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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫
113/131

武道会 二

DTまつり、はじまりました。
http://micromagazine.net/gcn/tanaka/dt_festival/
 首都カリスより発せられたイベントの告知から十日ほどが経過した。

 人の噂とは足の早いもので、既にドラゴンシティには人が集まりつつある。地理的な要因から大半は国内からの参加者ではあるが、ぽつぽつとプッシー共和国を筆頭とした、近隣諸国からの参加者も窺える。

 そんなこんなで運営側の我々は本格的に忙しくなり始めた。

 執務室には、新たに一つ机が運び込まれて、臨時の醤油顔の事務スペースとなっている。配置はソフィアちゃんと向かい合わせになる。おかげで紙面に向かうメイドさんの上乳が眺めたい放題という奇跡のロケーション。

 この場所に机を置いたヤツ、ぐっじょぶ過ぎる。

 誰だか知らないけれど、心の底からありがとうを伝えたい。

 ただ、同所では皆が大忙し。

「旦那、悪いが会場の作りを少しばかり変えてくれ、物資の搬入の効率が悪いったらねぇよ」「タナカ、会場周辺に設ける予定の詰め所なんだが、思い起こせばヌイたちのものも必要だろう。すまないが町長に掛けあってくれ」「タ、タナカさん、あの、こちらの予算なんですが、もう少し上乗せしないと厳しいように思われますが……」

 ひっきりなしに言葉が飛び交う。

 部屋への人の出入りも大したものだ。廊下に通じるドアは忙しくも開いたり閉じたりを繰り返している。おかげでソフィアちゃんのオッパイを眺めたい放題というシチュエーションにありながら、これをチラ見する隙さえない。くそう。

「大兄貴っ! すいやせんっ、大兄貴っ!」

 そうこうしている間にも、モヒカン野郎が部屋に駆け込んできた。

 未だ名前の知れない黄昏の団の団員だ。

 ゴンちゃんの側近的な立場にあるのか、町長宅での遭遇率は高い。

「どうしました?」

「チェ、チェリー王国の王太子らが参られました!」

「……なるほど?」

 誰だよチェリー王国の王太子って。

 しかも王太子らって、なんかちょっと字面的におかしくやないか。

 でもまあ、決して悪くない知らせである。

 魔王復活を受けて世界中がごった返している昨今、今回のイベントを利用して、ペニー帝国の庇護下に入りたい、或いは同盟を結びたいという打診が入ることを期待していた。それもまた陛下からの宿題を達成する上で、必要不可欠な要素である。

 それがどうやら、早々に当たりを引いた予感。

「すいやせんが、急いで応接室まで来て頂きてぇんですがっ……」

「承知しました、すぐに向かいます」

「あ、ありがとうございやすっ!」

 やたらとかしこまって頭を下げるモヒカン野郎。

 反射的にコチラも頭をペコリと下げたところで席を立つ。グッバイ、オッパイ。すぐに戻ってくると心の内側に呟いて、最後に一度だけ、渾身のチラリを上乳へ。谷間の陰りが最高でございます。

 先行するモヒカンの背を追って、応接室に急いだ。



◇◆◇



 応接室へ入ると同時、視線はソファーに向かう。

 そこには二人並んで腰掛ける男の姿があった。

 身形からして王族というのは間違いないだろう。値の張りそうな衣服はペニー帝国の貴族たちが身に付けるそれと比較しても、一つ上に位置して思える。艶やかに輝く金や銀の細工に彩られた出で立ちは、圧倒的な金持ちの気配を感じさせる。

 どれほど待たせてしまったのかは知れないが、モヒカンの言葉が正しければ、相手は他国の王族である。まさか礼を欠く訳にはいかない。少なくとも彼らにとっての自分は、ペニー帝国の代表に等しい訳であるからして。

「お待たせしてしまい大変に申し訳ございません」

 大慌てでその下に駆け寄る。

 すると、どうしたことか。

「うぉっ! 本当にタナカさんだっ!」「だからそう言ったろ? ちゃんと聞いたんだって! 父上がペニー帝国の人間と魔導通信で話しているのっ!」「タナカさん、こんちわっスっ! また会えて、めちゃくちゃ嬉しいですわぁっ!」「こんちわっスっ! 今の俺、最高に感極まってますよ! 今の俺っ!」

 まさかのチャラ男ブラザーズだ。

 身形こそ完全に別人だけれど、その顔には覚えがある。

 というか、その圧倒的に面倒臭い語りは、絶対に忘れない。

「いやもう、こうしてまた会えるなんて感激ッスよ! 今日この日が俺のタナカさん記念日ですから」「ちょっと待てよ、タナカさん記念日は俺の功績だろ? オマエは付いて来ただけなんだから、タナカさん記念日ゆずっとけよ」「いやいや、俺は信じてたね、タナカさんなら絶対にデッカイことやってくれるって」

 相変わらず、めっちゃ喋る。

 放っておけば延々と喋ってそう。

 だがしかし、モヒカンの言葉が正しければ、コイツらは王子様。

 最高に嫌な立ち位置なんだけど。

 小さいころに喧嘩別れした同級生が、取引先のお偉いさんだったみたいな。

「あの、すみませんがお二人は……」

 とりあえず状況を確認させて頂こう。

 モヒカンな彼が部屋を出て行ったことを確認して、トークに臨ませて頂く。暗黒大陸では割と普通に放置プレイしてしまった。もしも根に持たれていたりしたら、色々と面倒なことになるのではなかろうか。

 もしかして意趣返しだろうか、などと勘ぐってしまう。

 ただ、続けられたところ、彼らの態度は酷く素直なものだ。

「タナカさんの打つイベント、俺らも参加したいんッスよっ!」「タナカさん、俺らも参加させて下さいよ!」「タナカさんに比べたら全然へなちょこっスけど、あれから頑張ったんですわ」「俺らの努力、タナカさんの舞台で披露させて下さいよ」「今ならローパーくらい余裕ですから」「あ、でも、タートル系はヤバイッすね」「おいちょっと、それ言うなしっ」。

「しかしながら、流石に他国の王族の方を、というのは……」

 色々と問題がありそうだ。

 自国の貴族が相手でも気を使うのに、他所の国のお偉いさんなど地雷以外の何モノでもない。幾ら回復魔法があるとはいえ、万が一がないとも限らない。トーナメントを組むにさしあたって考慮事項が増えるのも面倒だ。

 同時に今更ながら、一つ理解したことがある。暗黒大陸で彼らが同伴していたハーレムは、彼らのセフレなどではなく、その身を警護する近衛的な者たちであったのだろう。彼らに対する仰々しい立ち振る舞いも、そう考えると納得である。

 もちろん、同時にセフレであった可能性は決して否定できないが

「タナカさん、おねがいしますよ! 俺らちゃんと成長してると思いますから!」

「そうなんスよ! タナカさんに認めて貰いたくて、最高に頑張ったんスから!」

 相変わらずグイグイと来る。

 キラキラと瞳を輝かせて、祈るような表情に見つめられてしまった。その語り調子は決して誰かに強制させられているようにも思えない。本当に自らの意志で参加を望んでいるようだ。こういうの扱いに困るよな。

「父上にはタナカさんに認めてもらうまで、俺らはどっちも王位を継承しないって言って来たんすよ」「そんなの当然だろ? いちいち言うなよ恥ずかしい。あの姿を見た後じゃあ、国を治めるなんて小さな仕事に価値は見いだせないじゃん」「まったくだわ。最高にありえないわ」

 父上とか、王位とか、そんな重い話は知らない。

 いきなり話を飛ばすなよ。

 しかも今まさに、その小さな仕事に躍起になってて悪いかよくそう。

 こいつらは器が大きいのか小さいのか、まるで分からないわ。

 形が歪んでいるのだけは間違いないけれど。

「すみませんが、少し検討の時間を頂戴してもよろしいですか?」

「もちですよっ! 俺ら、ずっとずっと待てますからっ!」

「タナカさんが俺らのことを考えてくれると思うと、もうビンビンですわ!」

 ずっとずっと待たせておきたい気分だ。

 どうしよう。本当に。

 しかも今日に限って、近衛ハーレムを同伴していないから、まるで滾らない。せめて彼女たち麗しい姿を確認できれば、ブサメンも多少はやる気が湧いてくるというに。

「ところで、暗黒大陸で一緒にいらした騎士の方々はどちらに?」

 お尋ねせずには居られないわ。他国の王族をお預かりするホストの役割として、警護に当たる方々へのご連絡は必須だろう。こればかりは誰にも譲れない。

「近衛の騎士ですか? あの者たちであれば、この街の宿で待たせてますよ」

「あまり大勢で詰めかけても申し訳ないっすからね」

 そもそも目の前の二人が美少女だったら良かった。正解だった。

 テンションの高い黒ギャル系。

 そういう感じで。

 一度で良いから、黒ギャルに卑猥な目つきで股間を見つめられながら、田中さんキモーイとか、サラウンドで言われてみたい。やたらと長くて、ゴテゴテとしたつけ爪の指先で、ツンツンされてみたい。

「この忙しい時期じゃないッスか? まさかタナカさんに迷惑を掛ける訳にはいかないですから、宿屋に置いてきましたよ」「っていうか、ただでさえ男に飢えてる連中ですから、下手に連れてきたらタナカさん大変っすよ、いやもう本当に」「だよな? 流石にあれはないわ」「ああもう、本当にないわぁ」

「…………」

 大変になりたかった。

 凄く大変になりたかった。

 ないわ。

「タナカさん? 大丈夫ッスか? なんかめっちゃ疲れた顔してますよ」「もしよければ、俺が丹精込めてマッサしますよ? マッサ」「あ、おい、ちょっとまてよ、俺もするから、マッサ。むしろ俺のほうが絶対に上手いし。日頃の疲れとか取れまくりだし」「ふざけんなよ、最初に提案したの俺だろ? 横入りするなよ」

「……承知しました。少し考えたいので、お時間を頂戴してもよろしですか?」

「そりゃもちッスよっ!」

「検討してもらえるだけでも、最高にありがたいですよ!」

 今この状況で結論を出すことは不可能だ。

 チェリー王国とやらの国力を調べてから、改めてお返事するとしよう。



◇◆◇



 チャラ男ブラザーズと別れて、執務室に戻るべく廊下を歩いていた。

 その最中の出来事だ。

 数メートルばかり先、曲がり角の向こう側から魔道貴族が現れた。更に数瞬ばかり遅れて、並び歩く連れ立ちの姿が顕となる。両名は熱心に会話を交わしているようで、こちらに気づいた様子はない。

 挨拶をするべく、反射的に口を開きかけたところで、ふと気づいた。

 魔道貴族がトークしている相手、もしかしてジャーナル教授じゃなかろうか。

「あの、もしやジャーナル教授ではありませんか?」

 それとなくお声掛けさせて頂く。

 すると、彼らは醤油顔に気づいた様子で、一様に視線を向けてきた。

「おぉ、良いところにいた。これから貴様の下に向かうところであったのだ」

 教授に代わり魔道貴族が答えた。

 二人の意識がこちらに向かったところで、正面から改めて確認させて頂く。やはり、ジャーナル教授である。陛下のお使いで学園都市に足を運んで以来だろうか。数ヶ月と経っていないにも関わらず、随分と久しぶりに会ったような気がする。

「え、私ですか?」

「事前に何の連絡もなくすまんのぉ」

「いえ、なんら問題はありませんが、ペニー帝国にいらしているとは思わなかったもので、少々驚きました。いつ頃からこちらに? 是非とも歓迎させて下さい。私も学園都市では非常に良くして頂きました」

 学園都市からだと、移動にもそれなりに時間が掛かる筈だ。

 暗黒大陸での一件でも思ったけれど、仰々しい肩書の割にフットワークの軽い爺さんである。周りで補佐にあたっている人たちとか、きっと大変だろうなとか思う。体付きもマッチョで、更にタッパがあるから、まるで老いを感じさせない。

 エステルちゃんちのパワージジイと良い勝負だろうか。

「つい先程に着いたばかりじゃ。門の辺りで偶然、この者に会ってのぅ」

「なるほど。しかし、このような場所に何用でしょうか?」

「ペニー帝国発っての案内、まさか聞かないでと思うてか? ここの街で近く開かれる予定だとという大会、主催にタナカ殿の名を見つけては、居ても立っても居られずに、思わずやって来てしまったのじゃよ」

「そういうことでしたか」

「是非とも参加させて頂きたく考えておる」

 いや、ちょっと待って欲しい。チャラ男ブラザーズの扱いも然ることながら、こちらもこちらで何かあったら大問題である。学園都市の国家としての規模感は、未だ国際模様に疎い自分であっても、少なからず理解している。

 学園の門出は諸外国に広く開かれており、決して少なくない卒業生が、各国の中枢に食い込んでいるという。また同時に、数々の優れた研究機関を擁しており、その成果の多くは国を隔てず公開されているという。

 そうした中立的な立ち位置も手伝い、国際的な発言力は大聖国に比肩する。

 更に本人自身が、国の代表という立ち位置に限らず、世界的に有名な研究者として通っている。幾ら若々しい肉体を保っているとはいえ、重ねてきた歳月は伊達でない。軽く頭を打って意識不明ですとか、普通にありえそうじゃんね。

 流石に笑えない。それこそ国際的な非難は免れまいよ。

「ジャーナル教授が参加されるとなれば、我々の催しは成功したも同然でしょう。しかしながら、世界の知性と謳われるほどのお方に参加して頂いて、万が一などあった場合、取り返しのつかないことになってしまうのではないかと」

「こちらのファーレン卿は参加するのじゃろう?」

「ええまあ、そのような段取りとなっております」

 なんてお喋りさんなんだ、魔道貴族め。

 いやまあ、自然な話題の運びだとは思うけれどさ。

「一度で良いから、この者とは杖を交えてみたいと思っていたのじゃ」

「タナカよ、ここは一つ頼めやしないか? 私からもどうか、この通りだ」

「……なるほど」

 魔導貴族に言われると辛いな。

 流石に断れないぞ。

 というか、教授のステータスはどんなもんだろう。暗黒大陸で苦戦していたあたり、西の勇者様と大差ないとは思うけれど、聖女様の一件を思えば、人の道を外れていない可能性がない訳ではない。



名前:ワード・ジャーナル
性別:男
種族:人間
レベル:142
ジョブ:魔道士
HP:21200/21200
MP:29088/29088
STR:6320
VIT:10058
DEX:12003
AGI:4200
INT:48900
LUC:8901



 なるほど。

 魔導貴族とドッコイといったところか。

 本人の言葉ではないが、この二人なら良い試合をしてくれそうだ。個人的にも見てみたい気がしないでもない。醤油顔の周りでは、地力に物を言わせた力押しが常だから、ある種の技巧的な争いというのは非常に興味がある。

 それに遠路遥々、こうして出向いて下さったことだし。

「承知しました。ジャーナル教授のエントリーを受付させて頂きます」

「おぉ、助かるのぉ。タナカ殿、その寛大な心に感謝する」

「いえいえ、こちらこそわざわざ遠いところから、ご足労下さりありがとうございます。参加に際しては、事前に予選を受けて頂く必要があるのですが、そちらに関してはよろしいでしょうか?」

「うむ。当然じゃろう」

「ご理解ありがとうございます」

 あぁ、そうだ。ジャーナル教授で思い出した。

 都合が良いことに魔道貴族も一緒だし、ついでにショタチンポの身の上を相談しておこう。以前、なぁなぁで済ませてしまっていた休学申請の件だ。せっかく良い学校に入学したのだから、せめて卒業はさせてあげたいじゃんね。

「ところですみません、私からも一つご相談があるのですが、良いでしょうか」

「なんじゃ?」

「私の知り合いが学園都市に籍を置いているのですが、このたびペニー帝国で貴族の位を頂戴しまして、当面、そちらに戻ることが難しい状況にございます。しかしながら、当人は非常に優秀な学生でありまして、私もその将来に期待しております」

「ふむ」

「そこでお願いなのですが、ペニー帝国の王立学園と学園都市、両機関で行われる教育に関して、履修内容の互換を検討して頂くことは可能でしょうか? 或いは互換とまでは及ばずとも、教育内容に対する認定や承認のようなものでも構わないのですが」

「ふむ、履修内容の互換とな? それは具体的にどのようなものじゃろう?」

「例えば学園都市で行われたある教育に対して、それとは別にペニー帝国の王立学園で行われたある教育を、同程度であると認めて頂きたいのです。いずれか一方での履修が確認された時点で、もう一方での履修も為されたものとする、というものです」

「なるほど、それはまた突拍子もない話じゃのぅ」

 首都カリスの学校だったら、距離的にショタチンポも通えるだろう。

 学園都市には、どうしても必要なときだけ足を運べばいい。

「如何でしょうか? もちろん、全ての過程でとは申しません。可能なところからで結構ですので、検討して頂けないでしょうか? 通年で通うことは難しくとも、数ヶ月の通学で卒業まで至れればと」

 チラリ、魔道貴族へも視線に問うてみる。

「たしかに悪くない話だ。教育の輪の広がりは、今以上に学問の多様性を生み出すことだろう。文化の交流は新しい発明にも繋がる。ただ、その為に必要な評価は、本来より高いものが求められるだろう」

「儂もファーレン卿と同じ意見じゃ」

 やってやっても良いけれど、試験は厳しく見るぞってことだろう。

 このオッサンが厳しく見ると言ったら、それは多分、相当厳しく見ることだろう。身内だからと甘やかすような性格ではない。むしろ、逆に愛のムチを振るうタイプである。そして、きっとジャーナル教授も似たり寄ったりなのだろうな。

 ただまあ、ショタチンポならきっと大丈夫だろう、なんて勝手に思う。なんだかんだで天才肌だし、上手いことやってみせるだろう。伊達に飛び級で主席入学していない。他の誰でもない、金髪ロリムチムチ先生も褒めてたし。

「ありがとうございます。私事となり大変に恐縮なのですが、是非お願いできませんでしょうか? このまま殺してしまうには惜しい才能ですので、お二人の下で開花させて頂けたら嬉しく思います」

「ふむ? 貴様がそこまで言うか」

「それはまた楽しみじゃのぅ」

「お手数をおかけしますが、よろしくお願いします」

 ということで、後は本人に連絡を入れてミッションコンプリート。

 これでいつだかのやり捨て疑惑にも終止符である。未来ある少年はお家を復興しつつ、ペニー帝国で変わらない研鑽を続けることができる。ブサメンは大手を振って彼とは何もなかったのだと、皆さまに弁明することができる。

 素晴らしい。

 持つべきものはお偉いさんとのコネである。



◇◆◇



 執務室に戻ると、そこにはゲイ子爵の姿があった。

 ソフィアちゃんと二人でトークの最中であったから、その光景を目の当たりとして、自然とブサメンの背筋が伸びる。取り立てて意識した訳でもないのに、口を開くと普段より幾分か低い声が出た。

「ゲイ子爵、どうされました? このような場所で」

「ああ、これはタナカ伯爵。留守のところを勝手に申し訳ない」

「いいえ、それは構いませんが……」

 まさか両刀使いに進化とか、そう言うの勘弁なんだけれど。

 お願いだからショタチンポにまっしぐらであって欲しい。

「なんでもこちらの街で大きな催しが行われると聞いたもので、ソフィアさんから話を窺っていたのですよ。もしも私に出来ることがあれば、こうして世話になっている訳ですから、お礼の一つでもと」

「なるほど、それはそれはありがとうございます」

 それは本当なのか。

 くそう、疑ってしまうぜ。

 メイドさんの可愛らしさは絶大だからな。

 なんたって膜付きだ。

 これ以上の美徳は存在しない。

「あ、あの、タナカさん、何かご用でしょうか?」

 そうこうしていると、メイドさんから先制されてしまった。

 相変わらずの面食い具合である。

 悔しいが、今の醤油顔ではゲイ子爵に太刀打ちできない。

 彼女に嫌われない為にも、この場は一歩引いて当たるが吉か。

「幾つか残していた仕事を片付けようと考えていました。ただ、ゲイ子爵がいらっしゃるのであれば、これは行幸ですね。一つご確認させて頂きたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

「私でよければなんなりと」

「見ての通り私は大陸外の人間でして、こと外交においては恥ずかしながら、知見に乏しくございます。そこで一つご助力を願いたいのですが、昨今におけるチェリー王国の情勢について、触りだけでも教えて頂けたらと」

「同国が如何しました?」

「少しばかり繋がりが出来たのですが、判断に悩んでおりまして」

「……なるほど」

 どうか弱小でありますように。

 などと、不謹慎なことを願ったのが良くなかったのかもしれない。

「如何でしょうか?」

「国家の規模で言えば、ペニー帝国より幾らか劣ります。しかしながら、数年前より続く南部諸国の統一運動に対して、チェリー王国は一番有力な立ち位置にあります。一昨年くらいから、いよいよ統一が行われるのではないか、という噂が流れています」

「統一後の規模感に当たりなどありますでしょうか?」

「これまで様々な案が生まれては流れてを繰り返してきたそうです。なので詳しいところは私も存じません。それでも主流と思われる流れは存在しており、仮にそちらで統一が為されたとするならば、ペニー帝国などとは比較にならない大国となります」

「なるほど」

 なんだよもう。

 蔑ろに出来ないタイプのチャラ男ブラザーズで決定だわ。



◇◆◇



【ソフィアちゃん視点】

 大変です、東の勇者さまです。東の勇者さまと遭遇してしまいました。

 実家で昼食帯の手伝いを終えて、町長さんのお宅に戻る帰り道のことです。場所はドラゴンシティの南地区でも、ひときわ人通りの多い広場でしょうか。他に大勢、行き交う人々の姿が見受けられる只中でございます。

 勇者様の傍らには、他にパーティーメンバーの方々の姿は見られません。どうやら、お一人のようです。過去に出会った際と同様、鎧甲冑に身を固めておられます。更に腰には値の張りそうな剣を差していらっしゃいます。

 そんなお方からメイドは、今まさに詰問されております。

「言えっ! 知っていることを言うんだっ!」

「あ、あの、私は……」

 学園都市でお会いして以来でしょうか。

 とても怒っていらっしゃいます。

 安穏と広場を歩いていた最中、不意に声を掛けられて振り向いたところ、既に今のようなお顔が目前にはございました。エルフさんとの一件を思い起こせば、分からないでもありません。しかしながら、怒鳴られる側は堪ったものではありません。

「貴様らが聖女様を浚ったことは分かっているんだっ!」

「えっ? あ、あの、それはどういったお話で……」

「タナカという男の女なのだろう!? 知っていることを全て吐けっ! 吐くんだっ!」

「ひっ……」

 声も大きく怒鳴られるに応じて、過去に足を切られた痛みが脳裏に蘇ります。次の瞬間にでも、また魔法が飛んでくるかも知れません。そう思うと、とても恐ろしいです。自然と全身が強張って、全身からぶわっと汗が吹き出すのを感じます。

「それともまた痛い目を見たいのかっ!?」

「っ……」

 あぁ、プシっと来ました。

 最短記録です。

 ちょろちょろと太股を暖かいものが伝ってゆきます。

 覚悟して下さい、これはもう止まりませんよ。

「……なんだ? この俺がそんな下らない手に誤魔化されると思っているのか?」

「か、か、堪忍して下さい。わわ、わ、私はそんな、なにもっ……」

 どうしましょう。

 日中という時間帯も手伝い、周りには他に大勢、通行人の姿があります。勇者様がいらっしゃるだけでも目立つのに、これに怒鳴られているメイドなど、目立たない筈がありません。それがオシッコなど漏らした日には、完全に見世物でございます。

「大聖国を一方的に貶めておいて、なにが腕自慢を集めた大会だっ! この世で勇者を導くことができるお方は、聖女様がただ一人っ! これに仇をなすというのであれば、真なる勇者の責務として、その全てを大聖国の名の下に断罪してやるっ!」

「そ、そそ、そんなことを言われましてもっ……」

 た、助けて下さい。

 タナカさん、どうか、どうかお助けを。

 東の勇者様がお冠ですよ。

 無力なメイドには、勇者様をどうこうするなど不可能です。

 すぐにでも逃げ出したいという本人の意思に反して、ガクガクと震える膝は酷く頼りないものです。次の瞬間にでも身体を支えられなくなりそうです。その場にしゃがみ込んでしまいそうです。

「それともスターのヤツか? アイツが聖女様をっ……」

 段々と熱を湛えてゆく勇者様を目前にメイドの命は風前の灯火です。

 心残りがあるとすれば、それはキッチンに秘蔵したボトルたちでしょうか。死後、どうか誰の目にも触れることなく、風化していって欲しいとは切に願うところにございます。万が一にも露見した日には、多分、父さんあたりが公開処刑は免れません。

「なにがあっても口を割らないつもりか? ならばこちらも考えがある」

 勇者様の手が、腰の差された剣に伸びました。

 スラリと引きぬかれたのは、あぁ、なんて立派な剣なのでしょう。

 場末のメイドを処分するには、過ぎた代物のように思われます。

「ひっ……」

 その切っ先から逃れるよう、反射的に視線を勇者様より目を背けます。

 すると、どうしたことでしょう。

 勇者様の斜め後方から、タッタタタタと駆け足で近づいてくるヌイさんを発見です。通行人の方々の足元を、右へ左へ器用に避けながら、凄い勢いでこちらに向かっていらっしゃいます。

 まさかとメイドが思い至ったところ、それは現実となりました。

 ヌイさんは駆ける勢いをそのままに、東の勇者様の脇腹へ体当たりです。

「がっ!?」

 まさか町中で大衆の面前、問答無用に攻撃されるとは思わなかったのでしょう。

 甲冑を凹ませて、勇者様が右から左へ吹き飛んでいきます。

 ドンガラガッシャンって感じです。

 一方でヌイさんはといえば、シタっと地面に着地すると同時、私と東の勇者様との間に身を構えました。グルルルと喉を鳴らして彼を威嚇しております。口元からは鋭い犬歯が覗いており、今にも飛び掛かって行きそうです。

「あ、あの……」

 ヌイさん、可愛いです。

 なのにこの頼もしさは、どうしたことでしょう。

 守られている感が堪りません。

 格好いいです。

 心がキュンと来てしまいました。

「ぐっ、な、何故、このような場所にヌイがっ!」

 東の勇者様が身体を起こされました。

 それなりに堪えた様子ではございますが、戦意を喪失するまでには至っておりません。むしろ、程よく絡まれたところで、殊更に気分を害して思われます。その手には依然として剣が握られており、これがそのまま、ヌイさんに向けられました。

「グルルルルル」

「その女を庇うつもりか? 上等だ。この場に処分してくれる」

 東の勇者様がヌイさんに向かい、駈け出しました。

 振りかぶられた剣の切っ先がヌイさんを捉えます。ヌイさんもまた、これに応じて身を飛ばせました。横っ飛びとなり、縦に振られた剣の避けると共に、勇者様の喉元めがけて牙を振りかぶります。

「ふっ、掛かったなっ!」

 勇者様の腕が動きました。

 今まさに迫ったヌイさんの鼻先に、肘打ちが決まりました。

「キューンッ!」

 とても強そうな金属製の鎧を装備されている東の勇者様ですから、これに殴りつけられては流石のヌイさんも堪りません。ピシャリ、鮮血を飛ばすとともに、その身を大きく跳ねさせることになりました。

 緩い円弧を描いて、小さな身体がメイドの足元まで飛んできました。

「だ、大丈夫ですかっ!?」

 反射的にその身体を抱きかかえてしまいます。

 ピクリピクリ、小さく身を痙攣させているヌイさん、可哀想です。

 このままヌイさんを抱いて逃げましょう。

 タナカさんであれば、きっと治して下さる筈です。

 お漏らししている場合じゃありません。

「いちいち聞いて回るのも面倒臭い」

 意を決したところ、しかし、行く手を勇者様に遮られました。

 地面を蹴って、ぶわっと空に飛び上がったかと思えば、次の瞬間にはメイドの逃走ルートに立っていらっしゃいます。しかも、手にした剣の先端は、揺るぎなくこちらに向けられております。

「っ……」

「貴様が鳴いて叫べば、あの男も黙ってはいないだろう。悪に味方したことを嘆き、自らの愚かさを神に懺悔するといい。大聖国の神聖な行いに泥を塗り、我らが聖女様を愚弄した罪、この場に償え」

 全身が強張りました。

 足が動きません。

 これは参りました。

 絶体絶命でございます。

 もはや一滴も垂れてはきません。

「いつぞやのように逃げられては面倒だ。その足をもらおう」

「ひっ……」

 東の勇者様が一歩、こちらに向かい踏み出されました。

 反射的に目を瞑ってしまいます。

 彼に背を向けて、その場にしゃがみ込み身体を丸めます。

 ただ、続くところ痛みが訪れることは、ありませんでした。

 代わりに与えられたのは、他に我々へ問いかけるよう発せられた声です。

「君は天下の往来で何をしているんだい?」

 どことなく耳の覚えのある声色でございます。

 恐る恐る、閉じたばかりの瞳を開いたところで、声の主を探します。すると、どうしたことでしょう。そこには西の勇者様の姿がございました。東の勇者様とメイドを横から眺める位置でしょうか。

「き、貴様はっ!」

 その姿をひと目見て、東の勇者様の態度が豹変しました。

 メイドから向き直ること、西の勇者様に身構える形でしょうか。

 やはりおふた方の間には何かがあるようです。

「君が主張する勇者という存在は、無抵抗な市民を一方的に斬りつけるような輩を指すのかい? 僕にはそこの彼女が、君にどうこうされるほど、極悪な存在であるとは到底思えないのだけれどな」

 西の勇者様はスタスタと歩いて、こちらににいらっしゃりました。

 メイドと東の勇者様の間に割って入る形でしょうか。

 どうやら、助けて下さるようです。

 他方、一連の騒動を眺めては、通行人の方々が自然と身を引いていきます。巻き込まれたら大変ですからね。ただ、それでも勇者様の存在は興味を唆られるのか、ある程度ばかり距離を取ったところで、我々の様子を窺う形でしょうか。

 ちょっとした路上での催しの体でございます。

「だ、黙れっ! 裏切り者がっ!」

「別に僕は誰も裏切ったりしていない。騙されてはいたかもしれないが」

「あれほど親身になって下さったお方を、貴様は私利私欲から裏切ったんだ! 聖女様の下であれば、貴様の考えも変わるだろうと長い目で見てきたが、これ以上は無理だっ! 俺は絶対に許せないっ!」

「君も随分と変わってしまったな。昔はもう少し素直だった」

 東の勇者様、激しく怒られていらっしゃいます。

 一方でどこか冷めて思えるのが西の勇者様でしょうか。

「いや、素直すぎたが故にこうなってしまったのかね」

「言えっ! 聖女様をどうしたんだっ!?」

「それは言えない」

「な、なんだとっ!?」

「僕が憎いかい?」

「当然だっ!」

 西の勇者様、これ以上は危険だと思います。あまり煽っては駄目だと、メイドは具申させて頂きとうございます。お二人の間にどのような関係があったのか、子細はまるで知れません。ですが同じ勇者様同士、仲良くするのがよろしいかと思います。

 喧嘩をするにしても、せめてメイドがいないところでやって下さい。

 早くヌイさんをタナカさんの下に連れて行かないとなりません。

「来月、こちらの街で腕試しの大会があるのは知っているかい?」

「貴様の名前を冠した大会か? あぁ、ふざけた催しだ」

「もしよければ、君もこれに参加するといい。もちろん僕もこれに参加する。そして、君が本当に唯一無二の勇者であるというのであれば、会場で自らの力により僕を打ち破り、それを証明するべきだろう」

「……なんだと?」

「君が優勝したのなら、聖女様の居場所を伝えても構わない」

「じょ、上等だっ!」

 これは大変なことになってしまいました。

 西の勇者様のみならず、東の勇者様まで大会に参加の予感です。
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