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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫

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武闘会 十三


 さて、午後の試合が始まった。

 色々と思うところはあるけれど、既にこちらから打てる手立てはない。出来ることはと言えば、穏やかな心持ちで事の成り行きを眺める程度だろうか。ここまで来ると、逆に気分が落ち着いてくるから不思議である。

「それでは準決勝に進みたいと思います」

 決勝が近いことも手伝い、会場の盛り上がりはそれなりだ。醤油顔が語るに応じて、観客席からはわっと声が上がった。西の勇者様こそ負けてしまったが、その事実に困っているのはペニー帝国のお偉方くらいだろうか。

 一方で他国からいらした皆様は、ペニー帝国を出し抜く絶好の機会である。それはもう爛々とした眼差しでステージを眺めていらっしゃる。きっと水面下では人材のスカウト合戦とか始まっているのではなかろうか。

 陛下や宰相あたりは今まさに、貴賓席で肩身の狭い思いをしているのだろうな。

「さて、本大会も残すところ三試合。ついぞ準決勝まで進んでしまったのは、ドラゴンシティの外縁を囲う壁でございます。まさかこのまま決勝まで進んでしまうのか。流石にそれは格好が付きませんので、どうにか本試合で破壊して頂きたいところですね」

 相変わらずロリゴンは貴賓席で、ほっぺにクリームを付けている。

 さっきは左側のほっぺだけだったけど、今は右のほっぺにもペタリ。

 隣では陛下が祈るような眼差しをステージの上、壁に向けている。その更に隣では、幾らか興奮した面持ちで王女様が醤油顔にアイコンタクトをチラチラと。さっさと自分の出番を作れということだろう。

 彼女の傍らに立ったメルセデスちゃんが、やたらとモジモジしているの気になる。

「これに対するのは、ルトラール・バチェラー選手です。その覆面の下には、果たしてどのような素顔が隠されているのでしょうか。未だ全てが謎に包まれているおります。その素性を巡っては会場の外でも噂が絶えないそうですね」

 心にもないことを語ってしまったぜ。

 ご覧のとおりだ。



名前:イード・S・エルメス
性別:女
種族:人間
レベル:437
ジョブ:聖女
HP:16120/16120
MP:208001/208001
STR:12030
VIT:10655
DEX:101000
AGI:13710
INT:151210
LUC:19420



 結局、聖女様は試合の直前になってやって来た。

 しかも本日は最初から聖女様仕様だった。

 一縷の望みを託して彼女を出迎えた醤油顔ではあるが、用意周到な彼女は決して一人になることなく、どこを歩むにも大衆の面前を過ぎて会場入り。控室からステージ上へ至るに際しても、窓枠から飛行魔法を用いての用意周到っぷり。

 多分、会場全体が人質ってことなのだろうな。

 伊達に長いこと生きていない。そこに我々の付け入る隙きはなかった。

「それでは試合を始めて下さい」

 ブサメンは若干やけくそ気味に試合開始をアナウンス。

 壁はどこまで行っても壁なので、これといって自分から動くことはない。当然、能動的に仕掛けるのは聖女様となる。正面にモノリスを相手取り、何やらブツブツと呪文の詠唱らしき呟きを発し始めた。

 やはり魔法で対処する算段のようだ。

 足元に魔法陣が浮かび上がる。真っ白な輝きに描かれた幾何学図形は、どこかで見たようなデザインだ。細部こそ曖昧だが、全体の構成というか、大まかな位置関係に覚えがある。ただ、どこで見たのか思い出せない。

 何の魔法だろう。

「あらぁん? どこかで見たような魔法陣ねぇ」

 対面の実況席から声が上がった。

 どうやら縦ロールも覚えがあるようだ。

 しかし、どれだけ優れた魔法を使ったところで、彼女に壁が壊せるとは思えない。相手はロリゴンが本気で作った壁だ。聖女様のステータスでは表面を焦がすのが精々だろう。それこそエディタ先生くらいパワーがないと難しい気がする。

 ステージを眺めてあれこれ考えていると、不意に名を呼ばれた。

「タナカ、すまないが少しだけ良いか?」

「おや、ノイマンさん。どうしました?」

 いつの間にやら醤油顔の傍らまでノイマン氏がやって来ていた。ゴッゴルちゃんの読心がギリギリ届かない辺りで膝を折り、実況席に観客席から身を隠すよう位置取っている。こちらを呼びかける声も他へ響かないようヒソヒソとしたものだ。

 なんだろう。緊急の用件だろうか。

「すまないが、ゲイ子爵を知らないか?」

「ゲイ子爵ですか?」

「ああ、他所の国の貴族から彼を紹介して欲しいとの声を貰っている。ここ最近、貴様と共にいる姿が目立ったのだろう。この街で市政を学んでいると伝えたところ、是非とも会って話をしたいそうだ。相手は北の大国の公爵なのだが」

「なるほど、そういうことですか」

 確かにここ最近、ゲイ子爵と行動する機会が増えた。

 しかし、まさか彼までも他所の国からヘッドハンティングを受けるとは、なかなか大したものではないか、ドラゴンシティの影響力は。このまま放っておいたら、ブサメンの周りから皆いなくなってしまいそうな寂しさがあるよな。

「ちなみに貴様が欲しいという声は、私の独断で全て断っているが」

「ありがとうございます。ここ最近は忙しいので非常に助かります」

 愛されているじゃないか、ブサメン。

 無性に頑張らなければという気分が湧いてきてしまうよ。

 他方、そんな彼の娘さんに欲情しているロリコンの本能はどうしたものか。人と人との関係とは、こういった酷く歪な感情構造の上に成り立っているのだよな。三十代から四十代ともなると、友人知人が産んだ娘さんに欲情できる世代である。

 生物本能のルネサンス。自分の心に嘘はつけない。

「こちらでも探しては見たのだが、朝から見つけられなくてな。アウフシュタイナー子爵にも確認させて頂いたのだが、昨日の夜から一度も見かけていないとのことだ。タナカならば何か知っているかと考えたのだが」

「そう言えば確かに、私も昨晩から見かけていませんね」

 どこへ行ったのだろう。

 恋人のところじゃないとすると、他に彼が行きそうな場所と言えば、あぁ、あれだ。ナンヌッツィさんに任せた百一匹ショタチンポではなかろうか。なんだかんだ言って、やっぱり物量には勝てなかったのだろうな。

「それでしたら……」

 ノイマン氏に人妻温泉の所在お伝えしようとして、ふと思った。

 ゲイ子爵。

 ゲイ子爵である。

「…………」

「どうした? 何か知っているようなら教えて欲しいのだが」

「……いえ、ちょっと気づいたことがありまして」

 もしかしたら、もしかするかもしれない。

 彼女の得意技はなんだったろうか。

 そういうことだ。

「気付いたこと?」

「あぁ、お気になさらず。そう大したことではありません」

 そうこうするうちに聖女様の魔法が完成した。

 両腕が勢い良く正面に突き出されるのに合わせて、ロリゴン製の壁の下に魔法陣が浮かび上がる。彼女の足元に作られていたものと同じ色の輝きに形作られた、同系統のデザインからなる一枚だ。サイズは先に生まれたモノと比較して若干大きめ。

「っ!」

 声にならない叫びが、覆面の下から発せられた。

 ブォンと低い音が響くと共に、魔法陣が輝きを増す。出処の知れない風が吹き荒れては、彼のローブをぱたぱたと激しくはためかせ始める。それでも一向に捲れないゴッゴルちゃんのスカート口惜しや。

 かと思えば、次の瞬間、ステージの上からモノリスが消失した。

 瞬きする間に忽然と姿を消していた。抉られた跡は綺麗な半球形となっており、ディッシャーでアイスクリームでも浚ったようである。表面は遠目にもツルツルとしており、なんだか非常に危うい感じ。

 数瞬の後、ドスンと会場に野太い音が響いた。

 何事かと音の聞こえてきた側に注目すると、そこは場外。ステージの外に壁が転がっていた。その根本には今まさに抉り取られたと思しき舞台の一部がくっついている。見事な半球形は間違いないだろう。

「あらぁん? 空間魔法で場外に放り出すとは、なかなかやるわねぇ」

 縦ロールから解説が入った。

 そういうことなのだろう。

 これを耳とした観客席からは、わっと大きな歓声が上がった。準決勝に至るまで魔導貴族やジャーナル教授といった、錚々たる面々を打ちのめしてきた壁だからこそ、遂にやったかと言わんばかりの反応だ。

 それとなく貴賓席を眺めると、陛下が今にも死にそうな顔を晒している。一方で満面の笑みを浮かべているのが王女様である。見ていて飽きない親子だよな。その傍らではロリゴンが、ぐぬぬぬっと悔しそうな表情だ。

「この試合、ルトラール・バチェラー選手の勝利です」

 醤油顔から試合の判定を述べさせて頂く。

 壁が無事に敗北したことを喜べば良いのか、聖女様が決勝戦に進んでしまったことを嘆けば良いのか。主催側としてはなんとも複雑な気分である。一方で観客的には、とても盛り上がっているから、まあ、楽しんでもらえたのなら幸いだ。

「ノイマンさん、すみませんがこの場をお願いします」

「え? あ、お、おいっ! どういうことだっ!?」

「どうしても外せない用件がありまして」

「ま、待てっ! 私にどうしろというのだっ!? タナカっ!」

「先に進めておいて下さいっ」

 試合終了を宣言したところで、急いで実況席を立つ。ノイマン氏には申し訳ないけれど、この機会を逃す訳にはいかない。千載一遇のチャンスをモノにするべく、それはもう全速力で連絡通路へ急ぐ。

 聖女様がステージから選手控室へ向かうより先に移動である。



◇◆◇



 ステージと選手控室を結ぶ通路。その中程で醤油顔は待っていた。

 しばらくして、目当ての相手がやってくる。

 つい今し方までノイマン氏が探し回っていた人物、アダム・ゲイ子爵だ。彼は通路の角を曲がって直後、向かう先に平たい黄色を見つけて、ピタリと歩みを止める。都合、数メートルばかりの距離感で互いに向き合うこととなった。

 彼の手には少し大きめのカバンが握られている。

「ゲイ子爵、ちょうど良いところにいらしゃいました」

「おや、タナカ伯爵。このようなところでどうされました?」

 開会式の陛下爆殺未遂から始まり、聖女様の乱入騒ぎに至るまで、一連の事件はどれも会場の関係者以外立入禁止区域で行われている。故に犯人は内部、或いは内部に通じている者だと考えていた。

 だがしかし、これを引き込んだのが自分自身だったとは。

「見事な試合でした。まさか空間魔法で壁を場外へ飛ばすとは」

「…………」

 おもむろに語りかけたところ、その表情が固まった。

 それはもう見事なほどにフリーズ。

 けれど、それも瞬きする間の出来事である。

「ええ、それはもう見事な試合でした。私もこの通路を進んだところで、まこと勝手ながら観戦させて頂いておりました。この手の試合はやはり、近いところから見るに限りますな。迫力が違いますよ、迫力が」

「そういうことであれば、決勝戦は実況席からいかがですか?」

「よろしいのですか?」

「ええ、子爵には今後の治世の為にも、より多くを学んで頂けたらと」

「ご配慮痛み入ります」

 いけしゃあしゃあと語ってみせるゲイ子爵。

 だけど、ステータスウィンドウの前には嘘なんてつけないのだぜ。



名前:イード・S・エルメス
性別:女
種族:人間
レベル:437
ジョブ:聖女
HP:16120/16120
MP:18001/208001
STR:12030
VIT:10655
DEX:101000
AGI:13710
INT:151210
LUC:19420



 っていうか、思ったよりも先程の空間魔法で消耗しているのな。

 エディタ先生やキモロンゲが、近所のコンビニへ行くような感覚で連発していたから、もう少しお手軽な魔法だと思っていた。どうやらそう簡単な話でもなかったようだ。今度お話を伺ってみるのも良いかもしれない。

「ところで次の試合の進行はよろしいのですか? タナカ伯爵」

「そちらに関してはノイマンさんにお願いして来ました」

 口にしてふと気づいた。

 そういえば実況席にゴッゴルちゃんを置いてきてしまった。

 ノイマン氏、どうしているだろう。隣に座ったら褐色ロリータさんに心を丸裸にされてしまう。もしも彼が愛娘のミッシェルちゃんに欲情していたりしたら、それも全て筒抜けになってしまうことだろう。

 美しく成長した娘とのセクシャルコミュニケーション。

 きっと世界中のパパは、そんなミラクルを一度は夢見て子供を作り、お給料をせっせと家に運んでいる。せめて、どうかせめて、高校に入学したあたりで、一緒にお風呂に入ってくれないかなぁ。そう切に願っては日々を生きている。

 聖書曰く、近親相姦最高。アダムとイブは近親相姦で世界を成した。その十代末の子ノアもまた、ノアのパコ舟で娘や孫娘と盛りまくり。故に我々の遺伝子には刻まれている、自らの子を犯して数を増やせと囁く神々の記憶が。

 パパの真っ黒な欲望に気づいた娘さんの判断や如何に。

「よろしいのですか?」

「ドリスさんもいらっしゃいますから問題はないでしょう」

「本当にそうでしょうか?」

「ええ、彼女に任せておけば安心です」

 さて、どうしてくれよう。

 問答無用で組み伏せるというのが無難ではあるけれど、外見は完全にゲイ子爵だ。野郎を押し倒すとか、最高に気持ち悪い。もしも姿格好が美少女のままだったら、喜んでお股に顔を埋めていたのに。

「それではタナカ伯爵、私は他に用件がありますので……」

 控室に向かい再び歩み始める聖女様。

 カツカツとブーツが床を叩く音が妙に大きく聞こえる。やがて、その身体が醤油顔と入れ違うように脇を過ぎる。肩に触れるほどの長い金髪がサラサラと、視界の隅に靡いては良い香りをブサメンの鼻腔まで運んだ。ロン毛マジ羨ましい。

 いいやもう。やっちゃえ。

「ところで聖女様。ファイアボールはお好きですか?」

「っ!?」

 振り返りざまにその背中へ火球を御見舞である。

 彼女は咄嗟に飛行魔法で飛び退いた。

 しかし、平たい黄色製のそれは、対象の肉体を目掛けてホーミング。狙ったとおり右足に着弾した。ズドンと炸裂音が響く。同時に血液がピシャリと飛び散って、通路の一端を赤く染め上げる。千切れ飛んだ膝から下が、通りの先へと飛んでは転がる。

 膝から下を失った聖女様は、その場に倒れた。

「っ……い、いつから気付いていたのですか?」

 倒れた姿勢のまま、こちらを見上げては問うてくる聖女様。

 その表情は苦悶に満ち溢れている。

「出会って当初から、ですね」

 まさか素直には答えるまい。壮大に法螺を吹いておく。

 つい今し方に気づきました。正直言ってギリギリセーフでした。そんなことは決して伝えてあげない。相手は齢五百年を重ねる老齢だ。素直にやり取りしていたら、足元を見られるのがオチである。

 信憑性を挙げる為にも、補足説明を入れておこう。

「ゲイ子爵となって私の元に訪れたのは、ペニー帝国を内側から崩壊させる為でしょう。今の大聖国では表立ってペニー帝国をどうこうすることは難しいですからね。故に本大会など絶好の機会であったに違いありません」

 まさか男に化けているとは思わなかった。

 化けるとしても、王女様辺りが狙い目だったと考えていた次第。

「貴方は当初、この大会を潰すべく動いていました」

 陛下の椅子に爆発物を仕掛けたのも聖女様だろう。

 ゲイ子爵は会場を自由に歩き回れた。

「ただ、貴方は大会の参加者に知り合いの姿を見つけた。その参加者は大聖国の関係者であることを隠す為に姿を隠しており、更に今の貴方と同じような背格好でした。これに目をつけた貴方は、我々の大会を利用することを思いついた」

「…………」

 負傷した足を庇うようにして、ブサメンを見上げるイケメン。

 今まさに劣勢を晒す姿まで格好いいから、イケメンって凄いよな。傍から見たら醤油顔が悪者で、ゲイ子爵が正義の味方。自ずとそういう光景になってしまっている。前世でどれだけ徳を積めば、こんなお顔に生まれられるのだろう。

「一度は大会を潰そうとしておりますし、その出会いはきっと偶然であったことでしょう。結果的に入れ替りを果たした貴方は、西の勇者様を観衆の面前で破りました。後は決勝戦を圧倒して、表彰台で大聖国の名を宣言するばかりでしょう」

「……流石はタナカ伯爵ですね。素晴らしい推察です」

 やった、正解だった。

 ちょっと嬉しい。

「既にペニー帝国には未来がありません。いかがですか? 私と共に大聖国へ戻りませんか? 今ならば貴方に限らず、この街の者たちもすべからく受け入れましょう。私は貴方のことを高く評価しています。決して嘘ではありません」

「ありがとうございます。それはとても魅力的な提案ですね」

 しかも速攻でドラゴンシティの面々を懐柔してくる辺り、流石の聖女様である。即座にプランを切り替えて、自身の感情はどうあれ、理知的に実利を取りに来た。彼女のそういうところ、かなり嫌いじゃない。仕事相手としては理想的とも言える。

 これがピーちゃん相手だったら、速攻で逆ギレしてただろう。

「可愛らしい男娼を望む数だけ用意させていただきます。薬漬けが良いというのであれば、大聖国は大陸随一の生産国です。長く使っても安心な上等品を容易いたしましょう。まあ、貴方のほどの回復魔法の使い手であれば、中毒さえ治してしまいそうですが」

 ただ、聖女様は一つ致命的なミスを犯した。

「すみませんが、私の好みは貴方のような可愛らしい女の子なのですよ」

「…………」

「まあ今となっては既に、その肉体も失われてしまっているようですが」

 野郎が女言葉を使うの、中身を理解してても気色悪い。

 今こうして喋っている姿、絶対誰にも見られたくないよな。

 間違いなく勘違いされるもの。

「ドラゴンシティには幾つか、貴方が既に見つけたものと同様の爆発物を仕掛けています。私が絶命した瞬間、その全てが炸裂する仕組みになっています。もしも今この瞬間、私をどうこうするつもりであれば、あまりおすすめしませんよ」

「……なるほど」

「例えば貴方の大切なメイドが、見るも無残な姿を晒すことになります」

 当然そういうこと言ってくるよな。

 嘘か本当かは実際にその時が来てみないと分からない。

 ただ、彼女の生に掛ける執着を思えば、それくらいは普通にやりそうだ。ここ最近はソフィアちゃんともトークする姿を幾度となく見かけた。例えばアクセサリーの形をした爆発物とか、プレゼントしていてもおかしくはない。

 あのメイドさん、イケメンからのプレゼントなら疑いなく貰っちゃうだろうし。

 こうして思い返した過去の光景もまた、今この瞬間の為の布石であったとしたら、流石は王女様といったところか。恐らく彼女はブサメンがこれ以上の強行に出ないことを確信している。そして事実、ブサメンはこの場で彼女をどうこうすることが出来ない。

「…………」

 どうしよう。

 いっそのこと皆で大聖国に鞍替えしようか。冷静に考えてみると、取り立てて問題らしい問題はないんだよな。リチャードさんさえゴーサインを出してくれれば、割と現実的な選択肢のような気がしないでもない。

 聖女様的に考えて、その後で裏切るような真似はしないだろう。

「どうしますか? タナカ伯爵」

 しかしなんていうか、ゲイ子爵の顔で女言葉を喋られるの、やっぱり気色悪いよな。幾ら周囲を欺くためとは言え、せめて女の子の身体に入って欲しかった。若くて可愛らしい処女の身体に入って欲しかった。

「そうですね……」

 恐らく状況は拮抗している。

 どうにかして相手を出し抜きたいところだろう。ただ、既に切れるカードは持ち合わせていない。同時に時間は相手に味方している。現在行われている試合が決着した次点で、醤油顔はタイムオーバーでゲームオーバーだ。

 必至に考えを巡らせる。

 良い手はないかと思案する。

 そうした最中の出来事であった。

「この試合、ナンシー選手の勝ちよぉ! まさか東の勇者様を一撃で倒してしまうとは思ってもみなかったわぁ。なんだかんだでやるじゃないのぉ。伊達に一度はタナカ伯爵の首を取ってはいないかしらぁ?」

 不意に縦ロールの声が会場の方から飛び込んできた。

 マジかよ。

 ナンシー選手ってダークムチムチのことじゃんね。しかも今やってる試合、彼女の対戦相手は東の勇者様であった筈だ。ステータス的に考えて、どう足掻いても彼女が彼に勝つことは不可能だと思うんだけれど、そこんところどうなのよ。

 それこそ上位互換と称しても過言ではない性能であった。

 そして、一連の驚愕は聖女様もまた同様であったよう。

「っ……」

 酷く驚いた様子で会場の方を見つめている。

 自身と東の勇者様でワンツーフィニッシュを決める算段だったのだろう。これまでの試合からダークムチムチの力量は聖女様にも知れている。きっと西の勇者様が敗北した時のブサメンと同じような感慨を抱いている筈だ。

「聖女様、一つ提案ですが、我々も会場へ戻りませんか?」

「……わかりました」

 状況を確認したいのは彼女もまた同様であった。

 頷くのを確認して、ブサメンは千切れ飛んでしまった足にヒール。

 二人で仲良く会場に向かい駆け足である。

 来た道を戻る形で通路を行くと、すぐに外へでる。視界には数十メートルほどを隔てて、今まさに試合の終わった直後のステージに臨む。場外に倒れ伏した東の勇者様と、舞台の中央に立つダークムチムチの姿が確認できた。

 確かに縦ロールの語って見せた通りである。

 ただし、彼女はアレンによって飛ばされたローブを再び着用の上、顔を隠しての出場だ。既に色々とバレているにも関わらず、何故に身動きの取りづらい姿格好で参加したのだろうか。とても怪しいぜ。

 おかげでデカくて形の良いお尻も、満足に眺めることができない。



名前:スカ
性別:女
種族:ハイデーモン
レベル:5938
ジョブ:魔王
HP:21950000/21950000
MP:108900000/108900000
STR:10537500
VIT:9677402
DEX:3204442
AGI:4204442
INT:10778030
LUC:2023329



 流行っているのかね、こういうの。

 聖女様を巡る騒動の慌ただしさから、事前に確認できていなかったのは醤油顔の過失だ。しかし、よりによって準決勝からぶっこんでくるとは思わなかった。しかもこの場合、元々の中身はどこへ行ってしまったのか、非常に気になる。

 エロさ迸るブラジリアン体型を思い起こせば、無事を祈らずにはいられない。

 そもそも魔王さまは完全なロリータであった。一方で今のナンシー選手は、どう考えてもロリータたり得ないシルエットを晒している。ムチムチなボインを予感させるタッパの高さが窺える。

 どうなっているのだろう。

 あれこれと凄まじい勢いで疑問が浮かんでくれる。

「どうやら我々の聞き間違いではなかったようですね」

「……そのようですね」

 もしかして、あれか。変形魔法的な。

 思い起こせばキモロンゲも上手いこと人に化けているし、ロリゴンに至っては元が巨大なドラゴンだ。それら人外勢の勝手気ままな行いを思えば、他人に化けることも不可能ではないような気がする。

 しかしながら、それを人が行ったという話は聞かないので、勝手に高等な魔法なのだろうと考えていた。事実として大会参加者も、匿名枠は総じて覆面を用いていた。変身魔法が存在しているならば、わざわざ覆面などする必要はない。

「彼が負けたところで、私のやることは変わりません。大会を制するのが東の勇者から大聖国の騎士に変わるだけのことです。その事実は世界中へ広く伝わることでしょう。大聖国の威信は確たるものとなり、一方でペニー帝国は各国から非難の的です」

「…………」

 正直、細かいところはサッパリだ。

 いいや、細かくないところもサッパリだ。

 ただ事実として、ステージの上には魔王様が立っており、同時に聖女様は、ローブの下に魔王様が隠れていることに、まるで気付いていない。次の試合、彼女は決して対戦相手に臆することなく臨むことだろう。

 結果は確認するまでもない。

 そう考えたところで、ふと気づいた。諸説考えたメイドさんの高LUCの目指すところだけれど、ゴールは今この瞬間だったりするのではなかろうか。彼女がいなければ、決勝に臨んでいたのは間違いなくドラゴンシティの関係者だった。

 それはエディタ先生かもしれないし、ロリゴンかもしれないし、エステルちゃんかもしれない。いずれにせよ自分は他の誰でもない自らの判断から、大切な知人を魔王様の脅威に晒すこととなっていただろう。

 こうして考えてみると、背筋が凍るような話だ。

「どうしたのかしら?」

 どうにかしてしまいそうですよ、聖女様。

 主催者として、ブサメンには大会を綺麗に片付ける義務がある。既に大会どころではないという話もあるけれど、ここは一つ最後まで腰を据えて頑張ろう。せっかくソフィアちゃんがこれ以上ない綺麗な形でお膳立てしてくれたのだ。

 魔王様が何を考えて大会に訪れたのか、その如何でも判断は変わってくるし。

「……大聖国への亡命、何卒よろしくお願いいたします」

「ふふ、賢明ですね。タナカ伯爵なら頷いてくれると思っていましたよ。貴方のそういったところ、私は以前から嫌いではありませんでした。これは本当ですよ? 素直に従うというのであれば、長く重用して差し上げます」

「お気遣い下さりありがとうございます」

 差し当たり彼女には、自らの尻を拭ってもらおうではないか。



◇◆◇



 そんなこんなで迎えた決勝戦、ステージの上には既に両選手の姿が並ぶ。

 ダークムチムチ改め魔王様は、依然としてローブを被った姿のままである。彼女が何を考えて姿を隠して決勝戦に臨んだのかは知らない。ただ、今この瞬間、我々ドラゴンシティにとっては毒にも薬にもなり得る破壊神にして救世主。

 他方、これに臨むゲイ子爵はと言えば、これまでの試合と同様、覆面とローブで全身を覆った匿名スタイル。表彰台へ登る時点で、本来の参加者である聖騎士と入れ替わるつもりなのだろう。それまでは聖女様が頑張るに違いない。

「……魔王?」

 醤油顔の脳内を読んだゴッゴルちゃんの肩がピクリと震えた。

 そのお顔も幾分か厳しいものに変化する。

 ええ、そうです。魔王なんですよ、魔王。

「…………」

 入れ替わったのは準決勝で間違いない。

 ゴッゴルちゃんも今の今まで気付いていないようだったし、我々は完全に騙されていたということだ。エディタ先生やロリゴンが飛んでくる気配もない。多分、誰一人として例外なく騙されている。

 ということで、ゴッゴルちゃんは今すぐに逃げて欲しい。

 他に知り合いにも声を掛けておいて下さるとありがたいです。

 まさか魔王様が賞金欲しさに大会へ参加したとも思えない。今でこそ大人しくしているけれど、なんの拍子にデストロイモードへ移行するか知れたものではないぞ。そうなる前にせめて身内だけでも、安全なところに移動していて欲しい。

「……貴方は?」

「ちょっとぉ? どうしたのかしらぁ?」

「ああ、すみません」

 ゴッゴルちゃんと脳内作戦会議をしていると、縦ロールから非難を受けた。ステージの上からは、準備万端と言わんばかり、両選手からブサメンに視線が向かっている。これ以上は場を持たせることも難しそうだ。

 ゴッゴル会議を中断して、決勝戦の案内に意識を向ける。

「遂にやって参りました、本大会もいよいよ最後の試合です。果たして優勝賞金である金貨千枚を手にするのはどちらなのか。泣いても笑ってもこれで全てが決定いたします。観客の皆さまも最後までご注目のほど、よろしくお願いいたしま……」

 致し方なし、覚悟を決めて決勝戦の開始をコール――――。

「その試合、始める訳には行かないわっ!」

 しようとした直前のこと、会場にエステルちゃんが乱入してきた。

 それはもう良く通る声を響かせて、選手の控室に通じる連絡通路から駆け足。ステージに向かって一直線である。更にどうしたことか、その手には鎖が握られており、繋がれた先には、マジかよ。傷だらけのダークムチムチが引きずられている。

 握っている方も満身創痍で、そこらかしこに擦り傷や切り傷が見られるから、両者の間で少なからず争いがあったのは間違いあるまい。両者のステータスを思い起こせば、かなり良い戦いをしてきたのではないかと予感させる。

「あらぁん? これはどうしたことかしらぁ?」

 当然のように縦ロールから声が上がった。

 途端に会場がざわめき始める。そりゃそうだ。本来であればステージの上に立っているべき人物が、場外に存在しているのだ。見た目はおろか装備まで変わらず、それこそ間違いのない間違い探し状態となれば疑問も一入。

 その只中で、エステルちゃんが声高らかに吠えた。

「ステージに立っている彼女は偽物よっ! 本物はこっちだわっ!」

 ロリビッチが大会にトドメを指した予感。

 魔王様、こうなったら待ったなしだろ。

 この子って他所から人を引っ張ってくるの得意だよね。

「おぉっと、これはどうしたことでしょう。ナンシー選手が二人います。別人というにはあまりにもそっくりです。フィッツクラレンス選手の言葉に従えば、当初よりステージに立っていた彼女は偽物とのことですが、これは確認する必要がありそうですね」

 致し方なし、醤油顔は実況席を立ってステージに向かう。

 これを受けて、変化を見せたのは本物の方のダークムチムチだ。

「っ……」

 酷く怯えた様子でこちらを見つめてくれる。

 ロリビッチに引きずり回された為か、そこらかしこが土埃に汚れている。地面に転がった姿勢のまま、酷く情けない姿格好だ。腰が抜けてしまったようで、尻もちを付いた姿勢のまま必死に後ずさり始める姿が嗜虐心を唆る

「まてっ! 悪かったっ! わ、私が悪かったっ!」

「事情を説明してもらってもいいですか?」

「そ、その、決して裏切ったという訳ではなくてだな。私は……」

「ブーさん?」

 再三に渡り問いかけると、ようやっと彼女は口を開いた。

「準々決勝が終わった後で声を掛けられた! 優勝賞金と同額を与える代わりに、決勝戦で入れ替わるよう言われたっ! そ、それ以外は何も知らされていないっ! わ、わ、私は言われたとおりにしただけだっ!」

「一つ確認なのですが、相手の素性はご存知ですか?」

「し、知らない! 本当だっ! あの女は誰なんだっ!?」

「本当ですか?」

「っ……」

 真面目な顔で見つめてみると、ブーちゃんの表情が強張った。

 裏切りに定評のある彼女だから、まさか素直に全てを吐露したとは思わない。もう少しなにか、二人の間でやりとりがあったのではないかと考えた次第である。すると、どれくらいの時間をそうしていただろうか。

 不意に彼女の背後に人影が生まれた。

 ゴッゴルちゃんだ。

 ゴッゴルちゃんがダークムチムチの背後に接近しているぞ。

 読心圏内。

 更にその手が彼女の肩へ、ポンと軽く乗せられた。

「っ!?」

「……暗黒大陸で意気投合して、ニンゲンを滅ぼす為にやってきた」

 つらつらと述べられた事実。

 咄嗟に振り返ったブーちゃんの表情が驚愕に変わる。

「ゴ、ゴッゴルゥゥゥゥウウウウウウウウッ!」

 会場中に響くほど、大きな声で叫びがあがった。

 どうやら褐色ロリータ族をご存知のようだ。予期せず顔芸を披露する羽目となったダークムチムチは飛行魔法を行使、腰抜けスタイルのまま空に浮かび上がらんとする。エステルちゃんを引きずってでも逃げ出そうという魂胆だろう。

 ただ、そんな彼女の頭部をゴッゴルちゃんがぐわしと掴んだ。力任せに引きずり下ろして、その頬をステージの上にグイグイと押し付ける。力強い褐色ロリータの立ち振る舞いを目の当たりとして、ブサメンは心が震えるのを感じる。

 自身もまたいつか、そこへ至りたいと切に願った。

「た、助けてくれっ! 脅されたんだ! 協力しなければ命はないとっ」

「なるほど」

 押さえつけられたダークムチムチは、縋るような眼差しで醤油顔を見上げる。

 今にも泣き出してしまいそうな表情が極めて唆る。

「相手は魔王だ、まさか、さ、逆らえる筈があるまいっ!?」

「ええ、貴方の仰るとおりだと思います」

「だろうっ!? だから、わ、私はっ……」

 ブーちゃんから縋るような眼差しで見つめられるの良い。スタイルの良い美女から、涙目で命乞いをされるの、極めて興奮する。これが媚だと思い知らされる。おもむろに札束で頬をビンタして、バックから激しく犯したい。尻をスパンスパンと叩きながら。

「なんじゃ、随分と自分に都合の良いことばかり喋ってくれるのぉ?」

 そうこうしていると、不意にステージの上から反応があった。

 声の主はローブの下から。

 ダークムチムチとは似ても似つかないサウンドである。

 間違いない、魔王様の声だ。

「こちらから提案を持ちかけたのは確かじゃ。しかし、素性を明かしたところ、喜々として頷いてみせたのはおぬしではなかったかぇ? 同じ魔に近いものとして、少なからずおぬしの話には同情を得ていたのじゃが、まさかあれらも嘘だったのかのぅ?」

「っ……」

「自ら試合を任せて欲しいとまで願ったではないか。その手でニンゲンを倒し伏せたいと。だからこそ我は貴様に試合を任せて、本日まで大人しく見守っていた。しかし、それもこれも嘘であったのかのぅ?」

「そ、そ、それはっ……」

 覆面越し、ダークムチムチを見つめる魔王様。

 やっぱり初っ端から全力で裏切っていたようだ。

 しかも今この瞬間、魔王様さえ裏切ってみせる変わり身っぷり。流石はダークムチムチである。ゴッゴルちゃんに触れられていながら、それでも嘘をつく度胸は評価しても良い。相変わらずな立ち振舞いに、むしろ安堵さえ覚える。

 ダークムチムチはやっぱりこうじゃないとな。

「い、いや、け、けっして、けっしてそんなことはっ……」

「本当かのぅ?」

「…………」

 この世の終わりのような表情を晒すブーちゃんが可愛い。

 一連の立ち振舞いは完全に汚れ芸人。

 まさか放ってはおけないよな。

 いつかその首に奴隷の首輪を付け直して、わんちゃんスタイルでご奉仕させるまでは、今のままの彼女でいて欲しい。悔しそうな表情で醤油顔のことを睨みつけながら、それでも仰向けワンワン服従スタイルで、ウェルカムおまんこして欲しい。

 なんだろう、段々と気分が乗ってきたぞ。

「安心して下さい、ブーさん。私は貴方を責めるつもりはありません」

「……な、なんだと?」

「何故ならば貴方はとても弱い。けれど、その弱さの露見は、いずれも極限的な環境から与えられた結果です。普通なら露見しない弱さです。私が貴方と同じ立場にあれば、きっと貴方と同じ選択をすると思います」

「…………」

「貴方は命あるものとして、当然の行いをしたまでのことです」

 それも最高のタイミングで裏切ってくれた。

 大聖国を出し抜くには、これ以上ない展開である。

 聖女様に関する問題については、これで片付いたと考えても良いくらいだ。ただ、同時発生したクエストの難易度はとんでもないことになっている。後はこれをどうしてクリアしたものか、ブサメンの腕の見せ所である。

 この場を乗り切れたのなら、全てが丸く収まる。

 ここは一つ、頑張りどころなのではなかろうか。

「エステルさん、すみませんが彼女を連れてステージの外へ」

「え? あ、あの、それはどういうっ……」

「さて、それでは決勝戦を始めましょう」

 司会進行、全力で進めさせて頂くわ。

 エステルちゃんとダークムチムチ、ゴッゴルちゃんがステージから離れたところで、ブサメンは本来のお仕事を真っ当するべく駆け足で移動。実況席には戻らず、自らもまたステージの中央に立ってアクション。声高らかに選手を紹介させてもらいましょう。

「貴賓席より向かって左側には、歴代最強とも誉れ高い魔族界の麒麟児、齢五百年にして遂に現代へ蘇った当代の魔王、スカ選手ですっ! どうやら彼女もまた、我々の催しに興味を持って下さっていたようですね。入れ替わっての参加とは驚きです」

「……ふん」

 ブサメンの紹介に応じて、彼女が動いた。

 その腕が動くと共に、ローブと仮面が一息に取り払われる。下から現れたのは、いつぞや目の当たりとした魔王様と同様、真っ白なアルビノを思わせる全裸。その姿には自身もまた覚えがございます。

 ただし、何故か本日に限っては、随分と成長してしまっている。それこそダークムチムチを真っ白く塗ったようなボディーだ。大聖国で出会った彼女が育ったのなら、こうなるだろうな、みたいな感じ。

「…………」

 もしかして本当に育ってしまったのだろうか。

 五百年の歳月を越えてしまったのだろうか。

 だとしたら魔王様、幻滅である。

 登場当初はロリロリとしていたのに、途中で大きくなるタイプの人外ロリータって、オチンチンが戸惑う。どっちが本当の姿なのだとか、今後はどちらで売っていくのだとか、色々と気になってしまう。

 幼女として現れたのなら、最後まで幼女していて欲しかった。

 でも、縦ロールを越える爆乳と、安産型の尻が、極めて生中出ししたい。

「さて、この前代未聞の強敵に対するはと言えば、なんと大聖国が誇る聖女様が駆けつけて下さりました! 初戦から決勝戦に至るまで、その姿を隠していたローブを取る時が、遂に訪れたということでしょう!」

「タナカ伯爵っ! こ、これはどういうことですかっ!?」

 醤油顔の台詞を遮るよう、聖女様から非難の声が上がった。

 そりゃそうだろう。

 でも見ての通りである。

 あと、ゲイ子爵のボイスで女言葉は止めて欲しい。

「今し方に語られた通り、ナンシー選手が魔王と入れ替わったようです。おかげで彼女を打倒する又とない機会となりました。ここは是非とも聖女様のお力をお借りして、世界に平和を取り戻したいと思います」

「なっ……」

 ちなみに会場は完全に置いてけぼり。

 世間は魔王だ魔王だと賑わっているけれど、実際にその姿を見た者はいないのだろう。当代の魔王様の姿が恐ろしく美女っていることも手伝い、え、なに言ってるの? みたいな雰囲気である。

 おかげで騒動らしい騒動になっていないのは、不幸中の幸いだろうか。

「前に見た時とは随分と姿が変わっているのぉ?」

「っ……」

 ここへ来て初めて、魔王様が口を開いた。

 その視線は聖女様を捉えている。

「折角の機会じゃ、外に出してやろう」

 我先にとステージから逃げ出すべく、飛行魔法で身を浮かせた聖女様。しかし、その身体が宙に持ち上がったのも束の間のこと。まるで雷にでも打たれたよう、ビクンと大きく痙攣したかと思えば、床に落ちて転がった。

 そんな彼女に向かい、魔王様の右腕が動く。

 下から上に掬い上げるような動作だ。

 するとどうしたことか、ローブ姿なゲイ子爵の肉体から、何やらフワフワとしたものがスッとにじみ出てきた。醤油顔はこれを過去に幾度となく見たことがある。霊体というヤツだ。いつぞやのエディタ先生や、ここ最近のナンヌッツィ女史がそうであった。

 そして、その姿はと言えば、絶世の美少女である。

 大聖国で出会った彼女とも別人だ。こうして晒す姿こそが、数百年前に失われたという本来の彼女なのだろう。年の頃は十代中頃ほど。エステルちゃんやゾフィーちゃんと同い年くらいだろうか。めっちゃ可愛い。

 髪の色や肌の色こそ、薄透明の肉体が故に知れないが、兎にも角にも可愛らしい。

 更に全裸。

「なっ……」

 霊体に剥かれた聖女様の表情は驚愕の一色だ。酷く慌てた様子で、今の今まで収まっていた身体を見下ろしている。ゲイ子爵としての肉体は、支えを失ってステージの上にバタリ、倒れてピクリとも動かない。

 そんな彼女の姿を目の当たりとして、会場からは歓声が上がった。

「せ、聖女様だっ!」「本当だっ! 聖女様だっ!」「俺も教会で見たことがあるっ! ご、五百年前に魔王と戦った聖女様だっ!」「絵に掛かれているとおりのお姿だっ!」「なんて神々しいお姿なのかしらっ!」「ほ、本当に聖女様なのですねっ! まさかお目に叶う日がくるなんてっ!」「聖女様っ! 聖女様っ!」

 どうやら初代聖女様の姿は世間的にも有名であったらしい。

 おかげで段々と観客も状況を理解し始めた様子だ。聖女様が本物であるならば、彼女と対する魔王様もまた本物であるのだと。

「おい、それじゃああの白いのはっ……」「ま、ま、魔王がこんなところに来る筈がないっ!」「いやしかし、魔王の魔法は確かに城を砕いたぞっ!?」「だからってどうしてっ!」「タナカ伯爵は、あのダークエルフが裏切ったって言ってたぞっ!」「あのダークエルフが連れてきたのかっ!」「ダークエルフは魔王の手先だったのかっ!?」

 結果的にダークムチムチ一人のせいで、ダークエルフ業界がピンチの予感。

 それとなく視線を窺えば、会場の隅の方、エステルちゃんに連れられて拿捕された彼女の姿がある。観客席から注がれる視線を受けて、殊更に怯えて思われる。ただまあ、魔王様から直々に協力を依頼されたら、流石に断れないとは思うんだよな。

「聖女様っ! 魔王なんてやっつけちゃってください!」「聖女様がいれば安心だっ! 魔王なんて一発だろっ!」「初代の聖女様は一人で魔王を打ち破ったんだ!」「そうだっ! 魔王がいたって、聖女様がいれば大丈夫に決まってるっ!」「初代聖女様は歴代の聖女様のなかでも最強だったって話だぜっ!」「それなら安心だっ!」

 観客から期待の声が聖女様に向かう。

 今、聖女様を中心として会場が一つになった。

 五百年分のツケが回ってきた。

「…………」

 おかげでお顔は今にも泣き出しそうだ。

 まさか彼女が魔王に勝てる筈がない。

 霊体ってお漏らししないのかね。

「さて、それでは決勝戦を始めたいと思います」

「タナカ伯爵! た、た、助けっ、助けてくださいっ! お願いです!」

 聖女様から縋るような視線が向けられる。

 これで相手がゲイ子爵みたいなイケメンだったら、きっと無視していたことだろう。でも、相手は美少女だからな。今の聖女様は前にあった時よりも美少女だからな。ちょっと背景が透けているけれど、童貞としては放っておけない。

「ところで魔王様に一つ質問なのですが」

「……なんじゃ、強き者よ」

「このような場所まで足を運ばれた理由を伺ってもよろしいですか?」

「今更じゃのぉ」

 酷くつまらなそうに鼻を鳴らして、彼女は続けた。

「ニンゲンを殺すために決まっておろう? 我に対抗する為、ニンゲンを集めていると聞いた。これを他の誰でもない、我が治めたらどうだ。ニンゲンは大層のこと慌てるのではないかぇ? 少なくとも貴様の出鼻を挫くことができよう」

「出鼻を挫いてどうするつもりですか?」

「貴様は強い。だが、ニンゲンは孤独に弱い。そして、貴様はニンゲンじゃ。故に我は勝機を確実なものとできる」

「……なるほど」

 当代の魔王様ってば、伊達に聖女様に育てられていない。考えることが全く同じとは恐れ入る。本人がそれを自覚しているのか否か、非常に気になるところだろう。指摘したら逆ギレしそうだからしないけれど。

「だがもういい、面倒じゃ。この場で全てを終わらせてくれる」

「どうするつもりですか?」

「まずはそこの女を殺す。これほど憎たらしい相手はいない。我をこのように育てるに至った、その女だけは決して許せぬ」

「っ……」

 魔王様が腕を振るった。

 応じて巨大な火球が生み出されては、彼女に向かい一直線。この期に及んで魔王様までファイアボールである。もしかして、ムーブメントとか作ってしまっただろうか。いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。

 娘から母へ、ドメスティックなバイオレンスが迫る。

「ストーンウォールっ!」

 対して母娘丼を狙うブサメンは、ここ一番の硬さを意識してモノリスをニョッキ。

 間髪を容れずに火球が着弾。火花を散らせる。

 その先に守られて、聖女様は無事である。

 ただ、その場にしゃがみ込んで丸くなっている。どうやら逃げ出すだけの余裕もなかったようだ。もしくは大聖国で一刀両断された経験が、彼女の中でトラウマとなっているのかもしれない。事実、その表情には怯えが見て取れる。

 その姿を目の当たりとしたところで、観客席からの聖女様コールは失われた。

 他方、ブサメンが生成した壁の具合はといえば、表面にヒビが入っていた。次を受けたら粉々だろう。唯一勝っている魔法であってもこの有様だ。万が一にも接近戦へ移られたら瞬殺は確定である。その事実だけは悟られないようにしたい。

「我の邪魔をするつもりかぇ? 貴様もまた、この娘には苦労をさせられていたじゃろう。どうして助ける義理がある? この娘は民を欺き、国を欺き、全てを欺いてきたのじゃ。殺すことはあっても、守る必要があるのかぇ?」

「それは私が決めることです」

「…………」

 今の決まった予感。

 試合が終わったら、聖女様から処女の女の子紹介してもらえるかも。

「当代の魔王をこのような形で蘇らせたのは、そこの娘が原因なのだぞ?」

「存じております」

「そこまで聖女の肩書が大切かぇ?」

「というと?」

「聖女なる存在を世に永らえさせたいと言うのであれば、その娘が殺そうとしていた貧相なエルフのほうが遥かに相応しい。あの者こそ聖女足り得る素質の持ち主であったろう。人の世の嘉名とは、なんと真実から遠いことか」

 それはきっとエディタ先生のことだ。

 先生は貧相なエルフ可愛い。

 何故か魔王様からも褒められておりますぞ、貧相なエルフ先生。

 まるで自分のことのように嬉しいですわ。

「もしも彼女を受け渡したら、人に対する暴挙を納めてくれますか?」

「いいや、我は決めたのだ。ニンゲンという生き物を滅ぼすのじゃと」

「だとしたら、私が彼女を貴方に譲る理由はありませんね」

「……ほう」

 観客席からは、一向に動く気配が見られない聖女様に対して、あれやこれやと憶測が飛び交い始める。今し方に魔王様が語ってみせたところも手伝い、その大半は彼女に対する疑念と変わっていた。

「上等じゃ。そこまで言うなら殺してくれる」

 トークが一段落したところで、いよいよ決勝戦開始のお知らせ。

 ピリリとした雰囲気に身を強張らせる。

 そうした最中のこと、不意にステージの脇から声が響いた。

「魔王、貴方の好きにはさせませんわっ!」

 凛とした叫びだった。

 魔王様や醤油顔は元より、会場の皆さまも含めて皆々の視線が向かう。するとそこには、いつの間に移動したのか、ペニー帝国の王女様の姿があるではないか。彼女はステージに上がり、ズンズンと歩みも確かにステージの中程、我々の下へまでやってきた。

「……なんじゃ、貴様は」

「私はペニー帝国の王女です。けれど、魔王という人類共通の敵を前としては、国などという小さな枠組みは意味をなしません。私は自らの使命を果たすべく、この場に臨んでおります。聖女を殺すというのであれば、まずは私を殺してからになさい」

「…………」

 これ間違いないわ。

 王女様、ここぞとばかりに人生のフィナーレを求めに来ている。大きく両手を広げて、醤油顔や聖女様を守らんと、満面の笑みで自らをアピール。事情を知らない人が見たら、きっと聖女様より余程のこと聖女している。

 だって、完全に後先考えてないもの。

 スタッフロール流れてるよ、王女様の脳内。

 チラリと貴賓席の様子を窺えば、陛下が真っ青な顔でこちらを見つめている。めっちゃガクブルしながら、祈るような眼差しをステージの上に向けている。どうしてパパが止めなかったんだよって。

「良かろう、ならば貴様から殺してくれる」

「ええ、そうなさい」

 受け答えは酷く堂々としたもの。

 普通なら緊張に震えそうなところ、なんら動じた様子もない。さぁ殺せ、今すぐに殺せ、言わんばかりの立ち振舞である。表情もどこかうっとりとしており、まるでヤバい薬でもキメてしまったようだ。

「きっと私という存在は、この日のために生を受けたのでしょう。今という瞬間に至れたことに、この上ない喜びを感じています。歴代に誇る魔王の一撃、これを受けて我が身は本来の形を手に入れるのです。そう、その先にこそ私の充足が……」

 ぱっくりと深いところまで割れた舌ベラと相まっては、完全にキチガイである。

 天を仰ぐように語る姿は、お薬の類を投与されているとしか思えない。

 どう考えてもフェラチオされたい。

「……貴様、何が狙いだ?」

「狙い? なんのことですか?」

 おかげで魔王様も躊躇している。

 コイツなんかおかしいぞって感じの視線を向けている。下手に手を出したらカウンターとか貰うんじゃないか系の。でも残念ながら、うちの王女様は全くの無防備だ。強いて言えば発情している。きっと全力でお股を濡らしている。

 流石にあれなので、こちらからお声掛けさせて頂こう。

「王女様、流石にこの場は……」

「タナカ伯爵は黙っていて下さい。今は私が魔王と話をしているのです。私は人類の代表として、この者と言葉をかわしているのです。如何にタナカ伯爵とは言え、今の私に意見することは絶対に許しません」

「…………」

 ピシャリと言われてしまった。

 声色がマジだった。

 ちょっと怖かった。

 割れた舌先がチロチロしていた。

「……邪魔だ。退いていろ」

 小さく呟いて、魔王様の腕が振るわれる。

 次の瞬間、王女様の足元に魔法陣が浮かび上がった。かと思えば、その姿がパッと掻き消えた。何事かと会場のそこらかしこから声が上がる。もしかして、本当に殺されてしまったのかと、醤油顔も少なからず慌てる。

 ただ、視界の隅にその姿を発見。

 貴賓席で陛下にしがみつかれている王女様を発見。

「い、行かして下さい、お父様っ! 私が、私が魔王を止めなければっ!」

「待て、お、お前が行って何になるっ!?」

「それでも行くのですっ! 今行かねば、いつ行くというのですかっ!」

 どうやら元あった場所に戻されたようだ。

 魔王様、かなり慎重になっている。これ以上、妙なカードは引くまいと、慎重になっていらっしゃる。彼女にとっても今この瞬間は、それなりに大切な状況なのだろう。そうでなければ、きっと王女様は本懐を遂げていた。

 いつぞや醤油顔との相対が、彼女の人類に対する危機感を煽っているのだろう。今し方も強き者とか言っていた。もしくはスプリットプリンセスを人外認定の方向で動いたのかもしれない。ロリゴンよろしく妙な化物が人に化けている的な。

 いずれにせよ、おかげで魔王様の目的を改めて確認することができた。今の彼女の目的は、ブサメンの打倒と思われる。正体がバレる以前はどうだったか知らないが、こうなったら覚悟を決めて殺ってしまおうという算段だろう。

 確実に獲りに来ている。

 案の定、その口からは苛立ちとともに言葉が発せられた。

「死ね、ニンゲンめ」

 地を蹴った魔王様が醤油顔の下に迫る。

 ヤバい。

 想像したより早い。

 圧倒的に早い。

 とてもではないが避けられない。回復魔法が間に合うか否か。回復魔法を支度すると共に、目前へ迫った拳に身を強張らせる。他者を圧倒するステータスは、決して伊達ではないようだ。少なくとも身体能力で彼女に勝ることは不可能だと思い知らされる。

「っ……」

 しかしながら、衝撃が身体を貫くことはなかった。次の瞬間にでも木っ端微塵と思われた肉体は、けれど、依然として形を保っている。意識も確かだ。更に何故か、気づけば空の高いところに浮いていた。

 眼下には小さくなった大会会場が見える。

 かなり高い。

 どうやら空間魔法による場所移動を受けたようだ。傍らに人の気配を感じて振り返る。すると、手を伸ばせば触れられるところに人の気配が。ブサメンを魔法で支えているのは他の誰でもない、ドラゴンシティが誇る天才錬金術師。

「……どうやら、間に合ったようだな」

 ただ、そうして語る彼女は随分と小さくなっていた。具体的には自慢の太ももが、根本から完全に消失していた。まるでパーツをなくしてしまったプラモデルのように、腰から上だけがプカプカと浮いてる。

 吹き出した大量の血液が、今まさに地上に向かい降り注いでいる。

「エディタさん……」

「礼は下にいるドラゴンに言え。ゆ、猶予を作ったのはヤツだ……」

「…………」

 醤油顔の見つめる先、そこには巨大なドラゴンがいた。

 ロリゴンである。

『ぐ、ぐるるぅぅ……ぅっ……』

 出会って当初の姿となり、その額で魔王様の一撃を受け止めていた。

 数瞬の後、激しく吹き出した血液が、彼女の巨漢を真っ赤に染めてゆく。ぐらりと揺らいだ身体は、そのまま踏ん張ることもままならず、ズズンと大きな地響きを立てて、ステージを押しつぶすように横たわった。

「…………」

 止めてくれよ。

 そういうの悲しくなるじゃないか。
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