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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫
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魔王 六

 魔王様の打倒から一晩が過ぎた。

 というのも、彼女を打倒して直後、どうやら醤油顔は気を失ってしまったらしい。頑張りすぎた為だろうか、気付いたら町長宅の自室で、ベッドに寝かされていた。まさかそこまで疲弊しているとは思わなかったのでビックリだ。

 ちなみにこれらを伝えて下さったのはメイドさん。部屋の様子を身に来た彼女の足音から、半日ぶりに起床した次第である。身体に異常がないことを確認の上、彼女が持ってきて下さった服に着替えて、身だしなみを整える。

 顔を洗ってサッパリしたところで、その歩みを執務室へと向けた。

 同所には既に幾らか人の姿があった。

「か、かか、か、身体は大丈夫なのかしらっ!?」

 いの一番に声を上げたのはロリビッチである。

 酷く慌てた様子でこちらまで駆けてきて、お互いの身体が接するほどの距離で上目遣い。その息遣いさえ伝わる間隔は、寝起きの童貞には些か刺激の過ぎる代物である。反射的に半歩を下がったところで、ご挨拶をする。

「おかげさまで、一晩を眠ってスッキリしました」

「本当? もしもどこか、悪くしていたりしたら……」

 応じて半歩を詰めてくるロリビッチ。

 今日の彼女はいつになくアグレッシブだ。そうこうしていると、すり足でジリジリと更に半歩を進んで、ぺったんこな胸が中年野郎のだらしがない腹部へ接してしまうというアクシデントが発生。それこそ記憶を失う以前の彼女さながら。

 これでもかと甲斐甲斐しい。

「悪いところはありませんよ。本当です」

 他に人目もある手前、これを横に交わして歩みを進める。

「ぁ……」

 耳元に響いた切なげなボイスがおちんちんにヒット。

 息子の矛先が横へ逸れそうになるのを、咄嗟に修正しつつ歩みを前へ。向かう先にはデスク。本来であればメイドさんが腰掛けていたことだろう。ただ、彼女はブサメンの顔を目の当たりとして直後、お茶を煎れに湯沸室へ立っており留守だ。

 代わりに傍らへ立った、頼もしいマッチョ野郎へと声を掛ける。

「ご迷惑をおかけしました、ゴンザレスさん。街の方は如何でしょうか?」

「むしろ旦那こそ大丈夫なのか?」

「ええ、私は問題ありません。それよりも街の様子が気になります」

「あ、あぁ……」

 エステルちゃんの接近を許した手前、幾分か厳かなフェイスで臨ませて頂こう。

 キリリとした感じを演出しつつお問い合わせである。

 ただでさえ威厳もへったくれもない不細工な面構えだからな。

「被害の状況を確認したいのですが、今からお時間構いませんか?」

 魔王様に掛り切りとなっていたこともあり、まずはそちらを優先だ。

 被害の具合によっては陛下に無心をお願いしなければならない。できればリチャードさんのお財布で止めておきたい。けれど、流石にフィッツクラレンス家を破産させるわけにもいかない。今回ばかりは少なからず死傷者も出た筈だ。

 魔王様を打倒しても、リチャードさんの家の格を落としてしまっては意味がない。ペニー帝国に他国から付け入る好きを与えても本末転倒。魔王打倒の報を聞いて他所様が動き出す前に、ドラゴンシティの被害のあらましだけでも抑えておきたい。

 貴族的に考えれば、魔王様への対応より、むしろこちらの事後処理こそ本番だ。

 ただ、問いかけたゴンちゃんは反応がよろしくない。

「……その、なんだ? 旦那よ、ちょっといいか?」

「どうされました?」

「いや、なんつぅか、他にも色々とあるんじゃねぇのか? 他にもよ」

 普段であれば、淡々と状況を説明して下さる彼だ。それが困惑の表情で問うてくる。どこか戸惑って見える振る舞いは、同僚と社外打ち合わせの帰り道、電車でふと目撃した好みの西洋ロリータを前に、視姦しようか、諦めようか、悩みに悩むロリコンのよう。

「まさか、魔王はまだ……」

「いやいや、確かに信じてはいた。そりゃあもちろん、万が一にも負けるとは思わなかったぜ? けどよ? いざ実際に事が為された後に、こうまでも一昨日と全く同じ挨拶をされるとは思わなかったわ。こっちもどうしたもんか、返答に困るってもんだぜ」

「というと、やはり想像した以上に被害が?」

 しくった。もう少しばかり、悲壮感とか出すべきだったかもしれない。

 確かに良くなかった。

 魔王様を倒して、少しばかりスッキリした気分になっていたかも。

 観客に対する補償などを考えると、確かに頭が痛くなりそうだ。詳細な被害額を集計するだけでも、相当な費用がかかるだろう。これでまた陛下の財布を借りたりしたら、それこそ今後の街の経営にも影響を与えかねないし。

 そう考えると、やはり魔王様こそ打倒しても問題は山積みか。

「魔王を倒したんだぜ?」

「ええまあ、倒したには倒しましたが……」

「少しは喜んでみちゃくれねぇか?」

「いえ、それより我々の被害状況を確認したほうが……」

「こっちはどうして祝ったもんか、それだけで頭が一杯だ。つい今し方まで、皆で祝いの席を巡ってあれこれと話していたところさ。被害なんて軽微なもんだぜ? むしろよくまあここまで綺麗に魔王を倒せたもんだ」

「…………」

「他の連中もアンタが仏頂面だから、どうして声を駆けたものかと悩んでるじゃねぇか。もう少し、こう、どうにかならねぇのか? 旦那よ。街中じゃあ昨日の晩から、既にお祭り騒ぎだ。決着の瞬間を見てた連中が話を広げたらしい」

 ゴンちゃんに指摘されて、それとなく他へ視線を巡らせる。

 すると、誰も彼もがブサメンを見つめていた。

 居合わせたのはマッチョな彼を筆頭として、エステルちゃん、縦ロール、キモロンゲ、ノイマン氏、今まさに給湯室からお茶を盆に載せて戻ってきたソフィアちゃんといった面々である。部屋の隅で一昨日の晩と同様、体育座りをする聖女様の姿もチラリ。

 縦ロールが皆を代表して、不満の声を上げた。

「なんて気の利かない男かしらぁ?」

「……すみません」

 とりあえず、謝っておくか。

 相手は処女だしな。

「べ、別に貴方が謝る必要はないのだけれどぉ?」

「そういう訳だから旦那、今日はパァッと祝おうじゃねぇか」

「そうですね」

 我らが騎士団長に言われては仕方がない。

 そのようにするのが良いと見た。

「よし、そういう訳で領主様の許可は貰ったぜ!」

 彼が声を上げると同時に、居合わせた面々の顔に笑みが浮かぶ。

 どうやら醤油顔は彼ら彼女らに気を遣わせてしまっていたようだ。申し訳ない限りである。細かいことはさておいて、今は自らもまた、無事に魔王様を打倒できたことを喜ぼうとしようじゃないか。

 これと時を併せて、部屋のドアがノックされた。

「あ、はい、どうぞ」

 コンコンコンという軽い音に併せてお返事。

 すると廊下より姿を現したのはアレンと西の勇者様だ。

「タナカさんっ!? 起きても大丈夫なのですかっ?」

 ブサメンを目の当たりとして、イケメンから早々に気遣いを頂戴した。

 相変わらず良い男である。

「ええ、おかげさまで」

「本当ですか? 随分と壮絶な戦いをされたと聞いたのですが……」

 アレンの言葉を受けて、ふと思い出した。

 最後の最後、魔王様から攻撃を受けていたヌイたちは無事だっただろうか。回復魔法を連打していたものの、容体を確認している余裕がなかった。スラム街を巡っては対立関係にあるが、連中もまた街の住人には違いないからな。

 ロリゴンも可愛がっているようだし、何かあったら目覚めが悪い。

「私などは大したことありませんよ。ところで、戦いの最後のほうでヌイたちに助けてもらったのですが、彼らは無事だったでしょうか? 魔王から攻撃を受けていたので、今も気が気でないのですが……」

「そ、それでしたら大丈夫ですっ!」

「ソフィアさん?」

 疑問を口にすると、お返事はメイドさんから返ってきた。

「田中さんの魔法のおかげで皆さん、元気です!」

「なるほど」

 間近で見ていた彼女が大丈夫というなら安心だ。

 あの時は魔王様も満身創痍だった。威力不足から、辛うじて回復が間に合った、みたいな感じだろうか。或いは割れた尿瓶から飛び出したメイドさんのラブポーションを頭から被ったことで、ラッキーセーフへと至ったのかもしれない。

 いずれにせよ良かった。本当に良かった。

「一応、被害の状況を確認する為に、西の勇者様と共に街の様子を確認してきました。人同士の騒動で多少の被害は見受けられますが、火急を要すると思われる地区はありませんでした。ヌイたちも普段通り、街を見て回ってくれています」

「なるほど」

 どうやらアレンたちは、街の状況確認を行ってきてくれたようだ。ゴンちゃんが騎士団の団長など努めている都合、不足している現場の指揮を担当してくれたのだろう。西の勇者様と併せて、ありがたい限りである。

 これといってお願いした訳でもないのに動いてくれていたの嬉しい。

 そういうのめっちゃ嬉しいよね。

「アレンさん、西の勇者様、ありがとうございます」

「いえ、僕は僕にできることをしただけです」

「自らに与えられた大仰な肩書を思えば、むしろこの程度しか協力できずに申し訳ない気分さ。それと各国では依然としてレッサーデーモンの類いが被害を出しているらしい。命令系統がどうなっているのかは知れないが、当面は備えるべきだろう」

「あぁ、そういえばそういった問題もありましたね」

 西の勇者様の言葉を受けて、自ずとデーモン連中の強面を思い起こす。

 そもそも彼らの指揮系統って、どうなっているんだろう。電話とかメールとかショートメッセージとか、その手の便利ツールを使っているとも思えない。残党兵が数年に渡り跋扈、みたいなのが割と起こりうる世界観である。

「ゲロスさん、ちょっといいですか?」

「嫌だ」

 訪ねた途端、即答である。

 相変わらずな奴隷根性を披露してくれる。

 致し方なし、醤油顔は彼のご主人様と交渉だ。

「ドリスさん、すみませんが……」

「ゲロス、構わないわぁ」

「承知いたしました」

 すると、手の平を返して粛々と頷いてみせるキモロンゲ。魔族の事情を説明するのに縦ロールの許可がいるって、正直どういうことだよと思わないでもない。ただまあ、こっちは聞きたいことが聞ければ良いので、突っ込まないでおくとしよう。

 せこせこと縦ロールに借りを作って、新しい調教イベントを発生させるのだ。

「なんだ? さっさと尋ねろ。ご主人の命だ」

「…………」

 しかしなんだ、コイツ、一連の流れを楽しんでたりしないよな?

 真顔で問うてくる様子に、そう思わないでもない。

「どうした? 早く言え」

「魔王様の復活と共に各地で暴れているレッサーデーモンなのですが、何か知っていることはありませんか? 同じ魔族である貴方であれば、何かしら知見が及ぶところがあるのではないかと考えたのですが」

「…………」

「もちろん、決して無理にとは言いませんが……」

「……適当にバラ撒かれたのだ」

「適当にバラ撒かれた?」

「暗黒大陸あたりでゆっくりしていた連中を、魔王様が空間魔法で各地へばら撒かれたのだ。これと言って命令が与えられた訳ではない。ただ、連中にとってニンゲンは食べ物以外の何物でもないから、今のようになっている」

「な、なるほど」

 魔王様ってば、想像した以上に適当だ。

「……正直、下級魔族たちには不評らしい」

「…………」

 ちょっとばかりレッサーデーモンに同情してしまう。

 最高にブラックな職場環境だ。

 今更だけれど、いちいち魔王様のやり口が聖女様っぽいのは、やはり育ての親の偉大さが故といったところだろうか。自ずと皆々の視線が執務室の隅の方に向かう。そこでは体育座りとなり、身を縮ませては震わせる半透明な聖女様の姿が。

「なっ、なんですかっ!? 私が何かっ!?」

 皆々からの視線を受けて、途端に慌て始める聖女様可愛い。

 ソフィアちゃん級の小物感を感じる。

「まあ、そういうことであれば、各国へ通達を出して注意を促しましょう。ばら撒き元が失われた今、これ以上数が増えることはないでしょうし、見つけ次第に対処していけば、そのうち落ち着いて来るはずです」

「ちなみに動きを終えば分かるだろうが、連中は暗黒大陸を目指している」

「……なるほど」

 そういうこと言われると、今後やり難くなるじゃんね。

 ちょっと可哀想な気分になってしまったよ。

 他の面々の様子を窺うと、皆もまたなんとも言えない表情でキモロンゲの話を耳としていた。被害者という意味では、レッサーデーモンたちもまた同様であった訳である。ただ、彼らの食生活が些か人類と相性が悪かっただけで。

 そうした最中のこと、不意にゴンちゃんが声を上げた。

「なあ、聖女様の身体が少しばかり薄くなっちゃいねぇか?」

「あ、本当ですね……」

「っ!?」

 ゴンちゃんのご指摘を受けて皆々の意識が再び聖女様へ向かう。すると、本人も自らの肉体の変化に気付いたようだ。酷く驚いた様子で、あわあわと慌て始めた。その場に立ち上がって、あっちを見たり、こっちを見たり。

 やがて、最終的に彼女の意識が向かった先は醤油顔だ。

「タ、タナカ伯爵! どうか助けてくださいっ! お、お願いしますっ!」

「……確かに放っておいたら消えてしまいそうですね」

 EXエディタ先生も以前、そのようなことを仰っていた。

 霊体は外に露出していると、耐久期間が非常に短いのだと。段々と意識が薄れていって、最後は自我が失われて、全てが霧散してしまうのだと。言葉にしてみるとシンプルだけれど、当事者が受ける恐怖は相当なものだろうな。

「お願いしますっ! タナカ伯爵! 今後永遠に私はタナカ伯爵に尽くすことをお約束しますっ! ですからどうかっ! どうか御慈悲をっ! お願いしますっ! タナカ伯爵、何卒、お、お助け下さいっ!」

 間髪を容れずに土下座を敢行する聖女様。

 流石にこのまま放り置くのは後味がよろしくない。

 他の面々の視線もあるし、どうにかするべきだろう。

「……分かりました」

「た、助けてくれるのですかっ!?」

「おいおい、旦那よ。本当にその女を助けるつもりか?」

 ゴンちゃんから厳しめの声が飛ぶ。

 でも、仕方ないじゃんね。

 美少女から土下座されたら、童貞は断れないよ。

 憧れだった。

 美少女に土下座されるの、憧れだった。

「彼女が他者へ乗り移ることが出来ないことは、ロコロコさんにも確認を取っております。その上で彼女が我々に対して、二度と敵対的な意志を持たないというのであれば、私は助けても良いかなと考えております」

「も、持ちませんっ! 敵意なんて持ちませんっ! ですから何卒っ!」

 額を床にゴシゴシと擦りつけながらの土下座。眺めているだけで、心の内側からサディスティックな欲求が沸き立ってくるのを感じる。そのままバックから覆いかぶさって犯したい気持ちで胸が一杯になってしまう。

 叶うことならば前からだけでなく、後側からも眺めたかった。

 それだけが心残りだ。

 土下座は前後から眺めてなんぼだと思うのだわ。

「承知しました。そういうことであれば、私に付いてきて下さい」

「はいっ! つ、ついて行きますともっ! どこまでもっ!」

 こちらの言葉に応じて、大慌てで身を起こした聖女様。

 そんな彼女を伴い、醤油顔は執務室を後とした。



◇◆◇



 訪れた先は人妻と百一匹ショタチンポが寝起きする入湯施設。

 そのフロアの一角だ。

 脱衣所を過ぎて浴室、正面に浴槽を望む位置で醤油顔は彼女を発見した。同所では他に大勢のショタたちが、和気藹々と入浴を楽しんでいる。それはもう和気藹々としており、これでもかと和気藹々としているから、甚だ和気藹々である。

「あら? タナカ伯爵、何か用かしら?」

「ナンヌッツィさんにお願いしたいことがあって参りました」

 例によって彼女は、そんなショタチンポたちを眺めて楽しんでいた。いつの間に運び込んだのか、浴室にはバラのような花が浮かんでいたり、浴室脇にはコロンが並んでいたりと、なんかもうやりたい放題である。

 それでも赤字を出していないのが彼女の凄いところだ。

 一気に増えてしまったショタチンポたちをちゃんと食べさせてゆく為に、彼女は同施設の一階で貴族の女性向けにマッサージ屋を営んでいる。その売上が今まさに我々の眺める光景へと繋がっている。

 これで北区の収益上位に入る店舗であったりするから扱いに困る。

「私にお願いしたいこと、ですか?」

「はい」

「なにかしら? これでも健全な経営に努めているつもりなのだけれど」

「いえ、そういったお話ではありませんよ」

「どういうことかしら?」

「実は貴方に面倒を見て頂きたい方がいらっしゃいまして」

「……面倒?」

 疑問の声を上げるナンヌッツィさん。

 そんな彼女からの問いかけに答えるよう、醤油顔は脱衣所の側へ視線で合図する。応じて姿を現したのは、今の今までドアの向こう側で待機して頂いていた聖女様である。些か緊張した面持ちでの入場だろうか。

「あの、タ、タナカ伯爵、こちらの施設は……」

「……霊体?」

「そういうことなので、どうかお願いできませんか?」

「どこかで見たような顔ねぇ」

 聖女様を目の当たりとして、ナンヌッツィさんが呟いた。

 これにビクリと肩を震わせるのが聖女様だ。

 ただ、問題の人妻はと言えば、半透明となった彼女の素性にまでは至らなかった様子だ。しばらくを眺めたところで、それでも思い出せなかったらしく、早々に考えることを諦めて醤油顔に向き直った。

「受け入れるのは構わないけれど、一つお願いを良いかしら?」

「なんでしょうか?」

「私のほうが先にいたのだから、私の方が上ということで良いのよね?」

「ええ、そこはもちろんですよ、ナンヌッツィさん」

「ふぅん? そういうことなら、ええ、任せてちょうだい。ちゃんと面倒を見てあげるわ。どこから来たのか知らないけれど、ここのお風呂を知ったのなら、霊体となったことを嘆くこともなくなるわよ? とても素敵なところなのだから」

「…………」

 良い笑顔を浮かべて聖女様に語りかける人妻強し。

 聖女様は困惑するばかりだ。

「あ、あの、タナカ伯爵、こちらの施設は……」

「こちらのお風呂はライフポーションで満たされております。今の貴方のように霊体となってしまっても、そこのお湯に浸かっていれば、決して消えることはありません。効果効能のほどは、お約束いたします」

「なっ、ラ、ライフポーションっ!? それは本当なのですかっ!?」

「例えばそちらの彼女など、霊体となってから数ヶ月を過ごしています」

「こんな膨大の量のライフポーションだなんて、信じられない……」

 酷く驚いた様子で人妻のことを見つめている聖女様。

 一方で見つめられる側は、満更でもない表情でドヤっている。

 なんだかんだで今現在も原材料を務める人妻だ。

 それで良いのかと思わないでもないが。

「そういうことですので、仲良くやって下さい」

「あっ……」

 長居は無用である。

 こうして立っているだけでも、鼻の粘膜がショタチンポたちに犯されているような気分になる。やたらと濃厚なのが漂ってくる。というか、ブサメンの存在に気づいたショタチンポたちが、こちらに近づいてきている。ゆっくりと確実に距離を詰めてきている。

 ヤバイ。狩られる。

「後はお願いします、ナンヌッツィさん」

「任されたわ。安心して頂戴」

 こちらの正面、ズボンに手を伸ばすようショタチンポが動いたところで、ブサメンは踵を返す。ギリギリのところで回避。お尻の肉に指先の触れた感触から、反射的に背筋が伸びた。そのままの姿勢で虚勢を張りつつ、浴場からさようなら。

 人妻に面倒を丸投げして、そそくさとショタチンポの湯を脱した。

「それじゃあ貴方、新入りなのだから、まずは先輩に挨拶なさいな」

「え? あ、あの、私は……」

「名前は?」

「……エルメスと申します」

「ふぅん? なかなか良い名前じゃないの」

「…………」

 背中越し、なにやら楽しそうなトークが聞こえてくる。

 不安でないと言えば嘘になるけれど、まあ、きっと大丈夫だろう。

 次に会った時が楽しみですわ。



◇◆◇



 聖女様を人妻一派に任せたところで、こちらは一件落着。

 醤油顔は執務室を目指して足を急がせた。

 魔王様こそ打倒したものの、事後処理に関してはまるで手がついていない。リチャードさんや陛下に対する報告だとか、大会に足を運んで下さった観光客の方々に対するアフターケアだとか、色々と行うべきことは山積みである。

 そのまま放っておいたとしても、ノイマン氏あたりが華麗に片付けてくれるとは思う。しかしながら、流石にそれは申し訳ない。できれば一緒に頑張りたいじゃんね。万が一にも彼がドラゴンシティを出ていってしまったら大変だ。

 などと考えながら町長宅を歩んでいた最中のこと。

 廊下の角を曲がった先で、予期せず見知った相手を見つけた。

「おや、ピーコックさん?」

「あっ……」

 彼は醤油顔の姿を確認して、ピタリと歩みを止めた。

 少なからず驚いた様子で、肩の震える様子が見て取れた。出で立ちはと言えば、相変わらずのミニスカ女装スタイル。しかも大会の試合で確認したときより、殊更にスカートが短くなっている。これって後ろから見たら、尻肉とか丸見えなのではなかろうか。

 こっちもこっちで彼が訪れているとは思わなかったから驚いたよ。

「どうされました? どなたかに用事でしょうか?」

「いや、そ、そのっ……あのっ……」

 もしかしてショタチンポに復讐でも企んでいるのだろうか。だとしたら、流石に見過ごすわけにはいかないな。っていうか、町長宅なのに人の出入りがザルだよな。まあ、屋敷内の戦力分布を思えば分からないでもないけれど。

「アシュレイさんにご用ですかね?」

「いや、ち、違うっ!」

「となると他に誰か?」

「…………」

「どうしました?」

「……つ、捕まえたり、しないのかよ?」

「捕まえる? 誰が誰をですか?」

「そんなの決まってるだろっ!? ア、ア、アンタが僕をだよっ!」

「どうしてですか?」

 もしかして、自ら逮捕されに来たのだろうか。

 相手は先代魔王様を下僕にしているハイスペックなオカマだ。下手に喧嘩を売っては後々で要らぬ面倒を抱える羽目になりかねない。魔王様との戦いでは共闘した仲でもある。ここは見て見ぬふりをして綺麗にバイバイしたい。

「だって僕は、ア、アンタのことをっ……」

「学園都市でのことを仰っているのであれば、気にしないで下さい」

「っ……」

「貴方の抱えている問題は、私もまた決して他人事ではありません。だからこそ、貴方を責める気にはなれません。もしも申し訳ないと感じているのであれば、今後は我々に対して穏便であって頂けると嬉しいですね」

「…………」

 適当を語って傍らを通り過ぎる。

 これ以上、ヤツの偽乳やミニスカを見ていたら危険だ。

「あのっ、そ、そのっ、もしよければ、しゃぶっ……」

「失礼しますね」

 童貞はピーちゃんの口上に危険ワードの気配を感知。

 別れの挨拶を重ねると共に、歩みも早く同所より立ち去る。

 恐らく彼にとって、好意や善意を表現するコミュニケーションは、その一つしかないのだろう。犬が尻尾を振るように、ピーちゃんは口を開けて舌を出す。

 いつか彼の行く先に幸があることを祈りながらも、その沿線上に自身が立っていないことを今は信じるばかりである。



◇◆◇



 執務室に戻ると、そこにはリチャードさんの姿があった。

「これはこれはリチャードさん」

「タナカさん、お待ちしておりましたよ」

 ソファーに腰掛けて、メイドさんが煎れたお茶など啜っていらっしゃる。他の面々はどこへとも出かけた後のようだ。部屋には彼の他に、お盆を抱えてプルプルと立ち震えるメイドさんの姿だけがある。部屋の隅、先刻まで聖女様が座っていた辺りだ。

 いい加減に慣れても良い気がするのだけれど、それでも一向に慣れる気配がないのが、ソフィアちゃんの短所であり、長所でもある。そんな彼女のオシッコを、今後とも末永く愛飲していきたいと強く思う。

「ノイマン男爵から話を聞きました。お疲れ様でした」

 ブサメンの姿を確認して、カップを置いたリチャードさんが腰を上げた。

「いえいえ、皆さんのご協力があっての賜物ですよ」

「それでも貴方がやらねば、他の誰にもできなかったことですから」

 ツカツカと歩んでは醤油顔の正面までやってくる。

 普段から笑顔の尽きない人だけれど、本日は殊更に機嫌が良さそうだ。

「連絡が遅れてしまいすみませんでした。本来であればリチャードさんには最初にお伝えするべきでした。陛下や他国との絡みもありますから、色々と大変なところに立て頂いていたのではないかと」

「そんなことはありませんよ。こちらこそ昨日の今日でお疲れのところ、勝手に訪ねてしまいすみません。今更ですが、少しばかりお時間を頂戴してもよろしいでしょうか? 難しいようであれば出直しますが」

「こちらでよろしいですか?」

「ありがとうございます」

 ああだこうだと適当に挨拶を交わす。

 リチャードさんとのこういったやり取り、なんだか無性にホッとするわ。

 何故だろうな。

「話というのは他でもない、魔王打倒の件なのですが……」

 その口から続けられたお話は、醤油顔の想定した通りだった。

 魔王打倒の報をどのような形で各国へお披露目しようか、その見せっぷりに関するご相談とのことだ。陛下としては国を挙げて大々的に行いたいらしい。しかしながら、今回の案件に限っては登場人物が多いので、その辺りの調整に気を揉んでいるそうだ。

 仰るとおりブサメン単独での仕事ではないから、彼の危惧は尤もだ。

 下手に囃し立てて、他所の国のお偉いさんを蔑ろにしていたりしたら、それはそれで大変なことになる。全容を把握している人間も少ない為、陛下や宰相も少なからず慎重になっているのだろう。

 ただ、その観点で言えば、考慮すべき点は少ない。

「気を遣う必要があるとすれば、プッシー共和国くらいでしょうか」

「そうなのですか?」

「他は国や組織というより完全に個人となります。とはいえ、誰もが一騎当千の人物となりますので、個別に十分な報償を用意して頂けるとありがたいです。各々が単騎でペニー帝国を滅ぼせるほどの戦力になりますので」

 薬草ゴブリンとか、どうやって陛下に説明したら良いのだろうな。

 まだロリゴンやキモロンゲの存在が可愛く思える。

 なんたって相手もまた王様だし。

「そ、それはまた、なんというか、流石はタナカさんのお知り合いですね」

「それでも今回の一件はギリギリでした。まこと勝手なお話となり申し訳ないとは思いますが、配慮を頂戴できれば幸いです。帳尻が合わない点など出てきましたら、私の方で調整させていただきますので」

「承知しました。陛下には重々説明いたします」

「ありがとうございます」

「差し当たり、そうした方々のお名前だけでも頂戴できませんか?」

「あ、はい。それでしたら書面に記させていただきます」

「では後ほど、改めて向かわせていただきますね」

「ありがとうございます」

 この辺り、リチャードさんはやり易くて助かる。つうと言えばかあと答えて下さるのが大変ありがたい。伊達に過去幾度となく、ロリゴンから凄まれていない。おかげで話はすんなりと進んだ。

 今の彼ならきっと、この街を任せても上手く取り成して下さるのではなかろうか。

「催しの詳しい日時が決まりましたら、改めてご連絡を差し上げますね」

「お忙しいところすみませんが、よろしくお願いいたします」

 深々と頭を下げてお願いさせて頂く。

 きっと最高に面倒くさい調整作業だろうから。

「ところでタナカさん、一つ良いでしょうか?」

「なんでしょうか?」

「これは私個人の疑問なのですが、実際のところ魔王とは何だったのでしょうか」

「というと?」

「あれだけ強大な力が、何故にこうして世に生まれては、猛然と振るわれるのかと。そして、そこには果たして、どのような因果があったのか。自らその片鱗を目の当たりとした後だからこそ、疑問に思わずにはいられません」

「……なるほど」

 言わんとするところは尤もだ。

 こちらの世界はどうだかしらないが、どこぞの世界では台風だって、地震だって、何かしら理由があるからこそ発生していた。それをいつだって人は追い求めていた。だからこそ、魔王という存在に対して、同じように疑問を抱く気分はよく分かる。

 ただ、今の自分はその答えを持たない。

 それでも一つ言えることがあるとすれば――

「子育てというのは、とても大変なことなのだなと思いました」

「……子育て、ですか?」

「ええ、子育てです」

 いつか醤油顔にも訪れる日が来るのだろうか。

 いいや、どうだろう。

 そもそも相手がいないしな。



◇◆◇



 リチャードさんを執務室からお見送りして直後の事である。

 いよいよメイドさんと、二人きりでトークの兆しが見え始めた頃合のこと。間髪を容れずにお部屋へやって来たヤツがいる。誰かと言えば、我らがドラゴンシティの騎士団長を務めるゴンザレスその人だ。

「すまねぇ、失礼するぜ」

「これはゴンザレスさん、どうされました?」

「いや、ちょいとばかり旦那に話があってな」

「話ですか? なんでしょう」

 昨今、魔王様の一件で街中がごたついている。

 もしかしたら、界隈で面倒が発生したのかもしれない。大会を開催していた都合、ドラゴンシティ近隣には平民以外にも、大勢の王侯貴族が所在している。何かしら問題がおこったとしても不思議ではない。

「あぁ、それなんだが今回の騒動で、正門脇の壁が崩れちまったみたいだ。忙しいところ申し訳ねぇんだが、ちょいと直しちゃもらえないか?」

「なるほど、承知しました」

「いきなりやってきて、なんか悪いな」

「いえいえ、とんでもない。今から向かうことにします」

「おう、ありがとうよ」

「こちらこそ伝えて下さりありがとうございます」

 甲斐甲斐しいメッセンジャーに会釈をして、醤油顔は執務室を発った。
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