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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫

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武闘会 七

【ソフィアちゃん視点】

 驚いたことに次の試合、選手としてステージに上がられたのは、エルフさんとドラゴンさんでした。ローブの下から現れた特徴的なお姿は、遠く離れても見紛うことはございません。間違いなく私の知るお二人です。

 事前にタナカさんから聞いたお話では、彼女たちは参加しないとのことでした。もしかして、事情が変わったのでしょうか。しかしながら、そうだとしても彼女たちの代わりに控室で待機していた選手は、どこへ行ってしまったのでしょうか。

 色々と疑問が浮かんで参ります。

「…………」

 ただまあ、あれこれと考えたところで、所詮はメイドの浅知恵です。タナカさんのことですから、私が及びもつかない深い理由があることでしょう。

 それよりも自身が頭を悩ませるべくは、もっと他にございます。このまま進むと次の試合、私はエルフさんとドラゴンさんのいずれかと対戦しなければなりません。自身の試合を終えて遠のいた腹痛が、早々に戻って参りました。

「…………」

 ここはやはり、エルフさんを応援するべきですね。

 ドラゴンさんも決して悪い方ではないと思います。しかしながら、エルフさんの方がお優しいのです。色々と気にかけて下さいます。事前にお話をさせて頂ければ、きっと良いように取り成してくれることでしょう。

 ええ、それに賭けるしかございません。

「どうか、どうか何卒……」

 メイドが祈るように見つめる先、第六試合が始まりました。

「それでは両選手とも、試合を始めて下さいっ!」

 タナカさんの声が会場に響きます。

 時を同じくして舞台に動きがありました。エルフさんとドラゴンさん、お二人の挙動は非常に対照的でした。真正面からエルフさんに向かい駈け出したドラゴンさんと、これを避けるよう、一瞬にして家屋の屋根の高さほど、位置を上に移したエルフさん。

 初撃はドラゴンさんの拳が空を切りました。

『ぐぅ、相変わらず逃げ足の早いヤツだ』

「と、当然だ。真正面からドラゴンに挑む馬鹿がどこにいる」

『すぐそこにいるぞ』

「……あ、あの男は別だっ! 別っ!」

 空と地上、睨み合う姿は完全に戦いの姿勢でございます。

 一瞬にして立つ場所を空に移したエルフさん。その不思議な魔法を受けて、観客席からは、わっと歓声が上がりました。最近、私も何かとお世話になる機会が増えた例の魔法です。実家の引っ越しもお願いしてしまいました。

 過去、移動となると命懸けで、ドラゴンさんの背中に揺られること度々でありました。ご相伴に預かる側としては、非常にありがたい魔法です。ただ、当のドラゴンさんはその事実に少なからず寂しさを覚えているようです。

 執務室で仕事をしている最中、不意に足を運ばれたドラゴンさんから、どこか行きたいところはないかと尋ねられた経験は、一度や二度ではありません。聞けばノイマンさんやゴンザレスさんも尋ねられた覚えがあるのだとか。

 ちなみにノイマンさんは、これまでにない渋い顔でした。

「無詠唱で空間魔法とは、これはまた驚いたのぅ」

 すぐ隣からも声が聞こえてまいりました。

 学園都市からいらっしゃった、とても偉い教授様です。先の試合ではタナカさんからインデックス教授と呼ばれておりました。本日一回戦を勝ち抜かれて、以降は観戦に勤しんでいらっしゃいます。

 圧倒されているのは教授様に限らず、他の方も同様でございます。試合を観戦していた誰も彼もが、エルフさんの姿に釘付けです。我関せずと窓際より距離を設けられていた方々も、自ずと腰を浮かせてステージの見える位置に移動でしょうか。

『ぐるるるる、上等だ。この場で貴様には、私の不浄の鱗を舐めさせてやる』

「不浄の鱗? な、なんだよ、それは」

『うるさいっ、いくぞ!』

 狼狽えるエルフさんに構わず、再びドラゴンさんが攻勢に移ります。

『貴様の望む通り、魔法で勝負してやる』

 彼女の足元に魔法陣が浮かび上がりました。

 それは瞳の色と同じ、金色の輝きにより描かれて、ゴッゴルさんの輪っかほどの大きさに広がりました。小柄なドラゴンさんの身体と比較すると、結構な大きさです。控室から見ても十分に目立ちます。

「なっ、まさか……」

 エルフさんの表情が強張ります。

 構わずドラゴンさんは空に向かい腕を掲げました。

『ふふん』

 彼女の足元の魔法陣がドクンと、大きく脈打ちます。

 可愛らしい手の平が向けられた先、空にも魔法陣が形作られます。それは舞台全体を覆うほどに巨大なものでした。彼女の足元に浮かんだものとは比較になりません。一目見てエルフさんの表情が慌ただしいものとなりました。

『喰らえっ』

 ドラゴンさんが吠えます。

 応じて魔法陣から下に向けて、光の雨が降り始めました。

 凄まじい勢いで降り始めました。

 とんでもない豪雨です。

「くっ……」

 直撃の寸前、エルフさんの姿が消えます。

 先程と同様に空間魔法というので回避したのでしょう。一瞬の間に彼女は立つ場所を移しておりました。空に浮かんで光の雨を降らせる魔法陣より、幾らばかりか上です。雨は魔法陣より下に降っておりますので、見事に回避した形でしょうか。

『あ……』

「……ふ、ふふん?」

 自身より高いところに陣取った相手をポカンと見上げるドラゴンさん。そんな彼女からの視線に少なからず焦りつつも、咄嗟に笑みなど浮かべて見せるエルフさん。酷く対象的なお二人です。

 数瞬の後、ドラゴンさんが唸りました。

『おい、逃げるな!』

「そうは言っても、た、大会に規則では問題ないのだろう?」

『ぐるるるるる、なんてズルいヤツだ』

「…………」

 あまりにも素直なドラゴンさん。

 心なしか申し訳なさそうな表情となるエルフさんが素敵です。

 そうこうしている間にも、ドラゴンさんの魔法は光の雨を降らし続けております。その飛沫が舞台に当たる都度、舞台が抉れてゆきます。それこそ土が雨に打たれて削られるようでしょう。

 過去の試合では、どれだけ過酷な状況に晒されても、傷一つ付かなかった舞台です。それが見る見る間に崩れていきます。その勢いたるや大したもので、お二人が言葉を交わす間にも舞台は盛り上がりを小さくして、やがては完全に抉られてしまいました。

 無傷なのはドラゴンさん本人だけです。

 試合は場外で負けとなるそうですが、この場合はどうなるのでしょうか。お二人とも空に浮いているので今は大丈夫ですけれど、これでは足を付く場がございません。地上に降り立つことができません。

 ただ、彼女たちの関心は既に舞台から他へ移っておりました。

『……わかった』

「な、なんだよ?」

『ドラゴンを相手に空を選んだこと、後悔させてやる』

 ドラゴンさんが勢い良く空に舞い上がりました。

 彼女に応じるようエルフさんもまた、より高いところに向かい飛び立ってゆきます。お二人の姿は瞬く間に舞台から遠退いて、空に浮かぶ小さな点になってしまいました。とんでもなく高いところにいらっしゃいます。

 当然のように観客席からは疑問の声が上がりました。

 ただ、それも僅かな間のことです。

 そこから先は圧倒的でした。

 試合会場や観客といった柵から放たれて、自由になったドラゴンさんとエルフさんの試合が、本当の意味で始まったようです。ズドン、轟音が鳴り響いたかと思えば、空に巨大な炎が吹き荒れました。

 これを皮切りとして、次々と魔法が放たれ始めました。

 それは例えば数千に及ぶ氷柱であったり、会場を飲み込んで余りある太さの光の帯であったり、空を縦横無尽に駆け抜ける雷であったり。とても多彩です。雲も少ない青空をキャンバスにして、色とりどりの魔法が描かれてゆきます。

「…………」

 魔法に学のないメイドでも理解できます。

 これはきっと凄い試合なのでしょう。

 他の方々もポカンと口を開けて、呆然と空を眺めております。

 自然と思い起こしたのは、タナカさんが初めてドラゴンさんと出会った折、エステルさんの身柄を巡って始められた戦いでしょうか。あの時はタナカさんが一方的にやられておりましたが、今回は果たしてどうなのでしょう。

 正直なところ、私には遠すぎてよく分かりません。

 ただ、空に眺める魔法の応酬は、一向に途切れることがありません。なので良い試合を繰り広げているのではないかと思います。最近、エルフさんの口から最強とのお言葉を聞く機会が増えましたが、今ならそれも納得でございます。

 ドラゴンさんとエルフさん、どっちも凄いです。

 お二人なら魔王も倒せてしまうのではないか、なんて思ってしまいます。

 故にメイドは改めて願わせて頂きましょう。

 どうか、何卒、エルフさんが勝って下さいますよう。



◇◆◇



 ロリゴンとエディタ先生の試合は、想像以上の盛り上がりを見せている。空の上で繰り返される強大な魔法の応酬は、非常に賑やかで派手なものだ。まるで夜空に花火でも眺めているような気分である。

 おかげで会場の活気も相応だ。

 距離が離れている為、一進一退する争いの細かいところまでは知れない。ただ、それでも時折、高度を落として姿を顕とする二人からは、臨場感だとか必死な姿だとかが伝わってくる。これを眺める観客からも、応援の声が引っ切り無しだ。

「おぉっと、エディタ選手が大きく高度を落としましたっ」

 ロリゴンのブレスっぽい魔法を受けて、先生が数十メートルを落下。

 地上に近いところで、会場からスカートの内側が丸見えとなる。

 視界に飛び込んできた見事な縦シワに刮目。世界に空と大地が存在して良かった。大地の上に空が広がっていて良かった。童貞は大地に座し、先生は空に浮かぶ。母なる大地とイヤらしい空のコラボレーション。

 おかげで今この瞬間、童貞は先生のパンモロを楽しむことができる。

 本日は黒、安定の黒でございます。

 先生はローライズが好きだから、醤油顔も先生のことが大好きです。

「……昨日と同じの穿いてる」

 いいんですよ、ゴッゴルさん。

 少し臭う先生も可愛いから。

 っていうか、どうして知っているのかな。

「…………」

「これは大丈夫なのかっ!? エディタ選手っ!」

 地面から数メートルのところで、先生は急制動を掛けて空宙に静止。そのまま飛行魔法を制御して姿勢を持ち直す。頭上、今し方までロリゴンが浮かんでいた辺りに向かい、身構える形だろうか。

「いや、持ち直したっ! エディタ選手、危うくも持ち直しましたっ!」

 だが、彼女が見つめる先には、既に誰もいない。

 既にロリゴンは追撃に入っている。

「しかし、クリスティーナ選手の猛攻は留まるところを知りません。大きく腕を振り上げて、エディタ選手に肉薄しております。これはピンチです、エディタ選手、これはピンチですっ! このままやられてしまうのかっ!?」

 当然のようにロリゴンのスカートの中もご開帳である。

 こちらは白、圧倒的に白。純白である。

 空中戦、最高。

 やっぱり空っていいよな。

 自由だもの。

「いいや、これはむしろ、クリスティーナ選手を誘った形でしょうかっ!? 追撃を掛けるクリスティーナ選手に対して、エディタ選手からカウンターとなる魔法が放たれました! これは凄いっ!」

 空宙で仰向けに構えた金髪ロリムチムチ先生。

 その正面に魔法陣が浮かび上がる。かと思いきや、数瞬と経たぬ間に中央から発せられたビーム砲もどき。先生を追いかけて来たロリゴンは真正面からこれを浴びる形だ。直撃の瞬間、その瞳が驚愕に見開かれた点からも、完全な不意打ちであったよう。

「これは凄い、エディタ選手の放った魔法がクリスティーナ選手を飲み込みました。ご覧の通り、地上の側から空へ向けて、巨大な光の帯が伸びております。果てしない、あまりにも果てしない光の輝きです。どこまで突き進んでゆくのでしょう!」

 先生が放った魔法だから心配はないと思うけれど、それでもやはり、ロリゴンの容態が気になる展開だ。試合が始まってからのパンチラ率は、先生が七割、ロリゴンが三割。醤油顔的にはもう少しロリゴンのカッコイイところを見てみたい。

「おぉっと、クリスティーナ選手、どうやら耐えた様子です!」

 光が収まるに応じて、その只中よりロリゴンが姿を表した。

 遠目にも辛そうな気配が伝わる。肩を大きく上下に動かして、ハァハァとしている。二人の試合を端的に述べるとすれば、華麗に魔法を避けるエディタ先生に対して、真正面から喰らいにいくロリゴンといった構図だろうか。

 相変わらずの直線番長である。

 きっとそれがドラゴンとしてのヤツの生き様なのだろう。

 割と嫌いじゃない。

 ただ、先生もまた無傷ではない。直撃こそ回避しているものの、全てを完璧に避けてきた訳ではない。避けきれなかった魔法に身を掠らせて、その積み重なりが今の彼女に負担を強いている。満身創痍というやつだ。

 だからきっと、二人は現時点で同着。

「これは試合の行方が分からなくなって参りましたっ!」

 正直なところ、試合の勝敗は気にならない。どちらが勝っても不思議ではないし、どちらが勝っても差し支えない。当事者である二人が、試合の内容に満足してくれることの方が、遥かに重要である。

 むしろ、醤油顔が気になるところは他にある。

 どうして彼女たちの衣服は千切れ飛ばないのだろう。

 過去、自分はぺぺ山での戦いを筆頭として、争いの度に衣服を失ってきた。下着諸共失ってきた。そんなブサメンの無様は、果たして何だったのか。今まさに民衆が求めているのはロリータの裸体に他ならないというのに。

 せめてスカートくらい脱げてくれないと困る。

 分からない。

 あぁ、分からない。

 何故にお洋服が脱げないのか。

 脱げてよ。

「……互いの障壁魔法が強いから」

「なるほど、どうやら両者は互いに決定打に掛けているようです。双方共に守りを重ねる一方、相手を打倒する手立てを探りながら戦っているのですね。恐らくは両者の実力が拮抗している為でしょう!」

 ゴッゴルちゃんから初めてまともな実況を頂戴したかも。

「ドラゴンは躊躇している。エルフは気を遣っている」

「なるほど」

 思わぬところで彼女たちの友好を確認してしまった。

 そうだよな。

 二人が本気でやり合ったら大変だものな。

「でも、次のは少し本気だと思う」

 え、どうして。

「……貴方の声は良く響く」

 ゴッゴルちゃんが見つめる先、ロリゴンが攻撃の構えに入った。

 これを受けてはエディタ先生にもまた変化が。ビクリと小さく身体を震わせたかと思えば、応戦の姿勢に移る。その表情は平素と比較して随分と真面目な感じ。先生の顔って横から見ると、めっちゃ凛々しいんだよな。最高にイケメン。

 素直に逆レイプされたい。存分にメス汁を中出しされたい。

「…………」

 エディタ先生とロリゴンの身体が再び空高く舞い上がった。ぐんぐんと高度を上昇させて、その姿が空の小さな点となる。多分、三桁メートルは離れているのではなかろうか。さらばパンチラ。

「おぉっと、両選手ともに大技の予感です!」

 アナウンスしてから、ふと思った。

 煽ったら駄目じゃん。

 空に距離を置いて浮かんだ先生とロリゴンと思しき二つの点。その正面に同じ形の魔法陣が浮かび上がる。互いに法線を向かい合わせる形で、爛々と力強く輝く様子は、これから決着を付けると言わんばかりの雰囲気だ。

「さぁ、勝利の女神はどちらに微笑むのでしょうかっ!」

 凄まじい勢いで輝きを増してゆく空の魔法陣に、見ている側もドキドキだ。もしも地上に降ってくる系だったらどうしよう。キレたロリゴンとか、魔王さま並に厄介な存在だし、観客席とか割とどうにもならないし。

 しかしながら、当事者である観客の皆様は、その席が安全であると信じているようで、逃げ出す者は一人もいない。醤油顔の実況を受けて、うぉぉぉぉとか、わぁぁぁぁとか、盛り上がって下さっている。

 どうか穏便に過ぎて欲しい決着。

 やはり、縦ロールは正しかった。

「喰らえっ!」

 エディタ先生の吠える声が地上まで響いた。

 これに合わせて、ロリゴンの口からも咆哮が上がる。

『上等だっ!』

 両者より放たれたのは、醤油顔にも馴染みのある魔法。

 ファイアボールだった。

「おぉっと、これはどうしたことかっ! ファイアボールですっ!」

 思わず叫んでしまった。

 規模こそファイアボールを逸脱している。しかしながら、これは間違いない。彼女たちが放ったのは間違いなくファイアボールだ。ペニー帝国の王立学園の教科書で学んだ内容に従えば、魔法の道を志すならば、誰もが使える初級の魔法だという。

 ただし、二人が放ったのは、到底初級とは称せない代物だ。そもそもサイズからして規格外。彼女たちの身の丈を飲み込んで余りある。距離がある為、正確に図ることは難しいが、それでも二、三十メートルはありそうである。

 そんな魔法が、ロリゴンとエディタ先生の元より放たれた。

「両選手の元より、ファイアボールが放たれましたっ!」

 巨大な火球が互いに求め合うよう飛んでゆく。

 放たれたファイアボールは真っ直ぐに進み、向かい合った二人の、ちょうど中間の辺りで衝突した。

 同時に炸裂、空に炎の花が咲いた。

 ぶわっと会場の上空一面が炎に飲み込まれて、地上から眺める我々を照らす。あまりの眩さに目を開けていられないほど。

 更にはチリチリと、熱の肌を焼く感覚が。

「こ、これは凄いっ! 凄い輝きですっ! 直視できませんっ!」

 どさくさに紛れてゴッゴルちゃんの太ももをナデナデしたい。

 いいや、もっと大胆に指先で洞窟攻略したい。

「…………」

「両選手はどうなってしまったのかっ!? あまりの眩しさに、試合の状況が確認できません! 皆さん、無理をして目を焼かれないように注意して下さい! 空が落ち着くのを待つ他ありませんっ!」

 ゴッゴルちゃんに脳内セクハラしながら空が落ち着くのを待つ。

 その間に醤油顔は会場全体を対象にしてヒール。観客席から悲鳴地味た声が上がっていたので、万が一に備えての対応だ。たぶん大丈夫だとは思うけれど、もしも怪我をした人がいたら大変である。

 ややあって、段々と瞼越しに感じる熱が落ち着きを見せ始める。

 視界に再び空の色が戻った。

「さぁ、勝負の行方は如何にっ!」

 まず空を見る。

 しかしながら、そこに二人の姿は確認できなかった。

 自ずと意識は地上へ戻り、会場の中央に設けられたステージへ。しかし、そこには既にステージなど影も形も存在していない。試合開始当初、ロリゴンのシャワー魔法を受けて、跡形もなく砕け散ってしまった。

 その只中に醤油顔は二人の姿を発見だ。

「おぉっと、両選手とも地上に近い位置で、その姿が窺えます!」

 二人とも飛行魔法で身体を浮かせている。

 ただ、空の小さな点だった彼女たちは、今や高度数十センチ。

 エディタ先生はうつ伏せ、ロリゴンは仰向け。それぞれ辛うじて浮かんでいる。そこに普段からの余裕は全く窺えない。どうやら今し方の一撃に力の限りを費やしたようだ。身体を浮かべるだけでも精一杯といった様子である。

 両手両足をピンと伸ばして大の字となり、どうにかこうにか地面に身体が触れないよう踏ん張る先生が可愛い。同様に両足を両手に抱き込み、その背を丸めることで堪えているロリゴンの愛らしさも中々のものだ。

 地面すれすれのところで、プルプルと身体を震わせながら身体を浮かべる二人の姿が非常にいじらしい。自ずと不思議なスティックで、ほっぺの柔らかい部分や、唇のぷるるんとした部分をツンツンしたくなる。

「これは試合継続でしょうかっ!? いや、違いますっ! これはっ……」

 エディタ先生とロリゴン、共に地上に接するか否かの地点に浮いている。しかしながら、両者の間には致命的な差異があった。それは後者にあって前者にないチャームポイント。お尻からニョロリンと伸びた、それはそれは可愛らしい尻尾。

「クリスティーナ選手、場外ですっ! 場外となってしまいましたっ!」

 そんな尻尾の先っちょが、僅かばかりではあるが、地面に触れている。

 ファイアボールが爆発している最中に、二人の間でどのような駆け引きあったのかは知れない。ただ、先生がロリゴンに対して場外を狙ったのは間違いないだろう。結果、今まさに我々が目撃している光景がある。

『なっ、なんだと!?』

「ふ、ふふんっ! 私の勝ちだなっ」

「尻尾ですっ! クリスティーナ選手の尻尾が地面に触れております!」

『っ……』

「大会の規則では、身体の一部がステージ外に触れた時点で場外となりますっ!」

 尻尾は間違いなくロリゴンの体の一部だろう。

 いつの日か、その先っちょで前立腺を刺激してもらうのが夢である。

「これはなんという皮肉でしょう。もしも試合開始当初、自らの魔法でステージを破壊していなければ、勝負はまだ分かりませんでした! クリスティーナ選手は今後、モノを大切に扱うよう、意識したほうが良いかもしれませんっ!」

『付いてないっ! 付いてないぞっ!? ぜんぜん付いてないっ!』

 ロリゴンの尻尾が、ほんの僅かばかり動いた。

 クイッと持ち上がった。

 ギリギリ付いていない高さだ。

 これを受けては、エディタ先生からもご意見が。

「……なぁ、そ、それはちょっと酷くないか?」

『ぐるるるるるるるるる』

 なんてセコいんだロリゴン。

 今の今まで地面に触れていた先っちょが、数センチばかり浮かび上がった。

 だがしかし、醤油顔はしっかりと確認していたぞ。

「第六試合、エディタ選手の勝ちとなりますっ!」

『認めない! み、認めないぞっ!? 私のほうが強かった!』

「確かに貴様の一撃は大したものだった。しかし、この戦いは相手を真正面から叩き潰すだけが能じゃない。その辺りを厳かにした時点で、す、既に争いの流れは私に向いていたのだっ! つまり、この試合は私が最強だ!」

『こ、このっ……貴様だって尻尾があればっ!』

「エルフに尻尾は生えていない」

『……生やす。いつか生やしてやる』

「だ、誰が生やすかっ!」

 アナルビーズで装備する尻尾アクセサリーって最高だよな。

 いつか先生にプレゼントしたい。

 そうこうする間に、エディタ先生の身体が地面にぽてんと落ちた。勝敗を決したところで、限界に達したのだろう。そのまま地面の上に横となってしまう。他方、ロリゴンは意地でも負けを認めないつもりなのか、今もプルプルしながら浮いている。

 構わず醤油顔は司会進行、会場に向けてご連絡を。

「さて、次の試合に移りたいところではございますが、見ての通り激しい試合を受けて、ステージが崩れてしまいました。これを修繕する為に次の試合までの間、しばらく休憩を挟みたいと思います」

 アナウンスに応じて、観客席に喧騒が広がってゆく。

 飲み物でも買いに行くのか、それともトイレか、席を立つ観客の姿も少なからず見受けられる。思いのほかロリゴンと先生の試合が長引いたので、休憩を取るには良いタイミングだったのかもしれない。取り立てて問題とはならないだろう。

 その間にブサメンは二人の下に向かう。

 会場の中央、壊れてしまったステージの跡で見つめ合うロリータたちだ。

 どうにか身を起こした先生は、地面にあぐらを掻いて座り込み、傍らにロリゴンを見つめている。そんな彼女を必死の形相で睨みつけるのは、未だに空へ仰向けの姿勢で浮いたまま耐えているロリゴン。めっちゃプルプルしている。

 前々から思っていたけれど、とんでもない負けず嫌いだ。

「その、なんだ。……いい加減に諦めたらどうだ?」

『私は負けてないっ!』

 顔を真っ赤にして吠えるロリゴン。

 多分、限界が近いのだろう。トイレで踏ん張っているような臨場感が非常に愛らしい。やっぱり何かに一生懸命になっている女の子って最高だよな。ただ、流石にこれ以上は時間が勿体無い。

 それに彼女たちには確認しなければならないこともある。

「すみません、クリスティーナさんとエディタさんに確認したいことが」

 醤油顔が声を掛けたところで、二人はビクリと身体を震わせた。

 同時にポテり、ロリゴンが背中から地面に落ちた。

 どうやら限界に達したようだ。

『ぐ、ぐるるるるるっ……』

 それで尚も威嚇してみせる姿勢は、やはり相当悔しかったのだろう。例によって牙をむき出しに唸り声を上げている。もしもステージが事前に破壊されていなかったら、この試合の勝者はロリゴンの粘り勝ちだったかもしれない。

 一方、どこか居心地が悪そうに、申し訳なさそうな表情をするのがエディタ先生である。途端に挙動不審となって、視線が泳ぎ始めた。あっちへキョロキョロ、こっちへキョロキョロ。先生らしからぬ振る舞いである。

「あ、いや、こ、これはだな……」

「お疲れのところ大変に恐縮ですが、一つ確認させて下さい」

 本来であれば彼女たちの枠で出場する筈であった選手に関してだ。この点に関してはブサメンも譲れないって。もしも二人が強引な手を使っていたとしたら、それはちょっと悲しい。

 なんて酷く複雑な気分で問いかけたところ――――。

『……さ、誘ったのはコイツだぞっ!? コイツが一緒に出るぞって!』

「お、おいっ! なんでバラすんだっ!? 貴様が出たいと言うから私はっ……」

 ロリゴンが速攻でゲロった。

 マジか。主犯はエディタ先生か。

 これは想定外である。

 てっきりロリゴンかと思った。

 一方でバラされてしまった先生、完全に涙目。

「エディタさん、予選時点では他に本戦出場を決めた選手がいらっしゃったと思います。その方々とのやり取りに関して、確認したいのですが構いませんか? 本大会はペニー帝国の国内に限らない問題ですので」

 下手をしたら国際問題ってヤツだ。

 醤油顔としてはそれが一番怖い。

「あ、あぁ。まずは謝罪する。すまなかった」

 よろよろと立ち上がり、頭を下げて下さる。

 その覚束ない様子を眺めていると、罪悪感が溢れてくる。

「ご本人から承諾は取られたのですか?」

「その点に関しては問題ない。予選通過者の身元を洗い、穏便に本戦出場権譲ってもらった。むろん、相応の対価も用意した。今後、貴様が危惧するような問題に発展することはないだろう」

「であれば良いのですが……」

 しかし、万念貧乏性の先生が語る対価ってなんだろう。

 金銭を用意する余裕があるとは思えない。

 まさかとは思うが、オマンコじゃないだろうな。

 見ず知らずの男にお股を開いて大会出場とか、童貞的に絶望する。

 やばい。

 そうだった。先生はヤリマンだった。

 しかもブサメンの記憶が正しければ、この試合の本来の選手は山賊のなんとか選手と、盗賊のなんとか選手だ。どっちも絶対にヤリチンである。現代社会で言えば夜のドンキホーテに改造車で集まるタイプのヤリチンだ。

 そんな輩に手酷く扱われる先生とか、最高に興奮する。

「もしよろしければ、後でお二人に本戦を譲った方々と、場を設けて頂いても構いませんか? 主催側として、事実関係の確認は行わなければなりませんし、必要であれば謝礼を考えています」

「い、いや、それだったら必要ない。既に十分な額は渡した。それに相手もまた、あまり公に顔を出したい立場ではないと伺っている。下手に突っ込んでは、逆に機嫌を損ねるばかりだろう。故にこうして我々が会場に立っている訳だが……」

「……そうなのですか?」

「ああ、その点に関しては間違いない」

「一つ質問なのですが、買収に利用した資金は、どちらから調達されたのですか? 大会の優勝賞金は金貨一千万です。また優勝を逃しても、上位に入賞すれば相応の金銭が与えられることとなっております」

「いや、そ、それはだな、その、なんというか……」

 やっぱり、オマンコなのか。

 オマンコなのだろうな。

 直接選手にクパァするのではなく、金銭を稼ぐために不特定多数にクパァとか、更に被害は甚大だ。果たしてどれだけ出されてしまったのだろうか。考えるだけで童貞は興奮すれば良いのか、意気消沈すればいいのか、心が壊れてしまいそうである。

『……あの男が用意した。そのエルフが悩んでたら、くれた』

「あの男? それは私も知っている方ですか?」

 エディタ先生に代わり答えたのはロリゴンだ。

 あの男って誰だよ。

『やたらと甘いものばかり持ってくる男だ。しゅわしゅわしたヤツとか』

「すみません、如何せん及びがつかないのですが……」

『ここで壁を壊せなかった男だ。貴様も知ってるだろう?』

「あぁ……」

 おいおい、魔導貴族かよ。

 ヤツまでグルかよ。

 ただ、なんとなく納得できてしまった。

 これは勝手な想像だけれど、エディタ先生とロリゴンの試合が見たくて、ついつい援助してしまったのだろう。実際に立ち会った訳ではないけれど、人外ロリータに泣き付かれて、嬉々として財布を広げるヤツの姿が容易に想像できる。

 相変わらずブレのない魔法キチガイだ。

「承知しました。そういうことであれば、お二人を信じましょう」

「……いいのか?」

「エディタさんとクリスティーナさんの試合は素晴らしいものでした。私も満足しています。他に問題がないというのであれば、これを否定することはしません。健闘をありがとうございました」

 ヤツが間に入っているのであれば、問題はないだろう。

 大会も盛り上がったし、ここはブサメンが妥協するべきだと思う。思い返せば二人には、いつも醤油顔の都合ばかり押し付けてきた。たまには彼女たちの興味や都合を優先してもバチはあたるまい。

「そ、そうかっ」

 ホッとした表情になる金髪ロリムチムチ先生可愛い。

 他方、未だに顔を顰めているのがロリゴン。

『負けてない! わ、私は負けてないからなっ!?』

 二人にはせいぜい、仲良く喧嘩してもらいたいものである。



◇◆◇



 壊れたステージの修繕はロリゴンとエディタ先生にお願いした。

 当然、回復魔法で体調を癒やして後のことである。

 いそいそと作業に励む土木ロリータ可愛い。

 その間に自身は、参加選手のチェックだ。第六試合は幸い、上手いこと組み合わせが成された為、これといって被害らしい被害もなく、無事に終えることができた。しかしながら、今後の試合はどうなるか分からない。

 優勝賞金の額を思えば、選手の入れ替りには十分注意するべきだろう。大学受験なんかでも、毎年のように問題が起っている。倫理観に乏しい世界では、むしろ当然だと考えたほうが良いかもしれない。

 陛下の椅子で爆発物が見つかった件も未だ詳細は不明のままだ。

 ということで、改めて参加選手の確認に向かった次第である。

「あ、タナカさん……」

 訪れた先は選手の控室である。

 醤油顔の姿を見つけて、ソフィアちゃんからお声がけを頂戴した。その視線がブサメンを捉えるに応じて、他に幾つも選手たちの視線がこちらに流れてくる。本選出場者だけあって、むさ苦しい連中が多い。

 その中には何故かゲイ子爵の姿もある。メイドさんと会話の最中にあったようだ。そういえば以前も彼女と二人で執務室、お話をしている彼を見つけた気がする。まさか両刀使いだったりしないよな。

「これはこれはゲイ子爵、どうされました? このような場所で」

「ああいえ、少しばかりソフィア嬢と話をしておりました」

「なるほど?」

 仮に男女のあれこれだとすると、踏み入って確認する訳にも行かないよな。

 切ないぜ。

「ところでタナカ伯爵、伯爵は控室にご用ですかな?」

「先の試合を受けては、予選を勝ち抜いた皆さまにも、少なからず思うところがあったと思います。決して褒められた行いではないので、主催者側として今後同じようなことが起こらないよう、確認に足を運んだ次第です」

「なるほど」

 チラリ、魔導貴族を見やると、露骨なまでに肩を震わせビビってる。ロリゴンがゲロった情報は間違いなかったようだ。ヤツの面目を保つ為にも、これ以上、この場では語らないでおこうかな。

「しかし、こうして眺めて分かるものなのですか?」

「これでもそれなりに、人を見る目はあると自負しておりますので」

 ゲイ子爵と言葉を交わしつつ、片っ端から参加選手のステータスを確認していく。注目すべきは名前くらいなので、全員を見て回っても大した手間ではない。

 大丈夫だ。

 変なのは紛れ込んでいない。

「……本当に確認しているのですか?」

「確認しているか否かでいえば、今まさに確認しております」

「…………」

 素直に応えると、ゲイ子爵もまた醤油顔の視線を追うよう、他の参加者に視線を巡らせ始めた。ただ、数人ばかりを眺めたあたりで、元あったとおりこちらに向き直った。その表情は難しそうなものである。

「どうされました?」

「いえ、流石はタナカ伯爵だと、改めて関心した次第です」

「そう大したものではありませんよ」

 やれることはやったし、急いで実況席に戻るとしよう。

 ゴッゴルちゃんが待っているからな。



◇◆◇



 その後、第七試合、第八試合は滞りなく進んでいった。

 第七試合は本大会の主賓、西の勇者様が登場である。

 対戦相手は大陸の南部地方で活躍する雷槌の団という傭兵団の切り込み隊長とのこと。子細はゴンちゃんが知っていた。ステータス的には本戦参加者で最弱。それが西の勇者様の初戦向け安牌として、ブサメンの目に止まった次第である。

 トーナメント表を描いて当初は、取り立てて不安もなかった。西の勇者様に余裕を持って傭兵団長を倒して頂き、サクッと終える予定だった。だが、エディタ先生とロリゴンのおかげで、試合の流れとしては最悪と称しても過言ではない状況にあった。

 あの試合を眺めた後では、どれだけ頑張っても見劣りするのではなかろうか。前の試合の方が凄かった云々、野次が飛んでくるのではないかと、とても不安であった。事実、試合開始直後の盛り上がりは控えめであった。

 だが、そこは流石の勇者様である。

 派手な魔法を用いて対戦相手を一撃、咄嗟の荒業で回避して見せた。

 威力こそ程度は知れない。ステータス的に考えても、大した魔法ではないだろう。しかし、大多数の観客には見た目が全てだ。その魔法の効能が人体の破壊だろうと、肩こりの治療だろうと、見栄えが良ければ、それは凄い試合ということになる。

 長期戦であった前の試合との対比も手伝い、その印象は圧倒的だった。

 伊達に聖女様の下で勇者などしていなかったということだろう。群衆の扱い方を良く理解されている。試合後にステータスを確認したら、MPが半分以下に減っていた。それなりに無理して下さったようだ。

 まったくもって良い男である。

 対して、第八試合はなんとか公国の宮廷魔法使いと、大聖国の聖騎士の試合であった。ちなみに後者は漏れなく覆面枠である。本人は流れの傭兵だと参加表に記載していたけれど、醤油顔にはバレバレである。

 こちらは西の勇者様の試合とは異なり、とても地味なものだった。会場もそう盛り上がることはなく、淡々と過ぎていった。最終的には先んじてバテた宮廷魔法使いが根負けて降参した。確認したらMP的なものが枯渇していた。

 大聖国の間者としては、意図せず西の勇者様の試合を際立たせる形だろうか。

 本日の試合はそれで終了である。ただ、同聖騎士の今後の動向は要チェックだろう。先日、陛下の椅子に爆発物を仕掛けた犯人としても、これ以上ない背景をお持ちである。その身柄に関してはゴンちゃんにお願いして、秘密裏に監視をしている。

 当面は泳がせて、何か事を起こすまで背後関係を漁る予定だ。

 目指すは現行犯逮捕。

 そんなこんなで本戦初日の予定は過ぎていった。



◇◆◇



 その日の晩、醤油顔は皆々が寝静まってから、大会の会場ステージを訪れた。

 日中は試合に賑わっていた同所も、日が暮れて以降は静かなものである。爆発物騒動の影響も手伝い、日没後は黄昏の団の面々にお願いして、出入り口を完全に封鎖している。故に出入りできるのはドラゴンシティの関係者だけである。

 しばらくステージの中央に立って空を眺めていると、背後に人の気配が生まれた。

「すまぬ、少しばかり遅れたようだ」

 他に音もない物静かな会場に、男の声が妙に大きく響いては聞こえた。

 勿体ぶったふうを装い、声の聞こえてきた側を振り返る。

「いえ、私も今来たところですよ」

 そこには今まさにステージへ登る魔導貴族の姿があった。

 相も変わらず律儀な男は、お呼び立てした時間に寸分の狂いなく登場だ。ちなみにブサメンはと言えば、そんなナイスミドルに対して格好つける為に事前集合。今の今まで星の数など数えながら呆けていた次第である。

 本戦での試合だとか、エディタ先生とロリゴンの乱入だとか、魔導貴族とは色々と話すべきだと考えた次第である。ここならば他に邪魔が入ることもあるまい。満点の星空の下、ロケーション的にも最高だ。

「……その、なんだ。貴様には悪いことをした」

 出会い頭に謝罪を頂戴した。

 伊達や酔狂で頭を下げる男ではないから、本当に悪いと思っているのだろう。

 それで尚も決して後悔はしていないと見た。

「いえ、私としても決して悪くなかったと思います」

「本当にそう考えているのか?」

「大会は盛り上がりました。ドラゴンシティの強みも世間に向けて、諸外国に向けて、存分に示せたのではないかと思います。続く試合では西の勇者様も上手いことやってくださいましたから、問題らしい問題は一つもありません」

「すまん。貴様の気遣いに感謝する」

「滅相もない」

 酷く粛々とした会話である。

 こういう雰囲気で交わす魔導貴族とのトーク、意外と嫌いじゃない。中年イケメンの発するダンディズムにタンデムさせて頂いて、人生経験のレベリング。自分までナイスミドルになったような気分が心地良い。

 もしもここがバーの類いであったのなら、すぐ傍らにカウンターの上、ロックで作られたウィスキーの氷が、カランと小気味良い音でも立てていたことだろう。いつか魔導貴族とは差しで飲みに行ってみたいかもしれない。

 出会って当初からしたら、まるで想像できなかった感慨だな。

「掛かった費用に関しては、後で私の方から返済させて下さい」

「いや、それは不要だ。他の誰でもない私自身が見たかったのだ。あれは私にとって、あの者らが見せた試合に対する対価だ。むしろ、あの程度の額で見られたことに、私は感謝しているくらいだ」

「そうでしょうか?」

「今日の一戦は素晴らしいものであった。私は死ぬまで絶対に忘れない」

「本人にもそのように伝えては如何でしょうか? きっと喜びますよ」

 主にロリゴンとか、ロリゴンとか。

 ヤツの承認欲求は未だ衰えを知らない。

「そうだな。貴様の言葉は非常に魅力的な誘いだ」

「明日にでも私の方で機会を用意しましょう」

「だが、私にはまだその力がない。あの者の隣に並ぶ権利がない」

「そうでしょうか? 本日の試合、実質的には貴方の勝利であったと、私は判断しております。少なくともソフィアさんに、あの壁を破壊するだけの力はありません。彼女の二回戦進出は奇跡的な偶然の重なりによって成されたに過ぎません」

 あとほんの少し、ほんの少しだけ力を加えていたのなら、結果は違っていただろう。

 メイドさんの突っ張りなんて、高が知れているしな。

 ただ、そんな醤油顔の思いとは裏腹に、魔導貴族は清々しい顔で語る。

「私は自分の力で、あの者に挑みたいと思っている」

「……ファーレンさん?」

「気遣いは無用だ。いつか私は自らの力で、あの者の隣に並んで見せる。如何に貴様が大した魔法使いであろうとも、私は決して諦めたりはしない。自らを信じて、己が魔導を突き進むまでよ」

「…………」

 話が噛み合っていないような気がする。

 もしかして自分は何か、大切なことを見落としているのだろうか。いやしかし、今回はこれといって手を出した覚えもない。ロリゴンによる自演も、当の本人がお使いをブッチしたからノーカンだ。

 なんだろう。

「だが、貴様が気を利かせてくれたことは、とても嬉しく思っている。これまで酷くつまらないものだと扱き下ろして生きて来たが、当事者となってみると、なかなかどうして悪くない気分だ。意中の女を巡り、こうして貴様と交わす言葉は、思いのほか心地良い」

「そう仰って頂けると、私としても嬉しい限りですが……」

「ありがとう。本当に感謝している」

 短く呟いて、魔導貴族は踵を返した。

 ヤツの大きな背中に、ばさりとマントの翻る様子から、圧倒的なダンディズムを感じる。迸るナイスミドルが、これ以上は付いて行ったら駄目だと、一歩を踏み出しかけたブサメンの足を封じる。

 そうこうする間に、ヤツの姿は遠退いていく。

 やがて、その姿はステージから下り、屋内へ通じる戸口の先に消えていった。

「…………」

 醤油顔の知らぬ間にロリゴンと魔導貴族の間で、何某かやり取りがあったのだろうか。それとも本戦の僅かな間で、物言わぬ壁を相手に何か感じ取ったとでも言うのか。正直なところ、ヤツの語ってみせたところが知れない。

 本当に分からないな。

「…………」

 しばらく空を眺めて、あれこれと考えていた。

 数分ばかりが経過しただろうか。

 ややあって、別所より声を掛けられた。

『おい』

 ここ数ヶ月で妙に馴染んで思える声色だ。

 まさか間違えることもない。

「……おや、これはクリスティーナさん」

 まさかロリゴンとエンカウントするとは思わなかった。

 声の聞こえてきた方に向き直れば、想定通りの相手が立っていた。

「どうしました? こんな夜更けに」

 日課のお散歩だろうか。

 こちらのイベント会場は中々の力作だ。夜の静かな時間に眺めて歩きたいという気持ちは分からないでもない。自分もそういった想いが少なからずあって、この場に魔導貴族を呼び出したのだ。

『……貸しだ』

「貸し?」

 トコトコと醤油顔の下まで歩み寄るロリータ。

 その正面まで至ったところで、彼女は声も大きく語ってみせた。

『だから、か、貸しだ! 忘れたとは言わせないぞっ』

「…………」

 この耄碌ドラゴンは自らの失態を忘れてしまったのだろうか。

 そんなだからお使い達成率が未だにゼロパーセントなのだ。

「すみませんが、貸しというのは、借りを与えることで初めて成り立つのですよ。今回、私はクリスティーナさんに借りを作った覚えがないのですが」

『な、なんだとっ!?』

「違いますか?」

 酷く驚いた様子で、一歩を後ずさるロリゴン。

 そんなに驚くことかよって。

『まさか本当に、人間如きが私の魔法を砕けると思っているのか?』

 ただ、続けられた言葉を受けては醤油顔もビックリだ。

『あの男は人の世話を焼くのが好きだ。恐らくヤツは貴様に壁を作れと命じる際、我々人間にも壊せる程度の強度で作れと注文を入れることだろう。あぁ、もしくは途中で貴様に壊せと指示を出すかもしれない』

「……クリスティーナさん?」

『私はそれを快く思わない。どうか、貴様が誇る最高の魔法が欲しい』

「…………」

 これはちょっと想定外かも知れない。

『とか言ってたぞ』

 言い訳できないほど、その通りに動いてしまった。

 醤油顔の行動、完全に魔導貴族に読まれてしまっていた。

『でも、わ、私は貴様の言うとおりやったぞ? 柔らかく作った! 途中で壊すのは、多分、あのニンゲンは気づくだろう? そして、アイツはいちいち小言が煩い。だから、き、貴様が納得のゆくように柔らかめに作った! ど、どうだっ!?』

 ドヤ顔で語ってみせるロリゴン。

 早く褒めろと言わんばかりの笑顔が眩しい。

「……なるほど、そんなやり取りが」

『それでも、あのニンゲンは壊せなかったけどな!』

「…………」

 そういうこと言ってやるなよ。

 どうやら醤油顔の考えていたことは、魔導貴族に全て筒抜けていたようだ。それで尚もブサメンの指示を守ってくれたロリゴンと、そんな彼女の意図するところ、柔らかめの壁を壊せなかった魔導貴族。

 ようやっとヤツの先程の言葉を理解できた。

『か、貸しっ! 貸しだぞっ! 貸しだよなっ!?』

「ええ、そうですね。貸しだと思います」

 醤油顔が変に気を回したせいで、二人には要らぬ迷惑を掛けてしまった。

 こうしてロリゴンがご褒美をもらいに来たのも当然だろう。醤油顔に対する貸し借りで言えば、彼女はこちらが想定しなかった問題を内々的に解決した上、最も無難なところで施策を打ち出してくれた。

 それもこちらがお願いするまでもなく、仕事を終えていたのだ。

『けど、ニンゲンには色々なのがいるんだな』

「何か気づいたことでも?」

『……真似されるとは思わなかった』

「真似?」

『前に一度だけ見せた魔法を、アイツはそっくりそのまま真似した』

 それは本戦で魔導貴族が壁に対してぶつけた魔法だろうか。

 思い返してみると、確かに印象的なエフェクトだった。

「彼の優れているところは、今まさにクリスティーナさんが指摘した通りです。なにも大きな炎を操れることだけが、魔法に秀でているという訳ではありません。そういった意味で、彼は決して貴方に劣る存在ではありませんよ」

『だ、だとしても、私のが強いっ! 絶対に強いぞっ!?』

「そりゃそうでしょう」

『ぐるるるるるっ』

 そのセリフ、魔導貴族にこそ聞かせてやりたかったよ。

 間違いなく喜んだと思うんだ。

 後でこっそりチクっておこうかね。

 それくらいなら、きっとヤツも怒ったりはしないと思うんだ。
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