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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫

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ドラゴン退治 二


 飛空挺に搭乗してから二日目、昼過ぎの出来事である。

「作戦会議ですか?」

「翌日には目的地へ到着する。それまでに話し合うこともあるだろう」

「……確かに」

 そんなやり取りを自室に魔道貴族としたのが小一時間前のこと。

 であれば、皆々を集めて意見交換会でも開こうかと、艦内放送により徴集。船内でも一番に大きなリビング的スペースへと乗組員全員を集めた。ソルジャー業務には直接関係のないソフィアちゃんも一緒だ。

 ソファーに腰掛けては、皆々、飲み物など片手に面を合わせての打ち合わせ。

 思えば魔道貴族を含めたメンバーで一同に集合するのは、これが初めての機会ではなかろうか。ヤツだけ偉そうな地位にいるので、どうしても一人除け者になることが多かったのである。当人もそう意図して気を遣っていた節がある。

 金髪ロリータ?

 ヤツは持ち前のツンデレを発揮して見事に市井連中へ溶け込んでいるぜ。

 根は良いヤツなんだよ。ただただブサイクな中年オヤジが嫌いなだけで。まあ、人の形をしている生き物なら当然だよな。俺だって仮に自分が女となったのなら、ブサイクな中年オヤジを好きになることは絶対にないと思うわ。当然だろ。

「ということで、打倒ドラゴン対策会議を始めます」

 でも早速だけれど、司会進行はブサイクな中年オヤジだ。

 そうだよ。俺だよ。

 ごめんなさい。

 皆々、リビングに勢揃い。足の短いテーブルを囲うよう、ソファーに腰掛けての談義となる。背もたれの付いた三人掛が二つと、ボックスタイプの一人掛が一つ。各々、三人掛の一つにチーム乱交、もう一つに俺と魔道貴族、メルセデスちゃん。そして、残る簡素な一人掛にソフィアちゃんという配置だ。

「まずは当日のフォーメーションに関してです」

 早速説明に入ろう。

 あらかじめ脳内に想定していたシーンを共有だ。

 とは言ってもネトゲのボス攻略ほどの情報量もない些末な説明となる。

「前衛にアレンさんとメルセデスさん、これを後衛の私とファーレンさん、エステルさん、ゾフィーさんが支える形を取ります」

 本当、これだけである。

「後衛の担当分担は、私が回復及び補助周りを担当します。ファーレンさんとエステルさん、ゾフィーさんは火力を担当して下さい」

 ロリビッチ二名はどうだか知らないが、魔道貴族の方はそれなりに使える筈だ。

 今回は色々と頑張って貰おう。

「前衛のお二人はドラゴンの意識を引き付けることに注力して下さい。攻勢に出る必要はありませんので、安全第一でお願いします」

「ちょ、ちょっと待てっ!」

 メルセデスちゃんが挙手。

 ただでさえ具合の良くない顔色を、殊更に青くして口を開いた。

「幾ら何でもレッドドラゴンを相手に前衛を務めるなど、そのような大役はっ……」

 魔道貴族の手前、あまり強く出られないよう。

 よりによって彼女の隣には魔道貴族が腰掛けている。

 それでも嫌な仕事は嫌なのか、必死の形相に忌憚ない意見をありがとう。

 ドラゴンってそんなにヤバいのかい。

「腕や足くらいなら、失ってもすぐに生やせますので安心してください」

 実績あるし。

「しかしっ!」

 食い下がるメルセデスちゃん。

 それとなくアレンを眺めてみれば、彼もまた視線を足下に落として元気がない。こっちは金髪ロリータのお守りという大切な役割がある為、表立って何か言うことは叶わないよう。ただ、できれば参加したくない感は窺える。

 だがしかし、ここで諦める訳にはいかない。ドラゴン退治が成されなければ、我が持ち家は債務の抵当として、どこかの誰かに奪われてしまう。それだけは阻止しなければならない。これを実現する為ならば、ドラゴンの一匹や二匹、絶対に仕留めてみせよう。

「メルセデスさん、貴方の仰ることは十分に理解しています」

「ならばっ!」

 チラリ、チラリ、魔道貴族へ視線を遣りながら縋るように女騎士。

「しかしながら、これは国の一大事です。国王の愛を一身に受ける王女殿下が、今まさに逝こうとしている。家族を失った悲しみから、行く先を誤る権力者など、史実を紐解けばごまんと確認できるでしょう」

 そんな彼女を下げる為にも、ツラツラとあること無いこと適当に喋る。

「もちろん誰もがそうだとは言いません。しかしながら、有り得ないとも言い切れません。故に彼の国で生きる我々にとって、今回のドラゴン討伐とは、国の行く末を担う聖戦と称しても過言ではないのです」

「そ、その発言は王への不敬に価あたいするのではないかっ!?」

 必至の形相に訴えるメルセデスちゃん可愛い。

 そんな彼女に語ってやる。

「であれば私はその罰を、王女殿下の病を治してから償うとしましょう」

 ジロリ、真面目フェイスに見つめて。

「所属の騎士団でも、直訴でも、好きなところへ告げて下さって結構です」

「っ……」

 相手はグゥの音も出ない。

 マジ決まった。俺、格好いい。

 うわべだけは。

「苦労も甚だしいとは思います。ですが、どうか皆さんの力を貸して下さい。私一人では不可能なミッションです。皆さんとの信頼こそが、今回のドラゴン退治を達成する為の要なのです。皆が皆、誰一人欠けることなく、ドラゴンスレイヤーでなければ、この任務は達成することが出来ないのです」

 街の幼女が言ってた。

 俺は幼女を信じるよ。

 ロリコンだから。

 巨乳も好きだけど。

「……貴様は昨日、あの魔力の奔流を受けて、何も感じなかったのか?」

 不意に魔道貴族が口を開いた。

 その視線が向かう先は隣に腰掛けたメルセデスちゃん。

 おかげで彼女は震え上がる。ビビりまくり。

「も、申し訳ありません。奔流とは……」

「こうした場を考慮してだろう。この者が昨日、あれほど盛大に証を立てて見せたではないか。だと言うに、貴様はその片鱗すら感じることができなかったのか? これだから魔道を理解しない者は下らない」

 この者、と語るに際しては、チラリ、こちらに視線が向けられる。

 どうやら俺を指しての話らしい。

「っ……ま、まことに申し訳ありませんっ!」

 大慌て、ソファーから腰を下ろし、その場に土下座を決めるメルセデスちゃん。

 コスコスと存分に額をカーペットへ擦り付けている。

 オデコ広がりそう。

 どんだけ貴族が怖いんだよ。

 とは言え、魔道貴族の言っていることも意味不明だ。盛大に証を立てたとは、如何様な実績に基づくお話か。意味が分からない。まあ、今この場に追及しても碌なことにはならないと思われるので、適当に済ますが良い。

「まあまあファーレンさん。仲良くやりましょう。機会は幾らでもあります」

「……ふんっ、いいだろう。この者の顔を立てて今回は不問に付す」

「あ、ありがとうございますっ!」

 額どころか続く頭髪まで擦り付けるようにして、土下座仕様のメルセデスちゃん。

 命拾いしたとい言わんばかり、取繕う余裕もなく涙目を晒している。

 俺も貴族になったら、こんなふうに傅いて貰えるんだろうか。ふと想像したところで、おいおい、かなり悪くないぞ貴族。いいな貴族。ムチムチ美女の土下座とか最高だろ。いつか若返りの秘薬を完成させたのなら、次なる目標に据えても良いかも知れない。

 目指せ公爵、みたいな。

「ということで、簡単な共有となりましたが、私からは以上です」

 一同をぐるり見渡して続ける。

「何か質問はありますか?」

 尋ねたところ、早々に金髪ロリータから声が上がった。

 アレンと仲直りした為だろう。随分と機嫌が良い。

 また、少なからず船旅にも慣れたのか、顔色も多少は改善して思える。

「もう少し具体的な作戦はないの?」

「……そうですね」

 非処女の癖に痛いところを突いてくるじゃないか。

 そんなもんねぇスよ。

 当たって砕けろ、後は野となれ山となれだ。

 だって、レベルMAXの回復魔法と魔道貴族オッサン、それに前衛が二人も居れば、まあ何とかなるだろうとか思うじゃん。メルセデスちゃんだってレベル三十五とか、そこそこ強かった気がするし。牢屋を脱出するときは憲兵相手に無双してたし。

「大切なのは位置取りじゃないですかね」

「位置取り?」

 なので適当を語って場を凌ごう。

 学生時代、存分にハマったネトゲの大型ボス攻略をそのまま引っ張り出す。

「私もあまり詳しくはありませんが、相手がドラゴンである都合、一番の脅威はブレスです。これを避ける為に十分な空間と、盾として利用できる地面の凹凸、これらを事前に考慮した上で、我々に有利となる位置取りから、必ず先制攻勢を得るのです」

 低レベルのキャラで高レベルMOBを狩るには地形ハメ最強伝説。

 むしろ地形ハメができないネトゲは糞ゲーと相場が決まっている。

 誰が決めた。俺が決めた。今決めた。

「そして、初撃で如何にダメージを与えるか、これが非常に重要となります。可能であれば翼を奪いたいところですね。我々の求めるところは打倒でなく肝の回収ですので、可能な限り移動を制限すべきです」

「ふぅん? 多少は考えているのね」

「その際、初撃は可能であればファーレンさんに担当して頂きたいのですが……」

 それとなく魔道貴族へ話題をパスして駄目出し。

 これで逆らうヤツはゼロだろ。

「構わぬ。元よりそのつもりだ」

「ありがとうございます。では、そのような形で進められたらと」

 おうけい。完璧だ。

 良い感じにだまくらかしたぜ。

「リチャードの娘よ、今の話を良く覚えておくと良い」

「どういうことでしょうか? ファーレン卿」

「人の身にドラゴンへ挑むというのであれば、この者が語ったところは非常に的を射たものだ。今後、実地で魔道を極めようと考えているのであれば、この旅は貴様にとって掛け替えのない経験となるだろう」

「……はい。ご助言をありがとうございます」

 神妙な表情で頷く金髪ロリータ。

 そう言えばコイツはオッサンの学校の生徒だった。

 ツンデレらしからぬ振る舞いは、少なからず尊敬している証だろう。

 しかしまあ、随分とヨイショされた。

 素直に口から出任せですごめんなさい、謝りたいところだけれど、今は誤解が理由でパーティーの結束が高まりゆくのを感じる。敢えてこれを崩すこともない。っていうか、マジでチョロいな魔道貴族。便利キャラ過ぎるだろ。

「存分に学ぶと良い」

「はい、分かりました」

 しかし、メルセデスちゃんに対するとは、扱いの差が雲泥だ。彼女が未だに彼の正面で土下座を決めているに対して、金髪ロリータには親身となり進路を示して見せる。相変わらず魔道一本、ブレないオッサンである。

「では、他に質問がある方は……」

 今一度、皆々へ意識を向ける。

 すると今度はソフィアちゃんが、おずおずといった調子で手を上げた。

「いかがしましたか?」

「あの……わ、私も参加するのでしょうか?」

 尤もな質問だ。

「戦闘を指しての話であれば、それは否です。ソフィアさんには行き来の間で給仕としてのお仕事をお願いする限りです。ですので、現地に到着以後は、この船でお留守番をお願いします。これもまた大切な仕事ですね」

「あ、は、はいっ! 分かりましたっ!」

 スッゲェ嬉しそうな表情で頷くソフィアちゃんゲットだぜ。

 俺でも彼女に笑みを与えることが出来るんだ。

 下らないことに達成感を得た。

「ところで、その点に関しては私もファーレンさんに一つ質問があるのですが……」

 それとなく口上を続けながら、魔道貴族へと向き直る。

「どうした?」

「この飛空挺の着陸予定地というのはどのあたりになりますか?」

「ペペ山の麓にある町へ留める予定だ」

「なるほど、そこから先は馬車なり徒歩なりということですか」

「うむ」

 流石にドラゴンの出没地域へ直接乗り込むようなことはしないらしい。

 そりゃそうだ。船上戦などやって、万が一にも船が壊れたら困るよな。

「レッドドラゴンはペペ山の河口付近に生息している。近隣においては生態系の頂点に立つ存在だ。また、これより標高を多少ばかり落として、他にフレアワイバーンやサラマンダーといった魔物が生息する」

「なるほど」

 ファンタジー用語の連発でちょっと背筋にブツブツが湧いた。

 会社の会議でゲームの攻略本を真顔に朗読されるような感じ。

 たまらんね。

「であれば、それらへの対応も考えた方が良さそ……」

 魔道貴族の言葉に司会進行を続けるべく口を開く、そんな瞬間だった。

 ズズゥン、低い音が響いたかと思えば、不意にリビング全体が、激しく上下左右、グラグラと揺れた。

 マグニチュード七とか八とか、そういうレベルで揺れた。

「うぉおおおおっ!?」

 思わず悲鳴が洩れる。

 俺の他も例外なく、誰もが酷く驚いた様子で、声を上げていた。

 何かしら問題が起こったのは間違いないだろう。

 一同、激しい揺れの只中を這うようにして甲板へと急いだ。



◇◆◇



「フ、フレアワイバーンの群れだとっ!?」

 外へ出て早々、魔道貴族が吠えた。

 一同の見つめる先、我々が搭乗する飛空挺の周囲には、なにやら羽の生えたドラゴンっぽい生き物が浮かび、こちらを威嚇するよう構えていた。中には体当たりをかましてくれる個体もいて、これが今し方の振動へと繋がっているようだった。

「……もしかして、ヤバいですかね?」

 もしかしなくてもヤバい気がするけれど。

 一匹一匹が翼幅で七、八メートル前後の巨漢である。パッと見た感じ普通にドラゴンしてる。そんな連中が群れを為して、十数匹ばかりで飛空挺を囲んでいるから、どうしよう。マジどうしよう。

 今にも漏らしそう。っていうか、少し漏らした。

 ティンティンが濡れた下着に包まれて、じんわりと暖かくなっちまった。俺は知っている。コイツはすぐに冷えて冷たくなるのが最高に不快なんだよ。洩れた尿を暖かいまま保つソリューションが切に求められるファンタジーの修羅場だ。

「これは不味いな。飛行用に張った風魔法の結界では、ワイバーンのブレスや体当たりをやり過ごすほどの出力はない。この数に攻められては、為す術もなく簡単に破壊、墜落してしまうだろう」

「ひ、ひぃっ……」

「そんなぁっ……」

 オッサンが呟くに応じて、メルセデスちゃんとソフィアちゃんから悲鳴。

 メンタル弱い組の胃がマッハだ。

 致し方なし、ここは俺とオッサンが出るしかあるまい。

「ファーレンさん、すみませんが一緒によろしいですか?」

「うむ、言われずとも出るに決まっておろう」

 なんて頼もしいオッサンだ。

 もしも俺が女だったら惚れてたな。間違いない。

 他の面々を甲板と船内との合間に残して、歩み早に艦首の側へ移動する。

 数十畳ばかりの開けた空間で、空に浮かぶワイバーン一同へ向き直る。

 エンカウントからの、バトルスタートな予感。

 ところで、コイツら、ステータスはどんなもんだ?



名前:フランシスカ
性別:女
種族:フレアワイバーン
レベル:66
ジョブ:主婦
HP:10009/10609
MP:1200/2305
STR:8500
VIT:5662
DEX:4752
AGI:19942
INT:3490
LUC:2360



名前:ミシェル
性別:女
種族:フレアワイバーン
レベル:62
ジョブ:主婦
HP:8009/9609
MP:2001/2525
STR:7900
VIT:5062
DEX:5252
AGI:18900
INT:4182
LUC:2060



名前:レイチェル
性別:女
種族:フレアワイバーン
レベル:67
ジョブ:家事手伝い
HP:11800/12610
MP:1700/1705
STR:7900
VIT:5962
DEX:3952
AGI:15220
INT:2500
LUC:1363



 マジかよ。ハイオークとドッコイじゃないか。

 素早さが二倍程度で、代わりに耐久力が半分、他はINTとSTRが幾分か高い感じ。要はあれだ、当てれば一発で倒せるけど、初撃を外すと手痛い反撃を喰らうタイプの敵である。ラスダンとかに出現して、レベルの低いプレイヤーの回復アイテムを消耗させる、低レベルクリアに情熱を注ぐユーザから目の敵にされるタイプだ。

 っていうか、今の俺で勝てるのだろうか。

名前:タナカ
性別:男
種族:人間
レベル:35
ジョブ:錬金術師
HP:4909/4609
MP:99500000/99500000
STR:375
VIT:560
DEX:852
AGI:442
INT:7922000
LUC:29



 INTとMPばかり突出してミラクル上昇している。

 他もLUC以外は同レベル帯のメルセデスちゃんより幾倍か高い。

 とは言え、今回もヤバいな。

 一発撃沈の気配がビンビンじゃないか。

 だがしかし、絶望することはない。我が魔法は奴らより耐久力のあるハイオークを一撃で仕留めた実績がある。ヤられる前にヤってしまえば、或いは何とかなるかも知れない。っていうか、何とかしないとヤバい。

 こうなったら腹を括ろう。

 全ては持ち家の為だ。マイホームの為だ。

 あぁ、そう考えると、どこからともなく勇気が湧いてくるよ。

 愛しい愛しい我が家よ。

 俺に勇気を下さい。

「完全に船を囲まれていますね。バラバラに行動するのは些か不安ですが、ファーレンさんは後方へ回って下さい。艦首の側は私が担当します!」

「ほぅ、随分と語ってくれるな? こちらの方が数が多い。構わないのか? 貴様の専門は回復魔法だと理解しているつもりだが」

「回復魔法と比べれば可愛いものですが、多少は攻めることも出来ます」

「分かった。では任せるとしよう。お手並み拝見というやつだ」

「ありがとうございます」

「ちょっとっ! わ、私はどうすればいいのっ!? わた、私はっ!」

 ここで金髪ロリータが吠えた。

 船内で震えていれば良いものを、どうやら我々に付いてきたらしい。

 そんな彼女からの訴えに答えたのは、魔道貴族だ。

「貴様はこの者のバックアップだ」

「わ、分かったわっ!」

 即答の金髪ロリータ。尊大な態度が売りの彼女も、同じ貴族が相手とあってか、それとも状況が故か、今に限っては頗る素直に頷いてコクコクと。普段からこんな具合だったら可愛らしいのだけれど。

 まあ、非処女の振る舞いの変化などどうでも良い。

 今はワイバーンだ、ワイバーン。

 すんなりと役割分担が決まったところで、各員、配置へ付く。

 相手も船内から我々が飛び出して来たことで、体当たりによるアプローチを一時停止の上、グルルルルル、なにやら喉など鳴らしつつ、様子を窺い始める。魔物のむれは様子を見ている、みたいな。

 これなんだ? 空飛んでるぜ? 俺たちと同じ?

 奴らの会話が聞こえてきそう。

 であれば、わざわざこの間を逃すこともあるまい。これ以上ティンティンから汁を漏らしては、ズボンの色が変わってしまうではないか。それだけは回避しなければならない。せめてドラゴンの肝を手に入れるまでは守らねばならぬ尊厳だ。

 だからこそ、そう、今は見栄と意地の張りどころ。

「エステルちゃん」

「な、なによっ!?」

「良く見て学んで下さい。学校の授業では教えてくれないことを」

 そこはかとなくセクハラ。

 人生で一度は言ってみたい台詞を消化しつつ、頭上へ右腕を掲げる。

「っ……」

 彼女の見つめる先、生まれたのは数多の火球。

 ハイオークを倒したときより沢山だ。空に浮かぶ船の上、スペースには十分な余裕があるからポコポコと。更にMPだって余裕があるからドンドコと。宙に浮かんだワイバーンに対して、その数倍ほどの数を一息に生み出す。

 レベル上昇に伴うINT向上が故か、個々のサイズも大きくなり一メートル近い。

 良い感じじゃないか。

「なっ……」

 金髪ロリータが息を飲む。

 一緒に俺のザー汁も飲んでくれれば言うことない。

「これが本物のファイヤーボールです」

 俺イケてる。マジでイケてる。

 これで倒しきれなければ次のターンでゲームオーバーだ。

 頼む、頼むぞ俺のファイヤボール。

 お気に入りのファイヤボール。

「ゆけいっ!」

 信じて右手を頭上から正面へ向けて振り下ろす。

 応じて火の玉が勢い良く飛び出してゆく。次々と飛び出してゆく。向かう先にはワイバーンたちが空に浮かんでいる。これを目指して、まるでミサイルのようにホーミングしながら、目にも止まらぬ勢いに。

 当然、相手もまた反応した。

 迫り来る火球を前に動き出す。

 しかし、炎は勢いが乗っており、交わしきれずに次々と着弾。

 炎属性の敵に炎属性の魔法を使うとか、ファンタジー的にアウトじゃないか。思わないでもない。けれど、なんか効いているっぽいのでモーマンタイ。まるで人の手に叩かれた羽虫のよう、身体のあちらこちらを欠損させては、地上へ向けて落下してゆく。

 とはいえ、数が数だ。

 全てを打ち落とし切れるか否か。

 内二、三匹ばかり、元気なヤツが火の玉を交わし続けている。

 おいなんだよコイツ、俺に付いてくるなよ、みたいな。

 かなり早いぞワイバーン。こんなに早く飛ぶのかワイバーン。

 ちょっとヤバそうだ。

「…………」

 冷静なところが金髪ロリータを放って逃げろと囁く。

 しかしながら、今は堪え忍ぶときだと考える。万が一にも金髪ロリータを失っては、アレンの信用も失墜。ドラゴン退治どころの話ではない。魔道貴族だって協力の姿勢を崩すかも知れない。そうなってはパーティーも瓦解だ。

 駄目だ。それだけは許されない。

 故に今は自身のファイヤボールを信じるばかり。

 ファイヤボール最高。

 事実上、メテオストームだ。

 空の上にファイヤボールを沢山作って、それを地上へ向けて降らしたら、きっと、メテオストームとの違いなんて誤差だろ、誤差。どれだけの人間がその違いに気がつけるんだよ。実体だって似たようなもんだよ。

 だから大丈夫。

 きっと今回も大丈夫。

 震えそうになる膝を必至に押さえる。言い訳が脳内をグルグルと。

 だがしかし、信じるところは裏切られた。

「……一匹、残ったか」

 火球を他の個体を盾として防いだ狡賢いヤツが生き残った。

 全てのファイヤボールの存在が失われたことを確認して、そいつは、ギャース、耳喧しい鳴き声を上げると共に、こちらをギロリ睨み付けてきた。どうやらおかんむりのよう。ここで逃げださないあたり、ワイバーンというのは攻撃的な種族なのだろう。

 仲間がやられて最後の一匹になっても戦うとか、どんだけリア充だよ。

「ちょ、ちょっとっ、あれっ!」

「えぇ。これはまずいですね」

 金髪ロリータのご指摘通り、大慌てでファイヤボールのお替わりを用意。

 しようと思ったところで、敵ワイバーンがこちらへ向けて口を開いた。

 意図するところは流石の俺でも理解がゆく。

「なんてこったっ」

 しかも口の向けられた側は、自分ではなく金髪ロリータである。

 どうやら弱いヤツから狙う作戦のよう。

 賢いぞ、賢すぎるぞワイバーン。

 直進するしか能が無いオーク一同と比較しては雲泥の差だ。

「きゃぁああああああああっ!」

 金髪ロリータが悲鳴を上げる。

 同時、ワイバーンの口から炎が吹き出された。

 火炎放射である。

 いつだか自衛隊が火炎放射器の取り扱いを動画として公開していたのを見た経験がある。あれを二倍増しに盛ったくらい、とても景気の良い吹きっぷりだった。十メートル近い放射距離を経て、それでも人の数名など容易に飲み込むほど。

 つまり金髪ロリータのピンチだ。

「うぉおおおおおおおおっ!」

 咄嗟に身体が動いた。

 ロリロリなボディーを炎から庇うよう、自らの胸の内に抱く。

 後方にワイバーンをおいて、迫る脅威を己が背中に受ける形だ。

 このままではロリータ諸共、骨すら残らず蒸発してしまう。故に回復魔法を発動だ。二人分まとめて力の限り発動だ。心のダメージこそ癒やせなかったけれど、こと肉体が相手であれば、向かうところ敵無しの最強魔法でありますぞ。

 昨晩にも確認した、いわゆる持続型ってヤツだ。

「うっ、ぐっ、な、なんだこの感じ……」

 背中が焼かれる。

 だが、焼かれた途端に癒やされる。

 その繰り返し。

 与えられる炎は延々と。

 おかげで俺の背中の肉も焦げて癒やされて焦げて癒やされて焦げて癒やされて。回復アイテムの連打でボス敵の超絶与ダメに耐える肉壁の気持ちを今まさに理解だ。

 肉の焼ける嫌な匂いがあたりに漂い始める。それが自分の身体から昇っていると思うと、ちょっと吐きそうだ。ライターに髪の毛を焦がした程度とは比較にならない。

 唯一の救いはそこまで痛くないことか。とは言え、決して無痛という訳でもない。ジクジクと疼いて無性に気持悪い感じ。そう長く我慢したいとは思わない。

「ちょ、ちょっとっ、アンタっ!」

 金髪ロリータが俺を見て、酷く驚いた様子に吠える。

「しばらく我慢して下さい。相手も長らく吐き続けることは困難でしょう」

「それどころじゃないでしょっ!? ほ、炎がっ! 背中が焼けてっ!」

「我が家の風呂よりは幾分かぬるいですね。それよりも貴方こそ平気ですか?」

「なっ……」

「その可愛らしい顔に火傷の跡など残しては、アレンさんに怒られてしまいますからね。大丈夫です。必ず守って見せます。頼りないかとは思いますが、どうか私を信じて下さい」

 苦笑いに語ってみせる俺、今この瞬間、気分だけはイケメン。

 ここでワイバーン相手に戦意を喪失してしまっては、打倒レッドドラゴンも覚束ない。トカゲ連中に対する評価を下方修正させるべく、平然を装う俺なんて策師。それもこれも持ち家の為だ。我慢だ、我慢。

 すると、そうこうする間に炎が勢いを失った。

 どうやらブレスタイム終了のお知らせ。

 続くところを攻めさせる訳にはいかないので、大慌てに立ち上がる。

 ワイバーンに向き直る。

「あっ……」

 そこで気付いた。

 肉体こそ無事だが、衣服は絶望的だ。背面は焼け落ちて、他もまた炭化して黒焦げ。完全にボロ布の態である。はらり、残る僅かな生地が甲板に落ちれば、今ここに全裸の中年ブサイクが爆誕だ。

 金髪ロリータの目の前で全裸とか最高に興奮するんですけど。

 やばい、勃起しそう。癖になりそう。

「えぇい、くらえいっ!」

 そうした諸々の事情も手伝い、大慌てにファイヤボールを投擲。

 残る一匹も撃ち取ったり。

 ヒューと落下してゆくドラゴンもどき。

 無事に全てのワイバーン打倒を確認する。

 かと思えば、酷く慌てた調子で金髪ロリータから叱咤の声が。

「ちょ、ちょっとっ! これっ!」

「え?」

「せめて前くらい隠しなさいよっ! ま、丸見えじゃないっ!」

「あ、ど、どうも、ありがとうございます」

 金髪ロリータから、何やら衣類が投げられた。

 それは今の今まで彼女が着用していた上着、ローブである。

 今後のドラゴン退治を思えば、立派になった息子を彼女の面前に晒すのはよろしくない。これが復路であったのなら、全てを解き放つもアリだったろう。夢にまで見たオチンチンびろーんへ至る最良の機会。

 本当、なんて惜しいことをしてくれたワイバーン。

 来るなら来るで、こちらの事情を都合して欲しかった。

「これ、いいんですか?」

 中年オヤジの包茎チンポが、白くてフワフワした高そうなお嬢様ローブに付着してしまっても良いのですか。良いのでありますか。激しく動いたりしたら、抜けた陰毛が絡まってしまう可能性だってゼロではありませぬぞ。せぬぞ。

「い、いいから! ははは、は、早く隠しなさいっ!」

 顔を真っ赤にして吠えるエステルちゃん。

 ただ、その目は我が息子を凝視して思える。なんか瞳がギラギラしてる。圧倒的な視線を感じる。更に非処女にあるまじき狼狽具合だ。チンコなどアレンのそれで見慣れたモノだろうに。

 とは言え、これはありがたい申し出だ。ローブを腰巻きにして構わないらしい。こちらとしても非常に助かるので、ここは素直に頷いておくとしよう。確認を取ったところで、ローブを腰布よろしく身体に巻き付ける。

 もさもさした長い毛が敏感なところをサワサワしてくれて、妙な気分だぜ。

 ちょっと気持ちいい。

「ふぅ……」

 溜息などついて人心地。

 一方で金髪ロリータからは息を飲む音が僅かばかり。

「ぁ……」

 やはり先程から彼女の視線を股間に感じる。

 勘違いじゃない。自意識過剰でもない。

 すっげぇ見られてる。

 それが気マズくて、適当にお礼など返して場に平定を。

「あ、あの、お気遣い下さって、どうもありがとうございます」

「だから、べ、別に、構わないと言っているじゃないっ」

 顔を真っ赤にしてプイとそっぽを向く金髪ロリータ可愛い。ずっと眺めていたい。これで非処女なのだから、世の中狂ってるよな。ペロペロしたいわ、ペロペロ。こんな可愛い彼女がいるんだから、アレンのヤツはマジで幸せ者だよな。

 いや、待て、今はそんなこと考えてる場合じゃない。

 まだ全てが終わっていないことを早々に思い起こす。

 船の後方からは未だ争いの音が聞こえて来るのだ。恐らく、魔道貴族は依然として頑張っているのだろう。時折、うぬぅ、みたいなオッサンの暑苦しい呻き声が届けられる。もしかしたら苦戦しているのかも知れない。

 であれば、ここで悠長に休んでいる余裕はない。

「後ろの方が賑やかなので、ちょっと様子を見に行きましょうか」

「わ、分かったわっ! 私も一緒に行くからっ!」

 金髪ロリータを伴い、船の後方へと急いだ。



◇◆◇



 魔道貴族は三匹のワイバーンとバトっていた。

 そして、今まさに内一匹を仕留めたところだった。煌々と冷気を上げる氷柱状の魔法を打ち出して、空に構える一匹を討ち取ったようだ。力を失った対象はそのまま地上へと落下してゆく。

「大丈夫ですかっ!?」

 尋ねたところ、魔道貴族はこちらをチラリ振り返り答えた。

「私を誰だと思っているっ」

「そうでしたね。であれば、私は援護に努めましょうか」

 なにかバリアっぽいのでブレスを防いでいる魔道貴族カッコイイ。魔法陣が正面数メートルの地点、空中にブォンと浮かんで、残る二匹の吐く炎を散らしている。俺もあれが使えれば、背中をこんがりさせずに済んだだろう。

 バサバサとマントがはためいていたりして、その後ろ姿にスーパー憧れる。

「とりあえず回復ですね、回復」

 見ると右肩の付け根辺りに出血が見られるオッサン。

 爪にでも裂かれたのか、数センチほどをザックリだ。手早く回復魔法で治療してやろう。彼の背後数メートルの地点から腕を掲げてマジ癒やし系の俺。みるみるうちに裂傷が塞がり、出血が収まる。

「むっ、相変わらず無詠唱かっ……」

 なんか言ってるけど気にしない。

 そうこうしていると、残る二匹のうち一体が大きく翼を扇いだ。

 かと思えば、同個体はオッサンから距離をおき、飛空挺の下へ潜り込むよう進路を取った。仲間がやられ、敵は増員、流石に敵わんとばかり、逃げ出したのだろうか。俺のところにいた血気盛んな連中とは意識が違うな。ワイバーンにも個体差は当然あるよう。

 ただ、そんな適当な寸感は、早々に裏切られる羽目となった。

 グラリ、大きく船全体が揺れた。

「むっ、ヤツめ、この船を落とすつもりかっ!?」

 即座に状況を判断した魔道貴族が吠えた。

 どうやら逃げ出した訳ではなかったよう。

「なんとっ……」

 賢いじゃないかワイバーン。

 やっぱりオークの比じゃないな。

 しかし、これはどうしたものか。

「ここは任せたっ、私はヤツを追うっ!」

「え、あぁ、はい」

 どうやって? とは尋ねるまもなく、魔道貴族の身体が宙に浮かび上がる。

 スゲェ、飛びやがったこのオッサン。

「やらせてなるものかっ!」

 なにやら熱い台詞を叫んでは、今し方に消えたワイバーンを追い掛けて、飛行船の底へ向かい飛び立っていった。しかし、中年オヤジがスーパーマンさながら、両手を前に飛び立つ姿はシュールだな。思わず笑いそうになったぜ。

「あっ、く、来るっ……」

 俺のすぐ傍ら、金髪ロリータが声を上げた。

 彼女の見つめる先には、前のめりに姿勢を作ったワイバーンだ。

 こちらを敵と認めて、滑空、大きく口を開いて突撃してきた。

「っ……」

 これは不味い。

 あんなデカイヤツの体当たりを受けたら、回復する間もなく潰れて終わりだ。隣の膜無し諸共、一瞬にしてぺしゃんこえある。まだブレスの方がマシである。なんとかして防がなければ。

 そう思ったところで、不意に背後から人の迫る気配。

「騎士の剣を喰らうといいっ!」

 ガチレズ女騎士だ。

 ガチレズ女騎士が助けに来てくれたぞ。

 彼女は俺と金髪ロリータの元へ駆けつけると同時、手にした剣を一閃、ワイバーンの首を切り裂いた。おかげで特攻は向かう先を僅かばかり逸れて、我々は事なきを得る。真横を通り過ぎたワイバーンは、そのまま甲板へと激突した。

 床板に大穴が空いてしまったが、まあ、今は気にしないでおく。

「エステル様、大丈夫ですかっ!?」

 ワイバーンに一撃を食らわせて早々、メルセデスちゃんは金髪ロリータの元へ。

「え、ええ……ありがとう、助かったわ」

「勿体なきお言葉。私は心が震えるようです」

 答えるガチレズ女騎士の眼差しは、性欲に飢えた中年男性のそれ。

 整った顔に二つ並ぶ青く清んだ瞳の奥に、とてもではないが人には言えない濁りがどろり渦巻いているのを俺は知っている。ピンチを助けて、対象を同性愛へ導くべく動いているに違いない。火事場のレズ力、今後とも期待できるものがある。

「ところで、そ、そちらの彼の姿格好は……」

 メルセデスちゃんが俺を顰め面に見つめて問う。

 中年オヤジの腰蓑姿とか、そりゃ相当に不快だろう。

 俺だって不快だ。

「わ、ワイバーンのブレスで衣服が焼かれてしまったのよっ!」

「なるほど……しかし、それはエステル様のローブでは」

「別に構わないわ。ローブの一つや二つ、汚物を目の前に晒されるよりはマシよ」

「……あぁ、なんとおいたわしや」

 そういってやるな、俺だって罪悪感がある。竿や玉へローブの毛がサワサワする度に心がチクチクとするんだ。綺麗に掃除された畳敷きの和室を泥で汚れたブーツに汚すような罪悪感が。癖になったらヤバいタイプである。

「ありがとうございます。どうやら今の一撃で倒したようですね」

 まあまあ、俺の股間の具合はさておいて、状況を確認である。

 どうやらワイバーンは彼女の一撃に絶命したよう。どうやら魔道貴族との戦いで相応に負傷していたらしい。甲板に倒れる体躯のあちらこちらには、氷系の魔法に打ち抜かれたであろう凍傷が見て取れた。

 剣の入った箇所も良く確認すれば鱗に禿が窺える。彼女は彼女で決して破れかぶれに特攻したわけではないよう。的確に弱点を確認した上で、多少なりとも勝算を伴い一撃に臨んだのだろう。流石は聖騎士様だ。

 良いじゃん、良いじゃん。なんかパーティーっぽくて。

「別に貴方の為ではない。エステル様を守る為だ」

「ですから、エステルさんを守って下さりありがとうございます、と」

「っ……」

 ガタリ、隣で金髪ロリータが身を揺らした。

 どうやらワイバーンの衝突で脆くなった床板を片足で踏み抜いたよう。どこか驚いた表情を晒したかと思えば、羞恥からか顔を赤くする。これでなかなか人間味のあるところを見せてくれるようになってきたではないか。

 当初、出会い頭に舌打ちをされた時分と比較すれば段違いだ。

「一つ確認したいのだが、エステルさまとはどういった関係だ?」

「冒険者仲間で、同じ学園に通う同級生でもあります」

「……が、学園の生徒だったのか?」

「なにか思うところがありますか?」

「貴族、だったのか?」

「いいえ? 平民です。入学にはファーレンさんに動いて貰いました」

「…………」

 少しばかり表情を難しくするメルセデスちゃん。

 こちらの身分や背景を推測しているだろうことは想像に難くない。ただ、そう長い時間を黙ることはない。床板を踏み抜いた金髪ロリータが足を引き抜く頃には、以前と変わらず、意識をこちらへ戻して口を開く。

「まあ、お前がそこまで言うのなら、素直に受け取っておくとしよう。とは言え、今は悠長に話をしている状況でもない。詳しいところを確認させて欲しい」

「そうですね」

 大凡、メルセデスちゃんの俺に対する物言いは、職場の同僚といったところ。たまにツンケンしてくれるけれど、問答無用に斬りかかられることはなくなった。彼女もまた出会って当初と比較しては随分と待遇がマシになったものだ。

 一昨日の晩の猥談が二人の距離を縮めてくれたのだろう。

 下品最高。下ネタ愛してる。

「他のワイバーンはどうなったのだ? ファーレン様のお姿が見受けられないが、他にどこか争われているようであれば、助太刀に向かわねばならないだろう」

「彼なら船の底へまわったワイバーンの対応に向かいました」

「なっ、船の底だとっ!?」

 メルセデスちゃんの表情が戦くのと、船が大きく揺れるのとは同時だった。

 先程にも増して大きな揺れが来た。

 震度十はあったな。

 こけちまったよ。

 俺、金髪ロリータ、メルセデスちゃん、共に立っていられず、その場に横転だ。膝やら肘やらを甲板に打付けて、割と痛いことになる。

 ただ、今はそれ以上に気になる船の底の具合だ。あのオッサン、まさかしくったのだろうか。あれだけデカイ口を叩いておいて。

 などと気を揉ませていると、甲板の縁、空との境界に設けられた柵の向こう側から、魔道貴族がふわりと姿を現わした。

 空を飛ぶ姿はだいぶくたびれて思える。

 髪の毛の一部がチリチリと焦げているあたり、ブレスの一発でも吹きかけられたのだろう。そう言えば、回復魔法ってハゲの治療には使えるのかね?

「残る一匹、どうでしたか?」

「う、うむ。倒すことには倒した」

「それは良かった」

 どうやらなんとかなったよう。

「しかしながら、船に損傷を与えられてしまった。制御不能だ」

「え? それじゃあこの飛空挺は……」

「幸い、向かう先は目的地であるペペ山は目前まで迫っている。このまま不時着するとしよう。今の高度であれば山の中腹あたりへ着ける事が可能だ」

 いいや残念、どうにもならなかったよう。

「不時着ですか」

「出力が異常に上がっている。恐らく魔石のコントロールが外れたのだろう」

「な、なるほど……」

 オッサンの言っていることがよく分からない。

 凄く不安だ。

 なにせこの飛空挺、結構な勢いで飛んでいる。

 新幹線に喧嘩を売れるレベル。

 そんなものが胴体着陸するっていうんだからビビるわ。

 ところで、胴体着陸って略すと胴着になってスゲェ空手っぽいよな。

 ちゃんと受け身を取ってくれれば良いのだが。

「着陸まではまだ猶予がありますよね?」

「うむ」

「であれば、一度、皆を集めて情報の共有を行いましょう」

「分かった、そうしよう」

 一難去ってまた一難。

 我々は不時着に備えるべく艦橋へと急いだ。

確変入りました。
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