挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫
44/131

領地開拓 三



 ゴンザレスにペサリ草の入浴剤をお披露目した。

 結果、あまりの気持ち良さから、一緒に湯船へ使った黄昏の団のメンバーが内一名、湯の中でブルブルと小刻みに震えたかと思えば、ヘブン状態。共に浸かっていた者たち一同、大慌てにお湯から飛び出す羽目となった。

 一連の反応がペサリ湯の心地良さを言外に伝えてくれた。

 効果は抜群である。

「……しかしまあ、こいつは癖になりそうだな」

「ゴンザレスさんの太鼓判を貰えたところで、一歩、目標に近づいた気分ですよ」

「それで、なんだ……。汚れた湯船は連中にちゃんと掃除させとくわ」

「申し訳ないですが、そうして頂けるとありがたいですね」

「おう……」

 イッてしまったクランのメンバーはゴンザレスからキツイのを貰ってノックダウン。今は仲間に運ばれて上階の休憩スペースで横となっている。

 一方で我々は階下のフロアへ移り、別の湯船で入浴タイムを継続している。

 建物や湯船により特色を出す為、こちらはヘブン風呂と比較して些か温度が高めとなっている。源泉に混ぜる水の量を少なく調整しているのだ。

「とは言え、これで大凡は理解して頂けたかと思います」

「ああ、確かにこれだけのものがあれば、月末までに金貨五十も夢じゃねぇな」

「はい」

 これで同じ湯船に美少女が浸かっていたのなら言うことはなかった。

 だがしかし、田中ランドに出張ってきている黄昏の団の連中は、誰もが非の打ち所のないマッチョ。オールマッチョ。マジ勘弁。なんでも女子供はトリクリスの町で物資の発注や整理を行ってくれているのだとか。事実上、黄昏の団フル稼働である。

 おかげで進捗も芳しい。

 ただ、おかげでここ数日は女っ気も皆無の日々を送っている。

 もしも今この状態でエステルちゃんに抱きつかれたのなら、我慢する自信などまるで湧いてこないな。きっと、速攻で抱きしめ返して、歯の一本一本を舌で丹念に舐め上げる確信があるぞ。

 工事現場でマッチョに混じって砂袋とか運んでる系女子、最高に可愛いと思う。

 一度も見たこと無いけどさ。

「とは言え、施設規模に対してバリエーションが不足しています」

「こんだけ風呂があって不満なのか? 俺の仲間たちも大満足だぜ?」

「数は順調に増えてきていますけれど、違いはと言えば、お湯の温度や入浴剤の濃度程度です。他にもう少し、風呂によって違いを出すことが出来たのなら、より長く楽しんで貰えると思うのですよ」

「なるほど、確かにそれは言えてるな」

「私の地元では、酒を垂らした酒風呂や、良い香りのする果物を浮かべた果実風呂などがあったのですが、そういった類を試みて頂くことは可能でしょうか? もちろん費用は先にお渡しした財布から出して下さって結構ですので」

「ほぉ、タナカさんの故郷にはそんな風呂があるのか」

「どれも甲乙つけがたい心地良さです」

「そういうことなら、おう、さっそく明日から手配してみるわ」

「頼めますか?」

「こっちも段々と楽しくなってきたところだ。任せとけ」

「ありがとうございます。とても助かります」

 よし、これで多少は娯楽施設としての機能が強化されることだろう。

 見た目完全に脳筋の黄昏の団の面々であるが、一連の街づくりにおいては見上げた有能っぷりを発揮してくれている。丸投げしてしまった建物の仕上げも、かなりのクオリティで進んでいた。規格もへったくれもないドア枠にピッタリサイズで仕込まれた戸を確認した際など、申し訳なくなるほどだった。ガチ職人。

 向こう数ヶ月を乗り切る為の一時的なイベント施設として考えていた界隈の開拓事情であるが、この調子であれば本当に近々で町としての体制を整えることが出来るのではないかと夢見てしまう。こちらも安心して、新しい建物をポコポコと増やしていける訳だ。その勢いたるや毎日二桁に至る。

「それでは明日からはそのような形で」

「おうよ」

 ここ数日で恒例となった風呂場での打ち合わせ。

 それが一段落したところで、さて、湯船から上がろうと腰を浮かせた際のこと。

「タ、タナカさんっ! お客さんがいらっしゃってますがっ」

 風呂場に黄昏の団の若い衆が飛び込んできた。

 しかもその口からは自身の名が呼ばれたではないか。

「……客、ですか?」

「え、えぇ。貴族の格好をした子供なんですが、そ、その、仲間が一撃で……」

「…………」

 ゴンザレスの仲間を一撃で吹っ飛ばす貴族の格好をしたロリータと言えば、思い当たる節は一つしか無い。とは言え、ヤツは今現在、首都カリスで魔導貴族と共に過ごしている筈だ。どうしてこのような辺鄙な場所に現れる。

 いや、考えるより会って尋ねた方が早いだろう。下手に放置して問題を起こされては非常に困る。万が一にも死人が出たら笑えない。黄昏の団との有効な関係は現在のタナカ領にとって最優先事項である。

「分かりました。すぐに向かいます」

「いえ、そ、それがその……」

『ええい、邪魔だ、さっさと退けっ』

「ぎゃっ……」

 若い衆が吹っ飛んだ。

 どうやら背中を蹴飛ばされたようで、弧を描いて宙を舞い、湯船へと突っ込んだ。バッシャーンと大きな音が響くと同時に、大きな水柱が上がって、そこに浸かっていた面々の顔を濡らしてゆく。

 同時、浴室へと踏み入ってくる者の姿があった。

「……クリスティーナさん」

 案の定だ。

『なんだここは? やたらと蒸し暑いな……不快だ』

 やって来て早々、顔をしかめるロリドラゴン。

 相変わらずふてぶてしいヤツだ。

 ちなみに蹴り飛ばされた若い衆はと言えば、それとなく確認してみると、あぁ、良かった。死んでいない。セーフ。ちゃんと反応がある。若干ピクついているけれど、生きてさえいればどうにかなる。

「私になにか用ですか?」

 これに回復魔法を掛けたところでトークを開始。

『こんなところでなにをやっているんだ?』

「見ての通り、お風呂に浸かってますが」

 幸か不幸か下半身は腰に巻いたタオルでガードされている。

 見せたいような見せたくないような。

 いずれにせよ裸をロリータにウォッチされたことで勃起開始三十秒前。タイムリミットが訪れるまでにトークを終了して脱衣室まで戻らなければ、今後のミッションに多大なる支障を来すこと間違いなし。

『湯に浸かって何が嬉しいんだ?』

「人間はこれをとても気持ち良いと考えるのです」

 今はペサリ草の入浴剤を投入したことで快感も倍増だ。

『……ほぅ』

「なんですか? その目は」

 クリスティーナの瞳がスゥと細められた。

 本来であれば白い筈の強膜が黒い一方、中央には爛々と輝く黄金色。ただでさえミステリアスな雰囲気が、薄笑いと相まっては殊更に威力的だ。

 連日に渡り異性を目にすることのなかった身の上には、ロリータながらも、その女としての部分を魅せつけられたようで、否応にも心が踊ってしまう。

 クリスティーナの癖に。

 なんだか悔しいぞ。

 もの凄く愛のベロチューしたい気分だ。

『貴様がそこまで言うのであれば、どれ、この私が試してやろう』

「っ……」

 ドクン、心臓が大きく跳ねた。

 幼女。

 入浴。

 裸体。

 スージー。

 Q.E.D。

「ちょ、ちょっと待って下さい、クリスティーナさ……」

 ここまでの大盤振る舞いはエディタ先生でも滅多にない。期待から胸を膨らませる。ただ、悲しくも同所では他に大勢、黄昏の団のマッチョ連中が状況を見守っている。まさか素直に受け取ることも叶わず、咄嗟、これを止めるべく口を開きかけた。

 しかしながら彼女は構わず歩を進め、そして、なにを考えたのか服を着たまま湯船へと身体を沈めたではないかこの野郎。相変わらずマナーを破ることに関しては一級である。期待を裏切るのが上手いじゃないかクリスティーナめ。

 少なからずワクワクしてしまった童貞野郎にダメージ大だ。

『っぅ……』

 結果、その顔に浮かんだのは人間と大差ない反応だ。

 いつぞやはファイアボールの直撃にすら耐えてみせた彼女だが、今の人としての肉体は、従来のドラゴン形態と比較しては幾分か敏感であるよう。熱い湯に浸かって早々、眉間にはシワが浮かんだ。

 しかし、それも数秒ばかりを経てば、やがては失われて、悦楽の表情へ。

 っくぅぅううううう、というやつだ。正式名称は不明。

「……いかがですか?」

 これを待って声を掛けると、少しばかり上擦った声調子で返答が。

『っ……ぉ、ぉう、べ、べつに、気持よくない訳じゃないなっ、別になっ!』

 どうやら相応に気持ち良かった様子だ。

 喜びが拭いきれていないぞロリドラゴン。

「そうですか。気に入って貰えたようでなによりです」

『こ、この湯の具合から鑑みるに、貴様、魔力媒体に純魔力ではなく、方向性を伴った魔力として回復魔法を封じたな? それも反応があるとは、結構な規模だっ』

「一つ質問なのですが、湯に触れた限りで、そう簡単に分かるものなのですか?」

『ふんっ! そう、そのとおり! 私ならば分かるっ! 私ならばっ!』

「なるほど」

『どうだ? 凄いだろ? 凄いだろう!? 正解だったのだろうっ!?』

「……はい。凄いと思います。正解です」

『そうかっ! 凄いかっ! 正解かっ! そうだろう、そうだろう。私は凄いのだっ! 貴様らのような惨めで愚かな有象無象とは一線を画した存在なのだからなっ!』

 酷く満足気な表情となり快活にも語ってみせるロリドラゴン。

 しかしまあ、なんだ、湯船の中でゆらゆらと揺れるドレスというのも、思ったよりエロくて楽しい。しかもそれが手を伸ばせば触れられるところにあると思うと、こう、いよいよ我慢が難しくなってきたわ。

 この際、クリスティーナでも良いからお触りしたい。

「…………」

 い、いや、ダメだ。

 コイツは魔導貴族のアイドルだ。

 そこは男と男の約束を守らねば。

 くそう。くそう。辛いじゃんよ。

『……な、なんだよ? なんで睨んでるんだ? やるか? あぁっ!?』

「いえ、すみません。少しばかり考え事をしていました。争う気はありません」

『そ、そうかっ』

 歓喜からの威嚇、そして、安堵。

 なんて表情に落ち着きのないロリだろう。好奇心や警戒、恐怖心の混じりあった反応が堪らない。まるで小動物の類でも相手にしているよう。木の上に眺める野生のリスとか、こんな感じじゃなかろうか。

『……ところで、おい、これは貴様が作ったのか?』

 湯船を眺めては訪ねてくれるクリスティーナ。

 手の平で湯を掬いながらのこと。

「ええまあ、私とゴンザレスさんが率いる黄昏の団とで……」

『ふぅん……』

「……なんですか?」

『べつに、なんでもない』

「…………」

 出会って一ヶ月と経たぬ間柄ながら、このロリドラゴンが割合、世間との交流に際して感情豊かである点に気づく。興味深げに湯面を眺める姿を目の当たりとしては、ふと、一つひらめくところがあった。

「もしよければ、私の仕事を手伝っては貰えませんか?」

『……あぁ? 私が貴様を手伝うだと?』

「ええ、貴方の魔法には私も一目置いています。もしも助力が得られたのなら、この温泉街はより高みへと向かうことが出来るでしょう。その手助けをお願いしたいのです」

『っ……』

 ほんの僅かばかり、驚愕の表情が。

 かと思えば、ニヤリ、ロリドラゴンの顔に笑みが浮かぶ。

『ほ、ほぉう? 貴様が私を頼るか? この私をっ!』

「ええ、クリスティーナさんの魔力は素晴らしいですよ」

『なるほど? なるほど』

「どうでしょうか?」

『貴様がそこまで我が魔法を称えるとあらば、あぁ、吝かではないな』

 なんて扱いやすいドラゴンだろう。

 そんなんだから簡単に退治されそこねちゃうんだよ。

『うむ。良いだろう。考えてやらないでもない』

「本当ですか?」

『だが、本当に、本当に認めるのだろうな? この私の魔法をっ!』

「ええ、認めますよ。貴方の魔法は素晴らしい」

『そ、そうかっ!』

 適当にヨイショを重ねたところ、にこーっと、ほっぺが落ちそうなほどに良い笑顔。思わず頭をナデナデしたくなるくらいロリってるクリスティーナの新発見。

 猿も煽てりゃ木に昇るとは良く言った言葉であるが、このドラゴンは木登りのみならずマルチに活躍可能な才能の持ち主だ。きっと街づくりにも役立つことだろう。

 四の五の言っていられない都合、使えるものはドラゴンでも使おう。

「私を手伝って頂けますか?」

『貴様がそこまで言うのであれば、そうだな? 手伝ってやっても良いっ』

「ありがとうございます、クリスティーナさん」

『っ……』

「クリスティーナさん?」

『私の名と共に感謝の言葉を連ねるかっ! ニンゲンにしては良い心意気だ』

 ああ、確かに思い返してみれば、滅多でない行いかも知れない。

 というか、そんなことをいちいち覚えているいるあたり、コイツは当初に想定した以上、思慮深い生き物なのだろう。併せて頭も良いのだと思う。

 だというに、いざコミュニケーションへ望めばこの体たらく。色々と足りていない一連のギャップは、やはり他者との交流の有無に違いないと見た。

「お、おい、タナカさんよ、その娘っ子は……」

 おいてけぼりを食らっていたゴンザレスからツッコミを頂戴した。

 そう言えばクリスティーナに限っては紹介していなかった。

「紹介が遅れてすみません。こちら、クリスティーナさんです」

『……だれだ? コイツは』

「私の仲間です」

『貴様の仲間だと? それはまさか……』

「貴方が思っているような意味での仲間ではないと思いますよ」

『……そう、なのか』

 少しばかりホッとして思えるロリドラゴン。自らの脅威となるファイアボール野郎が二人に増えたと、明後日な方向に勘違いしたのだろう。

 地味に可愛い反応が相変わらずムカつきつつラブいぜ。

「彼と彼の仲間に危害を加えたら、絶対に許しませんので」

『わ、わかってるっ! いちいちうるさい人間だなっ、貴様はっ!』

「であれば良いです」

『ふんっ……』

 明後日な方向へと顔を逸らすクリスティーナ。

 それでも湯から出て行かない点からして、入浴が相応に心地良いと見た。

 コイツが気に入るくらいだし、これは期待できるわ。

「それではと言ってはなんですが、本日はもう遅いですから、今日のところは身体を休めて、明日から一緒に頑張って貰う形でよろしいですか? ファーレンさんのところと比較すると、幾分か居心地は悪いかと思いますが」

『構わんっ!』

「ありがとうございます」

 ゼロ賃金でき使える労働力をゲットだぜ。



◇◆◇



「ゴンザレスさん、一つ伺いたいことが」

「ん? なんだ?」

 その日の晩、ゴンザレスの部屋を訪れた。

 理由はひとえに魔力と媒体とマナポーションを巡る一連のあれこれを確認する為だ。クランを率いて戦場を行き来するゴンちゃんならば、そうした界隈に関しても少なからず知見があるだろうと考えてのことである。

「世間的にマナポーションと呼ばれているものに関してなのですが……」

 当人は椅子に腰掛けて酒などチビリチビリやっていた。

「まあまあ、とりあえず掛けろよ。ほら」

「あ、どうも。ありがとうございます」

 ベッドの縁へ腰を下ろすに応じて、空のグラスを手渡される。そこへ間髪置かずにトクトクと、琥珀色の液体が注がれた。

 カチンと小さく、互いの杯を鳴らしたところでゴクゴクと。

 お酒おいしい。

 最高。

「んで、マナポーションがどうしたって?」

「どうしても事前に確認しておきたいことがありまして」

 コンクリート打ちっぱなしさながらの石室、僅かばかりの魔法光に照らされた薄暗い一室に語るゴンザレスは、存在感が普段の五割増し。最高に渋い男している。卓上に肘をついて、その腕の先にグラスを擡げた姿はマジダンディ。

 こういう酒の飲み方、中年アジア人の憧れだよな。

 醤油顔じゃ絶対に無理だわ。

「マナポーションの対抗として、ライフポーションのようなものは、この世界に存在しているのでしょうか? 飲めば万病を直す、或いは千切れ飛んだ腕を生やす、そういった魔法の薬の類いは」

「あぁ、その手の秘薬はうわさ話にはそこそこ挙がるな。俺も実際に一つ二つは見たことがある。ただ、そうそう人目につくものじゃねぇぞ? あっても難攻不落な史跡の奥深く、みたいなクソッタレなロケーションだ」

「なるほど」

 やはり先の想定通り、時代は回復魔法が全盛のようだ。

 となると、こちらはどうだろう。

「魔力媒体に魔力を込めるとマナポーションになるのは一般的なお話かと思うのですが、魔力以外、既にベクトルの決まってしまった魔法、例えば回復魔法の類を込めるのは、こちらの国では一般的なのでしょうか?」

「いいや? 一般的じゃあねぇな」

「なるほど、そうなのですか」

「っていうか、俺は聞いたことがねぇ。掛けたところでなにか起こるのか?」

「ええまあ、場合によっては起こるようでして……」

「へぇ? そうなのかい。そいつは初耳だ。少なくとも俺は見たことねぇな。ああ、そう言えばさっきも、あの小さい嬢ちゃんとそれっぽい話をしてたよな?」

「ええまあ」

 おう、やっぱり一般的ではなかったよう。

 良かった。

 ペサリ草の入浴剤に関しては担保が取れた。

「アンタの言うライフポーション、いわゆる秘薬の存在こそ、かつてそのような技術が存在したのではないか、とは聞いたことがある。ただ、これを裏付けるような研究成果は、学園都市の学会でも耳にした覚えがねぇ」

「研究はされているんですか?」

「そりゃな。ただ、今のところ誰も合成に成功したヤツはいないそうだ」

「なるほど」

 やはり純魔力を込める以外に、魔力媒体の使用方法はないのだろう。

 きっと人間のINT値の限界が、そのあたりであるに違いない。

 ロリドラゴンは知っていたしな。

 ちょっとホッとした。おかげで安心して温泉事業を進められる。

「もしかして何か起こるのか? しかし、回復魔法ならまだいいが、炎の魔法なんかだと普通に燃えちまうだろう。対象が金属の類ならまだ多少は持つだろうが、基本が液体の魔力媒体じゃあ、どうにもならん気がするぞ」

「ええ、そうですね」

「尚且つ、溶媒は値の張るものだからな。普通は誰もやろうとしない」

「やはりそうなのですね」

 回復魔法を受け入れやすい魔力媒体とか、もしも作ることが出来たのなら、回復の秘薬、ライフポーションも夢ではないのかも知れない。暇ができたら一度、エディタ先生に相談してみようか。もしかしたら何か得られるものがあるかもしれない。

 よっしゃ。

 ムチムチの太ももとパンチラを拝みにゆく為の言い訳が生まれたぞ。

 最高に嬉しい。

「……もしかして、まだ何か企んでいるのか?」

「いいえ、今のところはこれといってないですよ」

「そうか? 俺としてはアンタの行く先が気になって仕方ねぇよ」

「別にどこへゆくつもりもないのですけれどね」

 ソフィアちゃんやエディタ先生の下から離れるなどとんでもない。

「さっき、クリスティーナって言ったか? あの子が言っていたことが本当なら、ここの風呂の入浴剤には、タナカさんの回復魔法が掛かっているんだろう? それも肌に触れて効果を感じられるほどに強力なヤツが」

「はい」

「そういう意味だと、こっちからも確認したかったことがあるんだ。いいか?」

「ええ、なんですか?」

 こちらが頷くと、問い掛けてしばし、ゴンザレスは難しい表情となった。グラスを口元に運び、ゴクリ、ゴクリ。少しばかりの間を埋めるように喉を鳴らしてみせる。

 なので自身もまた、これに習いグラスを傾ける。以前に飲んだものと同じ、甘い香りが口から鼻に向けてスッと抜けてゆく心地良い感覚。

 ややあって、ゴンザレスが問うた。

「良かったのか? 魔力媒体の製法を俺たちみたいなのに教えちまって」

 ジッと、幾分か真面目な眼差しに見つめられた。

 どうやら彼にとっては思いの外、重要な事柄であった模様だ。

「あのカスの実に固めたペサリ草の粉末、どう考えても普通じゃねぇだろう。固形でも初級、水に晒した時点で中級くらいか? その性質が変化するのを確認した。悪いとは思うが、うちの連中は好奇心が旺盛なヤツが多くてな」

「構いませんよ。報酬のおまけだとでも思っていただければ」

「クランの奴が言ってたぞ。コストに対して破格の性能だろうと」

「え? そうでしたか?」

 それは初耳だな。

 学園の試験に際して、多少なりとも魔力が入って感じられたのは、もしかして、あれか。当人の意図はどうあれ、結果的に実験は成功していたのかも知れない。思えばナンヌッツィさんも、魔力云々に関しては完全にノーコメントだった。

 何が如何様に作用してマナポ化したのか、本人はまるで知れないが。

「もしかして知らなかったのか?」

「まあ、多少は入るなぁ、程度にしか……」

「ああいや、悪かった。そりゃそうだ。アンタに聞いた俺が間違っていた。確かにタナカさんの底なしの魔力を思えば、アレくらいの媒体じゃあ、まるで意味を為さないのかも知れねぇな」

「あ、いいえ、別にそういった意味ではないのですが」

 なにを勘違いしたのか、頭を振るゴンザレス。

 ただ、続けられたところは継続のマジ顔である。

「でも、本当に使っちまっても良いのか?」

「効能を理解されているということは、恐らく既に知っているものだとは思いますが、ひどい味です。それでも構わないというのであれば、どうぞ、お好きになさって下さい。ただ、私が魔力を込めたものに関しては控えて頂けると嬉しいです」

「そりゃもちろんだ」

「助かります」

 知られてしまったものは仕方がない。

 元々はエディタ先生の持ちネタだったが、自身の成果も多少は入っていることだし、ここは一つ、頭を下げて許して貰うべく考えてゆこう。全ては奴隷堕ち回避の為、田中ランドを成功に導く為である。

 っていうか、あれがマナポなら、水に溶かしてから回復魔法を掛けたほうが、より効率的にキラキラさせることができる筈だよな。固形粉末でのチャレンジより、更に効率よく処理することができそうだ。

「…………」

 いやまて。

 そうなると入浴剤として運搬ができないから難しいぞ。流石に入浴剤を液状で運搬するのは衛生的にとてもよろしくない。無菌且つ無塵での密閉技術が存在しないこちらでは、絶対に避けるべきだ。

 よし、当面は無理しても固形に掛ける形でゆこう。

 別にマナポーションが欲しい訳じゃないしな。

「……しかし、本当に妙な男だな、アンタは」

「そうですかね」

「そりゃそうだろうよ」



◇◆◇



【ソフィアちゃん視点】

 昨晩はエステル様とお話を終えて以後、そのままお隣の部屋にお呼ばれしまして、更に一緒のベッドで眠る運びとなりました。何度もお断りを致しましたが、お気遣いを頂戴した次第です。

 恐れ多くも、エステル様は眠るまでずっと、私の手を握っていて下さりました。おかげで少し寝不足ですが、心は圧倒的な癒やしを覚えております。メルセデスさんの趣味にも、少しは理解が進みました。性別を超えた何かは、多分、きっと、存在するのでしょう。

 これは勝手な寸感ですが、エステル様はご自身が身内だと認めた方には非常にお優しい方です。一方でこれを犯さんとする、ご自身の領域外の方に対しては、恐ろしいまでに無常となります。

 貴族らしいといえば、多分、そうなのでしょう。やはり、フィッツクラレンス家のご令嬢様なのだと、改めて強く印象を得ました。今後とも敬意を払い、誠心誠意お仕えしたいと思います。

 おかげで私は私が嫌いな甘っちょろい女性像を全力で邁進中です。弱い心は罪ですね。でも弱いものは弱いのだから仕方がありません。強い彼の後ろ姿に憧れた結果がこれですから、笑い話も良いところですね。

 などと、今一度、気持ちを正していた朝の時間のこと。

「行くわよっ!」

「え、あ、あのっ、行くというのはどちらへっ……」

 私が食事の片付けを終えるのを待って、エステル様が仰られました。あまりにも急なご提案だったので、思わずキョドってしまいます。

 ちなみに今は一晩を過ごしたエステル様のお部屋から移って、タナカさんのお部屋であります。エステル様たってのご希望で、お食事を摂るのはこちらなのです。

 愛ですね。愛を感じます。不肖わたくし、お二人の仲を全力で応援させていただくと、心に強く決めた次第にございます。必ずやくっついて頂きましょう。

「相手に会って感触を確認するわっ!」

「っ……」

 相手というのは他の誰でもない、リディア・ナンヌッツィ様を指してのお話でしょう。昨晩、自身の主張に同意を頂けたところ非常に感動いたしましたが、まさか昨日の今日でお会いに向かうとは思いませんでした。

「ですが、あの、わ、私などが貴族様の下に向かうのはっ……」

「私のほうが遥かに上等な貴族よ? その客人として向かうのだから問題ないわっ!」

「は、はい」

 堂々と言ってのけるエステル様、格好良いです。

 普段はあまり身分云々を口としないお方ですが、こういった際には躊躇なくご自身の家柄をお使いになられます。そういうところが、なんかもう、同じ女なのにキュンキュンと来てしまいます。

 きっと学園では同性からも、おモテになられるのではないでしょうか。

 いつか自分もこうふうに、とは遥か遠い目標ですね。

「それじゃあ支度をして……」

 エステル様が指示をなされようとしたとき、不意に玄関の方からドアをノックする音が響いて聞こえました。一瞬、タナカさんが戻られたのかとも思いましたが、それならノックはしませんから、きっと他のお客さんでしょう。

 もしかしたら昨日の今日で、貴族様の訪問かも知れません。そう考えると全身が強張りました。エステル様とお話をして、多少なりとも落ち着いた胸のドキドキが、再び痛いほどに激しさを増します。

 しかしながら続けられたところは、良い方向で期待が裏切られた形です。

「すまない、え、エディタという者だが、タナカはいるか?」

 聞き覚えのある声が響きました。

 つい数日前、学技会の鑑賞をご一緒したエルフさんです。

 タナカさんにご用でしょうか。

「た、ただちに参りますっ、お待ちくださいっ!」

 タナカさんのお客さんですから、粗相があってはなりません。

 私は駆け足で玄関に向かいました。

 後ろからはエステル様の気配が続きます。

 多少ばかり廊下を歩んだところで、玄関に到着です。越してから一月ひとつきと経っていない学園寮ですが、随分と馴染んで思える戸口でしょうか。熟れた調子で錠を落としてお客様をお迎えいたします。

「やはり、メイドはここか……それに、そっちは……」

 出会い頭、エルフさんの表情が強張りました。

 理由は視線が向かった先、エステル様の存在です。

 自然と私も気構えてしまいます。いつぞやお二人が顔を合わされた際の出来事が脳裏に蘇りました。あの時は窓の外にエステル様を発見して、とても心が痛みました。二の舞いは絶対に避けなければなりません。

 だからでしょうか、後ろからご本人が割って入りました。

「あら、以前にも部屋に来ていたエルフの方よね? 例の薬を作ったという、彼の錬金術士の先生だったかしら? もしも違っていたらごめんなさい」

「……いや、正しい認識だ」

 先制攻撃というやつでしょうか。

 エステル様とエルフさんの間で視線が交わります。

 私はこれを黙って見つめるばかりでしょうか。

「朝っぱらからどういった要件かしら?」

 代わりにエステル様がやり取りして下さいます。

「あぁ、いや……その、なんだ。少し、確認したいことがあって来た」

「残念なのだけれど、この部屋の主は首都カリスを留守にしているの」

「いいや、違う。確認したいのはそっちのメイドに対してだ」

「ソフィに?」

「ああ」

 お二人の視線が私に向かいます。

 こ、今度は何でしょうか。

「一昨日の件だと言えば、十分に理解して貰えるのではないか? まあ、そちらの貴族様にはなんのことだか分からないとは思うのだが」

「そう言えば貴方も場所を共にしていたのよね? 件の貴族騒ぎに関しては」

「……知っているのか?」

「つい今し方にソフィアからひと通り聞いたわ」

「なるほど」

 エステル様と私との顔を交互に眺めて、思案顔となるエルフさん。

「どういった要件かしら? こう見えて私とソフィとは仲が良いから、相談事があるのであれば、一緒に伺いたいのだけれども。それとも私が一緒では不都合?」

「あ、あぁ……その、なんだ……」

 恐らくはエステル様の立場を推し量っているのでしょう。

「玄関先で立ち話もなんだし、部屋に上がったらどうかしら? 彼の知り合いということであれば、お茶とお菓子くらい出すわよ? ねぇ、ソフィ?」

「は、はいっ!」

「……分かった」

 小さく頷いたエルフさんをリビングまでご案内です。ソファーに腰を落ち着けて以後の対応をエステル様にお願い致しまして、私は早々に踵を返すとキッチンへ向かい、お茶とお菓子のご用意を。

 一体どういったご用件なのでしょうか。

 とてもドキドキします。胸が、胸が痛うございます。

 お盆にお二人分のお茶とお菓子を用意して、すぐさまリビングに戻ります。手早く卓上へカップを並べていると、最中、エルフさんがこちらにチラリ、チラリ、視線を向けては問うてきました。

「貴様は……この貴族様とは仲が良いのか?」

 どういった意味合いの問い掛けでしょうか。

 分かりません。

 なので素直にお答えします。

「はい、とてもよくして頂いております」

「……そうか」

 エルフさんが頷くと、これにエステル様がすぐさま絡みます。

「あら、私が一緒では難しいお話かしら? 仲間外れは寂しいのだけれど」

「…………」

 幾らか強い調子に問い掛けられて、エルフさん、しばしの閉口です。

 ややあって続くところをボソリ、ボソリと。

「……アイツのメイドだから、高飛びの手伝いくらいはしてやろうと思った」

 想定外の提案を頂戴しました。

「え、あの、それは……」

 まさか安全な国外脱出ルートを確保でしょうか。

 何度か顔を合わせた覚えはありますが、碌に口を聞いた覚えもありません。それがわざわざ寮まで訪ねてきて下さるというのは、なんというか、やっぱりというか、タナカさんなのでしょう。先に語られたアイツという響きが妙に強く心に響きます。

 どうにも先日から、タナカさんが大きく見えてなりません。はい。

「ふぅん? そういうことなら、私も貴方と同じかしら」

「……貴族が平民を助けるのか?」

 挑むような眼差しにエルフさんがエステル様を見つめます。

 答えるエステル様は淡々と。

「私はソフィの友達なの」

「…………」

「信じられないかしら?」

「……分かった。信じよう」

 更に少しばかりを躊躇して、エルフさんは頷かれました。

 お二人の間に漂っていた険悪な雰囲気が幾分か霧散しました。

 良かったです。

「貴方も学技会の席に居合わせたのよね? 詳しい発表の内容を聞かせて貰えないかしら。一応、ソフィアから多少は聞いているけれど、専門家に聞いたほうが、より詳しい情報を得られると思うの」

「そういうことであれば吝かではない。良いだろう」

「ありがとう。助かるわ」

 しかし、貴族様にもタメ口のエルフさん、凄いです。もしかしたら有名な錬金術の大家が出自なのかも知れません。王女様の病気を治した薬も、元々はこの方がレシピを作成されたのだとタナカさんがおっしゃっていました。

 私の前でやり取りされる言葉は、とても魔法的で、錬金術的で、専門的です。一介のメイド風情にはちんぷんかんぷんです。ところどころ、自身の知る単語を追うのが精々でしょうか。背筋を正して、お二人の語られる姿を窺うばかりです。

「……となり、その反応を、というのが先方の主張であった。ここでは……」

「……へぇ……なるほど……」

 お話をされるエルフさんも、これを耳とするエステル様も、共に真剣な眼差しで受け答えをされています。私のような平民の為に、このような方々が真摯に向き合って下さっているという事実が、とてもとても嬉しいです。

「……ペサリ草の色素をファイアボールで炙る? ……どこかで聞いたような調合ね」

「うむ、そうして以後、得られた水溶液を粉末として、カスの実で……」

 それと同時に酷く申し訳ない気持ちが溢れます。お二人とも私などより遥かに身分の上の方であるにも関わらず、親身になって下さっています。なのに自分には何も出来ることがないというのが、殊更に恐縮です。私はなんて不出来なメイドなのでしょう。

 ややあって一頻りを確認されたところ、エステル様が表情も新たに語られました。

「……ふぅん、そういうことだったのね」

 一連のエルフさんの説明を受けて、何かしら得たところがあるのでしょう。つぶやくと同時に深々と頷かれました。恐らくは昨晩、私の述べさせて頂いた限りでは足りていなかった情報が、今この瞬間、お二人の間で共有されたようです。

 自らの学のなさが不甲斐ないです。

「そういうこととは、どういうことだ?」

 エステル様の顔に浮かぶのは満足気な表情です。

 これを目の当たりとして首を傾げるのがエルフさんでしょうか。

「ソフィア、貴方の見立ては間違っていなかったわ」

「え、あの、それはどういう……」

「ペサリ草の色素をどうこうという時点で怪しいとは思っていたの。ええ、ソフィア、貴方は主人想いのとても良いメイドだわ。誇っても良いわよ」

「えっと……あ、あの……」

 なんの話でしょうか。

 やっぱり私には事情が分かりません。



◇◆◇



 ロリドラゴン来訪から翌日、昼を少し過ぎた頃合いだろうか。

「……なんだ、これは」

 俺は領地の一角に建てられた建物を目の当たりとして、驚愕から身を強張らせていた。何故に驚いているかと言えば、それは目前に聳える構造物の出来栄えが、自身の想像を遥かに越えた代物であった為だ。

 ここ数日、ストーンウォールにストーンウォールを重ねて、少なからずファンタジー建築に自信を得ていた身の上。俺って天才じゃね? 考えつつ日々伸びてゆく鼻。それを根底からへし折られたにも等しい、圧倒的な衝撃であった。

『な、なんだ? あぁっ!? 私が作ったものが気に入らないのかっ!?』

 こちらの反応を勘違いしたらしいロリドラゴンが、間髪置かずに吠える。

 威嚇してくる。

『人間どもはよくこういうの作ってるだろうがっ! し、知っているのだぞっ!?』

 そうではないのだ、クリスティーナよ。

 むしろ逆だ。

「素直に認めるのは非常に悔しいですが、むしろ、その逆です」

『……なんだと?』

「素晴らしいですよ、クリスティーナさん。素晴らしいです」

 思わず素晴らしいって、二回言っちゃった。

 でも、それくらい良い出来栄えだ。

『そ、そうなのかっ!?』

「ええ、そうなのです」

『っ……』

 顔を真っ赤にするロリドラゴン。

 どうやら相当に嬉しいらしい。

 なんかもう、ほっぺが異次元だ。ぷによ~んしてる。

『そ、そそ、そうだろうっ? そうだろう! なにせ私だからなっ!』

「まさかここまでとは、私が想像した以上の出来栄えですよっ」

『ふはっ、はははっ、ふひぃうっ、ふっ、ひっぃっ……ふっ、ふあははああっ!』

 ちゃんとふはは出来てねぇよクリスティーナ。

 だが、今この瞬間、コイツに対する価値観が革命である。

 彼女の土木魔法の具合を確認する為、とりあえず領土の外れに多少ばかりスペースを与えた。自身の魔法を用いて、ここに適当な建物を建ててくださいと、ものの試しにお願いしてみた次第である。

 するとどうしたことか。

 目の前には数十坪ほどの空間へ打ち立てられたのは立派な門である。パリのエトワール凱旋門、というと彫刻の立派さに目が行ってしまうが、少しばかり装飾を落としてブカレストのそれを思えば、比肩する出来栄えの代物となっている。

 実用本位で飾り気のなかったこれまでの建築物が紀元前の気配を晒している一方、クリスティーナの作品は駆け足で数世紀ばかりを進み抜けて思える。自身が大壁を凹ませて作った門など、これと比較しては、ただの穴だ。

「もしよろしければ、この調子で色々と作っては貰えませんか?」

『ふっははははっ! まあ、貴様が頭を下げて頼むというのであれば、この私の力を認めた上での懇願であれば、他に作ってやることも吝かではないなっ!』

「本当ですか? であれば、どうぞ、この通りです」

 尊敬できる才能に頭を下げることに抵抗はない。

 これでもかと腰を曲げて、九十度、綺麗にお辞儀をしてみせる。

 すると、殊更に声を荒らげるロリドラゴン。

 同時に、息をハァハァさせ始めるロリドラゴン。

 興奮し過ぎて過呼吸っぽくなってるぞ。

『ふっ、はぁあっ! はぁっ! はっ! ははっ! 良いだろうっ!』

「本当ですか?」

『だが忘れるなよっ!? この私の魔法を認めたことをっ!』

「ええ、忘れませんよ。安心してください。この建物も長く残したいです』

『そ、そうかっ! ならば良いっ! 良いぞっ! 作ってやろうじゃないかっ!』

 意気揚々と歩み出すクリスティーナ、肩で風を切る。

 今一度、よくヤツの作品を観察してみる。恐らくはストーンウォールにストーンウォールを重ねることで小さな凹凸を生成し、細かな造形を表現しているのだろう。たまにいるよな。レゴブロックでリアルなモニュメント作っちゃうやつ。あれと同じ感覚だ。

 四角も集まれば丸みを帯びるって寸法よ。

「……やばい、やる気が漲って来た」

 クリスティーナに負けてはいられない。

 もちろん、同じことを試していない訳ではない。今の自分にはあまり細かい制御が行えないのだ。同じサイズの小柄な凸を段組して一様に、とか非常に苦手である。どうしてもむらが生まれてしまう。

 きっとスキルレベルが足りていないのだろう。故に単純なモノリスしか生み出すことができないと見た。現状では下水管や温水管など、管のたぐいを造るのが精々だ。このままでは到底、ロリドラゴンの領域には追いつけない。

「…………」

 となると、あれか。

 カモン、ステータスウィンドウ。



名前:タナカ
性別:男
種族:人間
レベル:118
ジョブ:錬金術師
HP:109400/109802
MP:222550300/222550300
STR:8311
VIT:12211
DEX:14106
AGI:10315
INT:16792130
LUC:67


 想定したとおりレベルが上がっている。

 ここ数日、土木魔法を精魂果てるまで連発しまくった為だろう。やはり、レベルアップに必要である経験値的なサムシングは、生き物を殺傷した際のみならず、他に多くの活動を通して得られるもので間違いなさそうだ。

 しかし、LUCのマイナス成長が気になるな。

 このままだと遠くない未来にゼロを下回るぞ。

 まあ、今は良いか。

 それよりもスキルポイントである。


パッシブ:
 魔力回復:LvMax
 魔力効率:LvMax

 言語知識:Lv1

アクティブ:
 回復魔法:LvMax
 火炎魔法:Lv45
 浄化魔法:Lv5
 飛行魔法:Lv55
 土木魔法:Lv5

残りスキルポイント:5


 よし、こっちも来てる。

 そうなったら、さぁ、やることは決まっている。


パッシブ:
 魔力回復:LvMax
 魔力効率:LvMax

 言語知識:Lv1

アクティブ:
 回復魔法:LvMax
 火炎魔法:Lv45
 浄化魔法:Lv5
 飛行魔法:Lv55
 土木魔法:Lv10

残りスキルポイント:0


 どうだ、土木魔法がレベル二桁だ。

 これで今までより精緻なストーンウォール制御が行えるようになった筈だ。確証はないけれど、火炎魔法がレベルアップとともに、同時生成数が増えたりした点から、大凡間違いないように思える。

 ということで、後は作って作って作りまくりだ。

 クリスティーナに対して認めると語ったところは間違いない。だがしかし、未来永劫ヤツに遅れを取るつもりは微塵もない。目の前にそびえ立つ凱旋門を超える某かを作成して、悔しさに歪むロリドラゴンの表情を白昼に晒してやるのだ。

 奴は悔しそうにしている顔がとても可愛らしいからな。

 他人に認めて欲しくて必死になってるロリドラゴンをバックから攻めたい。

「よっしゃっ」

 いつかと夢見るドラゴンセックスの為にも、気合を入れて頑張ろう。



◇◆◇



【ソフィアちゃん視点】

 いつか私が耳としたリディア様の独り言。その内に語られた平民とは、他の誰でもないタナカさんを指してのことではないか、というのがエステル様の見解でした。

 だとすれば、大した偶然もあったものです。

「で、ですが、あの……私が聞いたという証拠はなくて……」

「ええ、そうみたいね」

 場所は変わらず学園寮のタナカさんのお部屋です。

 そのリビングでエステル様とエルフさん、それに私の三名は、テーブルを囲うよう腰を落ち着けて、神妙な面持ちに顔を向きあわせております。

「けれど、過失は相手にあるわっ!」

「……いや、そう簡単な問題ではないだろう」

「どうしてよ?」

 エステル様のお言葉に対して、エルフさんが異を唱えました。まさか否定されるとは思わなかったようで、返すところエステル様の表情が少し厳しさを増しました。どうか、喧嘩だけは、喧嘩だけはしないように、お願い致します。

「ヤツは自らの技術を自らの意志で、例の貴族に見せたのだろう?」

「え、えぇ、そうね。試験の最中であったから、その点は間違いないと思うわ」

「であれば、その技術は既にヤツ自身の手により公然のものとなったに等しい。誰かが同様の技術を用いた発表を行ったところで、これを非難することは間違っている。仮にその技術が発表会の類で初めて公開されるものだったとしても」

「でも、元はと言えば貴方の技術だったのでしょうっ!? 貴方の技術をベースとして、彼が発展させた。その結果出来上がったのが、例のマナポーションであるのだと、先程にも二人で意見をまとめたじゃないの」

「私はヤツに与えたのだ。故にヤツが以後をどう扱おうと、ヤツ次第だ」

「……なによそれ」

 エルフさん、なんて懐の広いお方でしょう。

 自らの研究成果が流出、更に他人の成果として世間へお披露目されたというのに、その事実を認めるべきだと仰っております。或いはその出元がタナカさんであるから、というのが一番の理由かも知れませんが。

「正当な研究発表を否定することはできない。他人の行いを真似てみた結果、未発表の素晴らしい技術であったということは、往々にして世の中に溢れている。だからこそ、研究者は自らの研究を秘密のものとするのだ」

「そ、それは、確かにそうかもしれないけれど……」

「またヤツにとっては、その程度の技術でしかなかったということだ」

「…………」

 これにはエステル様も続くところ悩んで思われます。

 代わりにエルフさんが続けます。

「ところで一つ確認したいのだが」

「……なにかしら?」

「ヤツはどこに居るんだ?」

「彼なら自らの領地よ」

「やはり、本当に貴族となったのか?」

「ええ。私の子として男爵位を得たわ」

「……そうか」

 エステル様とエルフさん、お二人の間で視線が交わります。表情は固く、共に気を張らせているのが、傍目にも容易に窺えます。お美しい方々ですが、些か目元にきつい印象を受けるので、真剣な顔つきとなると、かなり怖いです。

 果たしてエルフさんとタナカさんはどういったご関係なのでしょうか。

 タナカさんご自身はエルフさんを先生と称しておりましたが。

「まあいい、ヤツについてはひとまず置いておこう」

「……ええ、そうね」

 見ていてハラハラどきどきが止まりません。

 脇の下がグシュグシュしてきました。最近、汗の染み出す勢いが増してきているような気がします。癖になってしまっているのでしょうか。乙女的に辛いですね。汁女って需要あるんでしょうか。

「研究の公開に対する一般的な知見は今に述べたとおりだ。だがしかし、そっちのメイドの言葉を加味するのであれば、場所は学園の教室でのこと。大凡、教師らしい行いではないだろう。他へ発表するのであれば、せめて共同研究とするのが礼儀だ」

「そうよっ! 私はそういうことを言いたかったのっ!」

 声も大きく応じられるエステル様。

 私の味方をして下さっているのだと思うと、胸が熱くなります。

 そして、それはまたエルフさんも同様のようで。

「あの貴族に対しては少し揺さぶりを掛けても良いかも知れん」

「どうするのよ?」

「共通の知人に対話の場を作って貰おう。可能であれば他に大勢、人の目がある場所であることが望ましい。その上で、私が技術的な知見から突っ込みを入れる」

「突っ込みを入れてどうするのよ?」

「そのメイドの言葉が確かならば、彼女の知識には穴がある筈だ。これを公衆の面前に引きずり出すことができたのなら、そのメイドの言葉に信憑性を与えることができる」

「……それで譲歩が引き出せるかしら?」

「恐らくは」

「なら、それでいきましょう」

「うむ」

「共通の知人というのはファーレン卿で良いわよね?」

「頼めるか?」

「ええ、当然よ。私ができることは限られているから、仕事があるようなら幾らでも投げてくれて構わないわ。他に力になれることも少ないでしょうし」

「助かる」

「別に貴方の為じゃないわ。ソフィと彼の為よ」

「うむ」

 どうやらお二人の間でお話がまとまったようです。

 傍らに聞かせて頂いた感じ、殊更に大事となりそうで、とても不安なのですが、大丈夫なのでしょうか。なんか、こう、段々と良くない方向へ向かって、雪だるま式に人を巻き込んでいっているような気がしてなりません。



◇◆◇



【ソフィアちゃん視点】

 場所をタナカさんのお部屋から移りまして、いつぞや利用した学園の応接室までやってまいりました。なんでもファーレン様は学技会という催しが開かれている間、同催しに掛かりっきりとなるそうです。

 今も発表と発表の間の僅かな時間を取らせて頂いた次第です。

 同所にはファーレン様の他にエステル様、エルフさん、私が臨みます。

 あれ、そう言えばドラゴンさんは何処へ行ってしまったのでしょうか。タナカさんを呼びに向かわれたとのお話でしたが、まだ戻られていないのでしょうか。既に数日が経過しております。

 ドラゴンさんの素晴らしい翼であれば、一日か二日で往復が可能だと思うのですが。

 いえ、今はドラゴンさんのことより、自身の行く末へ注目しましょう。

「私は忙しいのだ。それを理解しているのか? リチャードの娘よ」

「ええ、これから話すことは貴方にとっても重要な事柄よ、ファーレン卿」

「……ほう?」

 エステル様がファーレン様に訴えられます。

 かなり強めです。

「そのメイド絡みか? 言っておくが、私は下らないまつりごとに協力などせんぞ。如何に貴様やタナカが相手だろうと、その一点に関しては絶対に譲ることはない。既に客人まで巻き込んでしまっているようだが」

 ちらり、ファーレン様の視線がエルフさんに移ろいました。

「わ、私が頼んだのだっ! 忙しいところ、申し訳ないっ!」

 彼女は幾分か緊張した様子で、ファーレン様に訴えました。

 エルフさんにまで頭を下げさせてしまい、心苦しい限りです。

 ありがとうございます。

「ふぅむ? 分かった。であれば言うといい。聞くとしよう」

「助かるわっ!」

 承諾が頂けたところで、エステル様がご説明を始めました。大凡のところは先程までタナカさんのお部屋でエルフさんと話し合われていたところと相違ありません。

 当然、私はその隣で聞くに徹する所存です。

「ファーレン卿、学園にとっての教師とは、どういう存在かしら?」

「藪から棒になんだ? 言うまでもないだろう。魔導の徒にして、これを学ばんとする他の徒を導くべき導師である。ただ純粋に魔導を極めるべくある存在に他ならない。学園においてはその遵守が他の何にも優先される」

「ええ、そうね」

「何が言いたい?」

「その導師足るべき教師が、導くべき徒の成果を奪い、あまつさえこれを自らのものとしているとしたら、どうかしら? それは正しい魔導の発展に対して、これを冒涜するものではないかしら」

「あの教員が生徒を冒涜したと?」

「したわね」

「どういうことだ? 理事であるこの私を動かそうというだ。適当を語ることは、如何にリチャードの娘であろうとも許さんぞ? 自らの発言には常に責任を意識せよ。魔導の徒とは自らの目と耳のみを信じるべくだと常に教えている筈だ」

「ええ、だから私がこれから語るのは私が実際に見聞きしたことよ」

「貴様が?」

「こちらの彼女、彼の錬金術士の先生だったかしら? から伺ったのだけれど、そのナンヌッツィとかいう教師の発表内容は、私が学園の試験で目の当たりとした、彼の調合と一分の違いもなかったわ」

「……どういうことだ?」

「学園の理事ならば試験の日程くらい覚えがあるでしょう? 直近、錬金術の試験があったの。課題は魔力媒体、つまりマナポーションの生成。これに挑んだ彼の錬成したものこそ、学技会で彼女が発表した内容そのものよ」

「貴様は錬金術の専攻ではないだろう」

「私は彼と片時も離れたくないの」

「…………」

 どんな時でもタナカさんへの愛がブレないエステル様です。これにはファーレン様も絶句でしょうか。今日この瞬間、その愛が他の何よりも頼もしく映ります。私もこういう情熱的な恋愛をしてみたいです。

「どうかしら?」

「あ、あぁ、貴様の言わんとすることは理解した」

 咳払いを一つして、ファーレン様は小さく頷かれました。

 しかしながら、続くところは渋い顔です。

「だがしかし、貴様も学園の生徒であれば理解する筈だろう。今の説明が正しいとしても、問題の技術はヤツ自らの手により公のものとなったのだ。これを非難するのは筋が違うだろう。自らの手で秘匿を漏らしたとあれば、それは自己の責任だ」

「ええ、その点も承知しているわ」

 あ、ここエルフさんと事前に予習したところですね。

 ちゃんと役に立ったようでなによりです。

「私が訴えたいのはそこじゃないわ。先も言ったでしょう? 問題は教師が生徒の技術を自らのものとして発表したのが問題なの。ファーレン卿も自身の言葉で語っていたでしょう。学園の教師は生徒を導くものだと」

「うむ、確かに語ったな」

「ここでソフィの言葉を併せれば、貴方の意志の否定にはならないかしら?」

「…………」

 どちらも片方では意味をなさなかった情報です。私の見聞きしたものと、エステル様の見聞きしたものが合わさって、初めてそこに価値を伴うのです。

 しかしながら、うち一方の説得力が、あまりにも弱いのです。

「だが、証拠はあるのか? 確かに貴様の言い分に限れば立証も可能だろう。試験時間中ということであれば、他の生徒から証言を取ることも不可能ではないだろう。だが、そちらのメイドは言った。自身の耳に聞いた限りだと」

「そ、それは……」

「人は過ちを犯す生き物だ。聞き間違いの可能性も十分にある」

「…………」

「だが、勘違いするな? 私は貴様らの行いを否定しているわけではない」

「……どういうことよ?」

「もしもメイドの言葉が信じるに値すると考えたのであれば、私は自らの意志に従い、学園理事の責務として、あの者を断罪するだろう。ただ、今はそれを行う為の証拠が足りていない。確証するに至っていない。いずれに倒すにしても、だ」

 どうやらファーレン様も、すぐに状況を判断するつもりはなかったようです。その立場が貴族様ということで、同様に貴族であるナンヌッツィ様の味方なのだろうと勝手に考えておりました。ですが、それは私の早合点であったようです。

 ファーレン様は、やっぱりファーレン様ですね。

 魔法という尺度がある限り、どこまでも冷静で公平なお方です。

 ということで、ここへ来て口を開かれたのがエルフさんでしょうか。

「そこで私から提案がある」

 とても真面目な表情にファーレン様を見つめてのことです。

「提案?」

「以前、そちらから案内を頂いた学技会での席に関してだが、一つ、設けて貰うことは可能だろうか? 題目としては、そうだな、ナンヌッツィと言ったか? 彼女と私とでの対話として貰えると助かる」

「……ふむ。なるほど、な」

 すると、なにやら理解した様子でファーレン様が頷かれました。

 早々こちらの意図に気づいて下さったのでしょう。

「どうだろうか?」

「良いだろう。そういうことであれば私も同席させて貰おう」

「助かる」

 どうやら事前に話し合った形に落ち着きそうです。

 良かったです。

 ただ、その舞台が学技会という大きな催しの只中という一点において、一介のメイド風情には恐ろしくてなりません。本当に大丈夫なのでしょうか。ここへ来て、実は自分の聞き間違いであったのではないかと、不安で不安で仕方がありません。

「本来であれば本人に確認するのが一番であるのだが、まだ戻らんのか?」

「当面は戻らないわね。あちらはあちらで忙しいもの」

「……そうか」

 答えるエステル様のお言葉に、ファーレン様は肩を落とされました。

 滅多でない光景ですね。

「しかし、それではあのドラゴンは何処へ行ったのだ……」

 はい。一向に戻ってきませんよね。ドラゴンさん。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ