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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫

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学園都市 三

 数日後、ブス教授から提案された講演会の当日。

 我々は案内されるまま、学園都市の中央に設けられた、数多ある講堂の一つに足を運んでいた。当初は数十人ほどを集めての講演となる予定であったそう。事実、最初に彼と打ち合わせをした際には、そのように説明されていた。

 しかし、事前に参加者を募ったところ、あれよあれよと人が集まり、なんと四桁近い規模となった。テレビやネットといった媒体が存在していないにも関わらず、僅か二、三日の間で大した成果だ。学園都市の備える性質の一端を垣間見た気分である

 おかげで用意されたホールは同所においても、それなりに大きな代物である。いつだか首都カリスの学園で眺めた学技会の会場と比較しても、勝るとも劣らない規模である。作りも同様に荘厳であって、自分たちが場違いに思えるほどの高級感が。

「ほ、本当にここでやるのかっ!?」

「そのようですね」

 だからだろうか、エディタ先生が嘗てない勢いでプルプルしてる。やはり想像していたところと規模が違ったみたいだ。なにせ一連の変更を耳としたのは、つい今し方のことである。寝耳に水というか、ウォーターボールでもぶつけられたような顔してる。

「もしも調子が良くないようであれば、私の方から断りを入れますが」

「もう人が集まってしまっているし、い、今更なんて無理だろっ!?」

「どうでしょう? 最悪、延期という形で人を減らすとか……」

「やるっ! やるよっ! やるって言ったんだからなっ! 自分でっ!」

 ちなみにゴッゴルちゃんは自室でお留守番。

 流石に読心系褐色ロリータ同伴では要らぬ誤解を産んでしまうからな。

「分かりました。では私も精一杯、傍らから支えさせて頂きます」

「そうなのか? い、一緒に登壇するのか?」

「もしも邪魔でなければ、ですが」

「分かった! いいだろう、た、頼むぞっ! あぁ!」

「はい」

 魔道貴族から聞いた話、学技会でも熱弁を振るったエディタ先生だ。更にソフィアちゃんから詳しく伺ったところ、最高にガクブルしていたそうな。これを他の誰よりも近いところから鑑賞する楽しみ、まさか決して譲ってなるものか。

 お漏らししちゃっても良いのだぜ。

 しばらくを舞台袖に待機したところで、声が掛かった。

 壇幕が上がるに応じて、いざ、舞台の中央へ向けて出発である。



◇◆◇



 当初はどうなるかと不安であったエディタ先生のステージ。

 想定されたとおり、膝はガクガク肩はブルブル。震えは一向に止む気配がなかった。しかしながら、それでも先生は真正面から一生懸命に頑張った。舞台に姿を表してしばらく、ぷーくすくす、心ない聴講者に笑われながらも、必至に努力した。

 おかげでしばらくすると、笑い声も段々と鳴りを潜めていった。代わりに誰も彼もの表情は真剣となり、先生の発表に耳を傾け始めたのだった。どうやら学園都市においても、先生の纏められた理論は十分に通用するものであったよう。

 一連の変化を目の当たりとしては、喜ばしい気持ちで胸が溢れた。

 流石は金髪ロリムチムチ先生である。

 おかげで醤油顔の出番はそう多くない。先生の説明に応じて、事前に用意したパネルの類を数枚ばかり、壇上で掲げるに過ぎていった。

 そして、講演は粛々と進み、事前に用意したアジェンダは大半が消化、最後にニラ紫より生成したマナポーションを実際に飲んで頂くフローのを残すばかり。

 適当に会場から参加者を見繕い、事前に用意したポーションを一気して貰う予定だった。誰も手を上げなかった場合、ブス教授が名乗りを上げる手はずとなっている。

 そうした頃合の出来事だった。

 不意に会場の一角より、ホール全体に響く声があった。

「タナカタナカタナカって、どうして貴方はあの男のことばかり話そうとするのっ!? せっかくこうして二人で国を出たのに! 今、私は貴方とともにいるのよ!? 他の誰でもない、アレン、貴方と!」

 エステルちゃんだ。

 どうやら彼女もまた講演に参加していたよう。

 目を凝らせば、傍らにはアレンや縦ロール、マゾ魔族の姿も見て取れる。会合までは数日の猶予がある為、他にやることもなくて暇だったのだろう。自身もまた同じ立ち位置にある為、彼ら彼女らの心中は容易に理解できた。

 しかし、この場で荒ぶるとは何事か。

「え、エステル、落ち着いてっ! 流石にこの状況では……」

「それともなに? 貴方は私にあの男とくっついて欲しいのかしら? そんなの嫌よ! 死んでもゴメンだわっ! あの男のどこが凄いのよっ! あの気色が悪い日記だって、きっと他の誰かが捏ち上げたに違いないわ!」

 どうやらエステルちゃんとアレンの間で、例によって痴情の縺れが炸裂した模様。よりによってエディタ先生のステージでスパーキングとは、やってくれるじゃないか、このロリビッチめ。

「エステルっ!」

 必至に窘めるべく動くイケメンだが、ヒートアップした金髪ロリータはコントロール不能だ。フロア全体に響き渡るほどの声で語ってみせる。伊達に大貴族の娘さんしていないだろう。多少の無理は道理を引っ込ませることで、今日まで生きてきたのだ。

「貴方が凄い凄いと褒めるから、わざわざこうして足を運んだのに、今の話はなんなのかしら? 結局、まずくて飲めないポーションを作っただけじゃないの! そんなの戦場で役に立つの? 味に顔を顰めている間に魔法で撃たれて死ぬのがオチよ!」

 居合わせた観客の視線がエステルちゃんに集まる。

「多少高くても、現場の兵を思えば、より質の良いポーションを供給すべきよっ! 一度でも安かろう悪かろうでポーションの配給をしてみなさい。甘い汁を吸った上は、次も、また次も、同じように費用の削減を繰り返すわよ? 最悪だわ!」

 相変わらず格好良いこと言うよな。

 彼女の言葉は非常に的を射ている。

 一度でも低きに流れてしまった物事は、なかなか元あった高さまで戻らない。おかげでトイレの水の勢いが弱くなったり、休み時間にフロアの照明が消されるようになったり、社畜たちの苦労は日に日に増してゆくって寸法さ。

 そう考えると、確かに安易に提案できる技術ではないな。

 気付かされてしまったぜ。

「とりあえず、そ、外に行こうっ! エステルっ、外へっ!」

 これ以上の注目は堪らないとばかり、金髪ロリータを会場から連れ出すべく、アレンが腰を上げた。その腕を取ると共に、周囲へペコペコと頭を下げる様子は、実にヤツらしい立ち振舞だろう。

 一方、縦ロールとマゾ魔族は完全に他人の振りを決め込んで思える。

 今の今まで隣の席に腰掛けていた二人だが、金髪ロリータの発狂に応じて、そそくささと二つ隣の席へ移動すると共に、なにこの子頭おかしいんじゃない? みたいな表情でパーフェクト第三者。マジ良い性格してる。

「これだけしっかりとした場所で発表するのなら、ちゃんと使い物になるようになってからするべきよ! きっとそれもこれも、そこの男が功を焦ったからでしょう? そうに決っているわっ! 外見が見にくければ、内面も醜い男ねっ!」

 おっと、醤油顔に飛び火の予感だ。

 エステルちゃんが今に語ったところと、同様の意見を腹に抱える人間は決して少なくないだろう。この手の議論では、誰もが納得するようなケースこそ稀である。自分やエディタ先生のような部外者の講演ともなれば、相応数が見込まれる。

 自身もまた少なからず同意できるのだから。

「エディタさん、構わず続けましょう」

 だもんで自分はといえば、脇から先生にアドバイス。

 下手に引きずられては碌な事にならない。こういう場合は一意見として扱うのが一番である。向こうにはアレンが付いているし、適当に往なしてくれることだろう。この場を推してくれたブス教授の顔もあるし、下手に動いてはこちらの方がダメージ大きい。

 だが、それでも先生の口から漏れたのは売り言葉に買い言葉。

「……それは聞き捨てならないな」

「なによ?」

 壇上と観客席、見つめ合う金髪ロリータたちの間で火花が散った。

 いつになく好戦的な姿勢を見せるエディタ先生。

 やはり先生にとっての錬金術とは、とても大切なところにあるようだ。

「どうやら貴様は私が知る女とは別人らしい」

「あら奇遇ね? 私も貴方なんて知らないわ!」

 このままではイカン。

 焦ったところで自然と意識が向かった先は、客席の最前列に腰掛けたブス教授である。だが、ちょっと待った。ここで彼を頼る訳にはいかない。エディタ先生も、エステルちゃんも、こちらの側の人間である。学園都市の人間ではない。

 内輪の面倒を解決する為に、まさか学園の副代表に頼る訳にはいかない。

 ここは自分がなんとかしなければ。

 エディタ先生から場所を奪うよう、舞台の中央に立つ。

「たしかにご意見は色々あると思います。今し方に上げられた点も、はい、もっともでしょう。戦場で如何様な性質が優先されるのか、これを代表して示して下さったところ、そちらの席のお嬢様には感謝の言葉をお送りしたいと思います」

「お、おいこらっ」

 今の今まで黒子に徹していた都合、少なからず客席がざわめく。

 エディタ先生からも非難の声が。

 これに構わず適当を語らせていただく。

「それでは皆さん、問題の味に関して、実際に自らの舌で確かめようという、気概のある方はいらっしゃいますでしょうか? 成分に関してはこれまでご説明したとおりです。不味いかもしれませんが、決して毒ではありません」

「おいっ、私はまだあの女に言うべきことがっ……」

「どうでしょう? 毒味が必要であれば、私が半分ほど口にさせて頂きますが……」

 すると、幸運にも観客席からは手の上がる様子がちらほらと。

 よっしゃ。

 この調子なら乗り切れそうだ。

 エディタ先生とエステルちゃんは放置である。

 自らの発言を押し通す形で、当初予定した講演を突き進ませて頂いた。



◇◆◇



 一度はエステルちゃんの大暴走からコースアウトしそうになった講演会。それもアレンのサポートと醤油顔の努力により、最悪の展開は回避された。最後は無事に観客席から拍手を頂戴する形で、緞帳は降ろされた次第である。

「……すまなかった」

 舞台を降りたところで、冷静を取り戻した先生からは謝罪の言葉が。

「いえいえ、エディタさんの憤慨も当然のものです」

 自らの理論を否定されたのだからな。

「だがしかし、ず、随分と迷惑をかけてしまった」

「最終的には良いアクセントとなりました。なんら問題ありませんよ」

 楽屋裏を後とする際には、ちらり姿を見せたブス教授からも、素晴らしい講演であったと品評を頂戴した。決して自分勝手な判断ではないと思う。人によっては良い刺激、もしくは突っ込みであったと評価するかも知れない。

「ですから、今は素直に喜んでおきましょう」

「……う、うむ。分かった」

 渋々ながらも頷いてみせるロリムチムチ先生。

 良かった良かった。

 そんなこんなで我々は、つい今し方に控室を出発したところ、来賓室に戻るべく廊下を歩んでいる。これといってご褒美の類がある訳ではないのだけれど、一仕事した感が達成感を与えてくれる。

 今日は気持ち良く眠れそうだな、みたいな。

 ただ、そうして胸を撫で下ろしたのも束の間のこと。

 居室へ戻るべく廊下を歩んでいた最中、廊下で出会ってしまった。曲がり角を一つ過ぎたところ、偶然にも出会ってしまった。どなたと遭遇したかと言えば、今まさに渦中の人となるエステルちゃん。傍らにはアレンの姿もある。

 ちなみに縦ロールとマゾ魔族は不在だ。

「むっ、貴様はっ……」

「……最悪ね。またこの顔を見る羽目になるなんて」

 T字路の曲がり角でバッタリである。

 更に運がないこと、両者の向かう先は同じ側であった。互いの歩みが一歩を踏み出すに応じて、その行き先が同様であることに気づいた彼女たちの顔が、自然と顰められる様子は、傍目にもハラハラでドキドキだ。

「それはこちらの台詞だ。碌に礼儀も知らない娘っ子が」

「……なんですって?」

「講演の最中に奇声を発した上、あまつさえ議論の内容をすり替えて、他者の外見や人格を否定するなど、研究者として、否、人としてあるまじき行いではないか? 先ほどの貴様の行いは到底、貴族として褒められたものではないな」

「っ……」

 エディタ先生のお口から文句が飛び出した。

 エステルちゃんの表情が憤怒一色となる。

 ギュッと握られた拳が、今すぐにでも飛んできそう。

「じょ、上等よ、貴族を侮辱したこと、思い知らせて上げるわ」

「エ、エステルっ! 落ち着くんだ」

 おかげでアレンが可哀想なことになっている。流石に今回はエステルちゃんの分が悪い。特にエディタ先生が指摘した点に関しては庇いようがない。にも関わらず、これを弁護しいなければならないのが彼氏の辛み。

 こういうのを親身となり慰めて、あの手この手でご機嫌を取り、最終的には自宅に招かれて、然る後、私には貴方しかいないわ系ご褒美セックス、っていう流れ、いつか経験してみたいと切に願う。絶対にフィニッシュ時のホールド率高いって。

「お二人共、喧嘩は国に戻ってからにしましょう。ここは学園都市です。ペニー帝国ならいざしらず、我々は国の代表としてこの場にいるのです。本国の名誉に泥を塗るような真似は避けるべきではありませんか?」

 エディタ先生には悪いけれど、この場は両成敗的に進めさせて頂こう。

 でないとエステルちゃんが爆発してしまう。

「私は一向に構わないな」

「ぐっ……」

 こちらの意図を組んでくれた先生愛してる。

 一方で醤油顔から良いように扱われて、悔しそうな表情となるロリビッチ。

「そうだよエステル。タナカさんの言うとおりだ」

「ほらまた! また言ったわっ! タナカ、タナカ、タナカ、どうして貴方はその男の名前ばかり口にするのっ!? 今日だって、私とデートの最中だったのよ? それなのに訳の分からない男爵風情の身の上ばかり、やたらと口にしてっ!」

「ご、ごめん、エステル……」

 なるほど、なんとなくエステルちゃんが怒ってる理由を把握だ。

 流石にこれはアレンの気遣いが足りない気がする。それともヤツ自身の意向として、どう足掻いてもエステルちゃんの記憶を元に戻すつもりなのか。一昨日の会話を思い起こせば、後者の可能性は非常に高い。

 やはり真正面から醤油顔を撃破したいらしいな。

 その清らかな心意気は素晴らしいと思う。

 素直に尊敬する。

 けれど、こちらからすると鬼畜以外の何者でもない。

「ふんっ! こ、これ以上は構っていられないわねっ!」

 吐き捨てるように呟いて、我先にと歩調を早くするロリビッチ。

 そんな彼女の背を追いかけるアレン。

 ただ、彼女たちが我々の下より離れるには、幾分かタイミングが悪かった。数歩ばかり進んだ先、廊下の先からドタバタと人の駆ける気配が。我々が今まさに進むべく進路をとっていたT字路の残る一方向、その角向こうから人の気配が生まれた。

 姿を現したのは数名からなる学園都市の生徒さんたち。

 その先頭を行く一人が、歩みだしたエステルちゃんに肩をぶつけてしまう。

「きゃっ……」

「っ!?」

 どうやら相応に勢い付いていたらしく、共にバランスを崩す羽目となる。

「エステルっ!」

 咄嗟、手を伸ばしたアレンにより抱きとめられたロリビッチ。

 一方でぶつかってきた側は、ズベシャと派手に廊下を転がった。

「っう……」

 可愛らしい黒髪ツインテールと、転倒に応じてふわり捲れ上がったスカートの下、食い込み気味の白パンツには見覚えがある。ここ数日に渡り、各所で顔を合わせること度々、イジメられっ子のJCである。

 それとなく他を見やれば、彼女の後続にはイジメっ子の姿がある。以前と変わらずデブ、ガリ、イケメンの三人組だ。彼らはこちらの姿を確認したところで、今まさにサァと血の気が引いたよう、顔を真っ青にしている。

 どうやら彼らが彼女を追い立てていたよう。

「これはまた偶然ですね」

「ちょ、ちょっとっ! いきなりなによっ!?」

 荒ぶるエステルちゃんの意識は自らにぶつかった少女へ。

 対して、貴族の娘さんから吠えられたイジメられっ子はと言えば。

「っ……」

 周囲の注目が自身へ集まっていることを理解した途端、大慌てに飛び起きる。同時に乱れていた衣服を両手で庇うように取りなす。瞳はキョロキョロと忙しなく動いて、同所に集まる面々をぐるり一巡するように確認した。

「…………」

 やがて、貴族スタイルな自分やエステルちゃんの存在を確認したところで、大きく瞳を見開くと同時、謝罪の言葉すら忘れて、脱兎の如く逃げ出していった。駆け出すに応じては、ふわり、再びスカートの裾が舞い上がってパンチラ。

「なによ、自分からぶつかっておいて、謝罪もないの!?」

 一連の行いを眺めては、殊更に憤慨するロリビッチ。

「まあまあ、エステルは少し落ち着いて。なにやら事情がありそうだよ?」

「……なによそれ」

 アレンの視線が向かった先にはイジメっ子たちの姿が並ぶ。

 今し方に垣間見た少女の服の乱れから、少なからず背景を理解したのだろう。



◇◆◇



 少女と同様、現場から逃げ出そうとしたイジメっ子一同。これをアレンがニコニコ笑顔に確保したところで、事情聴取は行われる運びとなった。結果、白昼の下に晒されたのは、醤油顔が想像した以上に波乱万丈な、少年たちと少女の関係である。

「つまり、元々は彼女が君たちを虐めていたと」

「そ、そうだよっ! アイツ、自分の家が良い家柄の貴族で、それに学園へも飛び級で入学してきて、勉強も出来るからって、いつも偉そうにしてたんだ。事ある毎に俺たちのことを馬鹿にしてたんだ!」

 三人を代表して応えるのはリーダー的存在だろうイケメン少年。

「なるほど、たしかにそれは酷い話だね」

「そうだろっ!?」

「でも今は君たちが、彼女を苛めているんだよね? どうしてだい?」

「それはアイツの家が没落して、貴族としての後ろ盾もなくなって、ちやほやするヤツも居なくなったから、だから、これまでの仕返しをしたって、べ、別に俺たちにとったら、正当な復讐ってヤツじゃないか……」

 悪いことをしているという意識はあるのか、最後は尻窄みのイケメン少年。

 これに対するアレンはと言えば、諭すような調子でトークを継続。

「たしかに君の気持ちは分かるかな」

「だ、だろっ!?」

「けれど、だからと言って苛めに苛めで対抗するのは良くないよ」

「っ……」

 極めて穏やかな語り調子が、慈しむような眼差しと相まり最高に格好良い。少年もこれを受けては続くところ、言葉を失って思える。それもこれもイケメンの技術。同じことを醤油顔がやったら、速攻で顔面にパンチ飛んでくるだろうな。

 一方で少年の独白を耳として、呆れ調子に呟くのがロリビッチである。

「っていうか、それって完全に自業自得じゃないの」

 きっと大して興味もないのだろう。

 酷く投げやりな態度が、非常にエステルちゃんらしい反応である。

「それでも彼らと彼女らにとっては大切な問題だったのだろうさ。例えば君が先ほどの講演で、登壇者であるそちらの方々に食って掛かってみせたようにね」

「っ……」

 アレンのやつ、本当にエステルちゃんの記憶を戻す腹積もりだな。

 思ったより執念深いじゃないか。

 今回に限っては下半身駆動な意思決定機構が働いていない予感。

「あの子をどれだけイジメても、君たちに幸福は訪れないよ?」

「そ、そんなこと分かってるよっ! でも、俺たちはアイツに……」

 酷く悔しそうな表情となるリーダー少年。

 貴族のイジメは辛辣だというし、きっと相応の経験を経て今日があるのだろう。

「ちなみに、その家柄ってどこなのかしら?」

 アレンの言葉が効いたのか、話題を逸らすようエステルちゃんが続けた。

「ペニー帝国のアウフシュタイナーって家らしいけど……」

「え? あの子、アウフシュタイナーの子なの?」

「う、うん。前に自分は末っ子だって言ってた」

 これにイケメン少年はボソボソと呟いて応じる。

 アウフシュタイナー、耳に覚えのある名前じゃんね。どこで聞いたのだったっけ。喉元まで出かかった響きに、あれこれと悩んだところで、あぁ、あれだ、今は亡きゴンちゃんの実家が、そんな感じの名前だった気がする。

 ヤツの親類とか完全に想定外なんだけれど。

「そう、アウフシュタイナーの子なのね……」

「……エステル?」

「あそこはお家を取り壊しの上、一族郎党皆殺しになった筈だわ。それが今日まで生きているというのは、国外に留学していたから、あの子に限っては、極刑の憂き目を逃れたのかもしれないわね」

 その名を耳としたところで、少しばかり遠い目となるエステルちゃん。

「み、皆殺し……」

 彼女の呟きを受けて、イジメっ子たちの顔色が少しばかり色を変えた。

 少年には些か刺激の強い単語であったよう。

「あそこの家は優秀すぎたのよ。そして、他のどの家よりも潔癖すぎた」

「…………」

「だから、他の貴族から反感を買って、潰されてしまったの」

 どうやらゴンちゃんの家の人たちは、想像した以上に重い過去を背負っているようだ。他の誰でもない公爵令嬢なエステルちゃんの口から聞くと、信ぴょう性も一入である。もしかしたらフィッツクラレンス家も、一枚噛んでいたのかもしれない。

「ところで君たちも、先ほどの講演を聞いていたのかい?」

 これ以上は不味いと判断したのだろう、アレンがフォローに回った。

 些か強引ながら、場の空気を一新すべく率先する形である。

「そ、そうだよ。レポートの題材にしようと思って……」

「レポート?」

 存外のこと素直に頷いてみせたイケメン少年。

 彼は疑問に首を傾げるアレンに対して、いつだかイジメられっ子の少女が語ってみせたところと同じ内容を説明してみせた。例のライフポーション云々に関するレポート課題に関してである。

「へぇ、そんな課題が出ているんだね」

「俺らはライフポーションなんて、絶対に無理だと思ってるけどね」

「なるほど」

 得意気に語ってみせるイケメン少年。

 それなりに調べているのだろう。

 そんな彼に異論を唱えたのが、金髪ロリムチムチ先生である。

「そうして頭ごなしに決めつけるのは良くないな。否定をするのは結構だが、実験はどの程度行ったのだ? 絶対というからには、相応の努力と成果が伴うべきだろう」

 どうやら彼女の熱いところに少年の何気ない一言が抵触した様子だ。

「だってそうだろ? これまで何十年も、何百年も研究されてきて、それでも未だに作り方が分からないんだ。そんなもの、どれだけ研究したって無理に決まってるじゃん」

「過去の成果はそのとおりだ。しかし、これからも同様とは限らない」

「だ、だったらなんだってんだよっ!?」

「もしも先の内容でレポートを書くのであれば、どの程度の技術レベルにおいて不可能であるか、その期間や環境を前提として盛り込むべきだろうな」

「期間と環境?」

「そうだ」

 おぉ、エディタ先生が先生っぽいアドバイスをしていらっしゃる。見た目全力でロリータな彼女だから、無性に微笑ましい気持ちとなる。言動と見た目のギャップが素敵。心が暖かくなるぜ。

 ただ、そんな名シーンを邪魔するヤツがいる。

「ふんっ、それなら簡単よ! 期間は永遠、環境はどこででも、ね!」

 ロリビッチである。

 今更ながら彼女の根底にある価値観を意識させられる。非常に貴族的というか、リチャードさんの娘らしいというか、身内には広い懐を見せる一方、他者に対しては、どこまでも攻撃的である。一度でも線の内側に入った経験があるからこそ、強く思う。

 自然とエディタ先生の意識も彼女に向かう。

「可能性は決してゼロではない。この男が、その片鱗を示してくれた」

 醤油顔をチラ見すると共に主張するエディタ先生。

 ニラ紫の入浴剤を指してのことだろう。

 でも先生、それは今この場で完全に失言ですよ。

「随分と偉そうなこと言っているけれど、ライフポーションなんて作れる訳がないじゃない。どれだけ多くの研究がされてきていると思うのよ? 無理に決っているわ」

「そんなもの、やってみなければ分からない」

「どれだけやっても無駄よ。歴史が全てを証明しているわ。これ以上の根拠を学生に示させるなど、それほど価値のない時間の使い方はないのではないかしら?」

「故に先ほど述べたとおり、仮定と論証が大切になる」

「ええ、彼らのレポートとしてはそうね。でも、それでは永遠に正解へ辿りつけないわ。レポートの趣旨としては正しくとも、ライフポーションの完成とは無関係ね」

「ぐっ……」

 イケメン少年を置いてけぼりで口喧嘩に発展する二人のトーク。

 しかも意外とエステルちゃんってば論破力高し。

 見事に釣られたエディタ先生が悔しそうな表情でプルプル。

 それもこれも原因はロリビッチが読んだという自筆の日記だろう。こんなことなら事前にリチャードさんへお伝えして、彼女が目にする前に処分しておくのだった。まさか本当に書いているとは夢にも思わなかった。

 いやいやいや、今は過去の過ちを悔いても仕方がない。

 それよりも栄えある未来を目指して、ポジティブシンキングしてゆこう。

 あぁ、閃いた。

 今回の一件でエステルちゃんと喧嘩別れすれば、自然とアレンとの距離も遠退くのではなかろうか。そして、自分とアレンが離れるということは、エディタ先生とゴッゴルちゃんもアレンから離れるということ。

 しかも今まさに話題へ挙がっている課題のレポート云々を絡めれば、JCを巻き込む良い口実となる。ヤリチンの触手から先生とゴッゴルちゃんを守りつつ、現役女子学生と共に過ごす時間を得る。素晴らしい。一石二鳥じゃないか。

 あのくらいの年頃なら、膜保有確率も相当に高そうだ。

 学園青春ラブロマンス、期待できる。

「そういうことなら貴方の売った喧嘩、私が買いますよ、フィッツクラレンス様」

「な、なによ? どういうことかしら!」

「タナカさんっ!?」

「お、おいっ……」

 エステルちゃんのみならず、場の面々の視線が一斉にこちらへ向いた。

「私はアウフシュタイナー家の娘さんを応援します。レポートの発表会では、彼女の発表により、彼らの発表を圧倒してみせましょう。それが私が貴方に示す、ライフポーションの可能性です」

「っ!」

 ビクリ、すぐ傍らでエディタ先生の震える気配が。

「ふん、上等よ! それなら私は私の主張で、貴方の下らない意見を完膚なきままに否定して見せるわ! ちょっとそこの子たち、一緒にいらっしゃい! 私が貴方たちのレポートの面倒を見てあげる!」

 エステルちゃんがジロリ、睨むような視線を三人組に向ける。

 見つめられた側は酷く迷惑そうな表情だ。

 えーまじかよ、勘弁してよ、言わんばかりの眼差しがひしひしと。

「エステルっ!? それにタナカさんも、さ、流石にそれは……」

 これはアレンも想定外であったらしく、少なからず狼狽して思える。

 だが、イケメンには悪いけれど、今この瞬間ばかりは我を通させて貰おう。

「言っておきますが、手加減などしませんよ?」

「上等よっ! 私が勝ったのなら、貴方には靴でも舐めて貰おうかしら」

「一向に構いません」

 ようし、上手いこと乗ってきたぞロリビッチめ。

 むしろペロペロ上等だわ。

 こういうノリ、結構嫌いじゃないんだぜ。



◇◆◇



 エステルちゃんとのやり取りから数刻ばかり。自らに充てがわれた客間には、エディタ先生とゴッゴルちゃんの他、JCの姿がある。ピーちゃんにお願いをして、ブス教授経由でお付の世話係とやらを指名させて頂いた次第だ。

「な、なんで私がオッサンたちの世話役なんだよ……」

 酷く萎縮した様子で、彼女はソファーに腰掛けている。

 対面には自分とエディタ先生が並ぶ形だ。

 ちなみにゴッゴルちゃんはと言えば、我々を読心圏外とすべくだろう、部屋の隅で体育座りしてる。民族衣装っぽい服のミニスカートな内側から覗く太ももが堪らない。

 体育座りを体育座りとして定義したヤツ、天才だよな。

 世間では開脚前転の功績に注目が向かいがちである。しかし、体育座りという名称と役回りの普及もまた、同じくらい評価されて然るべきだと思う。

 ただ、やはり一番は地球まわりだろう。

 あれを発明したヤツは間違いなくロリコンだ。昭和の怪物だ。

「これから数日ほど、共にレポート課題に当たらせて頂こうかと思います」

「……どうしてオッサンたちが私のレポートに手を出すんだよ」

「少しばかりフィッツクラレンス家のお嬢様と勝負事になりまして、一方的なお願いとなることは申し訳ないと思いますが、どうかご協力を願えませんでしょうか? 決して悪いようには致しません」

「っ……」

「どうしました?」

「べ、別に、なんでもないし!」

「そうですか? であれば良いのですが」

 フィッツクラレンスの名前にトラウマでもあるのかね。

 おかげで良い具合の牽制となった。

 伊達にお家が粛清されていないということだろうけれど。

「っていうか、レポートを手伝うとか、なにするつもりなんだよ?」

「そうですね……」

 これといって算段は立てていなかった。

 ただ、どうせやるならば、あのロリビッチを圧倒してやりたい。お靴をペロペロするのも吝かではないが、今回は自身のエステルちゃん離れも兼ねている都合、誰の目にも間違いようのない形で勝利したいのだ。

「まずはライフポーションに関して、貴方が理解していることを紙面にまとめてみましょう。その上で、なにを持ってして可能とするか、主軸となる題材を選んで、議論に道筋を立てるところからです」

「……いきなり教師みたいなこと言い始めたし」

「なるほど、教師ですか」

 断然、アリだな。

 これくらいの子にセンセとか呼んで貰うの、ずっと夢だった。

「な、なんだよ?」

「そういうことなら、以後は私のことをセンセと呼んでも良いですよ」

「嫌だよ。っていうか、なんか響きが気持ち悪い」

「……………」

 気持ち悪い、きた。待望の気持ち悪い扱い、きた。

 やっぱりショックだ。でも、少し気持ちいい。

「っていうか、オッサンに一つ確認したいんだけど」

「なんですか?」

「さっき講堂で吠えてた女って、ど、どこの貴族だよ?」

「私の上司にあたる方の娘さんですね」

「それってもしかして、フィッツクラレンスの……」

「ええ、本家の方になります」

「なっ、ちょっ、オッサンなに馬鹿なことやってるんだよ! そんなのどれだけ努力したって無駄に決まってるだろっ!? 頭は大丈夫か? どこに目上の家の娘に噛みつくヤツがいるんだよ! ヤバイって! 歳考えろよ!」

「ここにおりますが」

「冗談じゃないっ! 私まで巻き込まないでくれよっ!」

「彼女の父親とはそれなりに仲が良いので、この程度は問題になりません」

「だとしても、その時点で勝負にならないし!」

「私と一緒に頑張ってみましょう。決して無駄にはなりませんよ?」

「フィッツクラレンス本家の令嬢が喧嘩の相手? そんなの勝てるわけがないじゃん! 内容なんて関係ない。貴族っていうのは、そういう生き物だから、貴族なんだよっ! そんなことも理解できないのかっ!?」

「いいえ、勝てますよ」

「い、嫌だよっ! 私は無駄な努力とかしたくないんだ!」

「ではどういった努力ならするのですか?」

「それは、そ、その、確実に勝てるって思った時に、全力を尽くすんだよ!」

「……そうですか」

 完全に心がニートだな。やる前から既に諦めちゃってるよ。

 元々は飛び級で入学するほどの優等生であったとのことだし、やっぱり、実家の没落がメンタルをブレイクしちゃったのだろう。他人の勝手な都合で一族郎党皆殺しともなれば、このくらいの歳の子が受けたショックは計り知れない。

 しかし、だからといってこのまま放置したのでは、実家のみならず、本人の将来までもが失われてしまう。まだまだ若いのだから、せっかく生き長らえたのだから、せめて、少しでも前向きに生きてみてはどうだろう。

 ここは一つ発破を掛けてみようか。

「実は貴方以外、私はアウフシュタイナー家の方に知り合いがいます」

「……え?」

「その方は家が失われて尚も、自らの信念に従い、真っ当に生きていらっしゃいますよ。昨今のペニー帝国において、彼の名を知らない冒険者はいませんね」

「ほ、本当かっ!? 本当に家の生き残りがっ……」

 途端、少女の瞳が見開かれた。

「不可能を可能とするのが、アウフシュタイナー家の人間ですよ。少なくとも、私が知るアウフシュタイナー家の人間とは、そういう方です」

「っ……」

 決して嘘は言っていない。

 ゴンちゃんはあれでかなりのハイスペックだ。

 彼の助力がなければドラゴンシティもなかっただろう。

「ちなみに今、その方の名前をお伝えすることはしません」

「え、な、なんでだよっ!? どうしてっ!」

「貴方が今回の課題を全力でやり切ったのなら、最後に教えて差し上げます」

「なっ……」

 絶句である。

 次いで述べられたところは当然の疑念だろうか。

「う、嘘ついてるんだろっ!? そうなんだろっ!?」

「嘘ではありません。他に邪魔の入らない面会の場を都合しても良いですよ。今の私はそれが行える立場にあります。ペニー帝国まで飛空艇でお送りしましょう」

「……え、本当に?」

「ええ、本当です」

 決して小さくないショックを受けて思える。こちらを睨むよう向けられた恨みがましい眼差しこそ、少なからず根性の入った証だろう。原動力はどうあれ、今は一歩を踏み出すだけの気概を持って頂ければ幸いだ。

「少しはやる気になりましたか?」

「だったら、な、なんだっていうんだよ?」

「貴方が本当にアウフシュタイナー家の人間であるというのであれば、今こそ全力を尽くすときだと思いますが、もしかして違いましたか? 努力さえ忘れなければ、確実に家の方と会えますよ?」

「っ……」

 続けざま、適当に煽ったところJCは乗ってきた。

 伊達に元貴族していない。

 如何に没落したところで、自尊心は相応に高そうだ。

「上等だっ! 分かったよっ! やってやるよっ!」

「それでは作業を進めましょう。まずは先ほど伝えたとおりです」

「くそっ……」

 ブツブツと文句を言いながら、それでも少女は大人しく指示に従い、レポート完成に向けて一歩を踏み出した。印刷室から調達した紙とペンとを用いて、さらさらと紙面に文字を連ねてゆく。

 よしよし、この調子で頑張って貰おうか。

 家庭教師でもしているみたいで、ちょっと自身も楽しくなってきたぞ。

 やっぱり教えるなら可愛い女の子に限るよな。
既に店頭へ並んでいる店舗もあるそうです。
ご購入下さった方々、本当にありがとうございます。

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