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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫
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フィッツクラレンス家 四

活動報告を更新しました。
 馬車に揺られること数日、我々は首都カリスに到着した。

 これまで利用してきた正門とは異なる、お貴族様専用の門から入場した我々は、そのまま一度として地に足を付けることなく、フィッツクラレンス家のお屋敷まで運ばれた。流石はペニー帝国有数の大貴族様だ。

 辿り着いた先、エントランスには以前と同様、メイドさんと執事の方々がズラリと並び、一様に頭を下げている。身動ぎ一つせずに頭を垂れ続ける姿はプロフェッショナル。特に前者は年若い娘さんばかりだから、仕事中に着衣のままバックから犯したくなる。

 これを左右に見送ること幾らばかり。リチャードさん自らの案内により、我々が向かった先は、いつぞやにも訪れた食卓の間だ。アレンの不倫が露呈した場所であり、自らの首がちょん切られた場所でもある。

 一時の凄惨はどこへやら、血飛沫の一滴も見つけることない。

 時刻は夕暮れ時。なんでも昨晩のうちに早馬を走らせていたそうで、我々が到着するに併せて、食事の支度が為されていた。流石に断るのは申し訳ないので、ご相伴に預かるべく失礼した次第である。

 ただ、如何せんゴッゴルちゃんが一緒であるから、その配置は極めて悲しいことになっている。縦に長いテーブルの端と端を用いて、方やリチャードさん、方や自分とゴッゴルちゃん。そして、何故か中央にエディタ先生である。

 人見知りな先生だから、ゴッゴルちゃんの読心射程圏と、リチャードさんに対する気後れとが、そのようなポジショニングを取らせたようだ。当人も少なからず違和感を感じているようで、緊張と後悔からプルプルし始めた金髪ロリムチムチ可愛い。

 それでもゴッゴルちゃんを非難しないあたり、先生は良い人だ。

 一人で勝手に泥を被ってプルプルするばかりだ。

「しかし、流石にこの距離は違和感がありますね。テーブルを変えましょうか?」

「いえいえ、こうしてお招き頂けただけでも、大変にありがたいですから」

 もう少しプルプルする先生を見ていたい。

「タナカさん、明日の予定は決まってますか?」

「そうですね。まずは王宮に向かおうと思います」

「なるほど」

「急ぐ用件があるようであれば、そちらを優先しますけれど」

「いえ、タナカさんの用事を先に済ませて下さい。こちらはそこまで急ぐものでもありませんので。それに私も数日を留守にしておりましたから、ちょっと時間が必要です」

「分かりました。ではすみませんが、そのような形で」

「はい」

 ところで、エステルちゃんは留守なのだろうか。

 ここ最近の求愛事情を思えば、壁をファイアボールでぶち破ってでも現れそうなものなのだけれど。いや、流石にそこはパパさんがガードしているのだろうな。つい先日にも釘を差されたばかりだ。彼女のことを考えるのは止めておこう。

「……娘が気になりますか?」

 おう、流石は世間から親馬鹿認定されていない。

 速攻で気づかれてしまったぞ。

 ここは事実であったとしても、クールに往なすのが吉と見た。

「いえ、どちらかというと、アレンさんが気になりますね」

「約束のとおり、彼には一切を関わっていません」

「そうですか」

「お会いになりますか? 騎士団の詰め所に馬を出しますが」

「そういうことであれば、大丈夫です。暇を見つけて向かわせて頂きます」

「分かりました」

 リチャードさんは空気の読める大人だ。適当にはぐらかすと、それ以上を突っ込んでくることはなかった。ただ、幾分か空気の具合はピリピリとしてしまったけれどな。なるたけ早いうちにお暇したほうが良いかも知れない。

 もしも屋敷の中でニアミスしたら面倒なことになりそうだ。

「今晩は泊まって行きますか?」

 ほら、速攻でダメ出しが来た。

「いえ、学園の寮に戻ることとします」

「そうですか。では送りの馬車を用意しておきましょう」

「ありがとうございます」

 ナイフやフォークを動かす合間に、つらつらと首都での予定は決まってゆく。この様子だと数日ばかりは滞在することになりそうだ。まあ、他に急ぐ仕事はないので、久しぶりの首都をゆっくり楽しむとしようか。

 若返りの秘薬という目的が失われて、更に貴族な身の上の面倒事もまるっと片付いて、なんかこう、これまで張り詰めていたものが一気に弾けた感じ。目的意識っていうやつが、一気にゼロになったような。

「んぐっ……んっ、ぐっ……はぐっ、はぐっ……」

 ところで、一心不乱にお食事するエディタ先生可愛い。テーブルの中央に腰掛けている都合、必然的に皆々の視線は彼女の下を経由する。その気不味さから逃れるよう、一生懸命にモグモグしていらっしゃる。

 視線は一度としてお皿から外れることなく、ずっと下を向いたままだ。ただひたすらに食事を進めている。私はご飯を食べるのに忙しいから、別に会話なんてしなくても良いのよって気配をビンビンに全身から放っている。

「んぐっ……んっ……んぅっ!?」

 あぁ、喉になにか詰まらせた。

 凄く苦しそうな表情で、ドンドンと胸を叩き始めた。

 メイドさんが大慌てで駆けつける。

 お茶の煎れられたカップを両手に貰って、今にも死にそうな顔でゴクゴクするエディタ先生。

 一際大きな音を立てて、ゴックン、つかえが飲み込まれた。落ち着いた先生は、ホッと安堵の表情を見せたのも束の間、右を見て、左を見て、酷く恥ずかしそうな表情で俯いてしまう。

 すると、背を丸めて腹を圧迫した為だろう。本人の意図しないところで、ゲプゥ、可愛らしい音が鳴った。

「っ……」

 殊更に彼女の頭は下がって、肩も引っ込んで、可哀想なほど縮こまる。

「…………」

「…………」

 これにはリチャードさんも苦笑だ。

 どうしてくれよう、このナチュラルエルフさんは。

 そんなこんなで夕食の時間はとても穏やかに過ぎていった。



◇◆◇



 エステルちゃんちで晩御飯をお世話になってからしばらく、パパさんのご好意から用意して頂いた馬車に揺られて、我々は学園の寮まで戻ってきた。同所を訪れるのは久しぶりだ。かれこれ数週間ぶりの帰宅である。

 ちなみにエディタ先生は別の馬車で自らのアトリエに帰られた。

 同じ街に自宅を構えている都合、我が家に泊まっていったらどうだ、とは流石に言えなかった。ただでさえ寮生の身分であるから、強く語ることも叶わず、建前も碌に立たなかった。残念である。

 故に今この瞬間、部屋には自分とゴッゴルちゃんが二人きり。

「どうぞ、自宅だと思って寛いで下さい」

 エディタ先生の為に用意した挨拶をゴッゴルちゃんに送る。

 本当なら先生と過ごしたい二人きりの一夜。

 代わりに訪れた褐色ロリータ。

 やばい、どうしよう、いずれにせよ極めて興奮する。

 とてもエッチな気分になってきた。

 もしかしたらセックスできるかもしれない女の子と二人きり。

 押し倒したい。

「…………」

「…………」

 大丈夫。

 我慢する。

 分かってる。

 それにきっと、ゴッゴルちゃん非処女だろうし。ここまで露骨に避けられている穢多非人枠の美少女が処女である筈がない。きっと路地裏とかで輪姦された経験も一度や二度ではないだろう。きっと上も下も存分に注がれているに違いあるまい。

 そうこうするうちに気持よくなってしまい、もっと、もっと、口々に欲しがり始めて、最終的には頭のなかが真っ白だよぉとか、ありがちな言い訳を脳内に呟くと共に、中出し下さい宣言を繰り返す褐色ロリータ可愛い。

 あぁ、断然アリだな。

「……普通に話をしたい」

「ええ、そうですね。そうしましょう」

 それは切なる訴え。

 ゴッゴルちゃんがエロ可愛すぎて、ちょっと羽目を外してしまった。

 少し落ち着くとしよう。ごめんなさい。

「お茶でも煎れてきます。ソファーに掛けてお待ち下さい」

「分かった」

 思えば自分の手でお茶を煎れるなど久しぶりだ。

 普段はソフィアちゃんがやってくれるから、意識したことがなかった。ここは一つ、ゴッゴルちゃんに喜んで貰えるよう、頑張って美味しく煎れよう。碌に経験などないけれど、こういうのは真心が大切だと信じている。

「…………」

 そう言えば茶葉はどこにしまったかな。

 思えばポットが収まっている場所すらも知らない自室のお台所事情。

 なんてあれこれ考えながら、キッチンへ向かうべく足を動かす。すると、数歩ばかり歩んだところで、不意に部屋の玄関ドアがノックされた。コンコンコンと控えめな音が廊下を伝い、リビングにほど近い辺りにまで響いて聞こえた。

 夜分遅くに誰だろう。

 もしかしてエディタ先生だろうか。

 そうだったら嬉しいな。

「あ、はいっ、すぐに参ります」

 呟いてキッチンに向かうべく進んでいた歩みを玄関に。

 ドアを開いてお客様を迎え入れる。

「おや、ゾフィーさん」

「……こんばんはです」

「え、ええ、こんばんは。どうしました? こんな時間に」

 まさかの姫ビッチである。

 エディタ先生を期待しつつ、本命は家を抜けだしたエステルちゃんか、以前の件でアレンかなぁ、などと考えていた。おかげで完全に想定外の大穴である。チーム乱交においては一番に縁の薄い二号さんだろうか。

 思えば彼女が我が家を訪れるのは初めてのことだ。そもそも住所を教えた覚えがない。もしかして、エステルちゃんに聞いたのだろうか。アレンという可能性もある。ただ、この意識高い系ビッチがタナカ家の住所を気にするなど、そもそも有り得るだろうか。

「少し、貴方と二人で話をしたいです」

「私と二人で話、ですか?」

「です」

 まあいいや、とりあえず入って貰おう。

 廊下であれこれ話をするのは他の寮生の迷惑になるからな。

 集合住宅での生活はマナーの遵守が大切だ。

「分かりました。そういうことでしたら、どうぞ、お入り下さい」

「……ありがとうです」

 お部屋に姫ビッチを招き入れた。

 都合、お茶の用意はプラスワン。駆け足でキッチンに向かい、手早くファイアボールで湯を沸騰させたところ、三人分をコポコポと。茶葉とポットは一発で見つかった。色づいたお湯を注いで、お盆を用意して、カップを揃えて、リビングに舞い戻る。

 ゾフィーちゃんはゴッゴルちゃんの正面に腰掛けていた。

 完全に後者の読心圏内である。

 ただ、いちいち説明するのが面倒になってきたので、そのまま放置することとする。ゴッゴルちゃんは他人に読んだことを言わないと約束してくれたし、ならば自分はそうした彼女の心意気を信じるのが友情ではなかろうか。

「…………」

 友情とか、三十路を過ぎると完全に失われる単語だよな。

 代わりに出世っていう単語が幅を効かせるようになってしまったよ。

 世知辛いな。

 競争社会の宿命ってやつだ。

「ゴッゴル族がどうしてここにいるです?」

「少しばかり縁がありまして、行動を共にしています」

 自らの位置を褐色ロリータの隣と決めて腰を落ち着ける。

 問い掛けてくれるビッチな彼女は、平素ながらのジト目を向けてクエスチョン。その趣はゴッゴルちゃんの眼差しと通じるところがある。数を増やしたダウナー系ロリータのジト目は破壊力バツグンだ。

 方や天然のジト目、方や完全に作られたジト目。

 竿と玉への同時多発フェラを、これら眼差しと共に味わいたいと切に願う。

「ところで、私に話とはどういったことでしょうか?」

「…………」

 問いかけたところで、ゾフィーちゃんの視線がゴッゴルちゃんにチラリ。

 退いて貰ったほうが良いだろうか。でもこの子の場合、今この場に引いて貰ったところで、既に全てを読んでしまっている可能性が高い。ただ、建前もまた大切ではあるからして、一応、もう一度だけご確認を。

「彼女が聞いていては問題がありますか?」

「……問題ないです」

「よろしいのですか?」

「構わないです。多少は他者の眼や耳があった方が、意味を成す話です」

「そうなのですか?」

 やっぱり一緒でも良いらしい。

 どういった用件だろう。

 こんな夜中に足を運ぶくらいだから、それなりに重要な、或いは一刻を争うお話なのだろう。この子は自分が興味のないことに時間を割くような、意識の低い娘ではない。少なからず彼女自身にも影響のあるお話であることは間違いないだろう。

「どういった話でしょうか?」

「私と結婚して欲しいです」

「……結婚、ですか?」

 ちょっと驚いた。

 ただ、同時に納得した。

 なるほど。

 わざわざゾフィーちゃんが、夜分遅くながらに足を運ぶ訳だ。

「もしかして、フィッツクラレンス家にはビッチ家の方が?」

「相変わらず理解が早くて助かるです」

「本当に貴方のお父上は、この手のやり口が好きなのですね」

「たしかにそうかも知れないです」

 どうやら新米男爵のリチャードさん攻略が、ゾフィーちゃんのパパさんにバレてしまったようだ。きっと屋敷の使用人にビッチ伯爵の身内が入り込んでいるのだろう。でなければ、このタイミングでゾフィーちゃんが学園寮を訪れることはない。

 間髪置かずに娘を嫁にと寄越す彼の決断力は、人の親としてどうかと思わないでもない。流石に可哀想な気がする。少しでも良いから、リチャードさんの爪の垢を煎じて飲ませてやりたい気分だ。

「ゾフィーさんも大変ですね」

「です」

「断ることもできたのでは?」

「貴族の娘に婚姻の自由は、あまりないです」

「……なるほど」

 そういうの貴族っぽくて凄く良いと思います。

 可愛い娘を娶るキモい中年オヤジ役、うれしゅうございます。

 でも流石に初婚が中古というのはいただけない。最初は自分も相手も初めてで、真っ白な気持ちで、互いに互いだけを想い合って、みたいなのが最高に幸せ迸るんだよ。それがまさかアレンのお古のペニスサックというのはどうしたことか。

「お断りしてもよろしいですか?」

「以前はタナカ男爵の方から求愛されたと記憶しているです」

「はて、そのようなことがあったでしょうか?」

「それなら良いです。私も同じ意見です」

 いつぞエステルちゃんちのパーティー会場で、ゾフィーちゃん相手にダミーなガールフレンドを求めた際のことだろう。今となっては逆に、世間がそのように求めて、勝手に動いてくれているという、なんとも皮肉な状況だ。

「しかし、ビッチ伯爵も随分と思い切ったことを考えますね」

「判断は間違っていないと思うです」

「貴方は実の娘なのでしょう? 少しはリチャードさんを見習ってはと」

「私の親はエステルの親ほど、子に愛情を向けてはいないです」

「……そうでしたか」

 ゾフィーちゃんの性格を思うと、これでなかなか納得のゆく説明だ。

 親に愛情を向けられていない子の典型である。

 故に彼女は近くの親しい者より、他に構ってくれる相手を求めるのだろう。

 結果として姫ビッチ爆誕である

 もしもアレンがエステルちゃんよりゾフィーちゃんを優先したのなら、或いは彼女の心が十分に満たされた未来も、脱姫ビッチする未来も、あったのかもしれない。ただ、イケメンは金髪ロリータを一番に望み、二号の心は荒んでゆくばかり。

 頑張れ二号、負けるな二号。自慢のお股で未来を切り開け。

「それと恐らくですが、私と貴方の婚約であれば、フィッツクラレンス公爵はこれを喜ぶ筈です。少なくともエステルが貴方に対して意識を向けている限り、私の家がフィッツクラレンス派閥である限り、反対する理由がないです」

「たしかに、そうかもしれませんね」

 本当に大したものだ、ビッチ伯爵。

 ただ、幾らなんでも新米男爵に期待し過ぎな気がするぞ。

 ただでさえ異邦人なのに。

「色々と情報をありがとうございます。ゾフィーさん」

「……別に、です」

「一度、ビッチ伯爵にはご挨拶をした方が良いかもしれませんね」

「たぶん当面は会えないです」

「どこかへ出掛けているのですか?」

「なにかと理由を作って会わないと思うです」

「そ、そうですか」

「はいです。代わりにフィッツクラレンス公爵へ話が回る可能性が高いです」

「なるほど。たしかに彼ならば、その方が確実だと考えるでしょう」

 まあ、そういうことなら放っておくとしよう。世間体はどうあれ、実態はこの有様だから、なんら問題はない。仮にロリータたちのパパが騒ぎだてしたところで、今回の婚姻に関して、その決定権は我々にあるのだから。

 少なくともエステルちゃんのパパに言い負けることはない。

 その一点に関して、ゾフィーちゃんのパパは、自分とリチャードさんの力関係を見誤っている。

「ご自宅に戻られますか? 送らせて貰いますよ」

「今晩は泊まるです」

「ここにですか?」

「そのように命じられたです」

「それはまた随分と気を急いているようですね……」

 ところで、さっきからゴッゴルちゃんが空気だ。

 お話をすると約束した手前、流石にこの扱いは申し訳ない。さんざんセクハラしてしまったのだから、ここは一つ、何某か実りある時間をプレゼントしたい。ギブアンドテイクというやつだ。

 ということで、自分以外の誰かともトークする機会を褐色ロリータな君に。少なくともこの童貞野郎の相手をするよりは遥かにマシだろう。幾分か充実した時間を過ごして頂けるに違いあるまい。

「そういうことでしたら、私は部屋の用意をして参ります。面倒を見てくれていたメイドの方が留守にしておりまして、少しばかり時間が掛かるかと思います。差し支えなければ、しばらくこちらの彼女とお話などしていて下さい。見ての通りゴッゴル族ですが、とても気の良い方です」

「分かったです」

 ゾフィーちゃんが頷くのを確認して、醤油顔はリビングを退場だ。



◇◆◇



 シーツを取り替えたり、バスタオルを用意したり、あれやこれや、似非クール娘二名の宿泊スペース用意をしていた。ゾフィーちゃんには客間として空いていた一室を充てがおう。ゴッゴルちゃんにはソフィアちゃんのお部屋を間借りする形で対応だ。

 パジャマは共にメイドさんのお部屋から調達させて頂こう。個人的には男性物のシャツで、裸Yシャツ的なスタイルを自らの肌着からご提供したい。ただ、まず間違いなく嫌がられるのは目に見えているから自重する。

 そうした最中の出来事であった。

 リビングの方から、ズドン、爆発音が聞こえてきたのは。

「っ……」

 なにが起こったよ。

 大慌てに廊下を掛けて、元居た居室に舞い戻る。

 すると、そこでは床に倒れ伏したゾフィーちゃんの姿が。ぱっと見たところ怪我こそしていないけれど、顔には苦悶の表情が浮かんで思える。身体のどこかしらを床に打ち付けたのだろう。

 そんな彼女をソファーに腰掛けたまま見下ろすのがゴッゴルちゃん。こちらは最後に目の当たりとして以後、ほとんど動いていない。唯一、少しばかり上げられた腕が、なにかしら魔法の行使があったことを伝える。

「ど、どうしたんですかっ!?」

「この女と話していると不快」

 先んじて答えたのはゴッゴルちゃん。

 呟きは酷く淡々と、けれど、心底から訴えるように。

「いや、あの、不快と言われても……」

 どうしろってんだよ。

 ゾフィーちゃんが不快なのは今に始まった話じゃない。基本的に姫ビッチは不快な生き物なのだから。我々のようなブサメンであれば、それでも前向きに楽しむ方法があるのだけれど、同性にはそれも難しいのだろう。そう思うとエステルちゃんが身内に向ける懐の広さには恐ろしいものがある。

 ただ、そういう君も話し相手に贅沢できる身分じゃなかろうに。

 流石に出会って早々に魔法とか、危ないと思うのだけれど。

「大丈夫ですか? ゾフィーさん」

「……私もこのゴッゴル族は嫌いです」

「そ、そうですか」

 リビングの床に転がるゾフィーちゃんは、なんとパンチラ。パンチラですよ、パンチラ。女の子座りを横に崩したような、よよよ、って感じの倒れ方してる。いつぞや眺めたアイドル仕様の騎士団装備で太ももの露出はご褒美ムチムチ。

 間違いなく狙ってのことだろう。

 極めて庇護欲を誘うポーズだ。

 頭では十分に理解しているのに、視線はどうしても向かってしまう。だってエロい。その肉体は姫系ガールにありがちな、スイーツにより鍛えられし自堕落な肉付きとは縁遠い。実用本位に備わる適切なマッスルが女のエロさを際立たせる。

 だからこそ、土手に寄ったパンツの縦シワの存在に意識が向かってしまったところで、誰もこれを否定することはできないだろう。もしかしたら彼女は自由に秘肉をコントロールし、いつでも自在に縦シワを付ける技術を体得しているのかもしれない。

 自然と感謝のヒールが放たれる。痛いの痛いの飛んでゆけ。

「いかがでしょうか?」

「……感謝、です」

 しかし、果たして彼女たちの間でなにが起こったのか。

 わずか数分ばかり、目を離した隙の出来事だ。

 相性が悪いなんてもんじゃない。

「そう長いこと離れていたつもりはないのですが、お二人の間でどのようなお話が? 勘違いの類であれば、今この場で誤解を解いておくのが、なにより大切ではないかと」

 訪ねてみたところ、二人は口を揃え語ってくれた。

「この人間とは話したくない」

「このゴッゴル族とは話したくない」

「いや、そうは言われても……」

 理由が知れない。

 思えばゴッゴルちゃんに関しては、事前情報が皆無だ。趣味や思考は当然のこと、これまでの生い立ちを想像することも難しい。人外である点を鑑みれば、実年齢も外見年齢と同様であるか、なかなか怪しいものである。

 これは少し彼女について勉強する必要がありそうだ。

 会話の場を作るにしても、相性というやつがあるだろうから。

「いきなり攻撃されたです」

「…………」

「しかも無詠唱で、防壁を設ける暇もなかったです」

「そっちが弱いだけ」

 別にどっちでもいいよ。

 でも、喧嘩はよくない、よくないぞロリータたち。

 女が喧嘩をしてもよいのは、おちんぽを取り合うときだけだ。

「分かりました。とりあえずゾフィーさんにはお部屋を案内しますね」

「納得がいかないです」

「色々と思うところはあると思いますが、今日のところは抑えて下さい。私の方で事情を確認しておきますから。決して片方に寄ったお話はしません」

「……分かったです」

「廊下を出て、突き当りを右の部屋です」

「今日のところは帰るです」

「え? ……家の方は大丈夫なのですか?」

「他に宛は幾らでもあるです。でも、口裏は合わせて欲しいです」

「そ、そうですか。分かりました」

 身を起こしたゾフィーちゃんは、スタスタと歩んでいった。

 最高にフルビッチな台詞を残してな。

 これを見送ったところで、ゴッゴルちゃんが呟く。

「……上には上がいる」

「流石にそれだけでは、私も判断がつかないのですけれど」

「…………」

 果たして彼女はゾフィーちゃんの何を読んだのか。

 分からない。

 ただまあ世の中、人の心など基本的に汚れているものさ。今まさにゴッゴルちゃんの輪姦される姿が見たいと切に願う自分だから分かる。生中出しに生中出しを重ねられて、全身ザー汁あえのゴッゴルちゃんが最高に愛おしい。

 いやまてよ、この人の良い褐色ロリータのことだ、ゾフィーちゃんの汚れきったビッチマインドに反応して、わざと喧嘩をしてくれた可能性も然り。初対面で姫ビッチの心とか読んでしまったら、そりゃ警戒もしたくなるだろう。

「っ……」

 む、形の良い眉毛がピクリ動いたぞ。

 どうやら正解っぽいな。

 ありがとう、ゴッゴルちゃん。愛してる。

 代わりに今という時間こそ、彼女とのトークに用いるとしよう。

 今夜は寝かせないぜって、男なら一度は言ってみたいよな。

「では、お話をしましょうか」

「…………」

「どうしました?」

「……あの人間は?」

 ゾフィーちゃんの去っていった側を眺めては、ポツリ。

「私の知り合いです。きっと悪い人ではないですよ」

「……本当に?」

「ええ、少なくとも私は、彼女と上手くやっていく自信があります」

「…………」

 それ以上を語らないゴッゴルちゃん。

 ご理解して頂けただろうか。

 分からない。

 でも、それ以上を語るなとお願いしたのは自分だ。

 また真実を知ったところで、ゾフィーちゃんのパンモロを素直に楽しめなくなるのも嫌である。世の中、知るべきことより、知らないままであるべきことの方が、遥かに多いのだ。気持よく姫ビッチのパンモロでハァハァする為にもここはスルーしよう。

「それとも今晩は止めておきますか?」

「止めない。早く話す。早く」

「分かりました」

 せめて楽しい、お話をさせて頂こう。

 今日はゴッゴルちゃんとふたりきり。

 もしかしたら、逆レイプされちゃうかもしれないだろ。

「……それはない」

「ちゃんと理解しているので、できれば突っ込まないで下さい」

「…………」

 いつかゴッゴルちゃんから、まごころ逆レイプして貰いたいものだ。



◇◆◇



 翌日、新米男爵はペニー帝国が誇る首都カリスの王城に向かった。

 登城から手続きを模索すること数刻ばかり。慣れない貴族としての庶務に翻弄されて、あっちへ行ったり、こっちへ行ったり。色々な人に声を掛けること、実に半日という時間を費やしたところで、王様との面会まで漕ぎ着けることができた。

 最後は当人の耳にこちらの動きが入ったところで、お招きを受けた次第である。

「……それは本当か? タナカ男爵よ」

「ええ、本当です」

 場所はいつぞや足を運んだ王様のプライベートルーム。

 ちなみにゴッゴルちゃんは学園寮でお留守番である。流石に王城へ同伴する勇気はなかった。魔導貴族の言葉が正しければ、多くの場合は間諜の類に用いられるのだという。まさかご一緒して、あらぬ疑いを他所の貴族に持たれては堪らない。

 今や我が身はフィッツクラレンス家の預かりでもあるのだからな。

「自らの手で確かめた訳ではありません。ですが、フィッツクラレンス子爵領のドルツ山には何かしらあります。数年前に廃山となったというお話ですが、今一度、ご確認されるべきかと具申させて頂きます」

「つまりタナカ男爵は、ドルツ山が未だに鉱物を湛えていると申すか」

「試しに掘ってみる程度であれば、然したる費用もかからないかと」

「……分かった。そのように手配しよう」

「ありがとうございます」

 つい数日前、マゾ魔族から齎された情報を王様に献上だ。

 ヤツ曰く、人間に対する印象操作は、魔族にとって朝飯前だそうで。

 ちなみに問題の史跡は四方八方をストーンウォールで囲っておいた。仮に同所で鉱物が見つかり、採掘が再開されたところで、人の目に露見することはないだろう。レベル三桁の相手ですら破壊を断念、迂回する代物だ。ツルハシ程度に敗れるとは思えない。

 この辺りはキモロンゲのヤツとも合意を得ている。

 そして、恐らく宰相はキモロンゲによる操作の後、偶然から炭鉱が枯れていないことを発見、これを得るべく秘密裏に動いていたのだろう、みたいな推測である。一時期はトリクリスも含めて同炭鉱は国の管理下、つまり彼の手の下にあったようだし。

「しかしながら、それが宰相殿の求めるところであるか否かは、現時点では判断がつきかねます。ですので以降は大変にお手数ですが、陛下の方からそれとなく揺さぶりを掛けて、判断を下して頂けたらと」

「うむ、分かった。そのようにするとしよう」

「お手数をお掛けいたします」

「なに、その程度は大した手間でもない」

「ありがとうございます」

 ということで、どうやらクエスト完了の予感。

 無事に報告を終えてホッと一息だろうか。

「しかしまあ、随分と早く動いてくれたな。正直、想像した以上だ。向こう数ヶ月は掛かるだろうと考えていたのだが、僅か数週で終えるとは、伊達に異邦人の身でありながらフィッツクラレンス家の後ろ盾を得ていない、といったところか」

「いえ、それもこれも運が良かっただけかと」

「表立って褒章の類を与えることが叶わないことは、すまないと思う。もしもこれが事実であれば、相応の名誉が与えられたことだろう。だがしかし、タナカ男爵の今回の仕事は、無かったものでなければならない」

 大丈夫、そういうの理解している。

 部下の成果は上司の成果。

 上司の失敗は部下の失敗。

 世の中、そういうものだ。

「その点に関しては構いません」

「そうなのか?」

「はい」

「ふむ……」

 それよりも今は可能な限り早く、この場からバイバイしたい。下手に長居しては、また面倒な仕事を与えられそうで、胸のドキドキが止まらない。

 ただ、若返りの秘薬という人生の目標を失った今、他にやりたいことがあるかと言えば、なかなか怪しいところではあるのだけれど。

 本当、どうしよう。これからの人生。

 もういっそゴッゴルちゃん共に、身分を捨てて世界を漫遊してみようか。

 ゴッゴルちゃん、処女かなぁ。処女だったらいいなぁ。でも、望み薄いよなぁ。

「少し待っているといい」

 あれこれ悩んでいると、対面、王様が呟いてソファーから腰を上げた。

 その歩みは部屋の隅に設けられた棚の一つに向かう。一番上の引き出しを開いたところで、ガサゴソと、なにやら探し始めたではないか。

 今度はなんだろう。

 眺めていると、彼は同所より取り出した小箱を、ソファーテーブルに置いた。

「……こちらは?」

「持って行くといい」

「まだ結果が出た訳ではありませんが」

「これは褒美ではない。投資だ」

「なるほど」

 相変わらずな王様だ。

 とはいえ、頑張った分だけちゃんとご褒美をくれるのだから、その点は素直に嬉しい。ありがとうございます。ボーナスの査定もこれくらい公平に行われていたのなら、なんて思わないでもない。

「開けてもよろしいですか?」

「うむ」

 許可を得たところで小箱をオープン。

 その内から現れたのは小さな宝石だった。

「……綺麗ですね」

「領地運営の糧とするといい。まあ、そう苦労しているようには思えんが」

「ありがとうございます。末代まで家宝とさせて頂きます」

「うむ」

 何気ないこちらの応対に、王様は満足気に頷いて応じた。しかしながら、このけちんぼ陛下が投資などと、回りくどい単語を用いてまでトークを継続して見せたのだ。まさかこのまま素直にさようなら、とはいくまいよ。

 ノイマン氏のメンタルも伊達にブレイクされていない。

「ところで、話は変わるがタナカ男爵、一つよいか?」

 ほらきた。

「……どういったご用件でしょうか?」

「実は大聖国の方から、我が国に伝令が来ておるのだ」

「大聖国から、ですか?」

 それ暗黒大陸で聞いたやつだ。

 事前に色々と確認しておいてよかった。今この瞬間、辛うじて王様とのお話についてゆける。キーワードは大聖国。もしも勇者ヘンリーや、めし処スザンヌの店員ロドリゲスから情報を得ていなかったら、非常に不利な状況となっていただろう。

「うむ」

「それはもしや魔王復活に関するお話でしょうか?」

「ほう? 既に聞き及んでおるか。流石だな」

「多少ばかり伝手がございまして……」

「ふむ?」

 よし、先手を打ってやったぜ。

 これは非常に大きいと見た。

 伊達に東西の勇者さま方から直に仕入れていない。

 最高にフレッシュなニュースなんだぜ。

「なかなか気になる伝手ではないか? タナカ男爵」

「そう大したものではございません。お気になさらず」

「……まあ良い。男爵の交友関係は気になるが、今は話を続けよう」

「お願い致します」

 今はまだ東西の勇者さま方とのコネは隠しておいた方が良いだろう。相手方もどう転ぶか分からないし、王様から変に勘ぐられるのも面倒である。こういう訳の分からないカードは、ギリギリまで取っておいた方が良い方に転がると相場が決っている。

 それよりも今を意識すべきは次なる司令の内容だ。

「既にタナカ男爵も知っているとおり、大聖国の聖女から、魔王復活に関する予言が下された。近いうちに当代の魔王が復活するだろうとな。魔王については説明も必要あるまい? タナカ男爵の故郷とて無関係ではなかった筈だ」

「はい」

 完全にアウェイだけれど、とりあえず今は頷いておこう。

 どうやら魔王という生き物は代替わりするらしい。

 更に全世界的な問題、というのが人類共通の認識であるよう。

「これに向けて、人類側も当代の勇者排出国は元より、近隣各国は大聖国からの依頼を受けて、先代と同様に協力する運びとなった。ついてはペニー帝国の代表として、タナカ男爵には会合へ参加して貰いたいと考えておる」

「私がペニー帝国の代表ですか?」

 国の代表というくらいだから、もっとレベルの高い人物を向けた方が良いのではなかろうか。こういうのって国としてのメンツってヤツがかかってる気がするんだけれど。こういうときこそリチャードさんの出番だろうに。

「タナカ男爵の故郷がどうであったかは知らない。ただ、少なくともペニー帝国における魔王とは、その程度の位置づけだ。なによりも会合は国外で行われる都合、移動時間やこれに伴う出費が馬鹿にはならない」

「そうなのですか?」

「貴族とは見栄を張る生き物だ。国としてはさておいて、自らが向かうとなれば、相応の支度をしなければならない。今回の会合が学園都市で行われる点を鑑みれば、かなりの負担となるだろう」

「私も経済的にはフィッツクラレンス子爵の下、おんぶにだっこなのですが」

 フィッツクラレンスの看板を背負っているには違いない。

「そこは見栄を張らなければ良いだけの話だ。リチャードならば文句は言うまい」

「よろしいのですか? 一国の代表と伺いましたが」

「代表には違いない。しかしながら、出席者の顔によって何かが決まるということはない。国の代表が席についておれば、それだけで十分だ。実働は勇者排出国が行う。他の国はこれを巡り会合を開き、言葉を合わせるのが精々だ。いわゆる伝統というやつだ」

「ですが……」

「この国の貴族は、とりわけ見栄張だからな。だからこそ、リチャードのようなヤツが台頭する隙を与えるのだというに、それでも未だ、見栄とメンツで世の中は罷り通ると考えておる貴族があまりにも多いのだ」

「…………」

 もしかして魔王って、そんなに怖くないのだろうか?

 オリンピック的なノリを感じるのだけれど。

 勇者排出国というのが、いわゆる開催国としての立ち位置で。

「最後に魔王が魔王として活動したのは、五百年前の大戦が最後となる。たしかに被害は甚大であったと聞く。だが、以降も魔王復活の予言は度々、大聖国から発せられておるが、大規模な争いにまで発展したことはない。人同士の争いの方が遥かに深刻だ」

「なるほど」

「プッシー共和国との紛争を前線で経験した男爵なら理解できよう?」

「ええ、陛下の仰るところ、重々に理解させて頂きました」

 勇者が優秀なのか、魔王が非力なのか。

 今の時点ではまるで判断がつかないな。

 キモロンゲの言葉を信じるなら、そこまで弱い筈はないのだけれど。

「それに大聖国から発せられる予言もまた、その全てが正しいか否か、正確なところは把握できていない。彼の国の背景には宗教的な色が濃い都合、その立ち位置を巡っては過去に色々と面倒も起きている」

「なるほど……」

 予言をする側もまた、色々と大人の事情があるのだろう。

 大人って怖いよな。

 やっぱりロリータが一番だよ。

「あちらは予言の都度、なんだかんだと理由をつけて寄付などを求めてくるから、他の国としては迷惑以外の何者でもない。顔を出すだけで構わないので、一つ向かっては貰えないか? 他の貴族に頼みを入れると色々と面倒なのでな」

「しかしながら、流石に男爵風情がでしゃばるのは……」

 できれば今のタイミングで海外出張は勘弁していただきたい。

 思い起こせばノイマン氏の歓迎会とか、伸びまくってる。っていうか、むしろ自分より彼の方が街に馴染んでいるような気がする。領主としてそれはどうなのよ。クリスティーナの町長就任祝いだってしたい。ロリゴン愛してる。

 なによりソフィアちゃんとも離れ離れになってしまうし。

「それならフィッツクラレンス公爵に一任した、という形にしよう。結果として男爵が向かうことになるのであれば、幾分か風当たりも弱まるだろう。書簡の一つでも携えて、代理人として向かえば良い。公爵にも益のある話だ。無碍にはされまい」

 なるほど、新米男爵が公爵に迷惑を掛けつつ、他の貴族たちの負担を減らす作戦か。なかなかエグいことしてくれる。リチャードさんと自分の関係なら、断られないとは思う。けれど、確実に両者の力関係は前者に偏りが移るだろう。

 自分のひとり負けで、良い感じに力を削がれる。

「な、なるほど……」

 もう少し美味しい案件はないものか。思わないでもない。しかしながら、仮に美味しかったりしたら、他の人が率先して取ってるよな。仕事ってそういうものだわ。底辺に落ちてくるのは碌でもないものばかりってヤツさ。

 今の文句だと最悪、リチャードさんに話が流れる。

 断れる状況ではないので、これは飲まざるを得ないな。

「最低限の旅費は都合しよう」

「……承知致しました」

 この王様が最低限って言うことは、本当に最低限なんだろうな。

 憂鬱だわ。

 ボーナスは期待しても良いんですかね?

「受けてもらえるか?」

「この度のご用命、確かにお受けさせて頂きます」

「おぉ、やってくれるか、タナカ男爵」

 やってくれるか、とか言っちゃって、男爵風情に拒否権なんてなかろうに。こちとらいい感じでドラゴンシティも軌道に乗り始めて、段々と貴族生活が楽しくなってきたところだ。不満を腹に溜めてのイエスである。

 それにゴッゴルちゃんを末永く囲う為にも、貴族という権力は必要だ。

 とはいえ、素直に受けるのも悔しいので、一つくらい駄々を捏ねておこうか。

「陛下、一つよろしいでしょうか?」

「なんだ? 申してみるとよい」

「今回の一件を無事に終えましたら、少しばかり休みを頂戴したく思います。こちらの国を訪れてからは日も浅く、碌に観光へ出かけることも叶っておりません。大変に恐縮ではありますが、多少のお暇を頂けたらと」

「ふむ、観光か……分かった、良いだろう。都合しておく」

「ありがとうございます」

 小さく首を傾げたところで、それでも応じてくれた。

 嬉しい。お休みゲットだぜ。

 なんか年休の申請でもしているみたいだ。

 どうして剣と魔法のファンタジーな世界へ訪れてまで、タイムカードと向き合うような心持ちにならなくてはならないのか、思わないでもない。ただ、心身共に染み付いてしまった社畜根性が、否応なく自らの身を戒める。習慣とは恐ろしい。

 この一件が終わったら、浜辺のビーチでリゾート観光とかしよう。

 絶対だ。

 マイクロビキニなソフィアちゃんとキャッキャウフフで遊ぶのだ。

「男爵からはそれだけで構わないか?」

「はい」

「では、子細は追ってフィッツクラレンス公爵の下まで、使者を向かわせることとしよう。そこで改めて公爵より通達を受け次第、学園都市まで向かって欲しい。必要な書状一式に関しても、公爵経由で渡すものとする」

「承知致しました」

 海外出張の類だと割りきって、精々楽しむとしよう。

 学園都市というくらいだし、若くて可愛い女の子も多かろう。

 そして年齢が低ければ、それだけ膜保有率も上昇するというもの。

 む、そう考えると、なかなか悪くない気がしてきたぞ。

「それでは失礼致します」

「うむ、ご苦労であった。下がって良いぞ」



◇◆◇



 王様との謁見を終えてから、次いで向かった先はエステルちゃんちだ。

 ちなみに今度はゴッゴルちゃんも一緒である。

 お城を後としたところで、魔法で学園寮にひとっ飛び。約束通りお留守番してくれていた彼女と合流してからの再出発である。流石に丸一日お部屋に閉じ込めておくのは可哀想だ。リチャードさんなら理解もあるので、一緒でも問題あるまい。

 そんなこんなで、一日ぶりのニコニコ笑顔が正面にドン。

「お城の様子はいかがでしたか? タナカ男爵」

「何事も変わりなく、といったところでしょうか」

「そうですか。であればなによりですね」

 場所はお屋敷の応接間である。

 一つのソファーに肩を並べた自分とゴッゴルちゃん。その対面にリチャードさんが一人で腰を落ち着ける形だ。ただし、対面とはいっても、両者の間には十分な間隔が設けられている。要は槍が届かない距離、というやつである。

 今日この瞬間の為に即日で模様替えをしたのだろう。

 流石は金持ちだ。

 無駄に広い部屋の機能性が、遺憾なく発揮されて思える。

 おかげで本来なら一つのところ、各々の正面にソファーテーブルが二つばかり並んでおり、その間に数メートルほどの距離が開く。これでエステルちゃんのパパが心を読まれることはない。おかげで相手の顔が遠いのなんのって。

「ところで、今更ですが私にご用命とはどのようなことでしょうか?」

「今現在、タナカ男爵は貴族としてリズの子という位置付けかと思います」

「はい、フィッツクラレンス子爵には、そのように取り立てて頂きました」

「これを私に付け替えようかと考えております」

「なるほど」

 そりゃそうだよな。

 大切な娘を思えば、何処の馬の骨とも知れない平たい黄色を一緒にする訳にはいくまい。事実、彼女はなにをするにもベッタリだ。しかしながら、リチャードさん自身が、というのは流石にどうだろう。親と子で格差が大き過ぎるのではなかろうか。

「しかし、よろしいのですか? リチャードさんの面目もあるのではないかと」

「タナカさんの仰ることは尤もですね。その通りです」

「というと、なにか良い案が?」

 公爵と男爵、ペニー帝国に考えれば象と蟻ほどに隔たりがある。

「実は昨晩、ビッチ伯爵からタナカ男爵に縁談のお話が来ておりまして、こちらに乗っかるのが良いかと考えております。もちろん、婿入りではありません。その点は安心してください」

「……縁談、ですか」

 マジかよ。ゾフィーちゃん案件だ。

 つい昨晩、本人から聞いたばかりである。まさかこのタイミングで繋がってくるとは思わなかった。パパさん同士のネットワークが、想像した以上にテンポ良く流れて思える。流石は海千山千の貴族さま方だ。

 いつ寝ているんだろうな。

「ビッチ伯爵から、なにか聞いてはいませんか?」

「昨晩、同様のお話を娘さんから頂戴いたしました」

「これはタナカさんに大きな益のある話です。ビッチ伯爵家と言えば、ここ最近では我々派閥でも台頭著しい家柄、更に伯爵家です。三女ではありますが、実の娘を娶ったとあらば、名実ともにペニー帝国の貴族として、誰もが認めることでしょう」

「ええ、たしかにゾフィーさんは魅力的な女性です」

「その通りですね。私もタナカさんに同意見です。魔法騎士団の師団で副団長を務めるほど、魔法の扱いに長けた子女であると、市井においても名が通っています。あの若さでは過去にも片手に数えるほどでしょう。娘の魔法の先生も務めております」

「そうなのですね」

 魔法云々はさておいて、ステージの上に眺めた彼女のパンモロは未だ鮮明な記憶。

 夜のお供としても、実はエディタ先生を抑えてトップだ。小回りの聞くビッチ具合が、何気ない催しシーンにキラリ光る逸材である。なんら遠慮無く汚せる。見た感じ清楚系クールである点が、ギャップとなり非常においしい。

 こうして思い返しただけでも、オチンチンに元気が集まりゆく波動を感じる。

「しかし、それは今更ではありませんか? リチャードさん」

「すみませんでした。少しばかり調子に乗ってしまいましたね」

「確かに彼女と一緒になることは、私にとって大きな益だと思います」

 ジッとリチャードさんを見つめてやる。

 平たい黄色の眼力をフル稼働。

 すると、どうやらこちらの想いは通じたようで、彼はポツリポツリと語りだした。

「というのは、はい、確かに建前です。既に手の内を読まれてしまった都合、この件に関して、隠し立てはやめておきます。私も人の親です。いかにタナカさんが信用するに値する人物であるとは言え、間違いが起こらないとも限りません」

「そうですね。世の中、なにが起こるか分からないものです」

 エステルちゃんに生中出しする未来だって、あり得ないとは言えない。

 結果として妊娠、出産してしまうかもしれない。

 金髪ロリータのらーじぽんぽんは素晴らしいものだ。

「故に私もタナカさんには、ビッチ伯爵家の娘と一緒になって頂きたいのです」

「……なるほど」

 それにしてもリチャードさんは酷い人だ。自分の娘を大切にすると同時、他人の娘を平気で平たい黄色にくれてやるというのだから。こちらの世界の貴族というのは、やはり、少なからずこうした側面を備えているのだろうか。

 一方で、自ら献上を提案してみせたゾフィーちゃんのパパなど、娘の処女はパパが奪う派閥代表としては、決して許容のできるものではない。それともなんだ、既にパパが味わい尽くした後だから、もう他へ行っても問題がない感じなのだろうか。

 なるほど、なるほど、それなら納得だ。

 自分なら絶対に飽きないと思うけれどな。ゾフィーちゃんみたいな可愛い子が娘に生まれたら、初潮来てから毎年、出産経験をプレゼント余裕だし。お嫁さんに行く暇なんてコンマ一秒も与える隙無くゴッゴルしまくるし。

「……わたしは関係ない」

「言葉のあやです。忘れて下さい」

 いちいち突っ込んでくれるゴッゴルちゃん。

 ジト目が可愛い。

 ウザいと思われているのは間違いあるまい。

「いかがですか? タナカさん」

「ゾフィーさんのような素敵な女性が一緒になって下さるというのであれば、私としては是が非でも迎え入れたいところでしょう。しかしながら、個人の主義主張として、こういったことは当人の意志を優先したく思います」

「というと?」

「彼女は他に好いた相手がいます。私はこれを知っています」

「なるほど」

「これを否定してまで、彼女が欲しいとは思いません」

「タナカさんらしいお言葉ですね」

 もしも相手がソフィアちゃんだったら、全力迎合していたけれどな。

 むしろ、その時点で全てがフィニッシュだ。

 他に望むものなんてなにもない。

 スタッフロール流れちゃう。

「ですので、すみませんが今回のお話はなかったことに」

「……ということですが、貴方から何か言うことはありませんか?」

 リチャードさんが部屋の片隅を振り返る。

 すると、どうしたことか、そこにはゾフィーちゃんの姿がある。

 そして彼女は淡々と、平素からの調子に語ってみせた。

「タナカ男爵、どうか私を娶って下さい、です」

「…………」

 リチャードさんは、いわゆるやり手な人物だ。

 そして、ここは彼のホームグラウンドである。

 以前は勝った。

 しかしながら、今回は完全に負けである。

 油断がならないとか、そういった類の話ではない。きっと彼は酷くシンプルなポリシーの下、日々全てを判断しているのだろう。そこには他者が介入するだけの猶予など、まるで存在せず、常識も通用しない。

 だからこそ、ゾフィーちゃんは下着姿なのだ。

「リチャードさん、流石にこれは……」

「タナカさんは小さい子が好みでしたよね?」

 ニコニコ笑顔を絶やさず、朗らかにも語らってくれる。

 そこには一切の悪意も感じられない。

 伝えられたところは、以前、アレンの一件で自ら訴えた文句である。

「…………」

 魔導貴族の魔法と同じだ。

 彼にとっては、それが貴族としての成功なのだろう。もしくは自らの娘であるエステルちゃんの幸せか。いずれにせよ、そこにはゾフィーちゃんの存在など、欠片も組み込まれていない。だから、彼女は我々の目前で、屈辱のオパンツ披露宴。

「リスクを考えなかったのですか? リチャードさん」

「というと?」

「私と貴方はあまり親しくない」

 訪ねてみても、至る先は変化が見られない。

「考えましたよ。結果、これが最適だと至りました。違いますか?」

「……違いません」

 瞳から輝きを失ったゾフィーちゃんの表情が、全てを物語っている。ここでファイアボールしたら、姫ビッチは帰る家が無くなってしまう。貴族的に伯爵家の三女がどの程度かは知らない。しかしながら、ビッチ伯爵の人柄は少なからず理解している。

「…………」

「いかがですか? タナカさん」

 リチャードさんに一本取られた形だ。

 楽観視せず、昨晩のうちに逃げていれば良かった。

「ありがとうございます、リチャードさん」

「受けて頂けますか」

「ですが、結婚はしばらく待って下さい」

「……というと?」

 だが、彼は見誤った。

 相手が無類の処女スキーであると。

「すみませんが、私は性交の経験がございません。故に最初の相手は、処女、生娘であると、心の底から決めているのです。ゾフィーさんにその資格があるのであれば、私は今回の婚姻をお受けいたします」

 カードを一枚切った。

 多分、一番強いカードだ。

 こんなカードを切る羽目になるとか、もう泣きそう。

 泣きそうだよ、エディタ先生。

 先生の友達で処女のエルフとか居ませんか?

 自分と同い年の高齢処女。

「……そ、そうなのですか? なるほど?」

 これにはリチャードさんも驚いた様子だ。

 少しばかりやり返した感じが、ちょっと嬉しい。

 っていうか、どうして人と人とやり取りで、ここまで自分は一杯一杯になっているのか。ロリゴン戦より、紛争のごたごたより、ゴッゴルちゃんとのあれこれより、今この瞬間、凄く心が痛んで思える。

「それならこの場で確認しましょう」

「……え」

「シアンさん、彼に貴方の純血を捧げて下さい」

 どうやらゾフィーちゃんが処女であると思い込んでいるリチャードさん。

 しかし、掛かったな? 彼女は筋金入りのビッチなのさ。

 まさか膜なんて残っている筈がない。

「……フィッツクラレンス公爵、申し訳ありません」

「どうしたのですか?」

「わたしは、処女では、生娘では、ございません……」

「っ……」

 ゾフィーちゃんの膜無し宣言にリチャードさんの顔が引き攣る。

「確認してくださっても構いません」

 自らの指を下着の上から股間の脇に添えて見せる。

 その挑むような対応を受けては、彼も動かざるをえない。

 手元の呼び鈴が振られるに応じて、メイドさんが数名ばかり同所へ呼ばれた。何事かと背筋を正したところ、彼女たちはリチャードさんから指示を受けて、ゾフィーちゃんの周囲を取り囲むよう動いた。

 どうやら本当に確認するらしい。

 ご開帳、ご開帳でございます。

 ところで、童貞野郎には処女膜の有無の確認方法が分からない。

 いつか取得したい、処女膜確認検定一級。

「…………」

 ややあってメイドさんの一人が、リチャードさんの下へ報告に向かった。

 耳元へ小さく伝えられたところ、彼の表情が難しいものとなる。

 ゾフィーちゃんの非処女っぷりを理解したのだろう。

「ご期待に添えず、申し訳ありません」

 酷く萎縮した様子で、下着姿のまま謝罪してみせる姫ビッチ。色気タップリの布生地少なめ、ビキニスタイルでお辞儀する姿が最高に愛らしい。やはり姫ビッチのゾフィーちゃんには屈辱がよく似合う。

 本日のリチャードさん、グッジョブ過ぎる。

 一連の流れを受けては、間違いなく心の回想ギャラリーが一つ埋まった。

「……承知しました」

 しかしながら、流石にこれを見過ごすことはできない。今後、ゾフィーちゃんとの円滑なパンモロを見せて見られての関係を思えば、今この瞬間を素直に楽しむことは、決して出来ないジレンマ。

「それとリチャードさん、一つよろしいですか?」

「なんですか?」

「流石に今の行いは私も看過できないのですが」

「それは彼女にも脈があるということでしょうか?」

「そのように受け取って頂いても結構です。ですから、以後、二度とこのようなことは行わないで下さい。でなければ私は、フィッツクラレンス家と決別させて頂きます。流石にやり過ぎですよ」

「この娘と交流があるというのは、どうやら本当のようですね」

「ドラゴン退治の折には、共に死線をくぐり抜けた仲間です」

「承知致しました。タナカさんが娘に手を出さないかぎり、厳守致します」

「その点は重々承知しておりますので」

「はい。それとこの度は申し訳ありませんでした」

「それは私ではなくシアンさんに向けるべきかと」

「そうですね。後ほど、改めて謝罪をさせて頂きます」

 どこまで響くかは知れないが、とりあえずこれで良しとしよう。

 やはりというか、リチャードさんはどこまで行っても親馬鹿だった。だからこそゾフィーちゃんは下着姿なのだろう。理解はしていたけれど、非常に嬉しいのだけれど、良いこと尽くしの訪問ではあったのだけれども、少しだけ申し訳ない。

 困ったことにゾフィーちゃんが妙に可愛いと感じてしまうのだ。

「…………」

 下着姿のまま、部屋に立たされているゾフィーちゃん。

 お偉いさんからモノのように扱われている感じが最高じゃないですか。

「話というのはそれだけですか? リチャードさん」

「いえ、本題は他にあるのですが……」

「そういうことでしたら、お互いの為にも少し時間をおきましょう」

 早急に立ち去ろう。

 今まさに膨らみ行く息子をゾフィーちゃんやリチャードさんにウォッチされる訳にはいかない。興奮していることが悟られてしまったのなら、問題が婚姻云々、ナイーブなところにある為、後々のやり取りで不利になってしまう。

 個人的にはすぐにでも前者の下まで駆け出して、ラブジュースをゴクゴクしたい欲求に満ち溢れているのだけれども、くそう、くそう。致し方なし、この場は早急に撤退、学園寮の自室で今し方の光景を思い返し、個人的な幸せを追求しよう。

 同所を去るべく、椅子より立ち上がって踵を返す。

 すると、自らが向かわんとした先、居室のドアが開かれた。

 ガチャリ、妙に大きく響いて聞こえた扉の開閉音。

 次いで同所の面々に与えられたのは、人の声。

「……お父様、これはどういうこと?」

 エステルちゃんだ。

 エステルちゃんが登場だ。

 その瞳は怒りに燃えていた。語る声は普段の勢いを失い、けれども、決して穏やかとは言えない、厳しい感情を讃えて思える。彼女らしからぬ底冷えのする声色だった。

 いつだか学園の食堂で、権力に敗北したソフィアちゃんのパンモロショータイムを鑑賞した際のこと、これに乱入した凛々しくも末恐ろしい姿を彷彿とさせる。

「リ、リズっ……」

 パパさんもこれは完全に想定外であったよう。
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