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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫
46/131

領地開拓 四

活動報告を更新いたしました。

【ソフィアちゃん視点】

 数日に渡る移動を経て、我々はラジウス平原までやって参りました。

 数十名からなる貴族様による大移動は、それはそれは豪勢なものでした。幾十という馬車の連なる様子は圧巻です。ちなみに私とエルフさんはエステル様のお家の馬車に相乗りさせて頂きました。連なる車のなかでも一等に立派でした。

 いつぞやはドラゴンさんの背中に揺られて空の上、一日に過ぎた道のりですが、今回は元来の地上をゆく道中と相成りました。私としてはとても嬉しいです。やっぱり人は空を飛ぶようには作られていないのです。

 途中では盗賊に襲われることもありました。ただ、乗客のほぼ全員が優秀な学園の生徒さんや教員の方々ですから、誰も怪我をすることはなく、むしろ一方的な虐殺に過ぎてゆきました。魔法の博覧会でした。凄く怖かったです。

 そんなこんなで辿り着いた先がラジウス平原なのですが。

 なのですが。

 どうしたことでしょう。

「むぅ……この場所で本当に正しいのだろうな?」

「はっ、はいっ! こちらで間違いありませんっ! はいっ!」

 ファーレン様が一団の先頭、馬を引く御者の方に尋ねられております。尋ねられた側は顔を青くして、カクカク、首を縦に振るばかりです。当人もまた、目の前の光景が信じられないとばかり、慌てに慌てております。

「だとすれば、これは何だというのだ……」

 街道を抜けた先、我々の前に現れたのは背の高い大きな壁でした。

 かなりの距離に渡り敷設されているようで、同じ高さ、同じ質感のそれが、延々と続いています。ある一点において、門のようなものが確認できました。どうやら内側に入ることが可能なようです。

 前にタナカさんのお供で訪れた際には、このようなものは見つけられませんでした。本当にこの場所はペニー帝国とプッシー共和国が争った場所なのでしょうか。ファーレン様ではありませんが、どこか別の街なのではと疑ってしまいます。

「ええ、悩んでいても仕方がない。確認に行くぞ」

 馬車を降りたファーレン様がのっしのしと歩みだしました。

「ええ、そうね」

「あ、お、おいっ……」

 これにエステル様とエルフさんが続きます。となると、私も後を追わねばなりません。他に貴族様方が大勢いらっしゃる馬車所帯ですから、置いてけぼりとなっては如何様な面倒に巻き込まれるか気が気でありません。

 すると、他の貴族様もまた、我々に続くよう馬車から降りては、自らの足で歩みだしました。伊達に王立学園に籍を置く生徒や教師でありません。好奇心は人並み外れて高い方ばかりのようですね。一団の先頭には我先にとナンヌッツィ様です。

「むっ、こ、これはっ……」

 ややあって、門の界隈まで辿り着いたところ、ファーレン様が声を上げられました。遅れて他の方々もまた、壁の向こう側を目の当たりとしたところ、これに同様、酷く驚いた表情となりお声を上げられます。

「ま、街かしら?」

「このような場所に街があったか? それに人の気配が……」

 何気ないエステル様の呟きにエルフさんが突っ込みです。

「ふぁ、ファーレン様、このような場所に一体どのような方がいらっしゃると言うのでしょうか? そもそも、トリクリス界隈にこのような街があったという話を、私も聞いたことがないのですが」

 流石のナンヌッツィ様も戸惑いを隠しきれません。

「いや、その、なんだ……」

 他の方からの問い掛けに言い淀むファーレン様、珍しいです。

 そして、この方が言い淀むときは、大抵、あの人が――――。

「これはまたファーレンさん、このような場所にどうして……」

 建物の影から人の姿が。

 我々の下に届けられた声は、ここ数週で随分と聞き慣れたものでした。



◇◆◇



 なんでも外壁の外側に大勢の人が詰めかけているらしい。黄昏の団のマッチョたちから報告を受けた。まさかプッシー共和国の連中が文句を言いに来たのかと身構えたところ、どうやらペニー帝国の側らしい。

 しかも豪華な馬車ばかりが並んでいるというから、一体何が起こったとばかり、足を向かわせみる。すると、そこには見慣れた人たちが姿を並べていた。魔導貴族を筆頭として、エステルちゃん、ソフィアちゃん、エディタ先生、それにいつぞやの想定人妻も。

「これはまたファーレンさん、このような場所にどうして……」

 自然と疑問は口をついて、彼らの側へ向かい歩む。

 すると、先方は駆け足でこちらへ近づいてきた。

 オッサンを先頭とした面々の背後には、他に数十名から成る貴族が姿を連ねている。まるで観光名所に眺めるツアコンに引率された団体さんみたいだ。まだプレスリリースを打った覚えはないのだが、どうしてここまでやって来たのだ。

「お、おいっ、貴様っ! これは一体どうしたことだっ!?」

「それはこちらの台詞なんですが……」

 色々と訪ねたいところはあるが、オッサンの血走った眼はこちらの質問を許してくれそうにない。致し方なし、先んじて説明を行うとしよう。

「まあ、色々と事情がありまして、街のようなものが一つ必要になった次第です。当初の予定では、もう少しばかり小じんまりしたものを想定していたのですが、思いのほか熱中してしまいまして、いつのまにやらというやつです」

「ま、街……だと? まさか……」

「流石にここまでのものを作るのは苦労しますね。ここ数日、碌に寝ていませんよ。とは言え、なかなか遣り甲斐のある仕事です。ファーレンさんが飛空艇作りに熱中する理由も、なんとなく分かりましたよ」

「……まさか、これは貴様が作った、のか?」

「私と黄昏の団の皆さんですね。あぁ、あと途中からは彼女も」

 ふと視界の隅に街中をトコトコと歩むクリスティーナを発見。どうやら休憩中らしく、グラスにジュースなどチュウチュウとやりながら、壁の内側をお散歩している。恐らくは自身の作品を見て回り、これに満足を得ているのだろう。

 その気持ち、良く分かるぜ、ロリドラゴン。

 ここ数日で自身の内における、ヤツに対する評価はうなぎ登りさ。

 今なら仕事上がりに晩御飯とか誘っちゃうレベルだわ。

「だがしかし、つ、つい先々週までは草原であった筈だが……」

「ストーンウォールというのは、これでなかなか使い勝手の良い魔法ですね。私も当初は確信を得られなかったのですが、やってみるとこれでなかなか、思いのほか上手いこと動いてくれまして」

「まさか、こ、この街は、ストーンウォールで作ったというのかっ!?」

「細かいところは人の手が入っていますけれど」

「そんな馬鹿なっ! 幾日と持続するような代物ではないぞ、あれはっ」

「え? そ、そうなんですか?」

 ちょっと待て、それ初耳なんだけど。

 ロリドラゴンも別にそんなこと言ってなかったし。

 もしかして壊れちゃうのか? こんなに頑張って作った田中ランドは有効期限付きだったりするのか? いやいやいや、それは流石に悲しすぎるじゃん。仮に壊れるとしても、せめて、一年くらいは持って欲しいんだけど。

「いや、しかし、貴様やあのドラゴンの魔法であれば、或いは……」

 とりあえず街の寿命確認は後で確実に行おう。

「とりあえず立ち話もなんですから、こちらへどうぞ。案内しますよ」

「う、うむ……」

 魔導貴族を筆頭として貴族連中をお招きだ。

 まだオープンには数日を要する見込みだが、来てしまったものは致し方なし。ここは一つ、プレオープンということで、実際の来客に備えて練習のつもりでご案内しよう。

 一団を率いて街の中を歩む。

「むっ……多層壁の構造を取るのか? この街は」

「ええまあ、自然とそのような形に落ち着きまして」

 こちらの後を付いてくる面々は、誰も初めて都内を訪れたお上りさんのよう、あっちを見たりこっちを見たり、非常に落ち着きがない。あれやこれや交わされる言葉が、なんかこう、街の出来栄えに対する評価であったりして、ドキドキだ。本人としては満足な仕事をしたつもりだけれど、いざこうして人目に触れる機会を得ると緊張するぜ。

 首都は当然、トリクリスの町並みと比較しても、都合、数世紀は劣る町並みであるからして、あまりジロジロと見ないで頂きたい。恥ずかしい。伊達にモヘンジョ・ダロしていない。黄昏の団が手入れをしてくれるおかげで、辛うじて街として体裁を保っているというのが正しい。マジ良い仕事してるはマッチョ軍団。

「あ、あのっ、貴方は私と別れたから、これをずっと?」

 不意にエステルちゃんが訪ねてきた。

「ええ、そうですね」

「…………」

 何を勘違いしたのか、途端にうっとりとした表情になる金髪ロリータ。どちらかというと自分の為なんだが、ここは勝手に妄想させておこう。

 一方で出会い頭より終始、厳しい表情なのが人妻ナンヌッツィさん。

「どうしました? 体調が悪いようでしたら、ベッドにご案内しますが」

「え? いいえっ! 結構ですわっ!」

「そうですか? もしもご気分が優れないようでしたら、遠慮せずに仰って下さい。ただ、学園の施設と比較しては酷いものだと思いますので、その点ばかりはご勘弁して頂けるとありがたいのですが」

「え、えぇ、そうね。お気遣い感謝するわ」

「いえいえ」

 本人が良いと言うのであれば無理強いはできない。

 素直に頷いて一歩を下がる。

 ベッドに誘うとか、冷静に考えてちょっとエロいしな。

 代わりに自身が歩みの向かう先は、他の誰でもない、エディタ先生とソフィアちゃんの下である。二人が並び歩む姿はなんと美しい。ロリマックスな先生と、お年頃な少女感迸るソフィアちゃんをセットで拝む日が来るとは感無量だ。

 ここはホストとして、存分におもてなしせねば。

 我々のランドのお湯を気に入って頂いて、快楽の中毒になってもらえれば行幸。いっそ住み着いて頂けたら、もう言うことないだろう。いつかきっと挑む金髪ロリ混浴へ向けて、存分に努力する所存。

 湯船の縁に腰掛けたエディタ先生のムチムチな太ももに正面から顔を挟まれたい。

「お久しぶりです。エディタさん、ソフィアさん」

「ぅぉっ! お、おぅおっ! お久しぶりだなっ!?」

「あの……お、お久しぶりです。タナカさん」

 何故か全力で緊張しているエディタ先生。

 一方で後ろめたい表情のソフィアちゃん。

 自分の留守中に何かあったんだろうか。なにかと話題の振りやすいソフィアちゃんから、まずは適当にお話してみる。

「急に留守としてしまってすみませんでした。特にソフィアさんにはご迷惑をお掛けすることも多かったかと思います。せめて書き置きを残せれば良かったのですが」

「い、いいえっ! あの、そういうのは大丈夫ですからっ!」

「そうですか? であれば良かったのですが」

 微妙に距離感を感じるお返事じゃないかい。

 やっぱり何かあったっぽい。

 ちょっとショックだわ。

 背後にアレンの気配を感じるわ。

 街づくりが楽しくて、実は少し忘れてた自分が全面的に悪いのだけれど。

「エディタさん、もしかして、私の留守中になにか問題でも?」

「あ、あぁ、いや、問題と言えば問題なのだが……」

「本当ですか? もしもソフィアさんが関係しているというのであれば、私としても彼女の雇用主として、首を突っ込ませて頂けるとありがたいのですが」

「それなんだが、その、なんだ? 貴様が作ったマナポーションに関して……」

 エディタ先生が語り始めたところ、不意に他より声が挙がった。

 誰かと言えば、魔導貴族である。

「おい、タナカよ。これは……」

 このオッサン、貴重なエディタ先生とのお話を遮りおってからに。

 とは言え、無視することも出来なくて、致し方なし、その対応に向かう。

「なんですか?」

 ヤツの視線が指し示す先には、田中ランドのお土産筆頭、ペサリ草製のマナポーションがズラリと店頭に並んでいた。数日後のオープンを控えて、黄昏の団に陳列をお願いしていた品々である。

「ここに並んでいる品についてなのだが……」

「あぁ、ここのお土産ですよ。よろしければお一ついかがですか?」

「まさか、マナポーションか?」

「一目見て判断するとは流石ですね」

「しかし、この色は……」

「ちょっと変わってますが、魔力の回復はお約束しますよ。ただ、幾らか味に問題がありましてね。まあ、ジョークグッズのようなものだと思って下さい」

 呟いて一本を手に取り、オッサンに手渡す。

 すると、やつは躊躇なく封を切り、これに口をつけた。

 なかなかチャレンジャーだな。

 いつぞやのナンヌッツィさんみたいに吐かなきゃ良いけど。

「っ!?」

 一口を含んで、魔導貴族の表情が強張る。

「やはり、そうなりますかね」

 だよな。マズいもん。

 貴族の口に合う筈がない。

「お、おいっ! 貴様、これはっ……」

「だから言ったでしょう? ジョークグッズです。どちらかと言えば、主産業の副産物として生まれたようなものでして、あまり本気に取らないで頂けるとありがたいです」

 お貴族様に不味いだのなんだの、いちゃもんつけられては堪らない。コイツを飲んだらお腹を壊した、などと触れて回られた日には、問題はポーションに限らず、生産元となる街全体に影響を与えることだろう。

 また、この手の大量生産品でなにより恐ろしいのはリコールだ。万が一にも回収の憂き目など見ては、どれだけ費用があっても足りない。資金力に乏しい現在の自分にとっては、まさに致命的だろう。

 万が一にもお偉い様方から賠償を求められたら、それだけで破産してしまう。だからこそ売り先も庶民に限るよう、容器も何もかも安っぽい作りに仕上げている。その上で店頭には、味が最悪の旨、ちゃんと看板を掲げている。

 オナホの説明書に必ず、ジョークグッズです、との記載があるのと同じだ。利用に際して発生した如何なる損害も開発元は責任を取りませんよ。自己責任でお願いします、的な、そういう感じの。

「……そ、そうか。冗談なのか」

「ええ、冗談ですよ。そういう類のお土産です」

 ここだけは譲れない。

 死活問題だからな。

「…………」

「…………」

 これ以上は突っ込んでくれるなと適当に答えたところ、何が気に入らなかったのか、途端に難しい表情となる魔導貴族。もしかしてヤツの逆鱗に触れたろうか。やぱりペサリ草は拙かっただろうか。伊達に人妻もゲロリンチョしていない。

 これはフォローが必要な予感。

「あの、ファーレンさん、ご気分が悪いようでしたら……」

 ただ、そんなこちらの言葉を無視して、やつはグラスを傍らの女性へ。

「ナンヌッツィよ。これを飲め」

「ま、まさかこれは……」

「貴様に拒否権はない。さっさと飲め」

 手にした飲みかけのポーションをぐいと差し出す魔導貴族。

 コイツ、間接キッス狙ってるのか?

 ここまで堂々と出来るって、ちょっと羨ましいな。

 俺もエディタ先生の唾液をペロペロどころかゴクゴクしたい。もしも店頭に並んでたら絶対にリットルで買うわ。大五郎サイズで買うわ。先生の唾液を沸かして作ったカップラーメンを毎日のお夜食で頂きたい気分になってきたぞ。

「わ、分かりました……」

 言われてナンヌッツィさんは差し出されたグラスに口をつける。

 そして、ゴクリ、一口を飲んだところで、瞳を大きく見開いた。

「っ……」

「理解したか? ナンヌッツィよ」

「…………」

 意味深な魔導貴族からの問い掛けに、けれど、何故か彼女は答えない。グラスを口元から離して、その手にしたまま、つぅと視線を足元に落とす。そして、プルプルと小刻みに肩を震わせ始めた。

 なんかちょっとヤバイ気配を感じるんだけど、お腹の具合大丈夫かよ。

 流石に二度は吐かないと信じているのだけれど。

 こちとらオープン前の大切な時期だから、他に大勢、貴族様方の面前で妙なパフォーマンスは勘弁して欲しい。この手の施設は風評が大切だ。しかもこちら口コミくらいしかメディアがないファンタジーな世界が故、上流階級からの評価は非常に重要だ。

 だというにこのオッサンは。

「もう一度、問う。理解したか? ナンヌッツィよ」

「……はい」

 絞りだすような、弱々しい、人妻ボイスが響いた。

 なにこのプレイ。

 普通に羨ましいんだけど。

「これがタナカ男爵だ」

「…………」

「凡そ我々が考えるところとは異なっている。故に貴様や我々にとっては大層な技術であっても、当人にとっては、馬鹿な話だが、土産モノ程度の価値でしかないようだ」

「……はい」

「これを貴様がどのように使おうが、私は関与しない。ただし、貴様の教育者としての姿勢は、決して我が学園に許されるものではない。その程度は理解できるな?」

「り、理解、できます……」

「よって貴様を、この場に打ち首とする」

「っ……」

 貴族様方の面前、仰々しくも宣言してみせる。

 急に物騒な話が出てきたぞこの野郎。

 オープン前の大事な時期にやって来てなんだよ、このオッサンは。打首とか意味が分からないだろ。本格的に何をしに来たんだ。とは言え、伊達に自宅のメイドの足を魔法の確認の為だけにチョンパしていない。まさか冗談とも思えない。

「教師という身分にありながら、教え子の知見を奪うのみならず、自らのものとして発表した罪、万死に値する。私は学園理事として、これを未来永劫許すことはない」

「ファーレンさん? あの、そ、そういった面倒は勘弁して貰いたいのですが」

「分かっておる。これは学園内の事情だ。貴様に面倒は掛けん」

「いや、ですから……」

 色々と話についていけない。

 圧倒的に情報が足りていない。

「自らの罪をあの世で侘びるが良い」

「っ、ま、待ってくださいっ、私は、私はっ……」

「待たぬ」

 言うが早いか、魔導貴族が腕を掲げた。手の平がナンヌッツィさんに向けられる。その正面に浮かび上がったのは魔法陣だ。これを向けられた側は、恐怖に顔を引きつらせると共に、その場を逃げ出すよう我々に背を向けて駈け出した。

「逃がさんっ!」

 オッサンが吠えると同時、魔法陣から炎が吹き荒れた。

 コイツ本当に撃ちやがった。

 幾ら中古とはいえ、マンコはマンコだ。貴重品だ。

「待ってくださいっ!」

 咄嗟、ストーンウォールを放つ。

 ニョッキする壁。

 魔導貴族の手より放たれた炎と、逃げ出したナンヌッツィさんとの間に、五メートル四方ほどの大きさでモノリスが出現した。

 早々、炎はこれに着弾の後、霧散した。

 いつだか自分のファイアボールがロリゴンのストーンウォールに負けた時のよう。

「ぬっ、なにをするっ!」

「それはこちらの台詞ですよ、ファーレンさん」

 問いかけると、他の貴族連中から感嘆の声が挙がった。

「ふぁ、ファーレン様のフレアアローをストーンウォールで止めましたわっ!?」「なんということだっ!」「こ、このような強固なストーンウォール、私は過去に見たことがないわっ!」「ファーレン様の魔法が破られるだなんてっ」「そんな馬鹿なっ……」

 なるほど、今のはフレアアローという魔法らしい。

 まあ何でも良い。

 街の景観を損ねてはならないので、生み出して早々、役目を終えたストーンウォールを凹して地面の下に引っ込める。

 すると壁の向こう側ではナンヌッツィさんが腰を抜かしていた。どうやら漏らしてしまったらしく、へたり込んだ下には尿溜まりができている。

 なんだろう。

 流石にアラサーのプッシャーはときめかないな。

 やはりプッシャー鑑賞するならソフィアちゃんが良い。彼女のお漏らしこそロード・オブ・ザ・お漏らしだ。湿った土でキレイ目な泥団子を作りたくなる。

「ファーレンさん。ここは私の領地です。如何にファーレンさんであろうとも、勝手を行うことは許せません。せめて私にも理解できるよう事情を説明して下さい」

 こういうのは最初が大切だ。

 如何に相手が魔導貴族であろうとも、強めに言っておこう。

「むっ……まあ、確かに貴様の言うことは尤もだ」

「すみませんが、詳しいところをお願いします」

「分かった」



◇◆◇



 何故に魔導貴族が貴族の一団を率いて、このような辺境までやって来たのか。更にはエディタ先生やソフィアちゃんまでもが一緒であったのか。事の次第は自身が想像したより遥かに単純だった。

 どうやらナンヌッツィさんがしでかしたよう。

 とは言え、それを言ったら自分自身も責任大だ。エディタ先生のレシピを流出させてしまったのである。試験当時、そこまで考えが回っていなかった。愛しい彼女とのハメ撮りを流出させてしまった彼氏の気分だわ。

 ハメ撮りが流出してしまい顔真っ赤にする社会的の死んだエディタ先生ちょっと見たい。

「なるほど、そのようなことが……」

「納得したか?」

「ええまあ、状況は理解しました」

 だからと言って、こんな辺境まで大名行列キメてくる必要はないと思うけど。

「ならば貴様も分かるだろう。その者を庇う必要はない」

「ですが、だとすると私にも過失があると思うのですが……」

「問題点はそこではない。学園の教師としての在り方を問うておる」

「確かにファーレンさんの仰ることは、尤もだとは思います」

「そうだろう?」

「しかしですね……」

 とりあえず、後ほどエディタ先生に謝罪は決定だ。こんな大きな問題に発展しているとは思わなかった。わざわざ足まで運んで頂いて、申し訳ない限りだろう。それにソフィアちゃんにまで迷惑を掛けてしまった。

 ただ、今はナンヌッツィさんを殺る気満々の魔導貴族をなんとかせねば。

 このオッサン、殺るときは本気でサクッと殺るからな。

「ここは娯楽施設です。そのような場所で血生臭い行いは勘弁してください。それと一点、確認したいのですが、今回のような場合、ペニー帝国における罰則はどのように規定されているのですか?」

「学園内の罰則は理事である私に陛下より一任されている」

「…………」

 マジかよ。

 完全に独裁じゃん。

 どんだけ王様に愛されてるんだよ。

「ではせめて、学園に戻ってから子細を詰めるとしましょう。被害の度合いで言えば、私よりソフィアさんやエディタさんの方が大きい訳ですから、彼女たちの訴えこそ優先すべきですよ」

「それは違うぞ。エディタ女史の理論を発展させたのは他の誰でもない貴様だ。度合いで言えば、彼女と共に並ぶ位置へ立つべくだろう。この度の研究は他の誰でもない、貴様らの共同によるものだ」

「けれど、ナンヌッツィさんの独占技術となった訳ではないのですよね?」

「当然だ」

「それなら私は取り立てて困ることはないのですが」

 正直、どっちでも良い。

 ただ、この地が不要な悪評を被るのは避けたい。いかに悪いヤツとは言え、少なからず味方はいるだろう。背後にどのような繋がりを持っているか分からないのが女という生き物だ。万が一にも反フィッツクラレンス派閥の手合が居たら大変だ。

 お局の後ろに人事部長が居て、とかよくあるパターン。

 ここは下手に騒ぎ立てるより、適当に恩を売って田中ランドの宣伝に協力して貰った方が遥かに建設的だろう。幾らエステルちゃんの庇護があるとは言え、こっちは碌に地盤の固まらない新米男爵である。使えるものは何でも使うのだ。

 少なくとも今はまだ、貴族業界に波風を立てるのは避けるべきだと判断する。

「処罰を与えねば、他の者に示しがつかぬ」

「その点に関しては同意ですが……」

 やはり話題が魔法関係になると頑固だな、このオッサンは。

 となると、今は問題の先送りが精々か。

 せめて禁固刑くらいに落ち着けば良いのだが。

「分かりました。ではひとまずファーレンさん預かりとして、どのような対応を行うにしても、学園に戻ってからとしましょう。少なくとも、この場でどうこうというのは許容できませんので」

「うむ。ならば良いだろう」

「ありがとうございます」

 流石に魔導貴族と不仲になってまでナンヌッツィさんを庇うのも違う。

 猶予だけは稼いだので、その間に自身でなんとかして貰おう。

 本人に目配せをすると、彼女は地面に腰を落としたままブルりと震えた。

「ところで、皆さんに私からご提案があるのですが……」

 魔導貴族から視線を移すこと背後に御座す貴族の方々。

 これからは販促タイム。

 ファーストユーザである彼らには、温泉を心ゆくまで楽しんで貰おう。



◇◆◇



 ぞろぞろと貴族様方を引き連れて歩むことしばらく、訪れた先は田中ランドにおいて最もリッチな施設となる北区の銭湯だ。基礎を自分が作り、これにロリドラゴンが装飾を施した上、黄昏の団一同が内装を整えた。

 つい昨日に竣工したばかり、ある種の集大成となる建造物である。

 その一階フロアの屋内に設けられた大浴場へ一同をご案内した。都合、我々の正面には広々湯船にお湯が満ちている。少し暗めの浴室内では、投入されたペサリ草による入浴剤が淡く煌めいては、キラキラと綺麗なものだ。

「このような場所に風呂だと? それも随分と大きな風呂だな……」

「皆さん長旅でお疲れでしょう。ここは一つ身体を休めながらお話をしませんか? ああ、もちろん男女は隔てておりますので、それぞれ別々でのご案内となりますが」

 本当なら混浴が良かった。

 だがしかし、流石にお貴族軍団をご案内する訳にはいかない。後々で婚前の肌を見せた云々、問題となっては大変だ。今は兎にも角にも大人しくしなければならない。はっちゃけるのはここの収支が安定してからだと、自身に強く言い聞かせる。

 でも、惜しい。

 あまりにも惜しい。

 くそう。

 などと考えていると、エステルちゃんが声高らかに言い放った。

「あら? 私は別に構わないわよ」

 このロリビッチめ、ちょっとお姫様抱っこしたくらいで彼女気取りか? それめっちゃ可愛いんだよくそう。また息子がエクスパンションしてしまうじゃないか。

 一方で他の男たちに裸を拝まれるエステルちゃん、想像すると酷く複雑な気持ちになる。というと、あれか。自身も深層心理では彼氏気取りか。

 だいぶ毒されてるな。非常に良くない傾向だ。

 早めにアレンと相談の場を作るとしよう。

「フィッツクラレンス子爵がそう仰るのであれば、私も吝かではありませんわ」「そうですね、私も同意見ですわ」「恥ずかしいには違いありませんが、これも魔導の研鑽と思えば抵抗は小さいですね」「そうですね。では、私もご一緒させて頂けないかしら?」

 するとどうしたことか、魔導貴族の連れてきた貴族たちが一斉に賛同し始めた。誰も彼も、その視線はオッサンを見つめてのことである。自然と思い起こされるのはヤツの新品未開封な下半身事情だろうか。

 声を上げたのは全て女性である。

 攻めてきている。圧倒的な勢いで攻めてきているぞ肉食系女子。まさかここまで露骨にセクシャルアピールしてくるとは思わなかった。一方で男性は小さくなっている。ファンタジーの世界でも、やはり理系男子は草食系なのか。

「私は知らぬ。好きなようにすれば良い」

 早々にそっぽを向いてしまう草食系男子筆頭代表。

 女性経験皆無というのは伊達でなかったよう。

「タナカ男爵、でしたでしょうか? 案内してくださりませんこと?」「そうですわね。是非ともお願い致しますわ」「ファーレン様とお湯に浸かりながら、魔導に関して語らい合う機会を下さり、心から感謝しますわ」「ファーレン様、お背中お流しいたしますわ」「でしたら私もお手伝い致しますわ」「私もですっ」

 っていうか、コイツもハーレム持ってるのな。

 アレンといい、ゴンザレスといい、魔導貴族といい。

 なんかもう劣等感を感じてしまうぞ。

「ええ、分かりました。ではこちらにどうぞ」

 本気の眼差しを浮かべる飢えた獣たちを率いて、湯船より脱衣所へ戻る。

 そして、彼女たちこそ使節団の過半数を以上を占める都合、他の誰も彼もが自ずとこれに続く羽目となった。残る男性たちはどこかソワソワしつつ、けれど、何を語るでもなく黙って付いてくるばかり。

 そうした只中で唯一、戦きの表情を見せるのがエディタ先生である。

 浴室に立ち止まり、なにやらブツブツとやっている。

「……馬鹿な、混浴、などと……そんなっ」

 自らヤリマン自慢をしてくれた割には、意外と初心なところあるじゃないの。ムチムチな太ももをモジモジとさせ始める。それとも他に人前で肌を晒せない理由があるのだろうか。太ももに正の字の刺青が入ってるとか。

 なんて魅力的な提案だ。

「エディタさん、決して皆さんが皆さんという訳ではありませんから。こちらの建物にはフロアを隔てて他に女性専用のお湯も用意しておりますし。改めてそちらを案内させて頂くことも可能です」

 歩みながら後ろを振り返り声を掛ける。

「だがしかし、フィッツクラレンスの令嬢は……」

「なんというか……その、彼女は少し変わっていますので」

 ビッチビチだからな。

「入るっ!」

「え?」

 急にどうしたの先生。

「入るっ! 私も入るぞっ! 男湯にっ!」

 覚悟を決めた表情だ。

 貴族なお嬢様方に続くよう、ダダダと駆け足で付いて来た。

 マジかよ。

 やった。

 うれしい。

 超嬉しい。



◇◆◇



 そして、訪れたるは天国と見間違わんばかりの空間だ。

「…………」

 右を見ても女体。左を見ても女体。

 時折、男体

 でも過半数は女体。

 幸せだ。

 この上なく幸せだ。

 しかも魔導貴族のすぐ傍らに腰を落ち着けている都合、女貴族たちのセクシャルアピールを一緒に甘受させて頂き誠にありがとうございます。今後ともファーレン閣下におかれましてはご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。

「おい、私の話を聞いているか?」

 魔導貴族の声が響いた。

「すみません、少し呆っとしておりました。なにぶん徹夜続きでして」

「であれば場所を変えても良いが……」

「いえいえ、お気遣いなく。ここの湯は癒やしも兼ねておりますので」

 努めて冷静にキラキラと光る湯を眺めては語る。

「たしかにこれは貴様ならではの所業だろうな。凡そ常人には不可能だ。とは言え、媒体に回復魔法を込めるという試みは、その膨大な魔力を持ってしても難しいか」

「そうですね。これでかなり頑張ってはいるのですが」

 初見で湯船の混じりモノを見抜いた魔導貴族スゲェ。

 それでいてクリスティーナのように誇らないのがダンディ。

「ただまあ、なんだ、これはこれで悪くない。とても心地良い」

「そう言って頂けると頑張った甲斐がありますね」

 それとなくあたりへ視線をやれば、胸の谷間を強調しているグラマラスちゃんや、風呂の縁に座り込み、ニコニコ、笑みを浮かべているロリっ子、更には我々の目前、数分前から延々と、湯に落としてしまったタオルを前屈姿勢で探している少女など、実に素晴らしい光景が広がっている。

 ペサリ草の癒やしと相まって、最高に興奮する。

「き、気持ちの良いお湯ねっ! 背中を流してあげるわっ! 当然前もっ!」

 そうこうしていると、早々、エステルちゃんが寄ってきた。

 恐らくは湯船対策だろう。長い金髪をポニーテールにまとめている。丸見えのうなじが最高にセクシーだ。おかげで普段の彼女より幾分か大人びて見える。しかもタオルを巻いていない都合、そのボディーは全力で彼女のビッチなところを訴える。

 田中ランドの温泉の湯気は非常に気が利いている為、局部を隠すこともない。

 むしろ避けて通る。でかした。

「いえ、結構ですので」

 しかしながら、流石にこれだけ人の目がある場所で、イチャコラする訳にはいかない。ただでさえエステルちゃんのヒモと噂高い我が身の上である。これ以上、既成事実を重ねては自身のみならず、彼女の進退にも悪影響を与えかねない。

「何故かしら? 子の面倒を見るのは親の責務だわっ!」

「同時に子の自立を見守るのも親の責務だと思います」

「貴方は向こう九十年自立しなくて良いわっ!」

「…………」

 そんなの死んでしまう。

 全裸になった為か、普段以上に元気いっぱいのロリビッチ。

 健康的なエロさ迸る。

 肌に張り付いた水滴の一滴一滴にまで、きめ細かく欲情してしまうよ。

「とりあえず、お湯に浸かってゆっくりしましょう。駄目ですか?」

「いいえ! 良いわっ、それなら隣に失礼するわ! お風呂っ!」

 ばしゃばしゃと湯をかき分けて、魔導貴族とは反対側、すぐ隣にやってくると、互いの肩が触れ合うほどの距離に腰掛けるロリビッチ。っていうか、触れてる。肩どころか腕までピッタリと触れている。ロリ温度を直接肌に感じるケルビン。

 背筋のあたりがゾクゾクするんだ。

 するとこれに続くこと数瞬の後、他所から声が挙がった。

「わ、私も失礼するっ」

 背後、寄りかかっていた風呂の縁より、すっと足が降りてきた。ムチムチの太ももが降りてきた。分かる。一目見て分かる。エディタ先生の太もも歴、チラリチラリと時を重ねること通算十数時間超のマニアだから。

 頬に触れるほどの距離をスッと移動した太ももの気配が良かった。

 先生は正しい太ももの使い方を理解されている。流石ムチムチだ。

「っ……」

 際してはエステルちゃんの息を呑む声が、妙に大きく聞こえた。

 その技術力の高さに驚愕したのだろう。

 自分とロリビッチとの間を過ぎて、先生はこちらの正面に収まった。手を伸ばせば触れられる距離で、ちょこんと正座で湯船に浸かる格好だろうか。エステルちゃんにも増して身体が小さいから、そうしないと先生は口元がブクブクしちゃうのだ。

 これぞロリータの醍醐味。

 思わずお風呂の中でオシッコを漏らしたくなる。

 今、漏らせば、自らの卑しい液体が先生のボディーへ、かなりの濃度で到達するのではないかと、考えれば考えるほどに危うい快感が背筋を駆け巡る。いかん、いかんぞ、なんて魅力的な完全犯罪だ。

 ただ、何故だ、先生。

 オマンコと胸をタオルで隠しているのは何故なのだ。

 今こそ発動させるとき。

 湯船にタオルを浸けてはお湯が汚れますので。

 その一言が、しかし、どうしても言えない。世間体が邪魔をする。だって今言ったら、オマンコが見たいですと公言しているようなもの。くそう、なるほど、だから事前に立て看板が必要なのか。人目につく位置へ露骨なまでに。

 思い返してみれば、いつだってブツは目の付くところにあった。

 沢山あった。

 明日、ゴンザレスへの最優先指示が決定だ。

「ぅぁぁあああ゛……なんだこれは、気持ち良いじゃないかぁ……」

 浸かって早々、年寄り臭い声を出すエディタ先生。

 瞳を細めてうっとりする姿は、めちゃくちゃ気持ち良さそうだ。

 とりあえず絶頂フェイス認定しておこう。

 いつか自らの息子が成すべく目標とするのだ。

「気に入って頂けたようでなによりです」

「あぁ、気に入った。これは癖になる心地良さじゃないくぅあぁぁ……」

 しかし、本当にむっちゃ心地良さそうだな。

 半開きの口に人差し指と親指を突っ込んで、ロリ舌をグニグニしたい。

 舌をグニグニされて、怒りながら嫌がる先生の表情を鑑賞会。

「私、貴方の肉棒でもっと気持ちよくなりたいわ!」

「エステルさん、流石に今この場でそういうのはどうかと」

 一方で隣のロリビッチは、情緒もへったくれもないな。

 ただただ負けん気だけが優先して思える。

 先生のナチュラルなエロさを見習って頂きたい。

 しかしながら、そうは言っても、二人と共に浸かる湯は心地良い。とても心地良い。更にミドルレンジからは魔導貴族のファンからセクシャルアピールが飛ぶ。ハーレムとはこういうのを言うのだろう。

 そう考えると、猛烈にやる気が湧いてきた。

 今はまだ似非だけどな。

 などと、適当を考えていたところ、不意に魔導貴族が呟いた。

「ところで、一つ貴様に訪ねたいのだが、あのドラゴンはどうしたのだ?」

 流石のオッサンも人肌恋しくなったのだろう。これだけ異性からアピールされて、更に自身のすぐ近くでも、金髪ロリーズとイチャつく俺のような存在が一緒となれば、やはり、自らの思うところ、多少は素直になるのだろうさ。

「クリスティーナさんですか?」

「うむ。貴様を探しに首都を発って以後、数日ほど連絡がないのだが」

「私を探して、ですか?」

「先に伝えたとおりだ。貴様のメイドを含めて色々と面倒なことになっていた」

「……なんと」

 推測、全然違ったわ。

 ロリドラゴン、お使いの途中だったのか。

 そんなこと一言も聞いていないぞ。

「あの者から、話を聞いてはいないのか?」

「それは申し訳ないことをしました。彼女からは取り立てて連絡を受けていなかったもので、暇そうにしていた都合、ここの開拓に付き合って貰っていました」

 なんか居心地悪い展開だな。

 恋仲を応援すると言いながら、数日も黙って一緒に居たとか。

「……そうか」

 魔導貴族、ちょっと悲しそうな顔してる。

 やばい、罪悪感がきた。

「本当にすみません。引き止めるような形になってしまいまして……」

 湯船に浸かりながら、頭を下げて謝罪する。

 話題は自然と恋バナに移行だろうか。どうやって傷心の中年をフォローしたものかと頭を悩ませる。このオッサン、絶対にプライド高いだろうし、思ったことを素直に喋るなんて有り得ないだろうし。

「もしよろしければ、今からでもこの場に呼んできますが……」

 湯を上がるべく腰を浮かせる。

 そうした頃合いのことだった。

 不意に浴室と脱衣所を隔てるドアが勢い良く開いた。

 スパァン、と威勢の良い音が石室に反響した。

 何事かと皆々の視線が向かう。

 すると、そこには今まさに話題へ挙がったクリスティーナの姿があった。

 恐らくは風呂場に喧騒を耳としてやってきたのだろう。その証拠として服を着たままである。数日を現地に過ごした為、今の彼女は黄昏の団が調達した平民の装い。いわゆる旅人の服というやつだ。

 その事実がまた、こちらを申し訳ない気分にさせる。少なからずロリドラゴン、イイ、と感じている事実がこれに拍車を掛ける。せめて魔導貴族の与えたドレスを着ていてくれたのなら、多少は言い訳にも華が立ったのだが。

『なんだ? ニンゲンが沢山いるな? まさか、私の街を乱しに……』

「クリスティーナさん。こちら我々の街へいらっしゃった最初のお客様ですよ」

『……そうなのか? 昨日、まだ少し先だと言ってたじゃないか』

「事情がありまして、本日付けでプレオープンという形となりました」

『ふぅん?』

 居合わせた貴族たちへ、ジロリ、視線を巡らせるロリドラゴン。

 一頻りを眺めたところで、どうやら納得した様子だ。

『まあ、そういうことならば、ここは一つ私が自ら説明してやろう』

 ふふんと鼻を一つ鳴らして、彼女は一歩を踏み出す。その意識が向かった先は、自然と浴室の出入り口に近いところ。脇に身を小さくしていたナンヌッツィさんだ。

 どうやら流石のやんちゃ系人妻も、湯船に浸かる気にはなれなかったようで、一人、静々と体育座りに過ごしていた。おかげで凄く寂しそうな光景になっている。

 伊達に死刑判決を受けていない。

『どうだ? 凄いだろう、この風呂はっ!』

「…………」

『あのあたりの彫刻とか、そっちの床の模様とか、この私が刻んでやったのだぞっ! あのニンゲンは不器用だからな。そういう小さいのが作れんのだっ! どうだ!』

 ロリドラゴン、スゲェ活き活きしてる。

 むっちゃ無邪気な笑顔だわ。

 新しく買って貰ったオモチャを友達に自慢する子供のよう。

 ここ数日の付き合いも手伝い、相当に可愛いよロリゴン。

「…………」

『街を作るのに一番の功績を挙げた者を、ニンゲンは町長と呼ぶのだろう? だとすれば、私こそ町長に相応しいとは思わないか? なぁ、ニンゲン』

 ただ、意気消沈の人妻は反応が薄い。

「…………」

『そんなところで小さくなってないで、向こうで湯船に浸かればいい。あれでなかなか、気持ちが良くない訳じゃないぞ。そこそこ良い。そこそこなっ!』

 驚いた。

 なんと、ロリゴンが他人に気遣いの姿勢を見せているではないか。

 これは大した進歩である。

 ちょっと感動している自分がいる。

 彼女が間に立ったのならば、もしかしたら魔法狂いの魔導貴族も、多少の譲歩を見せるかも知れない。おぉ、素晴らしい。素晴らしいぞ、ロリドラゴン。オマエはやれば出来る子だって、あぁ、信じていた。

 偉いぞロリドラゴン、可愛いぞロリドラゴン。

「……ぅるさぃ」

『ん? どうした?』

 対して、のっそりとした動作に立ち上がる体育座りさん。

 そして――――、

「うるさいと言ったのよっ! 黙りなさいっ!」

 ここで人妻が想定外の動きに出た。

 あろうことかロリドラゴンの頬を叩いたのである。

 平手打ちである。

 パァン、景気の良い音が浴室に響いた。

 恐らくはその姿格好から、彼女をただの平民の子供と考えたのだろう。外で土木作業に従事していた都合、あちらこちら、土埃に汚れている点も勘違いに拍車を掛けて思える。まさか中身が巨大なドラゴンとは思うまい。

『!?』

「ふん、貴族に逆らうのだから当然の……」

 ニコニコ笑顔だったロリドラゴン。

 その瞳が驚きから大きく見開かれた。

 打たれた頬を、自らの指先に、つぅと撫でる。

 やばい。

「クリスティーナさんっ、駄目でっ……」

『なぐったな?』

 酷く底冷えする声だった。

 まずいと思った瞬間には既に終わっていた。

 神速の腹パンが人妻を捉える。

 彼女には捨て台詞を言い終える間も与えられなかった。パァン、今し方に響いた頬を張る音より、尚のこと大きな炸裂音が、その肉体より発せられる。同時、彼女という存在は木っ端微塵に散っていった。

 これを目の当たりとしては、誰も悲鳴を上げる余裕すらない。

 唖然、口を半開きに見つめるばかり。

 そうした一同の下、べチャリ、べチャリと赤いものが界隈に飛び散る。相当に勢いの乗った一撃であったのだろう。どこの部位であるか、碌に判断のつかない血肉ばかり。骨すらも細かく砕かれて、まるでひき肉のよう。

 唯一、衝撃を逃れた頭部だけが、首から上、壁にあたり、天井にあたり、また更に壁へあたりと繰り返して後、床へゴロゴロと転がった。その表情は最後に言葉を発せんとするまま、ぴたり固まっていた。

「く、クリスティーナさん……」

 どうしたものか。

 とりあえず、場の責任者として声を掛けてみる。

『っ……』

 すると、ビクリ、彼女は肩を震わせて、こちらを振り返った。

 真っ白な肌の頬に飛んだ血液の飛沫が、妙に印象的なものとして目に映る。

『さ、先に手を出したのは相手だぞっ!?』

「…………」

『オマエだって見てただろっ! 私じゃないっ、私じゃないからなっ!?』

 吠え散らかしながら、脱兎のごとく浴室を飛び出してゆく。

 流石に今回ばかりはロリドラゴンを責める気にもなれなかった。

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