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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫
55/131

暗黒大陸 一

 魔法陣より発する謎の光に照らされること数瞬の後、眩さに閉じた目を再び開けば、周囲の光景が変わっていた。同じ石室には違いないけれど、使われている石材の色が違う。更に規模も随分と小さくなっている。

「……ここはどこだよ」

 いつの間に縮んだのだろう、とは思わない。

 恐らくは自分の方が移動したのだろう。

 伊達にここ数週間ばかりをファンタジー生活していない。何かしら魔法的なあれこれが作用して、我が身が炭鉱よりどこぞへ飛ばされたのだろうと理解である。ようはワープマス的な何かを踏んづけたのだろうさ。

「…………」

 段々と順応してきた感じあるな。

 とは言え、今この状況はどうしたものか。

 同所は魔法陣が描かれている他、隅の方に干し草のようなものが数センチの厚みで敷かれている。囲いの類も見受けられず、本当に草の葉を床石の上に盛っただけ。まるで家畜の寝床のようだ。

 傍らにはキノコや野草、得体のしれない物体Xなどが粗雑な作りの木箱に納められて、寝床に寄り添うよう置かれている。食料としては些か毒々しい品が多い。

「…………」

 いずれにせよ、手先が器用で人並みに知能のある生き物が住み着いて窺えた。

 かなりしっかりとした造りの部屋であるから、雨風を凌ぐには十分だろう。湿気にさえ気をつければ、下手な家屋より居住性は良さそうだ。ただ、いかんせん総石造りの上に家具の類も見当たらず、酷く殺風景なものである。

 ぐるり視線が一巡したところで、いつぞや放り込まれた首都カリスの牢屋を思い起こす。生々しくも涙ぐましいギリギリ一杯な生活感が哀れを誘う光景だろう。これでせめてベッドでも設えられてあれば、まだ見れたものだったろうが。

「…………」

 そんな家主も今は留守のようで、自分以外に人の気配は皆無だ。

 部屋の一辺には出入口と思しきドアが窺える。どこへ通じているのだろう。まさか炭鉱ということはないだろう。どれだけ天井を眺めたところで、つい先程に踏み抜いてしまった穴は見当たらない。壁面と同様に綺麗な石の並びが続くばかり。

 窓の類が存在しないのは、同所が地下に位置しているからだろうか。それとも密閉すべき理由があったのか。照明は相変わらず傍らに浮いたファイアボールが全て。おかげで今が昼か夜かもわからない。

 とかなんとか悩んでいたら、問題のドアが開いたぞオープン。

 応じて向こう側から現れたのは、どうしたことか、褐色肌の麗しいロリロリロリータちゃん。身の丈は百四十あるかないかといったところ。エステルちゃんより小さくて、エディタ先生より少しだけ大きい。

 肌の色とは対照的、キレの良いおかっぱに揃えられた白銀色の髪が良く映える。

 服装はどこぞの民族衣装を思わせる出で立ちだ。比較的短めに切り上げられたスカートの裾と、そこから伸びた健康的な太腿が素晴らしい。むっちりとしたエディタ先生とは対照的に、少し筋肉質な感じがこれはこれで逆レイプされたい欲を刺激する。

 ヤバめの性病を持ったロリータに無理矢理逆レイプされてみたい。

 なかなか感染しなくて、何度も何度も逆レイプされてみたい

「っ……」

 彼女はこちらを目の当たりとして、少なからず身体を強ばらせた。

 褐色銀髪ロリータの驚き。

 例えばホワイトロリータが、駅前のおしゃれな移動販売店で売られる新作バニラアイスクリームだとすれば、褐色ロリとは田舎の駄菓子屋の冷凍庫の奥のほうで霜を被った数年前のあずきバーのようなイメージがあった。

 所詮は褐色だと。

 ロリとしては二流だと。

 けれども、こうして見てみると想像した以上に唆るじゃないですか。

 裏切りのダークエルフ然り、黒人というとムチムチボインなイメージが専攻する都合、こうして未成熟な黒い肉体を目の当たりとすると、新鮮な感じがしてグッとくる。ロリながらも引き締まって思える野性的な体付きが相当にエロい。

 そう言えばゾフィーちゃんも結構筋肉とか付いてたよな。

 筋肉ついてる女の子って可愛い。

 腹筋の凹凸を舌先に感じたい。

 っていうか、やっぱりどう考えても逆レイプされたい。

 これはもう本格的に逆レイプされたい。

「あ、どうも、はじめまして」

 とりあえず挨拶などしてみようか。

 ここは一つ好印象を与えて、あわよくば仲良くさせて頂く作戦だ。見た感じ生活に苦労しているみたいである。つい先日にゲットした男爵パワーを利用して、足長おじさん的に訴えてゆく作戦で攻めよう。

 寝床の数を鑑みるに、ご両親とは別居しているようであるからして。

「私は田中といいます。お名前を伺っても良いですか?」

「…………」

 貧乏しか知らなかった少女に施しを与えて、さもその待遇が自らの下では当然であるような顔をして、これまで大変だったんだね、僕と一緒なら毎日暖かいご飯とお風呂が待っているよ、みたいな圧倒的上から目線による一方的懐柔こそ王道だ。

 最初は警戒心も顕な小動物系の貧困ロリータが、度重なる施しに段々と心を許してゆき、最後はオマタを開いちゃうような展開が鉄板さ。どれだけ偉そうなこと語ったところで、男っていうのはそういうのが大好きな生き物なんだよ。

 そして、気付いたらいつのまにやら、少女はハーレム要員っていう寸法だ。

 いいじゃん、いいじゃん。

 そういうのがやりたかったんだよ。

 地位と金と名誉に物を言わせて美少女を囲い込むとか最高だよな。如何に善意を語ったところで、最終的に欲しいのは瑞々しい新品未開封のオマンコさ。盲目的に付き従ってくれる可愛らしい清貧オマンコが欲しいのさ。

 それが男の本能だ。自分に素直に生きようじゃないの。

「怖がらせてしまいましたでしょうか? いきなり申し訳ありません」

「…………」

 そうした諸々の事情も手伝い、是非ゲットしたい野生の貧困ロリータ。

 しかしながら相手の反応は芳しくない。

 ジッとこちらを見つめたまま、ドアの前で固まっている。

 もしも同所が彼女のお宅であるならば、勝手にお邪魔しているこちらを警戒するのは当然だろう。そうとなれば今に行うべきは、自らが同所を訪れるに差し当たり経験したあれやこれやのご説明だろう。

「こちらのお家の方ですか? だとしたのなら、勝手に上がり込んでしまい申し訳ありません。実はここの床に描かれた魔法陣に飛ばされて、どこからともなくやって来てしまったのですよ」

「……この魔方陣に?」

 やった、反応があったぞ。

 っていうか、声が可愛い。

 決してエステルちゃんやエディタ先生が可愛くなかった訳ではない。ただ、この子のはやけにズキュンと響くじゃないですか。低くて落ち着いた、なんかこう、作業用BGMとしてずっと聞いていたくなるような、そんな可愛らしさ。

 もっともっと沢山お話したい欲が湧いてくる。

「はい。なにかご存知でしたら、教えて頂けると嬉しいのですけれど」

「…………」

「あ、いや、もちろん無理にとは言いませんが……」

 ところで、今更ながら彼女がなにやら抱えていることに注目だ。

 今日のご飯だろうか。果物の類を幾らか腕に抱いている。幼い少女が食品を抱きしめている姿って、とても興奮するよな。ささやかな幸せを必至に守っている感じが保護欲を誘うと同時に、ちょっと壊してみたくもなる危うい感じ。

「私も、ここに来て長くないから……」

 おぉ、またお返事を頂戴できた。

 うれしい。

 落ち着きロリボイス可愛い。

「もしや貴方も魔法陣に飛ばされてきたのですか?」

「……違う」

「となると、そちらのドアは屋外へ通じているのですね」

「…………」

 依然として彼女の立つ位置は変わらない。

 出入口の正面、室内に一歩を踏み込む直前に留まっている。その背後には薄暗がりながら、階段が上に向かって伸びる様子が窺える。やはり今し方に考えたとおり、この部屋は地下に存在しているのだろう。

「…………」

「もしかして、通じてませんか?」

「……通じてるよ」

「それは良かった。てっきり閉じ込められたかと思いましたよ」

 しかし、口数の少ない子だな。

 碌に語ることもなく、ただただジッとこちらを見つめている。

 薄暗がりのなかファイアボールの輝きに照らされて、爛々と光り輝く真っ赤な瞳が美しい。白に近い銀色の髪と相まっては良く映えて思える。ロリゴンのゴールデンアイズほどはぶっ飛んでいないけれど、とても印象的だろう。

 赤といえば、エステルちゃんもお目目は赤いよな。お揃いじゃん。

「…………」

「…………」

 しかし、この状況はどうしたものか。

 どうにも気不味い。

 話題らしい話題も浮かばない。さて、困ったなと頭を悩ませ始めたところで、ふと思い起こされたのは別れて久しい同僚の言葉だ。女の子とサシで話題に困ったときは、とりあえず服とか靴とか褒めておけ云々。

 なるほど、たしかに今この瞬間、それは素晴らしい選択だ。

「とても可愛らしい服ですね。よく似あっていらっしゃいます」

 決して嘘ではない。

 特にミニスカートがよく似合っている。

 オパンツが丸見えだったら更に可愛かったと強く思う。

「……ありがとう」

「ご自身で縫われたのですか?」

「違う、人里で買った」

「なるほど、素晴らしいセンスですね。羨ましいです」

 ところでこの子、褐色肌の割には耳が尖っていない。ダークエルフとはまた異なった種族なのだろう。ただし、普通に人類という可能性はなさそう。だってお尻から一本、なんか悪魔っぽい黒色の尻尾が生えている。ビギナーのアナルファックに最適な太さだ。

 こういう時は兎にも角にも、ステータスウィンドウを確認である。



名前:ロコロコ
性別:女
種族:ハイゴッゴル
レベル:897
ジョブ:ホームレス
HP:210020/210020
MP:113000/113000
STR:207500
VIT:27300
DEX:30105
AGI:150300
INT:70210
LUC:920



 やばい、想像した以上に強キャラだ。

 小柄な外見からは想像できないほどにSTRが高い。もしも組み伏せられたら、きっと腕力で抗うことは不可能だろう。更に俊敏性も備えている。そうした事実が、殊更に逆レイプされたい欲を刺激する。小さい女の子に力づくで犯されるなどと、高齢童貞なら誰もが夢見るところだろ。

 しかもホームレスとか、ちょっと不衛生な感じが心のチンチンに強く響く。

 汚ギャルとか一時期流行ったじゃん。ガングロの上位互換みたいな。あれは良かった。できれば小学生の間でも流行って欲しかった。少し臭くなった地方のジャスコのメダルコーナーで床に落としたメダルを拾い続けたい。

「…………」

「…………」

 これはもう性病とか持っているに違いない。性病持ちの威力系ロリータから有無を言わせぬ強姦。今後の人生に取捨選択を問答無用で突きつけてくる感じのセックスバトルがマンネリ極まるラブシーンに次世代のエナジーを与えてくれる。

 ラブコメ漫画のヒロインに性病持ちとか、作品が引き締まると思うんだ。

 そういう感じ。

「こちらにはお一人で?」

「知ってどうするの?」

「もしも差し支えなければ、こうして出会えたのも何かの縁です。お力になれたら嬉しいなと思いまして。もちろん面倒であれば断って頂いても結構です」

「…………」

「……駄目ですか?」

 その口から名前を教えて貰えたら嬉しい。先程にステータスウィンドウで確認したものと同じ名前を、彼女の口から直々に頂戴することができたら、とても幸福な気持ちで魔法陣の向こう側に帰れるのではなかろうか。

 あまり居室に長居しても悪いしな。

 1Kのアパートに火災報知機のチェックで業者の立ち入りとか、その手のイベントって男でも嫌じゃん。同じことが今まさにロリータのお部屋で起こっていると思うと、醤油顔的にかなり申し訳ない気分になる訳さ。

「随分と必至なのね」

「貴方のような素敵な方と知り合えたのなら、これからの人生も豊かなものになるでしょう。こうして出会ったのも何かの機会ですし、仲良くなれたらなと」

「……本当にそう思う?」

「ええ、本当にそう思います」

「私、ゴッゴル族なのだけれど」

 ゴッゴル族がどんなもんだから知らないが、こちとらコーカソイドに囲まれることモンゴロイド極まる無様を、かれこれ数週に渡り世間様に披露している。それと比較したら見た目美少女の彼女に忌諱すべき点など皆無だ。

 仮に穢多非人的な立ち位置にあったとしても、男爵特権があれば一人くらい囲えるのではなかろうか。そもそも種族云々を気にし始めたら、クリスティーナなんてドラゴンだ。百メートル超の巨大ドラゴンだ。

「私は種族など気にしませんよ」

「……誰もが最初はそう言う」

「それは貴方の経験則ですか?」

「そう」

 或いは剣と魔法のファンタジーな世界でも、肌の色が黒いのは忌諱されるのだろうか。個人的にはどっちつかずの黄色こそ最低だと思うのだけれど。もちろん一番に優れているのは白だろう。でも今はとってもブラックな気分なのだ。

 ザーメン映えしそうな色黒美少女と仲良くなりたい。いよいよエンカウントした正統派ホームレス美少女の存在に心が踊る。孤児を拾いハーレム要員として自らに懐くよう調教する。まさしく積年の邂逅にございます。

 そう、世の中大切なのは血筋でも肌の色でもない。

 どこまで行っても首から上の出来不出来ばかりだろう。

「たしかにご自身の経験とはとても大きなものです」

「……だったら、なに?」

「ですが私は、貴方の経験を初めて破る人間になりましょう」

「…………」

 領地に町を設けるに差し当たり、ドラゴン退治の報酬として頂戴した金貨を失ってしまった昨今、金髪ロリ奴隷肉便器シスターズの購入も遠退いて久しい。そこへ降って湧いた幸運を大切にしたいと強く思う。

 あれこれと考えたところで、よぅし、力強くお伝えしよう。

「もしも生活に苦労されているようでしたら、私と一緒に来ませんか?」

「…………」

 こちらにはお嫁さんを未来永劫、養い続ける覚悟があるのだぜ。かれこれ十年以上前からな。専業主婦枠が空いております。今なら年一回の海外旅行とセレブな外食ランチ付き。一度としてその意志を相手に伝える機会は与えられなかったけれどさ。

 ただ、そうした生活とも今日この瞬間にオサラバな可能性を感じている。

 褐色ロリータちゃんかわいい。

 処女だろうか? 処女だろうな。きっとそうに違いあるまい。信じてる。

「……どうされました?」

 しかしながら返答はない。

 ただただ、ジッと見つめられる。

「…………」

「…………」

 異性経験に乏しい童貞野郎としては、下手にトークするより、こうして見つめられる方が弱いんだよな。他所様に自慢できない外見を取り繕う余裕さえ与えられず、なにもかもを丸裸にされてしまったような感じが。

 おかげで少し怯む。

「とは言え、こちらもなかなか良い造りをした建物のようですね。地下ならば遮音性にも優れるでしょう。広さも一人暮らしであれば十分に思われます」

「…………」

「これだけの物件にお住まいですと、下手に引っ越しては逆に不満が出る可能性がありそうですね。もし良ければカーペットなどご提供しましょうか?」

「……私の家ではないけれど」

 お、反応があったぞ。

「賃貸ですか?」

「偶然見つけて、勝手に住み着いているだけ」

「なるほど」

 ホームレスの称号は間違いなかったよう。

「色々とご都合もあると思いますので、今日のところは失礼しますね。もしかしたら、また魔法陣の調査に伺わせて頂くかも知れませんが、ご協力を願うことは可能でしょうか? お寛ぎのところ、ご迷惑を大変に申し訳ないとは思いますが」

「……別に構わないけれど」

「ありがとうございます」

 これは勝手な推測だけれど、再び床の魔法陣に魔力を込めれば、今度は炭鉱の奥にあった史跡へ飛ばしてくれることだろう。この手の場所移動系マスは特定の地点を繋ぐゲートウェイ的な代物だと相場が決まっている。

 次はおみやげなど持って参ろう。

 甘いケーキとか、喜んで貰えるのではなかろうか。

 絶対に攻略してやるぜ、待望の浮浪児ヒロインちゃん。

「それでは失礼しますね」

 呟いて先程に同じく、魔力を魔法陣へ向けてゆんゆんと。

 元在った部屋に戻るべく床の模様に意識を向ける。

「…………」

「…………」

 しかしながら、どうしたことか、まるで反応しないぞコノヤロウ。

 ちょっとちょっと。どうなってるのこれ。

「……どうしたの?」

 色黒銀髪ロリータに尋ねられる。

 相変わらずな無表情が、なにを考えているのか分からなくて、少し怖い。腹の中では、さっさと帰れよこの中年野郎、とか思っている可能性も高し。その辺りエステルちゃんは感情豊かで非常にありがたかった。その分だけダメージも大きかったけれど。

「いえ、どうしたと言えば、どうかしてしまったというか……」

 もう一回やってみよう。気を取り直して再チャレンジ。

 先程より気張って、今度は両手を床に向けながら魔力を放射。

 しかしながら魔法陣はなんら反応を示さなかった。碌に魔力が抜ける感触も得られない。あれほど強烈に眩く輝いてみせた線の並びが、うんともすんとも言わないぞ。復路も同じよう帰れるものだと思い込んだ自分が悪いと言えばその通りだけれど。

 さて、これはどうしたものか。

「…………」

「…………」

 ゴッゴルな彼女は相変わらずこちらをジッと見つめている。

 今の自分って最高に格好悪いよな。

 情けないオジサン枠で、女子中学生くらいの女の子から拉致監禁、逆飼育されるタイプの展開もマーベラス。だがしかし、それは相手が権力や経済力を備える場合の展開であって、今この瞬間には非常に不向きな進路だろう。

 これはいかんな。

「あの、一つ伺いたいことが……」

 少しばかり気まずくなった場を取り繕うよう声を掛ける。

 こうなったら空を飛んで帰るしかないだろう。

 もしも距離があった場合、時間が掛かってしまうのは痛い。とは言え、領地にあれこれと仕事を残してきている都合、あまり長くこの場に留まっている訳にも行かない。ノイマン氏の歓迎会だって迫っているのだ。

 以前、紛争の折にゴンちゃんからお話を頂戴した都合、多少であればこちらの世界の地理にも理解がある。最悪、お隣の大陸くらいであれば、丸二、三日空を飛んで海を渡る覚悟も今この瞬間に完了だ。

「なに?」

「ここはなんという地域になるのでしょうか?」

「…………」

 コイツはなにを言っているんだ、そんな眼差しに見つめられた。

 いや、彼女の顔面は先程から微動だにしていない。けれど、そんな気がした。何を考えているのかサッパリ分からないから、思考が良くない方向へと流れてしまうのだ。

 魔法陣が作動しなかった為、少しばかり弱気になった自分がいる。

「……暗黒大陸のなかほど」

「なるほど、暗黒大陸のなかほどですか」

「…………」

「…………」

 おう、隣どころの話じゃなかったな。

 魔導貴族を持ってしてヤバイヤバイと言わせる地域だ。

 どうしよ。

「……すみません、少し外の様子を見てきます」

「気を付けて」

「お気遣いありがとうございます」

 やった、嬉しい。気を付けてって言って貰えたの嬉しい。

 喜びを噛み締めると同時、足早に彼女の傍らを過ぎて、その背後に開いたままであったドアを抜ける。先に続くのは数メートルばかりの廊下と、これから上に伸びる階段だ。共に総石造り。かなりの年季を感じさせる。

 階段を下から上に眺めると、数十段を上ったところには陽光の差し込みを思わせる輝きが窺えた。想像したとおり屋外に通じている。また、どうやら外は日中帯であるらしい。まずは夜でなかったことを喜ぶべきか。

「…………」

 黙々と階段を上って外に出る。

 すると、待っていたのは鬱蒼と茂る樹木の並び。

 想像した通り炭鉱は影も形も失われて、代わりに先の見えない密林が行く手を遮る。耳に届けられるのは、ギーチョギーチョ、ゲココココ、出所の知れない何某か生き物の鳴き声を思わせる音の連なり。

 ちょっとこれは難易度高い。

 首都近郊の森ですら迷子になった現代日本人には辛いロケーションである。紛争の最中、徴兵から森林を歩んだ際には、ダークエルフという最高の道案内が一緒であった。しかしながら、そんな彼女とも別れてはや数週となる。

 今はどこでなにをやっているのやら。

「…………」

 ああ、どうしよう。

 本格的に迷子の予感。

 しかもスケールがワールドワイドだ。

「……どうしたの?」

「い、いえ、少しばかり戸惑っておりまして」

 気づけばすぐ後ろに褐色銀髪ロリータちゃんの姿があった。どうやらこちらの様子を窺いに階段を上ってきたよう。それまで手にしていた食料は寝床に置いてきたみたいで、手ぶらになっての登場だ。

 手を伸ばせば触れられる距離に立っていらっしゃる。

 その距離感が無性に嬉しい。

 褐色の肌が白くなるまでペロペロしたい。

「帰るの?」

「そうですね。帰りたいのは山々なんですが……」

 無事に帰れるだろうか。

 魔道貴族の言葉を信じるなら、クリスティーナみたいなのが群雄割拠している界隈である。仮にヤツと同程度の相手が徒党を組んで襲ってきたのなら、レベルマックスの回復魔法であっても癒しきる自信がない。

 一匹でも油断したら死ねる相手なのだ。

 この褐色ロリータちゃんにしても、攻撃力と俊敏性に限っては相当なものだ。もしも打倒するのであれば、ファイアボールで先手を取って一撃必殺、もしくはクリスティーナと同じように無敵モードで持久戦、そのいずれかくらいではなかろうか、選択肢は。

「…………」

「…………」

 さっきとは立ち位置が真逆だよな。

 施しを与える筈だったのに、地の利を鑑みれば、むしろ受ける側にまわってしまったような。見れば彼女もこちらを相変わらずなジト目で見てくれている。表情こそ変わらないが、なに言ってるのこのオッサン、そんな心境が手に取るように窺えてしまうぞ。

 まったくもってごめんなさいだろう。

「すみません、一つよろしいでしょうか?」

「……なに?」

「シュイーンの森という場所はご存知でしょうか? 或いは最寄りの人里など」

「どっちもここより南の方にある。二つはそんなに離れてない」

「なるほど、そうなのですね」

 前向きに考えよう。

 若返りの秘薬に至る道を一歩前進したのだと。

 本来であれば数十日を要する旅路が一日に過ぎたと。

 目指せグリーンシルフの羽。

「……行くの?」

「まさか暗黒大陸に飛ばされたとは思いませんでした。ひとまず人里に向かい、余裕があればシュイーンの森に足を運んでみようと思います」

「どうして森なの?」

「グリーンシルフの羽が入り用でして、こうして飛ばされたのも物のついでと言うか、当面の予定では幾分か先だったのですが、この機会にと思いまして」

「……そう」

「あれこれと提案しておきながら申し訳ない限りです」

 彼女には悪いけれど、今は生きて帰宅することを優先しよう。

 もしも褐色ロリータちゃんさえ許してくれるのなら、未来永劫、この穴蔵で共に暮らす生活も悪くなかった。というより、むしろ率先して楽しみたい展開であった。ホームレス美少女に拉致監禁されて逆レイプ三昧とか人生のゴールに相応しい。

 そのまま看取られて死にたい。

 イケメンだったら、イケメンでさえあったのなら、そんな未来もあったろうか。

 褐色ロリータちゃんに逆強姦殺人されたい人生だった。

「ちなみに南ってどちらになりますでしょうか?」

「……あっち」

「なるほど、色々と教えて下さりありがとうございます」

「べつに」

 なにからなにまで本当に恐縮だ。。

 でかい口を叩いた手前、殊更に頭が下がる思いだよ。

「それでは私はこれで失礼させて貰いますね」

「さようなら」

「はい、さようなら」

 できればもう少し一緒に居たかったな。

 この可愛い声は癖になるだろう。

 オジサンのエッチ、とかボソっと言われてみたかった。



◇◆◇



【ソフィアちゃん視点】

 メイドは本日も一生懸命に働いております。

 それはもう汗水たらして働いております。

 いつの間にか毎日の大半をドラゴンさんのお家の執務室で過ごす日々です。今も同所には他にタナカさんのお知り合いで、ゴンザレスさんという方がいらっしゃって、あれこれとお話をさせて頂いております。

「ソフィアの嬢ちゃん、北区の方はだいぶ仕上がってきたぜ。人出に幾らか余裕が生まれたんだが、他に手が欲しい場所はあるか?」

「は、はひっ! それでしたら東地区の予定が遅れてますので、そちらのお手伝いをお願いできたらと。あ、で、でもっ、大変だったらそこまででもなですけれどっ」

「おう! 東地区だな? 了解だぜ」

「すすす、す、すみませんっ」

「いちいち謝るんじゃねぇって。それじゃあ行ってくるわっ!」

「は、はいっ!」

 気持ちの良い笑顔を浮かべて、ゴンザレスさんが部屋を後とされます。

 すると、彼と入れ違いとなるよう、また他に誰かいらっしゃいました。

 ノイマンさんです。

 イケメンで背の高いお役人の方です。

「ソフィア君、ちょっといいか? 南地区なのだが、特定の浴場に人が集まる傾向があるようで、混雑がちょっとした問題になっている」

「え? 問題というのは……」

「端的に言えば喧嘩だな」

「な、なるほど……」

 お客さんの喧嘩とか、私のお仕事の範疇ではないような気がするのですけれど、そこのところどうなんでしょう、タナカさん。

「私としては施設の増設を勧めるが……」

「あの、た、建物はタナカさんかドラゴンさんでないと増改築が難しいので、あの、えっと……」

 どうしましょう。どうしましょう。どうしましょう。

 タナカさん。タナカさん、あぁ、タナカさん。

 メイドのポンコツな頭は今にも壊れそうです。

 どこへ行ってしまったのですか、タナカさん。

「えぇと、そ、それでは、他の施設に人が流れるようイベントを行うとか、ど、どうでしょうか? あとは男湯と女湯を定期的に入れ替えるとか……」

「なるほど、前者は私も検討していたが、後者の方が費用を掛けず、より容易に効果が上がりそうだ。うむ、なかなか悪くない」

「そ、そうでしょうか? あの、わ、わたしとしては他の方にもご意見を……」

「さっそく手を打たせてもらう。感謝するぞ、ソフィア君」

「え? あ、あのっ、でもいきなり進めてしまうのは、よよ、良くないと思いますっ! もしも駄目だったら、あのっ! あのっ!」

 ゴンザレスさんに同じく、ノイマンさんもまた颯爽と部屋を去ってゆきました。

 止める間もありませんでした。

 かと思えば、また誰かが入れ違いとなり部屋に入ってきました。

「ソフィアの姉御っ!」

「は、はひぃぃっ!」

 落ち着く暇がありません。

 どなたかといえば、ゴンザレスさんの下で働かれているモヒカンの方です。更に耳を澄ませば、他にも廊下の方から人の声が聞こえて来ます。もしかして部屋の外に人の列とか出来ていたりするのでしょうか。

「姉御っ、ご報告がありやすっ!」

「なな、なんでしょうっ!?」

 先刻からチクリチクリと感じていた腹部の違和感が、いよいよ本格的に鎌首をもたげ始めました。グギュルルル、肉の下で流動する何かの気配に背筋が寒くなります。

 お腹が痛くなってきました。

 お腹痛いです。

 おトイレが近い感じの痛みです。

 きっとスームージーなのが出入口近辺でスタンバイしてます。

「南地区のスラム街なんですが、なんでも人が集まって……」

 ダメです。

 これは我慢してはイケないタイプの痛みです。

「あの! す、すみませんっ、ちょっと、おっ、おっ、おとっ……」

「おと? なにか妙な音でも聞こえやすか? ソフィアの姉御」

「っ……」

 メイドは、メイドは、本日も一生懸命に働いております。

 それはもう汗水たらして働いております。

 ですから、どうかタナカさん、早く帰ってきて下さい。お願いですから、私に元気なお顔を見せてください。学園寮で食っちゃ寝したいとか、そんな贅沢は二度と願いませんから、何卒、お願い致します。

「姉御? なんか顔色が悪いですぜ?」

「お、おとぃれにぃ……」

「おっとっ! これは失礼しやしたっ! そういえば、ゴンザレスの兄貴にも、オマエは女に対する気遣いが足りねぇと、いつも叱られているんッスよねっ! いやぁ、これは申し訳ねぇっ! どうぞ、タップリと出してきてくだせぇっ! ソフィアの姉御!」

「…………」

 今まさに乙女心がブレイクですよ、タナカさん。

 次の機会、煎れさせて頂くので覚悟していて下さい。



◇◆◇



 褐色銀髪ロリータと別れてしばらく。

「マジかっ! これマジかっ!?」

 空飛ぶ我が身は暗黒大陸に住まう化け物たちをトレインしていた。木々の下を歩む気には到底なれなくて、空を飛行魔法に飛ぶことしばらく。こちらを補足した実に様々な生き物が、向かう先々で後を追いかけてきたのだ。

 最初は一匹だけだったのにな。

 もちろん打倒すべく対処はしていた。

 ファイアボールを振り返りざまに打っていた。

 しかしながら、如何せん数が多く、また、一撃で打倒不可能な手合も決して少なくはなくて、中途半端な牽制が逆に日に油を注ぐ形となり、一匹、また一匹とこちらを追いかけては空を飛んでくれるからもう。

 また、空に火花が散れば目立つ訳で。これに興味を持つヤツも出てくるものだ。その数は自然と雪だるま方式に増えていって、今まさに二桁を超える現地モンスターと共に、百鬼夜行さながらの追い駆けっこと相成っている。

 ちなみに現在の順位は首位を自らとして、次点以降、トップグループ上位はこんな具合である。



名前:ナターシャ
性別:女
種族:フェニックス
レベル:991
ジョブ:ホームレス
HP:933610/933610
MP:201705/201705
STR:107900
VIT:95000
DEX:43952
AGI:122111
INT:242200
LUC:101010



名前:ステファニー
性別:女
種族:グレートドラゴン
レベル:787
ジョブ:主婦
HP:1003610/1003610
MP:101705/101705
STR:177900
VIT:105962
DEX:43952
AGI:111522
INT:42200
LUC:30020



名前:ドロリン
性別:女
種族:アークデーモン
レベル:1002
ジョブ:ホームレス
HP:1133610/1133610
MP:1720170/1720170
STR:186000
VIT:89000
DEX:43952
AGI:98111
INT:392200
LUC:71010



 ヤバイな暗黒大陸。

 ホームレス率高すぎだろ。どんだけ住宅事情厳しいんだよ。

 レベル三桁がデフォ、二桁とか今まで一度も目にしていない。四桁もちらほら混じっていたりして、人間が生きていける場所ではないことを改めて理解だろう。どおりで魔導貴族が唸り声を上げる訳だ。

 ちなみに覚えのある手合も後ろのほうに確認できる。



名前:ジョージ
性別:男
種族:レッドドラゴン
レベル:251
ジョブ:ホームレス
HP:333610/333610
MP:91705/91705
STR:27900
VIT:15962
DEX:9952
AGI:21522
INT:30501
LUC:7363



 ペペ山では強キャラ扱いだったレッドドラゴンが完全に埋もれている。よくあるパターンだよな。序盤の強敵が中盤以降で雑魚出演とか。

 それだけでも暗黒大陸の危険性が理解できようというもの。

「……きりがないな」

 どうしよう。

 あまりにも数が多い。二桁を超えるバケモノが後ろを付いてきている。止まって振り返る余裕がない。かと言って、このまま飛び続けたところで、相手が諦めてくれるかと言えば、それは分からない。

 どうにかして引き離さねばならない。

「…………」

 ああそうだ、良いことを思いついたぞ。

 我ながら結構悪くないと思える案が、こう、ふっと湧いて出た。これならば相手がどれだけ数を揃えようとも、一網打尽にできる筈だ。

「よし……」

 意識を自らが向かう先、大地の一点に定める。そして、自らがその真上を通り過ぎる直前を狙って、ありったけの魔力を込めて魔法を発動させる。

 どのような魔法かといえば、これに決まっている。

「喰らえ、ストーンウォールっ!」

 吠えるに応じて、自身の飛び過ぎた直後、巨大な石の壁が大地からニョッキする。高さ数百メートル、幅一キロを超える巨大な壁である。それが瞬く間に森林の合間より空へ向かい、勢い良くそそり立った。

 都合、これから数瞬ばかり遅れて、後ろに連なる連中はと言えば、衝突。

 結構な勢いで空を飛んでいた都合、誰も彼もが壁を避けること叶わないまま、次々とぶつかっては、ドシン、ドシン、低い音を響かせると共に、ギャース、ピギャー、怪物染みた悲鳴が幾つも重なる。

 全ては壁の向こう側。

 こちらからは確認できない。

 ただ、それでも追手は瞬く間に数を減らした。

 尚且つビクリともしない壁の頑丈さの素晴らしいこと。

「……思ったより良い感じじゃないか」

 シンプルな分だけ効果も大きかった。

 然る後、器用に壁を回避した後続の雑魚連中をファイアボールで撃ち落せば、すぐに身の回りは静かとなった。もちろん衝突から復帰した連中に再び追われては敵わないので、その間もまた延々と飛びながらのことである。

 完全に追手を落とし尽くすに至っては、自らの生み出した壁が視界の先、小さく感じられるほどに進んでいた。一方で壁とは真逆、これまで向かっていた側には、地平の彼方にキラキラと輝く青が窺える。

「おぉ、海だ」

 スゲェ、海だ。

 思えばこっちに来てから初めてみるぞ海。

 ちょっとテンション上がるだろ。

 こっちの世界って水着とかあるのかな。

 エディタ先生と全裸で海水浴したい気分だ。

「……これは行くしかないな」

 ファンタジーの海とか気になるじゃんね。

 マーメイドとか居たら、生乳を無料で拝むチャンスだもの。

 サハギン系は勘弁な。



◇◆◇



 海辺には人の集落があった。

「……結構賑わってるじゃん」

 規模としては大したものでない。トリクリスはおろかドラゴンシティよりも小さい。いつぞやオーク退治の折に訪れた村より少しばかり大きい程度だろうか。村や町というよりは、駐屯地とか、前線基地とか、そういった呼称がしっくりくる。

 建物の作りも石造りに増して木造建築が目立つ。道も舗装されてはおらず、地肌がそのまま踏み固められて通りとなっている。建築物の並びにしても整理されている様子は見られず、酷く乱雑なものだ。都市計画の類とは無縁の混沌具合だろう。

 普通の集落であれば周囲には畑の類が見受けられるところ、同所にはそれが見当たらない。これは勝手な想像だけれど、場所が場所なだけあって、育てるより狩る方に重きをおいているのだろう。

 人類が生態系の上の方に位置していない証拠である。

 しかしながら、人口密度に限っては大したもの。首都カリスの大通りにも匹敵するだけの人々が、ところ狭しと歩んでいる様子は非常に賑やかだ。道の脇にはズラリと露天商がならんで、なにやら得体のしれない物品を販売している。

 魔導貴族が言っていた、暗黒大陸の沿岸部とやらが同所なのだろう。こちらの大陸において、唯一、人が営みを形作るのが、こうした海に面した一帯なのだという。恐らくは他にも似たような集落が、沿岸部に点在しているに違いない。

「なんか食べるか……」

 ぐぅと腹が鳴る音を耳として、ひとまず食事と決める。

 無事に人里まで帰って来られた。

 まずはこれを喜び、お酒を頂こうじゃないか。

 適当に通りを歩むことしばらく、なにやら良い匂いを漂わせる店舗を見つけたところで、これに誘われるよう歩みは店内へ。ギィとウェスタンドアを思わせる出入口を抜けて、店内へと足を踏み入れる。同所にしては珍しくも石造りの建物だ。

「…………」

 店内を眺めて即座に把握したところ、客層は完全にマッチョだな。

 男が七割、女が三割、うち筋肉が九割九分って感じ。女もマッチョなんだよ。首都カリスの冒険者ギルドを思わせる光景だろうか。いいや、あれと比較しても人相の極まった人たちが集まって思える。誰も彼も怖い顔ばかりだ。

 年齢は千差万別で十代から上は六十代まで。身形や装備も年季の入った人ばかりで、未だに旅人の服な自らを思えば、ちょっと羨ましい感じ。いつだか購入した皮セットはペペ山のワイバーンに焼かれてしまったし。

「……すみません、日替わりとかあったら下さい」

「あいよっ!」

 カウンター席に腰掛けて食事を注文する。

 まだ日中だというにお酒を開けている人もそれなりにいて、とても賑やかである。すぐ近くで飲んでいる人がいると、なんかこう、自分まで飲みたくなってしまうから困る。これは一杯なら注文してしまうしかないな。

 次に料理を持ってきてくれたタイミングで注文するとしよう。

 などと考えていると、不意に声が掛けられた。

「なんだいなんだい。これまた見ない顔がやってきたじゃないかい」

「……え?」

「そんな装備でここから先、生きていけると思ってるのかな?」

 見ればすぐ隣、なにやら男が歩み寄っているではないか。

 同所にしては珍しく十代中頃ほどと思われる青年だ。出会って当初のエステルちゃんが装備していたような、白銀の全身鎧が非常に特徴的である。更に背中には真っ赤なマントを羽織っていたりするから、きっと遠くからでも良く目立つぞ。

 これで顔がブサイクだったら親近感も湧いたろうが、残念ながら顔面偏差値はアレンと比肩するほどのイケメンである。件のヤリチンが優男的な良さを伴うに対して、こちらは凛々しさが印象的だろう。キリリとした釣り目がちな目元が攻撃力とか高そうだ。

「あぁ、それとも一度負けて帰ってきたのかな? それならこうして命が在るだけでも行幸だろう。なにせここは暗黒大陸だからね! このような場所で日々を過ごせるのは、ごく僅かな選ばれし者だけなのさっ!」

 おかげで今に聞くキザったらしい台詞も良く似合っている。

 ただ、髪型が少し変わってる。ブロンドであることも相まり、なんかこう、ピエールって感じだ。比較的長めの髪が天然なのか外巻きにピョンと跳ねて、全力でピーエルしてる。もしも床屋で注文するのなら、どのようにお願いすればカットして貰えるだろうか。

「なるほど……」

 まあいいや、とりあえず頷いておこう。

 この手の類のキャラは世間話に併せて、なにかと情報を落としてくれると相場が決まっている。ここはなんとか村だよ、みたいな。食事が運ばれてくるまでの間も手持ち無沙汰であるから、話を合わせておくのが良さそうだ。

「やはり暗黒大陸は大変な場所なのですね」

「そうさ! 命を捨てることなく、その事実を理解できたのならば、君に残された唯一の賢い選択は一つ。早々にこの大陸を去ることさ。さもなくば次はないと考えたほうが良い。他の誰でもない、この僕が提案しよう!」

「お心遣いありがとうございます」

 貴族だろうか。平民だろうか。

 場所が場所なだけあって、ちょっと判断がつかないな。

「すみません、お名前をお伺いしても?」

「ほう! この僕に名前を窺うかい? それは良い心がけだ」

「えぇまあ、差し支えなければですが……」

「僕の名前はスター・ザ・エリュシオン。人は勇者スターと呼ぶ」

 ふわさっと前髪を掻き上げると共に名乗ってくれる。

 そんな露骨極まる行いも、目の前の彼には酷く似合って思えるから、イケメンってやつはズルいよな。俺もいつかやってみたい。毛根のどっしりとした将来性に不安を感じさせない前髪を、遠慮無くふわさって掻き上げて、なんの憂いもなく名乗るという行為を。

 わかめとか沢山食べてたんだけどなぁ。

「スターさんですか。とても素敵な名前ですね」

 最高にキラキラしてるぜ。

 誇るべきは決して名前負けしていない彼の顔面偏差値だろう。

「ちょっとスターッ!? 店に着いたのならさっさと来てくれないかしら? それとも貴方はそこのリザードマンみたいな男と話をする為にわざわざ足を運んだのかしら?」

「ああ、悪いね! 仲間が僕を呼んでいるようだ」

「え? あぁ、どうもです」

「さようならの時間だ。それじゃあ失礼するよ」

 かと思えば、言うが早いか他の席へと去ってゆくピエール。

 彼を呼んだのは冒険仲間だろう女性だった。

 ムチムチでボンキュボンで更にムッキムキのパツキン美女である。洋モノ動画とか漁っていると高確率で、オーイエー! オーイエー! とか叫んでいるタイプのナイスバディーだ。もしかしてパーティーメンバーとかいうやつだろうか。

 彼女が腰掛けた丸テーブルには、他にも男女合わせて数名ばかり人の姿が窺える。誰も彼もベテラン臭を発しており歴戦の冒険者風情といった具合だ。男はピエールを除いて漏れなくハードボイルドしてるし、女は全員イイオンナしてる。

 とってもパーティー充してる。羨ましい。

 自然と視線はパツキン美女の推定Hカップをトレース。きっと特注品だろう。たわわに実ったお乳を包み込む金属鎧、その向こう側に存在するだろう柔らかなところを心の手に揉みしだくよう全力で見つめる。

 揉みたい。揉んでみたい。洋モノお乳。

 そうこうすると、今度はカウンターの向こう側から声が掛かった。

「アンタ、ここへは来て間もないのか?」

 店員さんだ。

 ゴトリ、鉄板に乗った肉料理をこちらの正面に置くと共に語りだす。

 ご飯きた。ご飯うれしい。

 どうやら本日の日替わりはステーキのようだ。

 肉の子細は知れないが。

「名前くらいは知っているだろう? サイヴァーン王国の勇者スターだ」

「……いえ。すみませんが、見ての通り僻地の出となりまして」

「西の勇者を知らねぇたぁ、随分と極まった場所から来たもんだな?」

「ええまあ」

 やっぱり居るんだな、勇者って。

「なんでも魔王復活に関する調査だとかで、国王直々の命令だそうだ」

「……魔王ですか」

 やっぱり居るんだな、魔王って。

「こちとら暗黒大陸に店を構えて数年だが、そんな話は未だ聞いたことがなかったけどな。なんとかっていう偉い聖女さまの予言に魔王の復活がどうのと出たらしいぜ」

「なるほど……」

 やっぱり居るんだな、聖女って。

 ここへ来て最高に剣と魔法なファンタジーの予感。

 勇者で魔王で聖女様とか興奮する。

 特に最後の聖女様に対してべらぼうに興奮する。絶対に処女だ。聖女というくらいだから、処女に決まっている。しかもこの手の世界観だと、かなりの確率で若い子が担当しているから、おいおい、これは頑張ってみる価値があるのではなかろうか。

 セイントオマンコに希望の光を見た。

「一つ伺いたいのですが、いいでしょうか?」

「おう、なんだよ?」

「その聖女さまというのはどちらの聖女さまでしょうか?」

「そりゃオマエ、聖女さまと言ったら、大聖国の聖女さまに決まってるだろ」

「なるほど」

 大聖国ってどこだろうな。領地に戻ったらゴンザレスにお伺いしてみよう。その地に自らの求めるところが存在するような気がしてならない。聖女様が居らっしゃるくらいだから、きっと他の女性の膜保有率も高いに違いない。

 良いな。

 良いことを聞いてしまったな。

 ピエールってば良い仕事するわ。流石は勇者さまだろ。

「ロドリゲス、こっちにも飯をくれっ!」

「あいよ!」

 他の客に呼ばれて他所に向かってゆく店員ロドリゲス。

 お酒を頼み損ねた。

 その背を見送りながら、しみじみと感じる。

 予期せず最初の大陸を脱出したところで、途端、大きく世界観が広がって思える。やはり一つの国に引き篭もっているのは良くないな。視野を広く持ったところで、フィッツクラレンスの名が少しばかり小さいものに思えてきたぜ。

 これからの時代はグローバルだろ。

 世界を股に掛けて活躍できる人材を目指すべきじゃんね。

 その為にも大聖国とやらは是非とも訪問してみたい。暗黒大陸からペニー帝国へ戻るに差し当たり、帰り道に寄れないだろうか。これは一度、こちらの世界の地理に関してお勉強する必要がありそうだ。

 焼きたてのステーキを頬張りながら今後の予定に頭を巡らせる。

 ワクワク。

 すると、しばらくしたところで店内に響く声があった。

「これはこれは東の勇者くんじゃないか」

 耳に覚えのある声色は西の勇者ピエールのものだ。他の連中と比較して幾分か音が高く、フロアに良く響いた。おかげでこちらも自然と意識が向かう。ナイフとフォークにバラした肉を口へ運びながら、チラリ、チラリ、それとなく様子を窺ってみる。

「……誰かと思えばオマエか、西の勇者」

「このような場所で出会うとは奇遇だねぇ?」

 フロアの中央、西の勇者ピエールが誰かと立ち話をしている。

 今に聞こえた限り、相手もまた勇者らしい。

 しかもピエール曰く、東の勇者らしい。

 どうやら西と東で担当が異なるようだ。

 そして東の彼はと言えば、一目見た限りであっても、貴方は勇者ですよね? 訪ねたくなるほどの猛烈な勇者臭を感じる。主にドラゴンを退治するタイプの勇者にクリソツだ。年の頃はピエールと同世代と思われる。当然のようにイケメンなのが憎らしい。

 こちらは紫を貴重とした金属鎧姿。腰には大振りの片手剣。物語の後半、段々とモンスターも強くなってきており、これに対向する為に店売りの装備から、ダンジョンの宝箱より得られる装備にヴィジュアルが変化し始める頃合いと見た。

「我々は火急の用件で訪れた。貴様の軽口に構っている暇はない」

 東の勇者は淡々と応えた。

 対して西の勇者ピエールは先程と同様、どこか軽い調子で続ける。

「どうせ僕らと同じように魔王復活の調査だろう?」

「うるさい、黙れっ!」

「今日はまた随分と釣れないね。あまり無闇に急いでは、マントの裾を踏んづけてすっ転ぶのがオチではないかな? 急がなければならないときこそ、心に余裕も持って、ゆっくりと一歩を進むのが良いのさ」

「そのやたらとよく回る舌、この場に引き抜いてやろうか? 君が我々の国に対して行ったこと、私は一瞬たりとて忘れたことはない。この場に切り捨てられたくなかったら、大人しくそこを退いて私を通せ」

「そのような乱暴な言葉、あぁ、とても勇者らしくないね。嘆かわしいな」

「勝手に言っていろ」

「同じ勇者同士、仲良くしたいのだけれど、どうやら難しそうだね」

「……ふん」

 どうやら二人は仲が悪いらしい。

 東の勇者な彼の後ろには、他に仲間だろう面々の姿があった。男女数名からなる一団であって、こちらもまた西の勇者ピエールを厳しい眼差しに見つめている。どれだけ贔屓目に見ても有効的とは言えない面持ちだ。

 一方でピエールの仲間たちはと言えば、メンバーである彼の行いなどまるで気にした様子もなく、自分たちのテーブルで楽しそうに酒を飲んでいる。各々の勇者がそうであるよう、酷く対照的な仲間たちだろうか。

 まあ、場末の男爵風情には関係のない話である。

 あれこれと東西の勇者が言い合う傍ら、自分の意識はカウンターの向こう側。

「すみません、ロドリゲスさん、お酒を下さい」

「あいよっ!」

 先程に頼み損ねたお酒を注文だ。

 彼は早々にグラスを持ってこちらにやってきた。

「おまちっ」

「どうも」

 受け取って早々口をつけると、強めのアルコールが喉を焼いた。

 一息にゴクリと飲み込めば、ジンワリと熱を持って、食道を伝い胃の入り口までを暖められる感じが心地良い。透明に程近い色合いに加えて、控えめな風味の飲み心地は、万人受けしそうな蒸留酒である。

 なかなか悪くない。寝酒に最適だ。

「しかし、今日はまた随分と豪華なメンバーが集まったもんだな。オマエ、なかなか悪くない時期にここへと来たぜ? これだけの連中が一箇所に集まるなんざぁ、他じゃ絶対に見られねぇだろうよ」

 お酒を味わう自らの正面、カウンターの向こう側で店員のロドリゲスが言う。

 どうやら店自慢のようだ。

「そうなんですか?」

「おうよっ! 西の勇者に東の勇者、これだけでも大したものだって言うのに、あっちで飲んでる連中は学園都市の教授連中だ。更にその二つ隣のテーブルにはどうだ? 永久の魔女に大盗賊ゲイル、更に腐敗王マーリンの混成パーティーときたもんだ。しかも、その更に隣で飲んでいる連中は……」

 ロドリゲスは滑舌も良く早口にまくし立てた。

 どうやら凄い人たちが沢山集まっているようだ。

「なるほど」

「これだけの顔ぶれが一同に介する場所はここをおいて他にはねぇよ」

 たしかに自分の店へ有名人が枚挙して来たら、それはそれは嬉しいことだろう。店長冥利に尽きるってものだ。もしかしたらこの店、暗黒大陸においてはそれなりに有名な店舗だったりするのかもしれない。

「だとすると、これは国へ帰ったら自慢できますね」

「おうっ! その時はめし処スザンヌをよろしくな」

「スザンヌ?」

「今は亡き俺の嫁の名前だ。昔は俺も冒険者だったんだよ」

「なるほど。それはなんというか、お悔やみ申し上げます……」

「別に構わねぇよ。ここじゃあ人の生き死になんて明日の飯の種より軽いもんだ。この店だって明日にはモンスター共の強襲を受けて、灰になっちまってるかも知れねぇ。今更悔やまれたところで、死んだアイツも困っちまうさ」

「…………」

 なんの憂いもなく陽気に答えてみせる店員ロドリゲス。

 まさに最前線って感じだ。

 飲食店にまで全身フル装備で訪れる客たちの心意気を理解だろうか。恐らく冗談の類ではないのだろう。もしかしたら、過去にそのような事件の一つや二つ、実際に発生しているのかも知れない。

 以前、魔導貴族より受けた説明は伊達でなかったよう。

「おい、ロドリゲスっ! こっちにも酒だっ!」

「あいよっ!」

 そうこうしているうちに響くのが彼の名を呼ぶ声。

 こちらにグラスを届けるも間もなく、ロドリゲスは他へと向かっていった。

「…………」

 その背を眺めて、さて、これからどうしようか。

 当面の目標として、大聖国へ向かうは良いけれど、差し当たって明日はなにをしようか、近々での行動指針に欠くところ頭を悩ませる。せっかくやって来たのだし、グリーンシルフの羽も欲しい。次はいつ来れるとも知れない暗黒大陸だ。

 あぁ、そうだな。

 せっかくやって来たのだし、やはり、ここは覚悟を決めて羽の採集に臨むとしよう。本来であれば数週を掛けて移動する必要のあった暗黒大陸入りだ。それを一日で訪れたのだから、このチャンスを逃すのは惜しい。なにせ若返りの秘薬だ。

 そうしたとき問題になるのは界隈に生息する生き物だ。数刻ばかりを滞在した限りであるが、正面切って戦うことは絶対に避けるべきと思う。タイマンならまだしも、きっと途中で乱入されて、大乱闘となること請け合い。そうなれば回復魔法もどこまで持つか。

 一方で飛行魔法によりモンスター共に追われながら空を飛んでみた感じ、正面切って戦わなければ、なんとか逃げてまわり、やり過ごすことは叶いそう。故に極力争いを避けるスタイルで向かえば、なんとか目的は達せられるのではなかろうかと。

「…………」

 よし、それで決定だ。

 当面の目標が定まるに応じて、幾分か心が軽くなったのを感じる。久しぶりに魔法を頑張ろう。無事に羽が手に入ったのなら、すぐに脱出して、そのまま大聖国とやらに処女膜観光へ向かい、然る後に帰宅して若返り、といった塩梅だ。

 素晴らしいプランである。

 一人満足気に頷いて、ゴクリ、ゴクリ、グラスを傾ける。

 お酒美味しい。

 お酒最高。

 アルコールに気分を良くして、そのまま近隣の宿屋に収まることとなった。店員ロドリゲスにオススメされたお宿である。飲み屋の二つ隣にあって、なんでも彼の冒険者仲間が営んでいる店だと言う。

 歩みも軽く訪れた先、玄関ドアを開いてはギィと。

 正面にはカウンターが設けられており、早々に店員から声を掛けられた。

 相手は四十過ぎのオバちゃんだ。

「いらっしゃい。見ない顔だね」

「どうも、ロドリゲスさんの紹介で参りました」

「アイツの紹介かい? それなら少しは割り引いてあげようかね」

「本当ですか? ありがとうございます」

 今でこそ老いの感じられる彼女も、昔は暗黒大陸で活躍するムチムチボインな冒険者の一人だったのだろう。ロドリゲスとはヤったのだろうか。

 いや、考えるのはやめておこう。

 流石に四十過ぎはアウトだ。ギリギリアウトだ。

 とかなんとか、適当を妄想しつつ多少のトーク。

 ややあって問題が発覚したのは、同所を訪れてしばらくのこと。前払いだという宿泊料の支払いを行うべく、財布を取り出そうと、腰回りを漁った際のことだった。

 ふと何かが足りないことに気付いた。

 財布はあった。ちゃんとあった。中身も酒場の支払い時に確認してから変わらず。金貨が幾毎かと銀貨がたくさん。

 ただ他に幾つか、腰回りにぶら下がっていた革袋たちに違和感が。

「あ……」

「どうしたんだい、お客さん」

 腰にくくりつけていた革袋が一つ失われている。

 しかもよりによって導きの幼女から貰った宝物を入れていたヤツだ。

「…………」

「……お客さん?」

 やっちまった。

 落し物だ。

 どこで落としたのだろう。

「すみません、ちょっと落し物をしたようで」

「おとしもの? なにを落としたんだい?」

「これくらいの革袋なのですが……」

 数分ばかりをガサゴソとやっても見つからない。

 致し方なし、駆け足でめし処スザンヌまで戻り、床を這いつくばりながら探す羽目となる。店員ロドリゲスにも手伝って貰った。

 だけれども、残念、無念、なんたる失態、問題の革袋は見つからなかった。

 これほど悲しいことはないだろう。

 昨今、低下も著しいLUKの影響だったりするのだろうか。
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