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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫

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学技会 一


「た、た、タナカさん。起きて下さいっ! タナカさんっ!」

 エステルちゃんの暴走から翌日。

 ベッドに横たわる身体、お腹の辺りに多少ばかりの圧迫感。ゆさゆさと身体を揺すられる感覚。瞼を上げれば視界に飛び込んできたのはメイド姿のソフィアちゃん。美少女がこの身体を両手に揺すり早く起きてとせがんでいる。

 凄く良い。

「……あ、おはようございます、ソフィアさん」

 長年付き添った幼馴染みのような安定感。

 上乳丸出しのメイド服が最高に映えるシチュエーションだ。

 仰向けに寝てて良かった。昨晩の俺マジでかした。

「タナカさんっ、お、お客様ですっ! お願いしますっ!」

「お客さん、ですか?」

 目元を擦りながら上半身を起こす。

 寝ぼけ眼に眺めるソフィアちゃんは酷く狼狽していた。

「ファーレン様がいらっしゃっていますっ!」

「……え、なんでまたファーレンさんが」

 ソフィアちゃんの天敵じゃないか。

「どうかっ、ご、ご対応をお願い致しますっ!」

 相変わらず魔道貴族が苦手なよう。今にも泣き出しそうな顔でのお願いだ。脇の辺りにジンワリと汗が滲んでいる点からも、決して装っている訳ではなく、本気でどうにかして貰いたいのだろう。キッチンにゴキブリでも見つけたようだ。

 凄むに応じて自然とバストが接近。数十センチ先に眺めるソフィアちゃんのオッパイ。朝立ちがバリカタに。いつか朝フェラと朝クンニで、起こし起こされするような仲睦まじい関係になりたいものだ。取れたて一番、濃厚なところをゴックンしたい。

「わかりました。着替えて向かいますので、そのように伝えて下さい」

「は、はいっ」

 トトトと駆け足で去って行くメイドさん。

 その背を見送ったところで、こちらは指示されたとおり起床。手早く服を着替えて、身だしなみを整える。衣服は寮に引っ越して以後、ちょくちょくと街のお店で買い足した現地の平民服である。鏡に映る俺、最高に町人Aって感じ。

 やっぱり、オシャレとか気にした方が良いだろうか。ちょい悪とか、憧れるよな。ヒゲとか伸ばしたら、アウトローな感じで顔面偏差値が上がるかも。いや、止めておこう。その成果がホームレス呼ばわりだ。アウト過ぎる。

 それよりも今は魔道貴族の対応だ。

「……やっぱり昨日の話だろうな」

 昨日は謁見を終えて以後、ヤツとはすぐに別れてしまった。

 なんでも個別に王様からお呼ばれしたのだとか。エステルちゃんも同様であって、自分はソフィアちゃんと共に早々、学園の寮に帰ってきた次第である。以降、二人きりで過ごす一日は紛争に荒んだ心を癒やしてくれた。

 ただ、依然として胸には不安の種が一つ。

 果たしてソフィアちゃんはアレンに寝取られてしまったのか、否か。

 聞くのがあまりにも怖い。怖すぎる。

「……………」

 廊下を歩んでリビングへ。

 ドアを開けた先には見知ったナイスミドルをソファーに発見だ。

 ティーカップに茶など啜っている。

「おはようございます、ファーレンさん」

「うむ。寝ているところを邪魔してすまぬな」

「いえ、むしろ既に昼近いですからね。こちらこそすみません」

 適当に挨拶など交わしながら対面に腰掛ける。

 すると、すかさずソフィアちゃんが新たにお茶を出してくれた。

 なんて良く出来たメイドさんだ。

「貴方がこうして出向くとは珍しいですね。なにか用件でも?」

「うむ……それなのだが、少しばかり貴様に相談したいことがある」

「相談?」

 どうやら昨日の続きとはまた別件のよう。

 魔道貴族から相談とはまた珍しい話もあったものだ。この高スペック中年であれば、何事も自らの力に切り抜けてしまうだろう。わざわざ他者の元まで相談に来るということは、相応に大きな面倒である可能性が高い。

 少なくともドラゴン退治程度では声を掛けてこないだろう。

「うむ」

「私で良ければ、幾らでも相談に乗りますが」

 ちょっと覚悟して聞いた方が良さそうだ。

「であれば、助かる……」

 チラリ、魔道貴族の視線が背後に控えたソフィアちゃんに向かう。

 どうやら人払いをして欲しいよう。

「ソフィアさん。すみませんが、自室に戻っていて頂けませんでしょうか?」

「は、はひぃっ!」

 お願いするに応じて、メイドさんは駆け足でリビングから出て行った。

 パタン、ドアが閉じられて以後、パタパタと慌ただしい足音が遠退いて行く。ややあって、今一度、パタン、今度は遠くでドアの開け閉めされる音が響いた。彼女の部屋は玄関に程近い一室だ。相応しいだけの気配の遠退き。

 これで大丈夫だろう。

「それで、ご相談というのはどういったもので?」

「う、うむ。それなのだが……」

 少なからず緊張と共に続きを促す。

 殊更に神妙な顔つきとなった魔道貴族が、口を開く。

「貴様が以前に言っていた借りとやら、ここで返して貰うことは可能か?」

「ええまあ、仰って頂ければ幾らでも力になりますが」

「であれば、う、うむ……これからの事は他言無用で頼む」

「……分かりました」

 なんだろう。

 どれだけスケールの大きな話が飛び出してくるのか。まさか、やっぱりプッシー共和国と戦争しますとか。それとも今度は王様が妙な病気を罹患して国の行く先がヤバいとか。あぁ、クリスティーナが高級住宅街で暴走、なんて割と普通に有り得るぞ。

 むっちゃドキドキしてきた。

 ここまで殊勝な態度を見せるオッサンとか初めて見る。

「それでなんだ、こういうことは私自身も初めてなのだが……」

 魔道貴族は酷く緊張した様子で、続くところを口とした。

「……好きな女が、できた」

「…………」

 すげぇ想定外なの来た。

 恋バナかよ。

 っていうか、そんなこといちいち俺に相談するなよ。

「……そ、それは、ファーレンさんに、でしょうか?」

「うむ……」

 マジか。

 だからなんだよ。

 イケメン自慢か?

「しかし、ファーレンさんには奥さんがいらっしゃるのでは」

 貴族だし一夫多妻は当たり前とか違うのかね。

 まさか遠回しにハーレム自慢か?

 いやいやいや、くたばれよ。

「誰が結婚しているだと?」

「え?」

「独り身に決まっておるだろう?」

「…………」

 なにそれ。

「魔道を極めるべく道を取ったのであれば、女にうつつを抜かしている猶予など寸毫たりとも有り得ん。そのような時間があるのであれば、より一層のこと魔道に励むべきである。これこそ魔道を行く者の定めだ」

「…………」

「……と、これまでの私は考えていた」

「そ、そうですか」

 マジかよ。てっきり既婚者だとばかり思ってた。

 ふと思い出されたのは、トリクリスのお城で開かれたエステルちゃん主催のご褒美タイム。そこで謁見の間に眺めた魔道貴族を核としたハーレムだ。なるほど、今ならば理解が叶う。あの多連装セクシャルビームはヤツの独身が所以のものであった訳だ。

 というか、ちょいと待てよ。

 その言い方だと、もしかしてこのオッサン――――。

「ファーレンさん、一つ良いですか?」

「なんだ?」

「失礼ですが、もしや女性経験が……」

「……無い」

 ないっ、ないっ、ないっ、ないっ……。

 魔道貴族のセリフがエコーを響かせて脳裏に染み渡る。

「なんと……」

 まさかの大童貞に感動した。

 俺の中で魔道貴族に対する親近感がレベルMAXだ。

「だからこそ、貴様に、相談しに来たのだ」

「な、なるほど……」

 いや、童貞が童貞に相談してどうするんだよ。

 ゼロにゼロを足してもゼロだぞ。

「しかし私は平民ですので、貴族の方のお付き合いというのは少し……」

「相手は貴族では無い」

「そ、そうなのですか?」

「おかしいか?」

「いいえ、そうは思いません。人の好いた惚れたに身分は関係ありません。ファーレンさんの言葉を借りるのであれば、それは魔法の道と大差ないものかと」

「うむ。貴様ならば、そう言うだろうと思った。だからこそ、こうして、貴様の下まで相談しに来たのだ。昨晩に下した私の判断は、間違っていなかった」

 目元に大きな隈が出来ているのはその為か。

 恋煩いで夜も眠れないとか、四十過ぎのオッサンがやることじゃねぇよ。

 ナチュラルにキモカワしてくれてもう。

「…………」

 そもそも、こうして告白されたところで、俺はどうすれば良いのだ。

 魔道貴族の目に叶う異性とか、正直、想像つかないだろ。

「相手は、貴様も知っている者だ」

「えっ……」

 まさか、ソフィアちゃんじゃないだろうな?

 だとすれば、俺はこの場でファイアボール余裕。

 全てを燃やし尽くして国外逃亡する心意気。

「ど、どなたでしょうか?」

「…………」

 ポッと顔を赤らめて視線を逸らす魔道貴族。

 キモいからそういうの止めてくれよ。なんで三十過ぎのオッサンが、四十過ぎのオッサンと、青春ごっこしなきゃならないんだよ。遅すぎるだろ。あまりにも遅すぎるわ。せめて、ソフィアちゃんを同席させて中和したい。

「……クリスティーナだ」

「……え? あ、あの、それって……」

「あのエンシェントドラゴンのメスだ」

「え、えぇ、その点は理解していますが」

 酷く驚いた。

 よりによってあのロリドラゴンだ。

 しかし、あぁ、冷静に考えると、たしかに魔道貴族らしいチョイス、なのかも知れない。この魔法キチガイが普通のヒューマンタイプに惚れるとは思えない。であれば、なるほど、ドラゴンという結末は非常に理に適ったものだ。

「…………」

 ただ、なんだろう、胸がザワザワするぞ。

 これは、ほら、あれだ。

 ヒロインが主人公以外とくっつくタイプの展開。主人公がメインヒロインと接近するに応じて、ハーレム要因だった他のヒロインが友人ポジのモブとくっつく系のストーリー。とりあえずパーツ余ったし、もう一台余分に組んじゃおうみたいな。

 そういうの大嫌いだわ。

 ハーレムだよ。男だったら、ハーレムが最高なんだよ。

 余ったパーツも頑張って付ければ、くっ付くかもしれないだろ。

 マシンは一台あれば十分である。

「…………」

 好きか嫌いかと問われれば、確かにロリドラゴンは嫌いだ。

 けど、他の男に娶られたヤツの姿は、たぶん、もっと嫌いだ。

 嫌いだけど、可愛いのだ。

 中身は大嫌いだけど、外面は大好きだ。

 スジマンに罪はない。

「…………」

 もしも、こうして尋ねてきたのが、アレンやゴンザレス、ノイマンさんといった面々であったのなら、ああそうですか、早々にお帰り願ったことだろう。ソフィアちゃんと過ごす麗らかな午後を押してまで交わす言葉はない。

 だがしかし、今、自身の目の前に腰掛けているのは魔道貴族だ。

 コイツは良いヤツだ。

 世話にもなった。

 ギブとテイクを比較すれば、圧倒的にギブされている。

「…………」

 しかも、なによりも、同じ童貞だ。

 仲間なんだ。

 同士なんだ。

 先輩なんだ。

 であれば、そんなヤツの為に力となるのは、あぁ、分かった。分かったさ。

「……分かりました。ファーレンさん」

 俺は膝を打って魔道貴族に向き直る。

 ジッとその顔を見つめて、言ってやるのだ。

「貴方の想いが成就するよう、そのお手伝いをさせて頂きます」

「よ、良いのか?」

「ええ、他の誰でも無い、貴方からのお願いです」

「……そうか。それは……うむ、助かる」

 くそう、なんてらしくない顔をするんだ、魔道貴族め。

 ちょっと可愛いタイプのオジサンになってやがる。



◇◆◇



 魔道貴族に連れられて向かった先は、学園に所在するヤツの研究室だ。

 なんでも同フロアに所在する部屋はどれも、他と比較して上等な防音の魔法が掛かっているそう。伊達にお偉い貴族様方が最先端の魔法技術を研究していない。そうした施設を我々は今まさに恋バナへ利用しようというのだからオーバースペック。

 いいや、大貴族のお家事情と考えたのなら、決してそうでもないか。

「それで、その、なんだ。詳しい話なのだが……」

 部屋の間取りは学園の寮と同じような感じだ。

 共用の内廊下を抜けて先、玄関から各室の廊下が続く分譲スタイル。寮では居室に相当するスペースが、こちらでは実験室的な位置づけとなっている。他に幾つか部屋があるようだが詳細は知れない。

 現在、我々の所在はと言えば、エントランスに程近い応接室である。

 ソファーに腰掛けてのやり取りだ。

「まず最初に窺いたいのですが、彼女のどういった点に惚れられたのですか?」

「むっ……そ、それは、だな……」

 アドバイスをするには確認が必要だ。

 気にならないと言ったら嘘になるけど。

「うむ、どうにも言葉とすることが難しい。それを無理矢理にでも伝えるのであれば、筆頭に上がるのは、まず、あの問答無用な存在感だろう。共に並び立っている限りであっても、ピリピリと来るところが堪らない」

 確かに一緒にいると緊張するよな。

 いつ腹パンを繰り出してくるか、考えると夜も眠れないわ。

「また、非常に優れた頭脳を伴う点も素晴らしく思う。下手に語り掛けては、こちらの全てを見透かされているのではないかと、自らを信じられなくなるほどの英知だ。しかし、一方で他者に対する機微に疎いあたりも評価が高い」

「なるほど……」

 まさか魔道貴族が威力系人外ロリータの魅力を理解しているとは想定外だ。

「であれば、それを素直に伝えてみては如何でしょうか?」

「と、当人へ伝えるというのか?」

「ええ。私が多少ばかり言葉を交わした限りですが、彼女は非常に承認欲求が強い。そして今にファーレンさんが挙げられた点は、彼女自身が是とするところです。であれば、これを他者から褒められることに良い顔をする可能性は高いかと」

「なるほど……」

「ちなみに本人は?」

「まだ屋敷で寝ている」

「そう言えば一昨日の晩から預かって頂いていましたね」

「うむ」

 しかし、あのドラゴンが人に靡くだろうか。

「…………」

「…………」

 多少を考えてみたところで、一向に答えは出てこない。

 ただ、かなり積極的にアピールしない限り、意志すら伝わらないだろうとは自然と至った。愚鈍とか鈍いとか、そういうレベルではない。伊達に種族を越えていない。サイズ的には蟻と象である。凡そ勃起したり愛液を垂らしたりするような関係ではない。

 魔道貴族のラブをお届けするには、これを超越する何かが必要なのだ。

「ど、どうした? 急に黙りおってからに」

「種族的な違いもありますし、恐らくは意欲的なアピールが大切かと」

「……やはりそうなるか」

「既に何か考えが?」

「うむ、無いことは無い、と、思いたいところだ」

「であれば是非とも行きましょう。躊躇する事にメリットはありません」

「あぁ、確かにその通りだろう。貴様の言葉は正しい」

 流石は魔道貴族、どうやら既にある程度のプランは持っている様子だ。となると、我が家をわざわざ訪れた理由は、単純に最後の一歩、背中を押して欲しかっただけなのかも知れない。そんなふうに思った。

 妙なところで乙女な野郎だわ。

「どのような算段が?」

「あぁ、それなのだが……」

 魔道貴族が続くところを語ろうとした頃合だ。

 不意にコンコンとドアノブをノックする音が届いた。

「むっ、客か……」

「客ですか? 部屋は人払いをされていたのでは?」

「いや、これは廊下に面したドアより伝わる音だろう」

「そうなのですか? それにしてはハッキリと聞こえましたが」

「うむ。ノック音に限っては聞こえないと不便な場合も多い。廊下に通じるドアを叩いた音だけは、例外的に他へと迂回の魔術回路を経由して、各部屋に設けられた戸口まで届くよう設計している。これが地味に面倒であった」

「なるほど」

 そんな些末なところまでアンタのお手製かよ。

 ほとほと感心してしまう。

 魔道貴族ならソロで産業革命してしまいそうな勢いある。

「恐らくは学技会の件だろう。丁度良い、今の話にも繋がり、貴様にも伝えておきたかった用件だ。少しばかりここで待つと良い。すぐに戻る」

「ええ、分かりました」

 学技会ってなんだい。

 聞いた感じ、なんか学会的な響きである。



◇◆◇



 しばらくを待つと、魔道貴族が人を一人連れてやって来た。

 ドアの先、姿を現わしたのはヤツの他に若干一名。

「えっ……」

 見知った相手だ。

 錬金術の授業を担当していた推定人妻のリディアさん。確かフルネームをリディア・ナンヌッツィと言ったか。ネチっこいフェラしそうな苗字だったので覚えてた。三十代中頃、熟年のマダム然とした雰囲気の持ち主だ。穏やかな目元が特徴的である。

 ゆったりとしたローブを着用の上、やはり彼女もまた貴族なのだろう。金の刺繍が入ったグレーのマントを羽織っている。落ち着いた茶色の長髪を肩の辺りで一括りにしてサイドに流しており、その毛先が豊満な胸の谷間へ垂れている点が目を引く。

 最近、年のせいなのか不倫という単語に魅力を感じるんだよな。

 感覚としては血の繋がった妹と同系統のそれだ。若干、弱いけど。

「ファーレン様、そっ、そちらの方は……」

 相手もこちらの存在に気づいて声を上げる。

 少なからず上擦っているのは驚きの為だろうか。

「学技会の迎賓席に向かえようと思っている。名をタナカという」

「どうも、授業ではお世話になっております。リディア先生」

「えっ!? き、貴賓席ですかっ!?」

 挨拶も間々ならず、驚愕に声を荒げるマダム・リディア。

 まさか他に客人の姿があるとは思わなかったのだろう。

 魔道貴族とは同じ教員同士で面識があるのだろうが、俺は生徒だ。こんな場所でエンカウントしたのなら、驚くのも自然なこと。これでなかなか学園では高い位置に腰を据えているらしいロリコン貴族であるからして。

「知り合いか?」

「はい。私の受けている講義の一つを担当されていらっしゃいます」

「ほう、そうだったのか」

「ええ」

 まさかこのような場所で出会うとは思わなかった。

 彼女は驚いた表情のまま、魔道貴族へと問い掛ける。

 こちらは完全にスルーだ。

「あの、ほ、本当に迎賓席へお連れして、よろしいのでしょうか?」

「言葉通りの意味だ。私の一存により生徒として収まっているが、本来であれば私に並んで然るべき存在だ。この学園の在り方を知るには、学技会こそ良い機会であろう」

「ファ、ファーレン様に並ばれる存在ですかっ!?」

「そうだ」

「そんなっ……」

 リディアさんの驚愕再び。

 しなくて良いところで無駄にヨイショしてくれる魔道貴族。

 そういうのはソフィアちゃんの前でやって欲しいものだ。

「実行委員を務める貴様には悪いが、例年に加えて幾つか余分に席を用意して欲しい。最終的な数の確認は当日に行うものとして、メイドも十分に用意するのだ」

「はい、迎賓席を追加ですね。しょ、招致致しましたっ」

「うむ。それと間食に甘いものを多く用意しておけ」

「は、はいっ! 甘いモノをたくさん用意させて頂きますっ!」

 幾分か萎縮した様子に頷くリディアさん。彼女に取っての魔道貴族とは、仕事に厳しい上司みたいなものなのだろう。復唱する声も随分と張って思える。

「…………」

 なるほどな。

 今のヤツの発言で理解した。席を幾つか余分に追加と言った。例年に無い招待客が俺以外、他に想定されるとすれば、それは件のロリドラゴンの可能性高し。

 甘いもの云々はヤツの餌としてだろう。

 なるほど、自分のフィールドに持ち込んでアピールする算段か。なかなか悪くないじゃないか。魔法に関するあれこれであれば、共通の話題としても申し分ない。

「それで貴様からの用件はなんだ?」

「はい。そろそろ明日の打ち合わせをと教職員の皆様が……」

「むっ、もうそのような時間であったか」

 魔道貴族の顔が顰められる。

 どうやら時間が押しているよう。

「お忙しいところ大変に恐縮ですが、会議室までご足労をお願い致します」

「分かった」

 深々と頷く魔道貴族。

 となると本日の打ち合わせはここまでか。

「そういうことであれば、今日のところはここいらで失礼しますね」

「あぁ、貴様には足を運んだばかりのところで悪かった」

「いえいえ」

「明日、朝一で馬車を向かわせる。特に支度はせずとも良い。学技会とは魔道を行く者の為の会だ。貴様もきっと気に入るだろう。多少であれば共連れも構わん」

「分かりました。それじゃあ失礼しますね」

「うむ」

 ソファーより立ち上がり、二人に会釈をしつつ部屋を後とする。

 よく分からないが、明日の予定が立ったよう。



◇◆◇



 魔道貴族の研究室から寮に戻った。

 リビングに足を運ぶと、そこにはソフィアちゃんの姿が。なにやらソファーに横となり書籍など読んでいる。テーブルにはお茶とお菓子が用意されて、時折、これに手を伸ばし、パクパク、ゴクゴク、やりながらの読書風景である。

 なんというか、専業主婦っぽくて良い。メイド姿と相まって凄く良い。

 完全に気を許している感じが、とても心温まるじゃないか。まるで長年付き添った夫婦のようですね。たまに右の足の指で左の脹脛のあたりをかいかい、掻いてみたりする様子が、生の女の子の生態って感じで興奮する。

「なにを読んでらっしゃるのですか?」

「っ!?」

 それとなく近づいて声を掛けた。

 すると酷く驚いたよう、ビクリ、ソフィアちゃんの全身が震えた。

「たっ、タナカさんっ!?」

 こちらの帰宅に気づいていなかったようだ。

「集中しているところをすみません。今し方に戻りました」

「す、すすすすっ、すみませんっ! すぐにお茶のご用意をっ!」

 大慌てに立ち上がり、逃げるようにキッチンへと向かってゆく。

 ちょっとショック。

 足が速くて経験値が多いタイプのモンスターに逃げられた気分。

 そのまま足がにゅーんと伸びて来ると共に、だいしゅきホールド攻撃して欲しかった。異性からの無償だいしゅきホールドこそ童貞の悲願。万が一にも喰らったのなら、何十ターンだろうと捕縛ステータスを維持する自信ある。

「…………」

 いや、今は下らない妄想をしている場合じゃない。

 確認をしなければならない。

 ソフィアちゃんがアレンと共に過ごしたという、自らの留守であった数日の軌跡を。

「…………」

 しかし、素直に膜の有無を問い掛ける訳にはいかない。

 どうしたものか。

 悩んでいると、不意に玄関の方から賑やかな声が聞こえてきた。

「わ、私よっ! エステルよっ! 入るわねっ!」

 誰であるか尋ねる必要が無い。とても分かりやすい。

 こちらの返答を待たずに足音が続く。

 ロリビッチ、我が家へ勝手に入ってきたようだ。

 鍵はちゃんと掛けてる筈なんだけど。

 ややあって、リビングから廊下に通じるドアが開かれる。その先より姿を現わしたのは想定した通り、腰下まで伸びた金髪も麗しいロリータだ。制服姿でなく、いつぞやの男装姿である点からして、どうやら学外へ足を運んでいたよう。

 対象が顔を覗かせたところで先制攻撃。

「どうも、こんにちはエステルさん」

「ええ、こんにちは! 一日ぶりねっ!」

 幾分か緊張した様子でこちらを見つめてくれるロリビッチ。

 自ら語ったとおり顔を合せるのは一両日ぶりだ。

「あら、ソフィアは一緒じゃないのかしら?」

 リビングをキョロキョロと見渡し、問うてくる。

「キッチンに居ますよ」

「そうなの? じゃあ失礼するわね」

 かと思えば、言うが早いか炊事場に向かい、ズンドコ歩んでゆく金髪ロリータ。我が家のメイドさんに御用らしい。まあ、存外のこと仲が良い二人だから、そういうこともあるだろう。本の貸し借りとかしていても不思議じゃない。

 自分と魔道貴族のような間柄なのだろう。

「…………」

 だもんで、ちょっと気になる。

 二人のトークが気になる。

 最近、事ある毎に暴走傾向が目立つエステルちゃんだ。うちのソフィアちゃんに変なちょっかい出さないか心配である。世話を焼いてくれるメイドさんに気遣うのも主人の役目。これを確認するのは当然の努め。そう、当然なのである。

 抜き足差し足忍び足

 彼女の後を追うよう、キッチンの側に向かうこととした。



◇◆◇



 キッチンとリビングダイニングとを隔てる壁に身を隠し様子を窺う。

 意識を向けた先では、既に二人がお話を始めていた。キッチンを前にコンロで湯を沸かすソフィアちゃんと、その下に歩み寄った金髪ロリータ。都合、互いに手を伸ばせば触れられる距離に向かい合ってのことである。

「ソフィア、ひとつ確認したいことがあるのだけれど、良いかしら?」

「は、はひっ、なんでしょうかっ!?」

 真面目な表情に問い掛けるエステルちゃん。

 その気配から自然と姿勢を正すソフィアちゃん。

「もしかして、貴方なのかしら? 彼が言っていた好きな人というのは」

「え?」

 想定外のイベント発生。

 まさかの直球、どんぴしゃである。

「ドリスが治める街で彼が言っていたでしょう? 好きな人がいると」

「あ、は、はい……」

「私はそれがどうしても気になるの」

 ジッと正面から我が家のメイドさんを見つめるロリビッチ。

 背丈の相違から、後者が前者を見上げる形だ。

 ただ、両者の力関係を鑑みれば、後者が前者に見下ろされているように映る。というか、ソフィアちゃん、今にも泣き出しそうな表情だ。マジモードのエステルちゃんの眼差しは凛とした顔つきや貴族という肩書きと相まり、平民には少しキツい感じある。

「いえっ、そんなことはまったくないかとっ!」

「そうなのかしら?」

「私など、た、ただの町娘ですっ! タナカさんのような立派な方が惚れるようなことは、万が一にもありませんっ! え、エステルさまにこそ相応しいと思いますっ!」

「いいえ、私など相応しくは無いわ。ただ、一方的に追い掛けているだけよ」

「ですがっ……」

「むしろ距離感を考えれば、貴方の方が遙かに近いわ。彼の視線、たまに貴方へ向かうでしょう? まさか理解していない訳ではないわよね?」

「それは、あの、そ、そうかも知れませんがっ……」

 なんとっ! 気づいていたのかエステルちゃん。

 女は異性の視線に敏感とか、なにかの雑誌に眺めたことがあるけれど、あれって本当だったのか。自身のことならまだしも、他人が他人の胸を眺めていることまで把握されているなんて思わなかった。

 くそう、今後は気をつけなければならないぞ。要注意だロリビッチめ。

 まあ良い。今は二人のトークへ意識を集中しよう。

「であればこそ、気づくところもあるのではないかしら?」

「い、いえっ! そんなことはありませんっ! それに、あ、あのっ、私もタナカさんのメイドをしてはおりますが、その、ほ、他に好きな方がおりますので……」

「……本当かしら?」

「はいっ! ほ、本当ですっ! 本当なんですっ!」

 なんてこった。

 ソフィアちゃん、好きな人がいるってばよ。

 そうか。そうだったのか。

「……窺っても良いかしら?」

「いえ、それはその、少しお伝えしにくいというか……」

「もしかして、アレン?」

「っ!?」

 ビクリ、ソフィアちゃんの身体が震えた。

 反応良すぎるよメイドさん。童貞の俺でも分かるし。

「やはり貴方は良い子ね、ソフィア。私に気遣いをくれるなんて」

「いえ、あ、あの……」

「構わないわ。確かに私はアレンに惚れていた。けれど、全ては過去のこと。貴方が私に気遣う必要なこれっぽっちもないの。自由に自分の想いを貫くと良いわ」

「で、ですが、その……お二人が縒り戻す可能性もあるかと……」

「ないわね」

 即断、きっぱりと言い放つ金髪ロリータ。

 同性であるソフィアちゃんからも心配されているのだから、これはもう間違いないだろう。絶対に復縁するって、この金髪カップルは。だから、どうかお願いだから、アレンはそっちで引き取ってやって欲しい。

 ソフィアちゃんという可能性を、どうか、どうか残しておくれ。

「まあ、そういうことなら、納得かしら」

 満足げに笑みを浮かべてみせる金髪ロリータが恨めしい。

「無理に聞いてしまってごめんなさい。ソフィ」

「……いえ」

 こちとらショックだ。

 酷くショックだ。

 なんというか、ショックだ。

 理解はしていたけれど、改めて耳とするとダメージ大だろ。

「ただ、アレンはとても手が早いから、苦労するかも知れないわね」

「え? い、いえ、別に、手が早い分には……」

「そう? というとソフィーは、まだなのかしら?」

「っ……」

 躊躇なく核心を突いたロリビッチ。たまには良いことを口にする。それだよ。それが気になっていたのだよ。昨晩からずっと悩んでいたところだ。

 ともすれば、ソフィアちゃんは首を縦に。

「……は、はい」

 きた。

 膜有り判定きた。

「それなら尚のこと大切にした方が良いわよ。最初は一度しかないのだから」

「そう、ですね。でも私は、あ、アレンさまなら……」

 膜があるのならば、まだ可能性はゼロではない。

 とは言え、一連のやり取りに垣間見た、ソフィアちゃんの照れ照れとした表情を鑑みるに、九回裏二死満塁にも等しい状況である。

 このままではいかん。

 ここ最近は一つ屋根の下、メイドさん姿でご奉仕とか、非常に恵まれた状況にあり意識が低下していた。このまま時間を過ごせばやがては、なんて甘いことを考えていた。

 いかん。いかんぞ。

「…………」

 なんとかしなければならない。

 若返りの秘薬とか完成するのを待ってる場合じゃないだろ。

「ところで、ソフィ、そのボトルはなにかしら?」

「え?」

「コンロの横に置いてある、その黄色い液体が入ったボトルなのだけれど」

 ガラスっぽい材質に作られた透明の容器。

 これになみなみと黄色い液体が充ちている。

「っ……」

 途端、ソフィアちゃんの顔が強ばった。

「な、なんでもありませんっ! タナカさんが好まれるもので、あの、い、いつもお茶にブレンドしているのですが、他の方にはお口に合わないこともありましてっ!」

「あら、それは興味深いわね。私も飲んでみたいわっ!」

「ぅ……」

 おう。それは初耳だ。

 ソフィアちゃんが自発的に気を利かせてくれていたのだろうか? だとすれば、これほど嬉しいことはない。主人の為に創意工夫してくれるメイドさん。そこにはやはり、雀の涙ほどであっても、可能性というやつが残っているのではなかろうか。

 うむ。諦めるのはまだ早い。

「駄目かしら?」

「いえ、こ、これはその、まだ飲める状態になくてですね」

「そうなの」

「は、はい。もうしばらく寝かせないと無理なのです」

「なるほど。それは残念ね」

「いつか、ちゃ、ちゃんとしたものが出来ましたら、是非ともエステルさまにもご賞味頂けたらと思いますので、どうか、い、今すぐというのはご容赦をっ」

「そんなに慌てなくても大丈夫よ。無理など言わないから」

「ありがとうございますっ」

 少し考える時間を取ろう。

 早急なる解決を図らねばならない。

 とりあえず、外に出ようか。



◇◆◇



 ということで、学園寮を後として首都ベニスの街にやってきた。

 大通りを人混みに紛れながら歩む。

 その思考が巡るところは男女間の恋愛というやつである。

 これまでの自分はどうかしていたのだ。まずは自身の外見を省みよう。三十代の醤油顔で、背丈がパッとしなければ、体付きも並、いいや、肉体労働者が主産業を支える筋肉全盛の中世ファンタジーな世界観においては、最底辺に位置すること請け合い。

 そんな男が若くて可愛い女を射止められるだろうか。

 答えは否だ。

 右を見ても左を見ても、可愛らしい美少女ばかりの環境に勘違いしていたのだろう。この狂った脳味噌は。冷静に思い返せば、スイーツ系アラサーが結婚相手として年収一千万のイケメン二十代を求めることと大差ないように思える。

 であれば、自身は何を求めるべきか。

 これを補って余るだけの魅力を手に入れなければならない。

「魅力……か」

 ぶっちゃけ、お金しか選択肢ないよな。

 愛と金は等価だとゼクシィが教えてくれた。

 ブーケとか沢山投げて欲しいし、ライスもフラワーもフェザーもシャワーされたら最高にハッピーだろう。バルーンリリースとか空が埋もれるほど挙げてみたい。良いよな、結婚式。憧れる。

「……だからこそ、稼がないと不味い訳だ」

 ドラゴン貯金、金貨二百枚が碌に手付かず残っている為、当面は生活に困ることもないだろう。たしか金貨一枚で銀貨百枚。銀貨一枚が一万円くらいの価値だったと記憶しているので、凡そ二億円程度の現金が手元にある訳だが。

「それはソフィアちゃんも同じであるからして……」

 金貨の百や二百ではお話にならない。

 思えば彼女は首都の繁華街に店を構えた定食屋の娘さんである。仮に実家の土地や建物が賃貸でなく所有であった場合、以前に窺った界隈の地価を鑑みれば、町娘としてはかなり資産のあるほうだろう。

 どちらかと言えば、婿を取る側である。

 或いはお貴族様の元へ嫁いでもおかしくない美しさだ。

 対して自分はどうよ。

「……全力で劣ってるよな」

 というか、そもそも自分が欲しいのは相思相愛なラブチュッチュである。まさか金銭前提の関係ではない。きっかけこそ金銭であっても、その先に待つのはピュアな胸キュンでなければならないのだ。これ絶対。

「…………」

 しかしながら、ブサイク野郎が交際を金銭スタートしたのなら、ゴールまで金銭しかルートない気がする。感情の分岐点が一つも見つけられない。お金じゃなくて僕自身を愛してくれ、なんて言ったら、即日で離婚届を叩き付けられそう。

「…………」

 どうしたものか。どつぼにハマりそうだ。

 魔道貴族の恋愛相談とか受けてる場合じゃないだろ。

 なんて必至にあれこれ考えながら足を動かしていると、気づけばいつの間にやら、見知った通りを歩いていた。

 覚えのある建物の並びを脇に眺めながら、少しばかり歩むと、やがてその建物が見つかった。いちどは自らの所有物となった一軒家である。

「随分と久しぶりな気がするわ」

 エディタ先生のアトリエだ。

 考えごとをしていたら、自然と辿り付いてしまったようだ。

 飢えた心が自身に優しくしてくれる金髪ロリを求めているよう。

 癒やし系スージーを。

「……挨拶でもしてゆこうか」

 せっかくだしな。

 いつでも来て良いって言ってくれたしな。

 目当ての建物の下、少しばかり歩みを早くして向かう。そして、見慣れたドアを前にノック。コンコンコン。一度では反応がなくて、二、三度ばかり繰り返す。二階に居ると、玄関ドアのノック音って聞こえにくいんだよ。経験則。

 すると、しばらくして先生が顔を出した。

 少しばかり開いたドアの向こう側から、顔を半分ばかり出すよう、にゅぅ、って感じ。どうやら今の今まで眠っていたらしく、ガウンっぽい衣服を羽織っており、下ろされた髪は寝癖にところどころが跳ねている。

「……オマエか」

「どうも、もしかして睡眠中でしたでしょうか?」

 もう昼過ぎだけどな。

 かなり不規則な生活送ってるみたい。

 とてもしっくりくるけどさ。

「なんだよ? 急に家までやってきて……」

「いえ、偶然近くを通りましたので、ご挨拶にと」

 寝起きの金髪ロリータは見た感じお肌と髪の柔らかさ三割増し。

 おかげで最高に可愛い。

 目尻の垢を集めてペンネ、ラブソースで美味しく頂きたい。

「……挨拶? 本当にそれだけか?」

「ええまあ、取り立てて用件という訳ではないのですが」

「…………」

 ジッとこちらを見つめてくれるエディタ先生。

 寝起きで機嫌が悪いのだろうか。ちょっと目付きが厳しい。釣り目がちなお目々にジト目がとても良く似合う。碧眼が無造作セットの金髪と相まって良い感じだ。

「寝起きのところすみませんでした。また出直すこととしますね」

「わ、分かった。ちょっと待ってろ。いいか? ちゃんと待ってろよ?」

「え、良いんですか?」

「いいからここで待ってろっ!」

 有無を言わさぬ物言いで確認を取ると共に、先生は玄関の向こう側へと引っ込んでいった。それからしばらく、ずたん、ばたん、どしん、賑やかな音が閉じられたドアの向こう側、二階の辺りから響き始めた。

 急な来客を受けてお片付け、といったところだろう。

 もしかしたら、結構ずぼらな性格なのかも知れない。

 汚部屋系ロリータとか、最高に魅力的。むしろ、聖域。全裸でダイブしたい。使い捨てられたタンポンとか放置してあったら、ティーパックの代わりにする自信ある。スプーンの背中でしっかり圧してエキス抽出するわ。

「…………」

 ややあって、ズダダダと勢い良く階段を下る音が。

 然る後に再び玄関ドアが開かれて、先生が姿を現わした。

「良いぞっ、は、入れっ!」

「あの、なんか本当にすみません……」

「いいから、ほらっ、入れよっ」

「ども」

 促されるままにご自宅へと足を踏み入れた。



◇◆◇



 通された先は二階に所在するリビングである。互いに向かい合う形でソファーに腰掛けてのトークタイムだ。正面、足の短いテーブルの上には、今し方に先生が入れてくれたばかりのお茶が湯気を上げる。

 姿恰好は相変わらずのガウンっぽい何かを羽織った限り。

 裾の丈が膝上辺りまでであるからして、そこから先、スラリと伸びたムチムチの生足があまりにも艶めかしい。もしかしたら、下に何も着ていないんじゃなかろうか。妄想が捗る。たまに居るじゃん、裸で寝るタイプの人って。

「お休みのところ、本当にすみませんでした」

「用件はなんだ? まさか用もなく来た訳じゃないんだろ」

 足を組み直したところで、真剣な表情で問うてくるエディタ先生。

 応じて、太股の深いところまでがチラリズム。肝心な部位は漆黒の只中。だがしかし、我が息子は速攻で勃起した。もしかしたら履いてないかも知れない。でも普通は履いているだろ。しかしながら、やっぱり履いてないかも知れない。

 そういうことだ。

「…………」

 おかげで、こちらも足を組む羽目となる。

 ふっくらしてしまった息子を太股でカバーだ。

「……どうした?」

「い、いえ。本当に用件という用件はなくてですね……」

 強いて言えば、こうして生足を拝むことが一番の用件だ。舐めたくて仕方がない。ソフィアちゃん関連で心が荒んでるから、殊更にペロペロしたい欲高まってる。

 とは言え、流石に話題は用意しなければなるまい。

 話題、話題、なんかないか、話題。

 あ、あった。

「あぁ、そうだ。そう言えば一つ、エディタさんにお誘いがありまして」

「……わざわざ勿体ぶった物言いだな? さっさと言えよ」

「エディタさんは学技会というものをご存じですか? 私が通っている学園で行われている、なんでも魔術に関連した催しなのだそうですが」

「それはあれか? この街の王立学園が毎年この時期に開催しているという」

「はい。恐らくはそれかと思います」

「それがどうした?」

「もしよろしければ、私と一緒に参加しませんか? 参加とは言っても、用意された席で聴講する限りだとは思いますので、それでもよろしければなのですが」

 魔道貴族も多少なら誘って良いと言っていた。優秀な錬金術師である彼女ならば、ヤツも決して嫌な顔はするまい。王女様の治療薬を作成する折には、その名前も功労者の一人として伝えてある。恐らくは歓迎してくれるだろう。

「……おい、それは本当か?」

 すると、幾分か畏まった様子で先生は問うてきた。

 顔がマジだ。

 ちょっとビックリしてる。

「ええ、私自身も誘われた身の上なのですが、他に数名程度であれば一緒で構わないと案内を受けたので、よろしければエディタさんもご一緒にいかが……」

「行くっ! 行くぞっ!」

 速攻だ。

 エディタ先生が釣れてしまった。

「もしやご興味が?」

「当然だろう!? 国立学園の学技会と言えば、その手の集まりの最高峰の一つとして挙げられる。学園都市ギヴァナの各学会の定例と肩を並べるほどだっ」

「な、なるほど」

 どうやら随分と有名な催しであったらしい。

 また一つ賢くなったな。

「であれば、急なお話で申し訳ないのですが、明日、朝の早い時間に学園の寮、私の部屋までいらっしゃって頂いてもよろしいですか? 案内が来る予定ですので」

「分かった! 朝一で向かうっ!」

「ありがとうございます、では、そのような形でお願いします」

 爆釣れだ。

 ちょっと魔道貴族っぽくて嫌なんだけどさ。

「しかし、よ、良かったのか? 学技会への参加条件は非常に厳しい筈だ。貴族でなければ抽選を受けることも叶わないと、以前、確認した際に言われたぞ」

「え、そうなんですか?」

「まさか知らなかったのか?」

「ええまぁ、私も今回が初めての参加でして……」

「……まったく、相変わらず掴めない男だな……貴様というヤツは」

「不勉強ですみません。いかんせん入学から間も無くありまして」

「だがしかし、今回はそんなオマエのおかげで、この私まで参加できる訳だ。本当に参加できるのだよな? 後でやっぱり駄目とか言わないよな? な?」

「確約を頂いているので、その点に関しては大丈夫だと思いますよ」

 あれで魔道貴族はマメな男だからな。

 そういう約束事に関しては安心できる。

「そうか、そうかぁー」

 寝起きのジト目は早々に失われて、うっとりとした表情のエディタ先生。彼女の喜ぶ顔が見れて俺も最高に嬉しい。とても幸せな気分だ。

 魔道貴族、今回も良い仕事をしてくれた。これは本腰を入れて、クリスティーナとの間柄を取り持ってやらねばなるまい。ギブされたら、ちゃんとテイクしないとな。

「もしよければ、今晩は我が家に泊まりますか?」

「え?」

「ここからだと、それなりに距離がありますし、もしかしたら、朝が苦手なのかと勝手に想像してしまったのですが。それとも馬車をアトリエまで回して……」

「泊まるっ!」

 またも即答だ。

 相当に気になっていたよう。そこまで良いものなのだろうか、学技会とやらは。分からない。まあ、明日になれば全ては白昼の下、その時点で判断すれば良いだろう。いずれにせよ、おかげで今晩は金髪ロリムチムチを我が家にお迎えできるぞ。

「では、そのようにしましょう」

 客間には余裕がある。自身の寝室とリビング、それにソフィアちゃん部屋を除いて、他に二部屋ほどが空室だ。お掃除もメイドさんの手により常日頃から行われている為、唐突な来客であっても問題はあるまい。

「そ、そうだな。ああ、それが良いだろうなっ」

「こちらのアトリエと比べると幾分か窮屈かも知れませんが」

「我が家に対する嫌味か?」

「いえ、自分のような輩と、一晩とは言え、同じ屋根の下というのが申し訳ないなぁと。あ、でも、他に面倒を見てくれている女性のルームメイトも一緒ですので、その辺りは安心して下さい」

「……オマエ、女と同棲してるのか?」

「言葉の使い方次第ですが、同棲と言えば同棲になるのかも知れませんね」

 あぁ、ソフィアちゃんを思い起こして少し悲しい気分だわ。

 せっかくエディタ先生のムチムチ太股で忘れ始めていたのに。

「というと、やはり結婚しているのか?」

「そんなまさか、結婚なんてお伽話の中の出来事のようです」

 あまりにも遠い。

 最近、未来永劫不可能なのではないかと疑いつつある。

「し、してないのか? その歳で。人間なのに」

 ピンポイントで痛いところ突いてくるな、このロリエルフ。

 この顔で結婚できる訳がないだろ。

 俺だったら十億積まれても無理だ。

「結婚したくても出来ない人というのは、いつだって一定数いるのですよ」

「……ふぅん?」

 よし、調子にのってセクハラしてやれ。

 先に話題を振ってきたのは先生だしな。

「そう仰るエディタさんこそ、ご結婚されていないのですか? 著作を読ませて頂いた限り、とても男性経験が豊富であるように映りましたが」

 著作「私と元彼」にはストーカーと化した元彼を懲らしめる為に試行錯誤するエディタ先生の努力が、数々の錬金アイテムを成果として示されていた。

 最終的に元彼は、先生の生み出した新作アイテムにより女体化。今は首都カリスの風俗街で、売れっ子風俗嬢として日々を満喫しているのだという。

 同著作に関しては、その文面からエディタ先生の焦りが窺えて、とても興奮した。ただ、肝心な元彼に対する描写が、全く描かれていなかった点が不満だろうか。

 エディタ先生の好みとか知りたかった。

「そうだな。ま、まあ、こう見えて私の男性経験はなかなかのものだぞ?」

「流石はエディタさんですね」

「おかげで並の男では満足できない身体になってしまったがなっ!」

「な、なるほど……」

 くそう、速攻でカウンター貰った。

 やっぱりこの手の話は女の方が有利だな。

 かなりキツいダメージ受けた感あるわ。

「どうした? 聞きたいか? この私の類い希なる男性経歴を」

「……すみません、参りました」

「あぁ?」

「独り身にそれは、やはり、流石に堪えるものがありますね」

 素直に頭を下げておく。

 すると彼女は首を傾げ、キョトンとした様子に問うてきた。

「人間の男は経験豊富な女に魅力を感じるんじゃないのか? 以前、街でやっていた舞台劇の類いで、そのようなことを熱心に主張していたぞ」

「それはなんというか、人によりけりではないでしょうか? こうした大きな街での演目となれば、その脚本も想定するお客に併せた形で作られる筈ですし」

「……そうなのか?」

「え、えぇ、恐らくは……」

「それなら、お、おい、オマエはどうなんだよ? オマエはっ」

「え? 私ですか?」

「ああ」

「そうですね……」

 問われるまでもない。

「どちらかと言えば、すみません、経験の浅い方が……」

 どちらかと言えば、ではありません。浅い方なんて曖昧な単語は嫌いです。最初はゼロじゃなきゃ嫌です。しかし、以後は一も千も変わりません。むしろ、ヤリマンビッチのビラビラとか大好きであります。

 素直に伝えたいところを我慢、丁寧にお伝えする。

「っ……」

 思えば異性らしい異性と猥談するのは、これが生まれて初めての経験ではなかろうか。敗北から謝罪を口にしたところで、けれど、妙な充実感が胸を一杯にしてくれた。金髪ロリと猥談するの幸せ。

 リア充の仲間入りした気分である。

「そ、そうなのか?」

「特定の個人がどうという訳ではなく、ましてや舞台劇の主張が人間にとっての普遍的な価値観という訳でもなく、この辺りは完全に個々人の趣味ではないかと」

「そうか……」

「恐らく女性向けの劇であったのではないですか?」

「確かに客の入りは女の方が多かったような……気がする」

「その辺りが理由ではないでしょうか?」

「…………」

 ちょっと気分を害した様子のエディタ先生。

 エルフと人とでは文化に対する認識に差違があるのだろうか。それともまたエディタ先生が錬金狂いの為、世俗に疎かった、という可能性もある。

 とまれ非常に賢い女性というイメージがあったのだけれど、どうやら自身の主戦場を離れては、想像した以上にピュアな性格の持ち主のようだ。

 故に実情がどうあれ、この場はフォローせねばなるまい。

 エディタ先生には嫌われたくない。

「とは言え、それもこれも全ては、私の女性経験から来るものでして……」

「……あぁ?」

「お恥ずかしい限りですが、この年になっても未だに経験がないのですよ。ですから、なんというか、憧れのようなものが先行しているのではないかと」

 できれば言いたくなかったところを告白して贖罪。

 せいぜい笑ってやって下さい。

 金髪ロリ嘲笑、この童貞野郎に恵んで下さい。

「え? 経験……ないのか? その歳で……」

「……え、えぇ、まぁ」

 繰り返さないでくれよ。

 恥ずかしいじゃん。

「そう、なのか? 本当の本当にないのか? 童貞なのか?」

「あの、あまり露骨に確認されるのは、少し……」

「…………」

 幻滅されたか? 可能性は高い。

 いつだか池袋で街コンへ参加した際のこと、エントリシートに彼女居ない歴を書く欄があった。素直に三十余才と記載したところ、面と向かって他の女性参加者から、流石にこれはないですよね、真顔で説教された経験が蘇る。十七名中三名から。辛かった。

 でも金髪ロリ仕様の幼女からだと、そうした突っ込みも嬉しい。

 スゲェ嬉しい。

 ウェルカム逆セク。

 貴方の放つハラスメントが、私の日々を生きる糧となる。

「そうか、そうなのか……」

「え、えぇ、そんなところです」

 とは言え、これでエディタ先生にまで距離を置かれたら大変だ。

 今晩のお泊まりもやっぱり止めておく、とか言われたら泣く。どうしよう。やってしまったかも知れないカミングアウト。やばい、凄く不安になってきた。もしかしたら、ダークエルフに首を切られた時より不安かも知れない。

 怖い。

 恐ろしいぞ。

「ということで、すみません、この話題はここまでに……」

「さて、それでは向かうとするか。貴様が暮らす学園の寮へと」

「え? も、もうですか?」

 おい、露骨にも話題を変えてきたぞ、このエルフさん。

 童貞マインドにダメージ極大だわ。

 話の前後が完全に断絶してるだろ。大事故じゃんコミュニケーション。

「駄目なのか?」

「いえいえ。ですが夜になってからでも遅くはありませんが……」

「ならば今から向かっても問題ないだろう。嫌か?」

「決して嫌という訳ではないですよ。むしろ歓迎しますとも」

「な、ならば問題はないな? さっさと向かおうじゃないかっ!」

「ですが……」

「それとも見られては困るようなモノがあるのか? んん?」

「い、いいえ、そういう訳ではありませんが」

 よく分からないテンションだ。

 正直、彼女が何を考えているのかサッパリ。

 とは言え、来て下さるというのであれば、こちらは全力でホストしよう。丹精込めて接待させて頂く所存である。一度でも多くパンチラが拝めるよう、シーンを機敏に捉えるべく意識を高く持って臨みたい。

 エディタ先生、ロリビッチ可愛いなぁ。

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