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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫

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25/132

紛争 一


 翌日、俺の下に一通の手紙が届いた。

 昨日は色々とあって疲れたし、今日は丸一日、ゴロゴロしながら過ごして休もうと考えた矢先の出来事である。

「……召集令?」

 差出人は冒険者ギルドとなっていた。

 封を開けてみれば、そこには冒険者を民間兵として召集する旨が淡々と記載されていた。裏返してみれば、他に小さな文字で冒険者ギルドの規約と思しき羅列が並ぶ。

 なんでもギルドに所属する冒険者は有事の際に徴兵される仕組みなのだそうだ。

「おいおい、俺もかよ」

 昨日、エステルちゃんから告白されたところは、決して他人事でなかったよう。

 むしろ前線送りの可能性を考えれば、こちらの方が遙かにピンチだろう。

 なんでも参加しないと冒険者ギルドの登録が永久抹消されてしまうらしい。更に状況如何に因っては罰則の類いも存在しているとのこと。

 こんな規則があるなんて知らなかった。店員は厳つくて口の悪いマッチョ親父だし、福祉厚生も皆無だし、冒険者ギルドってやつはブラック極まりないな。

 無視してやろうか、考えないでもない。とは言え、冒険者ギルド経由でのお仕事こそ、自身が得られる唯一の現金収入だ。ここで不仲になってしまうのは、今後の生活を鑑みるによろしくない。

 なにより俺には神様印の回復魔法がある。これさえ在れば、戦場の一つや二つは乗り越えられると考える。まさかクリスティーナ以上の化け物が登場することはないだろう。今のところ自身が知る限り、魔道貴族が人類最強だ。

「……これは仕方ないな」

 行きたくは無いが行かざるを得ない。

 後衛希望で安全なところに配属されることを祈ろう。

「とりあえず、ギルドまで行くか」

 洗濯へ出ているソフィアちゃんに置き書きを一筆さらさらと。

 財布をズボンのポケットへ放り込むと共に寮を後とした。



◇◆◇



 首都カリスの町並みを観光気分に歩むことしばらく、冒険者ギルドへ到着した。

 受付にはいつだかトークした覚えのあるマッチョなオッサンがドン。

 他にカウンターの向こう側には人の姿も見つけられず、致し方なし、彼の下へ向かいそそくさと歩む。俺以外にも手紙は届けられていたようで、同所は冒険野郎たちでごった返していた。最高にむさ苦しい。

 普段なら歓談に興じる面々が、今は深刻な表情に語らい合っている。時折、怒声染みた声まで飛び交うから、なるほど、確かに本当に戦争が始まってしまうのだな、などと感慨深い気分になる。

「すみません、徴兵令を受けてきたのですが……」

「あぁ、いつかのモヤシ野郎か」

 流石は醤油顔、相手の覚えが良い。

 人相描き付きで指名手配とかされたら一発でアウトだよな。

 今後とも自身の社会性には気を遣って生きていこう。

「はい。必要な手続きなどあれば教えて頂きたいのですが」

「……ったく、本当に調子の狂うヤツだぜ」

「どうかしましたか?」

「なんでもねぇよっ。もうすぐトリクリス行きの馬車が出る。それに乗れ」

 何気なく親指に指し示された先にはギルドの玄関が。

 流石にそれはこっちも想定外だ。

 鞄の一つすら手にせずやって来たのだから。

 替えの下着すらままならない。

「このまま出発なんですか? 準備もなにもないのですけれど……」

「あれもそれもこれも、ぜんぶ上からのお達しだ。物資は現地で配給される」

「な、なるほど……」

 なんという手際の良さ。

 腰の重い日本企業にも爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。

「こっちも人を寄越せとしか言われていないからな。ギルドの冒険者が集められるのも、かれこれ十五年ぶりだ。ここ最近は小競り合いも規模を収めて思えたものだが」

「隣国とは以前から諍いが?」

「まぁな。あっちは議会制でこっちは君主制だ。オマエみたいな異国人には分からないだろうが、ペニーとプッシーは昔から因縁のある仲なのさ」

「そうだったんですね」

 ギルド所属の冒険者に徴兵の義務が与えられているのも、その辺りが理由だろう。

「しかしお前、随分と落ち着いてるな。戦場は経験あるのか?」

「いいえ、初めてですが……」

「現実味が湧いてない訳か。まぁ、向こうに着けば嫌でも理解するだろうさ」

「そうですかね?」

 戦争映画みたいな展開は勘弁なんだけど。

「テメェは回復魔法が使えるんだろう?」

「はい」

「死にたくなけりゃ、特技を生かして上手く立ち回ることだな。補給部隊の援護にでも配属されれば、そう簡単にくたばることはない。逆に前線支援となりゃ、よほど指揮が上手くない限り二、三割はおっちぬ」

「……なるほど」

「俺のこの目、どう思う?」

 オッサンが自らの右目を人差し指に指し示しては問うてくる。

 イケメン自慢か? 勘弁してくれよ。

「目ですか? 取り立ててどうとは思いませんが……」

 碧眼とか超絶羨ましいんですけど。

「十五年前の徴兵で敵兵の閃光魔法を喰らって見えなくなっちまった」

「……そ、そうなんですか」

 おどしてくれるなよ。

 っていうか、いきなり話題が重いんだよ。

「片目で済めば御の字だ。一緒にパーティーを組んでいた仲間は全員、碌に成果も挙げられずに死んじまった。ランクBのパーティーがだぞ? 一度はヤッてやろうと企んでいた女もとっ捕まって、さんざん犯されて、最後はダルマにされて死んじまった」

「…………」

 どおりでギルドの空気がギスギスしている訳だ。

 きっと逃げ出したヤツも少なくあるまい。

 俺も回復魔法がなけりゃ発狂してたな。

 エステルちゃん、本当にお城勤務なんだろうな?

 ダルマ仕様で輪姦されてる精液まみれのツンデレとか、もの凄く見てみたい。べ、別に貴方の為にダルマになったんじゃないんだからねっ! そりゃそうだ。

 けれどまあ、これだけ仲良くなった後だと、流石に抵抗あるだろ。五体満足、無事で居て欲しいと思う程度には。

「そういう訳だから、まぁ、気をつけるこった」

「……ご忠告ありがとうございます」

 しかし、戦場の混乱に乗じて女性兵をレイプとか、最高に滾るな。

 ちょっとエッチな気分になってきたぞ。

 その手のエロストーリーは大好物だ。アヘ堕ちならば尚良し。

「おうっ、そろそろ馬車が出るようだ」

 ギルド正面の通りに人の声が響く。

 曰わく、出発します。

 応じて他に大勢、組合員が席から立ち上がってはわらわらと。なかには机や椅子の脚を蹴りつけて出て行く者の姿もある。どいつもこいつも不機嫌じゃないか。恐らくは自分と同じような理由で、この場に挑んだ者たちだろう。

 相変わらず貧乏人に優しくない世界だ。

「んじゃな」

「あ、はい」

 マッチョ親父に見送られて、俺もまた出陣である。

 見ず知らずの冒険者連中と共に乗り合い馬車へ乗り込む。

 一路、エステルちゃんが統治予定の領土へ向かう運びとなった。



◇◆◇



【ソフィアちゃん視点】

 大変です。田中さんが徴兵されてしまいました。

「ど、どうしましょうか……」

 流石にこれは戸惑います。もしかしたら事情を知っているかもと、エステルさまのお部屋を訪れれば、こちらもまた既に領地に向かわれたとのお話でした。お部屋の片付けをされていたレベッカさんから伺ったことなので間違いはないでしょう。

 どうしましょう。

 どうしましょう。

 どうしましょう。

 いえ、どうもしませんね。

「……慌てても仕方がありませんよね」

 落ち着く為にも昼食を頂くとしましょう。

 ドラゴンさえ倒してしまうタナカさんですから、きっと大丈夫な筈です。すぐにお勤めを果たして戻られることでしょう。それまで束の間の自由を存分に味わうのが、きっと、正しい選択だと私は判断しますね。

 亭主留守で元気が良いとは上手く言った言葉ですが、まさにそのとおり。おかげで悠々自適なメイド生活が送れるというものです。今がそれほど苦労かと言えば、タナカさんは全く世話の掛からない方なので、実家に居るときより遙かに楽なのですが。

「なにはともあれ、厨房までご飯を取りに行きましょう」

 今日のご飯はなんでしょうか?

 昨日のステーキ、とても美味しゅうございました。

 タナカさんの置き書きを元在ったとおり、リビングのテーブルの上に戻しまして、さて、いざ厨房へ参らんと意識を玄関の側へ向けます。メイド服のスカートを勢い良く翻して回れ右です。

 そうした直後の出来事でした。

「すみませんっ! タナカさんっ! タナカさんっ!」

 なにやら玄関の方が騒がしくなりました。主人の名を呼ぶ声に加えて、ドンドンと激しくドアを叩く音が聞こえます。状況によっては守衛を呼びたくなる勢いです。すわ地上げの類いかと勘ぐりそうになるほどでしょう。

 ただ、その声には覚えがありました。

「あ、アレン様っ!?」

 間違いありません。この声はアレン様です。

 ご飯を食べている場合ではありませんね。

「は、はいっ! ただいま参りますっ!」

 私は駆け足で玄関へと向かいました。

 その間、手櫛で髪を整えること忘れてはいけません。メイド服もシワをピンと伸ばして、襟元も形良く収まっていることを確認です。ここ最近、タナカさんばかり相手にしていたので、ちょっといい加減になっていた辺りです。

「タナカさんっ! すみません、サイトウですっ!」

 ところでアレン様、昨日からサイトウと名乗っていますが、これって罰ゲームかなにかでしょうか? 凡そ人の名前らしくない響きですね。なんとなくですが、タナカさんのそれと同じ感じがします。

「すぐにお開け致しますっ」

 鍵を開けてドアを開きます。

 すると、廊下の側には、あぁ、アレン様です。

 甲冑姿のアレン様、すごくカッコイイです。

 タナカさんのご飯にあれこれ入れるのとは別のドキドキが胸を支配します。きっと、これが恋というものなのでしょう。緊張から脇の下に汗がジワリ滲み始めます。それじゃあ後者は何者なのかと問われれば、そちらはそちらで疑問が残るところですが。

「あれ? き、君はっ……」

「も、申し訳ありません、アレン様。ファーレン様のご意向により、この学園でメイドとして、タナカさんのお世話をさせて頂いております」

「なるほど、そうだったのかい」

「はい」

 勘違いされてはいけませんからね。この手の言い訳は最初にバシっと決めておかないとなりません。男女の駆け引きは万が一さえ許されませんよ。エステル様がアレン様より離れられた今、きっと、私にも少しくらい可能性があるのではないでしょうか。

 しかもタナカさんは現在、留守、なのです。

 これ以上無いシチュエーションです。

 ちょっと期待してしまいますよ。

 アレン様、かなり手が早いように見受けられますし。

「すみませんがソフィアさん、一つ確認したいことがあるのですが」

「なんでしょうか?」

「タナカさんはどちらに?」

「タナカさんでしたら、なんでも戦争に向かわれたとか」

「……そ、そうですか、タナカさんは既に向かわれた後ですか」

 短く呟いて、切なげな眼差しを足下に落とすアレン様。

 最高にカッコ良いです。

 堪りません。

 よだれ出ちゃいそうです。

「それじゃあエステルが留守だったのも……」

「これはメイドのレベッカさんから窺ったのですが、エステル様も昨日のうちに首都を出発なされたとのお話でした。かなり急いでいたとのことなので、その、恐らくは相応に進まれているのではないかと」

「くっ……なんてことだ、僕は、僕は自分のことばかり考えて、彼女をっ!」

 恐らくは戦争の知らせを耳として、居ても立っても居られずに、といったところでしょう。延々と走ってきたらしく、額や首筋には汗がビッシリと浮かんでいます。なんか、すごく良い匂いがしますよ。これおまたに響くタイプの香りじゃないですか。

「……アレン様」

 アレン様、本当に善人ですよね。

 今にも泣き出しそうな表情で、ギリリと綺麗に並んだ真っ白な歯を食いしばってみせる姿は、あぁ、きっと、エステル様を想っていらっしゃるのでしょうね。こんなお顔を私も自分に対して向けられてみたいです。

「ありがとう、情報を感謝するよ」

「い、いえっ、めっそうもないですっ!」

 ここは頑張りどころですね。

「あのっ、も、もしよろしければ、お茶の一杯でもっ!」

「いいや、すまない。僕もすぐにトリクリスへ発とうと思う」

「そ、そうですか……」

 速攻の敗北です。

 取り付く島もありません。

 エステル様、強いです。

 流石です。

 私より年下なのに、人として完敗です。

「ありがとう。いつかこのお礼はちゃんとさせて貰うよ」

「い、いえっ、そんな、お礼なんて結構ですよっ」

「それじゃあ、失礼しますっ」

「あ、はい……」

 騎士っぽいお辞儀をして、アレン様は駆け足に廊下を去って行きました。

 ブーツの床を蹴る音も、早々に聞こえなく鳴ってしまいます。

「…………」

 その姿が見えなくなるまで見送ってから、私は玄関のドアを閉めました。

 ちょっと寂しい気持ちです。

「……ごはん、食べましょうか」

 なんか皆さん、忙しそうですね。



◇◆◇



 移動の最中、馬車の雰囲気は非常によろしくないものだった。

 そりゃ戦地へ向かう義勇兵を乗せた馬車だもの。当然だろう。

 死にたくない、死にたくない、延々と呟き続ける十代の駆け出し冒険者然とした若者。完全に意気消沈して体育座りに顔を伏せる二十代、ローブ姿の魔法使いっぽい女性。空元気全開で賑やかに吠えるも、唇の震えている軽鎧の中年男性。他にも色々。

 昨日の今日で戦争一色な気配である。

「…………」

 如何に戦争とは言え、国境付近での紛争と聞いて楽観視していた。

 それは誤りであったよう。

 国力全てを注ぎ込んだ総力戦であろうと、国境付近での小競り合いだろうと、そこへ向かわされる人間にとっては等しく戦場だ。その手の映像作品を思い起こしたところで、所詮は場当たり的な諍いだろうと侮っていたのかも知れない。

 まったく、恐怖に震える女冒険者って可愛いよな。

 思いっ切り視姦しちゃうわ。

 ガクブル震えるローブ姿の十代少女を十分に堪能である。

 そして、今現在のターゲットは続くところ、正面に胡座をかいて身を落ち着ける女性である。外見年齢は二十歳ほどに思われる、胸と乳と尻が大きなグラマラスさんだ。要所を金属に作られた軽鎧に身を包む彼女は、傍らに置かれた大剣が示すとおり、戦士的なポジションを担う人材だろう。

 腰下まで伸びた長い銀色の髪と、艶のある褐色の肌が非常にセクシーである。キリッとした釣り目がちな眦もポイント高い。身長も百七十くらいあるぞ。女性としては結構なものだ。耳が尖っているのは、俗に言うダークエルフというヤツだろうか。他としては比較的落ち着いて思える。これがギルドのマッチョ曰わく戦場慣れというものか。

「…………」

 アンダーウェアを着込んでいる為、肌を拝めるのは首から上ばかり。それでも推し量るべくもないアッパーボインの乳が、安産型の尻が、ムチムチな太股が、否応なく男の劣情を掻き立てて下さり誠にありがとうございます。やはり褐色肌は良いものだ。ぶっかけ映えしそうな感じが堪りませぬ。

「…………」

 なんて、ジッと見ていたのが悪かっただろうか。

 俺が眺める先、不意に彼女がこちらへと顔を向けた。

 目と目が合う。

「…………」

 自然を装い、これを逸らす俺はジェントルマン。

 対して口を開いた彼女は野生のウーマン。

「おいっ、さっきからなんだ? ジロジロと人のことを見てくれて」

「っ……」

 おうふ、絡まれてしまった。

 流石に気が立っているのだろう。

「なんとか言ったらどうだ? このモヤシ野郎が」

「も、申し訳ありません。貴方があまりにも美しかったもので……」

 朝の埼京線だったら一発でアウトだったな。

 ヤバいわ。冤罪ヤバいわ。

 見るだけならセーフじゃないのかよ。

「珍しいか? 人の争いに出向くダークエルフが」

「いいえ、別にそういう訳では」

「笑いたければ笑えば良い。他に行き場の無いこの私をな。せいぜい大勢の人間を殺してやるさ。あぁ、この手で私と同様、行き場の無い肉の塊にっ……」

「…………」

 このエルフもこのエルフでギリギリだな。

 いつかのエディタ先生を彷彿させる。

 伊達にドナドナ一号車へ搭乗していない。

 ちなみに二号車以降は後続だ。

 数台ばかり続いている。

「……なにかあったのですか?」

 朝の埼京線であったのなら、速攻で警察を呼ばれていただろう。問答無用で逮捕だったろう。しかしながら、こちらであれば多少を罵倒される限り。更に続くところコミュニケーションのご褒美付き。そういう男女間の関係にイージーなところ大好きだよ。

 これだけの美女とのトーク、向こうじゃ一時間一万円でも怪しいだろ。

 コスパ良いよな、この世界。

「貴様はこれが見えないのか?」

「……はい?」

 彼女は自らの首を親指に指し示しては呟く。

 何やら首輪のようなものを装備している。

「よく分かりませんが、素敵なデザインのチョーカーですね」

「ふざけているのか? 奴隷の証だろうがっ」

「…………」

 吠えられた。

 奴隷。奴隷ね。

「私はギルド管理の奴隷だ。元々は冒険者であったが、仲間に嵌められて今や自由すら奪われた身の上。平時であればこそ扱いは他よりマシだったが、まさか、このタイミングで戦争などと、ふざけた話だ」

「な、なるほど」

 首輪にモノを言わせての強制出兵と相成ったらしい。

 そりゃ不機嫌にもなるだろう。

「とは言え、冒険者として登録していたのであれば、遅かれ早かれ召集されていたと思いますよ。私も登録してから十日と少しばかりですが、それでも徴兵令の手紙が届けられましたので」

 よくまあ学園の寮まで届けたとは思わないでもない。

 各種手続きを果たしたアトリエならばまだしも、どうやって新居の住所を特定したのか、甚だ疑問が残る。或いはアレンやエディタ先生には伝えていたので、その辺りから流出したのだろうか。それとも学園入学の事務手続きが冒険者ギルドにまで及んでいたのか。

「そうなったら逃げるだけだ。何故にエルフが人の為に戦わねばならん」

「そうなのですか?」

「はっ! 当然だろうっ。人は人で勝手に殺し合っていれば良い!」

「なるほど……」

 こっちの世界でも種族差から来る感情は強大のよう。耳が生えてるヤツとか、羽が生えてるヤツとか、その辺り人種が多種多様なので、幾らか緩いのではと思ったのだけれど、決してそんなことはなかったよう。

「とは言え、その争いから逃れられないというのであれば、あぁ、殺してやる。望み通り、殺してやるとも。一人でも多くの人間をこの手で切り裂いてくれる」

「……が、頑張って下さい」

 伊達に奴隷やっていない。

 彼女が人間に向ける怨恨は深そうだ。

「…………」

 しかし、奴隷か。

 なんて良い響きだろう。奴隷。これは徴兵が一段落したら買うしかないだろう。むしろ、どうして今まで考えが及ばなかったのか。金髪ロリ美少女肉便器奴隷。俺だけに懐いて、俺だけを愛して、俺だけに奉仕してくれる、そんな幼くも可愛らしい処女の性奴隷。

「…………」

 うむ、その意気や良し。

 心の天秤がソフィアちゃんから金髪ロリ美少女肉便器奴隷に向かい傾げ始める。なにせ金髪ロリ美少女肉便器奴隷。この世で最も価値のある存在だ。ロリの殿堂だ。その十二文字だけで賢者モードからフルボッキへギアチェンできる。

 金貨はまだ二百枚くらい残っている。家が購入できるほどなのだから、きっと奴隷の一人や二人なら、なんとかなるんじゃなかろうか。あぁ、そうだ。二人買うのが良いかも知れない。姉妹で肉便器とか、最高じゃないか。

 姉妹丼最強伝説。

 舐めながら入れたい欲が高まりゆくのを感じる。

 欲張りな俺は上も下もジョインしていないと気が済まないんだよ。

「あぁ、良い。とても良い」

 滾ってきた。

 むちゃくちゃ滾ってきた。

「……この状況でなにが良いと言うんだ? 気持ちの悪い顔をしおって」

「い、いえ、なんでもありません。それと顔は元々ですので」

「ふん……」

 これは戦争なんてやってる場合じゃないな。

 さっさと兵役を終えて奴隷オークション目指すしかないだろ。

 ちょっとやる気が出てきたぞ。



◇◆◇



 問題は道中三日目の朝に発生した。

 延々と移動を続ける馬車内、冒険者の一人が発狂したのだ。同乗者間では碌に会話らしい会話もなく、皆々、俯き加減に馬車へ揺られるがまま。淡々と戦場へ向かう旅路にメンタルブレイクされたよう。

「あっ、あぁああああああああああっ!」

 訪れは甲高い奇声と共に。

 何事かと誰も彼もが顔を上げる。

 注目が向かった先、そこでは急に立ち上がった男性の姿。ローブを着用の上、その手に杖を握りしめている点から、魔法使いなのは間違いなさそうだ。年の頃は二十代中頃。中肉中背、短く刈り上げられた茶髪に同じ色の瞳の爽やか系イケメンだ。

「僕はごめんだっ! 戦争で死ぬなんて、絶対に嫌だっ!」

 何を考えたのか、手にした杖を向かう先、御者の側へと向ける。

「おいこらテメェっ!」

 傍ら、自分と同じくらいの年頃と思われる中年男性、安ぼったい金属製の軽鎧に身を包んだ戦士風の冒険者が、床に腰を下ろした姿勢のまま、その腕を乱暴に掴んだ。

 すると青年は、これに酷く大仰な反応を示した。

「ぼ、ぼっ、僕に触るなっ!」

 それが発端となった。

 青年の杖が振るわれる。

 同時に腕を掴んだ男の肩から上が吹き飛んだ。

 恐らくはファイアボール的な何かが炸裂したのだろう。

「ちょっ……」

 戦場へ到着する前にまさかのスプラッタ。びちゃびちゃと引き裂かれた血肉や細かく砕かれた骨が飛び散る。人体のどことも知れない部位の欠片が、ぴしゃり、頬にぶつかっては多少ばかりをへばり、やがて足下へと落ちる。

 マジ勘弁。

 少女の血肉だったら我慢できたわ。

 もう一つ隣に座ってる少女でリテイク希望。

 撃たれた男性は即死。肩から上を失った肉体は床に腰を下ろした姿勢のまま、ドサリ、音を立てて正面に倒れた。ぴくりとも動かなくなる。事前にキラキラ無敵モードのスイッチを入れておかない限り治癒は不可能だろう。

 その姿を足下に捨て置いて、青年は主張を続ける。

「戦争へ行くくらいなら、まだドラゴンにでも喧嘩を売る方がましだっ! ぼ、ぼくは帰るっ! 帰るぞっ!? 誰の言うことも聞くもんかっ! 家に帰ってジョセフィーヌと幸せな家庭を築くんだっ!」

 誰だよジョセフィーヌ。

 童貞煽ってるのかよこのイケメン。

 釣られるぞ。全力で釣られるぞちくしょう。

「杖を収めて下さい。このような場所で魔法を用いるのは危険です」

 兎にも角にも交渉を試みる。

 その場に立ち上がり、正面から向かい合う。下手に刺激しては今し方の中年戦士と同じ道を歩みかねない。両手を左右に広げると共に、笑顔で無害をアピールしつつのやり取りである。最近、こういうの多い気がする。

「あ、アンタだって、死ぬのは嫌だろっ! 嫌なんだろっ!?」

「そりゃ嫌ですけど……」

 だったら徴兵令とか無視すれば良かったのにな。

 恐らくは小心者が所以、無視できなかった弱さがここへ来て崩れたのだろう。

「だったら逃げるんだよっ! こんなところ、いつまでも居られるものかっ!」

「どうやって逃げるんですか?」

「ギルドの人間は御者だけだ! そいつを殺せば追っ手は来ないっ!」

「逃げたことが記録に残っては意味が無いと思いますよ。貴方もギルドの組員であり続ける為に、こうして徴兵へ応じたのではないのですか? 逃げ出してしまっては全てが水の泡ですよ」

 まあ、このニーチャンは既に一人オッサン殺しちゃったしな。

 残された道は荒野の彼方まで突っ走るほかにないと思うけど。

「そ、そんなの知らないっ! 他の国へ行けば問題ないだろっ!? いいや、そんなことをせずとも、途中で盗賊に襲われたことにすればいいっ。ギルドの連中の口さえ封じてしまえば、他へは洩れようがない!」

「まあ、たしかに……」

「はははっ、どうだ! これなら完璧だろうっ!?」

「後続の馬車を率いる御者の方も同様にできれば、とは思いますが」

「ああ、だから僕から、アンタらにお願いだっ!」

 甚く必死な形相に、青年の訴え。

「こういうときだからこそ、きょ、協力してくれよ! このまま馬車を奪って、連合諸国まで逃げるんだっ! そうすれば僕らは自由の身だっ! 冒険者として終るならまだしも、上の都合で戦場送りにされて野垂死になんて、い、嫌だろっ!?」

 周りを先導するよう吠える豆腐メンタル。土壇場で奇声を上げて発狂した割には、以外と頭の巡りが良いぞ。火事場のなんとやらというヤツか。ここまで必死に筋道を立てて訴えられると、なるほど、思わないでもない。

 とは言え、個人的には場当たりが過ぎるように感じる。それだったら初めから召集を断って冒険者以外の生涯設計をすれば良かったのだ。首都カリスに人や物を残してきた連中だって少なからず居るだろう。

 後ろに並んだ馬車への対応にしても、その御者を処理する途中で、意思疎通の行われていない他の冒険者といがみ合いになる可能性が高い。今し方の説明ではないが、こちらが盗賊として判断された日には、戦場を待たずして負傷者多数だ。

「どうだっ!? 頼むっ!」

 しかしながら、彼と同様にギリギリ一杯な状況にあった他の面々はと言えば、一連の主張に少なからず影響を受けている模様。声高らかに伝えられたプランを耳として、表情に迷いが浮かぶ者が多数だ。

 ややあって、荷台の隅の方からボソリ。

 体育座りで震えていた、青年に同じくローブ姿の女性が呟いた。

「……そう、よね」

 馬車へ乗り込んで直後、たっぷりと視姦させて頂いていたガクブル系の彼女だ。

 その声は妙に大きく響いて聞こえた。

 これを皮切りに、他の面々もまたなにやら同調し始める。

「確かに考えてみれば馬鹿げてるよな……」「どうして顔も知らない連中の命令で、俺ら冒険者が駆り出されなきゃならないんだよ」「そのとおりだ。自由に生きたくて冒険者やってたのに、おかしな話だろ」「わ、私だって、戦争なんて……」

 想像した以上に流されやすい人たちばかり乗り合わせた予感。

 都合、十余名となる乗り合いの方々が、青年の熱い主張に頷き始めた。

 財産も、家族も、恋人も、全て命あっての物種。

 これはあれか。

 自身もまた乗るべきか?

 今、馬車の中で反逆が流行の兆し。

「…………」

 いいや、そのプランは駄目なプランだ。

 ソフィアちゃんとお別れになってしまう。

 多少の不便は我慢してでも、回復魔法に持ち合わせのある自分は、この場を御上の意向に従いやり過ごすべきだろう。つい数日前、冒険者ギルドで自ら決めたではないか。この醤油顔は目立つ、大人しく波風立てずに世間を生きるべくと。

「やっちまおうぜっ!? なっ! みんなっ!」

 協調を得たことで青年のメンタルが少し回復。

 顔に笑みが戻る。

 語る調子も力強いものに。

 先んじて殺されたオッサン、あの世で涙目。

 世の中って理不尽だよな。

 しかしながら、彼の訴えも束の間の出来事。

 その声は幌の外、馬もどきの上から響いて聞こえた。

「お、オマエら、その男を殺せっ! 協力したヤツには便宜を図ってやっても良い! 今後の配置が前線へ向かわないよう、上へ掛け合ってやっても良いっ!」

 幌の向こう側、御者がこちらを睨みながら必死の形相に吠えていた。

 そして、語られたところは同所において、酷く魅力的な提案だった。

「なっ……」

 青年の瞳が見開かれる。

 時を同じくして、同じ馬車に乗り合った面々が一斉に彼へ襲い掛かった。

 まるで砂場に放り込んだ磁石へ砂鉄が集まるよう。

 僅か一瞬の出来事。

「ぎゃぁああああああああああああ」

 悲鳴が響いた。

 断末魔というヤツだ。

 幾つも伸びた、剣やら、槍やら、氷柱やらが、彼の身体を貫いていた。

 これを放った誰も彼もは、瞳に爛々と輝きを灯して、ただの一ミリのブレも無く青年の肉体を見つめていた。なんというか、こう、リーチに入ったスロットを縋るように見つめる多重債務者のような眼差しである。

 非常におっかない。

 空気とか最高にピリピリしてる。

 思わず単位とか新設したくなるくらい張り詰めてるわ。

 十ピリピリは固い。

「お、俺だっ、俺がやったぞっ……」

 誰かが言った。

 すると、これに続くよう皆々が主張し始める。

「違うわよっ! わ、わたしよっ!? わたしっ!」「そんな訳があるかっ! よく見てみろっ、胸をついているのは俺の槍だっ!」「私の剣は首を貫いているわっ!」「い、一番最初に胴体を破ったのは私の魔法よっ!?」

 誰も彼も頭から血肉を被りながら、けれど、構わずに言い争い。

 流石にこれは口を出すにも勇気が必要だ。

 仲裁へ出た途端にサクっとやられかねない。

 オマエはなにもやってないだろ、邪魔するんじゃねぇよ、みたいな。

「……良いのか? 止めてやらなくて」

 少なからず腰が引けていたところ、傍らより声を掛けられた。

 誰かと思えばダークエルフだ。

 ニィと意地の悪い笑みを浮かべて、困惑するこちらを見つめている。

「貴方こそ折角のチャンスだったのでは?」

「あんなもの口八丁に決まっているだろう。でなくとも私は奴隷だ」

「……なるほど」

 なんら動じた様子も無く、ドンと胡座に構える姿には説得力がある。

 そう言われると、そんな気がする。

 あぁ、戦争なんて碌なもんじゃないな。

 こんな環境に長らく晒されたのなら、普通に人格歪んでしまう。

 そうこうするうちに再び御者の方から声が飛んだ。

「テメェら静かにしろっ! 全員まとめて上には伝えてやるから、こんなところで喧嘩するんじゃねぇよっ! でなけりゃ逆に最前線へ送っちまうぞっ!?」

 大きな声だった。

 ヤケクソとも言う。

 ただ、これで荒ぶる面々は大人しくなった。

 一連のやり取りを目の当たりとして、ダークエルフがボソリ呟く。

「ほらみろ」

「た、確かに……」

 便宜の望みは薄そうだった。

 今はダークエルフのオッパイと太股を視姦して平静を保つとしよう。

 最高にムチムチボンバーだよな、コイツ。

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