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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫
15/131

ドラゴン退治 三

 目的地であるペペ山が目前まで迫っていた。

 準備は万全。

「では、ゆくぞっ!」

 艦橋には乗組員全員の姿がある。

 艦内で待機していたソフィアちゃん、ゾフィーちゃん、アレンの三名を迎えたフルメンバーだ。皆々の意識が向かう先には、艦橋の正面、いよいよ岩肌の色具合まで視認できるほど近づいたペペ山が臨む。

 ちなみに俺は金髪ロリータのローブから着替えて、簡素なシャツとズボン姿だ。

 半裸は解消された。

 ローブは金髪ロリータに返却した。

 持ち主の元に戻ったそれがどうなったかと言えば、今現在、再び彼女の身体を包んでいる。我がティンティンに接触したローブだというに、取り立てて気にした様子もなく袖を通す彼女の姿には、むしろこちらが驚いたわ。

 何故なのか確認したところ、なんでもブレスに耐性のある代物らしい。まさかこれを着用せずにドラゴンへ挑む訳にはいかないでしょ! と言われてしまった。沸き上がる罪悪感が心を苛みズキズキと。同時に背徳感がゾクゾクと。

 まあ、俺の性癖はさておいて、今は胴体着陸の時間。

「ぬぅんっ!」

 艦橋の中央に浮かび、魔道貴族が杖を片手にうなり声を上げる。

 同時に少しばかり船が顎を上げる。

 鋼鉄に覆われた腹が地面に接しては、ガリガリ、表面を撫でるように滑ってゆく。当然、衝撃は大したものだ。皆々、艦橋に設えられた椅子やら何やらにしがみついて、必死の形相に姿勢を保っていた。

 唯一、これに影響を受けないのが、足裏を宙に浮かす魔道貴族。

 っていうか、マジで便利だ飛行魔法。

「ぬぅうううううううううっ!」

 らしくないうなり声を上げて、必死の形相となる魔道貴族。

 どうやら正念場のよう。

 ズガガガガガと景気の良い音が艦橋にも響く。

 マジ勘弁。

「し、死んでしまいますっ、死んでしまいますっ! 神様ぁっ! だから、無理だったんですっ、た、ただの定食屋の娘が、ど、ど、ドラゴン退治のお供なんてっ! こんなの無理ですっ、ぜ、絶対に死んでしまいますっ!」

 一番にメンタルの弱い子が、早々に我慢の限界へ達して悲鳴を上げ始める。

 おかげで他の面々はギリギリのところで踏ん張って思える。

 他人の無様なところを目の当たりとして、自らは冷静を取り戻してなんとやら。今まさに自身も感じているのだから、きっと他の連中も同じなんだろう。なんて、各々の緊張に強ばる表情を眺めては確信を得る。

 ナイス飯屋の看板娘。

 意外と良いパーティーじゃないか。我々は。

 少なからず愛着だ。

「きゃっ……」

 ただ、そうした心構えと身体性能とは、まるで別モノである。

 激しい振動に金髪ロリータが翻弄される。

 掴まる先、指が外れて身体が宙に舞い上がった。

「え、エステルっ!」

 これに大慌て、声を掛けるアレン。だが、自らもまた傍らの壁にしがみつくので必至の様子だ。手を伸ばしたところで、残念ながら届かない。その間にも彼女の身体は揺れに翻弄されて、艦橋を滑り、あわや柱に激突の危機。

「きゃああああああああっ!」

 甲高い悲鳴が上がる。

 これは不味い。

 さっさとなんとかしろよアレン。イケメンだろアレン。

 願ったところで彼も身動きが取れないから困った。下手に身を飛ばしたところで、揺れに翻弄される負傷者が二人に増えるのがオチだ。それを理解してだろう。ドラゴン狩りという大事を直後に控えて、イケメンもまた満足に動けないよう。

 回復なら幾らでもしますからとは事前に語っているけれど、痛いものは痛い。俺だって理解できる。特に打撲痛の、あの殴打してから数瞬の後、ジンワリと染みるように迫ってくる痛みは堪らない。それに下手を打てば頭部を強打して後、即死も有り得る。

 であれば致し方なし、ここはパーティーリーダーたる俺が根性を見せるわ。

 スキルウィンドウかもん。


パッシブ:
 魔力回復:LvMax
 魔力効率:LvMax
 言語知識:Lv1

アクティブ:
 回復魔法:LvMax
 火炎魔法:Lv3
 浄化魔法:Lv5

残りスキルポイント:55

 よし、ハイオークとワイバーンの打倒を併せてレベル上がってる。

 ちゃんとスキルポイント入ってる。

 スゲェ量が入ってる。

 これを――――、


「行くぞっ!」


 こうだ!

パッシブ:
 魔力回復:LvMax
 魔力効率:LvMax
 言語知識:Lv1

アクティブ:
 回復魔法:LvMax
 火炎魔法:Lv3
 浄化魔法:Lv5
 飛行魔法:Lv55

残りスキルポイント:0


 ヤバい、勢いあまって全部突っ込んじまった。

 ゲームの会話シーンを飛ばそうとして、キーを連打し過ぎた時のあの感じ。大切な選択肢を内容確認の暇も無く一番上でGO的な。っていうか、レベル五十五でもMAXに到達しないとかどうなんよ。上限は幾つだよ。割と本格的に疑問だわ。

 まあいい。今はそれよりも金髪ロリータだ。

 我がパーティーの理念は安全第一。

 絶対に死傷者なんて出さないぜ。

 俺はハッピーエンドが大好きなんだよ。

「掴まってくださいっ!」

 空飛ぶ中年オヤジ二号、見参!

 宙を飛行魔法に移動して金髪ロリータを抱き留める。

「っ……」

 我が胸の内に受け止められて、途端、金髪ロリータの瞳が見開かれた。

 そりゃ不細工な中年の醤油顔に抱かれりゃ誰だって驚くわ。

 俺だって驚くわ。

「言いたいことは分かりますが、今は落ち着いて下さい」

「ちょ、ちょっとっ……胸、がっ……」

 それにしても、この飛行魔法というのは、かなり難易度が高いぞ。気を抜くと飛空艇との相対速度で壁に向けて一直線、向かって行きそうになる。なら惑星の自転はどうなるんだ、思わないでもない。その辺りは元より地上に生まれ落ちた無意識が所以か。

 いずれにせよ、一カ所に留まるのが非常に困難だ。

 レベル五十五でこれなのだから、一ミリのブレもなく、飛空挺の只中に浮かぶ魔道貴族の空飛び具合はどうなっているのか。疑問を覚えるくらい。或いはレベルの高さと安定性は関係無いのかも知れないな。慣れってやつかね。

「……だから、む、むねっ……」

「本当にすみません。もうしばらくの辛抱ですから」

「っ……」

「不快かとは思いますが、すみません」

 謝ってばかりだぞ俺。

 流石は日本人だ。

 ちょっと誇らしいぜ。

 ちなみにロリが胸が胸がと騒いでいる理由は、一重に俺の腕が彼女のオッパイを圧迫しているからである。急場に抱き上げた為、そこまで気が回らなかったのだ。嬉しい。嬉しい。最高に嬉しいぞラッキーすけべ。生まれて初めて触れる異性の胸だよ。悪いかよ。

 でも平坦過ぎて、あまり感触は得られていないけどな。

「べ、べつに不快だなんてっ……」

 ボソボソと呟いては、プイと顔を背ける金髪ロリータ。

 そんなに嫌かよ。

 別に中古女に避けられたって、俺の心はダメージとか受けないわ。

 余裕だわ。

 はっ!

 とりあえず、無事に帰還できたら風俗へ行こう。

 沢山中出ししよう。

 あとペットに大型犬を購入しよう。

 ゴールデンレトリバー的な。

 そうだ、それが良い。

「うぬぉおおおおおおおおおおっ!」

 一方でオッサンの上げる声が殊更に大きなものへ。

 野太いボイスが鼓膜を直撃だわ。もう少しどうにかならないのかよ。

 応じて、艦橋の窓から眺める先、景色の移りゆく速度が勢いを失ってゆく。どうやら着実に減速しているようだ。何がどうなって魔道貴族のうなり声が飛空艇の減速に繋がるのかは知れない。だが、効果は抜群だ。いいぞ魔道貴族。頑張れ魔道貴族。

 それからしばらく、二、三分ばかりを滑ったところで空飛ぶ船は完全に止まった。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 流石の魔道貴族も堪えたようで、息も荒く肩を上下させている。

 自らを宙に定点浮遊させながら、勢い付いた飛空艇を胴体着陸させるのだから、自らを魔法の申し子だと名乗るだけのことはある。火の玉を飛ばすだけの俺とは違って、色々と多才な男だよ、このオッサンは。

「どうやら無事に着陸したようですね」

 それとなく尋ねると、彼は額に浮かぶ汗を片手に拭い答えた。

「ふっ、魔道貴族たる私の手に掛かれば、と、当然のこと」

 ちょっと声が震えているあたり、割とギリギリだったなコイツ。

 そういうのは事前に伝えてくれよ。

 でも、ありがとう。感謝してるよ魔道貴族。カッコイイぜ。

「しかし、早めに船から離れた方が良いだろう」

「何故ですか?」

「随分と目立つ動きをしてしまった。近隣に生息する魔物が騒動を聞きつけて集まってくる可能性が高い。サラマンダー程度であれば事足りるだろうが、万が一にもレッドドラゴンが数を為して来たとあれば、流石に私や貴様とて手を焼くだろう」

 なるほど。ご尤も。

「了解です。では、すぐに荷物をまとめて船から脱出しましょう」



◇◆◇



 決して無事とは言い難いが、遂に我々は目的地へと到着した。

 ペペ山の中腹である。

 そして、運が良いのか悪いのか、飛空艇より降りて早々、ご対面だ。

「レ、レッドドラゴン……」

 前衛ということで先陣を切って地上へ降り立ったアレン。

 その口から漏れたのは、我々の目的にして求めるところ。

 続くこと他の面々もまた屋外へ一歩を踏み出して硬直。

 傍らに俺もまた同様、それを目の当たりとしては呆然と呟く。

「流石に、二匹は想定外ですね」

 現地入りした我々の下、訪れたのは巨大なドラゴンが二匹。見た目は西洋系のドラゴン然とした出で立ち。レッドドラゴンで調べれば、早々に見つけられるような外見だ。

 問題は大きさ。コイツら今まで乗っていた飛空艇と同じくらいあるわ。先程まで対応していたワイバーンとは比べものにならない巨漢の持ち主だった。デカイ。

「くっ、流石に二匹を相手は人の身に余る……どうする?」

 どうしたことか、魔道貴族すらもが狼狽えている。

 それほどに大変な状況ということだ。

 どうするとか尋ねられたところで、うぉう、マジどうしよう。

 とりあえず、ステータスを確認しよう。そうしよう。




名前:ジョン
性別:男
種族:レッドドラゴン
レベル:267
ジョブ:ニート
HP:311800/312610
MP:81700/81705
STR:27900
VIT:15962
DEX:9952
AGI:21522
INT:32500
LUC:10363


名前:ボブ
性別:男
種族:レッドドラゴン
レベル:273
ジョブ:ニート
HP:331800/332610
MP:71700/91705
STR:29002
VIT:16962
DEX:94052
AGI:21010
INT:30020
LUC:12363



 こりゃヤバい。

 ワイバーンとは桁が一つ違う。



名前:タナカ
性別:男
種族:人間
レベル:65
ジョブ:錬金術師
HP:54909/54609
MP:149500000/149500000
STR:3375
VIT:7560
DEX:9852
AGI:4442
INT:10922000
LUC:329



 対して、こちとら相変わらずの一点豪華主義。

 なんてバランスの悪いステータスだ。

 ハイオーク戦や飛空艇を巡る一戦でレベルが上がっているけれど、それでも圧倒的に足りていないのがINT以外の各種ステータス。奴らの瞬間最大与ダメが、こちらのHPを上回った時点でゲームオーバーだ。なんてスリリングなレベルデザインだろう。

 HPが一桁だった頃が懐かしいわ。

 対して自分以外の皆さんはどうなのですかね。



名前:アンネローゼ・レープマン
性別:女
種族:人間
レベル:50
ジョブ:聖騎士
HP:10850/10850
MP:1175/1850
STR:3003
VIT:1358
DEX:1521
AGI:2830
INT:1242
LUC:891


 メルセデスちゃん、自己申告とステータスウィンドウで名前が違くね? 誰だよアンネローゼ・レープマン。そう言えば、以前に牢屋の中で確認したときも、こんな名前だったような気がする。メルセデスってのが偽名っぽいな。

 まあいいや、何かしら理由があってのことだろう。

 初見の際も、濡れ衣で牢屋にぶち込まれたとか言っていたしな。

 今は気にしている余裕はないし、そう気になるものでもない。


名前:グレモリア・ファーレン
性別:男
種族:人間
レベル:80
ジョブ:魔道士
HP:31850/31850
MP:20850/20850
STR:1300
VIT:4958
DEX:19821
AGI:1030
INT:41942
LUC:3291



 魔道貴族は使える。使えるぞコイツ。立派な戦力だ。

 ドラゴンより三割ほどINTが上だ。高ダメージを望めるぞ。



名前:アレン・アンダーソン
性別:男
種族:人間
レベル:30
ジョブ:騎士
HP:6600/6600
MP:120/120
STR:750
VIT:1002
DEX:752
AGI:942
INT:190
LUC:839



名前:エリザベス・フィッツクラレンス
性別:女
種族:サキュバスハーフ
レベル:38
ジョブ:魔道士
HP:4230/4230
MP:8100/8100
STR:300
VIT:562
DEX:652
AGI:942
INT:5190
LUC:330



名前:シアン・ビッチ
性別:女
種族:人間
レベル:35
ジョブ:魔道士
HP:6705/6705
MP:6500/7300
STR:800
VIT:662
DEX:752
AGI:620
INT:4190
LUC:280



 ゾフィーちゃんだけじゃなく、金髪ロリータも偽名だった。まあ、お偉い貴族の娘さんとの話であるから、納得と言えば納得である。メルセデスちゃんよりも余程のこと容易に受け入れられる。

 っていうか、エステルちゃん、半分くらい人間辞めちゃってるんだけど、どうしよう。いやまて、今は彼女が人間だろうがなんだろうが、気にしている場合じゃない。そもそも差別とか良くないよな。あぁ、良くない。

 むしろ、それ以上の問題が一つ。

 想像した以上にチーム乱交が弱っちい。

 これは何とかしなければならない。バイキルトとかへイストとかラクカジャとか、そういう感じのだ。きっとあるだろう、その手のスキル。じゃなきゃ前衛さんがドラゴン戦をどう凌ぐのかが分からないじゃない。


パッシブ:
 魔力回復:LvMax
 魔力効率:LvMax
 言語知識:Lv1

アクティブ:
 回復魔法:LvMax
 火炎魔法:Lv3
 浄化魔法:Lv5
 飛行魔法:Lv55

残りスキルポイント:0


 と思ったけど、ヤバい、スキルポイントがゼロだ。調子に乗って飛行魔法へ注ぎ込んだ結果がごらんの有様だ。加減が難しいんだよ。

 まあ、過ぎてしまったことは悔やんでも致し方ない。ドラゴンを速攻で一匹倒して、レベルアップを狙おう。チーム乱交が生き残るにはそれしかない。

 成長はいつだって現場で与えられるのさ。OJTというやつだ。

 あぁ、ついでにソフィアちゃんはどんなもんだ。


名前:ソフィア・ベーコン
性別:女
種族:人間
レベル:12
ジョブ:給士
HP:209/209
MP:82/82
STR:30
VIT:70
DEX:130
AGI:92
INT:90
LUC:98030



 何この子、やたらとLUCが高いんですけど。

 凄いぞベーコン。

 これ放っておいても死なないんじゃないかね。

 まあいい、そんな感じでレッツゴーだ。

「私が二匹を押さえている間に、他の皆さんで右側の一匹を集中的にお願いします。回復は以前の打ち合わせの通り、こちらでちゃんと受け持ちますので」

 魔道貴族を火力に注力させることができれば、内一匹を叩くことは可能だろう。他にメンバーも居るし、彼らにはオッサンのサポートにまわって貰う。その間、こちらは二匹の意識が彼らへ向かないように引き付ける訳だ。

 一匹でも倒せれば、自身も彼らもレベルアップしてくれるだろう。

 そして、スキルポイントさえ得られれば、打開策だってドッカンドッカンよ。

 他に案と言えば、いつもどおり初手で全力ファイヤボールすることも可能だ。しかし、倒しきれなかったら反撃は必至。これはワイバーン戦でも経験済みだ。当然、相手がラスボスとなれば、被害は甚大なものとなるだろう。

 我がパーティーのモットーは安全第一であるからして、今回、少なくとも一匹を打倒するまでは封印だ。持ち家は大切だけれど、今この瞬間を共にするパーティーだって、きっと同じくらい大切なんだ。

 俺みたいなオッサンの言うことを聞いてここまで来てくれたんだしな。

 おけ、おけ。

 なんかゲームのボス戦でも攻略しているみたいでテンション上がってきた。

 ちなみに皆々のHPとMPが全回復な理由は、一重にラスボス前の支度が所以だ。赤いやつとか、青いやつとか、事前に艦橋でポーションをがぶ飲みした次第である。一本、幾らくらいするんだろうな。値段を尋ねるのが怖い。

「貴様、まさか戦うのか?」

「難しいですかね?」

 今回ばかりは流石のオッサンもビビって思える。

 やっぱり逃げた方が良いだろうか。

 けれど、全員が五体満足で逃げ切れるとも思えない。

「私としては逃げるより打倒する方が損害も少なく収まると思うんですが」

 真っ直ぐに相手の目を見て提案する。

 相手もまたこちらをジッと見返してくるから、ちょっと恥ずかしい。

 だって緊張しちゃうじゃんよ。オッサン、中年だけどイケメンだし。

「…………」

「…………」

 魔道貴族は数瞬ばかり悩む素振りを見せた。

 しかし、最終的にはこちらの提案に頷いてくれた。

「……分かった」

「大丈夫ですか?」

「大丈夫? 当然だろうっ! この魔道貴族に不可能の二文字はない」

「ありがとうございます」

 かなり混乱して思えるけど、大丈夫だろうか。

 いやいや、今は気にしても仕方ない。

 こんなことならお酒の一杯でも飲んでおくんだった。

「では、行きましょうっ!」

 つい今し方にゲットした魔法を使って空へ飛び立つ俺カッコイイ。地面を蹴って、勢い良く宙へと舞い上がる。周囲の光景が瞬く間に後ろへと流れてゆく。

 そのままドラゴンニ体の只中へ特攻だ。夜中、ベッドに横となり照明を消した後で、耳の周りにブンブンと飛び回ってくれる蚊のように、相手の意識をこちらへ向けるのだ。

 一発でも受けたらゲームオーバーな感じが、色々と堪らない。



◇◆◇



 エンカウントからの戦闘開始。

 飛行魔法のおかげで初手確殺の他にやりようが増えたのは嬉しい。しかしながら、紙装甲は相変わらずで如何ともし難い。せめて一撃は耐えたいところ。

「っ……」

 早々、二匹からこちらにアプローチ。

 一匹は巨大な尻尾を横薙ぎに振るってきた。高度を上げてこれを交わす。通り過ぎた尾は、ブォン、地面を震わせるほどの音を立てて足下を通り過ぎる。

 間髪置かず、もう一匹が翼を上から下へ叩き付けてきた。これまた大慌て、飛行魔法の恩恵に預かり、紙一重に殴打を回避する。巻き上げられた風には髪がはたはたと。

 以後、似たようなやり取りが幾度と無く続く。

 二匹のレッドドラゴンから目の敵とされる。

「っ……」

 割と本格的にヤバい。

 長くは続かないとは当人が一番に理解出来る。

 辛うじて避けてはいるけれど、この飛行魔法、かなり酔っ払う。まるでジェットコースターにでも搭乗したよう。思うとおりに動いて嬉しい反面、なんかこう、全力でゲロりたいんだけど、どうしよう。

 船酔いにグロッキーだった金髪ロリータの気持ちを、心の底から理解した気分だ。気持ち悪い。気持ち悪い。リンフの街では無理をさせて申し訳ありませんエステルちゃん。今なら君に頭を下げるのも吝かでなし。

 などと今後の行く末に危惧していたところだ。

 魔道貴族が一発、気持ち良いのを放った、

「人が導く魔道の奥義を喰らえいっ、シャイニングウィザードォ!」

 当人の足下に浮かび上がる魔法陣が、果てしなくカッコイイ。

 シャイニングウィザード、カッコイイ。

 俺も叫びたい。

 日本人的にはプロレス技を想像するのだけれど、こちらの世界ではビームっぽい。

 なによりも演出がイカしてる。

 打ち出されたのは光の煌めき。

 極太い光の帯が、彼の正面に現れた円形の魔法陣の中央から放たれる。色白く光り輝いては浮かび上がる幾何学図形の法線方向、その中央から打ち出された一撃がレッドドラゴンの胸元を捕らえた。

 直撃だった。

 ギャース、耳喧しい悲鳴が辺り一帯に響き渡る。

 これを受けては残る一体も咄嗟に距離をおいて様子を窺う。

 どうよ、どうなったよ。

 確認するにはステータスウィンドウさんが確実だ。

 サーチである。



名前:ジョン
性別:男
種族:レッドドラゴン
レベル:267
ジョブ:ニート
HP:3800/312610
MP:81700/81705
STR:27900
VIT:15962
DEX:9952
AGI:21522
INT:32500
LUC:10363



 ジョーン! 死んでない!

 しかし、それでも九割を削っているぞ魔道貴族。凄いぞ魔道貴族。彼がレッドドラゴンの討伐を快諾したのも納得の威力だ。

 相手はこれに怒り心頭の様子、一撃を放ったオッサンへ向けて突き進む。

 ともすれば、これを受け止めるのは前衛を勤める俺の責務だ。

「うっぉおおおおおおおおおおおお!」

 ヤケクソ気味に叫びながら、迫るドラゴンと迫られる魔道貴族の間へ乱入。

 対象の頭部へドロップキックをお見舞いである。クロスさせた両手を胸元へ沿えて、なんかちょっとハイソな感じのアタック。ポイントを振り過ぎた飛行魔法のおかげだろうか。景気良くズドンといった。

 自分の身の丈を越えるドラゴンの巨大な頭部へヒット。渾身の一撃を受けて、巨漢は大きく飛んだ。頬へグーパンでも喰らった苛められっ子のよう、もんどりを打ってのこと。山肌をかなりの距離に渡り転がってゆく。

 凄いぞ飛行魔法。やったぞレベル五十五。



名前:ジョン
性別:男
種族:レッドドラゴン
レベル:267
ジョブ:ニート
HP:3122/312610
MP:81700/81705
STR:27900
VIT:15962
DEX:9952
AGI:21522
INT:32500
LUC:10363



 しかし、与えたダメージは微々たるもの。

 むしろ吹っ飛ばせただけ御の字か。

 やはり我々には魔法しかないようだ。

 物理で殴ってもドラゴンは倒せない。

「ファーレンさん! 今のをもう一発お願いしますっ!」

「くっ、無茶を言ってくれるっ……」


名前:グレモリア・ファーレン
性別:男
種族:人間
レベル:80
ジョブ:魔道士
HP:31850/31850
MP:0/20850
STR:1300
VIT:4958
DEX:19821
AGI:1030
INT:41942
LUC:3291


 おぉう、確かに無茶ぶり。

 確認してみれば、魔道貴族のMPはもうゼロだ。

 今し方の一発は全身全霊を賭けた渾身の一撃であったよう。恐らく自身の魔力全てを代償として敵一体に超弩級のダメージ、云々、そういった類いの説明が与えられる魔法に違いない。だからこそ対象が二匹であることに狼狽したのだろう。

 それでも次弾を無理だと訴えないあたり、魔道貴族のプライドは伊達じゃない。

 すげぇカッコイイ。

 であれば、次は俺が格好付ける番だ。

「当面は私の方で対応します。ファーレンさんは次に向けて魔力を回復して下さい」

「待てっ! 幾ら貴様とは言えニ体を相手取りながらなどっ……」

「もしも私の魔力が尽きたら、次は貴方の番ですよ? 大人しく控えて下さい」

「っ……」

 適当に焚き付けてやると、途端、ニィと良い笑みを浮かべる魔道貴族。

 マジ美丈夫。迸る中年イケメン。

 同じ中年でも俺とはダンチだ。

「なるほど、上等だ。このファーレン、次は必ずや確殺してくれよう」

 土壇場に強い男って同性からしても憧れるよな。カッケェ。

 素直に呟いて引っ込むオッサン。

「ありがとうございます」

 つい先程にも俺は目撃している。ワイバーン戦で消費したMPをポーション的な飲料水で回復している姿を。であれば、今回もまた同アイテムを利用した復帰が可能だろうと考えた次第だ。

 頼むぞポーション。頑張れポーション。

「そこの騎士、私が戻るまでヤツを援護せよ」

 去り際に魔道貴族がメルセデスちゃんに命じる。

 アレンでなく脱糞系女騎士を指定するあたり、彼の審美眼は本物だ。

 彼女の方が彼よりレベルが高く、当然、ステータスも上であるから。

「え? あっ、は、はいっ!」

 貴族対庶民、こんな状況下でも恭しく応じるメルセデスちゃん可愛い。卑屈な態度可愛い。そういうところが大好きだ。地位と金と権力に弱い女の子ってば最高。いつか札束で尻肉を叩きながらバックで犯したい。

 そんな彼女の為にも俺は空を飛ぼう。

 飛行魔法万歳。

 極めればドラゴンも敵じゃないだろ。

 メルセデスちゃんが頷くのを確認して早々、魔道貴族は後方へと引っ込み、ローブの内側に下げた鞄からガラス瓶を取り出す。そして、これが見事に割れて中身を漏らしている事実に愕然だろうか。

 いつの間にやら破損していたよう。

「おいっ! 私は飛行艇へ予備のマジックポーションを探しに行くっ! それまでの間、何としてでも場を持たせるといい! 必ず戻ってくるっ!」

「了解です」

「それとそこの給仕、貴様は私を手伝えっ!」

「は、はいぃぃいいいっ!」

 すたこらさっさ、墜落、半壊した飛行艇へ駆けてゆく二人。

「…………」

 ちょっとヤバそうな気配。

 しかし、敵レッドドラゴンのHPは、残すところ一割以下である。或いはこれならば、チーム乱交でも対応が可能なのではなかろうか。

 そんな俺の思惑が通じたのか、地上のある地点より声が響いた。

「ちょ、ちょっと、こっちを無視しないで貰えるっ!?」

 誰かと言えば、金髪ロリータである。小さな身体に元気一杯、大仰にも叫びながら、自らの足下に大きな魔法陣を描いての訴えである。

 魔法少女っぽくてラブい。

「わ、私だってや、やっ、やってやるんだからっ! 見なさいっ!」

 空に浮かんだ俺に向けて吠えるよう咆吼。

 同時に正面へ掲げた彼女の両手の平から魔法が発射だ。

 虹色に輝く細い光の筋が、幾重にも伸びてドラゴンへと向かい行く。

 まるでマシンガンのよう。

 しかし、相手はこれを正面に受けて尚も前進、赤い鱗に魔法の当たること構わず、火花を散らしながらの特攻。魔法ごと飲み込んでやらんとばかり、彼女へ向けて進み迫る。グパァと大きく開かれた口は、彼女を丸飲みにして余りあるサイズだ。

「っ……」


名前:ジョン
性別:男
種族:レッドドラゴン
レベル:267
ジョブ:ニート
HP:2022/312610
MP:81700/81705
STR:27900
VIT:15962
DEX:9952
AGI:21522
INT:32500
LUC:10363


 残念ながら、割と届いていない金髪ロリータ。

 細いビームが当たる都度、一本あたり一桁から二桁前半ほどHPを減らしている。それも両者が接するまでに対象の耐久力を削りきるには至らない。全身に魔法のシャワーを浴びながらもレッドドラゴンは彼女を目指す。

 やがて、数百発を打ったところで七色の光は打ち止めだ。

 相手を目前まで迎えたところで、金髪ロリータの魔法が静かになる。


名前:エリザベス・フィッツクラレンス
性別:女
種族:サキュバスハーフ
レベル:38
ジョブ:魔道士
HP:4230/4230
MP:0/8100
STR:300
VIT:562
DEX:652
AGI:942
INT:5190
LUC:330


 っていうか、コイツもMPを全部使っちゃってる。

 何故にもう少し後先のことを考えられないのか。ポーションが手元にないって、オッサンが宣言したばかりじゃないですか。とは言え、撃てるときに撃つというのは、強敵相手だと分からないでもない。

 今し方の魔法を三百回ほど打ち込めば、レッドドラゴン大先生も倒せる訳だ。一匹に対して三百人の魔法軍団という攻勢が、凡人対ドラゴンにおいては無難な編成なのだろう。世間の魔法使い人口がどの程度かは知れないが、なんかそれっぽい値だ。

 そう考えると魔道貴族の優秀さが目に付く。

「うぉっ!?」

 残る一匹の尻尾が、ブォン、こちらの胴体を擦るよう右から左へ流れた。

 牽制も段々と辛くなってきた。

 尻尾とか翼とか、たまにブレスとか、普通に攻められている。一発でも当たったら即死だろうからして、まったくもって気が気でない。その上で相手の意識が自分以外へ向かないよう、牧羊犬よろしく動き回っているのだから、しんどい。

 挫けそう。

 っていうか、今ので洩れた。

 おしっこ漏らしちゃったよこの野郎。

「きゃぁあああああああああああ」

 ワイバーン戦に同じく、金髪ロリータが悲鳴を上げた。

 ドラゴンが金髪ロリータを喰わんと迫っている。

「くっ……」

 なんとかしないとならない。大変だ。ヤバいぞ畜生。

 先程に同様、もう一度ドロップキックを行うべく、ジョンの下へ身を飛ばす。しかしながら、残る一匹がやたらと頑張ってくれちゃっている為、どうしても届かない。行く先をガッチリとガードされている。更に尻尾やら翼やらひっきりなしに振るってくれる。

 凄くファイヤーボールしたい。

 しかし、今にそれを飛ばしては味方へ当たりかねない。乱戦の上、かなり忙しく空を飛んでるから、視界がグルグルと回っている。普通に酔う。ジェットコースターに乗りながら矢を射って見事命中とか、そんなの誰だって無理だろう。ホーミングを制御する自信もない。

 でもジョンのヤツを何とかしないとエステルちゃんがピンチだ。

「エステルさんっ! その場から逃げて下さいっ!」

「っ……」

 いよいよ全てを放り出してファイヤボールを連発したくなり始めた頃合のこと。

 今度はゾフィーちゃんが吠えた。

「私もやるですっ!」

 いまいちイラッとする件くだんのですます口調で宣言。

 今まさにエステルちゃんへ迫ったドラゴン目掛けて杖を振りかざす。足下には見覚えのある魔法陣が浮かび上がる。正面に構えられた杖の先から放たれた魔法は、今し方に金髪ロリータが打ち出したものと同様の七色ビーム。

 この魔法、流行ってるのだろうか。

 ただ、金髪ロリータのものより幾らか数が多くて勢いもある。恐らくスキルレベル的なものに関しては、ゾフィーちゃんの方が高いのだろう。単純にINTの値だけ比較すれば、エステルちゃんの方が高いので、間違いないように思う。

 打ち出された大半をその身に受けて、ギャース、ドラゴンが再び吠えた。

 ゴジラ映画でも見ているよう。

 チラリ、対象の意識がゾフィーちゃんへ移る。

「エステルっ!」

 このタイミングでアレン氏が飛び出しては、金髪ロリータを回収だ。お姫様だっこに抱きかかえて、すたこらさっさ。ドラゴンから距離を取る。素晴らしい連携だ。伊達に日々、チームワークを乱交で磨いていない三人である。

 うっ、いくっ! わ、私もいっしょに! あぁん、私も!

 きっとそんなんだ。なんて羨ましい。

「くっ……まだダメですかっ……」


名前:シアン・ビッチ
性別:女
種族:人間
レベル:35
ジョブ:魔道士
HP:6705/6705
MP:0/7300
STR:800
VIT:662
DEX:752
AGI:620
INT:4190
LUC:280


 そして、ゾフィーちゃんもMPゼロだよ。

 結果、ジョンの具合がどうなったかと言えば。


名前:ジョン
性別:男
種族:レッドドラゴン
レベル:267
ジョブ:ニート
HP:722/312610
MP:81700/81705
STR:27900
VIT:15962
DEX:9952
AGI:21522
INT:32500
LUC:10363


 おぉ、なんかちょっとイケそうな感じ。

 魔法の才能は金髪ロリータの方が高いものの、これを運用する技術はゾフィーちゃんの方が上のよう。ステータスを見る限り、将来は逆転の可能性が大だけれど、今々はゾフィーちゃんの方が強いのだろう。

 これは嬉しい誤算というやつ。

 流石のジョンも自身の具合がよろしくないことを感じてだろう、グルルと喉を鳴らしては、周囲を威嚇するよう腰を低く身構える。なんかこう、野良猫みたい。人の気配にビクリ、驚いては前屈姿勢となる野生の気配を感じるぜ。

 警戒の色が如実に浮かんで思える。

 ただ、最後の一手を撃つべき輩がいない。

 誰か残すところ七百二十二を削っておくれ。

 などと願ったところ、これに答えてくれたのが、ヤツだ。

 間髪置かずにガチレズ女騎士の登場だ。

「はぁあああああああっ!」

 黒歴史として残りそうな掛け声と共に、剣を構えて最前線へと飛び出てきた。いや、流石にアンタじゃ無理だろう、思われたところを、けれど、彼女の切っ先は見事にドラゴンの眼球を取らえた。

 大きな跳躍の末、ズブリ、深々と大剣が突き刺さる。

 グォオオオオオオオってな具合にジョンの口からは悲鳴。

 やったか?


名前:ジョン
性別:男
種族:レッドドラゴン
レベル:267
ジョブ:ニート
HP:0/312610
MP:81700/81705
STR:27900
VIT:15962
DEX:9952
AGI:21522
INT:32500
LUC:10363


 おぉ、やったぞ。

 一際大きな悲鳴が響くに応じて、ドスン、巨漢が岩肌へと倒れた。

「まずは一匹、だなっ」

 突き刺した剣を抜き放ち、誰に言うでもなく呟くメルセデスちゃん。

 先程のワイバーンのときも思ったのだけれど、この子、美味しいところを持って行く才能が半端ないな。なんかこう、全力でドラゴンスレイヤーな表情しちゃってるし。ステータスの見えない他の連中にしてみれば、彼女こそヒーローだろ。

「の、残りもやっつけるわよっ!」

 金髪ロリータが残る一匹を睨みつけては吠える。

 MPゼロの分際で偉そうに。

 ただ、そんな彼女の剛胆な振る舞いが、今回は功を奏した。

 仲間がやられたことを確認した残る一匹が、なんと逃げ出したのだ。

 一際大きく炎の息を吐き散らかしたかと思えば、こちらに背を向けてバッサバッサと凄まじい勢いで飛んで行く。山頂の側を目指して、脱兎の如く逃げ出して行く。その速度はといえば、我々が乗ってきた飛空艇さながら。

「な、なんとっ、ドラゴンが逃げて行くとは……」

 滅多でない出来事のようで、メルセデスちゃんが呆然とした様子に呟く。

 戦闘終了のお知らせ。

 どうやら我々の勝利のよう。

 なかなかどうして、良いパーティー戦だったではありませぬか。

 リーダーとして、少し誇らしい気分ですぞ。

「……やりましたね」

 短く呟いては、フワリ、空から地上へ、面々の傍らへと降り立つ俺。

 足の裏に感じるのは、酷く懐かしく思えるズッシリとした大地の感触だ。

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