縦ロールとキモロンゲに関しては、レポート発表の会場に見つけられなかった点から、おそらく移動の最中で合流したものと思われる。暇だ暇だと落ち着きのない膜付ロリ巨乳であるが故、さもありなん。

 改めて問いかけるまでもない。

 けれど、それとなく話題を振らなければならない場合もある。

「……皆さん、このような場所で奇遇ですね」

「き、奇遇だなっ! あぁ、実に奇遇な出会いもあったものだっ!」

 全力で空回りするエディタ先生は想定の範囲内だ。

 先生のコミュ力ではそのくらいが限界だって、なんとなく推測できてしまう悲しみ。盗み見られた当事者たちより慌てているのはどうなんだろう。むしろ、その姿を眺めて落ち着きを取り戻す自らを感じる。

 一方で相変わらずな眼差しを向けてくれるのが縦ロール。

「うれしいのかしらぁ?」

「異性から好意を寄せられて嬉しくない男は居ませんよ」

「ふぅん?」

 めっちゃ嬉しいよ。

 最高の気分だよ。

 今まさに人生のゴールテープを切った気分である。これからの人生は、ただただJCの為に尽くしてゆく限りであります。彼女の為なら死んでも生きるし、何度でも死ぬ心意気だ。そこに躊躇など皆無である。

 完全に見えただろ、自らの行く先が。

「……本当にぃ?」

「ええ、当然です」

「でも貴方、以前は嫌だって言ってたじゃなぁい」

「なんのお話ですか? ドリスさん」

 いつ自分がJCを嫌いだなどと言ったのだ。

 出会って当初から大好きだったよ。

 チェック柄のミニスカートが良く似合う女子学生。

「べつにぃ? 面白そうだから放っておくわぁ」

「そうですか?」

 よく分からない。

 だが、縦ロールの言動がよく分からないのは、いつものことである。下手に意識するとドツボにハマるので、こういった場合は放っておけば良い。今回ばかりは素直に頷かせて頂こうと思います。

 自分が思ったより童貞とは一途な生き物だ。

 夢のヤリチンサマーバケーションは翌年に延期だな。

 今はこのなんというか、胸の内にあるホッコリとした感覚を大切にしたい。思い返せば、あぁ、よかった、首都カリスでお世話になった夜のお店がボッタクリであって。もしかしたら一時の迷いで、彼女に対する誠意を失うところであったぜ。

「……こ、こんなに歳の離れた娘が良いの?」

「愛に年齢は関係ないそうです」

 エステルちゃんからの厳しい突っ込みにも余裕を持って答えられた。

 なにより彼女の方が求めてくれたから。

「ふぅん? まあ、わ、私には関係のないことだけれどっ」

「彼女に気遣って下さったのですよね? ありがとうございます」

「なっ……」

 心が満ちてゆく。

 今ならなにをされても笑顔で許せそうだ。仮に目の前でエステルちゃんとアレンがパコパコし始めても、朗らかな気持ちでオカズにできそうな気がする。否、きっとできる。間違いなくできる。

 そうこうするうちに、一歩を踏み出した愛しい美少女の姿が。

「そ、そういう訳だから、このオッサンは私のだっ!」

 声高らかに宣言するJC。

 揺れる黒髪ツインテール。

 靡くチェック柄のミニスカート。

 かつてこれほどまでに求められたことがあったろうか。その視線は主にエディタ先生へ向かって思える。これまで一緒にレポート作業を行っていた都合、飲食を共にするシーンも度々お見せしていた。そうした経緯が働いてのことだろう。

 対して彼女たちは無言。

 どうやら醤油顔の彼女に圧倒されてしまったようだな。

 JC可愛いよJC。

「それじゃあ、わ、私、教師に呼ばれてるから!」

 顔を真赤にしたまま、パタパタと駆けてゆく美しき女子学生。

 あまりにも普通で、あまりにも女の子らしい女の子。

 中年野郎の心、完全に奪われてしまったな。



◇◆◇



 その日の晩のことだった。

 異性から愛の告白を受けるという、生まれて初めての経験は、心身に大きな影響を与えていた。高ぶる気持ちに眠気は訪れることなく、床へ就いたものの一向に眠れず、ベッドの上で悶々とした気持ちを抱えつつ、ゴロゴロと転がっていた。普段なら快眠間違いなしのゴッゴル臭も、今晩に限っては効果が薄い。

 そうした最中のこと、コンコンコン、部屋のドアをノックする音が響いた。

「……はい」

 もしかしてJCだろうか。

 JCだったりするのだろうか。

 ドアを開けたら、顔を赤らめた美少女がパジャマ姿で枕を抱えていたりして。それとなく部屋に促せば、脇を通り過ぎる彼女からはお風呂あがりの良い香りが。やがて辿り着いた先、いつの間にやらシーツの上に腰を落ち着けたJCは、思いもよらぬ積極性を見せて、その手をこちらの太もものあたりへ。

「…………」

 来た、来てしまった。

 ついにこの瞬間が訪れてしまったようだな。

 ゴクリ、生唾を飲み込んだところで、ベッドから起き上がる。ベッドサイドのテーブルに放ってあったガウンを手早く着込んで、早歩きでドアの下まで歩む。

「はい、すぐに開けます」

 錠を落としてドアを押し開く。

 すると、どうしたことか、そこにはエステルちゃんの姿が。

 姿格好は昼に眺めた際と変わらず、余所行きの貴族仕様。

「……エステルさん?」

「ちょ、ちょっと、いいかしら?」

「え、ええ、まあ、構いませんけれど……」

 JCじゃなかった。

 JCじゃなかったよ。

 というか、何故にエステルちゃんだ。

「立ち話もなんですし、奥へどうぞ」

「そ、そうねっ」

 こんな夜更けにどうしたのだろう。

 思い起こせばロリビッチとは、学園の学生寮で幾度となくお部屋トークしている。そうした過去の経験も手伝い、気づけば当初の緊張は失われて、むしろ彼女が来訪した理由にばかり意識が向かう。

 アレンと一緒の手前、深夜に他所の男の部屋を訪れるなど破廉恥な。

 まあ、相手が醤油顔では、なにがどうすることもないのだろうけれど。

 エステルちゃんをリビングまでご案内すると共に、自身は部屋備え付けの簡易キッチンに向かう。ファイアボールで手早く湯を沸かしたところで、学園寮から持ち込んだ茶葉で煎れることポットへコポコポと。

 然る後にカップと併せて、お客様の下へ。

「どうぞ」

「え、えぇ。頂くわ」

 煎れたてをエステルちゃんにご賞味頂く。

 いつぞや学園の喫茶店でゲットした代物だ。あれ以来、ソフィアちゃんにお願いして、継続的に仕入れてもらっている。今回の出張では飛空艇にも幾らばかりか積み込んでいた。同店舗の常連らしいロリビッチだから、もしかしたら味に気づくかもしれない。

「……これ、どこかで飲んだような香りね」

「そうですか? 私のお気に入りです」

「どこだったかしら……」

 お茶を飲む機会など沢山あるのだろう。

 そう容易には思い至らないようだ。

 ちょっと残念。

「ところでフィッツクラレンス様、このような夜更けにどうされました?」

「え? あ、いいえ、少し、あ、貴方と話をするべきだと思ったの」

「私と話を?」

「そ、そうよっ!」

 この期に及んでなんだろう。

 こちとら今も現在進行形で、エステルちゃんとの距離感に頭を悩ませている。向こうからしたら、昨今の醤油顔は完全に他人だ。以前に指摘されたよう、何気ない呼称にも注意が必要なほど。

「急ぎの用件でしょうか?」

「急ぎといえば急ぎかしら」

「なるほど」

 つい先日までのロリビッチであれば、路上に落ちた糞でも眺めるよう、辛辣な眼差しを送ってくれていた。それが自ら相手の居室まで足を運び、わざわざ言葉を交わしたいだなんて、また随分な心の変化である。

「た、助けてくれたこと、お礼を言っていなかったから……」

「……お礼?」

「たとえパパとの約束があったとしても、助けられたのは事実だわ。だ、だから、夜遅くに悪いとは思うけれど、その、か、感謝するわ、タナカ男爵」

 あぁ、思い至った。触手ナメクジでの一件を巡ってだろう。

 わざわざお礼を言いに来てくれたようだ。

 本当にこういったところ、マメだよな。流石はリチャードさんの娘さんだ。

「いえ、お気になさらずに」

「もしも何か望むモノがあれば、私に叶うのであれば用意するわ」

 同時に借りを作らないよう早々に対価を用意するべく動く点も然り。

「それでしたら、私からは本日の昼にお伝えしたとおりですね」

「え?」

「私の存在がご迷惑を掛けている点は申し訳なく思います。ただ、今はアレンさんのことを信じてあげてください。そして、共にリチャードさんの下へ戻るのです。アレンさんのことは私の方から取り成しておきますので」

「タナカ男爵は私とアレンのことを知っているのかしら?」

「アレンさんは将来、フィッツクラレンスを背負って立つに相応しい人物です。リチャードさんもいつかは認められるでしょう。故に今はビッチ伯爵の下で経験を積むべきだと思います。エリザベス様には、これを傍らより支えて頂けたらと」

「……貴方はビッチ伯爵のところの貴族なのかしら?」

 少しばかりエステルちゃんの眼差しが鋭くなる。

 ここは勘違いして欲しくないところだ。

「いいえ、私はリチャードさん直系の派閥だと考えてください。ただ、アレンさんとビッチ伯爵の関係については理解しております。今は伯爵も距離をおいておりますが、アレンさんの方から頭を下げれば、きっと首を立てに振りましょう」

「…………」

「信じられませんか? 私が仲介しても構いませんが」

 これでなかなか、ロリビッチは賢い娘さんである。いらぬ誤解を受けては、リチャードさんを巻き込んでの大騒動となりかねない。これまでは盲目的に信じてもらっていたけれど、今回はちゃんとこちらも誠意を見せなければならない。

「どうして、そんなにアレンのことに構うの?」

「友人の為に気を利かせるのは、人として普通の行いではありませんか?」

「アレンと貴方が?」

「はい、そうです。私もつい数週前までは彼と同じ平民でした」

 あのイケメンは良いイケメンだ。

 素直に幸せになって欲しいと思える、数少ない相手だ。

「…………」

「疑われますか?」

 ジッと真正面から見つめさせて頂く。

 あまりオススメできる顔ではないけれど、今ばかりは四の五の言っていられない。万が一にも怪しまれては大変だ。例の日記のおかげで、昨今、エステルちゃんの中における自分の立ち位置は最悪であるから。

「もしも不安でしたら、リチャードさんに確認して頂いても結構です」

「……私、遠慮無くするわよ? 嘘だったらただでは済まないわよ?」

「なんら構いません。是非、同席させて下さい」

「…………」

 すると、こちらの真意が伝わったのだろう。

 フッとエステルちゃんの表情から険しさが取れた。

「いいえ、結構よ。たぶん、貴方の言う通りなのでしょうね……」

「ご理解ありがとうございます」

 良かった。

 どうやら信じて貰えたようだ。

 つぶやいてはカップを手に取り、ゴクリ、喉を鳴らすエステルちゃん。釣られて自身もまた手元のカップに手を伸ばす。他に音のないリビングで、お互いの喉の鳴る音だけが、妙に大きく響いては聞こえた。

 ややあって、再びエスエルちゃんが口を開いた。

「それと私からの話なのだけれど、も、もう一つあるわっ」

「はい、なんでしょうか?」

「講演会の会場では、皆の前で酷いことを言ったこと、ごめんなさい」

 なんということだ。

 エステルちゃんの口からごめんなさいが。

 ごめんなさいが飛び出してきたぞ。

「いえ、そちらもお気になさらず。エステルさんのご指摘は的を射たものでした。むしろ、ご意見を頂戴できたことで、会場も盛り上がったように思います。私も思うところあり、意識を改めさせて頂きました」

「で、でも、私は貴方を公衆の面前で侮辱したのよ!?」

「あの程度の軽口、侮辱には入りませんよ。単なる議論ではありませんか」

「っ……」

 あれくらいの文句をいちいち気にしていたらブサメンは生きていけない。

 イケメンとは違うのだよ、イケメンとは。

 あぁ、イケメンと言えばアレンだ。

 流石にこれ以上、夜遅くにロリビッチを留めるのは申し訳ない。

「ところで、あまり長くこちらに居てはアレンさんに……」

「か、彼女ができたばかりの貴方にこういうことを伝えるのは迷惑かもしれないけれど、もしもなにかあったら、私を頼ってくれて良いわ! タナカ男爵!」

「……よろしいのですか?」

「レポートの件でも負けっぱなしじゃないの! それくらいしなければ、私のプライドが許さないわ! だから、いいわねっ!? タナカ男爵!」

「そういうことであれば、分かりました。ありがたく頂戴いたします」

「そ、そうしなさいっ!」

 吠えるように呟いたところで、プイとそっぽを向いてしまうエステルちゃん。少しばかりタナカ男爵に対する態度が軟化したのは、きっとこちらの気のせいではないだろう。多分、触手ナメクジを巡るあれこれで、侮蔑モードを限定解除してくれたのだろう。

「そ、それだけよっ! ちゃんと伝えたのだからねっ!」

「はい、確かにお伝えしていただきました」

「ふ、ふんっ! 夜遅くに失礼したわねっ! 次は絶対に負けないわ!」

「はい、おやすみなさい。私で良ければいつでも受けて立ちますよ」

 そして、語りたいだけを語ったところで、エステルちゃんは部屋から去っていった。お話をしていたのは、ほんの僅かな時間である。ただ、彼女の座ったソファーの正面、お茶をお出ししたカップは、いつのまにやら空っぽになっていた。

 底を顕とする陶磁が、妙に愛おしいものに思えてしまったのは、きっと気のせい。

「……寝よう」

 これがツンデレの威力か。

 何故か少し眠れそうな気がする。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ