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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫

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36/132

紛争 十二


 場所を前線基地改め、草原の難民テントもどきに移して作戦会議。

 テーブルや椅子だといった贅沢なものは一つも無い同所だから、皆々、地面に腰を落ち着けてのことである。貴族のくせに文句の一つも口としないエステルちゃんや魔道貴族は、なかなか良くできた金持ちだ。

 おかげでゴンザレスからは嫌味の一つも飛ぶことなく話し合いはスムーズに。

「なるほどな。確かにそりゃ命懸けだろう」

 一頻りを説明したところで、ゴンザレスが大仰にも唸った。

「……よろしいでしょうか?」

「ああ。一度は頷いたんだ。黄昏の団に二言はねぇよ」

「ありがとうございます。このご恩は必ず返します」

「別に構わねぇよ。戦争が終らないことには、アンタと一緒にメシを食いに行く約束も叶わないしな。こんな俺らでもトリクリスの民の役に立てることがあるっていうなら、これを受けることは吝かじゃねぇ」

 同所にはゴンザレスの他、エステルちゃん、ソフィアちゃん、魔道貴族、クリスティーナ、それに加えて昏の団の面々が、あれよあれよと詰めかけて周りを囲うよう続々と。おかげでガチムチ率が半端ないことになっている。

 人払いをすることも可能だったけれど、集まった誰も彼もは騒動の只中へ向かわなければならない当事者であるからして、これを遠ざけることは出来なかった。むしろ承諾を得るつもりで、出来る限りを迎え入れた形である。

 おかげでサキュバス属性持ちのエステルちゃんが発情しないか心配だ。

 更に面食い属性持ちのソフィアちゃんが目移りしないか不安極まるわ。

「では改めて、今後の予定を確認させて下さい」

「おうよ」

 ちょっと思考が脇道に逸れた。

 今はそれどころじゃない。

 司会進行。

「エステルさん、敵軍の到着予定時刻はどの程度になりますでしょうか?」

「日が暮れる前には到達すると思うわ。今も哨戒は出しているけれど、これだけ距離が近いと、誤差もそう大したものにはならないわね。いずれにせよ早いうちから立っておくべきよ」

「たしかにその通りですね」

 縦ロールが納める街とは相変わらずの距離感だ。目と鼻の先というヤツである。伊達に元々は一つの国でなかったよう。せめて国境に山の一つでもあれば、もう少しは平穏だったろうに。

「おい、貴様よ」

「なんでしょうか? ファーレンさん」

「待ってばかりもつまらん。適当に罠でも仕掛けておくとしよう」

 エステルちゃんの言葉に頷いたところで、魔道貴族が腰を上げた。

「よろしいのですか?」

「多少なりとも戦意を割くことができれば、その後もやり易かろう」

「そうですね。では、お手数ですがお願いします」

「うむ。任せておけ」

 のっしのっしとテントを出て行く魔道貴族。恐らくは自身の肩書きを鑑みた上でのことだろう。なんだかんだ言いながら、こういったところでは気が利く男である。こちらの勝手な判断ではあるが、今回は駒に徹するという周囲への意思表示だろう。

 ダンディズムもここに極まった感あるな。

 だからだろうか、そうした姿に触発されたヤツが一匹。

『言っておくが、私は貴様の手伝いなどせんぞ? ここまで飛んで来てやっただけでも、感謝をして貰いたいところだな。貴様が頭の一つや二つを下げたところで……』

「最初から当てにはしておりませんので結構です」

『…………』

 なんか語りが長くなりそうだったので早々に御免こうむっておく。

 コイツが暴れたら怪我人がどうこうの話じゃないからな。

 そもそも同席している理由が知れない。

「それじゃあ、わ、私たちはどうすれば良いのかしら?」

「エステルさんにはファーレンさんやアハーン領の方と一緒に、私のサポートをお願い致します。戦場では回復魔法に専念したいので、勝手なお願いとなり大変に恐縮ですが、こちらを標的とする攻撃を防いで頂けたらと」

「っ!? 貴方を守る、大役ねっ!」

 途端にロリビッチの表情が険しさを増す。

 使命を帯びたロリータ可愛い。

「かすり傷一つ負わせやしないわっ!」

 なんとも頼もしいお言葉を頂戴した。

 ただ、正直なところ本命はキモロン毛だ。

 ヤツと比較すれば魔道貴族であっても大きく劣るだろう。敵国の手合いという不安要素は抱えているものの、クリスティーナの存在が保険となり、下手な行動へ移ることはないと考えている。

 縦ロールに対するヤツの服従の意志は、同じ男として確信が持てる。彼女が是と言わない限り、決して独断行動に移ることはないだろう。俺だって叶うことなら、あんなロッリロリでムッチムチのボッインボインな幼女に飼育されたい。

 そういった意味ではロリドラゴンがこの場に居る意味は十分にある。抑止力という意味では、これほど適した存在はないだろう。上手い具合に我々の都合が良いよう、力関係が三角形を描いて思える。

「アハーンさんとその従者の方も、すみませんがご協力をお願い致します」

「貴方に手を貸すことで、我が領にメリットはあるのかしら?」

「どこぞのドラゴンが再びお城を襲わないことの保証には繋がるかと」

「ぐっ……」

 悔しそうな顔の縦ロールも非常に可愛らしくてよろしい。

 とは言え、あまり強気に挑むのはよくない。昨日までにもかなりゴリ押しした感があるので、ここいらで少し歩み寄っておくべきだろう。今後ともエステルちゃんの領土とは仲良くやって貰いたい訳であるからして。

「というのは冗談として、エステルさん、なにかありませんでしょうか?」

 ついでにロリビッチの領主としての顔も立てておこう。

「そうね……」

 思案顔となるエステルちゃん。

「リズ、強気な交渉ばかりでは反感を買うわよ? この私のように!」

 理解しているならもう少し大人しくしろよ。

「ドリス、貴方の城を復旧するのに必要な物資を、私の領から都合しても良いわ。もちろん、ただとは言わないけれど、市場価格で流通、関税もゼロで通してあげる。これでどうかしら?」

「それでは貴方の懐が温かくなるばかりじゃない」

「あの城をもう一つ建てるだけの建材が、そう容易に手に入るかしら? 領主として立ったばかりの身の上、下手に国内で借りを作るより、ここで私から買っておいが方が後腐れ無くて良いわよ。価格も輸送費を鑑みれば幾らか安くつくわ」

「ぅっ……」

「どう? 嫌だというのなら、別に私は構わないのだけれど」

「わ、分かりましたわっ! それで手を打って上げようかしらぁっ!」

 幾分かヤケクソ気味に吠える縦ロール。

 まあ、多分に自業自得から来る損であるから、自己責任。自己責任。

「ということで、良いかしら?」

「ええ、ありがとうございます。エステルさん」

 しかし、想像していたより余程のこと様になって思える我が国の新米領主様。少なからず他国の権力事情にも通じているようで、自分などより余程のこと有能だ。

 であればこそ疑問となるのが、ゴンザレスから聞かされた愚痴を筆頭としたあれやこれや。一連の前線事情には他に理由があるような気がしてきた。

 ただまあ、今は差し迫った敵兵をどうにかするのが最優先だ。

 確認は身の回りが落ち着いてからにしよう。

「では、このような形で、皆さん、よろしいでしょうか?」

 ぐるり皆々を見渡しての確認。

 取り立てて反論は上がらなかった。

 肯定と取って良さそうだ。

「紛争終結に向けた最後の一踏ん張りです。皆さん、ご協力をお願いします」

 打てるだけの手は打った。

 後は全力を尽くす限りである。



◇◆◇



 緊張と共に過ごすこと数刻ばかり、遂に地平の彼方より敵兵が姿を現わした。

 兵と兵が交じり合う。

 同時、こちらを捉えた一団から、早々に魔法が撃ち放たれる。数瞬ばかりの間をおいて後、炎であったり、氷柱であったり、実に様々な驚異が雨あられ、黄昏の団が立ち並ぶ界隈へと降り注ぐ。

 大半は同ギルドの魔法使いが展開した障壁に阻まれて散る。

 しかし、残る幾らばかりかは、決して少なくない負傷を生む。

 おかげで開戦早々、我々の陣営は半数が怪我を負う。

「伊達に二桁上の敵勢を相手としていませんね……」

 おかげでゆっくりと戦場を眺めている余裕など皆無。

 即座に治癒魔法を展開である。

 範囲は我が軍に加えて敵軍が収まる界隈、その全てだ。

 草原の全体を丸々と飲み込んで、巨大な魔法陣が浮かび上がる。その元より立ち上がる柔らかな輝きは、これに身を乗せる誰も彼もの怪我を問答無用で癒やしてゆく。数秒の後には、皆々、完全に元通りである。

 即死でない限り、回復魔法の恩恵を受けて完全回復となる。

「よし」

 こちらからゴンザレスに伝えた戦法は非常にシンプルである。

 どうか後衛を信じて戦って欲しい旨。

 ただし、敵を即死させるようなことはないように。

 これだけだ。

「……大丈夫、まだ誰も死んでない」

 そして、自身はただひたすら、敵味方の際限なく怪我人を治す。

 間隔は五秒に一回。

 ここから先は敵兵と回復魔法の根比べ。

「ぬぅんっ!」

 自身が唸り声を上げるに応じて、草原全域に対して魔法が発動する。

 ゴンザレスとマッチョな仲間たちが即座に癒えてゆく。

「……範囲的にもいけそうじゃないか」

 誰に言うでもなく呟いて確認。

 こちらが回復魔法へ専念するに際しては、先の打ち合わせでお願いしたとおり、魔道貴族を筆頭として、エステルちゃん、キモロン毛の布陣でバリア的な魔法をお願いだ。特に最後のヤツが非常に強力であるからして、ありがたい限りだろう。

 自身も含めて皆が戦場の只中、空に浮かびながらのこと。

 黄昏の団に対するサポート体制は万全だ。

 位置取りとしては戦場のど真ん中。

 その上空、十数メートルの地点。

 以前にゴンザレスと組んだときは、他に頼れる後衛が居なかった為、不可能だった定点ヒーラー業である。キモロン毛が仲間になったことで無敵の回復ポジをゲットである。おかげで他に気兼ねなく全力でエリア回復を連発できるイケイケ感。

 敵兵が戦意を喪失するまで、ただひたすらに堪え忍ぶばかりである。

 ちなみに唯一場を離れたソフィアちゃんはと言えば、戦況を見渡せる後方の丘で待機だ。幸運の女神足る彼女が見守ってくれていれば、我々の勝利は間違いないだろう。信じてるソフィアちゃん。

「ぬぅんっ」

 それっぽい掛け声と共に再び回復魔法を放つ。

 五秒に一回。五秒に一回。

「あなたぁぁぁぁああちっ、止まりなさいっ! 止まりなさいっ! 領主であるこのわたくしの声が聞こえないとでも言うのかしらぁっ! らぁっ!?」

 吠える縦ロールは呼びかけ係。

 どうにかして味方の侵攻を止めて頂きたい。

「少しくらい領主の言うこと聞いてくれても良いんじゃなぁぁぁぁいいっ!?」

 ただ、既に勢い付いてしまった兵の説得は難しそうだ。どれだけ声を響かせたところで、誰も彼もはまるで聞き耳を持たない。当然と言えば当然である。目の前には敵兵が剣を構えているのだから。

 一応、黄昏の団には、敵兵が勢いを失ったら止まるようお願いをしている。とは言え、数の問題もあって現状では必至の対応。伊達に三桁で五桁の相手をしていない。手加減する余裕はなさそうだ。

 おかげでいずれの陣営にしても、この状況では急に剣を振るう手を止めることなど不可能である。下手に大人しくしては、勢いのままに切り裂かれて一巻の終わりである。しかし、だからこそ、どうにか上手いこと、事態の収拾へと向かわせなければならない。

 少しずつで良いから、時間を掛けても良いから、確実に。

『ふんっ、なんて下らない』

 唯一、一連の争いへ参加しないのがクリスティーナ。

 すぐ隣にプカプカと浮いていて、ちょっとムカつく。

 だってこっち頑張ってるのに。

 でも赤いドレスから覗く白いショーツのパンチラがエロいからギリギリ許す。

 空に浮いてるからスカートの裾が長くてもチラチラしてくれるんだ。

「クリスティーナさん。いちおう言っておきますが、もしも邪魔などしたら、今回ばかりは本当に怒りますから。ファイアボール十発くらい同時にぶつけますから。本当に」

『わ、わかっておるわっ!』

 最近、こういった粘り勝ち系のやり方が増えた気がする

 もう少しスタイリッシュに解決したいものだ。

「ぬぅんんっ!」

 五秒に一回、五秒に一回。

 規則的に回復魔法。

 こういうのはテンポが大切だ。

 要はマラソンみたいなものである。

 調子にのって連打するとバテるしな。



◇◆◇



【ソフィアちゃん視点】

 戦争です、戦争が始まりました。

 高台から見下ろす先、草原で兵隊さんと兵隊さんがぶつかり合っています。数の多い方がプッシー共和国で、少ない方がペニー帝国なのだそうです。タナカさんの説明によれば、後者は事実上、たった一つのクランで賄っているのだとか。

「……す、凄いですね」

 数の上で言えば、前者が圧倒的です。

 戦場など始めてのことですが、素人の私でも分かります。もしも普通にぶつかり合ったのでは、きっと朝ご飯の支度をする間もなく終ってしまうのではないでしょうか。

 ただ、今回はきっと、普通じゃない戦場です。

「ぜ、ぜんぜん人が倒れません……」

 うぉーと攻めていって、ぎゃーと討たれた方が、次の瞬間には元気になって、また、うぉーって攻めていくのです。タナカさんの回復魔法のせいですね。これはペニー帝国の方に限らず、プッシー共和国の方も同様です。

 おかげで戦場に倒れる方は禄に見つけられません。

 そこらかしこに血潮が飛び交っているにも関わらず、絶命する方はほとんどいません。説明に伺った限りでは、一定間隔で回復魔法を行使されているとのことで、その間隔を越えて命を失わない限り、どのような状況でも治癒されるのだそうです。

「…………」

 タナカさん、凄いですね

 圧巻です。

 ただ、これが理由で、恐らくはタナカさん自身も気付けなかっただろう弊害が、同所で顕現しつつあります。肉体こそ完全に癒やす回復魔法ですが、肉体が身に付けた防具の類いまでには効果が及びません。

 故にどのような状況が生み出されるかと言えば――――。

「あ、あぁ……なんて、なんて逞しいのでしょう……」

 乙女が目にするには些か不相応な光景が広がっております。

 本来なら鎧を突かれた時点で終る戦場が、けれど、今も尚。

「男の人って、お、想ったより凄いんですね……筋肉、すごくいいです」

 堪りません。

 こういうの、目の保養って言うのですよね。

 凄い癒やしを感じます。

 目移りしてしまいます。

 もう少し近くで見たいです。特にペニー帝国の方は数が少ないので、その分だけ被害の度合いも大きいのでしょう。なかには留め金を弾かれて、完全に全裸となってしまった方もちらほら見受けられます。

 綺麗に割れた腹筋とか、メロメロです。

 ああいう逞しい身体に無理矢理、組み伏せられたりしたら。

「……ありですね。断然、ありですね」

 紳士な王子様も良いですが、ワイルドな兵隊さんも素敵です。

 しかも数人から一度に責め立てられたりしたら。

「…………」

 少し怖いですけど、いいです。凄く、いい気がします。

 女としての幸福って感じがしますよ。

 いいえ、これは女に限りませんよね。男の方もきっと同じだと思います。露出も甚だしい美女の集団に迫られたら、男の人だって絶対にムラムラくる筈です。きっと誘惑に負けて致してしまう筈です。身を委ねてしまう筈です。

 だから今この瞬間に私が覚えた感覚も、致し方ないもので。

 はい。

 ええ。

 仕方がない、仕方がないのです。

「っ……」

 そして、こうした思いを抱える方は、どうやら私だけに限らないようです。

 衣服を欠けて尚、戦場を駆ける女性兵の姿がありました。

 手にした杖の先が向けられる側から判断するにプッシー共和国の兵でしょう。金髪オカッパの可愛らしい、恐らく私と大差ない年頃の女の子です。そんな方が、色々と丸出しのまま戦っています。

 前線に立って、戦士の方に混じり杖を振るっています。

「…………」

 なんでしょう、この感覚は。

 眺めていて、胸がキュンとしてしまいます。

「……あぁ、あんなに大きく足を開いて……」

 私も魔法が使えたら、兵士として、あの場所に立っていたら、同じように衣服を失い、戦っていたのでしょうか。遠くからでも窺えます。彼女の周りの立った男性兵の方の、少なからず戸惑う様子が。

「…………」

 他に衣服が破れた女性兵の方は、誰もが後方へと下がってゆきます。

 当然です。

 けれど、オカッパな彼女だけは、果敢にも最前線で頑張っています。

 同じ女だから分かります。露出って、多分、誰でも一度は夢見るものなのです。それでも大半の方は夢を夢のまま終えるのです。人生は一度しかありません。やり直しもできません。とてもとても大切なものです。

 それを彼女は現実のものにしてしまったのでしょう。

「…………」

 躊躇なく最前線に立ち、魔法を放ちました。

 見とれていたペニー帝国の方が、数人、爆発に巻き込まれて吹っ飛びます。

 これをタナカさんの回復魔法が即座に完治。

 身体を癒やしたペニー帝国の方は、再び金髪オカッパな彼女の下へ。

 そうしたサイクルが、幾度となく繰り返されております。

「…………」

 なんと言えば良いのでしょうか。

 ちょっとオナニーしたくなりました。



◇◆◇



 回復魔法を討つこと幾百回、開戦から半刻ばかりが経過した。

 流石に疲れてきた。

 今回はまだオシッコを一滴として漏らしていない自らの膀胱に喝采を与えたい。ただ、それも以後は厳しい気がする。まだまだ若いつもりだったけれど、膀胱は嘘つかない。まさか、こんな状況で自らの加齢を意識する羽目になるとは思わなかった。

「ぬ、ぬぅんっ……」

 あと、とりあえず的に繰り返していた掛け声のせいで、喉が渇いてきた。

 ソフィアちゃんのオシッコで潤したい。

 いつか絶対に飲んでやるんだ。ソフィアちゃんのオシッコを。

「顔色が悪いわっ! す、少し休んだ方がっ……」

 健気にも心配げな表情で問い掛けてくれるのはエステルちゃん。

 すぐ近くに飛行魔法で浮いているエステルちゃん。

 もしも誰よりも早く君に出会っていたのなら、或いは違った今が見られたかも知れない。けれど、僕は出会ってしまった。ソフィアちゃんに。君は出会ってしまった。アレンに。だから僕はソフィアちゃんのオシッコが飲みたい。

「大丈夫です。この程度であれば当面は持ちますよ」

「でもっ!」

 エステルちゃんの方もバリアっぽい魔法を張りっぱなしである。

 額にはビッシリと汗を掻いているし、とても辛いことだろう。

 まったくもう、アレンが羨ましくなってきたわ。

「それよりもエステルさんの方が心配ですよ。長時間の飛行魔法が与える負担はファーレンさんから伺っております。こちらはゲロスさんがいらっしゃいますので、どうか休憩を取りに向かって下さい」

 これはつい先程に魔道貴族から聞かされた話だ。

 なんでも飛行魔法はあまり長く続けられないらしい。もって小一時間が精々だという。更に一カ所へ静止するような精緻な制御はセンスが必要だとも。自身もまた体験した事柄であるから、非常に納得のゆく話だ。

 古い世代のヘリで行うホバリングのようなものだろう。

 ヘリなんて運転したことないけどな

「それに以前は細かな制御に不慣れであるとおっしゃっていたような……」

 ドラゴン退治の折にはこれが出来ずに飛空艇の艦橋であわあわしていた。

 おかげでロリボディーに合法タッチできたことを覚えている。

「れ、練習したのっ! これくらい今ならなんともないわっ!」

「素晴らしいですね。流石はエステルさんです」

「っ……」

 褒められたのが嬉しいのか、顔を真っ赤にするロリビッチ。

 一方で自身はどうなのかと言えば、恐らくは無駄に高いINTやLvの影響もあって、生理的な問題さえクリアすれば、肉体的な上限は感じられない。クリスティーナやキモロン毛も同様だろう。

 ということで、開戦からそろそろ良い時間が経つ。先んじて休憩に向かった魔道貴族の存在を思えば、エステルちゃんが心配だ。顔色を鑑みるに、次の瞬間にでも堕ちてしまいそう。俺より余程のこと危険信号を発して思える。

「だから、こ、この程度、どうということはないわっ!」

「顔色が良くありませんよ。私がレベッカさんに怒られてしまいます」

 アレンを引き合いに出すと機嫌が悪くなるので、今回はメイドさんを利用。

 けれど、ツンデレッ子は頑なだ。

「勝手に怒らせておけば良いわっ!」

「私は貴方に約束しました。どのような状況でも必ず助けるのだと。どうか、私に初志を挫くような真似はさせないで下さい。もしも私を気遣って下さるというのであれば、どうか、今この場はご自愛願えませんか?」

「でっ、でもっ……」

「私は貴方のことが心配なのです。エステルさん」

「っ……」

 顔が真っ赤になるエステルちゃん。

 幾ら何でもチョロ過ぎだろ。

 そんなんだから俺なんかに求婚するんだよ。

 ただ、なんだろう、こう、ちょっとだけイケメンになった気分がして心地良い。一度で良いから、こういう格好良い台詞って言ってみたかったんだよな。根拠のない優越感がふつふつと沸き上がってくるわ。

 多分、これが癖になったら人として終わりだろう。

「わ、分かった、わ……」

「ありがとうございます」

 耳まで真っ赤にして、ふよふよと行く先を改める金髪ロリータ。

「でもっ、す、直ぐに戻るわっ!」

「いえ、しっかりと休んでから戻って下さい」

「無理よっ!」

「いえいえ、そこは無理して下さい」

 短く吠えて、エステルちゃんは遠退いて行った。

 向かった先はソフィアちゃんが待機する丘の側である。

「…………」

 とりあえず、これで身の回りは安泰だ。

 ぶっちゃけエステルちゃんが居なくても、キモロン毛さえ居れば十分に戦況はまわってくれる。伊達にレベル三桁していない。飛行魔法もバリア魔法も申し分ない。縦ロールとこちらを守って余りある障壁が非常に心強い。

「ゲロスさん、でしたでしょうか?」

「……悪いが、お嬢様以外の者と口を利くつもりはない」

「…………」

 性格には難有りだけどな。

 まあ、今は便利に使わせて貰っているのだから、それで良しとしよう。

 そして、そうこうする間にも、五秒に一回は幾度と無く訪れる。

「ぬぅんっ……」

 意識を地上に改めて回復魔法を撃ち放つ。

 あまりにも撃ち過ぎた為か、なんか地面が魔法陣の輝く以外にも、うっすらと光を帯び始めているような気がする。いや、今は地面に気遣っている場合じゃない。もしも大地の精霊的な何かがいたら申し訳ないが、今回ばかりは勘弁して貰おう。

「ぬぅんっ!」

「……本当に人間なのか?」

 チラリ、キモロン毛から視線を感じた。

「なにか言いましたか?」

「なんでもない……」

「そうですか」

 だったら話し掛けるなよ。

 自分から話さないとか言った癖にまったくもう。

 とは言え、今は共に戦う仲間だ。仲良くしないとな。

「……しかしまあ、貴方の主人も人徳がありませんね」

 キモロン毛の正面、数メートルの地点を飛び回りながら、地上に向けて必死に声を張り上げる縦ロールを眺める。遠くまで良く通る声は、おほほ笑いに鍛えられたものだろうか。戦場であっても聞こえが良い。

 ただ、その割には一向に反応がない。

「お嬢様は着任から日が浅い。致し方ないこと」

「それでも話を聞きに来る者が一人や二人はいても良いでしょうに」

「…………」

 後どれくらいを続ければ良いだろう。

 流石にしんどくなってきた。

 具体的にはオシッコがしたくなってきた。

 いっそ下の連中の頭に注いでやろうか。

 おもむろに敵軍の只中、女性兵の姿を探し始める。

「ぬぉおおおおおおっ! みんな頑張れっ! 敵の勢いが衰えてきたぞっ!」

 しかし目に入るのは野郎ばかりだ。今に上がった咆吼はと言えば、他の誰でもないゴンザレスのものである。ここぞとばかりに熱血してくれるヤツは、まったく、本当に人が良いマッチョ野郎だろう。

 彼が語ったとおり、確かに戦況は黄昏の団が盛り返しつつある。

 如何に即時無限コンテニュー制とは言え、二桁という圧倒的な戦力差を埋めてくれるとは、恐ろしいまでの地力、統率力だろう。未だ死傷者が一桁に収まっている点も、当初の想定と比較しては破格である。

 二桁は覚悟していた次第である。

 これならば補償もエステルちゃんに泣きつかずとも済む可能性が大。

「ゴンザレスさん、安全第一でお願い致しますっ!」

「おうよっ! 下は俺たちに任せておけっ! 回復は任せたぜっ!」

「了解ですっ!」

 相変わらず元気が良いな。

 おかげでこちらも少しばかりテンションが持ち直してきた。この調子ならば、なんとかなるかも知れない。日が暮れるまでには終らせてやるんだ、云々、少しばかり気分が前向きになり始める。

 そうした頃合のことだった。

 ふと妙な光景が視界に入った。

「……あれは」

 戦場の只中に全裸の女性兵を見つけた。

 衣服を失った一人の女性兵が、最前線で杖を振るっている。しかも何ら身体を隠すことのない行いだ。他の女性兵が衣服の損傷と共に奥へ引っ込むのに対して、その女性だけは勇猛にも全力で前へ、前へ。揺るぎなく突き向かってゆく。

 であれば、これに挑むのは我がペニー共和国が誇る黄昏の団の男衆である。女性兵の魔法攻撃をものともせず、真っ向から突き進んでは、うぉーとギャー、を繰り返す。回復魔法の恩恵を全力で享受だろうか。

 そんな羞恥劇が足下で繰り返されていた。

 なによりストリップ決めてる女兵には見覚えがあった。

 メルセデスちゃんの肉便器である。

 彼女は敵軍であるペニー共和国の兵の手中へ幾度となく身を捕らわれていた。しかしながら、事前に敵兵への陵辱行為を禁止した手前、オッパイに手が伸びることはあっても、手マンにまでは至らない黄昏の団の紳士たち。挿入などもってのほか。

 ねえちゃん、良い身体してるじゃねぇか。いやぁん、だめぇん。ねぇちゃん、良い身体してるじゃねぇか。いやぁん、だ、だめぇん、そんなの感じちゃう。ねえちゃん、良い身体してるじゃねぇか。あ、あぁん、どうしてオッパイばっかりぃ。みたいな。

 声こそ聞こえないが、そんなアテレコが自然と脳裏に浮かぶほど。

「……すばらしいな」

 受け継がれている。

 芽吹いている。

 ガチレズ女騎士の意志が。ここへ確かに。

「…………」

 おかげで同所界隈には他に見られない変化があった。

 本来であれば輪姦必至の状況にありながら、それでもオッパイが揉まれるばかり。さながら同じテキストを延々と繰り返すバグったギャルゲのようだった。初心なネンネではあるまいし、これには敵兵一同もおかしいと気づいた様子だ。

 そこで生きてくるのが、上空で延々と停戦を呼びかける縦ロールの存在である。

「ちょっと貴方たちっ! 人のこと無視してなに楽しんでるのぉおおおおおっ!?」

 この二つが組み合わさったことで、界隈の兵士一同に動揺が走る。

 これまで見えていなかった領主の顔を判断した様子だ。

 ただ、それと時を同じくして、状況は嬉しくない形で変化を見せる。

「おい、ニンゲン」

 お知らせをくれたのはキモロン毛だ。

「どうかしましたか?」

「連中、少しばかり大きいのを企てているようだ」

 その視線が指し示す先、なにやらローブ集団の集まる界隈が見て取れた。草原の一角にひしめき集まっている。四桁近い集団であるから、だだっぴろい同所にあっては非常に良く目に付いた。

 どうやら前線から勢いが退いたのは、他に理由があった様子だ。剣を手にした前衛連中こそ残っているが、杖を手にした者たちは大半がそちらへと集まっている。キモロン毛の言葉を信じるのならば、大魔法的な何かを催しているのだろう。

 募った者たちの足下には巨大な魔法陣が浮かび上がっている。

 たしかにヤバそうだ。

「私はオマエが気に入らない」

 どうしたものか、悩んでいるとキモロン毛からなにやら不穏な響きが。

「こちらはお嬢様をお守りするので手一杯だ。貴様は貴様でなんとかしろ」

「え? そうは言いますが、割と余裕そうな顔してませんか?」

「さぁな」

「…………」

 流石はマゾ奴隷だ。

 主人に近づく野郎認定されたのか敵意がビンビンである。

 いかん。いかんぞ。

 無敵モードで耐えることは可能だが、それを行ってしまうと回復魔法が撃てなくなってしまう。そうなると取り得る選択肢はと言えば、かなり限られてくる。

「……余裕ですね」

 精々強がりながら、飛行魔法で超絶回避に挑む他にない。

 幸いにしてここは草原、空がとても広い。

「来るぞ? 下の者共を守りながら、うまく捌ききれると良いな?」

「っ……」

 キモロン毛が語るに応じて、ローブ軍団の集う一角から魔法が放たれた。

 いつぞやのドラゴン戦でエステルちゃんやゾフィーちゃんが見せた、七色に輝くビームもどきである。もしかして流行っていたりするのだろうか。それが今回は、凡そ比較にならない規模でこちらに向かい迫ってくる。

 幸か不幸か、照準は全て空に、自身の側へ向いていた。

「せいぜい足掻くと良い」

 一斉掃射が始まるに応じて、キモロン毛は縦ロールを連れて戦線離脱。いつだかに同じく瞬間移動的な魔法により、一瞬にして姿を消した。どこへとも安全な場所に逃げ出したのだろう。相変わらず逃げ足の速いことだ。

 対して、こちらはと言えば、困った。

 これホーミングするんだよな。

 ドラゴン戦で見てたら知ってるけど。

「ぬ、うぉぉおおおおおおおおっ!」

 致し方なし。

 今は逃げて逃げて逃げまくるのみ。

 幾千、幾万と迫る光の帯を正面に挑むリアルシューティングゲーム。

 せめてボムが欲しい。ボムが。



◇◆◇



【ソフィアちゃん視点】

 大変です、プッシー共和国の方から凄い魔法が放たれました。

 光のシャワーみたいな、とてもとても綺麗な魔法です。一角に集まっていた一団の下から発って、空のある一地点、恐らくはタナカさんが浮いていらっしゃる辺りに向けて、ぶわぁーっと降り注ぐように向かってゆきます。

 以前、ペペ山で後衛の皆さんが使っていたのと同じ魔法です。

「なっ……」

 すぐ傍よりエステル様の驚く声が上がりました。

 タナカさんのことが心配なのでしょう。

 けど、タナカさんはアハーンの領主様と、そのお付きの方が一緒だから大丈夫だと仰っておりました。私も話を聞いた限りですが、なんでもお付きの方はとっても強いのだそうで、安心して守りを任せられるだろう、とのことでした。

 なので、どこか他人事のようにこれを見つめておりました。

 しかしながら、シャワー魔法が放たれると同時、私たちの正面に魔法陣が浮かび上がり、そのお付きの方が姿を現わしたのです。お隣にはアハーン領の領主様の姿も窺えます。瞬間移動の魔法でしょうか。凄いです。

「…………」

 ええ、凄いのですが、お二人だけで、タナカさんの姿が見えません。

 どうしたのでしょうか。

「む、貴様ら、ヤツの護衛はどうした?」

 一緒にお休みをされていたファーレン様が問われました。

 これに答えたのは従者の方です。

「彼が一人でも十分だと言うので、我々はしばし休憩に参りました」

「な、なんだとっ……」

 これにはファーレン様も顔を強ばらせます。

 というと、今まさにタナカさんは、あの光のシャワーの中にいらっしゃるのでしょうか。初発が撃ち出されて以後、一向に収まることの知れない光の帯が、次々と生まれては空の一角、彼の浮いていた辺りに向かい飛んで行きます。

「あれだけの回復魔法を連発しながら、更に五桁規模で発動された大魔法の回避など、い、いつだかのドラゴン戦を鑑みても尚のこと困難極まる状況ではないか! ヤツの魔法特性を鑑みれば相性も最悪だっ」

 どうやら非常に困難な状況であるようです。

 おかげでエステル様が大変です。

「ゆ、行くわっ! 待っていてっ!」

 大慌てに飛び出そうとしたところ、その足首をファーレン様が掴みます。

「待てっ、貴様が行ってどうなるっ!」

「でもっ!」

 今にも泣きそうな顔のエステル様、恋する乙女の表情です。

「ヤツの傍らにはあのドラゴンが居た筈だ」

「あっ……」

 ファーレン様の助言を受けてエステル様の表情が安堵を取り戻します。

 ただ、それもほんの僅かな間でした。

『私がどうかしたのか?』

「ぁぁあああああああああああああああっ!」

 エステル様が壊れてしまいました。

 ドラゴンさん、すぐ近くにいらっしゃいました。

 戻って来ちゃったみたいです。

 とは言え、仮にエステル様が向かっても、むしろ状況は悪くなるばかりでしょう。まさか放ってはおけませんから、ファーレン様に同じく、私もまた彼女のお御足に手を伸ばします。いざ空へ飛び立たんとした彼女の、その足首へ。

「行かせてっ! 行かせなさいっ!」

「た、タナカさんなら大丈夫ですっ! きっとっ! きっと大丈夫ですからっ!」

「無理よっ! 死んでしまうわっ!」

『あの程度でヤツが死ぬものか。でなければ既に死んでおる』

「死んでしまうわよぉおおおおおおおっ!」

 最近のエステル様は故障率が半端ないですね。

 つい先日、タナカさんの生首を見たのがトラウマになっているのかも知れません。エステル様のタナカさんに対する母性本能がビンビンの予感です。愛が溢れてちょっと大変なことになっております。

「落ち着け、リチャードの娘っ!」

「落ち着いていられないわっ! 無理よっ!」

 そうした具合ですから、一連のやり取りを眺めて傍らから声が。

「ちょ、ちょっと、ゲロス。本当に戻って来てしまって良かったのかしら?」

「ええ、他の誰でもない、彼自身が大丈夫と言っていましたから」

「私は聞いていないのだけれど……」

「私に言われましたので」

「……そう? であれば、まぁ、よ、良いのだけれど……」

 狂ったようにタナカさんの下へ向かおうとするエステル様。

 そのあまりにも必死で痛々しい姿を目の当たりとして、些か退いて思えるアハーン領の領主様です。エステル様とはお知り合いとのことで、視線は頻りにタナカさんと彼女の間を行ったり来たり。少なからず気を揉ませているのでしょう。

 敵国人であることを鑑みると、友人知人には幾分か気の良い方なのかも知れません。

「むっ、見ろっ!」

 そうこうしていると、ファーレン様が吠えました。

 今度は何を発見されたのでしょう。

 命じられたままに意識を向ければ、空の一角に忙しく飛び回る人の姿が。

「た、タナカさん……でしょうか?」

「まさか、あれほどの密度の中を飛行魔法に飛び抜けるとは、恐ろしいまでの飛行精度だ。凡そ人間業とは思えん。しかも、どうしたことだ。障壁を張っている気配が感じられない。目と鼻の先を光弾が飛び交っておる」

 大量に撃ち放たれる光の帯の、その僅かな隙間を縫って、タナカさんが飛んでいます。

 果たしてそれがどれだけ大変であるのか。

「そんなっ、ど、どうしてっ!」

「恐らくは回復魔法を打つ為に魔力を温存しているのだろう。でなければ、あのような真似、まともな精神では行えん。どれだけ自分に自信があるというのだ、あの男は。まさか、一人で全てを片付けるつもりかっ!?」

 ファーレン様のお言葉に従うのであれば、きっと、命懸けなのでしょう。

 タナカさん、凄いですね。

「…………」

 そして、私はと言えば、そんな彼を眺めるお付きの方の表情が気になります。

 なんか凄くニマニマしてます。

 その視線は空に飛び交うタナカさんを追い掛けているようです。

 他の方が心配そうな表情を浮かべているのに対して、彼だけから安穏とした雰囲気を感じます。これが強者の余裕というヤツでしょうか。タナカさんが仰っていたので、間違いはないと思うのですが、見ていてあまり気分の良いものではないでしょう。

 シャワー魔法はそれからしばらく、エステル様の悲鳴と共に続きました。



◇◆◇



「……死ぬかと思った」

 最近、騒動の折には何かと流行の兆しを見せるシューティングゲーム。

 遂にステージクリアしたわ。

 ようやっと飛んでくる魔法が収まった。

 その出元へと視線をやれば、膝に手を突いてゼーゼーとやっているローブ連中の姿が確認できた。MP切れというやつだろう。まわりには空になったポーションの容器っぽいのが沢山転がっている。

 完全に出尽くしたと考えて良いだろう。

「あのキモロン毛、いつか覚えてろよくそう」

 若返りの薬を飲んだのなら、縦ロールちゃんのこと寝取ってやるわ。

 目指せ略奪愛だろ。

 寝取られるより寝取りたい。

「タナカ、大丈夫かっ!?」

 地上から声が掛かる。

 目を向ければこちらを見上げるゴンザレスの姿があった。周囲に集まる敵兵を自慢の大剣に蹴散らしながら、それでも気遣いの言葉を与えてくれる。なんて良いヤツだろう。これだからイケメンは手に負えないな。心の傷が一瞬にして癒やされたわ。

「おかげさまでなんとか、無事に切り抜けることができました」

 継続して回復魔法を撃ちつつ、これに応じる。

「本当にオマエってやつは大した魔法使いだなっ! まさかあの状況でも回復魔法を撃ち続けるなんて、人間技じゃねぇよっ! くっそ、是非とも俺のクランに欲しいぜっ! たまらねぇだろっ!」

「もしも他に行く先が無くなったら、その時はお願いしますね」

「おうおうっ! 待ってるぜっ!? 死ぬまで待ってるわっ!」

 相変わらず賑やかな男だ。おかげで彼の率いるクランの戦意は未だに衰えない。むしろ自分がステージクリアしたことで、殊更にテンションを上げて思える。

 だからだろうか、次なる気転は早々に訪れた。

 切っ掛けは頭上より投げかけられた声である。

「おい! プッシー共和国側から矢文が届いたぞ!」

 休憩に出ていた魔道貴族が戻ってきた。

 飛行魔法でヒューンときた。

「ようやっと来ましたかっ」

「うむ。どうやら相手もこちらの意図を理解した様子だ」

「それはなによりですね」

 ようやっと、今か今か、求めていたところが届けられた。

 前線の違和感が指揮系統の上位にまで伝わったようだった。或いは虎の子の七色シャワー魔法が弾切れしたことで、降参を余儀なくされたといった形だろうか。まあ、いずれであっても構わない。

 この戦乱さえ無事に収まるのであればそれで良し。

「私はこの場を離れる訳にはいきません。お手数ですがファーレンさんとエステルさん、それにアハーンさんの三名で向かって下さい。お三方が向かわれれば、相手も決して無碍にはしないでしょう」

「よかろう」

 これでもう大丈夫だろう。

 以後は領主を筆頭として、お貴族様方の仕事である。エステルちゃんと縦ロールの政治手腕はまるで知れない。しかし、魔道貴族が一緒であれば、これ以上を妙な方向に転がることはないだろう。

 いつぞや首都カリスのお城に目の当たりとした謁見タイムを思い起こす。王様のヤツに対する信頼感はどうだ。ああまでも一国の元首に信頼を寄せられているのだからな。今日この日まで垣間見せた知見の広さも然り。

 その守備範囲の広さを鑑みるに、きっと、天才というやつなのだろう。

「面倒ばかり申し訳ありません。そう仰って頂けると非常に心強いです」

「ふんっ。国の一大事とあらば出張る他にあるまい。貴様に言われるまでもない」

「こういった局面だからこそ、貴方ほどに心強い存在はありませんよ」

「だ、だからっ、別に貴様に言われるまでもないと言っておろうにっ」

「はい。お手数ですがエステルさんを、よろしくお願い致します」

「貴様に頼まれたのであれば致し方ない。他所の家の事情に口を挟むのは、たとえ身内であっても滅多で無いのだが、まあ、良かろう。リチャードの娘の身の上、このファーレンがしかと支えてやる」

「ありがとうございます。この借りはいつか必ず」

「良いのか? そのように軽い口を叩いてしまって」

「貴方には他にも色々と世話になった覚えがありますので」

「……ふん。であれば、この度の面倒が終った折りには私を尋ねると良い」

「分かりました」

 ドラゴン退治から続き、学園への入学に至るまで、ここのところ世話になりっぱなしである。そろそろ御恩と奉公で言うところの奉公をしなければならない気配を感じる。

 世の中、ギブしてもらったらテイクしなければならない。円満な人間関係の形成には必須である。こちらも多少の無理は叶える義務があると強く思う。

「では、私は行こう」

「よろしくお願い致します。期待しております」

「誰にものを言っている? この私が任されたのだ。結果は絶対だ」

「はい。信じて待っておりますよ、ファーレンさん」

「ふふん、当然だ」

 語り、魔道貴族は踵を返すと共に飛び立っていった。

 いちいち格好良いところが悔しい。

 自分もああいうナイスミドルになりたかったものだ。

 まあ、無いものを嘆いても致し方ない。

 そんなこんなで状況は進み、残すところ自身に求められる仕事はと言えば、彼らが説得を完了するまで、残り時間を回復魔法に尽くす限りである。この調子でいけば黄昏の団に出た死傷者も、一桁のまま収めることが出来るだろう。

「ようし……」

 根性込めて頑張ろう。

 覚悟を決める。

 それから回復魔法を延々と続けること半刻ばかり。

 皆々の努力が実り、草原は無事に落ち着きを取り戻すのだった。

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