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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫
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学園都市 六


 魔王復活に関する国際協調の会合。その最中に参加者へ届けられたニュースは、同会合の開催地に対するモンスターの強襲であった。それも会場が建物の高いところに位置する都合、今まさに暴れ狂う対象を遠方に肉眼から窺うことができる。

 急遽、ピーちゃんから会合参加者に状況説明が為された。

 当然のように、各国代表からは非難の声が上がる。

「これはどういうことだっ!? あの化物はなんだというのだっ!」「あれはキメラ体ではないのかっ!?」「各国の代表を招集しておいて、学園都市側の警備はどうなっているのかしらっ!?」「ふ、ふざけるなっ! 私は帰らせてもらうぞっ!?」「まさか、ここまで来たりしないわよねっ!?」「飛空艇だ、飛空艇を出せっ!」

 これまでの穏やかさは何処へやら、会議室は怯えと怒りの一色だ。

 未だモンスターとの距離は十分にある。けれど、参加者一同を震え上がらせるだけの迫力が、窓の外の触手ナメクジにはあった。移動速度はそれほどでもないが、いかんせん図体が大きいのだ。

 下手な建物より遥かに大きい。今我々が居する建物など学園都市内でも大きい部類に入るのだが、その屋根が対象の頭と並ぶくらいではなかろうか。よくまあ育ったものだと、キメラ体とやらの可能性に感心する。

 実際のところ、どうなのだろう。しばらくを眺めても、その行動には知性の欠片も感じられない。ただただ目につくあれこれを触手で叩くばかり。ただ、対象とは距離があるので、詳しいところは推測の域を出ない。

「ひとまず落ち着いて頂きたいっ!」

 ここで声を上げたのがブス教授だ。

 伊達に会場を預かっていない。

「報告によれば、既に学園の教授陣が対応に向かっている。すぐに事態は沈静化へ向かうだろう。不安は尤もかと思うが、万が一に備えて飛空艇も待機状態となっている。今しばらく落ち着いては貰えないだろうか?」

 集まった大使一同を見渡して彼は続ける。

「勇者さまパーティーと共に帰国した学園都市の代表、ジャーナル教授が既に対応にあたっているとの話だ。また、東西の勇者さま方も、今まさに向かわれた。すぐに事態は沈静化するだろう。ここまでは十分に距離がある。なんら問題はない!」

 堂々と語ってみせるブス教授。

 まあ立場上、他に言いようはないよな。

 仮に避難誘導するにしても、最初に安全を主張してからだ。

「お、おぉ、ジャーナル教授が向かわれたのかっ!」「あの歴代三位と呼ばれる世界の知性が!」「なるほど、そ、それならば、むしろこの場は教授の活躍を眺める最高の観戦席となるだろう」「まあ、そういうことならば、慌てる必要はあるまい」「それに東西の勇者も向かったとなれば、最悪でも当面は持つだろう」

 落ち着きを見せる参加者一同。

 これを眺めてブス教授もホッと一息だろうか。

 しかし、それは本当だろうか。

「…………」

 窓の外、触手ナメクジを眺めて、どうにも不安な気持ちが溢れてくれる。

 ここ最近のLUC低下に伴うあれこれを鑑みると、どうにもな。

「どうしたのかしらぁ?」

「いえ、少しばかり気になることがありまして」

「ふぅん? まあ、最悪ゲロスがどうにかするでしょう」

「そう言えば彼も一緒でしたね」

 確かにそれもそうだ。今この瞬間、妙に頼もしく思えるサドマゾコンビ。ご主人様のピンチとあれば、ヤツだって出し渋りはしないだろう。それならわざわざ悪目立ちをしてまで、自らがどうこうする必要もない。

 ただ、一応は確認が必要だ。

 こういうときに便利なのが、そう、ステータスウィンドウ。

 窓越しに望遠でえいやっと。



名前:エリン
性別:男
種族:キメラハイデーモン
レベル:3205
ジョブ:元魔王
HP:21950000/21950000
MP:18900000/18900000
STR:2537500
VIT:4677402
DEX:622994
AGI:14442
INT:4778030
LUC:123329



 あ、これ無理だわ。

 ジャーナル教授、死んじゃう。

「…………」

 本格的にウネウネし始めた触手ナメクジを眺めて、さて、どう反応したものか、思わず固まる。こんな唐突にクリスティーナ超えの化物が現れるとは想定外。いや、ステータスのアンバランスを考慮すれば、彼女なら立ち回り如何によっては倒せるかも知れない。

 だがしかし、ヤツは今ドラゴンシティで町長モードだ。

 まさか呼びに戻っていては間に合わない。

 対処するにしても、今ある手勢でどうにか凌ぐしか無い。

「どうしたのかしらぁ?」

「ドリスさん、すみませんがゲロスさんを呼び戻せませんか?」

「何故かしらぁ?」

「あの化物は少しばかり厄介です。彼と協力して事に当たりたい」

「え、貴方がそれを言うのぉ?」

「はい」

「……そ、そう?」

 酷く真面目な表情で頷かせて頂いたところ、縦ロールも状況を理解した様子だ。平素の余裕たっぷりな笑みをそのままに、けれど、ヒクリと頬を強ばらせる。この子は自分とキモロンゲの仲の悪さを知っているからな。

「すみません、私は一足先に現地へ向かいます」

「あ、ちょ、ちょっと待ちなさいよぉっ!」

「ゲロスさんの件、お願いします」

 椅子から立ち上がり、駆け足で部屋を後とする。ブス教授から声が掛かるも、申し訳ないが今はスルー。ピーちゃんが開いたままであったドアより飛び出して廊下へ。すぐ近くにあった窓ガラスを超えて、飛行魔法で屋外へダイブ。

「…………」

 ゴッゴルちゃんにも声を掛けようか。いや、彼女は駄目だ。あの万能褐色ロリータさんを危険に晒す訳にはゆかない。こういう時に頑張るのは野郎の役目と相場が決っている。ここは自分とキモロンゲのツートップで挑むべきだ。

 算段は決定。

 現場に急ごう。



◇◆◇



 幾らばかりか空を飛んだところで、触手ナメクジを上空から眺める地点。

「……デカいな」

 近くで拝むと迫力も段違いだ。触手の大きさも人の胴体ほどから、立ち並ぶ建物を超えるものまで実に様々だ。これがところ構わず振り回されて、外郭から中央へ向かうよう、進行上の建築物を片っ端から破壊している。

 界隈は逃げ惑う人々の悲鳴が絶え間なく響いている。火の気も上がり始めており、ちょっとした地獄絵図だ。このまま放っておいたら、明日には学園都市が廃墟になっていてもおかしくないような。

 更に少しばかり観察したところで気づく。やはり触手ナメクジには、そう大した知性が存在しないようだ。時折、振り回した触手が自身の胴体にぶつかり、自爆する様子も見て取れる。この様子では交渉の類も難しいだろう。

 果たして何を目的として動いているのだろう。

 元魔王というキーワードも、この状況では謎を呼ぶばかり。

「…………」

 ちなみに同所では空を飛ぶことで難を逃れた人たちの姿が大勢ある。伊達に学園都市だなどと名を売っていない。市井にも魔法に長けた者が多いのだろう。自分以外にも三桁を超える人の姿が窺える。

 それとなく辺りを眺めてみるが、まだジャーナル教授や勇者さん方は到着していないようだ。どうやら自分が一等賞。如何せん相手が巨大であるし、もしかしたら、作戦会議などしているのかもしれない。

 まあ、いずれにせよやることは決っている。

 広域で回復魔法を打ちつつ、ひたすらファイアボール。対象の周りをストーンウォールで囲おうかとも考えたけれど、敵のSTRを考慮すれば十中八九で破壊される。破片の飛散による周囲への被害を考えると、自重したほうが良いだろう。

「よし……」

 当面の作戦が決定されたところで、いざバトルの予感。

 しかしながら、そう簡単には行かないのがブサメンの人生だ。

「マジか……」

 触手ナメクジからほど近い位置に見知った相手を発見である。ちょっとやばい感じに倒壊しつつある建物の傍ら、地面にぐったりと横となるエステルちゃんの姿が。また、彼女の傍らにはガリメガネの姿も窺える。

 ナメクジ退治は後回しだ。

 まずはこちらを優先しよう。

 飛行魔法でその身を飛ばし、二人の下に急いだ。



◇◆◇



 遠くからではよく見えなかった光景が、近づくにつれて鮮明なものになる。半壊した建物のすぐ近く、崩れた石壁に下半身を潰されたエステルちゃんの姿があった。腰から下が完全に潰れて、地面と石の間からは赤いものが染み出している。

「フィッツクラレンスさまっ! フィッツクラレンスさま!」

 そんな彼女の名を必至に呼ぶのがガリメガネだ。

 二人の頭上では未だに触手がブォンブォンと暴れている。いつまた一撃が降ってくるともしれない危機的状況である。そこらかしこから届けられる悲鳴を耳とすれば焦りも一入。更に倒れたエステルちゃんの下、じわりじわりと広がってゆく血だまりが、一層のこと見る者を焦らせる。

「は、早く逃げなさいっ! 危ないじゃないのっ!」

「そんなっ、フィッツクラレンスさまを放ってなんてっ……」

「いいから早く行きなさいっ!」

「でもっ、フィッツクラレンスさまは僕を庇ってっ!」

「自惚れるのも大概になさい? どこの公爵令嬢が場末の貴族を庇って、自分から潰されに行くというのかしらっ!? 気のせいよっ! だから、ほ、ほらっ! 早く行きなさいっ! 早くっ!」

「だけどっ……」

「私もすぐに抜けだして追いかけるわっ! だから早くっ!」

 エステルちゃんがひときわ大きく吠える。

 これに時を同じく、二人よりほど近い場所を触手が掠り、その脇で倒れかけていた建物の壁を削った。幾らばかりか散った拳大の石片、その一つが凄まじい勢いで、ガリメガネの頬の傍らを抜ける。

 数瞬後、その跡にツゥと赤いものが垂れては流れた。

「っ……」

 自らの指に頬をなでたところで、全身を震わせるガリメガネ。

 ガタガタと膝の震える様子は限界も近く思われる。

「あの二人を追いかけなさい! 今ならまだ間に合うわっ! 早くっ!」

「ご、ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!」

 再三に渡りエステルちゃんが咆哮を上げる。

 そこまでがガリメガネの限界だったよう。繰り返し頭を下げると共に、ドタバタと大慌てで、触手ナメクジとは反対の報告へ駆けて行った。今し方の言葉からして、他二名のイジメっ子も一緒だったのだろう。

 愛ゆえにガリメガネが最後まで残ったようだ。

 なかなかやるじゃないかガリメガネ。格好良いぞガリメガネ。

 そんな君の意志はブサメンが引き継ぐこととする。

「……ったく、こっちはもう痛くて泣きそうなんだから、さっさと何処へとも行っちゃいなさいよっ、痛くて、痛くて、あああぁああ、いたい、いたいぃ……」

 ガリメガネの姿が見えなくなると同時、エステルちゃんの眦に涙があふれる。

 どうやら相当に痛いらしい。

 そりゃそうだ。腰から下が潰されてしまっているのだから。

 俺もいつかのロリゴン戦で経験ある。凄く痛かった。マジで。

「ほ、本当にもう、私はなにをやっているのよっ……うぅ……」

 少年の姿が見えなくなったところで、本当の彼女が顔を覗かせる。

 目元よりポロポロとこぼれた雫が、頬を伝い落ちてゆく。

「こんな終わりなんてっ、こんな終わりなんてっ……」

 ギリギリ一杯な感じが否応なく伝わってくる。

 そのような状況であっても、ガリメガネを想い気丈に振舞っていたのだから、この子の胆力は大したものだ。きっと良いママになるのではなかろうか。少しばかり背丈が伸びたロリビッチの、赤ん坊を両手に抱える姿が想像された。

「あぁぁ、もう、うぅっ……死にたくないよぉっ……いたいよぉっ……」

 そんな具合だから、ヤバイな、エステルちゃんイイ女過ぎる。

 デレて以降は結婚と交尾を迫るばかりのマジキチな面ばかり見ていたから、今みたいな凛々しいエステルちゃん、凄く新鮮で、困ったことに好感度が上昇してしまう。

 早く癒やして上げなければ。

「大丈夫ですよ。貴方は絶対に死にません」

「っ!?」

 空から地上に舞い降りると共に、回復魔法を発動だ。

 同時に飛行魔法でロリビッチのビッチなところを潰している石材を浮かせて撤去する。ブォンと浮かび上がった魔法陣の上、腰から下は完全に潰れてしまっていた。それはもう見るも無残にぐっちゃりだった。

 これが癒やし効果により、みるみるうちに元の形を取り戻してゆく。

 骨が組みあがり、管の類が生えて、これを包み込むように筋肉や脂肪が付いてゆく。数分と要せずに下半身は元通りた。素晴らしいことに回復魔法は衣服までは癒せないから、都合、ふっくらと肉付きの良いお尻が白昼のもとに晒される。

 うつ伏せである為、それはもう容器からお皿に放たれたプリンのよう。ぷっりんぷっりんだ。惜しい、足元側から癒やすべきだった。それなら割れ目をバックから太ももの合間より拝めたのに。残念ながら自らが立つのは頭部の側である。

「なっ……なんで、アンタが……」

「間に合って良かったです」

 適当を呟いて、それまで羽織っていたコートを脱いで渡す。

 さようなら、プリプリお尻。もっと見ていたかったよ。

「っ!?」

 腰から下が完全に癒えたところで、咄嗟に飛び起きるロリビッチ。こちらから下半身を庇うよう、コートを羽織って身なりを整える。その反応は夜道に痴漢と遭遇してしまった年若い乙女を思わせる。

「な、なんのつもりよっ!? どうして私を助けたりなんかっ……」

「そりゃ助けますよ」

「……私がフィッツクラレンスの娘だから? 本当は憎いでしょうに」

「いいえ?」

「だったら、な、なによっ!?」

「とある方と約束したのですよ。いつ如何なる存在を敵に回したとしても、私は決して貴方を見捨てないと。語ってみせた当初は良かったのですが、後になって思い返すと小っ恥ずかしい台詞ですね」

「なによそれ、意味がわからないんだけれど。パパに頼まれたの?」

「似たようなものですね」

「…………」

「どうしましたか?」

「……別に、どうもしないわ」

「では、矢継ぎ早にすみませんが、場所を移しましょう。ここに居ては危険です。一度、安全な場所まで移動しましょう。衣服も調達しなければなりません」

「そ、それなら、一つ……」

「なんでしょうか?」

「……アンタの知り合いと会ったわ、ついさっき」

「え? それはこの近くででしょうか?」

「そ、そうよ。あのエルフとアウフシュタイナーの子よ」

「なんとまぁ……」

 エディタ先生もお出掛けしていたとは想定外だ。いやまて、ゴッゴルちゃんが一緒なら、逃れるだけであればなんとかなる筈だ。ここ最近は一定距離こそ保っているものの、二人一緒に行動すること度々である白と黒のロリロリ。

「一緒にゴッゴル族の娘はいませんでしたか?」

「たぶん、いなかったけれど……」

「そうですか」

 なんということだ、こういう時に限ってゴッゴルちゃんはお留守番か。そうなると急いで二人を探したほうが良さそうだ。レッドドラゴンが強敵だと語っていたエディタ先生を思い起こせば、まさか触手ナメクジのフルスイングに対応できるとは思わない。

「すみません、一緒に来てください」

「あ、ちょっ……ちょっとっ、なにするのよっ!?」

 四の五の言っていられない、大慌てで飛行魔法に身体を飛ばす。当然、エステルちゃんも一緒だ。ロリビッチからの手コキを回避する為、練習に練習を重ねたおかげで、今なら対象に触れずとも物を浮かせることができる。

 今し方に石材を浮かせたのと同じテクだ。

 思えば空賊対応を行ったときも自然に用いていたな。

「すみませんが、身の安全を確保する為にも一緒に来てください」

「わ、私はアンタの世話になんかならなくても自分で逃げられるわっ!」

「飛行魔法はどの程度扱えますか?」

「っ……」

 上空では触手がブオンブオン唸っている。念のため確認させて頂いたところ、困ったことにお返事は芳しくない。表情を険しくするばかり。どうやら飛行魔法の腕前も、記憶と一緒に失われてしまったようだ。

 ちょっと切ない。

 もしかしたら多少ばかりの練習から、やはり身体は覚えていた系の復活をするかも知れない。だが、今はチャレンジしている余裕もない。申し訳ないが醤油顔に強制連行されてもらおう。

「出発しますね」

「だから、ちょ、ちょっとっ! なにするのよっ!?」

 ロリビッチの身体が何に触れることもなく、ふわりと浮かび上がる

 無理やり共連れを増やしたところで、エディタ先生とJCの捜索に移った。



◇◆◇



 触手を避けて低空を這うように移動している最中のこと。

 唐突にも炸裂音が近隣一体に鳴り響いた。ズドンと腹の中まで響く大きな音だった。何事かと音の聞こえてきた側、遥か頭上へ意識を向ける。すると、そこでは空に浮かんだ数名ばかりが、今まさに暴れまくる触手ナメクジに相対する姿が窺えた。

 その誰も彼もは目に覚えがある。

 ジャーナル教授と東西の勇者さまパーティーだ。

 今まさに魔法を行使したらしい数名が、杖やら何やらを片手に構える様子が窺えた。随所に魔法陣が浮かび上がり、一同の正面にでは、いつだかのワイバーン戦、魔道貴族が用いて見せたバリアっぽい魔法も浮かんでいる。

 状況を決するべく覚悟を決めて、勇者さま一同の登場だった。

「ちょっと、あ、あれってもしかしてっ……」

 その姿を確認したところで、エステルちゃんが声を上げた。

 どうやらご存知らしい。

 飛行魔法で強制的に身を飛ばされながらも、空の一点を指し示している。ちなみにそんな彼女の姿勢はと言えば、空中にありながら器用にもお姉さん座りで、スカートが風にはためくのを片手に抑えている。

 もしもデレ期のエステルちゃんだったら、どういった反応をみせたろう。

 スカードを押さえることなく、全力でオパンツを晒した上、それが当然だと言わんばかりの振る舞いでニコリとエッチに微笑みそうだと想像したところで、あぁ、予期せず下半身に血液の集まりゆくのを感じる。わざと見せる系の攻撃は童貞に効果抜群だ。

「東西の勇者さまとジャーナル教授ですね」

「凄い! 東と西の勇者さまが肩を並べるところ、はじめて見たわっ!」

「そうなんですか?」

 自然と飛行魔法も勢いを落とす。

「当然じゃないのっ! なにを言っているの!?」

「当然なのですか?」

「そうよ! 普通なら一人しか選ばれない勇者さまが、当代に限っては何故か二人も選ばれてしまったのよ!? しかも各々の排出国は、長い間ずっと戦争の最中にあるビアン公国とモーホー王国!」

「なるほど」

「選ばれた勇者さま方も、以前より並々ならぬ因縁があるらしいわ!」

「それはまた、難儀な人選もあったものですね……」

 女性向けアニメのツートップ主人公みたいな立ち位置だな。

 自然と思い起こされるのは暗黒大陸で眺めた押し問答。

 どおりで出会い頭に口論などしていた訳だ。

「でも、そんな勇者さまが共闘されるのであれば、この騒動もすぐに解決するわね。良かったわ。せっかくアレンと二人でパパから逃げ出したのに、逃げ出した先の街が数日でなくなってしまったなんて、あまりにも悲しすぎるもの」

「…………」

 エステルちゃんの勇者に向ける期待は絶対のよう。

 それとなく他に意識を向けれる。すると、界隈に立ち並ぶ街の人々もまた、頭上に勇者さまの姿を見つけて、歓喜の声を上げているではないか。当初危惧したとおり、勇者さま云々は国を跨いで名を轟かせる栄誉のよう。

 暗黒大陸での一件をどう受け取られているか、今更ながら気が気じゃない。少なくとも敵対的とは見なされていないと思うけれど、それも本人から直接確認した訳ではない。今後を思えばゴッゴルちゃんのリーディングに頼るのも避けたいし。

 ただ、今はそれ以上に彼らの位置付けが心配だ。

 長年ライバルであった主人公二人が、強敵を前に協力するという展開は非常に格好の良いシチュエーションであるが、そうした感動をなかったことにしてしまえるのが、彼らが今まさに挑まんとする触手ナメクジである。

「あ、ほらっ! 勇者さまが打って出るわ!」

「…………」

 キラキラした眼差しで東西の勇者を見つめるエステルちゃん。

 指摘に挙がったとおり、飛行魔法で身を飛ばす東西の勇者が、呼吸を合わせて二人同時に躍りかかる。勇気迸るイケメンの勇姿は、まるでよく出来た映画のワンシーンのよう、これを眺める者の視界に映えた。

「勇者さまなら、こんな気持ちの悪いモンスターなんて一発でっ……」

 次の瞬間、敵の触手が振るわれる。

 ブォン。

 勢い良く迫った触手の一本が、彼ら二人をまとめて叩き落とした。

 ペチンという音と共に、ズン、ズズン、凄まじい勢いで地上に落ちる二名。

「…………」

「…………」

 落ちた先では建物が崩れて、轟音と共に二次災害が広がる。

「も、モンスターなんて、一発で……」

 流石のエステルちゃんも続く言葉が浮かばないようだ。

 空の寸劇を眺めて、表情を固まらせている。

 そうこうするうちにジャーナル教授と勇者の仲間たちが動き始めた。今し方の一撃で自分たちと敵モンスターとの力量差を理解したのだろう。早急に撤退すべく、防衛を敷きつつの後退を始める。内数名は落下した勇者二名の救出へ向かって飛び出す。

 しかしながら、触手ナメクジはこれを許さない。

 他に他所で暴れまわっていた触手の幾らかが、彼ら彼女らの下へと集まってきたのである。そして、右へ左へ動いては、一人、また一人と空に浮かんだ面々を地面に向けて、ペチン、ペチン、羽虫でも叩き落とすよう打ち取ってゆく。

「…………」

「…………」

 数分と経たずに東西の勇者パーティーとジャーナル教授は全滅した。

 いやいやいや、これは大変じゃんね。

 回復魔法の出番だよ。

 勇者さまが死んでしまったら、誰が打倒魔王の冒険をクエストするんだって。

「むぅんっ……」

 面々の落ちていった界隈へ向けて、大きめにエリア型の回復魔法を放つ。ここからでは対象を伺うことも不可能だ。都合、数キロ四方を囲うことで、無理矢理にでも彼らを圏内に納める作戦である。

「ちょ、ちょっと、なにしてるのよっ!?」

「すぐに終わりますので」

 自身の足元に魔法陣が浮かんだところで、エステルちゃんが反応を示す。

 これに適当を返しつつ、十分なヒーリングをお見舞いした。時間にして数十秒ほど、街の一角に巨大な魔法陣が浮かび当たり、煌々と白の光が輝いては無差別の治癒。即死でない限り、元在ったとおり癒えていることだろう。

「白い……輝き?」

「エディタさんが心配です。捜索を急ぎますね」

 周囲では勇者さまの敗退を受けて街の人々が殊更に騒ぎ始めている。誰も彼もが我先にと逃げ出す。そこらかしこからは火の手が上がっており、建物も多くが崩れては、地獄絵図の一丁上がりである。

 まさかこのような状況にエディタ先生を放置するなどあり得ない。

「え? あ、ちょ、ちょっとっ!?」

 慌てるロリビッチに構わず、飛行魔法の勢いを増した。



◇◆◇



 数分ばかりを飛んだところで、無事にエディタ先生を発見した。

 傍らにはJCの姿もある。

 ただ困ったことに、こちらも随分とエキサイティングな状況だ。今まさに倒れゆく建物、これをお一人でバリアっぽい魔法により受け止めている先生。かなり大きな塔っぽい建造物が、根本からポッキリと折れてしまっている。

 支える先生の表情は必至である。

 心なしか正面に浮かんだ魔法陣の輝きが、段々と弱まってゆくのを感じる。

「ぐぬぬぬぬっ……」

 その背後で庇われているのがJCである。

 地面に尻を落ち着けて、腰を抜かす姿が確認できた。ただ、そうして震えていたのも束の間のこと。建物の影が色濃く迫る様子に慌てて立ち上がる。目前に控えた危機を理解したところで、今まさに脱兎の如く逃げ出した。

「わ、私は知らない、知らないからなっ!?」

「あ、こらっ! 待てよっ! 私だけおいていくなっ!」

「うっさいっ! 誰だって自分が一番大切なんだよっ!」

 伊達に心がニートしていない。

 素晴らしい状況判断能力だ。

 まさに勝ち組の思考である。

 もれなく負け組ポジなエディタ先生かわいい。

「おいこら、それちょっとズルいぞっ! ズルいよなっ!?」

「勇者さまだって勝てなかったんだっ! こんなの逃げるしかないだろっ!?」

「だ、だからって私をおいてくなよっ! 一人だけズルいぞっ!」

 エステルちゃんとガリメガネの美談とは打って変わって、こっちらは酷く現実的で殺伐としている。むしろ安心するというか、普通はこうなるよな。同時に少なからずコミカルな印象を受けるのは、それもこれもエディタ先生の人柄が故だろう。

 壁を支えている先生に構わず、我先にと走りだしたJCが遠ざかってゆく。

 その姿を視線に追い掛けて、ちょっと待てと吠えるばかりの金髪ロリムチムチ先生。口ではあれこれ文句を言っているけれど、他所へ力を割いている余裕はなさそうだ。腰や膝がプルプルと小刻みに震えている。限界が近いのは間違いない。

「ぐっ、ぬぅぅぅうう……」

 今にも潰れてしまいそうだ。

 これはお助けせねばなるまい。

「あ、あのエルフっ……」

 今にも潰れようとしている相手が見知ったエルフと理解して、ロリビッチからも声が上がる。いつぞやの講演に際しては、舞台でまで口喧嘩をした相手だ。流石に数日を過ごした限りでは忘れることもないよう。

「エディタさんっ!」

「あっ……」

 空飛ぶビッチと童貞の姿を目の当たりとしたところで、先生の表情に変化が。

 地獄に仏を見つけたよう、パァと表情が輝いて窺える。先生のそういう素直なところ、かなり嫌いじゃない。ただ、一連の変化はほんの僅かな間のことである。すぐに元の険しさを取り戻して、声も大きく吠えて下さる。

「く、来るなっ! 巻き込まれるぞっ!」

 強がっちゃってもう。

 ロリビッチといい、金髪ロリムチムチ先生といい、自身の周りには良い非処女が揃っているじゃないか。特に先生の場合、ここ最近はポンコツなシーンばかり拝見していたから、今この瞬間に輝く勇姿が最高に格好いい。惚れる。

「すぐにどかしますっ!」

「っ!?」

 エステルちゃんを飛ばしていたのとは別に飛行魔法を操作。

 倒れゆく塔の行き先を他に人の姿が窺えない方向へ向ける。数瞬の後、倒れゆく先を変えたそれは、ズズン、控えめな地響きと共に大地へ横となった。もちろん、他に被害者はゼロのはず。ちゃんと着地地点は確認しましたもの。

「なっ……」

「大丈夫ですか? エディタさん」

「こ、これはっ……」

 一方で酷く驚いて見せるのが先生だ。

 思い返せば先生の前で魔法を使った経験、ほとんどない気がする。

「エディタさん?」

「いや、そ、そうか、貴様はレッドドラゴンを打倒するほどの男だった。空賊に襲われた際も、飛空艇の残骸を操作していたし、この程度の構造物であれば、魔法で浮かせることも決して不可能ではないという訳か……」

「困惑されているところすみませんが、急いで場所を移しましょう」

「あ、ああ、そうだなっ!」

 勇者さまの登場も虚しく、依然として触手ナメクジは健在だ。周囲には他に背の高い建物が多くある。この場に留まっていては、同じような展開の繰り返しとなることは想像に難くない。

 ただ、そう簡単に進まないのが、昨今のブサメンの低LUC事情だ。

「う、うぁあああああああああああああああっ!」

 どこからともなく、一際大きな悲鳴が響いて聞こえた。

 耳に覚えのある声だった。

 それもそのはず、音の聞こえてきた側に注目すれば、触手ナメクジに一本釣りされたJCの姿があった。足首を細目の触手に絡め取られたところで、逆バンジーの要領だ。地上から掬い取られたかと思えば、次の瞬間にはプラプラとぶら下がる羽目となる。

 なにやってるのよあの子は。

「ぐっ、ああなっては流石に……」

 エディタ先生も難しそうな表情だ。

 そんな彼女にエステルちゃんが吠える。

「ちょっと、あれって貴方たちと一緒にレポートをやっていた子でしょう!? ちゃ、ちゃんと面倒を見ておきなさいよっ!」

「あ、あっちが勝手に逃げてったんだよ! そうでなければ、わざわざあんな重いものを支えている筈がないだろ!? どうして私が責められなければならんのだっ!?」

「でもこのままだと、あの子はっ……」

「うぐっ……」

 ロリビッチの言わんとすることは理解できる。

 つまり今まさに、醤油顔の見せ場が到来だ。

 ポイントの稼ぎどきってやつだ。

 いつぞやエステルちゃんが結婚したい症候群を患ってしまったのも、十中八九でドラゴン退治を巡る一連のポイントセールが原因だろう。これを今度はJC相手に行ってみたらどうだ。めでたくゾッコンラブ属性の推定処女膜っ娘をゲットできるという寸法だ。

 素晴らしいぞグレート。

 遂に訪れたぞこの瞬間が。

 こういう展開を待っていたのだよ。

 本当に、本当に、ずっと待っていたのさ。

 普通の子を普通に助ける。そんな普通の瞬間を。

 俺、JCと結婚するわ。

「私が行きます」

「え? あ、おいっ! ちょっと待てっ!」

 エディタ先生とエステルちゃんには申し訳ないけれど、今しばらく待機していて頂こう。その周りを囲うよう、ストーンウォールをニョッキさせる。壁の一面に人が一人通れる程度の穴を設ければ、自由に出入り可能な簡易シェルターのいっちょ上がりだ。

 これで少なくとも倒壊する建物に潰されることはないだろう。

「な、なんだこれはっ! まさかストーンウォールかっ!?」

「ちょっと! いきなりなにするのよっ! ど、どういうつもりっ!?」

 賑やかな二人をシェルターの内側に放置して出発。

 下心満載、飛行魔法を用いてJCの下へ勢い良く飛び出した。
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