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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫
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錬金術師エディタ 三


 翌日の朝、自室に来客があった。

「エディタ先生?」

「…………」

 俺が反射的に先生と呼んでしまったところ、彼女は玄関先、早々に踵を返さんとする。つい数日前のやり取りを思い起こして、大慌てにこれを訂正だろうか。

「え、エディタさんっ! ようこそいらっしゃって下さいましたっ!」

「ふんっ……物覚えが良いのか悪いのか、まるで知れない男だな」

「足を運んで頂けるとは思わなかったので、少し驚いてしまったんですよ」

「どうだかな」

「立ち話もなんですから、どうぞ、入って下さい」

「……お邪魔する」

 先生をリビングへとお招きだ。

 金髪ロリお招きだ。

 ちなみにソフィアちゃんはつい今し方に洗濯へと出掛けており留守だ。俺が何を言った訳でもないのに、本当によく働いてくれる子だよ。結婚したら良いお嫁さんになってくれることだろう。

「お掛け下さい」

「あぁ、悪いな」

 先生にソファーを促したところで、お茶のご用意。

 ここ最近ではエステルちゃんもちょくちょく飲みに来る例のヤツである。

 湯気の上げるカップを二つ、テーブルの上に眺めながらお話スタート。

「それでお話というのは、例の件でしょうか?」

「ああ、そうだ。断片的にだが思い出したところがある。紙面にまとめるとは言ったが、先んじてこれだけでも伝えておこうと考えた」

「なんと、それは是非ともお伺いしたいですね。よろしいですか?」

「秘薬の生成に欠かせない材料、その一つがグリーンシルフの羽だ」

「グリーンシルフの羽?」

 またファンタジーな単語が飛び出してきた。

 ドラゴンの次はシルフだってさ。

「暗黒大陸の中域に生息しているハイシルフの上位種族だ。その羽には高純度の魔力が宿る。これを触媒として共に用いることで、混合時の反応を加速させて、本来であれば不可能であった霊体への干渉を可能とするのが、若返りの秘薬の第一歩だ」

「なるほど」

 さっぱり分からんね。

 まあ、材料とレシピさえ把握すれば後はどうとでもなるだろう。

 その点は前回の錬成からも確かである。

 新しい何かを作り出すことが困難である一方、既存の何かを模倣することは非常に容易なのが、錬金術というものらしい。なので、本来であれば自分のレシピを他者に教えるような真似は一般的でないそうだ。特許のような仕組みも存在しないとのこと。

 そういった背景も手伝い、件の一件において俺は、エディタ先生が錬金術の研究に費やした時間を全て横取りしたに等しい。にも関わらず、こうして甲斐甲斐しく我が家まで足を運んでくれるあたり、きっと彼女は良いエルフなんだろうなどと思う。

「では来週からでも、グリーンシルフの羽を取りに向かうとします」

 また足を用意しないとならない。

 あぁ、それと暗黒大陸とやらの住所を確認しないと。

「……本気で言っているのか?」

「ええ、そうですが。なにか問題でも?」

「暗黒大陸だぞ? それも沿岸部ではなく中域に所在する森だ。如何にレッドドラゴンを打倒するだけの後ろ盾があるとは言え、まさか人身に叶うものではない。それこそ自ら命を捨てに行くようなものだ」

 そんなにヤバいのかよ、暗黒大陸さん。確かに名前は物騒だけれど、それも未開拓時代のブラックアフリカや、大航海時代のアメリカ大陸的な位置づけかと思ったのだけれど、なんかちょっと違うっぽい。

 割と真顔で語ってくれる金髪ロリ忠告。

 ちなみに今日の先生はツインテール仕様で超絶かわいいよ。黒い色のリボンが非常にチャーミングだ。ロリレベル高い。

 更に足を組んで安定のパンチラ。

 黒だよ。今日の先生は黒だよ。

 リボンとお揃いだね。

 エディタ先生のパンツ大好き。

 やばい勃起しそう。押し倒したい。中出ししたい。

 可愛い。かわい。かわいかわい。

 この世界は膜の付いて居ない人ほど可愛いらしく、俺なんかにもフレンドリーに話し掛けてくれるの法則が成り立っている。

「オマエは私の恩人に違いない。見殺しにするような真似はしたくない」

「……そうですか」

 しかし、だとすれば先生はどうやって秘薬を作ったのか。

「お言葉ですが、それでも先生は手に入れられたのですよね?」

「私が手に入れられたのは偶然だ。過去、知人と共に大陸へ渡った経験がある。私はお荷物以外の何者でもなかったがな。ただ、一緒に渡った者たちは随分と腕が立った。おかげで色々と貴重な体験ができた。その一欠片がグリーンシルフの羽だった」

「なるほど」

「秘薬のレシピとしては、むしろ、事前に素材があったからこそのものなんだ。その為に採集へ向かった訳ではなく、手元にあったものを実験的に利用した訳だからな。結果として上手い具合に進んだのだが」

 たしかにあるよな。そういうの。

 とりあえず入れてみたら良くなりました系の発明。

 ただ、それも成果を正確に検証できる腕前あってこそだ。

「まあ、それでも大陸へ渡ったメンバーの半分は現地で死んでしまったがな。決して満足の行く旅ではなかった。最後は命辛々、逃げ出すようにして船を出したんだ。今でも良く生きて帰ることができたと、思い起こしては震えることがある」

「…………」

 おうふ、これは少し考えた方が良さそうだ。

 エディタ先生にそこまで言わせるとは、本物の予感がするわ、暗黒大陸。

 この後で魔道貴族あたりに相談してみようか。

「分りました。少し冷静に考えてみます」

「そうしろ。それがいい」

「はい」

「秘薬の材料やレシピ以外で他に欲するところがあるのであれば、幾らでも言えば良い。私に都合できるものならば、なんでもくれてやる。なにも若返るだけが全てではなかろう? オマエはまだ十分に若い」

「そ、そうですかね」

 お世辞でも若いって言われると嬉しい。

 三十代ってそういう敏感なお年頃なんだよ。

「しかし、随分と良いところに住んでいるじゃないか。王立学園の寮は大した物だと聞いていたが、これは想像した以上だ。柱一つ取ってもデタラメに金が掛かって思える」

 室内を見渡して語るエディタ先生。

 甚く感心した様子だ。

「先生のアトリエも素敵ですよ」

「ふんっ、見え透いた世辞を言うな。この部屋と比べては納屋のようなものだ」

「お世辞ではありませんよ。現に購入へ踏み切ったくらいですから」

 高級タワーマンションには高級タワーマンションの、郊外一戸建てには郊外一戸建ての、それぞれ良いところがある。一概にこうだと決めつけてしまうのは、持ち家を楽しむ選択の幅を自ら減らすことに他ならないのだよ。

「ここへ越した今でも私は好きですよ、あのアトリエが」

「……本当にそう思っているのか?」

「ええ、思っています」

 なによりエディタ先生の生活臭が染みついた空間はプライスレス。

 今にして思えば、もっと存分にフィーバーしておけば良かった。

 舌が疼くわ。

「そうか……」

「はい」

「であれば一つ、こちらから提案があるのだが……」

 先生がなにかを言い掛けたところ、不意に玄関の方から声が響いた。

「ただいま戻りました。エステルさまも一緒です!」

 どうやらソフィアちゃんが戻って来たようだ。

 弾むような声が響く。

 最近、元気が良いよね彼女。

 なにか新しい楽しみでも見つけたのだろうか。

「む、客人か?」

「いえ、洗濯に出ていたルームメイトがお隣さんを連れてきたようです」

「そうか。では、今日のところはこれで失礼するとしよう」

 ソファーより腰を上げるエディタ先生。

 組んだ足が解かれる瞬間、すかさずパンモロをゲット。

 なんかローレグっぽかった。

 スゲェ良い。スゲェ良いよ、先生。

「そうですか? 二人とも細かいことは気にしない人柄ですが」

「いいや、あまり知らない人間と関わり合いになるのはな」

 エルフだし、人間嫌いとか、その手の設定でもあるのだろうか。

 同時に廊下の側から顔を見せたのがソフィアちゃんとエステルちゃん。

「あら、お客さん?」

 エディタ先生を目の当たりとしてエステルちゃんが呟いた。

「はい。こちら錬金術師のエディタさんです。街でアトリエを営んでいらっしゃいます。例の薬のレシピを開発した方でもあります」

「ふぅん? 貴方があの薬を……」

「留守のところを邪魔した。早々で悪いが、これで失礼させて貰う」

「あら、お茶の一杯でも飲んでゆけば良いのに」

「既に頂いた。ではな」

 そそくさと逃げ出すよう、エディタ先生は部屋から去って行った。

 やはり人付き合いが苦手っぽい。

 勝手にコミュ障認定したところで、ちょっと親近感が湧いた。

 遠く玄関ドアの開いては閉じる音が響く。部屋の外に人の気配が感じられなくなったところで、こちらに向き直り、改めてエステルちゃんが口を開いた。その表情は普段と比較して、幾分か緊張して思える。

「エルフの知り合いなんて、い、いたのね?」

「ええまあ、出会って数日という間柄ですが」

 彼女が霊体であった時分も含めると十数日になるだろうか。

「……そうなの?」

「薬を都合するのに色々とありまして」

「な、なるほど……」

 強ばっていたロリフェイスが柔らかくなってゆく。

 分かりやすい性格の持ち主だ。

「ところで、なにかご用ですか?」

「え? あ、い、いえ、一緒に食事でもどうかしら、と思って」

「そうですね。確かにそろそろ良い時間ですね」

「ええ!」

「であれば、ファーレンさんも一緒に誘ってよろしいですか?」

「え? ファーレン卿を?」

「少し確認したいことがあるのですよ」

 そう、暗黒大陸とやらを。



◇◆◇



 学内、以前にも訪れた研究室で魔道貴族をゲット。共に馬車で揺られることしばらく、首都カリスに所在する飲食店へとやってきた。貴族や豪商が好んで利用する、いわゆる高級レストラン的な佇まいの店舗である。

 四人席の一つへと陣取り、ここに昼食と相成った。

「暗黒大陸だと?」

「はい、もしご存じであればと」

 他にメンバーはソフィアちゃんとエステルちゃん。

 前者は魔道貴族を目の当たりとして、ガクブルモードのスイッチオンだ。後者が先んじて俺の横を陣取った都合、オッサンの隣に腰掛けざるを得なかった彼女の心は、お高いお店という環境も手伝い、カチンコチンに強ばっていた。

 緊張から脇の下を湿らせるソフィアちゃん最高に可愛い。

「……一度だけ、足を運んだ覚えがある」

「本当ですか?」

「あぁ、腕に自信のある者ならば、誰しもが自ずと向かう場所だ」

「なるほど」

 魔道貴族の好奇心を持ってすれば、行っていない方がおかしいか。

「そして、同時に大半が一度きりの来訪に挫ける場所でもある。多くは大陸を脱すること叶わず、その地を生きるモノの糧となり、恐怖と好奇心を形作る一端として、口伝のみに己が生まれへその最後を伝える限りだ」

「……な、なるほど」

 ちょっと普段より語調が重い魔道貴族。

 どうやらガチでヤバい場所のよう。

「とは言え、貴様ならば、或いは深部まで到達できるかも知れんな」

「深部というと?」

「大陸の海に面した一体を沿岸部、そこから地図の引かれた界隈を中域、そして、前人未踏である内陸部を深部と、慣習的に呼んでいるのだ。生存者の大半は沿岸部に到達した時点で、自身の力量を正しく計れた者だと言う。中域であっても帰還率は五割を下回る。深部に至ってはここ百年、ほとんど開拓されていない」

「なるほど」

 分りやすい。

 エディタ先生はそんな中域から帰ってきた訳だ。

 きっとレベルも高いんだろう。

 そう言えばステータスを確認してなかったな。

「そして、同大陸は未だ深部が九割以上を占めている。沿岸部、中域、深部という酷く適当な呼び方も、碌に地図を描けない実情から来ているものだ。人や人に類する者たちの拠点は片手に数えるほどしか存在していない。それも全てが沿岸部だ」

「な、なるほど」

 分かりやすいのは結構だが、もう少し手加減して欲しかったな。

 これだけ盛られると流石に躊躇するわ。

「他の誰でもない。貴様が私へ話を持って来たということは、そうなのか?」

「まだ検討段階ですがね……」

「なるほどな。しかし、相変わらず西へ東へと忙しい男だな」

 呟いては、がぶり、景気よくフォークに刺した肉へと食らい付く魔道貴族。

 豪快だ。

 ちなみにこの店は彼のチョイスである。お気に入りとのこと。

 すぐ隣では、肩を震わせながら、必死の形相で肉をナイフに切り分けるソフィアちゃんの姿がある。緊張も極まって思える彼女の思考は絶賛混乱中。肉厚なステーキが小指の先程のサイコロステーキ一個中隊へと解体されていた。

 なんでも彼女、以前に魔道貴族宅を訪れた際、屋敷のメイドから一つ小話を聞かされたらしい。魔法の実験の為に自宅メイドの足をサックリやった一件だ。おかげで多少ばかり手に入れたと思われたお偉いさん耐性が、完全に裏返ってしまった模様である。

 脇の下の色が変わった部分を箸休めにチューチューしたい。

「貴方ほどではないですよ」

「今度はなにを始めるつもりだ?」

「まだ詳しいところは言えないんですが、一つ薬を作ろうかと」

「……ふむ。先の一件で思うところでも出てきたか」

「ええまあ、そんなところですね」

 俺もオッサンくらいの美丈夫だったらな。

 そこまで腐心することはなかっただろうさ。

「あ、あのっ、それじゃあ、が、学園は……」

 多少ばかりを語ったところで隣から反応が上がった。

 エステルちゃんだ。

 どこか必至な声調子が保護欲を誘う。

「仮に行くとしたら、しばらくはお休みですね」

「っ……」

 グッと瞳を見開いては戦く金髪ロリ子ちゃん。

 これまた随分と愛されてるね。

 いつかその興味が余所へ移る時が来ると思うと、昨日のアレンも他人事とは思えない。今のうちに俺も新しい名前を考えておいた方が良いかもしれないな。

 取り立てて付き合っている訳でもないけれど、今この瞬間であっても、大ダメージ受ける自信あるわ。きっと三日は酒に溺れるだろうな。

「そういった手続きは、学園として可能なのでしょうか?」

「うむ。言えばこちらで都合してやる。扱いとしては休学となる」

「なるほど、ありがとうございます」

 良かった良かった。

 旅立つに差し当り、ソフィアちゃんとの生活は維持できそうだ。

 流石に今回ばかりは一緒という訳にもいかなそうだし。

「とは言え、現状では足がありませんからね。当面はそちらの工面になります」

「なるほど、足か……」

「ええ」

 今回は個人的な目的に限られるので、魔道貴族に強請ることも難しい。馬車で行くにせよ他に手を探すにせよ、まずは情報を収集するところからだろう。未だファンタジーの流儀には疎いところが多い。

 旅行代理店とか、こっちの世界にはあるんだろうかね。日本に限れば本格的な旅行業が始まったのは千九百年代初頭の話だ。世界的に見ては諸説あるが、多くは千八百年代中頃である。こちらの世界の産業的な成熟度を思うと、些か難しいように思える。

 などと頭を悩ませ始めたところ、不意に魔道貴族から提案が。

「これは推測だが、貴様ならば飛行魔法で到達できるのではないか?」

「……あぁ」

 言われてみればそうだ。必ずしも公共の交通手段でお越し下さいって訳でもないだろう。以前のドラゴン戦で飛び回った感じからして、眠気さえなんとか出来れば、一昼夜を飛び続けることは可能だろう。

 さもありなん。

「そうですね、たしかに、行けるかも知れません」

「隣の大陸の最北端には暗黒大陸へ飛空艇を出している港町がある。名をポンチと言ったか。そこから同大陸まで古い世代の型落ちで二晩といったところだ。貴様の飛行能力を用いれば、恐らく一晩と掛からずに到達が可能だろう」

「なるほど」

「仮に飛行魔法を使わずとも、同所を船で行くことは割けた方が良いだろう」

「どういった理由が?」

「暗黒大陸の界隈は、強大な海竜の類いが出ると聞く」

「ドラゴンですか……」

 やっぱり海にも居るんだな。ドラゴン。

 こうして聞いていると、扱いとしては自然災害がしっくりくる。

 ほぼほぼ台風みたいなもんだよな。

「或いは私も若ければ、今一度、機会を狙っていたかも知れんな」

「貴方はまだ若々しいじゃないですか」

「ふんっ、貴様にそう言われると悪い気はしないな」

 つい先刻にエディタ先生から頂戴したヨイショを魔道貴族にお裾分け。

 こういうのは分かち合わないとな。

「で、でも、行くとしても当分先の話なのよね?」

「そうですね。非常に危険な場所との話ですから、事前に情報を集めてからの方が良いでしょう。それに一緒に向かうメンバーも探さなければなりません。可能であれば土地勘のある人に案内して貰うのが理想でしょうか」

「……となると首都カリスでは難しいかも知れんな。如何せん距離がある」

「やはりですか」

 大陸入りするか否かは別として、一度ポンチとやらに足を運ぶべきだろうか。

「ちなみにポンチまではどれほどの距離が?」

「船と馬車を乗り継いで数ヶ月といったところか。飛空艇で一息に向かうのであれば、十日やそこらで着くとは思うが、乗り合いであった場合は各所での乗り換えに数日を考慮するべきだろう。予定通り発着しているとも限らない」

「な、なるほど……」

 地球一周なんて目じゃないな。

 エディタ先生には強がって見せたけれど、これは時間が掛かりそうだ。



◇◆◇



 それは飲食を終えて、学園に向かう最中の出来事だった。

 我々の乗り込んだ馬車が向かう先、憲兵が数名、酷く慌てた様子に駆けてきた。内一人は石畳の段差に爪先を引っかけてスッ転ぶほどの急ぎよう。ガシャン、大きな音を立てて金属鎧が鳴り響いては、周囲からの注目も一入といったところ。

 彼らは馬車の進行方向に立ち塞がり、無理矢理に馬もどきの足を止めさせた。行者が馬車の主人の名を口として、直ぐに退くよう声を荒げる。すると、これに安堵の表情を浮かべて、憲兵一同は声も大きく魔道貴族の名を呼び始めた。

「ふぁ、ファーレンさまっ! ファーレンさまはいらっしゃいますかっ!?」

 下々が大貴族へ対するには滅多で無い振る舞いと思われる。

「やかましい、何事だ」

 馬車の戸を開けると、通りに土下座する憲兵が数名。

 全身を震わせながらも必死の声色に訴える。

「お忙しいところ大変に恐縮ですが! ご、ご報告したいことがございます!」

「だから何事かと聞いている。さっさと説明しろ」

 相手が魔力ゼロっぽいと判断して、途端に機嫌が悪くなる魔道貴族。

 相変わらずポリシーが一貫している。

 俺やエステルちゃん、ソフィアちゃんもその後ろから様子をチラリ。

「は、はいっ! ファーレン様のお屋敷に、ど、ドラゴンがっ! 巨大なドラゴンが着陸いたしましたっ! 実際にこれを確認した者の話からすると、以前にも訪れたドラゴンではないかとのことです!」

「……なんだと」

 オッサンの顔がピシリ、露骨なまでに強ばった。

「同ドラゴンはお屋敷の庭に腰を下ろし、サイトウをっ! サイトウを呼び出せ、と吠え散らかし、近隣一帯を威嚇しておりますっ! このままでは他のお屋敷にも甚大な被害が及んでしまいますっ!」

「…………」

「偶然にも騎士団の騎士に一名、サイトウを名乗る人物が詰め所へ辞職に訪れており、これの対応に当たらせております。ですが、どうやら人違いらしく、交渉は非常に難儀しております。どうか、な、何卒、ご足労を願えませんでしょうかっ!?」

 思い出した。

 サイトウ思い出した。

 やっちまったよ、おい。

「あの、そ、それって……」

 エステルちゃんが顔を青くしては問うてくる。

 魔道貴族もばつが悪そうだ。

 俺に至っては頭の中が真っ白だわ。

 アレンの大冒険、まさかの騎士辞職を待たずして終了のお知らせである。流石にそれは申し訳なさ過ぎる。せめて隣町くらいまでは旅立たせてやりたかったわ。おぉ、サイトウよ、死んでしまうとは何事だ。

 本当にごめんなさい。

「す、すみません、屋敷へ急いで貰えますか?」

「分かっておるっ!」

 小さく頷いては行者へ叱咤を飛ばす。

「馬車を私の屋敷へと急がせろっ!」

 業者が馬もどきに鞭を打つ。

 オッサンの馬車は一路、自宅を目指して疾走である。



◇◆◇



『だから貴様は何者だ? 私はサイトウを呼んだのだ』

「だ、だからっ、ぼ、ぼ、ぼぼ、僕がサイトウだっ!」

 我々が魔道貴族の屋敷まで辿り付いたとき、そこでは庭にデンと鎮座するクリスティーナの他、彼女の正面で剣を構えるアレンの姿があった。後者は全力で腰が引けている。完全にビビっている。

 しかしながら、それでも交渉に臨む姿勢は大したものだろう。

 周囲には他に鎧姿の騎士や、杖を掲げる魔法使いの姿が沢山だ。三桁違いのではなかろうか。如何にドラゴンが警戒されているか分かる。っていうか、近隣一帯が貴族御用達の高級住宅街であることを思えば、当然の対応だろう。

『よもや私が人で無いからと、偽っているのではあるまいな? 以前と比べて、髪の色が些か明るくなっているのではないか? もっと暗い色をしていた筈だ』

「これは、じ、地毛だっ! 僕は決して自分を偽ってなどいないっ!」

『本当か? どことなく違うような気がするが……』

「そのようなこと知るものかっ! りゅ、竜が、このような場所に何の用件だっ!?」

『ふむ、まあ良い。人間のような小さき存在、私には碌に判断がつかぬ』

 どこか見当外れなやり取りをしているような気がしないでもない。

 すれ違いってやつだ。

 人間がトカゲの顔を判断できないよう、ドラゴンもまた人間の顔を碌に判断できない様子だ。サイズも人とトカゲほどに異なる。ただ、それでも人種くらいは見分けて欲しいものである。或いはドラゴン相手であれば、俺もイケメンと対等に扱って貰えるという可能性を世界が提示しているのか。割と真面目に考えてしまうぞ後者め。

 とは言え、今は異種姦に希望を得ている場合じゃない。

 なによりクリスティーナのマンコとか、サイズが違いすぎて緩いどころの話じゃないだろう。きっと頭から足下まで包まれること寝袋の如く。その内側で自ら扱くことにより性交成立とか寂し過ぎるぞドラゴンセックス。下手をすればドラゴン膣痙攣で全身プレスされて膣内潤滑液と化する未来が待っている。まさに命懸けだ。

「アレンさんっ!」

 馬車を降りて早々、俺はアレン改めサイトウ氏の下へと駆けた。

 後ろには魔道貴族とエステルちゃん、それにソフィアちゃんも続く。

「た、タナカさんっ!?」

 アレンが地獄に仏でも見つけたよう、俺を目の当たりとして笑みを浮かべる。

 今にも泣き出しそうだ。

『ぬっ……』

 イケメンの他、クリスティーナの注目もまたこちらへ向いた。

 続くところ、声の調子が少しばかり上擦ったものとなる。

『こうして並んで見ると、あぁ、その黄色い肌は見覚えがあるぞ、人間』

「無駄にもの覚えの良いドラゴンですね」

『貴様、タナカと言うのかぁ……』

 結果、クリスティーナに個人情報が流出だこの野郎。どうやら肌色の違い程度であれば一目見て判断は可能のよう。我々がエリマキトカゲとニホントカゲを襟の有無で見分けられるようなものだろう。或いは博識な個体であれば、人種の違いを論ずる程度には人間に対して知見があるのかも知れないが。

 いずれにせよ個体識別から一歩目を踏み出す異文化コミュニケーション。

『やはり違ったではないか。小癪な真似をしおってからに』

 ジロリ、アレンを見つめては語るクリスティーナ。

 どうやら騙されていた自分に気づいたよう。

「っ……」

 ビクリ身体を震わせるイケメンは、けれど、それでも構えを崩さない。エステルちゃんの手前、意地でも引けないところなのだろう。カッコイイぜ。伊達に改名していない。

 とは言え、ここで彼とはバトンタッチ。以後はこちらで引き取ろう。

「僅か数日で再来とは、随分と足の軽いドラゴンですね」

 バックパッカーの称号は伊達じゃ無いな。

 何気ない素振りに語り掛ければ、人の頭部ほどもある巨大な目玉がギョロリ。

 今度はこちらへ向けて動いた。

『貴様との一戦を思い起こしては、夜も眠れぬほど苛立ちを覚える』

「先んじて絡んできたのは貴方ですし、力が及ばなかったのも貴方です。それもこれも自業自得じゃないですか。ここで負けたら本格的にメンツ丸つぶれですよ?」

『ぐっ……』

 っていうか、夜に眠れないとか、どうなんよ。

 ヒス女じゃないんだから、他人に訴えてくれるなよ。

 ああいや、コイツの性別はメスだったか。

「お帰り願えませんか? 街の人々が驚いています」

『……嫌だ』

 嫌だじゃねぇよ。

 わがまま言うなよ。

「では、どうしたらお帰り願えますか?」

『…………』

 これはあれか。

 とりあえず来てみたは良いけど、実は何も考えていなかった的な。

 どうすんだよこのデカブツ。

「百歩譲って私を尋ねるのは良いとしましょう。しかし、自分の図体ぐらい考えて下さい。その身体で街へ入られては非常に迷惑です。ファーレンさんの家の庭は貴方の着陸場じゃないのですから」

 きっと魔法の実験でも行う為なのだろう。

 ここは近隣一帯でも一際、庭が広いんだよな。

「いや、別に私は構わんが……」

 おい、そこは構っとけよオッサン。

 どんだけドラゴン見たいんだよ。

『な、ならばっ……』

「ということで、今日のところはお帰り下さい」

『っ……』

 既に二度目のクリスティーナ襲来だ。下手に数を重ねては、如何に魔道貴族の庇護があるとは言え、要らぬ嫌疑を掛けられてもおかしくない。これ以上、このバックパッカーに構うのは危険だ。

 愛しきソフィアちゃんとのラブラブ同居生活を全力で守る。

「でなければ、その無駄に大きな図体をなんとかすることですね」

 なにより思うね。

 幼女にならないドラゴンなんてドラゴンじゃない。

 古来より日本人男性はドラゴンに異性を見てきた。宇治の橋姫が丑の刻参りの一節、悪阻つわりに苦しむ橋姫から、「貴方のベイビーを孕んで苦しむ私の為に、約十二メートルのワカメを取って来てちょうだい」お願いされた旦那さんが、しかし、訪れた先の海で若く美しいロリドラゴンに出会い、速攻で寝取られたのは有名どころ。おかげで橋姫は腹を膨らませたまま、深夜の神社で五寸釘をズンドコドンだ。ワカメやばい。

 と言うわけで、悔しかったら幼女になって出直してこい。

 そうしたら話くらい聞いてやっても良いわ糞ドラゴンめ。

『……良いだろう』

「ええ、ではそういうことで」

『覚えていろ、タナカ……』

「皆さん、お客様がお帰りです。どうか杖を収めて下さい」

 周囲を囲う魔法使い連中に、ドラゴンの離陸案内を回したところで、ひとまず状況は収集の気配を見せる。クリスティーナが羽ばたくに応じて、ぶぉう、突風が吹き荒れては、集まった大多数が地面へと転がった。

 底意地の悪いヤツのことだ。きっと嫌がらせだろう。

 飛び立った彼女は早々に空の一点、黒い小さな点となって消えた。



◇◆◇



 すったもんだの末、寮の自室まで帰ってきた。

 今日はもう授業は良いだろう。

「……ゆっくり過ごすか」

 誰に言うでもなく呟く。

 ソフィアちゃんは洗濯物の回収へ向かったので今は留守だ。

 いやもう、本当によく働く子だよ。別に日が暮れてからの回収でも良いだろうに。帰宅して直ぐに向かった彼女のバイタリティーは尊敬に値するね。きっとステータス画面からはうかがい知れない根性値的な何かがあるんだろうさ。

「少し横になるか……」

 リビングのソファーから腰を上げる。

 自室へ向かわんと歩み出したタイミングだった。

 不意に声が響く。

「は、入るわよっ!」

 エステルちゃんだ。

 玄関の方から聞こえたぞ。

 ドタバタと足音が響いて、彼女がリビングに顔を覗かせる。

 ドアには鍵が掛かっていた筈なのだけれどな。

「どうかしましたか?」

「それが、そ、そのっ……」

 今度はなんだろう。

 本日はイベント盛りだくさんだな。

「戦争が始まるわっ!」

「……はい?」

 最後にデカイのが来た予感。

 展開早すぎだろ。

「召集が掛かったわ! ついこの前に貰った領土なのだけれど」

「え? それってエステルさんも向かわれるんですか? っていうか、せ、戦争ってどことどこが開戦したんですか? ちょっと状況が追えていないのですが」

 いきなり過ぎて話について行けねぇよ。

「この国と隣のプッシー共和国よ。以前から国境付近では小競り合いがあったのだけれど、どうやら本格化してしまったらしいの。既に被害も出始めているらしいわ!」

「その国境とやらにエステルさんが下賜された領土がドンピシャであったと?」

「ええ、そうよ!」

「…………」

 ぺちゃんこの胸を張って語る金髪ロリータ。

 恐らくは彼女自身もまた興奮しているのだろう。

 普段以上にテンションが高い。

「しかし、貴方はフィッツクラレンス家のご令嬢であったと思いますが」

 良いところのお嬢様だろうが。

 幾ら領主だろうと、そういうのはパパが面倒を見てくれるだろう。普通。

「既に私はフィッツクラレンス子爵よ? 与えられた領土を平穏無事に治め発展させる義務があるわ。これを放棄して安穏と学校に通っているなど許されない!」

「…………」

 殊更に胸を張る金髪ロリータ。

 スゲェ自尊心だな。

 膜の有無に関係無く惚れそうになったわ。

「だから、あの、ご、ごめんなさい。少し、ここを留守にするわ……」

「それって、どれほど危険なのでしょうか?」

「……し、心配、してくれるの? 私なんかのこと……」

「それはまあ、当然かと」

 一緒に旅した仲間だしな。

「っ……」

 すると今度は顔を真っ赤にして、大慌てに俯く金髪ロリータ。

 なんだよもうちくしょう可愛いなぁ。

「あ、安全よっ! 私は城で指揮を執るだけだからっ! 本当に!」

「そうですか。であれば私としても嬉しい限りですね」

「ぅう……」

 悶えに悶える金髪ロリータ。

 太股ちょうモジモジしてる。

 駄目だ、これ以上を直視していたら、こっちがやられてしまう。

 この国の国土より先に俺の心が犯されてしまう。

 ビッチのマインド逆レイプ攻撃ヤバい。

「だからっ! そ、それじゃあっ、ちょっと行ってくるわねっ! プッシー共和国の兵なんて、私の魔法で蹴散らして、すぐに貴方の下へ戻ってくるわ!」

 照れ隠しなのだろう。

 早々に踵を返して、彼女はリビングから逃げるよう去って行った。

 アンタが魔法で蹴散らすには最前線入りしなきゃならないだろうに。

 しかし、戦争っていうのは随分と急に始まるものなんだな。

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