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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫

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魔王 三


 その日の晩、メイドさんから話があると呼ばれた。

 思い起こせば彼女とは、かれこれ数ヶ月に渡り生活を共にしてきた。けれど、このようなイベントは初めてのことである。これはもしかして、もしかしてしまうのだろうか。いや、そう思わせたところで、むしろ逆のパターンか。

 あれこれと思考は巡る。

 とても平静ではいられない。

 逸る気持ちを抑えながら彼女の部屋に向かった。

「……ソフィアさん。いらっしゃいますか?」

「あ、は、はいっ!」

 軽くドアをノックして声を掛けると、パタパタと室内で彼女の駆ける音が聞こえてきた。早々にドアが開かれて、麗しのメイドさんが姿を現す。その姿は平素からメイド服とは打って変わって、素朴な部屋着である。甚だ中出ししたくなる。

「入っても構いませんか?」

「はい、あの、ど、どうぞ……」

 許可を頂戴して、ソフィアちゃんルームに入室。

 数歩ばかりを歩むと、彼女がドアを閉める音がパタンと響いた。

 妙に強く脳裏に響いた。

「お、おかけ下さいっ!」

「あ、はい。どうも」

 促されるまま、デスクと共に設えられた椅子に腰を落ち着ける。

 対する彼女はと言えば、醤油顔の対面、ベッドの前に立った。

 その振る舞いは酷く落ち着きがない。こちらをチラリと見つめたかと思えば、すぐに視線を逸らす。そうした行いが二度、三度と繰り返された。もじもじと所在なさげに太モモをこすり合わせる様子は、なるほど。

 つまりあれた。

 そういうことだろう。

「…………」

 今宵の童貞は処女膜に飢えております。

 覚悟を決めようではないか。

 膳は据えられた。

「ソフィアさん……」

 腰を上げて、いざ一歩を踏み出そうとした間際の出来事だ。

 意を決したようにソフィアちゃんが声を上げた。

「あの、ま、魔王について、お話がありますっ!」

「……魔王、ですか?」

 なんか違う。

 思ってたのとちょっと違う感じのトーク入り。

 そこはブサメンの名前を呼ぶところから始まって欲しかった。

 浮いてしまった腰を、慌てて椅子に落ち着ける。

「エディタさんにお食事を届けようとして、その、ぐ、偶然から……」

「偶然から、なんでしょうか?」

 オナニーシーンでも拝見してしまったのだろうか。

 そういうときは醤油顔も呼んでくれないと困る。

 オカズは出来立てホヤホヤ、現行犯が一番美味しく頂けるのに。

「偶然から聞いてしまったのですが、もしかしたら、ま、魔王の封印は一日しか持たないそうなんです。だから、その、お、お、お祝いはまだ早いのではないかと、お伝えするべきかと思いましてっ……」

 え、なにそれ。

 初耳なんですけれど。

 思わず食いついてしまうよ。

「すみません、もう少し詳しく伺ってもよいですか?」

「え? あ、いえ、あの……」

「どうされました?」

「わ、私もそこまで詳しく聞いた訳ではなくて……」

 相変わらずこのメイドさん、クリティカルなところを的確に抑えてくるよな。

 今の今まで蕩けていた脳みそが、一瞬にして引き締められてしまったぞ。



◇◆◇



 ソフィアちゃんから一通りお話を確認した。

 あまり詳しくは知らないと語ってみせたとおり、彼女が持っていた情報は酷く断片的なものであった。ただ、それでも魔王の封印が一日しか持たないというのは、そのように先生が呟いていたのは、どうやら確かであるらしい。

 得られた結論は、早急に先生とお話をするべきという事実だ。

「ありがとうございます、ソフィアさん。とても助かりました」

「あの、わ、私は……」

「安心して下さい。貴方が耳としたということは決して誰にも言いません。例えば私が勝手に感づいた、とでもしておきましょう。貴方の好意を無下にするような人は、この屋敷には一人もいませんよ」

「いえ、そ、そういうことではなくてっ……」

「すみませんが、エディタさんのところに向かおうと思います」

 醤油顔は急ぎ足でメイドさんのお部屋を後とする。

 入室当初のドキドキ感は、まるでベクトルの異なるドキドキに打って変わってしまった。人心地付いたと思っていたこともあって、完全な不意打ちだろうか。おかげで気分は日中帯の緊張を取り戻して思える。

 部屋を出た足で、そのままエルフさんのお部屋に直行した。

 コンコンコン、ドアをノックをしてお声がけ。

「すみません、エディタさん。まだ起きていますか?」

「ひっ!?」

 部屋の中から妙な悲鳴が聞こえてきた。

 先生の声であることは間違いない。

 どうやらびっくりさせてしまったようだ。ただ、これといって大きな声で呼びかけた訳でもなければ、ドアへのノックも控えめ。夜中という時間帯も手伝い、努めて穏やかにお声がけさせて頂いた次第である。

 おかげでソフィアちゃんの話に信憑性が湧いてきた。

「な、なんだっ?」

「少し話をしたいのですが、お時間を頂けませんか?」

「……明日じゃ、だ、駄目なのか?」

「できれば今晩の内に話し合っておきたい事柄なのです」

「しかしもう夜も遅いし、このような時間帯に入り浸っては他の者に……」

「いえいえ、夜はまだこれからですよ」

「…………」

 大義名分を腹の中に抱えている都合、いつになく強気でお声がけさせて頂く。すると、ドアの向こう側から反応が途絶えた。

 もしかしてキモがられてしまっただろうか。

 途端に心配になる。

 ただ、それも僅かな間である。ややあって、小さな足音が響いたかと思えば、キィと乾いた音を立ててドアが開かれた。

 その向こう側から姿を表したのは、パジャマ姿のエディタ先生だ。おねむに入る直前の柔らかなスタイルが、ムチムチな先生の在り方と相まって最高だ。思わず抱きまくらにしたい衝動に駆られる。

「……は、入るといい」

「急にやって来て無理を通す形となり、本当にすみません」

「話があるのだろう? か、構わない」

「ありがとうございます」

 促されるまま部屋に足を踏み入れる。

 室内を眺めては視線を一巡させたところ、自ずと意識が向かったのはデスクの上に置かれた小さな指輪だ。まさか忘れるはずもない。本日の日中帯、先生が魔王を封じるのに利用した代物である。

「……まさか、気付いていたのか?」

 部屋に入って直後、デスクの上に注目する醤油顔。

 その姿を確認したことで、金髪ロリムチムチ先生から声が掛かった。

 ここはたぶん、ブサメンが格好つけられる数少ないシーン。

「相手は伊達に齢五百年を重ねていません。些か心配になりましてね」

「っ……」

 ピクリと小さく先生の肩が震えた。

 先見の明を発揮しつつ、それとなく相手を気遣うような言葉遣いが、良い感じだったのではなかろうか。ダンディー、決めてしまったのではなかろうか。キートンとか似合う男になれたのではなかろうか。

「もしも心配事があるようであれば、私に教えてもらえませんか? 一人で問題を抱え込むのは止めましょう。もちろん決して無理にとは言いません。ただ、多少なりとも力になれるのではないかと考えています」

「…………」

 問題を一人で抱え込んで、涙目になりながら必死に事に当たる先生かわいい。

 もしも願いが叶うなら、その様子を陰ながら見守りたい気分である。

「いかがですか?」

 再三に渡り問いかける。

 すると、先生はおずおずといった様子で問い返してきた。

「なんだ。し、知って、いたのか……」

 そこでははたと気づいた。

 ちょっとタンマ。

 魔王様が封印された直後、速攻でお祝いをしようと盛り上がっていたの、他の誰でもない醤油顔じゃなかったろうか。今再ながら過去の自分の行いを思い起こしてたところで、今し方の台詞の危うさを理解である。

 やばい、これはいかん。

「率直に確認させて下さい。長くて数年ほどでしょうか?」

 咄嗟のこと軌道修正。

 まさか素直に翌々日まで持ちますか? などと確認する訳にはいかない。

「っ……そ、それは、だな……」

 おかげで焦りに焦る先生のお顔まで拝見できて幸せだ。

 必死な先生のこと、丹精込めてレイプしたくなる。

「もしかして、もう少し厳しかったでしょうか?」

「いや、その、な、なんだ……」

 別に先生が悪いことをした訳でもない。むしろ活躍に活躍を重ねた英雄的ポジションにいらっしゃる。なのに酷く申し訳なさそうな表情となっている。俯きがちな顔で、ブサメンを上目遣いに見上げるような視線が痛々しい。

「感覚的には、多分……あ、明日の夜には破られる……と、思う」

 絞り出すような声で呟かれた。

 流石にその様子を眺めては罪悪感が湧いてくる。思わずギュッと抱きしめたい気持ちになった。先生のことをギュッと抱きしめて、すぐ近くにあるベッドの上に転がり込んで、魔王様が復活するまで、ズッコンバッ婚したい気分になった。

 ただ、メイドさんとも約束もあるので、ブサメンは演技を継続。

「……なるほど、それでは早急に対策を練る必要がありますね」

「う、うむ」

「今すぐにでも皆を集めて打ち合わせを開きましょう。エディタさんが稼いで下さった貴重な一日を浪費する訳にはいきません。大丈夫です。打倒魔王のパーティーは、明後日以降、予定通りに進める心づもりです」

「っ……そ、そうかっ!」

 そうと決まれば、打倒魔王様に向けて、執務室に全員集合である。



◇◆◇



 醤油顔のお声がけに応じて、皆々は眠い目を擦りながらも集まってくれた。

 おかげで夜中という時分にありながら、町長宅の執務室は賑やかだった。エディタ先生を筆頭として、ロリゴンやエステルちゃん、縦ロールにキモロンゲ、更にはゴンちゃんやノイマン氏、他大勢の関係者一同が詰めかけている。

 その只中、ブサメンの口から用件をお伝えさせて頂いた。

 明日の昼頃にでも、魔王様が再び復活する旨を。

 当然、お呼び立てした皆さまからは、一様に驚愕が返って来た。

「お、おいっ、ってことはまさか……」

 ゴンちゃんの驚愕は醤油顔も胸に響く。街の治安を預かり、本日まで数週間に渡って休みも碌に取らず、尽力して頂いてきた。それがようやっと一段落付いたかと思いきや、明日からが本番ですと、夜中に呼び出された上での通達である。

 そんな会社、自分だったら絶対に辞めてるって。

「明日、決着をつけたいと思います」

「……そうか」

 更に状況はとんでもないほど緊迫している。

 何故ならば我々には魔王様を打倒するだけの手立てが存在していない。最大戦力であるロリゴンの一撃を受けて尚も平然としており、エディタ先生の封印魔法でさえ、わずか一日で突破されてしまう。

 尚且つ、相手の攻撃を受けるには、メルセデスちゃんの肉便器と醤油顔が協力して事にあたり、後者の火力を全て防衛に当てることで、初めて持ちこたえられる。ただ、それも肉便器ちゃんの魔力が尽きたら終わり。

 更にブサメンが飛行魔法を用いて捨て身の特攻を致しても、現状では相手の方が一歩上手。まあ、こちらに関しては火力や守り云々ではなく、ステータスのある一つの値が原因ではないかと思われるけれど。

 そんな具合だから、明日また挑んでも、同様の結果になりそうで怖い。全力を出し切って、それでも圧倒された経験は、思ったよりも強烈だった。まさかこの歳になって、新しくトラウマを覚える羽目になるとは思わなかった。

 今度はピーちゃんに助けて貰えるとも限らない。

「しょ、勝算はあるのか?」

 怖ず怖ずとエディタ先生が問うてきた。

 正直なところ、これにお答えする言葉をブサメンは持たない。

「素直にお伝えしますと、今はまだありません」

「それなら、や、やはり明日もまた封印の魔法で……」

 だとしても、それが金髪ロリムチムチ先生に無理強いする理由には繋がらない。

 それ、完全にブラックの思考じゃん。

 社畜的に考えて、そういうのは絶対に頂けないですわ。

「まさか連日に渡ってエディタさんに負担を掛ける訳にはいきません。それに魔王が二度も三度も大人しく封印されるとは思えないです。今こうしている瞬間にも、彼女は貴方の部屋のデスクの上で、その対策を考えているいることでしょう」

「え? あっ……」

 ふと、何かに気づいた様子のエルフさん。

 その視線が自らの指先に向かった。

 すると、そこには見覚えのある指輪が。

「あ……」

 醤油顔も気づいた。

 それ、魔王様が入ってるヤツじゃん。

「す、すまん! 置いてくるっ! す、す、すぐに部屋に置いてくるっ!」

「……はい」

 先生、魔王様を持ってきちゃってた。魔王様の対策会議に魔王様本人を持ってきてしまっていた。過去、聖女様が首に掛けたペンダント越しに、魔王様が情緒教育を育んでいた点を鑑みれば、皆々のやり取りは全て聞かれてしまったことだろう。

 まあ、そう大したことを喋った訳ではないから良いのだけれど。

「う、うぉぉああああああああっ!」

 悲鳴を上げながら、ダダダと駆け足で執務室を後とするうっかりエルフさん。一連の流れを魔王様がどのような心意気で眺めているのか、醤油顔的には非常に気になるのだけれど、そこのところ、どうなのだろうね。

 個人的にはエディタ先生の良いところ見れた感あるわ。

「……それでは改めて、今後の方針に関して話し合いたいと思います」

 場をとりなすように語るブサメン。

 それでも皆さまの視線は、今まさに部屋を飛び出した先生の背に釘付けであった。

 相変わらず罪な女である。

「だが、旦那が真正面からぶつかっても倒せなかった相手だ。まさか正面からやりあって太刀打ちできるとも思えねぇ。何か策があるのか?」

「すみません、今回ばかりは私もこれといって良い案が浮かんでおりません。最悪、魔王が蘇ったところで、場所を暗黒大陸辺りに移して再戦、といったところでしょうか」

「だ、駄目よっ! そんなの危険だわっ!」

 エステルちゃんが吠えた。

 その必死な表情は、もしかしてブサメンのことを心配して下さっているのだろうか。別れた後も親身になり気遣ってくれるなんて、相変わらず良い女じゃないか。

「ありがとうございます。心配して頂けて嬉しいです」

「っ……べ、べつにっ、仲間として当然の行いだわっ!」

 ただ、そうは言っても他に案がない場合は、なし崩し的にそうならざるを得ないと考えている。

 そして打倒に失敗したのなら、適当なところでメルセデスちゃんの肉便器にお願いして、醤油顔が防戦仕様にモードチェンジ。有り余る筋肉を用いた拿捕からの、先生ご自慢の封印魔法による翌日コンテニュー、といった塩梅だ。

 もちろんこれは先生に語ってみせた通り、最悪のケースではあるが。

「もしも案をお持ちの方がいらっしゃるようでしたら、是非伺いたいのですが……」

 それとなく部屋を見渡してみる。

 ただ、これといって意見が挙がることはなかった。

 魔道貴族やジャーナル教授であれば、或いは良い案を上げてくれるのではないかと期待していた。しかしながら、流石の彼らであっても、魔王様の圧倒的なパワーを前としては難しい表情である。

 あまりにも急な展開だから、当然と言えば当然か。

「ねぇ? そこの聖女様だったらぁ、何か知っているんじゃないのぉ?」

 縦ロールの視線が部屋の隅に向かう。

 そこでは依然として半透明のまま、体育座りとなり身を小さくしているセイントビッチの姿があった。普段ならゴッゴルちゃんが陣取っているポジである。その表情は酷く弱々しいもので、今もガクブルと露骨なまでに怯えている。

 皆々の視線を受けて、それは殊更に顕著なものへ。

「っ……」

 以前と同様、すぐにでも他の人へ乗り移って、現場から逃げ出すかと思われた彼女である。しかしながら、なんでもそれが不可能らしい。本人曰く、魔王様に引剥された際に呪いを掛けられたのだとか。おかげでご覧の有様である。

 魔王様からの絶対殺す宣言と相まって、酷く気落ちしていらっしゃる。

 そんなセイントビッチが醤油顔的には極めてラブい。

 ちなみに我らが褐色ロリータさんはと言えば、部屋の人口密度の都合から、自室でお留守番をお願いしている。当初は反発を受けるかと思ったのだけれど、存外のこと素直に頷いて下さったのが、とても印象的であった。

「し、知らないわ。私は何も、本当に何も……」

「ふぅん?」

「もしも何か知っていたら、教えて頂けるとありがたいですね。これは我々のみならず、聖女様や大聖国の存続にも、大きく関わる話です。当代の魔王は他の誰でもない、貴方という存在に執着しておりますから」

「うぅっ……」

 しかしまあ、自業自得とはいえ、哀れになるほどの怯え具合だ。

 体育座りの股ぐらが、ここぞとばかりにエロい。

 聖女様を弄っていると、不意に魔道貴族から声が掛かった。

「少しばかり考える時間を取るというのはどうだ? こういうのは気分を楽にして考えたほうが、得てして良い案が湧いてくるものだ。しばらく時間をおいてから、またこの場に集まろうではないか」

 それ賛成。

 流石は魔道貴族、素敵な意見をありがとうございます。

「ファーレンさんの仰るとおりですね」

 ここぞとばかりに頷かせてもらう。

 夜の遅い時間に申し訳ないけれど、皆にはあと少しだけお付き合い願いたい。

「それでは今から半刻ばかり、考える時間を取らせて下さい。時計の針が真上に到達しましたら、また皆でこの部屋に集まりましょう。もちろん、体調の優れない方も多いと思いますので、決して無理にとは言いません」

「うむ」

 魔道貴族を筆頭として、皆々から頷く声が上がった。

 ひとまず会議は解散である。



◇◆◇



 町長宅を後にした醤油顔は、その足でドラゴンシティの街へ繰り出した。

 外の空気でも吸って、少し気分転換をしようと考えた次第だ。ゆっくりと散歩でもしていれば、ふとした拍子に良い案が浮かんでくるかもしれない。そんな酷く漠然とした思いに身を委ねた結果である。

「…………」

 魔王様のワンデイ封印に関しては、まだ世間に報告していない。なので界隈的には、未だに魔王の脅威に晒されていることとなっている。おかげで夜の遅い時間帯という点を差し引いても、通りからは人気が引いていた。

 なんとも物悲しい気分だろう。

 そう感じる程度には、自身もまたこの街に愛着が湧いていたようだ。

 これではロリゴンのことを笑えないな。

 足の早い貴族たちなどは、既にトリクリスやプッシー共和国側の街に向かい、動き出しているとの報告もある。一方で数は少ないが、我々ドラゴンシティの対応に賭けたと思しき面々もまた、確かに存在しているのだとノイマン氏が言っていた。

 できることなら、そういった人たちの為にも報いたいところである。

「……さて」

 どうしたものか。

 夜のひんやりとした風を頬に感じながら歩む。自ずと歩みが向かった先は、南の地区に所在する広場だ。大きな通りが互いに交わり合う地点、中央には大きめの噴水など配置したりして、町の人の憩いの場的なイメージ。

 ちなみに噴水の造形はロリゴン。

 どこかで見たようなドラゴンが、炎の代わりに水をジャバジャバと吹いている。

 悔しいけれど恰好いい。

 その傍ら、醤油顔は噴水の縁に腰を掛けた誰かの姿を発見。

 直立したままでもフェラチオできそうな小さい体躯と、スカートと思しきヒラヒラした衣服から、相手がロリータであることを補足。俯いている都合、表情こそ窺えないが、その佇まいは儚さの中にも美しさを兼ね備えた圧倒的おさな美。

 親はどうしたのかと、即座に周囲の様子を確認する。

 しかしながら、同所には他に人の姿が窺えない。野生のロリータが一人で佇んでいる限り。そこでブサメンは考える。夜道を一人であるく幼女に、ブサメンがお声掛けするというシチュエーション。

「…………」

 現代日本では絶対に不可能な芸当だ。万が一にもブザーとか鳴らされたら、過失ゼロでも逮捕待ったなしである。

 しかしながら、異世界ファンタジーなら可能です。

 異世界ファンタジーの懐の広さは異常。うれしい。ということで下心満載のロリコンは、満を持して広場に佇むロリータへお声がけさせて頂こう。

 高まる気持ちを抑えつつ、その下に向かう。

 すると、どうしたことか。

「あ……お小遣いくれる、おじちゃん……」

「おや、こんなところで会うとは奇遇ですね」

 噴水の傍ら、その縁に腰を落ち着けて黄昏ていた幼女は、なんと導きの幼女であった。こちらが語りかけるに応じて、くいと上がったお顔。その造形は忘れる筈もない。過去、幾度となく救われた身の上、彼女には返しても返しきれない恩がある。

 それでも生結合したい。

「こんな夜遅くにどうしたの? お母さんとはぐれてちゃったのかな?」

 きっと首都カリスから観光に訪れていたのだろう。或いは避難してきた、という可能性も無きにしも非ず。ただ、いずれにせよ醤油顔が力足らずであったばかりに、ご迷惑を掛けることになってしまった。

「……ママが怪我しちゃったの」

「え?」

「神官さんもお医者さんも居ないの……ど、どうしよう……」

 マジかよ。一大事じゃん。

 天真爛漫であった彼女が、ここまで落ち込んでいるなんて、きっとママの容態は大変なことになっているに違いあるまい。しかも原因は十中八九で自らの過失だろう。魔王との騒動で巻き込まれたに違いあるまい。

 そして彼女は、ママの為にお医者さんを探して街を彷徨っているのだと。

 とてもではないが平静ではいられないぞ。

「お宿はこのあたりに取っているのかな? 実はおじちゃん、お医者さんなんだ」

「……本当?」

「うん。だから、ママの怪我を治してあげたいんだけれど、駄目かな?」

 涙目で醤油顔を見上げる幼女、切ない。

 なんて切ないんだロリータ。

「ママのところまで、案内してもらえないかな?」

「う、うん」

 できれば親御さんには会いたくなかったぜ。

 娘さんにお小遣いを上げてトークしてもらっていたことがバレてしまうからな。現代日本基準だと完全に援交である。援助のある交際である。交際前提の援助である。幼女は金銭を得る。童貞は異性との交流を得る。酷く歪な二人の関係。

 オチンチンと良心がシンクロして疼く。

 本当に急がないと。



◇◆◇



 導きの幼女と導きの幼女のママが宿泊しているお宿は、噴水のある広場から幾分か離れたところにあった。位置的には旧スラム街に近い煩雑な一角だろうか。比較的規模の小さな家屋が並ぶ界隈である。

 本当ならスラム入りを控えた荒くれたちの貧乏宿を並べるはずであった。ただ、スラム街が過去のものとなり、いつの間にか住宅街と化けた都合、同所もまた下町としての体をなしてきている。

 せめてもの抵抗にと醤油顔は、界隈の建物の新築を行っていない。万が一にもファイアボールしようものなら、ヌイたちが果敢にも挑んでくる。何度かチャレンジして諦めた。おかげでここ数週に渡っては完全に放置であった。

 すると、同所に入居した縦ロール傘下、プッシー共和国の人たちが独力で新しい家屋の建造を始めており、なんかもう荒廃感ゼロの一帯だ。いつかヌイたちが出ていったら、改めてスラム街に戻そうと思う。

 そうした地域の一角、誰かさんのファイアボールに焦げた家屋を整備して作られた建物が、導きの幼女と導きの幼女のママが宿泊するお宿であった。建物自体は地上四階建て。二十平米ほどの居室に、ベッドが二つ並ぶ限りの簡素な部屋だ。

「ママっ! お医者さん、お医者さんがきてくれたよっ!」

 部屋に入るや否や、導きの幼女が駆け出した。

 向かう先にはベッド。

 そこには苦悶を浮かべる女性の姿が。

「い、いいのよ、リズ。それよりも、今は……お、お願い、近くにいて……」

「……ママ?」

 その姿をひと目見て、ブサメンは慌てた。

 ママ、やばい。

 だって掛け布団が真っ赤だもの。

 禄に照明も灯らず、薄暗い居室。表情はおろか肌の色すら満足に窺えない。それでも今し方の弱々しい台詞を耳としては、彼女が長くないことは窺えた。床で娘を求める一方、その身体は腕を上げることも叶わないほど衰弱していた。

 もう長くないと本人も気付いているのだろう。

「すみません、失礼しますね」

 有無を言わさずお部屋へお邪魔すると共に回復魔法。

 ベッドの下、フロアの床に魔法陣が浮かび上がる。応じて立ち上る淡い輝きが、キラキラと輝いて薄暗い部屋を暖かい輝きに照らす。なんとも幻想的な光景だ。これを導きの幼女と共に神妙な面持ちで眺める。

 どれほどそうしていただろう。

 そう長い時間ではなかった。

 ややあって、輝きが収まると共に魔法陣が消え失せる。

 続く反応はベッドの上から与えられた。

「……え、あ、あ……ら?」

 どこか呆けて聞こえる声色だった。

 今し方に耳とした、腹の奥底から絞り出すような声と比較して、多少なりとも余裕の感じられる響きである。怪我の具合を確認した訳ではないので何とも言えないが、ちゃんと癒えて下さったのではなかろうか。

 一つ気になった点があるとすれば、返された声の響きが幼い。

 エンジェル世代な導きの幼女だから、そのママとなればアラサーを想定していた。していたのだけれど、遥かに若々しい響きである。自分と同世代くらいかな、なんて想定が揺らいだ次第である。

「大丈夫ですか?」

「っ……」

 ブサメンがお声掛けしたところ、彼女はビクリと全身を震わせた。

 咄嗟にこちらを見つめて、その表情を強張らせる。

 数歩を歩んでみたところ、驚いたことに若い。想像した以上に若い。二十代中頃、いいや、二十歳ほどではなかろうか。新卒で入ってくる新入社員か、それ以上にピチピチとしていらっしゃる。

「あ、あの……どちらさまでしょうか?」

「ママっ!」

 戸惑うママに構わず、導きの幼女が駆け出した。

 ベッドの縁から母親に抱きつく姿はラブ。

 ピースへ繋がるラブっていうのは、きっとこういうのを言うのだろう。

「リ、リズっ?」

 ところで、どこか覚えのある響きである。リズ。

 きっと良い女になるよ。

 ただし、お股の開き具合に関しては、十分に注意して頂きたし。

「娘さん、良いお名前ですね」

「え? あ、あの……」

 ここで醤油顔がアレンみたいにイケメンであれば、最高にキマった深夜のワンシーンであっただろう。ただ、残念ながら醤油顔は醤油顔であり、ブサメンはブサメンである。どう足掻いても逃れることのない骨格事情。

 ここで醤油顔が貴族の格好でもしていれば、役者の顔面偏差値はさておいて、多少はキマった深夜のワンシーンであっただろう。ただ、残念ながら今のブサメンが装備しているのは、平素からの平民スタイル。

 故にとり得る選択肢は唯一である。

「もしも今後の生活で不都合がありましたら、ここの街の町長の屋敷に向かい、ノイマンという人物に伝えてください。貴方の部下であったタナカという男が、ここへ向かえと言っていたと。それで話は通じる筈です」

「待って下さいっ! 貴方は、あの、ど、どなたでっ……」

「名乗るほどの者ではありませんよ」

 スッと踵を返させて頂く。

 既に名乗った後だと気付いて多少なりともショックを受けながら、それでも颯爽と去るべき場面である。導きの幼女が援交云々、要らぬ口を滑らせる前にさらばである。伊達に金貨とかプレゼントしていない。ママに知られたら絶対ヤバイ額だもの。

 また、それに何よりブサメンは、自らが今一番に欲しているところを頂戴してしまった。今まさに彼女たちからゲットしてしまった。本日に限っては、これまでのように言葉として頂戴する必要もなかった。

「え? あ、あのっ……」

「お医者さんなの! おじさん、お医者さんなのっ!」

「ちょっと待ってリズ、落ち着いて。あの人は……」

「ママのこと、助けてくれたのっ!」

 導きの幼女の嬉しそうな声が部屋に響く。

 深夜という時間帯も手伝い、隣の部屋から速攻で壁ドンとか頂戴してしまっている。左右の部屋からサラウンド。ドンドンドン。めっちゃ叩かれてしまっている。けれど、それが気にならないくらい、今の醤油顔は決心してしまった。

 導き、得てしまったもの。

 明日の晩、ブサメンは魔王様を倒してしまうんだよ。



◇◆◇



 魔道貴族からの提案を経て、再び皆々が執務室に勢揃いした。

 夜も更けた頃合い、それでも誰一人欠けることなく、皆々が同所に集まって下さった。その事実にブサメンは感謝の気持ちで胸が一杯である。本当に良い人たちに巡り会えたものである。縦ロールとか、我先に逃げだすと思っていたよ。

 ありがたくて、ありがたくて、涙がちょちょぎれる。

「おう、どうやら揃ったみたいだぜ? 旦那よ」

「ええ、そのようですね」

 室内を見渡してゴンチャンが言う。

 その視線が巡る先には、神妙な面持ちとなった皆が並ぶ。それとなく部屋の隅の方へ意識をやれば、依然として半透明な聖女様の姿も窺える。相変わらずの体育座りが、醤油顔の意識を引いてならない。

 アストラルマンコをスピリチュアルクンニしたい。

「それでは早速ですが、話し合いの続きを始めましょう」

 話し合いの如何に因らず、魔王様とは戦う腹づもりだ。どれだけ泥臭くなったとしても、絶対に倒す心意気でございます。それが醤油顔の得た導きである。

 ただ、それでも折角こうして時間を設けたのだから、ご意見はご意見で集めさせて頂こう。もしも良い案など頂戴できて、それで今後のやり取りが容易になれば幸いである。

「あ、あの、お茶を煎れてまいりますっ!」

 ソフィアちゃんがパタパタと、執務室に併設された湯沸室へ駆けてゆく。どんな状況でもメイド根性を忘れない娘さんだ。ここ最近は実家にも顔を出して手伝いをしているという話だし、本当に良く働いて下さる。

 その背を見送ったところで、魔道貴族が口を開いた。

「まず一つ提案したいのだが、争いの場を移すことは可能だろうか?」

「と言いますと?」

「魔王の魔法はあまりにも強力だ。流れ弾一つで、近隣の町が壊滅しかねない。封印が解かれるまでに、場所を移しておくべきだと提案する。貴様もせっかく作り上げたこの街が失われるのは寂しかろう」

「確かにファーレンさんの仰るとおりですね」

 最悪、魔王様が周囲の集落を人質に取る可能性もある。聖女様を反面教師にしている彼女だから、そこまでゲスな行いはしないと思いたいけれど、同時に育ての親もまた聖女様だから、いよいよという時分になったら割と分からない。

「そ、そういうことであれば私が手伝おうっ!」

 速攻でエディタ先生が挙手。

 空間魔法の大御所である。

「ありがとうございます。そうなると遠ければ遠い方が良いですね」

「うむ。そうだろうな。だが、流石に大陸を渡るような真似は難しい」

「どの程度の距離を一度に行き来できますか?」

「ここから首都カリスほどの距離なら余裕がある。それ以上となると、回数を重ねる必要があるから、人数が増えるとなると面倒だろう。それくらいの距離感で、人の生活圏から離れた場所が好ましい」

「そうなるとトリクリスから北に向かうべきね。ドルツ山を越えた先は険しい山々が連なる山脈地帯になるから、集落らしい集落もない筈だわ」

「でもリズゥ、魔王様の魔法で山脈が吹き飛んじゃったら、ペニー帝国は北の大国と完全な陸続きよぉ? 後々で面倒なことにならないかしらぁ?」

「……そ、そうね」

「私としては南へ下って海上へ出るべきだと思うわぁ。少し遠いけれどぉ」

「たしかに海上というのは悪くない選択肢じゃのぅ」

 ああだこうだと言葉をかわし始めた面々。

 そうした最中のことだ。

 不意に縦ロールがエディタ先生を見つめては呟いた。

「ところで貴方って、魔王を封印して弱くなってるのに空間魔法が使えるのぉ?」

「っ!」

 何かに気づいた様子のエルフさん。

 思い起こせば魔王様を封印している間の彼女は、エステルちゃん以下の貧弱エルフである。今回の封印魔法だけが例外ということもあるまい。ここ最近は、ずっと最強だったものだから、完全に失念していたようだ。醤油顔も忘れていた。

「そ、そそっ、それはっ、そのっ……」

 急に顔を真っ赤にして、もじもじ始めるの超かわいい。

 肩を小さくして、もにょもにょと声にならない声で呟き始めた姿はレイプ必至。今の彼女なら童貞の腕力であっても、無理矢理組み伏せることが可能だ。その事実が旧来の最強具合と相まって、嗜虐心を大いに唆る。

 縦ロールと先生の相性は抜群だ。

「ゲロス、頼むわねぇ」

「承知っ!」

「…………」

 そんなこんなで議題はひとまず、魔王様と戦う場所を巡って進行だ。

 皆々の間で賑やかにも言葉が交わされ始める。平たい黄色はこちらの世界の地理に疎いので、大人しく聞くに徹する。こういう時に各国から識者が集まってくださっている点が非常に心強い。

 そうこうしていると、湯沸室からメイドさんが戻ってきた。

 大きめのお盆に沢山のカップが並んでいる。傍らには茶請けだろう焼き菓子の類も見受けられる。これを彼女は一つ一つ、丁寧に皆の下へと届けていく。途中で西の勇者様とアレンが手伝いを始めた。

 ブサメンも名乗りを上げたのだけれど、こちらは断られてしまった。

 どうやら顔面偏差値が足りなかったようだ。

「あの、タ、タナカさん、どうぞ……」

 ややあって、醤油顔の下にもカップが届けられる。

 直々にソフィアちゃんから頂けるの嬉しい。

「あ、どうも、ありがとうご……」

 これを横から掻っ攫ったのがメルセデスちゃんだ。

「んぐぐぅうううう、す、すまない、菓子が喉に詰まったっ」

 酷く苦しそうな表情でカップを引ったくり、勢い良く喉に流してゆく。ゴクリゴクリと喉の脈動する様子がエッチだ。切羽詰まった表情と相まってエッチだ。自ずとイラマチオさせたい気分になる。

 カップの中身を半分ほど飲み干したところで、容態が落ち着く。

「ふぅ……すまなかった」

 口から離れたカップ。

 その縁と口の端とで唾液が伸びたの最高。咄嗟に醤油顔は、彼女からカップを手に入れるべく腕を伸ばす。間接キッス。確実に間接キッスを奪いに行くスタイル。唾液が伸びたあたりは確かに覚えた。迷わずその一点を舌先に目指させて頂く所存。

 ただ、この手がカップを掴むことはなかった。

「……ん?」

 彼女の表情が、訝しげに変化した。

 同時にこちらへ戻されようとしていたカップが、腕の伸び切らない内に静止。

 まさかバレたか。

 相手は眼と眼で分かり合える近衛レズだからな。

「どうされました?」

「いや、これは……」

 短く呟いて、彼女は再びカップに口をつけた。

 ちょっと待てよ。やめてよ。

 それ以上飲んだら、中身がなくなってしまうではないか。間接キッスできなくなってしまうではないか。相手はレズかもしれないが、こっちはゲイではない。好きあらばセックスを狙っている生粋のハンターなのだ。

 ただ、そうしたブサメンの思惑など露知らず、彼女は声も大きく吠えた。

「おい、メイドっ!」

「は、はひっ!」

 近衛レズが声も大きくソフィアちゃんを呼びたてる。

 いきなりなんだよ。メイドさん、めっちゃ驚いているじゃないか。相変わらず強気に弱く、弱気に強い女である。そんな体たらくだから、ブサメンはどうしても彼女が輪姦されているところが見たくなってしまうのだ。

「……貴様、タナカの茶に尿を入れたなっ!?」

「っ……」

 続けられたのは、酷く突拍子のない発言。

 居合わせた皆々の意識がメルセデスちゃんとメイドさんに向かう。

 誰もが、え、なにそれ。訴えんばかりの表情だ。

 尿ってなんだよ。

「この風味、間違いないっ、尿だっ! 尿が入っているっ!」

「ちょっと待って下さい、メルセデスさん。幾らなんでもそれは……」

「間違いない! 貴様の茶には尿が入っている!」

 女の口から、尿だ尿だと連呼するなよ。

 童貞が興奮してしまうではないか。

「ちょっと、変な言いがかりは止めて頂戴っ!」

 すぐさまエステルちゃんがメイドさんを助けに入る。

 だがしかし、近衛レズの勢いは一向に収まらない。むしろ、ピスピスと鼻の穴を鳴らしながら、甚だ興奮した様子でカップの中に尿の存在を主張する。手にしたカップをメイドさんに掲げて声高らかに宣言する。

「メイドっ! この男の舌はごまかせたとしても、私の舌はごまかせんぞ!」

 メルセデスちゃんが言うと、妙な説得力があるから困る。けれど、流石にそれはないだろう。きっと他の何かを勘違いしたに違いあるまい。原因は偏になんでも口にしてきた近衛レズの悪食が所以だ。世の中には糞尿と似た香りの食品も決して少なくない。

 醤油顔は申し訳ない気持ちでメイドさんに向き直る。

「ソフィアさん、気にしないでください。彼女は少しばかり……」

 すると、どうしたことか。

「…………」

 ソフィアちゃん、めっちゃプルプルしている。

 嘗てない勢いでプルプルしている。

 しかも、つい今し方まで綺麗だった脇が、ぐっしょりと汗に濡れている。それはもう鮮明に色を変えて、しっとりしとしと。大した時間が経った訳でもないのに、あまりにも急激な変化である。そこはかとなく香るのは次世代乙女のスメル。

「……ソフィアさん?」

「…………」

 だから醤油顔も、気付いてしまった。

 これ、黒だわ。

 今のソフィアちゃん、全てを諦めて観念したソフィアちゃんだわ。

 だって前にも見たことあるもの。

「あの、ソフィアさん……」

「…………」

 もしかして、本当に入れちゃったのだろうか。

 いやしかし、何故に、どうして。

 そんな、嬉しい。
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