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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫
125/131

魔王 一

メリークリスマス!
 紆余曲折を経て、いよいよ決勝戦が始まった。

 魔王様からの初撃を経て、醤油顔が打った手は渾身の回復魔法。空に浮かんだ先生と、地上のロリゴンに向けて、持続型の回復魔法を放たせて頂いた。万が一にも二人が亡くなってしまったのなら、きっと自分も全てを諦めて死んでしまいたくなる。

 だからこそ全力でお見舞させて頂いた。

 すると不幸中の幸い、二人の身体は淡い輝きに包まれてキラキラと。

『ぐ、ぐるるるるるるっ!』

 地上から元気な唸り声が聞こえてきたことに心の底から安堵した。

 先生のムチムチな太モモも元通り。衣服に付着した血液の飛沫こそ消えないけれど、その裾から伸びた艶々な肌の張りは確かなものだ。ここ数ヶ月に渡り鑑賞し続けてきたブサメンが、心底から自信を持ってオススメできる一品である。

 本当に安心した。

 泣きたくなるほど嬉しかったよ。

 ロリゴンと結婚したい。

「エディタさん、すぐに私を地上に降ろして下さい」

「だ、駄目だっ! 当代の魔王は強力だ、今の我々では敵わないっ! それこそ先代の魔王と勇者が組んだとしても、敵うかどうか分からない。それくらい、当代の魔王は育ってしまった。成長してしまったのだっ!」

「だとしても、クリスティーナさんを見捨てる訳にはいきませんよ」

「…………」

 ふと思ったけれど、こういうのってイケメンの役割だよな。

 アレンとかの役割だよな。

 いよいよブサメンにも人生の晴れ舞台がやってきた予感。

「エディタさん」

「……わ、分かった」

 先生が頷くと同時に、再びブサメンの視界が暗転する。熱い風呂から急に出たような感覚と共に、足の裏にステージの硬い感触が返って来た。何度経験しても慣れない。金髪ロリムチムチ先生の空間魔法だ。

 ブサメンと先生は地上に降りた。

 場所は中央のステージから距離を置くこと、会場に設けた最も外郭に近しい観客席の一角だ。界隈では既に観客の退場が始まっており、大勢の観客が我先にと逃げ出す様子が確認できた。急に出現したロリゴンの巨体に驚いてのことだろう。

「どうするつもりだ? 勝機はあるのか?」

 真顔の先生から問われた。

 最高にシリアスしている。今なら先生が先代勇者様のパーティーメンバーとして、魔王様の討伐に加わっていたというお話も、素直に信じられる気がする。思わず当時を想像してしまったよ。だって格好いい。取り分けその横顔が格好いい。

「……それは追々考えましょう」

 多分、あれこれ考えている場合じゃない。

 とりあえずロリゴンのところへ行こう。

 ロリゴンと子作りしたい。

 兎にも角にも出産させたい。

「あ、お、おいっ!」

 飛行魔法でその場を飛び立つ。

 吠える先生に構わず、醤油顔は巨大なドラゴンの鼻先へ。二人の間に割って入り、魔王様へ再び真正面から挑む形だろうか。背後からクリスティーナの吐く生暖かい鼻息が、豪風となって衣服や髪をはためかせる。

『く、来るなっ、こっちに来るなっ! あっちに行けっ! オマエなんて嫌いだ!』

 こんな慌てたロリゴン、久しぶりじゃんね。

 今の自分のポジションって、きっと最悪だと思うよ。大して強くないヒロインが、必死で敵と戦う主人公の足を引っ張っているような感じ。クリスティーナの慌てに慌てた様子からも判断できる。事実、耐久力は彼女のほうが遥かに上だ。

「せっかく生き長らえたのに、また死にに来たのかぇ?」

「…………」

 仰る通りである。

 しかしながら、ここで素直にやられっぱなし、という訳にはいかない。大人しく負けるつもりはないけれど、かと言って彼女たちを巻き込んでまで喧嘩をする理由もない。そうなると大切なのは、魔王様に顔の割れている彼女たちの今後だ。

「もう一つ、確認したいことがありました」

「……なんじゃ?」

「彼女たちは人ではありません。故に貴方が狙うべき相手ではありません」

「だがしかし、その者たちはニンゲンに味方しておろう?」

「私の方から十分に言い聞かせておきますので、見逃しては貰えませんか?」

「いいや、ニンゲンに味方する者もまた、皆殺しじゃ」

「…………」

 随分と好戦的だ。出会って当初のロリゴンを彷彿とさせる。

 伊達に聖女様に育てられていない。

 しかし、そうなると困った。まさか手当たり次第に消費が大きい持続型の回復魔法を掛けていく訳にはいかない。これでも当初と比較しては成長したので、一人や二人であれば、これといって問題ではない。だが、会場には大勢の知り合いがいる。

 その全てを同魔法で守りきることは不可能だ。

 また、魔王様の超攻撃力が相手では、持続型であってもどこまで通用するか分からない。ロリゴンやエディタ先生あたりであれば、一撃死は避けることが出来るかも知れない。ただ、これがエステルちゃんやゴンちゃん辺りになると怪しい。

 醤油顔だって当たりどころが悪ければどうなるのか。

「できることなら私は、貴方と争いたくはありません」

「それは貴様が弱いからじゃろう? 我は少しばかり勘違いしていたようだ。おそらく貴様は得手不得手の差が激しい。落ち着きを持って挑めば、圧倒することは決して難しくはないじゃろうな」

「それはどうでしょうね」

「エルフやドラゴンが動いたのが証拠じゃ。なんなら試してみるかぇ?」

「ええ、そうしましょう」

 取り立てて煽ったつもりもないのに、早々のこと魔王様が釣れた。

 語り口調こそ落ち着いているけれど、根っこの部分では血の気が多い性格なのかもしれない。幾百年と一方的に与えられるばかりであった外界との繋がりが、いざ自らもまた与える側に回ったことで、憤りとして現れているのかもしれない。

 こうなってしまったら仕方がない。

 醤油顔は魔王様と対峙したまま、ロリゴンと先生に語りかける。

「クリスティーナさんとエディタさん、私がこちらを抑えている間に、ソフィアさんやゴンザレスさんなど、会場に居合わせた方々の待避をお願いします。魔王を倒せたとしても、帰る場所がなくなってしまっては意味がありませんから」

「だ、だが、それでは貴様はっ!」

「大丈夫です。魔王の一人や二人、物の数には入りません」

「……本当か? ほ、本当に大丈夫なのか?」

『ぐるるるるる……』

「よろしくお願いします」

 答えを待たずに飛行魔法で飛び上がる。

 すると上手いこと、魔王様はこちらの後に付いて来た。いちいち突っ掛かってくる醤油顔などサクッと倒して、すぐにでも他へ移ろうという算段なのだろう。今はそんな彼女の生真面目さに感謝しつつ、交渉の余地を引き出すのが自らの役目だ。

 ここでブサメンは残存スキルポイントを確認。



パッシブ:
 魔力回復:LvMax
 魔力効率:LvMax
 言語知識:Lv1

アクティブ:
 回復魔法:LvMax
 火炎魔法:Lv125
 浄化魔法:Lv5
 飛行魔法:Lv55
 土木魔法:Lv10

残りスキルポイント:105



 必要なのは火力。

 魔王様の圧倒的なタフネスを突き破る火力である。



パッシブ:
 魔力回復:LvMax
 魔力効率:LvMax
 言語知識:Lv1

アクティブ:
 回復魔法:LvMax
 火炎魔法:Lv230
 浄化魔法:Lv5
 飛行魔法:Lv55
 土木魔法:Lv10

残りスキルポイント:0



 ようし、これでいい。

 持てる限りの火力で迎撃させて頂こう。

 学園都市でのキメラ騒動とは異なり、今度の戦場は地上から数千メートル以上を離れて空の上。周りには雲が浮かんでいる。おかげで他者に気を使うこともなく、全力でファイアボールすることができる。

「どうじゃ? 死に場所は決まったかぇ?」

 振り返ると十数メートルばかりを離れて魔王様が浮いている。

「なかなか悪くない景色じゃないですか」

 今度の敵は的が小さい。更に空間魔法なる厄介な移動を常用する。なので数を用意する必要があるだろう。ただ、それで威力が落ちてしまったら本末転倒である。火力と数、どちらも決しておざなりにならないよう、持てる限りの魔力を込める。

 すると浮かび上がったのは魔法陣。

 直径が二、三メートルほど。

 これが数にして数百という規模で、彼女を囲うように現れた。

 その中央には円錐状の真っ白な輝きが浮かんでいる。長さは大人が両手を広げたほどだろうか。あまりにも眩しくて、詳細な輪郭は定かでない。学園都市で利用したタイプFを小型化して、色を淡くして、更に発色を良くした感じだろうか。

 時折、キンキンと炎らしからぬ甲高い音を発しているのが怖い。

 妙な電磁波とか、出てたりしないよな。

「むっ……」

「ファイアボールッ!」

 まずは様子を確認だ。

 醤油顔が呟くに応じて、最寄りの一つ、真っ白な炎の鏃が飛んゆく。

 当然、魔王様はこれを交わすよう動いた。

 だがしかし、炎の槍は想像以上に速かった。パゥンと甲高い音が響いたかと思えば、次の瞬間には魔王様の脇腹を抉っている。もしも彼女が動かなければ、おそらくは胸のど真ん中に穴が空いていたことだろう。

 魔王様を貫通したそれは、目にも留まらぬ速度で空の彼方へ消えていった。

「……これがファイアボールかぇ?」

「ええまあ、そんなところです」

「碌に見えなんだ。末恐ろしい……」

 サイズ的に頼りないと感じていたのだけれど、決してそんなことはなかった。威力は据え置きでサイズは大幅に小型化、更に同時取り扱い可能数と発射速度が急上昇といった形で、使い勝手が大幅に向上している。タイプFモバイルって感じ。

 これなら仮に彼女が空間魔法を用いて、そこいらじゅうを飛び回ったとしても、どうにか当てることができるのではなかろうか。もちろん、外れた際に地上へ降り注がないよう、発射方向には十分に注意する必要があるけれど。

「どうしましょう、続けますか? こちらとしては……」

「上等じゃ。この場で確実に殺してくれるっ!」

 魔王様の闘争心に火を付けてしまったようだ。

 次の瞬間、ブラジリアンボディーの姿が掻き消えた。案の定、空間魔法による移動である。しかしながら、彼女が次に出現するだろう地点は読めている。醤油顔は彼女の姿が見えなくなると同時に飛行魔法で前へ。

 そして、今の今まで自身が立っていた場所へ下から上に炎をシュート。

「っ!?」

 間髪を容れずにパゥンパゥンと、甲高い音が立て続けに響いた。

 空に身を飛ばしながら、背後を振り返る。

 すると、そこには右半身を削り取られた魔王様の姿があった。こちらの想定通り、醤油顔の視覚外から距離を詰めていようだ。その移動にタイミングを併せて、新型ファイアボールが彼女の肉体を抉った次第である。

 今まさに振り下ろさんと迫った左腕も、肘から先が焼失している。体組織の七割が焼失しており。かなり猟奇的な格好である。一方で碌に血液が吹き出す様子が見られないのは、それが魔族という生き物の仕組みなのか、魔王様が特別なのか。

「ぐっ、こ、このっ……」

 もちろん一撃で倒せるとは思わない。



名前:スカ
性別:女
種族:ハイデーモン
レベル:5938
ジョブ:魔王
HP:12211000/21950000
MP:108900000/108900000
STR:10537500
VIT:9677402
DEX:3204442
AGI:4204442
INT:10778030
LUC:2023329



 けれど、大丈夫だ。ちゃんとダメージも入っている。しかも想像した以上に効いている。この調子であれば、ファイアボールの連打で打倒することができるだろう。クリスティーナ戦ほど苦労することもあるまい。

 などと状況を整理していると、不意に彼女の全身が淡い輝きに包まれた。

 それは世界を渡って以来、自身もまた何かにつけてお世話になっている癒しの光である。暖かな輝きは彼女の肉体を一瞬のうちに元あった通り治した。このあたりの応酬はぺぺ山でのクリスティーナ戦も然り。今となっては驚かない。

 ただ、その輝きは魔王様の肉体を癒や終えて尚も、一向に失わなかった。

「まさか、あのニンゲンに感謝する日が来るとはおもわなんだ」

「……なるほど」

 持続型の回復魔法である。

 無敵のキラキラだ。



名前:スカ
性別:女
種族:ハイデーモン
レベル:5938
ジョブ:魔王
HP:21950000/21950000
MP:2000/108900000
STR:10537500
VIT:9677402
DEX:3204442
AGI:4204442
INT:10778030
LUC:2023329



 いつぞやぺぺ山でのこと、クリスティーナ戦当時のブサメンを思い起こすステータスである。魔力の消費的に考えても間違いない。全回復までは目を瞑ったとしても、流石にこれは反則ではなかろうか。

 今の台詞からすると、聖女様の魔法を見て色々と学んできたのだろう。そう考えるとセイントビッチも、こと回復魔法においては大した手練であったに違いあるまい。なかなか母親しているではないか。

「次からはこうはいかんぞぇ……」

 ただ、おかげで相手の魔法を封じ込めることができた。今の彼女には空間魔法を連発する余裕がない。持続型の回復魔法は常時魔力を消費する。しかもその度合が非常に大きいのだ。どれだけ優れた自然回復が行われたとしても、少なからず時間を要する。

 これが彼女の戦いでは醤油顔に対して大きな勝機となる。先程は神がかり的に瞬間移動からの攻撃を避けることが出来た。だが、同じことを二度も三度も出来るとは思えない。そう考えると決して悪くないトレードオフ。

 という事にしておこう。

 もう数発ばかり撃っていれば、この瞬間にでも終わってたのにな。

 運がないぜ。

「どうやら、そのようですね」

 ここから先は例によって、飛行魔法で空を飛び回りながらのファイアボール大感謝祭。魔力が枯渇するまで撃って撃って撃ちまくり。糞尿を垂れ流しながら、精根尽き果てるまでリアルシューティングゲーム。

 こちらの瞬間最大与ダメが、魔王様の体力回復量を越えることができたら、醤油顔の勝ち。越えることができないまま、彼女に魔力の回復を許してしまったら、魔王様の勝ち。そんな酷く単純なボス戦となるだろう。

 ファイアボールにポイント全振りしておいて良かった。

「やはり貴様は危険じゃ。この場で必ず始末してくれるっ!」

 勿体ぶってないで、最初から全力で挑むべきだろう。



◇◆◇



【ソフィアちゃん視点】

 大変です、大会に魔王様がやって来てしまいました。

 当初は誰もが戸惑っておりました。何故ならば当代の魔王様は、とても綺麗な女性の姿をしておりました。まさか彼女が世界中を震撼させている魔王様だとは、ひと目見て判断できた人はいないでしょう。

 ですが、それも戦いが始まるまでのことです。

 元の姿を取り戻したドラゴンさんが、魔王様に一撃で倒されてしまいました。これを目の当たりとして、誰もが一目散に逃げ出し始めました。大勢の人が詰めかけた観客席は、それはもう酷いことになっております。

 黄昏の団の方々が整理に当たっておりますが、焼け石に水ですね。

「おいこらっ、押すんじゃねぇよっ!」「やめろっ、ふ、踏むなぁっ! 娘が倒れているんだよぉぉおっ!」「ママァアアアアアアアア! 助けてママァァァァァアアアア!」「痛いっ! 痛いよぉっ!」「ちょっと! わたしのこと引っ掻いたの誰っ!?」「こっちくるなっ! 潰れるっ、潰れちまうよぉっ!」

 阿鼻叫喚地獄です。

 何故にメイドがこれに巻き込まれず、落ち着いて様子を窺うことが出来ているかと言えば、それはひとえに逃げることを諦めたからでございます。参加者控室に腰を落ち着けて、諦観の念で会場の様子を眺めております。

「…………」

 既に他の皆さんは逃げ出された後です。

 大会も決勝戦まで進み、元より人気の疎らな同所でありました。いつの間にやらエルフさんやエステル様の姿も消えており、更に魔王様の魔法をより近くで眺めんと、ファーレン様やジャーナル教授が出て行かれれば、メイドが残るばかりでした。

 これに仕えていたメイドたちも、我先にと去って行ってしまいました。

「…………」

 傍らのテーブルに置かれていたカップを手に取り傾けます。幾分かぬるくなったお茶を喉に流し込んでは、ふぅとため息など一つ。喧騒も甚だしい会場とは打って変わって、妙に静かな控室でしょうか。

 おかげで私は自分でも不思議なほど落ち着いております。

「みんな落ち着けっ! 聖女様が助けに来てくれるはずだっ! 聖女様がっ!」「そうよっ! 聖女様ならきっと私たちを助けて下さるわっ!」「馬鹿を言えっ! 助けに来るわけがないだろっ!?」「そうよっ! さっきの見てなかったのっ!?」「魔王の前でタナカ伯爵に命乞いしてたじゃないのっ!」

「聖女様なんて当てにならねぇっ! 信じられるのは自分だけだっ!」「さっきの話が本当なら、魔王を育てたのは他の誰でもない、聖女様じゃねぇかっ!」「俺は前々から、あの国の連中はきな臭えと思ってたんだよっ!」「まったくだ! 聖女なんてクソ食らえだっ!」「ああそうだっ! 聖女様なんて二度と信じるものかっ!」

 そこらかしこから誰かの憤りが響いてまいります。

 とてもではありませんが、ここから出る気にはなりませんね。これで魔法の一つでも使えたのなら、颯爽と空を飛んで、という選択肢もあったのでしょう。しかし、残念ながらメイドは空を飛ぶことはおろか、指先のロウソクほどの火を灯すことさえできません。

「……どうしましょう」

 いつまでこうしていましょうか。

 魔王様はタナカさんと共に空へ飛び立ってしまいました。ステージを占領していたドラゴンさんも、いつの間にやら姿を人の形に縮めて、どこへとも消えた後でございます。大会中、ちょくちょくと顔を見せていたゴンザレスさんも、訪れる気配はありません。

 いつも私に指示を下さる方が、誰もいらっしゃらないのです。

「…………」

 しばらく会場の様子を眺めながら呆けておりました。

 すると不意に傍ら、人の気配が生まれました。

「こ、こんなところにいたのかっ!」

 エルフさんです。

 声の聞こえてきた方を振り向くと、そこには酷く慌てていらっしゃるエルフさんがおりました。ただ、メイドの姿を確認したところで、そのお顔に少なからず安堵の色が戻ります。もしかしてエルフさん、私などのことを心配して下さったのでしょうか。

「あ、あの、皆さんは無事で……」

「ああ、無事だ! 今し方に貴族の娘を送り届けてきたところだ」

 ニッと笑みを浮かべて語られました。

 貴族の娘というのは、エステル様を指してのお話でしょう。

 良かったです。エステル様が無事で、とても良かったです。

「どうしても貴様の姿だけが見つからなかったのだが、まさか、ここに残っているとは思わなかった。やはり、あ、あれか! 上で戦っているあの男を待って、一人でここで残っていたという訳だなっ!?」

「え? あ、いえ、べ、別にそういった訳では……」

「だがしかし、ここは危険だ。建物の倒壊に巻き込まれる可能性もある」

 少し勘違いをされてしまったかもしれません。ただ、焦り調子で早口に続けられるエルフさんですから、それを遮ってまで否定することも憚られます。私は素直にお言葉を聞かせて頂きましょう。

「移動するぞっ!」

「は、はい」

 促されるに応じて、メイドはその場で起立にございます。

 すると次の瞬間、足元には魔法陣が浮かび上がりました。

 ここ数ヶ月で随分と見慣れて思える図柄でしょうか。

「むぅんっ!」

 エルフさんの可愛らしい掛け声と共に、周囲の光景が変化します。一瞬、足元がぐらついたかと思うと、暗転。そして数瞬の後には、今の今まで眺めていた控室がどこへとも消えて、新たに広々とした草原の只中といった具合です。

 少し離れてドラゴンシティの壁が見受けられます。

 恐らく大会会場を出て、しばらく歩いた程度の距離感でしょうか。

「ソフィっ!」

 直後、名前を呼ばれました。

 エステル様です。

 数歩ばかりを駆けた彼女に、正面から抱きつかれてしまいました。思ったよりも勢いが付いており、危ういところで倒れそうになりました。互いの身体が触れ合うに応じて、ふわりと良い香りが鼻腔をくすぐります。

 エステル様、とても香り高いです。

「エ、エステルさまっ……」

「無事で良かったわっ! 本当に良かったっ!」

「それは、あ、あのっ、エステル様も無事でなによりですっ!」

「ええ、本当になによりだわ! これほど嬉しいことはないものっ!」

 ここまで心配して頂けるとは恐縮ございます。

 同時にとても嬉しくて、思わず目元に熱いものが浮かんできてしまいました。

「貴方ってぇ、なんだかんだで運が良いのよねぇ?」

 すぐ近くには縦ロール様もいらっしゃいました。

 また彼女の傍らには、従者の方の姿もございます。他にもエステル様が連れられていたダークエルフの方や、ゾフィー様、アレン様、アシュレイ・アウフシュタイナー様など、私も面識のある方々が大勢いらっしゃいます。

 どうやら皆さん、揃って避難されてきたのでしょう。

 他にもこちらの界隈では、大会へ観光に来ていただろうお客さんの姿が見受けられます。まるで難民キャンプのように一定の人数で集まっては、お互いに再会を喜んだり、別れを悲しんだり、そこらかしこに言葉を交わす様子が窺えます。

「しかしまあ、相変わらずタナカのヤツは大したものだな」

 ノイマンさんが空を眺めて仰られました。

 これに促されて、自然とメイドの意識もまた頭上に向かいます。すると遥空の彼方で、ズドンズドンと炎の散る様子が窺えました。空の一角が真っ白な炎の花が開いては、その辺りに浮かんでいた雲が霧散します。

「え、あ……あの、もしかして、あれは……」

「そうよっ、彼よっ! 彼が頑張っているのだわっ!」

 エステル様が力強く頷かれました。

 どうやらタナカさんのようです。どれほど高い空で戦われているのでしょうか。あまりにも遠くて、私には彼の姿を目で見て確認することができません。ただ、断続的に響く爆発音と、これに併せて現れる炎の煌めきが、その存在を窺わせます。

 それとなく皆さまの様子を窺わせて頂けば、メイドに限らず、誰も彼もが同じように顎を上げて、タナカさんの戦われる様子を眺めております。これは我々に限らず、界隈に居合わせた方々もまた同様です。

 決勝戦は空の上での試合になってしまいましたね。

「ちゃんと勝ってくれるのかしらぁ?」

「か、勝つわよっ! 彼は絶対に勝つのだからっ!」

 エステル様の力強い言葉が、界隈に一等大きく響いては聞こえました。



◇◆◇



 魔王様を相手に醤油顔は頑張った。

 飛行魔法で空を飛び回りつつ、ファイアボールしまくった。それはもう一生分を放った気分である。実際に数えてはいないけれど、五桁近くを撃ったのではなかろうか。後先考えないで湯水の如く、ここぞとばかり放ってみせた。

 しかしながら、醤油顔は魔王様を倒し切る事はできなかった。



名前:スカ
性別:女
種族:ハイデーモン
レベル:5938
ジョブ:魔王
HP:21950000/21950000
MP:102000/108900000
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LUC:2023329



 魔王様の体力を削りきること敵わないまま、醤油顔は彼女の魔力の回復を許してしまった。そして、魔法という選択肢を取り戻した彼女は圧倒的で、治癒に専念しても追いつかなかった。逆にこちらの魔力が枯渇してしまった。

 足りなかったのは火力。

 最終的には空に浮かんでいることも出来なくなり、地上に落ちた。

 今、ブサメンの身体はステージの中央に仰向けで横たわっている。

 両手両足を魔王様の魔法により拘束されて、ろくに動くことも叶わない。光り輝く輪っかのようなものが、不細工な四肢を大の字に固定している。どうやら人体を拘束する類の魔法のようで、破壊を試みてはいるのだけれど、これがなかなか難しい。

 四肢の犠牲を前提にファイアボールをぶつけてもみたのだけれど、霧散から直後、すぐに復活してしまうのだ。そこはかとなく逆レイプ感があって、それはそれで嬉しいのだけれど、これを楽しむ余裕は皆無である。

 更に全裸。

 圧倒的なまでに全裸。

 衣服は下着や靴下に至るまで、魔王様の魔法で焼け落ちてしまった。どんな魔法も跳ね返す伝説の鎧も非常に魅力的ではあるが、個人的にはどれだけ激しくダメージを受けても決して破けないトランクスが欲しい。

「存外のこと粘ったのぅ……」

「……恐縮です」

 空には幾らばかりか距離をおいて魔王様の姿がある。

 宙に浮かんで、ブサメンのことを見下ろしている。

 おかげで悠久の丘を下から見上げるという最高のロケーション。これが人生最後の光景になるというのであれば、まあ、なかなか悪くないものかもしれない。可能であれば、そのままブサメンの元に歩み寄り、おもむろに手コキして欲しかった。

 ただ、残念ながら息子もまた疲労困憊。腹の上に横たわり、ピクリとも動かない。まるで夏場のアスファルト、枯れてしまったミミズのようである。終ぞ彼には己が生まれてきた理由を与えることができなかった。

「…………」

「…………」

 否応なく意識させられるのは両者が持って生まれた運の違いだ。

 それこそ努力の全てを否定されているようで、あまり考えたいことではない。しかしながら、そう意識せざるを得ない僅差だ。途中、かなり良いところまで攻めた。残りHP的にご指摘させて頂くと一桁である。

 けれど、最終的には挽回されてしまった。

 これは勝手な想像だけれど、魔王様もそれを感じているのではなかろうか。今の両者の立ち位置が、それこそ紙一重の僅差から成り立っているのではないかと。こちらに向けて語り掛ける様子が、試合開始直後と比較して、幾分か緊張して思える。

「思ったよりも落ち着いているようじゃが?」

「…………」

 ひとまず身の回りの人たちを逃せたというのが大きい。

 思ったよりも強力であった魔王様に、酷く妥協した人生のゴール設定が垣間見える。このまま死んでも、まあ良いかと思えるくらいの疲労感がある。長い距離を走りきった後のような脱力感だ。

「まあいい。これで貴様は終わりじゃ」

 空には巨大な炎の塊が浮かんでいる。

 魔王様の魔法だ。

 最後の最後までファイアボールらしい。

 正直、終わりたくないですわ。

 しかしながら、碌に身体が動かないから仕方がない。

 だから醤油顔は全てを諦めて、目を瞑る。次はイケメンに生まれ変われるようにと祈って瞑る。もしも今生に幸いであった点を探すとすれば、頭上に浮かんだファイアボールの火力だろうか。これだけのサイズなら、苦しまずに逝けることだろう。

 三十代、四十代というのは複雑な年頃なのだ。

 もう少し若かったら、うぉぉぉおお、とか最後まで熱血したかもしれない。

 でも既に人生も折り返し地点、色々と考え始めちゃう。

 これで状況が闘病の末にベッドの上で、とかだったら最高に心苦しかったと思う。職場の同僚が三十九で逝った。末期がんだった。苦しんで苦しんで、最後まで苦しみ抜いて、最後は死にたくないと声にならない声で訴えながら死んだ。

 奥さんは翌日に笑顔で、旦那の保険金の額を自慢していた。

 対して今の自身がおかれた状況はと言えば、紛いなりにも全力を出して、友人知人の為に努力した。親しい人たちの為に多少の猶予を稼ぐことができた。その末に一瞬での蒸発を待ちながらカウントダウン。もしかしたら、涙を流してくれるロリビッチが一人くらいいるかも。

 そう考えると、意外と悪い気分ではない。

 なかなか英雄的な最後じゃないの。

 ブサメンにしては上出来だ。

「これで終わりだ」

 魔王様の声が響く。

 ファイアボールの放たれた気配。

 間髪を容れずに響き渡る爆音。

 ゲームオーバーの瞬間。

 終わったぜ。

 あふん。

「…………」

 しかしながら、醤油顔の肉体は一向に痛むことなく、揺らぐことなく、変わらず瓦礫の上に横たわっているからどうしたことか。頬に僅かばかり、ちりちりと炎の気配が感じられる。その痺れるような痛みに自らの生を感じる。

 疑問に思い目を開くと、横たわる自身の傍らに、見知った相手が立っていた。

「……ピーコックさん」

 空に浮かんだ魔王様。そのスージーが人影に隠されている。視界を遮っているのは、ミニスカの奥に控えた女物の下着越しにペニークリトリス。出処の知れない偽乳や、妙に形の良いメス尻の存在と相まって、やはり見ていて無性に悔しい気分となる。

 爆風にはためくスカートが、なんかこう、やたらと格好良いんだけれどさ。

「随分とだらしない格好をしているじゃないか」

「……ピーコックさん、あれは?」

 更に高みへと視線を移したところ、彼の他に誰かの姿がある。

 いいや、誰かというのは些か語弊のある有り様だ。それは酷く巨大で、あまりにもグロテスクな代物である。それこそ学園都市で眺めた、先代の魔王様の肉片の成れの果てを思い起こさせる。

 そんな代物が空に浮かび、魔王様のファイアボールの直撃を受け止めていた。

 あちこち焦げて、プスプスと煙を上げている。

「慌てるなよ? あいつは僕の制御下にある。もう暴走したりしない」

「…………」

 思い起こさせるもなにも、本物だった。

 確認の意味も込めて問いかける。

「まさかそれは……」

「ほ、本当ならオマエを倒すための魔法だったんだからなっ!?」

 ピーちゃんの訴えるところ、突如として現れた肉の塊に意識を移す。



名前:エリン
性別:男
種族:キメラハイデーモン
レベル:3205
ジョブ:元魔王
HP:1950000/21950000
MP:18900000/18900000
STR:2537500
VIT:4677402
DEX:622994
AGI:14442
INT:4778030
LUC:123329



 マジもんだ。

 しかも以前と比較して、随分とコンパクトにまとまっている。サイズ感としては軽自動車ほどだろうか。学園都市で出会った圧倒的な巨漢と比較しては、有り得ないモバイル化である。まさか今も研究を継続していたとは思わなかった。

 ピーちゃん、そういうのズルいと思うよ。

 最高に格好いいじゃん。

 今ならしゃぶられても良いかと言えば、流石に抵抗はあるけれど、先っちょだけならば妥協できるかと言えば、それでも考えてしまうけれど、こうして思案すること自体が失礼であると心底恥じるくらい、君のことを尊重したい。

 彼が晒された環境は劣悪であっても、当人が備えた才能と向上心は本物であった。

 並大抵の努力ではあるまい。

 メス堕ち戦士ピーちゃん、尊敬してしまうよ。

「どういった心変わりですか?」

「い、今の僕はしゃぶるより、しゃぶらせたい気分なんだよっ!」

「……なるほど」

 ただ、その訴えは正直、意味が分からない。

 ショタチンポの影響を受けたのだろうか。

 実は仲が良いんじゃないかって勘ぐってしまうぞ。

「さっさと立てよっ! また攻撃されるぞっ!?」

 恐らく会場での騒動を耳として、外から戻って来たのだろう。一連の混乱に乗じたことで、元魔王もすんなりと会場まで運び込むことができたに違いない。平時であれば、まず間違いなく警備の人たちが止めている。

「ありがとうございます。ですが、これがなかなか強固な枷でして」

「そ、それくらいなんとかしろよっ!」

「頑張ってはいるのですが、いかんせん魔法的なアプローチが通じなくてですね」

 本人の思いはどうあれ、ブサメンは九死に一生を得た。まさかピーちゃんに命を救われる日が来るとは思わなかった。ビックリだ。そう思うと、もう少し生き延びたいと願ってしまう。世の中、もっと楽しいことが沢山ありそうな気がしてくる。

 生きてそれを感じたい。

 しかしながら、差し迫った脅威は一向に衰えるところを知らない。それは彼が従えた肉壁の耐久力からも明らかである。エディタ先生からもご指摘を頂戴した通り、当代の魔王様はきっと最強なのだろう。

 一晩を眠って万全の体調で挑んでも、やっぱり同じようにギリギリのところで敗北しそうな気がする。倒しきれない気がする。せめてもう少し、このブサメンに幸が残されていたら良かったとは、切に願うところだ。

 そういう思考がそもそも駄目だという意見はあるけれど、どうしても感じてしまう。

「ピーコックさん、急いで逃げて下さい。ここは危険ですよ」

「どこへ逃げても一緒だろ? 相手は魔王なんだから……」

「わかりますか?」

「僕が使っているのも、元々は魔王だったものだ」

「なるほど」

 それとなく彼の様子を窺えば、膝がガクガクと震えている。露骨なまでに痩せ我慢していらっしゃる。それでも空に浮かんだ魔王様をキリリと睨みつけては仁王立ち。一歩として引くことなく、醤油顔を庇うように立っている。

 女々しいとか思ってしまった過去にごめんなさい。

 今この瞬間、他の誰よりも雄々しいよ。

 しかしながら、彼のキメラ体では数発と持たない。このままステージ上に残っても、次の攻撃で消し炭となるだろう。仮に代打が控えていたとしても、すぐに用意できるとは思えない。見たところ近くにそれらしい姿も窺えない。

 どうしよう。

 本当にどうしよう。

「ピーコックさん、彼女は私を狙っています」

「だ、だったらなんだよっ」

 手足に嵌められた枷は、一向に外れそうにない。

 女々しくも雄々しい彼に、ブサメンは語って聞かせる。

「せめて貴方だけでも逃げて下さい。私は貴方を死なせたくない」

「っ……」

 どうしようもないけれど、どうにかしなければならない。

 困ったな。

 本当に困ったなぁ。

 碌に身動き取れないし。

 そうこうしているうちに魔王様が動いた。飛行魔法で身を飛ばせたかと思えば、ピーちゃんのキメラ体に近づいて回し蹴り。ドスンと大きな音が響くと同時、元魔王さまはステージ脇へとすっ飛んでいった。

 あっという間に場外である。

 以降、事切れたように力を失って、ピクリとも動かなくなった。

「なかなか頼りがいのある仲間じゃのぅ」

「ええ、そうでしょう。これは私の勝手な想像ですが、おそらく彼は貴方と似たような境遇で生まれ育ってきた方です。だからこそ、今まさに貴方が抱えている痛みを分かち合える方だと思いますよ」

「……だとしても、ニンゲンじゃろう?」

「魔族ですよ。ぜひ仲間に迎えて上げて下さい」

「ふんっ、死に損ないが下らない嘘を吐きおって」

 吐き捨てるように呟いて、魔王様がピーちゃんを睨みつける。

 ビクリと全身を震わせる女装子。

 ただ、彼は一歩を前に出ると、声高らかに言った。

「二、二、ニンゲンで悪いかよっ!? 魔王だからって、ニンゲンを舐め……」

 一世一代、ピーちゃんの恰好いいシーン。

 とりあえず粋がるところから始まる彼の口上は、慣れてくると少し面白い。

 ただ、その台詞が最後まで大会の会場に響くことはなかった。

 代わりに彼の声をかき消すよう、他所から誰かの叫びが。

「肉の契は魂の契。汝が遍く欲望には底がなく、これを求める私は咎の坩堝。そこに注ぎし命の芽吹きは、人の力にして魂の脈動。雄々しき体躯に相応しき肉体を彼の下へ与えたまへ! 魔装変換リンカーン!」

 呪文っぽい響きだった。

 間髪を容れず醤油顔の肉体に変化が訪れる。

「うぉっ!?」

 身体が急に軽くなった。

 何故だかしらないが、急にやる気が漲ってきた。今まさに両手両足を拘束している枷が、なんだろう、引っ張ったら引き千切ることができるのではなかろうか。そんな淡い期待さえ湧いてくるほどにパワーが溢れてきたぞ。

 咄嗟に声の聞こえてきた方を振り返る。

 するとどうしたことか、そこにはメルセデスちゃんの肉便器。

 全身タイツにローブを羽織った流行のスタイル。

 彼女はブサメンに向かって大きな声で叫んだ。

「タナカ伯爵、私は気づきました。ひ弱な魔法使いであっても、この魔法を用いれば屈強な男を圧倒するだけの腕力を手に入れることができます。すると、どうしたことでしょう。より激しい行為へ至ることができるのですっ!」

「……なるほど」

 正直、よく分からない。

 しかしながら、彼女がブサメンの具合を改善してくれたのは間違いない。

 何がどうなったとばかり、ステータスを確認だ。



名前:タナカ
性別:男
種族:人間
レベル:315
ジョブ:錬金術師
HP:820000140/820000140
MP:10800/390800
STR:19001
VIT:50800100
DEX:30900
AGI:61012
INT:72010
LUC:-50200



 これはあれだ。大会の試合中、肉便器ちゃんが使っていた魔法だ。

 おかげで知将ポジだったステータスが、完全に脳筋ポジではないか。ゴンちゃんと同タイプのマッスルキャラになってしまっている。劇的に下がったINTの値に不安を感じるのだけれど、これは大丈夫だろうか。

 試しに身体を起こしてみる。

 するとどうしたことか、両手両足に与えられていた枷が消失した。

 スゲェ。

 マッスル、スゲェ。

「ちぃっ、くたばり損ないがっ」

 おもむろに立ち上がった醤油顔に対して、警戒の色を濃くした魔王様から一撃。

 瞬く間に近づいてきた彼女から、腹パン攻撃が繰り出された。咄嗟に腹筋へ力を入れて備える醤油顔。何故ならば回復魔法を使う余裕がない。今まさに確認したところ、肝心なパラメータが軒並み低下している。

 すると、どうしたことか。

「ぬっ……」

「おっ、おぉう……」

 驚いたことに彼女の拳は、中年オヤジの小太りボディーに止まっていた。

 逆説的に考えると、中年オヤジの小太りボディーに美女の拳が触れている。

 いい感じ、じゃないか。

 これだから異性との肉弾戦は堪らないな。

「な、な、なんだと……」

 これが筋肉を有する者たちが味わっていた優越感か。他人の拳を腹筋で受け止める快感が、まさかこれほどのものとは思わなかった。ちょっと痛かったけれど、だとしても声に出すほどでもないという驚愕の事実。

 お腹、痛くない。痛くないよ。

 まだまだイケる感が、自らの内側に熱いものを滾らせてゆく。

「…………」

 筋肉最高。

 筋肉絶対。

 筋肉だけは決して自分を裏切らない。

 これはいよいよ醤油顔の時代がやってまいりましたわ。

「……どうしました? 痛くも痒くもありませんね」

 言っちゃった。言っちゃったよ。

 ドヤ顔で語ってしまったよ。

 こういう台詞、腹パンを受けてから、平然と主張してみたかった。

 心が震える。

 弱りきっていた中年のメンタルが、勇ましく奮い立つのを感じる。

「ぐっ……」

 大慌てで距離を取る魔王様。

 そんな彼女に悠然と向き合う醤油顔はマッチョ。

 絶対にマッチョだって。お肉は弛んだままだけれど、きっと、内側とか凄いことになっている。きっと一皮剥ければ、ゴンちゃんに匹敵するくらいの肉体美を手に入れてしまっているのだって。

「トトさん、ありがとうございます」

「お礼はいいので、あとでちゃんと相手をして下さい」

「……考えておきます」

 ピーちゃんのみならず、肉便器ちゃんにまで救われてしまったぜ。

 彼女らしい決め台詞が実にクールだった。

 きちんとレイプしたい気分になった。

 これはもう頑張るしかないな。魔王様の腹パンを自らの肉体に受け止めたことで、醤油顔は自身の内側に、やる気と根気と、そして何よりも自信が漲ってるのを感じる。肉体が強いというのは、それだけで生きるエネルギーに繋がるぞ。

 やっぱり男だったら、筋肉で戦ってなんぼだよな。

 帰ったら絶対に筋トレする。

「じょ、上等だ。すぐにまた負かしてくれるっ」

「受けて立ちましょう」

 果たして彼女に攻めきれるだろうか。

 メルセデスちゃんの肉便器が、ただ犯され続けたい一心で開発したこの魔法を。
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