挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫

本文

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

37/132

紛争 十三

 翌日、我々は朝一で戦場からトリクリスに帰還した。

 際してはクリスティーナ自慢の翼に挑むこと飛行魔法レベル五十五という構図が再び。勝敗も変わらず。今回は事前の賭け事がなかったので空を飛ぶにも熱が入らなかった。精々、後ろにピタリと付いてパンチラを鑑賞した程度か。

 最中にはエステルちゃんがゲロを吐き散らかしたのも然り。これがソフィアちゃんの顔にヒットしたことも然り。本来であれば一日を要するところ、片道一時間のドラゴン超特急は、同行者の体調を犠牲にしての強行となった。

 そんなこんなで同日の昼過ぎ、トリクリスのお城に設けられた謁見の間でのこと。

 俺は膝を突いてへへーしている。

「この度のはたらき、まことに大儀でした」

 同所に開催されているのは、かれこれ三度目となるご褒美タイム。レッドカーペットの辿り付く先、段上に設けられた玉座の上には金髪ロリビッチの姿がある。

 これまでバーコードハゲのソロステージであった同イベントが、ついぞエステルちゃん本人の主催により行われる運びとなった。

 同じ頭を下げるでも、やっぱり美少女だよな。

 パンチラの可能性を鑑みれば絶対に美少女だよな。

 同所には過去二度と比較にならないほど関係者、主に貴族だろう者たちが押しかけている。幅広な謁見の間の壁際、所狭しと人が立ち並ぶ様相は圧巻だ。

 そうした只中で、膝を床に着いてヘヘーの姿勢。

 隣にはソフィアちゃんの姿もある。メイド姿のまま傅いている。ついでにガクガクブルブル、全身を小刻みに振るわせていたりもする。

 相変わらずの小物感が、堪らなく愛おしい。舌ベラで尿道ツンツンしたい。緊張からおしっこプッシャーしたソフィアちゃんを穏やかな眼差しに見つめたい。

「その多大なる奉を湛え、ここに褒美を与えるものとします」

「はっ!」

「一同、おもてを上げなさい」

 指示されるに応じて、短く言葉を返すと共に顔を上げる。ソフィアちゃんも一緒だ。更に彼女の傍らにはガチムチ系筆頭代表、ゴンザレスの姿がある。他にも活躍を見せた者は多いが、黄昏の団を代表して彼が呼ばれたそうだ。

 結果として、同所には自身を含めて三名が参加である。

「畏まった姿も、か、かっこいいわ……」

「はい?」

「な、なんでもありませんっ!」

 段上に眺めるロリビッチは相変わらずの男装姿。

 気に入っているのだろうか。

 可愛いけどさ。似合ってるけどさ。

 それとなく目玉を動かして謁見の間の様子を窺えば、玉座の斜め後ろ、部屋の奥の方には魔道貴族の姿が見受けられる。伊達に大貴族していない。その周りにはトリクリスの貴族たちがわらわらと取り巻きを作っている。

 もしかしなくても、エステルちゃんより人気あるっぽい。

 おかげで彼女の世迷い言はサラッと流れ流されてセーフセーフ。

 伊達に大貴族していない。

 ただ、むさっ苦しいオヤジ連中に囲まれているぞ、魔道貴族ざまぁ、などと思ったら、なんと、年若い女性の姿も少なからず確認できる。着飾った十代中頃たちが。しかも、それとなくセクシャルアプローチする姿が見て取れるではないか。なんだよ、おい。

 エステルちゃんの手前、目立たぬよう意識しているようで、交わされる言葉は欠片も拾えない。始業式や終業式の最中、校長先生のお話の最中に私語を慎まない学生のよう。ヒソヒ話というやつだ。

 それでも開けたドレスの胸元をチラチラと晒して見せたり、上目遣いにジッと見つめてみたりと、ちくしょう、ちくしょう。立派なハーレム空間を形成しておる。領主のありがたいお言葉なんだから、ちゃんと話とか聞いてあげようよな。

 四十を過ぎて、十代少女からのアプローチとか、羨ましすぎる。

 とか考えていたからだろうか、エステルちゃんからコールが掛かった。

「冒険者タナカ、二桁に及ぶ敵国との兵力差をものともせず、これをその采配に退けるばかりか、味方兵の負傷を僅か数名に抑えた貴方の功績は非常に大きいもの。よって、位を二つあげて、その役を軍属二等尉とします」

 また肩書きが上がった模様。

 こうもポンポンと上げてしまってよいのか。

「に、二等尉だとっ!?」「ちょっと待て、二等尉となれば、多くは貴族の位ではないかっ!?」「いやしかし、先の子爵の言葉からすれば、現時点においても准尉であったことが窺えるわけだが」「あのような平民が二等尉だなどと、許されるものなのかっ!?」

「仮に准尉であったとしても、そのような身勝手な昇進を許してよいのかっ!?」「あの平べったい顔を見ろっ! この国の人間ではないぞっ!」「肌の色もそうだ。リザードマンのようだっ!」「そも冒険者風情に尉官が勤まるものかっ!」

 早速、ああだこうだと反応が挙った。

 どうやら平民には高すぎる身分のよう。元は戦場に使い潰すつもりで適当に上げた肩書きであった筈だ。ゴンザレスもそのように言っていた。それが気づけばいつの間にか、割とシャレにならないところまで到達していたよう。

 バブルを売り抜いた成金の生き残りみたいなものだろう。

 あとリザードマン止めろよ。リザードマンに悪いだろ。

「静かにっ!」

 周囲の喧噪をものともせず、エステルちゃんが吠える。

 貴族たちの注目が自らに向いたところで、彼女は続くところを淡々と。

「皆の語るところは私とて十分に理解しています。誰もが知るところ、軍属二等尉以上は基本的に貴族の占める位です。よって、彼には新たな立場に対して相応しくあるよう、男爵の位を与えるものとします」

 エステルちゃんの発言を耳として、場の共にする貴族たちが沸き立った。

「だ、男爵だとっ!?」「あんな冒険者が貴族を語るこのかっ!?」「今の、わ、私の聞き間違いではないのかしら?」「フィッツクラレンスのお嬢様も遂に気が触れてしまったのか!?」「そんな馬鹿なっ」「爵位を与えになられるのは陛下のみではっ……」

「まさか、如何にフィッツクラレンス家とは言え、そのような采配はっ」「平民に貴族が与えられるなど、滅多でない行いであるぞっ!?」「それもこの国の民ですら無いではないかっ!」「ありえんっ! ありえませんぞっ!?」

 どうやら大した事件のよう。

 喧噪も甚だしい。

 キーワードは男爵。

 アレンからの教示に従うのであれば、ペニー帝国において、人間の在り方を完全に二分する上と下、その上の方に位置する位である。

 貴族様である。

 この剣と魔法のファンタジーな世界に在っては、いつでも誰とでも、相手が平民である限り、自由にセックスしても良いで証を手に入れたに等しい。

 そう考えると周囲の喧噪にも納得だ。

 簡単に付与して良い代物では無い。

 これが万が一にも認められたのならば、俺はストリートで気に入ったチャンネーを問答無用、肩書きにブイブイ言わせて、宿屋へしけ込むことが可能となるのだ。

 なんて素晴らしい。

 貴族最高。

「他は静かになさい!」

 与えられる野次にエステルちゃんが吠えた。

 応じて場は静まりを見せる。

 少女でもフィッツクラレンス。

 お家の権力は偉大だ。

「私は誠意を持ってこの冒険者に向かいたい。確かに私個人の権限で彼に男爵の位を与えることは不可能です。しかし、この度の成果は身元の知れぬ平民を貴族として用立てるに決して劣らぬもの。私はこれを陛下の御前に訴えます」

 凛とした調子に語りみせるエステルちゃん。

 これには集まった貴族の面々も喧噪を忘れる。

「手柄を上げた者に然るべき報奨を与えられずして、なにが領主たりえる? 故に私はこの場に宣言致します。もしも、これが不可能であったのならば、私はトリクリス領を陛下へお返しすると共に、フィッツクラレンスの名を捨てます!」

 更に続けられたところ、あまりにも大胆な発言は、再びの喧噪を生んだ。

 いつだかのアレンに負けず劣らずヤバいこと言っている自覚、あるんだろうか。

「りょ、領主様、流石にそれは……」

 咄嗟に反論しようとしたところで、こちらの声は掻き消される。

 周囲からの喧噪によって。

「フィッツクラレンスのご令嬢が乱心された!」「エリザベス様は出家される所存かっ!?」「まさか、あのような不細工な男に惚れ込んでいるのではあるまいっ!?」「このようなお話が中央まで伝わってはどのようなこととなるかっ!」

「あぁ、トリクリス界隈は面倒ばかりが舞い込んでくれるっ!」「こんなことであれば宮中で役人をやっておればよかった」「だから私は危惧しておったのだ。いかにフィッツクラレンスのご令嬢とはいえ、この歳で領主だなどとっ」

 ああだこうだ。言いたい放題だった。

 全力で舐められてるエステルちゃんだった。

 年齢が年齢だから致し方なし。

「静かにっ!」

 これに構わず、彼女は続けた。

 その視線が向かった先はゴンザレスとソフィアちゃんだ。

「続いて、そちらの娘と黄昏の団が団長に対する報奨に移ります」

 どうやら無理矢理にでも、今回の謁見を押し通す気概のよう。

 おかげで場の雰囲気に飲まれたメイドさんはガクブルスイッチがオン。

 見つめられて震え上がるソフィアちゃん、どうしてこんなに可愛い。

「メイドの娘には、トリクリスの危機をファーレン卿へ届けると共に、その随伴を努めた功績を称えて、金貨十枚を与えるところとする」

 なんと魔道貴族を連れて来たのは彼女だったよう。

 というと、クリスティーナを連れて来たのも同様だろう。予期せぬロリドラゴンの首都カリス来訪が引き金となったことは、なんとなくだが想像できた。また魔道貴族宅の庭へと着陸したのだろう。

 そうなるとソフィアちゃんこそ、この度の紛争のMVPに他ならない。

 素直に認めるのは悔しいが、なんだかんだでクリスティーナの暴力があったからこそ、両国の関係に決着があった点は間違いない。自分だけでは縦ロールとキモロン毛を完全に牽制できたか怪しい。伊達に一度、首を刎ねられていない。

 金貨十枚という額は、魔道貴族の顔を立てたものでもあるのだろう。

「次いで、黄昏の団」

「はっ!」

 続くところ強面マッチョ野郎。

 ゴンザレスは熟れた様子で傅いている。震えに震える我が家のメイドさんとは異なり、こちらは随分と慣れて思える。如何にこうべを垂れていようとも、妙に堂とした気配が伝わってくれる。伊達に三桁に及ぶ他者の人生を率いていない。

 素直に恰好良いと思えるところが、男として負けた気分だわ。

「貴方は確か、アウフシュナイターの嫡男だったわね」

「今は冒険者クラン、黄昏の団の頭領ゴンザレスにございます」

「……そう」

 なんだよおい、もしかしてゴンザレスって貴族だったのか。

 いや、今の言い方からすると、元貴族っていう雰囲気だけれど。

 そりゃ熟れている筈だ。

「貴方が望むのであれば、中央の騎士団へ口利きをしても良いのだけれど」

「いいえ、それは謹んでお断り申し上げます」

「あら、良いのかしら? お家復興も夢ではないのよ?」

「今の私にとってはクランこそが家にございます。これを捨ててまで中央に戻りたいとは思いません。もしもというのであれば、既に不要かとは思いますが、そちらのタナカを私の代わりに推して下さい」

「そう……」

 俺の名前が出たところで、ピクリ、エステルちゃんの眉が震えた。

 また妙な勘違いなどしていなければ良いが。

 一方、一連のやり取りを耳としたところで、また周囲から声が上がる。

「き、貴様っ! 没落した家の息子の分際で、せっかくフィッツクラレンス様からのお言葉をなんと心得るっ!?」「今がどのような場にあるか、理解しての狼藉かっ!?」「なめた口を利いていると、親と同様、その首を市中に晒す羽目となるぞっ!」

 打って変わって、今度はゴンザレスをたたき始める貴族一同。

 まさにこれぞ古き悪しき貴族って感じのステレオタイプだ。

 見ててちょっと楽しいかも知れない。

「静かにっ!」

 いちいち注意しなければならないエステルちゃんも大変そうだ。

 こうして見ると貴族って言うのも、下らないところでいちいち苦労しそう。

「では他に何か望むところがあれば述べなさい」

「ははっ!」

 一度深く頷いて、ゴンザレスは続ける。

「この度の働きはクランの皆の団結による賜。であるからこそ、褒美を頂けるというのであれば、是非、仲間と共に分かち合えるものを頂戴したく思います。いやしくも金銭であれば、これを我々は均等に分配できるかと」

 淀みなく語ってみせるマッチョ。

 もしかしたら、この場に褒美を貰うことを諦めているのかも知れない。一度組織から排除された部外者に対するやっかみというのは、その組織が大きければ大きいほど、比例して強力なものとなる。

 彼が元貴族であるというのであれば、これまでの人生、苦い想い出も一つや二つではあるまい。およそ努力が正統に評価されるような舞台に立っているとは思えなかった。クランのレベルがどうこうとも愚痴っていたしな。

「……あら、随分と立派な行いね」

「他者を率いるものとして当然の行いではないかと」

「以前、私も同じような文句を耳としたことがあったわ」

「…………」

「それも一地方領主の手前などでなく、陛下の御前に直訴でのこと……」

「……フィッツクラレンス子爵?」

 ただ、うちのエステルちゃんは割とそのあたり人格者なのだよ。

 お股は緩いが、この点だけは太鼓判押しても良い。

「良いでしょう。黄昏の団に金貨百枚を与えます」

「なっ……」

 ゴンザレス、自分で言っておいて驚いてやがる。

「なにか不服が?」

「い、いえ、そういった訳では……」

「であれば問題はありませんね? 黄昏の団に対する報酬をこれに決定する」

「…………」

 そう言えばゴンザレスはいつだか、エステルちゃんのこと壮大にディスってたな。色々と頭の中で整理が追いついていないのだろう。

 彼女に対する評価は、恐らく、見たまんまで考えるのが正しい。

 もう少し交流があったのなら、ヤツもその点に気づいたろう。伊達に元貴族していなかった点が、妙な勘ぐりのループに突入したと見た。

「他に一同、何か申すところはありますか?」

 今一度、我々を見渡すエステルちゃん。

 取り立てて声が上がることはない。

 周りの貴族連中はさっきから延々とうるさいけどな。

「では、この場を終えるものとします」

 一頻りを確認したところで、玉座を立つ。

 部屋の奥に設えられたドアを越えて、何処へとも去って行った。その後ろには部屋の隅に様子を窺っていた魔道貴族が続いた。都合、ハーレムはおいてけぼり。なんて勿体ないことをするのだろう。

 しかし、本当に大丈夫なのだろうか。

 彼女が自身に与えた宿題は、この上なく巨大だと思う。

 首都に戻ってからが大変ではないか。



◇◆◇



 ところ変わって、謁見の間から移ることお城の一室。

 場所を移した我々は、いつぞやの応接室っぽい部屋でソファーに腰を落ち着ける運びとなった。ご褒美タイムを終えて以後、今後の予定を話し合うのだというエステルちゃんにお呼ばれした形である。

 同所には彼女の他、魔道貴族、ソフィアちゃん、ロリドラゴンが居する。

「リチャードの娘よ。私は下らぬまつりごとに荷担する気はないぞ」

「ええ、理解しているわ」

 チラリ、こちらに視線をやりつつの魔道貴族。

「そして、貴様の父親も恐らくだが、これを許さぬだろう」

「お父様は過保護すぎるのよ。今回ばかりは譲れないわ」

「……そうか」

 ぶっちゃけ、あれだ、作戦会議。

 なんの作戦会議かと言えば、俺の身の上を巡るあれこれである。

 おかげで申し訳ない気分がふつふつと。

「あの、エステルさん。私の為にそこまでして頂かなくても良いのですが……」

「べ、別に貴方の為ではないわっ!」

「そうなのですか?」

「そうよっ! ただ、わ、私は成果をあげた者に、その成果に相応しいだけの褒美を与えたいと考えているだけだものっ! これを成すことこそが領主の勤めだわっ!」

「だとしても、それは自分以外の誰かで行って頂けたらと……」

 妙な政治騒動に巻き込まれて不利益を被るのは御免である。エステルちゃんが何を考えて自分を貴族にしようとしているのか、まあ、多少は理解できるけれど、それが当の本人にとって、あまり嬉しいものではないと理解して欲しい。

 そもそも、ここまで貴族最強伝説が罷り通る社会では、余所の国の出自も知れぬ平民が出世とか、絶対に有り得ないだろう。如何に彼女が努力したところで、その落としどころが金銭に落ち着くのは間違いないように思える。

 であれば、あぁ、そうだな。

 今は好きにやらせておくのが良いのかも知れない。

 そうして苦労しているうちに、こちらに対する熱も自然と冷めるだろう。

「私は貴方を貴族にするわっ! こ、これは決定事項よっ!」

「……そうですか」

 いつになく猛々しいエステルちゃん。

 まあ、頑張って下さい。

 ちなみに彼女と双璧を成すプッシー共和国の子爵、金髪ロリ縦ロールはと言えば、自室でキモロン毛とお楽しみの最中にあるという。部屋へ声を掛けに向かったソフィアちゃんからの報告だ。なんでも今回の騒動に対するご褒美だとか。

 覚えていろよキモロン毛、いつかオマエのご主人様を寝取ってくれるわ。

 陵辱ルートでな。

 痴漢ゲーは差分枚数が命。

「となると、早々にトリクリスを発つのか?」

「ええ、支度が整い次第に出るわ」

「そうか」

 今後の予定を巡り、エステルちゃんと魔道貴族の間で話が進む。貴族と貴族のハイソでエレガントなやり取りだ。なので平民な俺はこれを邪魔しないよう、他のヤツとトークして時間を潰そう。

 というより、一つ確認したいことがあった。

「クリスティーナさん、ちょっと良いですか?」

『……なんだ?』

 お茶請けにと用意されたケーキっぽい菓子を頬張る幼女。こちらを振り向く頬にはクリームが付着していたりして、コイツ、狙ってやってたりしないよな? ソフィアちゃんならバッチグーな演出も、このロリドラゴンが行うと苛立ちが募るわ。

 いちいち可愛くて似合うところが特にムカムカだわ。

「貴方はいつまでここに居るつもりですかね?」

『貴様には関係のない話だ』

 プイとそっぽを向いて、再び菓子に向き直るクリスティーナ。

 大型爬虫類の分際で器用にフォークを使いパクパクしてやがる。

「いえいえいえ、極めて関係のある話だと思うのですけど」

 こんな物騒なヤツ、そう長く身の回りに置いておきたくない。

 腹パン一つで人間が水風船のように弾け飛ぶのだ。これで多少の理性でも持ち合わせていれば、許容することも一つの選択肢。しかしながら、所詮はトカゲだ。人間の常識というものをまるで備えていない。

 自分以外の誰かが暴力を振るわれたのでは堪らない。

『……なんだ? まさか、翼の劣る点を根に持っているのか?』

 すると何を勘違いしたのか、ニヤニヤとした笑みを浮かべてくれる。

 マジでムカつくな。

 だったら不浄の鱗を三時間ほど舐めさせろよ。

「そうではありません。貴方がいつ他の人間に危害を加えるか、私としては気が気でないんですよ。いかんせんドラゴンという生き物には堪え性がないようですから」

『当然だ。人間相手になにを堪えてやる必要がある』

「人と人との良好な関係は、互いを思いやる意志で成り立っているのです。故に他者との円滑な交流を蔑ろにするような手合いを、私は身の回りに置いておきたくありません。申し訳ありませんが、ペペ山に帰って頂けませんか?」

『っ……』

 少しばかり声色を低く尋ねてみる。

 すると、ビクリ、身体を震わせるロリドラゴン。

 前々から感じていたが、やはりコイツには脅しが効果的だ。ラスボスに即死魔法が通用するような気分。ずっと最強していた都合、自身が他者により劣る状況というものに慣れがないのだろう。

『ま、まさかこの私を、邪険にするつもりか?』

「はい。ぶっちゃけ邪魔です」

 まさかじゃねぇよ。普通に邪険にしているじゃんよ。

『ぐっ……』

 顔を顰めるロリドラゴン。

 悔しさと恥ずかしさの入り交じった幼女の表情がゾクゾクするぜ。

 でも駄目なものは駄目なの。万が一にもソフィアちゃんやエステルちゃんが腹パン死亡したらどうする。そういう不安要素は事前に取り除いて然るべきだ。石橋を叩いて壊して建て直すが我が座右の銘である。

 ただし、慎重と臆病は別モノ。取り違えてはいけない。

「貴方は強力だ。貴方は強靱だ。そして、容易に人間を殺す。そんな生き物と共にいることを我々が望むと思いますか? 私は思いません。であれば、先んじて殺すか、もしくは互いに手の届かない遠くまで行って貰うしかありません」

『だとすれば、何だと言うのだ? あぁ?』

「貴方は死にたいですか?」

『じょ、上等だっ。……殺せるものなら殺してみるといい」

「……分かりました」

 ここまで煽られては仕方ない。

 いけるところまで行ってみよう。

 レベルも三桁到達したし、今ならリベンジできそうな気がする。

 やっぱり時間は掛かるかも知れないが。

「お、おい、貴様よっ……」

 魔道貴族が声を上げた。

 なぁに構うことはない。

「それでは勝負をしましょう。クリスティーナさん」

『あぁ? やるのか? あ? あぁぁあ? や、やるのかぁぁぁ?』

 地味にビビってないか? このロリドラゴン。

 間違えてヤクザに絡んでしまった不良リーマンみたいになってるぞ。

 まあいい。

 ここは一つ、格の違いというヤツを思い知らせてやろう。

「勝負の方法は私が決めます」

『上等だ。それでも私は貴様に勝つだろう』

「では、クリスティーナさん。ここは一つ……」

 適当にこちら優位で進められるようなルールで程々に圧倒すれば良いだろう。などと考えたところで、しかし、続くところ口上が他より遮られた。それは我々が居する応接室のドアの向こう側、部屋に面した廊下の側からだ。

「エステルさま、出発の支度が整いましたっ」

 コンコンという軽いノックの後に短い言葉で告げられたのは報告。

 どうやらトリクリスを発つ為の支度が整ったよう。

 このタイミングで報告があったということは、エステルちゃんは城に戻って早々、手配を進めていたのだろう。となると、俺を貴族に云々も、決して場当たり的な考えではなく、以前より温めていた可能性が高い。

「わかったわ。すぐに向かいます」

「はっ! お待ちしておりますっ!」

 報告を持ってきた誰かは、廊下の向こう側、部屋のドアを開けることもなく、そのまま踵を返すと何処へとも去っていった。足音は駆け足。早々に遠退いて聞こえなくなる。なんとまあ勤勉なこと。

『ふっ、ふんっ! 残念だったなっ、時間切れのようだっ!』

「……そうみたいですね」

 ちょっと嬉しそうだなロリドラゴン。

 やっぱり微妙に自信がなかっただろオマエ。

 まあいい、出発するとしようじゃないか。首都カリスへ向けて。



◇◆◇



 地方都市トリクリスから首都カリスまでは半日に過ぎた。

 本来であれば五日は要しただろう道のりが僅か数時間。理由は一重にクリスティーナである。本来であればトリクリスの役人、というか、ノイマンさんが用意してくれた馬車に行く筈だった。

 それが出発から数分、速攻でキレたクリスティーナが遅いだのなんだのと文句を連ねたところで、例によって運搬業を開始。ソフィアちゃん、エステルちゃん、魔道貴族を乗せての空路と相成った。

 俺はいつぞやに同じく後ろから自走である。

 一人でヤツの尻を追い掛けていると、こう、大学生の頃を思い出す。

 どこかへ遊びに行く際、車に一人だけ乗りきれず、二輪で自動車に乗り込んだ友人一同を追い掛けた記憶だ。夏場ならまだ信号待ちの折、車道に並んで話とかできる。しかし、冬場になると寒いからって窓ガラスとか閉じてくるし、凄く寂しい感じだし。

 あぁ切ない。

 とは言え、今回ばかりは俺より切ないヤツが若干一名。

 頑なに本来のドラゴン形態への変身を拒んだクリスティーナ。その定員オーバーに伴い、、アレンだけはノイマンさんと馬車に揺られて陸路である。今日ほど空を飛べることに感謝した日はなかった。

 そうした若干一名の孤独を犠牲として、我々は同日中に首都カリスに到着。

 再び足が地を踏んだのは、日暮れ間際のことだった。ちなみに着陸した場所はいつもと同様、魔道貴族宅のお庭だ。クリスティーナの帰省本能が自然とその地を選んだよう。完全に覚えられてしまっているな。

「今日のところは解散して、城へは明日に向かいましょう」

 提案はエステルちゃんから。

「それまでに私の方からお父様へ頭出しを行っておくわ」

 なるほど、であれば素直に従うのが良さそうだ。

 異論はない。

 パパさんに自らの身の上が報告されるのはかなり嫌だけれど、エステルちゃんが乗り気だから仕方がない。精々、ボロを出さないことを祈っている。二人の仲は永遠に清いままであるのだと。

「分かりました。ではそのように」

「そうなれば、城で待ち合わせることで良いな?」

「ええ、良いわ」

 魔道貴族が頷いたところで、これにて今日のところはお開きとなった。

 今晩はソフィアちゃんが配膳してくれた寮のご飯を頂き、ソフィアちゃんがメイクしてくれたふかふかのベッドでグッスリと眠れそう。これほど癒やされることはない。ただいま日常。おかえりなさい日常。

 踵を返すと共に自宅へ戻り行く魔道貴族。

 我々も学園の寮へ向かうべく歩みを向ける。ソフィアちゃんの他にエステルちゃんも一緒だ。お隣同士であるからして。ここ最近は一緒に食事を摂る機会も増えた。おかげでレベッカさんのデカい尻を拝む機会も増えて嬉しい限り。乳より尻がいい。尻が。

 ただ、今日はちょっと、いつもと勝手が異なる。

 原因は我々の後ろ、少しばかり距離をおいて感じる誰かの気配。

「あの……どうして着いてくるんですか?」

『なにがだ?』

 なにがだ? じゃねぇよ。

 どうしてしれっと一緒に来てるんだよコイツ。

「ペペ山はこっちじゃないですよ」

『知ってる』

「…………」

 たまにやたらと素直に聞こえる台詞が苛立たしい。

 知ってるなら帰れよ。山に。

 ロリドラゴンに自宅バレとか最悪だ。腹パンの威力を思い起こすせば、割と普通に夜も眠れない。仮に不浄の鱗は舐めたかったとしても、共同生活は極めて嫌だ。まるで安心できない。きっと凄く疲れる。

 セフレなら良いけど、嫁にはノーセンキュー。そういうの。

「あの、私たちはこっちなので。ここで失礼しますね」

 それとなく進路を右へ。

「…………」

「…………」

 心中を察して、無言に着いてきてくれるエステルちゃんとソフィアちゃん。

『…………』

 同様に少し遅れて右折するゴールデンアイズロリータドラゴン。

 オマエまで曲がるんじゃねぇよ。

「……どうかしましたか?」

『……どうもしてない』

「そうですか? では、私たちはこちらなので」

 今度は進路を左へ。

「…………」

「…………」

 心中を察して、無言に着いてきてくれるエステルちゃんとソフィアちゃん。

『…………』

 同様に少し遅れて左折するゴールデンアイズロリータドラゴン。

 どうしてくれよう、この寂しがり屋さんめ。

 メンヘラか? メンヘラなのか? 一連の言動から素質を感じるわ。

「……私になにかご用ですか?」

『用など、ない』

「そうですか? であれば、どうぞ、ペペ山にお帰り下さい」

『…………』

 エステルちゃんとソフィアちゃんからも緊張を感じる。

 共に意識は同じだと考えて良いだろう。

 であれば、こちらから与えられるのは提案が一つばかり。

「どうせ明日も会うのですから、今日のところは彼の下へ向かっては如何ですか?」

『彼とは誰だ?』

「先程に別れた貴族の男です。あの者であれば、一晩の屋根を貸すことにも渋い顔をしないでしょう。広い部屋と着心地の良い服、それにおいしい食事を振舞ってくれることは間違いありません」

『……明日か?』

「え、えぇ、明日です」

『…………』

「…………」

 しばし考える素振りを見せるロリドラゴン。

 緊張の瞬間。

 続けられたところは――――。

『わかった。いいだろう。貴様の提案に頷いてやる』

「そ、それななによりで……」

 セーフ。かなりギリギリな感じのするセーフ。

『逃げるなよ?』

「まさか」

『ふんっ……』

 多少ばかりを凄んだところで、クリスティーナはトコトコと去って行った。

 見た目可愛いけど、遭遇すると即死するタイプのモンスターっているよな。

 そんな感じ。



◇◆◇



 首都カリスへ戻って同日、俺とソフィアちゃんは死んだように眠った。共に紛争騒動に巻き込まれた都合、心労の堪ること甚だしく、他になにを行うでもなく、食事すら忘れてベッドに直行だった。

 ちなみにお隣さんちの金髪ロリは学生寮に戻らず、途中で別れて、首都に所在する自宅へと向かっていった。先に共有されたとおり、首都へ出て来ている父親の下で今晩中に明日の算段を建てるのだとか。ご苦労様である。

 昨日の今日で早々に謁見が叶うのか、個人的には甚だ疑問である。ただ、そこはフィッツクラレンス家のパワーでなんとかするのだと息巻いていた。いつもは執拗に食事へと誘ってくる彼女が、それを捨ててまで向かったのだから、きっと本気なのだろう。

 おかげで我が家の夜は静かに過ぎていった。

 そして、気づけば一晩が過ぎて翌日。

 訪れたるはエステルちゃん、決戦の日である。

 昨日に約束したとおりお城に集合した我々は、今回はエステルちゃんの手引きにより入城、いつだかのドラゴン退治の際と変わりなく、同所に設けられた謁見の間でレッドカーペットの上に片膝を突いてへへーしている。

 昨日とは一転、今回はエステルちゃんや魔道貴族も傅く側である。

 事前にロリビッチから共有されたところ、一連の紛争を巡るあれこれの報告と、その終結をお伝えする謁見、という名目だそう。なので既にエステルちゃんからお小遣いを貰ったソフィアちゃんは待機室で待ち惚け。ロリドラゴンは魔道貴族宅に放置。

 都合、自分とエステルちゃん、魔道貴族の三名で望む形となった。

 俺も待機が良かった。

おもてをあげよ」

 段上、玉座に腰掛ける王様が言った。

 同所には城の主人である彼の他に、豪勢な衣服を身に纏った大勢の貴族たちが、部屋の壁に沿って両脇に並んでいる。以前にも多いと感じたこれら観衆であるが、今回は更に数を幾割か増やして思える。

 フィッツクラレンスの新米子爵がご報告する初陣の成果に誰もが興味津々の様子。その如何によっては派閥が動いたり、誰かが暗殺されたり、あれしたり、これしたり、きっと我々の知らないところで貴族っぽいメソッドが実行されるのだろう。

「つい先日に報告されたばかりであるプッシー共和国との諍いであるが、これを僅か数週と掛からずに収めたと聞く。それは本当か? フィッツクラレンス子爵よ」

「はい。その通りにございます、陛下」

「おぉ、それはまた大した成果ではないか。おぬしを子爵にと推した私も鼻が高いというものだ。これは是非とも詳しいところを窺いたいものである」

 事前にネゴったか否かは知れないが、なかなか掴みは良さそうだ。

 頼むぞエステルちゃん。

 俺を無事にソフィアちゃんの下まで帰すんだ。

「私の記憶が正しければ、十五年前であったろうか? 以前にプッシーとやりあったのは。その際には我々ペニーも相応の被害を出したこと、しかと覚えておる。あの年は地方の不作と相まり誰もが苦労したものだ」

「はっ、謹んで今回の戦果についてご報告させて頂きます」

「うむ。続けよ」

 ところでエステルちゃんのパパはどこにいるのだろう。娘が子爵として初めて上げた成果である。まさか見ていない筈がない。学園で噂に聞くところ、娘にはとことん甘い親馬鹿との話である。

 首を動かすことなく、目玉をグリグリとやって周囲を確認する。

 しかし、それっぽい人物は見つけられない。もしも場所を同じくしているのなら、少なからず目につく場所に立っているだろうと考えたのだが。

 その間にもエステルちゃんの口からはあれこれ御上に報告がなされる。

「……でありまして、対する我々の損害としましては、正規兵が百、傭兵や冒険者が三千となります。また……これを運用するに差し当り中央からの騎士については……」

 三桁近い貴族連中に囲まれて、何ら動じた様子無くプレゼンしてる。

 こういうところ凄くカッコ良いんだよな、このロリビッチィ。

 正直惚れる。こういう社会人になりたかった的な。

 感覚的には、ほら、あれだ。自社社長と親会社の御前会議に呼びつけられて、あー、ちみちみ、今回のプロジェクト、ちみの口から説明してくれないかね? みたいな。絶対に膝ガクガクさせる自信あるわ。最高に怖い。

「なんと、四万近い軍勢を僅か数百に抑えたと申すか」

「はい、その通りでございます」

 そうこうするうちにエステルちゃんのご報告は山場を迎える。

「果たしてそのようなことは可能なのだろうか? いや、しかし、ファーレン卿が共に在ったというのであれば、それもまた有り得ない話ではないように思える」

 少なからず思案しながらも納得の兆しを見せる王様。

 これは同所に立ち並ぶ貴族一同も同様だ。それとなくヒソヒソ、言葉を交わす者の視線は一様に魔道貴族へ向いている。相変わらず凄まじいブランド力だな。

「いいえ、陛下。それは違います」

 よせば良いのに、エスエルちゃん。

「この度の成果は私やファーレン卿に因るものではございません」

 本人の目の前で言うなよ。

 如何に魔法キチガイとは言え目上の貴族だろうに。

 っていうか、くれてやれよ、それくらいの手柄。

「なんと、それは本当か? フィッツクラレンス子爵よ」

「はい」

「ファーレン卿も、この点に関して異論は?」

「ございません。フィッツクラレンス子爵の言葉は本当です」

「う、うむぅ、まことに信じがたい……」

 オッサンが頷いたところで、王様の口からは唸り声が上がった。

 続くところ、自然と意識が向けられたのは、貴族二名に左右を囲われて、若干一名、何故か混じってしまっている平民の下である。エステルちゃんと魔導貴族が違うというのだから、残すところは一つ。おう。

「であれば、誰がこれを成したというのだ?」

「はっ! それはこちらの者にございます」

 エステルちゃんの腕が俺に向けられる。

 応じて場の視線が一挙に我が身へと集まった。

 ちょっと胃が痛い。

 トリクリスの家臣の手前、啖呵を切ってしまった彼女だから、引くに引けない状況なのは理解できる。とは言え、もう少し上手いやり方があったろう。一人一人に頭を下げてゆけば、まさか本当に出家しろと言うような輩はいないだろう。

 わざわざ一番に難しいルートをチョイスする辺り、非常にチャレンジャーだ

「……その者には覚えがある。以前、娘の一件に際しても顔を見せたな?」

 これは発言を許可されたと考えて良いのだろうか?

 とりあえず名乗っておこう。セリフ短めで。

「はっ、タナカと申しますっ」

「フィッツクラレンス子爵はこのように申しておる。どうなのだ?」

「はっ」

 さて、どうしたものか。

 既に周りを固める貴族連中の表情は顰めっ面だ。平民が調子に乗ってんじゃネェよ迸ってる。下手をこいたのなら、虚偽罪だの不敬罪だの、適当にでっち上げられたところで、牢屋へぶちこまれる未来が容易に想像される。

 であれば、頑張ってくれるエステルちゃんには悪いがここは遠慮だ。

「フィッツクラレンス子爵は大変にお優しい方です。こうして私のような異邦人にも目を掛けて下さります。しかしながら、この度の采配は子爵の下で行われました。その成果もまた子爵あってこその賜であります。陛下、どうか子爵にこそ喝采を」

「ふむ、そうなのか? しかし、子爵はおぬしの手柄だと申しておるぞ」

「へ、陛下っ! この者は謙遜の過ぎるきらいがありましてっ!」

 猛るロリビッチ。

 今日のエステルちゃんはいつもより強力だ。

 だが、ここは意地でも負けられない。

「フィッツクラレンス子爵におかれましては、この度の活躍につき心身共に大きな負荷となりましたでしょう。まだお若い子爵の将来、更なる国への奉公を思うのであれば、是非、学園での生活をお守り申し上げたく存じます」

「……ふむ」

「このような素晴らしき場におかれましては、私のような浅ましい身分のお言葉を大変に恐縮でありますが、年頃の令嬢が学校へ通うことは非常に大切なことだと思います。何卒、フィッツクラレンス子爵に多少でも猶予をお願い申し上げます」

「っ……」

 エステルちゃんがこっちを振り向いた。

 なんか眦に涙が溜まってる。あと、歯とか食いしばってる。

 勝手な判断だけれど、たぶん、悔しいのだろう。

「陛下、その平民の言うことは私も賛同できますぞっ」

 そうこうしていると、王様の傍ら、タイムキーパーの爺さんが声を上げた。以前も同じ立ち位置に眺めた人物だ。たしかモルドレッド宰相といったか。どこぞのショタの言葉を信じるのならば、今回の紛争に一役買った人物でもある。

 そんなヤツがどうして俺の言葉に乗ってきたのか。

「だがな、モルドレッド宰相よ。かの土地は数週前に下賜したばかりである。しかも、子爵は同所で類い希なる成果をあげたのだ。それを我々の都合により一方的に取り上げるなど、不誠実も極まる行いだろう。私はそのようなことを良しとせぬ」

「フィッツクラレンス子爵はまだお若い。であれば、今は学業に精進することで、今後の治世に備えるべきではありませぬかな? さすれば将来は更なる活躍を見せてくれること、このモルドレッド、信じて止まないところにございます」

「うむ。一方でそちの言葉もまた理に適ったものだ。フィッツクラレンスの子爵は素晴らしい成果をあげた。だがしかし、今後とも領地を経営してゆくには、まだ知識や経験、人との繋がりが不足していることだろう」

「であれば陛下、ここは是非とも」

「うむ……」

 少しばかり考えたところで、王様はツラツラと続くところを述べた。

「であれば、こうするとしよう」

 宰相からエステルちゃんに向き直る王様。

 その瞳をジッと見つめて、彼は判断を下した。

「フィッツクラレンス子爵は学園に戻り、勉学に励んで貰むが良い。代わりに同領地に関しては、その親元であり実の父親であるフィッツクラレンス公爵に面倒を見て貰う。これならば問題あるまい」

 今、王様の本音がちらっと出たな。

 やっぱりじゃんかよ。

 一方で焦り始めるのが宰相の爺さんである。

「なっ、い、いえっ、陛下っ! 流石にそれは……」

「どこに問題がある? 子の面倒を見るのは親の仕事だろう。それは人の子としても、貴族の関わりであったとしても同じこと。これほど適切な判断はないと、私は自らを信じておるのだが」

「ぐっ……」

 一変して難しい顔になるタイムキーパー。

 この爺さんはこの爺さんで、エステルちゃんの領土に執着があるよう。以前も土地が右から左へ流れるに応じて、王様に意見していたような気がする。元々は国の管理であったという話だし、もしかしたら彼女が貰った領土、曰く付きなのかも。

「へ、陛下っ! 私からも良いでしょうかっ!」

「どうした? フィッツクラレンス子爵よ」

 ここへ来てエステルちゃんが吠えた。

 きっと彼女だからこそ許される、強引な割り込みなんだろうな。

「一度は頂戴した領土、私は最後まで面倒を見たく思いますっ!」

 っていうか、ロリビッチ、かなりピンチだな。

 俺を男爵にするとか、それ以前の問題じゃんね。

 こちらとしては嬉しい限りだけれど。

「だがしかし、そちらの者も申しているではないか。私も子爵は学園に通うべきだと思う。今の時世、ファーレン卿が教鞭を執っている幸運を喜ぶべきだろう。子爵が学ぶことはまだまだ多い筈だ」

「っ……」

 最高にぐぬぬぬ状態のエステルちゃん。

 流石のお嬢様も王様を前としてはこれまでか。

 さっさと金貨なりなんなり頂戴して帰ろうぜ。

 段々と膝が痛くなってきたし。

「では、この度の働きに関してはそのように……」

「陛下、私は今日この場へ臨むにあたり、一つ決心をしてまいりました。どうか、もう少しだけお時間を頂戴できませんでしょうか。私に少しばかり発言の機会をっ!」

「……この後に及んでなにかあるのか? フィッツクラレンス子爵」

 流石の王様もちょっとムッときてるな。

 そろそろやめとこうぜ。

 俺もちょっと怖くなってきた。

「そもそもお話は、こちらの者が上げた成果に対するお話であった筈です」

「ん? あぁ、そう言えばそうであったな。であれば、その者には……」

 金貨を、と言い掛けた王様の言葉を遮り、エステルちゃんは語る。

「私は陛下より子爵という位を頂戴いたしました。親元としてはお父様が面倒をみて下さっております。親の愛とはとても得がたいものでしょう。しかし、愛とは与えられるばかりではありません。私もまたこれを自らの子に与えとうございます」

「うむ。リチャードはよくやってくれておる」

 エステルちゃんの言葉に場が湧いた。

 以前、アレンから聞いた話を思い起こせば、親だの子だのといった単語は、貴族の上下関係を指し示してのことだ。当然、大貴族の令嬢である金髪ロリの庇護を受けたい者は大勢いるだろうから、これを望む者たちとしては気になるところ。

 恐らくはこの場に限らず、子爵と成って当初より話はあちこちであったろう。

「陛下、この者は謙遜を重ねておりますが、今回のプッシーとの諍いに関しては一言に語れぬところ多々ございます。そして、或いはこの者が不在であったのならば、トリクリスはかの国に討たれていたかも知れません。先に伝えた戦力差は本当なのです」

「……ふむ、それは少し、物騒な話ではないか?」

「であればこそ、私はこの者に報いたいのです」

「子爵はどうしたのだ? 率直に申してみよ」

「何卒、この者に男爵の位をお与え下さい」

 いや、流石にそれ無茶振りだろ。俺でも分かるし。

 おかげで謁見の間のそこらかしこから声が上がり始めた。先程の子供欲しい宣言の比じゃない。いつぞやトリクリスのお城で目の当たりとした光景が、今度は首都カリスのお城で再び。まさか、ここまで無茶する娘とは思わなかった。

 謁見タイムの最中なのにざわざわし始めちゃってるし。

 こっちに飛んでくる視線も相応だ。

「それは子爵の望みか? それともそこの者の望みか?」

「私の一方的な望みにございます」

「……ふむ」

 ちらり、王様の視線が動いた。

 謁見の間を浚うように右から左へ、隅から隅まで。

「子爵よ、フィッツクラレンス公爵の姿が見られないようだが」

「お父様は体調を崩されており、自宅にてお母様と療養の最中にございます」

「……なんと」

 もしかしてロリビッチ、実の父をノックアウトして来たんじゃあるまいな。

 王様も少なからず驚いてるぞ。

 タイムキーパーに至っては今にも怒り出しそうな表情で文句を口に。

「フィッツクラレンス子爵、流石に言葉が過ぎるのではありませぬかな? 如何に成果を上げたとは言え、その者はこの国の人間ではない。どこの馬の骨とも知らぬ手合いに我が国の貴族位を与えるなどとは、前代見物の出来事ではないか」

「いいえ、前代未聞ではありません。我がフィッツクラレンスの家計を遡ること十三代前、当時のフィッツクラレンス公爵が迎え入れた異国の妻が、その多大な働きにより、当時の陛下より伯爵の位を頂戴したとの記録が残っております」

 これに対して、ここぞとばかり、ドヤ顔で語ってみせる金髪ロリータ。

 スゲェ胆力だ。

 っていうか、わざわざ家系図まで調べてきたのかよ。

「ほう、それは私も知らなかったな」

「もしもこの度の願い、お聞き入れを願えないようでしたら、私は子爵の位を陛下に返上すると共に、フィッツクラレンスの名を捨てます。自国の為に命を投げ打ってまで貢献した者に対して、相応しい喝采を与えられない国に、この身を置くことはできません」

 しかもこっちでも言いやがった。

 もしかしてヤケクソになってたりしないよな。

「……本気か? フィッツクラレンス子爵」

「はい。私を評価して下さった陛下に対する不誠実な行い、何卒、ご容赦を」

「…………」

 ジッと王様の瞳を見つめたまま、瞬きすら忘れたようピクリとも動かない。

 王様も王様でエステルちゃんを見定めるようジッと。

 見つめ合う二人。

 どれだけの時間が経過しただろうか。

 不意に王様が口を開いた。

「ファーレン卿、一つ確認したい」

「なんなりと」

「フィッツクラレンス子爵の語ったところは本当か?」

「と申しますと?」

 ほら見ろ、ロリビッチが色々と喋り過ぎたせいで、魔道貴族でさえ困ってる。

「そこの者の働きに関してだ」

「それが今回の戦果を指しての話とあらば、フィッツクラレンス子爵の言葉に嘘偽りはありませんな。私もこの目で戦場を確認しておりました。その者が居合わせなかったのであれば、今頃はトリクリスの街が戦場となっていたことでしょう」

「……そちにして、そこまで言わせるか」

「この者に対する私の評価は、以前にもお伝えしたとおりです」

「ふむ……」

 もういい加減、終わりにしたいじゃんね。

 金貨とか貰って帰りたい。

 緊張からオシッコしたくなってきたわ。

 ここでゴネても碌な事にはならないって。

「陛下、なりませぬ、絶対になりませぬぞっ! 過去は過去、今は今ですっ! フィッツクラレンス子爵は戦渦を経験されたことで疲れているのでしょう。今は自宅でゆっくり休むべきだと、私は具申いたしますぞっ!」

 ほら、爺さんも哮ってる。

 ちゃんとタイムキーピングしろよ。

「知っているか? モルドレッドよ」

「な、なんでしょうか? 陛下」

「十三代前の王は、この国の歴史を紐解いても、過去にない名君として実に様々な書籍へ登場するのだ。私も幼い頃よりその活躍を書面に眺めては、このような王になりたいものだと、胸に馳せていたものである」

「陛下、まさかっ……」

「とは言えモルドレッドの言わんとするところも無碍にはできぬ。他の者に対する気遣いが必要である点もまた然り。今と昔では色々と違うところもあるだろう。分別をつけることは大切だ」

「そうですっ! その通りですぞ陛下っ!」

「であるからして、一つ、条件を付けようと思う」

「陛下ぁっ!」

 宰相の顔がヤバいことになってる。

「どうした、大きな声を上げて」

「で、であればっ! その条件は第三者であるこのモルドレッドに与えさせて下さい。万が一の際にも、全ての責任を陛下にばかり背負って頂くのは申し訳ないばかり。他の貴族や国民から不平を受け止めるのは宰相として、私の責務にございますっ!」

「おぉ、やってくれるか、モルドレッドよ」

「当然でございますっ!」

 マジか。

 これヤバい。

 落としどころが底辺に来るタイプの展開だ。

 社長が持って来た大型案件を営業がホイホイと安請け合いの連続で仕様を変更しまくり、これを元にSEが作った設計書はまるで役に立たない絵空事で、その尻ぬぐいを行うのは現場のプログラマーという伝説の。

 あの伝説の。

「で、では、そういった理由から私より伝えよう。フィッツクラレンス子爵」

「はい」

 改めてエステルちゃんに向き直る宰相の爺さん。

「プッシー共和国との紛争において、四万の敵兵を僅か数百の兵により退けた成果として、ペニー帝国はその者に男爵の位を与える。ただし、これを与えるには幾つかの条件を伴うこととする。子細は授与式において追って伝える」

「…………」

「また本日より以後、子爵は自らの訴えを退けることは認めない。これは子爵とその者の意志と覚悟を計る為でもある。異国の民に貴族の位を与えるということは、それほどまでに滅多でない行いであることと、十分に理解されたし。以上、構わぬな?」

「……ええ、構わないわ」

 コクリ、神妙な表情に頷くエステルちゃん。

 駄目。

 それ駄目なヤツ。

 受けちゃ駄目な案件だから。

 タイムキーパーの爺さん、全力でエステルちゃんの領土狙ってるから。

「うむ。どうやら双方共に満足のゆく結果となったようだな」

 王様、超イイ笑顔してる。

 良い仕事したって感じの顔。

「授与式は日を改めて行うとしよう。リチャードの顔も見たい」

「ところで、陛下、その者に与える役職、或いは領土ですが、私のほうで決めてしまってもよろしいですかな? わざわざ陛下のお手を煩わせるのは申し訳ありませぬ。ハーゲンベック家の一件もありますからな」

「うむ。頼んだぞ、モルドレッドよ。今回の件はそなたに一任する」

「はは!」

「それではフィッツクラレンス子爵及び、その者に対する褒美は以上とする。続くところファーレン卿への褒美に移ろうではないか。うむ、うむ。我が娘の大事に続き、今回もまた良くやってくれた。ファーレン卿よ」

 そんなこんなで謁見の時間は過ぎて行った。

 しかしまあ、なんだ。王様の魔道貴族ラブ、半端ないな。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ