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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫
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冒険者ギルド 三

 宿屋に一泊。

 翌日、近所の食事処で朝食を摂って後、朝一番で冒険者ギルドへやって来た。少しでも荒くれ共の少ない時間帯をと狙ったつもりだった。

 しかしながら、ゴツイ顔してどいつもこいつも勤勉なこと。昨日と変わらず店内はマッチョたちが大勢だ。朝と夕方は混み合う時間帯なんだろう。

「すみません」

「ああ、お前か」

 カウンター越し、店員マッチョとトーク。

 相手はこちらの顔を覚えていた。

 まあ、アジア人は目立つからな。

 周りはほぼ全て西洋人の顔つきだし。

 エルフや獣人もいるけど、それらも顔面は西洋人枠。

 アジア人は自分を除いてゼロ。

「すみません、昨日と同じ薬草のクエスト下さい」

「ああ、受付は済ませといてやるから行ってこい」

「それとすみませんが、薬草の形を確認させて貰ってもいいですか?」

「あぁ? まさか知らねぇのか?」

「いえ、一応ということで、すみませんが」

「ったく、めんどくせぇな」

 ブツブツと文句を言いながら、カウンター奥の棚から書類を取り出すマッチョ。革張りのファイルに収められた紙面の幾枚かを抜き出した。

「このどれかを取ってこい。そうすりゃ買い取ってやる」

「なるほど」

 カウンターの上に並べられた紙面。

 そこには草や花が一枚一枚、それぞれに描かれていた。

 誰が描いたのかしらないが、なかなか上手いもんである。

 さらっと眺めて内容を覚える。

「ありがとうございます」

「んじゃ、しまうぞ」

「すみません、お手数をお掛けします」

 やり取りは簡素なもの。

 そうして二、三ばかりを交わしたところ、早々のことギルドを後とする。

 向かう先は森。

 今度は迷子にならないよう、街から川を伝い向かうこととした。



◇◆◇



 川沿いに歩くこと二時間ばかり。

 森に入ってから一時間ばかり。

 向かう先にふと見覚えのある姿を見つけた。

「おー、もしかして昨日のゴブリンじゃん」

「ニンゲン……」

 ゴブリンだ。良いゴブリンだ。

 河原に立って、こちらをじっと見ている。昨日と違うところがあるとすれば、彼の腕には小さなゴブリンが抱かれている点か。

 その小さなゴブリンは、ハァハァと息も荒く、酷く弱々しいものとして映る。よく見てみれば、片腕に弓矢が刺さっていた。

 刺さってからそれなりに時間が経っているんだろう。患部はバイ菌が入ったのか、酷く腫れ爛れていた。もう一方の腕と比較して二倍近い太さだ。

「どうしたの、それ」

「イモウト……シニソウ」

「なるほど、妹さんかい」

「……ニンゲン、コレ、ナオシテホシイ」

「いいよいいよ。任せてくれ」

 ちゃちゃっと治す。

 ゴブリンに抱かれたゴブリン妹へ向けて回復魔法を。

 治れ治れと念じる。

 すると、傷口がうずき初めては、肉が異物を外へ追いやるよう、矢を体内から排出。やがて、肉が盛り上がるよう傷口を埋めて、肌を蘇生させる。

 感染を起こして腫れ上がっていた幹部周辺も、これに応じて落ち着きを取り戻す。赤みが失われて、元在った緑色のゴブリン肌となる。

 大凡数秒ばかりの出来事か。

 なんてインスタント。これで良いのか世界と思わないでもない。

「オォ……」

 ゴブリンは感嘆の眼差しに自らの胸の内を見つめる。

 ゴブリン妹は完治した。

「どんなもんだ」

 他人からの貰い物だけどな。

 あのチャラい言動の神様、今頃は何してるんだろう。

「オニイチャン、イタク、ナイヨ……イタク、ナイ……」

「オォ、オォオオオ、ヨカッタ。ヨカッタ……」

 二人はしばらくを見つめ合い、何やらギュッと互いを確認するよう抱擁。

 良かった良かった。

 とても感動的な光景じゃないの。

 こっちとしては碌に実感が沸かないけどさ。

 なんら苦労がないからだろうね。

「……ニンゲン、タスカッタ。アリガトウ」

「まぁ気にするなって、持ちつ持たれつってヤツじゃん」

「ソレデモ、アリガトウ。タスカッタ」

 ゴブリン妹、兄に抱かれたまま、ジッとコッチを見てくる。

 まあ、普通のゴブリンだよ。

 性別の違いすら判断できないのは、種族の違いってやつだろ。

 畜生の雄雌を判断できないのと同じだ。

「んじゃ、俺は仕事があるから、これで」

 薬草を探しに行かねばならない。

 すると、これをゴブリンが引き留めてくれる。

「……キョウモ、ヤクソウカ?」

「おぅ、その通りだよ」

 働かないとご飯が食べられないからな。

 日本に居た頃は、一日や二日働かなくても、会社からお給料を貰えたよ。自分の席に座って、適当にウェブサイト眺めて、技術調査です、とか言っておけば良かった。

 今は背負った革袋が全財産とか、ドキドキとワクワクが止まらないな。もしも回復魔法がなかったら、今頃は発狂してたと思うね。

「ソレナラ、マッテイロ。オレイニ、トッテクル」

「え、ほんとうに?」

「スコシ、カカル。デモ、マッテロ。ドコヘモ、イクナ」

「お、おうとも。そういうことならお言葉に甘えて」

 これは助かる。

 ありがたいお話だ。



◇◆◇



 小一時間ばかり待っただろうか。

 いよいよ飽きてきた頃合、ゴブリンが戻って来た。しかも何やら、大きな革袋を両手に抱いている。傍らには妹さん。こちらも同様に革袋を抱いている。

「お、おぉう、随分と大きい袋じゃないですか」

「コレ、ヤクソウ、ハイッテル」

 ドサリと俺の足下に革袋を下ろす。

 開かれた口を覗くと、中には色々な草がワッサワッサと入っている。

 どんだけだよ。

「まさか、これ全部?」

「モットアル。モウスコシ、マッテル」

「いやいやいや、もういいよ。もういいから」

 っていうか持って帰れない。

「……イイノカ?」

「いいよ。そこまで要らないから。大丈夫。心遣いだけでありがたいから」

「ソウカ……」

 断ると、少し残念そうな顔をする。

 なにこのゴブリン、凄く良いヤツじゃないの。

「ゴブリン、マチマデイケナイ。ココデ、イイカ?」

「おうおう、十分です。ほんとう、ありがとうございますとも」

「イモウト、ナオシテモラッタ、オレイ」

「うんうん。分かってる。大丈夫」

「アリガトウ。トテモ、タスカッタ」

「あーそれと、これは忠告というか、状況報告なんだけど」

「……ホウコク?」

「川の向こうにある街の人間って、ここの森のゴブリンを殺すと誉められるの。だから、この森に居ると大変なのよ。できるなら、他の土地へと移った方が良いと思うよ」

「ソウナノカ? ……オマエモ、オレタチ、コロスノカ?」

「いやいやいや、まさか。アンタは命の恩人だ。そんなことしないし」

「ソウカ……」

「妹さんが大切なら、他へ移った方が良いと思うよ」

「……ワカッタ」

「無理にとは言わないけど」

「ウン」

 なにこのゴブリン、うんとか言っちゃってる。

 とても素直だ。ちょっと可愛い。

「オニイチャン?」

 心配気な顔で俺と兄との顔を交互に眺めるゴブリン妹。

 まあ、ゴブリンだから可愛くないね。ブサイク。

 でもなんか、妹って言う響きは悪くないよ。悪くない。

「ワカッタ、デハ、コノモリカラ、デル」

「それが良いと思うよ」

「……バイバイ」

「おう、ばいばい。もしも機会があったら、また会おう」

「オウ。マタ、アオウ」

 そんな具合、ゴブリン兄妹は森の奥の方へと去って行った。

 大量の薬草を置き土産にして。



◇◆◇



 都合、大きな革袋二つを抱えての帰還。

 往路に必要とした倍の時間を掛けて、街へと帰ってきた。原因は一重に両手の荷物が所以。中身が草なので重くはないけれど、嵩張るものだから大変だった。

 出入り口となる門を越えて、その足で冒険者ギルドへ直行する。

 ギィ、バタン、入店。

 いらっしゃいませの声はない。

「すみません、これ、お願いします」

 ギルドのカウンターにドスンと革袋二つを並べる。

 奥から店員マッチョが出てきて言う。

「……なんだこりゃ」

「薬草だと思いますが……」

 革袋の口を開けて、中身を見せる。

 わっさわっさと大量に収まる草、草、草。

 実に色々な種類があって、正直、何が何だか分からない感じ。

 少なくとも俺には判断がつかない。

「随分とまあ大量に取ってきたな……」

「いろいろありまして」

 マッチョは呆れ顔だ。

 俺が同じ立場でも呆れたと思う。

「まあいい、査定するからそこいらに腰掛けて待ってろ」

「はい」

 指し示された先、カウンターの末席へと腰を落ち着ける。

 時刻は昼を多少ばかり過ぎたくらいか。店内には他に大勢、冒険者だろう強面たちが屯している。年若い十代の少年少女も見られるが、全体からすると二割から三割ほど。主要層は二十代から三十代のマッチョ男、マッチョ女である。

「…………」

 視線を感じる。

 少なからず注目されているような気がする。

 きっとアジア人だからだろう。

 俺だって家の近所のマックで欧米人が買い物してたら、チラ見するもの。

 白人様最高。

「…………」

 おかげで最高に居心地が悪い。

 もしも日本に戻ったら、欧米人をチラ見しないとここに誓おう。

 せめて話しかけてくれたらと思わないでもない。

「……暇だ」

 なにか暇を潰せるものはないかと店内を窺うと、目に入ったのは壁際に設けられた幾つかの掲示板。そこには皮紙がピンに留められて、この世界の文字と思しき記載がツラツラと並んでいる。

「なんて書いてあるんだよ」

 疑問に思ったところで、ふと思いつく。

 こういうときはスキルだ。スキル。

 なんかあるんじゃねぇの。

 思い立ったが吉日。即座に実行するのが私の美徳。

 たしかポイントが一つ余ってた筈だ。

「文字、文字、文字ですよ文字。読んで書いて、文字スキル、文字スキル。文字、文字、文字、文字、文字、文字、文字、なんでもいいから、文字こいっ! そういう感じのっ、頼むからっ……」

 ブツブツと念仏でも唱えるよう唸ってみる。

 するとどうしたことか、ビクンと心に響く不思議な感触。

 得体の知れない確信感。

 脳内にリンゴンリンゴン鐘の音の鳴り響くような感触。

「……おう、ゾクっときた」

 間違いない。

パッシブ:
 魔力回復:LvMax
 魔力効率:LvMax
 言語知識:Lv1

アクティブ:
 回復魔法:LvMax
 火炎魔法:Lv1

残りスキルポイント:0


 ほらみろ、やったぞ、ちくしょうめが。

 スキルと確認して即座、視線は壁際の掲示板へ。

「……おうふ、スゲェ。普通に読めるって訳よ」

 板上に記載されるあれやこれやが読める。これまでチンプンカンプンだった文字の並びが、意味と伴い頭の中に入ってくる快感。

 うれしい。

 凄く便利。

 注目していた掲示板は、どうやら求人案内のようである。

 人を募集する旨がつらつらと並んでいる。



【パーティーメンバー募集票】
 クラス:後衛|(回復)
 ランク:B以上
 備考:孤高の谷の経験者優遇
 募集元:黒翼龍(パーティー)


【クランメンバー募集票】
 クラス:後衛|(回復)
 ランク:Cから
 備考:特になし
 募集元:暁の団(ギルド)

【パーティーメンバー募集票】
 クラス:前衛|(騎士)
 ランク:B以上
 備考:三色属性防具持ち
 募集元:無限の矛(パーティー)

【パーティーメンバー募集票】
 クラス:後衛|(回復)
 ランク:Eから
 備考:若いパーティーです
 募集元:ホワイトライン

【パーティー募集票】
 クラス:前衛|(剣士)
 ランク:C
 備考:経験十年。属性剣持ち
 名前:レイヤード

【パーティー募集票】
 クラス:前衛(レンジャー)
 ランク:B
 備考:経験十五年。
 名前:ジョン

【パーティーメンバー募集票】
 クラス:後衛|(攻魔)
 ランク:C以上
 備考:とくになし
 募集元:メタルゴブリン(プラチナ)

 云々。

 数にして数十ばかり並んでいる。

 なるほど、こうやって仲間を探す訳だ。

「……回復の募集が多いな」

 募集票の半分くらいは回復役を対象として思える。逆に前衛が余ってるような気配。需要と供給のバランスが取れていないようだ。

 この様子であれば、俺みたいなキモい中年のオッサンでも、相手にして貰える可能性が無きにしも非ず。少なからず期待。

 どうやらパーティー募集、パーティーメンバー募集、共に行えるよう。

 であれば、自分も一筆書いておこう。

 一人より二人、二人より三人。数の暴力は絶対。

 席から立ち上がり、掲示板の元へ向かう。

 用意されていた小さな皮紙へ黒炭っぽい何かでサラサラと。


【パーティー募集票】
 クラス:後衛|(回復)
 ランク:F
 備考:初心者です
 名前:タナカ|(三十代後半)


 これでよし。

 紙を掲示板へ貼り付けて完了。

 恐らく正しい筈だ。

 年齢も書いておいたので、誤発注を受けることもないだろう。

「……戻るか」

 カウンターの下へと戻る。

 それからしばらく、カウンターで寝たふりをキメる。両腕を卓上において、そこへ突っ伏す形。二の腕で両耳をガードすれば完璧。学生時代から社会人生活に至るまで、延々と繰り返してスキルレベルマックスの超絶技巧。

 三十分くらいそうしていたろうか。

 ややあって、店員マッチョから声が掛った。

「おい、待たせたな」

「あ、はい」

 顔を上げると、正面にドン。居る。

 怖いよ。

「色々と入ってたもんだが、全部まとめて銀貨百五枚ってところだ」

「え、マジですか」

「文句があるか?」

「いや、な、ないですけど……」

 日本円に換算して百五万円。とんでも大金。

 想定外の評価格。

「これが代金だ」

「どうも」

 革袋がカウンターの上に乗せられる。

 口を開いてみれば、中には銀色の硬貨がぎっしりと入っていた。

 重い。

「一応、ここで数えてけ。後でいちゃもん付けてきても知らねぇぞ」

「分かりました」

 言われるがままに数える。

 ひーふーみーよー。

 面倒だな。

 数える。数える。数える。

 確かに数は合っている。百五枚。

「確かに頂戴しました」

「ああ、なら持ってけ」

「どうも」

「あと、革袋も返すぜ」

「あ、はい」

 薬草が入っていた革袋二つだ。

 空っぽになったそれが畳まれてカウンターの上に置かれる。

 手にすると青臭い匂いが香った。

「んじゃ、以上だ」

「どうもありがとうございました」

 小さく礼をして、冒険者ギルドを後とした。



◇◆◇



 予期せぬ収入に懐が温かくなった。

「プリウスは無理でもワゴンRならいけるわ」

 百五万円。新車でもいける。社外マフラーに豪華絢爛エアロを付けても余裕。運転席の前の部分に白いモフモフを乗せたり、ハンドルをやたらと太くしたりもできる。何だって出来ちゃう感が迸る。

 充実の財布。嬉しい。

 故に思い立った先は風俗。

 ソープランド。

 セックス。

 異世界セックス。

 ファンタジーバージョン。

 これだけの余裕があれば、一晩程度なら問題ないだろう。相場こそ知れないが、どれだけ高くても、銀貨十枚ほどあれば相応に楽しめると思う。

 日本円換算で十万円。

 吉原の高級店であっても、二時間は遊べる。

 しかしながら、その資金の出所を思い出すと、どうにも二の足を踏んでしまう。申し訳なさが先に立つ。遊びに行っても、恐らく楽しめない予感。

 ゴブリン兄妹の姿が思い起こされて、切ない気分。センチメンタル。

「…………」

 何の為に回復魔法を神様に貰ったのか。

 一重に風俗を楽しむ為だ。

 異世界風俗でハッスルする為だ。

 性病に倒れず、末永くソープランドする為だ。

 日本にエイズが上陸し、患者第一号が厚生省より発表されたのが、1985年3月22日のこと。以後、日本でのセックスにはエイズという致死性の病が付きまとうこととなり、その患者数は毎年上昇傾向にある。

 心の底から風俗を楽しむ、それは過去の遊戯となり、この波に飲み込まれた俺もまた、エイズへの恐怖から現在まで童貞を貫いている。素人童貞は致し方なし。ただ、それでもせめて玄人童貞くらいは、心置きなく捨て去りたいところ。

 故に私は神様から回復魔法を頂戴した。エイズの心配がないセックスを、何の憂いもない粘膜接触を、この肉体で体験する為に。それはきっとオナホでは味わえない充実感を与えてくれるだろう。期待は日々うなぎ登り。

 ただ、ちょっと今回は資金の出所がよろしくない。

「……このお金は真っ当に使おうか」

 仕方なし、歩みは他へと向かった。



◇◆◇



 訪れた先は武器屋。以前にお金が足りなくて諦めた店。

「すみません」

「なんだ、またお前か。冷やかしなら帰れ」

「いや、今度はお金を持って参りましたので」

「……ほぅ」

「銀貨五十枚くらいで、自分に合ったヤツを見繕って貰えませんか」

「よくまあ昨日の今日でそれだけ集めてきたもんだ」

「色々とありまして」

 愛想笑いを浮かべながら、カウンター越し、店員のドワーフに接近。

 強面の頑固オヤジ然とした彼は、けれど、身の丈一メートル程度の小人。

 思えば彼のゴブリンも同じくらいの背丈だった。

「お前、剣は扱えるのか?」

「無理です」

「なら何が使える?」

「逆に質問なんですが、どの武器が素人に向いてますか?」

「……護身用に一本欲しいってとこか」

「はい、そんな感じです」

「分かった。ちょっと待ってろ」

「すみません、お願いします」

 二、三ばかり言葉を交わしたところで、要領を得たとばかり、店員はカウンターの奥へと引っ込んでいった。恐らくは在庫を確認しに向かってくれたのだろう。

 待つことしばらく。

 数分ばかり経った頃合で、彼は戻ってきた。

「コイツでいいだろう」

「……なんか普通ですね」

 ドワーフの手には一本の剣。

「そりゃ普通のショートソードだからな」

「なるほど」

 ショートソードらしい。

 ショートとは言っても、八十センチくらいある。包丁以上の刃物を扱った経験のない、ごく一般的な社畜野郎からすれば、十分な脅威だ。

 ドンと目の前に置かれて、なにこれどうするの、ちょっとビビるよ。

「これって鉄ですか? それとも鋼とか?」

「鉄? なんだそりゃ」

「いや、原材料ですけど」

「コイツはドルツの鉱山で取れたデニス鉱を使って、俺が打ったもんだ」

「……なるほど」

 なにそれ知らない。どういう鉱物だよ。

 まあいいや、何で出来ていようと剣は剣だ。

「ちなみにお幾らで?」

「銀貨二十枚だ」

「意外とお安いですね」

 店内に眺める値札と比較しては、かなりお手頃感がある。

 やはり人目に付くところには、意図して高い品を置いているんだろうか。

 だが、そんな俺の感想にドワーフは渋い顔。

「……嫌みか?」

「え?」

 続けられたのは予期せぬ提案。

「分かったよ。十五枚だ」

「ど、ども」

 なんか値引いてくれた。嬉しいじゃん。

 訳の分からないところで勘違いしたっぽい。

 俺ナイス。

「じゃあ、それください」

「腰に巻くなら鞘とベルトが合わせて銀貨一枚だ。どうする?」

「あ、お願いします」

「あいよ」

 淡々と買い物終了。

 銀貨を支払い商品を受け渡しする。

 ベルトは腰に巻いて、そこへ鞘に収まる剣を差せば、いっちょ上がり。

 意外と重くて、少しよろけた。

「……似合わねぇなぁ」

「自分でも理解しているんで」

 きっと使えない。っていうか、絶対に使えない。

 とは言え、無いよりあった方が良い。こういうのは持ってることに意味がある。抑止力ってヤツだよ。冷戦ってヤツだよ。核兵器ってヤツだよ。ソ連崩壊ってやつだよ。それにもしかしたら、万が一にも本当に役立つ日が来るかも知れない。

「ども、それじゃあ」

「刃こぼれしたらもってこい。銀貨一枚で直してやる」

「あ、はい。分かりました」

 メンテナンスにもお金が必要なのね。

 しかも意外と高いし。

 現代日本で自動車の維持費が高いのと同じようなもの、だと思えば納得だろうか? いやいや、それでもやっぱり高いよな。ただの鉄の板なのに。そう考えると、ちょっと買ったことを後悔か。なるたけ使わない方向で行こう。

 下手に扱ったら、直ぐにでも刃こぼれしそうだし。



◇◆◇



 さて、剣を買った。なら次は防具だ。

 今は申し訳程度の服しか着てない。実に冒険者っぽくない。いわゆる布の服ってやつ。そこいらを歩いている町民のスタイル。それ以上でもそれ以下でもない。

 今後、冒険的な何かを続けていくのなら、ここは一つ革の鎧くらい手に入れておきたい。ただでさえキモい中年なので、その辺はしっかりしておくべきだろう。

 中身の貧相さはオシャレでカバー。それが女子力。

 ということで、防具屋へ到着だ。

 ついでに言うと、こっちの店員もドワーフだ。

 カウンターの先に店員を見つけて、一直線に向かい声を掛ける。

「すみません、鎧とか靴とか盾とか、一式で下さい」

「一式?」

「はい、一式で下さい。冒険者セット的なのお願いします」

「……予算は?」

「銀貨二十枚くらいまでで」

「あいよ」

 こっちのドワーフもぶっきらぼうだ。

 口数も少なく、例によってカウンターの奥へと引っ込んでいった。

 これまた数分ばかり待つと、両手に色々と抱えて戻ってくる。

「……これでどうだ」

「おぉ、すげぇ」

 本当に一式出てきた。

 鎧とブーツと盾と、あとズボンっぽいの。

 盾が思った以上にデカイ。

「一応、未使用品だ。それなりに綺麗だろう」

「ですね」

 中古が出てくるかもと思ったので、これは行幸。一応、なんて断りが入ったあたり、銀貨二十枚で一セットというのが、中古と新品の境界にあるんだろう。

「どうだ?」

「じゃあ、それ下さい」

「あいよ」

 速攻で購入を決める。そも防具の価値を見定める目なんてないので、相手が薦めてくれた品を信じる他にない。信じているよドワーフさん。

 だからと言うか、やり取りは酷く味気ないものだ。

 まあ、オッサンな強面ドワーフとの会話など、面白味があるものでもない。なんら問題ない。効率的で大変によろしい。

 支払後、試着の上でサイズと着脱感を確認。

 幸か不幸か手直しが不要とのことで、そのままお持ち帰りが可能だった。どうやら俺の身の丈はこの世界で平均的なところにあるらしい。

「ども」

「痛んだりしたら持ってこい。具合にもよるが修理してやる」

「わかりました」

 強面に見送られて、防具屋にさようなら。



◇◆◇



 都合、武器と防具が一式揃った。

 革の鎧、皮の盾、皮のブーツ、何とかっていう金属で作られた剣。どうしたもんだ。完璧じゃないか。序盤のシリーズ装備を一つ揃えた感じ。ちょっとした充実感が、なんかこう、とても綺麗な形でじんわりと胸を満たす。

「やばい、冒険に出掛けられそう」

 街の大通りを歩みながら、一人で胸を躍らせる。

 年甲斐もなくドキドキでワクワクだ。

 中年戦士俺。

 更に言えば、お財布には未だ銀貨が七十七枚も残っている。近隣の宿代が一泊銅貨数十枚なので、当面は生活に困らない。食事代を合わせても二、三ヶ月は十分に生活していけるだけの余裕がある。

 ゴブリン様々だ。

「無事に疎開できてるといいんだけどな……」

 願わずには居られないな。

 なんて、哀愁と共に空を見上げれば、茜色。

 良い感じに日が暮れ始めていた。

「ご飯にしようか」

 通りをフラフラと歩んでは、適当に良さげな店を見つけて入店。オススメの肉料理と、オススメのお酒を注文して、一人で乾杯。

 当然、昨日とは別の店だ。

 料理はそこそこ。お酒もそこそこ。悪くない感じの夕食。

 本日はこれ以上を何事もなく過ぎて、宿に戻り就寝とした。

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