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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫
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学園都市 八

活動報告を更新いたしました。
 当初予定した会合は二日ほどの会期であっさりと終えられる予定であった。しかしながら、予期せぬ触手ナメクジによる襲撃を受けて数日ばかりの延期となり、参加者である各国の大使は同所に滞在する運びとなった。

 曰く、我々は状況説明を求める。

 もしも相手に落ち度があれば、これ幸い、大聖国の勢いを削いでしまおうという魂胆が明け透けに見えている。そして、渦中の側もこれが理解できるから、対応に向けて躍起となっているというのが今現在の学園都市を巡る最新の世界情勢である。

 おかげでペニー帝国の代表となる自身もまた、数日ばかり滞在を延長だ。

「……いよいよ明日ですね」

「そうだな」

 一方で差し迫ったのがJCのレポート発表会である。

 残すところ一日の猶予を利用して、自分とエディタ先生とは発表の筋書きを検討している最中だ。当の本人が訪れるまでには、まだ少し時間があるので、それまでの間に草案を出そうという魂胆である。

 位置取りは平素と変わらず、各々ソファーに腰掛けて向かい合う形だろうか。

 先生の太ももは出会って当初と大差ない在り方で組まれて、むっちむちの重なりをご提供して下さっている。また何かお願いごとの類だろうか。どうぞどうぞ、エディタ先生の為だったら、たとえ火の中水の中ってヤツですよ。

 また、ベッドの上にはゴッゴルちゃんの姿もある。彼女がシーツの上でゴロゴロしてくれるおかげで、ここ最近は寝付きが良い。濃厚なゴッゴル臭が、ヒロイン候補を取り上げられた中年野郎の心を癒やしてくれる。

「ところで、ひ、一ついいか?」

「なんですか?」

「どうしても貴様に確認したいことがあるのだが……」

 些か緊張した様子で問いかけてくるエディタ先生。

 ただ、そうした先生からの問い掛けは、ドアノックの音に敗北。

 コンコンコン、廊下の側から聞こえては響く。

「ぐっ……客か?」

「そのようですね」

 良いところで邪魔が入った都合、エディタ先生の顔が渋いものとなる。

 誰だろう。

 疑問に思ったところで、いそいそとゴッゴルちゃんが動いた。ベッドから身を起こしたかと思えば、例によってボディーガードよろしく、ひょこひょこと廊下の側に立ってドアの向こう側をリーディング。

 返されたところは想定外。

「勇者と教授」

「なるほど」

 数日前、同じくドア越しリーディングに対して、ありがとうとお伝えしたところ、今回も読んで下さったのだろう。その忠犬っぷりに愛しさがこみ上げてくる。ただ、同所にエステルちゃんや縦ロール、キモロンゲの存在が確認された昨今、それは推奨しかねる行いとなってしまった。

 敵対的な相手、例えばペニー帝国の見知らぬ貴族さん方であれば、幾ら読んだところで構わないと思う。これまでも自らお願いする形で、率先して読んで頂いたことも度々と。しかしながら、近しい人たちに関しては、極力読まないように注意していただけたらありがたい。そこのところの線引が大切だと思うんだ。

 それはゴッゴルちゃんの居場所を守る意味でも大切なことである。

 見ず知らずの貴族は良くても、ブス教授やピーちゃんは駄目、そんな感じ。

「……貴方がいれば他はどうでもいい」

「私が良くないんですよ、ロコロコさん」

 あと、そういう健気系の発言禁止ね。

 トーク相手の確保に必死なのは分かるよ。けれど、そんなこと言われたら、醤油顔がうっかり惚れてしまいそうになるじゃないですか。そうなったらトークどころじゃないですよ。ゴッゴルちゃんのこと攫って三十年くらい監禁セックス余裕だろ。

「おい、なんだ今の台詞は。どんなやり取りがあったんだ?」

 ほら見なさい。

 エディタ先生が訝しげな表情で、こちらを見つめていらっしゃる。

 こういった展開にも繋がる可能性が高いので、緊急時や二人きりの時であれば構わないけれど、そうでない場合、特に親しい人が一緒にいる場所では、あまり読心能力に頼ったコミュニケーションを取るべきではないと思いました。

「……分かった」

「ご理解ありがとうございます」

 ごめんね、ゴッゴルちゃん。

 それでもヤク漬け逆レイプ廃人昇天コースしてくれたら全部許可しちゃうよ。

「…………」

「…………」

 忠実にお願いを守ってくれるゴッゴルちゃんとても良い子。そこはイエスと頷いて頂き、未知なる世界へ第一歩を踏み出したかった。などと、自ら駄目だ駄目だと主張しながらも、なし崩し的にゴッゴルトークを楽しんでしまう中毒性。これはヤバイな。

 終ぞエディタ先生から切なそうな主張が挙がった。

「もしかして私だけ仲間外れか? じゃ、邪魔だったりするのか?」

「申し訳ありません。決してそのようなことはありません」

「……本当かよ?」

 いじらしい眼差しが、先生の魅力を一つ上の高みに至らせる。

「本当です。彼女の能力に関して、少し意識を改めておりました」

「ふ、ふぅん?」

 東西の勇者とジャーナル教授が訪れた理由はなんとなく分かる。

 会合の会場で補足されて以降、ブス教授あたりに子細を確認したのだろう。こちらの都市の代表だというジャーナル教授が問えば、副代表である彼が断ることはあるまい。寝泊まりする部屋が知れたのなら、足を運ぶのも当然の流れだろう。

 十中八九で暗黒大陸での一件に関して追求があると思われる。なし崩し的にさようならして以来、本日を迎えるまで一度も会話の場を設けていない。自然と会合会場でチラ見された点が思い起こされる。

「……それで、なんだ? 客の対応しなくていいのか?」

「いえ、良くはありませんね。向かいます」

 彼らとは今後とも友好的な関係でありたい。

 先生に断りを入れたところで玄関先に向かう。

 ドアを開いた先にはゴッゴルちゃんが教えてくれたとおり、東西の勇者とジャーナル教授の姿があった。皆々はいつぞやに同じく、鎧甲冑やローブの類に身を包んでいる。腰には剣や杖の類も下げており、少なからず醤油顔に対する警戒が見て取れる。

 まあ、相手は出処の知れない平たい黄色であるから、当然といえば当然か。

「これは皆さん、お久しぶりです」

 とりあえず適当に挨拶などしてみようか。

 精一杯の笑顔を浮かべての会釈。

 ただ、これに応じる面々の表情は厳しいものだ。

「……やはり、君だったか」

 呟きは西の勇者ピエールから。

「どうしました?」

「ここに君がいると、いいや、ペニー帝国の使者としてタナカ男爵がいらっしゃると耳にして、急な用件で申し訳ないとは思うが、こうして足を運ばせてもらった。今、少し時間を頂戴することは可能だろうか?」

「ええまあ、立ち話もなんですから、どうぞ」

 人目に付いては面倒なので、お部屋に入って頂くこととした。



◇◆◇



 場所を居室に移して、お三方とのトークは続行である。

 三人掛けのソファーへ一列に並んだ勇者さま二名とジャーナル教授。これに対するはローテーブルを挟んで対面に腰掛けた自分とエディタ先生。そして、一同から距離を設けることベッドの上にゴッゴルちゃんといった塩梅だ。

 ゴッゴルちゃん、ベッドの上でオシッコ漏らしてくれないかな。

「このような場所でお会いするとは奇遇ですね」

 当り障りのないところで、友好的に語ってみる。

 すると三者を代表するよう西の勇者ヘンリーが答えた。

「昨日、市街地で神話級の回復魔法を受けたのだがね。君なのだろう?」

「はてさて、なんのことでしょうか」

 素直に答えるのも面白くないので、適当にすっとぼけてみる。

 すると今度は東の勇者が声を荒げた。

「し、しらばっくれるのかっ!?」

 彼らが探りを入れに来たのは間違いない。少なからず思うところもあるようで、東の勇者さまなど、表情の険しさを隠そうともしない。依然として醤油顔の存在に人類代表として危機感など抱いているのだろうか。

「まあ落ち着くのじゃ、東の勇者殿」

「だがっ、回復魔法はまだしも、あのオメガフレアはっ……」

「ペニー帝国からの使者、タナカ男爵じゃったろうか」

 東の勇者さまを窘めたところで、ジャーナル教授の視線がこちらに向かう。暗黒大陸では言葉を交わす機会も度々、他人というよりは知人に近しい間柄である。相手もこれを意識してだろう、面倒な挨拶はさておいて、本題の気配がヒシヒシと。

「ええ、こちらでは大変に良くしていただいております」

「それは良かった。ブス教授はあれで研究者として非常に有能な男なのだが、如何せん愛想が良くない。今回の一件を受けて、少しでも丸くなってくれたのなら、更に見えてくる道もあると思うのだがのぅ。あれで面倒見は良い筈なのじゃが」

 三人の内で一番に落ち着いて思えるのが彼だ。

 伊達に歳を重ねていない。

 学園都市の代表という話はどうやら本当であったよう。

 勇者二名と比較して随分と場慣れして思える。

「街の方はいかがでしょうか?」

「調査は進めておる。既に素体を研究していたと思しき施設は発見した。破壊された後ではあるが、近いうちに何かしら判明することじゃろう。大使であるタナカ殿には迷惑を掛けたこと、改めて謝罪させていただきたい」

「いえいえ、我々は皆が無事でしたので、お気になさらずに」

「同時に学園都市の代表として、この街を救ってくれたことを感謝したく思う。我々だけでは、あの化け物は到底倒すことが叶わなかった。もしもタナカ男爵がおらねば、今頃は都市全体が崩れていたやもしれん」

 亀の甲より年の功というやつだろうか。

 ヨイショの連打から確実に距離を詰めてきて思える。

 こういった相手こそ一番に油断ができない。

「それは言い過ぎですよ。力のある方々は思いのほか沢山いらっしゃるものです。私などまだまだでしょう。ただ、普段は見えていないから、誰もが素通りしてしまうのです。暗黒大陸で活動されていた皆さんであれば、十分にご理解頂ける筈です」

 キモロンゲとか、ゴッゴルちゃんとか。

 ロリゴン、いいや、クリスティーナとか。

 いつかは甦る魔王など、その最たるではなかろうか。

「うむ、タナカ男爵の言わんとするところは理解できる」

「ありがとうございます」

 下手に巻き込まれても面倒だ。

 今回の国外出張が終われば、晴れて我が身は連休を迎える。まさか、これを邪魔される訳にはゆかない。毛根を労る為にも、バカンスは必要不可欠なのだ。ここは一つ、確実に主導権を取って行きたい。

 その為にはどうしたら良いだろう。

 あれこれと考える。

 悩む。

 結果として、思い至ったところは一つ。

 こうなったら、ほら、あれだ、あれしかない。

 敵かな? 味方かな? サポート系の謎キャラ枠を狙ってゆく作戦だ。主人公たちが困難に直面したとき、どこからともなく現れて助言をくれたり、たまには仲間となり一緒に冒険してくれたりするタイプのキャラっているじゃんね。

 今の自分なら立場的にもステータス的にも申し分ない。

 よし、それでいこう。

「お三方の気になるところは、私もまた少なからず理解できます」

「ふむ? というと?」

「ヒントは大聖国です」

 先手必勝、思わせぶりな発言で距離を稼ぐ謎キャラ定番の場面進行。

 問われる前に語ってしまえば、それ以上を迫るにも遠慮が生まれるだろう。取り立てて彼らは自分に対して厳しい性格の持ち主である。こちらが先に一歩を歩み寄ったのなら、それ以上を望むことに自然と抵抗を覚える筈だ。

「……そこに儂らの求めるものがあると?」

「あなた方であれば、容易に答えまで辿り着くでしょう。しかしながら、これを知ったところで、どのように動くか。そこから先はまた別の問題となります。行く道を誤ったのであれば引き返せば良い。しかし、その身が倒れてしまったら、それきりです」

「…………」

「どうぞ、道中はお気をつけて下さい」

 醤油顔が語るに応じて、ジャーナル教授の他、東西の勇者さんを含めて三人は、殊更に顔の強張りを強くした。ゴクリ、どこからともなく生唾を飲み込むようなサウンドが響いてくれば、いいじゃん。なんかこれ、思ったより格好良いポジション。

 最高にミステリアスな雰囲気キマったな。

 実はこういうキャラ作り、一度で良いからやってみたかったんだよ。

「タナカ男爵、君はどこまでを知っているのだい?」

 おう、西の勇者さまから牽制だ。

 勇者という立場上、看過できないところがあるのだろう。

 謎キャラなら、なんて言うだろう。

 ちらり、ゴッゴルちゃんなど眺めてみる。

 最高にゴロゴロしている。

 シーツの上でゴロゴロしている。

 てんで駄目だ。

 代わりにエディタ先生へチラリ。

 すると即座に良い感じの台詞が思い至った。

「全てを語って聞かせることは簡単です。しかしながら、それではあなた方の為にはならない。人は自らの足に歩んで、始めて本当の気づきを得る。知識と経験は全くの別物です。知識は他に幾らでも補いようがありましょう。しかし、経験は違う」

「……それを僕らに得よと、そういうのかい? タナカ男爵は」

「今この場で私を打倒してくれても構いませんよ?」

「っ……」

 キマったな。

 最高にダンディーじゃん。

「さて、お話はこの程度にしませんか? 一国の大使としては、今後の学園都市を巡る問答も気になるところです。不要にジャーナル教授のお時間を頂戴してしまうことは、大変に申し訳なく思います」

「一つだけ訪ねたい。タナカ男爵、そなたは誰の下で動いておるのじゃ?」

「私はペニー帝国の貴族です。それ以上のことはお伝えしかねますね」

「……なるほど」

 適当を答えると、神妙な表情で頷いてみせるジャーナル教授。何がどう転がってなるほど、なのかは知れないが、これ以上の情報を渡すことはこちらとしてもマイナスでしかない。この程度が関の山だろう。

 ただ、これだけだと少し突き放した感があるからな。

 なんて考えたところで、今この瞬間、リチャードさんから預かったお歳暮の出番だ。

「ああそうだ、ついでといってばなんですが、こちらをどうぞ」

 懐から革袋を取り出す。

 ジャラりと音を鳴らすそれは、内側に百枚ほどの金貨が詰まっている。

「……なんじゃね?」

 謎キャラからの強化アイテム進呈は一種の様式美じゃんね。

「ペニー帝国はフィッツクラレンス家より、学園都市の復興を願っての寄贈となります。街の状況を鑑みるに、当面は入用となりましょう。他にも色々と用意がございますので、後ほどに人を寄越して頂ければと」

 実弾はこれで終わりだけれど、他に貴金属や調度品、香辛料に高価な魔道具など、実に様々なお土産が飛空艇に積まれている。売り払えば結構な額になることは、事前にエディタ先生に確認して貰ったので間違いない。

「それは助かるがしかし……」

「貰っては頂けませんか?」

「……タナカ男爵の望みはなんなのじゃ?」

「我々の願いは一国も早い学園都市の復興にございます」

「それはまた随分と聞こえの良い言葉じゃのぉ……」

 ジャーナル教授は素直に手を伸ばしてはくれない。

 往々にして渡すべき相手ほど、この手の贈与は受け取ってくれないものだ。しかし、これ以上のタイミングはきっと今後とも訪れまい。こちらとしてはさっさと終えてしまいたい宿題だから、どうにかして握らせたいところである。

「それでも街の秩序には変えられないのではありませんか?」

「むぅ……」

「他を当たったとしても、教授以上に扱いの上手い方はいらっしゃらないでしょう」

「……分かった。そなたからの好意、一つ借り受けさせて貰う」

 ジャーナル教授がこちらの差し出した革袋を受け取った。

 最高のタイミングで最高の相手に渡せたんじゃないかね。

「一刻も早い復興を祈っております」

 ステージクリアの予感。

 ということで、この七面倒臭い問答は早々終わりにさせて頂こう。

 これ以上のトークは藪蛇以外のなにものでもない。

「それではすみませんが、私は他に学徒の方と予定がありますので……」

 学園都市での滞在期間も既に折り返し地点を回ってしまった。そろそろ本格的に育毛剤に関する調査を進めなければならない。会合が終わってしまったら、超過して滞在する理由もこれといって浮かばない。

 リチャードさんに対する言い訳と、王様への報告も必要となる。

 なんて考えたのが良くなかっただろうか。

 ドアノックと共に玄関の方から響いてくる声が。

「おぉぉぉぉぉっほほほほほぉおお! 私よぉ! 開けなさぁい!」

 縦ロールだ。

 間違いなく縦ロールだ。

 ドアの外に膜付ロリ巨乳の気配を感じる。どういったご用件だろう。ヤツの方からこちらを訪ねてくるなど珍しいこともあったものだ。

 いやでも待てよ、以前は暇を持て余したところで、醤油顔すらストーキングしてきた前科がある。ソフィアちゃんとの交流で味を占めたのだろう。

「……客人のようじゃな」

「ええまあ、そのようですね」

 皆々の意識が出入り口の側に向かう。

「ちょっとぉ! 開けなさいよぉっ!」

 なんかマブダチ感が迸るご挨拶だよな。

 一国の大使同士とは到底思えない。

 しばらく眺めていると、ドンドンと戸を叩き始める始末。

「同行者かのぉ?」

「いえ、恐らくプッシー共和国の大使かと」

「……随分と仲が良いのじゃな」

「そのような事実はなかったように思いますが……」

 ジャーナル教授の突っ込みはごもっとも。東西の勇者様も物言いたげな表情でこちらを見つめていらっしゃる。まさかドアの向こうで声を上げる相手が、西の勇者さまを上下真っ二つにした魔族の飼い主だとは思うまい。

 マゾとサドの関係ほど理解の難しいものはないよな。

「居るんでしょぉ? 居留守なんて酷いわよぉぉ?」

 このままだとドアをぶち破りかねない勢いがある。

 流石にこれを無視して会話を進めるのはリスキーだ。

 ロリ巨乳の自由極まるな生き様は十分に理解している。

「すみませんが対応してまります」

「いや、この場は儂らが立ち去るとしよう」

「そうして頂けると助かりますね」

「忙しいところを失礼したのぅ」

 すると、良識極まるジャーナル教授からお開きのご提案。

 結果的には縦ロールが良い仕事した形だろうか。

 幸か不幸か無事にグローバル人材たちとのトークが一段落である。東西の勇者さまはさておいて、ジャーナル教授は学園都市の代表である。下手な扱いをしては、自らの背負ったフィッツクラレンスの看板に泥が付くからな。

 などと心中でホッと一息をついた頃合の出来事。

 不意に傍ら、予期せず人の気配が生まれた。

 同時に響くのは今の今までドアの向こう側から響いていた声だ。

「ほらぁ、やっぱり居るじゃないのぉ!」

 縦ロールがリビングに侵入してきおった。

 すぐ隣にはキモロンゲ。なるほど、ヤツの空間魔法を利用したのだろう。未だに射程のしれない同魔法だけれど、十数メートルばかりの距離が大した障害にならないことは、過去の経験からも知れる。ここぞとばかりに下僕を有効活用してくれるじゃないか。

「むっ、空間魔法かっ!?」

 いち早く反応したのはジャーナル教授だ。

 勇者さま二名もまた、急に室内へ現れた二人の姿を目の当たりとして、ビクリ震えると共に身体を強張らせた。際しては金属鎧がガチャリと音を立てる。それこっちまでビビるから、できれば勘弁して欲しい。

 一方でマイペースにも吠えるのが膜付ロリ巨乳。

「おぉおおおおっほほほほほ! わたくしに居留守など千年早いですわぁっ!」

「ドリスさん、勝手に入ってこないで欲しいんですが……」

「なによぉ、わたくしと貴方の仲じゃないのぉ! リズが構ってくれないのぉ!」

「なるほど」

 どうやら暇つぶしに来たのは間違いないみたいだ。

 もしも自分一人だけの時にいらっしゃって下さったのなら、千年でも万年でもお話させて頂くのだけれど、今この瞬間、最高に面倒くさい。室内にはゴッゴルちゃんの姿もあったりして、なにもかもが面倒くさい。

 幸い彼女はベッドの上だから事なきを得たけれど。

 そうでなければキモロンゲとバトルが始まっていた可能性も然り。

 槍の届かない距離ってヤツだ。

「こういうときこそ主人を諌めるのが下僕の勤めなのではありませんか?」

「黙れニンゲン、私はご主人の命令に従う限りだ」

「…………」

 丸投げかよ。

 この二人、極めて扱いに困るコンビだよな。

 一緒に行動されると、どうにもならない。

 そんな彼と彼女、否、彼の方を眺めて、西の勇者ヘンリーが問うた。

「失礼だが、プッシー共和国の大使の方、どこかで僕とお会いしたことは……」

「さて、私はまるで覚えがないが」

「そ、そうかい。失礼した」

 良かった、どうやら彼らはマゾ魔族をマゾ魔族として認識していないよう。

 プッシー共和国、大使、そんな二つのフレーズが効いているのだろう。まさか、目の前の相手が自分を半殺しにした魔族だとは思うまい。頭の角を引っ込めたり、肌の色を変えたり、貴族仕様の服を着用したり、今のキモロンゲは普通に貴族然としているから。

 そんなこんなでグローバル人材たちは部屋を後としていった。



◇◆◇



 本日は毛生え薬の研究を進めるべく図書館に行こうと考えていた。

 JCとのレポート作業が存外のこと楽しくて、碌に調査が進んでいないのだ。無防備にもチェック柄のスカートから覗く太ももが眩しかった。トークの端々に感じる歳相応の反応が楽しかった。タメ口で頂戴する何気ない突っ込みが快感だった。

 同級生の女の子が自宅に遊びに来るって、こういう感じなのかなって。

 気付けば今日という日を迎えていた。

「ドリスさん、すみませんが私は他に火急の用事がありますので、急ぎの用件でなければ、日を改めて頂けませんか? こちらからお伺いさせていただきますので」

「あらぁん? それは初耳ねぇ」

 勝手知ったる他人の部屋。

 誰が勧めた訳でもないのに、対面のソファーに腰掛ける縦ロール。つい今しがたまで東西の勇者さんやジャーナル教授が座っていたところだ。傍らには私が従者です、主張せんばかりに直立不動のキモロンゲが。

「ここへは会合の為にやってきたのではなくってぇ?」

「ええ、他にも色々と所用がございまして」

 くそう、いちいち細かいところに突っ込んでくれるじゃないの。

 どれだけ構って欲しいのだ。

 もしもキモロンゲが一緒でなければ、エディタ先生とゴッゴルちゃんに縦ロールの相手をお任せするという選択肢もあったのだろう。けれど、ヤツが一緒とでは下手に席を外すことも難しい。

 いや、むしろ縦ロールを拉致って部屋から距離をおく方が、ゴッゴルちゃんとの距離感を考えた場合、より無難な選択に思える。結果的に毛生え薬の調べ物は空回りとなってしまうが、まあ、そこは二人の安全には変えられない。

 これも低LUCが所以だろうか。

 ああ、ダメだな。どれもこれもLUCのせいにしてしまう弱い自分め。

「ちょっとぉ、リズも貴方もダメなら、私は誰に構ってもらえば……」

「わかりました。そういうことなら、私と一緒に行きますか?」

 縦ロールの愚痴を遮るよう、こちらからご提案させて頂く。

 キモロンゲの意識が自分とゴッゴルちゃんの間で行ったり来たりしているからな。早いうちに場所を変えないと大変なことになりそうだ。ファイアボールで何度か脅しているから、すぐにどうこうすることはないと思うけれども。

「あらぁ? いいのぉ?」

「代わりに下僕の彼も一緒です。構いませんね?」

「構わないわよぉ? ねぇ? ゲロス」

「もちろんです。その男は気に入りませんが、私はいつもご主人と共に」

「ということよぉ?」

「ありがとうございます。そういうことなら早速ですが出発しましょう」

 よし、ひとまず緊急回避は成功だ。

「お、おいっ! それなら私も一緒にっ……」

「すみませんがエディタさん、事情は私たちが部屋を後としてから、ロコロコさんより伺って下さい。彼女は一通りを知っておりますので、納得して頂けると思います」

「むっ、そ、そうなのか? だが……」

「いきなりで申し訳ありませんが、少しばかり外に出てきます」

「……分かったよ、好きにすれば良いじゃないか」

「ありがとうございます」

 少しばかりむくれてしまった先生。

 そのいじらしい眼差しに見送られて、我々は部屋を発った。



◇◆◇



 部屋を出発してからしばらく、廊下を歩む最中に縦ロールから問われた。

「また図書館で調べ物かしらぁ?」

「もしも不服であれば、他を訪ねてもらっても構いませんが」

「べつにぃ? でも、なんの調べ物かしらぁ?」

 足が向かう方向から自然と推し量ったのだろう。僅か数日の滞在ながら、随分と界隈の地理に熟れて思える。きっと暇に任せてあっちこっち巡っているに違いない。思い起こせばこちらの縦ロールはドラゴンシティでも、他の誰より温泉を満喫していた。

「さて、それをお伝えすることはできませんね」

「貴様、ご主人からのご指摘に答えないというのか?」

「こればかりは私のプライベートな問題でして……」

「ハゲの治療かしらぁ?」

「…………」

 どうしたことだ、全力でバレてしまっているぞ。

 学園都市に到着直後、皆さんの前で頂戴したエステルちゃんからのご指摘は記憶に新しい。際しては縦ロールも居合わせていたので、こちらの毛根事情は知れている。とはいえ女性にとって男性のハゲとは、そこまで意識するものなのだろうか。

「…………」

 いや、意識するものなのだろうな。自分だって気になる。満員電車で隣になるなら、ハゲたオッサンよりハゲてないオッサンの方が良い。ハゲてる自分がいうのもなんだけれど、きっとこれが性差に関わらず永遠の真実。

「あらぁん? 図星みたいねぇ」

「それはどうでしょうかね」

「わたくし、ハゲに良く効くレシピを知っているのだけれどぉ?」

「なっ……」

 廊下を歩む縦ロールの足が止まった。

 自然とこちらの歩みも一時停止。

 数歩ばかり遅れた彼女を振り返る羽目となる。

「不要なら仕方がないわよねぇ。そうよねぇ。フサフサの貴方には必要のない四方山話よねぇ? フサフサの貴方に毛生え薬なんて進めたら、失礼にあたるわぁ。外交問題になってしまぁうわぁ。そうよねぇ?」

「っ……」

 なんという屈辱。

 なんという快感。

 やばい、縦ロールに上から目線で弄られるの最高に気持ちいい。なるほど、これか。これがキモロンゲの日々享受している快楽の一端か。なんて甘美なんだ。思わず跪いてオマンコをペロペロしたくなる衝動に駆られる。

 なんたって処女だからな。

 なんたって新品未開封だからな。

「…………」

「あぁん、わたくし、そういえば他に用事があったのだわぁ」

 クルリとその場に踵を返してみせる縦ロール。

 まさか逃してなるものか。

「ちょっと待って下さい。その情報は本当なのでしょうか?」

「あらぁん? わたくしの言葉を疑っているのかしらぁ?」

「如何せん今耳とした限りでは根拠が薄いものでして」

「でもあなたはフサフサなのよねぇ? 必要ないのよねぇ?」

「っ……」

「どうしたのかしらぁ?」

 ニィと細められた瞳が、こちらの心の奥を透かすよう見つめてくる。やけに輝いて見える瞳孔。今この瞬間、自分は彼女の掌の上で踊るしかないのだと、否応なく意識させられる。屈辱が快感に屈する瞬間を自らの内側で確かに感じてしまったぞ。

「たしかに今の私は、頭部に深刻な疾病を抱えております」

「疾病? 疾病ってなぁに? ねぇ、なぁにぃ?」

「……頭髪の一部が薄くなる症状に心を悩ませております」

 これが縦ロールのサディズムか。

 思ったより、想像していたより、オチンチンが物理的に気持ち良い。このまま逆レイプされたい。否、ズボンの上からギュッと握って頂く限りでも構いません。睾丸コロコロの刑に処して頂きたい。

 いかん、いかんぞ。これで膜付だなどと、もう、勝てる訳がないじゃないか。

「ふぅん? それなら教えてあげるわぁ」

「……というと?」

「レシピを構成する成分の一つはハレグイ草の根っこよぉ?」

「なるほど、ハレグイ草ですか……」

 なんだよそれ全然知らないし。

 でも今は適当に頷いておこう。

 知識がないことが露見したら、どこまで足元を見られるか分かったものではない。いや、でも待てよ、今はむしろ足元を見られた方が、より激しいプレイを縦ロールから頂戴できるのではなかろうか。

 くそう、しくった。

「どうかしらぁ? それなりに探求してみる価値はあるのではないかしらぁ? もしも貴方に錬金術師としてのプライドがあるのならば、なのだけれどぉ」

「……そうですね」

「当然、相応の対価はもらうわよぉ?」

「分かりました」

 あれこれと語るに際して身じろぎの都度、ポヨヨンポヨヨン揺れる縦ロールの豊満なお乳。ここまで見せつけられてしまったら、童貞衝動は限界だ。これ以上は自らを抑えきれない。粘膜で体験したい、まだ見ぬ縦ロールのサディスティックロリマンコ。

「あぁ、言っておくけれど、金銭なんて下らないものでは駄目よぉ?」

「というと?」

「まさか足を舐める程度では、えぇ、とてもとても教えてあげられないわねぇ」

 きた、きたぞ。

 サドの国から。

「……承知しました」

「なにをどう承知したのかしらぁ?」

「帰国より三日間、ゲロスさんと同じ扱いで構いません。どうか教えて下さい」

 あぁ、言った。

 言ってしまった。

 同時、過去にない出力でおほほが発動される。

「おぉおおおおおおおおおっほほほほほほおほほほほっ!」

 耳をつんざくような笑い声だった。

 尿道が内側からビンビンに刺激される。

「いいわぁぁ! 凄く良いわぁ! そうよぉ、そうなのよぉ! 私はこの展開を待っていたのよぉ! これまで色々と便利に使ってくれた貴方を、わたくしの、わたくしの、おぉぉぉおおおっほほほほほほほ!」

「…………」

 喜んでもらえてなによりだ。

 醤油顔も極めて嬉しゅうございます。

「今の言葉、まさか忘れたとは言わせないわよぉ? 絶対なのよぉっ!?」

「ええ、二言はありません」

「ご、ご主人、それは流石にっ!」

 ご主人様の独占が脅かされたところでマゾ魔族から待ったが掛かる。

 だがしかし、今の縦ロールはこれに聞く耳を持たない。

「黙りなさぁい! この男を好きにできるのよぉ? これほど楽しいことは他にないわぁ! あぁ、なにをさせようかしらぁ! どうしてしまおうかしらぁ! 考えただけで胸の震えが止まらないわぁ! 帰国が楽しみでならないわぁ!」

「ご主人っ……」

 喚起の声を上げる縦ロール。

 これとは対照的にマゾ魔族の表情は本気で悲しそうだった。

 やっぱりマジだったんだな、キモロンゲ。

「それで約束の方ですが、本当に教えてもらえるのですよね?」

「いいわよぉ? でも、それは帰国してからに決まってるわよねぇ? まさかこの場に教えて、逃げられてしまったのではつまらないわぁ!」

「ええ、構いませんよ」

「おぉぉぉぉっほほほほほほほ! 約束よぉおおおお!」

 嘗てないテンションでおほほする縦ロール。

 止まらない縦ロールの乳揺れが、帰国後の青春を予感させる。

 図書館はまた今度でいいや。
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