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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫
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ドラゴン退治 六



 その日、ペニー帝国の首都カリスは嘗て無い騒動に湧いていた。

 理由は巨大ドラゴンの来訪。

 魔道貴族宅の庭へクリスティーナに乗り付けたところ、モノの数分で屋敷全体を槍鎧甲やローブ杖な連中に囲われる運びとなった。どうやら首都へ大型のモンスターが攻め入ってきたように受け取られたらしい。

 そりゃそうか。

 これを解決したのは家主である魔道貴族当人。

 彼の自宅庭先であったことが、状況説明に一役買った。

「まったく、これだから頭の固い連中は困る」とは一連のごたごたを解決して折、溜息交じりに呟かれた彼の愚痴だ。

 あぁ、また魔道貴族様が、的な顔をして、集まった面々は持ち場へ戻っていった。魔法キチガイのキチガイたるところが役に立った形だ。

 到着以後は早々、クリスティーナにお帰り願った。

『我は決して忘れぬ、忘れぬぞ、サイトウ……』とかなんとか、上から目線で偉そうなこと言っていた。とは言え、名前は偽名だし着陸先は魔道貴族宅だ。こちらの個人情報は漏れていないので問題ない。はいはいと適当に頷いて、ペペ山へとお帰り頂いた。

 そして、同時刻、ドラゴン討伐パーティーはその場に解散だ。

 翌朝、再び魔道貴族宅で落合うことを約束して別れる運びとなった。

 疲れた。

 とても疲れた。

 家に帰ってグッスリ眠りたい。

 しかしながら、俺にはそこから先、非常に重要な仕事が残っている。ドラゴンを倒してハイ終わり、ではないのだ。

 ここから先が我が錬金術師として見せ場である。

 エディタ先生の遺産を遺憾なく引用させて貰おう。



◇◆◇



 荷物持ちのソフィアちゃんと、絶対に付いていくと主張して引かなかった魔道貴族を伴い、アトリエのある自宅へと戻った。

 そこで今まさに俺は治療薬の錬成を行っている次第だ。

「なるほど、そこで溶媒を投入するのか……」

「え、えぇ、まぁ」

 こちとらエディタ先生のレシピに従い、混ぜたり、解かしたり、煮沸したりを繰り返している限りである。何故にその手順が必要なのか、という点に関しては、全てが先生の著作から得た知見だ。

 他方、魔道貴族は同薬物の調合手順が初見にも関わらず、その過程に何某か意味を見出しているようで、こちらの一挙一動に応じて、ああだこうだと呟いてくれる。どんだけ守備範囲が広いんだよ。

 ちなみにソフィアちゃんは荷物をアトリエまで運び終えた時点で、早々に実家の飯屋へと帰っていった。せめて、お茶でも一杯、飲んでは行きませんか? 誘ってみたけれど、神速で断られた。

 別れ際に見せた彼女の表情は、嘗てない解放感に溢れて思えた。

 目がキラキラしてた。

 久しぶりに見る生きたソフィアちゃんの瞳。

 まあいい、今は淡々と薬を作る限りだ。

「あ、すみません、そこの緑色の薬品を取って貰っていいですか?」

「これか?」

「どうも」

 予期せず手に入れた気配りの良い助手を用いて、調剤は淡々と進められた。



◇◆◇



 そして、翌日である。

 我々は完成した治療薬を携え、魔道貴族仲介の下、ペニー帝国は首都カリスに所在するお城までやって来た。メンバーはと言えば、昨日までと変わらず、俺、魔道貴族、チーム乱交、メルセデスちゃん、ソフィアちゃん、といった具合だ。

 魔法キチガイの権力はお城の中でも大したもの。

 彼が事情を伝えれば、あれよあれよと謁見の間まで通されてしまった。

 貴族や騎士のみならず、飲食店従業員やら、果ては身元保証人すら覚束ない異国人まで含めて、それでも一国の主である国王の下まで顔パスで通してしまうのだから、どれだけ大した信用を受けているかは推し量るべくもない。

「この度は我が娘の病を治療すべく、薬を調合したと聞いておる。その話はまことであるか? ファーレン卿よ。私はそなたの言葉を信じても良いのか?」

 ファンタジーの王様っぽいデラックスな椅子に座った男性。

 頭に王冠を乗せている。

 どうやら彼がこの国のトップのよう。

 若かりし頃は、さぞかしモテたろう。きっと今もモテるだろう。見る者に確信させる美丈夫だ。年の頃は魔道貴族と同年代か少し若く見える。体付きは大したもので、なんかこうアメフト選手のよう。髪もハゲ知らずのベートーベンカットに艶の良いブロンドが輝く。遠目には白髪の一本も見つけられない。

 しかしながら、愛娘の危篤を傍らにおいては、やはり心に来るものがあるのか、酷く疲れた表情を晒して思える。恐らく、彼の病を巡っては、過去に幾度も期待と幻滅とを繰り返してきたのだろう。

「はい。早急にこちらの薬を患者へ与えて下さい」

 呟いて、魔道貴族が薬を王の下へと運ぶ。

 流石の魔法キチガイもこの場では敬語だ。

 この手のへへー、ハハー、的なやり取りは作法が分からないので、全てをオッサンに丸投げした次第である。こちらとしては報酬の金貨さえ確保できれば問題ないので、出来る限りスムーズに事を進めたいところ。

 下々たる俺がどうこうしたと主張するより、彼の手柄として献上した方が、より容易に話は進むだろう。見ず知らずの異国人が作った怪しい薬なんて、とてもではないが王女様の口まで運ばれるとは思えない。そんなの俺だって絶対に飲まないしな。

「そこの者、これを早急に娘の下へ」

「ははっ!」

 王様が命じると共に、傍ら、騎士っぽいヤツが薬を受け取る。

 これを残るパーティーメンバーは、床に片膝を突いた姿勢に見守る。どうやらこちらの世界でも、偉いヤツの前では身体を低くするのが一般的な作法のようだ。

「失礼いたします」

 薬を受け取った彼は、急ぎ足に謁見の間を後とした。

 問題のお姫様の下へ向かったのだろう。

「しかし、ファーレンよ。よもやレッドドラゴンの肝とは、本当なのか?」

 王様が魔道貴族に問う。

「はい。飛空挺を失った点に関しては、事前にご報告を上げたとおりです。しかしながら、その過程で更に巨大な魔石を得ることに成功しました。失ったもの以上の一隻を、このファーレン、必ずや仕上げてみせることをお約束いたします」

「いや、飛空挺の件に関しては、構わぬ。だがしかし、レッドドラゴンの討伐だなどと。彼の怪物はドラゴンと呼ばれる存在のうちでも一等に強大で凶暴だと言う。更に同行者はそこなる者たちの他、護衛の一人も付けなかったと聞く」

「ドラゴン討伐は数ではありませぬ。質こそが何より大切なのです」

 どこかで聞いたような台詞が再び。

「……なるほど、ファーレン卿が言うのであれば、それは真実なのであろうな」

「はい」

 しかし、このオッサン、随分と王様に信用されてるのな。

 それだけ実績があるんだろう。

「可能であれば、薬の効果のほどをこの目に確認させて頂きたい。勝手な申し出となりますが、姫殿下の下へ足を運んでもよろしいでしょうか?」

「うむ、構わぬ。そなたが傍に居てくれるのであれば娘も安心するだろう」

「ありがとうございます」

「しかしな、ファーレン卿よ。繰り返しとなるが、私は話を聞いて本当に驚いた」

「と申しますと?」

「よもや娘の命を繋ぐにレッドドラゴンの肝が必要となろうとは」

「病に関わる詳しい話に関しては、元気になった姫殿下を交えて後日、時間を頂戴してのご報告とさせて下さい。流石にこの場で説明することは難しくあります故」

 オッサンがこちらへチラリ、ほんの僅かばかり視線を向けた。

 まさか俺まで連れて行くつもりじゃあるまいな。

「分かっておる。おぬしは自身の目に確認するまで、何事も信じない」

「流石にそこまで頑固ではありませんが……」

「頑固もまたおぬしの美徳じゃ。謙遜することはない」

 それにしても驚いた。一国の主が他に大勢の貴族の前で、これだけ親しげに語るとは。随分と魔道貴族と仲が良いようである。部屋に並んだ貴族の一部が悔しそうに、やっかみの視線を向けているぞ。

 おかげで他のメンバーは会話へ入る必要に迫られることなく平穏無事だ。

 ナイス魔道貴族。

 二人はしばらく、あれやこれやと言葉を交わしていた。ややあって、しびれを切らしたよう、玉座の傍らに立つ魔道貴族と同年代か少し年上と思しき男が、殿下、そろそろ、などと小声に囁いたところでようやっと一段落。

 うむ、頷いた王様が締めの言葉に入る。

「さて、ひとまず本日のところは皆の者、これにて下がると……」

 そうした頃合の出来事だった。

 閉じられていた謁見の間の出入り口、その巨大な扉が急に開いた。

 バァン、大きな音を立てて開いた。

 誰も彼もが驚きのまま、出入り口の側へと意識を向ける。

 同時に一帯へ響き渡ったのが、年若い少女の声だ。

「お、お、お父様ぁー……」

 今の今まで寝ていたのだろう。並び立つ騎士甲冑やマント貴族とは対照的、寝間着姿を晒す十代も中頃の可愛らしい女の子だ。薄い生地一枚の下、遠目にも身体のラインが窺える。胸と尻は大きくプリッとしている。一方で腰は程良く括れてナイスバディ。

 非常に男好きする肉付きだった。

 ロイヤルマンコ調教したい。

 これを目の当たりとして、他の誰にも先んじて吠えたのが王様だ。

「あ、アンジェリカっ!?」

「お父様、身体が、身体が動きますわっ!」

「なんとっ……」

 他に大勢、男連中が詰込まれている謁見の間を、けれど、なんら構った様子もなく、彼女は寝間着姿で小走りに駆ける。そして、同所の一番に奥まった地点、レッドカーペットを過ぎた先、一番高いところに立つ王様の下まで辿り付く。

 眦に涙を浮かべて、アンジェリカと呼ばれた彼女は、王様に抱きついた。

「う、動くのか!? 身体が、身体が動くのか!? アンジェリカっ!」

「はいっ! 動きます。まるで背中に羽が生えたように、動きますのっ!」

「おぉおおおおおおおっ!」

 これには王様も感極まった様子で声を上げる。

 娘に同じく目元には涙がうっすらと。

 どうやら薬は即効で効いたようだ。病でなく呪いだ云々とエディタ先生の著作にも記載があったので、その辺りが関係しているのだろう。具体的にどのような違いがあるのか、答えることは難しい。ただまあ、そんな感じだろうと思っておく。

 病中も食事はちゃんと摂っていたようで、痩せているような気配は見られず、肉付きも十分。今に眺めた健脚は、床に伏してからも継続してリハビリを行っていた証だろう。寝たきりでも肉を揉んでおくだけで随分違ってくると聞いたことがある。

 一連の立ち振る舞いを鑑みるに、その儚げな出で立ちや背景とは対照的、実際は心の強い娘さんなのかもしれない。薬を飲んで早々、ここまで走って来た点からも、その鱗片は窺える。大したお姫様じゃないか。

「お父様、ありがとうございます! またこうして再び、自らの足に走れるなんて夢のようです。私は今、この世界で一番の幸せ者にございますっ!」

 父親に抱きついたまま、おうおうと言葉を続けるお姫様。

 謁見の間に立ち並ぶ貴族一同からもあれやこれや感嘆の声が上がっていた。

 そんな具合だから、同日、謁見は当然のことお開きとなった。

 どうぞ、今は家族の団欒を楽しんで下さい。



◇◆◇



 翌日、我々は再びお城に呼び出された。

 というか、王様のご厚意で一晩をお城に宿泊、そのまま城下の自宅へ戻ることもなく、朝起きて早々に謁見といったスケジュールである。

 魔道貴族曰わく、ご褒美タイムとのこと。

 我が家に紐付いた負債の取り立てまで、残すところ十日と幾日か。十分な余裕を持って今日この日を迎えることが出来たことを俺は嬉しく思うね。

「今回、そなたたちの行いについては、まことに大義であったっ!」

 甚く機嫌も良さそうに王様が言った。

 場所は先日と同様、お城に設けられた謁見の間である。

 同所には城の主人である彼の他に、豪勢な衣服を身に纏った大勢の貴族たちが、部屋の壁に沿って両脇に並んでいる。ジャック・ルイ・ダヴィッドの戴冠式的な。まあ、あそこまでわらわらとはしていないが。

「流石はファーレン卿だ。本当に、本当に良くやってくれた」

 未だ情緒不安定なのか、感極まった様子で涙声となる王様。

 自分は家庭など持った経験のない童貞野郎であるが、こうして家族の為に必至となっている男を目の当たりとすると、結婚も良いなぁ、などと感じてしまう。小さな娘にパパ大好き、とか言われたら、お風呂でイタズラせずに初潮を向かえさせる自信がないぞ。

 対して、呼ばれた側はこれを粛々と諫める。

「普段の私であったのなら、当然です、と答えたでしょう。しかしながら今回の一件に関しては、私一人では到底のこと、本日を迎えるまでには至りませんでした」

「なんとっ……卿からそのような言葉を耳とする日が来るとは」

「薬の調合を行ったのも、材料となるドラゴンの肝を採集したのも、ほぼほぼこちらの男の手にございます。誉れはこの男にこそ与えて下され」

「……その者、頭を上げよ。名を何という?」

「はい、私はタナカと申します」

「タナカ? 変わった名前だな。この大陸の人間とは少し違うように見えるが」

 やばい、いつもの癖で苗字だけを名乗ってしまった。

 こっちの人は苗字持ってる人の方が少ない。平民の類いは大抵の場合で持っていないから、十中八九で勘違いされただろう。まあ、別に構わないか。王様に顔を合わせる機会なんて、本日が最初で最後だろうし。

「はっ、他より流れ着いた流浪の民にございます」

「流浪の民?」

 全ては金貨の為だ。失礼のないようにと形式張って受け答え。

 当然、王様の顔には戸惑いが浮かぶ。

 これを目の当たりとしたところで、不意に傍らより別に声が。

「王様、私に発言の機会を」

 金髪ロリータだ。

 今の今までずっと黙っていたのに、急にどうした。

「あぁ、リチャードの娘もまた参加していたのであったな。我が娘の為、その身の危険を顧みずのドラゴン退治、誠に大儀であった。家の方にはこれと別に、私の方から挨拶をさせて貰う予定だ。そなたにも子爵の位と領土を与えよう」

 その言葉に謁見の間がざわつく。主に壁際で並んで居る偉そうな貴族一同がざわつく。今この瞬間、何かしら同国の権力構造に変化が発生したのだろう。平民の俺には関係のない話だが。

 彼女に対する王様の反応を受けては、場を代表するよう他に男が口を開く。

 玉座の傍らに立つオッサンだ。昨日も同じ場所に居を構えて、時間の管理などしていた。位置的にナンバーツーな役職に立つ人物だろうか。この手の世界観だと宰相とか、なんちゃら大臣とか、そういった類いの肩書きを想像する。

「陛下、お待ち下さい、その領土というのはまさか」

「ああ、これだけ剛胆の持ち主、遊ばせておく訳には行かぬだろう? 女とは言え、この者はリチャードの娘だ。褒美としては相応だと私は考えるが?」

「し、しかし、かの領土は国が抱えております故っ……」

「私が決めたのだ。何が不服なのだ? モルドレッド宰相」

「い、いえっ……」

「レッドドラゴンを打倒せしめた優秀な者を使わず、他に誰を使うというのだ? この者であれば、あの土地も見事に収めてみせるだろうと、私は確信しておるのだ」

「……はい、左様かと存じます」

「であろう? ならばいちいち声を上げるでない」

「はっ……」

 王様と宰相。

 一般的に国を治める上から一番目と二番目のお話というやつだろう。我ら底辺からすれば遙か雲の上の出来事である。両者の意図するところなどまるで知れない。孫会社の平社員がグループ企業合同の新人研修に眺める持ち株の社長みたいなもんだ。

 やれなんとか家だの、やれなんとか卿だの、学園でも小耳に挟む機会はあった。ただ、ここペニー帝国は非常に規模の大きな国であって、相応に複雑な権力構造を持っているよう。おかげで概要すらも平民である俺には掴めそうになかった。

 貴族は貴族で大変そうだ。

 あぁ、それよりも今を注目すべきは、金髪ロリータの発言意図である。

 下手なことを口とされて、ご褒美である金貨が失われては元も子もない。

 我が持ち家の存続が。

 なんて思っていたのだが。

 想定したところと、彼女が答えたところは、まるで正反対だった。

「この男の身元は私が保証いたします。どうかご容赦を」

「なに? おぬしがか?」

「はい、フィッツクラレンス家の名に誓います」

「ふむ……」

 金髪ロリータの癖に口調が堅苦しい。

 というか、まさかコイツにフォローして貰えるとは驚き。

 これに畳み掛けるよう、魔道貴族もまた続いた。

「私もまたフィッツクラレンス家の娘に同じですな」

 二人のおかげで、王様の表情は幾分か和らいだ。

 ありがとうございます。なんか嬉しい。

「分かった。ファーレン卿とフィッツクラレンス家の娘が信頼するのであれば、私もまたこれに倣うとしよう。タナカと言ったか? この度の働き、まことに大義であった」

 応じて周囲に並び立つ他の貴族一同から驚きの声が上がる。

 どうやら異例の対応であったよう。

 てっきり普通に報酬とか貰えるものだとばかり思っていたから、こっちとしてはビビりまくりだし。なんというか、二人がいなかったら、また牢屋に舞い戻っていた可能性すらあったような気配がヒシヒシと。

 これが封建社会か。凄いなおい。

「ははっ! 勿体なきお言葉にございます」

 だからこそ、それっぽい挨拶など全力で。

 へへー、へへー。どうかご容赦を。

 これで大丈夫だよな?

「なにか欲しいモノはあるか? 言うてみよ」

「であれば、市井に頂戴した御触れの通りを頂ければと、恐縮ながら申し上げます。ファーレン卿はこのように説明して下さりましたが、仮に私一人であっても、今回の一件は決して達成することができなかったでしょう」

 それは間違いの無いことだ。

 このパーティーであったからこそ達成できたのだ。あぁ、幼女の導きも忘れてはいけないな。そのあたりの全てが大切だったのだ。かなり達成感あるし。すごく嬉しいし。誰かと一緒に何かをやり遂げるって、とても尊いものじゃんよ。

 会社とか業務とか仕事とか、そういうのじゃ絶対に得られない興奮だわ。

「成果は皆のモノでありますが故、均等に分けられるものがありがたく思います。ですので、とても卑しいお願いではありますが、金銭として頂戴できることが、私としては非常にありがたく申し上げさせて頂きます」

「なるほど。であれば先に出した触のとおりとしよう」

「ありがとうございます」

 やった。

 無事に金貨ゲットだぜ。

 ここの王様はケチだとか、噂話を耳にした覚えもあるので、もしかしたら最後の最後で突っぱねられる可能性を危惧していたのだ。どうやら無事に受理して貰えたようで助かった。それだけ娘が大切なのだろう。

「報酬をここへ」

 王様が言う。

 応じて、傍らに控えていた騎士の一人が金属製の箱と共に歩み寄ってきた。

「汝らには、我が国の大事を救った報酬として、ここに金貨千枚を与える」

「ははっ! ありがたき幸せにございます」

 深々と頭を下げて、俺はこれを両手に頂いた。

 むっちゃ重かった。



◇◆◇



 報酬を貰って以後、我々は魔道貴族宅へと引き上げた。

 お疲れ様会改め、ドラゴン退治の事後処理を行う為である。金貨千枚と言えば膨大な額であるからして、やり取りを行う場所も相応でなければならない。お城から屋敷までを馬車に揺られてのこと。

 結果、今に面々が居するは同邸宅の応接室だ。

「皆さん、今回は私の勝手な都合に付き合って下さり、本当にありがとうございました。つきましては、旅の経費を含めた各種精算をこの場に行おうと思います」

 こうした場を仕切るのもマネージャーの役割である。

 ソファーに腰掛ける面々を眺めて口上を続ける。

 ネトゲでもやってるみたいで不思議な感じだ。

「王様からの報奨金に関しては、皆で等分となります。千枚を七名となるので、一人頭百四十二枚となります。端数の六枚に関しては、レッドドラゴンの肝を除いた採集物と併せて、飛行艇の損傷分に充てる形でファーレンさんへ、ということにしましょう」

 今回、一番に活躍したのはヤツだからな。

 あまり借りを作りたくない都合、出来る限りヨイショしておきたい。

「貴様はそれで良いのか?」

「えぇ、こっちはそれで問題ありません」

「……であれば、私が何を言うこともないが」

 取り立てて不満は挙がらなかった。

 飛行艇を落としてしまったので、もう少しごねられるかとも思ったのだけれど、レッドドラゴンの素材とやらにそこまで大した価値があるのか、或いは気を遣ってくれたのか。分からないけれど、ありがたい限りである。

 そして、彼が不満を言わない以上、他から挙がることもない。

 かと思われた。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよっ!」

 金髪ロリータが吠えた。

 相変わらずこのロリビッチは場を乱すのが得意じゃないか。

 王様の面前で庇ってくれた際には割と感動したのだけれど。

「なにか意見ですか?」

「どうして等分なのよっ!」

「いや、それが一番に公平かなと思いまして」

 まさかゴネるつもりだろうか。以前に冒険した際は、こんなはした金なんて要らないわよ系女子だったのに。額が変わると態度も変わるというやつだろうか。

「だったら私は要らないわっ! 貴方が貰いなさい」

「え? 要らないんですか? 貴族にしても結構な額だと思いますけど」

「だって、私、ぜ、ぜんぜん役に立ってないじゃない。むしろ、アンタの足を引っ張って、さ、最後なんて、すごい迷惑かけて、酷いことになってしまって……」

 俯き加減に語る金髪ロリータ傷心系。

 どうやら俺の推測は甚だ見当違いであったよう。

「だから、私への分与は不要よっ!」

 語調も強く語り、ジッとこちらを見つめてくれる。

 眼差しは一ミリたりともぶれない。

 すると、声は他に彼女の傍らからも上がった。

「そういうことであれば、僕も受け取りは辞退させて頂きますね」

 アレンである。

 相変わらずな朗らかスマイルを浮かべて、ニコニコと。

「僕はエステル以上に役立ってないですから。むしろ、こうしてドラゴン退治という名誉に同行させて頂いた経験こそが、掛け替えのない報酬ですよ。それだけで一生の自慢になりますね」

「そ、そうですか……」

 イケメン過ぎるだろコイツ。

 マジ濡れるし。カウパー的な意味で。

 俺がおホモじゃなかったことに感謝しろよな。

「では、二人の分はファーレンさんに」

「飛行艇の損害分を懸念しているのであれば、レッドドラゴンの素材で十分に賄うことが可能だ。くれると言うのだから素直に貰っておくがよい。私の研究に投資する、というのであれば吝かではないが」

「……分かりました。では、すみませんが頂戴いたします」

 都合、報酬が想定の三倍まで膨れあがった嬉しい。

 今すぐにでも滞納負債を支払い、持ち家を取り戻しに行きたい気分だぜ。

「以上で精算に関しては終了です。よろしいでしょうか?」

 一同をグルリ見渡したところ、取り立てて他に声は上がらない。

 額が額なので、もっと難儀するかとばかり考えていたんだけど、意外とアッサリ終った感じだ。端数を巡って小一時間は覚悟していたくらいである。しかしながら、開けてみればどうしたことか。どいつもこいつも民度が高いじゃないか。

 長かったドラゴン退治もようやっとお開きだった。

 今回のMVPは名も知れぬ街の幼女に決まりだな。

 ありがとう、幼女。

 俺は君の助言のおかげで、無事にドラゴンを退治することが出来たよ。

 そんなこんなで精算は恙なく終えられた。



◇◆◇



 帰宅した。

 帰ってきた。

 我が家。

 魔道貴族宅から戻ることしばらく、自宅でベッドに横となっていた。これから如何にして持ち家をデコってやろうかと、天井の染みを数えながら考えてた。

 すると、なにやら玄関の戸がトントンと叩かれる気配。

 どうやら来客のよう。

 誰かと疑問に思い、玄関先まで出向けば、そこには見覚えのある憲兵の姿が。

 以前に訪れた二人組の片割れだった。

 どうやら集金の都合を確認しにきたよう。

 これ幸いと手持ちの金貨から指示された額を取り出す。それを彼らへ手渡したところで、持ち家を巡る面倒を今まさにこの瞬間、無事にミッションコンプリート。

 これはいよいよスタッフロールも近いな。

「次からはちゃんと支払うように」

「はい、どうもすみませんでした」

 長かった。

 僅か数週ながら、それでも長かったと感じる。

 ようやっと本当の意味で、俺は持ち家を手に入れたのだ。誰に何か文句を言われることもない。壁の色を塗り替えたって、庭に犬小屋を作ったって、スケルトンリフォームしたって、まったく問題ない。完全無欠の住居的自由がある生活。

 そういうのが、この身の上に舞い降りた訳だ。

 人生のフィナーレに相応しい特権だ。

 今日から俺は持ち家。

 だがしかし、それでも確認は必要だ。

 今の俺はもう情弱じゃない。むしろ情強だ。

「あ、それと一つ確認したいのですが」

「なんだ?」

「もうこれ以上、この家をどうこうされるような負債はありませんよね? 或いは、この家を維持、運営していく上で、著しく常識を外れた問題が発生する可能性は、ありませんよね? という確認です」

「……どういうことだ?」

「また今回のように、過去に遡る金銭的な問題が見つかったりだとか、書類上の不備だとか、他にはそうですね、ありがちなのが、この土地に科せられている税金の額が他と比較して法外であったとか、その手の問題全般に関してです」

「あぁ、そ、その点に関しては、我々からはなんとも言えないが……」

「であれば、貴方の上司の方にお伝え願えませんか? 万が一にもその手の問題が発生したのであれば、次は魔道貴族……ああいえ、この街の貴族、ファーレン卿にご助力を依頼する形になりますと」

「っ……」

 ハッタリ最強伝説。

 VSクリスティーナでハッタリの大切さを知った俺は強いぜ。

 魔道貴族の名前を出したところで、途端に憲兵の顔が強ばる。

 効果は抜群だ。

 如何に書面で約束を交わそうが、このファンタジー極まる世界では無意味だ。伊達に貴族が封建制度キメていない。自分のような醤油顔の異邦人が街に居を構えるということは、きっとそういうことなのだ。

「彼とは懇意にさせて頂いております。私の言葉であれば、決して無碍にはしないでしょう。当然、ここのアトリエにも足を運んでおりましてね。その折には調剤の助手を勤めて頂いたのですよ。万が一でもあっては、末端の首一つでは事を済ますことも難しいと思います。もちろん、ご本人に確認していただいても結構です」

「わ、分かったっ、つ、つ、伝えておいてやろうっ……」

「ありがとうございます」

 少なからず顔色を悪くした憲兵に笑顔で感謝を。

 ここまで説明しておけば、もう次はないだろう。

 俺は神様ではないので、事情の全てを理解することは叶わない。どこの誰が幾ら得をして、どこの誰が幾ら損をしたのか。もちろん、全てが真実である可能性も。

 ただ、唯一確かなことがあるとすれば、それは魔道貴族の権力が強大であること。

 先んじて折れたのはこちらだ。指定された金銭も支払った。

「…………」

「…………」

 併せてヤツの名を出した時点で、これ以上を粘着してくる可能性は低いだろう。相当な大物が出てきたとしても、それこそエステルちゃんの親父さんとでもエンカウントしない限り、次は勝てる。

 これ以上、俺に構うことで得られる利益はないのだ。

 リスクの方が遙かに大きい。

「それでは、以上でよろしいですか?」

「う、うむ。ではこれにて失礼する」

 仮に末端であったとして、その程度は理解できるだろう。

 憲兵は緊張をそのままに玄関から外へ出て行った。

 パタン、ドアが閉じられて――――、

「……ふぅ」

 ようやっと、人心地ついた気がした。

 そう。

 思えばヤツこそクリスティーナ以上のラスボスであったのかも知れない。

「…………」

 あぁ、良かった。本当に良かった。やっと手に入れたんだ。

 俺の持ちアトリエ
終わりっぽいけど続きます。次からロリビッチのターン。
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