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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫
115/131

武闘会 四

「DTまつり(9/24~10/31)」が開催中です。
人気投票を行っております。

http://micromagazine.net/gcn/tanaka/dt_festival/

どうぞ、よろしくお願いいたします。
【ソフィアちゃん視点】

 遂に予選が始まってしまいました。

 予選は本戦と異なり人数が多い上、玉石混淆であることが想定されます。そこで会場に観客を招くことはせず、参加者のみが集まって淡々と進められます。場所も開会式の行われた、あの立派な舞台ではなく、他に設けられた屋内となります。

 というのがタナカさんからの受け売りです。

 もちろん屋内とはいっても、参加者全員が収まるほど広々とした空間になります。天井も非常に高いところにあります。二、三人ばかり人が縦に重なった程度では、到底届かないほどに高いです。

 参加者の方々が競い合うのは、周囲より一段高く作られた競技場の上です。広さとしては、町長さんの家のお庭が同じくらいの規模であったと思います。ドラゴンさんがドラゴンとして着陸できる程度でしょうか。

 これが予選会場に幾つか設けられております。

 予選のルールは非常にシンプルで、この競技場の上に最後まで残っていた参加者が、本戦への出場資格を獲得する決まりになっております。ちなみに一度の試合で競技場に上がるのは、数十名の参加者となります。

 つまり本大会の予選とは、限られた場所で行われる数十名からの乱戦です。

「…………」

 その只中に現在、メイドは自らの身をおいております。

 しかもやたらと注目されております。

 こんな恐ろしい催し、まさか付き合ってはいられません。当然、この場は自らの足で離脱です。まともに競っては、間違いなく大怪我をしてしまいますよ。早急に棄権するべきでしょう。幸い、競技者が自ら降りることは認められております。

 大急ぎで舞台の縁に向かいます。

「頼もうっ!」

「ひっ……」

 駈け出して数歩ばかり、大柄な男性に行く手を遮られてしまいました。とても怖い顔をしていらっしゃいます。大きく足を開いて、こちらを威嚇するように両腕を構えた姿は、まるで魔物のようです。なんて恐ろしい方なのでしょう。

 更に手には抜身の剣を手にしていらっしゃいます。

 そうなのです。困ったことに予選、本戦共に武器の使用が許可されています。当然のように皆さん、何かしら凶器を手に挑まれていらっしゃいます。金属製の全身鎧を身につけた方も少なくありません。

「タナカ伯爵の懐刀、この場で全てを白昼に晒してみせようっ!」

「いえ、あ、あの、わ、わ、わたしはっ……」

 最近、人前でオシッコを漏らすことに、抵抗がなくなってきております。

 出てしまうものは出てしまうのですから、仕方がないじゃないですか。それにオシッコを漏らすと、他人からの当たりが弱くなることをメイドは覚えました。命の危機です。四の五の言っていないで、プシッといきましょう。

「喰らえっ!」

 男性が迫ります。

 メイドはその場にしゃがみ込んで、発射体制です。

 奇跡的にも、その頭上を男性の手にした剣が通りすぎてゆきます。

 これが回避という技でしょうか。

「ぬっ!?」

「っ……」

 圧倒的な恐怖から、下半身に力を入れることもなく、お股に熱いものが集まります。蛇口を少し緩めれば、早々に暖かいものが漏れることでしょう。

 ただ、いざ尿道を緩めようとした瞬間です、目の前まで迫った男性が、右から左へ勢い良く吹っ飛んでいきました。同時に響いたのは短い悲鳴です。

「ぎゃっ!?」

 それはもう大した勢いでした。

 どうやら横から攻撃を受けたようですね。今の今まで彼の立っていた傍らには、剣を振りぬいた姿勢で、他の参加者の姿が見受けられます。

「その女は俺の獲物だ。予選の選出に泊を付けさせてもらう」

「ひっ……」

 これまた怖い顔の男性です。

 ジロリと睨みつけられました。

 自然と身体は立ち上がり、後ろに下がります。すると、そう大した広さのない予選舞台ですから、そちらにもまた他の参加者の姿がございます。

 気づけば私の周りには他に大勢、参加者の方々が集まっておりました。それも血走った眼差しをこちらにむけております。完全に囲まれています。

「あ、あぁ……」

 逃げなければ。

 逃げなければなりません。

 オシッコを漏らしている場合じゃありません。出している間に殺されてしまいます。大会のルールには、過失のない殺人は罪にならないとありました。その一文は目の当たりにして以来、未だに脳裏に焼き付いております。

 生き残らなければ。

 私は舞台の縁に向かい、全力で駈け出しました。

「待てっ!」「おいこら、テメェらにやらせるかよっ!」「俺の獲物だって言ってるだろうがっ!」「ちっ! あっちへちょろちょろ、こっちへちょろちょろっ!」「くそう、どけ! 俺の邪魔をするんじゃねぇっ!」「アンタこそ私の邪魔だよっ!」「いてっ!? テメェ、いい度胸じゃねぇかっ!」「んだとぉ?」

 なんとしても舞台から降りなければなりません。

 早く舞台から降りなければ、殺されてしまいます。

「ひぃっ……」

 殺されてしまったら、オシッコを漏らすことだってできません。タナカさんのお食事に色々と混ぜて楽しむこともできません。あのドキドキ感は最高なんです。何故か他の方では駄目なのです。タナカさんのお食事に混ぜるのが快感なのです。

 そんなの絶対に嫌じゃないですか。



◇◆◇



 本大会に際して、醤油顔は陛下から一つ宿題を貰った。

 どのような宿題かと言えば、ドラゴンシティを囲う壁の頑健性の証明である。伊達に魔族の侵攻を防いだなどと謳っていない。本当にそんなに凄いのかと、連日のように陛下の下へ他国から問い合わせが入っているのだそうな。

 故に今回の機会を利用して一つ、妙案が胸の内に生まれていた。

 その結果が予選会場に具体的な形となって、今まさにお目見えである。

「な、なんだこの壁はっ! めちゃくちゃ固いぞっ!」「なんでもドラゴンシティを囲っている壁と同じものだそうだ」「くそっ! 傷一つ付きやしねぇっ!」「おいっ! てめぇらちょっと手伝えっ! ぜんぜん動きやしねぇっ!」「ちくしょうぉおおおお! 俺の剣が、俺の剣が折れちまったよぉっ!」

 複数ある予選場の一つ、その中央にニョッキと生えた壁。

 製造元は本家本元、醤油顔である。

 その下に他の参加者が集まって一斉に攻撃を加えている。

 予選を勝ち抜くためには、最後の一人となるまで、舞台の上に残っていなければならない。そして、こちらの予選では壁もまた参加者の一人として、同様の扱いであることを他の参加者に伝えてある。

 故に舞台を共にする面々は、壁を舞台から引き剥がして、場外まで運ぶ必要がある。もちろん、壁は壁に過ぎないので、自ら能動的に行動することはない。ただ、壁も舞台も醤油顔製であるから、常人には小さな傷を付けるにも困難を要する。

「くそっ、なんだこれっ! ぜんぜん動かねぇぞっ!?」「本当にこれは壁なのかっ!?」「まさか、新手の魔法生物かっ!?」「どけっ! 俺様の魔法で根本から吹き飛ばしてやるっ!」「そういうことなら俺も協力するぜっ!」「ちょっと待てよっ! 他の連中にまで被害が及ぶだろうがっ!」

 他の参加者には申し訳ないが、このブロックの勝者は壁である。

 予選を勝ち抜かせて、本戦で西の勇者様あたりにぶつける予定だ。確実に醤油顔の意思でコントロール出来るパイを、自然な形でトーナメントにねじ込める。一石二鳥の良案である。もちろん、最終的な処理は製造元がリモートでサクッと解決。

 勇者様には爆発系の魔法でも放ってもらい、煙とかモクモクしている間に、スッと引っ込めれば問題ない。これもまた大会を盛り上げる為の演出だ。縦ロールには悪いが、この程度は許容してもらおう。

 大会が失敗したらペニー帝国の一大事。

 我々と領地を共有する彼女も無関係ではないし。

「ぐっ、テメェ、裏切りやがったなっ!?」「コイツ、壁を盾にしやがったっ!」「ふざけんじゃねぇぞっ! 壁をやる前に貴様らをやってやらぁっ!」「上等だこの野郎、その鼻面、平坦になるまで叩きのめしてやるっ!」「ちょ、ちょっと待ちなさいよっ! この壁を先にどうにかしないと不味いわよっ!?」「あっ、待っ……」

 壁への攻撃が止んだかと思えば、舞台の上は乱闘騒ぎへ。

 申し訳ない気がしないでもない。

 このブロックの参加者に対しては、後で何かしら粗品でも送った方が良いかも知れない
。今まさに彼らが挑むストーンウォール製の盾とか渡したら、喜んでくれるだろうか。ちょっと考えておこう。

 そんなこんなで舞台を眺めることしばらく。

 騒がしかった乱戦も、一人また一人と参加者が場外となるに応じて、落ち着きを取り戻していく。やがて、最後まで競い合っていた二人のうち、一方が降参を口にしたところで、舞台の上には一人が残る限りとなった。

「…………」

 二十歳に至るか否かといった年頃の女性だ。

 彼女は忌々しげに壁を睨みつけている。

 時折、手にした剣で斬りつけて見たり、魔法の類いをぶつけてみたりと、試行錯誤している。ただ、そのいずれもは成果らしい成果を挙げない。当然といえば当然だろう。あの魔道貴族ですら、爪の先ほどの傷さえ付けられないのだ。

 会場からは女性に声援が上がる。

 どうにかして壁をぶち壊せと。

 あれこれと助言を叫ぶ者の姿も少なくない。

 しかし、どれだけ時間をかけようとも、壁が動くことはなかった。

「……降参だ」

 一頻りを挑んだところで、その口から決着の言葉が漏れた。

 めっちゃ悔しそう。

 罪悪感が半端ないじゃんね。

 これに応じて、試合を眺めていた参加者たちからは喧しいほどの声が。

「壁が勝ち抜きとかマジかよっ!?」「本戦、どうするつもりだよっ!」「っていうか、壁も壊せねぇとか、レベル低すぎねぇかっ!?」「ありえないだろっ! 真面目にやりやがれ!」「俺に変われよっ! 俺なら絶対にぶっ壊してやるからよっ!」「俺もだっ! 俺にも変わってくれっ! 俺ならいけるっ!」

 大丈夫、予定通りである。

 壁の勇姿を見届けたところで、ふぅと一息。

 予選に関して言えば、こちらのブロックが一番心配であった。万が一にも壁を蹴り破るような輩が出場していたら、西の勇者様の敗北は必至である。そうなったら人外勢によるトーナメントへの飛び入り参加も考えていた。

 ただ、全ては杞憂であったようだ。

 人心地付いたところで、自然と意識は他所の会場へと向かう。

 すると耳に届いたのが、二つ隣となる会場の盛り上がり。

「うぉおおおおおおおおおおおお!」「スゲェ! 一度も攻撃へ移っていないのに勝っちまったっ!」「最後の同士討ち狙いなんて、最高だったじゃねぇかっ!」「流石はタナカ伯爵の懐刀と言われるだけはあるな」「おぉおおおおお、姉御っ! 流石ッスっ! あっし、心から感激しやしたっ!」「いやはや、大したものだな」

 何かあったのだろうか。

 自然と意識が声の聞こえてきた方に向く。

 するとそこにはどうしたことか、舞台の中央に立つメイドさんの姿が確認できた。彼女の周りには、気を失い倒れた参加者の姿が散見される。誰も彼もが満身創痍である。一方で彼女だけは無傷。返り血の一滴も浴びていない。

 ただ、酷く震えている。めっちゃガクブルしている。

「…………」

 事情の知れない光景に焦ったところで、醤油顔は現場に急いだ。



◇◆◇



【ソフィアちゃん視点】

 無我夢中というのは、こういった状況を指すのでしょう。放尿を諦めたメイドは、生存本能に任せるがまま、競技場の縁を目指して駈け出しました。それはもう全身全霊でございます。自らの限界への挑戦というやつでしょうか。

 大丈夫です。

 東の勇者様に足を切られたときほどの絶望感はございません。

 まだ、自分の足で動くことができます。

 自らの足に地を歩めることの尊さを、大聖国で学びました。他の誰でもない、自らの手で場外を勝ち取らない限り、五体満足で競技場より脱することは敵わないのです。幾らオシッコを漏らしたところで、剣が止まることはないのです。

「ひ、ひぃっ……」

 それでも怖いものは怖いですから、悲鳴は上がります。

 右へ逃げれば、右から怖い顔の男性が斧を。

 左に逃げれば、左から怖い顔の女性が剣を。

 地獄ですね。

 それはもう床を這いつくばる勢いで、逃げ回らせて頂きました。おかげで途中から、どちらに向かえば良いのか、前後不覚でございます。実家の玄関先からカウンターほどの距離が、酷く遠いものに感じられました。

 それでも逃げに逃げていると、終わりはやってきました。

 一際大きく、頭上でキィンと甲高い音が響きました。それから数瞬ばかり遅れて、左右からドサリと人の倒れる気配が伝わります。メイドの頭の上で、何かしら固いものがぶつかり合ったようです。

 大慌てで距離を取ると共に、音の聞こえてきた側を振り返ります。

 すると、どうしたことでしょう。

「……あ」

 つい今し方まで乱痴気騒ぎの体を晒していた競技場が、とても静かになっておりました。メイドが見つめる先、舞台の上に立っている方は一人もおりません。見つけられるのは、倒れ伏した参加者の皆さまです。

「…………」

 自然と審判役の彼を振り返ります。

 視線が合いました。

 次の瞬間、彼が大きな声で叫びました。

「勝者、ソフィア・ベーコンっ!」

 メイドの名前が呼ばれました。

 その言葉が意味するところを、私はすぐに気づけませんでした。

 他方、会場からは耳喧しいほどの声が上がりました。

「うぉおおおおおおおおおおおお!」「スゲェ! 一度も攻撃へ移っていないのに勝っちまったっ!」「最後の同士討ち狙いなんて、最高だったじゃねぇかっ!」「流石はタナカ伯爵の懐刀と言われるだけはあるな」「おぉおおおおお、姉御っ! 流石ッスっ! 俺、心のそこから感激しましたっ!」「いやはや、大したもんだな」

 これを目の当たりとして、ようやっと理解でしょうか。

「…………」

 どうしましょう、タナカさん。

 もしかして、やっぱり、怒られてしまうのでしょうか。



◇◆◇



 これは困った。ソフィアちゃんが本戦に選抜されてしまったぞ。

 現場に居合わせた黄昏の団のモヒカン男に確認したところ、なんでも自分で自分の名前を読み上げたらしい。正直、意味がわからない。そういう自虐ネタは王女様の役回りではなかろうか。

「あ、あっしはてっきり、そういうものだとばかり……」

 酷く萎縮した様子で、彼は小さな木の札を差し出してきた。

 受け取って確認すると、確かにソフィアちゃんの名前が書いてある。

「…………」

 ただし、これはあれだ、正規の受付票ではない。

 受付票の余りを利用して作成した関係者向けの名札である。

 おかげでサクッと理解したわ。

 執務室で管理していた関係者用の名札と、参加者向けの受付表が混ざってしまったのだろう。ただ、両者はちゃんと別々の袋に入れて管理していた。当然である。誰かが中身を弄ったのだろうか。分からない。

 ただまあ、事実として混ざっていたのだから仕方がない。

 この場は大会の進行を優先しよう。

「……すみません、おそらく私のミスです」

「お、大旦那のミス、ですか?」

 首を傾げるモヒカン男。

 申し訳ないが細かい説明は省かせて頂く。

「こちらは私に預からせて下さい。それと予選の方、引き続きお願いします」

「ウ、ウスッ! 承知いたしやしたっ!」

 恭しく頭を下げて、彼は駆け足で自らの仕事に戻っていった。

 その背を見送ったところで、自ずと思考は巡り始める。

 メイドさんの高LUCを思えば、非常にらしくないアクシデントである。それとも大会本戦に出場することこそが、より良い彼女の将来へ通じているというのだろうか。分からない。どれだけ考えても、こればかりは分からない。

「…………」

 ただ一つ、たしかに言えることがあるとすれば、メイドさんの出場は免れないように思われる。これだけの観衆のもと、予選を勝ち抜いてしまったのだ。一度も戦うことなく辞退などしたら、他の参加者からの不平不満も免れまい。

「…………」

 一応、今のうちにステータスくらいは確認しておこう。

 万が一にも高LUCが目減りしていたりしたら大変だ。

 カモン、ステータスウィンドウ。



名前:ソフィア・ベーコン
性別:女
種族:人間
レベル:57
ジョブ:秘書
HP:24530/24592
MP:1141/1141
STR:3039
VIT:9021
DEX:7849
AGI:6873
INT:901
LUC:7849382

 メイドさんのLUCが、荒ぶっておられる。

 レベルアップはドラゴン戦以降、彼女が切り抜けてきた修羅場の数々が所以だろうか。しかし、だとしても随分と急な上昇に思われる。何か自分の知らないところで経験値を積んでいた様子だ。しかもレベルに対して全体的にステータスが高い。

 おかげでLUC値も酷いことになっている。醤油顔のINTと大差ない突出具合である。完全に人類の枠組みを逸脱している。ことLUCに関しては、魔王さまより更に上に位置するのではなかろうか。

 だからこそ、殊更に本戦出場が疑問だ。

 果たして彼女は如何様な運命に導かれているのだろうか。

「…………」

 分からない。まるで分からないぞ。

「タ、タナカの大旦那っ! すいやせんっ!」

 今し方に去っていたモヒカン団員が、何故か戻ってきた。

 どうしたのだろう。

「どうしました?」

「すいやせん、あ、あちらでノイマンの旦那がお呼びなんですが……」

「ノイマンさんが?」

「へい」

 彼の指し示す方向を眺めると、予選会場の出入り口付近にノイマン氏の姿がある。視線があったところで、こっちへ来いと言わんばかりにアイコンタクト。彼が直々にやって来たということは、たぶん、お偉方関係で何かあったのだろう。

「承知しました。すぐに向かいます」

「あ、ありがとうございやすっ!」

 過ぎてしまったことは仕方がない。

 今晩あたりに今一度、トーナメントの表を引き直すとしよう。



◇◆◇



 ノイマン氏に導かれるがまま、訪れた先は大会会場に併設された迎賓館。

 貴族や王族、豪商の類をお迎えする為の建物である。

 なんでも各国のお偉方が、ご挨拶の場を設けたいとの話だった。

 思い起こせばそっち系の支度は完全に失念していた。完全に大会を成功させることで、頭が一杯になっていたようだ。西の勇者様が優勝することは大切だけれど、こっちもこっちで決して疎かにはできない。

 なんだかんだで貴族一人頭、平民数百、数千という影響力がある。

 大会の主催として、訪れた方々とトークする運びとなった。

 同所でのやり取りは、エステルちゃんちで開かれた、リチャードさん主催のパーティーと大差ない。醤油顔とのトークに限らず、居合わせた面々での交流会。要は社外勉強会みたいなものだ。魔王攻略勉強会とで称すればシックリくる。

 当然、大上段から喧嘩を吹っ掛けてくる手合いも想定された。だが、今回に限って言えば要らぬ心配であった。魔王という共通の問題を重く見ている為か、これに一歩をリードするドラゴンシティに対して、肯定的な意識が多く見受けられた。

 おかげで個人的にも、有意義な時間を過ごせたと思う。どうやら各国の魔王からの被害は、我々が考える以上に深刻なものであったらしい。同時にドラゴンシティより発せられた噂もまた、ことのほか広く浸透していた。

「タナカ伯爵、どうぞこちらをお治め下さい」「私の国でも伯爵の話題で城内はもちきりですよ。是非ともこちらをお受け取り下さい」「このような素敵な場を設けてくださり、とても感謝しております。こちらは瑣末なものですが」「いやぁ、実は私もこの手のモノには目がありませんでしてな! こちらは自慢の一品ですぞぉ!」

 だからだろうか、勉強会への参加に際しては、誰もが折菓子を持参していた。会場に訪れた面々は、次々と醤油顔の下に自慢の品を差し出してくる。いわゆるお近づきの印というヤツだ。手ぶらで会場を訪れたのは自身くらいだった。

 一連のやり取りからは、ドラゴンシティに対する諸外国からの評価が、決して低いものでないことが窺えた。喜ばしい限りである。ただ、この業界の折菓子となると、少しばかりパワフルだ。伊達に参加者の誰も彼もが金持ちしていない。

 そして、ここで響いてくるのが醤油顔にまとわり付いた悪評である。

 頂戴した折菓子は大半が生物だった。

 ヒューマンタイプだった。

「これはまた……」

「如何ですかな? これでなかなかの器用良しでして」「いやいや、それなら私のは子爵家の出でして、家柄も抜群でございますぞ」「こちらは希少な、インラーンの森に住むエルフでして、おそらくタナカ伯爵も満足されることかと」「こういったもの数が大切ではありませんかな? 私のところは同じものを五十ほど揃えて参りました」

 数も集まって、ちょっとした品評会である。

 それでも差し出されて当初、心のなかでガッツポーズを決めたのは事実。念願のハーレムが、向こうから勝手にやって来た。他所の国のお偉いさんから頂戴した品とあっては、大切にせざるを得ない。それはもう毎日、丹精込めて磨かなければなるまいと。

 自然と視線が顔から股間に向かい降りてゆく。

 露出の多い服装。

 競うように短めのスカートと、その裾から伸びた太股。

 肉付き具合を確認するべく進んでゆく。

 その先で不意に発見したのが、テントだ。それも一つではない。右を見ても、左を見ても、テントが並んでいる。大草原で牛や馬と共に渡り歩くする遊牧民が如く、幾つものテントが並んでいる。両手に数えきれないほどの連なりだ。

 こんなところでキャンプとは、どうしたことだろう。

 改めて手土産の表情を窺えば、誰も彼も表情が怪しい。ハァハァと息も荒く、潤んだ眼差しでこちらを見つめている。太股をモジモジとやっているのも多数。

「……こちらは?」

 すぐ傍らに立っていた貴族の一人に尋ねる。

「タナカ伯爵の類まれなる武勇伝に関しては、我々も重々窺っております。すぐにでもお楽しみ頂けるよう、良い具合に薬に漬けて参りました。今晩にでもお使いいただけたらよろしいかと」

「…………」

 ここ最近、貴族様の倫理的なヤバさを忘れていた。

 思い起こせば、そういう倫理観だった。

 ヘレン・ケラーへ水の代わりにスペルマをぶっかけるような世界観である。

 ザーメン。ザーメン。ディス・イズ・ザーメン。

「受け取っていただけますかな?」

 まさかお断りする訳にはいかない。

 並び立つ貴族は誰も彼も満面の笑みだ。ニコニコと良い笑顔で醤油顔を見つめてくれる。さっさと部屋へ連れて帰ってパコって下さいと言わんばかり。ここで断ろうものなら、イベントは明日からの本戦を待たずして、半分失敗したも同然である。

 以前のように国内の貴族から頂戴した際とは訳が違う。部下から胡麻摺りに送られたお歳暮を断るのとは別次元だ。取引先から頂いたお土産を気に入らないからと送り返すようなものである。流石にそんな真似はできない。

「素晴らしい贈り物をありがとうございます。謹んで頂戴いたします」

 即日で奴隷市場へリリースする訳にもいかない。

 どうしよう。マジどうしよう。

 凄い数だし。

 めっちゃハァハァ言ってるし。

 気づいたらノイマン氏は、いつの間にやら姿を消していた。

 ヤツは出来る男だよ。



◇◆◇



 打倒魔王の為の勉強会は、プレゼント交換会を終えたところで解散となった。

 ドラゴンシティ側からは、我らが自慢のニラ紫から生成した入浴剤と、エディタ先生謹製のライフポッソンをセットでお送りした。また、望む場合は後者の輸入権も併せて進呈させて頂いた。

 ポッソンの存在に関しては、誰もが耳として早々、訝しげな表情を浮かべていた。ただ、実際に同所で効能を実演したところ、評価はたちどころに一変。誰もが輸入権を望み、ほくほく顔で会場を後として行った。

 結果的に言えば、勉強会は大成功と言えるだろう。

「…………」

 そして、人が去って静かになった会場では、ブサメンとブサメンを囲う百一匹ショタチンポが残る。カウントは概算であるが、実際にそれくらいの数に及ぶ女装美少年が、同所で立ち往生しているから壮観だ。

 一人の例外も存在しないあたり、オチンチン極まるフィールドである。

「タナカ伯爵、これは?」

 どうしたものかと頭を抱えていると、不意に声を掛けられた。

 誰かと振り返れば、良いところに良い人物がやって来たではないか。

「おや、これはゲイ子爵。どうされました?」

「ノイマン男爵から、こちらにタナカ伯爵がいると聞いたのだ」

「私に何かご用でしょうか?」

「いや、そう大したものではないのだが……」

 自然とゲイ子爵の視線は醤油顔へのプレゼントに向かう。

 そりゃそうだろう。その手の趣味がなくても、これだけテントが密集してたら気になるだろうさ。もしくは現場の惨状をノイマン氏から伝え聞いて、意気揚々と狩りにやって来たのかもしれない。あぁ、その可能性は高い。非常に高いぞ。

 ならばこちらは、彼の期待に応えるも吝かではない。

 というか、そのまま丸投げしてしまうが吉と見た。

「些末な勘違いから、素敵なプレゼントを頂戴してしまいました。残念ながら子爵もご存知のとおり、私の趣味とは些か色が異なっております。もしよろしければ、彼らの世話をお願いしたいと考えているのですが」

 それとなく自らのノーマルもアピール。

 万が一にも元祖ショタチンポに男色疑惑など伝わっては大変だ。

 寝こみを襲われた日には目も当てられない。

「……良いのですか? 上等な男娼ばかりのように見受けられるが……」

「はい。ゲイ子爵にも、この度の大会ではお手数をおかけしましたし」

「いやしかし、こちらは一方的に街へ滞在させて頂いている身の上、これ以上を望むわけにはいきませんな。それになにより、愛すべき彼の者を思えば、このような形でその意志を裏切るわけには……」

「そうでしょうか?」

「ええ、そうなのです」

 なんだよ、意外と義理堅いじゃんか。

 もう少しアレンの下半身をリスペクトするべきだ。

「……そうですか。残念です」

「っ……」

 短く呟くに応じて、ビクリとゲイ子爵の肩が小さく揺れた。

 やっぱり欲しかったのだろうか。

 いや、絶対に欲しいよな。

 自分の趣味とは違うけれど、その手の趣味人には堪らないだろう。今もテントたちは潤んだ瞳で、我々をジッと見つめている。幾つも重なったハァハァという息遣いが、妙に生々しくフロアに響いては聞こえる。

 これで生えていなかったら、ブサメンの物語は今晩あたりフィナーレだった。

「そういうことであれば、すみませんが彼らの移動を手伝ってはもらえませんか? 実はゲイ子爵の他にも当てがありまして、そちらに向かおうと考えていたのですよ。ただ、如何せん数が多いので、どうしたものかと考えておりまして」

 下手な相手に頼むと、良くない噂が殊更に広がってしまうからな。

 それならまだ女好きのセクハラ野郎と思われていた方が良い。そうすれば次からは、正しく美少女を頂戴することができるだろう。他所様からの贈り物なら致し方なし、丹精込めて育て上げるしかないもの。

「……宛?」

「はい。忙しいところ恐縮ですが、如何でしょうか?」

「まあ、その程度であれば幾らでも手伝わせて頂くが……」

「ありがとうございます」

 良かった。

 誰かに見られる前に、ちゃっちゃと運んでしまおう。



◇◆◇



 訪れた先は人妻の湯が収まる建物だ。

 ライフポーションの関係で、同所が黄昏の団によって封鎖、保全されるようになってからというもの、人の出入りはめっきり減った。我々が足を運ぶに際しても、監視に当たる方々以外、他に誰とも出会うことなく、目的の風呂場まで辿り着いた。

 それでも掃除の類は行われているようで、施設としては何ら問題ない体を保っている。出会って当初は荒くれ者の集まりだとばかり思っていた黄昏の団なのだけれど、こうして付き合ってみると、想像した以上に小回りの利く野郎たちだろうか。

「なぁに? また私のことを哀れみに来たのかしら?」

 浴室を訪れて早々、我々の前に姿を表したのは一体の人妻。

 例によって、霊体を晒すナンヌッツィ女史の姿がある。

「いえいえ、まさかそのようなことはありません」

「そっちの男はどなた? 随分と男前じゃないの」

「こちらはゲイ子爵です。私の下で市政を学んで頂いております」

「ふぅん?」

 イケメンの身体を舐め回すように見つめる人妻。

 ここ最近の彼女は、段々と遠慮がなくなってきているような気がする。

「以前に約束したのは、もう少し可愛らしい男の子だと思ったのだけれど、もしかして私の勘違いだったかしら? それとも長いこと時間をおいたせいで、色々と忘れてしまったのかしら?」

 言葉の端々に棘を感じる。

 当然といえば当然か。

 約束を交わした日から随分と時間をおいてしまった。

 これは良くないと感じて、醤油顔は早々に代わりの品を提出だ。

「ゲイ子爵、例のものを」

「あ、あぁ。承知しました」

 傍らに立つゲイ子爵にお願いする。

 この辺りのやり取りは事前に共有済みだ。

 一度、浴室から外へ出た彼は、数分と経たずに再び姿を表す。その後ろには今の今まで、風呂場の外で待たせていたテントたちが連なっている。誰も彼も、トロンとした表情で、ハァハァと息を荒くしながらの入場である。

「っ!?」

 一連の様子を目の当たりとして、人妻に変化が見られた。

 それはもう顕著なほどの変化が。

「ふ、ふぅん? ふっ、ふ、ふぅぅん?」

 挙動不審なまでに、そわそわとし始めた。

 ショタチンポ地獄を前として、落ち着きをなくしたナンヌッツィ女史。あっちのショタをチラリ、こっちのショタをチラリ、それはもう全力で目が泳いでいる。

「でも、あ、あの時の子の姿が、み、み、見つからないわねぇ?」

「その点に関しては一つご報告があります。以前ご一緒した彼なのですが、つい先月に陛下より子爵の位を頂戴する運びとなりました。爵位と領地を得て忙しい身の上もあり、こちらに入り浸ることも難しい状況にあります」

「え?」

「代わりといってはなんですが、このような形でご用意させて頂きました。ただ、流石にこれ以上となると、私の方も色々と問題がありまして、できればこちらでご容赦頂けたらと思うのですが」

 素直にお伝えすると、何を勘違いしたのか、ナンヌッツィ女史は慌て始めた。

「まあ、そ、そうね? 貴方の誠意、少しは私にも伝わったかしら? ええ、これだけ数を集めるなんて、なかなか大したものだと思うわっ! 流石はタナカ男爵かしら? ええ、素晴らしい仕事だわ!」

「そういって貰えると幸いです」

 今更だけれど、子爵って柄じゃないよな、ショタチンポ。

 絶対に人妻に飼われている方が似合うって。

「礼儀を尽くされたら、それに応えるのは、えぇ、当然のことだと思うわ」

「ありがとうございます」

 どうやら納得してもらえた予感。

 これで当面は大丈夫だろう。

「大変恐縮ですが、彼らの世話も併せてお願いします。他に迷惑を掛けないよう、取り計らって貰えるのであれば、好きなようにして頂いて構いません。こちらの施設に関しては一棟丸ごとナンヌッツィさんの管理としましたので」

「ほ、本当っ!? 本当にいいのっ!?」

「はい」

「ふっ、ふふ、ふふふふふっ」

「ナンヌッツィさん?」

「そういうことなら、ええ、任されようかしら? 当面、ライフポーションの生成に関しては心配しなくて良いわよ。貴方もなかなか話せば分かる男じゃないの。やっぱり大切なのは誠意よね。人と人との関係で、一番大切なものだと思うわ」

「仰るとおりだと思います」

 長い風呂場生活が、彼女の心を素直にしたのかもしれない。

 若いチンポに歓喜の声を挙げる三十代人妻はとても自由な存在だった。

 そんな彼女なら、今後はロリゴンに腹パンされることもないように思う。

「それではすみませんが、彼らの世話をお願いします」

「ええ、任されたわっ! 任せて頂戴!」

 良い笑顔に送られて、醤油顔はゲイ子爵と共に人妻風呂を後とした。



◇◆◇



 人妻風呂から町長宅へ戻る帰り道でのことである。

 そういえばと思い起こして、ゲイ子爵に問いかけた。

「ところで、ゲイ子爵。一つ確認したいことがあるのですが」

「なんですか?」

「私への用件とういのはなんだったんですか?」

「あぁ……いや、その、なんというか……」

 少しばかり思案顔に悩んだところで、イケメンは答えた。

「大会の本戦は、どのような具合かと気になりましてな」

「なるほど」

 まあ、そりゃ気になるよな。

 愛しのショタチンポも参加しているし。

「明日の予選が終わり次第、正式なものを公表する予定です」

「なるほど」

 ただ、流石に今の時点で、醤油顔の腹の中を他者に伝える訳には行かない。表立っては抽選だとか、なんだとか、適当に語っておくのが良いだろう。同大会における西の勇者様の優勝こそ、最も大切なミッションである。

「話によれば、東の勇者も参加していると聞きますが」

「ええ、そうですね。西の勇者様が少しばかり話をしたようです」

「本当ですか?」

「はい」

 もしかして、あのくらいの野郎であっても、美味しく頂けてしまうのだろうか。絶対に毛とか生えていると思うのだけれど。体付きだったり、顔つきだったり、声色だったり、どう考えても野郎仕様が前提のコミュニケーション。

 それならまだショタチンポの方がマシである。

「東の勇者は何と言っておりましたか? 以前まではどうだったか知れませんが、昨今、彼の勇者こそ大聖国が唯一と掲げる勇者です。西の勇者を担いだ貴殿とは犬猿の仲のはず。そう容易に話が進むとは思えません」

「正々堂々、大会に参加して頂けるとの旨、頂戴したそうですよ」

「……ほう」

 実際には血まみれのヌイを抱いたソフィアちゃんが、汁だくで執務室に飛び込んできたりして、とても大変だった。もしも部屋にロリゴンが居合わせていたら、今頃、東の勇者様は大会へ出場するまでもなく、身を散らせていたことだろう。

「本大会の趣旨は、打倒魔王に向けた士気高揚及び、人材の発掘となります。そして、人材に対する評価はペニー帝国が一国で独占するものではありません。東の勇者様を始めとして、他国の方にも良いように活用して頂きたいところです」

 聞く人が聞けば、ペニー帝国の思惑なんてモロバレだろうけれどさ。

 しかしながら、こういった話は体外的な主張こそ大切だと思う。どれだけ主催の思惑が駄々漏れであったとしても、表立っては綺麗事を繰り返すことに意味がある。公衆の面前で繰り返される綺麗事を真正面から批判するのは、なかなか難しいものである。

 それが響きの良い内容であればあるほど殊更に。

 ゲイ子爵もその辺りは理解している筈だ。

 参加者の大半は、そうした事情を承知の上で参加している。魔王市場は事実上、ペニー帝国と大聖国の二国が牛耳っていると考えて良い。レッドオーシャンでシェアを取りに行くというのは、いつだって高い参入障壁を超えなければならないのだ。

 だからこその手土産であり、ショタチンポ地獄からの人妻大歓喜である。

「それは大聖国側の総意なのでしょうか?」

「流石にそこまでのものではないでしょう。おそらく彼の独断です」

「そうですか……」

「故に我々もまた、気を引き締めて臨まねばならなくなりました」

「ええ、その通りですね」

 しかし、意外と突っ込んだ話題をしてくれるじゃないかイケメン。

 ショタチンポを寝取りに来たとばかり考えていたのだけれど、田中伯爵の下で市政の勉強を云々といった語りも、決して全てが全て嘘という訳ではないのかもしれない。そういうことなら、大会を通じてお仕事を経験してもらうのも、決して悪くないと思った。

 ここは一つ、色々とお任せしてみよう。



◇◆◇



 二日間に渡る予選が全て終了した。

 本日、予選会場には予選を通過した選手が勢揃いしている。その数は三十一名。これに本戦ではシード権を設定させて頂いた西の勇者様が加わる。つまり合計で三十二名、総試合数にして三十一となるトーナメントが行われる。

 現在は本戦を翌日に控えて、事前説明の最中である。

「予選を通過された皆さま、まずは本戦への出場おめでとうございます」

 場所は予選会場。司会進行は醤油顔。

 現場の雰囲気は、公式試合を翌日に控えた運動部の打ち合わせ的な。

 選手の皆さまにあれこれと語りかける一方、その意識は各選手のステータスに向かう。本戦前に選手が一同に介するのは、この場が唯一の機会である。ここで確実に参加選手の名前と練度を記憶しておく必要がある。

「皆さまは四桁にも及ぶ参加者の中から選抜された、類まれなる才能の持ち主ということになります。大会の本戦に参加した。その事実は皆さんの人生において、決して色褪せることのない勲章になると思います」

 それを元にして今晩、トーナメント表を完成させるといった塩梅だ。

 つまり醤油顔にとっては、大会期間中で最も大切な時間である。

「では本戦に向けて、幾つか事前にご説明をさせて頂きます」

 ちなみにドラゴンシティ側からは、ソフィアちゃん、エステルちゃん、ゾフィーちゃん、魔道貴族、ゴンちゃん、アレン、ヌイの参加が決定した。西の勇者様を加えて三十二名中八名というのは、なかなか悪くないバランスだと思う。

 若干一名、真っ青な顔で震えているメイドさん、可愛い。

 会場で皆に見られながらオシッコを漏らしてしまっても良いのだぜ。

「質問事項に関しては、最後にまとめて窺わせて頂きます。本日の試合で予選を終えた方は、お疲れのところ大変に恐縮ですが、少しばかりお付き合い下さい。では本戦へ臨むに際しての原則となりますが……」

 事前に用意したルールを口にしながら、他の選手に視線を巡らせてゆく。

 ドラゴンシティとは関係のない参加者のうち、醤油顔と面識があるのはジャーナル教授と東の勇者様となる。彼ら二名に関しては、既に確認を終えているので、この場でどうこうする必要はないだろう。

 問題はそれ以外の面々となる。

 うち幾名かに関しては、関係各所より連絡を頂戴している。

 いわゆるあれだ、ほら、うちの選手をよろしく、みたいな。

 お隣のプッシー共和国から宮廷魔術師とかいう肩書でジョゼ・ペクチンさんだとか、首都カリスの北にあるビーチク帝国の騎士団長を勤めるメイソン・エインズワースさんだとか、なんかもう沢山だ。先の勉強会でも何人からかお願いされた。

 ちなみにチャラ男ブラザーズの国からは近衛騎士のルナルナさんが出場決定。同ブラザーズは彼女に倒されて予選敗退だ。兄弟で争っていたところを横から殴られて撃沈である。おかげで厳かにも快適に本戦を進めることが出来そうである。

 また、挨拶を頂戴していない野良の戦士も数名ばかりか。

 何とか村の何とかさん、みたいな方もいらっしゃった。

 新しい名前が沢山だけれど、まあ、この辺りはまとめてモブと考えて良いだろう。ステータスを確認したところ、大半はハイオークやワイバーン並であった。少なくともレッドドラゴンと単身でやり合えるような輩、つまり西の勇者様に迫る参加者は居なかった。執務室に戻ればリストがあるので、顔とファーストネームを一致させておけば問題ない。

 問題はそうした彼ら以外の参加者である。

 大会参加に差し当たり、装備に関する規制は設けなかった。誰だって好きな武器や防具を装備して戦いたいだろう。その方が戦いの幅も広がるし、これを眺める観衆も楽しめることだろう。そもそもファイアボールなどの魔法が存在している時点で、装備の有無など誤差である。

 他にも宗教的、種族的、文化的な問題とか、非常に大きそう。ニカブの着用を禁止してオリンピックなど開いたら、各国からフルボッコは余裕。故に出で立ちに関しては、極力制限を落とした。ましてやここは異世界、どんな習慣があるか知れない。

 おかげで現在、ちょっとした問題が現場では発生している。

「なお、本大会においての禁則事項ですが……」

 この手のトーナメントには必ず一人は混ざってくる手合いに、覆面というヤツがあると思う。賞金は欲しいけれど、立場は明かしたくない。いわゆる匿名垢というやつだ。自分も社畜用に各種サービスのアカウントなど作っていたから、その気持ちは分かる。

 なんせ大会の優勝賞金は金貨一千枚。仮に優勝せずとも準優勝で金貨五百枚。準々優勝からベストエイトまでは相応の額が用意されている。更に上位へ食い込めば、各国からのスカウトは免れまい。多少のリスクを押してでも参加する価値はある。

 しかしながら、本戦においてはその数が問題だ。

 七人もいる。

 ローブや覆面で全身を隠しているヤツが、七人も。

 手元の札に従えば、それぞれ名前は「ガリレオ」「オーマン」「ナンシー」「ジョセフ・ウィリアムズ」「エリザベス」「マーラ・トト」「ルトラール・バチェラー」となっているけれど、実際のところは怪しいものだ。どれもこれも偽名臭い。

 当然、片っ端から確認させて頂く。



名前:ハーン
性別:男
種族:人間
レベル:73
ジョブ:盗賊
HP:6020/6950
MP:2000/2100
STR:7300
VIT:5010
DEX:6121
AGI:8330
INT:3112
LUC:5034



名前:ヴァッカス
性別:男
種族:人間
レベル:73
ジョブ:山賊
HP:3020/4120
MP:7000/8900
STR:3300
VIT:3130
DEX:5011
AGI:6138
INT:10100
LUC:4104



名前:ダーク・ブー
性別:女
種族:ダークエルフ
レベル:98
ジョブ:逃亡者
HP:30850/30850
MP:9000/10002
STR:10300
VIT:12000
DEX:9921
AGI:13030
INT:11840
LUC:92



名前:オズボーン・ピーコック
性別:男
種族:人間
レベル:67
ジョブ:男娼
HP:7020/7150
MP:8000/8002
STR:5300
VIT:6000
DEX:9921
AGI:3030
INT:9100
LUC:54



名前:ドリス・オブ・アハーン
性別:女
種族:人間
レベル:37
ジョブ:縦ロール
HP:5100/5100
MP:3120/3120
STR:650
VIT:900
DEX:952
AGI:1042
INT:1201
LUC:9009



名前:マーラ・トト
性別:女
種族:人間
レベル:167
ジョブ:肉便器
HP:7020/7150
MP:31000/39002
STR:1300
VIT:5200
DEX:1021
AGI:930
INT:30112
LUC:3054



名前:ミレニアム・マルセイユ
性別:男
種族:人間
レベル:73
ジョブ:聖騎士
HP:3020/4120
MP:7000/8900
STR:3300
VIT:3130
DEX:5011
AGI:6138
INT:10100
LUC:4104



 所々に色々な意味でヤバイのが混じってる。

 しかも、うち四名が醤油顔の知り合いだ。

 不意にダークムチムチの芳醇な太ももを思い起こしては、逆レイプされたい衝動に襲われる。あのグラマラス具合なら、多少マンコが臭くても各種エキスをゴックンする自信ある。やっぱり童貞なら逆レイプに限るよな。

 一方で不本意極まるのがピーちゃんの存在だろうか。学園都市を脱して以降、パトロン足るおしゃぶり棒をゲットできなかった可能性が高い。ダークムチムチと併せて、共に賞金を求めての参加と見た。

 一方で気になるのが縦ロールの存在。

 以前、こちらから頼んだ際には断ってくれた癖に、なんだかんだで顔を隠してエントリーしているのが、非常に彼女らしい。ただ、予選を勝ち進んでいるとは些か想定外だろうか。ステータス的にも疑問の残る成果である。

 もしかしたらキモロンゲが暗躍したのかもしれない。でも処女膜が付いているから全部許しちゃう。その存在はトーナメントを制御する上で、駒として非常に都合が良い。ソフィアちゃんの初回戦に当てて、穏便な対応をお願いしよう。

 そして、七名の内で最も気になる存在、肉便器ちゃん。

 ようやっと個人的な楽しみを、大会に見つけることができた気がする。確証は持てないが、多分、きっと彼女はメルセデスちゃんの肉便器。そうに違いないと童貞の感が告げている。何故にローブ姿なのかは、まるで知れないけれど。

「また、大会の規定を破った方には、恐れながら大会運営側の判断によりペニー帝国の法規に則った罰則が適用されるものとします。こちらに関して詳しい情報をご確認されたい方は、ペニー帝国の法務関係者が待機しておりますので、後ほどご案内を……」

 軽く確認した限りだけれど、彼ら彼女ら四名に関しては問題ない。

 素性や性格は知れている。

 一方で気になるのは、出処の知れない残る覆面たち。

 ハーン、ヴァッカス、ミレニアム・マルセイユの三名。素性を隠しての参加であるから、その動向には十分に注意すべき参加者だろう。しかしながら、ステータス的にはそこまで問題でもない。西の勇者様が苦戦することはないように思われる。

 特にハーン氏とヴァッカス氏に関しては、その肩書から完全に賞金目当てと判断が付く。きっと腕自慢の札付きってヤツだろう。

 本戦では一回戦で二人をぶつけるのが最善と思われる。ステータス的にも拮抗しているし、上手いこと覆面が取れれば、その場でお縄だ。そうならなくても、二回戦で縦ロールにお願いして、キモロンゲに処理してもらえば確実である。

 他方、聖騎士なるミレニアム・マルセイユ氏だが、こちらは十中八九で大聖国からの参加だろう。間諜というやつだ。肩書的にそんな気がする。念のために町長宅へ戻り次第、魔導貴族やジャーナル教授あたりに確認するとしよう。

 当初の想定より国際色豊かな大会となって、主催する側も嬉しい限りである。

 この分なら陛下もきっと満足してくれることだろう。

 サクサクと進めていこうじゃないですか。

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