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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫

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58/132

暗黒大陸 四

活動報告を更新させて頂きました。
 フェニックスを退治して以後、道中は問題なく進んだ。

 途中で日が暮れてしまった為、キャンプを張って一泊を過ごして後の到着である。最中には幾度かモンスターにも遭遇した。ただ、大半はレッドドラゴンと大差ない脅威であって、人数を揃えた連合パーティーの敵ではなかった。

 自分が手を貸すことも要さず、数十名からなる冒険者達の圧倒的な攻勢は、暗黒大陸の魑魅魍魎を駆逐していった。最初からこうしていれば誰も痛い目を見なかっただろうに、とは思わず喉元まで出かかったところで堪えておいた。

 きっと誰もが感じていることだろう。

 それでも自分や自分と親しい者が危地に陥らない限り、決して不可能なところにある行いであるから、人の世はパーティーなどと銘打って、自分たちの定義する枠組みに群れを作るのである。ロリゴンの極めてシンプルな生き様が、今は少し羨ましい。

 そんなこんなで歩むこと更に半日ほど、我々は遂に到着した。

 壁の下まで。

「間近で見ると、思ったより大きいですね」

「そうだな」

 ダークムチムチと並び立ち、自らの仕事に感嘆を漏らす。

 他の面々はと言えば、学園都市の教授陣を筆頭として、我先に調査へと向かっていった。一連の様子はと言えば、修学旅行の折、東京界隈を訪れて間もない地方の中学生を思い起こさせる光景だろうか。

 すげー。マジすげー。そんな感じ。

 一方で自らの目的はと言えば、壁とは他にある。

「ところで私の目的なのですが、実はこちらの壁とは別にありまして」

「……そうなのか?」

「一緒に向かいますか? それともこちらに残りますか?」

 一応、声くらいは掛けておこうと思った。

 すると彼女は多少ばかりを悩んだところでアンサー。

「悪いが、ここで別れさせて貰いたい」

「分かりました。とても残念ですが、こればかりは仕方がありませんね」

 残念という思いは事実だ。

彼女はとても貴重な存在であった。先頭に立って木々の枝と虫を払ってくれる。それだけでも森に不慣れな現代日本人としては、非常に頼りになる水先案内人。更に一歩を進む都度、左右にムッチムッチと揺れ動くお尻は極上のエネルギー源であった。

 あぁ、残念だ。

「では、私はこれで失礼しますね」

「あ、あぁ……」

 ダークムチムチとバイバイ。

 ソロパーティー編成でグリーンシルフの集落を目指す。

 流石にここまで来てしまえば、一人であっても大丈夫だろう。日が暮れるまでには見つけられると思う。また、仮に本日中に見つからなくても、再びここまで戻ってくれば、誰かしらキャンプを張っている筈だ。しれっと混ぜて貰えば良い。

 我ながら完璧なプランだな。

 大壁の脇から離れて、再び森の中に進む。

 虫の存在に注意を払いながら、少なからず寂しさを覚えながらの進軍だろうか。こうして一人になってみると、今更ながらチャラ男ブラザーズの賑やかさが、妙に恋しく思えるから人の感性とは不思議なものだ。

「…………」

 まあ、付いて来たら付いて来たでウザいと思うのだろうけれど。

 とかなんとか、適当を考えながら歩む。歩む。歩む。黙々と歩む。途中で虫に遭遇してファイアボールすること度々。それでも挫けずに歩む。慣れない森歩きで痛む足に繰り返し回復魔法を掛けながらのこと。

 すると数刻ばかり過ぎた頃合いだろうか、耳に届く音があった。

 どのような音かと言えば、ガサリ、草木の葉が擦れ合う音である。音の聞こえてきた側を眺めれば、背丈の低い植物の葉が揺れている。すわモンスターと遭遇したかと、全身が硬直すると同時、全身が訳の分からない構えを取る。

 応じて向こう側から、何某か生き物が現れた。

「っ……」

 咄嗟、身構える。

 相手も同様にこちらの姿を捉えたところで臨戦態勢。

 よもや戦闘かと場に緊張が走る。

「ムっ……」

「あっ……」

 しかしながら、いざ開戦と覚悟したところで、気付いた。

 相手はゴブリンだった。

 二匹のゴブリンだった。

「……オマエハ、イツカノ、ニンゲン」

「そういう貴方は、いつかのゴブリン……ですよね?」

 相手ゴブリンが構えた剣には見覚えがあった。

 使い古されたボロボロの剣だ。今にも折れてしまいそうな、どこにでもある片手剣。いつぞや首都カリスに新調した、護身用のショートソードを思い起こす。それよりも尚のこと、貧相に思える一振り。最後に見たときより更に傷だらけ。

 ついでに言えば、二匹のゴブリンの、一方がもう一方より少し小さくて、その背後に寄り添うよう立つ姿が、過去の記憶を鮮明に呼び起こした。最初は首都カリス近郊の森で、次はペニー帝国とプッシー共和国の国境で、それぞれ出会った薬草ゴブリンだ。

「……ゴブリン、オボエテル」

「ええ、私も覚えておりますよ」

 一連の気付きは、相手もまた同様であったらしい。

 どちらからともなく自然と構えの姿勢が解かれる。

「ヒサシブリ」

「ええ、久しぶりですね。まさかこのような場所で出会うとは」

 出会い頭、ゴブリンに久しぶりとか言われちゃった。

 その何気無い呟きに癒しを感じる。

 心がホッコリとさせられてしまったぞ。

「お二人とも、無事に戦場を脱せられたようで何よりです」

「ウン、ヨカッタ」

 相変わらずやたらと素直なゴブリンだ。

 しかしながら、幾らなんでも暗黒大陸までは行き過ぎじゃなかろうか。これならまだ紛争地帯に留まっていた方が、遥かに生存確率も高いような気がするのだけれど。界隈のモンスターの練度は軍兵の比ではないだろう。

 っていうか、この薬草ゴブリン、ステータスはどんなものだ。



名前:ランスロット
性別:男
種族:ゴブリン
レベル:151
ジョブ:戦士
HP:48888/48888
MP:7800/9850
STR:32300
VIT:21958
DEX:11821
AGI:10030
INT:9942
LUC:8291


名前:カタリナ
性別:妹
種族:ゴブリン
レベル:149
ジョブ:魔法使い
HP:18888/18888
MP:27800/39850
STR:9300
VIT:9958
DEX:19821
AGI:9030
INT:39942
LUC:12291



 なにこの薬草ゴブリン、兄妹揃って勇者様より強いぞ。

 でも以前は、人里近くの大して深くもない森で、普通に怪我とかしてたよな。妹の方なんて死に掛けていたし、兄の方も這々の体だった。

 もしかして自分がロリゴンやマゾ魔族と戦ったりして経験値を積んできたように、彼らもまた同じように往く先々、様々な冒険を経験していたのではなかろうか。

 結果として猛烈にレベルアップを重ねた兄妹が居る、みたいな。やばい、そう考えると最高に格好良いぞ薬草ゴブリン。そういうの大好きなんだけれど。

「相変わらず妹さんとは仲が良さそうで、素晴らしいことですね」

「キョウダイ、ナカガヨイノ、ヨイコト」

「ええ、そうですね。とても良いことだと思います」

「ソウイエバ、コレ……」

 なにやら懐をゴソゴソとやりはじめたゴブリン兄。

 ややあって、その手に差し出されたのは、いつか彼に譲った一枚の金貨。旅費の足しにでもなればと思ったのだけれど、どうやら今日の今日まだ使っていなかったよう。

「……私がお渡しした金貨ですよね?」

「ニンゲン二、ワタス。ウケトル」

「いえ、わざわざ返して貰わなくても結構ですよ」

「ニンゲン、イッタ」

「というと?」

「イツカ、ホントウニシンヨウ、デキル、ニンゲン二、ワタセト」

「ええ、たしかに言いましたけれど」

「ゴブリン、イロイロナ、ニンゲン二、デアッタ。ハナシ、シタ。セントウモ、シタ。ソウシテ、カンガエタ。イチバン、シンヨウデキル、ニンゲンハ、オマエ」

「…………」

「ダカラ、コレ、ワタス」

 なにそれ。

 メチャクチャ嬉しい。

 今じわっと、目元に熱いものが溢れてきた。

「そ、そういって頂けると、私としても嬉しいですね」

「ダカラ、コレ、ワタス。ウケトル」

「いいえ、それは貴方への私からのプレゼントです。ですから、どうか今後とも貴方が持っていて下さい。そうして貰えたほうが、私としても、ええ、とても嬉しいです」

「……イイノカ? トテモ、キチョウナ、モノダト、キイタ」

「だからこそ、貴方に持っていて頂きたいのですよ。私は」

「…………」

「まあ、不要でしたら、捨ててしまっても構いませんが」

「……ワカッタ。ゴブリン、コレ、モッテイル」

「ありがとうございます」

「ゴブリン、オクリモノ、トテモウレシイ」

「それはなによりです」

 なんて素敵なゴブリンだ。

 見た目最高にキモい怖いヤバイの三拍子揃ってるのに、心がホッコリだ。どうにも癒し系である。回復魔法では癒せない、深いところにある怪我が癒えてゆくのを感じる。

 だからこそ、自分は彼らにお伝えしなければ、ならない。

「せっかくここまで足を運んだお二人に、このようなことをお伝えするのは、非常に恐縮なのですが、どうしても一つ、よいですか?」

「ナンダ?」

「実は、この近くに大勢の人間が群れをなして、やってきています。もしも見つかってしまったのなら、今の貴方であっても、かなり危険な目に遭うことでしょう」

「……ソウ、ナノカ?」

「ですから、このようなお話をするのは、本当に心苦しいのですが、出来る限り早く、この界隈から遠ざかることをお勧めします。お願いします」

「ソウカ、ソウナノカ……」

「もしよければ、私がお送りしますが……」

「ワカッタ。ゴブリン、オマエノ、イウコトキク」

「いつもいつも、このようなことばかりで本当にすみません」

「オシエテクレテ、アリガトウ」

「どちらに向かいますか? よければ適当なところまでご一緒しますが」

「ダイジョウブ」

「そうですか。ですが、気をつけてくださいね」

「ニンゲンモ、キヲツケル。ココ、アブナイ」

「……ええ、そうですね。お互いに気をつけて行きましょう」

 薬草ゴブリンとチャラ男ブラザーズ、どっちか片方を取れと言われたら、間違いなく薬草ゴブリンを選ぶ自信あるわ。めっちゃあるわ。即決だわ。

「ソレジャア、ゴブリン、イク。イモウト、アンゼンガ、イイ」

「ええ、分かりました。それが良いと思います」

「バイバイ」

 踵を返すと共に、こちらに向かい手など振ってみせるゴブリン兄妹。

 人と交流を持ったというのは事実のようだ。

 立ち振舞がより文化的に成熟して思える。

 ならば、自分からも一つ、別れの挨拶をご提案したい。

「こういうとき、人間はバイバイ、ではなく、またね、と言うのですが」

「マタネ?」

「はい」

 すると、彼は少しばかり考えて、ボソリ。

「……マタネ」

「はい、またどこかで、機会があればお会いしましょう」

「ウン」

 短くうなずうと共に、兄は妹を連れて、木々の向こう側に去ってゆく。その背中が樹木の影に隠れて、完全に見えなくなるまで、ニンゲンはゴブリンを見送ることとした。

 自分も負けてはいられない。

 明日を前向きに生きる、そんな勇気を少しばかり、彼らから頂戴した。

 あぁ、頑張ろうか。



◇◆◇



 出会いと別れを繰り返しながら、暗黒大陸を進む。少しばかりセンチメンタルな気分なのは、きっと歳のせいだろう。ここ最近、どうにも涙脆くなって思える。

 周囲は相変わらず、どこまで行っても樹木が鬱蒼と茂る森林地帯である。

 ギーチョギーチョ、ゲココココ、断続的に届けられるのは得体のしれない虫の音。たまにガサリ、草音が立ったかと思えば、小動物の類が足元を逃げてゆくことも。

 薬草ゴブリンと別れてから、再び歩み始めることしばらく。

 半刻ばかりを進んだところで、向かう先より音が聞こえてきた。

 今度は誰かが喋る声である。

「くすくす、人間だ」「人間が来たよ」「くすくす、くすくす」「顔が平たいよ」「顔が平たい人間だ」「肌が黄色いね」「ほんとうだ。黄色いね」「黄色い人間が来たよ」「黄色い人間だ。黄色い人間だ」「くすくす、平たい黄色だ」「平たい黄色いが来たよ」「くすくす、くすくす」「平たい黄色が来たよ。平たい黄色が来たよ」

 どこの誰だよ。平たい黄色を虐めるヤツは。

 この猛烈に伝言ゲームの下手くそな感じは、いじめの初期シグナルを感じるぞ。

「…………」

 視線を彷徨わせると、不意に視界の隅、木々の影に動くものを発見した。

「あ……」

「見つかった」「見つかっちゃった」「くすくす、くすくす」「平たい黄色に見つかっちゃった」「見てる。平たい黄色が見てる」「平たい黄色がこっちみてる」「くすくす、こっち見てる」「平たい黄色が見てる」「平たい黄色がこっちみてる」「くすくす、平たい黄色がこっち見て驚いてる」

 妖精さんだ。

 妖精さんがいる。

 人の形をしているけれど、身体のサイズが大きく異なる。全長三十センチほどの小さな生き物だ。背中には薄緑色の羽が生えている。とても薄くて、更に半透明だ。背後の景色が僅かばかり透けて見えるぞ。きっとその色が名前の由来だろう。

 髪の毛は金色か銀色のいずれかで、どちらの場合も共に白に近くて淡い。肌の色はこちらを黄色だ黄色だと囃し立てるくらいだから、どの個体も相応に白くて美しい。美肌に煩いジャパニーズガール垂涎の美白だろうか。

 なにより特徴的なのは、どの個体も見た目の若いメスである点だ。更にこれを確かなものと伝えるよう、いずれも一様に全裸である。おそらくは服を着るという文化がないのだろう。なんてけしからん生き物だ。

 そんな連中が十数匹ほど、蚊柱よろしく森の一角に群れている。

「あっ、もしかして、すみませんがグリーンシルフの方々では……」

 羽を頂戴したい都合、平たい黄色呼ばわりにもめげず下手に出てみる。

「平たい黄色が話しかけてきた」「くすくす、平たい黄色がなんか言ってる」「平たい黄色の声きいちゃった」「平たい黄色、シルフを知ってるみたい」「くすくす、くすくす」「平たい黄色はシルフを知ってる」「くすくす、平たい黄色はシルフとお話したいの?」「お話したいの? お話したいの?」「平たい黄色は一人ボッチ」

 どうやら話は通じそうだ。

 ただ、彼女らと交渉を行うには、少しばかりテクニックを求められそう。

 ふわふわとしていて、どうにも掴みどころがない。

「ええそうなんです。お話をしませんか? シルフさん」

「平たい黄色はお話がしたいみたい」「お話したいんだ、お話したいんだ」「くすくす、平たい黄色はひとりだけ?」「一人しかいないよ、一人きりだよ」「くすくす、くすくす」「平たい黄色は他にいないね」「ひとりぼっち、平たい黄色はひとりぼっち」「一人でシルフとお話をしにきたのどーして?」「どーして? どーして?」

 これ、無邪気だよな? 本当に無邪気系だよな?

 裏に悪意があってのトークだったら、ちょっと凹みそう。

 一対複数の状況だから特に。

「実はグリーンシルフの方がたにご相談がありまして」

「ご相談だって、ご相談」「ひとりぼっちの平たい黄色がご相談」「くすくす、くすくす」「平たい黄色のご相談はなんだろな、なんだろな」「ひとりぼっちが寂しいのかな?」「くすくす、平たい黄色はひとりぼっちで寂しい」「寂しい、寂しい、平たい黄色は一人が寂しい」「平たい黄色はシルフの友達が欲しい?」

 あまり長くお話をしていると、心がやられてしまいそうだ。これで一対一であれば、そこまで意識することもなかっただろう。しかしながら、十匹以上を一度に相手とすると、如何に相手が人ではないとはいえ、流石に堪えるものがあるぞ。

「そうですね。もしよろしければ、お友達から始めさせて頂けたらと」

「友達だって、友達だって」「平たい黄色が友達になりたいって」「くすくす、平たい黄色も仲間になりたいんだ? なりたいんだ?」「平たい黄色が友達になってほしいみたい」「平たい黄色は友達なの? シルフの友達なの?」「くすくす、くすくす」「平たい黄色はおっきいからお家に入らないよ?」「平たい黄色のお家はどこなの?」

「私のお家はここからずっと遠くにありますよ。こちらにはちょっとした入り用で訪れておりまして。ところで、皆さんの背中に生えている羽なのですが、とてもとても綺麗ですね。薄い緑色が可愛らしい」

「わー、わー、平たい黄色に褒められた」「くすくす、褒められた、平たい黄色に褒められた」「平たい黄色は羽生えてないよ? なんでかな?」「平たい黄色は人間だから羽は生えてないんだよ」「ふしぎー、ふしぎー、どうして人間は羽が生えてないの?」「くすくす、おっかしー」「羽が生えてない人間、おっかしー」

 口にしたところで思った。

 グリーンシルフの羽って、今まさに眺める連中の背中から生えているヤツだよな。二枚一組、綺麗で可愛らしい薄い緑色の羽だ。半透明が所以か、触れたら簡単に破れてしまいそうな脆さを感じさせる。

 それを貰い受けるということは、こう、根本からブチッとやるのだろうか? いやいや、ちょっとそれは可哀想な気がするぞ。再び回復魔法で生やすにせよ、見た目可愛らしい妖精さんだから、多少なりとも良心が痛むというか。

 しかし、それではどうやって採集するのか。

「一つ伺いたいのですが、皆さんの羽は生え変わったりしますか?」

「生え変わるの? 羽って生え変わるの?」「しらなーい、しらなーい」「くすくす、しらなーい」「前に抜けた子いたよ?」「どうしたの? どうしたの?」「悪いエルフに抜かれちゃったの」「わー、こわい、エルフ怖い」「エルフは怖い、エルフは怖い」「エルフはこわいから近づいちゃだめ」

 それ、もしかしてエディタ先生のような。

 情報の出元を思うと、ドンピシャ感が半端ない。

 ダークムチムチと分かれてきて正解だったかも。

 そうこうしているうちに、多数いるシルフの一匹が呟いた。

「もしかして、平たい黄色も怖い?」

 それは瞬く間に伝搬した。

 するとどうしたことか、これまであっちへふよふよ、こっちへふよふよ、木々の合間に浮かんでいた妖精さんたち。これが一様にピタリと止まって、ギョロリ、可愛らしい瞳をこちらに向けているではないか。

 ちょっとこわい。

 なんだろう、このファンシーの只中に感じる不気味な気配は。

「あ、いえ、べ、別に私はエルフではなく普通の人間で……」

「平たい黄色もシルフに怖い?」「どうして平たい黄色はシルフの友達になりたいの?」「シルフの友達になってどうするの?」「どうして森にきたの?」「人間とエルフって似てる」「平たい黄色、入り用って言ってた」「言ってた、言ってた」「入り用ってなんだろう」「なんだろう、なんだろう、入り用ってなんだろう」

 良くない予感がした。

 それは極めて正しい直感だった。

 か弱い人間がわざわざ危険を犯してまでシルフの集落を訪れる。出会い頭に羽のあれこれを褒めてみせる。余程の阿呆でない限り、どのような意図あっての来訪であるかは、想像に難しくない。過去に事例があれば尚のこと。

 これは失敗した。

「人間、怖い」「人間、怖い」「平たい黄色こわい」「平たい黄色こわい」「こわいからどうしよう」「こわいときは逃げる」「こわいときはやっつける」「人間はどっち? 平たい顔はどっち?」「人間はよわいよ」「人間はよわいね」「それなら平たい黄色も弱いね」「平たい黄色は弱い、平たい黄色は弱い」

 どうやら万全一致の様子だ。

 アホっぽい言動していて、実はかなり賢いじゃないかちくしょう。

 先んじてステータスを確認せねば。

 適当にサンプルを選んでチェックである。



名前:コッポラ
性別:女
種族:グリーンシルフ
レベル:129
ジョブ:村人
HP:40850/40850
MP:3050/37850
STR:9300
VIT:18958
DEX:9821
AGI:9030
INT:20942
LUC:20290



名前:マリーベル
性別:女
種族:グリーンシルフ
レベル:110
ジョブ:村人
HP:39000/39000
MP:35005/35005
STR:8111
VIT:15900
DEX:9035
AGI:8903
INT:19931
LUC:20555



 単体性能としては勇者ピエールより少し低いくらいだ。

 しかしながら数が多い。二桁越えである。これが一挙に攻めて来たのなら、紙装甲の平たい黄色としては、昨日に打倒したフェニックス以上の脅威となる。

 これはいかん。

 トリさんは一匹だったから、ゴリ押しファイアボールで事なきを得た。一方で妖精さんは数が多いから、一斉攻勢に出られたら、無敵魔法でも防ぎきれないかも知れない。

 背筋がぞっとしたところで、相手にもまた変化が訪れた。

「平たい黄色をやっつけよう」「やっつけよう、やっつけよう」「くすくす、平たい黄色をやっつけてどうしよう?」「ごはんだ、ごはんだ」「平たい黄色はごはんだ」「たくさんたべて、たくさんあそぼう」「くすくす、平たい黄色であそぼう」「平たい黄色をやっつけてあそぼう」「あそぼう、あそぼう」

 次の瞬間、シルフ一同が攻めて来た。

 まるで蜂の巣でも突いたよう、一斉に飛んできた。

「っ……」

 これは堪らない。

 ファイアボールで攻勢に出ることも可能だ。しかし、万が一にも撃ち漏らしてしまったのならば、そして、その数が多かったのならば、次の瞬間には袋叩きとなるだろう。

 そうした推測が、咄嗟にストーンウォールをチョイスさせた。

「ストーンウォールっ!」

 自らを囲うよう、三メートル四方の壁を上下左右前後に配置する。

 要はバリアーの代わりだ。

「平たい黄色が隠れた」「隠れた、隠れた、壁の中に隠れた」「くすくす、くすくす」「壁がじゃま」「壁がじゃまだね、壁がじゃまだね」「どうしよう、壁があると平たい黄色であそべない」「くすくす、くすくす」「平たい黄色の平たい黄色が見えないね」「どうしよう、どうしよう」

 ストーンウォールの向こう側から、ああだこうだと言い合う声が聞こえる。

 どうしよう、割と詰んだ感じがある。

 このまま連中が飽きるのを待つしかないのだろうか。

「この壁、こわれるかな?」「こわすの? 壁、こわすの?」「くすくす、くすくす」「壁をこわしてみよう」「誰が最初にこわせるかな?」「競争だ、競争だ」「最初にこわした子が、最初に平たい黄色を食べれるの?」「くすくす、最初にこわした子が食べる」「最初にこわせば最初にたべれる」「最初にたべたい」

 なんという超高速民主主義。

 我々人間もこれくらい簡単に意見統一ができたら良かったのにな。

 そうこうする間に壁の向こう側から、爆弾の爆ぜるような炸裂音が、幾重にも重なって響き始めた。どうやら今し方に耳としたとおり、グリーンシルフ一同から攻撃が始まったようだった。

 ズン、ズズン、応じて壁が震えては衝撃を伝える。

 壁越しなのでハッキリしないけれど、きっと魔法の類だろう。

「…………」

 どうしよう。

 差し当たってストーンウォールはいつまで耐えてくれるだろう。攻撃魔法の十や二十は問題ないと思うけれど、それ以上は分からない。そして、連中は数十匹からなる一団だ。

 ちょっと焦ってきた。

「壁かたいね」「かたいね、かたいね」「人間、出てこないね」「平たい黄色、人間なのに堅いね」「人間ってかたいの?」「人間はやらかいよ、プニプニだよ」「どうして壁はかたいの?」人間はやらかいよ?」「でも壁はかたいよ?」「魔法が効かないよ?」「どうして平たい黄色は人間なのに堅いの?」

 閃いた。

 壁越しにファイアボールとか撃てないだろうか。

 他にパーティーメンバーとか一緒じゃないから、多少ばかりコントロールが狂って無差別となっても、なんら問題はないだろう。

 妖精さんたちも割と本格的にこちらを殺しに来ている。今の状況であれば、数匹ばかりを狩ってしまったところで良心は痛まない。

 というか、最初からそうすれば良かったのだ。

 可愛らしい外見に騙されていたけれど、連中もまた暗黒大陸の生き物である。油断すればどうなるかは、今まさに身を持って理解したぞ。

「……よし」

 壁越しに声の密集している側を確認。

 万が一にも壁の内側で炸裂しては目も当てられない。イメージするのは出来る限り小さめのファイアボール。それを壁の向こう側にそっと浮かべる感じで。

「ファイア……」

 意識を集中するべく、小さく掛け声とともに魔法を行使。

 しようとした間際の出来事だった。

「きゃー! ゴッゴルだ! ゴッゴルがきたよ」「ゴッゴルっ! ゴッゴルっ!」「にげよう、にげよう、ゴッゴルこわい」「ゴッゴルこわい」「人間よりこわい」「エルフよりこわい」「にげよう、にげよう、ゴッゴルからにげよう」「はやく、はやく、いそいで」「ゴッゴルから急いでにげよう」

 なにやら外の様子に変化があったよう。

 声が上がったのを契機として、妖精さんたちからの魔法攻撃が止んだ。

 それまで断続的に続いていた衝撃がピタリと止んだ。

 どうしたというのだろう。

 疑問に思ったところで、恐る恐る、ストーンウォールで設けた壁の一辺に数センチ四方、小さな小窓を凹する。薄暗かった壁の内側にスッと光が差し込んだ。

 これを十分に注意して覗きこむ。

 するとどうしたことか、妖精さんたちの姿は完全に失われて、代わりにぽつねん、見知った相手が立っているのを確認である。

「あ……」

「…………」

 小窓越しに目があった。

 妖精さんたちの言葉に違わずゴッゴルだった。

 つい先日、暗黒大陸の史跡で遭遇した褐色ロリータだった。



◇◆◇



 グリーンシルフの群れに責め立てられていたところ、これを助けてくれたのは他の誰でもない、数日前に出会って別れた、褐色銀髪おかっぱ美少女だった。

 ストーンウォールを引っ込めたところ、同所には彼女の姿だけがあった。

「危ないところをありがとうございました」

 頭を下げて感謝の意志を伝える。

 まさか彼女に窮地を救って頂けるとは思わなかった。

「……べつに」

 対して応じるところ、なんと淡々としたことか。

 ゴッゴルちゃんってば最高にクールだな。

 かっちょいいじゃないか。

 惚れさせる筈が惚れてしまいそうだぜ。

「もしかして人里に向かわれる途中だったりしますか?」

 現在着用している服も人里で購入したと言っていた。自分が一泊を滞在した海辺の集落とは多少なりとも交流があるのだろう。でなければ、このような場所で偶然にも顔を合わせるなど有り得ない。

 だって彼女の仮住まいはもっと北の方だ。

 生活圏内もそれに準じたものだろう。

「……これ」

 ただ、そうしたこちらの思いとは裏腹、彼女が差し出したものはといえば。

「あ、そ、それはっ……」

 つい数日前、どこへとも紛失してしまった革袋だ。

 中には導きの幼女から頂戴した宝物が納められている。

「あの史跡に落ちていたから」

「なるほど……」

 っていうと、あれか。

 魔法陣でワープした直後、壁にぶつかった際にでも落としたのだろう。よくよく見てみると、革袋に縫い付けられた紐が途中で切れている。

「……ちがう?」

「いいえ、違いません。ありがとうございます」

 大慌てで差し出された袋を受け取る。

 中身を確認すると、そこには確かに宝物が。

「良かった。ありがあとうございます! 本当にありがとうございます!」

 うれしい。

 凄くうれしい。

 良かった。

 とても大切なものだったのだ。

 自分が思ったより、余程のこと大切なものだった気分だ。

 そう感じるくらい、嬉しかった。

 これで再び導きの少女とお話することができそうだ。

「……そんな大切なものだったの?」

「ええ、私にとっての初めてです」

「…………」

 プレゼント童貞の喪失記念、コイツだけは墓場まで持って行くぜ。そう決めた。今決めた。これが三十を越えて童貞の男が見せる、あまりにも重い愛の行方だ。どうだ参ったか。それくらい嬉しかったんだからな。

 あと、それをこうして届けに来てくれたゴッゴルちゃんの心遣いも。

「ありがとうございます。わざわざこのような場所まで」

「シュイーンの森でグリーンシルフを探していると言っていたから」

「なるほど、それで……」

 やはり、これを届ける為にやって来てくれたよう。なんて嬉しい心遣いだろう。その優しさに惚れてしまった。これはもう惚れてしまったね。だって道中は命がけ。彼女以上に強力なモンスターがうようよしているの見てきたもの。

 だというにここまで来てくれたこと、本当に嬉しいじゃないですか。しかも革袋の中身はと言えば、お世辞にも高価とはいえないような石ころだ。もちろん自分に取っては大切なものなのだけれど、その価値は他に知れるものでない。

 だからこそ思う。

 なんて良い子なのだろう。

「まさかシルフから攻められているとは思わなかった。でも、おかげで気づけた」

「そ、そうですね。無策に挑んだ私は冒険が過ぎました……」

 ごもっともな意見だ。もう少し考えてから挑むべきだった。先日のボスラッシュに気を良くして、少なからず慢心していたようだ。良くないな、あぁ、良くない。

 ここは暗黒大陸だ。ちゃんと気を引き締めて挑まないと。

「そうだ、そちらもお礼をしなければなりませんね。危ないところを助けて下さり、ありがとうございました。少しばかり気を大きくしていたようです」

「……別に」

「もしも叶うことなら、何かお礼をしたいのですが……」

 果たして今の自身は、彼女に捧げられるものがあるだろうか。

 思い返して、財布くらいしかないことに気づく。現物的で酷く卑しいけれど、捧げないよりは捧げる方が良いだろう。女の子はイケメンとお金が大好きだ。

 可能であれば、前者として自らを捧げたいところだけれど、あいにく己の面はまるでイケていない。自然と選択の幅は後者に限られる。

「いらない」

「いえ、そういう訳にはいきません。危ないところを助けられたのですから」

 お財布の中には金貨が数枚と銀貨や銅貨が幾らか。

 送るとしたら金貨だろう。

 何枚ほど渡そうか。

 めし処スザンヌや、その界隈の宿は大して高くない。銀貨が数枚あれば、当面の生活は成り立つだろう。他に稼ぐ手立ても、暗黒大陸であれば、狩りをメインに据えてどうにかなるような気がする。

 であれば、よし、当初とは些か方向性が異なるが、ここは誠意を示そう。

「このようなものしかお渡しできなくて、とても恐縮なのですが……」

 お財布から金貨全てを取り出して、ゴッゴルちゃんに献上する。

 コイツらも、この美しい少女の血となり肉となり衣装となるのであれば、きっと満足だろう。醤油顔の酒代に消えるよりは、なんぼか有意義な使い道だ。頑張ってご奉仕してくるんだぞ、名も無き金貨たちよ。

「…………」

「…………」

 しかし、金貨を差し出したところで、相手の手が伸びてこない。

 こちらの手と顔を交互に眺めるばかり。

「……どうされました?」

「本当に良いの? ここはとても危険なところ」

「そうですね。だからこそ、お礼は是非とも受け取って欲しいなと」

「お金はたいせつ」

「もう少しまとまった額を用意できれば良かったのですが」

 幾らばかりかの言葉と共に、金貨の乗った手を更に先へと差し出す。

 すると、彼女は多少ばかりを見つめ合って末に。

「…………」

「受け取って貰えますか?」

「……分かった」

 小さく頷いて、彼女はこれを受け取った。

 際しては指と指が少しばかり触れ合い、めっさドキドキした。具体的にどこがドキドキしたかと言えば、胸とオチンチンがドキドキした。ゴッゴルちゃん可愛い。たぶんだけれど、体温が普通の人間と比較してちょっと高い。

 そんなところに愛しさ迸る。

「……ありがとう」

「いえいえ、それは私の台詞ですよ」

 ボソリと呟かれた感謝の言葉が、極上のサウンドで届けられた。

 堪らないボイスだ。

「…………」

「…………」

 しかし、この話題の少なさはどうにかしなければ。

 ひとしきり、ありがとう、どういたしまして、挨拶を交わしたところで、早々に会話が尽きてしまう。これまで出会った異性はと言えば、わりと多弁な子が多かったことも手伝って、ゴッゴルちゃんのようなクールビューティーは初めてだ。

 しかも場所が暗黒大陸とあっては、どういった話題がトレンドなのだろう。ちょっと最近、南の方でフェニックスとか出現するようになったよね、みたいな? いやいやいや、それじゃロマンがないだろう。ロマンが。

 こちらが情けなくもあれこれと悩んでいると、不意に彼女の方からお話が。

「ところで、グリーンシルフの羽は?」

「え? あ、いや、それが残念ながら……」

 折角のチャンスだったのだけれど。

「……そう」

「情けない話ばかりで申し訳ないです。なかなか難しいものですね」

「グリーンシルフであっても、数が多いと危険」

「ええ、その事実は身を持って理解しました」

 こちとらコテコテの後衛職だからな。懐に飛び込まれたらそれまでだ。更に相手が数にものを言わせてきたら、一時的に回復魔法を用いて凌いだところで、最終的には飲み込まれてしまう。

 大切なのは初撃確殺である。

「羽はどうするの?」

「覚悟はつきましたので、もう一回、チャレンジしてみようかと」

 次はあの愛らしい姿にもダマされないぜ。

 全力で羽を頂戴する心意気だ。

 なにせここは弱肉強食、食うか食われるかの暗黒大陸だからな。

「……そう」

「はい」

 殺されかけた今なら良心も痛むまい。

 罪悪感に負けることなく採集できるって寸法よ。

「…………」

「…………」

 ところで、またやってしまった。

 頷くついでに適当な話題を振るべきだった。こちらが言葉少なに応じたところで、再び両者の間に沈黙が訪れてしまいそう。話題だ、なんとかして話題を繋がなければ。内心焦りつつ、必死になって頭を巡らせる。

 すると、先方から予期せぬ提案が飛んできた。

「……良かったら、手伝う」

「はい?」

「……良かったら、手伝う」

「え、あ、いえ。まさか見ず知らずの方にご迷惑をお掛けするのは……」

 あまりにも嬉しくて、涙がちょちょぎれそうだ。

 もしかして、これはあれか? モテ期か? モテ期来ちゃったか? 更にこのままハーレム期にシフトチェンジしちゃったりするのだろうか。いいや、そんなことはない。ただただ単純に、彼女が心優しい少女であるが所以だ。

 癒やしを得た。

 私は癒やしを得たぞ。

「迷惑なら止めるけれど」

「迷惑だなんて滅相もないっ!」

 大慌てで否定する。

 首をブンブンと振って、全力。

「……そうなの?」

「ええ、そうですとも。も、もしよろしければ、お手伝い頂けたらと」

 鼻息も荒くお願いしてしまったよ。

 すると彼女から返されたところは。

「……うん」

 うん、だって。可愛いな。可愛いな。

 ゴッゴルちゃん可愛いな。

 おじさんテンション上がってきちゃったよ。

 ハネムーンしたい気分さ。

「差し当たり、グリーンシルフに関して伺いたいのですが、よろしいでしょうか? 偉そうに語っておきながら、本物を目の当たりとするのは初めてのことでして、幾つか確認したい点がありまして」

「分かった」

 褐色ロリ授業の始まりだ。



◇◆◇



【ソフィアちゃん視点】

 今日も今日とてメイドは執務室でお仕事に励んでおります。

 大きめなデスクと、座り心地の良い革張りの椅子が、とても素敵です。実家の手伝いで帳簿を付けていた頃は、厨房の隅で棚板をテーブル代わりに立ち作業でしたから、比較したら雲泥の差ですね。やる気も自然と湧いてきます。

「なぁ、ソフィアちゃん。アイツはまだ帰って来ないのか?」

「は、はひっ、私のところには、まだ……」

 ちなみに今は私の他にゴンザレスさんが見えていらっしゃいます。

「アイツに限ってどうにかなるとは思わねぇが、ちょっと心配だな」

「ゴンザレスさんはタナカさんがどこに行かれたか、ご存知でしょうか?」

 どうやらタナカさんを心配されていらっしゃるようです。

 タナカさんが姿を消してから数日が経ちました。

 急に出掛けられるのは、毎度のことかも知れません。気づけばフッと消えていらっしゃいます。ただ、普段であれば書置の一つでも残して行かれる方なので、今回は少しいつもと違う感じです。どこへ行ってしまったのでしょう。

「いや、俺も確証はねぇんだよ。ただ、最後に顔を合わせた時に、なにか探しているみたいだったからな。こっちもそれとなくアドバイスをしたりしたんだが、まさか、それが原因でなにかあったのかと思うとな」

「アドバイス、ですか?」

「そう大したものじゃねぇんだがよぉ」

 なんでしょう、気になりますね。

 ですが、下手に首を突っ込んでは、火傷するのが目に見えています。ここ最近のゴタゴタを受けて、できるメイドは自重を覚えました。

 大丈夫です。お尋ねしたりしませんよ。

「タナカさんなら、どのような場所へ行っても大丈夫だと思います」

「その点に関しては俺も同じさ。心配なんざ、まるで必要はねぇ。アイツなら暗黒大陸でだって生きていけるだろうよ。ただ、妙なところで常識が抜けているからな。変な奴に騙されてなきゃいいんだけどよ。とくに女関係とかな」

「そ、そうですね……」

 たしかにタナカさん、女の人にコロっと騙されそうですよね。

 そんな感じがします。

 たぶん、私でも騙せるのではないでしょうか。脇から撓垂れ掛かって、好きです、みたいにお伝えしたら、それだけで、とても簡単に。

 そういった意味では、エステル様がお隣にいらっしゃることは、タナカさんにとっても非常に益のあることなのではないかなと思います。

 私としてはお二人こそ一緒になって欲しいですね。応援しておりますとも。

「ソフィア君、いるか?」

 そうこうしていると、部屋の外から声が掛かりました。

 この響きはノイマンさんですね。

「は、はいっ! おりますっ!」

「失礼する」

 ガチャリ、ドアが開きました。

 廊下から姿を現したのは想像したとおりの方です。

「む、ゴンザレスも一緒だったのか」

「なんだ? 俺がいちゃぁ都合が悪いのかよ?」

 ツカツカとデスクの前まで歩んだところで、ノイマンさんがゴンザレスさんに話し掛けました。スラっとした知的な雰囲気の漂うノイマンさんと、ガッチリとして荒っぽくも頼りがいのある風貌のゴンザレスさん。

 デスクに腰掛けながら、お二人に囲まれた私は、なんだかお姫様みたいな気分で、ちょっといい感じですね。どちらも男性として非常に魅力的で、とても格好良いのです。ぜひぜひお嫁に行きたいと、乙女な部分が疼きますよ。

「そんなことはない」

「本当かぁ?」

「とはいえ、あまりソフィア君をいじめるでないぞ」

「誰がいじめてるかよ?」

「違うのか?」

「そんなことしたらアイツに殺されるわ」

「あぁ、ちがいない」

 出会って数日の間柄ながら、ゴンザレスさんとノイマンさんの関係は良好です。共通の知人として、タナカさんという話題があるからでしょうか。こうして適当な掛け合いに笑い合う姿も、ちらほらとお見受けします。

 ところで、私がタナカさんの女みたいな位置になっているのは、ちょっとどうかと思うのですが、そこのところ軌道修正できませんでしょうか。ここ最近はアレンさんともお会いしておりませんし、あれ、そう考えると、出会いの場が減っていますね。

 周りにフリーの男性がぜんぜんいませんよ。

 これって年頃の娘としてどうなのでしょうか。

 わりと危機的な状況なのではと。

 私もそろそろ結婚を考えないとマズい年齢ですし。

「あ、あの、どういったご用件で……」

「この様子ではゴンザレスからも聞いているかも知れないが、そろそろ東地区の準備が整う。今のうちに物資の調達量を相談しておこうと思ってな。今の我々にどれだけの余裕があるのかを確認しに来たのだが……」

 ノイマンさんが手元の書面に視線を落として、ドラゴンシティの近況に関するご報告をして下さいます。ただ、そのお声は最後まで私の下へ届くことはありません。

 部屋の外、バァンと勢い良く開いたドア。

「おぉおおおおおっほほほほおっ! ソフィア、お茶の時間よぉお!」

 縦ロールさまです。

 縦ロールさまの甲高い笑い声が、全てを攫ってゆきました。

「おいおいおい。プッシーのお嬢様、相変わらずじゃねぇか」

「あら? 男が二人も揃って、ソフィアの部屋でなにをしているのかしらぁ?」

 キョトンとして、ゴンザレスさんとノイマンさんを見つめるドリス様。

 そのなにかが一向に起こらないので、私としては悲しい限りですね。



◇◆◇



 森の只中でゴッゴルちゃんからお話を窺うことしばらく。

 暗黒大陸での生活も長いという彼女のお話は、とても為になるもので、如何に自分が無知であったかを再確認だろうか。同時に今回のお話で得たところから、いつの間にやら話題は移って、今後の動き方を巡る作戦会議と相成った。

 当然、内容はグリーンシルフの羽の採集を巡るあれこれとなる。

「私が取ってくる」

「いえ、流石にそれは申し訳ないというか……」

 さらっと言ってのける彼女の表情は、出会って当初と変わらず能面のよう。ただ、その酷く淡々とした物言いの後ろに、心優しい気遣いの思いが控えていることを、俺はちゃんと理解しているよ。

 ゴッゴルちゃん可愛い。

 あまりにも心優しいから、勘違いしてしまいそうになる。

 否、勘違いしたい。

「けれど、それが一番に確実」

「そう言われてしまうと、確かにその通りでぐぅの音も出ないのですが」

 前衛特化で素早さの高い彼女なら適材だろう。

 しかし、丸投げというのは良くない。

 せめて採集くらいは自分の手で行わなければ。

「それなら私が前衛、貴方が後衛で」

「分かりました。すみませんが、ご協力をお願い致します」

 敵の数が多い都合、やはり前衛の存在は必要だろう。

 もしも彼女と出会っていなかったのなら、ビッグウォールまで戻り、連合パーティーの協力を仰いだかもしれない。フェニックス相手ならいざらず、グリーンシルフの群れが対象となれば、彼らも十分な戦力だ。今回のように数がものを言う場合、一点豪華主義の自分などより、遥かに適しているのではなかろうか。

「……いつ頃に出る?」

「少し休んで、日が暮れてからというのはどうでしょうか?」

 実はもう既に体力気力共に満タン。

 しかしながら、もうちょっと、もうちょっとだけ、ゴッゴルちゃんと一緒に過ごしたい。きっと羽を採集したらお別れだから、申し訳ないとは思いつつも、褐色の太ももや、褐色の二の腕、褐色の首筋にチラリ、チラリ、視線を送らせていただく。

「相手は数が多いです。闇夜に紛れることで、可能な限り戦闘を少なく済ませることができたらと考えております。もしもグリーンシルフが夜目に優れているようであれば、この限りではありませんが」

 それにしても、なんだろう。

 こうしてエッチな目で彼女を見ることに罪悪感を覚える。

 それもこれもピュアな彼女の心を知ってしまったからだ。メルセデスちゃんやダークムチムチであれば、なんら遠慮なくガン見できるのだけれども、ゴッゴルちゃんが相手となると、こう、自然と遠慮が働くというか。

 あぁ、これがあれか、アイドルとファンの距離感、というものなのだろうか。もしかしたら、マゾ魔族が縦ロールに抱く感情も、こういったものなのかもしれない。なるほど、ヤツの妙な価値観も少なからず理解だろうか。

 しかしながら、一方で不特定多数から輪姦される彼女の姿もウォッチしたい。実はエロエロでオチンチンを銜えて離さないゴッゴルちゃんとか、最高に魅力的じゃないか。褐色肌が白濁で全身ヌルヌルになっている姿を拝んでみたい。

「…………」

 男心とは複雑なものだな。

 ゾフィーちゃんではないが、自分で自分が分からなくなりそうだ。

「難しいでしょうか? もしも他に都合があるようであれば……」

「構わない」

「本当に大丈夫でしょうか?」

「……大丈夫」

「こちらの事情を押し付ける形となってしまい、本当にすみません」

「べつに……」

 やった、トーク継続だ。

 差し当たり当面の話題はどうしよう。やはり今ホットなグリーンシルフ関係が良いだろうか。それともシュイーンの森に分布する他のモンスターに関して、ご教示願うのも悪くないような気がする。

 できれば座ってお話したい。

 彼女が身に着けているの衣装はスカート仕様だ。そう丈が長いわけでもないので、椅子の類に腰掛けたのなら、十分にパンチラを狙うことができる。最近、エディタ先生のパンチラを拝んでいないので、ここいらで一発、景気良く拝みたいじゃない。

「そういえば、グリーンシルフの集落というのは、この界隈にあるのでしょうか? もしも距離が近いのであれば、少し離れるべきかなと思うのですが」

「私も詳しい所在は知れない」

「それなら用心を取って、腰を落ち着けられる場所まで移動しませんか?」

 よし、素晴らしい話題の運びだ。

 移動を終えた暁には着席必至である。

「流石に立ったままでは休まるものも休まないで……」

 ナチュラルな話題の運びで向かう先を示唆する。

 そうして一歩を踏み出した瞬間だった。

 ズドン、まるで火薬でも爆ぜたような、大きな音が響いて聞こえた。

「っ!?」

「ば、爆発ですか?」

 我々とはそれなりに距離がありそうだ。少なくとも爆風までは届いてこない。木々を挟んで他所の出来事と思われる。ただ、衝撃は結構なものだ。ビリビリと響く音が、地面を伝って足から腹の内側にまで登ってくる。

「あれを」

 ゴッゴルちゃんが、木々の合間、空の一点を指し示す。

 言われるがままに意識を向ける。

 すると、そこにはモクモクと煙の立つ様子が窺えた。

「なんとまぁ……」

 一瞬、例の混成パーティーが森のモンスターとエンカウントしたのかと思った。しかしながら、彼らが駐屯する壁とは正反対の側である。まさか自分を越えて、その先まで移動しているとは考え難い。

 そうなると今の爆発音の正体はなんなのか。

「グリーンシルフが逃げていった方向」

「え、そうなんですか?」

「……たぶん」

 自分は壁の中に隠れていたので知れない。

 ただ、これを追っ払った当人が言うのだから、きっとそうなのだろう。

「もしや私の他にグリーンシルフの餌食となったなにかが……」

「逆にグリーンシルフの方が、餌食になっているかもしれない」

「なるほど」

 ここは暗黒大陸、いずれとも考えられる話だ。

 前者であったのなら、仮に放り置いたとしても、こちらの目標を達するに問題はない。しかし、これが後者であったのなら、せっかく居場所を突き止めたところで、苦労が全て水の泡である。それだけは避けたい。

「様子を見に行きましょう」

「……分かった」

 決断は速攻だった。

 ゴッゴルちゃんと共に爆発のあった地点を目指すこととなった。

 パンチラ見たかった。

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