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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫
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暗黒大陸 六

活動報告を更新させて頂きました。

 人は生まれてから死ぬまで、心の内側を一度として晒すことなく過ごす。

 日々を過ごす部屋だとか、パソコンのディスクスペースだとか、ネットに公開した日記だとか、心に近い場所を晒す機会はあるかも知れない。ただ、心そのものを誰かに見られるということは、万が一にもありえない。

 そう考えて今日までを生きてきたんだ。俺は。

「なるほど、こちらの彼女はそういった種族なのですね……」

 魔導貴族から伝えられたところは極めて衝撃的だった。

 自然と視線が向かった先、そこにはゴッゴルちゃんの姿がある。

 私は田中と申します。

「……しってる」

 マジか。

 やっぱり通じちゃった。

 どうしても深く通じ合っちゃったよ、ゴッゴルちゃん。

「…………」

「…………」

 っていうと、これはあれか。

 今まで妄想していた、人様には決して言えないような、あれやこれやも、その全てが彼女には筒抜けであったと。

 出会って直後から、随分と失礼な妄想を本人の目前で垂れ流してきた自信ある。

 しかもゴッゴルちゃんが可愛かったから、とりわけ濃厚なやつを、ここぞとばかりにお見舞いしてきた気がする。

 なるほど、なるほど。

「…………」

「…………」

 これ夢だよな。

 なんて思いたくなるくらい、酷く衝撃的な事実である。

 いかん。

 これはいかんぞ。

 考えていることを読まれていると理解した途端、猛烈にエッチなことを考えたい気分になってきてしまった。人は困難を与えられたとき、これを克服すべく動く生き物だ。臭いと理解して尚も、数日を履き続けた靴下の臭いを繰り返し嗅いでしまうような。

「…………」

「…………」

 ゴッゴルちゃんの褐色スージーをペロペロしたい。

 いや、ペロペロ程度では収まらないな。

 公衆肉便器に堕ちて、中も外もザー汁だらけでアヘ顔を晒すゴッゴルちゃんに、濃い目のオシッコ掛けたいとか、唾を一リットル飲ませたいとか、セーラー服姿でラブラブ汗だくセックスしたいとか、首輪を付けて公道ハイハイ三千里とか。

 溢れる、溢れてしまう、色々と。

 好ましい妄想も、好ましくない妄想も、思いつくがままに垂れ流してしまう。こいつは危険だ。自分の意識では制御不可能なところで卑猥な思考が止まらない。自分の意志では止められない。それを望もうが望むまいが、次から次へと出てきてしまう。

 誰かこの卑猥妄想の止め方を教えて欲しい。

「…………」

「…………」

 ロリゴンや魔導貴族が距離を取った理由も、グリーンシルフたちが騒いでいた原因も、その全てが今まさにクリアとなった。できれば死ぬまで知りたくなかった。なんて恐ろしいんだゴッゴルちゃん。

 自身の精神の崩壊する音が、聞こえてくる。

 更に言えば、どれだけ卑猥な妄想をしたところで、なんら反応を返してこないゴッゴルちゃんの冷静さ具合が怖い。もしも先程に浮かんだ妄想の一つでも、自身の交友関係に流れたのなら、その全てが容易に失われてしまう。

「…………」

「…………」

 でも、それでも可愛いゴッゴルちゃん。

 やっぱり、どう考えても逆レイプされたい。

 とかなんとか、こうした一連の葛藤も、全てが伝わってしまっているのだろう。あぁ、なんということだ。どうしたら良いのだろう。どれだけ悩んでも一向に良い案が浮かんでこない。八方塞がり。

 しかしだからと言って、延々と無言で見つめ合っている訳にはいかない。他者の目もある。とりあえず、ほら、あれだ。魔導貴族とロリゴンの視線が気になるので、ここは一つ改めて挨拶とか。

「どうぞ、今後ともよろしくお願いします」

「……それで良いの?」

「いえまあ、流石に驚きましたよ。けれど、だからといって急に距離を取るのは、流石に失礼ではないかと思います。あちらの二人は別として、私はこれまでの道中で、貴方に幾度となく助けて頂きましたから。その義理までは欠きたくないのです」

 ゴッゴルちゃんに逆レイプされたい。

 二十四時間耐久逆レイプされたい。

 逆レイプは童貞を救う。

 最中全ての水分補給をゴッゴルちゃんの体液で補う心意気。

 最高にエコ。

 外は褐色、内側はピンク。

 どうか膜が付いていますように。

「ですから、可能であればこれまでと変わらず接していただけたらと」

「…………」

 どう足掻いても逆レイプされたい。

 妊娠。

 出産。

 親子丼。

 ロリコォォォン、ファイオッ! ファイオッ! ファイオッ!

「……難しいでしょうか?」

「…………」

 難しいに決まってるじゃんよ。

 俺だって目の前にこんな変態野郎がいたら最高に嫌だよ。

 ロリコンファイオってなんだよもう。

 これ以上を彼女に向き合っては大変だ。読まれていると思えば思うほど、頭は勝手にあれこれと妄想を垂れ流す。強迫観念めいた何かが全力駆動して思える。

 思ったより、心を読まれているという負担は大きい。

 思考を全て読まれている状態で、無理矢理に組み伏せられて、言葉責めオプション付きの、逃れる隙のない逆レイプ。それは人生のゴール。

 ゴッゴルちゃん、逆レイプしてください。

 ヤバイ病気を伴い、有無をいわさず逆レイプしてください。

「……それはいや」

「…………」

 おことわり。

 切ない。

 どうした良いのだろう。自分の心の内側が収集付かない。ゴッゴルちゃんと交尾。ゴッゴルちゃんと子作り。実はスプリットタンだったりするかも知れないゴッゴルちゃんに、ツインカム尻穴ホジホジして欲しい。

 これは夢なのではないかと思う。

 しばらくしたら学園寮の自室で、ソフィアちゃんが起こしてくれる系の。

 その方が遥かに現実的だ。

 そうあって欲しいと切に願う。

「夢じゃない」

「…………」

 無慈悲な通告。

 そうなんだよ。

 どうしよう。

「…………」

「…………」

 いや、待て、今は混乱している場合じゃない。早急に状況を纏める必要がある。ここは暗黒大陸だ。弱肉強食な修羅の大陸だ。自分のエッチな妄想でパニクっている場合じゃない。今この瞬間にもフェニックスやグレートドラゴンが襲ってくるかも知れないのだ。

 そうしたら自分に限らず皆様の危機である。それだけは避けねばならない。

「とりあえず、場所を移しましょうか」

 ロリゴンも小さくなったし、せめて他に安全な場所へ移動したい。

「その前に一つ確認したいことがある」

 おっと、魔導貴族から質問だ。

 ちゃんとお答えしなければ。

 この焦りに焦った内心を悟られる訳にはいかない。

 公衆肉便器奴隷少女ゴッゴルちゃんメイクアップ。

 キーワードは画線法。

「なんでしょうか? ファーレンさん」

「貴様はどうやってここまで来たのだ? まさか飛行魔法か? 我々も到着して間もない。一方で貴様はと言えば、我々より先にペニーを発った訳ではあるまい? にもかかわらず、それなりにこちらで活動しているように思えるが」

 たしかにもっともな質問だ。

 飛行魔法には多少の自信がある。けれども、圧倒的大差を付けて先発したロリゴンを、後から出発して追い越すような真似は不可能だ。

「飛行魔法ではありません。トリクリスから魔法陣に乗って訪れました」

「魔法陣だと!? ま、まさかそれは空間魔法かっ!?」

「詳しいところは知れませんが、恐らくはその類ではないかと」

「なんとっ、そのようなものが、まさかペニー帝国にあったのか!」

「確証はありませんが、少なくとも私はこの場におりますので」

「おぉっ……」

 途端、魔導貴族の顔が歓喜に震えた。

 魔法キチガイのキチガイたる所以に火がついたよう。

「それはどこにあるのだっ!? わ、私にも見せてくれっ!」

 凄い食付きだ。

 それとなくゴッゴルちゃんに視線をやる。

 自然と意識は彼女の下腹部へ。丈の短いスカートからパンチラ狙ってワンツースリー。どこぞの民族衣装を思わせる衣服のスカートから覗いた、褐色肌の太ももが極めてエロティック。その引き締まったお肉で、正面から顔面だいしゅきホールドされたい。

「それは構いませんよ。ただ、魔法陣のある場所なのですが、片割れがフィッツクラレンス子爵領に所在している一方で、暗黒大陸に対応する側はというと、実はこちらの彼女のお宅に通じておりまして」

「なっ……」

 喜びに打ち震えたのも束の間、魔導貴族の表情が凍った。

 恐らくは今、ヤツの内側では天秤が揺れている。

 魔法とゴッゴル。

「私としてもファーレンさんに確認して貰えたのなら、色々と分かることがあるのではないかと考えておりました。暗黒大陸に限らず、他所への移動に対する、有力な手段足りえるのではないかと。残念ながら一方通行のようではありますが」

「そ、そうかっ……貴様がそこまで言うか」

 とても難しそうな表情だ。

 酷く苦悩して思える。

「しかしながら、私の一存で好きにできるものではありません。もしも確認を行うのであれば、こちらの彼女に承諾を得てからにしてください。ペニー帝国側の魔法陣に関しては場所を確保しておりますが、暗黒大陸側は完全なアウェイです」

「ぬぅっ……」

 どれほどを悩んでいただろうか。

 ややあって、魔導貴族の足が動いた。

 こちらに向かい、一歩、また一歩と。

 やがて、ゴッゴルちゃんの手前数メートルの地点にまで至る。それが魔導貴族の全力であり、限界なのだろう。ギリギリ、槍が届くかもしれないほどの距離感。もしかして距離によって心を読まれる深度が変化したりするのだろうか。

 だとすれば、すぐ隣に立つ自分はどこまでを読まれているのか。

「すまない、どうか私に魔法陣を見せては貰えぬか?」

 ややあって絞りだすよう、ゴッゴルちゃんに問い掛ける魔導貴族。

 頭などさげてお辞儀モード。

 果たして彼の脳内では、どのような思考が渦巻いているのか。

「……べつに、いいけど」

「そ、そうかっ!」

 コクリ、小さく頷いては応じるゴッゴルちゃん。

 途端、顔を上げた魔法キチガイの顔が、パァと喜び一色に染まった。

 どれだけ嬉しいんだよ。

 一方でゴッゴルちゃんのなんと寛容なこと。

 優しすぎる。

 抜本的に逆レイプされたい。

「ではっ、さ、早速だが、是非とも問題の魔法陣を確認したいっ!」

「…………」

 ゴッゴルちゃんから承諾を得た途端、ハァハァと息も荒く、続くところを要求する魔導貴族。事情を知らなければ、傍目、完全に変態のそれである。

 ヤツの興味の矛先が魔法に限られてなによりだ。万が一にも自分やメルセデスちゃんと同系統であったのなら、稀代の変態として世に名を残していたことだろう。

 ただ、家主の承諾を得たからといって、そう簡単な問題ではない。

 ゴッゴルちゃんちはここより北の方にある。分布するモンスターもこの辺りと比較して強力なものだろう。自分や彼女はまだしも、魔導貴族には辛い道のりだ。最後までちゃんと守り抜けるか少しばかり心配である。

 ということで、ここはひとつ最強ドラゴンにお手伝いして貰おう。

「クリスティーナさん、一つお願いがあるのですが」

『嫌だ』

「……まだ何も言ってませんよ?」

『これ以上は近づかない! ぜ、絶対に近づかないからなっ!?』

「…………」

 断固拒否の姿勢を見せるゴールデンアイズロリータドラゴン。

 そりゃそうだ。

 普通は得体のしれない魔法陣より、自分のメンタルを優先だよな。

 このドラゴンが普段なにを考えているのか、気にならないと言えば嘘になる。ただ、それを知りたいとは思わない。人間関係というのは、互いに適度な距離があるから、ほどほどに楽しいものだ。

「エンシェントドラゴンともあろう者が、ゴッゴル族に劣るのですね」

『……なんだと?』

「違いますか? 今も碌に近づけないでいる。私やファーレンさんでさえ、こうして彼女と交流を持っているにも関わらず、貴方のなんと情けないこと」

『ぐっ……』

 適当に挑発してやると、みるみるうちに悔しそうなロリゴンへ。

 だがしかし、今日の彼女は少しばかりクールだ。

『ふ、ふんっ! 勝手に言っていろ。私には関係のないことだっ』

「そうですか?」

『当然だっ!』

 プイとそっぽを向いてしまう。

 なんだよ、つれないじゃないか。

 そんなに心の内側を読まれるのが嫌かよ。

 そりゃ嫌だよな。

 俺だって絶対に嫌だよ。

 でも読まれちゃったんだよ。

 どうしよう。

 これ本当にどうしよう。

 レイプで処女喪失した女の子ってこんな気分なのかな。

 更に行為を動画で撮影されて、ネットに上げられる五秒前って感じ。

「わかりました。無理にとは言いません」

『…………』

「私たちが先行しますので、その後から付いてきて下さい。距離は十分に取ってくださって結構です。今以上に近づけとは決していいません。ただ、どうかファーレンさんを貴方の背中に乗せてあげて下さい」

『……ニンゲンは、心を読まれることを嫌がる生き物じゃないのか?』

「そうですね。世間一般的には、まず間違いないと思います」

『だ、だったら、どうしてオマエは平然としていられるんだ?』

「べつに平然とはしていませんよ」

『してるだろうがっ! いつもと、ぜ、ぜんぜん変わらないっ!』

「それは気のせいですよ」

 内心はもうさっきから世紀末状態だからな。

 ちょっとでも気を抜いたら、速攻で卑猥な妄想が溢れ出す。ゴッゴルちゃん、スカルファックしとうございます。スカルファック、知っておりますか? 頭をオマンコに突っ込む超必殺技でございます。頭部で感じる弱酸性。

 むしろ凄いのは、そうした妄想を一身に受けながら無反応な彼女の方である。

「…………」

 本当に読めているのかと、疑問に思うくらい静かである。

「……ぜんぶ、読めてる」

「…………」

 どうだ、ごらんの有様だ。

 もうどうにもならんね、これは。

 あぁ。

 ごめんなさい。

『…………』

「では、そういうことで。どうぞ、よろしくお願い致します」

『ふん……』

 ちょっとばかり面倒な制限が付いたけれど、魔導貴族の足をゲットだ。

 ところで、想像した以上に脆弱なクリスティーナの豆腐メンタルを思うならば、今のうちに彼女の読心テリトリーを確認しておきたい。実際にどの程度の距離までであれば、心を読むことができるのだろうか。

 本当のことを教えて貰えるか否かは知れないが、一応、確認程度はしておいても損はないような気がするのだ。今後の円滑な人間関係の為にも、そのあたりのスペックシートの共有は非常に重要である。

 魔導貴族は槍の届く範囲云々と語っていたけれど、大切なのは本人の証言だ。

「すみませんが……」

 口を開きかけたところ、全てを問うまでもなくお返事が。

「貴方以外、彼や彼女の距離では読めない」

「なるほど」

 どうやら魔導貴族もセーフ判定であったよう。

 っていうと、槍の届く範囲云々は誤伝であったのだろうか。

「……でも、先ほどの説明は正しい。かなり際どいところ」

「ありがとうございます。おかげで安心できました」

 なるほど、やっぱり完全に読まれているよな。

 今でこそ波風立てることなく付き合ってくれているゴッゴルちゃん。しかし、次の瞬間には、こちらの妄想に嫌気が差さないとも限らない。威力的な手段に出る未来もそう遠いものではないだろう。

 自らの行いながら、大したセクハラだ。

 恐らくは三日と持つまい。

 だからこそ、出来る限り早く距離を置くべきだとは、双方の為にも切に感じているところ。自身もまた今でこそ辛うじて他者とコミュニケーションを取れている。しかし、彼女が自分の目の届かないところに行った瞬間、一人になった瞬間、ヤバそう。

 やがて再び顔を合わせた時、どのような態度を取ってしまうか。

「だそうです、クリスティーナさん」

『そ、そうか……』

 答えるロリゴンはと言えば、なんとも複雑な表情だろうか。



◇◆◇



 みんなで暗黒大陸の空を飛ぶこと数刻ばかり。

 往路と異なり、復路はクリスティーナの存在も手伝い、平穏無事に行くことができた。やはりエンシェントドラゴンとは、同界隈においても大した存在であったよう。伊達に巨大な図体を晒していない。誰にも絡まれることなく過ぎていった。

 やがて、辿り着いた先は問題のゴッゴルちゃんち。

 数日ぶりの訪れだ。

 出入口となる階段を降って、地下に所在する室内に至る

 ちなみに魔導貴族とロリゴンは、部屋の中央を挟んで、自分とゴッゴルちゃんとは点対称の位置に立っている。彼女の読心テリトリーを考慮しての位置取りだろう。入室から早々に今の配置へと落ち着いた。

 終始そんな具合だから、流石にちょっとゴッゴルちゃんに申し訳ない気分。ということで、せめて自分くらいはと、相手の迷惑も考えずに、オマンコ、オマンコ、彼女のすぐ隣で延々とセクハラを繰り返している。

 いい加減にオマンコという単語がゲシュタルト崩壊起こしそうだ。

「…………」

「…………」

 おかげで一連のセクハラを訴えてだろう。同所に落ち着いてからというもの、ゴッゴルちゃんからは向けられているのは、絶え間ないジト目である。およそ感情の窺えない、酷く冷淡な眼差しが、醤油顔のマゾヒスティックなところを直撃だ。

 かなり悪くない。

 根底にある感情はどうあれ、美少女に認知、意識されている状況が喜ばしい。

「どうかしましたか? 私の顔になにか……」

「……べつに」

「あぁ、そう言えば、お名前を伺っていませんでした。よろしければ……」

「貴方は既に知っているはず」

「…………」

 そうですね。

 ステータス云々も既に把握していらっしゃるよう。

 心を読まれていると理解した為だろう。彼女からの言葉が、どことなく冷たいものに感じられる。この変態オヤジが、いちいち下らないことで話し掛けてくるんじゃねぇよ。いい加減に気持ち悪いんだよ、みたいな。

 一方で魔導貴族はと言えば、それはもう絶好調だ。

「す、素晴らしいっ! この手の魔法陣が、ここまで鮮明な形で残されているとはっ! 流石は暗黒大陸といったところかっ! まさか、まさか、これほどのものがっ! これは恐らく魔族の仕事だろうなっ!」

 キラキラと瞳を輝かせて、一心不乱に魔法陣をメモしている。

 いつだか自分が回復魔法を見せた際のことを思い起こす。

 ちょっと嫉妬。たまには回復魔法のレベルとか、上げちゃおっかな。

「……それほど貴重なもの?」

 おっと、ゴッゴルちゃんからのお問い合わせ。

 嬉しいな。彼女からお話してくれるの嬉しいな。

 相変わらずな美声が酷く心地よく耳に届けられた。

「彼は三度の食事より魔法が大好きなのです」

「……そう」

「はい」

 他方、その傍らではクリスティーナが不服そうな表情で、一連のやり取りを見つめている。彼女としては当初の目的を達成できなかった上、自らの感知しないところで、無理矢理連れ回される羽目となったのだから、当然と言えば当然だ。

 ここ最近は特にあれこれと理由をつけて、こちらの要請で一方的にアッシー君させてしまっている。今回も自分の為にグリーンシルフの羽を採集するべく、暗黒大陸まで飛んでくれたらしい。流石になにかしらお礼をした方が良いだろう。

 よし、そうしよう。

 相手はクリスティーナだし、やっぱりサプライズ的に驚かせてやりたい。驚愕から全身をプルプルさせるロリゴン最高にラブリーだ。となると、あれだな、町長就任パーティーとか良いかも知れないな。主役にお迎えしてあげるのだ。

 これはサプライズです、からの実は嘘でした、と来たところで、必至に強がりを吐き散らかしているところ、本当は嘘が嘘でした、みたいな感じが、おぉ、いいな。素晴らしい。手に取るようにヤツの表情変化が想像できるぞ。

 そんな彼女を眺めて、我々はホッコリさせて貰う算段よ。

 居合わせた面々からの支持率はうなぎ登りだろう。仮にタナカ領が失くなったとしても、ドラゴンシティは安泰さ。間違いない。末永く、少なくとも本人が望む限り、あの街に籍を置けるよう事が進んだのなら、とても嬉しい。

 あまりやり過ぎると、こっちが惚れてしまうから、油断は禁物だが。

「…………」

「…………」

 あれこれと考えを巡らせたところで、ロリゴン愛が溢れてくる。

 ロリゴンが可愛い。

 ロリゴンと結婚したい。

 ロリゴンを妊娠、出産させたい。

 ちくしょう。

 ちくしょう。ちくしょう。

 魔導貴族に申し訳が立たないな。

 全てが丸裸だぜ。

 なんて危険なんだゴッゴルちゃん。ゴッゴルちゃんなんていなければいいのに。ゴッゴルちゃんなんて死んじゃえばいいのに。あぁ、言い過ぎました。ごめんなさい。でも、それもまた真実で、しかしながら、それでもゴッゴルちゃんに生中出ししたい。

 ゴッゴルちゃんが可愛い。

 ゴッゴルちゃんと結婚したい。

 ゴッゴルちゃんを妊娠、出産させたい。

「…………」

 いかん、いかんぞ。

 心を情事読まれているというのは、想像した以上にストレスフルだ。かなり頭の中がこんがらがってきている。普段なら至らないところまで、脳味噌が勝手に妄想している感じが半端ない。このままでは割と普通にメンタル壊れてしまいそう。

 統合失調症への第一歩って、たぶん、こういうのなんだろうな。

「…………」

 少し冷静になろう。

 自分は自分、他人は他人。

 親でも友達でも同僚でも、親しい相手をそれでも憎いと思う心は、割と日常の最中に転がっている。嫉妬の心は容易に膨張するし、いずれは収まって消える。改めて意識するほどのものでもなく、それを正当化する必要もない。

 そうだ。そういうことだ。

 おう。

 深呼吸でもして、少し落ち着こうじゃないか。

「…………」

「…………」

 ロハでゴッゴルちゃんからジト目に蔑まれる権利を頂戴できると思えば、醤油顔の心なんて安いもんだろう。日本で同じことをしようと思ったら、一時間五千円は固い。他に与えられるモノなど皆無なのだから、心の内くらいセールさせて頂きましょう。

 よし、落ち着いてきた。

 大丈夫そうだ。

 ゴッゴルちゃんと二時間くらい濃厚なベロチューしたい。

 そんなこんなで自身のメンタルを保全しつつ、妄想に惚けることしばらく。いよいよロリゴンが表情も険しく、その足を踏み鳴らし始める頃合には、魔導貴族の意識もまた、魔法陣から我々の下に戻った。

 どうやら十分に堪能したらしい。

 四十過ぎのオッサンが見せる恍惚とした表情は、あまり楽しいものではなかった。

「この度は素晴らしいものを見せて貰った」

 酷く満足気なものだ。

 過去、これほどまでにホクホクした魔導貴族の顔を見たことはない。頭を下げてお礼までする始末だ。それくらい大した代物だったのだろう。相変わらずブレない男である。手には魔法陣の書き写された紙が、しっかりと握られている。

 この場合、自分からもお礼をした方が良いだろう。

「私からもお礼をさせて下さい。ありがとうございます」

「……べつに私はなにもしていない」

「こちらは貴方のお宅なのですから、お礼は当然のものですよ」

 使用済み下着とかあったら、ぜひクンカクンカさせて頂きたいところだ。ロリータにはマイクロビキニやTバックが良く映える。ゴッゴルちゃんには是非とも、そのあたりで夏の海を攻めていただけたらと切に思う。

「…………」

「…………」

 分かってる。ゴッゴルちゃんには申し訳ない限りだ。

 でも、いちいちエロい妄想してしまうのは、自分くらいの年齢の男であれば、極めて一般的なことだから、できれば無視して貰えると嬉しいのです。なんて思ったところで、そう安々と流すことは難しいだろう。

 セクハラに次ぐセクハラ。

 ゴッゴルちゃんのメンタルがブレイク寸前だ。

 これ以上はヤバイ。

 そろそろお別れの時間だな。

「しかしまあ、ゴッゴル族とは随分と博識な生き物なのだな」

 不意に魔導貴族が呟いた。

 ヤツが見つめる先には、枯れ草に作られたゴッゴルちゃんの貧相極まる寝床、その傍らに設けられた食料の収まる木箱があった。彼女の日々を生きる糧が収まる食料箱である。その涙ぐましい感じが、個人的には非常に萌える。

 飢えと貧困に喘ぐロリータ可愛い。

「ヒギィ茸にボコォ草、更にはラメェの角などと、どれもこれも強力な毒性を持つものばかりではないか。如何に暗黒大陸の強力な生き物であったとしても、これだけの毒物を摂取しては、決して無事でいられないだろう。狩りにでも使うのだろうか?」

「っ……」

 何気無い魔導貴族の呟きを耳としたところで、初めて彼女が人らしい反応を見せた。ビクリと肩を震わせて、その視線を自らの木箱から部屋の隅へと移す。きっと自らの生活の一端を指摘されたのが恥ずかしかったのだろう。

 そりゃそうだ。

 無様極まる寝床を暴かれた上に、数少ない家財道具は狩りの為の毒物とか。

 年頃の女の子のお部屋としては赤面ものだろう。

「もしも叶うことなら、暗黒大陸の野草に関して学びたいのだが……」

 一方で自重しないのが魔道貴族。

 ゴッゴルちゃんの木箱を眺めて、知識欲を炸裂させる。

 流石にこれ以上は彼女に申し訳ない。

 心の中身を読まれている自分がフォローするのも妙な話だ。けれど、今の彼女はプライベートもへったくれもあったものではない状況である。相手は女の子なのだから、そのあたりちゃんと気を使ってあげなければダメだろう。

『…………』

 ついでに言えばロリゴンの我慢も限界が近そうだ。むっちゃ不機嫌そうにこちらを睨みつけている。ヤツは白目が黒くて、黒目が金色だから、睨まれると普通に怖い。どのタイミングで繰り出されるともしれない腹パンと相まっては甚だストレスだ。

 おかげで自然と、魔導貴族を窘めるよう言葉も漏れる。。

「ファーレンさん。流石にこれ以上は彼女に悪いですよ」

「う、うむ。たしかに一方的にあれこれと聞いてしまった……」

 全力でセクハラを繰り返している自分が言えた台詞じゃないけれど、現地でフィールドワークを行うにしても、観察対象のプライベートは尊重するべきだよな。それが可愛らしい異性のお部屋ともなれば相応に。

 そろそろお開きとするべきだろう。

 これ以上、ゴッゴルちゃんに負担を掛けるのは良くない。

 止めどなく溢れる自身の妄想も含めて。

『おいっ、いい加減にしろ』

 終ぞしびれを切らしたロリゴンからお声が掛かった。

 素晴らしいタイミングだ。

 なかなか良い仕事をするじゃないか。

 これに倣う形で場を切り上げるべくご提案を。

「そうですね。そろそろ、おいとましましょうか」

 流石の魔導貴族も、ロリゴンからの提案であれば、これ以上をゴネることはあるまい。などと算段を立てていたのだけれど、続けて与えられたクリスティーナからの指示は、完全にこちらの想定外であった。

『さっさと魔法陣を起動させろ。街に戻るぞ!』

「え?」

「なんだと?」

 自然と疑問の声は上がった。

 自分と魔道貴族だ。

 何故ならばこちらは事前に伝えている。魔法陣の起動には既に一度挑戦して、無様にも失敗していると。だからこそ、復路を思っては少なからず憂鬱な気分であったのだ。向こう数日は否応なく空の人になるのだと。

 しかしながら、そうした我々に対して、彼女は淡々と答えて応じる。

「起動させるとは、この魔方陣を指してのことか?」

「クリスティーナさん。先程にもお伝えしたとおり、ここの魔法陣は一方通行のようです。魔力を込めても反応しませんでした。それを起動させるというのは、なにか他に手立てがあるのでしょうか?」

『あぁ? そこに記述があるだろうが。復路にも使えると。ただ、一度使ったら一晩を待てと、別に注意書きがされているな。こういったあたり、魔族連中が描く魔法は、細かいところが丁寧で悪くない』

 彼女の視線が向かった先は魔法陣の一角。

 その構成要素だろう謎文字の連なりだ。

 まさか利用の手引が描かれているとは思わない。

「え? そうなんですか?」

「ま、まさかっ、この魔方陣を読解しているのかっ!?」

 ちょっと驚いた俺。

 凄く驚いた魔道貴族。

 そんな二人を呆れ顔で眺めるクリスティーナ。

『……これくらいの記述も読めないのか? ニンゲンどもは』

 本心から、えーマジで? 本当に分からないの? みたいな。

 ただ、そうした表情も、ほんの僅かな間のことだ。

「ええ、無学で申し訳ない限りでして……」

『…………』

 こちらが素直に頷いたところ、呆け顔を晒していたクリスティーナが、しかし、次の瞬間にはドヤ顔となり、ニンマリ、含みのある笑みを浮かべてくれた。

 過去にないほどほっぺたががプンニリしている。

 最高にモチモチだ。

 賢さアピールされて悔しい一方、ロリに言い負かされるの凄く快感。

 敗北の虜になりそうだ。

『ふふん? そうか、貴様はこの程度の魔法陣すら解せぬか』

「そうですね。なにぶん学がないものでして……」

『私は理解しているぞっ!? この魔方陣の隅々までをもなっ!』

「隅々までですか? それは凄いですね」

「と、当然だっ! この程度の魔法陣、なんということはないっ!」

 自信満々、平坦な胸を精一杯に張って宣言するロリゴン。

 下着を付けていないようで、ドレスの生地越し、ぷっくりと浮かんだ乳首が最高にエッチだ。魔導貴族め、相変わらず素敵な仕事をするじゃないか。

『どうだっ!? 凄いだろうっ! 私が内に湛えたる知識はっ!』

「素晴らしいですね。私は貴方の見ている光景がまるで知れません」

「うむ、流石はエンシェントドラゴンだ」

『そ、そうかっ! ……それなら、まあ、少しくらいは教えてやってもいいぞ? この私が見ている光景というやつを! 貴様らのような学のない者になっ!」

「本当ですか?」

「とは言え、それもこれも貴様がこの私の博識を、生涯に渡り認め続けると、こ、ここに宣言するのであればだがなっ! なっ!?』

 ロリゴン、ちょっと条件が当社比二割ほどせこくなっている。

 今この瞬間の知識で生涯を保証させるのは流石にどうよ。

 でも、そんな打算的な小心ドラゴンも可愛いから、オジサン頷いちゃうわ。

「ぜひお願いします。貴方の知識は永遠に私より優れ続けるのでしょうね」

 ちょっと意地悪するけど。

『…………』

「……クリスティーナさん?」

『と、当然だっ! 当然だろうっ!? ニンゲンなどに劣るものかっ!』

 いま割と深刻そうな顔で悩んだよな? ちょっと自信なさそうな感じが凄く可愛かったぞ。それでも約束しちゃうあたりが殊更にラブリーだ。

 まったくもって、魔導貴族は良い女に目をつけたものだ。

 ここ最近、なにかと接点が増えた為か、ロリゴンの魅力的なところが凄まじい勢いで押し寄せてきている。これをいち早く見ぬいたヤツの審美眼は、対象が魔法以外であっても、遺憾なく発揮されて思える。

「…………」

 帰ったらエディタ先生のパンチラで慰めて貰おう。

『お、おいっ、ニンゲンっ……なんとか言ったらどうだっ!?』

「改めてクリスティーナさんの魅力を理解したところですよ」

『っ……そ、そうかっ! そうなのかっ! それは殊勝な心がけだなっ!』

 勝ち誇った表情を浮かべるロリゴン。

 相変わらず承認欲求が半端ない。

 もしお今この瞬間、自らの心の中がゴッゴルちゃんを経由して彼女に伝わったのなら、なんて考えると、目も当てられない。お願いします。どうか中年野郎が胸に秘めた、この熱い思いは、内密にお願い致しますゴッゴルさん。

「…………」

「…………」

 答えて下さらないゴッゴルさんは、割とサディストだ。

 そんなところもクールビューティズム迸る。

『そういうことなら、よ、よし、私が魔力を与えてやろうっ! ニンゲンである貴様には些か辛いだろうからな! ドラゴンが湛える圧倒的な力の鱗片をここに示すぞ!』

 調子に乗ったロリゴンが魔法陣に向かい、右手の平を向ける。

 どうやらこの場を対応してくれるようだ。たしかに床に描かれた魔法は魔力の消費が半端ない。少なくとも魔導貴族やゴッゴルちゃんでは起動が不可能である。少しヨイショしただけで大盤振る舞いなところも、大好きだぞクリスティーナめ。

『さっさと魔法陣に乗るといい』

「ありがとうございます、クリスティーナさん」

「う、うむ」

『ふふんっ』

 ロリゴンに促されるまま、数歩ばかりを歩んで魔法陣の上に移動するオッサン二名。その足が止まったところで、当のロリゴンもまた同様に、その身を移動させる。

 唯一、ゴッゴルちゃんだけが円形に描かれた幾何学模様の外側、部屋の出入口付近に立ち、これを眺める位置取りだ。相変わらず能面のように感情の窺えない面持ちで、ただジッと、ことの成り行きを眺めている。

 あれこれとご迷惑をおかけしてしまいごめんなさい。

 あと、落し物を拾ってくれて、本当にありがとうございました。

 彼女にお別れのご挨拶をしよう。

 たぶん、再び会うことはあるまい。

「今更かも知れませんが、この度は色々とご迷惑をおかけしてしまい……」

 などと考えていたら、別れのお返事は彼女の方からも同様に。

 こちらの挨拶を遮るよう、ボソリ、相変わらずの美ロリボイスが響く。

「……私も行っていい?」

「え? ……あ、え? いや、それは……その……」

 咄嗟にうんと頷けなかった自分は、なんて懐の小さな男だろう。

 問われて即座、嫌だと思ってしまった。

 ゴッゴルちゃん。俺は嫌だと思ってしまったのだよ。

「話をするのは、たのしい。一人は……辛い」

「それは……」

 ここへ来て、まさかのストレートな感情を頂戴である。

 どうしよう。

 本格的にどうしよう。

 まさか彼女の口から一人が辛いなんて、漏れるとは思わなかった。

「一人は……辛い」

「…………」

 なるほど、それが君の本心かい、ゴッゴルちゃん。

 語る表情は、少しばかり頬の肉が強張って思える。

 これまで一貫して、能面のような表情であった彼女が、である。

 一連の振る舞いを目の当たりとして、ふと、その出会いを思い起こした。こちらを訪れて直後、本人の口から語られた、ゴッゴル族が云々の問答である。実はあれこそが、彼女の一番に訴えたかったところなのかもしれないと、今更ながらに至った。

 誰だって心を読まれたら嫌である。故に自然と彼女は一人になり、今日という日まで孤独な時間を過ごしてきたのだろう。もしかしたら自分が想像する以上、彼女は長いこと一人で生きてきたのかもしれない。

「…………」

「…………」

 そうした一方で、人里に衣服を用立てるなど、多少なりとも他人との接点を持っている。人里の者たちと比較しては、突出した身体能力を備えているが所以、腕っ節にものを言わせれば、多少の無茶は通るのだろう。

 ただ、そうした中途半端な立ち位置が、より一層のこと、強い孤独を彼女に与えているのだと考える。本当の孤独ってやつは、自分以外に誰の姿もない無人島などではなく、きっと、暖かな団欒のすぐ近くにあるものだ。

 今回の交流が、そうした背景を助長させてしまった、という考え方も、可能性としてはゼロでないように思う。もちろん多分に自身の自惚れが入っている訳だけれども、そう考えさせるだけの必死さが、彼女の立ち振舞から感じられた。

『駄目に決まってるだろうが。いいか? 乗るなよ? もしも一緒に来たら、この私が即座に殺す! 絶対に殺すっ! だから、来るなよ!? ぜったいに来るなよ!? ぜったいだからな!?』

 魔力を注がれたことで、魔法陣が煌めき始める。

 ロリゴンのやつ、どうやら本気で嫌がってるな。

 それでもゴッゴルちゃんは、ボソリ、ボソリ、立て続けに言葉を続ける。

 なにがきっかけとなったのだろう。

 今この瞬間、堰を切ったように語ってくれる。

「……話をしたい。もっと話を……話を……」

 出会って初めて目の当たりとする、褐色ロリータの感情。

 それは飢えだった。

 語りかける眼差しは、これまでと大差ない面持ちながら、どこか鬼気迫るものを感じさせる。怒っている訳でも、焦っている訳でも、悲しんでいる訳でもない。ただジィっと、こちらを見つめてくる。決して冗談や軽口の類には思えなかった。

 覚えのある眼差しだ。

 本当に飢えている人の眼差しだ。

 それでも飢えたくない人の眼差しだ。

「話を、して欲しい。貴方も望んでいたはず、話を……話を……」

 ただ、これに応えるだけの猶予を、クリスティーナは与えなかった。

 或いは自分が率先して答えようとしなかったとも言う。

『これでさようならだっ! オマエは一人で勝手に死ねっ!』

 クリスティーナが短く呟くに応じて、目の前が暗転する。

 その台詞に胸が痛いほど、ドクンと脈打った。

 なんて酷い男だろうな。でも、正直なところ助かった。親しい人に、ソフィアちゃんやエディタ先生に、あれこれとバレるのは嫌だもの。そんなふうに考えている自分の、あぁ、なんて卑しいこと。どれだけ偉そうに語ったところで、所詮は自分もその程度だ。

 まったくもって、人として底が見えてしまったな。

 それでも生中出しだけは切にしたいと願うほどだ。

「話をっ……」

 同時、つい数日前にも経験した、目眩に似た浮遊感。

 気づけば視界は移り変わって、四方を囲う壁は色を変えていた。

 ゴッゴルちゃんの姿も見えなくなる。

「…………」

 なんとも言えない気分だ。

 久しぶりである、こういうのは。

 魔道貴族の指摘にも挙がった、彼女の寝床脇に設けられた道具箱の中身。その用途を最後の最後で理解してしまったよ。できれば気づきたくなかったな。

 出会って当初から、彼女はずっとギリギリ一杯だったのだ。
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