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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫
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武道会 五

【ソフィアちゃん視点】

 メイドは現在、選手の控室なる場所に待機しております。

 大会の会場に設けられた関係者用の廊下から入りまして、ステージに通じる唯一の通路へ直結するよう設けられたお部屋です。タナカさんがおっしゃるには、参加者の入れ替わりなど、不測の事態を未然に防ぐ為に設けられたお部屋とのことです。

 些か物々しい理由ではございますが、作りは非常に上等なものです。参加者の方々には身分の高い方も決して少なくない為、そのあたりを考慮してのことでしょう。まるでお貴族様の屋敷の応接室を思わせる空間です。

 椅子一つとっても、私の人生を丸っと買ってもお釣りが来ます。大きめのソファーやテーブルなど、正直、触れるにも憚られるお値段です。帳簿を管理している身の上、調度品の一つ一つに値札が付いているように思えて、まるで寛げません。

「…………」

 周りには本日、大会に出場する選手の方々が見受けられます。

 まず目につくのはファーレン様でしょうか。とても怖いです。また、ファーレン様とお話をされているのは、ファーレン様のお知り合いで、学園都市で要職に就かれている方だそうです。

 他にも隣国で騎士団長を勤められている方だとか、その筋では有名だという二つ向こうの国の賢者様など、とても凄そうな方々が同所に顔を揃えていらっしゃいます。その中には当然のように、東の勇者様ももいらっしゃいます。

「…………」

 時折、視線を向けられたりして、メイドとしては心細いにも程があります。

 一方でそうした華やかな身形の方々とは別に、対象的な姿格好の参加者の方も、同所には多く見受けられます。それは例えば頭から足元までをローブですっぽりと覆って、外見からは性別すら碌に判断できないような方々でございます。

 何か疚しい背景など抱えていらっしゃるのでしょうか。顔を仮面のようなもので覆っていらっしゃる方もおります。それもこれも高額な賞金が理由と思われます。金貨千枚、平民が普通に暮らしていたのでは、絶対に入らない大金です。

 人が無茶をするには十分なお金でしょう。

「ソフィ?」

「……は、はひっ! ななな、なんでしょうか?」

 すぐ傍ら、エステル様から名前を呼ばれました。

 エステル様のお隣には、ゾフィー様もいらっしゃいます。

「大丈夫かしら? 顔色が良くないようだけれど」

「いえ、あ、あの、それは、その……」

 まさか大丈夫な訳がありません。

 ですが、それを素直にお伝えする訳にもいかず、どうしたらよいものか。誰もが本戦を前に緊張している時分、本当は参加したくなかった云々、口が裂けても語れる雰囲気ではございません。

 そんなことを言ったら、ファーレン様に怒られてしまいますよ。

「実を言うと、貴方が予選を勝ち抜くなんて思わなかったわ」

「えっ……」

「優勝は無理でも、いけるところまで一緒に頑張りましょう」

「いえ、あ、あの、私はっ……」

 ニコリと満面の笑みで語って下さるエステル様、優しいです。

 なんて優しい笑顔とお言葉でしょうか。

 思わずメイドの心がズキュンです。

 しかしながら、根本的なところが間違っているの辛いです。

「は、はい」

 故に私は頷かせて頂く他、選択肢はございません。

 ちなみに控室となる同所ですが、観客席とは異なり建物の内側に存在しております。ちょうど、舞台に向けてせり出した貴賓席の下側に位置する形です。ステージに面する側には窓が設けられて、そこから会場の様子を確認できます。

 試合を観戦するには、かなり上等な配置ではないでしょうか。

 それとなく外の様子を窺えば、タナカさんの姿が見受けられます。舞台の中央に立って、観客席に向かいあれこれと流暢に喋っていられます。本当に何でも出来る方ですよね。思わず感心してしまいます。

「…………」

 ちらりと隣の様子を伺います。

 エステル様もまた、タナカさんに注目していらっしゃいました。キラキラと輝く瞳で、彼の姿を見つめております。完全に恋する乙女じゃないですか。いつぞや町長さんのお宅で伺ったお話は、やはり強がりであったようです。

 ややあって、タナカさんから大会規則の説明などが語られ始めた頃合いのこと、控室に黄昏の団の方がやって来ました。非常に特徴的な頭髪の男性です。第一回戦が始まるので、エステル様とゾフィー様はご準備を、とのことでした。

「それじゃあ行ってくるわね、ソフィ」

「は、はい! お二人共、頑張ってください」

「当然よ。彼に無様な姿は見せられないもの」

 短く語ってエステル様は、会場に面する窓から踵を返されました。

「行くわよ、ゾフィー!」

「分かってるです」

 ゾフィー様と二人並んで、控室を後とされます。

 遂に本戦が始まってしまいました。



◇◆◇



 翌日、予選を消化した大会は、遂に本戦を迎えた。

 会場には既に大勢の観客が詰めかけており、席は満席を超えて立ち見する者の姿もちらほら窺える。当初の想定より遥かに客の入りが良い。ソフィアちゃん曰く、会場の他に宿泊施設の類も、ほぼ全てが埋まっているとの話である。

 それとなく観客の様子を窺えば、ちらほらと手に札のようなものを握る姿が窺えた。どれも同じデザインであった為、気になってゴンちゃんに確認を依頼した。すると、どうやら非公式のトトカルチョが催されているようだ。

 昨日の内に本選出場者は決定している。予選会場に居合わせた人間が、出場者の参加名を覚えて帰ったのだろう。そのような手合いが現れるほどだから、まあ、イベントの走りだしとしては成功したと考えて良いだろう。

 後は無事に西の勇者様を優勝させてフィナーレを飾るばかりだ。

「本日は皆さま、お忙しいところをお集まり下さりありがとうございます」

 本選会場の舞台中央、醤油顔が述べさせて頂く。

 何故ならば本戦に関しては、自分が司会進行兼審判役である。

 目標的に考えて、こればかりは譲れないじゃんね。

「本戦を直前に控えまして、本大会の規則を簡単に説明させて頂きます。試合では武器や防具の使用が認められております。魔法の利用も規制はございません。勝敗は対戦相手の降参、もしくは舞台からの落下により決定されます」

 あまり細かくルールを設けても、判定が大変になりそうだったので、勝敗の判定はざっくりと進めることにした。観客席から眺める側も、その方があれこれと考えずに済むし、決して悪い判断だと思う。

「ただし、降参した相手に対して追撃を行った場合、反則負けとなりますので、こちらの点に関しては十分に注意して下さい。なお試合中に発生した選手の過失による損害に対して、主催側は責任を持ちかねますのでご留意下さい」

 お約束の文句に説明を終えたところ、さて、いざ開幕である。

「さて、それではこれより大会を始めさせて頂きたいと思います」

 宣言すると共に、会場からはわっと声が上がった。

 うぉぉぉおおお、といった具合だ。

 耳として直後、思わずビビった。次いでとても嬉しい気分になった。ブサメンの声なんかで会場が沸いてくれるの心地良い。今ならゾフィーちゃんがアイドル転向した理由が分かるかも知れない。こいつは癖になりますわ。

「それでは本戦の対戦表を見てみましょう」

 声も大きく語り、醤油顔を頭上を見上げる。

 これに連れられて観客の面々のまた視線は上に。

 すると時を合わせて、会場の上空に飛空艇がやってくる。その下には金属製のハンガーに吊り下げられて、白地の巨大な布に描かれた対戦表がぶら下がっている。飛空艇は他の誰でもない、ゴンちゃんの従兄弟であるフックの野郎が担当している。

 なんでも飛空艇が完成したとの話だったので、利用させて頂いた。



挿絵(By みてみん)



 吊り下げられたトーナメント表は、昨晩に決定して直後より、黄昏の団の面々にお願いすることで、急いで墨入して頂いた一品だ。そこには会場全体から確認できるよう、大きな文字で参加者の名前が人数分だけ記載されている。

 会場からは感嘆の声が。

 皆々がその内容へ注目しているうちに、醤油顔は移動である。

 どちらに移動かと言えば、ステージ脇の実況席に移動である。

 お隣には既に相方の姿がある。他の誰でもない、ゴッゴルちゃんである。街を挙げてのイベントの最中、まさか一人でロリゴンタワーに待ちぼうけとか、申し訳なさ過ぎるじゃないですか。大変恐縮ではあるけれど、ブサメンの隣に収まって頂いた。

 実況席は観客席とステージの間の平場に設けられている。

 周囲に自分以外、人の姿はないので、彼女が一緒でも安全だ。

 本来なら西の勇者様をお迎えするのが王道と思われるが、本戦では彼も彼で選手となる。流石に他国からの参加者からすれば心象がよろしくないだろう。ということで、個人的な趣味から決定させて頂いた次第である。

「本戦の実況は私とこちらの彼女、ロコロコさんで行わせて頂きます」

 ゴッゴルちゃんにマイク的なサムシングを振る。

 魔道貴族曰く、風っぽい魔法を用いて作られた拡声器らしい。

 こんなところまでヤツの手製である。

「本日はよろしくお願いします、ロコロコさん」

「……よろしく」

 おう、良い感じですよ。

 言葉少なに応じた辺りが、貫禄とか感じてしまうな。

 できることなら本大会を契機として、こちらの世界におけるゴッゴル族の地位改善を考えたいところだ。だって、絶対に存在している筈である。ゴッゴル族に心を読まれながらの逆レイプを趣味としているヤツは。

 その需要こそが彼女たちの将来を輝かせる。

「…………」

「それでは早速ですが、第一回戦に移りたいと思います」

 今し方に提示した表に従い、一回戦に参加する選手名を読み上げる。

「本大会の記念すべき第一回戦を担って下さるのは、ペニー帝国よりエリザベス・フィッツクラレンス選手、同様にペニー帝国よりシアン・ビッチ選手です! どうぞ、ステージへ入場して下さい!」

 醤油顔が吠えるに応じて、会場へ二人が姿を見せる。

 やっぱり、最初は女の子同士の戦いで華やかに始めたいじゃんね。

 パンチラも拝めて皆が幸せになれる。

「エリザベス・フィッツクラレンス選手はその名の通り、フィッツクラレンス公爵家のご令嬢にあられます。ペニー帝国ではプッシー共和国と接する領地を治める子爵として活躍されております。また、本国ではドラゴンスレイヤーに数えられる猛者でもあります」

 アレンと元鞘となった彼女だから、今日こんにち、醤油顔は素直な気持ちから彼女をエロい目で見つめることができる。ロリビッチの顔、かわいい。体付き、エロい。後ろから生でパンパンしたい。インサイドピュッピュを切望する。

 だというに、その出で立ちは何を考えたのか、いつぞやの男装スタイルである。

 ビッチのビッチ足る所以が殺されて、ブサメン的には悲しい限りだ。せっかくのバトルシーンだというに、パンチラもへったくれもあったものじゃない。でも髪をツインテールに結っているのは非常に良い選択である。

 彼女が入場するに応じて、会場からは歓声が雨あられと降り注いだ。

 自ずとその背後に、フィッツクラレンス的なパワーを感じる。

「シアン・ビッチ選手もまた、その名の通りペニー帝国ビッチ家のご令嬢となります。彼女は十代という若さにありながら、ペニー帝国において第三魔法隊の副隊長を勤められる才女です。また、フィッツクラレンス選手と同様にドラゴンスレイヤーでもあります」

 一方でゾフィーちゃんは件のアイドル仕様。

 マジ最高。

 信じてた。

 他の誰よりも近い場所からパンモロを鑑賞させていただく所存。

 登場に際しては、エステルちゃんと同様に歓声が。ただし、野太い声の占める割合が圧倒的に多い点から、同じフィッツクラレンス派閥のお嬢様であっても、エステルちゃんとは支持層が異なるように感じる。

 というより、平民からの声がやたらと熱い。流石は姫ビッチ。

「どのような試合を見せて下さるのか、とても楽しみですね。それでは早速ですが、選手が舞台に上がりましたので、試合を始めたいと思います。お二人とも、準備はよろしいでしょうか」

 問いかけると、二人から頷きが返った。

 共に舞台の上、真剣な表情で睨み合っている。

「それでは、始めて下さい」

 なんだかんだで試合が始まった。

 先んじて仕掛けたのはエステルちゃんである。

「手加減しないわよ、シアン!」

 声高らかに宣言すると同時、腕を掲げるロリビッチ。

 彼女の足元に真っ赤な色で引かれた魔法陣が浮かび上がる。応じて身につけた衣服や、ツインテールに結われた長い髪がはためきはじめる。ミニスカ装備であったのなら、絶好のパンチラシーンであっただろう。

 何故に彼女は男装しているのか。

 ズボンは野郎のすね毛を隠す為の装備である。若い女性が履くものじゃない。

「あまり気張ると長く続かないですよ」

 対するゾフィーちゃんは平素と変わらず澄まし顔。

 その語り調子を鑑みるに、両者が師弟の関係にあったのは本当なのだろう。エステルちゃんにはどうにかしてゾフィーちゃんを超えてやるという心意気が見られる一方、ゾフィーちゃんは何を考えているのかさっぱりわからないけどスカート短いから最高。

「そうしていられるのも、今のうちよっ!」

 エステルちゃんの腕が振り下ろされる。

 これに合わせて彼女の下より魔法が発せられた。

「おぉっと、フィッツクラレンス選手が攻めに出ましたっ!」

 実況の職務を全うするべく、声も大きく叫ばせて頂く実況。

 いつぞやドラゴン退治に折にも拝見した、七色に輝いて対象に迫る帯状の魔法だ。オートホーミング機能を搭載しており、どれだけ逃げても延々と追いかけて来るという、非常に面倒くさい特徴を持っている。

 これが数本ばかり姫ビッチ目掛けて飛んでいく。

 初見はぺぺ山でのロリゴン戦だ。紛争の際にも目の当たりとした。当初は流行か何かだと思ったのだけれど、多分、対物相手ではこちらの魔法が最も効率が良い、いわゆる定石なのではなかろうか、とか思う。

 ネトゲなんかでも、ある狩場に占める特定ビルドの割合が九割とか普通だしな。命が懸かっている分だけ、こちらではその傾向が強いのかもしれない。林檎マークのパソコンを使わない人間が、市場でエンジニア扱いされないのと同じだろう。

「エステル、甘いです」

 案の定というか、ゾフィーちゃんも同じ魔法を放った。

 しかも、エステルちゃんより遥かに出が早い。

 足元に魔法陣が浮かんだかと思えば、次の瞬間には発射である。

「っ!?」

 ロリビッチの放った魔法を姫ビッチの魔法が正面から粉砕して相打ち。

 光の帯が互いにぶつかり合い、消失していく。

 やがて判明したのは、数にして一本ばかり多かった後者の魔法だ。

「これはどうしたことか、エリザベス選手の魔法がビッチ選手の魔法により相殺。更に数で勝るビッチ選手の魔法が、魔法とはなって隙の生まれたエリザベス選手の元に向かいます。これは大丈夫なのかっ!」

 咄嗟に両腕を突き出したエステルちゃん。

 マジか。ゾフィーちゃんマジか。

 思ったよりも遠慮がないぞ。

 本当に大丈夫なのか心配してしまうじゃないか。

 でもロリビッチの洋服はちゃんと破いて欲しい。

「ま、負けないわっ!」

 直撃の瞬間、エステルちゃんの正面に生まれたファイアボール。

 これとゾフィーちゃんの七色魔法が互いにぶつかる。

「フィッツクラレンス選手、ファイアボールを盾として、ビッチ選手の魔法を防ぎました! 類まれなる反射神経です! 一方でビッチ選手、こちらもまた素晴らしい。なんと試合開始から一歩も動いておりません。第三魔法隊の副隊長は伊達ではありません!」

 ブサメン的には、ゾフィーちゃんに激しくアクションして頂きたい。そうでないと、パンモロを味わうことが出来ない。ゾフィーちゃんのパンツが見たい。今はとにかくゾフィーちゃんのパンツに刻まれたスージーをディスカバリーしたい。

「どこまで付いてこれるです?」

「っ……」

 挑むように呟いて、次々とホーミング魔法を打ち出してゆくゾフィーちゃん。

 エステルちゃんは、その進行方向にファイアボールを生み出して対応。一本、また一本と確実に処理していく。しかしながら、ゾフィーちゃんより発せられた七色の魔法は、彼女のファイアボールを巧みに避けてロリビッチを狙う。

 終ぞ、その一撃がエステルちゃんを捉えた。

「っ!?」

「……これで終わりです」

 直撃の瞬間、急に向きを変えた魔法がロリビッチの足元を狙った。

 なんだかんだで幼なじみしていない。ゾフィーちゃんの優しさだろう。日々の言動は完全に姫だけれど、根は良い子だと思う。過去、幾度と無くブサメンにパンモロを無償提供して下さる点からも理解できる。彼女は童貞にとって最高のスジ姫だ。

「降参するです、エステル」

 バランスを崩して倒れたエステルちゃん。

 これを姫ビッチは平素からのジト目に眺めて語る。

「……嫌よ」

「これ以上は無傷では済まないです」

 なんか無性にゾフィーちゃんカッコイイ。

 同時に今の今まで、一度もパンモロしていない事実に不安を覚える。ゾフィーちゃんの臀部が見たい。鼠径部を確認したい。恥骨を楽しみたい。きっと会場の皆も期待している筈だ。この子なら見せてくれるかもしれないと。

「それでも嫌よっ!」

「……そうですか」

「当然じゃないっ! 私はまだ戦うわっ!」

「そんなに彼に良い格好を見せたいです?」

「っ……べ、別に彼は関係ないわっ!」

 顔を赤くして必至に否定するロリビッチ。

 思い起こせば、アレンと仲違いを解消して以降、顔を合わせる機会が随分と減った。ブサメンなりに気を遣った結果である。おかげで彼女の姿を眺めるのは久しぶり。こうして距離を置いてみると、やはりビッチは良いものだ。

 セックスへの距離が近い分だけ、リアルなエロさを感じる。

「そういう貴方こそ、アレンに良い格好を見せたいんじゃないの?」

「……最近、少し悩んでいるです」

「はぁ? なによそれ」

「貴方はいつも私が求めるべき道を、一歩先に進んでいる」

「それ、どういうことかしら?」

「私が欲しているのは、もしかしたら貴方と同じなのかもしれない」

「っ……」

 ゾフィーちゃんが呟くと同時、エステルちゃんの表情が変化を見せた。

 真っ赤に染まっていたお顔が元の色を取り戻すと同時、すぅと目元が引き締まり、眦が釣り上がる。それはまるで彼女のパパ、リチャードさんのお目々が開かれた際のような、なんとも言えない迫力を伴ったものである。

「ゾフィー、それはどういうことかしら?」

「言葉通りの意味です」

「……そう」

 しかしなんだ、アレンのヤツ、相変わらずハーレムってるよな。

 宿屋で3Pを確認した直後から知ってたけれど、改めて思い知らされる。

 別に付き合っていた訳でもないのに、元カレポジを意識させられて、童貞のメンタルは大ダメージ。会社の飲み会で、他部署の高齢童貞をあざ笑うタイプのトークが発生した際と酷似している。居合わせたブサメンの必至なヤリチンアピールは大魔法。

「……大魔法?」

「…………」

 ゴッゴルちゃんから突っ込みを頂戴した。

 ブサメンに構って下さる。こんな童貞のブサメンに構って下さる。ありがとうございます。ちょっとサディスティックな突っ込みが快感である。構い方に若干の難ありだけれど、これはこれで悪くない気がする。

 そうこうするうちに、ビッチたちの間では状況に進展があった。

「そんなの、ぜ、絶対に許さないわっ!」

「それを決めるのは貴方ではなく、彼自身です」

「っ……」

 挑むような眼差しとなったゾフィーちゃんが言い放つ。

「少し、痛い目をみるです。エステル」

 姫ビッチの傍ら、数十から成る虹色魔法がとぐろを巻き始める。倍以上に増えた数はエステルちゃんにとって、脅威以外の何モノでもないだろう。彼女が命じれば、一斉にロリビッチへ襲いかかるに違いない。

「っ……」

 チラリ、こちらを振り返ったエステルちゃんと視線があった。

 実況席にご用だろうか。

 かと思えば、その顔が変化を見せる。

 焦りは瞬く間に失われて、覚悟を決めた男の顔だ。

 凛々しさ急上昇。

「喰らうです」

 ゾフィーちゃんが呟くと同時、幾本もの光の帯が飛び出した。

 他方、エステルちゃんは飛行魔法により空に舞い上がる。

「それは愚策です、エステル」

 追尾する七色ビーム。

 これを彼女は空に浮かび上がり、飛行魔法で避け始めた。

 思ったよりも避けるエステルちゃん。曲芸飛行。

「なっ……」

 驚愕の姫ビッチ。

 対するロリビッチは空を飛びながら、これにドヤ顔で語る。

「私は他の誰でもない彼から学んだわ! 魔力量に乏しくとも、技術を磨けばそこには必ず価値が生まれるのだと! そこには私のような人間にだって、ほんの僅かばかりでも、きっと可能性がある筈だわっ!」

 飛び交う魔法を抜けて、ロリビッチが姫ビッチに肉薄する。

「ぐっ……」

 咄嗟に何某か魔法を発動スべくゾフィーちゃん。

 これに構わず、エステルちゃんは正面から突っ込んだ。

「私の勝ちよっ!」

 まるで交通事故だ。

 ロリビッチの体当たりは姫ビッチを確実に捉えた。

 凡そ少女らしくない一撃は頭突き。

 実況に困るくらいの見事な頭突き。

 鳩尾に脳天が直撃である。

「フィッツクラレンス選手、まさかの体当たりですっ! ビッチ選手を真正面から捉えました! これを受けては堪らない、ビッチ選手、後方へ勢い良く飛んでいきます。飛んでいきますっ! これは場外っ! 場外ですっ!」

 同時、待ちに待った瞬間の訪れ。

 オパンツが見えた! オパンツが見えましたっ! これは観衆にも完全に見えてしまいました! シアン選手の麗しきスジスジなオパンツです! 本日は黒、黒でございます。しかもローライズされた黒。プレミアムブラックにございます!

「……ハァ、ハァ、ハァ」

 舞台に転がるよう着地するエステルちゃん。

 他方、ゾフィーちゃんは衝突の勢いのまま舞台の外に落ちた。

 まさかの逆転劇である。

「窮地から一転しての逆転劇! この試合、フィッツクラレンス選手の勝利です!」

 ゾフィー選手、倒れた姿も堪りません! この食い込みを御覧ください! 縦筋職人も真っ青の造形です! めくれ上がったスカート、付け根まで顕となった太もも、そして、敗北の二文字が演出する、何ら人目を遮ることのないスージーッ!

 がに股で仰向けが最高ですね。

 これぞ姫の風格でありましょう。

「第一回戦、フィッツクラレンス選手が勝ち抜きました! 二回戦進出ですっ!」

 醤油顔が吠えるに応じて、会場からはわぁと声が上がった。

 どうやら観客的にも、満足のゆく試合であったようだ。最後のパンチラが効いたのは間違いない。盛り上がりを終盤まで取っておくスタイル、非常に学ばせて頂いた。

 しかし、なんだろう。

 ここ最近のゾフィーちゃんの噛ませ感ってば半端ないよな。

 その哀れな感じが思ったよりもラブチュッチュしたい。



◇◆◇



【ソフィアちゃん視点】

 メイドが震えている間にも、本戦は着々と進んでゆきます。

 第一回戦はエステル様がゾフィー様に勝利されました。流石はエステル様です。途中まではゾフィー様から一方的に攻撃されておりました。ですが、決して諦めることなく、終ぞや逆転される姿は、見ていてグッとくるものがありました。

 そして、ステージでは続くところ第二回戦の最中にございます。

 なんとかという国の騎士団長様と、また別のなんとかという国の賢者様の試合となります。両者ともに実力が拮抗しているようで、試合開始からかれこれ半刻に渡り、手に汗握る試合を繰り広げていらっしゃいます。

 控室では選手の皆さまが、これを真剣な眼差しに見つめていらっしゃいます。

「…………」

 おかげでメイドの場違い感といったらありません。

 現在の私は部屋の隅、椅子の上で足を抱えて震えております。試合の内容を楽しむ余裕など欠片もございません。脇の下など、かつてない勢いで湿っております。

「お飲み物はいかがですか?」

 その哀れな姿を見かねたのでしょう、選手付きのメイドが飲み物など持ってきてくれました。本戦の出場選手には、国を代表する立場にある方々も決して少なくありません。その辺りを考慮して、一人に一人、専属のメイドが付いています。

 おかげでメイドがメイドに給仕をされるという、妙な絵面となっております。

「あ、ど、どうもありがとうございます……」

「いえ」

 湯気の上がるティーカップが正面のテーブルに置かれました。とてもよい香りです。きっと高価な茶葉が使われているのではないでしょうか。高級なお茶は飲み慣れていないので確証はございませんが、そのように思われます。

「他に何かございましたら、なんなりとお申し付け下さい」

「は、はい……」

 普段とは真逆の立場です。

 メイドに世話をしてもらうの、小さいころからの夢でした。それはもう憧れておりました。しかしながら、今まさに念願の夢が叶ったというに、何ら嬉しくありません。それもこれも会場の方からは引っ切り無しに届けられる魔法の炸裂音や、観客の声が原因です。

 耳にして都度、ビクリと全身が震えてしまいます。

 せっかく頂戴したティーカップに手を伸ばすのも億劫です。

 ただ、それでも大会は着実に進んでいきます。第二試合は僅差で騎士団長の方が勝たれました。試合が終わると同時にタナカさんが駆け出して、ステージの上で回復に当たられたのが印象的でした。

 第三試合は学園都市というところからいらっしゃった、とても高名な教授様と、なんとかという国の近衛騎士様との戦いです。こちらは教授様が終始圧倒するかたちで、勝敗は決しました。教授様はなんでもタナカさんのお知り合いだそうですね。

「さて、それでは第四試合に参りましょう」

 会場に彼の声が響きます。

「こちらはグレモリア・ファーレン選手によるドラゴンシティの外壁への挑戦となります。すぐにでも試合を始めたいところではございますが、第三試合を終えたところで良い頃合いとなりました。そこでしばらく、昼食の時間を挟みたいと思います」

 どうやら、お昼休憩のようです。

 とてもではありませんが、喉にモノが通る気がしません。



◇◆◇



 お昼休憩となり、会場は人気も疎らとなった。観客席で食事を広げる者の姿もちらほら見受けられうが、大半は会場に併設された屋台村へ流れたようだ。貴族な方々も別所で、ノイマン氏が用意したランチパーティーに舌鼓をうっていることだろう。

 そんな同所の舞台中央に、醤油顔は立っている。

 傍らには他に魔導貴族とロリゴンの姿もある。

『おいっ、用事ってなんだっ!? わたしは、い、忙しいんだぞ?』

「すみませんが、少しばかり手伝って頂きたいことがありまして」

 何故にこの三名かといえば、偏に次なる第三試合の準備である。

 次の試合は魔導貴族がドラゴンシティの壁とバトルの予定である。予選では醤油顔製の壁を用意したけれど、本戦ではやはりロリゴン製の壁を用いたい。というより、その為にこそ次の試合、魔導貴族と壁がエントリーである。

『……手伝い?』

「こちらにドラゴンシティを囲うものと同じ強度で、小さめの壁を一枚作っては貰えませんか? 次の試合では、そちらにファーレンさんが挑む形となります。勝敗は壁の崩壊、或いは場外です」

『ふぅん? そうなのか?』

 チラリ、ロリゴンの視線が魔導貴族に向かう。

「あぁ、そうだ。いつか挑戦しようと考えていた。ここ数週に渡る研鑽の末、手応えのある策を閃いたのだ。それをこの華々しい場で、他の誰でもない貴様の前で、披露したいと考えている」

 きっかけは何時ぞやクリスティーナが語って見せた、雄ならば私が作った壁の一枚くらいは壊して云々の口上だ。昨日のうちにトーナメントの表と合わせてご提案したところ、魔導貴族の本人からも是非との声を頂戴した。

 未だ彼の心の中では、ロリゴンに対するラブが燃えているようである。

『ふふん、偉そうなことを』

「自らの壁が破られるのが恐ろしいか? 古き龍よ」

『上等だ。そういうことなら、とっておきの壁を作ってやる』

 おいおい、煽るなよオッサン。

 そんなこと言うと、普段より七割増しくらいで固くなっちゃうぞ。

『人間如きが、やれるもんならやってみろ』

 ロリゴンが呟くに応じて、その正面にニュッと壁が生えた。

 高さは魔導貴族の背丈より少し高いほど。幅は一メートルほどで、厚みはたしかにドラゴンシティを囲う壁と同じくらいだろうか。中身までは知れないが、ぱっと見た感じ発注通りである。表面の凹凸具合も直近の作品にそっくりだ。

「う、うむ。腕がなるというものだ」

 対戦相手を目前に眺めて、少なからず緊張した面持ちの魔導貴族。

 真正面から戦ったら、間違いなく本戦最強だよな、この壁さんは。

「ありがとうございます、クリスティーナさん」

『……ふん』

「ところでファーレンさん、急な話ですみませんが、私と彼女は今後の大会の運営に関して少しばかり話があるもので、ここいらで失礼させて下さい。お昼休憩後、控室の方でお待ちしてますので、よろしくお願いします」

「ああ、よろしく頼む」

 魔導貴族を同所に残して、ロリゴンと共にステージから離れる。

 観客席の下に設けられた出入り口から、ドーム状に作られた会場の建物内部へ移動する。続く廊下を足早に歩んで選手控室を抜ける。更に歩むことしばらく、スタッフオンリーの区画を奥まったところへ進む。

 人気は皆無となって、会場の喧騒も遠いものとなる。

『おいっ! ど、どこまで行くんだ? 私はとっても忙しいからっ……』

 彼女がしびれを切らしたところで、ブサメンは向き直った。

 声も大きく吠える彼女は、いつになくソワソワとしている。あっちへキョロキョロ、こっちへキョロキョロ、目が泳いでいる。もしかしたら本当に忙しいのかもしれない。取り立てて用事をお願いした覚えはないので、誰かに何かお願いされたのだろう。

 そういうことなら手っ取り早く済まさないといけない。

「クリスティーナさんに一つ、お願いがあります」

『な、なんだよ?』

「試合の最中、ファーレンさんが魔法を放ったタイミングで、壁を崩壊させては貰えませんか? 観客からは彼の魔法によって、壁が壊れたように見せて欲しいのです。もちろん、他の誰にもバレないように」

『……あぁ?』

 恋のキューピット、ここぞとばかりに活躍するぜ。

 もしも公衆の面前で、ドラゴンシティの壁を撃破できたのなら、魔導貴族もロリゴンに対して一歩を踏み出せると思うのだ。それこそ能動的な求愛行為を行うに足る根拠を得ることができるのではないかと考える。

 もちろん、バレたら激しく怒られるだろう。それでも醤油顔に対するヤツの評価はさておき、今後のヤツの人生には、間違いなくプラスに働くと信じている。

 どだい人間の身の上でドラゴンに挑むのはハードルが高い。イソギンチャクが猫に求愛するようなものだ。ならば彼には異種族に真正面からラブを囁くだけの勇気と自信を手に入れてもらいたい。今回の大会は、そういった意味で良いキッカケになると思う。

 どう考えても魔導貴族には積極性が足りていない。典型的な童貞野郎である。このまま放っておいたら、四十過ぎのヤツは何も出来ないまま、すぐに中老を迎えてしまうだろう。そうなったら完全にアウトだ。残された時間は少ないのである。

 自分もまた同じ道を行く者であるからして、悲しいけれど理解できる。孤独な老後を防ぐためにも、魔導貴族には肉食系男子になってもらいたい。今のまま草ばかり食べていたのでは、ロリゴン攻略など夢のまた夢である。

 そう、今のヤツは間違いなく、レイプするより、レイプされたい派だ。

「このようなことを私の口から伝えるのはあれですが、彼は貴方と仲良くしたいと考えています。ですが我々人間はとても脆弱な存在です。故に一歩を踏み出すにも、自信が必要なのです。その為にどうしても、クリスティーナさんに協力して欲しいのです」

『ふぅん?』

「いかがですか?」

『あの人間は私に対して、自らの力を示したいのか?』

「はい」

『つまり、あの雄は私と交尾したいのか?』

「…………」

 こういうところワイルドだよな。ロリゴンって。

 以前の約束、もしかしたら彼女も覚えているのかも。

「それはご自身の口から確認して下さい」

『…………』

 とりあえず適当にはぐらかしておこう。

 すると彼女は、なにやら悩むような素振りを見せ始めた。果たしてロリゴンの脳内で、どういった思案が行われているのか。気にならないでもない。というか、気になる。めっちゃ気になる。ドラゴン脳内会議。

「どうしました?」

『……いいのか?』

「というと?」

『い、いいのか? 本当にしてしまうぞ? あの雄と、こ、こ、交尾っ……』

「それが貴方の本意であれば、私はお二人を祝福します」

 いい訳ないじゃん。

 ロリゴンの産卵シーンとか最高に見たくないわ。無精卵なら毎日でもウェルカムだけれど、有精卵とか見せられたら一年間は寝こむだろ。ゴッゴルちゃんと共に暗黒大陸へ、自分探しの旅に出かけること間違いない。

 だが、それもこれもヤツとの約束の為だ。

「ただ、あまり容易に壊してしまっても街の威厳を保つ上で問題となります。そこで相談なのですが、彼であったからこそ辛うじて倒せた、そんなギリギリのところで、壁の崩壊を演出して欲しいのです」

 同時に陛下からの宿題も忘れてはいけない。

 あまり容易に吹っ飛んでしまっても、それはそれで問題なのだ。

 壁の堅牢性を示すと同時に、魔導貴族の恋路も解決する。

 そんな絶妙なさじ加減が求められる。

「お願いできますか?」

『…………』

「難しいようであれば、無理強いはしませんが……」

『……ふん』

 そっぽを向いてしまうロリゴン。

 もしかして、駄目だったろうか。

 そうなると今度は、作ってしまった壁の処理という、非常に面倒な問題が発生だ。やってやれないことはないだろうが、ブサメンの土木魔法が彼女の土木魔法にどこまで通用するのか、些か不安の残る展開となる。

 ああそうだ、エディタ先生の空間魔法で捨てて頂く作戦など良いかも。

「クリスティーナさん?」

 改めて問いかけると、ボソリ、小さな声で呟きが返った。

『……おせっかいなヤツだな?』

「彼を見ていると、他人事のような気がしないのですよ」

『ならば貴様自身はどうなのだ』

「私、ですか?」

 まさか、そんなふうに返されるとは思わなかった。

 どう答えれば正解だろう。

 分からないな。

 素直に言うと、不細工なスペルマで有精卵を産ませたい。

『……貸し』

「はい?」

『だから、か、貸しだ! これは貸しだぞ? そういうの、あるだろっ!? 前に他のヤツと、そんなふうに話をしてたの、き、聞いてたっ!』

「ええ、それはもう仰るとおりかと」

『貸したからには必ず返してもらうからなっ! 分かったなっ!?』

「その時はなんでも仰って下さい。お応えしますので」

『っ! と、当然だっ! 当然っ!』

 くるり踵を返して、のっしのっしとロリゴンは去って行った。

 これは承諾を頂戴できたと考えて良いのだろうか。

 良いのだろうな。

 ドラゴン尻尾が、左右にゆらゆらと揺れている。

「…………」

 後は彼女がブサメンのお願いした通り、試合中に壁を壊してくれれば完璧だ。すると二回戦ではジャーナル教授と魔導貴族の争いとなる。これはこれで盛り上がることだろう。学園都市代表、強いては学園都市全体の心象を稼ぐことができる。

 当初の計画通り、良い感じじゃないか。



◇◆◇



 お昼休みを挟んで、いよいよ第四試合が開始となった。

「それでは第四試合を開始したいと思います」

 声高らかに宣言する。

 すると観客席からはどよめきが返された。第三回戦までのそれと比較して、多分に疑問を伴った声である。え、ちょっと待てよ。どうなってるんだよ、みたいな。確かに言わんとするところは理解できる。

 理由はステージに立った選手模様。

 観客が注目する先、舞台の上に人の姿は魔導貴族一人しかない。一方でそんな彼の正面、十数メートルばかりを離れて立つのは、どこからどうみても一枚の壁。人でないどころか、生き物ですらない。

 このままでは流石に不味いので、解説をさせて頂こう。

「迎えましたところ第四試合ですが、ペニー帝国よりグレモリア・ファーレン選手が挑む相手は、我々が居するドラゴンシティの周囲をグルリと囲った壁となります。その一部が今まさに、会場に立っております」

 醤油顔が説明するに応じて、殊更に喧騒が大きくなる。

 どうやって勝負をするのだという疑問が大半を占めている。

 そりゃそうだ。

 尤もな意見である。

「ここで一つ本大会の規則を思い出して下さい。勝敗は選手本人による降参、もしくは場外となっております。当然、壁は声を挙げることなど不可能ですから、本試合の勝敗はファーレン選手が壁を破壊、もしくは場外とすることで決します」

 今度は打って変わって、納得がいったと声が上がり始める。

 決して悪くない反応である。

 過去の二試合とは毛色の異なる催しを受けて、少なからず興味を示して思われる。一部、トトカルチョ勢などは、既に壁の進出を知っていたのか、壁に対する声援など見受けられるから、ふふん、儲けさせてやるものか。

「それでは第四試合、始めて下さい」

 ブサメンのコールに合わせて、試合開始である。

 壁を正面に見据えて、魔導貴族が数歩ばかり前に進み出た。

 その表情からは、覚悟を決めたイケメンの凄みを感じる。

「魔導の奥義、その全てを喰らわせてみせようっ!」

 やたら意識の高いセリフを口にして、片腕に勢い良くマントを翻す。ガタイの良い魔導貴族だから、その広々とした背中で厚手の生地がバサァってなるの、最高に格好いい。ブサメンが同じことをやったら、絶対に黒歴史だわ。

 会場からの期待も相応である。

 トトカルチョの半券を片手に魔導貴族を応援する者の姿も多数見受けられる。

「そんな壁なんて、ファーレン様の魔法でいちころだー!」「やっちまえーっ! ファーレン様、応援してますぞーっ!」「どれだけ硬い壁だろうと、ファーレン様の魔法にかかったらイチコロよっ!」「ファーレン様、全財産を掛けさせて頂きましたっ! どうか、一発でかいやつを頼みますっ!」「ファーレンさまぁぁぁああ!」

 盛り上がっているようで、大変ありがたい。

 大伯爵様に対して、些か失礼な物言いとなっている辺り、ちょっと不安が残らないでもないけれど、他の誰でもないステージの上の本人がノリノリだったりするから、取り立てて問題はないだろう。むしろヤツのやる気も上昇して良い感じである。

「さて、彼は無事に壁を打ち破ることができるのでしょうか」

 それとなく視線を泳がせては会場にロリゴンを探す。

 どこに隠れているのだろう。

 離れていても魔法は打てるだろうから、そう問題ではないのだけれど。

「ロコロコさん、ロコロコさんから見て第四試合は如何でしょうか?」

 ゴッゴルちゃんは逆レイプが大好き。

「…………」

「おっと、何やら難しそうな様子ですね。しかしながら、ファーレン選手であればきっとやってくれることでしょう。控室では彼と旧知の仲だという学園都市の代表、ジャーナル教授が真剣な表情で試合を観戦する姿も窺えます」

 呆れられてしまっただろうか。呆れられてしまったかもしれない。

 しかしながら、自らの心は偽れないのだから仕方がない。

 あぁ、なんて仕方がないのだろう。仕方がない。ゴッゴルちゃんに心を読まれるの、この上なく心地が良い。嫌われてしまうかもしれないけれど、それでも止められない。あれこれ考えるのを止められない。

 ゴッゴルちゃん大好き。

「……覚悟する」

 覚悟なんてゴッゴルちゃんと出会った時点で既に終えておりますとも。

 幾らでもやっちゃって下さい。

「…………」

「果たしてファーレン選手は、壁を破壊することができるのでしょうか!」

 褐色ロリータさんへの逆セクを楽しみつつの司会進行。

 控室の側を確認すれば、教授の他にも大勢、参加者が窓際に並ぶ姿が目に入った。誰もが例外なく魔導貴族の試合に注目している。もしかしたら、国外においてはリチャードさん辺りより余程のこと名前が響いているのかもしれない。

 ややあって、魔導貴族が次なる動きを見せた。

「ゆくぞっ!」

 声高らかに吠えて、魔法的な構えをポージング。

 同時にブォンと低い音を立てて、足元に魔法陣が浮かび上がる。サイズは半径五メートルほどだろうか。真っ赤な光の筋により描かれて、煌々と力強い輝きを湛えている。その表面からは、色を同じくする光の粒がゆらゆらと立ち上る。

 とても期待させる演出だ。

 これと同時にヤツの口から魔法っぽい呪文が流れ始める。

 呼応するように魔法陣が脈打つよう輝きを増す。

 平行して魔導貴族は腕を正面に掲げた。ピンと指の一本一本の立てられた手の平から先、少しばかりの間隔を取って、新しく魔法陣が生まれた。ソフィアちゃんが普段使っているお盆と同じくらいサイズだろうか。

 その中央から光の玉が数個ばかり生まれて、空中に舞い上がる。何事かと皆の注目する先、真っ赤に輝くそれは、正面に立った壁の上に飛んでいく。それらは壁を囲い込むよう、空中にピタリと静止した。

 上から眺めると、一つ一つの玉が壁を囲い込む形だ。辺の数が十数ばかり、荒く角の立った円形を思わせる配置である。

「本家に及ばずとも、願わくば精々派手に決めたいものだ」

 ボソリ、魔導貴族が何事かを呟いた。

 意図するところはまるで知れない。

 続けざま彼は、魔法陣を作っていた方の手で指パッチン。

 応じて球と球を結ぶよう、光の帯が生まれた。今度は何だと目を見張る面々の目前、光の玉は互いに結ばれ合い、一つの輪となった。それは例えばプロレスのリングに眺めるロープのような。

 そうして作られた光り輝く輪っかの内側での出来事である。

「ドラゴン・ウォールッ!」

 魔導貴族のキメ声に応じて、壁を覆うよう光の柱が立ち上った。サイズこそ直径二、三メートルほどだろうか。しかしながら、輝きが立ち上るに際しては、ズドンと足下が揺れて、身体が震えるほどの衝撃が伝わってきた。

 輝きは空に向かい、数十メートルほどを伸びていく。

 ビリビリと空気を震わすような低い音が会場中に響き渡った。

 見ていてかなり眩しい。

 というか、ちょっと直視するのは厳しいレベル。

「おぉっと、ファーレン選手、これは凄まじい魔法ですっ!」

 目隠しとしてはこれ以上ない演出だ。

 最高に都合が良い。グッジョブである。

 ところで、ふと思った。

 これと良く似た魔法を、自分はどこかで見たような気がするんだ。

 どこだったろうか。



◇◆◇



【ソフィアちゃん視点】

 おトイレにやってまいりました。

 本日三回目です。

 お腹の調子がよろしくありません。おかげでお尻を吹き過ぎて、ちり紙に赤いものが付着しております。なんかこう、無性にタナカさんのお茶に混ぜたい気分ですね。私の苦労を共に分かち合って頂きたいと切に望みます。

「…………」

 なんて孤独なんでしょう。

 腹痛を抱えて篭もるトイレは、とても寂しいものです。

 四方を囲う壁が、やたらと高く感じてしまいますよ。

「っ……」

 ま、また波が、新しい波が来ました。ギュルルと。

 お腹が痛いです。とてもとても、お腹が痛いです。

 もう出すモノなど碌に残ってはおりませんのに、私の身体は排泄を続けたいと切に訴えます。これにお尻の穴のヒリヒリとした感じが加わると、いよいよ自らの人生に悩み始めてしまいます。

「…………」

 そうしてどれほどをトイレに篭っていたでしょうか。私がお尻を痛めている間にも、一人、また一人と誰かが用を足しては出て行く気配だけが届けられます。なんて羨ましいのでしょう。健康な排便が酷く懐かしゅうございます。

 一向に良くならないお腹の調子。

 段々と近づく本戦。

 諸々の事情から、本格的に挫け始めた頃合いのことでした。

 便器にしがみつき唸っていると、不意に隣の個室から話し声が聞こえてきました。

「違う、こっちを先に着て、その後にこれを被るのだ」

『いちいち細かいヤツだな。面倒くさい、邪魔だ』

「いいのか? それを着ないと出られないぞ?」

『ぐるるるる……』

「なな、な、なんだ? や、や、やるのかっ!? ささ、最強エルフだぞっ!?」

『……着る』

「…………」

 どこかで聞いたような声色ですね。

 とても耳に馴染みます。

 というか、これはあれです。間違いなくドラゴンさんとエルフさんです。お二人の声に間違いありません。ここ最近は仲良くして頂いておりますから、まさか間違える筈がございません。大聖国での一件は私も記憶にあたらしゅうございます。

 ただ耳として直後、当然のように疑問は浮かびました。どうしてお二人で、一つの個室に入られているのかだとか、そもそもこちらのトイレは大会へ出場する選手専用であると、事前にメイドから説明されております。

「あ、おいっ、尻尾! 尻尾が出てる!」

『うるさい、貴様だって耳が出てる』

「ぬぉっ!?」

 なんか楽しそうですね。

 羨ましいです。

 子細こそ知れません。ただ、和気藹々と会話をするお二人の声は、非常に楽しそうなものに思えました。お二人とも少し変わった方ではいらっっしゃいますが、根はとても良い方だと、今なら言えます。

 ただ、思考を他所に割く余裕は、そこまでです。

「っ……」

 またギュルルと来ました。

 お腹が、お腹が痛いです。



◇◆◇



 魔導貴族により放たれた魔法の輝きが、段々と落ち着きを見せてゆく。

 まぶた越しに感じる輝きが失わる。

 少しばかり瞼を挙げて、視界が元の色を取り戻したことを確認。

 光の柱は十数秒ばかり輝いたところで、ゆっくりと勢いを失い、最後は宙に散り散りとなって消えていった。赤い輝きに染まっていたステージが、元の景色を取り戻す。会場に響いていた重低音も然り。

 醤油顔は視界が戻ったところで、いざ実況を再開である。

「さぁ、果たして壁は崩れているのかっ!」

 大急ぎで壁があっただろう場所に注目だ。

 すると、どうしたことだろう。

 いの一番に目に入ったのは傷一つ付いていない壁である。

「…………」

 本当に何の変化もなく、淡々とその場に存在している。

 一方で当の魔導貴族はといえば、その姿を確認して直後のこと、ガクリ、その場に膝を付いてしまった。更にゼェゼェと呼吸を荒くして、今にも倒れてしまいそうなほど激しく肩を上下している。

 こんなに疲弊したヤツを見るのは久しぶりだ。

 いつぞや紛争の折、ロリゴン便に揺られて気分を悪くしていたとき以来である。

「……壊れてない」

 ゴッゴルちゃんにまで言われてしまった。

 ごめん、セクハラする余裕もないですわ。まんこまんこ。

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