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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫

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領地開拓 一


 馬車に揺られることしばし、訪れた先はお城の謁見の間だ。

 一昨日と同様、エステルちゃんの手引きにより入城の末である。かれこれ三度目ともなれば、向かうべき先も曲がるべき角も覚えてくる。やがて辿り付いたところ、入室、同所に設けられたレッドカーペットの上に片膝を突いて頭を下げている。

 隣にはロリビッチだけが並ぶ。

 クリスティーナは待合室的なお部屋で留守番だ。如何に功績を挙げたとは言え、同伴させるにはリスクが高すぎる。今頃はエステルちゃんの命により搬入された大量のケーキを前に、ブツブツと文句でも溢していることだろう。

「おもてをあげよ」

 段上、玉座に腰掛ける王様が言った。

 例によって謁見の間には、城の主人である彼の他に、豪勢な衣服を身に纏った大勢の貴族たちが、部屋の壁に沿って両脇に並んでいる。前回、前々回にも多いと感じたこれら観衆であるが、今回は溢れんばかり。

 隅の方では下っ端と思しき貴族が壁に肩を押しつけながら立ち臨んでいる有様だ。

 何処の馬の骨とも知れない異国人が、自国の貴族に仲間入りしようというのだから、同じレイヤーでご飯を食べている面々であれば気にならない訳がない。それも推薦人が今をときめく美少女子爵とあれば尚のこと。

「これより貴族称号授与を行う」

 式は厳かな口調に始められた。

 応じて場の面々からは、ぉぉおおおお、と低い声があちらこちらから上がった。勝手な推測ではあるが、こうして主人の声を耳とするまで信じられなかったのだろう。俺だって信じられない。本当にくれてしまって良いのかよ。

 そうした他の貴族たちの感嘆を遮るよう、王様は続けた。

「ただし、これを与えるに差し当り、幾つかの条件がある」

 王様が自らの傍らに立つ老体へと視線を投げかけた。

「宰相、詳しいところは発案者であるおぬしが続けよ」

「はっ!」

 応答したのは例によってタイムキーパーの爺さんだ。懐から巻紙を取り出したかと思えば、するするとこれを広げる。そして、王様に代わって我々に向かうと、極めて厳かな調子で語り始めた。

 とても嫌な予感がする。

「その者の貴族位授与に対して、これより幾つかの条件を与える」

 謁見の間に詰めかけた誰も彼もの意識が爺さんに向かう。

 胃が痛い。

 職場近くの定食屋でアニサキスをゲットしたときと似てる。

「そして、以後に述べたる条件が定めたところ、一つでも破られたとき、その者はペニー帝国における貴族としての位を失い、また同時に、この国の民としての資格を失い、奴隷の身分に堕ちるものとする」

「…………」

 マジか。

 冒頭からハードな条文じゃないか。失敗したら速攻で奴隷かよ。

 チラリ、隣を窺えば、エステルちゃんも非常にピリピリきてる。

 膝をカーペットに突いた姿勢のまま、真剣な眼差しを向けてる。

「一つ。その者には領土を与えるとするが、これを治めるに差し当り、帝国に対する上納の遅延を認めない。これは正統な理由に基づいた正式な手順を踏んだ上での遅延であってもその範疇とする」

 なるほど、領地持ちの貴族は国に税を払っているのか。

 そこからして初耳だ。

 大見得を切ったんだから、証拠として経営能力を見せてみろってことだろう。

 切ったのエステルちゃんだけどな。

「二つ。その者の親はフィッツクラレンス子爵とする。他の如何なる貴族であっても、これに介入することは認めない。万が一にも破られた場合、罰は介入した他の家にも及ぶものとする」

 その点は大丈夫だろう。爺さんから指示されるまでもない。

 っていうか、今に挙がったところこそ、エステルちゃんの狙いである。なにより彼女自身が許すまい。それ以外の全てはオマケ程度にしか考えていないと思われる。

「…………」

 今一度、横目にエステルちゃんを窺う。

 難しい表情のまま、それでも彼女は黙ったままだ。

 きっと想定の範囲内というやつだろう。

「三つ。その者が治める領土からの上納は、その者の領土により得られた益から適切に挙げることとし、他の如何なる者の手を借りることも許さない。上納に差し当っては、嘘偽りのない帳簿と共に、陛下の下へ、その者の手により直接に報告を行うこと」

 これは恐らく、あれだ、ほら。エステルちゃんのヒモになるんじゃねぇよ、ってことだろう。ちゃんと汗水垂らして、真っ当に領地を運営しろっていう叱咤に違いない。あと途中で逃げるんじゃねぇぞっていう。

「…………」

「…………」

 意外だ。

 ここまでは割と真っ当なことを言っている気がする。

 相手がタイムキーパーの爺さんだから気を張っていたのだけれど、実はそこまで心配することもなかったのかも知れない。貴族に成れなくても一向に構わないが、リスクなく成れるのであれば、やはり一度は成ってみたい。

 どこでも平民を浚ってセックスしても良いで証が欲しい。

「四つ。その者が貴族の位を失うとき、フィッツクラレンス子爵もまた子爵としての位を失い、治める領地を帝国に返還すること。ただし、これは以後におけるフィッツクラレンス子爵の進退を決定するものではないこととする」

 大丈夫だ。爺さんの言っていることは理解できている。

 こんだけ推したんだから問題を起こしたらオマエも連帯責任だぞ、みたいな意味合いだろうか。ただ、相手は大貴族の娘さんであるから、感覚としては反省文を原稿用紙一枚、今後は我が侭するんじゃないように、みたいな気配を感じる。

 ただ、きっとそれだけじゃない。

 この条件には他に意味がある。

「…………」

 紛争の最中、あれこれと情報を得た今なら確信を持てる。この条項こそ爺さんの本音がポロリだろう。やはりエステルちゃんが貰った領地には何かあるっぽい。むしろ、この条件を呑ませる為に、俺が貴族となることを一時的にでも認めたようなもの。

 つまりこの爺さんは、必ず最後に持ってくる筈だ。

 オチってやつを。

「五つ。その者に与える領土は、ラジウス草原とする。以上」

「なっ……」

 五つ目の条件が述べられるに応じて、すぐ隣、エステルちゃんから呻き声が上がった。非常に短い条文であるからして、突っ込みどころがあるとすれば、それは自身に与えられたと思しき領土に関するあれこれだろう。

 ちなみに初めて耳とする地名だ。

「さ、宰相っ! それはいったいどういうことかしらっ!?」

 王様の前だというに声も大きく吠えるロリビッチィ。

 恐らくは今し方の推測が、具体的な形として提示されたのだろう。

 詳細はまるで知れないけどな。

「条件は陛下に了承を頂戴した上、宰相である私が作成したものだ。授与が既に決定された今、これを覆すことは出来ない。その者はこれより男爵の位を与えられ、同時にこの条文に従い、国に仕える貴族としての義務を負うこととなる」

「そんなっ……」

「陛下、お願い致します」

「うむ……」

 タイムキーパーの爺さんが王様に頭を垂れた。

 垂れられた側は、少なからず躊躇が見て取れる。

 宰相派閥とフィッツクラレンス家って仲が良くないのだろうか。地方の大貴族と中央の大物役人が不仲とか、ファンタジーの鉄板設定だよな。割と好きだよ、そういうの。ただ、自分が巻き込まれる側になると最悪だな。

「へ、陛下っ!」

 必至に訴えるロリビッチ。

 頑張れロリビッチ。

 ファイトだロリビッチ。

 俺とソフィアちゃんの幸せな生活を取り戻す為に。

 過去、これほどまでに彼女を応援したことがあったろうか。本当なら自らの口に訴えたいところだが、この場で自分が口を開いては、殊更に面倒な方向へ話が転がるだろう。今は貴族タイム、平民は耐え時というやつだ。

 或いは可能性の一つとして、それは爺さんが望む最良の一手かも知れない。

「今し方に宰相の述べた条件は馬鹿げておりますっ! ありえませんっ!」

「フィッツクラレンス子爵、陛下の御前でそのようなはしたない言葉は感心せんな。貴殿も子爵の位を持つ貴族なれば、自らが掲げた意志を最後まで貫いて見せたらどうだ? それとも覚悟なくこのような場を、わざわざ陛下に設けて頂いたのか?」

「そ、それでもっ、幾らなんでも酷いわっ! こんなの、ぜ、絶対に無理よっ! 第一、条件を考えたのは宰相である貴方なのでしょうっ!? こんなのまるで子供が駄々をこねているようなものじゃない!」

 言うね、エステルちゃん。

 幾ら大貴族の娘でも、流石にこれはキツい気がするぞ。

「であれば、私も続けよう」

 ジッとエステルちゃんを見つめて爺さんが言う。

「如何に陛下が寛大な決断を下さったとしても、他に数多、貴族を望む声は存在する。これを押し退けてまで、身元の知れぬ異邦人を貴族として取り立てるなど無理の極み。まさかフィッツクラレンス家の者が理解せぬとは言うまい?」

「だからといって、こ、このような条件は呑めないわっ!」

「それを推してまで場を取り為して下さった陛下に感謝こそすれど、お言葉を返すなどなんて不忠義なことだ。その者が貴殿の語ってみた通りの人物であるのならば、今し方の条件も必ずや越えてみせると、陛下は信じておられるのだぞ?」

「っ……」

 そう言われると弱いロリビッチである。

 自分の好きな男を貴族にしてくれと、無理矢理に頼み込んでいるのだから、あぁ、間違いなく彼女が悪い。爺さんの言葉通り、長蛇の列の先頭へ割り込もうとしているようなもの。早急に頭を下げて、ごめんなさい、謝るのが一番に正しいルートだと思う。

 この子のパパさんは娘を放って何をやっているんだろう。

 疑問に思わないでもない。

 確か首都に来ているとかエステルちゃんも言ってた気がする。

「フィッツクラレンス子爵。これは既に決定した事柄だ。フィッツクラレンスの娘である貴殿が、ペニー帝国の貴族位というもの、その重みを理解していない訳ではあるまい? それを承知でこの場で望んだのだと、私は感心しておるのだがな」

「それはっ……」

 一方的に言いくるめられてしまったエステルちゃん。プッシー共和国の縦ドリルに対しては、少なからず光るところを見せた彼女だが、それでも宰相との年齢差を考えれば経験もまた然り。まだピチピチの美少女だからな。

 一方、しばらく二人のやり取りを黙って耳としていた王様は、これ以上の問答は無意味だと判断してだろう。ロリビッチが反論を失ったところで、場を正すように口を開いた。彼の中でも脳内会議が一段落したのだろう。

「……皆のものも静粛にせよっ」

 応じて謁見の前に静けさが戻る。

 それでもエステルちゃんは吠える。食い下がる。

 今度は王様に対して直談判だ。

「へ、陛下っ! どうかっ、どうかお待ち下さいっ!」

「フィッツクラレンス子爵っ、陛下の御前に失礼であるぞっ!」

 しかし、今回ばかりは彼女の頑張りも通じない。

「ぐっ……」

 ほんの僅かばかり、気遣いの視線を向けることはあって、それ以上、王様は彼女に取り合うことをしなかった。尚且つ、早々に爺さんから叱咤を喰らって続くところを失う羽目となる。恐らくは事前に宰相と王様の間で十分なネゴりがあったのだろう。

 王様も大勢の貴族の反感を買ってまでロリビッチの恋を応援する訳にはゆくまい。当然と言えば当然だろう。むしろ、エステルちゃんのパパさんあたりから、陛下はなにをやっているのだと、渋い顔で見られてしまいそうな展開である。

 大局は宰相にあるのだ。

「そこの者、タナカと申したか?」

「はっ!」

「おもてを上げよ」

「はっ!」

 だから、つまり、結局のところ、自分は門外漢なのだ。

 故に今は素直に頷くしかない。

 一連のやり取りを鑑みるに、辞退をすることも不可能だろう。

「ペニー帝国第三十九代国王として、その方へ男爵位を授けるものとする」

「はっ!」

 ここまで来たら、おう、もうどうにでもなれだろう。

 とりあえず、はっ! って言っておくしかないわ。

 はっ!

「非常に厳しい条件ではあるが、私はその方の健闘を期待しておる」

「……ありがたきお言葉にございます」

 そんなこんなで男爵位の授与式は過ぎて行った。

 恐らく、当の本人が一番、状況を理解していないんだぜ。



◇◆◇



 場所を移してクリスティーナが待つ控え室でのこと。

「無茶よっ! あ、あんな条件っ、どうして出てきたのよっ!」

 エステルちゃんが荒ぶっていた。

 嘗てない憤怒を見せていた。

 他に場所を共にするのは俺とクリスティーナの二人だけだから、平素からの彼女に戻って自然体にああだこうだ。どうやらタイムキーパーの爺さんとのやり取りが、相当に気に入らないものであったよう。

「エステルさん、一つ窺いたいのですが、よろしいですか?」

「……ええ」

「ラジウス草原というのは、どういった場所なのでしょうか?」

「そ、それは、その……」

 もの凄く話し辛そうな表情となり視線を泳がせるロリビッチ。

 っていうか、普通に涙目だし。

「とても遠かったりするのでしょうか?」

「そ、そうじゃないわ。むしろ、私の領地から一番に近い場所よっ」

「そうなんですか?」

『おい、いちいち吠えるなニンゲンのメス。耳喧しい。殺すぞ?』

「ただ、そ、その、有り得ないわ。こんなこと……私、今まで聞いたことがないもの。幾ら貴方が余所の国の人であるからって、あまりにも酷いわっ……」

「どうしてでしょうか?」

 近いなら喜びそうなものだろうに。

「だって、ラジウス草原というのは、あ、貴方が最後に戦った場所、なの」

「というと、もしや黄昏の団の方々がテントを張っていた……」

「ええ」

「……なんとまあ」

 場所的にはプッシー共和国との国境となる。今回の紛争で貰ったんだろう。以前に聞いた話だと、エステルちゃんが貰った子爵領こそ、ペニー帝国としてはプッシー共和国最寄りとのことだったし。

『……私の話を聞いているのか?』

 あそこって人とか、住んでいるんだろうか?

「しかしまあ、あれだけ草が生えているのですから、やりようはあるんじゃないですか? 農作物の類いも植えてみたら、こう、存外のこと健やかに育ってくれるかも知れませんよ。それに今なら肥料にも困らない」

 負傷した兵の血肉にまみれて真っ赤になってる筈だ。

 女の子を相手にブラックジョークは趣味じゃないのだがね。

 そういう気分にもなる。

「そうね。確かに土地としては悪くないわ。今ならプッシー共和国も大人しくしているだろうから、国境の向こう側に意識を回す必要もない。或いは時間を掛ければ、可能性は決してゼロでなかったわ。貴方なら、ええ、きっと大成していたわ。ただ……」

「ただ?」

「……狭いの」

「そんなに狭いんですか?」

『おいっ……タナカ、貴様もだぞっ!』

 席を立ったクリスティーナがこちらに向かい腹パン発射態勢。

 その顔の正面にバレーボール大、小さめのファイアボールを生み出してドン。

『っ……』

 髪のちりちりと焦げる嫌な匂い。

「下賜された領地は今回の紛争でペニー帝国が得た領土なの」

「なるほど」

 お、正解だった模様。

「そういうふうに伝えれば聞こえは良いけれど、実際は一昨日、丘の上から見渡した限りよ。その程度の土地を与えられて、尚且つ、貴族に科せられた上納は三ヶ月に一度。領地の広さにより額は上下するけれど、下限は一律で一月当たり金貨五十枚」

 金貨五十枚か。

 魔道貴族のヤツが俺を自宅に誘ったときの報酬がそれくらいだった。お偉い貴族さんからしたら、そう大した額ではないのだろう。弱小下っ端貴族が上納するにしても、ある程度は無難な額であるに違いあるまい。

 ただ、今回は色々と条件が付いているから恐ろしい。

「本当にあの草原だけなんですか? 村とか、街とか……」

「……ないの。狭いの」

「…………」

 エステルちゃんがキレている理由が判明だ。

 どうやら想像していた以上の無理ゲーを頂戴したよう。戦場となった草原は丘と森林に東西を囲まれており、南北に向けてプッシー共和国とペニー帝国が所在している。パッと見た感じ東京ドーム数杯分って感じ。

 果たしてどの程度までプッシーの側に手を伸ばして良いのかは知れない。ただ、今のエステルちゃんの嘆きを耳とした限り、そう大した距離ではなさそうだ。それこそシムシティ並にポンポンと家屋を建てていかなければ、金貨五十枚など夢のまた夢。

『き、貴様らっ……わ、私を舐めているのか? おいっ!』

 王様から貰ったご褒美、未だ大半を残す金貨二百枚を用いれば、即日でも支払いは可能だろう。しかし、これは事前に条件で抑えられてしまった。向こうとしてはエステルちゃんの財布を封じるつもりだったのだろう。

 兎にも角にも、領地を適法に利用した上での利益として、金貨五十枚なのだ。

「貿易港や地方都市を含む領地であれば、まだ考えられるわ。でも、な、なんにもない草原をあれっぽっち貰ったところで、身動きなんて、とてもではないけれど取れないわ。ましてや一ヶ月で金貨五十枚なんて無理よっ!」

 珍しくも嘆きのロリータ金髪系。

「わ、わたし、なんてことを……」

 滅多に見られない弱気な彼女が、ちょっとグッと来た。

 そういうのは処女様の担当だから止めて貰えませんかね。

「エステルさんからお話を聞いて、ようやっと納得できました」

「ごめんなさい……私が先走ったせいで、貴方を、こんなことに巻き込んで……」

 そのままアレンに逃げてくれても良いのだぜ。

『……聞けよ』

 個人的にはそちらのルートをオススメするが。

「構いませんよ。良かれと思ってやって下さったのでしょう?」

「でもっ、し、失敗したら貴方が奴隷にっ!」

「ええ、そうらしいですね」

「そうなるくらいなら、いっそ私と他の国へっ……」

「その時はエステルさんが買って下さるとありがたいのですが」

「……っ」

 エステルちゃんの瞳が見開かれる。

「だ、駄目よっ! そんなの絶対に駄目なのだからっ!」

 返答に一瞬の間があった。

 このロリビッチめ。

 吠えるに応じて口の中に溢れた涎が、こちらの手の甲まで飛んできた。危ないな。非処女じゃなかったら反射的に舐め取っていたところだわ。なんて危険なヤツだ。

 もしも本当に買われてしまったら、どんな目に遭うだろう。

「…………」

 ヤバい。マゾ心が刺激された。

 夢が広がる。今晩の布団内妄想メニューが決定だ。ソフィアちゃんのお洗濯カゴに夢精パンツをご提供できるよう一生懸命イマジンする所存。

「ですが、素直に身を落とすつもりはありません。なにより、この国には私の好きな人がいます。まさか別れる気にはなれません。せいぜい足掻いてみるとしましょう」

「けどっ………」

 正面、それとなくを装い、口元の涎を指先で拭うエステルちゃん。

 彼女から聞いた話だと、次の上納は今月末が締め日だという。また、地方貴族の手間を考慮して、締め月の翌月末支払いで成り立っているらしい。であれば、まだ丸々一月、時間に猶予はある。何かしら出来ることは在る筈だ。

「なんとかしてみますよ」

「そんな、も、元はと言えば私のせいなのにっ……」

『……き、聞けよ。殺すぞ? ……殺してしまうのだぞ?』

 とは言え、頂戴した領土は人口ゼロどころか死屍累々の十数ヘクタール。

 こういうパターン、前にもあった気がする。



◇◆◇



 エステルちゃんが落ち着きを取り戻したところで、我々は控え室を後とした。現在、城内における自身の立ち位置は動物園のパンダのようなもの。長居は騒動の元となるだろう。ちょっかいを出してくる相手がロリビッチより格下とは限らない。

「こっちよ。そして、次の角を右に曲がるわ」

「なるほど」

 早歩きで廊下を歩む。

 エステルちゃんの案内に従って右へ左へ、城内を。

 角を曲がり、階段を下り、また角を曲がり、あれやこれや。

「クリスティーナさん」

 多少ばかりが過ぎたところで、俺はクリスティーナに声を掛けた。部屋を出てから以後、いつの間にか文句の声も失われていた彼女だ。それでもおいてけぼりは嫌なのか、大人しく我々に着いて来ていた。

『な、なんだっ!? あぁっ!? なんだよっ!』

 すると、これまで延々と無視してきた為だろう。ロリドラゴンは反射的にビクリ、肩を震わせるて素っ頓狂な声を上げた。露骨なまでにキョドっている。緊張と屈辱と怒りで面白おかしいことになっている。この子のこういうところ本当に好き。

「貴方と約束を取り交わしたいのですよ」

『っ、約束だぁっ?』

「今後、他人に危害を加えないようにして下さい。それと同時に、他人からのお願いには交渉の姿勢を見せるようにしてください。人の世において貴方に比肩する存在など有り得ないのですから。他者に対しては余裕のある対応をお願いします」

 ペペ山の巣に帰らない以上、意識改革して貰わねばならない。

「これが交わされないのであれば、私は貴方を存在しないものとして扱います」

『な、なんだとっ!?』

 実年齢を鑑みれば、彼女は俺より余程のこと賢いことだろう。

 しかし、この雌ドラゴンはやたらと承認欲求が強い。

 割とこういった阿呆な問答こそ、効果的なのではないかと思う。

「その上、更に力尽くで、ということになれば、私は貴方に対して、全力で挑まなければならなくなります。こちらとしては一番に避けたいところですね。しかし、人間もまたドラゴンと同じように、決して譲れないところがあるのですよ」

『……い、いいだろう。むしろ願ってもないことだっ! やるか? あぁ!?』

「そうですか。では、その時は覚悟して下さい。絶対に遠慮とかしないので」

『っ……』

「互いに全力で勝負になりますね。鱗の一枚も残すつもりはありません」

『はっ、何が鱗の一枚だっ! その程度でこの私が戦くとでもっ……」

「以上です」

『……そ、その程度で、私がっ……』

 ちゃんとビビってるクリスティーナ可愛い。

 対等かそれ以上の存在を相手とした時に彼女が見せる、肝っ玉の極めて小さいところは、喧嘩を売られる側として非常にありがたい。件の超回復がなければ即死の昨今、これに伴うMPの運用実情がバレたら割と簡単に攻略されてしまうだろう。

 互いに互いの一発が脅威という関係が今の歪な状況を生んでいる。

 地力の上では彼女が圧倒的だ。INT一点豪華主義のこちらと比較すれば、総じて超越したステータス値のクリスティーナである。相手を侮ることなく泥臭い対応を是とすれば、果たしてどのような結果が見えてくるか。

 だからこそ今は虚勢を張ってでも、不必要な懸念を減らしたい。

 こうした些末な努力は後々、魔道貴族の為にも繋がるだろうし。

「……なにか?」

『な、なんでもないわっ! このタナカがっ!』

「そうですか」

 このタナカがって、なんだよ。まあ良いけど。

「理解して貰えたようで、こちらとしても非常に助かります」

 きっとこれで当分は大丈夫だろう。

 しかし、まあ、なんだ。どうにも腹立たしいことだ。

 ビビりながらも必至に強がるロリドラゴンが最高にラブリーである。

 いやだ、いやだ、首を横に振る最強ロリドラゴンを押し倒して、身体拘束の上、無理矢理にオチンチン挿入したら、どれだけ幸せな気持ちになるだろう。きっと、心身共に満たされて当面を心穏やかに過ごせるい違いない。

 涙目になってグスグスしてるロリータとの強姦セックス極めて愛らしい。

 無修正の顔出し動画をネットにアップしたくなる。

「…………」

『あ、あぁ!? なにを見てるんだっ』

「いいえ、なんでも」

 だがしかし、コイツは既に魔道貴族のアイドルだ。

 惜しいことをした。

 いつか、いつか、ヤツが飽きたらハードプレイ用に貸して貰おう。

「あまりこういうことは言いたくないのだけれど、城内で物騒な話はしない方が良いわ。妙なところに耳や目があったりするの。城内は特に宰相の力が強いから、下らない冗談でも弱みになってしまうこともあるし」

「そうですね、すみませんでした。次は外に出てから話すようにします」

「あ、謝るほどのことでもないわっ! こちらこそ一方的にごめんなさいっ」

「いえ、ご忠告ありがとうございます。とても嬉しいです。今はエステルさんが私の上役に当たる訳ですから、こうした機会は大切にしてゆきたいと考えています。こちらは貴族の貴の字も碌に知らない門外漢ですし」

「っ……」

 顔を真っ赤にするエステルちゃん。

 非処女の癖にピュアピュアしてんじゃねぇよ。

 とは言え、彼女の言い分は尤もだ。

 途中では城勤めの貴族と思しき手合いと擦れ違うこと度々。既に新米男爵誕生の一件は既に城内を巡っているようで、露骨なまでに好奇の視線を向けられた。些末な言動にも不要な誤解を生みかねない状況である。

 ただ、今のところ声を掛けてくる手合いはゼロ。傍らに立つエステルちゃんがお守り効果を発動させているのだろう。フィッツクラレンス家の娘という肩書きは、城内に在っても伊達ではないよう。とばっちりで粛正とか誰だって嫌だろう。

 しかしながら、だからといって安心はできない。

 指摘に挙がった自身の言動の他、平行してクリスティーナの無作為な腹パン攻撃にも気を遣わないといけない。その矛先は自分やロリビッチを当然として、周囲にも及ぶ。万が一にも命中したら、全てを待たずして牢屋行きである。これが一番に怖い。

 今し方の頼み込みも、いつまで効果があるものやら。

 そうした諸々の理由も手伝い、城内を歩む時間が酷く長く感じられた。ストレスフル。やがて、幾らばかりを進んだところ、辿り付いたのは城の出入り口となる界隈だ。ようやっと外へ出られる。開放感を感じたところで、不意に見知った手合いを発見した。

 相手は我々と逆、場外から場外へ向かい歩んでくる最中であった。

「おや、ノイマンさん」

「むっ、タナカではないか。このような場所でなにをして……」

 戦地における我が上司、ノイマンさんである。

 首都に妻と子供と持ち家の三拍子を揃えた元エリート役人である。どうやらトリクリスを発った馬車が首都まで到着したよう。

 彼がここに居るということは、恐らくアレンも既に着いているだろう。可能であればヤツにも一度、ちゃんとお礼を言っておきたいところである。

「我々ばかり先行する形となってしまい、申し訳ありません。また、先日はお世話になりました。できればちゃんとした形でお礼をしたいのですが」

「い、いやっ、それよりお前、そちらの方はっ……」

 エステルちゃんを目の当たりとして、途端、ぶわっと額に汗を浮かせるノイマン氏。伊達に多額のローンを抱えていない。勝手な推測だが、役人の人事など貴族の機嫌一つでどうとでもなってしまうのだろう。

「トリクリスを発つときに一緒だった役人かしら?」

 エステルちゃんがこちらを振り返り尋ねてくる。

 帰路においては共に馬車へ乗り込みこそしたが、紹介はしていなかったのだ。馬車自体が三両編成であり、別の車に乗ってしまったノイマン氏とは碌に顔を合せる暇もなく、更にクリスティーナが愚図って以後は早々に空の人だ。

「はい、私の上司にあたる方です」

「ふぅん?」

 エステルちゃんの品定めをするような眼差しが、ノイマン氏に向けられる。

 応じて彼の額では、汗の滴が密度を増してブツブツと。

「フィ、フィッツクラレンス子爵におかれましてはご機嫌麗しゅうっ……」

 まさか登城から早々、勤め先の領主に遭遇するとは思っていなかったよう。更に当人の隣には、過去、仕事の都合とはいえ使いっ走りにしてしまった俺の姿だ。心中穏やかではないだろう。見る見るうちに顔色が悪くなってゆく。

「貴方、名前はなんというのかしら?」

「はっ! ノイマンと申します。先月よりトリクリス城において、役人としてお仕えさせて頂いております。この度は私のような下々にお声がけを下さり、まことにありがとうございます。光栄の極みにございます」

 過去最高に遜って思えるノイマン氏。

 これが平民と貴族の正しい関係なのだろう。

「こちらの彼の上司というのは本当かしら?」

「はい。厳密には先の紛争において、冒険者として召集された彼の管理を行っておりました。その者はこれでなかなか有能であり、前線でも活躍すること度々であったと、現場より報告を受けております」

「それは当然のことね」

 ノイマン氏の言葉を受けて、ニンマリ、嬉しそうな顔をするロリビッチ。

「大変に恐縮ではありますが、フィッツクラレンス子爵、そちらのタナカとは、ど、どのようなご関係に在らせられるのでしょうか? トリクリス領においては、紛争で成果を上げた平民が貴族に、といった噂も囁かれておりましたが……」

 どうやら首都カリスに到着して以後、今日が久方ぶりの登城であったよう。でなければ、既に騒動の一端程度は耳としている筈だ。こちらの事情など知る術のない彼は、ロリビッチと並び立つ醤油顔に疑問の視線を投げかけてくれる。

 これで俺が貴族っぽい恰好でもしていれば、多少は違ったかも知れない。けれど、今の姿恰好は普段と変わらず、旅人の服リスペクトな町人装備である。まさか貴族の肩書きが乗っかっているとは思うまい。

「先程、殿下より正式な辞令を頂戴したわ。本日よりこちらはタナカ男爵よ」

「っ……」

 ノイマンさんの瞳が驚愕に見開かれた。

 トリクリス城内で囁かれていた噂話は俺の耳にも届いている。新しい領主が不細工な平民に惚れ込んでいるとか、自身の近くへ置く為に貴族の肩書きを与えようとしているだとか、事実そのものである極めて正確なあれこれだ。ここまで正確な噂話も珍しい。

 故に所詮はロリビッチの乱心だと、彼もまた他大勢の貴族や城勤めと同様に勘定していたのだろう。まさか本当に貴族の身分をゲットするとは思わなかったに違いない。俺も思わなかった。今この瞬間が誰も完全に想定外。

「ほ、本当に……」

「ノイマンと言ったかしら? 男爵の前で失礼は許さないわよ」

「っ……も、申し訳ありませんっ!」

 大慌てで居住まいを正して、深々と頭を下げてみせるノイマン氏。

 僅か数日で立場が完全に逆転してしまったぞ。

 同じようなのを映画で見たことがある。ほら、あれだ。軍の教育課程を終えた士官候補生に対して、それまで辛く当たっていた教育担当の軍曹とかが、急に尊敬語になって敬礼し始めるタイプのやつ。

 ちょっと気持ち良いと同時に、どこか心苦しい感じ、あるわ。

 頭とか下げられ慣れてないからな。

「止めて下さい、ノイマンさん。彼女の言葉は話半分ですので」

「いえ、そうはなりません。タナカ男爵」

「…………」

 最高に謙り。

 二メートル近い彼が頭を下げると、なんかこう、逆に威圧感。

 そんなに嫁と子供と家が大切か? ああ、当然だよな。そんなの決まってる。大切に決まってる。男児がそれ以上、大切にするものなんて他にないよな。嫁と子供が共にある幸せな生活の為には、自分のプライドなんてちっぽけなものさ。たぶん。

 しかし、そうなるとこちらはどうしたものか。ノイマン氏に対する態度を決めかねる。今後、彼と関わり合いになることはないだろう。だからこそ、せめてお別れくらいは気持ち良く済ませたいものである。

「この役人とは仲が良いのかしら?」

「ええまあ、仕事上がりに酒を交わす程度には付き合いがありました」

「では、実務の方はどうかしら?」

「トリクリスへ左遷される以前は、中央の出世頭であったと伺っております」

「なるほど、そうだったのね」

 今度はどうしたロリビッチ。

 ここ最近、騒動の場が自身のホームに移った為か勢いが良いぞ。

 もう少しテンポを落としてくれると助かるのだけれども。

「ノイマン、本日より貴方の身柄は、フィッツクラレンス子爵領からタナカ男爵領への出向とします。期間は向こう一年として、以後、彼の傍らでその執政を誠心誠意、支えることをここに誓いなさい」

「なっ! そ、それはどういうことでしょうかっ!?」

「言葉通りの意味よ」

 淡々と言ってのけるエステルちゃん。

 たしかに領地を治めるのならば、他に人手は必要だろう。如何に手狭い土地とは言え、イベントを打つならば、俺一人でどうこうすることは不可能である。尚且つ、新米男爵には人を集める伝手など皆無であるからして、この申し出は大変にありがたい。

 早速、貴族として面倒を見て貰ってる感が半端ない。

「満足に期間を勤め終えたのなら、後で中央に口を利いてあげても良いわ」

「っ……」

 ノイマン氏の顔色が変わる。

 再び瞳が大きく見開かれた。

「役人を一人中央へねじ込むくらい、お父様に頼らずとも容易よ。どうかしら?」

「……い、一年というのは本当に、その期間でよろしいのでしょうか?」

「ええ、それで良いわ」

 数瞬ばかり、考える素振りを見せたノイマン氏。

 ただ、与えられた条件は彼にとって破格であったよう。

 この国において、中央という言葉は酷く魅力的なものらしい。

 日本のキャリアみたいなもんだろう。

「であれば、このノイマン、謹んでその拝命させて頂きます」

「よろしい。しっかりと頼んだわよ」

「はっ!」

 再三に渡り、深々と頭を下げるノイマン氏だった。

 領民一号ゲットだぜ。

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