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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫

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領地開拓 二


 王城でノイマン氏を仲間に加えた我々は、ヘイ、タクシー、馬車に揺られて学園寮まで戻って来た。本来であれば学技会の会場に戻り、残る午後の発表を聴講する予定であった。少なくとも昨晩までの予定では。

 男爵云々の話を受けた後では、悠長に他人の発表を聞いている場合じゃない。。

「ら、ラジウス平原なのですかっ!?」」

 ノイマン氏が素っ頓狂な声を上げた。

 寮の部屋、リビングには彼女の他に俺とノイマン氏、ソフィアちゃん、クリスティーナの姿がある。各々、ソファーに腰掛けてのこと。ちなみに配置は俺の右にロリビッチ、左にクリスティーナ。対面にソフィアちゃんとノイマン氏という配置。

 クリスティーナのせいでソフィアちゃんがノイマン氏の隣に行ってしまった。

 彼も彼でイケメンだから、メイドさん、心なしか顔が嬉しそうだぞくそう。

「ええそうよ」

「あのような場所が領土として成り立つ筈がございませんっ!」

「貰ってしまったものは仕方がないわ」

「し、しかし、それでは翌月に金貨五十枚の上納という条件は……」

 つい先刻にエステルちゃんがそうであったよう、慌てに慌てるノイマン氏。理由は偏に宰相さんから与えられた条件を共有した為である。どうやら役人の視点に立って尚も、彼の条件は厳しいものであったよう。

 やっぱり無理ゲーじゃん。

 まあ、やるしかないのだけれど。

「面倒なことに巻き込んでしまいすみません。ノイマンさん」

「いや、そ、それはっ……その……」

 続くところを失うノイマン氏。

 そりゃそうだ。

 一年後、俺が男爵として存在している可能性は非常に低い。彼としては完全に貧乏くじを引いた形だろう。エステルちゃんもなかなか酷なことをする。ここまで酷い後出しジャンケンは滅多にないだろう。

「とは言え、私は決して諦めておりませんので」

 ノイマン家の進退がこの肩に掛かっていると思うと、やる気も湧いてくる。

 一度で良いから不倫セックスからの母娘丼というやつを味わってみたい。

「貴族となった者が最初にやることがあるわっ!」

 エステルちゃんが声も大きく言い放つ。

「というと?」

「騎士団よ。貴族の地位と領土が与えられた次点で、貴族は自らの騎士団を組織するわ。それは自身の領土を守るものであり、自身の身を守るものでもあるの。貴族の一番の敵は同じ貴族よ。領土に次いで大切なのが、この騎士団になるわ」

「なるほど」

「単純な武力としてだけでなく、騎士団は貴族の力を示すステータスなの。そこいらの傭兵を雇い入れただけの騎士団と、身柄の確かな者たちによって固められた騎士団とでは周囲からの目も大きく異なるわ」

 きっと領地内における警察や自衛隊のような位置づけなのだろう。

 そう考えると、うむ、たしかにそいつは重要だ。

「しかし、困りました。私にはそのような伝手は……」

 いや、無いことは無いか。

 色々と問題のある選択肢だけれど。

「本来であれば、親である私の元から出向させるのだけれど……」

 多少ばかりを語ったところで、早々に渋い顔となるロリビッチ。

 タイムキーパーの爺さんが駄目出ししてくれたから、これを彼女の世話になるのは難しい。親のすねを囓ったら即アウトである。ノイマン氏の処遇に関しても、一度、エステルちゃんがリストラした上での再雇用という形で落ち着いた。

 元々は王権直轄領であったトリクリスだ。その下から外れるということは、彼の経歴が書面上、完全に役人ルートから外れるということ。だからこそ今し方に見せた嘆きであり、絶望のノイマン氏である。

 仮に俺が失敗したら、一年後を待たずして、完全に詰んだ感じ。

 一家離散の上、ローンだけが残っちまったぜ系男子になる。

 ヤバい。想像すると悲惨すぎる。

「タナカさん……」

 祈るような眼差しでノイマン氏から見つめられる。

 ごめん。マジごめん。

 心の中で謝っておく。

「なにはともあれ、まずは領土を確認しに向かいましょう」

 他に一人二人であれば、同様の方法で調達も可能だろう。しかし、騎士団などという規模となれば難しい。宰相の目に付いたのなら、まず間違いなく咎められるだろう。つまり、以降は自身の力でなんとかしなければならない。

 幸いにしてお金は多少の余裕がある。

 ドラゴン退治で手に入れた金貨が未だ二百枚弱。本来であれば金髪ロリ肉便器奴隷シスターズを購入する為の資金だ。このような大金、いつまた手に入るか知れない。本当は使いたくない。だが、今はこれを用いねば自らの身分が奴隷堕ちだ。

 当然、ソフィアちゃんとはお別れ。それはなんとしても避けなければ。

「分かったわ」

「クリスティーナさんはファーレンさんの下に戻ってあげて下さい。彼は貴方のことをとても大切に想っています。彼と交流を深めれば、貴方は私のような人間と相対するに際して、より有用な知恵と力を手にすることができるでしょう」

『そうして邪魔者扱いするのだな? あぁ?』

「あ、いえ、申し訳ないとは思います。ただ、我々に付いてきても退屈ですよ」

 たまに突っ込んだ物言いとなるロリドラゴンの言動にドキっとさせられる。

 とは言え事実は事実、邪魔者なのだから仕方がない。

 また、今回はそれに加えて魔道貴族に対する配慮もある。ヤツが好きだと語って見せた手前、事故を起こす意志がないとは言え、一晩を共にするような真似は控えるべきだろう。ちゃんと家に帰してやるのが恋愛相談に乗った者の勤めである。

『ふんっ、勝手にしろ』

「ではすみませんが、そのような形で」

『はっ! そうして軽口を叩いていられるのも今のうちだ。いつか必ず我が身の全てを貴様に認めさせてみせる。そして、次は貴様が私に挑み、自らを示す側へとまわるのだ。あぁ、そうだ。必ずや貴様は私に挑む側へと至るだろうよっ!』

「…………」

 声高らかに宣言してみせるクリスティーナ。

 エンシェントドラゴンという生き物は自身が想定するより、余程のこと孤独な生き物なのだろう。時折見せる妙な承認欲求は、他者との交流に乏しい弊害に思えてならない。若しくは、そう思えるだけ、自身と対等な手合いとの出会いに恵まれなかったのか。

 いずれにせよ、やたらと賢いペットの躾でもしているような気分だ。



◇◆◇



 今後を巡る作戦会議の末、ロリドラゴンは魔道貴族の下へと戻り、ソフィアちゃんは例によってお留守番。ノイマン氏は平民に対する貴族位授与という、極めて面倒らしい諸手続きを行う為に、お城へと肩を落としつつも向かっていった。

 これらを見送った自身とエステルちゃんは、すぐさま飛行魔法により移動だ。

 ロリボディーを抱えて一路、問題のラジウス平原とやらへ。

 途中にトイレ休憩など挟みつつ、本来であれば数日を要する道のりを半日ほどでの移動となった。当初はロリドラゴン方式で、背中への搭乗を提案した。だが、当人たっての強い希望により、道中はお姫様だっこに過ぎて行った。

 唇が頬や首筋へ触れんばかり、顔を近づけてくれるロリビッチの抱きつき攻撃は、極めてエロかった。ただ抱きつかれているだけなのに、思わず興奮してしまったのは、間違いなく童貞が所以の反応だ。

 これに気づいたエステルちゃんのキラキラと瞳を輝かせんばかり、言葉すら伴わない悦びの表情は、決して忘れない。ギャルゲのスタッフロール後、〆に使われるヒロインの表情アップを彷彿とさせる笑顔だった。

 ジッと、ジぃっと、一時間くらい延々と無言で見つめられ続けた。

 一年分くらい見つめられた。

 そうした具合に生殺し状態のまま悶々と飛び続けてしばらく。日の暮れて夜も更け始めた頃合のこと。ようやっと辿り付いた先は、数日前にも訪れた戦場の跡地である。目下、一番の問題となる我が領土、ラジウス草原だ。途中、何度か迷子になりそうになったけれど、なんとか日が変わる前に辿り着くことが出来た。

「夜になって眺めると、また違ったふうに見えますね」

「ええ、そうね」

 夜、丘の先に立ち眼下に草原を見つめる。

 移動中のことは全て忘れよう。

 必死に平静を取り繕いながらのトークだ。

「ここから見える範囲が、殿下より貴方に下賜された領土……」

「広いようで狭いのですね」

 合戦時にソフィアちゃんが避難していた丘上、草原全体を見渡す。空に月っぽいなにかが浮かんでいるおかげで、夜の暗がりにあっても外観程度は掴むことができた。至る所にちらばる血肉が闇に隠れてくれて昼に見るより心に優しい。

 草原は一方で我々が立つ丘と、これに続くトリクリスへ至る林道に接しており、また一方ではプッシーとの国境と接している。後者に関しては広大な森の一部に問題の草原が押し入るような形だ。丘と森に挟まれた平原地帯、といった形だろうか。

 ちなみに国境には境界らしい境界が設けられておらず曖昧なもの。

 アメリカとメキシコを隔てる柵のようなものがあれば良いのだが、そのような分かりやすい基準点はない。遠くプッシー共和国の側に物見櫓の類いが窺える点から、両国共に緩衝地帯として認識している界隈だろう。

 そんな場所を領土として与えられた時点で、自らに対する扱いなど容易に知れる。

「男爵領であっても、普通、ここまで極端な土地を与えることはないわ」

「そうなのですね」

 十数年をワンルームマンションで生活していた都合、目の前の土地全てが自分のものになると言われたのなら、随分と広いものだと感じる。一方、これだけの土地で月に金貨五十枚を生み出せと言われると、やはり手狭いものだと考えを改める。

 青梅の寒村を与えられて、向こう一年でここを新宿並み、とは言わないまでも、府中並に発展させろと、一方的に命じられたようなものである。そう考えると難易度が跳ね上がって思えるから不思議だ、現代日本の土地事情。

 まあ、過ぎたことを悔やんでも仕方がない。

 今は前向きに努力する限り。

 社畜時分に味わった理不尽と比較すれば、この程度は物の数に入らない。

 まだまだ可愛いものである。

 まったくもう、宰相のお爺ちゃんったら可愛いんだから。

 そういうことにしておこう。

「与えられてしまったものは仕方がありません。頑張りましょう」

「貴方には何か、か、考えがあるのかしら?」

「そうですね……」

 町や村が存在しなければ、山や川といった資源の類いも見込めない。当然、産業の類いなど期待できる筈もなく、残された期日を考えれば土地を開墾して作物を育てる猶予も皆無である。何もかもが足りていない。

 となると残された手は観光地産業が精々である。しかしながら、無残、現場には先の紛争で生まれた大量の血肉が転がっている。イメージ最悪。それどころか下手をすれば、疫病が発生する可能性すらある。まさかゾンビになったりしないよな?

 更にこれを乗せる大地に至っては淡く碧い輝きを放っており――――。

「ところでエステルさん、なにやら地面がうっすらと輝いていませんか?」

「……え、ええ。そのようねっ!」

「やはり見間違えではないようですね。昼であったら気付けないほどですが」

 丘より見下ろす先、草原全体が穏やかな光を灯して思える。それは夜の闇に呑まれて尚、界隈をぼぅと浮かび上がらせるよう、暗がりに些末な輝きをうっすらと滲ませていた。蛍の光より殊更に控えめな輝きだ。

 或いは月もどきの光を反射しているのではないかと当初は考えた。だがしかし、輝きは草原のある地点で途切れている。それ以上先は灯りを失って、延々と薄暗い態を晒している点からも間違いない。

「平素からこのような現象が?」

「いいえ、聞いたことがないわ」

「なるほど」

 なんだろう。さっぱりだ。分からない。

 こんなことなら魔道貴族のヤツを連れてくれば良かった。

「下りて確認してみますね」

「わ、私も行くわっ!」

「エステルさんはここに残って下さい。有害である可能性があります」

「それなら尚更、貴方と一緒に行くわっ!」

「……そうですか。であれば、決して私から離れないで下さい」

「っ! え、ええっ! 離れないわっ! 絶対にっ!」

 哮るロリビッチと共に丘を下りて草原の只中へと飛んで向かう。

 地面へ降り立つと同時、全身をなんとも言えない穏やかな心地が包み込んだ。それは冬の屋外で風に当たり冷え切った肉体を、熱い湯船に鎮めてた際に得られるような、ああぁぁぁ、って感じの気持ちよさだ。

「な、なにこれっ……」

「非常に緩慢なものですが、肉体の疲弊が癒えてゆくのを感じますね」

 何故だろう。

 別に湯が沸いている気配はない。

 気温や湿度が高い訳でもない。

「……とても心地が良いわね」

「ええ、そうですね」

 しばらくをぼんやりと、風呂に浸かったよう過ごす。

 ちょーきもちいい。

 多少ばかりを考えたところで、思い至ったのは一つの仮定だ。

「あの、も、もしかしたらなのだけれど……」

 どうやら彼女もこちらと同様の至りを得たよう。

 上目遣いに見上げては語ってくれる。

「貴方が回復魔法を何度も使ったからじゃないかしら? 地面が光っているのって、ちょうど戦闘のあった辺りよね? この輝き、貴方が使っていた魔法のそれと、とても良く似ているわ」

「奇遇ですね。私もそのように考えていました」

「っ!」

 エステルちゃんの瞳が潤み始める。

 多感なお年頃だ。

「となると、これは使えるかもしれませんね」

「ほ、本当にっ!?」

「はい」

 とは言え、その為には多くの人たちの協力が不可欠だ。



◇◆◇



 領地の確認を終えた我々はトリクリスへと向かった。

 またもお姫様だっこでエステルちゃんを抱えて飛行すること半刻ばかり。つい数日前に発ったばかりの町並みが見えてきた。そろそろ日も変わろうという頃合、歓楽街の類いを除いて完全に寝静まって思える。

 そうした只中、我々が向かった先は冒険者ギルドだ。

 今まさに店仕舞いを始めていた同所へ、滑り込みセーフで入店する。

「おいおい、誰だか知らねぇが今日はもう店じま……」

 カウンターの向こう側、こちらを振り返った強面マッチョが固まった。

 その視線が向かう先にはエステルちゃんの姿だ。

「こ、これはこれは、貴族様がこのような場所へ如何様で?」

 大柄マッチョでスキンヘッドな強面亭主が、しかし、彼女の姿を目の当たりとして途端に全身を強ばらせる。少なからぬ動揺が表情には見て取れた。夜中という頃合も手伝って、、こちらを相当に警戒して思える。

 ただ、彼に用があるのはエステルちゃんじゃない。

 自分なのだ。

「すみませんが、ゴンザレスさんに連絡を取れないでしょうか」

 ロリビッチの傍ら、マッチョへと尋ねてみる。

 当人が語っていた。連絡を取りたいときはギルドに言えと。

「……貴族様がゴンザレスの野郎に何用で?」

 すると、殊更に厳しい顔となるマッチョ店員。

 どうやら街の人間とは有効な関係を築いていると思しき黄昏の団だ。貴族に嫌われて市井に好かれるとか、典型的な義賊然とした立ち位置が恰好良いじゃないの。

「タナカが連絡を取りたがっていると、お伝え願えませんでしょうか」

「タナカ、ですかい?」

 どうやらこのマッチョ、こちらの顔は覚えていないよう。

 以前にこちらのギルドで受付して貰ったのだがね。

 同所を訪れたのは、街全体が紛争騒動に沸き立つ非常に騒々しい只中であった。他に冒険者の姿も多く、仕方がないと言えば仕方がない。もしくは隣に立つエステルちゃんが、殊更にこちらの存在を印象薄くしているのかも知れない。

「はい。恐らくそれで理解して頂けると思います」

「お伝えするのはそれだけで?」

「可能であれば、トリクリスの城までご連絡をお願いします、と」

「領主様のお城へ?」

「はい」

「……へぇ、わかりました」

 納得のいかない様子で、けれど、エステルちゃんの手前、素直に頷いて見せるタコマッチョ。もしかしたらなかったことにされるかも知れない。とは言え、他に手立てもないから、今は上手く伝わることを祈っておこう。

「では、我々はこれで……」

 呟いて踵を返す。

 すると、これに時を同じくして店を訪れる者の姿があった。

「店長すまねぇ、一昨日に相談したうちのクランのちびっ子連中なんだが……」

「あ……」

 ゴンザレスだ。

 ゴンザレスご来店のお知らせ。

「おい、タナカじゃねぇか。こんな時間にギルドなんかでどうしたよ?」

「これはゴンザレスさん、丁度良いところにいらっしゃいました」

 伊達にクランとやらの頭をしていない。夜遅くまでお仕事ご苦労様である。出入り口の戸を越えて早々、我々に気づいた彼は店員への口上も適当に歩み寄ってきた。その顔に浮かべられたのは相変わらずのワイルドスマイル。今日もマッチョに恰好良いぜ。

 この絶妙な機会、決して逃してなるものか。

「もしかして俺に用件か?」

「はい、実はゴンザレスさんを尋ねて参りました。夜分遅くに大変申し訳ありませんが、少しばかりお時間を頂戴することはできませんか? なにぶん火急の用でありまして」

「アンタが俺に急ぎとは、おいおい、そいつはまたタダゴトじゃねぇなぁ」

「難しいようであれば、明日以降に出直させて貰いますが……」

「いや、構わねぇよ」

「本当ですか? ありがとうございます」

「とは言え、ここはもう店仕舞いだろう。良ければ俺たちの拠点へ場所を移さねぇか? アンタとそっちの貴族様なら、黄昏の団はこれを歓迎する用意があるぜ?」

「そう仰って頂けてとても助かります。ゴンザレスさん」

 よっしゃ、交渉の場をゲットだ。

「よし、んじゃ決まりだな。ちょっとギルドの用を済ませちまうから待っててくれ」

「はい、分かりました」

 ここからが正念場だ。頑張ろう。



◇◆◇



 ゴンザレス率いる黄昏の団の拠点は、トリクリスの街に所在するスラム街と繁華街のちょうど境界の辺りに所在した。煉瓦造りの三階建て。建坪五十平米といったところか。そこそこの規模の一戸建てである。

 道幅三メートル程度の裏通りに面しており、これを北へ抜けると繁華街、南に抜けるとスラム街、そんなアウトロー極まる立地条件だ。ヤツの顔面を鑑みれば、これほどしっくりとくる拠点はない。

「まあ、なにもないところだが適当に寛いでくれ」

 通された先は二階フロアに設けられた応接室だ。

 向かい合わせに並べられたソファーの正面にゴンザレスが腰掛け、足の短いテーブルを挟んで、対するもう一つ自分とエステルちゃんが座る形だ。

 卓上にはガラス製のグラスが置かれて、これに琥珀色の液体が満ちる。恐らくはお酒だろう。ハイランドを髣髴とさせる甘い香りが鼻腔をくすぐる。

「いきなり詰めかける形になってしまいすみません」

「別に構わねぇよ。この時間ならまだ起きてるヤツも多い」

「そう言って頂けると助かります」

「しかし、領主様と夜逃げたぁ、いよいよトリクリスも終わりか?」

「よ、よ、夜逃げなんてっ、そんなっ……」

 ゴンザレスの何気ない軽口に顔を赤くするピュアビッチ。

 満更でもなさそうな表情だ。

 流石にそれは最後の手段として頂きたい。

「ご相談というのは他でもない、先の一件でこちらの彼女が述べたと……」

 夜も遅いし、ここは一つ腹をくくって単刀直入に行こう。

 覚悟を決めて口を開かんとしたところ、不意に応接室のドアが勢いよく開かれた。かと思えば、廊下の側からドタドタ、騒々しい足音が部屋へと雪崩れ込んでくる。

 何事かと視線を向けた先、そこには――――。

「ゴンちゃんおかえりいいい!」「ゴンちゃんまってたー!」「わたしもっ! わたしも寝ないでまってたっ!」「おかえりなさい、ゴンザレスさん」「おい、ゴンザレスっ! あ、明日、俺と剣の練習してくれよっ!」

「こら貴方たち、ゴンザレス様はお客様とお会いしているのよっ!?」「ゴンさま、どうか今晩こそ、私にお情けを頂けませんかっ」「ゴンちゃんっ! ゴンちゃんっ!」「あー、ずるいっ! 私もゴンちゃんと子作りするー!」

 幼女、少女、幼女に次ぐ少女、若干一名、ショタも。

 なんというロリプニ系ハーレム。

 二桁近い子供たちが応接室へと入り込んできた。

「おいこらテメェら、いきなり入ってくるんじゃねえよっ!」

 吠えるゴンちゃん氏。

「これはまた、随分な人気ですね。ゴンザレスさん」

「あ、あぁ……」

 ポリポリと後頭部を指先に掻いてみせる。

 柄にもなく照れた様子だ。

「恥ずかしいところを見せちまったな」

「この子たちは?」

「コイツらはうちのギルドのちびっ子どもで、まあ、なんだ、連れ子だったり、捨て子だったり、いつのまにか増えちまってな。すまねぇが勘弁してやってくれ」

「なるほど」

 相変わらず懐の広い男だぜ。

 だがしかし、このロリ率の高さはなんだ。可愛い子が多いぞ。ケモッ子やらエルフッ子やら、バリエーションも多岐に渡る。ロリの品評会そのものだ。更に全員が全員、ゴンちゃんゴンちゃんとラブコールを飛ばしている。

 特に小さい子などは早々に彼の下へと辿り付いて、胸元に抱きついてみたり、太股にしがみついてみたり、背中をよじ登ってみたり、極上のスキンシップを繰り返している。少し年齢のいった年長組に至っては、肌こそ触れずとも熱っぽい眼差しを延々と。

 あぁ、なんて、なんて羨ましい光景だ。

 俺の人生の目標が、ゴールが、目の前に存在している。

 場所か? 住所が大切なのか? スラム街と繁華街の間がモテるのか?

「アイーダ、悪いがこいつらを部屋へと放り込んでおいてくれ。こちらの貴族様は、多少の失礼には目を瞑って下さるとは信じているが、あまり失礼があってもいけねぇ」

 チラリ、エステルちゃんに視線を送りつつ語るゴンちゃん。

 これは不可抗力だから勘弁してくれと訴えているのだろう。

 もちろん、うちのロリビッチィもこの程度でキレるほど懐は狭くない。

「は、はいっ!」

 アイーダと呼ばれた少女が緊張した面持ちに頷く。他のロリーズと比較して、少し大人びた子だ。十三、四ほどと思われる。茶色の髪をおさげに結った地味ッ子だ。恐らくは彼女が一団の世話役なのだろう。胸もちょっとある。

 彼女が返事をすると同時、ロリッ子たちの視線がエステルちゃんに向かう。騒々しかったゴンちゃんコールもピタリと止んだ。どうやら今の今まで、貴族が同席であることに気づいていなかったよう。どれだけゴンちゃんに夢中なんだよって。

 誰も彼もが青い顔となり、その場に硬直だった。スラムに程近いこのような場所であっても、貴族と平民の隔たりは絶対のよう。業が深いな封建制度。心なしかゴンザレスも頬に強ばりが見て取れる。

 エステルちゃん、ここは器のデカさの見せ所である。

「子供は国の宝よ。元気なのは大変に結構」

 ソファーに腰掛けたまま、大仰にも足を組み直しては語る。

「けれど、あまり夜更かしは感心しないわね。夜はしっかり眠らないと、そこの彼のように立派な人間にはなれないわ。育ち盛りとあれば、尚のこと早く眠るべきね」

 これが彼女なりの教育スタイルなのだろう。

 少しばかり厳しめの表情でロリっ子たちを流し見る。居合わせたのが自分でなかったら、もっと大変なことになっていた、云々、思うところあっての判断だろう。

 それでもゴンザレスのヤツを立ててくれるあたり、他人事ながらどこか嬉しい気持ちになった。出会って間もない頃と比較すると、幾分か性格が穏やかになって思える。

「分かったかしら?」

 応じては、ビクリ、一様に身体の強ばるロリッ子たち。

「そういう訳だから、悪いがちぃっと向こうへ行っててくれや」

 これにゴンザレスが言葉を続けたところで、場は早々に収束を見せた。

 最年長と思しきアイーダちゃんが、他に大勢の年少たちをまとめ上げて、廊下に追いやって行く。最後に自分たちもまたペコリ、震える身体にお辞儀をして、逃げるようドアの向こう側へ消えていった。

 しかし、アレンといい、ゴンザレスといい、やっぱりイケメンは持っているものなのだな。ハーレムというヤツを。思わず男としての自信を失ってしまったよ。HP半分くらい持ってかれた感あるだろ。

「話の腰を折っちまってすまねぇ」

「い、いえ、お気になさらず」

 平静だ、平静。

 クールになろうぜ。

 逆に考えるんだ。今回の急場を凌げば、俺だってハーレム持ちの可能性はゼロじゃない。なんたって貴族様だ。愛人の一人や二人、持っていても当然だと言う。正真正銘、本物のハーレムへ至る道が、今、目の前に開けているのだ。

 そう、如何に困難であっても、自らの足で進んで行こう。

「それで、俺に用ってのはなんだ?」

「少しばかり長くなる話なのですが……」

 とりあえず、男爵云々、一連の面倒をゴンちゃんに伝えることとした。



◇◆◇



「……なるほどな。男爵か奴隷か、二つに一つって訳か」

 一頻りを耳としたところで、ゴンザレスは深々と頷いてみせた。

 卓上に注がれたお酒には誰も手をつけていない。ロリッ子たちの乱入で少しばかり場の雰囲気が緊張してしまった為だろう。実は差し出されて当初から気になって止まない。ほのかに漂う美味しそうな香り。お酒飲みたい。

「はい」

「領主様も随分と無茶なことをなさるようで」

「そ、それはっ、そのっ……そう、すべて、わ、私のせいなの……」

 珍しくもしおらしい振る舞いのロリビッチ。

 ただ、今は彼女を責めている場合じゃない。むしろ、このロリはチャンスをくれたのだ。この身がハーレムへ至る絶好のチャンスを。であれば、俺は彼女の好意を無碍にすることなく、全力でこれに向き合うべきだ。

 今し方に確認されたロリランドこそ、いつか至る自らの未来に他ならない。手を伸ばせば届くところに、目指すべき地点を垣間見たことで、やる気が肉体に満ち溢れてゆくのを感じる。ハーレムを得る為なら、俺はだまだ努力できる。

「ラジウス草原から一ヶ月で金貨五十枚なんて無茶にも程があるだろ」

「確かにそうかも知れません。ですが、私は諦めておりませんので」

「ほぅ? それはまた大した話じゃねぇか。気にならないと言えば嘘になる」

 ようやっと酒に手を伸ばし、これをグイと一息に飲み干すゴンちゃん。

 やった、これで俺もゴクゴクできる。

 これ幸いとグラスに手を伸ばし、同じように一気飲み。これがまた美味である。どうやら蒸留酒のようで、キツめのアルコールが喉をジクジクと焼く感触が心地良い。香りから感じたとおり、ウィスキーっぽい風味だ。

「……意外とイケる口か」

「ええまあ」

「この話が落ち着いたら、一杯やりにいこうじゃねぇか」

「そうですね」

「万が一、アンタが奴隷に堕ちたとしても、黄昏の団が言い値で買うぜ?」

「ちょ、ちょっと、それは駄目よっ、既に売約済みなのだからっ!」

「そうかい? そいつは残念だな。折角のチャンスだったのに」

 今し方に垣間見せたしおらしさは何処へやら。ゴンザレスの軽口を受けて、マジ顔で吠え始めるエステルちゃん。早々のこと表情を厳しくすると同時、訝しげな眼差しを目の前のマッチョに向け始める。

「っていうか、貴方、も、もしかして男色の気が……」

「おいおい、そっちは勘弁してくれな? 俺は純粋にタナカの腕を買ってるんだ。たしかにその手の趣味のヤツもうちのクランにはいるが、俺は真っ当な女好きだ」

「……そう? なら良いのだけれど」

 いるのかよ。そっち系の人。お前のクランに。

 絶対に入らないと今この瞬間、心に決めただろ。

 ホモはねぇよ、ホモだけは。

「一点、確認させて頂きたいことがあるのですが、良いですか?」

「なんだ?」

「すみません、黄昏の団の規模を伺いたいのですが……」

「うちか? うちは四百人くらいのクランだな。他に後ろで動いてくれてる連中も併せれば、もう少しばかり数は増えるが、普通は頭数に数えない」

「なるほど」

 四百人か。

 その組織力は非常に魅力的だ。

「大変に恐縮なのですが、単刀直入に申し上げさせて頂きます」

「おう、わざわざ俺を訪ねてきた理由だな」

「ゴンザレスさん、黄昏の団の皆さんのうち半数を、一時的に借り受けさせていただけませんでしょうか? 身分としては私の領地の騎士団という扱いになります。あまり多くはありませんが、給金も現金で既に用意がございます」

「俺たちが騎士団だって?」

「はい。二百名ほどを一ヶ月間の預かりで金貨百枚、難しいでしょうか?」

「おいおい、そりゃまた随分な話もあったものだな」

 事前説明の下りから、ある程度は予測していたのだろう。

 セリフこそ驚いたふうだが、なんら動じた様子は見られない。

「王立騎士団への打診すら断ったゴンザレスさんです。今更に地方で、それも先の見えない男爵領で、などとは酷くぶしつけなお願いかとは思います。ですが、どうか、ご協力願えませんでしょうか」

 ジッと相手の目を見て語る俺、割と崖っぷち。

 ここで彼の協力が得られなかった場合、奴隷堕ちエンドの確率が跳ね上がる。

「全額を前金でお渡し致します」

「オマエ、本気で言っているのか?」

「流石に私も奴隷に身を落とすのは勘弁ですので」

「ま、そりゃそうだわな」

 金貨一枚は銀貨百枚に両替できる。一人あたり銀貨五十枚の計算だ。こちらの物価で銀貨一枚が日本国での一万円に相当する。つまり月収五十万円。これを安いと考えるか、高いと考えるか、その是非はやはり、携わる仕事次第となるだろう。

「主な仕事は領地の開拓となります」

「まさか本気でゼロから街を起こすつもりでいるのか?」

「果たして街と呼べるものが出来上がるか否かは知れません。とは言え、何某か人を集められるだけの施設を設ける予定です。その開拓のお手伝いをお願いしたいのです。当然、私自身も先頭に立って作業に従事する予定です」

「…………」

 多少ばかりを説明したところで、難しい表情となるゴンザレス。

 伊達に数百人を率いていない。

 そう容易にイエスは貰えないだろう。

「本当に開拓だけか? 俺は隣国との関係を危ぶんでいる」

「はい、本当に開拓だけです。隣国にはこちらの彼女から、彼女の父親を通じて既に話が向かっております。また、件の草原と国境を接するプッシー側の領主とは、私も少なからず面識がありますので、多少の無理は通すことが可能です」

「……そうか」

「お願いできませんでしょうか?」

 どうだろう。

 あぁ、凄くドキドキしてきた。

 頼むゴンちゃん。

「…………」

「或いは百人、いえ、五十人でも良いのですが」

 ちょっと人数を減らしてみるテスト。

 なんなら三十人くらいでも……。

「……分かった」

「ほ、本当ですか?」

「ああ。向こう一ヶ月、俺たち黄昏の団がタナカ男爵に付き合うぜ。元はと言えば誰も彼もアンタに救われた命だ、今度は俺たちがアンタを助ける。おう、とても理に適った話じゃないか。そうだろう?」

「ありがとうございます。とても、とても助かります」

 やっぱり良いヤツだゴンザレス。

 頼りになるマッチョだ。

 大慌てに懐をゴソゴソとやって、金貨の入った袋を取り出す。

「こちらが委託金になります。お受け取り下さい」

 全財産の半分だ。

 残り半分は他に用立てる必要があるので残しておく。

「そいつはまだとっておきな」

「え……」

「俺たちもそれなりに蓄えがある。一ヶ月程度なら問題ねぇよ」

「いや、で、ですが、流石にそれは……」

「流石に全額前金ってのは人が良すぎるぜ? もしも俺が金だけ貰ってトンズラこいたらどうするつもりだよ。アンタは一歩を踏み出す間もなく奴隷に転落だろうが。人が良すぎるのも考えものだぜ?」

「ゴンザレスさんの後ろであれば、私は目を瞑ってでも歩いて行けますよ」

「かぁぁぁぁぁぁぁああっ」

 素直に伝えたところ、ゴンちゃんの口から奇声が上がった。

 また先程のロリ乱入時に同じく、後頭部を掻いてはポリポリと。

 どうやら照れているらしい。

「ったく、そういう事を素面で言いやがるからオマエはよぉっ!」

 ニィと気持ちの良い笑みが浮かぶ。

 彼は卓上に置かれていた酒のボトルを手に取った。そして、勢い良く注ぎ口を傾けると、空となっていた二人分のグラスを琥珀色の液体に満たした。トクトクトクと小気味良いが響いてはなみなみと。

 良い香りだ。これ美味しい。

「おらっ、仕事に差し当り景気づけだ!」

「……ありがとうございます」

「わ、わたしも呑むわっ!」

 大慌てのエステルちゃん。

 彼女もまた、手付かずだったグラスを持ち上げる。

「タナカの成功を祈って、乾杯!」

「乾杯」

「乾杯っ!」

 三名、互いにグラスを取り合い、これを掲げては一息に飲み干した。



◇◆◇



 ゴンザレスから承諾を頂戴して翌日。

 一晩をお城に過ごしたエステルちゃんは、日が明けて早々、騎士団設立の手続きを行うべく首都カリスに向けてトリクリスを発った。帰りも行きと同様に空の旅を提案したところ、貴方は他に忙しいのでしょう? やんわりと断られてしまった。

 全身でロリプニプニを味わう機会が失われたことを残念に思う自分を再発見だろうか。同時に自らの欲求を押してまで、こちらの都合を立たせてくれる彼女の優しさに少なからず心が揺さぶられた。ここ最近、エステルちゃんが良い女過ぎて困る。

 もう少しビッチしててくれないと困る。

 アレンを裏切ってしまいそうになる。

 正直、エステルちゃんでプニプニしたい。

 一方でゴンザレスはと言えば、今回の話をクランに共有するのだとか、遠征の準備を行うのだとか、諸々の猶予として二、三日ばかり欲しいとの話だった。むしろ二、三日で支度が行えるものなのかと、こちらとしては驚きだろうか。

 ということで、準備が出来たらラジウス平原まで人を寄越してくれと、彼には必要物品のメモを渡すと共に、お願いをしておいた。

 そして、当初の目的を無事に達した自身はと言えば、一足先に現地入りである。片道一時間ばかり、飛行魔法に勢い良く飛んで平原地帯に向かった。

「到着……」

 空より舞い降りて、昨晩にも訪れた丘へ自らの足に立つ。

 王様から与えられた領地だという界隈を見渡す。

 日の上がった頃合に眺めると、大地の輝きは幾分か形を潜めて思える。事前の理解が伴わねば気付けなかったろう。とは言え、発光自体は変わらずであるから、日が暮れれば昨晩と同様の光景を確認することができるだろう。

 良かった良かった。

 であれば、以後は行うべくも決まっている。

「……まずは整地しないと駄目だよな」

 兎にも角にも血まみれ肉まみれの一帯だ。これらを火葬すべく、ファイアボールを数十ばかり呼び出す。ブォン、ブォン、立て続けに低い音が響いたかと思えば、草原の一端に魔法陣が並んだ。法線を地平線の向こう側に向けて、綺麗に整列である。

 やや遅れて、その正面に灯ったのは火の玉だ。

 一つ一つが十数メートルという巨大なもの。

「よし」

 ファイアボールごろごろ作戦である。

「ゆっくり、ゆっくりな……」

 一列に並べた火球を一様に転がして、先の大戦で生まれた血肉や、これを被りドロドロになった草木の類いをまとめて焼き散らしてゆく。いずれも熱に弱くあるから、全ては容易に焼けて灰へと還ってゆく。

 眼下に眺める先、ファイアボールが転がった後に覗くのは地面の色。

 この際に少しばかり間隔を設けて、出来る限り地面を焦がさないよう意識することを忘れない。いつだか縦ロールとキモロン毛を焼いたときの教訓が、今この瞬間、遺憾なく生きている。素晴らしい。

 やがて、端まで到達したのなら、旋回。

 雑巾がけの要領で領地の隅から隅までを除草してゆく。

「気持ちいいなこれ」

 ちょっとハマった。

 気分が乗ったことも手伝い、作業は小一時間ばかりで早々に終えられた。

 除草兼清掃が終えられたことで、長方形に刈られた一帯が地肌を顕わとする。界隈は平坦な平野であるから、それ以上はとりたてて整地を行う必要もないだろう。住宅街の分譲地を思わせる光景だ。違いは区画を分けるコンクリートの有無くらいなものだ。

 そうした直後のこと、俺は重要な事実に気づいた。

「……おい、地面が光ってないぞ」

 ピカピカがどこかいっちまった。

 何故だ。

「…………」

 ファイアボールの炎に焼かれてしまったのだろうか。

 いやそんな馬鹿な。

 では、何故に。

 あの心地良い発光現象こそ、金貨五十枚に至る一番の可能性だ。

 失われては大変なのだ。

「…………」

 ファイアボールごろごろの前と後ろで失われたモノはなにか。血肉と草の二つである。となると、そのどちらかが要因だろうと判断できる。そして、凡そ前者が光を発するとは考えにくい点を鑑みるに、光っていたのは大地というより草であった可能性。

 丘より降り立ち、領地の境界外に生える草の下へ飛行魔法でヒューン。

 適当に一本を引っこ抜いてしげしげと観察してみる。

「……こいつ、もしかしてニラ紫じゃないか?」

 指先につまみ上げた光る草は紫色の葉を生やした植物。

 他の草々に紛れて、あちらこちらに点在している。

「…………」

 ふと思い起こされたのはエディタ先生の名著「私と貧乏」

 ニラ紫改めペサリ草の特性は魔力の微量蓄積。

 元来ごく微量の魔力を地中から吸い上げて蓄積する性質があるそう。先生はその色素が魔力に由来するものだと仮定を行い、見事に特定したのだとか。以前、学園の試験ではこれに倣い、色素から魔力を抽出することにチャレンジした。

 一方で今回の発光現象はと言えば、同一の性質が逆に作用した結果ではなかろうか。紛争の折、繰り返し放った回復魔法の魔力とやらが、ニラ紫の色素に対して微量ながら蓄積、取り込まれた結果のキラキラなのではないかと考える。

「…………」

 つまり、あの癒やし系キラキラの出所は大地でなく、今に焼いた草。

 ペサリ草だったのではなかろうか。

「なんてこった」

 調子に乗ってぜんぶ焼いちまったよ。

 やっちまった感が迸る。

 なにせ燃えカスはおろか灰すらも残っていない。

 だがしかし冷静に考えてみれば、なんら問題ないと気づく。

「いやまて、あの草ならどこにでも生えてるし」

 焼いた領地以外、なんとなくで当たりを付けた境界の外には、依然として地平の彼方まで草がボーボー。素人のハメ撮りさながら色濃く生えている。

 自国の側を刈ることが憚られるのならば、少しばかりプッシー側に生えているのを頂けば良い。縦ロールが相手なら交渉の余地は十分にあるだろう。

 むしろ、回復魔法を大量に浴びせることで、ニラ紫が気持ち良い光を発すると知れたのは行幸である。気持ち良いのは良いことだ。きっと身体にも良いだろう。回復魔法も魔法だし、魔力だし、魔力を籠めるというのは、回復魔法でも良かったんだ。きっと。

「……おう」

 流石に不安が残るな。

 ちょっと実験するか。実験。

「どれどれ……」

 摘まんだ一房へ根性入れて回復魔法を撃つべし。撃つべし。撃つべし。三桁を越えたあたりでニラ紫が薄ぼんやりと光を発し始めた。やはり、今の今まで大地をピカピカさせていたのは、この草で間違いなさそうだ。

 魔力の代わりに回復魔法を籠めるとライフポーション、みたいな感じだろうか。

 しかしながら、そうだとしたら非常に効率が悪い。身体を気持ち良くさせるだけで、三桁も回復魔法を連打だ。取れてしまった足だの腕だのを生やす為には、どれだけニラ紫に尽くさねばならないのか。この吸水性ならぬ吸魔力性は、甚だ実用的でない。

「…………」

 思えば露天でもマナポーションは見掛けたが、ライフポーションは覚えがない。

 もしかしたら、そういった用途での回復アイテムは一般的でないのかも知れない。解毒や麻酔導入に用いられる薬草はあっても、ムシャムシャすることで失われた腕や足を生やす薬草は存在していない、みたいな。

 いつぞや薬草ゴブリンがくれたのも、塗ると傷の治りが早くなる程度だったし。

 食っただけで手足の生えてくる草とか、冷静に考えると恐怖だよな。まだ魔法の方が、なんかこう、具体的な生理活動が伴わない分だけ抵抗感が少ない。そういう神秘的な何かだと言い聞かせることができる。

「……どうなんだろうな」

 勝手な仮定ではあるが、そう考えると納得がゆく。冒険者ギルドで垣間見た回復職の超絶売り手市場も然りだ。怪我を早急に治したければ、回復魔法を使える人間と、際して用いるマナポーションを用意する。そんな世界の在り方だ。

「妥当っぽい気もするわ」

 魔道貴族を連れて来なかった点が悔やまれる。或いはエステルちゃんであっても、正解を知っているのではなかろうか。黄昏の団が到着したら、誰か知らないか尋ねてみるのが良いかも知れない。

「…………」

 ただまあ、なにはともあれ今に優先すべきは集客である。

 月末までの金貨五百枚だ。

「流石に二番煎じとかじゃないよな……これだけ効率悪いんだし」

 少なくとも首都カリスの街を見て廻った限り、触れると気持ちの良い輝きに浸かり、その場に癒やしを得るような施設は見受けられなかった。大丈夫だとは思う。この後に及んで方向性を変更する猶予はない。

「……とりあえず、先に建物を作っておくかね」

 どれだけ悩んだところで、結局のところやるしかないのだ。

 ステータスウィンドウ、お願いします。



名前:タナカ
性別:男
種族:人間
レベル:113
ジョブ:錬金術師
HP:101400/101400
MP:220550300/220550300
STR:8210
VIT:12010
DEX:13999
AGI:10112
INT:16392102
LUC:101



 よし、やはり上昇しているぞレベル。

 先の紛争で頑張った分だけ、経験値が入ったのだろう。以前より五つほど上がっている。二桁時分と比較しては上がり具合が芳しくない。まだ見ぬ経験値テーブルは、程々に対数を描いて思える。

 とは言え、五つも上がったのなら、今のところは十分だろう。

 スキルウィンドウ、いらっしゃい。



パッシブ:
 魔力回復:LvMax
 魔力効率:LvMax

 言語知識:Lv1

アクティブ:
 回復魔法:LvMax
 火炎魔法:Lv45
 浄化魔法:Lv5
 飛行魔法:Lv55

残りスキルポイント:5


 ちゃんと残りスキルポイントきてる。

 もしも振り込まれてなかったらどうしようかと思った。

 これを確認したところで、いざ、自らの行く先を決定する大切なスキル振りを開始する。センター試験の自己採点に祈りを込める受験生の如く、例によって必至に自らの求めるところを訴える。スキルゲットのお時間。

「土建魔法こい、土建魔法っ! 土建魔法たのむっ!」

 念じる。念じまくる。

 そうして数十秒ばかり祈ってみれば、おう、ティンと来た。

 これは間違いないだろ。



パッシブ:
 魔力回復:LvMax
 魔力効率:LvMax

 言語知識:Lv1

アクティブ:
 回復魔法:LvMax
 火炎魔法:Lv45
 浄化魔法:Lv5
 飛行魔法:Lv55
 土木魔法:Lv5

残りスキルポイント:0



 土木魔法か。

 発注したのとは少し違う。恐らくは地面と樹木を対象に、みたいな意図の母なる大地系な代物だろう。そこはかとなく底辺臭の漂うネーミングだが、今まさに欲しいのがその底辺たる効能なのだから致し方なし。これで良しとしようじゃないか。

 っていうか、改めて眺めてみると浄化魔法のレベル五が痛いよな。無駄遣いしてしまった感が半端ない。過去の利用シーンが、幽霊モードのエディタ先生を追っ払うのに用いた一回限り。いやまあ、今更に悔やんだところで仕方ないか。先生に逆レイプされたい。

 兎にも角にも今は土木を極める限りだ。

「ゆくぞ、ストーンウォールっ!」

 それっぽい掛け声と共に、えいやっと腕を振り下ろす。

 すると眺める先、大地に魔法陣が浮かび上がった。

 かと思えば、自分と同じくらいのサイズの石版が、ニュッと生えた。

 モノリスというやつだろう。

「やるじゃん」

 ちゃんと出た。想像した以上に壁っぽい。パット見た感じ、コンクリートの壁にクリソツである。表面を指先でカリカリしてみても、取り立てて崩れる様子は見られない。逆に爪が少し欠けた。

 それならばと足の裏で蹴飛ばしてみる。

 ガンガンと。ヤクザキック。

 かなり根深く立っているようで、こちらも同様、まったく動じない。むしろ蹴りつけた足の方が痛むくらい。火炎魔法など比較してレベルが低いので、少なからず不安だったのだけれど、これなら想定する用途には耐えそうだ。

「……良い感じじゃないか」

 性能を確認したところで、早速、実作業へ移る。

 飛行魔法で空へ浮かび上がり、自らの領土と思しき草原の中央、内数ヘクタールばかりを覆うよう、今し方に同様、モノリスを生み出す。正方形の筒を思わせる壁が、今度は十数メートルの高さで生えた。

 当初は光っている領域全体を覆うつもりだった。ただ、大地のキラキラが失われた現在、この程度でも十分だろうと判断だ。無駄に規模を取ったところで内側に施設を充実させることができなければ、かえって見窄らしいことになってしまうからな。

 そのうち二箇所、ペニー帝国側とプッシー共和国側、それぞれ面する側の壁を一部、同様に土木魔法で引っ込める。数メートルの幅で、今度は壁の一部が引っ込んだ。代わりにその切断された端には、少しばかり太めの円柱形モノリスを再びニョキリ。

 都合、壁の内側と外側を繋ぐ門の完成だ。

 両側に兵でも立たせれば、それっぽく見えるんじゃなかろうか。

「良くね? これ思ったより良くね?」

 ちょっと楽しくなってきた。

 ファイアボールで草を焼いてたときも思ったけど、こういうの好きだわ。

「よし、次は道を作るぞ、道をっ」

 ちゃっちゃと行こう。

 空に身を浮かせたまま、またも投入するのは土木魔法。

 今度は高さ数センチという壁らしからぬ丈でストーンウォール。ただし、厚みを数メートルとして、これを一直線に延々と万里の長城が如く。都合、二つ線対称に設けた門を結ぶ形で生み出せば、これがなかなか道っぽくて良い。

 これをメインストリートとして、同じ要領で樹形状に道を生やして行く。

 RPGツクールで町とか作ってる気分だろ。

 スゲェ楽しい。

「よーしよしよし」

 当人が想像した以上に小綺麗なストーンウォールしてくれるものだから、段々と気分が良くなってきた。自分が思ったとおりのものを自分の手でお手軽に作れると、とても幸せな気分に浸れるよな。

 そして、道が生まれたのなら次は井戸だ。人を呼ぶには水がなくては始まらない。なにせ我が領土には川が流れていない。井戸からこれが調達できねば、余所様の領土から水を引っ張ってこなければならなくなる。

 界隈が草原している時点で、多少は地下に水の流れがあると信じているけれど。

「頼む、出てくれっ……」

 穴だ。

 穴を掘るのだ。

 祈るように呟いて土木魔法。

「ディグアースっ!」

 たぶん、そういう魔法があるだろうと考えて、いざ実行。

 カモン、井戸水。これがなくては始まらない。

 向かって正面、数メートルの地点に魔方陣が浮かび上がる。ストーンウォールとはまた別のデザインだ。祈るような眼差しに見つめること早々、描かれた幾何学図形の中央がボコりと音を立てて陥没した。サイズにして三十センチ四方ほどだろうか。

 まずは穴掘り魔法が成功。

 ただし、こちらの求めるところはその先にある。

「…………」

 黙って見つめることしばらく。

 依然として魔法陣は輝いている。

 だが、地面に穴が空いた以上、他に反応は帰らない。

 MPだけがやんわりと消費され続けて行く。

「……駄目か」

 果たしてどの程度を掘り進めたのか。地上からは確認することは叶わない。結構な深さまでディグった気がするのだけれど、どうだろう。少なくとも日本では、井戸掘りが成功報酬で商売として成り立つほどだ。

 深さも百メートルを数えない程度で大半はプッシャーらしい。

 なんて淫乱なんだ大地。

「もうしばらく待ってみるか」

 ぽっこりと空いた穴を眺めて待機。

 日本と異世界では大地の感度も異なるのだろう。地面より下の作りが我らが地球と異なっている可能性は十分に有り得る。そも魔法などいう奇想天外が存在している時点で、各種物理定数の存在だって怪しいものだ。

「…………」

 考えれば考えるほど、段々と不安になってゆく。

 早く、早く水を出すのだホール。

 母なる大地が生み出すラブジュース。

 人間とは生まれながらのクンニスト。ゴクゴクと。

「っ……」

 来た、穴の奥の方に蠢きが感じられた。

 かと思えば次の瞬間、プシャァと勢い良く大地さん絶頂のお知らせ。

「熱っ!」

 潮が顔に引っかかった。

 熱い。熱湯だ。

 反射的に数メートルばかり、飛行魔法で空中を後退る羽目となる。

 回復魔法も忘れない。

 熱にヒリヒリと痛む肌は早々に治癒だ。

「うぉぉぅ」

 目前では穴から吹き出した熱湯がバシャバシャと。

 数メートルの高さで吹き出して噴水状態。

 やべ、これどうすりゃいいの。

「おいおいおい……」

 勢い良く湧き出したお湯ってどうすればいいの。流石にアクロバティック過ぎるだろ。このままだと、せっかく作った道がグチャグチャになってしまう。なんてこった。ちくしょう。それは嫌だぞ。

 蓋するしかないだろ。

「ストーンウォールっ!」

 吠える。

 今し方に空いたばかりの穴を覆うよう、太めの石壁がニョッキり生えた。壁というよりは大きな建物に使われる柱のような四角柱である。

 応じて、熱湯の噴水はその下に形を潜めた。

「……お、収まったか」

 しばらくを待ってみるも、再びプッシャーする気配は感じられない。

 良かった。

 存続を危ぶまれた穴の周辺であるが、少しばかり大きな水たまりが生まれるに済んだ。この程度であればファイアボールで軽く炙ってやれば、早々に蒸発して元の姿を取り戻してくれることだろう。

 っていうか、井戸ってこんなに激しく湧くのな。

 いや、この場合は温泉だろうか。

「…………」

 温泉。

 全裸。

 混浴。

 スージー。

「……いいな。最高だ」

 レベルアップしてLUKが下がった割には運が良いぞ。

 大地が俺にスージーを導いている。

 これは至るしかあるまい。

 当初の予定ではサウナやマッサージなどを想定していた。一番初めは自身の範囲型回復魔法を用いて、ペサリ草の輝きを目の当たりとして以降は、その癒し効果を用いて。いずれにせよ回復系アミューズメントによる短期決戦である。

 都市部の休止区画をイベントに利用するようなイメージだ。ビルの建て替えの間で数週から数ヶ月のスパン、月極駐車場をやったり、ラーメン博覧会やったり、サバゲーのフィールドをやったり。そういう感じのあるじゃない。

 資源も人口も共にゼロなのだから娯楽施設で人を呼ぶしかない。幸いここの草原は交通の便が良い。トリクリスから馬車で一日。縦ロールの街からは馬車で半日。ついでに数少ない両国の国交ルート。決して不可能ではないと考えていた。

 更にここへ来て湯が沸いたとあれば、これは当初の予定に加えて温泉事業という立派な柱が生まれた。当然、目玉は変わらずニラ紫と回復魔法を組み合わせた癒やし効果である。ここは一つ、貧民のサラダには新手の入浴剤へと化けて貰おうか。

 ついに奥義を使う時が来たのだ。

「お湯が汚れますので、タオルは湯船に浸けないで下さい」

 この言い訳を考えたやつ、天才だよな。

 人々は湯を前として性器を隠す手立てを失った。

「これは頑張るわ。貴族云々の前に、男として頑張るしかないわ」

 銭湯だ。

 銭湯を作るぞ。

「ストーンウォールっ!」

 景気良く吠える。

 これに答えるよう地面から壁がニョッキニョキと。

 都合、湯の沸いた地点を中心として百平米ほどを石壁が覆う。先程に立てた外縁の壁とは少しばかり規模を小さくして、高さ五、六メートルほど。うち一辺は壁を一部だけ潰して出入り口とする。

 建物としての囲いを作った形だ。

「更に続けてストォンウォーオルっ!」

 四方を囲う壁の上辺から、更に石の壁が伸びる。

 九十度、キッチリと角度を付けて上を覆う形だ。早々に陽光が遮られて、数瞬の後にズズン、石と石の擦れる音が響いた。一辺から伸びた石の壁が、吹き抜けだった頭上を完全に塞いだ。一枚板による天井のいっちょ上がりである。

「窓がないと昼でも相当に暗いな……」

 出入り口の他に幾つか、窓を想定して壁に四角い穴を開ける。

 差し込む陽光。

 都合、ちょっとした会議室ほどの屋内空間がお目見えした。

 急場を凌げさえすれば良いと考えて至った手段が、思いのほか出来映えも悪くない。コンクリートっぽいストーンウォールのストーン具合が、なんかこう、デザイナーズマンションの打ちっ放しみたいで心躍る。

「よーしよし、湯船作るぞ湯船っ!」

 色々と高まってきた。

 創作意欲が湧いてきた。

 とってもセクシャルな気持ちだわ。
+注意+
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