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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫

本文

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冒険者ギルド 一

「着いた」

 街の人に声を掛けること十数度目、なんとか俺の話を聞いてくれる人を見つけて後、冒険者ギルドへと到着。ありがたい限りである。

 名前はちゃんと聞いておいた。ミカエルさんという人だ。もしものたれ死にせずに済んだら、ちゃんとお礼に行こうと思う。

「クエストだ。クエスト」

 西部劇のバーみたいな、緩い両開きのドアを越えてギルドの中へ。

 店内には強面の人が沢山。

 ジロリ見られた。マジ怖い。

 どうして見知らぬ相手にメンチ切ってくれるの。

 ガクブルしながらカウンターへ向かう。

 そこに立ってるのは、俺と同い年くらいのオッサン。

「すみません。冒険者でクエストしてお金とか欲しいんですけど」

 スキンヘッドでマッチョな彼へ素直に伝える。

「あぁ? まさか冒険者志願か? その歳でか?」

「はぁ、すみません。この歳でです」

「…………」

 タコマッチョは難しい顔になる。

「まあいい、こっちの紙に名前やらなにやら書け」

「はい」

 右手をカウンターの上へ取り出して、ふと気付く。

 そう言えば右手には未だに糞が着いているぞ。メルセデスちゃんの糞が。

 見つかったらキチガイ認定されそう。

 危険なので右手はズボンのポケットに突っ込んでおく。

 腹の調子が悪かったのか、凄い臭いがする。ズボン越しでも臭う。

「おい、どうした?」

「…………」

「……っていうか、お前、なんか臭くないか?」

 睨まれた。

 ヤバい。

 でもそれ以上のピンチを発見。

 どうしよう、文字が読めない。

 ついでに書けない。

「すみません。読み書きができません」

「あぁ? じゃあ代わりに言え。代筆してやる」

「あ、どうも」

 意外と簡単にピンチを回避。

 素直に頷いて、個人情報を口頭に伝える。

 臭い云々は有耶無耶に。

「名前は?」

「田中義男です」

「拠点は?」

「ここです」

「年齢は?」

「三十六です」

「クラスは?」

「クラス? 三年A組です」

「……あぁ? 聞かないクラスだな?」

「はぁ……」

 クラスってなんだよ。

「まあいい。あと、何か特技とかあるか?」

 やり取りは酷く適当だ。強面のマッチョ野郎相手に長らく向き合っていたくない。相手も俺みたいなキモい中年の相手は嫌なんだろう。俺が同じ状況だったら、きっと凄く嫌だし、さっさと終わらせよう。

「あー、パソコン? くらいですけど」

「パソコン?」

「はい」

「……まあいいや、パソコンな。パソコン」

 多少の受け答えでカウンターの上に置かれた紙面の空欄が埋まった。

 どうやら受付は完了のよう。

「よし、んじゃこれがギルド証だ」

「どうも」

 何か渡された。

 金属に作られたプレート。トレーディングカードくらいの大きさ。

「なくすなよ」

「はい」

「後は適当に森の方でゴブリンでも狩ってこい。それがムリだってんなら、薬草の類いでも摘んでこい。どっちも適当な値段でギルドが買い取ってる。それがランクFのお前にできる仕事だ」

「分かりました」

「んじゃな」

 受付も適当にこちらから視線を外すマッチョ。

 どうやら終わりらしい。

 なら、これ以上はここに居ても意味ない。

 問題のゴブリンと薬草を見に行こう。



◇◆◇



 街を出た。出るときはすんなり出られた。

 入るときはギルドで貰ったカードを出せば大丈夫とのこと。一度でも街に入ってしまえば、身分は保障されたと考えるようだ。ザルだよザル。街としての規模が大きいから仕方ないのかも知れないけど。

 それからしばらくを歩いた。

 遠くに見える木々の茂みを目指して。

 ならばやがて辿り着く。

「……森だ」

 森に着いた。森だよ森。

 右手にはウンコが着いたままだ。

 着の身着のままだ。

「薬草探すか」

 いやまて、このままだと採取した薬草にウンコが付着する。

 良くないな。

 買取り価格、グッと下がる可能性がある。

「川とか流れてると良いな」

 右手を洗うのが先だ。

 あと喉が乾いた。

「ついでに服も洗いたいよリバー」

 洗いたい。凄く洗いたい。

 DQNに暴行を受けた影響で血液が付いてるから。

 森の中へと入ってゆく。

 サクサクと腐葉土を踏みしめながら歩む。

 ただ、川はない。

 なかなか見つからない。

 小一時間ばかり歩いたところで、めでたく迷子の一丁上がり。

「……気をつけていた筈なんだけど」

 デスクワーカーには厳しかった。よくよく考えてみれば、アスファルトに舗装されない屋外を歩くなんて何年ぶりだろう。屋外で一時間以上を過ごした経験なんて、ここ十数年ないように思う。

「必然か……」

 どうしよう。

 街がどっちにあるのかも分からない。

 回復魔法で足の疲れは癒えたけれど、喉の渇きは収まらなかった。きっと空腹も癒えないだろう。餓死ほど苦しい死に方はないと誰かが言っていた。このままだと危険だ。

 ゴブリンと薬草より飲み水と食べ物、何より街へ向かう為の羅針盤。

「ぉおおおおおおおおおお!」

 心細くなって、吠えながら前進。

 すると、向かう先にゴブリンっぽいの発見。

「でたっ」

「……ニ、ニンゲン……」

 相手もこちらに気付いた様子。

 ただ、問答無用で襲ってきたりはしなかった。

 理由は恐らく怪我だ。

 このゴブリン、足を負傷している。太股に大きな裂傷がある。

「おうふ、これまた痛そうな怪我してるわ」

「ク……ココマデカ……」

 手にした剣を構えるも、膝がガクガクと震えているゴブリン。激しい出血から足下は血の池。数分も放っておけば、ショック死は免れない。今なら俺でも、そこいらに転がっている木の棒でド突けば倒せそう。

 だが、それは流石に心が痛むじゃんね。

「そこなゴブリン。取引をしよう」

「……トリヒキ?」

「その怪我を治してやるから、俺を川のある場所まで案内しておくれ」

「ナン……ダト……」

「駄目かね?」

「…………」

 少しばかり考えを巡らせる負傷ゴブリン。

 ただ、怪我の具合から、後先長くないことを悟ったのだろう。目も上手く見えないのか、しきりに瞬きをしている。本格的に死が近い。仮に今意識を失ったら、二度と戻らないように思われる。

「イイダロウ……」

 早々に頷いて応じる。

 素晴らしい選択だ、ゴブリン。

「おうし、あとで裏切るとかなしだかんな」

 どこぞの聖騎士で一発痛い目を見ている自分だ。

 まあ、大丈夫だろう。

 駄目だったら駄目だっただ。

 その場合は野垂死にだし、結果は大して変わらない。

「いくぞー」

 傷よ塞がれー、と念じると、見る見るうちに塞がる裂傷。

 回復魔法でゴブリンを癒やしてやる。

 具体的にどういう名前の魔法だか知らないけれど、こりゃ大したもんだ。

「……ケガガ……ナオッテイク」

「こんなもんだろう」

 完全に傷口が塞がったところで念じるのを止める。

「コレガ……カイフクマホウ……ナノカ」

「そういう訳で、川まで案内してください」

「……ワカッタ」

 旅は道連れ世は情け。

 そんなこんなでゴブリンに案内して貰い、一路、川まで移動だ。



◇◆◇



 無事に川へ到着。

 都合、数時間ばかりの仲であった右手の糞を流水に洗い流す。

「あー、やっとこの匂いともおさらばだわ」

 ついでにズボンやらシャツやらを洗って、身体を綺麗にすることとした。付着した血液を落として、水気を払えば、だいぶ着れるようになった。

 湿ったままというのは着心地が悪いけれど、こればかりは仕方ない。

「ありがとうなー、ゴブリン。おかげで助かったわ」

 川の水をゴクゴクとやりながら礼をする。

「……カリヲ、カエシタダケダ」

「ところで、この川沿いに下れば人里に付いたりする?」

「オソラク、ツク。ヒトノマチ……アル」

「そうか。じゃあ無事に帰れそうだ」

 身体を綺麗にできた上に、生存の目処まで立った。至れり尽くせりってやつだろう。なんだか生きる気力が沸いてきたよ。

「……ニンゲン、ナニシニキタ?」

「え? 俺?」

「ソウダ」

 河原に膝を突いた姿勢で、川の水を手に掬って飲む俺ブサメン。

 その傍らに立ち、あれこれと語り掛けてくる相手ゴブリン。

「薬草を採りに来たんだけど、迷子になってた」

「ヤクソウ? ソレハナンダ?」

「多分だけど、磨り潰したりして傷口に塗ると、痛いのが和らぐ感じの草だ」

「……ナルホド」

 ついでだ。聞いてみよう。

「この辺にそういうのって生えてないですかね?」

「……ハエテル」

「え、ほんとうに?」

「チョットマッテロ」

「あ、ちょっと、どこ行くのっ」

 短く呟いて、何処へとも歩いて行くゴブリン。

 言われた通り、ちょっと待つことにする。

 しかし気温が高くて良かった。現在、近隣は初夏の日本を思わせる気候。おかげで濡れたシャツとズボンでも、大して寒さを感じることはない。むしろ今まで延々と歩き回って、身体は温まっている。ひんやりとした感じが心地良い。

 あー。

 あー、あー。

 手持ち無沙汰に待つことしばし。

 数分ばかりの後にゴブリンが帰ってきた。

「……コレダ」

 その手には幾らばかりか、草が握られていた。

「それが薬草?」

「オソラク。ツブシテ、ヌルト、キズノナオリ、ハヤクナル」

「なるほど。意外と特徴的なデザインじゃないの」

 四つ葉のクローバーの葉っぱの部分を倍にしたような感じ。

 八つ葉のクローバー的な。

「……コレ、ヤル」

「え? くれるの? 俺に?」

「ソウダ」

「マジですか。ありがとうっ!」

「……タスケテクレタ、レイダ」

「いやいやいや、アンタってば良いゴブリンだな」

「ゴブリンハ、ゴブリンダ。ヨイモ、ワルイモ、ナイ」

「そうか。まあ、良くも悪くもアンタはアンタだな。ありがとう」

 ゴブリンに真理を与えられた。

 勉強になるわ。

「キニスルナ」

 更に薬草の束を手渡される。

 素直に受け取って、ズボンのポケットへと収めた。幸いにしてカーゴパンツを履いている。おかげで股の部分に大きめのポケット。そこへ葉を傷めないよう、丁寧に収める。

「いやいや、ほんとうに助かった」

「デハ、オレ、モウカエル」

「あ、あぁ、ありがとうね。バイバイ」

「……バイバイ」

 俺が腕を振ると、ゴブリンも腕を振ってくれた。

 なんだよ、ゴブリン。良いヤツじゃん。これがゴブリン全体としての性質か、それともこの個体特有の性格か、いずれとも知れない。けれど、目の前の彼が友好的である事実は間違いの無いところ。

 良かったよ。ゴブリン討伐的な依頼を受けないで。

 今後は薬草一本に絞っていくとしよう。

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