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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫
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暗黒大陸 二


 目覚めて翌日、めし処スザンヌに遅めの朝食を取るべく向かった。

 導きの幼女に対する謝罪の言葉を考えながらの移動だった。

 すると同所ではなにやら、ザワザワと冒険者たちの言葉を交わす声が、昨日とは比べ物にならない喧騒となっている。面倒事でも起こったのだろうか。界隈の物騒具合は昨日にも実感したばかり。少なからず緊張する。

 入店して早々、カウンター越しに店員ロドリゲスに尋ねる。

「あの、なにか問題でも?」

「お? 誰かと思えば昨日の平たい顔じゃねぇかっ!」

 面と向かって遠慮のないヤツだな。

 まあ、場所が場所だからそういうものなのだろう。

 ワイルドな問答がハードボイルドだぜ。

「なにやら騒々しいみたいですけれど」

「いやな? それがなんでも北の森に馬鹿でかい壁があるのないので、見ての通り大騒ぎよ。一昨日までは影も形もなかった森のど真ん中に、とんでもなく幅と高さのある壁が生まれたっていうんだわ」

「…………」

 どこかで聞いたような話だな。

 そう言えば逃げるのに必至で、片付けるの忘れてた。

「その調査に向かうってんで、パーティーを編成しようと動いている訳だが、これがまた顔ぶれが顔ぶれなだけあって、どうにも上手いこといってなくてな。朝っぱらから近所迷惑にも言い合っている訳さ」

「……なるほど」

「東西の勇者さまが言うには魔王復活の兆しらしいしぜ?」

「はてさて、それはどうでしょうか?」

「まあ、ここは暗黒大陸だからな。何が起こっても不思議じゃねぇよ」

「…………」

 やばいな。かなり面倒なことになっているぞ。

 今から現場に飛んで行ってでも消すべきだろうか。

 流石に悩む。

 すると、そうこうしているうちに店内では、人の動きに変化が。

「よしっ! それなら僕らのパーティーより先に壁まで到達し、謎を解明する者が現れたのであれば、その者に勇者の称号を譲っても良いっ! 他の誰よりも先にビッグウォール出現の原因を解き明かすのは、この西の勇者スターをおいて他ならないねっ!」

「いちいち声を張り上げるな。魔王復活の調査は東の勇者の仕事だ。邪魔をするのであれば容赦はしない。そこまで勇者の称号を重荷に感じているのであれば、下らない見栄など張らず、今この場で誰にでも委譲してしまえば良いだろう」

「ほぅ! それはまた随分なお言葉だね? 東の勇者くん」

「お前ほどではないな、西の勇者」

 見事に対立している東西の勇者さま。

 今にも取っ組み合いの喧嘩を始めてしまいそう。

 その脇では他に。

「このような現象、過去の歴史を紐解いても前例がないだろう」「いやまて、古代ダシナカ王国では邪神復活の際に巨大なモノリスが生まれたという」「壁の材質を調査すれば、何か見えてくるものがあるかも知れない」

「たしかに現状では情報が足りていない。やはり現地調査が必要か」「うむ、その意見に儂も賛成じゃ」「ならば他の者に先んじて向かうべきでだろう」「そうですね。荒らされた後では見つかるものも見つからない」

 恐らく学園都市とやらの教授陣だろう。

 テーブルに広げられた紙面を前として、あれこれと話し合っている。

 かと思えば、その更に隣のテーブルでは。

「おい、これから壁の調査に向かうぜっ!? 俺たちのパーティーと一緒に行きたいってヤツは、こっちに来てくれや! スキルとの兼ね合いもあるが、出来る限り大規模に向かおうと思うから、そこのところよろしく!」

 店員ロドリゲスに大盗賊呼ばわりされていたヤツだ。たしか名前をゲイルと言っただろうか。ちょっと記憶が曖昧だ。傍らには同様に魔女扱いだった女性と、なんとか王と呼ばれていたヤツの姿もある。きっと同じパーティーのメンバーなのだろう。

 そして、暗黒大陸で一旗揚げようという冒険屋は、彼ら彼女らに限らない。店内の椅子やテーブルが足りないほど溢れており、あっちでガヤガヤ、こっちでガヤガヤ。パーティーの垣根を超えて言葉を交わしている。

 その勢いたるや、あまりの熱気に汗が額に浮かぶほど。

 なるほど、これは確かに賑やかだ。

 大航海時代ならぬ、大冒険者時代的な雰囲気がある。

「オマエさんはどうするんだ?」

 店員ロドリゲスがカウンター越しに問うてきた。

 ここは情報ゲットのチャンス。

「シュイーンの森に向かいたいのですが、おおよその方角などご存知ですか?」

「あぁ、シュイーンならちょうど壁が生えたあたりだな。ここの集落からだと、いかんせん海抜が低いから拝めねぇが、実際に見たヤツの話だと、丘に上がればすぐに確認できるらしいぜ?」

「なんと……」

 マジかよ。

 最高に目印しているぞ、我がストーンウォール。

 これだから大好きなんだよ。

 今後ともレベルを上げてゆきたいと思ってしまうな。

「とは言え、壁の生えた界隈は中域だ。それなりに腕の立つヤツでも、ちょっとしたミスが命取りになる。オマエさんみたいな初心者には間違っても勧められねぇな」

「いえいえ、情報を頂けただけでも幸いです。ありがとうございます」

 中域、中域である。魔導貴族の言葉に従えば、たしか地図の引かれている領域だったろうか。沿岸部に次いで安全であり、同時に深部に次いで危険でもある、正直、判断に困る中間層だ。

「どうしてもって言うなら、悪いことは言わねぇ、絶対に一人で向かうような真似はするな? 暗黒大陸をソロで闊歩できるヤツなんて、この界隈でも片手に数えるほどしかいねぇのが実情だ」

「そうなんですか?」

「当然だろ? 普通は最低でも四人以上のパーティーで挑むもんだ。それも攻略速度を優先した精鋭での話であって、大抵は十人ほどで挑戦するのが一般的だな。ここ最近は大陸の生き物も活発化してきている」

「なるほど」

 実際に暗黒大陸のモンスター共と追いかけっこした感触から、たしかにそれくらいは欲しいと思う。寝ている間の番だって必要だし、誰かが負傷した時、これを引っ張ってゆく為の人員も求められる。

 当然、前衛と後衛で求められる技術が大きく隔たる都合、必要とされる役割分だけ人員は必要だし、これを昼夜でローテーションさせれば、自然とそのくらいの数になるだろう。余裕を持って三交代にするなら更に増える。

 だと言うに、それでもソロ攻略とかしちゃってるヤツが多少なりとも存在するというのだから、なかなか人類の可能性というヤツを感じさせてくれるじゃないか。果たして人はどこまでレベルを上げられるのだろうね。

「まあ、テメェを向かえるようなパーティーがあったら、の話だけどな」

「そうですね……」

 どうしよう。

 駄目かも知れないけれど、もしかしたら拾って貰えるかも知れない。ここは一つ、店員ロドリゲスの言葉に従い、そこいらのパーティーに加えて頂けないか交渉してみようではないか。いつかチーム乱交に拾われた際のよう、意外と何とかなるかもだろ。

「ちょっと話をしてみます。ありがとうございました」

「おうよ」

 ロドリゲスに会釈を一つして、カウンターの傍らを離れる。

 向かった先は冒険野郎共に賑わう界隈だ。

 それとなく耳を建てた限りであっても、あちらこちらでパーティーの合併協議が繰り広げられている。多くはより強いパーティーと組んで、自分たちの生存率を上げるべくの行いである。是非とも混ぜて頂きたい。

「こっちは前衛五に後衛三だ。後衛が強いところと組みたいっ! 特に回復魔法に手厚いパーティーがいたら頼むっ!」「召喚士はいねぇか? 召喚士っ! 足の早いヤツを召喚できるやつ!」「大規模殲滅魔法を使えるヤツがいたら声を上げてくれ、こっちはかなり盾が厚い。守り切る自信があるぜっ!」

「無詠唱魔法の使い手がいたら来てくれっ! 少数で一気に駆け抜けるつもりだ!」「殲滅力に自信があるやつ、或いは自信があるパーティーはいないかっ!? こっち守りには定評がある!」「目と耳と勘の良い斥候はいらねぇか? 今なら空いてるぜ!」「属性支援の出来る後衛、頼む、居たら声を掛けてくれっ!」

 なんかネトゲの臨公広場みたいなことになってる。

 スゲェ楽しそう。

 こういうの、ちょっとワクワクしてくるじゃんね。

 あれこれと聞こえてくる声から、暗黒大陸における戦闘事情を収集だ。下手に声を掛けても、今の自分の姿格好ではお断りされるのが目に見えている。故になんとかして他所のパーティーへ入り込む為、先立っての情報収集である。

 自然と視線は移ろって、あっちへキョロキョロ、こっちへキョロキョロ。目を向けた先々から声は聞こえてくる。

 しばらくを耳としていれば、ある程度だけ事情が掴めてきた。

 どうやら同所では回復魔法に対する需要より、攻撃魔法に対する需要の方が多かったりするようだ。これは推測だが、この辺りの敵はHPがやたらと高い上に、防御力も軒並み上昇している点から、有効打を与えることが難しい為だろう。

 それに準じる形で次点にバイキルト職の需要が続く。

 回復魔法はその後だ。

 首都カリスにおいては一方的な売り手市場であった回復屋さん。その需要の落ち込みははひとえに、癒やしの対象がどこまで行っても同じ仲間である為だろう。求められる難易度はある一定水準まで達すれば、そこから先は誰もが頭打ち。

 きっと失った手足を瞬時に生やす程度のパワーは皆々が備えており、逆に言えば、その程度の力があれば十分で、それ以上は求めることが不可能であり、故に求められることもない、といったところで落ち着いて思える。

 ちなみに最も需要が高いのは、物理で殴って有効打を与えられるタイプの前衛らしい。こちらに関しては募集しても碌に集まらないようで、そもそも声に上がることがない。大抵の手合は既にパーティーの中核を担っているのだろう。

「…………」

 ネトゲの高難易度ダンジョンっぽいところが凄くイイ。

 興奮する。

 目の前に立ってるネーチャンの半ケツ揉みたい。

「……よし」

 チャレンジ暗黒大陸一年生。

 需要と供給を思えば、攻めの後衛として応募したい。しかしながら、使える攻撃魔法がファイアボールに限られる現状、採用は難しいだろう。なので当面は回復魔法推しでパーティーへの参加を試みることとする。

 数少ない回復屋さん募集中となるパーティーの中でも、取り分け女性比率の高いパーティーへ向かい足を動かす。八人パーティーで内六人が女性という準ハーレム仕様である。胸が大きく凛々しくも美しい美女ばかりから成る編成だ。

 それとなく近づく。

 精一杯、自分がイケてると思う表情を浮かべて、トライ。

「あの、すみません。回復魔法を使える方を探していらっしゃるのですよね? でしたら、それなりに自信があるのですが、よろしければご一緒させては貰えませんか? 他に料理や荷物持ちなども頑張れますので」

「……あぁ?」

「あ、いえ、その、パーティーメンバーとして後衛を募集していると、お声を耳にしましたので、もしよろしければ私を加入させていただけないかなと。多少であれば攻撃魔法の方も使えますので、どうでしょう? お願いできませんでしょうか?」

 パーティーメンバーを募集する旨、声を挙げていた女性にお声掛け。

 艶やかな黒髪も麗しい、二十代前半と思しきおねーちゃんである。その豊満な胸を綺麗に納める赤褐色の金属鎧は、まず間違いなく特注品だろう。腰には太めの剣を差しており、彼女が前衛を勤める戦士だろうことが窺える。

「…………」

「……どうでしょうか?」

 そんな彼女から向けられた視線はと言えば、動物園のふれあい広場で、園外より紛れ込んだ小汚い野良猫でも見つけたよう。スゥと瞳を細めると共に、こちらの姿格好を上から下まで一巡するよう眺める。それは彼女の他、傍らに立つ他の女性メンバーも同様だ。

 然る後に戻ってきたお返事は、とても短いものだった。

「悪いが他を当たって欲しい」

「……はい」

 撃沈だ。速攻だったぜ。

 ちくしょう。

 だが、回復屋さんを求めるパーティーは他にもある。

 たった一度のチャレンジで挫けるようなら、今日日三十余歳まで生きながらえていない。人生ハードモードは慣れている。若返りの秘薬を得る為だ。惨めに這いつくばってでも、相手の靴をペロペロする勢いで就職活動に挑む。むしろペロペロしたい。

「よしっ」

 次点で女性率の高いパーティーに向かおうじゃないか。

 少しタレ気味な爆乳の美魔女エルフが所属しているあのパーティー。

 良いじゃない。良いじゃない。



◇◆◇



 結論から言うと、パーティー選考には全部落ちた。

 Fラン文系も真っ青。

 お祈りされること二桁オーバー。

 最終的にはあっちへふらふら、こっちへふらふら、声を掛けまくる自分という存在が、同所で浮いてしまい、誰も話を聞いてくれない事態にまで陥ったところで、ゲームオーバーと相成った次第である。

「……どうしよ」

 マジどうしよ。

 これちょっと寂しすぎるだろう。十数年ぶりに、はーい、二人組作って、を思い出す。前後のコンテキストが皆無でも、その響きだけでお腹痛くなるよな。会社に入ってからは人事も上からの命令で決まるから、この点に関してだけは本当に良かった。

 あぁ、今は過去を振り返っている場合じゃないな。

 未来に向けて努力しないと。

 けれど、努力すべき対象が全て失われたとなってはどうしたものか。

「すみません、ロドリゲスさん。私と一緒に冒険してくれませんか?」

「……オマエ、いい加減に諦めろよ」

「…………」

 最後の希望にも振られてしまった。

 きっと最初の方で女性率の高いパーティーから順に声を掛けていった点も響いているのだろう。周囲から向けられる視線が厳しい気がする。婚活パーティーの折、覚悟を決めてガツガツと攻めた時分の記憶が蘇る。ちょうどこんな感じだった

 でも、オッパイは最高だからな。この点だけは絶対に譲れない。

 横乳見えるアーマー装備している前衛さんと共闘したい。

「繰り返しになるが、ここは素人が何日も生き残れるほど甘くはねぇぞ?」

「ですが……」

 店員ロドリゲスにたしなめられる。

 いちいち付き合ってくれるコイツ、意外と良いヤツだな、

 ちょっと心がほっこりする。

「悪いことは言わねぇ、さっさと国に帰って畑でも耕してろ」

「…………」

 そうは言っても、易々と諦められるものではない。

 若返りの秘薬が懸かっているのだ。

 先日と同様に現地まで空を飛んでいって、という作戦が取れない訳でもない。ただ、暗黒大陸の空は危険だ。飛び立って早々、わらわらと飛行系モンスターが集まってくるのだ。まさか、そのままグリーンシルフの集落にお邪魔する訳にはいかないだろう。

 トレインをぶつけるのはマナー違反である。グリーンシルフという生き物がどの程度の力を備えているかは知れない。ただ、エディタ先生から教わったところを思い起こせば、あの連中と競って勝るとは思えない。

 他方、かと言って倒しきるのも骨である。奴らは際限なく集まってくる。どれだけファイアボールすれば良いか、知れたものじゃない。一体一体がマゾ奴隷並に強キャラであるから、割と命がけの選択である。

 そうなると地上をえっちらおっちら歩いて向かうのが最善なのだ。

 だからどうしても、ここでパーティーに参加したい。

「…………」

 もしも暗黒大陸を自由に散歩できる輩が居るとすれば、それはきっとクリスティーナ並に高いステータスを持った手合だろう。図体の大きさもヤツほどの規模があれば、恐らくだが空を飛んでも狙われることはあるまい。

 昨日に見たグレートドラゴンとやらも、ドラゴン形態のロリゴンほど大きくはなかった。レベル的にも、ステータス的にも、ドラゴン序列的に考えて、後者のほうが圧倒的に上であることは間違いない。

 ちくしょう、ロリゴンと一緒に来れば良かった。

 もしも次に機会があったら水先案内人をお願いしよう。

 その為には不浄の鱗の千枚や一万枚くらいは余裕でぺろぺろさせて下さい。

「お、また騒動に釣られて客が来やがった」

 店員ロドリゲスが呟いた。

 その視線が向かう先は同店の出入口である。自然と自身もまた注目だろうか。ギィと小気味良い音を立てて、ウェスタンドアが開く。

 やって来たのは見知った相手だった。

 腰下まで伸びた長い銀髪を靡かせて歩むこと早々、彼女は向かう先、こちらの姿を見つけて身を強ばらせた。同時に呻くような声が上がる。

「なっ!?」

 裏切りのダークエルフだ。

 いつぞや紛争の折、類まれなる斬撃を披露してみせた褐色グラマラスだ。

 まさかこのような場所で再会するとは思わなかった。

「これはこれは、お久しぶりですね。数週ぶりでしょうか?」

「き、貴様っ……どうしてこのような場所にっ……」

 酷く驚いた様子で見つめられる。

「それはこちらの台詞ですよ。まさか暗黒大陸に足を運んでいらっしゃるとは」

 てっきりクリスティーナの魔法で城ごと吹き飛んだとばかり思っていた。いつだか語ってみせた奴隷の証は、確かに外されて首元はスッキリとしたものである。縦ロールがちゃんと約束を守ったのだろう。

「くっ……」

 咄嗟、腰に下げた剣に手を向ける褐色ムチムチ。

 これに即座、待ったを掛けるのが絶賛ハブられ中の醤油顔だ。

 彼女は今この瞬間に同店を訪れたばかり。まだ店内の結束がどのように固まっているのか、知る余地もない。更に言えば、そのお乳の具合は同所においても一二を争うほど。形、大きさ、共に申し分ない。

 褐色肌に自らの黄色肌を埋めて形が変わるほどに強く、強く、じっくりと揉んでみたい。きっと温かいのだろう。手の平に勃起した乳首のツンとあたってコリコリとする感触を楽しみたい。最後は顔を押し付けて深呼吸を繰り返すことスーハースーハー。

 故に先手必勝。

 このチャンス、逃してなるものかスーハー。

「すみませんが、私と一緒にパーティーを組んでは貰えませんか?」

「……あぁ?」

 例によって彼女は、半ギレ顔で唸るように声を上げて見せた。

 マジかよ、言わんばかりの態度である。

「あの後ですが、プッシー共和国の状況はご存知で?」

「っ……」

 どうやら聞き及んでいるらしい。

「今も城は再建中らしいですよ」

「ぐっ……」

「差し当たっては、プッシーと領地を面するフィッツクラレンス子爵が資材の調達など、一貫して面倒を見ているようですね。当の城の主人も今は例の下僕と共に、ペニー帝国へ人質として駐留しております。つい先日にもお会いさせて頂きました」

「うぬぅっ……」

 そうなると今この瞬間、二人のやり取りは自身の独壇場である。彼女がこのような辺境まで、わざわざ足を運んだのも、この身から距離を取る為であろう。仮に十割がそうでなくとも、内幾割かは間違いないと思う。あの時は本当に殺されたと思ったし、当人も少なからず意識している筈だ。

 そこに付け入る隙があるぞ。

「もしもパーティーを組んで下さるのであれば、全てを水に流します。それはもう綺麗さっぱりと。それこそ毎日毎晩、食卓を共にすることもなんら不都合ないほどに流します。ですから、どうでしょうか? お願いできませんか?」

 幾分か緊張した面持ちとなる裏切りのダークエルフ。

 なんとなく彼女ならイケる気がした。だって一度はパーティーを組んだ仲である。こちらの程度に関しては、十分に理解している筈だ。それは場所を暗黒大陸に変えたところで、なんら変わることはない。

 数秒ばかり悩んでから後、彼女はボソリと答えた。

「パーティーというのは、どういったことだ?」

「これから少しばかり、中域と呼ばれる場所の調査に出かけるのです。もちろん、同じパーティーメンバーとなれば、貴方の命を危機に晒すような真似は、絶対にしないと誓います。必ず五体満足で再びこの集落まで送り届けましょう」

「……ほ、本当だろうな?」

 腰が引けている安産型エルフ。

 もう決まったも同然の文句だ。

「それを貴方が問い掛けますか?」

「っ……」

 再三に戦き身を震わせる。

 一緒にオッパイも震わせて、本人の意志はどうあれ、サービス精神旺盛だ。

「よ、良いだろう……」

「ありがとうございます。ご協力に感謝します」

 よっしゃ、仲間を一人ゲットだぜ。



◇◆◇



 最終的に我々のパーティーはといえば、二名体制になった。

 自分とダークムチムチの二人きりだ。他のパーティーと比較して、幾分か寂しい気がしないでもない。しかしながら、一人で向かうよりは遥かに喜ばしい。むしろ美女と二人きりでアドベンチャーできることに喜びを覚えておこう。

 醤油顔と並び立つダークエルフの姿を眺めては、他所から哀れみの視線を感じる。というか、既に幾度か忠告さえ頂戴している。曰く、その男と組むのだけは止めておけと。絶対に後悔するからと。正気の沙汰ではないと。

 ただ、そこは気心の知れたダークムチムチだ。例によって半ギレ顔のまま、フンと小さく鼻を鳴らす限りに過ぎていった。周りから一様に冷たくされている最中、こうして構って貰えると、なんか心が暖かくなるよな。とても嬉しかった。

 そうして、やがては誰も声を掛けなくなり、今に至る。

「最初に謎を解明するのは常に我々学園都市の研究団である!」

 パーティー編成を終えたのは我々に限らない。

 他でも調整を終えた集まりがちらほらと。

 今まさに声が挙がったところは、当人が宣言したとおり、学園都市のお偉いさん方である。十代から六十代までの幅広い歳柄と、ほぼ全てを後衛職により構成する点が、同所においても一際目を引く一団だろうか。

 リーダーだろう最年長の男性が吠えるに応じて、皆々、店を発ってゆく。

 これに続く形で東西の勇者パーティー、なんとかというアウトローの混成パーティー、ハーレムパーティー、その他諸々、我先にと出発してゆく冒険者たち。その足取りは随分としっかりしたもの。

 決して嫌々と向かう輩はいない。

 これは我々も続くしかあるまい。

「それでは我々も出発しましょう」

「……やはり行くのか?」

「当然です、その為のパーティーなのですから」

「…………」

 少なからず躊躇して思えるのは、やはり同所がそれだけ危険に満ちた場所だからだろう。マゾ魔族並みのモンスターがあちらこちらに闊歩している界隈だ。

 一方で酷く慌てた調子から声を掛けてくるのが店員ロドリゲス。

「ちょ、お、おいっ! テメェ、そのエルフと二人で行くつもりかっ!?」

「ええ、そうなりますね」

「やめておけっ! テメェが一人で死ぬ分には構わねぇが、他を巻き込むなっ!」

「おみやげには期待していてくださいね」

「あ、おいこらっ! だから待ちやがれっ!」

 今のヤツには何を語ったところで無駄だろう。

 全力ですっとぼけると共にムチムチボンバーを誘って店を後とする。カランコロン、ドアに付けられた鈴の鳴る乾いた音が、店員の続ける罵詈雑言に代わって、我々を小気味良く送り出してくれた。

 それから歩くことしばらく。

 大して時間を掛けずに辿り着いた先が集落の出入口だ。

 そこから先は急な上り坂が続く。人の足に踏み固められた野道と、その脇に茂る木々が印象的だ。なんでもこれを越えたところに丘があって、それより続くのが深い森とのこと。問題のストーンウォールは、その森の只中にあるのだそうな。

 一連の流れを内陸部側から捉えると、切り立った海蝕崖の下、僅かばかり存在する海岸沿いの陸地に集落がある、みたいな位置関係だ。集落には定期的に船が出入りしており、これが外界と暗黒大陸を繋ぐ数少ないルートの一つだと店員ロドリゲスは語っていた。

 大きな崖の存在が、人の営みを大陸の化け物たちから、上手い具合に隠しているのだと思う。そう考えると、なるほど、沿岸部とは良く言った言葉である。

 崖の麓から海面までの距離を鑑みるに、凡そ一般的な海蝕崖とは思えない。一般的には崖のすぐ下に海が位置する。その生い立ちに少なからず興味だろうか。なにがどうしてこうなったとばかり。

「この辺りはまだ穏やかですね。歩くのにも楽で助かります」

「……問題は丘を越えてからだ」

「ええ、どうやらそのようですね」

 声を掛ければ、ちゃんとお返事をくれるムチムチボンバー。

 相変わらずそういったところが童貞的に極めて喜ばしい。

「こうして貴方をパーティーを組むのは、いつぞやの紛争以来でしょうか」

「……嫌味か?」

「いえいえ、とんでもない。私としては仲良くやっていけたらと」

 やっぱりパーティーを組むなら可愛い女の子に限るよな。

 やる気が段違いだもの。

 しかしながら問題の相棒はと言えば、一貫して相変わらずの半ギレ顔だ。

 いつか満面の笑みを浮かべるダークムチムチを拝んでみたい。

「また首を切られたいのか?」

「そんなに私の首が欲しいですか?」

「誰が欲しいかっ」

「それなら問題はありませんね」

「くっ、こ、このっ、ああ言えばこう言う……」

 事前に仕入れた情報に従い、さくさくと小気味良い音を立てて落ち葉を踏みしめながら歩む。互いに左右へ並んで、適当に軽口など叩き合いながらのこと。いいね。なんかいいね。こういうパーティー感、今後とも大切にしてゆきたい。

「それよりも無事に奴隷を脱せられたようで、なによりです」

「……ふん、余計なお世話だ」

「あの後はどうされました?」

「べ、別に、どうもこうもあるかっ!」

 同じ女性と会話をするでも、お金を払って頂戴するガールズバーでの接待トークより、悪態ばかりであっても、無料で頂ける客先でのクレームのほうが非モテ的には価値があると主張したい。大切なのはフリー。フリーなコミュニケーションだ。

「ところで、どうして暗黒大陸に?」

「そ、それは……」

「まさか私から逃げる為に?」

「っ……」

 おう、予想したとおりビンゴ。

 せっかく逃げ出した先で、こうして鉢合わせとは運のないエルフさんだ。きっとLUKとか低いに違いあるまい。ああ、そう言えばこの子、ステータスはどの程度だろうね。思えば一度も確認したことがなかったよ。

 マゾ魔族を恐れていた点から、それ以上とは思えないけれど。



名前:ダーク・ブー
性別:女
種族:ダークエルフ
レベル:78
ジョブ:暗殺者
HP:28850/28850
MP:9000/9000
STR:9300
VIT:11000
DEX:9821
AGI:11030
INT:10942
LUC:101



 なんだよ、意外と強いじゃん。

 暗黒大陸へやって来たのも、少なからず自信と勝機を伴ってのことだろう。しかしながら規格的には人類の枠から逸脱したものでない。やはり同界隈においては、争いを避けて進むべきだろう。

 ここではレベル四桁超えじゃないと大きい顔できない気がする。

「……なんだ、ジロジロと人のことを見て」

「いえ、以前に出会ってから変わらず、とても魅力的な方だなと」

「はっ! 奴隷を相手に手も出さなかったヤツが世辞ばかり言ってくれる」

「良い女を前にすると、男は躊躇してしまうものなのですよ」

 っていうか、出したら出したで切りかかってくる癖にさ。

 ちょっとムラムラしてきたぞ。性奴隷にしたい欲の高まりを感じる。なにせこのブーちゃん、装備が意外とエッチなのだ。界隈では多くの前衛が全身鎧に身を固めている一方で、彼女は基本を皮として、要所要所を金属プレートに覆う形である。

 手首から足首まで包まれている為、肌の露出こそ少ない。しかしながら、体型が如実に浮かび上がる柔らかな素材の着用は、否応なく彼女の立派な胸と荘厳なお尻とを遺憾なく主張させてムチムチ。

 胸当てとか取ったら、乳首の浮かび上がる様子が窺えるのではなかろうか。その巨乳を納められるだけの金属鎧を、ワンオフで都合する余裕が懐になかったのだろう。中古で売り払うことも難しいだろうから、武器と異なり資産性も乏しいし。

「……………」

 いかんな。

 想像したらちょっと固くなりそうだ。

 自重しないと。

「ふん、勝手に言っていろ」

「向こう数日を共に過ごすのですから、仲良くやりましょうよ」

「だ、誰が仲良くなどっ……」

 ああだこうだと言い合いながら微速前進。

 問題の崖を超えて、続くところ丘も過ぎて、歩みは沿岸部を脱して以後、いよいよ暗黒大陸が誇る中域へと至る。ここまでは取り立てて問題もなく過ぎていった。モンスターの類と遭遇することもなかった。

 道も人の足に踏み固められており、邪魔な木々の枝も打ち払われた形跡がそこらかしこに確認できた。ちょっとしたハイキングコースといった具合だ。おかげで朗らかな談笑と共に心地よく歩むことができた。

 しかしながら、ここから先はそうもゆくまい。

「気を引き締めて行きましょう」

「いちいち言われるまでもない」

「フェニックスやグレートドラゴンが出たら逃げる感じで」

「あぁ? そんな連中がこの浅いところに出現する訳がないだろう」

「なるほど」

 連中は分布していないのか。

 それならそれで願ったりかなったりだが。

「まあ、いずれにせよ緊張感を持って行きましょう」

「いちいち貴様に言われずとも理解しているっ」

 手に下げていた大剣を改めて握り直したダークムチムチ。売り言葉に買い言葉、自然と軽口は流れてくるが、それでも意識は目前に迫った森に向けられて思える。この様子であれば、妙なことにはなるまいて。

 後は上手いこと自分が彼女と連携する限り。

「すみませんが、例によって先に進んで頂いても良いですか?」

「何故だ? 以前は魔族を相手に大立ち回りしていたではないか」

「それはなんというか、ほら、あれですよ」

「貴様はバカか? あれとはなんだと聞いているんだ」

「……虫とか飛び出してきそうでして」

「…………」

「怪しそうな樹の枝とか、事前に切り飛ばして貰えると幸いです」

 虫だけは嫌なんだよ。しかもここは暗黒大陸である。

 きっと虫の連中も漏れなくレベル高いに決まってる。カラフルなアマゾン系とか、触ったら臭い汁が出る系とか、絶対に潜んでるって。万が一にも顔に張り付かれた日には、近隣一体をファイアボールで更地にする自信あるわ。

「……相変わらずふざけた男だ」

「すみませんが、お願いできませんか?」

「…………」

 素直に頭を下げると、無言で一歩を踏み出すダークムチムチ。手にした大剣でそれとなく樹の枝を飛ばしながら、道を作ってくれる。保身から大局には堂々と裏切ってみせる一方、細かいところでは思ったよりも良い奴だ。

 案外、平穏に暮らす限りであれば、素敵なお嫁さんになってくれるのかもしれない。

 また更に今更ながら気づく。彼女の後を追従するということは、そのご立派なヒップを拝みつつのハイキング。腰回りに設えられた金属プレートの下、太腿の付け根のあたりに尻肉の潜む様子がチラリチラリと窺えて、一歩を踏み出す勇気となる。

 太もも周りは皮のアンダースーツに覆う限りだから全力でムチムチ来てる。

「…………」

「…………」

 堪りませんな。

 それからしばらくは言葉数も少なく、森林地帯を黙々と進んだ。

 木々の合間からは店員ロドリゲスの言葉通り、背の高い壁の存在が窺える。つい先日に建てたばかりのストーンウォールだ。頑張った甲斐あって、非常に良い目印となっている。これならば森歩きに疎い自分でも、迷うことなく地上から辿り着くことができる。

 空の高いところに目印を得たことで、だいぶ前後の見通しが立ってきた。自然と人心地である。一歩、若返りの秘薬に近づいた気がして、少なからず心がワクワクと踊り始めるのを感じていた。

 それから半刻ばかり経っただろうか。

 段々と身体が温まってきた頃合いの出来事だった。

「ぎゃぁあああああああああああ!」

 どこからともなく悲鳴が響いた。

 自分ではない。

 ブーちゃんでもない。

 鬱蒼と茂る木々の向こう側から響いて聞こえた。

「今の悲鳴は……」

「あぁ、かなり近いな」

 相棒の表情が強張ると同時、剣を構える手に力が入る。応じて腕や太腿の筋肉が少しばかり盛り上がりを見せる。筋肉のある女の子は素晴らしい。普段はぽにゃぽにゃしてて柔らかいのだけれど、本気モードになると強張る感じがグッド。

 人とは自分には備わらないものを異性に求めてしまう生き物だ。お腹に筋肉の割れ目が浮かび上がる様子とか、出不精の社畜野郎には眩しすぎる。ジムの会員権とか購入から一週間でロスト余裕だろう。

 そういった点では、ゾフィーちゃんとかドンピシャなんだよな。

 ロリ腹筋。

 どうにかしてゾフィーちゃんの腹筋の凹凸を確認できないだろうか。

「どうする?」

「助けに向かいましょう。恐らくはあの店に居た方々の誰かです」

「ここは暗黒大陸だ。他人に構っている余裕があるのか?」

 そう言われると痛い。

 フェニックスのヤツが三匹くらい群れてたら、まさか誰かを守りながら戦うなど不可能だ。逃げることすら儘ならない。ダークムチムチはこの辺りに分布していないと言っていたけれど、似たようなステータスのモンスターが出てくる可能性もゼロではない。

 過去にマゾ魔族やロリゴンとエンカウントした記憶が警笛を鳴らす。

「それでは隠れて様子を窺うところからで」

「……ふん、相変わらずおかしな男だな」

 隊列を変更することフロントをブサメン、バックをナイスバディーという布陣。完璧だな。今度は自分がお尻を見られる側だ。ああ、お尻に限らず、自分という存在が見られていると思うと、これはこれで悪くない気がしたぞ。美女に捕捉されている感じが。

 素早く慎重に、草木の合間を抜けて声の聞こえてきた側に向かう。

 すると二、三十メートルばかり進んだところ、その光景は飛び込んできた。

 木々の打ち払われて、少しばかり開けた広場的空間でのこと。

「おいおいおい、マジやべぇよフィリップッ! 死ぬんじゃねぇよぉおおおっ!」

「ちくしょう、ちくしょう、オマエだけでも逃げろよっ、アレクサンダーッ!」

 地面に膝を突いた男、推定アレクサンダーが、ぐったりと地面に横たわる別の男、恐らくフィリップを抱きかかえている。前者は腹が破られて今にも死にそう。後者もまた頭部に傷をおっており、赤いものが額から目元を伝い垂れている。

 どっちも金髪ロンゲのイケメン。

 しかも双子を思わせるクリソツ具合。

 その風貌は極めてジャニってる。

 特に後者の血の垂れ方とか最高に格好の良い垂れ方だ。眦の横を過ぎて顎に向かうライン。仮にそこいらの飲食店で、壁の出っ張りへ頭をぶつけたが為の出血であったとしても、この垂れ方だったら誇れる。

「アレクサンダーとフィリップは逃げてくださいっ!」「ここは私たちが引き受けますっ!」「決して貴方たちを死なせたりはしないわっ!」「必ず後から追いつく、だから今ここは引いてっ!」「どうか、お願いだから逃げ延びてっ!」

 そんな彼らに声を掛けるのが、二人を庇うよう前線に立つ女たち。誰も彼もは満身創痍で、傍目にも決して無事とはいえない有り様。それで尚も男を優先するべく声を張り上げる姿のなんと甲斐甲斐しいこと。

 しかも彼女たちには見覚えがあるぞ。めし処スザンヌで一番最初に声を掛けたパーティーだ。女性率が最も高かったハーレム系パーティーだ。やっぱりハーレムだった訳だ。これは偶然でなく必然。

 最高に愛され男子してるな、フィリップとアレクサンダーめ。

「待て、それじゃあオマエらがっ……」

 そんな彼らに対して、彼女たちは声高らかにも訴える。

「私たちはいいのっ! だから早く逃げてっ!」「貴方たちさえ生きていてくれれば良いのっ!」「自分だけの身体ではないのよっ!?」「べ、別に貴方の為じゃないんだからねっ!」「この程度のモンスター、なんてことないのだからっ!」「そのとおりよ!」

 これがイケメンの実力か。

 他方、そうしたハーレムパーティーに対して、一方的に荒ぶってみせる敵モンスターはと言えば、どんなもんだ。意識を彼らより他に向ける。すると、そこに見つけたのは、読んで字のごとく化け物というやつだ。

 外見はペニスに触手が生えたような形をしている。身の丈五メートルほどで、竿となる中央の幹には、裏筋相当の部位に巨大な目が生えており、これがギョロリギョロリと周囲の様子を窺うよう忙しなく動いている。

 完全に陵辱要因だ。ドラゴンシティのスラム街に是非欲しい逸材である。ただ、惜しむべくは数多生えた触手が致すところ、ハーレム構成員たちの命を的確に狙っている点だろう。もう少し邪な生態を備えていてくれたらとは、とても残念だよ肉バイブ君。

「……どうするんだ?」

 しばらくを眺めていると、不意に傍らへ人の気配が生まれた。

 木々の影にしゃがみ込んだ自身のすぐ近く、ダークエルフが身を寄せてきた。

 サイドアタックだ。

「流石にローパー二体はキツイか?」

「なるほど、あれはローパーというのですね」

 思わぬ急接近にドキッとする。割と本気でドキッとする。

 すぐ近くにムチムチボディーがしゃがみ込んで、自らの見つめる先と同じところを窺っている。肩と肩が触れ合う距離だ。それとなく視線を顔から下に落とせば、お乳を真横から見下ろすという、彼氏の立ち位置的風景が続く。

 良いぞ。このポジション、凄く良いぞ。

 正面から眺めるより、精神的に近いところで異性を感じられる。

「イビルローパーだ。通常のローパーとは別次元の代物だろう」

「…………」

「とは言え、高位の魔族と比較すれば遥かに劣るだろうがな」

 おかげでダークムチムチの汗の匂いも、かなり濃厚に届けられる。女臭い感じが中年野郎の心をグッと掴んで離さない。少しくらい臭い方が興奮する。エステルちゃんやエディタ先生は、どちらかと言えば無臭だ。あぁ、そういう意味だと最近のソフィアちゃんは臭くて良い。きっとストレス性のワキガである。

「そうですね……」

 とりあえず、敵モンスターのステータスを確認しよう。



名前:ネイチャー
性別:男
種族:イビルローパー
レベル:201
ジョブ:ハンター
HP:213010/213010
MP:100705/100705
STR:17900
VIT:15900
DEX:23900
AGI:11500
INT:11200
LUC:21000



名前:ドリトス
性別:男
種族:イビルローパー
レベル:209
ジョブ:ハンター
HP:200010/200010
MP:110001/110001
STR:18000
VIT:14010
DEX:28002
AGI:12035
INT:12100
LUC:19100



 ほう、レッドドラゴンと同じくらいだ。

 ペペ山当時の自分では苦労したかも知れないが、あれやこれやでレベル三桁を越えた今なら、更にストーンウォールという素敵魔法を手に入れた現在であれば、決して下せない相手ではないだろう。二匹ならきっと大丈夫。

「おそらく私一人でも対応可能ですので、助けることにしましょう」

「……本当か?」

「一応、貴方はここに隠れていて下さい。万が一のときは逃げて下さい」

「如何に劣るとは言え、イビルローパー二体だぞ? ヤツの毒は……」

「それでは行ってきますね」

「あ、おいっ……」

 挨拶も早々、イビルローパーとやらの下へ。

 覚悟を決めたところで、草陰から勢い良く飛び出す。どうやら敵モンスターはこちらの存在に気づいていなかったよう。急に現れた第三者の存在を受けて、ビクリ、電源の入れられた電動バイブのように幹の部分が大きくしなる。目玉がこちらに向かう。

 それはハーレムな彼ら彼女らも同様であって、何事かとばかり、酷く驚いた様子で意識を向けてくれる。このような場所だ。騒動を聞きつけて、他にモンスターがやって来たとでも思ったのだろう。

 残念、醤油顔でした。

「そこから動かないで下さいっ!」

 ブサメンが現れた。

 ブサメンの攻撃。

「ファイアボールっ!」

 別に叫ぶ必要もないけれど、こういうのは演出が大切だ。

 短く指示を出すと共に吠える。

 お気に入りの火炎魔法でまずは一匹、近い位置で争っていた個体を狙う。数十ばかり、バレーボール大の火球が対象の周りに浮かび上がる。数瞬の後、頭部を狙うよう一斉に動いて次々と着弾した。

 敵の図体が縦に長くて助かった。そうでなければ他にハーレムたちを巻き込んでいた可能性が高い。今後パーティーでの戦いを考えるのであれば、前衛との連携も考慮して魔法の使い道を考える必要がありそうだ。

「ヒールっ!」

 お腹の破けてしまったフィリップ君には回復魔法をプレゼント。

 回復魔法の呼称はヒールで正解だろうか。

 まあいいや、適当で。

 効果の程には関係がない。

「だ、誰っ!?」「ファイアボールですってっ!?」「イビルローパーをい、一撃で倒しきったっ!?」「そんなっ! イビルローパーの魔法耐性はレッドドラゴンのそれを上回るのですよっ!?」「なんということっ……」「ありえませんわっ!」

 驚きの声はどこからともなく。

 一つではない。あちらこちらから、墓場に幽霊でも見つけたよう、慄くような響きが伝わっては聞こえてくる。その多くはハーレム構成員たちが発するものであるから、おう、なかなか悪くない気分だ。

 残る一匹のバイブも、仲間が倒れたことで少なからず慄いたよう、これまで争っていた女の子たちから距離を取るよう、大きく後ろに飛び退いた。幹が大きく撓ってから、ピョンと後ろに跳ねて動く様子は、コミカルで少し可愛らしい。

 これに一瞬、頬を緩ませそうになったところで、いかんいかん。

 表情を引き締めると共に、闘いの場を悠然と歩んで広場中央に向かう。

 そうして言うのさ。

「ここは私に任せて下さい」

 決まったな。

 俺カッコイイ。

 ファイアボールの炸裂と同時、場を保っていたハーレム構成員たちの視線が、倒されたモンスターから、一撃を放った元へと移る。

 そんな彼女たちの表情はと言えば、驚愕の只中、酷くバツの悪そうである。げ、コイツかよ、みたいな。完全に想定外であったと言わんばかり。

 当然と言えば当然だ。

 伊達にパーティー入りを断られていない。

「あ、貴方は……」

 一際背の高いイイオンナが、恐る恐るといった様子で呟いた。

 パーティー加入の交渉に際しては、面接を担当してくれた女性だ。

 ちなみにパーティーの主役である男性二名とは挨拶すらしていない。彼女らが腰掛けた席とは別、めし処スザンヌ店内の奥まった場所に腰を掛けていた彼らだから、顔合わせをする猶予すら与えられなかった。

 ハーレムバリアー強し。

 まあ、その点はなんら不満でないけれど。

「お話は後にしましょう。まずは残る一体を処理します」

「……分かりました」

 さぁ、パパっとやってしまおう。

 一連の騒動を嗅ぎつけて、他にモンスターが集まってきては大変だ。



◇◆◇



 それから数分と要さずに、残るイビルローパーは打倒された。

 一匹目と同様にファイアボールで一発だった。

 ギャースと悲鳴を上げて倒れたモンスター。その亡骸がピクリとも動かなくなったことを確認して、茂みに隠れていたダークムチムチが姿を現した。どうやら今の今までこちらの様子を伺っていたよう。

 これを受けてはハーレム一同、他男性二名、全員が全員、今度はなんだとばかり咄嗟に身構える。危地に晒されたことで色々と過敏になっているのだろう。ダークムチムチの姿を確認したところで、ようやっと緊張の解ける気配が伝わった。

「……本当に倒したな」

 なにが気に入らないのか、いつもの半ギレ調子に語ってくれる。

「ええまあ、おかげさまで」

「ふん、なにがおかげさまだ」

 短く呟いて、そっぽを向く唯一無二のパーティーメンバー。どこに至らない点があったのか。女心というやつはサッパリ分からない。果たして理解する日が来るのか。正直、その日が想像できない。

「…………」

「……どうした? なにか言いたいことがあるのか?」

「いえ、そういう訳では……」

 そんな彼女にハーレムリーダーの女性が語りかける。

「貴方は確か、そこの彼とパーティーを組んでいらした……」

 めし処スザンヌでのやり取りを見ていたのだろう。

 恐らくは自分に真っ向から話かけるよりも、ダークムチムチを間に挟んだほうがやりやすいと考えたに違いない。その意見には賛成だ。ハーレムリーダーなどしているから、てっきりメンヘラかと思ったけれど、わりと社交性が高そうだぞ。

「……だったらなんだ?」

 ただ、残念ながらこのムチムチは愛想がない。

 コミュ力が全てオッパイとお尻に向かってしまったタイプの美女だ。

 トークの相手としては些か問題がある。

「い、いや、まさか本当に二人で来ているとは思わなかったので……」

「そこの男の強さは理解しただろう? 一人でも行けたんだよ、そいつは」

「…………」

 ただ、もう少し丁寧に対応してくれてもバチは当たらないと思うんだダークムチムチ。それだとこっちが悪いヤツみたいじゃないか。女の子と一緒にパーティーしたかっただけのナンパ男みたいじゃないか。

 とか考えたところで、それって案外正しいのではと自問自答。

 正直、八割くらい彼女の言葉通りだったかも知れない。

 美女とパーティー組みたかった。

 ただ、道中を一人で進めたとは決して思っていない。

 その一点は間違いないぞ。

「いいえ、決して一人で進めるなどとは驕っておりませんよ。暗黒大陸の厳しさは少なからず理解しているつもりです。だからこそ、共に歩む仲間ほど大切なものはないと、肌を持って感じております」

 伊達に巨大な壁を作っていない。

 割と必至だった。

 命がけの鬼ごっこだった。

「よくまあスラスラと語れるものだな?」

「真実ですからね」

「……ふんっ」

 早々、そっぽを向いてしまうダークエルフ。

 おかげで交渉の場は自然とこちらに流れてきた。

「……あの、一つよろしいでしょうか」

 ハーレムリーダーのイイオンナからお問い合わせ。

「なんですか?」

「もしも可能であれば、私たちも貴方たちのパーティーに入れて貰えませんか? 暗黒大陸ではそれなりに経験を積んだつもりでした。しかし、どうやらこのままでは、沿岸部へ戻ることにも危険を伴うでしょう」

「それは構いませんけれど、他の方々は……」

「もしも私たちが気に入らないというのであれば、すみません、あの二人だけでも加えては貰えませんか? どうか、このとおりです。お願いします。進むにも戻るにも、我々では彼らを無事に守り切ることができそうにないのです」

 よりによってパーティーに籍を置く、数少ない男性二名を視線に指し示して呟くイイオンナ。つい先程に聞こえてきた覚悟の咆哮は決して伊達ではないよう。この期に及んで彼らイケメンブラザーズが大切なのだろう。

 見上げた面食い根性だ。

「私たちに叶うことならば、全てお応えさせて頂きます。金銭も、装備も、貞操も、全てお譲りします。ですから、どうか彼らだけでも、パーティーに加えて頂けませんか? 不躾なお願いとなり大変に申し訳ありませんが……」

 そんなことをいきなり言われても、一度はパーティー加入を断られた手前、やったぞ、本懐達成うれしいな。素敵なご提案をありがとうございます。しかもエッチなやり取りも応相談とか、そういうお取引、一度で良いから受けてみたかった。

「構いませんよ。貴方も含めて皆さん一緒に向かいましょう」

 まさか男だけとか嫌じゃんね。

 むしろ女の子の方が本体だ。コアメンバーってヤツだよ。

「よ、良いのですか? 私たちはめし処スザンヌで貴方を……」

「こういった場所では助け合いの精神こそ大切でしょう」

「…………」

 しかしなんだ、台詞の端々でめし処スザンヌ言われると、どうにも会話のテンポが乱れるのを感じる。何故もう少し格好の良い名前を付けなかったのか店員ロドリゲス。いや、ヤツもここまで自身の店が繁盛するとは思わなかったのだろう。

「それとも我々と一緒では嫌ですか? 無理にとは言いませんが」

「まさか、そ、そのような筈がないっ!」

「であれば問題はありませんね」

 紆余曲折の末、ハーレムパーティーが仲間に加わった。

 嬉しいぞ。



◇◆◇



 仲間が増えるのは喜ばしいことだ。それが見た目麗しい女性ともなれば尚の事。しかしながら、彼女たちが我々の後ろを付いてくるようになってしばらく、会話の機会は一度として得られなかった。

 一方でやたらと語り掛けてくるのが、ハーレムの主たる男性二人である。

「いやぁ、本当に助かりました。ファイアボールでイビルローパーを一撃なんて、凄いッスね!」「俺、最高にシビれました。間違いなく濡れますよ、タナカさん」「これは憧れるわぁ!」「速攻で伝説じゃないッスか」「だよな! 殿堂入りッスよ!」

 なんかノリがチャラい。

 こういうのが暗黒大陸ではモテるのだろうか。

 分からない。

 ただ、顔は最高にイケてる。

 何度見てもジャニーズ系ってヤツだ。共にそっくりな顔つきで、髪型まで似ているから、もしかしたら兄弟とか、双子とか、そういう間柄なのかもしれない。後ろに靡くタイプのロン毛が良く似合ってる。脱色の類では得られない艶やかなブロンドだ。

「いえいえ、自分なんてまだまだですよ」

「そんなことないッスよっ! 自分、タナカさんのこと崇拝してますって!」「俺もですわっ! こんなにシビれたの、何年ぶりだろう。有り得ないくらいビンビンに来てますから、ビンビンに」「俺もです俺もっ! かなりビンビンっスっ!」

 どちらも二十歳ほどで、界隈に眺める冒険者としては若く感じられる。少しタレ目気味な目元が、その言動やロン毛の靡き具合と相まり、チャラさを引き立てるに一役買って思える。とても遊んでそうな感じが、とてもとても羨ましい。街中で暇してる女の子に声をかけたら、勝率八割は堅いな。まちがいない。

 お礼にハーレム構成員の一人でも譲って頂きたいところだ。

「他の方々は大丈夫ですか? 皆さん、かなりお疲れのようですけれど」

「大丈夫ッスよっ! 回復魔法も掛けて貰いましたし、それよりも是非、タナカさんとご一緒させて頂けたらとっ! ご迷惑ですかね? もしも難しいというようであれば、大人しく沿岸部まで戻りますが」

「そうッスねっ! 俺からもお願いしますっ!」

 俺からもお願いしますって、君、俺とは初めて会うじゃんね。その良く分からない会話のセンスが最高にイカしてるよ。

 っていうか、今の振りは女の子を紹介して欲しかったからなのだけれど。もしかして気付いて貰えなかっただろうか。

 女の子とお話したい。女の子とお話をしたいです。

「いえ、別に迷惑というほどではありませんけれど……」

 当初の目的が達せられたのだから、こちらとしては嬉しい限りだろう。無事にハーレムパーテイー入りである。ただ、強いて言えば君らの代わりに、女の子を隣へ充てがって欲しい。キャバクラへ遊びに行ったら代わりにホストを寄越されたようなものだ。

 あぁ、どれだけヨイショされても、この状況だとぜんぜん嬉しくないぞ。

「マジッスかっ!? あざすっ!」

「あざすっ!」

「…………」

 ハーレム持ちのチャラ男とか殺意しか沸かないよな。しかもコンビだからダブルでウザい。ステレオで左右から語られると、なんだか自分までチャラくなったような気がしてきて、思わずウェーイしたくなっちゃうだろウェーイ。

 しかも顔がそっくりだから、既にどっちがフィリップで、どっちがアレクサンダーなのか、段々と判断がつかなくなってきたぞ。いちいち尋ねるのも面倒だし、あぁ、まとめてチャラ男ブラザーズで良しとしよう。

「おい、本当にコイツらと一緒に行くのか?」

 ダークムチムチが不服そうな声を上げる。

 彼女的には好みのタイプでないよう。

 面食いソフィアちゃんだったら喜んだだろうか。

「人数は多い方が良いでしょう。問題があるようであれば検討しますが」

「ふん、貴様がそうしたいのであれば、好きにすれば良い」

「ありがとうございます」

 無事に既存メンバーの了承も頂戴したところで、改めて出発だ。

 さっさと目的地を目指すとしよう。
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