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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫

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学園都市 七

 打倒触手ナメクジ。

 空に浮かんで即座、JCを捕縛する触手の根本に目掛けて、ファイアボールをお見舞いだ。正面に突き出した掌より先、魔法陣から生み出された渾身の一撃が、醤油顔の吠えるに応じて打ち出される。

「喰らえっ!」

 上手いことホーミング機能を制御して、ゆらゆらと動くその生え際へ。

 すると、どうしたことか、不運にも時を同じくして、地上のある一点から飛び来た別のファイアボールが、触手ナメクジに向かった。勇敢な地域住民から放たれた、せめてもの抵抗というやつだろう。

 これを叩き落とすべく動いた他の触手が、こちらの放ったファイアボーとバッティング。目的の一本へ着弾する直前、他の一本にぶつかってしまう。本日一発目となる火球は、本懐を遂げることなく、四散する運びとなった。

「なっ……」

 ドゥンと低い音が辺り一帯に響き渡る。

 炸裂した火球は、触手一本を着弾地点より見事に刈り取る。しかしながら、対象はJCを捕らえたものとは完全に別である。得体のしれない体液を撒き散らしながら、地面に落ちては倒れた。

 一方で第三者の放った一撃はと言えば、触手の間を掻い潜り本体へ到達、然る後に炸裂。しかしながら、表面を焦がすことはおろか、傷一つ与えた様子がない。ステータスが示すとおり、触手ナメクジの防御力は相当なものだ。

「くっ、もう一回っ」

 他に大勢人がいるのだ、こういうこともあるだろう。

 幾分か焦りを増したところで、再びファイアボールを投擲する。

 しかしながら、二撃目は偶然を伴わずに防がれてしまった。火球が迫るに応じて、JCを捕縛するのとは他に、より太さのある触手が他所からやってきて、これをペチンと横叩きにしたのだ。

 ただ、当然ながら火球は炸裂する。

 叩いた触手を大きくえぐり、その機能の大半を失わせた。

『う゛う゛ぉぉぉぉぉぉおおお』

 触手ナメクジからうめき声が上がった。

 どこに口が付いているんだろう。

 いや、それ以前にどれほどの知性が備わっているのか。

「もう一回っ!」

 祈るようにファイアボール。

 今度は十数発を同時に放つ。

 空中へ幾つもの魔法陣が浮かび上がり、それぞれより生み出された人の大きさほどの火球が、JCを捕らえた触手の根本に向かい、数々のルートより進んでゆく。

 対して触手ナメクジはと言えば、他の触手を動員することで、これを一つ一つ防衛してゆく。一発を受ける都度、一本の触手が倒れてゆく。

 一連の動きは、間違いなくJCを捕らえた触手を保護している。

 まさか、こちらの意図を理解しているというのだろうか。

『う゛う゛ぉおおおおおおおお!』

 自慢の触手が幾らばかりか倒れたところで、触手ナメクジが吠えた。JCの身柄を捕らえた一本が、彼女を盾とするよう、残るファイアボールの一つ、その軌道上に動いた。

「なっ……」

 これはいけない。

 放りおけば次の瞬間にでも火球は対象に触れて、JCもろとも爆散だ。

 完全に想定外。

 対象のファイアボールを操作して、明後日な方向に飛ばす。

 行く先を失った一発は、空で何を捕らえることもなく、花火のように散った。

『う゛う゛う゛ぉぉおおおおおおおおおお』

 これを受けて、触手ナメクジからは再び咆哮が。

 同時に今まで無作為に展開されていた触手一同が、ある種の統率を備えた動きを見せ始める。如何様なものかと言えば、JCを捕らえた一本を中心として、他の触手がこれを囲うような形だ。

 言い換えればJCを捕らえたリーダー的触手が、他の職種を率いているようにも。

「……コイツ、意外と賢いぞ」

 どうやらこちらがJCに対して少なからず考えるところを、的確に戦略へ反映して思える。ただのナメクジお化けかと思ったけれど、なかなかどうして、大した知性を伴っているではないか。真正面から突っ込むばかりのオークなどより幾分か賢い。

 自然と攻めの手は緩む。撃ち放ったファイアボールは中空で花火となる。

 下手をこいてJCを巻き込んでしまっては本末転倒だ。

 他方、こちらの攻勢が止んだと理解するやいなや触手ナメクジが攻めに転じた。

『う゛う゛ぉおおおおおおおおおお!』

 これまで適当に暴れるばかりであった触手が、一斉に迫ってくる。

「っ!?」

 飛行魔法を駆使して、一本、また一本と、危ないながらも避けてゆく。そうした最中、予期せずリーダー的触手に接近する。自然と届けられたのは、これに捕らえられたJCからの必至の訴えだ。

「た、たすけっ、たすけてっ!」

 涙を流して声も大きく助けを叫ぶ姿はどこまでも普通。

 普通の女の子。

 孤独から妖精さんを集団殺傷してしまったゴッゴルちゃんだとか、腹パン一発で森羅万象を始末するロリゴンだとか、経験人数が三桁を超えるビンテージ肉穴エルフのエディタ先生だとか、そういったお歴々とは異なる、極めて普通の女の子。

 そんな女の子を醤油顔は待っていた。

 望んでいた。

 彼女こそ我が人生のヒロインに違いない。

 待っていろヒロイン。絶対に助けてやるぞヒロイン。

「私は貴方を必ず助けますっ! どうか気を確かにっ!」

「っ!?」

 一瞬、視線が会った。

 空を飛ぶ醤油顔と、触手に拿捕されたJCの視線がクロスした。最高にテンションの上がる瞬間だ。もしもアニメならBGMが変わったな。オープニング曲のロックアレンジバージョンとか流れちゃうタイプだ。これで助けられなかったら嘘ですわ。

 もう全力だ。

 大きめのファイアボールを呼び出して、JCを捕らえた触手とは距離を設けること、直接本体を叩こう。首都カリスの城ほどに巨大な図体も、一度に大きく体積を消失させれば、流石に大人しくなるだろう。今の自分なら、きっと実現可能な一撃必殺。

 彼女に捧げよう、暗黒大陸で得たスキルポイントの全てを。

 スキルウィンドウ、カモン。



パッシブ:
 魔力回復:LvMax
 魔力効率:LvMax

 言語知識:Lv1

アクティブ:
 回復魔法:LvMax
 火炎魔法:Lv45
 浄化魔法:Lv5
 飛行魔法:Lv55
 土木魔法:Lv10

残りスキルポイント:80



 よし、こいつを――――。



パッシブ:
 魔力回復:LvMax
 魔力効率:LvMax

 言語知識:Lv1

アクティブ:
 回復魔法:LvMax
 火炎魔法:Lv125
 浄化魔法:Lv5
 飛行魔法:Lv55
 土木魔法:Lv10

残りスキルポイント:0



 こうだっ!

 男の子はいつだって見えっ張りな生き物なんだよ。

 ここぞとばかりに最大火力を本体に叩き込んでやるぜ。

 遂にファイアボールもレベル三桁。

 もう何が起こっても不思議じゃないんだからな。

「ぉぉおおおおおっ!」

 触手の射程外となる上空まで身を飛ばす。

 今回は両腕を頭上へ掲げる感じのポージンズが格好いいとみた。

 それっぽい掛け声とかアピールしながら、レベル百二十五に全力で魔力を注ぎ込ませて頂く。すると学園都市全体を覆うよう、遙か上空に巨大な魔法陣が浮かび上がった。法線を大地に向けて、真っ赤なそれは燃え上がる炎のように色づく。煌々と近隣一体を照らし上げる。

 ちょっとヤバそうとか、思わないでもない。

「お、おぉおおおおおおっ!」

 でもここまでやったら、やっぱり止めましたとは言えない。

 こうなったら最後まで突っ走るぞ。

 それもこれも普通の女の子と学園ラブコメする為には必要不可欠なプロセス。ブサメンはこれくらい頑張らないと、普通の恋愛を経験できないのだ。結婚できないのだ。この千載一遇の好機、決して逃してなるものか。絶対に成就してみせるのだ。

 さらば童貞、こんにちはコンドーム。

 わたくし、ファイアボールを撃たせていただきます。

「喰らえ、ファイアボールっ!」

 力の限り吠える。

 JCの耳にまで届くよう吠える。

 呼応するよう、魔法陣に変化が走った。

 その表面に盛り上がりが生まれる。何事かと注目したところ、どうやらファイアボールの予感。ゆっくりと魔法陣から、巨大な炎の塊がせり出してくる。こんもりとした表面が段々と、大地の側に押し出されて出てくるような。

 しばらくを眺めてみれば、徐々に全体像を顕としてゆくそれは、おう。

「……でかいな」

 ちょっと大きすぎやしないだろうか。

 魔法陣の表面に生まれた盛り上がりは、間違いなくファイアボールの一辺だ。球形だから辺というと語弊があるかもしれない。けれど、辺と称しても不都合ないほどに平坦なそれは、残すところ魔法陣の向こう側に控えている図体を暗に示して思える。

 もしかして魔法陣と同じサイズで到来するつもりだろうか。

 だとすれば、その直径は学園都市を隅から隅まで行き渡るほどである。対象の触手ナメクジを地球だと仮定すれば、真っ赤に燃え盛る太陽的なサムシングが、こう、魔法陣の向こう側から現れようとしている両者の大小関係。

 ヤバイな。これちょっとヤバイな。

 着弾したらJCを巻き込むどころか、自分自身も耐えられないわ。

 などと空の上に注目していたのが良くなかった。

 いつの間にやら横から触手が迫っていた。

 射程外まで移動したつもりだったのだけれど、コイツ、思ったより伸びるぞ。

 ずんぐりむっくりとした本体の移動速度とは裏腹、そこから伸びたアンテナは随分と俊敏に動いて、飛びゆくこちらを的確に捉えていた。ロリゴンの尻尾攻撃より早い。なんとか回避を試みるも、半身を強かに打ち付けられてしまう。

「っ!?」

 気付いた時には既に叩かれていた。

 東西の勇者様やジャーナル教授と同様だ。

 これでは彼らのことを指摘したりできない。

 ペシッと叩かれて次の瞬間、身体は大地にめり込んでいた。肉は破裂して、骨は粉砕されて、見るも無残な状態である。血だるまという言葉がこれほど相応しい状況はないだろう。手足も変な方向に曲がっているし、顔面も砕けている。

 右半身の感覚が完全に失われていた。

 大慌てで回復魔法を放つ。

 地面に広がった魔法陣より立ち上る白の輝きが、急激に冷えゆく肉体を暖かく包んでくれる。痛みは数瞬ばかりで消え失せて、負傷した肉体もまた、数秒と経たぬ間に元在った形を取り戻す。

 危ういところで一命を取り留めた。

 僅かでも判断が遅れていたら、死んでいたかも。

 おかげで身につけていた衣服も酷いことになっている。僅か一撃で大半が破れてしまい、上半身どころか下半身までもが、立ち上がるに応じて、生地をはらはらと散らす。辛うじて下着が残ったかと安堵するも、残念、最後の砦も数秒の後にさらば。

 どうしよう。

 素っ裸。

 いや、今は公開露出に気遣っている場合じゃない。

「っていうかファイアボールはっ……」

 大慌てで空に意識を向ける。

 すると、おぉ、良かった、いつの間にやら魔法陣は霧散していた。

 そこから生まれつつあった火球も消えている。

 幸か不幸か相手都合でスマートに最初からやり直しのチャンス。

「……よし」

 これまでは上手く事が進んでいた魔法に関するあれこれだけれど、LUCの低下も著しい昨今、下手な運用は敵ばかりか味方までをも傷つけ兼ねない。十分過ぎるほど気遣ってトントンと思われる。

『う゛う゛う゛ぉおおおおおおおおおお!』

 そうこうしていると、再び触手ナメクジからは咆哮が。

 この隙を逃すまいと触手が迫ってくる。

 くそう。

「今度こそっ……」

 弱火を意識してファイアボール。

 触手を取り囲むよう、五、六メートルほどの魔法陣が数十ばかり空中に浮かび上がる。各々から生み出されるのは、陣と同じくらいのサイズで形作られたファイアボール。幾分か色が青白くなっているのは、火力が増したと考えて良いのだろうか。

 質を数で補う作戦である。

「ファイアボールっ!」

 吠えるに応じて火球が本体に向かい飛んでゆく。

『う゛う゛う゛ぉおおおおおおおおお!』

 触手が動く。

 やはり先程の対応は偶然ではないよう。

 明確な意志を伴い、JCを盾とするようファイアボールの側に向ける。

「ぐっ……」

 そんなことされたら困る。

 JCを捉える触手が向かった側に関しては、大慌てで火球の行く先を操作する。着弾地点を変更だ。都合、それら数発ばかりは対象まで届かず、触手ナメクジ本体とは他に炸裂、界隈に無用なクレーターを作る羽目となる。

 ただし、残る数十は想定通り本体を抉ることに成功だ。ズドンズドンと炸裂したところで、体表面を炸裂に抉る。だがしかし、相手があまりにも巨大な為、全体からすれば大してダメージを与えたようには思えない。



名前:エリン
性別:男
種族:キメラハイデーモン
レベル:3205
ジョブ:元魔王
HP:20010000/21950000
MP:18900000/18900000
STR:2537500
VIT:4677402
DEX:622994
AGI:14442
INT:4778030
LUC:123329



 いかんぞ。

 このままだと打倒には結構な時間がかかりそうだ。これまでであれば、それでもゴリ押しすることができた。時間を掛けてじっくり倒すというプランも不可能ではなかった。何故ならば争いの場所には他に人気が無かったから。

 だがしかし、今に争うのは都市部である。

 狙いの逸れたファイアボールに関しても、決して無視はできない。数を重ねれば触手が暴れる以上の被害を周囲に与えてしまう。更にこちらは触手と異なって火の気を伴う為、近隣一体では既に火が付き始めている。

 万が一にも相手が回復魔法など用いよう場合には、それこそ目も当てられない。

 自然と躊躇が生まれて、ファイアボールの勢いが削がれる。

『う゛う゛う゛ぉおおおおおおおおお!』

 一方、こちらの心中を察してか、触手の動きが勢いを増す。

 殊更に数を増やして、こちらに向かいブォンブォンと。

「ぬぅっ……」

 飛行魔法でこれを回避。

 するのだけれど、想像した以上に素早くて、たまに掠る。

 肉が裂けては赤いものが飛び散る。一口に掠るとは言っても、轟音を轟かせて振るわれる触手は脅威だ。傷口は大型のナイフにでも割かれたようぱっくりと開いて、非常に痛いですエディタ先生。おかげで回復魔法は途切れることを知らない。

 JCさえ回収できたのなら、後はどうにでもなる。

 JCさえ回収できたのなら。

 だがしかし、その一点が非常に難しい。それとなく周囲を窺えば、三桁近い触手が暴れている。あまりに密度を上げ過ぎた為か、途中で絡まってしまっているものも見受けられる。互いに絡みあった末、団子状となり、地面に落ちてビクンビクンしている。

「…………」

 閃いた。

 こうなったらあれだ、触手のやつを片っ端から絡ませて絡ませて、絡ませまくるしかない。相当に時間を要するだろうから、出来れば遠慮したい作戦である。だけれど、他に手立てがないのだから、もう、こればかりは仕方がない。

「…………」

 なんて、嫌だよそんなの。

 絶対に無理だって。

 その間にJCがどうにかなってしまう可能性の方が高い。

 これでウネウネ触手の陵辱三穴タイムでも始まれば、時間を稼ぐと同時に自らも存分に楽しむことができて御の字だった。しかしながら、その気配は待てど暮らせど皆無である。暗黒大陸のローパーといい、こちらの元魔王様といい、触手連中の紳士度高すぎだろ。

 とかなんとか、自らの行く先に迷走しつつある最中のことだった。

 視界の片隅、JCを捕らえる触手が、スパンと根本から切断された。

「なっ……」

『う゛う゛う゛ぉおおおおおおおおお!』

 触手ナメクジの悲鳴が近隣一体に轟く。

 切断された一本が地面に向かい落ちてゆく。

 当然、これに拿捕されるJCも一緒だ。

 このままではイカンと考えて、飛行魔法の向かう先を急制動、その落下地点に全力で身を飛ばす。しかしいながら、どうしよう、ギリギリで間に合わない。地面すれすれでもキャッチできそうにない。

 よもや目前で彼女の激突死する姿を目撃する羽目になろうとは。

 いやまて、飛行魔法を用いれば、これを救うことも可能である。

 などと醤油顔の焦る最中のこと、JCの身柄を掻っ攫う誰かの姿が視界に映った。スッと伸ばされた腕が、触手から彼女の肉体を掴みすくい上げる。触手は落下、大きな地響きを伴い、辺りに粉塵を巻き上げる。

 一方、助けられたJCはといえば、その者に片手を掴まれて空中に。

「そんなにこのニンゲンが大切か? 随分と愉快な姿ではないか」

 マゾ魔族である。

 タイミング的に触手を切断したのもコイツだろう。お得意の瞬間移動っぽい魔法を用いれば、相手に気付かれず、触手の合間を移動することが可能だろう。

 良かった。今回ばかりは助けられた。

「ありがとうございます。助かりましたよ、ゲロスさん」

「貴様を助けた覚えはない」

「ドリスさんから状況は聞きましたか?」

「あぁ? なんの話だ?」

 語る調子は相変わらずのつっけんどん。

 今はそんなヤツのパワフルなところがありがたい。

 しかし、同時に残念でもある。一番美味しいところをキモロンゲに持って行かれてしまった。今の女の子的に惚れポイントだっただろう。絶対に惚れるって。少なくとも自分が女だったら惚れてるわ。キモロンゲ、キモいロン毛だけどイケメンだし。

「…………」

 それとなく確認すれば、マゾ魔族を見つめているJCを発見だ。

 大きく瞳を見開いて、なんかこう、今まさに一目惚れした感ある。

 分かる、よく分かるよ。

 ちょっと根暗でオタッキーな感じが、圧倒的な戦闘能力とのギャップに相まり、最高に格好良いシーンだったもんな。鮮やかに触手を切断してから、落ちゆくヒロインをキャッチする鉄板シチュエーションだった。

 間違いない。実印押しても良い。

 次いで、その視線が醤油顔に向けられる。

 するとまあ、どうよ、ただでさえ大きく開かれていた瞳が、更に倍ドン。

 そうだよ。こちとら全裸だよ。そりゃ驚くだろうさ。

 あちこち触手が掠った為、上から下まで血まみれだ。更に触手相手に苦戦する姿をチェキされるどころか、最終的には公開露出である。今も現在進行形でフルチン余裕。しかもJCに全裸を見られたことで、段々とパワーを貯め始めているから、おぅ、もうどうにもならないわ。

 終わったな。俺のJCルート終わったな。

「…………」

「……どうした? 我がご主人がどうかしたのか?」

 こうなったらせめて、せめて今この瞬間、自らに正直となろう。

 我が生殖器、全力で彼女に誇らせていただこうではないか。

 彩るぜ男根。

「いえ、なんでもありません。今後の作戦を考えておりました」

「なにが作戦だ、いいからさっさと終わらせてしまえ。今し方の極大魔法、まさか冗談だとは言わせん。たかが小娘一人を奪われた程度で、ご主人ごと街を消し飛ばすなどと、なんてふざけたヤツだ。あぁ、ふ、ふざけているっ……」

「……極大魔法?」

「いいか? 絶対に巻き込むなよ? ……このニンゲンは私が見ていてやるから」

 あぁ、なるほど。

 縦ロールを経由した訳でもないのに、キモロンゲがここまでやって来た理由を理解した。どうやら先んじて誤発注した大型ファイアボールを恐れて、現場だろう戦闘区域まですっ飛んできたのだ。なんて主人思いの魔族なんだろうな。

 そういった意味では、あれも決して無意味ではなかった。

「ありがとうございます。次は気をつけますので」

「くっ、なんて狂ったニンゲンもあったものか……」

 マゾ魔族のおかげで憂いは全て払拭された。

 無事に人質は開放された。

「ですが良かったのですか? 随分と豪快に触手を切り飛ばしていましたが」

「どういった意味だ?」

「言葉通りです」

「……別に、この肉の塊がどうなろうと、私の知ったことではない」

「なるほど」

 魔族的にアウトかと思ったけれど、そうでもなかったよう。どうやら今回の一件、マゾ魔族とは別に原因があるのだろう。こちらは単に居合わせただけの可能性が高い。そうなると残すところ、一等に怪しいのはピーちゃんだろうか。

 まあ、そのあたりは追々考えるとしよう。

 今は他に優先すべきことがある。

「分かりました」

「ふ、ふんっ……」

 キモロンゲのヤツ、膝が震えているぞ。ちょっといい気分。

「貴方のおかげで憂いもなくなりました。始末してきます」

 呟いて、飛行魔法で身を飛ばす。

 コツコツと築き上げたJCルートを横から掻っ攫われた恨み、その全てを触手ナメクジにぶつけてやる。相手は伊達にレベル四桁していない。確実に倒しきる為にも、気持よくファイアボールさせて頂こう。

 向かう先は触手ナメクジの前方上空だ。

 絶対に触手が届かない、十分な高度から対象を見下ろす形である。

「肉片一つ残してなるものか」

 意気込みは十分。絶対に一撃で倒してみせる。

 しかし、全力投球は危険だ。

 大切なのは如何に対象を限定して火力を放つか。そう考えた時、ふと思い起こされたのはエディタ先生とのトークである。学園都市を訪れて当初、街に関してあれこれと学んでいた際のことだ。

『貴様が大好きなファイアボール、あれの形を研究しているヤツもいる』

 当初、自分はFランだの文系だのとバカにしてしまった。

 本当に申し訳ないと思う。

 今この瞬間、省みるべくはまさにファイアボールの形である。

「ぬぉおおおおおおおっ!」

 両手を頭上、空高く掲げるよう構える。

 同時、自身より上に直径百メートルほどの魔法陣が浮かび上がった。

 イメージは凸だ。

 尖った感じのファイアボールを、触手ナメクジただ一点に向けて穿つ。

 マジリスペクトの想いを込めて、その名を命名しよう。

「こいっ! ファイアボール、タイプF!」

 ファイアアローだとか、フレアランスだとか、小洒落た名前をつける気にはならない。俺はファイアボールが良い。ファイアボールだから良い。

 切り札は一つあれば十分だ。

 何故ならばそれが切り札だから。

 タイプFの威力を思い知ると良い。

「おぉおおおおおおおおおっ!」

 魔法陣の中央から、よし来た、先っちょの尖ったファイアボールが生み出される。

 ワープゲートを通過してきた宇宙戦艦のよう、それは幾らばかりかの時間を掛けて、全容を学園都市上空に顕とした。長さ百メートル超えの巨大な槍を思わせるフォルム。轟々と音を立てて燃えている。最高に格好良いじゃないですか。

 Fランの底力を見せてやる。

「喰らえ、ファイアボールっ!」

 頭上に掲げた両手を触手ナメクジ目掛けて振り下ろす。

 応じて炎の槍が、凄まじい勢いで打ち出される。

『う゛う゛う゛う゛ぉおおおおおおおおおお!』

 自らの危地を悟ってだろうか、嘗てないサウンドで咆哮を上げる触手ナメクジ。ご自慢の触手たちを炎の迫る側に向かい集めて、これを防ぐように盾とする。数多のウネウネが幾重にも重なり合う様子は最高に陵辱スポット。

 その中央に向けて、Fランは馬鹿正直に突き進む。魔法陣より生み出されてから直撃までは、数秒と要しない束の間の出来事であった。対象まで数百メートルばかりの距離は、存在しないにも等しい。

 Fランの先端が敵防壁を超えて、触手ナメクジ本体を貫く。

 爆発は起こらない。

 代わりに敵を穿つと同時、ブワァっと芯より広がった炎が対象を包み込む。

『う゛う゛う゛う゛ぉおおおおおおおおお!』

 殊更に大きな咆哮が学園都市に響き渡った。

 炎が巡るに応じて、ボトリ、ボトリと焼かれた触手が炭となり地面におちてゆく。火の手は決して勢いを衰えさせることなく、触手ナメクジを焼いていった。

 やがて、全ての触手が炎に奪われたところで、巨大な本体もまた焼かれて、外側より段々と炭となり、灰となり、ボロボロと崩れるよう形を失ってゆく。

 数分ばかりを眺めたところで、元魔王はピクリとも動かなくなった。

 以後、完全に沈黙。

「……よし」

 どうやらミッションコンプリート。

 これで一安心だ。



◇◆◇



 触手ナメクジの打倒を確認したところで、皆々の下に戻った。

 ちなみに全裸のままでは流石に不味かろうと、向かう途中で火事場泥棒。既に事切れた町人の亡骸より、ズボンとジャケットを頂戴しての帰還である。ここ最近、こういった緊急調達が増えたの少し気になる。罰が当たらなければよいのだけれど。

 なんて複雑な心中を抱えながらのこと。

「戻りました」

 皆々の姿を地上に見つけて、その正面に降り立つ。

 良かった。全員これといって変わりない。

 いつの間にかマゾ魔族とJCも金髪ロリーズと合流している。

 その無事を確認してほっと一息。ストーンウォールで防空壕を設けてはいるものの、万が一にも触手の一振りが直撃したのなら大変だ。また、以前は仲が良かったらしい先生とロリビッチとの関係も気になる。もしも喧嘩になっていたら嫌じゃんね。

「お、おい……今のは……」

 酷く驚いた様子でエディタ先生が口を開く。

「どうかされましたか?」

「あの、ば、馬鹿げた規模のフレアランスは……」

「フレアランスではありません、ファイアボールです」

「……ファイア、ボール?」

 疑問に首を傾げるエディタ先生可愛い。

 いつまでも見つめていたい愛らしさ。

 ただ、今は先生を鑑賞するのと同じくらい大切な確認事項が幾つかある。その全てを握っているのがキモロンゲ。どことなく居心地が悪そうに佇む様子は、間違いなく腹に何かしら抱えている現れだろう。

「ところで私は、そちらの彼に伺いたいことがありまして……」

 それとなく視線を向ける。

 応じたマゾ魔族は、我関せずと言わんばかり。

「私は一つもない」

 素っ気ない態度で語って見せる。

 しかしながら、既にネタは割れているのだよ。

 だってステータスウィンドウに書いてあったんだもん。

「そもそも魔王とはなんですか?」

 触手ナメクジに示された種族は、目の前のキモロンゲと同じハイデーモンだった。てっきり他に何某か魔王的なカテゴリが存在するのかと考えていたのだけれど、そうではないよう。しかし、そうなると魔王とはどうやって決定されるのか。

 なんてあれこれ考えたところで、思い至った先が今のクエスチョン。

「……分かるものなのか? 人間風情が」

「少なくとも先程のキメラ体の素体については理解しているつもりです」

「くっ……」

 忌々しげに表情を歪めるマゾ魔族。

「ちょ、ちょっとっ! なんの話をしているのかしらっ!?」

 話題から置いてけぼりを喰らったエステルちゃんが、自分も混ぜろと言わんばかりに吠えてくれる。これに構わず醤油顔は続けさせて頂く。まさか逃げられては叶わない。コイツには色々と確認したいことがあるのだ。

「……まさか貴様ら人間が、先代の肉片を回収しているとは思わなかった」

「先代?」

「如何に人の寿命が五十年足らずとは言え、書籍や噂の類に見聞きしたことがあるだろう。五百年前、我々魔族が人間や亜人、亜属を巻き込んで始めた大戦の話を。これを率いた当時の魔王様の成れの果てが、今し方に貴様の焼いた肉塊となる」

「それはまた、こう、なんとまあ……」

 どうやら元魔王の称号は伊達でなかったよう。

 あれ? でもちょっと待てよ。

 魔王って百年弱で代替わりしてるんじゃないのかね?

 先代が五百年前って、これ人類側の認識とズレてるじゃないですか。

「すみませんがゲロスさん、もう少しだけ詳しく伺っても……」

「ちょ、ちょっとっ! 魔王ってどういうことっ!?」

「魔王だと? まさか今し方のキメラ体が、先代の魔王だと言うのかっ!?」

 エステルちゃんとエディタ先生の喰い付きも上々。

 これは真面目に確認する必要がありそうな予感ですわ。

 キーワードは魔王。

「魔王って、あ、あの魔王よね? 百年に一回くらい復活して、いっつも勇者さまに討たれてる……あ、そういえば、さっきも東西の勇者さまたちが一緒だったわ!」

 エステルちゃんが良いところをナチュラルにご指摘。

「百年に一度? 貴様は何を言っているんだ?」

「違うのかしら? 今回も先代の魔王と同じように、大聖国の聖女様からお告げがあって、これに応じるように東西の勇者さまたちが導かれたって聞いたわ」

「人の営みではあるまいし、そう容易に魔王さまが代替わりするものか」

「え? で、でも、それじゃあどうして……」

 ロリビッチの疑問は当然のもの。

 そして、キモロンゲがこのような状況で嘘を吐くとも思えない。エステルちゃんに語ってみせる調子も、平素からの太太しいもの。なにより今し方に垣間見た元魔王なる生き物を思い起こせば、そう容易にエンカウントを許しては人類も立ち行かないだろう。

 つまりなんだ、あれだ、他に嘘を付いているヤツがいるということだ。

「今一度だけ確認させて下さい。魔王とは何なのですか?」

 我々人類が認識する魔王と、魔族の認識する魔王。

 ペニー帝国の王様が語ってみせたところとは乖離が過ぎる。

「……なんて忌々しい。私にそう尋ねた人間は貴様が二人目だ」

「順番は如何様でも構いません。魔王とは何なのですか?」

「…………」

 酷く不満そうな表情で睨まれる。

 ただ、今回ばかりはこちらも妥協はできない。せめて魔王に関して人類側が抱える問題を把握しないことには、今後、極めて面倒な問題を抱え込む羽目になる。その為にも先代魔王に対する事情聴取は必要だ。

 こちらが幾分か顔を強ばらせたところで、渋々とキモロンゲは答えた。

「私は五百年前にも答えた。魔王さまは我らの信仰だと」

「信仰、ですか?」

「強い者を称えることに理由は要らない」

「……なるほど」

 やはり魔族の王様、リーダー的存在という線が濃厚だ。ステータスウィンドウにも記載されていたよ、ハイデーモン。種族的には人間より幾分か長生きのようだけれど、意外と原始的なルールに従い、文化文明を形成しているようだ。

「あなた方の神は何を成そうとして、この世界に現れるのでしょうか?」

「神? 神か……あぁ、そうだな。貴様にしては悪くない例えではないか」

「……なにか思うところが?」

「神の想いを使徒が知ると思うか?」

「神の意志を知らずに仕える使徒がいるのですか? 不満はないのですか?」

「それは貴様ら人間も同じだろう? 貴族だの司祭だのと、自分たちの集まりに上下を作って、これに準じている。そう大した個体差もないだろうに、不平不満を漏らしながらも、素直に従い営みを繰り返している」

「つまり抗えないと?」

「その鱗片に触れた貴様なら理解できるだろう? 恐らく先代魔王さまの肉体を触媒として、キメラ体を作ろうとしたのだな。如何に屍肉であるとは言え、人の手に扱えるなどと驕り高ぶった意識が、あのような異形を産んだのだ」

「……なるほど」

 そう言われると背筋が冷える。

 もしもヤツが人類に比肩する知性を伴い、我々と同じように器用な立ち回りをしたのなら、こうも簡単に済ませることはできなかっただろう。たぶん、自分とロリゴンがタッグを組んで、ゴッゴルちゃんのサポートを受けたとしても、きっと勝てない。

「どうにもならないものであれば、崇める他にない」

「たしかにそう言われると説得力がありますね」

 これって想像した以上にヤバイ相手じゃんね。

 魔王さま。

 人間と魔族の寿命差が、ここへ来て人類側に致命的な問題を与えて思える。

「幸い、魔王さまは慈悲深い方が多い。我々はそこに幸福を感じる」

「五百年前、先代の魔王はどうされたのですか?」

 エステルちゃん曰く、魔王さまは代々勇者に討たれているという。仮に大聖国が小金欲しさになんちゃって魔王さまをでっち上げていたとしても、今の話の流れからすれば、五百年前の魔王さまに関しては、間違いなく本物の筈である。

「ふん、口が滑った。これ以上を教えてやる義理はない」

「……そうですか」

 残念だが、ここまでがキモロンゲとしても譲歩できる限界のよう。

 まあ、今し方に確認した限りであっても大きな収穫だ。

 何故ならキモロンゲは魔族だから。

「これ以上、付き合ってはいられんな。私は行かせて貰う」

「ええ、ご主人様によろしくお願いします」

「誰が伝えるものかっ」

「とは言っても、またすぐに顔を合わせるとは思いますが」

「っ……勝手に言っていろ、ニンゲン風情が」

 適当に軽口を叩いたところで、ふわり、マゾ魔族の身が空に浮かぶ。

 飛行魔法により上昇した肉体は、学園都市の中央に向かい飛んでいった。愛するご主人様の下へ戻る腹積もりだろう。他へ寄り道することなく、一直線に向かってゆくあたりが、ヤツのマゾ奴隷としての優秀さを感じさせる。

 その姿を遠く見送ったところで、さて、我々も引き上げよう。

 田中男爵としては途中でブッチしてしまった会合の行く先が気になる。魔王に対する意識が改まったところで、その動向は非常に重要な位置づけだ。帰国後はリチャードさんへのご報告も伴うだろうから、決して蔑ろにはできない。

「それでは皆さん、我々も……」

 戻りましょうか。

 お伝えしようとして、エステルちゃんやエディタ先生、JCの側に向き直る。

 すると、ふと視線が合ったところで、エディタ先生が口を開いた。

「悪いが貴様には色々と聞きたいことがある! 先程のファイアボール然り、貴様を助けたあの者もまた然り。と、特に後者は魔族ではないのか!? それもかなり高位のだ!」

 これに続く形でエステルちゃんも賑やかに吠える吠える。

「そうよっ! さっきの魔法とか、ど、どうなっているのかしらっ!? それに魔王とか勇者さまとか、私が知っていることと話が全然違っているじゃないのっ!」

 仰ることは最もです。

 でも今この場でお話するには少々面倒な事柄である。

 門外漢のJCも一緒だし。

「お二人の訴えるところはわかります。ただ、今は他に場所を移しましょう。私も会合をすっぽかして来てしまったので、そちらに戻る必要があります。話しがあるというのであれば、後でお受けいたします」

 丁寧に受け答えしたところ、二人は早々に黙ってくれた。

 唯一、これといって口を開くことのなかったのがJCだ。

 普段なら足が疲れただとか、助けに来るのが遅いだとか、文句の二つや三つは余裕だったろう。ただ、今この瞬間に限っては、神妙な面持ちに黙りこくっている。きっとキモロンゲのイケてるフェイスに心を奪われてしまったのだろう。きぃくやしい。

 さっさと会議室に戻ろうかね。

「それでは皆さん、行きましょうか」

 学園都市の中央に向かい飛行魔法でひとっ飛び。

 帰り際、街全体に強めのヒールを一発お見舞いしておいた。



◇◆◇



 場所を移したところで、再びシーンは対魔王の会合会場だ。

 同所では無事に触手ナメクジが打倒されたことで、落ち着きを取り戻した各国の使者を確認することができた。どうやら騒動は一段落したもよう。誰も彼もは自らの席に腰を落ち着けて、朗らかな調子で歓談に興じている。

「いやぁ、流石はジャーナル教授だ」「凄まじいものですな、教授の魔法は」「いやぁ、私も多少は魔法に詳しいつもりでしたが、教授の魔法を目の当たりとした後では、意識を改めざるを得ない」「もしも叶うのであれば、一度我が国を訪れて、講演の一つでも行っていただきたいものだ」「おぉ、それであれば是非わたしの国でもっ」

 会場はジャーナル教授を褒め称える声に満ち溢れていた。

 どうやら触手ナメクジの打倒は彼の教授が行ったと判断されたよう。たしかに会場と現場は距離の開きがある。窓ガラス越しに眺める触手ナメクジは拳大であって、空に浮かんだ人の姿など、米粒ほどにしか窺えなかったことだろう。

 でもまあ、それならそれで良いか。

 少なからず周囲の建物を巻き込んでしまった都合、万が一にもペニー帝国の大使が云々という話になっては非常に面倒だ。賠償金など請求されては堪らない。ここは一つジャーナル教授をスケープゴートとして、ありがたく利用させて頂こうではないか。

 ちなみに当の本人はと言えば、まだ現地に居ると思われる。東西の勇者さまと併せて、会場に姿を窺うことはできない。ここへ移動する際、空から地上に彼らの姿を見つけたのだ。共に災害の救援へ当たっていた。

「……ふぅ」

 自席に腰を落ち着けたところ、思わず溜息など一つ。

 すると隣の席から間髪を容れず、縦ロールが話しかけてきた。

「ず、随分と大規模な魔法だったような気がするのだけれどぉ?」

「いいえ、あれでもギリギリだったと思いますよ」

 どうやら彼女もまた、窓ガラス越しに一連の騒動を眺めていたよう。

「……本当にぃ?」

「詳しいところは貴方の下僕さんがご存知です」

 ちらり、彼女の背後に控えた相手を眺めてはツラツラと。

 やはりというか、一直線にご主人様の下まで戻っていたキモロンゲだ。

「ふぅん? まあ良いわぁ。下僕のプライバシーは守る主義なのぉ」

「流石はご主人、その暖かな配慮痛み入ります」

「おぉぉぉおおっっほほほほほ、そう、私は心優しい主人なのよぉ!」

 ちなみにエディタ先生やエステルちゃん、JCには先に宿舎まで戻って頂いた。流石に会合へ同席するのは周囲の目が厳しいだろう。エステルちゃんや先生ならまだしも、JCに至っては学園の生徒だからな。

 そして、醤油顔が膜付き巨乳ロリとトークしている間にも、会合の向かう先は刻一刻と変化してゆく。外での騒動が祟って、完全に場の主導は司会進行から離れていた。各国大使から上がるのは、今まさに自分たちが臨む集まりへの非難である。

「ところで、学園都市のどこから、あのようなバケモノが出てきたのですかな?」「たしかに疑問ですね。あのようなもの、真っ当な研究ではありますまい」「まさか、これを公に許している訳ではありますまい?」「そのような危険な場所を会合の会場とするのは、流石に気が引けますぞ」「そのとおりですな」「今後の会合の開催も含めて、一考の余地ありではありませんか?」

 ここぞとばかり、各国の大使からは本音がポロポロと。

「たしかにたしかに、このようなことが起こっては、会合の存続も含めて検討が必要ですな」「私も以前より疑問を覚えていたのですよ、この会合の意味に関しては」「勇者を支えるのはその排出国の役割だと決まっていた筈ですよね」「わざわざ我々が集まる理由など、本当にあるのだろうか?」「やはり疑問が残りますな」

 対応する法衣の男は額にびっしりと脂汗。

 また、彼の傍らに立ってブス教授も難しい表情である。

 完全にババを引いた形だろう。

 少なくとも今回の騒動の原因を特定して、責任が向かう先を作らない限り、大使一同の声が止むことはないだろう。可哀想だとは思うけれど、流石にこれを納めるほどの義理はないように思える。こうした時に責任を取るのが役職付きというものだ。

「み、皆さん静粛に、静粛にっ!」

 声も大きく法衣の男が語る。

「ひとまず閉会といたしましょう。続くところ、予定は改めて周知させていただこうと思います。大使としてご足労くださった皆様にはご迷惑をおかけしますが、事実関係の確認にしばらくお時間を下さい」

 これを受けては縦ロールも呆れ調子だ。

「酷い話もあったものねぇ」

「仕方がありませんよ。学園都市側も事件の調査には時間が必要でしょう」

「それで、結局のところはなんだったのかしらぁ?」

「実は私自身もまだ、顛末に関しては掴んでいないものでして」

「あらぁ、珍しい。貴方からそんな泣き言が漏れるなんてぇ」

「些か面倒な問題なのですよ。もしもご興味があるのであれば、貴方の下僕である彼に尋ねてはいかがですか? おそらく私より事情に通じているかと思います。もしも私に流して下さるのであれば、それなりの額で買わせて頂きますよ」

「お、おいっ! 貴様っ……」

 よし、キモロンゲから一本取ってやったぜ。

 ただまあ、今回は世話になったから、これ以上は止めておこうかな。

「とは言え、彼には彼の事情があるようなので、今回に限っては貴方の言葉ではないですが、下僕のプライベードを優先して頂けるとありがたいですね。私もこれ以上、そこの彼との仲を悪くするのは避けたいので」

「……貴方がゲロスの肩を持つの?」

「さて、どうでしょう」

「…………」

 別に善意を振りかざすつもりはない。ただ、JCを救って貰った借りは揺るぎないものだ。これを裏切るような真似は控えたく思う。それに恐らく、魔王云々を巡っては今後とも交わる機会がありそうだし。

「いずれにせよ貴方の立場は揺るぎませんよ、ドリスさん」

「……あまり私をバカにすると、怒るわよぉ?」

「馬鹿になどしていません。むしろ逆ですから」

「本当かしら?」

「随分と下僕を愛されているのですね。その人柄に惹かれます」

「ふふん、私はリズとは違うのよぉ? リズとは」

「さて、それもまたどうでしょうか」

 思ったより大切にされているキモロンゲに嫉妬も一入。

 でも、エステルちゃんだって、身内には激甘なんだぞ。

 おう。

 そんなこんなで、魔王対策の為の会合は、一時閉会である。

 伊達に街が半壊していない。死傷者も相当なものだろう。各国大使が集まっている為、事情説明の類は避けて通れない。兎にも角にも時間が必要な主催側の意向を受けて、同日に控えていた談義は、翌日以降へ延期される運びとなった。
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