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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫

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南部諸国 二

 寮の室内は建物の外観相応の立派なものであった。

 都内に建てられた少し高めの新築マンション。その販促チラシに眺める、モデルルームなど想像すればドンピシャだ。ただ、王立学園のそれと比較すると、幾分か控えめである。部屋の広さや間取り、調度品などの程度を落として思える。

 そんな居室の最奥に設けられたリビングで、醤油顔は少年少女と顔を向き合わせていた。前者が床に正座をしている一方、後者は方や家主がソファーに腰を下ろしており、そんな彼に従うよう脇にメイドさんが立っている

 両者の位置関係畳、童貞野郎の視線の高さはメイドさんの股間より下である。これで彼女がミニスカ装備であったのなら、最高のシチュエーションであったろう。しかしながら、こちらのお宅のメイドさんはスカートの裾がやたらと長い。膝下数十センチ。

 教育がなってないぜ、少年。

「……それで、貴様はなんだ?」

「名を田中と申します」

「それはもう聞いた」

 果たしてどこまで伝えるべきだろう。下手にペニー帝国だの、伯爵だの、あれこれと正直に伝えて、我らが陛下にまで話が伝わってしまったら面倒だ。ほとぼりが冷めるまで童貞は当面、この地で処女狩りに勤しみたい。

 まあ、素直に伝えても信じてもらえるとは到底思わないが。

「どうして召喚魔法に人が、平民などが召喚されたんだ? しかも貴様、このあたりの人間ではあるまい。まさか私を陥れる為ではあるまいな?」

「そんなまさか、私もまた急に呼び出されて戸惑うばかりにございます。こちらはどこなのでしょうか? せめて何という国の、何という町なのか、教えて頂くことはできませんか? 公爵家の方に大変失礼とは存じますが、何卒お願い致します」

「…………」

 その場に土下座して、少年にお願いする。

 視線の位置を低くすることで、メイドさんのおっぱいを下から上へ見上げる作戦。しかしながら、ロリータ極まる彼女の肉体には、それほど大した肉付きが確認できない。必至に視線を巡らせてはみたものの、あまり収穫は得られなかった。

「……どう思う? ステラ」

「…………」

 坊っちゃんとメイドさんの間で視線が交わされる気配。

 醤油顔は続く言葉を待つよう土下座を継続。相手はお貴族様、しかも公爵家ともなれば自らの肩書より遥かに上等だ。ここは粛々と下から申し上げるスタイルで凌いでいこう。無事に服も頂戴したし、最悪、このまま綺麗にバイバイできれば丸儲けだ。

 久しぶりに市井へ繰り出て冒険者家業とか、なかなか悪くないチョイス。ここ最近は魔王様関係で忙しかったし、うら若き処女の女冒険者とパーティーを組んで冒険とか、そういう感じのヌルくて緩い日々を自然と求めてしまう。

 オークに輪姦される素人女冒険者に延々とヒールを掛け続けたい。

「正直、測りかねます」

「だろうな」

「坊ちゃまがこの男を召喚魔法で呼び出した、というのは本当なのですか?」

「ああ、本当だ。不本意ながらな」

「…………」

「ステラは聞いたことがあるか? 召喚魔法で人が呼ばれるなどと」

「いいえ、少なくとも私はそのような話を聞いたことはありません」

「……そうか」

 どこか諦めたような少年の呟きが、妙に大きく部屋に響いた。

 果たしてブサメンに与えられるジャッジメントや如何に。いい加減に首が疲れてきたので、神妙な面持ちを意識しつつ顔を上げる。首を上下させるに際しては、やはりチラリと、メイドさんに視線が向かってしまった。彼女の美しさを思えば致し方なし。

 そんな童貞野郎に向けて、少年は言葉を続けた。

「一度や二度であれば、まだ放っておくこともできただろう。しかしながら、こう何度も現れられては堪らない。私は召喚魔法を扱う科に所属している。それが召喚の度に貴様のような平民を呼び出していたら、学業もままならないどころか退学だ」

「…………」

「そこで私には二つ、検討すべき選択肢がある」

「失礼ですが、お伺いしてもよろしいでしょうか?」

「一つは何故に貴様が召喚魔法によって呼ばれるのか、その謎を解き明かすことだ。このような召喚魔法は過去に聞いたことがない。学校でも学んだことがない。だが、私は自分が特別な人間だとは思っていない。なにかしら理屈が隠れている筈だ」

「なるほど、メイスフィールド様は聡明でいらっしゃいますね」

「もう一つは貴様を殺して、新たに召喚獣を呼び出すことだ」

「…………」

 普通に考えたら、まあ、そうなるよな。

 後者の方が前者より遥かにお手軽で簡単だ。

「ただ、後者は決して確実とはいえない。貴様を殺したところで、また別の平民がどこからか呼ばれてくる可能性もある。問題は平民が呼ばれたことではなく、何故か同一の個体が繰り返し召喚されてしまう点だ」

「坊ちゃま。とりあえずこの男に関しては、殺してみては如何でしょうか?」

 メイドさんから厳しい意見が飛んできた。

 確かに一人殺して様子を見るというのは、悪くない選択である。次もまた同じような相手が召喚されたのなら、その時には前者を選択すればいい。彼の立場ならば、平民の一人や二人は物の数に入るまい。

「一言命じていただけば、私の方で処理させて頂きます」

 マジかよ。自ら立候補とかちょっと困る

 このメイドさん、大人しい顔をして意外と刺激的な性格の持ち主だ。

「いや待て、少しばかり考えさせてくれ」

「坊ちゃまは他人に対して優し過ぎます」

「しかし、不用意に命を奪うのは私の主義に反する」

「……承知しました」

 メイドさんは渋々と言った様子で頷いた。

 直後、思いっきり睨まれた。マジで死ねよ、みたいな眼差しを向けられてしまった。汚物を見るような眼差しであった。心がシクシク痛むと同時に、オチンチンへ熱量が向かいゆくのを感じる。男心とは複雑なものである。

 一方で坊ちゃまのなんと人間の出来たこと。

 ペニー帝国あたりの貴族だったら、速攻で殺しに掛かっていただろう。

「悪いがこの者の部屋を用立てて欲しい」

「ここで休ませるのですか?」

「下手に自由にさせておくより、監視しておくほうが良いと考えたのだ。ステラならば、平民の一人や二人に遅れをとることはないだろう? 苦労を掛けるが、どうか面倒を見てもらいたい。頼まれてはくれないか?」

「相変わらずメイド使いの荒い方ですね」

 渋々と言った様子でメイドさんが頷いて応じた。

「ありがとう、ステラ」

 本人が口を挟む間もなく、醤油顔の今晩の宿が決定した。

 無一文の現状、非常にありがたい対応である。

 坊ちゃま、マジ坊ちゃま。



◇◆◇



 翌日、目覚めは過去になく刺激的なものとなった。

「起きて下さい」

 まどろみの只中に与えられたのは、全身を襲う衝撃。一瞬、背中に感じていたベッドの感触がなくなったかと思いきや、次いで訪れたのは踵から背中、後頭部まで背面を一様に打ち付けたかのような痛み。

「ぉっふっ……」

 気づけば我が身はベッドの下に落ちていた。

 覚醒もおぼつかない只中に与えられた刺激から、思考は混乱する。一体何が起きたのかと、大慌てで目を開く。すると、視界に入ったのは居室の天井の他、見覚えのあるメイドさんである。頭の辺りに立つ彼女を、仰向けの姿勢で見上げる形だ。

 ミニスカだったら絶対に見えてた。めっちゃ悔しい。

「……目は覚めましたか?」

「ええ、おかげさまで」

 おそらくは魔法か何かで醤油顔の身体を浮かせて、ベッドの上から落としたのだろう。昨日も感じたのだけれど、このメイドさん、かなり容赦ない性格の持ち主だ。しかし、相手が美少女だと、それはそれで悪くない。

 ブサメンにとって、美少女とのコミュニケーションは尊いものである。

「それは何よりです」

「起こして下さりありがとうございます」

 できればもうしばらく、上から見下げられていたかった。蔑むような眼差しで見つめられていたかった。一歩を踏み出せば、こちらの顔面を踏みつけられそうな立ち位置が最高。絶妙な距離感が素晴らしい。ぜひ唾とか垂らしてもらいたい。

 しかし、あまり長く寝転んでいる訳にもいかない。

 致し方なく身体を起こして立ち上がる。

「……坊ちゃまがお呼びです。来てください」

「承知しました」

「それとこれは私個人からの警告です」

 次の瞬間、メイドさんが動いた。

 一歩を踏み込むと同時に、右手で醤油顔の左腕を取る。かと思えば、そのまま力任せに引かれて、背面へ押し付けるよう捻り上げられた。左手にはいつの間にやらナイフが握られており、その刃はこちらの喉元に触れるよう添えられた。

 捻り上げられた肩が痛む。ただ、それ以上に喉の肌へ与えられる、感じるひんやりとした金属の感触が恐ろしい。刃渡り十数センチほどの小さなナイフだけれど、それでも喉を裂くには十分な代物だ。

「私は坊ちゃまとは違います。妙なことをしたら、すぐにでも処分します」

「失礼ですが、妙なこととは?」

「…………」

「…………」

 異性に身体を固められるの、想像した以上に心地良い。痛心地良い。もう少しばかり楽しみたくて、自然と軽口など続いてしまう。こちらの手首を握るメイドさんの手の平の感触が良い。少し高めの体温がグッとくる。感じて欲しい、童貞の脈拍。

「今この場で死にますか?」

「……口が過ぎました。すみません」

「さっさと支度をしてリビングまで来てください」

「分かりました。急いで向かいます」

 ブサメンが頷くに応じて、身体に自由が戻ってきた。

 彼女はナイフをメイド服の内にしまうと共に、居室から去っていった。バタンと音も大きく閉じられたドアの向こう側、カツカツという足音が遠退いていく。忠義心に溢れた威力系ロリメイドは良いものだと、改めて実感だろうか。

 余韻を楽しみつつ、童貞は居室を後にした。

 廊下を過ぎてドアを一枚越えると、坊ちゃま宅のリビングはある。

 そこには既に家主の姿があった。少年は昨日と同じ制服姿であり、ダイニングチェアに腰掛けている。正面のテーブルにはスープやパン、サラダといった料理が並んでいる。彼の朝ごはんだろうことは想像に容易だ。

 対面には例によって直立不動で控えるメイドさんの姿も然り。

「目が覚めたか」

「あ、はい。遅くなりすみません」

 醤油顔の顔を目の当たりにした坊っちゃんが、メイドさんに言った。

「ステラ、この者にも食事を」

「坊ちゃま、平民と食事を共にするなど駄目です」

「この者には共に学校へ向かってもらう。今はそのような古臭い決まりよりも、時間の方が惜しいのだ。特待生という身の上、授業に遅刻する訳にもいかない。悪いが私の都合を優先してはもらえないか?」

「……承知しました」

 渋々と言った様子で、キッチンに向かってゆくメイドさん。

 美少女が相手ならいざ知らず、こんなどこの馬とも知れないブサメンにも、坊っちゃんは食事を出して下さるのだという。相変わらず良いヤツである。昨晩お世話になったベッドも、ふかふかで大変心地良かった。

「お待たせしました」

 ややあって、メイドさんが戻ってきた。

 その手には盆が支えられており、上には坊っちゃんが食べるものと比較して、幾らか貧相なメニューが乗せられている。具体的にはオートミール。なんかドロドロとした液状のスープが皿に盛られている。

「どうぞ」

 それが立ち呆ける醤油顔の足元に置かれた。

 床に直置きである。

「ステラ?」

「平民が坊ちゃまと同じ食卓に着くことは許されません。そして、これでも食事は十分に取ることができます。学校へ向かうにも問題はありません。違いませんか? スプーンは付けております」

「……まあ、違いなくはない」

 小さく頷いて、坊ちゃまは食事に戻った。

 これに習い醤油顔は、リビングの床に腰を落ち着ける。

「いただきます」

 低い位置からメイドさんの下半身を眺めながら頂く朝食は最高である。味気ないオートミールも楽しんで食すことができる。これで彼女のスカートがミニだったら、言うことはなかった。何故に彼女のメイド服はミニじゃないのだろう。

 昨晩からその点ばかりが悔やまれる。

 どうにかしてスカートの下を確認することはできないか。あれこれ考えながら食事を取ることしばらく。そろそろ坊ちゃまが、皿の上の食事を平らげようかという頃合いを見計らって、ブサメンは問い掛けた。

「あの、すみませんが少しよろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「外へ出るに差し当たり、一つお願いがあるのですが」

「……言ってみろ」

「私に最低限の常識を教えて頂きたいのです。それは例えば、この国の名前であったり、メイスフィールド様が通われる学校の位置づけであったり、学び舎で学業を共にされている方々の身分であったり、そういった必要最低限の常識です」

「なるほど」

 つい昨日にもお願いしたものの、スルーされてしまった事柄だ。

 未だに童貞野郎は、自分がどんなところに呼び出されたのか知らないでいる。ドラゴンシティでの大会運営に差し当たり、多少なりとも近隣諸国の情勢については頭に入れる機会があった。耳に覚えのある国であれば、距離感くらいは判断できる筈だ。

「ここはチェリー王国にあるフィストという名の町だ」

「なるほど」

 なんてこった、チャラ男ブラザーズの国だわ。

 下手に目立つと、奴らの目に留まる可能性が高いぞ。平たい黄色は目立つからな。早めに確認しておいて良かった。ちなみに同国からドラゴンシティまでは、結構な距離があったような気がする。ヤツらも飛空艇でやって来ていた。

 そう考えると、バカンス先としては中々悪くない。

「古くは学校だけがあったという。その周りに段々と人が集まって行き、今のように町としての体裁が整ったという話だ。これ以上は私自身、この国の人間でないので、それほど詳しいことまで知らない」

「なるほど、そのような歴史があるのですね」

「そして、学校に通っているのは大半が貴族だ。基本的に平民は使用人の類しか出入りしない。要らぬ面倒に巻き込まれたくなければ、私の下を離れないことだ。お前がどこの田舎から呼び出されたのかは知らんが、大きな町ほど貴族と平民の隔たりは大きい」

「承知しました」

 いつの間にかカッペ認定されているぞ。

 ただまあ、ブサメン的にはその方が都合が良いから、このまま放っておこう。チェリー王国に関する知識が浅いのは事実である。下手に知ったかぶりをして、わざわざ恥をかくこともない。こういうときは周りに流されておくのが吉だ。

「聞きたいことはそれだけか?」

「あ、はい。ありがとうございます」

「よし、ならば出発するか」

 食事を終えた坊ちゃまが席を立った。

 登校のお時間である。



◇◆◇



 食事を取った後、醤油顔は坊ちゃまに連れられて学校に向かった。

 目的は同校で召喚魔法を研究している教諭の訪問である。自分たちで解決できない問題とあらば、他から情報を集めようという魂胆だ。もしかしたら過去に似たような事象が発生しているかもしれない、とは坊ちゃまの談である。

 ただし、彼は現在進行系で同校の生徒である。

 なので日中は、授業に出席する必要がある。

 そこで問題となるのが、彼に付き添って学校までやってきた中年野郎の扱いだ。いざ連れてきたは良いけれど、坊ちゃまが自由となる授業と授業の合間、いわゆる休み時間まで、どうにかして時間を潰す必要がある。

 しかも場所は、貴族様方が跋扈するハイソなスクール。

「そこいらで待っていてくれ」

 一方的に言い放って、坊っちゃんは教室へと入っていった。

 後に残されたのはブサメン。

「…………」

 パタンと締まった教室のドアを眺めては、さて、どうしたものか。

 学生のための寮がそうであったように、学舎もまた立派なものである。総石造りの宮殿を思わせる建物の並びから成る。ただ、やはりというか、ペニー帝国の王立学園と比較すると、幾分か目劣りする感じ。

「なにかしら? あの平民」「なんか黄色くないか?」「しかも平たいぞ」「もしかして、あれがそうじゃないか? ほら、昨日の授業で召喚科のヤツが呼んだっていう」「ああ、あれか? なんちゃって公爵の」「そうそう、似非公爵が呼び出した召喚獣」「いやはや、国が貧しい家は、召喚獣まで貧相ですね」「違いない」

 周囲から与えられるのは、奇異の視線である。坊っちゃんと同じ制服を身に着けた、同校の生徒と思しき少年少女たちが、ああだこうだと語らい合いながら、ブサメンの傍らを右へ左へ通り過ぎてゆく。

「…………」

 行き先に宛などない。だが、ここに立っていたら、絶対に絡まれる自信ある。相手が女の子だったら断然ウェルカムであるが、こういった状況で絡んでくるのは、大抵の場合でやんちゃな野郎と決っている。

 しかしなんだ。坊ちゃまってば、似非公爵なんて呼ばれてるのな。

 もしかして、ニップル王国って貧乏な国なのかね。

 そうなると殊更に絡みやすいのが醤油顔の立ち位置である。

「……いくか」

 授業が終わるまで、人目に付かないところでゆっくりしていよう。

 踵を返すと共に、早足で廊下を歩む。

 人の少ない方へ向かい、隅の方を静々と。

 同校は規模やお金の掛け具合こそペニー帝国の王立学園に劣る。建物も古めかしさが感じられる。しかしながら、それはそれで良さがあるというか、歴史を大切にしているのだと感じられる。ペニー帝国のお城などとは対照的だ。

 周囲から人気が引けば、ちょっとした観光気分。

 どこぞのミーハーなメイドさんなど連れて来たら、きっと喜ぶのではなかろうか。

「…………」

 そうこうするうちに、醤油顔は素敵な場所までやってきた。

 周囲を建物に囲まれた、中庭的な空間である。

 お誂え向きに幾つかベンチが設けられている。きっと同校の昼休みには、こちらでお昼ごはんを広げる生徒も多いのではなかろうか、なんて想像させられる。ただ、授業中となる現在は閑散としている。

 これ幸いとブサメンは腰を下ろして一息ついた。学生寮を経ってから、これまで延々と歩いてきたので、ほどほどに疲れた足腰が心地良い。それとなく周囲を眺めれば、綺麗に手入れされた樹木が窺える。

「……いいところじゃん」

 自然と呟いていた。

 すると、そんな醤油顔の言葉に反応する声が一つ。

「異国の方にも分かるかね? ここの良さが」

 まさか他に人がいるとは思わなかった。

 咄嗟に聞こえてきた側を振り返る。するとそこには、用務員風の男性が草木を弄っていた。地面にしゃがみ込んで、雑草の類を抜いていらっしゃる。その傍らには根っこから引き抜かれた芽が確認できた。

 同所において管理人的な立ち位置にある方とお見受けした。

「ええ、素晴らしい場所だと思います。長い時間を掛けて、丹念に世話を続けてきたのでしょう。そちらの樹木など、大きさこそ控えめですが、重ねてきた歴史は周囲の建物に勝るとも劣らないように見受けられます」

 盆栽的に育った樹木を指し示しては語ってみる。

 外観から感じられる樹齢に対して、樹木としての大きさが小さい。そういう生態の植物であるといえばそれまでだろう。ただ、ふと植木鉢に収まった盆栽を思い起こしては、そんなことを口にしていた。

「ほう、分かるかね?」

「もしや地中で根を囲っていらっしゃるので?」

 樹木の大きさは根に比例する。

 盆栽が盆栽であり続けられるのは、鉢の大きさが変わらない為だ。

「……失礼だが、本学の学生かね?」

「いえ、知人より来学を願われて、足を運んだのですが」

「なるほど……」

「失礼があったら申し訳ありません。この場は失礼させて頂いて……」

「いや、構わぬよ」

「よろしいのでしょうか?」

「まさか部外者から、ひと目見て言い当てられるとは思わなんだ」

 呟いて感心した様子でブサメンを眺める用務員さん。

 こちとらネットの記事で眺めた限りであるから、申し訳ない限りである。偉そうに問い掛けてしまった手前、こっ恥ずかしい気持ちで胸の内が一杯だ。こうしてみると、素直に他人へ誇れる知識というものは、思ったよりも少ないのだと意識させられる。

 それはきっと自身が自らの目と足で確認したものに他ならない。

「一部の植物は根の大きさが樹木全体の大きさに比例する。この事実を知る者は、実は意外と少ない。これを生徒に向けて説明されたとされる本学の開祖が、当時の実験に使ったとされる樹木が、こちらの木なのだよ」

「とても歴史のある樹木なのですね」

「うむ。これは森人の木の分木でな。本来であれば学び舎など比にならない」

 中庭を囲う周りの建物を眺めては、語ってみせる用務員さん。

 なんか眩しいものでも見つめるような目をしていらっしゃる。

「それは凄いですね」

 しかもネットの記事、こっちの世界だと普通に通用していない。

 根っこの大きさに地上部の大きさが比例する樹木は一部限りらしい。これだからファンタジーの世界は油断がならない。そりゃもう魔法とか獣耳とか存在している訳だ。ちょっと調子に乗ってしまっていたよ。今後は意識を改めないと。

「良いものを見せて頂きました。素晴らしい庭だと思います」

「ゆっくりしていくといい。時間は誰にも等しく流れている」

「ありがとうございます」

「この言葉もまた、開祖の残したものなのだがな」

「尊敬されているのですね」

「うむ」

 見ず知らずのブサメンが相手であっても、ごゆっくりどうぞとアナウンスして下さる。なんて良い人だろう。おかげで極めて心穏やかな気分である。だからこそ逆に長居しづらい心持ちではあるけれどな。

「…………」

 ベンチに腰掛けて暇をつぶすブサメン。

 そんな童貞野郎の視界の隅、用務員さんが雑草を抜いている。一つ一つ、手で摘んで抜いている。しゃがみ込んでの作業は、老齢と思しき彼の外見も相まって大変そうだ。一方で特に何をするでもなく、優雅にくつろぐ自分はどうだ。

 そんなだから、あぁ、まったくもう。

「……お手伝いしましょうか?」

「いやいや、結構だ」

「ですが中庭と言っても、それなりに広さがありますよ」

「これもまた私の大切な仕事なのでな」

「なるほど」

 周りが年若い学生ばかりだと、やっぱり大変なんだろうな、なんて思う。学校の用務員とか、ロリコンなら一度は憧れる立ち位置である。それでもやっぱり、こうしてリアルを直視してしまうと、三日に一度で十分だよなとか、感じてしまう。

 いや、ここの学校は可愛い女子生徒が多いし、二日に一度くらいか。

「とはいえ、最近は少しばかり腰が良くなくてな……」

「お手伝いさせて頂きます」

「すまないのう」

「いえ、他にやることもありませんので」

 予期せず生まれた暇な時間は、そんな感じで見ず知らずの老年男性と共に、雑草など抜きつつ穏やかに過ごした。雑草抜きなんて、何年振りだろうか。そもそも土いじり自体、十数年ぶりである。

 おかげで思いの外、楽しい時間を過ごす事ができた気がする。



◇◆◇



 土弄りからしばらくして、ブサメンは坊ちゃまの元へ戻った。

 授業の予定は事前に聞いていたので、遅れることなく馳せ参じることができた。授業の開始と終わりに際して鐘が鳴るのは、ペニー帝国の学園と変わらない。ただし、そのサウンドは自身の知るものと比較して、幾らか単調であった。

 廊下を急ぐことしばらく、見覚えのある教室前に坊ちゃまの姿はあった。

「来たか」

「申し訳ありません。お待たせいたしました」

「では行くぞ」

「はい」

 待たせてしまったことに怒りを買うかとも考えたのだけれど、これといってお咎めを受けることはなかった。踵を返すと共にスタスタと歩き始める。朝食の際にも感じたのだけれど、ペニー帝国の貴族ほど、身分差というものを気にしない質らしい。

 醤油顔はその背に慌てて続いた。

 廊下を歩むに応じて、周囲からは相変わらず好奇の視線が向けられて止まない。それは生徒に限らず、教師の類いもまた同様だ。口々に語られるところは、先刻に耳とした内容と大差ない噂話である。

 これに何ら構った様子なく、坊ちゃまは颯爽と廊下を歩む。イケメンの彼がやると、絵になる光景である。もしもブサメンが一人だったら、若い世代から爪弾きにされる中年の図、って感じになっていただろう。

 だからこそ、そんな彼を面白くないと思う者もいるようだ。

「おいおい、似非公爵が妙な平民を連れているぜ?」

 我々の行く手を遮るよう、数名からなる男子生徒が現れた。

 声を掛けてきたのは、その中央に立つリーダー的イケメンである。長めの金色の髪をポマードのような整髪料でリーゼント風に固めている。豪快に上げられた前髪が所々、ちょろりと垂れて目元でプラプラとしているのが最高にイケてる。

 醤油顔もそういう髪型、一度で良いからやってみたかった。ちょうど彼くらいの年頃とか、女の子が不良に憧れ始める頃合いではなかろうか。多少顔が残念であっても、この髪型さえあればモテたかもしれない。そんな希望を感じさせるスタイルだ。

「……また君か」

 行く手を遮られて、坊ちゃまの歩みが止まった。

 ブサメンも彼の斜め後ろで立ち止まる。

 そんな二人に向けて、リーゼントな彼が声も大きく言い放った。

「なんだなんだ? まさか召喚魔法が使えなくて、自前で召喚獣を用意したのか? いやしかし、流石にそれはないだろう。どれだけ貧乏でも、せめて獣人奴隷の一匹でも探してはこられなかったのか? どうなんだ?」

 露骨なまでに坊っちゃんを煽ってくれるリーゼント少年。

 彼が台詞を終えるに応じて、取り巻きからはそうだそうだと幾重にも声が響いた。いつぞや王立学園で眺めたエステルちゃんのお茶会を彷彿とさせる光景だ。あの時のロリビッチ軍団は最高だった。可愛い子揃いでたまらなかった。

 一方で今回の男臭いことなんの。

「この男は正真正銘、私の召喚魔法で呼ばれた者だ」

「馬鹿を言え、どこの学校に召喚魔法で平民を呼びつけるヤツがいる」

「ここに居るではないか」

「そうやって格好つけるのも今日までだ。召喚魔法科の生徒が召喚魔法を碌に使えないと判断されたのなら、あまつさえそれが特待生であったのなら、学園の判断は考えるまでもない。さてここで確認だが、お前にここの学費が払えるのか?」

「…………」

 話題がお金の話に移った途端、坊ちゃまの表情が厳しくなる。

 どうやら実家が貧乏なのは間違いないようだ。そして、この手の学校の学費がやたらと高額である点は、醤油顔もまた理解している。伊達にペニー帝国の王立学園に裏口入学していない。思い起こせば未だにこの身は、同学の学生ということになっているような。

「どうした? ははッ! 頼みの綱は小汚い平民のオヤジだっ!」

 リーゼント少年の視線が、チラリとブサメンに向けられる。

 目元に垂れた前髪の揺れる様子が最高に恰好いい。

 心の底から憧れる。一度でいいから、ああいう髪型で盛り上がりたかった。襟足とか長くして、肩や背中に垂らしてみたかった。会社の後輩に若い頃の写真をさりげなく見せて、実は俺も昔はヤンチャしてたんだぜ、みたいな台詞を語ってみたかった。

 それでもって、え? 先輩マジっすか? ぱねぇッス。みたいなヨイショを受けてみたかった。くそう。くやしいぞ、くそう。リーゼント少年の姿を眺めていると、失われた青春が、これでもかと刺激されてしまう。

「行くぞ。これ以上を構っていては休み時間が終わってしまう」

 再び歩みだした坊ちゃま。

 正面に並び立った苛めっ子の集団を迂回するべく、彼は歩みを横に取る。しかしながら、彼らは坊ちゃまの動きに応じて、自分たちもまた立つ位置を移した。伊達に大勢で挑んでいない。取り巻きが壁となって我々の行く先を隙きなく阻む。

「退いてもらえないか?」

「二年に進級して、こっちも色々と新しい魔法を習ったんだ。一年の頃はどうだったか知らないが、本科である二年の授業で失敗したお前と、真っ当に魔法を使える俺とだったら、どっちが強いだろうなぁ?」

「っ……」

 リーゼント少年の足元に魔法陣が浮かび上がる。

 かと思えば、彼の周りを囲うように幾つもの氷柱が浮かび上がった。大きさはお酒のボトルほどだろうか。それが数本ほど、煌々と冷気を放ちながら、こちらに焦点を向けるよう空中に浮かんでいる。

「学内では、許可のない魔法の行使は禁止されているぞ」

「バレなきゃいいんだよ」

 少年の腕が振るわれると同時に、氷柱が一斉に飛び出した。

 坊ちゃまは咄嗟に身を引いてこれを回避。

 ズドドドドと低い音を立てて、錐状のそれは今の今まで彼が立っていた場所に突き刺さった。多少なりとも加減は見受けられるが、それでも当たったのなら、負傷は免れない一撃である。なかなか攻撃的な性格の持ち主じゃないか。

「どうした、やり返さないのか? 特待生」

「…………」

 僅かばかりのやり取りながら、学内における両者の立場が見えてきた。ブサメンが想像する以上に、坊ちゃまは苦労しているようだった。彼に寄り添うロリメイドの刺々しい性格もまた、こうした学園生活が祟ってのことかもしれない。

 この場でイケメンがどれだけ苦労しようと、ブサメンには関係のない話である。

 それが前途有望な年若いイケメンとあらば殊更に放っておくべきだろう。生存競争とは斯くも厳しいものなのである。今この場で一人でも多くのイケメンが挫折することが、世のブサメン諸兄の未来を明るくする。

 しかしながら、彼は醤油顔の召喚主である。

 召喚獣たる現在の身分を思えば、まあ、なんだ。

 ちょっとくらい加勢してもバチは当たるまい。

「メイスフィールド様、少々よろしいでしょうか?」

「黙っていろ。貴様が口を挟……」

「これで私は、メイスフィールド様に召喚されたという経緯がございます」

 多少強引にでも語らせて頂く。

 攻撃魔法だとか、回復魔法だとか、便利な魔法がありふれているこちらの世界は、意外と簡単に怪我をする。子供の喧嘩だからと、あまり悠長に眺めてはいられない。自ずと思い起こされたのは、いつぞやショタチンポとピーちゃんの一件か。

「だったら何だと言うのだ」

「おかげでメイスフィールド様は他に新しく召喚獣を呼び出すことができておりません。それでは、このように考えてはどうでしょう。召喚獣の呼び出した召喚獣は、メイスフィールド様の召喚獣足り得るのではないかと」

「……お前は何を言っているんだ?」

「言葉通りの意味にございます」

「まさか貴様のような平民が、召喚魔法を使えるというのか? ありえん」

「さて、どうでしょう」

 スキルポイント的には問題ない筈だ。

 魔王様を倒したことで、少なからずレベルが上がっている筈である。



パッシブ:
 魔力回復:LvMax
 魔力効率:LvMax
 言語知識:Lv1

アクティブ:
 回復魔法:LvMax
 火炎魔法:LvMax
 浄化魔法:Lv5
 飛行魔法:Lv55
 土木魔法:Lv10

残りスキルポイント:153



 おう、来てる。

 想像した以上にガッツリと頂戴してしまっているぜ。

 これを――――



パッシブ:
 魔力回復:LvMax
 魔力効率:LvMax
 言語知識:Lv1

アクティブ:
 回復魔法:LvMax
 火炎魔法:LvMax
 浄化魔法:Lv5
 飛行魔法:Lv55
 土木魔法:Lv10
 召喚魔法:Lv1

残りスキルポイント:152



 こうだ。

 いいじゃん。イケてるじゃん。ドンピシャだ。

 今回は飛行魔法のときと違って全部突っ込まずに済んだ。やっぱり、こういうのは加減が大切だよな、加減が。あんまり大層なアニマルを呼び出してしまっても、それはそれで食事の用意とか、散歩とか、身の回りの世話をするのが大変である。

「召喚魔法は通常の魔法より高等な技術を要する。十分な素養を持ち合わせた者が、多くの時間を掛けて学ぶことで、初めて実現できる魔法なのだ。それを碌に教育を受ける機会も得られない平民が行使するなどありえん」

「これよりメイスフィールド様の真なる召喚獣を召喚いたしましょう」

「おい、お前は人の話をっ……」

 ああだこうだと仰られる坊ちゃまに構わず、醤油顔は召喚魔法をアクション。それなりにレベルも上がってきているし、ステータスも相応だし、適当に呼び出したとしても、良い感じのアニマルがやって来てくれるのではなかろうか。

 ああ、やって来てくれるに違いない。

 ということで、それっぽいポーズを決めると共に、声高らかに叫ばせて頂く。

「ぬぅん!」

 間髪を容れずに醤油顔の足元に魔法陣が浮かび上がった。

 どんな相棒が登場するのか、ドキドキワクワク、少なからず胸を高鳴らせての行使ございます。こうして自ら体験してみて、改めて理解できた。全裸の不細工な中年オヤジを召喚してしまった坊ちゃまの心中を。

「そんな、まさかっ……」

 醤油顔の足元に浮かんだものとは別にもう一枚、正面に魔法陣が描かれる。

 きっとそこに召喚されますよ、ということだろう。

 ユーザーエクスペリエンスがなってるじゃないの。

 ところで、いざ召喚体勢に入った最中のこと、ふと思った。万が一にもドラゴンモードのロリゴンのような、巨大な輩を呼び出してしまったらどうしよう。とんでもない騒ぎになるのではなかろうか。

 できれば小さいのがいい。お願い、小さい子でお願いします。

「召喚っ!」

 今更になって焦り始めたブサメンは、祈るように声を上げる。

 すると時機を合わせて、一際強く魔法陣が輝いた。眩い閃光を受けて、居合わせた皆々は咄嗟に目を背ける。果たしてどのようなアニマルが呼び出されたのだろうか。真っ白に染まった視界の中、なにやら像の結ばれる様子が窺える。

 それからしばらく、輝きは数秒ほどで収まった。

 魔法陣が大人しくなるに応じて、皆々の注目が再び戻ってくる。

 するとどうしたことか、そこにはサッカーボールほどの大きさの、ずんぐりむっくりとした鳥がいた。思ったよりも可愛いのが出てきてしまった予感。もしかして、小さい子が欲しいと願ったから、だったりするのだろうか。

『ふぁっ、ふぁっ……』

 しかも、何故か死にかけだ。

 見た感じふくらスズメのようなシルエットである。ただし、羽の色は真っ白。更にこれでもかとフカフカしている。一方で目玉やクチバシ、あしゆびは鮮やかな赤色だ。そんな生き物が全身血まみれで、ピクピクと痙攣を繰り返している。

 今にも事切れてしまいそう。放っておけば数分と耐えられまい。足は両方とも非ぬ方向に曲がってしまっている。片羽は大きくえぐられて、赤く濡れた羽の先に内蔵をちらりと伺わせる。あちらこちら羽を毟られた身体が、殊更に哀れを誘う。

「そんなバカなっ、ほ、本当に召喚したというのかっ!?」

 酷く驚いた様子で坊ちゃまが声を上げた。

 まるで墓場に幽霊でも見つけたように、鳥さんを凝視している。

 また、これは彼以外の生徒も同様だ。平たい黄色が召喚した鳥さんを目の当たりとして、驚愕の只中といった様子である。まさか何処の馬の骨ともしれない平民が、召喚魔法を成功させるとは思わなかったようだ。

「…………」

『ふぁ……』

 鳥さんと視線が合った。

 こちらの生き物が、ブサメンの召喚魔法に応じて呼び出されたのは間違いないだろう。責任ある召喚主として、まさか放ってはおけない。というより、あまりにも可哀想な光景だったもので、反射的に身体は動いていた。

 醤油顔は鳥さんに向けて回復魔法を全力である。

「ヒールっ!」

 掛け声と共に、傷だらけの肉体が癒えていく。傷は塞がり、抜けてしまった羽もまた元のあったとおりフサフサと。身体に付着した血液こそ拭えないが、その合間に見えていた怪我は瞬く間に消えていった。

 その様子を眺めていて、ふと思った。

 野生の生き物はいいよな。

 体毛という生態装備を身にまとっている。激しい戦闘で気付いても、ヒールさえあれば一張羅は元通りだ。一方でこちらの醤油顔はどうだ。イベントのたびに服を剥ぎ取られているような気がする。

 そんなこんなで数秒と経たぬ間に、鳥さんは全快した。

『ふぁっ!?』

 声も大きく鳴いたかと思いきや、酷く驚いた様子で立ち上がった。

 これを確認してブサメンはホッと一息だ。

『ふぁーっ! ふぁきゅー!』

 回復魔法の出処が醤油顔だと理解したのだろう。少し興奮気味となった鳥さんは、こちらに向かい羽をバサバサとやりながら、声も大きく鳴いている。一生懸命にぴょんぴょんしている。果たして彼は何を伝えたいのだろう。

 恐怖状態から威嚇しているのか。

 感謝の言葉を述べているのか。

 はたまた我を忘れて混乱しているのか。

 さっぱり分からない。

 それもこれも外見がぬいぐるみ地味ている為だろう。

「大丈夫ですか?」

『ふぁきゅー! ふぁきゅー!』

 正直、威厳や貫禄がまるで感じられない召喚獣だ。

 けれどなんか、見ていて癒される。

 自ずと思い起こされたのは、社畜業に挫けそうになったとき、動物園の鳥コーナーで日がな一日、呆と過ごした記憶だ。

 当初予定した小動物とのふれあいコーナーは、ちびっこに占拠されており、中年ブサメンが単騎で混じっては通報必至。これはパンダを筆頭に大型哺乳類の檻界隈も似たようなもので、一人で訪れた動物園の園内は、どこも家族連れやカップルの目が尽きなかった。

 そんなお一人様の童貞を暖かく迎え入れてくれたのが、過疎りに過疎った鳥コーナー。碌に人気がなかった。おかげでじっくりと鑑賞することができた。ほどほどに動き回り、檻越しながらブサメンの一挙一動に反応してくれる様子も、なんだか無性に癒された。

 翌日からも頑張れた。

 以来、彼の種族には少なからず敬愛を感じて候。

「……お前は、何者なんだ?」

 坊ちゃまから問い掛けられた。

 改めて問われるまでもない。

「そうですね。強いて言えば、メイスフィールド様の召喚獣でしょうか」

 別に必要はなかったのだけれど、ちょっとばかり格好つけてみた。
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