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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫

本文

51/132

フィッツクラレンス家 一

明日が早いので少し早めに更新します。
 正式に男爵の位を頂戴して翌日である。

 自室に目が覚めたところで、不意に視界の隅、メイドさんの姿が目に入った。ソフィアちゃんかなと意識したところで、しかし、自らが横となるベッドが、今は学園の寮であることを思い起こす。

 そして、ソフィアちゃんは未だドラゴンシティに所在する。

 であればこのメイドは何者か。

「っ……」

 大慌てに身体を起こしたところ、先方から反応があった。

「あら、起きたわねっ」

 ロリビッチだった。

 エステルちゃんだった。

 何故かメイド仕様である。どこから調達してきたのか、ソフィアちゃんが日々着用するものと全く同じデザインだ。おっぱいの大きな我が家のメイドさんと比較して、些か胸回りが寂しく思われる。

 ただ、一方でスカートは腰回りを少なからず巻いているよう。普通に立っていても裾先からおパンツのチラリチラリと顔を出す有り様がオチンチンにダイレクトアタック。これが慎ましい胸元を補って余るだけの魅力を引き出している。

 スーパーミニが嫌いな男なんて不能かホモのどっちかだろ。

「お、男の人は朝立ちという現象があると聞いていたのだけれど!」

「…………」

 しかし、この子もこの子で、いきなりだ。

 何もかもすっ飛ばしてきたな。

 そもそも玄関のドアの鍵を与えた覚えさえない。

 にも関わらず、いつも普通に入ってくるものだから、あたかもそれが普通のことに思えてしまって、ロリビッチの侵食性とは侮りがたいものがある。気づけば結合している、そんな未来も、決して遠くないように思えて恐ろしい。

 きっとソフィアちゃんが権力に屈服して、渡してしまったのだろうが。

「学術的な知見から拝見したいのだけれど、構わないかしら?」

「…………」

 早速、昨晩に与えたコメントを反映したアプローチを頂戴だ。

 確かに彼女は学園の生徒であるから、とても響きの良い言い訳だろう。しかしながら、鼻はピスピスと音を立てているし、目は一晩中起きていたが如く血走っている。どれだけエッチなんだロリビッチ。

 なんかもう率先して身体を預けたい欲求に駆られる。これだけ真摯に向き合ってくれるのだから、彼女なら中古でも良いじゃないかと、悪魔が耳元で囁く。天使も賛同気味だ。最近は一緒にお風呂へ入ったりして、随分と距離が近かったから。

 ただ、理性がこれに反論する。

 アレンと約束してしまったのだよ。

 流石にこれは破れない。

 また恐らくだが、一発抜いて賢者モードに突入すれば、ズボンを脱いで準備万端の天使も、悪魔を諭し始める程度には落ち着きを取り戻すだろう。数十年と守りぬいたポリシーを曲げる訳にはいかない。軽率な行いは後で絶対に後悔する。

 大切なのは新品。新品なのだ。

「すみません、今日は朝一で騎士団の詰め所に向う予定ですので」

「っ……」

 応じてエステルちゃんの瞳が震えた。

「着替えをしようと思いますので、すみませんが……」

「あ、ちょっとっ」

 その背中を押して部屋の外へとロリビッチを締め出す。

 まったく、油断も隙もあったもんじゃないな。



◇◆◇



 その日の午前は当初の予定通り、アレンを尋ねることとした。

 アポは取っていない。ただ、エステルちゃんに確認した限り、今も騎士団に勤めているらしい。ということで、いつだか教えて貰った詰め所へ向かえば、出会うことはできるだろうと考えた次第である。

 だがしかし、同所にアレンの姿は見つけられなかった。

 代わりに彼の同僚から耳寄りな情報を得た。

 なんでも騎士団までやって来たビッチ家の馬車に連れられて、何処へとも向かっていったという。ビッチ家と言えば、他の誰でもない、ゾフィーちゃんの実家である。昨今、何かにつけて耳とする機会が増えたのは気のせいじゃないだろう。

 自然と良くない想像が脳裏を流れた。

 あれで姫ビッチは良い所のお嬢様である。ゴンザレスの話によれば、フィッツクラレンス派閥では結構な勢いを誇る伯爵だとか。そんな彼女と彼のイケメンとは懇ろの関係である。まさか過去のおいたがバレてしまったのだろうか。

 だとすればアレンにとっては生死を分ける一大事だ。

「…………」

 一応、訪ねてみようか。

 混浴騒動に分かれて以後、行方の知れない傷心のゾフィーちゃんも気になる。もしも首都でパンモロショーをしているのなら、一度は足を運びたい。少なくともドラゴンシティに所在を確認することは出来なかった。舞台は無人だった。

 更に言い訳を並べるならば、この身の上はエステルちゃん配下であり、実質、フィッツクラレンス派閥に与する。同じ派閥に属する先輩の下へ、挨拶に向うのは決して不自然な行いではない。むしろ推奨される行いなのではなかろうか。

 よし、そうしよう。それが良い。

 ちょっと順番に問題があるような気がしないでもないが、そこはアレンの為だ。

 思い過ごしだったら、頭の一つでも下げて帰れば良い。ああそうだ、道中、お土産とか買っていかないとマズいよな。この国の貴族って、そういうところ凄く気にしそうだし。手ぶら訪問とか封建的に考えてアウトだろ。

 やっぱり高価なものの方が良いのかな。でも、あんまりお金は持ってない。王様から貰った金貨五十枚は領地の大切な運用資金だ。恐らくは来月以降、黄昏の団のお給料になることだろう。流石に今の状況で手を付ける訳にはいかない。

 騎士団を発ってしばらく。

 あれこれと頭を悩ませつつ歩んでいて、ふと気づいた。

「そもそもゾフィーちゃんちってどこだろうな」

 実は知らないぞ。

 とりあえず貴族の家が並んでいる町の中央方面に向かい歩いているけれど。

 そこいらの人に尋ねたら教えてくれるだろうか。

 などと頭を悩ませていると、居た、居たぞ。導きの幼女だ。

「あー、おじちゃんっ!」

「おうふ、また会ったね。おじちゃんだよ。おじちゃんだよ」

 久しぶりだからテンション上がるわ。

 ちょっとキモくなってるけど、それも致し方ない愛らしさだろ。無邪気な笑顔を浮かべて、タタタタと駆け寄って来るその姿に、心が癒やされるのを感じる。こればかりはエディタ先生のムチムチでも不可能な領域にあるだろう。

 オンリーワンってヤツだな。

「どうしたの? むずかしいお顔してる」

「実はおじちゃん道が分からなくて困っているのだよ」

「へー、そーなの? どこに行きたいの?」

「ビッチ伯爵のお家に行きたいんだけれど、どっちだか分かるかな?」

「んー? それだったら、えっとぉ……」

 少しばかり考えて後、彼女はのたもうた。

「あっちにいって、そっちにいって、そのままずぅっと真っ直ぐっ!」

「なるほど、あっちでそっちでずぅっと真っ直ぐなんだね」

「うん!」

 相変わらず適当な指示である。

 だがしかし、この子に導けないモノはないだろう。

 信じてる。

「ありがとう。それじゃあ、はい、これお駄賃ね」

「わーい! おじちゃん、ありがとうっ!」

 銅貨を数枚ばかり渡す。際してはこちらの指先が、彼女の手の平にちょっと触れたりして、おじちゃん、思わず悦びを感じてしまったよ。幼女のお肌の柔らかさ万歳。

「あ、そうだ、おじちゃん、これあげるっ!」

「ん?」

 スカートのポケットをゴソゴソとやった彼女が何やら差し出してきた。

 その手の平には小さな小石が乗っている。

 キラキラと輝いく綺麗な鉱石だ。川辺とかに落ちていそうなタイプの。

「これ、どうしたの?」

「拾ったの! 綺麗でしょ? 私の宝物っ!」

「こんな素敵な宝物を貰うことはできないなぁ」

「おじちゃん、いつもお駄賃くれるから、私からのお礼っ!」

「うーん。それじゃあ、貰っておこうかな?」

「大切にしてねっ!」

「そうだね。おじちゃん、とても大切にするよ」

 思い起こせば異性からのプレゼントって、これが初めてじゃなかろうか。おう、なんということだ。プレゼント童貞、失ってしまったわ。でも相手が導きの幼女なら、全く問題ないな。むしろ願ったりかなったり。

 こういうピュアな感じが最高だ。最強だ。

 なんて素晴らしいんだろう。これだよ、これが正しい童貞の喪失フローだよ。うむ。やはり自分は間違っていなかった。この調子で唇だとか、息子だとか、少しづつハードルを上げてゆくのが正解だろう。沸々とやる気が湧いてきたぞ。

「それじゃーねっ!」

「転ばないように気をつけるんだよ」

「うんっ!」

 彼女はキャッキャと喜びながら、どこへとも駆け足で去っていった。

 その後姿が人混みに紛れて見えなくなるまで見送る。

 無事に導きは得た。

 プレゼントも貰った。

 なんら根拠はないが、きっとこれで大丈夫だろう。



◇◆◇



 そんなこんなで訪れた先、ビッチ伯爵家。

「デカイな……」

 首都カリスに所在する貴族宅と言えば、自然と魔導貴族が比較対象に挙がる。敷地面積で言えば、クリスティーナの離着陸さえ容易に可能とする庭の存在が、魔導貴族に軍配を上げる。しかしながら、建物の規模と荘厳さではビッチ伯爵家の勝ちだ。

 なんかこう、全力でゴシック建築してる。

 ノートルダム大聖堂とか、サン=テチエンヌ大聖堂とか、その手の類の建物を思い浮かべればドンピシャだろう。凡そ人が生活を営むような施設には思えないのだけれど、金持ちの考えることは分からんね。

 正門前に立って眺めることしばらく、脇に控える門番から声が掛かった。

 脇へ左右に一人づつで二人一組、その内の一人が歩み寄ってきた形だ。

「ビッチ伯爵様の邸宅に何用だ」

「あ、えぇ、すみません。私、名前をタナカと申しまして、つい先日にフィッツクラレンス派閥はエリザベス子爵の下、新たに男爵とさせて頂きました。つきましてはビッチ伯爵にご挨拶を願えましたらと」

「…………」

 流石にアポなしでは難しいだろうか。

 いつぞやのシュケールを思い起こして、早めに身分を告げておく。

 当然、門番から向けられるのは訝しげな眼差しだ。思い返してみれば、今日も平民の装いである。旅人の服装備である。アレンに会うだけのつもりだったので、取り立てておめかししていなかった。

 ただ、貴族を名乗った手前、いきなり殴られるようなことはなかった。

「……分かりました。確認して参ります。しばらくお待ち下さい」

「お願いします」

 自分とお話していた彼が、もう一人に目配せをする。

 指示を受けた片割れは、駆け足で屋敷の方へと向かっていった。

 勢いに任せて足を運んではみたけれど、ぶっちゃけ相手にしてみたら飛び込み営業みたいなものだよな。果たして会って貰えるだろうか。アレンもビッチ家の馬車に連れられて、とは言え、こちらのお屋敷でお世話になっているとも限らない。

 ちょっと勇み足だったかもしれない。

 なんて考えていたのだけれど、正門脇に佇んでいたのも束の間のこと。早々に門番とは別、他に従者と思しき男性がやって来た。曰く、主人が会うそうですので、こちらにお願い致します、とのこと。

 どうやらご在宅であったよう。その案内に従うこと、お邪魔します。

 大外となる正門から玄関までは、更に距離があった。馬車が通ることも想定しているのだろう。五、六メートルの幅広な道が続いていた。個人のお宅というよりは、公共の施設やアミューズメントパークと称した方がしっくりとくる。

 そんなこんなでエントランスを超えて廊下を歩むことしばらく。

 通された先は1階に所在する応接室だ。

 割と機能性を重視して作られた魔導貴族宅や学園施設と比較して、こちらは見栄えを重視して思える。かなり装飾に手が込んでおり、棚一つとってもそこらかしこに彫刻が為されていたりと極めて綺羅びやかものだ。

 廊下に眺めた絵画や陶芸品の類も数が多かった。

 そして、一連の趣味の本丸だろう人物が、今まさに目の前へドン。

 部屋の中央、ソファーに腰掛けて佇むのがビッチ家の当主なのだろう。

「……貴様がタナカか」

「はい、田中にございます」

 随分と厳つい顔の持ち主だ。

 この顔からよくまあゾフィーちゃんが生まれてきたなと、関心するほどに顔の彫りが深い。基本的にコーカソイドなこの国の人々だけれど、その中でも一際だ。年の頃は四十代と思われるが、もしかしたら顔立ちから少し多めに見えているかも知れない。

 高い鼻との相関から窪んで窺える目元にキラリ青い瞳の光る様子が、唯一、姫ビッチと親子の繋がりを感じさせる。髪は発色の良い茶色をオールバックに撫で付けており、これがまた頭部の形を強調してくれるから顔怖い。

「た、タナカさんっ……」

「お久しぶりです、アレンさん」

 更に騎士団の詰め所で窺ったとおり、アレンの姿もあった。

 当主さんとはソファーテーブルを挟んで対面に腰掛けている。こちらを目の当たりとしては酷く驚いた表情だ。どうやら今の今まで、ゾフィーちゃんのパパとサシでお話をしていたらしい。知り合いだったりするのだろうか。

「まさかこのタイミングで本人が訪れるとはな……」

 こちらをジロリ見つめてゾフィーちゃんのパパが言う。

 もしかして話題に上がっていたのは自分だったりするのだろうか。

 それは少し気になるな。

「この度はお忙しいところ、私のような者に謁見の機会を下さり恐悦至極にございます。新参ではありますが、何卒、お願い申し上げたく参らせて頂きました」

 とりあえず先手必勝、深々とお辞儀などしてみせる。

「タナカ男爵は随分と足が軽いらしいな?」

 皮肉だろうか。

 だとしたら、どう応えるのが正解だろう。

「私の歩みが向うところは全て、この身を救い上げて下さったフィッツクラレンス子爵に対する敬服にございます。子爵の興隆こそ自らの望みでありますが故に」

 良く分からないときは、上司をヨイショしておくのが良い。

 同じフィッツクラレンス派閥ならば、そう問題にはならないだろう。

「ふん、確かに耳としたとおりの腰巾着振りだ」

「はい、そのとおりにございます」

 粛々と頷く。

 実際のところ、割とあれこれ面倒を見て貰っている都合もある。

「ビッチ伯爵、タナカ男爵は非常に優れた魔法使いです。その実力はかのファーレン卿も一目置くほとでして、私もドラゴン退治の折に窺わせて頂きました」

「ほう?」

 アレンから援護が入った。

 ピクリ、ビッチ伯爵の眉が震える。

 恐らくは魔導貴族の名が効いたのだろう。

「あの魔法狂いが一目置くとは、滅多でない物言いではないか。万が一にも本人に伝わったとすれば、アレン、貴様の首も無事ではすまないぞ?」

「いいえ、問題ございません。事実、彼のファーレン卿のお言葉です」

「……ほう」

 二度目のほう。

 先程と比較して、幾分か眼差しが鋭さを増して思える。

 標準で怒っているように見えるんだよ、この人。

「それで、リチャードはなんと言っている?」

「いいえ、まだフィッツクラレンス公爵にはお会いしておりません」

「なにを馬鹿なことを。公爵にお会いする前に、この私の下にやってきたというのか? 貴様は馬鹿か? それともこれがフィッツクラレンス子爵の入れ知恵か?」

「アレンさんの下を尋ねたところ、ビッチ伯爵の下に向かわれたと話を聞きましたので、思うところあって馳せ参じた次第にございます」

「……なるほど」

「ご理解頂けましたでしょうか?」

「つまり、貴様も知っている訳だ。この男が私の肝いりであったと」

「…………」

 え、マジで?

 アレンを推してたのってゾフィーちゃんのパパかよ。

「この男がフィッツクラレンス子爵と深い関係にあると、娘から聞いた際には、良い家臣が手に入ったと思ったのだが、まさか他の男に奪われるとはな」

「…………」

 やばい、地雷踏んだわ。

 アレンが拉致られた理由を理解してしまったよ。

「だが、そんな男がリチャードに先んじて私のもとに来た、と」

 ゾフィーちゃんのパパの口元に、ニィといやらしい笑みが浮かんだ。

 これはもうあれだな。

 波に乗るしかないわ。

 知らなかったじゃ済まされないルートに入ってしまった。

「……はい」

「そうであるか。そうであるか」

 さて、どうしよう。

 恐らくフィッツクラレンス派閥も、決して一枚岩ではないのだろう。

 上手いことやらないとファーストステージで貴族生活終了だぞ。

「良かったな、アレン。この男のおかげで首の皮一枚繋がったぞ」

「は、はい……」

「その点に関しましては、一つ、私からもご報告したいことが」

「なんだ?」

 ここは一つ、ビッチ伯爵の面前でエステルちゃんのビッチ具合を確認するとしよう。どうせいずれはアレンの下に戻るのだ。その辺りはお偉いさんにも事前に織り込んでおかないと非常に危険である。

 でなければ、次にアレンの立場に堕ちるのは自分なのだから。

「フィッツクラレンス子爵は非常に移り気のある方です。私に良くして下さるのも一時の気の迷いに違いありません。本日もアレンさんの所在を確認するに際しては、子爵に確認を取って参った次第にございます」

「だが、男爵となったのは貴様だ」

「次に男爵となり、やがて公爵と進まれるのは、アレンさんかも知れません」

「また随分と語ってみせるではないか。この私の面前で」

「はい」

 綱渡り感が半端ないな。

 そもそもエステルちゃんのパパに会ったことがないのだから、どれもこれも勝手な妄想でしかない。日に日に自らの身辺において、彼女のファミリーの重要度が上昇してゆく。いつかは会わねばならないのだろうか。

「ふん、平民が貴族の位を得て調子に乗っているのか?」

「いいえ滅相もございません。今の地位は仮初めのものと存じております」

「ならば貴様は、貴族の位を得た今、これから何を求めるというのだ?」

 しかし、顔の怖さとは裏腹に思ったより話せるな、この人。

 お偉い伯爵様とか、底辺男爵の言葉など届かないと思っていた。

「私ですか?」

「ああ、そうだ。貴様だ」

「…………」

 何を求めると言われても、ソフィアちゃんの処女膜としか言いようがないな。或いは導きの幼女のお婿さんというのも、非常に魅力的な提案である。とは言え、素直に伝えたらこの場で私刑にされてしまいそうだ。

「そう大したものではございません。同じ平民である私の友人知人、例えばアレンさんなど、既に成し得ていることです。それこそ日々、呼吸をするように」

 いつぞやマンソン商会の人に語ったぼんやりトークで誤魔化すこととしよう。

「ただ、私にとってはこれが非常に遠くありまして、その為の第一歩として、この場に望んでいる次第です。抽象的な内容となってしまい大変に申し訳ありません」

「…………」

 すると、ビッチ伯爵は少しばかり考えるよう、ジッと目を閉じた。物憂げな態度が超絶格好良いな。渋みが半端ない。やっぱり男は顔の彫りが深くてなんぼだよな。劣等感迸るだろ。葉巻とか加えたら最高に似合うと思うんだ。

「……まあいい。化けの皮などすぐに剥がれる」

「そのとおりにございます」

「ふんっ……」

 つまらなそうに鼻を鳴らすビッチ伯爵。

「共々、今日のところは帰れ。必要となり次第、こちらから改めて呼び出す」

 かと思えば、おもむろに腰を上げた。どうするつもりかと視線に追いかければ、なんと我々を同所に置いて、一人勝手に退室してしまった。これはまた、なかなか捉えどころのない性格の持ち主である。

 こういう人ほど、注意しないと大変なことになるのだ。

「アレンさん、これはどうすれば……」

「そうですね。詳しいことは他でお話させて頂けたらと」

「分かりました。すみませんがお願いします」

 そんなこんなで謁見タイムは終了のお知らせ。

 屋敷の執事とメイドさんに見送られて、ビッチ家を後とした。



◇◆◇



 アレンと連れ立ち、訪れた先は学園寮の自室である。

 ここほど落ち着いて話せる場所もないだろう。特に今回は話題が話題であるから、慎重にならざるを得ない。他に目や耳のある場所はマズいのだ。幸いにしてソフィアちゃんは留守であるから、そちらの心配をする必要がないのも大変ありがたい。

「さて、それではいきなりなのですが……」

 リビングのソファーに腰掛けて向かい合う。

 ローテーブルにはお茶が二つ。

 学園のサテンで購入した美味しいヤツだ。

「最初にお礼をさせて下さい。タナカさん、ありがとうございました」

「お礼を言われるにしても、すみません、私としてはまるで状況が見えていないので、経緯からご説明して頂いても良いでしょうか? もちろん伝えられないところを無理にとは言いませんが」

「はい、そのつもりです」

 もしかしたら聞けないかも、などと思っていた。

 けれど、アレンは存外のこと素直に頷いて、ツラツラと語り始めた。

「事の起こりは自分とエステルが付き合い始めた頃に遡ります……」

 そうしてイケメンの口から語られたところは、子細こそ異なっていたものの、こちらが想定した経緯と大差ないものであった。

 要はコイツがゾフィーちゃんに手を出した時点で、彼女の口からエステルちゃんとの関係がパパさんにバレてしまったのだ。そして、ビッチ伯爵はこれを黙秘する代わりに、ヤリチンを自らの身内として取り込むことを決めたよう。

 そこに果たしてゾフィーちゃんの貞操が織り込まれているか否かは、当のアレンであっても、今の今まで確認できぬまま本日を向かえるのだとか。もしも自身の娘までがヤリチンの餌食となっていると知ったら、さて、どうだろう。

 おぉ怖い。

 こういった背景の下、ゾフィーちゃんのパパはアレンのパトロンとなった。そして、アレンが将来、エステルちゃんとゴールインして貴族の位を得た暁には、自らの派閥に組み入れる算段であったのだとか。

 エステルちゃんのパパの子煩悩具合は市井にも噂が響くほど。そんなロリビッチの愛するイケメンを身内とすることで、派閥内における自身の立ち位置を確たるものとすべく企んでいたよう。

 思えばゾフィーちゃんもエステルちゃんの魔法な家庭教師とかやっていると聞いた覚えがある。恐らくこちらも似たような意味合いからの行いだろう。そう考えると幾分か、ビッチパパの方針も見えてくるのではなかろうか。

「なるほど……」

「なんとも不格好なお話となり、情けないばかりです」

 つまり、田中男爵という存在が、アレンの未来を完全に壊してしまったのだ。本来であれば、爵位を得るのは目の前に腰掛けて、しゅんと顔を伏せるイケメンであって、その正面で茶をしばくブサメンではなかったのだ。

 ちょっと罪悪感あるだろ。

「こちらこそ申し訳ありませんでした。そのようなことになっているとは」

「いえ、タナカさんが謝罪されるようなことではありません。全ては自らの至らないが所以の結果です。それに本日に至っては、いよいよと思われたところ、この首までをも救って頂き、感謝こそすれども頭を下げられるなど、とんでもないです」

「ですが本来であれば、男爵となるべくはアレンさんだった筈です」

「成れる者が成るのです。そこに決まりなどありません」

「しかし、それではこれまでのアレンさんの努力は……」

「努力に意味はありません。成果こそが全ての世の中ですから」

 清々しいまでのヤラれっぷりだ。

 他に手があるようにも思えないのだけれど、彼のメンタルは大丈夫なのだろうか。もしも自分が同じところにあったら、愚痴の一つでもこぼしていると思う。好きな女に加えて、目の前にまで迫っていた爵位さえも奪われてしまったのだ。

 やばい、言葉にすると罪悪感が更にドン。

 個人的には努力こそ報われるべきだと思う。

 成果なんて作ろうと思えば、幾らでも捏ち上げられるのが世の中というやつである。

「最初に確認したいのはアレンさんの身の上なのですが」

「今日の感触からすると、恐らくは大丈夫だと思います」

「まずはそれを聞いて安心しました」

 多少なりとも付き合いがあるのだろう。

 あの彫り深い系イケメンに理解があるようだ。

「ところで、ビッチ伯爵は変わった方のようですね?」

「そうですね。このような事を私の口から述べるのは失礼にあたりますが、あのお方は非常に用心深い方です。故に私のような平民に対しても、決して油断や驕りを見せることはありませんでした」

「そうなのですか?」

「フィッツクラレンス派閥においては上位に名の挙がる方ですが、あまり多く自身の派閥を作るような真似もされません。恐らくは寝首をかかれることを恐れているのでしょう。故に私のような下々を育てて身内とする、といったやり方を好むようですね」

「なるほど」

 個人的にそういうの嫌いじゃない。

 一方で敵対したら非常に苦労しそうだ。

 今後は出来る限り協調ルートで舵を取っていこう。

「先刻、我々が早々に屋敷から追い出されたのも、タナカさんという存在を測りかねた為でしょう。これもまた勝手な想像となりますが、今頃は必死になって貴方に関する情報を漁っている筈です。それはゾフィーもまた間違いないでしょう」

 そうだったのか。

 危うく怖い顔にダマされるところだったわ。

 初印象ではオラオラ系間違いないと思ったし。

「だからこそ彼はエステルの存在にこだわっています。というより、リチャード様との関係強化に力を注いでいますね。ゾフィーがエステルの魔法の家庭教師をやっていたのも、その繋がりでしょう。当時のことは僕も詳しく知りませんが、以前、ゾフィーがそのようなことをこぼしていました」

 やった、正解だ。

 ちょっと嬉しい。

「そして、ビッチ伯爵自身はと言えば、親の代で火の車と言われた領地を一代の手腕に立て直した経営の天才です。また、その慎重な性格が故に、身内と認めた後続への教育にも熱心です。故にリチャード様も、ビッチ伯爵が優秀であるかぎり、これを見捨てるような真似は決してしないでしょう」

 っていうか、一連の語りってば、最高に貴族トークしてるよな

 ソフィアちゃんに聞かせたら喜びそうなお話だ。

 入社間もない頃、予定の入っていない会議室でした役員ごっこ、思い起こす。律儀にも最後まで付き合ってくれた派遣の山田君、今も元気でやっているだろうか。

「しかし、そうなるとアレンさんの身の上は、依然として危ういのでは?」

「タナカさんが私とエステルの間柄を伯爵の前で取り持ってくれたでしょう。あれを耳としたのであれば、実情はどうあれ、ビッチ伯爵が動くことはない筈です。せっかく繋いだエステルとの関係を断ち切ることになりますから」

「なるほど、だから安全なのですね」

「はい。ですので、本当にありがとうございました」

「私もアレンさんから感謝されるような身の上ではありませんよ。元はといえば私が場を乱してしまったのが発端なのですから。だからこそ、一連の面倒は正しい形に戻す必要があると考えております」

「ですがエステルは……」

「私はこれを成す為に貴方の下を尋ねたのです、アレンさん」

「…………」

 魔導貴族に続いて、アレンの恋のサポートもしてしまうぞ。

 こうなったら恋のキューピット全力だろ。

「つきましては今後の予定に関してお打ち合わせをしたいのですが……」

 さぁ、いざこれから、話題を振るべく続けた頃合いだった。

 不意に玄関の方から響く声が。

「もしもし、エステルよっ! 入るわねっ!?」

 よりによってロリビッチ来訪のお知らせ。

 なんてタイミングの悪い金髪ロリータだ。



◇◆◇



「どうしてアレンがここに居るのかしら?」

 きょとん、首を傾げて問うてくるエステルちゃん。

 一同、場所は変わらず我が家のリビングだ。アレンが変わらず一人で三人掛けのソファーへ腰掛けているに対して、自身の隣にはそれが自然だと言わんばかりの振る舞いで、流れるようにエステルちゃんがストンと。

 彼女の振る舞いは平素と何ら変わりない。

 おかげで一方的に苦しそうな表情となるのがアレンである。

「久し振りだね、エステル。少しタナカさんと話をしていたんだよ」

「というと、もしかして男爵位の件を耳としたのかしら?」

「あ、あぁ、そういうことさ」

「本当? であればアレンも一緒にお祝いをしましょう。いいわよね?」

「そうだね。僕もタナカさんにはお世話になったからね」

「明日、私の家で恒例のパーティーがあるの。アレンも一緒に来ると良いわ。美味しいごちそうも沢山あるから。あ、もちろん、貴方もよっ!? 今回の主賓は貴方なのだからっ! 私と一緒に出て貰わないと困るのだからっ!」

「え?」

「え?」

 あまりにも唐突だ。

 エステルちゃんからのお誘いに返す言葉を失う男二名である。

「お父様には今の今までずっと黙っていたのだけれど、もうそれも必要ないわ。こうして貴族になったのだから、ちゃんと紹介したいの。パーティーにはフィッツクラレンスの派閥が集まるから、皆に貴方の存在を知らしめるチャンスだわっ!」

「いやあの、エステルさん、それは流石に……」

 その場で殺されかねないだろ。

 もう少し準備とか根回しとか、そういう感じの必要だと思うんだ。

「あ、そうね。だから、これから服を用立てに向かいましょう。貴方の素敵なところを、より素敵に際立ててくれる服をっ! 私は今の姿の貴方が大好きだけれど、きっとまだ見ぬ姿の貴方も大好きよっ! 愛しているわっ! 孕ませてっ!」

「…………」

 今朝のメイド仕様も随分だったが、今はそれ以上だ。

 流石にこれは、アレンに申し訳が立たないぞ。

 ここは一つ、ビシッと示しておこう。

「エステルさん、何度もお伝えしていますが、私には好きな方がいます」

「ええ、知っているわっ!」

「でしたら……」

「私にも好きな人がいるわ! それは貴方よっ!」

「いえ、ですから……」

「きっと貴方も同じよね? 好きな人のために、きっと日々を一生懸命となっているのでしょう。ただ、その姿を私はまだ見たことがない。一方で貴方は、私の一生懸命となっている姿を今も見ている。ただそれだけの違いだと思うわ」

「…………」

 確かに。

 そう言われてしまうと、上手い言葉が見つからない。

 誰かの真っ直ぐな主張を否定するのは、自らの良心が痛む行いだから。

「分かりました。パーティーについては参加させて頂きます」

「本当っ!?」

「はい」

 とは言え、アレンとの関係も重要だ。

「嬉しいわっ! とても、とても。そうと決まれば、服を買いに行きましょう? 今回に限らず、貴族となったのであれば、数着は持っておかないと困ったことになるもの」

「そうですね。できればアレンさんも一緒が良いかと」

「いえ、ぼ、僕は……」

「たしかにそうね。騎士としての正装は甲冑なのだけれど、流石にそれで足を運ばれても困るわ。一緒に用立てるのがよいわねっ!」

「…………」

 リーマンにとってのスーツのようなものだろう。

 今後とも入用になるのは間違いないので、素直に従うこととした。

 こうなるとロリビッチは止まらないからな。



◇◆◇



【ソフィアちゃん視点】

 こちらラジウス平原改めドラゴンシティです。

 タナカさんのお留守を預かる身の上、失敗は許されまいと、日々、気を引き締めてお仕事に当たらせて頂いております。その集中力たるや、学園で食っちゃ寝していた頃とは比較になりません。ここには貴族メシがありません。

 そうした只中、問題が発生です。

 ゴーストです。ゴーストが出ました。

 どこに出たかといえば、数多ある銭湯施設の一つ、北区に所在する一軒の浴室に出ました。目撃者はプッシー共和国の貴族さまです。私も少しだけ面識のある方で、タナカさんの領地とは隣同士のお方です。

 たしかお名前をドリスさまと言ったでしょうか。

 縦ロールが印象的な、エステルさまのお知り合いです。

「ここよっ! ここに出たのっ!」

「は、はひっ! そうなのですねっ!」

 そして、何故か私が状況検分を行っております。

 他にはどなたの姿もありません。

 どうやらドリス様はゴーストが苦手のようで、見つけて直後、碌に身形さえ整えないまま、タナカさんの執務室へ飛び込んでいらっしゃいました。もしも部屋主が不在でなかったのなら、どうしたつもりだったのでしょうか。

「貴方、彼のメイドなのでしょう!? ゴーストくらいどうにかなさい!」

「い、いえ、あのっ、私はただの平民で、魔法もぜんぜん……」

「おぉおおおっほほほほほっ! ゴーストには普通の魔法が効かないのよっ!? 火の玉をぶつけても倒せないのっ! そんなことも知らないのかしらぁ!?」

 震えながら知識をひけらかしつつ威張らないでくださいよ。

 ちょっと可愛いと思っちゃったじゃないですか。

 普段なら付かず離れずな護衛の方も姿が見えません。パッと見た感じ暗い印象を受ける方なのですが、よくよく見てみると実はカッコイイというのが素敵ですよね。初見とのギャップというのでしょうか。胸がキュンキュンしてしまいます。

「……あの、いらっしゃいませんが」

 ドリス様に従いやって来たものの、浴室にそれらしいものは見えません。

「…………」

「…………」

 他にお客様の姿もなく、室内は随分と閑散して思えます。

「さ、さっきは居たのっ! 嘘ではないわよっ!?」

「は、はいっ」

「髪を洗っている時、後ろに人の気配があったらビックリするのではなくってっ!?」

「はいっ、そ、そのとおりだと思いますっ!」

「まったく、どこに隠れたのかしらっ! この私をドリス・オブ・アハーンと知っての狼藉かしらっ!? あっ、もしかしたら、リズの悪戯という可能性もあるわっ!」

「…………」

 エステル様はそんなことしないと思います。

 行くなら真正面から一直線、みたな方ですし。

「きぃぃ、まったく、まったく、なんて卑怯な女なのかしらっ!」

「…………」

 まあ、それでドリスさまが納得されるのであれば幸いです。

 適当に頷いて場を納めるのがメイドの役割でしょう。

「そ、そのようですね。では今日のところは、お部屋に戻られては……」

「戻るですってっ!? 冗談ではないわ! 証拠を掴むまで私は眠らないっ!」

 眠らない、ではなくて、眠れない、の間違いではないでしょうか。

「…………」

 大人しく眠りましょうよ。

 どうしてこう、貴族の方は元気な方が多いのでしょうか。

 明日は睡眠不足ですね。
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