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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫
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学技会 二


 エディタ先生と共に自宅となる寮まで戻った。

 これを迎えてくれたのは、嘗てない勢いで表情を強ばらせるエステルちゃんと、その傍らで青い顔となったソフィアちゃんだった。共に肩が震えている。勝手な想像だが、その原因は前者と後者で、まったく正反対な感情の表れだろう。

「あの、そ、そちらのエルフは、いつぞやの方では……ないかしら?」

 一同、リビングに腰を落ち着けたところで、エステルちゃんが口を開いた。

 そう言えば僅かばかり面識のある二人だ。

 いつだかエディタ先生が若返りの秘薬の材料を伝えに訪れた際のことである。

「ええ、こちらエディタさんです。私の錬金術の先生になります」

「……おい」

 先生という単語を口とした途端、当人から文句が飛んだ。

 とは言え、先生は先生なのだから仕方がないではないか。

 先生属性のロリータとか素敵じゃん。指導的逆レイプ希望。

「呼称がどうあれ、その著作から多くを学んだのは事実ですから」

「ふんっ」

 俺の隣に腰掛けて、けれど、プイと顔を背けてくれる。

 そんな彼女の態度に触発されたのか、対面のロリビッチが勢い付いた。

「初めまして。私、エリザベス・フィッツクラレンスと申しますわ」

 エステルちゃんがプライベートでフルネームを名乗るところ初めて見た気がする。

 しかも偽名でなく本名だ。

 全力で来て感が半端ない。

 特に苗字を口とする際にイントネーションが入った。率先して自らの出自を語るような性格の持ち主ではないが、ここぞという場面では躊躇ない。以前、学園の食堂でソフィアちゃんが黄ばみスージーをお披露目した際も、似たような感じだったと記憶している。

 なんて悲しい勘違いだろう。

 エディタ先生は非処女なんだよ。ヤリマンなんだよ。

「……フィッツクラレンス?」

「大した名ではないけれど、一応、この国で貴族などしているわっ」

「ペニー帝国の大貴族じゃないか……」

「そうだったかしら?」

「…………」

 ジッと見つめ合う二人。主に一方が一方を睨み付ける形だ。攻撃的な性格は以前からであるけれど、本日に限っては殊更に顕著なロリビッチ貴族系。愛されてる。最高に愛されてるわ。でもそれ以上は止めてあげて欲しい。

 エディタ先生が泣いちゃう。逆ギレしてしまう。

 ソフィアちゃんとか、既にソファーの傍ら、立ちながらお盆を抱いて涙目だ。

「お、おい、この者は……」

 私はどうすれば良いのだ。

 言わんばかりの表情でエディタ先生が尋ねてくる。

「すみません、こちらの彼女は隣の部屋にお住まいの学友です」

「……そうか」

 年が離れすぎている為か説得力が皆無だ。

 実年齢ではエディタ先生がぶっちぎりなんだけど、大切なのは見た目。

「錬金術師の先生が彼に何か用かしら?」

「いや、この者に用というか、一晩の宿を借りに来たというか……」

 珍しくも圧倒された様子で応じる金髪ロリ先生。

 途端、エステルちゃんの顔が三割増しで険しさを増す。

「なっ……」

 とてもラブコメっぽい。主人公にゾッコンラブなヒロインが、勘違いから他のヒロインを巻き込んで物語に厚みを持たせるべく展開だ。まさに王道、素晴らしいだろう。

 ヒロインたちの膜さえ無事であったのならば。

「お二人ともすみません。事情を説明させて下さい」

 無理矢理にでも口を挟んで経緯を説明だ。魔導貴族とのやり取りを踏まえて、学技会云々の状況報告を行う。これ以上をラブコメったところで、二人の機嫌が崩れるばかりで得はない。できれば仲良くしていただきたい。無駄なコストは削減すべきだ。

 とくにエディタ先生には、ご迷惑をお掛けしたくない。我が家での一泊を心地良く過ごして頂く為にも、エステルちゃんには早々のご帰宅を願うべくだろう。代わりにソフィアちゃんの心温まるおもてなしを是非とも体験して頂きたいところ。

 かくかくしかじかまるまるうまうま。

「……ということで、明日、ファーレンさんの招待を受ける為なのですよ」

「本当に、そ、その為だけなのかしら? 学技会の為だけに……」

「はい」

「そう……」

 自身から説明を行ったところ、エステルちゃんは勢いを失った。幾分かしゅんとした様子で、浮き掛けた腰をソファーへ落ち着ける。一連の振る舞いを目の当たりとして、猛烈に申し訳ない気分となるが、今回ばかりは致し方なし。

 エステルちゃんのことは嫌いじゃない。

 だが、エディタ先生とのパジャマパーティーには代えられないのだ。

 流石に今回ばかりは、アレンのヤツを叱咤したい。早急に下半身を悔い改め、元の鞘に戻るべきである。ここまで尽くしてくれる金髪ロリ美少女、滅多にいないだろ。その膜を奪ったのだから、一生涯面倒を見るのが礼儀ってやつだ。

 もしもエステルちゃんが処女であったのなら、問答無用で身柄を攫い、着の身着のまま外国へ逃避行くらい余裕で覚悟完了である。彼女の訴えるところを全て叶える自信ある。努力したい。年一で妊娠させる勢いにラブるわ。

「おい、わ、私ならば大人しく明日の朝にでも出直すが……」

「いえいえいえ、折角こうして足を運んで下さったのですから」

「しかし……」

 ということで総合的に判定を。

 諸事情あって手を出せないエステルちゃんより、土下座したらクンニさせてくれるかも知れないエディタ先生のほうが、個人的には重要度が上だ。パッシブスキルのパンチラも高レベルで素晴らしい。クンニはセックスに入りません。童貞セーフ。

 故にまさか、この後に及んでお帰りなど、絶対に有り得ない。今晩は壁越し、隣の部屋で寝ているだろう先生をオカズに楽しむ気満々である。お風呂の残り湯も濾過して飲む心意気で、この場に臨んでいる。

「すみませんがエステルさん。エディタさんは私にとって特別な方なので」

「っ……」

 エステルちゃんの全身が、雷にでも打たれたようビクリと震えた。

 これで分かってくれるだろう。

「お、おい、貴様それは……」

 アレンの元へ戻って行くにも良い切っ掛けとなる筈だ。そうなったら友達の嘉巳で、学園の可愛い処女の友達とか、紹介してくれないだろうか。頭を下げて頼めば、一回くらいはしてくれそうな気がする。ソフィアちゃんとの関係を鑑みるに、妙なところで面倒見が良いのだ、このロリビッチは。

「……わ、分かった……わ」

「ありがとうございます」

「…………」

 こちらが感謝を口とするに同時、すっくと立ち上がる金髪ロリータ。

「あ、あの、エステルさま?」

「少し、自室で休むこととするわ。今日はこれで失礼するわね」

 トボトボとリビングから出ていった。

 ギィ、バタン。部屋のドアが閉じられると同時、遠退いて行く足音。

 やがて気配は廊下の向こう側へ消えていった。

「…………」

 これを目の当たりとしては、少なからず凄く胸が痛んだ。

 哀愁漂う少女の背中を目の当たりとして、後ろから全力で抱きしめたくなった。腐っても鯛。膜を失ってもロリータ。可愛いものは可愛い。

 できればエディタ先生と共に末永く仲良くして頂きたいところである。この肉体が脱童貞した暁には、是非とも3Pしたい逸材であるからして。



◇◆◇



 結論から言うと、お風呂の湯は抜かれてしまった。

「…………」

 どうやって乾かしたのか、水滴の一粒すら残さず空っぽとなり、更に抜け毛の一本さえ残らないバスタブを目の当たりとして、これはどうしたことか。折角、一番風呂を譲ったというのに、これでは何の意味もないではないか。

 ちなみにソフィアちゃんはと言えば、メイドであることを盾に取り、日々頑なにこちらの後で入ることを主張した。おかげで一度としてご賞味させて貰った経験はない。入寮直後、何度となく提案したお風呂掃除の当番制も断られている。

 今日こそ長年の夢が叶うと思ったのに、無念だ。

 仕方なく普通に入浴を終える。

 濡れた身体をタオルとファイアボールに乾かしてリビングへ。

「あ、タナカさん。ご飯のご用意が整ってますので」

「ありがとうございます、ソフィアさん」

 鼻腔をくすぐる良い香り。例によってメイドさんの手により配膳された食事が、ダイニングテーブルに並んでいる。これを囲うよう既にソフィアちゃんとエディタ先生の姿があり、どうやらこちらを待ってくれていたよう。

「わざわざ待っていて下さりありがとうございます」

「家主を放り置いて先に食べる訳にもいかないだろうが」

「いえいえ、別に食べてしまっていても構わなかったのですが」

「さっさと席に着け。料理が冷めてしまう」

「そうですね」

 促されるまま、彼女の隣へと腰掛けての食事となった。

 ちなみに現在のエディタ先生は、ソフィアちゃんがどこからともなく調達してきた寝間着を着用してナイトスタイル。ご自宅に眺めた一着とは別の高価そうなガウン、開かれた襟元から覗くのはシルクのような生地に作られたベビードールっぽい何か。

「…………」

 鎖骨まで見えてるのが、とてもエロ可愛い。

 更に幾分か短めに作られたガウンの裾が太股をムチムチに演出。

「……どうした?」

「いえ、なんでもありません。このスープが美味しいと思いまして」

「そうだな。流石は学園の出す食事なだけはある。美味だ」

「塩気に隠れた微妙なえぐみが味に深みを出していますね」

「……えぐみ?」

「感じませんか? ほんの僅かばかりですけれど」

「いいや、あまり食事にこだわる性質たちではないからな」

「なるほど」

 お風呂の湯は飲ませてくれないけれど、湯上がりの鎖骨や、ムチッと組んだ太股は惜しげなく見せてくれるエディタ先生の境界線が、どうにも見えてこない。

 お酒とか一緒に飲んだら、どこまで許してくれるだろう。服の上からだったら触らせてくれるだろうか。とか、妄想してるだけで凄く幸せな気分になれる。

 ガウンの裾から覗く太股が最高にムチムチだから今日もご飯が美味しい。

 自然を装い、隣の席、エディタ先生の太股に視線をチラチラ。久しぶりだから、遠慮も忘れてチラチラ。箸を動かす手も適当なまま、一心不乱にご賞味させて頂いた。

 そうした最中のこと、不意に正面、ソフィアちゃんが声を上げた。

「タ、タナカさんっ……」

 幾分か驚いた様子である。

「どうかしましたか?」

 あわや、エディタ先生の太股ウォッチングがバレたか。キュンと心臓を鷲掴みにされたような緊張が走る。ドクンと胸が大きく脈打つ。

 ただ、彼女の視線はこちらを見てはいなかった。その向かう先は、自身の顔を過ぎて背後、リビングに面した窓ガラスである。

 何事かとばかり、エディタ先生と共に後ろを振り返る。

 するとどうしたことだ。カーテンと窓枠の隙間、人の顔が僅かばかり覗き、ジロリ、こちらを凝視しているではないか。

 心霊写真みたいなことになってる。

「っ……」

 エディタ先生の口から声にならない悲鳴が上がった。

 どうやら驚いた様子。

 俺も驚いた。声を挙げそうになった。割とヤバかった。

「あの、も、もしや、エステルさまでは……」

 目元に掛かった金髪は、なるほど、確かにそれっぽい。

 端的に判断するならば、今、エステルちゃんは飛行魔法で身を浮かしながら、寮の外壁にかじり付いて、我が家の団欒を外から一人で見つめているという訳だ。大貴族の娘さんの行いとしては、とてもではないが看過できない。

「あの、た、タナカさん……」

「はい」

 頷いて席を立つ。

 スタスタと窓まで歩み向かう。

 ビクリ、ガラスを挟んで反対側では僅かばかり反応が。ただ、それでも逃げ出すことなく、同所に留まり続けているのが実にエステルちゃんらしい。こちらの一挙一動を追うよう、クリクリと目玉の動く様子が見て取れる。

 だもんで、ガララと窓を開けては問うた。

「エステルさん、も、もしよろしければ、一緒に食事を取って頂けませんか?」

「……よ、良いの、かしら?」

「貴方さえ良ければ、私としては是非とも」

「そ、そおぅ!?」

「はい」

「それなら、あの、お、お、お呼ばれしようかしら……」

 コクリ、小さく頷いた金髪ロリータが、窓から合流と相成った。

 ちょっと病んできたな。このロリビッチ。



◇◆◇



 三名から四名に人数を増やして、少しばかり賑やかとなった食卓の場。エステルちゃんの食事はソフィアちゃんが駆け足で新たに一食を都合した。ハァハァと意気を荒くするメイドさんの吐息がエロチズム。思わず唇を見つめてしまう。濃厚なベロチューしたい。

「貴方に伝えたいことがあったの」

 腰を落ち着けてしばらく、エステルちゃんが言った。

 ちなみに彼女の席はソフィアちゃんの隣で、エディタ先生の正面となる。自身とは斜め向かいという配置だ。ダイニングセットが四人掛けである都合、他に空きがなかった為である。際してはソフィアちゃんが隣にずれるべく動いたけれど、エステルちゃん本人がこれを留めて今に至る。

「私にですか?」

「明日なのだけれど、午後から謁見の予定が立ったの」

「え、明日ですか?」

「お願いできるかしら? いきなりで申し訳ないのだけれど」

「王様からお呼ばれしたとなれば、断る道理はありませんが……」

 以前に言っていた貴族云々の話だろう。

「ありがとう、頷いて貰えて嬉しいわ。とても」

「ですが、あの、私は……」

「貴族になれば生活も楽になるわ。私も貴方のことを必ず最後まで支える。だから、一緒に頑張って行きましょう? 面倒事は全て引き受けるわ。貴方はいつも通り暮らしていてくれれば良いの。他には何も考えなくて良いわ」

「いえ、流石にそういう訳には」

 まさか金髪ロリ美少女からヒモ男勧告を受ける日が来るとは思わなかった。

 幾ら中古とは言え、そんなこと言われたら嬉しいだろ。

 ここ最近、エステルちゃんからのアピールが激化の一途たどる。正直なところグッと来ている。もしもオチンチンを握られたのなら、きっと逃れられない。万が一にもフェラなどされた日には、そのまま堕ちて行く自信マキシマム。

「お、おい、まさか貴様、この国で貴族になるのか?」

 一連のやり取りを耳として、酷く驚いた様子に問うのがエディタ先生。

 やはり平民が貴族へ成るのは、相応にインパクトがある出来事のよう。

「まだ決まった訳ではないですよ、エディタさん」

「いいえ、既に決まっているわ。根回しの結果が先程、手紙として届いたもの」

「え……」

 マジかよ。

「だからこうして、貴方の下へ伝えに来たのよ。反対していた派閥の側で、条件一式に関して考えがまとまったのでしょうね。実質、明日の謁見はこれを私たちの側へ言い渡す為の機会と考えても良いわね」

「そ、そうだったのですね」

 その結果が今し方に見た心霊写真ごっこか。

 なるほど。

 少しばかり彼女の心理状況を理解したかも。

「学技会には私も参加するけれど、途中で抜けて城へ向かうことになるわ。予定はこちらで抑えてあるから、その時になったら向かえに行くわね。どうせファーレン卿に誘われてのことでしょう?」

「ええ、察しが良いですね」

「貴方のこと、その全てを察せるようになりたいの」

「……ありがとうございます」

 エステルちゃんとエディタ先生。

 二人を見ていると、激しく揺さぶられる。

 価値観が。

 黒船来訪を受けた徳川幕府も、きっとこんな感じだったに違いあるまい。



◇◆◇



 翌日の朝、約束通り魔道貴族はやってきた。

 乗り付けた馬車には他にクリスティーナの姿もあり、これに自分とエディタ先生が追加で乗り込む形だ。場所は同じ学内の講演堂とのこと。歩いても向かえるが、それなりに距離があるとのことで車による移動となった。

「ファーレンさん、こちらエディタさんです。私の錬金術師の先生であって、先の一件では王女様の病を治した秘薬の調剤レシピを発明された方でもあります」

「ほうっ! 私はファーレンという。学園で教鞭を執っている。よろしく頼もうか」

 笑みを浮かべて挨拶をする魔道貴族。

 相変わらずぶれない男だ。

「あ、あぁ……エディタだ。一介の錬金術師だ。そうたいしたもんじゃない」

 一方でエディタ先生は些か引き気味だ。

 やはり人見知りの気があるよう。こちらの先生という単語に反応を示す余裕もない。思い返せば昨晩も自分以外とは碌に言葉を交わすことなく過ぎた。

 まあまあ、共に想定通りの反応である。

「それで、そ、その、なんだ。この度は招いて貰って感謝する」

 モジモジしながら、それでもお礼を述べるエディタ先生は礼儀正しい人だ。

 ぶっきらぼうな口調とのギャップが素敵である。

「この者の知り合いとあれば、断る道理はない。本日は存分に楽しんで貰いたい。もしも望むのであれば、こちらで一席を設けることも可能だが」

「そういうのは十分だ。見てるだけ、見てるだけでいいっ」

「分かった。ではそのようにしよう。だが、気が変わったら声を掛けると良い」

「あぁ、そ、そうだな……」

 魔道貴族のヤツ、ノリノリだな。

 余程のこと学技会とやらが楽しみなのだろう。傍目、文化祭を直前に控えてテンションを上げるリア充のような気配を感じる。

『おい、私への挨拶はどうした? ニンゲン』

 そして、ヤツの隣にはクリスティーナの姿がある。

 先日の相談は決して冗談でなかったよう。同伴出勤とは見せつけてくれる。その存在もまた、魔道貴族を気張らせるに一役買っていることは間違いあるまい。

『貴様は明日だと言ったよな? それを二日も待たせおってからに』

「すみません、色々と立て込んでいたもので」

 明日ってなんだよ。覚えてないわ。

 まあいいや、相手はクリスティーナだし。

『ちっ……』

 苛立たしげに舌打ちなどしてみせるロリドラゴン。

 ちなみに本日の彼女はいつだかに同じくドレス姿。ただ、少しばかりスカートの丈が短くなっているのは決して勘違いでないだろう。恐らくは魔道貴族の性欲が反映された結果だろう。このオッサンめ、着実にロリコンロードを邁進している。

 ちなみに色は変わらず鮮やかな赤だ。きっと好きなのだろう。

「とは言え、ファーレンさんが一緒であれば決して退屈ではなかったでしょう」

『ま、まあなぁ? 貴様よりは余程のこと使えるだろうよ。自分でも思わんか?』

「そうでしょうとも。こう見えてファーレンさんは非常に気の利く方です」

 ここぞとばかりにヨイショしておく。

 それとなく魔道貴族の顔を窺えば、満更でもない表情をしているし。

『ふんっ……』

 ただ、続くところ鼻息を一つ、クリスティーナは不機嫌そうに黙った。

「どうしました? いつもの元気がありませんね」

『黙れよ、ニンゲンがっ』

「……そ、そうですか」

 しかし、紛争から戻ってこちら、あれこれ恵まれすぎていて怖いな。身の回りには可愛い美少女ばかり。更にその誰もが一方的にチヤホヤして下さって、人生の絶頂期って感じある。更に日々のご飯を心配しなくて良いとか、嬉しくて涙がチョチョ切れる。

 望むべくはこれが末永く続き、やがては脱童貞から続くヤリチンワールド。エステルちゃんとエディタ先生、二人とのルナティック3Pが叶いますように。妊娠してお腹を大きくした彼女たちが、全裸で並び、笑顔を浮かべる姿を拝めますように。



◇◆◇



 馬車に揺られることしばらく、無事に学技会とやらの会場に辿り付いた。

 そこから先は魔道貴族と別れての行動となる。ヤツの手配により当てられた職員の案内に従って、自分とエディタ先生、それにクリスティーナの三名で移動となった。どこへ移動かと言えば、案内役の職員が語るところ、貴賓席とやら。

 なんでも会場が一望できる良い感じのスペースらしい。

 観衆の大半は別に用意された一般席とやらから聴講するのが普通とのこと。

 その観衆もほぼすべてが貴族で占められる点を考慮すれば、我々の案内された貴賓席とやらが、如何に上等な席であるかは自ずと及ぶ。そのような場所に平民を三名も通してしまって良いものかと心配になるほどだ。

「こちらになります。お好きな席にどうぞ」

「ありがとうございます」

 職員さんに会釈をして貴賓席とやらに臨む。

 感覚的にはブログ記事に眺めるマリインスキー劇場だとか、フォード劇場だとか、その手の施設の貴賓席を思い浮かべればドンピシャである。

 施設としても申し訳ないほどに豪華であって、席と席の間はおもむろに幼女がブリッジをしても頭をぶつけないほど十分な余裕がある。

『ふむ、これがニンゲン共の言う貴賓とやらか』

 不貞不貞しい態度に歩み、席の一つに腰掛けるロリドラゴン。

 ふかふかのクッションに幼女の肉体が包まれるの美しい。

 俺もこの身をもってして幼女の肉体を深く包んでみたい。

「エディタさん、我々も席に着きましょう」

「あ、あぁ……」

 ロリドラゴンとは対照的に、一見した限りで、露骨なまでに気圧されているのがロリムチムチ先生だ。これに声を掛けて、自身もまた席に腰掛ける。

 自らを真ん中として、右側の最奥がエディタ先生。左側がロリドラゴン。

 都合、これで同所に設けられた席の半数が埋まった。

 部屋の出入り口脇には同所の専属と思しきメイドさんが直立不動に控える。旅客機のファーストクラスって、こういう感じなんだろうか。そんな妄想が浮かぶ程度には、極めて上等な空間だった。

「お、おい、私は碌に持ち合わせがないぞっ……」

 隣の席に腰掛けた先生がヒソヒソ話してくる。

 不安げな表情から庶民感が迸ってる。

「その辺りは気にしなくても大丈夫ですよ。招いたのはあちらですし」

「だが、し、しかしだなっ……」

 或いはこれが、平民と貴族の正しい関係なのかも知れない。

 外側から来た自分には些か理解が鈍い。

「万が一に請求が巡ってきたとしても、支払いはお誘いした私が受けます。エディタさんは細かいことなどお気になさらず、安心して聴講に集中して頂ければ、それがこちらとしても一番に喜ばしいところですよ」

「ぅおぅっ……」

「うおう?」

「な、なんでもないっ!」

 不意に妙な声を出したかと思えば、正面に向き直ったエディタ先生。その視線が見つめる先は未だ段幕の上がらない舞台である。本人が何でもないというのであれば、お話はここまで。素直に頷いておこう。

 問題はむしろお行儀の良い彼女でなく、自身を挟んで反対側に腰掛けた無法者だ。

『おい、まだか? いつまで待たせるつもりだ?』

「少しは静かにしたらどうですか?」

 腰掛けて数分と経たずに文句を言い始める始末。

 魔道貴族も面倒な手合いに惚れたものだ。

 そりゃ確かに見てくれは可愛い。セックスしたいか否かと尋ねられたら、問答無用で中出しだろ。やがて、お腹がぷっくり膨れた姿を、実に様々な角度から鑑賞したい。

 くそう。くそう。

「お飲み物をお持ち致しましょうか?」

 不意に傍らより声が掛かった。

 いつの間にやらメイドさんが近づいてきていた。出入り口の辺りに控えていたうちの一人である。恐らくはロリドラゴンが愚図ったのを確認して、機嫌を取るべく動いてくれたに違いない。扱いが完全に童女のそれだな。

「すみませんがお願いします」

『しゅわしゅわするヤツを持ってこい』

「はい、承りました」

 コイツ、発泡性が好きなのか。

 極めてどうでも良い情報である。

 こういう話題に限って、どうしても忘れられないんだよな。

 それからしばらく、メイドさんの運んでくれた飲み物を片手に待っていると、再び貴賓席の出入り口が開いた。それとなく視線を向ければ、ドアの向こう側から姿を現わしたのは、豪勢なドレス姿の美少女である。

「……マジか」

 その姿には見覚えがあった。

 いつだか首都カリスのお城、謁見の間で垣間見たパジャマッ子だ。自身の記憶が正しければ、エディタ先生のお薬を飲んで病気を治したのだという、この国のお姫様である。

「あら、今年は他にお客様がいらっしゃるのですね」

 彼女は我々に小さく会釈をしてくれた。

 現れて早々、お連れの従者っぽいオッサンに促されるまま、空いた席の一つへと歩みを進ませる。同伴は彼だけで他に人の姿は確認できない。

 オッサンはセバスチャンって名前がピッタリな出で立ちの五十代。

 彼はお姫様を案内したところで、踵を返すと共に部屋の出入り口の脇、メイドさんたちの近くへ直立不動で立ち並ぶ。どうやら席には着かない様子だ。

『おい、幕が上がっていくぞ』

「ええ、始まるみたいですね」

 ロリドラゴンはお姫様の登場も何ら気にした様子はない。他に変化のあった舞台の側を眺めて、ぶっきらぼうに言い放つ。完全に他人事の態である。

 エディタ先生もこれは同様であって、彼女の登場を気にした様子はなかった。或いは努めて関わるまいという意志の現れだろうか。

「あ、ファーレンさんが立ってますね」

 一同が注目する先、舞台の中央に見慣れたオッサンが姿を現した。

 お姫様の到着から早々、時機を合わせたようイベントが始まった。



◇◆◇



 開幕からしばらく、壇上にやり取りされるあれこれから端的に判断するに、学技会とは魔法技術に関するカンファレンスのよう。冒頭に語られた魔導貴族の言葉に従えば、なんでも年に一度、同所に開かれる定期的な催しなのだそう。

 主要な登壇者は同学園に籍を置く教師であって、ここでの発表の善し悪しが、以後の一年間、学園内における肩書きの証明となるのだそうだ。過去には発表が残念であった結果、リストラされた手合いも少なくないよう。

 要は学園の先生方に対する年に一度の公開試験の日、といった位置づけである。今でこそ観客に生徒や学園に関係のない貴族を迎えているが、発足当時は学園の会議室を利用して、先生方のみにより内々に行われていたのだそうだ。

 ただ、そうした生い立ちはさておいて、昨今、イベントの門出は少なからず学園外にも開けており、外部から識者を招いて、などというケースも多分にあるそう。そうして少しずつ規模を大きくしていった結果、本日の学技会とやらが存在しているらしい。

 しかも主催は魔道貴族とのこと。あのオッサン、どうやら学園の理事であったらしい。それもトップの。どおりで俺を顔一つで裏口入学させることができた訳だ。納得の権力である。ヤツにとっては天職だと思う。

 そんなこんなで今現在、壇上ではなんとかという学園の教師が、大勢の観客を相手として、自らの発表を行っている。四桁近い観衆に対して熱弁を振るう様子は、これでなかなか、内容が理解できずとも伝わるものがある。

「ほう、そこで魔力を注入する訳か。更に撹拌? ……なるほどな」

 チラリ、隣の席を窺えば、真剣な眼差しを壇上に向けるエディタ先生の姿が。

 良かった。楽しんで頂けているよう。ご一緒して貰って正解だったろう。

 一方。

『……無様な努力だな。そのような反応、私の力の前では無意味だろう』

 こっちもこっちで暇つぶし程度には機能している気がする。

 とは言え、全ての基準が自分というのはどうかと思うわクリスティーナ。登壇者が何かを語る都度、ブツブツと独り言で対抗している。ただでさえミステリアスな容姿が相まって、どうにも不気味だ。

「…………」

 ということで、同所において一番に発表内容を理解していないのは自身となる。

 登壇する学園の先生方が述べるところ、どれも右から左へと抜けてゆく。エディタ先生はまだしも、クリスティーナ以下というのが、想像した以上に悔しい。とは言え理解が及ばないのだから致し方なし。

 そんなこんなでしばらく、貴賓席では穏やかな時間が続いた。

 ややあって、途中に設けられた休憩時間の折である。

「あの、少し……よろしいでしょうか?」

 不意に声を掛けられた。

 聞こえて来た側を振り向けば、クリスティーナを挟んで反対側、お姫様が座っていた席が空である。いつのまに歩み寄ったのか、彼女の姿は自席の傍らにあった。手を伸ばせば触れられる距離でこちらを見つめて居る。

「これはこれは、王女様」

 大慌てに立ち上がり、床へと膝を突く。

 フロアの出入り口で推定セバスチャンが睨みを利かせているからな。下手を打っては大事になること間違いない。何事も穏便に済ませなければならない。

「そう畏まらないでくださいな」

 ニコリ、朗らかな笑みを浮かべる王女様。

 豪奢なドレスの上からでも如実に映る。その肉体は相変わらず男好きしそうな我が侭ボディー。遠目にも身体のラインが窺える。胸と尻は大きくプリッとしている。一方で腰は程良く括れてボンキュボンである。

「このような凡夫にご用でございましょうか?」

「貴方、以前に謁見の間で出会った者ではありませんか?」

「私のような平民の顔をお覚え下さり恐悦至極にございます」

「やはりそうでしたのねっ」

 素直に白状すると、王女様の顔に笑みが浮かんだ。

「貴方が献上した秘薬のおかげで、私はこうして身体の自由を得ることができました。一度、ちゃんとお礼をしたいと思っていたのです」

「勿体なきお言葉です。しかしながら、お礼であれば既に陛下より頂戴いたしました。王女殿下よりこれ以上を頂戴するなど申し訳が立ちません」

「私からはまだでしょう?」

「それはそうでありますが……」

 面倒だな。

 セバスチャンの表情も段々と険しいものに移ろいつつあるぞ。魔道貴族のヤツもお姫様が一緒ならそう言って欲しかった。そうしてくれれば事前に辞退も叶ったろう。

「貴方はこちらの学園の関係者なのですか?」

「はい。ファーレン卿の紹介で学生として籍を置かせて頂いております」

 ヤツの名前を出してセバスチャンの機嫌を取る作戦。チラリ、視線を向かわせれば、少しばかり表情の強ばりの取れた彼の姿を確認できた。良かった。正解だ。

「まぁ、それは奇遇ですね」

「……と、申しますと?」

「私も来年からこちらの学園に通う予定なのです」

 当人が語る通り、パッと見た感じ十代中頃ほどと思われる。学園に入学するならば適齢だろう。とは言え、貴族の他に王族まで入学する文化があるとは意外だった。

 ちなみに同学園の入学式であるが、受付のオネーチャン曰わく、つい先月に行われたばかりである。来年からということは、凡そ一年後となる。当分先の予定だ。

「今日の席もそうした事情があって見学をさせて頂いておりますの」

「真摯に学問へ取り組まれんとする姿勢、敬服させて頂きます」

「今から楽しみでならないわ」

「学園は素晴らしいところです。運営を行われているファーレン卿の潔癖なる精神の賜、国外にまで広く名を轟かせる同所こそ、王女殿下が学ばれるに相応しいかと」

「貴方ってば平民である割には言葉が上手いのね。素敵ですよ」

「そのようなことはございません。今も緊張で胸が張り裂けそうです」

 原因はすぐ隣、こっちの様子を窺っているクリスティーナだ。

 こ毒舌ドラゴンが無神経な暴言を吐かないだろうかと、正直、今という瞬間が気が気でない。椅子に腰掛けた姿勢のまま、お姫様の肩ごしに物言いたげな眼差しをジッと向けてくれている。

 というか今まさに、文句の一つでも溢さんと、口を開くべく顎が動いた。

 いやいやいや。

 まさか、させてはならぬ。

 慌てた俺は、他の面々から死角となる位置で、彼女の脛に接するか否か、ギリギリの地点にファイアボールを生み出した。サイズは小さめ。でも温度は高め。ちょっと肌が焦げるくらいで。

『っ……』

 応じて戦き、全身を振るわせるロリドラゴン。

 開きかけた口は早急に閉じられた。こちらの言わんとするところを、言葉こそ交わさずして、ちゃんと理解してくれた様子だ。対人経験に劣る点から馬鹿っぽく映ること度々のクリスティーナだが、決して馬鹿ではない。むしろ、その賢さは魔導貴族のお墨付き。

 セーフ。

 ぎりぎりセーフ。

 そうした背後のやり取りなどまるで知らず、お姫様はのほほんと。

「あらあら、それは大変ですわ」

 なんら気にした様子も無くトークを続行してくれる。

 ちょっと勘弁して貰いたい。

「もしよろしければ、このような場所ではなく他に部屋でお話しませんか?」

 しかもどうしたことだ、お姫様からお誘いとか来たぞ。

 とても嬉しいぞ。

 とは言え、それはそれで問題だ。理由の大部分はクリスティーナだ。エディタ先生が同席する場でコイツから目を離すことはできない。万が一にも腹パンなど繰り出された日には、如何に先生であろうとも爆砕必至だろう。

 それにセバスチャンの目もある。

「このような卑しい身分の者にまで、直々にお声がけを下さる王女殿下の懐の深さに感服いたしました。お言葉を頂戴できただけで、私は天にも昇る心地でございます」

「うふふ、誠実な人は好きよ?」

「故にどうぞ、王女殿下の品位を下げるような真似を犯す訳にはゆきません。もしも差し障る点などございましたら、我々は身を引かせて頂く所存にございます」

「あら、つれないのですね。お姫様のお誘いなのに」

「私は平民にございます。本来であればこうしてお言葉を頂戴する機会であっても有り得ない幸福にございます。これ以上を求めることは贅沢が過ぎるというもの」

「……残念ですね」

「申し訳ございません」

 とりあえず頭を下げておく。

 触らぬ神に祟り無しというやつだ。

 そうこうするうちに休憩時間が終わりを迎える。再び舞台では壇幕が上がり、続くところ登壇者が姿を現わした。他に観客席からは拍手が鳴り響く。

「あら、はじまってしまいましたわ」

「王女殿下、お席に着かれるのがよろしいかと」

 いつの間に近づいてきたのか、お姫様の傍らにセバスチャンが姿を現わした。彼女に声を掛ける機会を狙っていたのだろう。なかなか良い仕事をするではないか。

 それとなくお顔の具合を窺ってみれば、どうだ、セバスチャンの表情は元の仏頂面に戻っている。良かった。判定、正解っぽい。

 以後、彼女の傍らには執事だろう彼が起立。

 先方からの接触はなくなり、学技会の発表は穏やかに過ぎて行った。



◇◆◇



 エステルちゃんのお迎えはお昼休みの休憩間際に訪れた。

「向かえに来たわっ!」

 バァン、勢い良く開かれたドアの先、姿を見せたロリビッチィ。

 彼女は貴賓室内にお姫様の姿を見つけて、幾分か驚いた顔になった。どうやら自分より偉いヤツが同所を訪れていることは知らなかったよう。突入当初の勢いは早々に失われて貴族モードとなった彼女がこんにちは。

「あら、エリザベス」

「これは王女殿下。お久しぶりです」

 慌て調子に膝を突くエステルちゃん。

「お久しぶりね。今はフィッツクラレンス子爵、だったかしら?」

「はい、陛下より頂戴いたしました」

「話は私も伺っています。なんでも大した活躍をしたのだとか」

 如何に大貴族の娘であろうとも、王女様の前では傅くのが礼儀であるよう。先程に自身が適当を語ったところも、この光景を鑑みては決して大袈裟ではなかったと判断できる。ちゃんと対応して良かった。

「しかし、アンジェリカ様がどうしてこのような場所へ?」

「私、来年から学園に入学でしょう?」

「え? そ、そうだったんですか?」

「ええ。リズには先輩として面倒を見てくれると嬉しいわ」

「はい、入学の折りにはどうぞ、よろしくお願い致します」

「ふふふ、それは私の台詞よ、リズ」

 ペニー帝国のお偉いさん同士、多分に面識のある間柄のよう。それとなくセバスチャンに確認の視線を飛ばせば、取り立てて反応らしい反応は見つけられない。どうやら彼女たちにとってはこれが普通のやりとりであるよう。

 なるほど。

「ところで、アンジェリカ様、今のお時間なのですが」

「なぁに?」

「これより殿下よりお言葉を頂戴する運びとなっておりまして、ご挨拶も早々に申し訳ありませんが、この場を失礼とすること、どうかお許し下さい」

「あら、そうなの? お父様から?」

「はい」

「そういうことなら仕方がないわね」

「すみません」

 手短に断りを入れると同時、エステルちゃんの意識がこちらへ向かう。

「そ、外に馬車を用意してあるわっ! 着いてきて欲しいのだけれどっ」

「ええ、分かりました」

 合点承知の助。物欲しそうな表情を浮かべるエディタ先生は、本人が望む通り同所に放置で良いだろう。先生は他の誰よりも常識人だ。残り一匹、絶対に放置できない方を伴い、貴賓室を後とするべく動く。

「クリスティーナさん。着いてきて下さい」

『あぁ? どこへ行くんだよ』

「いいから黙って着いてきて下さい」

『っ……』

 少し強めに言うと、ロリドラゴンは素直に我々の後へと着いてきた。

 段々と躾け方が分かってきた気がする。

 今後とも定期的に力試しなど行って、こちらの優位を覚えさせるとしよう。



◇◆◇



 貴賓室を後とした我々は学園の廊下を行く。

 早歩きで進む。

『おいこら、どこへ行くんだよっ! 説明くらいしろっ』

 素直に頷いて着いてきてしまった都合、プライドを刺激されたロリドラゴンがやたらと絡んでくる鬱陶しい可愛い。本当なら魔道貴族にでも預けておきたいのだが、今のヤツにはその余裕もないだろうと考えて、致し方なく同伴である。

「これからお城に向かいます。美味しいケーキを用意しますので我慢して下さい」

『貴様、私が食べ物で釣られるなどと、妙な勘違いをしていないか?』

「おいしいですよ、お城のケーキは」

『……私を舐めているのか?』

「舐めていないからこうして同伴を願ったんですよ。それとも舐められたいですか? 或いは用心の為に、今この場で討伐されたいというのであれば、私も遠慮などしませんが」

『っ……』

「お願いですから、大人しく為ていて下さい」

『……ふんっ』

 適当を語ってロリドラゴンを黙らせる。

「ところで、一つ良いかしら?」

「なんでしょうか?」

「ど、どうして、そのドラゴンが一緒なのかしら?」

「あぁ、それはファーレンさんの手引きですよ」

「……そうなの?」

「私自身も今朝、彼と合流してから知りましたから」

「そ、そうっ、そうだったのねっ!」

「はい」

 パァとエステルちゃんの顔に笑みが浮かぶ。

 なんて分かりやすい性格の持ち主だろう。

 しかも今日の彼女は、さて、どういった気分の変化だろう。自慢の金髪をツインテールに揺っている。おかげで普段は金髪ロリな彼女が、今日は金髪ロリツインテールだ。やはり金髪ロリにはツインテールが良く似合う。なんていうか、こう、言葉に出来ない感情Zが胸の内に迸る。膝蓋腱反射と同じレベルで反応してしまう。

「その髪型、とても似合っていますよ」

「ぅえ!?」

「素敵だと思います」

 思わず自然と口にしていた。

 金髪ロリツインテールが嫌いなロリコンなんていないと思う。

「っ……」

 途端、顔を真っ赤にして悶え始めるロリビッチ。つぃと視線を足下に落とすと共に、歩む勢いが殊更に早まった。我々を後方において幾らばかりか先行するよう行く。

 どうやら恥ずかしいらしい。

 まったくもって可愛らしい。

「ば、馬車はこっちよっ!」

 普段は髪に隠れて見えないお耳まで真っ赤になっている。

 ちょっと早まったかも知れない。

 でも金髪ロリツインテールが可愛いのだから仕方がない。

 金髪ロリツインテールに罪はない。

 向かう先は貴賓席を発って内廊下を歩み、やがて、学園の外廊下へと至る。そこから先、学園の正門に面した通りまでは庭園的な空間を抜けて行く必要がある。魔道カンファレンスのおかげで人気も多い学園をロリ二名と共に早足で歩む。

 すると、向かうところ前方に人集りを確認だ。

 なにやら大勢の、平民と思しき群衆が詰めかけている。

 敷地の一角にやぐらが組まれて、即席のステージと思しき設備が作られていた。舞台の上では人の動く様子が確認できる。恐らくは歌劇、或いは歌唱舞台の類いだろう。通りを行く我々の下までテンポの良い音が響いて聞こえる。

「あれは……なんでしょうか?」

 自然と口にしていた。

 これに答えたのは、少しばかり先行していたロリビッチ。

「たしか魔法騎士団の者たちが舞台をやるとか、い、言っていたわっ!」

「舞台、ですか?」

「なんでも騎士団に対する印象を良いものにする為の施策だとかっ!」

「なるほど」

「そう! なるほどなのよっ!」

 こちらの世界であっても、御上が下々に対して至るところは大差ないよう。自衛隊による航空機のパフォーマンスみたいなものだろう。エステルちゃんの語り草からも、取り立てて気にするようなイベントではないように窺える。

 ただ、舞台自体は随分と繁盛しているようで、目算ではあるが、四桁近い数が集まって思える。それだけの人が集まっているとなれば、やはり、少なからず気になってしまうのが異世界一年生としての性である。

「…………」

「ど、どうしたのかしらっ!?」

「いえ、どうしたという訳ではないのですが……」

 思えばこちらの世界の娯楽には碌に触れる機会がなかった。

 足を動かしながらも、それとなく視線を向けて舞台の上に立つ者たちを確認だ。歩みが進んで距離が近づくと共に、細かいところまで見えるようになる。舞台に立っているのは楽器を携えた男性が数名と、その中央に女性が一名。

 こちらの世界における野外ステージのようなものなのだろう。この手の娯楽が存在することは、つい先日にエディタ先生が語っていた点からも理解している。せめて中央に立つ女の子の顔だけでも拝んでおこうと目を凝らす。

 すると、どうしたことか。

「あっ……」

 思わず声を上げてしまった。

「ど、どうしたのかしら?」

「あれってゾフィーさんじゃないですか?」

「……え?」

 ロリロリっとしたフリルにフル武装した、ですますッ子の姿を発見だった。

 ここのところアレンの傍にも姿が見えないなと疑問に思っていたのだけれど、まさかアイドルデビューしていたとは想定外である。舞台の下に集まった平民に対して、愛嬌を振りまきながら歌を歌っている。

 よくよく見てみれば、貴族っぽい格好の手合もチラホラと。

「……ほ、本当に、ゾフィーね」

 俺の視線が指し示す先、エステルちゃんも彼女を確認したよう。

 酷く驚いた様子でその名を口とした。

「彼女は歌を歌えたのですね」

 しかも意外と上手いぞ。

『おい貴様ら、なんの話をしている?』

「でも、あの子は歴とした貴族の家の子なのよ? 平民の前で舞台に立つだなんて、なにを考えているのかしら。ビッチ伯爵は知っているのかしら?」

「それを言うならエステルさんの冒険者歴も大概だとは思うのですが」

「わ、私は良いのよっ! 私はっ!」

『…………』

 エステルちゃんの反応を鑑みるに、どうやら普通でない事態のよう。

 とは言え、当人は舞台の上で楽しそうだ。時折、舞台の下からシアンさまー、彼女の名を呼ぶ声が響く。応じて視線を投げかけてみたり、クルリ、その場に一回転してみたり、随分と熟れた調子で対応している。

 客の入りも相応で場の雰囲気は上々といったところ。

 なんて一方的に眺めていると、不意に壇上の彼女と視線があった。

 気がした。

 直線距離にして二十メートルばかり。

「あの子、今、こっちを見たわね」

「やっぱり、そう思いますか?」

「ええ」

「ま、まぁ、今はお仕事中のようですから……」

「……そうね」

『おい……』

 遠巻きに視線を送りながら、我々はゾフィーちゃんの姿を後方へ見送った。

 その姿を目の当たりとしたことで、エステルちゃんとの間では会話がしばしの停滞をみせる。なんていうか、ほら、あれだ。地下アイドルとして活躍する知人を秋葉原のクラブにでも見つけた気分だ。口外無用ってやつだ。

 クリスティーナは無視した。

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