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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫

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学園都市 九

 縦ロールに約束を取り付けた帰り道のことだった。

 ふと歩む廊下の先、曲がり角の向こう側から人の声が聞こえてきた。そこはちょうど、自分に割り当てられた一室が並ぶ界隈である。ちなみに自室を中央として、左右にエディタ先生とゴッゴルちゃんに当てられた部屋が続く。

 もしも穏やかな調子であったのなら、構わず歩みを進めていただろう。しかしながら、届けられる声色は幾分か険しいもの。昨今の低LUC事情を鑑みれば、素直に横切って面倒に晒されるのは勘弁願いたい。

 自然と歩みが止まる。

 すると、後ろを歩んでいた縦ロールが背中に衝突。

 彼女らも宿舎はこちら側らしいのだ。

「ちょっと、いきなり止まらないで欲しいのだけれどぉ?」

「貴様っ、よもやご主人との接触を狙ったのではあるまいな!?」

 彼女の隣を歩んでいたマゾ魔族からも非難の声が。

 悪いが狙ってないと言えば嘘になるぜ。

 オッパイがムニュリとなって最高だった。

「すみません、なにやら剣呑な声が聞こえてきたもので」

「剣呑な声? そんなもの放っておけば良いじゃなぁい」

「それはそうなんですが……」

 それとなく角から顔を覗かせる形で、行く先の様子を窺わせて頂く。縦ロールもまた同様、自らの下にしゃがみ込んでこれに習う。都合、ブサメンと美少女が建物の壁に沿って縦に並ぶ形だろうか。

 背後ではキモロンゲが酷く不服そうな顔でこちらを睨んでいるが、まあいいや。

「あれは……」

 視界の先には見知った相手の姿があった。

「背の高い方はピーコックといったかしらぁ? ここの学生じゃないのぉ」

「小さい方はアウフシュタイナー家の方ですね。どうしたのでしょうか」

 ピーちゃんとJCが互いに向き合い見つめ合っている。

 我々の居室から数メートルの地点だ。

 もしもその眼差しが熱に潤んでいたりしたら、即座に回れ右をして小一時間ばかり時間を潰しに出掛けたことだろう。あるいは男色家であるピーちゃんにJCが振られる様子を諸行無常の心で眺めたかも知れない。

 だがしかし、JCのピーちゃんを見つめる眼差しは、偏に嫌悪だ。

 もしかしたら害意、なのかもしれない。

 いずれにせよ否定的な感情が露骨なまでに浮かんでいる。

 一方でこれに対するピーちゃんはと言えば、出会って当初の穏やかな調子である。相変わらずな女顔に丸メガネを装備した顔立ちは、尻穴を掘られる為に生まれてきたと称しても過言ではない。

 また、そんな彼と彼女の傍らには、何故か食事の乗った配膳台が。

 如何せん判断に迷う状況から、ひとまず傍観することと決める。以前、JC本人が語っていた事柄を思い起こせば、少なくとも後者は前者に対して好意を抱いていた筈だ。それがどうして睨むまでに至っているのか。

 耳を傾ければ、より鮮明に聞こえてくるのが二人のやり取りだ。

「ここはオッサンの部屋だぞ!」

「ええ、そうですね。僕は食事を運んできました」

「どうしてピーコックさんが、オッサンの食事を運んできたんだよ?」

「どうしてもタナカさんと、お話したいことがあるんです」

 どうやらピーちゃんがお食事を運んできてくれたらしい。

 それにJCが噛み付いているようだ。

 ブス教授に言わせて多忙だというピーちゃんが、一国の大使の為に食事を運んでくるというのは不自然だ。一方で話したいことがあるというのであれば、幾分か自然なようにも思える。ただ、そこまでして話したい事柄というのは、それはそれで気になる。

 一方でJCが醤油顔ルーム界隈を彷徨いている点に関しては納得がゆく。明日に迫ったレポートの発表会に関して、我々と打ち合わせを行う為に足を運んだのだろう。これまでも幾度となく訪れているし、今更この辺りをうろついていても不思議ではない。

「どうしたのかしらぁ? 随分と険悪な雰囲気ねぇ……」

「そうですね。まるで喧嘩でもしているように見えます」

 縦ロールと共に適当を語らい合いながら様子を窺う。

 こちらに気付いた様子がない二人は、同所にやり取りを続ける。

「オッサンと話したいことって、なんだよ?」

「一介の生徒に過ぎない貴方には関係のないことです」

「だったら、質問の仕方を変える」

「なんですか?」

「……その料理に何を入れたんだ? ピーコックさん」

 ピーちゃんの瞳を真正面から見つめて、JCが問いかける。

 怠惰が常であっった彼女らしからぬ真剣さである。

「なんのことですか?」

「私は見てたんだ。ピーコックさんが、その料理に何かを入れる姿を。廊下の柱に隠れながら、瓶から白い液体を垂らしてた。絶対に見間違いなんかじゃない」

「…………」

 え、ちょっと、それは流石に勘弁だろ。

 自然と脳裏に浮かんだのは、いつぞや学園の図書館で眺めた濃厚なオチンチン劇場。もしかして、ホワイトソースとか入れられちゃってるのだろうか。おいおい、そう考えた途端に食欲が失せてゆくぞ。仮に入っていなくても美味しさ五割減だ。

「……貴方、案外好かれているのねぇ?」

「いえいえいえ、如何に同性愛者でも、私を相手に発情する輩は居ないでしょう」

「そうかしらぁ?」

 完全に他人事な縦ロールにからかわれるの切ない。

 そうした当人の思いなど知らず、少年と少女のトークは継続。

 続くところJCが一歩を踏み出すと共に声も大きく吠えた。

「な、なんとか言ったらどうだよっ!」

「…………」

「それとも言えないようなことなのかっ!?」

 どうやら醤油顔なんかの為に頑張ってくれているらしい。

 つい先日までは一方的に親の脛かじり認定の上、視界に入ればゴミでも眺めるような眼差しで見つめてくれていたのに。もしかして、もしかしたら、触手ナメクジ戦での頑張りを多少なりとも評価してくれたのだろうか。

 対して、これに応えるピーちゃんはと言えば――――。

「……きゃんきゃんとうるさいガキだよ」

 ここへ来て裏人格登場だ。

 穏やかだった表情が一変してブス教授のように怖くなる。感覚的にはリチャードさんと同系統だ。彼の場合は完全にライン状態の瞳がジロリ開眼するタイプ。一方でピーちゃんの場合は顔にシワが出来るタイプというか、こう、なんか、彫り深さ増量。

「えっ……」

 当然のようにビビるJCかわいい。

 驚愕から大きく開かれた瞳が対照的だ。

 そんな彼女にピーちゃん裏バージョンは唸るよう答える。

「見て見ぬ振りをすれば楽に死ねたのに、わざわざ自ら姿を現すとは馬鹿な奴だね。そんな体たらくだから実家も粛清されるんだ。一家揃って愚か極まりない」

「家は……家は関係ないっ!」

「こうなったら、あの男に先んじてオマエからだよ」

 焦るJCに向けて片腕を上げるピーちゃん。

 これは危険な予感、咄嗟に一歩を踏み出そうと自重を片足に。

 そうした瞬間のこと、こちらに先んじる形でJCが動いた。

「や、やらせないぞっ!」

 ピーちゃんの腕が掲げられて直後、JCが呼応するよう両腕を正面に突き出した。同時に発せられたのは、目に見えない衝撃波。相手に向けて掲げられた手の平から生まれて、その法線方向に突風が吹き荒れる。

 撃たれた側は完全に想定外であったよう。

 その身を後方へ飛ばせると共に、壁へ背中を打ち付ける羽目となった。

「かはっ……」

 ドスンと壁面に身体を叩きつけられて後、廊下に尻もちを着くピーちゃん。

 これをJCは両腕を前に突き出した姿勢のまま睨みつける。

「わ、私を舐めるなよっ!? これでも学園の生徒なんだからなっ……」

 なんだよJCめ、意外と頑張るじゃないか。

 今のちょっと格好良かったぞ。

 伊達に入学当時は飛び級の上、最年少で主席を勝ち取っていない。

 イジメっ子一同から齎された過去の栄光は正しかったようだ。

「くっ、油断した。無詠唱とは小賢しいまねをしてくれるじゃないか」

「お、お、おとなしくしろっ! これ以上は許さないぞっ!?」

 膝をガクガクと震わせながら、それでも必至に凄んで見せるJC。二人の年齢差を考えれば当然の怯えだろうか。小学校入学当時、六年生のお兄さんお姉さんは恐怖以外の何者でもなかったからな。ベースこそ異なるが、二人の体格差はそれと同じくらいある。

「ちっ……」

 ピーちゃんは廊下に腰を下ろしたまま、忌々しげにJCを見上げる。

 ほんの僅かなやり取りで、早々状況は決したように思われた。

 そうした最中のこと、同所へ他から響いては届く第三者の声が。

「おい、アウフシュタイナーのやつがなんかやってるぞ」「本当だ……っていうか、魔法?」「もしかして今の風の流れってコイツが?」「おいおい、こんな場所で無許可に魔法をつかったらヤバイだろ。ヘタしたら国際問題だ」

 どうしたことか、イジメっ子三人組である。

「っていうか、倒れてるのピーコックさんじゃないか?」「え? たしかブス副代表のところの……」「マジかよっ! 中央のエリートさんじゃないか!」「ブス教授の目に止まって、西の特待から引きぬかれたって話だったよな」「そうそう、それだ!」

 普段であればイケメンが先頭に立っているところ、ガリメガネが先導している。故に合点がいった。きっと触手ナメクジでの一件から、エステルちゃんにお礼と謝罪をするべく訪れたのだろう。その手には綺麗に包装された折菓子のようなものも見受けられる。

「あ……」

 彼らの声を耳としたところで、自然とJCの意識もまたそちらに動いた。

 形の良いお口から、小さく間の抜けた声が響く。

 その瞬間だ。

「っ……」

 ピーちゃんが動いた。

 飛行魔法で身を飛ばすと共に三人の下へ瞬く間に移動。

 かと思えば、懐から取り出した小さな杖を彼らの首筋に向けて固定。盗塁を狙う走者のような姿勢で、片腕のみ杖を支えるに掲げている。どうやら先程のJCによる不意打ちは、想像した以上にピーちゃんへダメージを与えていたようだ。

「……友達の命が惜しいなら、大人しくするんだ」

「なっ……」

 おかげで彼の悪役感が半端ない。

 最高に追いつめられて思える。

 出会って当初のキャラが完全に消えてしまっているじゃないか。ブス教授の手腕に甘い声を漏らしていたショタっ子はどこへ行ってしまったのか。もしも平成の時分に生まれていたのなら、現役男子高校生男の娘のアイドルとして食っていけるほどの逸材が。

 イジメっ子三名も状況が掴めないようで、困惑の表情を晒すばかり。

「……出て行かなくって良いのぉ?」

「出て行くタイミングを逃したと申しますか……」

 縦ロールにダメ出しされてしまった。

 いつぞや郊外の遺跡で垣間見たピーちゃんの魔法を鑑みれば、すぐにでも飛び出してゆくべきだろう。お助けに馳せ参じるべきだろう。けれど今はもう少し、このまま隠れて様子を見ていたいと思った。

 今し方、声高らかに吠えてみせた格好の良いJCの姿。あれをもう少しばかり眺めていたいと思ったのだ。もしかしたら今回の機会は彼女にとって、決してマイナスばかりではないような気がするのだ。

 キモロンゲとの接触が、JCに成長の機会を与えたのではないかと。

「子を見守る親のような目ねぇ?」

「そこまで老けてませんよ。まだ三十代です」

「それもう十分に親よぉ……」

 縦ロールとああだこうだ言い合いながら監視を続行。

 もちろん治癒魔法を放つ準備だけは万全に整えてのこと。ピーちゃんの魔法がJCにとって脅威である点は、いつぞや郊外の施設で確認済みだ。万が一があってはならない。なにが起こっても癒し切る心意気。

 醤油顔と膜付ロリ巨乳の見つめる先、少年少女たちの舞台は進んでゆく。

「なんのつもりだよっ! そ、そいつらは関係ないだろっ!?」

「うるさいっ! いちいち吠えないでくれないかっ!?」

「どうしてピーコックさんはこんなことするんだよっ! 前に会ったときは、遺跡で私たちのことを助けてくれただろっ!? めちゃくちゃ感動したんだからなっ!? それがなんで、こんなことになってるんだよ!」

 段々と声色を荒げてゆく二人。

「ああ、そうだよ。あの時点で殺しておくべきだった」

「え、なんでそんなこと……」

 続くところピーちゃんから伝えられたのは予想外の独白だ。

 おかげで少し分かったかも。

「当然だろう? まさかこのタイミングでキメラ体が暴走するなんて、あぁ、せっかく中央に認めて貰うチャンスだったのにっ! ジャーナル教授の留守を図ってまで、ようやっと漕ぎ着けた実験だったのにっ!」

「キメラ体? もしかして、昨日街の方で暴れてたのは……」

「まさか周囲の生き物を取り込んで増殖するとは、流石は元魔王の肉片といったところだよ。おそろしまでの生命力だった。一連の過程だけでも、まとめれば中央へ迎えられるには十分だろうに、あぁ、どうして暴走だなんてっ……」

 どうやら件の触手ナメクジは、郊外に見つけた施設から逃げてきたモノらしい。

「僕の理論は完璧だった。暴走など起こるはずがないんだっ!」

 また、数日前に見つけた地下構造物はピーちゃん管理の施設であったよう。現場で居合わせた際には、他から報告を受けて調査に、みたいなこと言っていた。そうした供述が、そもそも嘘だったということだろう。

 思えばその当時、やたらとゴッゴルちゃんがアラートを挙げていた。

 ゴッゴル注意報発令していた。

 彼女がピーちゃんから読み取ったのはこれだったのか。

「……なるほど」

「なによぉ? したり顔で頷いてみたりしてぇ」

「いえ、ようやっと合点がゆきました」

「ふぅん?」

 おかげで二人が今この状況へ至った理由に追いついた。

 あれだけ巨大な化け物が移動してきたのだ。出元は容易に特定されるだろう。そして、騒動が大聖国も絡んだ会合の最中に起こったとなれば、原因究明の調査が厳しく行われることは目に見えている。

 そうした只中のこと、偶然にもその生産地へ至ってしまったのが我々だ。

 口外される前に殺ってしまおう、といった酷く単純な算段であったのだろう。料理に対する異物混入は、決してホワイトソースなどではなく、毒の類であったに違いあるまい。よかった、食欲が戻ってくるのを感じる。

「ピーコックさん、どうしてあんなモノの研究なんてしてたんだよ!」

「うるさいッ! 黙れよっ!」

「っ……」

 遠慮無く吠えるピーちゃん。

 ビクリと肩を震わせるJCがいちいち可愛いぞコノヤロウ。

 普段は偉そうな口を叩く割に肝っ玉の小さいところや良し。

「僕は強くならなければならないんだ、もっともっと強くっ!」

「ピーコックさんはもう十分に強いじゃないかっ!」

「強くなんてないっ!」

 ピーちゃんはJCを忌々しげに睨みつけて、繰り返すよう続ける。

「もしも本当に強かったら、こんな惨めな気持ちになるものかっ! 強いっていうのは、こんなのじゃない。今の自分は酷くちっぽけで、卑しくて、必至で、こんなの、こんなの本当の僕じゃないんだっ!」

「……ピーコックさん?」

 嘆くように吠え散らかすピーちゃん。

 流石のJCも困惑して思える。

「オマエみたいな貴族の生まれが、この僕を強いというのか? ふざけてる! そんなの絶対にふざけている! 僕がこれまでどれだけ、どれだけ苦労をして、今の地位を手に入れたと考えているんだっ!」

「そ、そんなの私が知るかよっ……」

 ちょっとヒスが入り始めたピーちゃん。

 女々しさが加速して思える。

「僕はここで成功するしかないんだよっ! 他に道なんてないんだっ! ここで認められなかったら、もう野に下るしかないんだっ! なにも残るものなんてないんだ! だから、だからもっと力を手に入れないとっ……」

「…………」

 それを言うなら実家が粛清されたJCも同じだと思うのだけれどな。

 にも関わらず学内ニートしていた彼女の神経の図太さには惚れ惚れする。

「だから、その為なら教授のチンポだって幾らでもしゃぶってやるさっ!」

「……え?」

 そして、ここでまさかのチンしゃぶ告白。

 ピーちゃんが咥えていたと知らないJCなど完全に意味不明だろう。

 のっぴきならない状況に本人も感極まって思える。

「誰が好きで男のチンポなんて咥えるかっ! でも、それでも、僕にはそれしかないから、だから、生き残る為にはなんだってするっ! そして、いずれは上に立ってやるんだっ! この学園の一番上に!」

「…………」

 流石のJCも絶句だ。

 チンポはないだろ、チンポは。ブス教授がホモだったせいで、ちょっと良い感じのシーンが台無しだ。もしかしなくてもピーコックさん、ブス教授に囲われてた予感がヒシヒシと。しかも自分からお口開いた系だろこれ。最高にオスビッチだわ。

「そ、そんなに嫌なら、しゃぶらなければいいじゃんかよ!」

 そんな彼の台詞をいちいち拾ってあげるJCは意外と良いヤツだ。

 もしかしてこっちもこっちで経験あったりするのだろうか。

 それは流石にショックだろ。

「しゃぶらなきゃ守れない居場所があるんだよ!」

「私だったら絶対にしゃぶらない! 好きでもない相手のモノなんて誰がしゃぶるもんかっ! は、始めては好きな人とするものだろっ!? どうして嫌な相手のなんて、す、す、するんだよっ!?」

「うるさい! だまれ! だまれよっ! 弱者はしゃぶるしかないんだよ!」

 論点が卑猥な方向へずれゆくのを感じる。

 更に続けざま、JCの正論がピーちゃんの心にグサリ。

 だがこちらも得るものはあった。

 今の発言から鑑みるに、イエス、JCはきっと処女だ。

「そんなの立場とか関係なくて、ピーコックさんの心が弱いからだろっ!?」

「っ……」

 まったくもってその通り。

 本人も少なからず理解していたのだろう。

 殊更に表情を悪くする売り専少年。

 結果、その精神が遂に崩壊を向けた。

「あぁぁあああああ、もう、もうっ! なんかもう君ら死ねよっ!」

 これが自然な流れなのかもしれない。ピーちゃんがキレた。

 杖の先がガリメガネに向けられる。

 これまで辛うじて理性を保っていたピーちゃんがブチ切れてしまった。チンしゃぶしながら僅かばかりの未来に希望を見出していたプライドが、我々の目前で遂に瓦解してしまった。せっかくのおしゃぶりも、これで全てが水の泡ではないか。

「だからってそいつらは関係ないだろっ!? や、やめろよっ!」

「だったら動くな? いたぶってやる、もう僕は終わりだっ! 学園都市から追放される。いいや、極刑に処されるだろう。だから、せ、せめてオマエだけは、オマエだけは殺してやるっ! あぁそうだ、僕のチンポをしゃぶらせてから殺してやる!」

「なっ……」

 次いでまさかのしゃぶらせる宣言。

 今一度、両腕に力を込めるべくJCの身体が動く。

 これにピーちゃんが吠えた。

「動くなっ!? 動いたらこいつらから殺すっ!」

「っ……」

 途端、ピタリとJCの肉体が強張る。

 続くところ魔法は発動しなかった。

 相手は自分を虐めていた連中だろうに、いつものJCらしくない。つい先日には我が身可愛さから、エディタ先生を見捨てたというのに。この僅かな間に何かしら心変わりがあったのは間違いないように思われる。

 やはりキモロンゲだろう。

 キモロンゲとの接触が彼女に意識改革を与えたに違いあるまい。

 くそう、イケメンは偉大だな。その存在だけで社会貢献できるのだから。

「簡単には殺さない! せいぜい苦しんで死ねばいいさっ!」

 ピーちゃんの腕が振るわれる。

 応じてJCの身体が大きく傾いては、バタリと地に倒れた。

 魔法だ。

 腕の一振りで彼女の右足首が切断されていた。

「っぅぐうぅうううう……」

「おいおい、まさか本当に障壁の一つも張らないのか?」

「……っう、うぅ」

 歯を食いしばり、必死の形相で痛みに耐えるJC。

 これをピーちゃんは酷くつまらなそうに眺めては語る。

「ふん、わざわざ自分の身を削ってまで堪えるとか、どんだけ大切なお友達だよ」

「こ、このくらいっ……あの人に比べたら……」

「ふぅん? つまらないなぁ。そういう美談、僕は嫌いだね」

 綺麗に切り飛ばされた患部からは血液が吹き出す。

 尻もちを突いた廊下の床、赤い色をジワリジワリと広げ始める。

「そんなに友達が大切なの? あぁ、やっぱり貴族ってやつは心が裕福なんだな。羨ましい。友達だなんて、そんなの僕には一度もいたことがなかった。あるのは利用するかされるかの関係だけだった」

 廊下に転がるJCを眺めて、ピーちゃんが狂気染みた笑みを浮かべる。

 出会って当初の優男系イケメンの姿は寸毫も窺えない。

 言動も含めて、完全にメンヘラのそれだ。

「っ……べ、別に、大切なんかじゃないっ! むしろ大嫌いだ!」

 声も大きく、吠えるように語ってみせるJC。

 その痛々しい姿に満足を得たのか、ピーちゃんに幾らか余裕が戻る。

「無詠唱はさっきので打ち止めか? いいざまだよ、今の君は」

「あんなの幾らでも撃てるっ!」

「ふんっ、また随分と強がってくれるね」

 二人のやり取りを眺めては、イジメっ子一同からも声が上がった。そりゃそうだろう。つい先日まで一方的に虐めていた相手が、今は自らの身を挺してまで、自分たちを庇ってくれているのだから。

「お、おいっ、どうしてピーコックさんがアウフシュタイナーのヤツを攻撃してるんだよ!?」「っていうか、もしかして僕たち、ア、アウフシュタイナーに庇われてるのか?」「そんなわけないだろ!? だって俺ら、アイツにどんなことしてきたか……」

 ピーちゃんから杖を向けられている為、逃げることも叶わず、三人組はガクガクと震えるばかりである。一介の学生に過ぎない彼らにとって、教授付きの生徒とは遥か格上の生徒であるらしい。向けられた杖の重みも相応なのだろう。

 事実、ピーちゃんの魔法はそれなりに脅威だ。

「次はどこを狙って欲しい? 腕か? 腹か?」

「う、うるさいっ! 好きにすればいいじゃんかよっ!」

「ああそう? なら好きにするよ」

 再びピーちゃんの腕が振るわれる。

 今度は左足首が切断された。

「っ……」

 JCの顔が痛みに強張る。

 ただ、それでも強がってみせる彼女の顔は、なかなかどうして、格好良いじゃないか。今にも泣き出しそうな顔で、それでも必至に涙を堪える姿がポイント高い。格好いい。燃える。まるでお伽噺の中に見つけた主人公のようだ。

 もうニートだなんて、言えないなあ。

「……こ、このくらい、あの人に比べたら、あ、あの人にっ……」

「なんだよ? のたうちまわれよ? 痛いんだろう? なぁ?」

「へ、へんっ! ぜんぜん、ぜんぜん痛くなんてないねっ!」

「このっ……」

 廊下に転がったまま、それでも必死に強がってみせるJC。

 そんな彼女の姿に苛立ったのだろう。

 鼻の頭にまでシワを寄せて、ピーちゃんが吠え狂う。

「ああもうっ! チンポも碌にしゃぶったことのない勝ち組は死ねよっ!」

 再三に渡りピーちゃんの腕が振り上げられる。

 流石にこれ以上は不味いだろう。隣では縦ロールが物言いたげな表情で、何を語るでもなく、こちらを見つめている。醤油顔的にもここいらが限界だ。ピーちゃんの興奮具合からして、経過を見守るにも難しいところまで進んで思える。

「これで終わりだっ!」

 衝撃波がJCに迫る。

 タイミングは今だ。

 ピーちゃんの腕が振るわれる直前、飛行魔法により自らの肉体を打ち出す。

 数秒と要せず両者の間に身を滑りこませる。

 仁王立ちの上、両腕を正面にクロスさせて、守りの姿勢が格好いい。

「なっ……」

 衝撃波はブサメンの腕に当たり砕け散った。

 背後に控えたJCは無事。

 よし、成功だ。

 ここ最近のステータス上昇から、多少の魔法は生身でも弾けるのではないかと、考えた次第である。いつぞやぺぺ山での冒険に際しては、レッドドラゴンがエステルちゃんやゾフィーちゃんの魔法を正面から受けていたのを見ていた。

 いよいよ近づいてきたステータスから、出来るのはないかと妄想していた。

「オ、オッサン……」

「よく頑張りましたね、アウフシュタイナーさん」

 JCは頑張った。

 最高に格好良かった。

「とても格好良かったです。後は任せて下さい」

 だから、ここから先は中年野郎に格好つけさせて下さい。



◇◆◇



 舞台は変わらず学園都市の中央棟に所在する廊下の一角。

 ただし登場人物に一部追加があり、その平均年齢を著しく上昇だ。かなり神経を張りながら見守っていた手前、タイミングは完璧だった。どうやら無事に対立する両者の間へ割り込めたようだ。

「今……オッサン、ま、魔法を腕で……」

 腕を下ろすと共に、狼狽えるJCへ治癒魔法をプレゼント。

 痛いの痛いの飛んでゆけ。

 魔法陣が浮かび上がったかと思えば、瞬く間に失われた両足首が復帰する。

「え? なっ……あ、足がっ……私の足がっ……」

 あっちを見たり、こっちを見たり、とても忙しそうだ。

 一方で忌々しげにこちらを睨みつけてくれるのがピーちゃんである。

「流石はフィッツクラレンス派閥の貴族だな。僕の魔法をゼロ距離で防ぐとは、随分と良い装備を持っているじゃないか。是非とも欲しいところだよ、タナカ男爵」

「試してみますか?」

「上等だっ! チンポもしゃぶったことのない勝ち組がっ!」

 それもしかして決め台詞なんですかね。ノンケであるかもしれないし、ノンケでないかもしれない。そんなシュレディンガーのホモと化したピーちゃんが、本能の訴えるままに吠え散らかす。

 早々、衝撃波が飛んできた。

 だがしかし、今度は腕をクロスで格好つけづとも霧散。

 空気の塊は表皮に当たったところで、ドゥンと低い音を立てたかと思えば、どこへとも消え去った。威力の大半を失い、そよ風と化した余波が自らの脇を流れる。他に居合わせた面々の髪や衣服をパタパタと靡かせる。

 思ったより痛かったけど、決して我慢できないほどじゃない。

「なっ……」

「まだやりますか?」

「こ、このっ!」

 挑発したところ、ピーちゃんはこれでもかと魔法を放つ。

 風属性なあんちくしょうはまだしも、炎だったり雷撃だったりが飛んで来ると、流石にビビる。自然と腕をクロスしてしまうのは、まだ自らのステータスに太鼓判を押せないが所以だろうか。

 ただ、幸いにして全ては微々たる損傷に過ぎていった。

 唯一例外があるとすれば、それはお洋服。

 つい先日にも触手ナメクジ戦で一着を失ったところ、立て続けに二着目を本日ロスト。全裸。それもこれもリチャードさんが用意してくれた貴族用のおべべである。きっと相当にお高い代物だから、少しばかり反省だろうか。

 道中、空賊から魔石とやらを回収しておいて良かったと切に思う。

 そんなこんなで数分ばかりが経過した。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

 終ぞ呼吸を荒くし始めるピーちゃん。

 MP的な何かが尽き始めたのだろう。

 自分も経験あるから分かる。結構辛いよな。

「……終わりですか?」

「ば、化け物っ……この、化け物がっ……」

 キモロンゲ相手ならまだしも、同じ人類から化け物扱いは困る。下手に悪評でも広がっては面倒だ。そろそろ終わらせてもらおう。これだけ脅せば、以降はJCに危害を加えようという気も起こるまい。

 わざわざ露骨なまでに魔法を身に受けてみせた理由は唯一、彼女の安全を担保する為である。今ならチンピラやヤクザ者ががメンツという単語に固執する理由が分かる。彼らは報復が怖いのだ。

 決してJCや影で見ている縦ロールに生のオチンチンを披露したかった訳ではない。

「では、次はこちらの番ですね」

 勝利を確実なものとするべく、ピーちゃんに向かい一歩を踏み出す。

 すると、彼はこちらが想定した以上に慌ててくれた。

「待てっ、ちょ、ちょっと待てっ! わかった、しゃぶる! しゃぶるから!」

 やめてよ、そういうの。

 実はもの凄くしゃぶりたいんじゃなかろうか。

 いずれにせよ嫌だけれどさ。

「……いえ、結構です」

「なら入れればいい! 幾らでも中で出せばいいっ! アイツはっ、ブス教授いつも良いって褒めてくれたぞっ! 僕の穴は世界で一番に具合が良いってっ!」

「…………」

 完全にブス教授に調教されてしまっているな。最高に聞きたくない情報だよそれ。多分だけれど、君はどれだけ成功しても、ブス教授の肉棒から離れられない。

 おかげで全体の流れは想定通りなのに、命乞いのベクトルが少し狂ったばかりか、醤油顔の活躍が完全に飲まれてしまっている。なんて無残なんだ。

「あいにく私の魔法も心までは治せないのですよ」

「っ……」

 更に一歩を踏み出したところで、ピーちゃんの顔色が殊更に悪くなる。

 ただ、彼は早々に気づいた。

 自らの傍らには人質足り得るイジメっ子一同が存在することに。

「く、来るなッ! 来たらコイツらを殺すぞっ!?」

 残念だけれど、そちらへの対処も検討済みさ。

 当初の想定通り声を上げさせて頂く。

「ドリスさん、借り一です。お願いします!」

 反応は廊下の角の向こう側、バッと姿を現した縦ロールから。

 無駄にヤル気の入った合いの手が廊下に響く。

「それは気分が良いわねぇ! ゲロス、行きなさい!」

「ご主人のご命令とあらばっ!」

 処女膜付きロリ巨乳の指示に従い、キモロンゲが動いた。

 そして、ヤツの得意な魔法は魔道貴族も唸る空間魔法。次の瞬間にはピーちゃんの傍らよりイジメっ子三名の姿が消えていた。マゾ魔族による瞬間移動二連発の成果である。瞬きをする間に人質は、廊下の角から現れた縦ロールの傍ら、場所を移している。

「なっ……なにがっ……」

 ピーちゃんの困惑も最もだ。

 この魔法には自分も苦労させられたからな。

「これで貴方を守るものはなくなりました」

「っ……」

「罪を償えだなどとは言いません。よほど悪いことをしている人たちは私の身の回りにも大勢います。二度と私の周りの方々に危害を加えないで下さい。この一点を守るのであれば、私は貴方を見逃すことも吝かではない」

 例えばリチャードさんとか、きっと間接的なものも含めれば相当数の人を殺っちゃっていても不思議ではない。っていうか、絶対に殺ッている。その上に成り立つエステルちゃんの人生など鑑みれば、まあ、世の中そういうものなんだろうさ。格差社会ってやつだ。

 せいぜいドラゴンシティでは清く正しいロリゴン政治を期待したい。

「いかがしますか?」

「う、うぁあああああああっ!」

 どうやらこちらの誠意は伝わったようだ。

 声も大きく吠えながら、我々に背を向けて逃げ出すピーちゃん。

 流石の判断力。

 これを見送っては縦ロールがボソリと。

「逃がしてしまって良かったのかしらぁ?」

「流石に彼の背景を知った後では、なんとも……」

「相変わらず甘いわねぇ。いつか命取りになるわよぉ?」

「その時はなんとかします」

「それが今まさにわたくしへ助力を乞うた者の言葉かしらぁ?」

「……そう言われると弱いですね」

「でも、嫌いじゃないわぁ。私もおかげで生きているのだしぃ」

「イジメて欲しいのであれば、幾らでもイジメさせて頂きますよ」

「せ、せいぜい夜道には気をつけることねぇ?」

「そうですね」

 どうやら一件落着の兆しだ。

 ここから先、ピーちゃんの身柄は学園都市次第である。捜査の手が及んでいれば都市を脱する前に捕縛される可能性もあるだろう。逆にこのまま逃げ果せる可能性も然り。全ては彼の努力次第といったところだ。

 所詮は門外漢の身の上、これ以上の関わりあいは避けるべきだ。

 この手でピーちゃんをどうこうすることは容易だ。だがしかし、状況如何によっては全ての罪をなすりつけられて良いように使われる可能性すらある。各国間の情勢すら儘ならない身の上としては、見ざる聞かざる殺らざるを決め込むのが最良の選択だろう。

 国外大使が駐在先で殺傷事件など、もしも報じられたのなら、最悪に位置するの類ニュースだ。在日米兵が日本の民間人をどうこうしたら、一発で一面記事を飾ってしまうだろう。リスク見合いで損得を考えればこれが最善だ。

 リチャードさんの力もグローバルな世界ではどこまで通用するか知れないし。

 グローバルは怖いよ、グローバルは。

 まあ一応、ブス教授にはそれとなく報告を入れておこうと思うけれど。

「と、ところでゲロス、なかなか良い働きだったわぁ! おかげでこの唐変木に大きな貸しを作ることができたかしらぁ! これは大きいわよぉ! それはもう想像した以上におおきいわよぉ!」

「ははっ! ありがたきお言葉っ!」

 ピーちゃんが舞台より下りたことで、騒動は落ち着きの兆しを見せる。

 縦ロールがなにやら面倒くさいこと言っているが今は無視して置こう。

 代わりに自身が向かうべくはJCである。

 彼女の勇気は讃えたい。

「アウフシュタイナーさん、一つ良いでしょうか?」

「な、なんだよっ!?」

 ビクリ、肩を震わせてはこちらに向き直る小さなヒーロー。

 その視線は我が生殖器に向かいチラリチラリ。

 ごめんなさい。全裸の中年オヤジ、ごめんなさい。

 でも今に限っては無理矢理にでも進行させてください。

「流石はアウフシュタイナー家の方ですね。とても格好良かったです」

 先程のJCは本当に輝いてた。間違いなく主人公してた。

 命懸けで庇った相手が、これまで自身をイジメていた相手というのもポイント高い。自分が同じ立場だったら、絶対に見捨ててた。親しい相手ならまだしも、そうでない相手の為に自分の身の上を賭けてまで立ちまわる勇気は持ち合わせていない。

「そんなの当然だろっ。わ、私はいつだって格好良いんだよっ!」

「以前、腑抜けだと称したところ、この場で撤回させて下さい。貴方はとても優秀で、また同時に極めて勇猛でした。私は貴方を一人の人として尊敬したく思います」

「っ……」

 こちらが語るに応じて、JCの顔が真っ赤に染まった。

 なんというか、エステルちゃん並みに素直な性格の持ち主だ。

 こんな素敵な女の子とラブチュッチュしたかった。

「お伝えしたかったのはそれだけです」

 挨拶は短め。

 状況が状況なだけあって、それ以上はこちらも恥ずかしい。

 相手の視線から逃れるよう踵を返す。

「あ、おいっ……」

「今日のところはゆっくりと身体を休めて下さい。肉体的には癒えているかも知れませんが、心の方はそうもゆきませんから。それではこれで私は失礼しますね」

「ちょっと待てよっ! おいっ! オ、オッサンっ!」

 背中で語る感じを意識しつつ数メートルを移動。

 そのまま自室へとフェードアウトだ。

 ついでに縦ロールとマゾ魔族も放置して、お部屋に戻らせて頂く。

「…………」

 するとドアを引いて直後、そこにはゴッゴルちゃんとエディタ先生の姿が縦に並ぶ。つい先程まで、自分と縦ロールがそうであったよう、隙間から外の様子を窺うべく、顔を覗かせていらっしゃった。

 こちらがドアを引くと共に、無言でスッと身を引く二人。

 パタパタと居室の方に去ってゆく気配が。

「…………」

 どうやら今し方の全裸説教を、第三者視点からウォチされていたようだ。

 超恥ずかしい。
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