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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫

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暗黒大陸 八


 連合パーティーに次いで顔を見せたのは、まさかのマゾ魔族だった。

 どうやら地上で多少の戦闘行為があったよう。身体の各所には血液が付着している。少なからず急いで思える表情は何に対する焦燥だろうか。おかげで連合パーティーの負傷は最低限で済んでいる。

 ただまあ、いずれであっても完全にやっちゃった系である。誰が誰をやっちゃったかと言えば、屋外で待機していた連合パーティーの面々をマゾ魔族がだ。階段からゴロゴロと切断された誰かの手首が落ちてきたし。真っ赤だし。

 流石に冗談では済まないぞ。

「貴様、何故このような場所にいる!?」

「むしろそれは私のセリフなのですが」

 出来れば他人を装いたい。

 けれど、既に始まってしまった会話は取り消せない。

「この短期間で、どうやってペニー帝国から暗黒大陸まで移動した? 私が発ったときには、まだ貴様は街作りがどうのと、我が主人と共に騒いでいたではないか。それが僅か数日でこのような場所に立っている」

 ちらり、魔法陣に視線を向けながら問うてくる。

 相手も想像が付いているのだろう。

「それはなんというか、まあ、そうですね……」

 この場は素直にお伝えするのが良さそうだ。

 他国の人々に情報が漏れるのは非常に辛いけれど。

「貴方が察している通り、ここの施設を利用させて頂きました」

「くっ、やはりか……」

「この魔方陣の存在をご存知でしたか?」

「ご存知でしたか、だと? 相変わらず舐めたことを訪ねてくれる。そもそもこの遺跡は我々魔族のものだ。知らないわけがないだろう。しかもこのように汚してくれて、随分と好き放題やってくれているじゃないか」

 我々の意識が向かう先には、血まみれとなった魔法陣がある。犯人は他に居るのだけれど、これを指摘すると更に問題が面倒になりそうなので、今は言わせるがままにしておこう。怒りの矛先が彼女に向かっては大変だ。

「なるほど」

 それよりも優先すべきは、マゾ魔族が傷つけた面々へのサポートだろう。

 誰も死んでいませんように。祈るような気持ちで、エリア型の回復魔法を発動させる。場所はフロアを抜けて先、階段と地上を含む一帯。雑居ビルの地下出入口を思わせる界隈へいびつにも魔法陣が浮かび上がる。

「な、なんだっ!?」

 魔法を行使するに応じて、マゾ魔族が慌てる。

 反撃されては堪らないので、ここは素直に応じて答えよう。

「回復魔法です。気にせず話を続けて下さい」

「……相変わらず馬鹿げた魔力だっ」

「続けて下さい」

 まったくもって最高に面倒な状況だ。

 居合わせた人類一同に印象の悪い対応はできない。同時にマゾ魔族との関係をこれ以上、こじらせる訳にもいかない。なにせヤツの後ろには処女な金髪ロリ巨乳が控えている。彼女との交友は極めて大切なものだ。童貞的に考えて。

「あちら側の遺跡を見つけたのは貴様だけか?」

 あちら側とはペニー帝国側を指してのことだろう。

「私とクリスティーナさんですね」

「なっ、あ、あのエンシェントドラゴンかっ……」

 魔導貴族の名前は出さないでおこう。万が一があってはいけない。一方でロリゴンの名前は率先して出してゆきたいと思う。このキモロン毛は彼女に苦手意識を持っている節がある。素敵な抑止力となることは間違いない。

「なにか問題でもありましたか?」

「あそこには出入口の類などなかった筈だが?」

「私も見つけようと思って見つけたものではありませんよ。炭鉱の視察に出向いたところ、いきなり足元が崩れましてね。そうして生まれた穴が、貴方の言う魔族の遺跡とやらに繋がっていたのです。完全な偶然ですね」

「ちぃ、こんなことなら追い出すついでに埋めておけば良かった」

「追い出すついで? まさか、ドルツ山の廃坑は……」

「当然だ。まさかニンゲンに遺跡を荒らされる訳にはいかないからな」

「なるほど」

 ドルツ山が廃坑云々は、このマゾ魔族が一枚絡んでいたよう。これは少しばかり掘り下げて同所を探索するべきかも知れない。もしかしたら王様から貰った面倒な宿題が、今回の出張と一緒に片付くかもしれないぞ。

「なんて腹立たしい。いつだって貴様は私の邪魔をしてくれる」

「それはこちらのセリフですよ」

 ところで、石室の天井に空いた穴を知らないとなると、このマゾ魔族は自分が発見する以前に遺跡を利用して、暗黒大陸に飛んだということになる。更に言えばヤツは、ゴッゴルちゃんとも今日この瞬間、初めて出会ったような素振りだ。

 軽く魔法陣の利用を時系列的にまとめてみよう。

 最初にマゾ魔族がペニー帝国から暗黒大陸へ飛んだ。次いでゴッゴルちゃんが住み着き、そこへ自分がお邪魔した。以降、クリスティーナや魔導貴族と合流して一次帰還に利用。そして、再来訪の今この瞬間にランデブーと言った具合だろうか。

 監視カメラとか仕掛けておいたら、ちょっとおもしろい絵が撮れたかも。

「こちらの魔法陣は、もしかして貴方の作品でしたか?」

「作ったのは別のヤツだ。私は管理しているに過ぎん」

「なるほど」

 思い起こせばクリスティーナや魔道貴族も、魔族の魔法陣が云々と語っていたような気がする。尚且つ、この魔族が瞬間移動的な魔法を用いる姿は、自身も幾度か目の当たりにしている。皆々の言葉に従えば空間魔法というのだろうか。

 ドルツ山に所在する魔法陣が、出入口の存在しない部屋に設けられていた点を鑑みれば、同所へ出入りするのに都合の良い生き物ナンバーワンが目の前のキモロン毛となる。というより、だからこそ縦ロールなロリ巨乳のマゾ奴隷なのではなかろうか。

「よりによって面倒な手合に見つかったものだ……」

 顰め面となり、忌々しげに語ってみせるマゾ魔族。

 そんな彼の表情を眺めていて、どうしても確認したくなった。

 このマゾヒストとご主人様である縦ロールとの関係を。

「もしやプッシー共和国で彼女の傍らに居をおいているのは、これが理由ですか? これまで貴方が彼女の隣にいることが、私としては疑問でした」

「当然だろう? 如何に我が主人が美しく魅力的な女であったとしても、一介の人間風情に魔族が靡くなど、決してあり得ないこと」

「…………」

「ただまあ、我が主人はあれでなかなか魔族に対する理解がある。その肉体が老いるまでは、このまま虐められてやっても良いとは思わないでもないだろう」

「……そうですか」

 全力で靡いてるじゃん。

 伊達に職業マゾ奴隷していない。偉そうに語ってみせた手前、しかしながら、まだまだ虐められ足りないって顔してやがる。おかげで縦ロールとマゾ魔族が行動を共にするに至った経緯を把握することができた。

 職場の近くで可愛い子を見つけちゃった、ってやつだろう。更に一日三食とフカフカのお布団、更には性癖の充足までもが付いてくるのならば、居心地良いな、とか感じちゃっても致し方ないことだ。

「それにしても随分と派手に汚してくれたじゃないか。誰だ? ここを血まみれにしてくれたやつは。掃除をするヤツのことを考えて貰いたいものだな」

 ジロリ、マゾ魔族が場に集まる面々を見渡す。

 これに即座、声を上げたのがダークムチムチだ。

「そ、そこの男だっ!」

 相変わらず遠慮がないな。

 全力で醤油顔を打倒しに来ているぞ。

「ぐっ、貴様なのかっ!?」

「そうですね。そういうことにしておきましょう」

 マゾ魔族とゴッゴルちゃんとバトらせる訳にはいかない。

 この二名なら、かなり良い試合をすると思う。だからこそ、どちらが勝つか分からない。そのような分の悪い賭けに彼女を乗せる訳にはいかない。

 個人的にはこの場でマゾ魔族を打倒したい気持ちもある。ただ、そしたらそしたで縦ロールとの関係が悪化してしまうから、人間関係とは難しいものだ。

 とかなんとか、頭を悩ませていたところ、提案はキモロン毛から。

 酷く忌々しそうな表情となり、絞りだすような声で呟いた。

「……掃除だ。掃除をするぞ」

「掃除、ですか?」

「そうだ。貴様も手伝え。もしも逃げたら、お前の主人を殺すぞ?」

「どうして私ではなく私の主人なのですか?」

 おそらくエステルちゃんを指しての話だろう。

 ヤツからはそのように見えたに違いない。

 完全に思考がマゾ奴隷だよな、このキモロン毛め。

「いいから手伝えっ! 絶対に逃げるなよっ!?」

「分かってますよ。元よりそのつもりでしたから」

 以前にお見舞いしたファイアボールが、未だに効果を発揮して思える。軽くトラウマっているのかもしれない。だとすれば、この場はそれを利用させて貰おう。世界の一流プレーヤーたちから注目されている都合、ここでマゾ魔族に弱みは見せられない。

 あくまでも強気に、こちらが上なのだと示さなければ。

 同時に決して仲良くはなくて、ほどほどに敵対しているぞ的な。

 でなければ、下手をしたら魔族の味方と捉えられかねない。

 グローバルに人類からハブられてしまう。

 しかし、こちらの世界における魔族の立ち位置って、どういったものなのだろうな。猫耳なんかと並ぶところにあってくれれば、今後もやりやすいのだけれど、勇者さま一向の反応を見た限り、もう少し面倒なところにありそうだ。

「その為に掃除道具を用立てに行こうかと考えているのですが」

「はっ、殊勝な心がけだ。それとそこのハイゴッゴルは殺せ。邪魔だ」

「ひと目見て分かるものなのでしょうか?」

「そいつらの祖先には昔、我々も苦労させられた覚えがある」

「なるほど」

 意外と歴史ある生き物なのだな、ハイゴッゴル。

 どうやら魔族であっても、ゴッゴルちゃんの読心からは逃れる術がないよう。そう考えると、彼女という存在はレベルやステータスが示す以上に、余程のこと強キャラなのではなかろうか。俄然逆レイプされたくなってきた。

 ゴッゴルちゃんのレベル、もうちょっと上げるべきだよな。

「早くしろ」

「それは無理です。お断りします」

「何故だ? 貴様も読まれているのだぞ? まさか知らないのか?」

「知っていますよ。ですが殺しません」

「ぐっ……」

 マゾ魔族の視線がゴッゴルちゃんと自分の間で行ったり来たり。そこはかとなく落ち着きを失って思えるイケメンの無様なところが、ブサメン的にけっこう美味しい。プッシー共和国との紛争の折、一人戦場に残された際の借りを返すことができたぞ。

 ちょっとスッキリ。

「殺せよ」

「だから嫌ですって」

「……だったら俺が殺す」

「それなら貴方のご主人様を殺して、ここの魔法陣も破壊します」

「なんだとっ!?」

「如何しますか?」

「き、貴様にできるのか?」

「できます。大切なものを守るというのは、そういうことです」

 エステルちゃんと縦ロール、どちらも捨てがたい金髪ロリータだ。それでも一人を選ぶというのであれば、前者を取ることに抵抗はない。なんだかんだでエステルちゃんにはお世話になっている。ここまで自分に優しくしてくれたのは女性は、彼女が初めてだ。

 とは言え、縦ロールちゃんを率先してどうこうしたいとも思わない。あれは世にも貴重な処女のロリ巨乳だ。叶うことなら、この手で保護したいと切に思う。そういった意味では、一番どうにかしたいのが目の前のキモロン毛である。

 どうしてこうもタイミングが悪いのか。

「貴方もそれは同じではありませんか? ご主人さま然り、魔法陣然り」

「随分と偉そうに語ってくれるじゃないか」

「まずは掃除をしませんか? お話はそれからです」

 強気のまま畳み込む。

 すると、数瞬ばかり躊躇の後、マゾ魔族は小さく舌打ちを一つ。

「ちっ……いいだろう」

 よし、ひとまず急場は凌げたみたいだ。

 良かった良かった。

 なんて、一息つこうかと思ったけれど、よく考えたら全然凌げてない。

 依然として我が身は危地の只中である。

 主に人類方面が未だに、疑心暗鬼の眼差しをこちらへ向けて止まない。ゴッゴルちゃんの存在が影響して、多くは部屋より出て行った。それでも東西の勇者やジャーナル教授、チャラ男ブラザーズ、それにダークムチムチあたりは、こちらに注目している。

「どうしても、この場で確認したいことがある」

 西の勇者ピエールが言った。

「……なんでしょうか?」

「近い将来、魔王が復活するという噂は、やはり本当なのかい? 我々が今この瞬間、君と共に高位の魔族と出会ったことは、決して偶然とは思えない。子細を確認することが、勇者として僕に課せられた使命だと思う」

「いえ、流石にそれは私も分かりません。どうなんでしょう?」

 マゾ魔族にスルーパス。

 餅は餅屋だ。

「何故に私が人間如きの問い掛けに答えねばならん?」

 すると当人は知らんぷり。

 ただ、ほんの僅かばかり、その頬が震えるのを醤油顔は見たぞ。

 もしかしたら、この流れは現状の打開に利用できるかもしれない。

 祈るような気持ちで煽ってみよう。

「それくらい答えてあげても良いじゃないですか。それとも蘇って間もない魔王というのは、羽が開く以前の、蛹にすら成れない芋虫ほどに弱々しいものなのでしょうか? こちらの施設を維持管理していたのも、そのあたりが理由であったりとか……」

「っ……」

 何気なくを装い問いかけたところ、マゾ魔族の表情が凍りついた。

「え? もしかして本当にそうなんですか?」

「貴様ぁ……」

 どうやらドンピシャ引いたっぽい。

 みるみる内にマゾ魔族の表情が険しくなってゆく。

 想像した以上の反応だ。

「すみません、冗談のつもりだったのですが……」

「黙れっ! 仮にそうだとしても、ニンゲン如きに倒されるかっ!」

「なるほど」

 そうなると大聖国の聖女様がのたもうた魔王復活の噂話も、信ぴょう性を帯びてくるではないか。少なくとも近い将来、ほどほどに弱った魔王さまが復活の兆しであると、世界の識者たちに知れてしまったぞ。

 これは大変だ。マゾ魔族的な意味で。

「このまま逃してやることもない! 殺してやる! 皆殺しだっ!」

「っ……」

 当然そうなるよな。

 マゾ魔族が腕を振るった。

 対してこちらの覚悟は既に決っている。

 ここが正念場だ。

 上手いことマゾ魔族を窘めつつ、一方で自分は人類の側に立っていることを識者一同へアピールしなければならない。ここ最近は安易にファイアボールでのゴリ押しばかり続いていた手前、久方ぶりの高難易度ミッションである。

「ストーンウォールっ!」

 マゾ魔族の周囲を囲うよう壁を生み出す。

「ぐっ!? な、なんだこれはっ! このっ……」

 内側で暴れ始めるキモロン毛。

 その間に人類一同へ指示を飛ばす。

「早急にこちらを離れて下さいっ!」

「だ、だが、それでは君がっ!」

「この程度の魔族が相手であれば、私一人でも十分ですっ!」

 精々ディスってやる。

 なにより相手の目的が自分以外の皆さんである都合、ご一緒するのは非常に都合が悪い。流石にこれだけの人間を庇いながら、ヤツを説得するのは不可能だ。決して少なくない死傷者が発生することだろう。

 同時に自分とマゾ魔族の関係を疑われるのも避けなければならない。

 そういった意味合いでは、自身もまたキモロン毛に致命的な弱みを見せている。ただ、ヤツはこれに気付いた様子がない。このまま気づかれぬ間に状況を運ぶことが出来たのなら、この場を凌げないこともない。

「しかし、僕は勇者だっ! 魔王討伐は僕の宿命だっ!」

「お願いします。大変に申し訳ありませんが、足手まと……」

「っ……」

 素直にお伝えしようとしたところ、目の前で血しぶきが舞った。

 ピエールの胴体が上下に分断されたようだ。

 応じて大量の血液が飛び散る。

 その傍らにはいつの間にやらマゾ魔族の姿がある。

「魔族にこのような愚策は通用しない」

「……あぁ、そう言えばそうでしたね」

 これもまた魔法陣のそれと同様、空間魔法というのだろう。一瞬にしてあっちへ行ったり、こっちへ行ったり。キモロン毛が得意とする魔法だ。紛争の最中、縦ロール戦でも同魔法により幾度となくトドメを刺し損ねた記憶が蘇る。

 これは困ったな。

 ストーンウォールによる隔離が効かないとか。

 とりあえず西の勇者さまを回復しよう。

「ヒールっ!」

 飛行魔法で身を飛ばすと共に、両者の間に入り込む。途中でキモロン毛がエルボーを放ってくれた。これを危ういところに回避しての滑り込みセーフ。ここ最近は飛行魔法の扱いにも磨きが掛かって思える。この調子で精進するとしよう。

 ややあって、背中越しに肉の蠢く気配を感じる。

 どうやらピエールに対する蘇生は間に合ったようだ。

 もしも首をヤラれていたら危なかった。

 ただ、悪いことばかりではない。

 勇者様が一撃で倒されたのだ、これは同時に人類一同を現場から遠ざけるだけの説得力となる。ここまでくれば、多分、もう大丈夫だ。後は優先順位さえ間違えなければ、きっと何とかなる。

 そして、次に優先すべきは彼らからマゾ魔族を遠ざけることだ。まさか皆々の目前で、このキモロン毛と交渉を始める訳にはいかない。仮に妥協を引き出すとしても、それは二人だけの秘密でなければ。

「皆さん、私が敵を食い止めている間に、どうか地上へ脱して下さいっ!」

「そこをどけ、ニンゲン」

「この場で彼らを殺しても、私の口から幾らでも他に伝わりますよ」

 数メートルの間隔でキモロン毛と向き合う。

 相変わらず憎たらしいほど艶やかなロン毛だ。

 別に羨ましくなんてないんだからな。

「っ……だったら貴様も殺してくれるっ!」

「やりますか?」

「か、仮にそうだとして、貴様の言葉がどれだけ響くと言うのだ!?」

「貴方が留守にしている間に、ペニー帝国では男爵の位を頂戴しました」

「ぐっ……」

 以前は相手がこちらを侮っており、尚且つ縦ロールというお荷物が一緒であった都合、容易に撃退することができた。しかしながら、今回は真っ向からの啀み合い。ストーンウォールも効かないし、閉所でタイマンとなれば苦戦しそうな予感。

 だがしかし、今の自分にはゴッゴルちゃんがいる。もしも彼女の助力を得ることが叶うならば、共に欠けることなく、このキモロン毛を制圧することができる筈だ。そして、その事実は相手もまた正しく理解していると思う。

「えぇい、退くぞっ! 我々が共に居ては、そこの男が戦えんっ!」

 そうこうするうちに、ジャーナル教授の声が地下室に大きく響いた。

 非常にありがたい。

 その一言を待っていた。

 応じて場に詰めかけていた面々が、駆け足で階段を登ってゆく。大半は言われずとも逃げたかったに違いあるまい。顔を緊張に引きつらせたまま、ダンダンダダン、足音も大きく地上へと向かっていった。

 人気は数瞬ばかりで引けた。

 同所には自分の他、キモロン毛とゴッゴルちゃんが残る限り。

「……どうしますか?」

「…………」

 良かった。

 どうやら上手いこと話を進められたようだ。

「全ては貴方の落ち度です。この場は諦めて下さい。貴方がドリスさんと共にドラゴンシティで風呂に浸かっている限りであれば、私は貴方に対して何をすることもありません。この場は納めて下さい」

「ニンゲンが魔族を懐柔するというのか?」

「魔族や魔王がどういった存在かは知りません。ただ、私は目先の平穏を求めます。もしも魔族や魔王が我々に敵対するというのであれば、対応はそのときに考えます。その傍らに貴方の存在が在ったとしても、無かったとしても」

「ふん、多少強いからと言って、ニンゲンが魔王さまに勝てるものか」

「何事も検討してみなければ分かりませんよ」

 後は目の前のあんちくしょうと交渉を重ねる限り。

「……それで、貴様は私を見逃すというのか? この場で」

「貴方が他に危害を加えず、ドラゴンシティに戻るというのであれば、そのとおりです。自棄になった魔族が、自身の周りで暴れまわるという事態が、個人的には一番に堪えますので。その辺りご理解いただけませんか?」

「…………」

「それでもやはり、戻ることは難しいでしょうか?」

 少しばかり強い調子で問いかけたところ、声は他から響いた。

「……読む?」

 ゴッゴルちゃんだ。

 なにを読むのか、とは尋ねるまでもない。

「いいえ、結構ですよ」

「本当に?」

「これでも幾度と無く食事を共にした仲です。あまり好ましい相手ではありませんが、私が好ましいと思う相手が彼を好ましく思っているのですから、邪険にする訳にもいきません。そして、きっと彼も同じように考えて下さっている筈です」

「また随分とよく回る舌だな?」

「違いますか?」

「…………」

 縦ロールとは末永く仲良くしたい。

 あわよくばマゾ魔族から寝とってやりたい。

 だって彼女は世にも貴重な膜付スージー巨乳系。

「とはいえ、私もあまり大きなリスクは負いたくありません。貴方が絶対に譲れないというのであれば、この場に争う限りです。私も私が大切だと思うものを失ってまで、貴方を庇うことはできません」

「ぐっ……」

「どうでしょうか?」

「……わ、分かった。良いだろう」

「本当ですか?」

「貴様の言い分を飲む。あぁ、飲んでやるさ」

「こう言ってはなんですが、貴方にはメリットの薄い話です」

「時期が近づいてきているとはいえ、魔王さまが復活されるのは、貴様や我が主人が死んでからのこと。それに先も伝えたとおり、いかに復活間もない魔王さまが弱々しい存在であるとはいえ、ニンゲン如きに打倒は不可能だ」

「なるほど」

「貴様が目先の平穏を追うというのであれば、今は大人しくしていてやろう」

「ありがとうございます」

「勘違いするな? 万が一にもくたばる訳にはいかんのだ。私は」

 どうやら優先順位の問題で、ギリギリ繰越合格といったところ。

 あぁ、良かった。

 かなり危なかったけれど、寸前のところで収まったよう。

 そして世の中、面倒事なんて先送りしているうちに状況が変わるものだ。当時は深刻だった問題が、いつの間にやらどうでも良いことに変わっているなんて、割と日常茶飯事である。だから、今はこれでよい。

 ただ、魔族と魔王に関しては調べる必要がありそうだ。

 まずは相手がどういった手合であるか確認しないとならない。

 なんかこう、大きな流れの一端に組み込まれた感じあるじゃんね。



◇◆◇



 マゾ奴隷との交渉を終えて以後、我々は早急に清掃活動へと移った。

「おい、そこのところ、もっとちゃんと擦れ。汚れてるだろうが」

「これは元からあった汚れですよ。血液ではありません」

「けちくさいニンゲンだな? 汚れの一つや二つ、一緒に落としてしまえば良いだろうが。我が主人であれば、二つ返事で人を寄越して、部屋ごと綺麗にするだろう」

「ぐっ……」

 自然消耗を超越して敷金の償却を求めてくる大家みたいなセコさだな。それになんだろう。こいつに指摘されると、無性に腹立たしい気持ちになるぞ。きっと自身が理想とするM奴隷生活を送っているからだろうな。縦ロールの処女膜を思うと心が疼く。

 俺も膜付きエディタ先生に完全飼育されたい。

「……こっち、終わった」

「すみません。彼が文句をいうので、そちらを対応してやってください」

「わかった」

 掃除はゴッゴルちゃんも参加している。

 もともとは彼女が撒いた種だ。

 そんなこんなでグリーンシルフの血肉と、他に積もった埃や汚れの類を拭うことしばらく。同所が元の態を取り戻す頃には、いつの間にやら日が暮れていた。ちなみに当初予定したポンプの購入は、マゾ魔族の空間魔法で代用した。

 詳しい原理はまるで知れないけれど、自身を含む多少の質量であれば、近距離を一瞬で移動させることが可能だそう。自らのストーンウォールで排水口を設けて、そこからヤツの空間魔法により排水は行われた。嫌いな相手とコラボってしまったぜ。

 ちなみに水を出したのもマゾ魔族だ。かなりマルチに魔法を使えるっぽい。

「こんなもので構いませんね?」

「……まあ、良いだろう」

 ふぅと額の汗をシャツの袖口に拭い、良い仕事をした感。

 ちなみに西の勇者ヘンリーを筆頭として、混成パーティーの面々はと言えば、少なからず距離をおいた様子で、最後に別れてから接触はない。高位な魔族だというキモロン毛の顔が効いたのだろう。恐らくは一晩を待つ腹づもりだと判断しておく。

 なので彼らとの再合流を防ぐ為にも、遺跡の出入口にはストーンウォールで蓋をした。これはマゾ魔族からの依頼でもある。魔法陣を荒らされる訳にはいかないのだそう。事前に色々と条件を飲んで貰った手前、同要求に対してはこちらが折れることとした。

 個人的にもこの魔法陣は非常に便利なので失いたくない。

 っていうか、叶うことなら独占したい。

 その辺りの事情も手伝い、マゾ魔族は打倒するより利用する方向で進もうと思う。

「それでは、これで我々はお役目御免という訳ですね」

「……だったらなんだというのだ?」

「一つお伺いしたいのです。こちらの魔法陣に関してなのですが……」

「およそ一晩、というか、半日で利用が可能となる」

「なるほど」

 伊達に高位な魔族をしていない。

 頭いいじゃん。

 聞きたかったところをドンピシャだ。

「そういうことであれば、もう利用できますね。我々は戻らせて頂きます」

「……我々は? まさか貴様、ハイゴッゴルを連れて帰るつもりか?」

「なにか問題でも?」

「……え?」

 疑問の音はゴッゴルちゃんから。

 その声が示す通り、本当だったら放置して通い夫するつもりだった。しかし、このキモロン毛が現れたとあらば、その限りでない。多分、この場で自分だけがペニー帝国に戻ったのなら、ヤツは必ず彼女を排除するよう動くだろう。

 今までのやり取りを鑑みれば、そのくらいは理解できる。掃除の最中も、そして、今現在も、マゾ魔族はゴッゴルちゃんから一様に距離を取っている。この魔族は人類に対して良くない秘密を、とても沢山持っていそうだ。

「彼女を貴方に殺される訳にはいきませんので」

「自らの心が全て読まれていたとしてもか?」

「ええ、そうですね」

 素直に頷いたところで、ゴッゴルちゃんから声が。

「……五日に一度だったはず」

「申し訳ありませんが、これから毎日に変わりました」

「っ……」

 今まで如何様な状況に晒されても碌に変化の無かったゴッゴルちゃんの表情が、ここへきて、ピクリ、如実に震えたような気がした。

「はっ! ニンゲンはいつだって下らない見栄の為に死んでゆく」

「それもまた一興というやつですよ。それとも貴方は、自らの心が読まれた程度で、行く先もおぼつかないと言うのでしょうか? 高位の魔族を自称しているのに」

「貴様はそれで落ち着いていられるというのか? 全てを見透かされて」

「はい」

 嘘も方便とは良くいったものだ。

 かなりギリギリだよコノヤロウ。

 しかも、そのギリギリなところを、一番知られたくない相手に知られながら。

「ふん、その虚勢がどこまで続くか見ものだな」

「せいぜい楽しんで頂ければと」

「そうさせて貰おうか。最後は貴様が自らの手で殺す日を楽しみにしている」

 もしかしたら、そういう日が来るかも知れない。

 でも、今はまだ死んで欲しくないのさ。

「それだけは避けたいですね。あと、万が一にも貴方の心が読まれないよう、今後は距離を置いた方が良いと思います。その辺りの分別はあちらに戻ってから、貴方のご主人様の意向も踏まえて、ご相談させて下さい」

「その辺りは貴様の裁量だろうが。私は遠慮などしない」

「分かりました。重々に気をつけることとします」

 呟いて、全員が魔法陣に足を乗せたところで魔力を込める。

 どうやらマゾ魔族も一緒に戻る腹づもりらしい。ちゃっかりと隅の方に身を置いている。まあ、その方がこちらとしても混成パーティーを残してゆくのに気が楽だ。或いはその辺りを理解した上で、ヤツなりに譲歩を示した形なのかもしれない。

 いや、それはないな。この性格の悪い魔族に限って。

「……本当に良いの?」

 魔法陣が輝きを発するに応じて、ふと、ゴッゴルちゃんが呟いた。

 こちらに向き直り、ジト目かつ上目遣いの褐色ロリータ可愛い。

「ええ、ロコロコさんが遠慮する必要はありません。我々の都合です」

「私は自らの意志で読むことを止められない。今も全てが流れてくる」

「そうだとしても、構いません。責任は全て私が持ちますから」

「…………」

 床に描かれた魔法陣が輝きを強くする。

「どうぞ、今後とも宜しくお願い致します」

「……ありがとう」

 コクリ、ゴッゴルちゃんが小さく頷いたのと同時、我々は暗黒大陸から姿を消す。視界は暗転。エレベータにでも乗り込んだよう、緩い浮遊感が全身を襲う。

 男なら一度は言ってみたいセリフだよな。

 責任は全て自分が持つ、だなんて。
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