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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫

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暗黒大陸 五


 少しばかり歩いたところで、開けた場所に辿り着いた。

「っ……」

「これは不味いですね」

 想定はドンピシャだった。グリーンシルフの群れをモンスターが蹂躙していた。どのようなモンスターかと言えば、大きなドラゴンだ。翼を広げて空に浮かんだ体躯の下に入れば、そこは分厚い雲にでも覆われたよう陰りが差す。

 同所は太い樹木の密集する界隈だ。恐らくはシルフたちの手により刳り抜かれただろう樹洞が、そこらかしこに見て取れる。時折、その内側からスージーの顔を覗かせる様子が窺える。恐らくは彼女たちの家なのだろう。まるでフクロウのような生態だ。

 規模感は数百平米ばかり。そんなグリーンシルフの里と思しき集落から、現在進行形で火の手が上がっている。流石は木造建築だ。よく燃える。焼きだされたシルフたちが、あっちへ飛んだり、こっちへ飛んだり。

「ドラゴンだー!」「ドラゴンがきたー!」「ドラゴンこわいっ、ドラゴンこわいっ」「焼けちゃうよ、みんな焼けちゃうよ」「おうちが焼けちゃうよぉ」「ごはんも焼けちゃうよぉ」「みんなみんな、やけちゃうよぉ」「にげろぉー、にげろぉー」「あついよぉ、あついよぉ」「しんじゃうよぉ、あつくてしんじゃうよぉ」「ドラゴンこわいよぉ」

 忙しなくする様子は、巣から煙に炙りだされた蜂のよう。ただ、蜂ほどの勇猛さは備えているように思えない。グリーンシルフは逃げるばかり。火の放たれた木々の合間を慌ただしく飛び回っている。

 空に浮かんだドラゴンの吐き散らす炎によって、一匹、また一匹と、無残にも焼かれては地に落ちてゆく。つい今し方に殺されかけたばかりながら、こうして眺めていると、些か不憫な気がしないでもない。

『ぐぉおおおおおおおおおおおお!』

 ドラゴンが吠えた。

 グァバと開かれた口の奥から、今まさに炎の迫り上がる様子が窺える。

 エルフの羽を採集するにはもってこいの状況だ。文字通り火事場泥棒へ至る絶好の機会である。焼け焦げて地に倒れた彼女らの背中から羽をもぐことは、そう大した作業ではない。ドラゴンの炎もストーンウォールがあれば、ある程度はやり過ごせるだろう。

 しかしながら、流石にこれは放りおけまい。

 だって見た目可愛らしいグリーンシルフ一同だから。

 常に全裸な彼女らだから。

 それにここで頑張って彼女らの味方をしたのなら、非常に低い確率ではあるが、この醤油顔に惚れてくれる個体が発生するかも知れない。そしたらどうだ、夢にまで見たモバイル下半身装備が手に入るかも知れないぞ。

 騎乗位ヒギィしてくれる妖精さんと共に生涯をボコォし続けたい。

「行きますっ!」

 短く断りの言葉を入れたところで、ドラゴンに向き直る。

 前衛だの後衛だの言ってる場合じゃないんだぜ。

「あっ、少し待つっ……」

 ゴッゴルちゃんの声が肩越しに聞こえたけれど気にしない。

 状況は一刻を争う。

 兎にも角にもファイアボールだ。

 ドラゴン目掛けてファイアボールだ。

「ファイアボールっ!」

 幸い相手はこちらの存在に気づいていない。

 なにが目的なのか、適度に炎を吐き散らしながら、グリーンシルフの集落を蹂躙してゆくドラゴン。心なしか火の手は集落を囲うように広がって思える。逃げ惑う彼女らは炎に煽られて、自然とその中央に集まってゆく形だろうか。

 これはあれだ。一ヶ所に集めて、一息にいただく算段なのだろう。

 まさか、やらせてはなるものか。

 せっかくこちらが一方的に敵を補足している状況だ。不意を打つ形で、大量の火球をドラゴン目掛けて放つ。木々の合間に身を隠したまま、相手に見つからないよう、木陰から渾身のファイアボールである。

『っ!?』

 相手が気づいた時には、既に幾十という炎の塊が目前まで迫っている。

 相変わらずの豪速球。

 ズドン、ズドドン、景気の良い音が鳴り響く。近い場所に耳とする打ち上げ花火の炸裂音より、尚のこと大きくて、大気越しに腹の中側までビリビリと震わせるほど。更に爆風が届いては衣服を激しくはためかせる。

 これを受けてはドラゴンも少なからず動じて思えた。

『ぐぉおおおおおおおおおおおおおおお』

 先程とは異なった音の咆哮が上がる。

 同時に大きく翼が動いた。

 数回ばかりバタついたところで、その巨漢は大きく空に浮かび上がる。数十メートルを上昇して、空より集落を見下ろす形だ。青空の下、あまりにも大きな姿は、いつかのドラゴン退治や一昨日のトレインを思い起こす。

「くっ……」

 すわ反撃に移るかと身構える。

 いつでもストーンウォールを行使できるようスタンバイ。

 同時にステータスを確認するべく意識を定める。

 しかしながら、余程のことファイアボールが堪えたのだろう。敵は身体の具合を確認する間もなく、早々に反転して、同所より飛び去っていった。しばらく待っても戻る様子はないので、どうやら逃げ出したようだと判断だろうか。

 こちらの姿を確認すること叶わず、一方的に攻撃された点も影響して思える。

 フェニックスといい、このドラゴンといい、暗黒大陸の生き物はどいつもこいつも慎重派揃いではないか。その姿にはどこか見覚えがあった。もしかしたら、ヤツもまたトリさんと同様、一昨日のトレインで自分が連れてきた手合かもしれない。

 たしかグレートドラゴンとか、そういう感じのやつが居た筈だ。

 だとすればグリーンシルフには悪いことをした。

 ただ、連中も連中でこちらを殺そうと挑んできた手前、まあ、お互い様ということにして貰いたい。代わりに集落全体を覆うよう、回復魔法など行使しては、せめて無事なシルフたちの介護を行うこととする。

「ヒール!」

 痛いの痛いの飛んでゆけ。

 集落全体を覆うように巨大な魔法陣が浮かび上がった。その輝きに照らされて、地に落ちていたシルフたちの身体が癒えてゆく。

 ただ、流石に焼けてしまった樹木まではどうにもならない。今も尚そこらかしこで火の手が上がっては、炎の立ち上る音が響いては聞こえる。

 放っておいたら結構な火事になりそうだけれど、これどうしようか。

「……本当にドラゴンを追い払った」

 最中、不意に背後から声が掛かった。

 ゴッゴルちゃんだ。

 相変わらず美しくも可愛らしいボイスだぜ。

「相手が慎重な個体で助かりました」

「…………」

 例によってなにを考えているのか、無言でジッとこちらを見つめてくれる。

 褐色肌に重なるサラサラの白銀髪と、その下にチラリ覗くエキゾチックな赤い色の瞳。クリクリとした大きな眼球の、けれど、少しばかり瞼の落ちて、ジト目になりがちな眼差しが、こちらを上目遣いに見つめてくることのなんと威力的なこと。

 なんかこう、心の奥底まで見透かされている感じが堪らない。

「どうかしましたか?」

「……べつに」

「事前の約束に違わず、勝手な行いをすみません」

「結果的には最善だった」

「そう言って貰えると幸いです」

 ゴッゴルちゃんとトーク。

 そうこうしていると、散り散りとなっていたグリーンシルフたちが、我々の下に集まってきた。会話の声に気を引かれてのことだろう。一匹、また一匹と数を増やしてゆく様子は少なからず緊張である。

「平たい黄色だ」「平たい黄色がいる」「ゴッゴルもいる」「平たい黄色とゴッゴルがいる」「平たい黄色がゴッゴルと一緒だ」「ゴッゴルと平たい黄色がやってきた」「ゴッゴルこわい、ゴッゴルこわい」「さっきみた。平たい黄色がドラゴン追い払った」「平たい黄色がドラゴン追い払った?」

 あれこれと言葉が重ねられて、すぐに賑やかとなる。

「平たい黄色がどうしているの?」「ゴッゴルこわい、ゴッゴルこわい」「平たい黄色はゴッゴルとなかよし?」「平たい黄色、つよい」「平たい黄色がドラゴンおいはらった」「平たい黄色がファイアボールした」「平たい黄色、よわくないの?」「ゴッゴルこわい、ゴッゴルあぶない」「平たい黄色、ほんとうは強い?」「平たい黄色、こわい?」「平たい黄色、人間なのにこわい?」

 なんて姦しい生き物だろう。

 クスクスと笑われないだけ、まだマシだろうけれど。

 そうしたやり取りの最中、数多浮いているシルフの一匹が、手を伸ばせば触れられる距離まで、フヨフヨと飛んできた。ちょうどこちらの臍ほどの高さである。一度は殺されかけた手前、心中穏やかでない距離感だろう。

 自然と身構えてしまう。

 対して、相手はジッと上目遣いにこちらを見つめて、問う。

「平たい黄色、シルフに優しい?」

 ズキュンときた。

 なんて可愛いヤツだろうこんちくしょう。

 全身から迸る小動物感が否応なく保護欲を誘ってくれる。一方で彼女を左手に装備して、右手でマウスをカチカチとやりながら、激しく上下に振りたい気持ちにも駆られる。二つの背反した気持ちが、心の内側で葛藤する感覚が極めてエクスタシー。

 オープンスージーで倍ドン。

 同個体の言葉を耳としたところで、他のシルフたちもまた、揃って我々を見つめてくれる。気づけば三桁近い群れの誰も彼もが、一様に自分とゴッゴルちゃんに注目していた。期待の眼差しというやつだろう。

 ならばこれに答えてやるのは吝かでない。

「平たい黄色はシルフにとても優しいです」

 もう平たい黄色でいいよ。オーケーだわ。

 その立派なスージーに免じて了承してやろうじゃないか。

 途端、シルフたちから、再び声が上がり始める。

「平たい黄色はシルフに優しい!」「平たい黄色はシルフに優しい!」「平たい黄色はゴッゴルと一緒!」「ゴッゴルと平たい黄色は一緒?」「シルフに優しい平たい黄色はゴッゴルといっしょ!」「ゴッゴルはシルフに優しい平たい黄色と一緒!」「ゴッゴルはシルフに優しい?」「ゴッゴルはシルフに優しい黄色い平たい?」「平たい黄色はゴッゴル?」「ゴッゴル?」「ゴッゴル?」

 ちょっと良くない感じの混じり方しているけれど、大丈夫だろうか。

 それともこれが彼女たちの興奮の現れか。

 ゴッゴル。ゴッゴル。

 自然とシルフたちの意識が向かう先、そこには問題のゴッゴルちゃん。

「……ゴッゴルはシルフにやさしい」

 すると空気を読んで、コクリ、頷いてくれる心優しき褐色ロリータ

 途端、ぱぁとシルフたちの顔に笑みが浮かんだ。

「平たい黄色とゴッゴルはシルフに優しい!」「平たい黄色とゴッゴルはシルフの友達!」「平たい黄色とゴッゴルはシルフと一緒!」「平たい黄色、いい人間!」「ゴッゴルは良いゴッゴル」「平たい黄色、ひとりぼっち?」「平たい黄色とゴッゴルは一緒!」

「平たい黄色が一緒!」「平たい黄色と一緒のゴッゴルっ!」「ゴッゴルだいじょうぶ?」「ゴッゴルへいき?」「ゴッゴルたぶん大丈夫」「ゴッゴルたぶんへいき」「平たい黄色、シルフに優しい!」「平たい黄色が一緒、だいじょうぶ!」

 例によって超高速多数決だ。

 結果、どうやら平たい黄色はグリーンシルフの味方判定を受けたよう。

 これに準じる形でゴッゴルちゃんも大丈夫認定だ。

 良かった良かった。

「どうやら今度は攻撃されずに済みそうです」

「……そうだね」

 こちらもまた互いに頷きあったところで人心地だろうか。

 しかしながら、ドラゴンの炎により燃え上がった界隈は、今も火の手が上がっている。そこらかしこが燃えているおかげで、随分と気温も上昇して思える。こうして立っているだけでも、額に汗が浮かんでくるほどだ。

 当然、シルフたちも穏やかではない。

 当面の危機が去ったところで、その意識は自然と自分たちの集落に向かう。

「おうち燃えてる、おうち燃えてる」「火がボーボー」「消さないと、消さないと」「おうちなくなっちゃう」「はやく、はやく」「がんばろう、がんばろう」「がんばって火を消そう」「わたしのおうち、もうなくなっちゃった」「わたしのおうちも燃えちゃった」「放っておいたらぜんぶ燃えちゃう」「火を消そう、火を消そう」

 数多集まった個体のうち、幾らかが率先して空に舞い上がる。その高度は界隈に生えた木々のてっぺんにまで達するほど。今度はなにをするつもりかと、多少の緊張とともに彼女たちの行いを見守る。

 すると、正面に掲げられた小さな両手の先、魔法陣が浮かび上がった。

 放たれたのはいつだかゾフィーちゃんが見せてくれた水芸魔法のよう。

 ただ、幾分か出力を増して思えるそれは、木々の頭から地面に向けて、まるで放水車を思わせる勢いで放たれて、またたくまに炎の勢いを削いでいった。一匹では困難な消火活動も、数が集まればなんとやらである。

 空に掛かった異色の虹を眺めながら、改めてファンタジーを実感だろうか。



◇◆◇



 ドラゴンの炎により燃え上がった界隈が、魔法の水により消火されるには、更に半刻ばかりを要した。火の気が全て失われるに際しては、そこらかしこが水浸しとなり、地面も泥でぐちょぐちょ。

 本来であれば甚く幻想的であったろう妖精さんの園も、こうなっては終わりだ。

「おうち、もえちゃった」「おうち、なくなっちゃった」「おうち、また作らないと」「きょう、どこでおやすみしよう」「もう、ねむい」「ねむい、ねむい」「おうちでねむりたい」「おうち、ないよ」「おうち、なくなっちゃったよ」「でも、ねむい」「おそとでねよう」「おそとでねるよ」「おそとは危ないよ」「おそとはだめだよ」

 呟かれるところはどれも哀れな身の上ばかり。

 そうしたなか不意に響いたのが、とある個体の何気無い一言。

「わたしのおうち、まだのこってる」

「ずるい」「ずるいよ」「ずるいなぁ」「うらやましい」「わたしもおうちほしい」「おうち、おうち」「おうち、とてもたいせつ」「なんで、なんで、なんで」「どうして、わたしのおうちはないの?」「わたしのおうちもないの?」「どうして、どうして?」「ずるい」「ずるいよ」「ずるいなぁ」「ずるい」「ずるい」「ずるい」

「……やっぱり、もうのこってない」

「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」

 多数決の良くないところが全面的に出てしまっているぞ。

 このままだと彼女たちは、民主主義が赴くまま、極めて悲しい結末に向かってゆきそうである。言葉も少なに特定の個体へ視線を集めるシルフたちの挙動は、平素の穏やかにも姦しい姿を目の当たりとした後だと、ちょっとしたホラーである。

 だって真顔なんだよ。

 これっぽっちも笑ってない。

 今まであんなに笑顔だったのに。

 くすくす、くすくす、ってやつはどこ行っちゃったんだよ。

「のこってない。のこってないよ? のこってない……」

「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」

 必至に言い訳を並べるオンリーワン。

 スージーたちが持ち家を巡り、血みどろの争いを開始する未来が、容易に想像される。だって、ここは暗黒大陸。見た目可愛い妖精さんなのだけれど、やはりというか、なんというか、人間とは違う。理性と本能の垣根が、少し低めに作られて思える。

 流石に見ていられない。

 元持ち家の勇者として、これは早急に解決すべき課題だろう。

「あの、私から一つ提案が……」

 自然と提案の声は発せられていた。

 仲間たちから視線を集めていた個体が、我先にと反応する。

「平たい顔がなにかいってるっ!」

 どこか焦って思える表情だ。もしかしたら過去に同じような面倒が起こり、実際に粛正の類が走ったことがあるのかも知れない。そう考えると、この愛らしい生き物が、酷く恐ろしいものに思えてくるから不思議である。

 集団には集団なりの苦労というヤツがあるのだろう。

「平たい黄色がどうしたの?」「平たい黄色がなにするの?」「おうちはどうするの?」「おうちはどうなるの?」「おうちが足りないよ」「おうち、おうち」「おうち、おうち、おうち」「平たい黄色はどこにとまるの?」「平たい黄色をおもてなしできないよ」「平たい黄色も一緒に地面でねむるの?」「いっしょ? いっしょ?」

「流石に野宿は辛いのでしょう。私から皆さんに家をプレゼントします」

「おうち、くれるの?」「おうち? おうち?」「平たい黄色がおうちくれる?」「シルフのおうち、木の上にある」「平たい黄色のおうち、木の上にある?」「木は燃えちゃった」「大きな木、あんまりない」「どうやっておうちつくるの?」「みんなやけちゃった、なにものこってない」「平たい黄色、シルフにうそつくの?」

「いえいえ、嘘じゃありませんよ。流石に元通りとはいきませんが、引越し先が決まるまでの間くらいなら、十分に住める程度のものは想定しています。もちろん、決して無理にとはいいませんけれど」

「おうちくれるの?」「ほんとう?」「おうちほしい!」「おうち、おうち!」「おうちでねむりたい」「おうちでねむるの、たいせつ」「とてもたいせつ、とてもたいせつ」「おうち、だいすき。おうち、ほしい」「平たい黄色、おうち、おうち」「おうち、くれたら、シルフすごくうれしい」「シルフ、とてもうれしい」「シルフ、しあわせ」

 素晴らしい食いつきだ。

 やはり、持ち家とは素晴らしいものだ。このグリーンシルフとやら、なかなか分かっているではないか。種族を違えても、お互いに理解し合える合えるこの感じ、かなり嫌いじゃないぞ。

「代わりに、先の火事で亡くなってしまった皆さんの仲間から、羽を少し分けて貰うことは可能でしょうか? そう多くは必要ありません。ほんの数枚ばかり頂戴できれば、私としては十分なのですが」

「だいじょうぶ!」「おうちくれるならいいよ」「もってって!」「どうぞ、どうぞ、どうぞ」「おすきなだけ」「ぜんぶもっていってもいいよ!」「おうちくれるなら、とりほうだい」「シルフ、うそつかない」「シルフ、ちゃんと約束まもる」「だから、おうち、おうちほしい」「おうちほしい」「おうち、ちょうだい」「おうち、おうち」

 よっしゃ、交渉成立だ。

 夢にまで見た若返りの秘薬。

 その材料が手を伸ばせば届くところまできたぞ。

「そういうことであれば、分かりました。お家を建てさせて貰いますね」

 こちとら伊達にラジウス平原で街一つ作っていない。その過程で得たストーンウォールによる建築技術は大したものだ。人間向けの家屋と比較すると、些かサイズ的な違いがあるけれど、その点さえクリアすれば他は同じようなもの。

 ここは一つ、サクッと作ってしまおうではないか。



◇◆◇



 作業着手から数時間ほどで、シルフたちのおうちは完成した。

 一つであればそれほど時間を要することはなかった。しかしながら、家屋を望む声が三桁を越えた都合、その全てを作り終えるには相応の時間を要する運びとなった。一件あたり数分の施工であっても、百を超えれば自ずと日もくれる

 おかげで全てを作り終える頃には、辺りは真っ暗となっていた。

「……凄い魔力。人間とは思えない」

 すぐ傍らに立って、ゴッゴルちゃんが呟いた。

 彼女の見つめる先には、今し方に建造を終えたばかりの家屋が並ぶ。デザインは酷く単純なもので、早い話が鳥の巣箱である。これをポストよろしく、三メートルから五メートルほどの高さで設けた、支柱となる柱の上に一つ一つ、個別に取り付けている。

 場所はドラゴンの炎によって焼け開けてしまった集落跡地から、少しばかり北に移って、鬱蒼と樹木の茂る界隈だ。空から補足されやすい場所が危険であることは、先日までの冒険で理解していた。

 ちょっとやそっとでは燃えるとも思えない。一昨日にはフェニックスの放つ炎にも耐えてみせた代物だ、しかし、だからといって堂々と配置するのも馬鹿な話だろう。郷に入りては郷に従え。ひっそりと森に隠すよう配置した。

 そういった理由から、妖精さんのポストは木々の合間に並んでいる。

「平たい黄色、すごい!」「すごい! すごい!」「平たい黄色、おうちつくった」「おうちつくった! おうちつくった!」「あたらしいおうち、かわいい!」「あたらしいおうち、かっこいい!」「あたらしいおうち、床が平たい!」「平たい黄色のおうち、平たい!」「平たい! 平たい!」「平たい!」「平たい!」

 あまり褒められている気がしないのは気のせいだろう。

 その顔に笑顔を浮かべて、あれこれと騒いでくれるシルフたち。どうやら満足してくれたようで、あぁ、なによりだ。既に巣穴に入って、満面の笑み共に、穴の向こう側から顔を覗かせる姿もちらほら。

 街を作った時とはまた異なった充足感が胸を満たす。

 やはりこういったクリエイティブなお仕事は良いものだ。

 貴族のお付き合いに精神をすり減らしているよりなんぼか楽しい。

「満足していただけたようでなによりです」

 自然とこちらも笑顔となる。

 そんな自らのものと、一匹のシルフがフヨフヨと飛んできた。よくよく見てみれば、自宅が無事であることをカミングアウトして直後、早々に仲間内から嫉妬を受けて、槍玉に挙がってしまった個体である。

 もちろん、彼女の分もちゃんと作った筈だ。

 あれこれと疑問を浮かべていると、彼女はその手を正面に差し出した。

 掲げられた手には、なにやら薄緑色いモノが乗っている。

「もしかして、これは……」

「シルフの羽、とってきた。これ、平たい黄色にあげる」

「なんと、これはどうも。わざわざありがとうございます」

 どうやら約束の品を取ってきてくれたよう。

 彼女からすれば同胞の死体を剥ぐに等しい行いである。余程のことお家のプレゼントを喜んでくれたのか、あるいはシルフにとって、同胞の遺体とはその程度の位置づけなのか、詳しいところは知れない。

 ただ、いずれにせよ今は素直に感謝して、貰い受けるといたしましょう。

「もらって、もらって」

「ありがたく頂戴しますね」

 小さい手から羽を受け取る。

 ブサメンはグリーンシルフの羽を手に入れた。

 やったぞ。

 若返りの秘薬に一歩近づいてしまった。

 羽を受け取る際、自らの指が彼女の手の平に触れたところで、少なからずドキっとしたのは、墓場まで持ってゆく自分だけの秘密だ。全裸スージーとの肉体的な接触など、滅多でない経験だ。初めてではなかろうか。

 思わず恋してしまいそうになったぞ。

「……良かったね」

「ええ、そうですね。これは貴方のおかげでもあります」

 すぐ隣から、美しくも可愛らしいボイスが届けられる。

 ゴッゴルちゃんだ。

 いいなぁ、ゴッゴルちゃん。

 ゴッゴル、ゴッゴル。

 褐色なお口から覗くピンク色のしたベラを、人差し指と親指でグニグニしたい。きっと唾液でヌルヌルして、生温かくて、心地良いのだろうなと思う。やがて、溢れだしたタップリ唾液を朝の寝ぼけ眼に点眼して日々を覚醒したい。

「……私はなにもしてない」

「貴方がいなかったら、ここまで辿り着く前に終わっていました」

「…………」

 なんというか、導きの幼女以来、普通の女の子と出会った気がする。周りの異性が誰も彼も癖のある人物ばかりであった為、こうした何気無いトークを普通に行える異性の知人が、とても新鮮なものとして映る。

 ずっと、ずっとずっと、ゴッゴルちゃんとお話していたい。

 段々とペニー帝国に帰りたくなくなってきたぞ。

「ですので、貴方のおかげでもあります。ありがとうございます」

「……べつに」

 照れてしまったのか、ぷいとそっぽを向くゴッゴルちゃん。

 やはりこれはあれか、モテ期か、ハーレム期か。

 どうやら我が身にも訪れてしまったようだな、伝説のハッスルタイムが。

 ゴッゴルちゃんに生中出ししたい。

「…………」

「…………」

 こちらが黙ると、自然と会話の失われる二人。

 そんな言葉数の少ないクールなところも大好きさ。

 そっぽを向いたゴッゴルちゃんを視姦すること如し。

 そうこうしていると、グリーンシルフの側から声が掛かった。

「平たい黄色におれいする」「シルフ、れいせつあるいきもの」「シルフ、れいぎただしい」「ドラゴンから助けてもらった」「おうちももらった」「シルフ、かんしゃしてる」「とてもとてもうれしかった」「おれいする」「おれいする、おれいする」「シルフは平たい黄色におれいする」

「平たい黄色におれいする」「おれい、おれい」「平たい黄色は人間」「人間のおれい」「人間におれい」「おれいはなに?」「人間はなにがうれしい?」「おれいはなんだろう?」「おれいは? おれいは?」「平たい黄色がうれしいの」「平たい黄色はなにをもらったらうれしい?」「人間がうれしいものってなに?」

 どうやらなにかくれるよう。

 けれど、こちらとしては羽を頂戴できた時点で十分だ。

 更にスージーまで時間無制限で拝ませて頂いており恐悦至極。

 それで尚も申し出て貰えるのであれば、お仲間を一匹ばかり、旅のお供に頂戴したいと切に思う。これだけ沢山いるんだから、一匹くらいパクったところでバレないんじゃなかろうか、なんて。

「…………」

 いやいやいや、連れて帰ったら速攻でバレるだろ。

 貰うものも貰ったことだし、さっさとお別れするとしよう。

「グリーンシルフの皆さんのお心遣い、とても嬉しいです。ただ、魅力的なご提案を頂戴したところ申し訳ありませんが、そろそろ私は失礼しますね。他に色々とやることがありまして、あまり長く留まっている訳にはいかな……」

 締めの挨拶へと至るべく、口を開いた頃合だった。

 とても近いところで、大きな炸裂音がズドンと鳴った。

「っ……」

 咄嗟、続くところも失われて、自然と身構える。

 これは自身の隣でゴッゴルちゃんもまた同様だ。

 シルフたちもなにごとかと騒ぎ始める。

「おっきい音がなった!」「音なった! 音なった!」「なんの音?」「これはなんの音だろう?」「むこうの方があかるい」「あかるい! あかるい!」「夜なのにあかるい!」「夜なのにどうしてあかるいの?」「あかり! あかり!」「なんのあかり?」「どうしてあかり?」「あかりはどうして?」

「もえてる! もえてる!」「もえてるよ! 木がもえてる!」「消したはずなのに、どうして? どうして?」「どうして、もえてるの?」「火がついたから! 火がついたから!」「どうして火がついたの?」「火をつけられたから! 火をつけられたから!」「誰が火をつけたの?」「あっ……」

 我々の見つめる先、木々の合間に巨大な体躯が写った。

「「「「「ドラゴンだっ!」」」」」

 グリーンシルフたちが叫んだとおり、空にはドラゴンの姿があった。

 それも見覚えのある姿だ。

 たぶん先程と同じ個体だ。

 日中帯、彼女らの集落に強襲を掛けた手合で間違いあるまい。

「リベンジに来たようですね……」

 暗黒大陸の生き物にしては、なかなか根性があるじゃないか。

 流石はドラゴン。いつぞやのトリさんとは一味違う。

 恐らくは復讐に訪れたところで、当の集落がスッカラカンであるから、憤りを感じているのだろう。方向性を伴わない、吹き荒れる炎の行方を思えば、自然と推察もつく。なんて自己中なドラゴンだろう。

 このまま放りおいては、せっかく建てた妖精さんたちのお家まで、再び炎の只中へと包まれてしまう。それだけは絶対に避けなければならない。同じ持ち家に思いを寄せる同士として、これを救うことは吝かでない。

「皆さんは下がっていてください。私がなんとかします」

 ドラゴンの側に向けて一歩を踏み出す。

 するとこれに応じて、ゴッゴルちゃんから声が掛かった

「ちょっと待って」

「待っている余裕はありません」

「相手はエンシェントドラゴン。今回も先ほどのように上手くいくとは限らない。慎重に動いた方がいい。私が前衛を勤める。貴方は後衛として動く」

「……エンシェントドラゴン、ですか?」

 マジかよ。

 ロリゴンのお仲間か。

 流石にそう言われると、ちょっと一歩が引けてしまうな。

「ですが、それでは貴方に危険が及びます」

 その口上が示すとおり、ゴッゴルちゃんは結構強かった気がする。

 しかしエンシェントドラゴンは別格だ。

 レベル的に考えても、数倍の格差が存在する強敵である。

 あぁ、そうだ。

 なにはともあれ、相手のステータスを確認するべきだろう。

 同じエンシェントドラゴンでも、それなりに幅はあるだろうから。



名前:クリスティーナ
性別:女
種族:エンシェントドラゴン
レベル:2999
ジョブ:町長
HP:10950000/10950000
MP:7900000/9900000
STR:1837504
VIT:757402
DEX:922994
AGI:2304000
INT:878030
LUC:23329



 マジかよ。

 ロリゴンみたいというか、ロリゴン本人だよ。

 ジョブが町長である点からも間違いない。

 どおりで見覚えがあると思ったわけだ。一昨日のトレインじゃなくて、それ以前のウォッチだった訳だ。思えばここ最近、ロリロリな姿しか見ていなかったから、完全に本来の姿を忘れていたぞ。

 っていうか、魔導貴族を首都カリスに送っていった筈のヤツが、どうして暗黒大陸くんだりに姿を現すのか、まるで経緯が理解できない。もしかして、里帰りの最中だったりするのだろうか。

 ロリゴンの家族とか、ちょっと会いたくないな。

「…………」

「…………」

 まあいい、今は森林保全を優先しよう。

 相手はこちらの存在に気づいた様子がない。

 放っておいたら、ヤツのことだ、全てを焼きつくしてしまうだろう。暗黒大陸全体からすれば、微々たる森林火災であるけれど、新生グリーンシルフの集落的には致命的である。まさかやらせてなるものか。

「あの、すみません」

「なに?」

「ここは一つ、私に任せては貰えませんか?」

 まさかゴッゴルちゃんをロリゴンにぶつける訳にはいかない。

 なので、ご相談。

 相手が件のラブリードラゴンであれば、対応はどうとでもなる。

「まかせたら、どうなるの?」

「詳しい事情は後でご説明いたします。ただ、絶対に悪いようにはなりません」

 ジッとその瞳を見つめてのお話だ。

 これ以上の被害は確実に抑えてみせる。

 すると、こちらの誠意が通じたのだろう。

「……分かった」

「ありがとうございます」

 存外のこと素直に頷いてくれたゴッゴルちゃん。

 彼女に先んじること、ドラゴンに向かって、いざ飛行魔法だ。



◇◆◇



 木々の合間より飛び立ち、ドラゴンの目前に姿を現す。

 すると、即座に相手から顕著な反応が返って来た。

『なっ……』

 ドラゴンスタイルなクリスティーナより驚愕の声が漏れる。

 ロリータモードの彼女とは違い、それだけで轟々と音が立つほど鼻息が吹き荒れる。面前に立つこちらの衣服をパタパタとはためかせる。相変わらず大した出力だ。その眼球一つでこちらの胴体ほどもあるのだから、当然といえば当然の出力ではあるが。

「どうやら気付いていただけたようですね。クリスティーナさん」

『なっ、ど、ど、どど、どうして貴様がこのような場所にいるっ!?』

「それはこちらの台詞ですよ。ファーレンさんの送迎はどうしたのですか?」

 ドラゴンシティで交わした約束は、魔導貴族を首都カリスまで送り届けること。再三に渡り説明を行った上、ロリゴン自身も幾度となく足を運んでいる場所であるから、今回ばかりは流石に大丈夫だと思っていたのだが。

『それはっ、そ、そのっ……』

 途端に慌て始めるロリゴン。

 まさか、魔導貴族を食べてしまったとか、そんなこと言わないよな。

「……クリスティーナさん?」

 少しばかり声色を低くして、厳かな面持ちに問いかける。

 すると、ブルブル、なにやら尻尾の先端が揺れ始めた。

『ちがうっ! べ、べつにちがうぞっ!? なにもしてないっ! わ、わ、わたしはなにもしていないからなっ!? ただ、アイツがっ、あ、アイツがっ……』

 いつになく必至の形相で、要領を得ない発言を繰り返すロリゴン。

 こいつはもしかして、あれか? 道中、或いは首都カリス到着から以後、魔導貴族の童貞力が溢れだした結果、ロリゴンから手痛いカウンターを貰ってしまったとか。結果として目の前のドラゴンは暗黒大陸に里帰り、みたいな。

 ちょっとちょっと、流石にそれは想定外だぞ魔導貴族。

「ファーレンさんはどちらに?」

 試しに問い掛けてみる。

 すると、声は少しばかり離れたところから上がった。

「私はここだ」

 木々の合間より、スゥと人が飛行魔法で浮かび上がってきた。

 なんということだ、同伴じゃないか。

 割と普通に登場してくれるから、ちょっとビビったし。

「ファーレンさん? たしか首都カリスに戻られたのでは……」

 良かった。推測はハズレだ。

 しかしながら、それでは何故に二人が暗黒大陸にいるのだろう。もしかして、魔導貴族の童貞力はエンシェントドラゴンさえも攻略して、今まさに二人はお嫁さんの実家を訪問する最中にあったりするのだろうか。

 手土産にグリーンシルフでも攫っていこう云々。

「貴様も以前に言っていただろう。暗黒大陸がどうのと」

「ええまあ、たしかにお話した覚えがありますね」

 いつだかの首都カリス、魔導貴族おすすめの店でランチをとった際のことだろう。エディタ先生からグリーンシルフというキーワードを頂戴したところで、暗黒大陸に関してあれこれと聞かせて貰ったことを思い起こす。

「貴様に錬金術を教えた件のエルフから、何故に貴様が暗黒大陸に意識を向けているのか、聞く機会があった。そこでグリーンシルフの羽を求めているという話を耳としたのだ」

「なるほど? だとしても、どうして貴方たちが向かうのです」

「先の一件では貴様に色々と借りを作ってしまったからな」

「まさか、それだけのことで?」

「それに私自身も暗黒大陸には未だに興味が尽きない。そこへエンシェントドラゴンの翼は渡りに船であった。これを利用しない手はないと考えたわけだ」

「なるほど」

 理解がいった。

「それにこのドラゴンも、少なからず貴様のことは気に留めていたようだ」

『っ……』

 ぴくり、ロリゴンの尻尾が震えた。

 同時に大きな声が上がる。

『だ、黙れっ! 最初に言い出したのは貴様だろうが! ニンゲンっ! 私は貴様がどうしてもというから、わざわざここまで飛んでやったのではないかっ!』

「ああ、そのとおりだな」

『ぐるるるるるるるるる』

 魔導貴族を威嚇するよう喉を鳴らすクリスティーナ。

 対する魔法オヤジはと言えば、出会って当初と比較しては随分と慣れたもの。涼し気な表情でこれを見つめている。今の魔導貴族はロリゴンに対して無敵な感じある。

 仲良さそうでなによりだ。

 しかし、そういった話になると、ちょっとばかり厄介でもある。

「お二人の心遣い、とても嬉しいです。ありがとうございます」

「気にするな。言ったとおり、私自身の興味も多分に手伝ってのことだ」

『お、オマエに感謝されたところで、なんら嬉しくないなっ!』

 平然と語ってみせる魔導貴族とは対照的。

 強がって見せるロリゴンの尻尾は、左右にゆらゆら。

「ただ、流石にグリーンシルフの集落を焼きつくすのはどうかと思います。物事には際限というものがあるでしょう。焼かれる方の都合も、幾らか考えてあげたところで、バチは当たらないように思いますが」

『っ……』

 ゆらゆら尻尾が、再びビクン、緊張してピンと伸びた。

 ロリータモードと比較しても、尚のこと分かりやすいなロリゴン。

『シルフなど、よ、弱々しい生き物に気遣ってどうするっ』

「そういう貴方も、ファーレンさんに気遣っているではないですか」

『なっ……ぐっ……』

 緊張から驚愕、そして憤怒へと移ろいゆくロリドラゴン。

 外見が大きく変わっても、中身はまるで変化が見られない。

「それと問題の羽なのですが、無事に手に入れることができました。ですから、森を焼くのはこれまでにしていただけたらと。もちろん、こうして私の為に動いてくださったことは、とても嬉しく思っています。クリスティーナさん」

『だっ、だから、べべべ、別に貴様の為にやった訳ではないっ! そこのニンゲンがどうしてもと言うから、私はただここまで運んでやっただけのことだ。それ以上でもそれ以下でも、な、ないんだからなっ!?』

「それでも嬉しいものは嬉しいのですよ」

『っ……』

 再び左右にゆっくりと揺れ始めるロリゴンの尻尾。

 本人は気付いているのだろうか。

 いや、気づいていないだろうな。

 気付いているのであれば、すぐにでも止まるだろう。

 この素敵なメトロノームは。

「ということで、これ以上の炎は勘弁して貰えませんか?」

『……わ、分かった。そこまで言うのであれば、良いだろう』

「ありがとうございます」

 最近、段々とクリスティーナの扱い方に慣れてきた気がする。

 どうやら無事に面倒を収集できそうな気配だった。

 しかしながら、全てが平穏に収束するとは限らない。

 その声たちは、空の一角で向かい合う自分とロリゴン、魔導貴族より下方、木々の合間に集まったグリーンシルフたちより向けられた。

「平たい黄色、ドラゴンといっしょ?」「ドラゴン、平たい黄色といっしょ?」「どうして? どうして?」「どうして平たい黄色、ドラゴンとお話?」「ドラゴン、平たい黄色となかよし?」「どうして? どうして?」「どうしてドラゴン、平たい黄色となかよし?」「平たい黄色、シルフとなかよしじゃない?」

 疑問は当然だろう。

 そして、彼女たちの民主主義は、極めて自然な方向へと流れた。

「平たい黄色、ドラゴンとなかよし」「ドラゴン、平たい黄色といっしょだった」「シルフよりまえから、ドラゴンと平たい黄色、なかよしだった」「平たい黄色、ドラゴンといっしょ」「平たい黄色だけじゃない。ほかにニンゲン、いる」「ドラゴンといっしょに、ニンゲンいる」「ニンゲンとドラゴン、いっしょ」

 疑念が疑念を呼んだところで、誰とも知れない個体が呟いた。

「平たい黄色、シルフの羽がほしいって言ってた」

 その声を耳としたところで、ざわり、シルフたちが沸き立つ。

「平たい黄色、シルフをだました?」「シルフの羽がほしいから、ドラゴンといっしょにきた?」「シルフのおうち、ドラゴンがやいた」「ドラゴン、ニンゲンとなかよし」「ニンゲン、ドラゴンにおねがいした?」「平たい黄色、ドラゴンといっしょにやってきた」「平たい黄色、ドラゴンとなかま」

「シルフと平たい黄色、ともだちじゃなかった」「ドラゴンとニンゲン、ともだち」「ドラゴンと平たい黄色、ともだち」「平たい黄色はドラゴンといっしょ」「シルフのおうち、ドラゴンがやいた」「ドラゴンとニンゲン」「ドラゴンと平たい黄色」「おうち、やかれた」「おうち、やかれた」「おうち、平たい黄色にやかれた」「やかれた、やかれた」

 やっぱりそうなるよな。

 ただ、流石にクリスティーナが怖いのか、以前のように面と向かって攻めてくるようなことはない。ただ、遠巻きにボソボソと、非難の声が上がるばかり。

 個人的にはこっちの方がダメージ大きいぞ。

 決して意図したことではないけれど、結果的に謀った形となってしまった。言い訳を並べることはできるかもしれないが、まさか信じて貰うことは難しいだろう。

 これは胸にグサリだ。

「…………」

 なんと答えたものか。

『ぐるるるる、うるさい連中だ』

 グリーンシルフたちの声の連なりを耳として、ロリゴンが喉を鳴らした。

 応じて彼女たちはピタリ口を閉じると共に、その場で身を強張らせては震え上がる。かと思えば、蜘蛛の子を散らすよう、我先にと逃げ出していく。

「きゃーこわい!」「にげよう! にげよう! ドラゴンからにげよう!」「しんじゃう、またたくさん、しんじゃう!」「はやく! はやく!」「いそがないとたいへん!」「ドラゴンこわい! ドラゴンこわい!」「ニンゲンもこわい! ニンゲンもこわい!」「ゴッゴルもこわい! ゴッゴルもこわい!」「みんなこわい! ぜんぶこわい!」

 なんということだ、せっかく築いたスージーズとの交友関係が、クリスティーナのひと睨みで崩壊してしまった。言い訳を並べる猶予さえ与えられなかった。

 さようならの挨拶すら交わせなかった悲しみ。

「クリスティーナさん……」

『っ……け、けどなっ!?』

「全ては私の勘違いが所以です。彼女らに責はありません」

『ぐぅぬ……貴様はいつもそう、ああだこうだと細かいことを言って……』

 人間とは細かいことにこだわる生き物なのだ。

 そればかりは大目に見て欲しい。

「とはいえ、これ以上はこの場に留まる理由もありません」

 残念なお別れとなってしまい切なさ迸る。だが、そういったこともあるさ。彼女たちの迷惑を考えれば、ここはさっさと引き上げるのが良いだろう。

 なにより空に浮かんだロリゴンの姿は目立つ。

 万が一にもこれに触発されて、他のモンスターが集まってきたりしたら目も当てられない。弱肉強食的に考えれば、大丈夫だとは思うけれど、用心は必要だ。

「ファーレンさん、一度沿岸部の集落に戻りましょう」

「うむ、貴様が言うのであれば、そのようにするとしよう」

「ありがとうございます」

『ぐるるるるるる』

 クリスティーナは甚だ不服そうだけれど、これと言って反論は上がらない。

 恐らくは大丈夫だろう。

 ついでと言ってはなんだけれど、ロリータモードに変身して貰おうか。このまま駐屯地に向かったのなら、十中八九で攻撃を受ける。グリーンシルフの集落では失敗してしまったが、人里では絶対に避けたいところだ。

「クリスティーナさん。すみませんが人の姿になっては貰えませんか?」

『あぁ? な、なんで人の姿にならなければならないんだっ』

「その方が我々も貴方を友として、より身近に感じられるからです」

『っ……』

 尻尾の揺れが大きくなった。

 効果は抜群だ。

 いつぞやスラム街で語らい合ったところが効いているぞ。

「駄目ですか?」

『……いいだろう。貴様の言葉に従ってやる』

 よし、これでなんとか落ち着けそうだ。



◇◆◇



 クリスティーナが小さくなったところで地上へと降りた。

 その姿を目の当たりとしたところで、ゴッゴルちゃんから問い掛けが。

「……それは本当にエンシェントドラゴン?」

 当然の疑問だ。あの馬鹿でかいドラゴンが自身より小さな童女へと変化したのだから、疑問の一つも口にしたくなるだろう。俺だって最初に見たときは凄くびっくりした。事実、先ほどもドラゴンモードな彼女の姿を完全に失念していた。

「ええ、そうですよ」

 素直に頷いて応える。

 すると、彼女の問い掛けに呼応するよう、魔導貴族が口を開いた。

 その視線はゴッゴルちゃんと自分の間で行ったり来たり。

「褐色の肌に白銀色の髪、更にその尻尾は……」

「どうかしましたか? ファーレンさん」

「貴様、ゴッゴル族と行動を共にしていたのか?」

「ご存知ですか? こちらを訪れてから出会いまして、いろいろと親切にして貰った経緯があります。世間ではあれこれと言われているようですが、もしも叶うのであれば、我々と同じように扱っていただけたらと」

 種族的に穢多非人枠の美少女だからな。

 ここはちゃんとアピールしておかないと。

 幸い彼女は魔法に理解があるようだから、魔導貴族が相手なら大丈夫だろう。ヤツは魔法にさえ知見があれば、身分の上下など全く気にしない、懐の広いんだか狭いんだか、判断の難しい男だからな。

 なんて思ったのだけれど、はて、どうしたことか。

 ゴッゴルちゃんを目の当たりとして、あれこれと悩み始める魔導貴族。

「暗黒大陸にゴッゴル族は分布していない筈だが、外からの流入か? だが、あの者たちは人とそう変わらない。この大陸のモンスターの程度を思えば、ゴッゴル族を迎え入れるパーティなど考えられないのだが、珍しい話もあったものだ」

「そうなのですか?」

「たしかにゴッゴル族の能力は非常に有用だ。しかし、この大陸の生き物にいちいち触れて周るのは、あまりにもリスクが大きい。むしろその力は人が大勢居る場所でこそ、真価を発揮するものではないと思うのだが……」

 自問自答モードに入ってしまった魔道貴族。

 なにやら難しい表情でブツブツと呟き始める始末。

 そんな彼の傍ら、ロリゴンが反応を見せた。

『…………』

 なにを語るでもなく、無言のまま、トコトコと歩んで十数メートルばかり。酷く神妙な面持ちで、こちらから距離を取るよう身を引いた。その眼差しはゴッゴルちゃんを油断ならない表情で見つめている。

 非常に彼女らしからぬ反応だ。

「お二人とも、どうかしましたか?」

『……貴様、そいつはハイゴッゴルなんじゃないのか?』

「ハイゴッゴル?」

 そう言えば、彼女のステータスにはそのような記載があった気がする。

 ハイなゴッゴルってなんだよって思わないでもない。

「は、ハイゴッゴルだと!?」

 クリスティーナの呟きを耳として、魔道貴族もまた、我々から距離を取るよう、飛行魔法により身を飛ばした。自然とその足は彼女の傍らに並ぶ形だ。その表情はロリゴン以上に緊張して思える。頬のあたりがピクピクと引き攣っている。

「……ファーレンさん?」

 どうしてしまったというのだ。

 歩み寄るならまだしも、興味の対象から距離を取るなど珍しい。

「以前、暗黒大陸に分布するゴッゴル族が存在すると、なにかの書物に読んだ覚えがある。学園都市の図書館だったか? いいや、違う、たしか大聖国の歴史目録だ。そうだ、たしかそこで読んだのだ。間違いない」

「ファーレンさん、なにか彼女についてご存知なのですか?」

 再三に渡りお尋ね申す。

 だって今の雰囲気、とても良くない。

 それクワガタじゃなくてゴキブリじゃね? って言われた気分。

 もう掴んじゃってるのに。

「今、こちらで出会ったと言ったな? それは本当か?」

「ええ、本当ですよ。ここより少し北に行ったところで」

 愛しい褐色ロリータとの出会いを語る。

 ホームレス丸出しな草敷きの寝床が最高に可愛かった。やはり貧乏な美少女は素晴らしい。童貞的に考えて赤貧クールっ子とか、お嫁さんにしたい女の子ランキングで、常に上位をキープするトップランカーなんだよ。

 しかし、魔導貴族は何が気に入らないのか、渋い顔となる。

「……となれば、この者の言葉通りである可能性が高い」

 この者とはクリスティーナを指してだろう。

 だから、それが分からない。

 そもそもゴッゴルってなんだよ。どこかで聞いたような響きなのだけれど、細かいところが思い出せない。多分、ペニー帝国に到着してからだと思う。ただ、自分もなんのかんので脳内ゴッゴル呼ばわりしていたから、もしかしたら勘違いかも。

 確かにゴッゴルちゃんは強い。しかし、彼女より遥かに強いロリゴンがすぐ隣にいるのだから、わざわざ大仰にも距離を取る必要があるだろうか。ゴッゴルちゃんに失礼ではないか。そういうの良くないと思います。

「ハイゴッゴルでしたか? ええ、確かに彼女はそういった種族だと思います。しかしながら、それがどうかしましたか? 私の知るファーレンさんらしからぬ反応に思えます。貴方がそれほどまでに語ってみせる所以が理解できません」

「……貴様は理解しているのか?」

「おおよその事情は理解しているつもりですが……」

 ゴッゴルちゃんは宿なしホームレス。

 自分はペニー帝国の新米男爵。

 新米男爵が宿なしホームレスを側室に向かえる近い将来が見える。

「なっ……そ、それで尚も、その者を傍らに置こうというのか?」

「なにか問題でもありますか?」

「っ……」

 魔導貴族の顔が驚愕に染まった。

 過去にない驚き具合だ。

 これまでも度々目の当たりとしてきたけれど、今回は凄いぞ。

 どうにも要領を得ないので、問い掛ける先を変えてみる。

「クリスティーナさん」

 名前を呼んでみると、その視線はツィと逸らされて、明後日な方向へ。

 エンシェントドラゴンでさえ動揺せざるを得ない手合なのだろうか。いやいやいや、それはない筈だ。ステータスの上では、ヤツの方が遥かに上である。なによりも自尊心の極めて高いロリゴンが、一度として拳を交えずに回避するなどと。

 何故だ。

 さっぱり分からない。

「どうしたのですか? 二人とも」

 わけが分からない。

 再び問いかけたところ、答えてくれたのは例によって魔道貴族。

「貴様とその者の手前、こういったことを言うのは悪いとは思うが、流石の私も心を読まれていると理解して、平然とはいられない。こうして実際に直面すると、あぁ、やはり存外のこと緊張するものだな」

「……心を読む、ですか? それはどういったことで?」

「まさか、理解していなかったのか?」

「え? いや、理解するしない以前に、状況を把握できておりません。どうしてお二人は我々から距離を取ったのですか? まるで私や彼女が、性質の悪い疫病でも患ってしまったような気分なのですが」

「…………」

『…………』

 こちらが答えたところ、なにやら視線を交わしてみせる魔導貴族とロリゴン。目と目で通じ合っている感じが、とても仲良さそうで、思わず嫉妬してしまいそう。俺もロリゴンと視線で会話したい。

 いや、今はそんなこと考えている場合じゃない。

「すみませんが、ゴッゴルに関して詳しく伺ってもよろしいでしょうか?」

「あ、あぁ、分かった」

 ごほんと小さく咳払いを一つして、魔導貴族は続けた。

「ゴッゴル族は肌の触れた相手の心を読む。そのあたりは貴様も理解することだろう。貴族の間でも謀に利用されているからな。種族としては嫌われる傾向があるものの、需要もまた存在する。故に人里では最低限の地位を得ている」

 なにそれ初耳だし。

 あ、思い出したわ。

 ゴッゴル言ってたの、ゾフィーちゃんのパパだ。

 たしかに今思い起こせば、それっぽい感じの発言だった。

 嘘発見器的な意味合いで。

「なるほど、そうだったのですね」

 良かった。

 あまり濃厚なセクハラしないで良かった。自重してて助かった。より具体的に言えば、ボディータッチせずに過ごしてきて良かった。もう少し遅かったら、おさわりしていたかも知れない。褐色肌の手触りとか凄く気になるもの。ナデナデ上等。

 流石は魔道貴族、良いタイミングで助言をくれるじゃないの。

 ギリギリセーフってやつだろう。

「その程度であれば……」

「ただし、暗黒大陸に住まうハイゴッゴルは触れるに限らない。その視界に収めた生き物の心の内を好きなように読んでしまえるのだ。その射程は古い書物に確認した限りだが、およそ槍の届く範囲ほどだという」

「…………」

「まさか私も、この目に拝む日が来るとは思わなかった。種族としても非常に強力で、百数十年ほど前、好奇心の強い個体が大聖国に入り込み、当時の聖女と、その身辺を引っ掻き回したという話だ。それがかの有名な聖徒反乱の発端となったらしい」

 全然セーフじゃなかった。

 完全にアウトだよ。

 自然と視線が向かった先、そこにはゴッゴルちゃんの姿がある。こちらをジッと上目つかいに見つめているラブリー。手を伸ばせば触れられる距離だ。槍なんて容易に届くだろう。むしろ近すぎて刃の部分を当てるのが大変なほどの距離感である。

 つまり、これは、その、なんだ。

 こんにちは。

「……こんにちは」

 マジか。

 通じちゃった。

 深く通じ合っちゃったよ、ゴッゴルちゃん。

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