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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫

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領地開拓 五


 結局、クリスティーナの腹パンによって、ナンヌッツィさんを巡る面倒は全てが問答無用に終えられた。出来ることなら一つ、彼女にはソフィアちゃんに謝って欲しかったのだが、既にそれを望むことも叶わない。

 もちろん回復魔法も早々に試みた。しかしながら、浴室に散らばってしまった彼女の肉体が、再び一つに繋がることはなかった。幾度を繰り返しても反応は得られず、ただ、そのまま在るばかりだった。

 それでも少なからず魔力の抜けた感触はあったのだ。ただ、使い始めて間もない力が故、排出の意味するところは知れぬまま、元にバラバラとなった肉片が一向に戻る兆しもなく、最終的には黄昏の団の手により掃除される運びとなった。

 おかげで貴族様方もひとっ風呂浴びて早々、首都カリスに向かい発っていった。

 場の空気を察したのだろう。

 魔導貴族を巻き込んでいる都合、触らぬ神になんとやらだ。

 ただ、人妻の処遇に限って言えば、事前に魔導貴族が処分を決めていた為、取り立てて騒動となることはなかった。むしろ当然だという意見が大半を占めていた。どうやら学園内におけるオッサンの地位は絶対のよう。カリスマってやつだな。

 とは言え、この街に悪い印象を持たれてなければ良いとは、切に願うところ。

 そんなこんなで後に残されたのは自身の他、ゴンザレスに加えて、魔導貴族、エステルちゃん、エディタ先生、ソフィアちゃんといった、いつもの面々である。思えばここ最近、一緒に過ごす時間が増えた彼ら彼女らだろうか。

 自然と人心地ついた感を得る。

 一同、今に居する場所は、先刻まで浸かっていた入浴施設の上階に所在するラウンジだ。階下に同じく、いわゆるリッチ層向けの寛ぎスペースとなる。ただ、まだ準備が十分に整っていない為、広めの部屋に幾つかソファーやテーブルを並べた程度ではあるが。

「一つ、良いだろうか?」

 ソファーに腰掛ける魔導貴族が、不意に腰を上げた。

 向き直った先はこちらでなく、何故かソフィアちゃんだ。

「どうされました?」

 まさかうちのメイドさんがやっちゃった感じだろうか。

 このオッサンは魔法が使えない輩に容赦が無いからな。

「ファーレンさん、もしも彼女がなにかしたのであれば……」

 これを庇うべく自らもまた立ち上がる。

 するとどうしたことか、皆々が見つめる先、ヤツが頭を下げた。

 腰を折って、深々と、観衆の目前に頭を下げたのだ。

 ソフィアちゃんに。

「え? あ、あのっ……え?」

 一瞬、呆け顔となるメイドさん。間抜け顔が可愛い。ややあって、相手の頭が自らの側に倒れていると理解したのだろう。熱いものにでも触れたよう、ぴょんと勢い良く立ち上がった。その表情は慌てに慌てて思える。

「あのっ! あっ、あっ、あのっ!?」

 下げられた側は何が何やらといった様子だ。

 これに構わず魔導貴族は続ける。

「この度の不始末へ至る際して、他の誰にも先んじること指摘の声を挙げた貴様だ。その勇みを無碍に扱ったのは、偏に私の愚かさが所以だ。すまなかった。どうかこの場に謝罪させて貰いたい」

「ふぉっ……」

 魔導貴族にも魔導貴族の立場があったろう。

 にも関わらず、言い訳を並べることなく素直に謝るとは男らしい。

 格好良いじゃないか。

「もちろん十分な賠償も行わせて貰う」

「いえっ、あ、あのっ、あたまを、頭を上げて下さいっ」

 一方で殊更に慌て始めるのがソフィアちゃんだ。

 伊達に小心者していない。

 最高にあわあわしてる。

 救いを求めるような眼差しがこちらにまで飛んで来た。

 どうにかして下さいタナカさん、そんな感じ。

 ただ、この場は魔導貴族のものだから、横から攫うのは申し訳が立たない。ヤツのやりたいようにやらせるのが良いだろう。こちらは楽しくソフィアちゃんのあわあわする姿を鑑賞させて頂く所存にございます。

 メイドさん、段々と脇の下が湿ってまいりました。

 ソフィアちゃんの脇から精製した塩で歯を磨きたい歯茎引き締まる。

「なんでも好きなように言うといい。多少の無理ならば叶えるつもりだ」

「いえっ、あの、私はそんな大したことはしてませんでして、むしろ、あの、エステルさまやエディタさんが面倒を見て下さったのでありましてっ、ですからっ、わ、わたしはそのように褒章を受けるような身分ではっ……」

「謝礼は改めて行う。だが、先んじて私は謝罪をしたいのだ」

「で、ですがっ……」

 魔導貴族は頭を下げたままだ。

 おかげでソフィアちゃん、本格的に涙目である。

「せめて、お顔を、お顔をお上げくださいっ」

「許してもらえるだろうか?」

「とととと、とうぜんでございますっ!」

 ちょっとは粘って欲しかったな、ソフィアちゃん。

 こんな魔導貴族、滅多に見れないし。

 ややあって、オッサンの美丈夫フェイスが正面に戻ってきた。

「……その裁量に感謝する」

「め、滅相もございませんっ」

 これで少しはソフィアちゃんの魔導貴族嫌いが治ってくれれば嬉しいのだけれど、今のはどちらかと言えば、殊更に悪化させた感が半端ない。スカートの裾より下、覗く膝がガクガクと震える様が見て取れる。

「賠償については考えておくと良い。また日をおいて訪ねに向かう」

「は、はい……」

 どうやら魔導貴族自身も慣れないことをした自覚があるのか、その指先にポリポリと頬など掻いては、明後日な方向へと視線を流しては向かわせた。ここ最近、恋愛相談をしてみたり、なにをしてみたり、女子力の上昇も甚だしいな。

 ちょっと可愛いタイプの中年になってきているぞ。

 まあいい。

 ソフィアちゃんにとっては悪くないお話だった。

「無事に収まるところへ収まったようで、なによりです」

「う、うむ」

 適当を呟いて、お話に一段落を付ける。

 魔導貴族も満足したことだろう。

 となると、そろそろ切り出しても良いだろうか。

 風呂場を後としてから半刻ばかり、ずっと提案したかった文句を口とする。

「ところで、ファーレンさん、一つお願いしたいことが」

「なんだ?」

「これからクリスティーナさんを探しに行こうと思うのですが、もしも手が空いているようであれば、手伝っては貰えませんか?」

 できればもう少し急ぎたかったのだけれど、他に貴族の視線があった手前、遅れてしまったのだ。相手が相手なので、こういうのは気を使うよな。まさかヤツの恋路を他者に知られる訳にはいかない。

「これは勝手な推測ですが、彼女はまだ街に居るような気がします」

「……なるほど」

 あれでなかなか繊細なドラゴンのようだ。ちゃんと構ってあげないと、不貞腐れてしまいそう。なにより今後ともヤツには街作りで色々と協力して貰いたい。だからこそ、関係は良好に保っておくべきだろう。

 それに今回の一件に関しては、こちらも反省するところが多い。

 意図して我々の領域に巻き込んだのだから、これをサポートするのは巻き込んだ側の役割である。自己責任と放置することも可能だが、今の彼女は突き放してどうにかなるほど、人類のコミュニケーションに慣れていない。

 下手をすれば更なる不幸のキッカケともなり得る。

 また、同時に魔導貴族を誘うことでヤツからの相談にも応えることができる。結果的に誰が見つけたとしても、共に探したという事実があれば、クリスティーナに訴えることが出来るのではなかろか。こういううのは事実が大切なのだ、と思う。

「良いだろう。そういうことであれば、私も協力させて貰おう」

 こちらが席を立つに応じて、魔導貴族もまた勢い良く腰を上げた。

「よろしいですか?」

「うむ」

「では手分けして探しましょう」

 良い笑顔で頷いてみせる魔導貴族。

 伊達にロリドラゴンに惚れていない。

「そういうことなら俺たちも手伝うか?」

 自然とゴンザレスが続いた。

 相変わらず気が利くじゃないですか。

 しかし、流石にゴンちゃんと愉快な仲間たちでは手に余るだろう。情緒不安定となったロリドラゴンの対応は容易でない。碌に面識のない手合を向けて、二次災害が発生しては堪らない。

「いえ、彼女の捜索は我々で対応しますので、ゴンザレスさんたちは昨日と同様に、街の整備をお願いします。探すと言っても壁の内側を見て回るだけなので」

「そうか? まあ、もしも目についたら連絡は入れるぜ」

「そうして頂けると助かります。是非お願いします」

 一度で良いから、逃げた女の後を追いかけてみたかったんだ。

 相手はどうあれ夢が一つ叶いそうだな。

 ただ、できれば魔導貴族に見つけて貰いたいとは思う。

「ちょっと待って。私も手伝うわ。背中に乗せて貰った借りもあるし」

「わ、わ、私も手伝おうかっ! 共に学技会の席へ臨んだ仲だ」

 オッサンに続いて席を立つエステルちゃんとエディタ先生。

 なんだよ、意外と愛されてるじゃないか、ロリドラゴン。

 この二人は決して嫌いな相手の為に動いたりしないと思う。好きか否かは知れないが、少なくとも職場を共にする同僚程度には認めているに違いない。

 共にクリスティーナへの理解はある筈なので、十分な戦力だ。

「ではすみませんが、お二人にもご協力を願います」

「見つけたら合図をするわねっ!」

「こっちもだ」

 頷く金髪ロリーズ。

 キリっとした表情で意識してシリアスするエディタ先生ラブい。

「はい、ではそのような形でお願いします」

 そうした場の雰囲気に流されてだろう。

 ソフィアちゃんもまた、ガクガクブルブル、震えながら声を発する。

「あの、わ、わ、わ、わたしも……」

 無理は良くない、無理は。

「ソフィアさんは留守番をお願いします。他の方が戻ってきた際などに、言伝などあれば共有して頂けると大変に助かります。こちらもまた必要な役割ですので」

「は、はひっ!」

 互いに確認したところで、いざ、ドラゴン探しに出発だ。



◇◆◇



 結論から言うと、想定したとおりロリドラゴンは壁の内側に居た。

 北地区のスラム街に見つけた。わざわざ作ってからファイアボールに壊した家屋の玄関先、少しばかり厚みのあるストーンウォールで作った玄関石に、ちょこんと尻を落ち着けてのこと、体育座り。手にした木の棒で地面に文字っぽいの書いてた。

 なんだよまったく、このラブリードラゴンは。

「クリスティーナさん」

 名を呼ぶと、その肩がビクリと震えた。そして、恐る恐るといった様子で、顔を上げると共にこちらへ視線を向けた。

 その表情は、決して見間違いなどではなく、意気消沈して思えた。恐怖と悲しみの入り混じった、非常にらしくない面持ちだった。

 初めてではなかろうか。

 コイツにとって、そこまで大切なものが、ここにはあったのだろうか。

『わ、私を追い出すのか!? それとも、ここ、こ、殺しに来たのかっ!?』

「クリスティーナさん」

『いいだろうっ! 貴様なぞ、我が力の前には塵も同然だっ、この場に二度と復活できぬよう、完全に滅ぼし尽くしてくれようッ! 古き龍に喧嘩を売ったこと、あの世で後悔するがいい!』

 大慌てに立ち上がり凄んでみせる。

 危険な兆候だ。

 また腹パンを繰り出しかねない。

 他の面々を呼ぶ前に、少し宥める必要がありそうだ。

 最初に見つけたのが自分で良かった。

「別に売ってませんよ。私のそれは今のところ非売品ですので」

『だっ……だったら、なんだというのだっ!』

「貴方を迎えに来ました。まだまだ仕事は他に沢山あります。ですから、このような場所で腐ってないで、私と一緒に街づくりをしてくれませんか? 町長として」

『……ちょう、ちょう?』

「ええ、嫌ですか? お風呂場でそのような話題を上げられていたと思いますが」

 その活躍を思えば、決して吝かでない選択だ。

 人間とは役割や肩書きを得て成長する生き物だ。それはきっとドラゴンであっても同じだと、今なら思う。ナンヌッツィさんを相手に見せた彼女の振る舞いは、決して偶然や気まぐれなどではないと信じてる。たぶん。

『…………』

「どうしました?」

 呆と、ロリドラゴンに見つめられている。

 身長差の都合上、上目遣いというやつだ。

 真っ黒な只中に爛々と輝く黄金色の瞳が。

「クリスティーナさん?」

『……貴様、私とつがいになりたいのか?』

「どうしてそうなるんですか」

 よりによって確信を突いてくるロリドラゴン侮りがたし。

 なりとうございます。

 極めて一つになりとうございます。

 そのお膣に膜さえあればな。

『そうでないなら、何故にわざわざ声を掛けに来た。オスがメスの尻を追いかける理由など、発情以外にあるのか? 他に理由らしい理由など、あると思っているのか?』

 無駄に賢い分、無駄にコミュニケーション経験が浅い分、何もかもが直球のロリドラゴンだ。分からないことは素直に問うてくる。その素直さが、一方で極めて素直じゃない力関係を巡る問答と比較して、胸にズキュンと来る。

 膜の有無を確認せず、全力で愛を囁きたい気分だ。

「大切な仲間の為に気を掛けるのは自然なことじゃありませんかね? 人間に限らず、他の生き物だって、群れの仲間の為に尽力することはあるでしょう」

『仲間?』

「ええ」

 魔導貴族の審美眼は大したものだ。

 今後が楽しみじゃないか。

 全力で応援するわ。

『誰が誰のだ』

「私が貴方のですけれど」

『…………』

 すると、続くところ急に黙ってしまうクリスティーナ。こちらを見上げたまま、金色の瞳孔が固まったようにジィと。コイツ、白目の部分が黒いから見つめられると怖いんだよな。万が一にも腹パンが飛んできたら、とは一番の危惧だ。

「嫌ですか? 他にファーレンさんやエステルさん、ソフィアさんも同じように貴方のことを心配していましたよ。私と同じように貴方のことを探していらっしゃいます。ゴンザレスさんたちも、そのように声を掛けて下さいました」

『…………』

「そういった意味では、私以外の皆さん、誰もが同様ですね」

 つらつらと文句を並べる。

 すると、どうしたことか、くるりとその場で身を翻すロリドラゴン。

 後ろを向いてしまう。

 ロリロリのお顔が見えないではないか。

 窺えるのは小さな背中が限り。

「どうしました?」

『ま、まあっ! 貴様がどうしてもというのであれば、この街の町長、引き受けてやらないこともないっ! き、き、き、貴様がどうしても、この私に頼むと、頭を下げるのであれば、そう、頭を下げるのであればなっ! なっ!」

 かと思えば、続いて投げ掛けられたのは、平素からの軽口。

 ただ、どこか湿っぽいぞロリドラゴン。

 意外と涙腺が緩いな。

 いつぞやは酷い目にあったが、昨今のやり取りを経ては、抵抗も随分と小さくなって思える。これが仲間になるということであるのならば、案外、仲間になったのはロリドラゴンでなく、自分の方なのではないかと、思う。

 だから素直に下げることとした。

「ええ、どうしてもお願いします。クリスティーナさん」

『っ……』

 また、クリスティーナの肩が震えた。

 最高にバイブってるな、ロリゴン。

 かなり嫌いじゃない。素直に愛らしい。

『いいのか? そ、そんなので……』

「良いですよ? 私は貴方を信じていますので」

『っ……』

 それはきっと、懇願のようなものなのだろうな。

 信じているというよりは。

 これでコイツが少しでも大人しくなれば、魔導貴族も喜ぶだろう。

 みんな幸せだ。

「駄目ですか?」

『……ぁる』

「はい?」

『だ、だからっ! 町長をやると言っているのだっ!』

「あ、はい。分かりました。では、すみませんがお願いします」

 良かった。

 どうやらクリスティーナと、お別れせずにすみそうだ。

 また一緒に街作りができそうだ。

 なんて、考えてしまった時点で、きっと負けたのは自分なのだろう。今、ヤツのほっぺの具合を窺えないのが、一番に悔しい。叶うことなら人差し指でツンツンしたい。

 なんて人懐っこいドラゴンだろう。



◇◆◇



 無事にクリスティーンを回収して、再びラウンジに戻ってきた。

 空へ撃ち放ったファイアボールを合図として、他の面々もまた同様に戻ってきた。同所には先程に同じく、エステルちゃんとエディタ先生、ソフィアちゃん、魔導貴族、ゴンちゃん、それにクリスティーナといった面々が揃う。

「見つかって何よりだわっ!」

 快活としたエステルちゃんの言葉が飛ぶ。

 おかげで場の流れはそのように。

 ムードメーカーってヤツだな。

「ええ、そうですね」

 ということで、勢いに任せてロリゴンと約束した点を共有しよう。

「本日から、ここの町長をクリスティーナさんにお願いする運びとなりました。際しては皆さんの助力を願うこと多々あるとは思いますが、ご協力して頂けると幸いです」

「……え?」

 これには流石のエステルちゃんも疑問の声を。

 今し方の勢いも途端に失われて思える。

 でも、決めてしまったものは決めてしまったのだ。

 ドラゴンシティ誕生だ。

『私が町長だっ! 町長だぞっ!? ど、どうなんだよっ!?』

 どこかビビってるロリゴン。

 致し方なし。

 一方、そんなの聞いてないとばかり、慌てるのがロリビッチ。

「あのっ、こ、ここは貴方の領地よ? どういうことかしらっ!」

「領地は私の担当かも知れませんが、町は彼女にお任せしました」

「……そんな。街と領地のサイズって、ちょっと、ねぇ」

 愕然とするエステルちゃんの表情、久しぶりに見たな。

「ただ、町長とは言え全てが思うがままではありませんよ、クリスティーナさん。ゴンザレスさんの率いる黄昏の団の皆さんには、十分な敬意を払って下さい。彼らは貴方が訪れるより以前から、街作りに協力して下さっていたのです」

『むっ……たしかに、私より先に居たことを覚えている』

「いや、俺らは別にどうでもいいんだがよぉ?」

 クリスティーナの眉間にしわが寄る。

「町長は貴方です。しかし、相手を思いやる心を忘れてはダメです。どう足掻いてもゴンザレスさんは貴方の脅威足り得ません。だからこそ、クリスティーナさん自身が、寛容な心でこれに接して下さい。暴力はダメです」

『……それが町長の務めだというのであれば、よ、良いだろうっ!』

「ありがとうございます」

 よしよし、偉いぞロリドラゴン。

 幼女が喜ぶのであれば、町の一つや二つ安いものだ。つまり、町の一つや二つは簡単に作ってしまえる男になってやるんだわ、俺が。ストーンウォール、絶対にスキルレベルMAXにしてやるんだからな。

 それにどうせ収支の確認をするのは自身だ。いよいよ迫る月末に向けて、報告用の帳簿も付けなくちゃならない。こちらは恐らく結構な仕事量になるだろう。

 町の運営全てを一人で担うことは不可能だ。せめて表に立って華やかに活躍する役割くらいは、綺麗どころに任せたい。適切な作業分担だろう。ブサメンは裏方に徹するのが安定のフォーメーションである。

 今のクリスティーナであれば、きっと、多分、大丈夫だろう。

「このドラゴンが居着いてしまったら、他に誰も退けられないのではないかしら」

「それはそれで面白いと思いますけれど」

「貴方の領土の町なのよ?」

「クリスティーナさんとはお話しましたので、きっと大丈夫ですよ」

 エステルちゃんの言い分は尤もだ。

 ただ、それほどまでに愛着を持ってくれたのなら、あぁ、嬉しい限りだ。誰かが必死になってくれる何かを残すって、とても名誉なことだからな。それがロリドラゴンほどに賢老な手合であれば、殊更に喜ばしい。

「ところで、ファーレンさんに一つ伺いたいことが」

「なんだ?」

「ストーンウォールとは一般的にどの程度、持続するものなのでしょうか?」

 あまり突っ込まれても面倒なので、ここで話題を変えるとしよう。

 つい先刻に伝えられたところ、延々と気になっていた点を確認だ。

 思い返せば飛行魔法に関しても意識の相違があった。

「貴様の言う一般的というものが、どの程度を指しているのかは知れない。ただ、私が思うところを述べるのであれば、ウォール系の魔法はどれも時間経過と共に耐久力が著しく低下する。持って飛行魔法のそれと大差ない程度だ」

「そ、そうだったんですか……」

 っていうと、一時間とか、そのくらいだろう。

 想像した以上に短いじゃないか。

 しかしながら、今も尚、数日前に竣工したストーンウォール製の銭湯は健在だ。そうなると気になるのは最終的な寿命である。正直、魔法を使った自身も、まるで感触が掴めていない。非常に不安なところだ。

 お客様をお迎えして以後、多くが入浴の最中に崩れゆく施設。全裸のお客様。阿鼻叫喚の地獄絵図。男も女も、女も、女も、少女も、幼女も。全裸で屋外に放り出されて、誰も彼もが生まれたままの姿に混乱する。

 冷静に考えると非常に悪くないかも知れない。

『適当を言うな、雑魚が』

「っ……」

 ここでクリスティーナが声も大きく口を開いた。

 意中の相手から飛んだ厳しい言葉を受けて、魔導貴族の肩が震える。

 この際だ、町の共同制作者に尋ねてみよう。

 慄くオッサンに代わり、続くところを催促する。

「というと、クリスティーナさんが用いたところは別に?」

『当然だろう? ニンゲンごときと一緒にするなどふざけたヤツだ。少なくとも貴様らの寿命が尽きるまでに、この街が崩れることなどありえんっ!』

 ドヤ顔で語ってみせるロリゴン。

「すみません、それは私が作った部分に関しても……」

 彼女のストーンウォールが凄いことは知っている。

 レベル四十五のファイアボールでも崩れなかった。

 ただ、一方で自身が生み出したモノはどうなのか。

『あ? あ、あぁ……まあ、べ、別に、私に並ぶほどではないなっ! なにせ貴様の壁はあまりにも脆いからなっ! そう、脆いっ! あまりにも脆いっ!』

「そ、そうなのですか?」

 やばいな。

 そうなると、色々と考える必要があるぞ。

 八十一年以前築の物件に住んでいる人の気持ちが分かるってものだ。新耐震設計法が如何様なルールかは知れないが、危ないと言われたら気になるのが人という生き物だ。

 割と焦る。

 すると、そんなこちらの心中を察したのか、ロリゴンが続ける。

『だが、まあ、なんだ? 私の壁に比べれば脆いには違いないが、お、同じように貴様らニンゲンごときの寿命程度であれば、持たないこともないだろうさ』

「……そうなのですか?」

 どうやら結局、当面は問題ないようだ。

 相変わらず遠回しな言い分である。

『私ほどじゃないっ! わ、私ほどじゃないぞっ!?』

「当面を持つのであれば問題ありません。ありがとうございます」

『ふぉおっ? あ、あ、あぁっ!?」

「どうしました?」

『お、おぅ……まあ、感謝するなら、おぅ……』

 クリスティーナの自尊心はさておいて、得られたところは悪くない。

 良かった良かった。建造から数週で立て直しの憂き目を見ることは避けられそうだ。当面は目先の目標に向かい尽力することが出来そうだ。手伝ってくれた黄昏の団の方々にも面目が立つというもの。

 しかし、まさかロリドラゴンからフォローされる日が来るとはな。

 ちょっと胸の内が熱い気分だわ。

 それと一つ思った。コイツにはあまり気軽にありがとうって言わない方が良さそうだ。交わす言葉をとても大切にしている節がある。気軽に連発することはせず、ここぞという瞬間にのみ限るとしよう。

「お、おいっ! タナカっ!」

 クリスティーナの言葉に心を落ち着けたところ。

 間髪おかずにエディタ先生から声が飛んだ。

 しかも名指しだ。

 思えばタナカの呼称で彼女から指名を受けるのは久方ぶりのような気がする。というか、初めてじゃないか? いや、呼ばれたことがあるような、でもないような。まあ、いずれにせよ極めて嬉しいじゃないの。

 先生からのお言葉なら大歓迎だ。

「なんでしょうか? エディタさん」

「一つどうしても確認させろっ!」

 いつもに増して勢いのあるエディタ先生の釣り上がった眦が可愛らしい。

 身を乗り出すよう問うてくる。

 ローテーブルにペタリとついた両手が、思ったよりちっちゃくてロリロリだ。

 ロリッロリッだ。

 このお手々で扱かれたら、どれだけ気持ち良いだろう。両手を用いて一生懸命な感じでゴシゴシして欲しい。半開きの口から唾液を絶え間なく流して、潤滑油の代わりにして下さると尚良し。

「ここで販売予定だというマナポーションだが、あれは貴様が考えて作ったものなのか!? それに風呂へ入れられていた入浴剤、あ、あれもっ!」

「私がというよりは、エディタさんの著作を参考に少し手を加えた程度です。以前に読ませて頂いた本を参考にして作りました。ただ、そう多く手は加えていません」

「つまりあれか、わ、私と貴様の共同研究というっ……」

「そうですね。そうして頂けると私としても非常にありがたいです」

 特許的な何かがペニー帝国に存在するか否かは知れない。ただ、いずれにせよ利権に対する利用料など、その手の金銭を求められては大変だ。卑しい判断ではあるが、ここはどうにか共同開発物としての態を取りたい。

 未だエディタ先生の言動は良く分からないところがある。唯一、己に確信を持てる点があるとすれば、あまりにもムチムチな太ももを変幻自在に組み替えることで、容易にパンチラ鑑賞させてくれる寛容な心の持ち主であるということだ。

「構いませんでしょうか?」

「そうか。貴様と私の共同開発かっ、そ、そうかっ、ふふ、ふふふっ」

「あの、エディタさん?」

「え? な、なんだ?」

「ですからペサリ草に関する研究についてですが……」

「本を書くぞっ! 本っ!」

「はい?」

 先生のテンションがおかしい。

 大丈夫かよ。

「研究者は自らの研究を本としてまとめるものだっ!」

「ええ、たしかにそういうものだと思います」

「か、書いても良いか? 私の方で。ああっ、もちろん貴様の名前もちゃんと入れる。私のが後ろでいい。だから、か、書いてもいいか? 本、私の手で」

 どこか飢えて思えるエディタ先生。

 本書くの好きなんだろうか。

「エディタさんが良いのであれば、こちらはなんら問題ありませんが……」

「おぉっ! そうかっ! では書こうっ! この度の共同研究の成果をっ!」

 めっちゃ嬉しそうだ。

 これは勝手な推測ではあるが、人見知りな先生のことだ。これまで長年に渡りボッチで研究してきたのだろう。故に誰かと一緒に何かを成し遂げるという、そのプロセスに興奮しているのではなかろうか。

 自身がロリドラゴンやゴンちゃんとの街作りに夢中となっていたのと同様だ。

 一人で課題を突き詰めるのも面白いかも知れない。しかし、誰かと一緒に協力して何かを成すというのも、これまた楽しいことだろう。その悦びをロリムチムチ先生は今まさに享受しているに違いあるまい。

「ちょ、ちょっとっ! それなら私も書くわっ!」

 すると、間髪置かずにエステルちゃんが吠えた。

 相変わらず負けず嫌いなロリータである。

 アンタには何も書くものなんてないだろうに。

「エステルさん、書くとは言っても、何を書くつもりですか?」

「私と貴方の日々を後世に残す一大叙事詩よ! 全五十巻だわっ!」

「好きにして下さい」

 どうせ三日で飽きるだろう。

 放っておけば良い。

 誰も読まない。

 それよりも今を優先するべきは魔導貴族へのフォローだと考える。せっかくロリドラゴンと場所を共にしている都合、この場を有効活用しない手はない。

 先程には一緒に彼女のことを探している云々、話題にも上げた経緯がある。相手の感覚も少なからず温まっていることだろう。これ以上ないチャンスだ。

「ところでクリスティーナさん、一つ伺いたいことがあるのですが」

『……なんだ?』

 ホクホク顔でジュースを啜っていたロリゴンがこちらを振り向いた。

 唇にオレンジ色付いてる。

「先程のお話のついでと言ってはなんですが……」

『なんだよ? 早く言え』

 すこしばかり勿体ぶってから続ける。

「エンシェントドラゴンに限らず、ドラゴンという生き物はどういった基準でつがいとなる異性を選ぶのでしょうか? もし差し支えなければ教えてもらえませんか?」

『……ドラゴンの番だと?』

「はい」

『貴様、やはり私と番になりたいのか? 流石に人とドラゴンとでは……』

「いいえ、違いますよ」

 恋愛単細胞なエステルちゃんあたりに勘違いされるかも知れない。だが、既にヤツは手当たり次第なところがある。今更一つ増えた程度では問題ないだろう。相手がロリドラゴンとなれば、下手に手を出すこともあるまいし。

「人間や人間に近しい亜人は、主に外見や財力で人を選びます。一方で独自の文化圏を持たないドラゴンなどは、どうやって伴侶を選んでいるのか、これでも学園の生徒ですから、少なからず気になりまして」

 いささか無理矢理な感じある。

 しかしながら、話が繋がっていない訳でもない。

 すると、ロリゴンは随分と気分を良くした様子で語り始めた。

『そ、それなら、そうだなぁっ! やっぱり形の良い角と、あと大きな翼が必要だろうなっ! どちらも譲れんっ! それと尻尾の長さや太さも、色々と通じるところがあると話に聞いたことがある!」

 自分という存在に興味を持って貰ったことが嬉しいのだろうか。

 分からない。ただ、そんな気がした。

「角に翼、それに尻尾ですか?」

「当然だっ! それと最低でも、この町の壁を一撃で破る程度の力がなければ、興味すら持てんだろうなぁっ! あっ、も、もちろん一撃だぞっ!? 一撃っ! 同じところを何度もやったら駄目だ』

 なるほど。極めてドラゴン的なご意見だ。

 やはり人とは美的感覚が異なるのだろう。

 ちょっと魔導貴族には辛い注文だろうか。しかしヤツならば、いつかは頭から角を、背中からは羽を、そして尻からは尻尾を生やすような日が来るかもしれない。伊達に魔導を究めんと意気込んでいない。

 ファンタジー極まるこの世界だ、やってやれないことは無いだろう。きっと。

「なるほど、いわゆるドラゴンらしさが求められる訳ですね」

『そうだなっ! どれも欠いてはならんっ、どれもなっ!』

「ありがとうございます。勉強になりました」

 ドヤ顔で語ってみせるメスドラゴン。

 勢い良く口を開いた都合、つばが飛ぶ。

 それがテーブルの上、手の甲に掛かってしまったエディタ先生。なにやら嫌そうな顔をしていらっしゃる。うわーばっちぃー、みたいな。でも文句は言わない。賢いエディタ先生はドラゴンに喧嘩を売るような真似はしないのだ。泣き寝入りする先生かわいい。

 叶うことならば、自らの舌で丹念に舐めとって差し上げたい。

 エディタ先生のおてて ~ロリドラゴンの唾液を添えて~ 的な魅力がある。

『だ、だがっ!』

「はい」

『やさ、さ、やさしい、ことも、大切だと思うぞ……』

「そうなのですか?」

『うん』

 たまにやたらと素直な返事するときあるよな、コイツ。

 恐らく本人は意識していないのだろうが。

「であれば、割と人と親しいところも、併せ持つのかも知れませんね」

 呟いて、チラリ、魔導貴族に目配せする。

「…………」

 意識が通じたのか、ヤツは小さく俺に頷いてみせた。

 今のやり取りを受けて尚、恋する中年は情熱を失っていないようだ。良かった。むしろ瞳に強い意志を感じる。早々、口を開いては話題の輪に加わってくるほど。

 チラリ、ロリドラゴンへ目配せをしながら、こちらに質問が飛んだ。

「何故に町の壁なのだ?」

「ここの一番外の壁はクリスティーナさんが作られたのですよ」

『そのとおりだっ!』

「ほうっ、そうだったのか」

 それとなく皆さまに情報提供を。

 早々に頷いてみせたのは当の魔導貴族だ。事情を知るが所以の勘違いかも知れないが、その表情に笑みが浮かんで思えた。恐らくだが、明確な目標が立ったところで、やる気も一入といったところなのだろう。

「あのっ! もしかして貴方が言っていた好きな人というのはっ!」

 かと思えば、危惧したところ早々にエステルちゃんが吠えた。

「いいえ、違います。私のような男が選り好みするというのは、とても申し訳ないですけれど、他の方です。それに本人へ直接、こうして尋ねるような勇気はありませんので」

「そ、そう……」

 そんなこんなで、田中ランドのお披露目は過ぎていった。



◇◆◇



 同日の夜、お風呂場でのこと。

 俺は魔導貴族と共に風呂へと浸かっていた。他には誰の姿もない。広々とした露天風呂であるから、他に人気がなければ、やたらと静けさが目立つ。これにゆっくりと身を沈ませるのは、酷く心地が良いことだった。

 いわゆる貸切風呂というやつだ。

「今日のところは助かった」

「些か強引になってしまいましたが……」

「いいや、目指すべき先がはっきりとした。良いことだ」

「そういって頂けると幸いです」

 良い歳した中年野郎が二人揃って湯船に浸かり何をしているかと言えば、対クリスティーナ、魔導貴族の恋模様。その本日に至ったところ、反省会である。互いに数メートルばかり距離をおいて浸かりつつ、湯気の合間に言葉を交わしている次第だ。

「ファーレンさんならきっと至ることができますよ」

「それなんだが、一点、貴様に確認したい」

「なんですか?」

「貴様は既に、その壁とやらを壊していたりするのか?」

「いいえ、残念ながら至ってはいません」

「そうか……」

「それに取り立てて挑戦するつもりもありません」

 既に一度、挑戦して失敗したことは伝えない方が良いだろう。

 無駄に不安を与えるばかりだ。

 多少ばかり言葉を交わしたところで垣間見えるのは魔導貴族の心情。いつも自信満々なヤツが、ここまで控えめな反応を見せるのだから、恋とは恐ろしいものだ。四十過ぎのオッサンをうら若き乙女に変えてしまう。

 あぁ、字面的にめちゃくちゃ気持ち悪いな。

「……気遣い感謝する」

「いえ、そのように約束しましたので」

 ちゃんと守らないといけない。

 応援すると約束したから。

 しかしまあ、なんというか、最高に青春な気分だ。

 野郎二人、風呂場で恋バナ。

 二十年ばかり遅れて、ようやっと訪れた青春だ。

 こういう人生もあるのだな。

 どうにも感慨深い気分である。

 せめて十年早かったらとは、思わず願ってしまうところ。

 いやいや、贅沢は思うまい。

 これでもブサメンには十分に見合ったものだろう。

 高望みは身を滅ぼす。

 膜だけは譲れないがな。

「しかし、角や羽、尻尾に加えて、エンシェントドラゴンの生み出した魔法産物の破壊とは、これほどやり甲斐のある題材もないだろう。どれも極めてシンプルであるからこそ、どのような方法を取るべきか、やる気が湧いてくるのを感じる」

「流石ですね」

「貴様ほど魔力があれば、正攻法で挑むことも叶ったろうがな」

「ファーレンさんであれば、いずれは至るとは思いますが」

「下らない担ぎだな。自分のことは自分が一番に良く理解している」

「相手はドラゴンですよ? 普通にやっていたら、絶対に先なんて見えてきません。そもそも在り方が違うのですから。だからこそ、ファーレンさんのファーレンさんらしい振る舞いが、なによりの強みだと思います」

「…………」

 少し発破を掛けておこう。

 人間を辞めるくらいの気概で望まねばロリドラゴン攻略は難しいと思う。

 というか、恐らく辞めなければ想いは伝わるまい。

 あれで極めて賢い。恐らく小細工の類は通用しないだろう。

「どうでしょうか?」

「……あぁ、たしかに、貴様の言うとおりだろう」

「はい」

「そうだな。たしかに、少しばかり気弱となっていたやもしれぬ。貴様という存在をすぐ近いところにおいて、意識的にせよ、無意識的にせよ、自分で自分に限界というものを設けていたような気がする」

「らしくないですね」

「まさか貴様からそのような言葉を貰うとはな」

「違いますか? 出会って当初の貴方はもう少し勢いがありました」

「それ以上は言うな。そして、ありがとう」

 おう、魔導貴族から素直なありがとうを頂戴した。レアだ。

「別にお礼を言われるようなことではないですけれど」

「あの者を求めるに限らず、少し、心が高揚するのを感じている」

「流石のバイタリティーですね」

「ふふん、まだまだ若いものには負けん」

「その意気です」

 俺もアンタも既に人生の折り返し地点は過ぎているけどな。

 ただ、そういった状況で、どれだけ前を向けるかが、きっと大切なのだ。

 素直に見習うべくだろう。

「もしもお手伝いできることがあったら言って下さい。助力いたします」

「うむ。とても助かる。だが……それは、もう良い」

「え?」

「既に成すべき目標は掲げられた。私はこれを必ずや、単身で達成してみせる。そうでなければ、あの者もこちらに見向きすることはないだろう。これは今し方に他の誰でもない貴様自身が示唆したものだ」

 源泉掛け流し、湯の溢れては流れる音が、妙に大きく浴室に響いて聞こえる。

「今はまだ貴様に先を進まれているが、私は決して負けんっ」

 これをかき消すよう、魔導貴族の力強い宣言が、部屋全体にこだました

「……その点に関しては、すみません」

 指摘に挙がったロリドラゴンとの距離感。たしかにこちらの方が遥かに近いところにある。理由はどうあれ、少なからず打ち解けていると、他の誰でもない自らが感じているのだから、間違いはないだろう。

 それでも魔導貴族は構わず続ける。

「構わん。他の誰でもないヤツ自身の選択だ。それに私は諦めておらん」

「強いですね」

 自身がアレンラブなソフィアちゃんをそれでも求めるのと同じような心境とみた。好きなものは好きなのだ。これを求めることに理由など必要ないのである。相手がどうあれ、その根底を占めるのは自身の感情に他ならない。

 最高にロリドラゴンを愛しているな、魔導貴族め。

 良いじゃないか、青春。

 いいな、青春。

 女子学生が何かにつけて恋愛トークで盛り上がりたがる理由を三十過ぎて初めて知ったわ。最高に情弱だったな、当時の俺。地方の個人商店で流通価格の倍近い値段に型遅れの白物家電を買う老人を決して笑えないわ。

「故に貴様も遠慮することはない。好きに動くと良い」

「……というと?」

 少しばかり神妙な表情で魔導貴族が続ける。

「私は必ず自らの手で、彼の者の隣に辿り着いてみせる」

「…………」

「貴様という存在を超えて、な」

 ニィと不敵に笑ってみせる壮年オヤジ。

 どうやら恋のライバル認定された様子だ。

「では相当に努力して貰わないとなりませんね」

 なので適当に煽っておく。

 実情はどうあれ、それがプラスとなるのであれば、応援するこちらとしても都合が良い。ヤツの性格を思えば、並び競う誰かの存在こそ一番の原動力なのではないかと、ここ数週の付き合いながら思う。

「当然だ」

 自身満々に呟いて応じる魔導貴族。

 どうやら良いお話としてまとまった様子だった。

 魔導貴族の恋、第一幕、完。みたいな。

 本人は色々と遠慮しているが、今後とも出来る限りサポートするとしよう。

 約束は約束だからな。
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