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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫

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南部諸国 四

田中の発売元となるGCノベルズ様が、コミケ(C93)に出展されるそうです。
本作のグッズも取り扱われるそうで、お手にとって頂けたら幸いでございます。

また、秋葉原の各所でGCノベルズ様のPVが流れております(明日まで)。
UDXの大画面に、MだSたろう先生の超絶美麗イラストが映っております。
(動画の詳細については、twitterでリツイートさせて頂いております)

http://micromagazine.net/gcn/blog/c93winter71025121/
 メイドさんとの攻防から一晩が過ぎて翌日のことである。

「我々と行動を共にしたい?」

「はい、お坊ちゃま」

 朝食の席でメイドさんが坊ちゃまに食いついた。

 ちなみに醤油顔はと言えば、昨日と同様に床の上で食事の最中である。これが普段からゴッゴルちゃんの味わっている風景かと思うと、それはそれで悪い気がしないから、なんとも不思議な心持ちである。

 それでも昨日と違う点があるとすれば、傍らの鳥さん。

『ふぁっ、ふぁぁっ』

 お皿に盛られたオートミールを一生懸命、くちばしで啄いて食べている。

 当初は昨晩に争った相手から出された食事ということもあり、まるで手を付ける気配がなかった。足でお皿の縁を押して遠ざけてみせたほどである。それでもこうして食べ始めたのは、すぐ隣でなんら躊躇なく匙を動かす醤油顔の姿があったからだろう。

 最悪、毒を入れられていたとしても回復魔法でなんとかなる。

 そんな安心感が、危機感より食欲を優先させた形だ。

 ちなみにメニューはブサメンと同じである。容器が浅い上に相手が液状とあって、なかなか苦労していらっしゃる。今晩にでもメイドさんのいないところで、坊っちゃんに食器の形状を変えてもらえるようお願いしておこう。

 ブサメンが本人に直接頼むと、より浅い容器に交換されそうだし。

「それは構わないが、一体どうしたんだ?」

「坊ちゃまをその男と二人きりにするのは不安です」

「……なるほど」

 メイドさんの言葉に坊ちゃまは思案顔となった。

 どこの馬の骨ともしれない中年オヤジに対して、相手は一国の王子様。万が一があった日には、お使えしている彼女も無事では済むまい。昨日の俊敏な動きを思い起こせば、彼女はメイド業の他に護衛も兼ねていたりするのかもしれない。

 思い起こせばいつぞや大聖国でも、攻撃力の高いメイドさんに狙われた覚えがある。その時も存分にお触りして頂いて、逆レイプ一歩手前な感じが最高だった。今後とも危ない香りのするメイドさんには、率先して近づいていきたいと思う。

「分かった。せっかくこうして学園を訪れているのだ、ステラの社会経験を深める意味でも、共に学内を見て回るのは、決して悪いことではないと思う。それによって自身にもまた、これまでになかった物の見方が生まれてくるかもしれない」

「ありがとうございます」

 なんだかんだと理由を考えたがるのは、王族が所以だろうか。

 思慮深い男じゃないの。

「しかし、授業までは共に出席できないが、そこはどうするつもりだ?」

「問題ございません。そこの男の監視に向かわせていただきます」

「……監視?」

 メイドさんの視線と合わせて、坊ちゃまの意識がブサメンに向かう。

「坊ちゃまはその男と生活を共にすることに、あまり危機感を抱いていないようですが、私としましては不安を感じます。勝手なお話となり大変恐縮ではありますが、その男の人となりを知る機会を頂戴できたら嬉しく思います」

「人となりを知る機会、か」

「駄目でしょうか?」

「……分かった。いいだろう」

「ありがとうございます」

 図らずともメイドさんと交流の機会をゲットだぜ。

 異性から求められている感じが堪らない。好意の反対は無関心とか、良く言った言葉である。その根底に害意があったとしても、可愛らしい女の子に肉体言語で挑まれるのは、それはそれで喜ばしいものだ。肌と肌の触れ合いに歓びを感じる。

 しかも、無料。

 一度で良いから、騎乗位で逆レイプされつつ、首をキュッと両手で締められてみたい。首を絞めるとオチンチンがビクビク反応するんだぜ、こいつは堪らねぇな、みたいなことを言われてみたい。太平洋の何処かにそういう島があるってネットで見たもの。

 ほんと逆レイプって最高だよな。

「構わないか? タナカ」

「はい、どうぞよろしくお願い致します」

 坊っちゃんからの問い掛けに粛々と頷く。

 すると、すぐ隣で鳥さんが跳ねた。

『ふぁっ! ふぁっ! ふぁっ!』

 賑やかにもバサバサと羽を羽ばたかせての自己主張。

 もしかして、同行を願っているのだろうか。いやまさか。暗黒大陸の魔物である鳥さんが、我々人間の言葉を理解している筈がない。過去に遭遇した成体とも、碌にコミュニケーションを取ることができなかった。

 それでも一応、醤油顔から坊ちゃまにお問い合わせ。

「メイスフィールド様、彼も一緒でよろしいでしょうか?」

「あぁ、流石に一匹だけ部屋に残しておく訳にもいくまい」

「ありがとうございます」

 なかなか下々にも理解のある王子様だ。

 いい男じゃないですか。

『ふぁっ! ふぁきゅ! ふぁっ!』

 必死に羽をばたつかせる鳥さんを眺めては思う。多分、我々が言葉を交わしているから、自身もまた自己主張しておきたかったのだろう。

 自ずと思い起こされたのはエディタ先生の姿だろうか。

 ドラゴンシティの執務室で打ち合わせなどをしているとき、それまでのお話を聞いていなかった先生がたまに見せる、とりあえず適当に発言して場を取り繕っておこう的な必死さが、鳥さんの姿に重なった。



◇◆◇



【ソフィアちゃん視点】

 その日、執務室に妙なものが運び込まれました。

 ソファーテーブルの上に置かれたそれは、両手に抱えるほどの大きさで作られた、小綺麗な四角い木箱となります。どの辺も同じくらいの長さで、上の一面には人の腕が入るほどの大きさで、丸い穴が空いております。ゴミ箱か何かでしょうか。

「どうだ? これを使ってみようと思う」

 運び込んだのはエルフさんです。

 木箱の正面に立って、自慢気な表情をされています。昨日、お打ち合わせの最中に自室へ戻られたかと思えば、何やら賑やかにしていらっしゃいました。もしかして、こちらを作っていたのでしょうか。

 居合わせた方々から向けられるのは疑問の視線です。

 ちなみに同所には私とエルフさんの他に、エステル様、アレン様、ドラゴンさん、ゴッゴルさん、ゴンザレスさん、ノイマンさん、縦ロール様と従者の方、ファーレン様、アシュレイ様、西の勇者様の姿がございます。

 部屋の中央に設けられたソファーセットを囲う形で、皆さん壁沿いに立っていらっしゃいます。その中央でソファーテーブルの傍らに立つのが、今まさに語ってみせるエルフさんとなります。それなりに広い執務室が、手狭に感じられる人数ですね。

『なんだこれは、貴様の糞壺か? 汚いヤツだな』

 エルフさんからの提案を受けて、一番に反応したのがドラゴンさんです。

 嫌そうな表情で木の箱を見つめていらっしゃいます。

 たしかに腰掛けて用を足すには、ちょうど良い大きさです。ゴンザレスさんやノイマンさんが利用するには少しばかり小さく映りますが、一方で小柄なエルフさんやドラゴンさんにはちょうど良いよう映ります。

「ち、違うっ! そんなんじゃないぞっ!?」

「……痰壺?」

「それも違うっ、っていうか、汚いものじゃない! ほ、本当だぞっ!?」

 ドラゴンさんに続いて、ゴッゴルさんが追い打ちを掛けます。

 おかげで顔を赤くして必死に訴えるエルフさん可愛いです。

 ここ最近、メイドも彼女の性格が分かってきました。出会って当初は冷淡な性格の方だと思っていたのですが、意外とお茶目な面も併せ持っているようです。ただ、そうした振る舞いを見せるのは、距離が近しい相手に限られます。

 より具体的に言うとタナカさん、エルフさん、ドラゴンさんの三人ですね。

「これはヤツの居場所を予想するための道具だ!」

『なんだとっ!?』

 続くご説明を受けて、ドラゴンさんが驚かれました。

 もちろんメイドも驚きました。

 何故ならばそれは、木箱に穴を開けただけのモノにしか見えません。とてもではありませんが、タナカさんを探す出すような機能が付いているとは思えません。中に何か凄いものが納められていたりするのでしょうか。

「だがしかし、これ単体では何の意味もない」

『どういうことだ?』

「そこのメイドの協力が必要だ」

 チラリ、こちらを見つめられたエルフさんと視線が合いました。

 これに釣られて、他の皆様の意識もまたメイドに向かいます。

「おう、そういうことか」

「確かにそれは試してみる価値がありそうね」

 間髪を容れず、ゴンザレスさんが頷かれました。

 エステル様からも同意のお言葉が。

 それとなく部屋に集まった皆さんの表情をお伺いさせて頂くと、誰も彼もがメイドを見つめていらっしゃいます。そのお顔は納得がいったと言わんばかりでございます。他の誰でもない、私自身もまた、なんとなく分かりました。

 しかし、それは幾らなんでも、適当過ぎやしないでしょうか。

「さぁ、この中に手を突っ込むんだ!」

「あ、あの、そちらの中には一体何が……」

 なんとなく理解はしておりますが、一応お伺いを立てさせて頂きます。だってエルフさん、とても聞いて欲しそうなお顔をされていらっしゃいます。どことなくワクワクとした感じが、そのお顔から窺えます。

「私が知っている限り、様々な町や集落の名を記載した木の札が入っている。この中から一つだけ、その手で引き上げて欲しい。そうして貴様の手により引き当てられた札に書かれた場所こそが、ヤツの所在に関係していると考える」

「い、幾らなんでも、流石にそれは無理があるような……」

「ソフィ、貴方ならきっと大丈夫よっ!」

 エステル様、呼び名が以前のそれに戻ってしまっております。

 記憶喪失はよろしかったのでしょうか。

「たしかに過去の実績を思えば悪くない賭けよねぇ?」

 縦ロール様まで、納得された様子で頷かれました。

 流石にこれはちょっと、外れたときのショックが大きい気がするのですけれど、そこのところどうなのでしょう。ガリガリと削られるだろうメイドのメンタルのサポートは、ちゃんと行って頂けるのでしょうか。不安でなりません。

「どうした?」

「いえ、そ、その……」

「なにも一度で当たりを引けるとは考えていない。気軽に引くといい」

「…………」

 そうは言いますがエルフさん、もしもご自身が同じ立場に立たされたら、きっと困ったお顔をされるのではないでしょうか。緊張から頬など引き攣らせて、それでも全身全霊を込めて、鬼気迫る表情で札を引く彼女の姿が容易に想像されます。

 えぇ、そうですね。きっと彼女はそうして、何事にも真正面から、正々堂々と挑まれることでしょう。それは普段から浅ましいことばかり考えているメイド風情には、あまりにも眩しい姿にございます。

 承知いたしました。

 せめて今この瞬間くらい、頑張ってみましょう。

「わ、分かりました。それでは、あの、し、失礼します……」

「一息に引くといい。あ、二つ引いたりしたら駄目だぞ?」

「はい」

 居合わせた皆様の注目の只中、メイドは札を引かせて頂きました。

 恐る恐るといった様子で、手にした札を正面に差し出します。

 するとそこには、どうしたことでしょう。

 その他、との文字が。

「あの、こ、これは……」

 まさかこのような地名があるとは思えません。完全に番外です。周りからも息を呑むような音が聞こえます。メイドは自ずと疑問に口を開きかけました。

 すると間髪を容れず、エルフさんが答えて下さいました。

「効果の程を確認する為に入れておいたのだが、まさか一発で引き当てるとは思わなかった。魔王との一戦であの男の命を救ってみせたのも、決して伊達ではないということだろ。流石はヤツの留守を預かっていないな」

「……え」

「実は札には他に用意があってだな、これからが本番だ」

 そうして語るとともに、エルフさんの腕が動きました。皆様の見つめる先、彼女の手は足元に置かれた革袋をソファーテーブルの上に動かしました。緩んだ口紐から先、ちらりと覗くのは大量の木の札です。

「本命はこの中に入っている」

「な、なるほど……」

 流石はエルフさんです、賢さ炸裂ですね。

 おかげでメイドは脇の下がぐっしょりでございます。

 彼女の手により木箱の中に札が追加されてゆきます。木箱の上面に開いた穴に向けて、革袋の口から木札がガラガラと音を立てて入っていきます。結構な数があるようで、昨晩のエルフさんの努力が忍ばれる光景でしょうか。

 ちなみに文字はわざわざ木札に手で彫られておりました。

 妙なところで凝り性なエルフさんでございます。

「これでよし!」

 全てを入れ終えたところで、再び彼女の視線がこちらへ向かいます。際しては一度腕を突っ込んで、ガラガラと混ぜることも忘れない彼女です。準備は万端だと言わんばかり、キラキラとした眼差しでメイドを見つめて下さいます。

「さぁ、引いてくれ」

「……はい」

 観念して、私は木箱に手を突っ込みました。

 先程と比較して、ずっと中身が詰まっていますね。

 悩んでどうにかなる問題でもないので、ひとおもいに引かせて頂きましょう。違っていても気にするなと、エルフさんも仰ってくださいました。こちらのメイドには、その一言が何よりの救いでございます。

「あの、こ、こちらでお願いします」

 取り出した木札をエルフさんに差し出します。

 その表面には、なにやら名が彫られておりました。

 メイドの貧相な頭には覚えのないものです。

「……グラヌス、か」

 札を目の当たりとしたことで、エルフさんのお顔が渋いものに変わりました。

 もしかして、引いてはいけない札を引いてしまったのでしょうか。大慌てで他の方々の様子を伺います。すると現場の反応は完全に二分されておりました。大半の方々はメイドと同様に疑問の表情でございます。エルフさんの反応を窺ってのことでしょう。

 一方でドラゴンさんと縦ロールの従者の方、あと西の勇者様に限ってしょっぱい顔です。表情を変えられたのが人以外の方、あるいは人以外の方と近しいところで活動している方である点を鑑みるに、何某か魔法的な事柄が絡んでいる気がします。

 もしかして、良くない札を引いてしまったのでしょうか。

「…………」

 なんだかお腹の内側が、シクシクと痛くなってまいりました。



◇◆◇



 朝食を終えた我々は、昨日と同様に学園へ向かった。

 到着して直後、坊ちゃまはその足で教室へ授業に向かい、残るブサメンとメイドさんは中庭までやってきた。先日にもお世話になった寛ぎスペースである。授業時間帯は生徒の姿も教室に消えて、部外者である我々であってもゆっくりできる。

「ここで何をするつもりですか?」

「取り立てて何もするつもりはありません。強いて言えば、彼の羽伸ばしです」

 メイドさんの問いかけに答えて、傍らの鳥さんに視線を向ける。

 見つめられた側は、一体なんだと言わんばかりに首を傾げた。

『ふぁ?』

 籠飼いの鳥であっても、一日に一時間くらいは部屋の中で自由に飛ばせてあげる必要があるとか、ネットで見たことある。人間だってずっと部屋に篭って動かなかったら大変なことになるから、多分、そういうことじゃないかと考えている。

 ただ、鳥さんはこちらを見上げるばかりで、一向に飛び立つ気配がない。もしかして飛べない子だったりするのだろうか。思い起こせば、出会ってから本日まで一度も、彼が空を舞う姿を見ていない。

 ちょっと心配になってきたかも。

「……念のために確認しますが、その鳥は何なのですか?」

「さて、なんでしょうね」

 まさか素直に答える訳にはいかない。

 下手をしたら成鳥を待たずに焼鳥の刑だ。

 いつぞや西の勇者様は、その羽で首都カリスに豪邸が建つとも言っていた。

「私の召喚魔法は亜流でして、その辺りが非常に適当なのですよ」

「そんな危険な魔法を坊ちゃまの前で使ったのですか?」

「学内におけるメイスフィールド様の名誉を優先いたしました」

「…………」

 昨晩の一件も手伝い、想像した以上に鳥さんのことを大切に思っている自分に気づく。三十過ぎてペットを飼い始めるとヤバイと言われる理由を、なんとなく理解したかもしれない。会社の同僚も、彼女と分かれて猫を飼い始めてから、段々と変わっていった。

 なんて危険なんだペット。危ういぜ飼育。

 どうか距離感を誤らないように接していきたい。

「どうしたのですか? 妙な顔で使い魔を眺めて」

「いえ、お気遣いなく」

「気遣ってなどいません」

「おっと、それは失礼」

 一方でメイドさんのトークのなんと軽快なこと。

 おかげで遠慮なくレイプしたい。ゴッゴルちゃんとの被虐トークで抜かれた雄としての牙が、再びニョキニョキと生え来るのを感じる。雄はそうであらねばと、息子もズボンの中で存分に訴えている。

「ところで、私のことばかり話していても面白くはないでしょう。もしよろしければ、ステラさんのことをお聞かせ願えませんか? メイスフィールド様とは並々ならぬご関係のようにお見受けいたしましたが」

 坊っちゃんからはステラと呼ばれていた。

 それくらいしか、醤油顔はこちらのメイドさんのことを知らない。

「……それを聞いてどうするつもりですか?」

「私としましては、従者でいらっしゃるステラさんも含めて、メイスフィールド様とは円満に過ごしてゆきたいと考えております。差し支えなければ、互いの相互理解のためにも会話の場を設けさせて頂きたいなと」

「…………」

 信用のしの字すら得られていない現状、彼女からの視線は厳しいものだ。

 出会って当初のエステルちゃんを彷彿とさせる。

「ということで、いかがでしょうか?」

「メイドと主人、それ以上でもそれ以下でもありません」

「なるほど」

 想像したとおり突っ慳貪なお返事が返ってきた。ちょっと寂しい。

 ブサメン的には、膜の具合など教えて頂けたら非常に嬉しい。やっぱり既に坊ちゃまによって攻略されてしまっているのだろうか。可能性は高い。だがしかし、それでも決してゼロではない膜の存在に、童貞はコミットしたい。

「お二人はかなり親密な間柄にあるとお見受けいたします。もしよろしければ、仮に坊ちゃまが召喚魔法を手に入れたとして、どのように問題を解決されようとしているのか、ご存知であればお伺いしたく思います」

「……そこまで聞いているのですか?」

「はい、ご本人からお伺いしました」

「…………」

 昨日の一件を素直にお伝えさせて頂く。如何に力を手に入れたからといって、無条件に近隣諸国が従うとは思えない。それ相応の成果を伴ってこその抑止力である。大型のドラゴンなどゲットできれば話は早いのだろうが、そう簡単にもいくまい。

 ヌイのように、見た目かわいい癖にやたらと強い生き物もいる。

 今後の状況如何によっては、再び坊ちゃまから召喚魔法を乞われることもあるだろう。そうなったとき、果たして彼はどのような進展を望むのか。今のうちに確認しておきたいという思いは少なからずある。

 そんな共通の話題はどうだろう。

「貴方にそれだけの力があるとでも?」

「いえいえ、ちょっとした興味でございます」

「ならば答える必要はありませんね」

「…………」

 まあ、そうですよね。

 彼女とのコミュニケーションはなかなか大変そうだ。だからこそ、そんなメイドさんからベタ惚れされている坊ちゃま羨ましい。自分もこんなふうに、自分だけにぞっこんラブしてくれる可愛いロリメイドが欲しかった。

 そういえば、ふと気づいた。

 彼女ってどれくらいお強いのだろう。

 ここ最近、身の回りでステータスがインフレしている為、鳥さんのステータスについても、そこまで気にせずにいた。しかしながら、冷静に考えてみれば、これでハイオーク並のものをお持ちである。

 そんな彼から体当たりを受けて平然としていた彼女の実態や如何に。

 一応、確認しておこう。



名前:ステラ
性別:女
種族:人間
レベル:54
ジョブ:メイド
HP:16200/16200
MP:5400/5400
STR:7201
VIT:6900
DEX:6229
AGI:10010
INT:6302
LUC:59



 なるほど、ダークムチムチの下位互換といったところか。

 そうなると昨晩は、少なからずダメージを受けていたことと思われる。それでなおも平然を装い部屋を去ろうとした彼女の根性は本物だろう。そういう芯の強い女の子、凄く可愛いと思います。良いお嫁さんになってくれそうだもの。

「凝視しないで下さい。気色悪いです」

「あぁ、申し訳ありません。あまりにも貴方が可愛らしくて」

「反吐が出ます」

「…………」

 反吐まで美味しく頂く自信がある。

 しかしながら、終始このままというのはよろしくない。どうにかして仲良くなれないものか。数日に渡って敵意ばかり向けられていると、やっぱり好意が恋しくなる。人間とは贅沢な生き物だ。

『ふぁっ』

 そうこうしていると、傍らで鳥さんに動きがあった。

 ベンチの上から地面に飛び降りて、何やらひょこひょこと歩き出したぞ。その足が向かう先は、中庭の中央に植えられた樹木と思われる。どう足掻いても翼を使おうとしないスタイルには、召喚主として流石に不安を覚える。

 ふっくらとした丸っこい身体がえっちらおっちら歩く姿のなんと愛らしいこと。

「どうしたんですか?」

『ふぁっ!』

 ややあって、立ち止まった彼の足元には木の実がコロリ。

 これを翼の先で指し示しては鳴いた。

 少しばかり距離があるので、細かい部分までは分からない。パッと見た感じ、どんぐりのような雰囲気。大きさは親指の先ほど。

「その木の実がどうかしたんですか?」

『ふぁふぁぁ……』

 おもむろに彼のくちばしが動いた。

 地面に落ちたそれをつまみ上げて、頭上へ持ち上げると共にゴクリ、飲み込んでしまったではないか。彼の野生根性を否定するつもりはないが、ペットはペットフードで育てるものだと意識付けられた現代人からすると、些か不安になる行いだ。

 お腹とか壊したら大変じゃない。

「……食べられるのですか?」

『ふぁぁー』

 すると、なにやらご満悦である。もしかして美味しいのだろうか。

 そういうことなら、醤油顔もつまみ食いすることに吝かではない。

「森人の木になる実です。呼び方は地域によって様々だそうです。グリフォンやガルーダといった比較的大きな鳥類が好むと言われています。とはいえ貴方の召喚獣は、見たところそう大した種には思えませんが」

「なるほど」

 醤油顔の召喚魔法を鳥さんごとディスりたくてのご説明だろう。

 ありがとうございます。

 こと大きさで競うなら、彼ほど大きく育つ鳥類は滅多にいないように思われる。今でこそふわふわのもこもこで、サッカーボールほどしかない。しかしながら、これが育つとドラゴンすら圧倒するのだから、世の中分からないものである。

「フェニックスもまたこれを好むと言われています。何でも森人の木の実を大量に用意して、成体のフェニックスを巣から他所へおびき寄せ、その間に卵や羽を盗むのだそうです。一節によれば、人間には感じられない独自の匂いを発しているのだとか」

「それはまた面白いお話ですね」

 もしかしたら、暗黒大陸で出会った西の勇者様も、森人の木の実を使ってフェニックスに対処しようと考えていたのかもしれない。その圧倒的なステータス差を思えば、何かしら策はあって然るべきだろう。

「……改めて確認しますが、あれは何の幼生ですか?」

「さて、その点に関しては私もサッパリでして」

「坊ちゃまの身の回りに得たいの知れない魔物を囲われる私の身にもなってもらいたいものです。小さいとは言え魔物なのですから、いつ貴方の手元を離れて、坊ちゃまに危害を加えるとも知れません」

「そこはちゃんと言って聞かせますので、どうか何卒……」

 喉を鳴らしながら、美味しそうに森人の木の実をパクつく鳥さん。

 辺りには沢山落ちているから食べ放題である。

 その傍らでロリメイドからのお説教は、小一時間に渡って続けられた。



◇◆◇



 午前の授業を終えて直後、坊ちゃまからお呼び出しを受けた。

「タナカ、貴様に話がある」

「はい、なんでしょうか」

 授業を終えた坊ちゃまに付き従うこと、学内に設けられたカフェテリア的な空間でのトークとなる。ペニー帝国の王立魔法学園にあった施設と大差ない。駅ビルに設えられた、外資のコーヒーチェーンみたいな感じだ。

 周囲には他に歓談を楽しむ学生の姿が多く見受けられる。十代中頃の可愛らしい女の子が、そこかしこでお茶を楽しんでいる。毎日でも通いたい気分になってしまうな。バイトとか募集していたら、是非とも当面のお小遣い稼ぎに利用させて頂きたい。

「明日からの予定なんだが、授業の一貫として学外で実習が行われる」

「なるほど」

「出席が必ず必要な授業だ。これに参加して必要な単位を納めなかった場合、落第という扱いになる。また参加に際して召喚科の生徒は、先の授業で召喚した召喚獣と共に臨むべしという案内があった」

 いわゆる学外授業と言うやつだろう。

 社会科見学的な。

「教師に掛け合った結果、貴様もまた召喚獣として認められた。そこで悪いが、共に授業へ参加して欲しい。必要であれば貴様が呼び出した、あの丸っこい鳥も一緒で構わない。支度は今晩の内に行う予定だ」

「承知いたしました。そういうことであれば、是非ご協力させて頂きます」

「坊ちゃま、わざわざ丁寧に説明する必要はありません。この男が坊ちゃまの召喚獣であるというのならば、一言付いてこいと命じるだけで良いのです。このような輩を相手に下手に出ては、舐められてしまいます」

「出会って数日の間柄ながら、タナカはそのような性格とは思わんが」

「いいえ、見てくれなど幾らでも取り繕うことができるものです。こういった人物こそ、心の内では何を考えているかわかったものではありません。決して気を緩ませないよう、お願い申し上げます」

 思わず胸がドキッとする発言だよな。

 ゴッゴルちゃんとお話する時にも似た感覚を受けたわ。

 妙な癖になってしまっているぞ。

「ステラの気遣いには感謝している。他に人がいる場合は注意するとしよう」

「日常的に注意して頂きたいのですが……」

「そう言ってくれるな。それでは私もまた疲れてしまうではないか」

「…………」

 しかしなんだ、この坊ちゃま、想像以上に人ができていらっしゃる。出会って間もない相手に、ここまで語ってみせる懐具合は、アレンのそれを彷彿とさせる。しかも彼は本人は貴族であるのに対して、こちとら暫定平民であるにもかかわらず。

 更に言えば、身分を偽ってまで入学した学園、同所での進退を見事に封殺した醤油顔を相手にしての問答である。もしも自分が同じ立場にあったら、なんだよこのブサメンと、不平不満の一言でも口にしていたことだろう。

 おかげで心が温かくなってしまったぞ。

 召喚獣、なんだか坊ちゃまの為に頑張りたい気分ですわ。

「坊ちゃまのお役に立てるよう、頑張りたいと思います」

「ああ、頼んだぞ」

「見え透いた嘘をつかないで欲しいものですね」

 些かお付きのメイドさんの態度が厳しいが、ここは厳かに応じさせて頂こう。

「承知いたしました」

『ふぁっ!』

 鳥さんも醤油顔の足元で、なにやら使命感めいたお返事をしていらっしゃる。

 頼もしい限りだろう。
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