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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫
107/131

魔王復活 十

飯野まこと先生からコミカライズ記念イラストを頂戴しました
挿絵(By みてみん)

MだSたろう先生から暑中見舞いを頂戴しました。
先生のブログで鑑賞することができます。
http://pikuminex.hatenablog.com/entry/2016/08/02/043925

 予期せぬ陛下とのランデブーから翌日。

 待ちに待った日がやってきた。

 場所は町長宅の応接室となる。同所には醤油顔とリチャードさんの姿がある。珍しくも二人きりであって、他には誰も同席していない。ソファーに腰を落ち着けたところで、互いにテーブルを挟んで向かい合う形だろうか。

「お久しぶりです、タナカさん」

「はい。お久しぶりです、リチャードさん」

 挨拶を交わす彼の表情は、平素と変わらずニコニコ笑顔だ。相変わらず目が細い。圧倒的に細い。線のようだ。しかし、それでも一度ひとたび開かれたのなら、それは見事な二重だったりするから、万年一重の醤油顔的には参っちゃうわ。

「タナカさんが話題を作って下さったおかげで、思ったよりも早く帰ってくることができました。私としては、もう少しばかり時間が掛かるものだと思っていたのですが、流石はタナカ男爵といったところでしょうか」

「それは何よりです」

「しかし、流石に王女様を巻き込んでの処刑騒動には、ビックリしましたよ」

「すみません、あれは色々とありまして……」

「いえ、こちらも手回しが至らなかったところ、申し訳ありませんでした」

「いえいえ、こちらこそご迷惑を申し訳なかったです」

 こちらの想定した通り、彼は彼であれこれと宮中で動きまわってくれていたようだ。おかげで本日までドラゴンシティは要らぬ面倒を抱えることなく、伸び伸びと再開発を進めることができた。

「動くならば今のタイミングだと思います」

「なるほど」

 遂に来たぞ、この時が。

 つい先日、陛下とのあれこれから、そろそろかなと思っていた。

 ドンピシャである。

「先んじて私からご提案させて頂きます」

「お願いします」

「タナカさん、この機会に独立してはみませんか?」

「……それはペニー帝国から、という意味合いでしょうか?」

「ええ、そうですね」

「流石にそれはちょっと……」

 リチャードさんからのご提案は、些か想定の先を進んでいる。

 ノイマン氏のあれこれの為にも、できれば遠慮したい。

 そもそも国として独立したところで、こちらには何のメリットもない。精々、童貞野郎のちっぽけな自尊心が少しばかり満たされる程度だろうか。むしろ、国としての体裁を整える為の苦労の方が圧倒的に大きい。街一つでさえてんてこ舞いなのだ。

 個人的には、安定した国に寄生して貴族するのが、もっとも良いと思う。幸い、ペニー帝国は封建極まる国家であるから、貴族枠にさえ入ってしまえば、当面はのらりくらりと日々を過ごすことができる。税金市場に強いホワイト企業の正社員みたいなもんだ。

「ふふ、流石にまあ、これは半分冗談ですけれどね」

「いえいえ、驚かさないで下さいよ。びっくりしてしまいました」

 っていうか、ふふってなんだよ。

 この人のふふふ笑い、初めて見たよ。

 普段から笑ってはいるが、あまり声に出したりはしない人だからな。

「より正確には、陛下に対して独立を提言いたしましょう」

「なるほど、そういうことですか」

「はい。現在の状況であれば、かなり有利に交渉を運ぶことができます」

 ホントかウソかはさておいて、相応の影響を与えることができるだろう。リチャードさんの言葉ではないが、過去に男爵位をゲットしていた事実もまた、その言葉に多少なりとも信ぴょう性を与えてくれる筈だ。

「よろしいでしょうか? タナカさん」

「はい。是非そのような形で入れたらと」

「ありがとうございます。そうと決まれば早速ですね」

 ソファーより意気揚々と立ち上がるリチャードさん。

 当然、これに醤油顔も続かせて頂く。

「首都カリスへ向かうということで、よろしいでしょうか?」

「はい。私はいつでも出られますので、支度ができたらお声掛け下さい。ただ、今の流れを失いたくはないので、できるだけ早いほうが嬉しいですね。遅くても数日中には出発したいと思います」

「承知しました。本日中にでも支度させて頂きます」

「相変わらず足が軽いですね、助かりま……」

 テンポ良く今後の予定を詰めている最中のこと、ふいに部屋のドアが勢い良く開かれた。バァンと大きな音が響いた。ノックをせずにドアを開け放つ手合と言えば、醤油顔には一人しか思い浮かばない。

『ここで話すぞっ! ここがいいっ! ここがっ!』

「あ、あのっ、急に開けられたらっ……」

 案の定、ロリゴンである。

 彼女に続いてソフィアちゃん、更にはエディタ先生の姿までもが。

 少なからずビクってなったリチャードさん、面白かった。

「どうされました? クリスティーナさん」

 ロリゴンが相手では仕方がない。

 行動を共とするに差し当たり、我々の都合で雁字搦めな状況にある彼女だ。流石にこれ以上、人間のルールで縛り付けるのは申し訳ない。故にこの程度は受け入れるのが、異文化コミュニケーションの上では大切だと思う。いつの日かハッピージョブの最中にある醤油顔ルームにも、乱入して頂きたいところだろう。

 リチャードさんも相手が彼女だと理解したところで、開きかけた口を閉じた。

『むっ、使ってるのか?』

「ええまあ、使ってますね。ですが、もう終わりみたいなものです」

『そ、そうか! なら使うぞ! ここで話をするぞ!』

 このドラゴン、どうやら応接室でお話したかったらしい。

「おい、別にどこでだって話せるのだから、わざわざこの者たちの邪魔をすることはないだろう。見たところ他に人の姿も窺えない。何かしら重要なことを話し合っていたのではないのか?」

 エディタ先生からの鋭いご指摘。

 その傍らではソフィアちゃん震えてる可愛い。

 良いのだよ、オシッコを漏らしてしまっても。

「いえ、大丈夫ですよ。本当に終えたところですから」

 ふと先生の顔を見て思いついた。

「ところですみませんがエディタさん、少し良いでしょうか?」

「な、なんだ?」

「本日中にでも首都カリスへ向けて発とうと思うのですが、移動の面倒を見て頂いても良いでしょうか? 帰りは自分たちで戻りますので、手間でなければ、行きだけお願いしたいのですが」

「あぁ、そんなことか。構わないぞ」

 よっしゃ、移動時間がゼロになったぜ。

「タナカさん、私もそれなりに足の早い飛空艇で来ておりますが……」

「彼女は空間魔法というものに長けておりまして、首都カリスであれば一瞬にして移動することができます。飛空艇は置いていくことになってしまいますが、急ぐというのであれば、その方が良いかなと」

「なんとっ、それは素晴らしい!」

 リチャードさんが声も大きく吠えた。

 一瞬、万年一本線の瞳が開きかけたぞ。

 対する先生はと言えば、満更でもない表情である。

「ま、まあ、その程度であれば、この私には造作も無いことだな! なんたって最強、最強だからな! わざわざ空を飛んで移動するなど、前時代的な行いは好かないのだ! それこそ時間の無駄だからなっ!」

「流石は先生ですね」

 ここぞとばかりに胸を張って見せる金髪ロリムチムチ先生可愛い。

 他方、そんな彼女を眺めて、不服そうな態度を見せるヤツがいる。

『……そんなの大したことない』

 ロリゴンだ。

 ロリゴンが不貞腐れている。

 先生がちやほやされているのが面白く無いのだろう。

 これまでは仕事にせよ、旅行にせよ、私用にせよ、移動とあればロリゴンが運んでくれていた。その背中に乗って、あっちへ行ったり、こっちへ行ったり。それこそソフィアちゃんなど、本人の意志はどうあれ、完全にタクシー代わりであった。

 それがエディタ先生の台頭で、完全に過去のモノとなって思える昨今。

 電気エネルギーの進歩で、立場を失った蒸気機関のような状況だ。思い起こせば以前も、先生が魔法を行使するに際して、悔しそうな顔をしていたロリゴンである。お陰で乗車拒否が常であった醤油顔は、彼女の尻尾付きパンモロを拝む機会を失ってしまった。

 あのオパンツから、ちょろっとはみ出たのが最高に可愛かったんだよ。

「ふふんっ。も、もしかして悔しいのか? 私の魔法が!」

『ぜ、ぜんぜん悔しくなんてない! ぜんぜん!』

 使われたら使われたで文句を言う一方、必要とされなくなると、それはそれで機嫌を悪くするのだから、なかなか面倒臭い性格のドラゴンである。お陰でここぞとばかりにドヤ顔する先生との相性は抜群だ。

「ど、どれだけ翼が早かろうと、私の魔法の前には意味をなさないなっ!」

『ぐるるるるる』

「っ……」

 ロリゴンが喉を鳴らして威嚇、応じて肩をビクリと震わせる先生。

「あ、あのっ、喧嘩は良くないと思いますっ、け、喧嘩はっ……」

 そんな彼女ら慰めるのが、今にも泣きそうな表情のメイドさん。

 最近、三人の仲が急接近だわ。

 非常にバランスの取れたパーティーである。

 ここ応接室にも、一緒にやって来たくらいである。ガールズトークというやつだろうか。しかし、彼女たち共通の話題とか、存在するのだろうか。果たしてどういったお話をするつもりだったのか、気にならないと言えば嘘になる。

 ただまあ、今は少しばかり急いでいるので、ここいらで割り込むぜ。

「クリスティーナさんの翼も、エディタさんの魔法も、どちらも甲乙付けがたい良さがあります。それぞれ良い点を生かして、互いに足りないところを補うのが、私としては一番だと思います」

『ふんっ! 誰がこんなエルフなんかと!』

「確かに私の魔法は、私自身が覚えのある場所にしか使えないからな。そうでない移動に際しては、私の魔法よりも、このドラゴンの翼を用いた方が、より効率的に移動することができるだろう」

『…………』

 行き先を失ったロリゴンの競争心が空回りする。

 なんか吠え損ねた犬みたいな表情になってる。

「では、すみませんがエディタさん、お願いします」

「うむ、分かった」

 他方、相変わらず人の良い先生は二つ返事で頷いてくれた。

 どうにもこうにも哀れな町長である。

 おかげで童貞の心はホッコリだ。



◇◆◇



 エディタ先生の魔法で、首都カリスまでひとっ飛び。そこから更にリチャードさんの手引きを受けて、醤油顔は王城までやって来た。この間、僅か半刻ばかりであるから、なかなか大した速度感だろう。

 今回ばかりは絶対に外せない一戦となる。

 パーティーメンバーはリチャードさんと自分、王女様。以上の三名による登城だ。ここまで送って下さった先生からも、必要であれば手伝う旨を頂戴したが、本日は大丈夫だとお帰り願ったほどである。

 つまり、全力だ。

 王女様に関しても、出来ることなら連れて来たくなかった。腹の中に爆弾を抱えるようなものである。しかしながら、陛下の精神状態を思うと、まさか連れて来ない訳には行かなかった。我々の目的を思えば、彼からの信頼は最低限必要となる。

「…………」

 ちなみに今現在は、謁見の間に通じる控室で待機状態。

 現在進行形でリチャードさんが陛下へのアポ取りを行っている。近日中に醤油顔を連れてゆく旨、事前に話は付けてあるので、そこまで待たされることもないだろう、とは数刻前に伺った彼の言葉である。

 ややあって、そうしたやり取りに違いなく当人が戻って来た。

「タナカさん、すぐにでも行けます」

 軽いノックの後、ドアの先から顔を見せたリチャードさんからゴーサイン。

「承知しました」

「ふふふ、こちら側からお父様に臨むのは初めての経験です」

 遂に来たぞ。

 ここ数週に渡る努力の成果発表会だ。

 ソファーより腰を上げる。

「王女殿下にまでご足労させてしまい申し訳ありません」

「いいえ、構いませんわ。久しぶりにお父様とお話したいと思っておりましたの」

「そう仰って頂けると幸いです」

 リチャードさんの傍らには近衛っぽい騎士が控えており、恭しくも我々の行く先へ片膝を突いて腕を差し出してくださっている。同じ貴族であっても、魔道貴族やエステルちゃんと同行した差異とは雲泥の差である。

 フィッツクラレンス家の当代、どんだけだよって。

「こちらです、タナカさん。ご案内いたします」

「はい、お願いします」

 そんな彼に案内して頂く醤油顔はなんて贅沢なのだろう。

 今まさに発したところを耳とした近衛が目を丸くしてコチラを見ていた。

 相変わらずヤバイな、フィッツクラレンス家。



◇◆◇



 過去に何度か経験した謁見の間。

 リチャードさんと共に入室した醤油顔は、ズンズンと大股でレッドカーペットを歩んでいく。全ては事前の打ち合わせ通り。その歩みは正面に陛下の姿を認めても変わらず、やがて、へへーの位置まで辿り着く。

 本来であれば、ここで膝をついて頭を垂れるのが、こちらの国における謁見の為の儀礼となっている。しかしながら、本日に限って我々は、立ち止まったまま直立不動で挑む。全てはリチャードさんから頂戴したアドバイスから。

 当然、同所に居合わせた貴族一同からはざわざわとざわめきが。

 一連の流れを目の当たりとして、宰相が声を上げた。

 例によって玉座に腰掛けた陛下の傍ら、こちらを見下すように立っている。

「なっ……」

 どうやら相当な問題行為であるらしい。

 酷く驚いているから、ちょっと良い気分かもしれない。

「へ、へ、陛下の御前であるぞっ!? 頭が高いっ!」

「良い、構わん」

 そんなタイムキーパーの爺さんに、陛下が自ら声を掛けた。

「しかしっ! こ、こ、このような不敬が認められてはっ……」

「私が良いと言っているのだ」

「っ……」

 繰り返された陛下からの窘めに口を閉じる宰相。

 二人のやり取りを耳としては、居合わせた貴族たちより発せられる喧騒が、殊更に大きなものとなる。誰もが例外なく驚いているあたり、リチャードさんは自らの派閥に対してさえも、全てを黙ったまま進めたのだろう。

 頭が下がる思いである。

「して、この度はどのような話があるのだ? リチャードよ」

「はい、申し上げさせて頂きます」

 リチャードさんの声がフロアに響く。

 周囲からのプレッシャーにも構わず、朗々と語って見せる姿マジ格好いい。

「本日はこちらの元タナカ男爵が納めていた、ラジウス平原一帯の扱いに関して、陛下にご相談したいことがありまして、この場を設けさせて頂きました。こうして謁見を下さりましたところ、大変にありがとうございます」

「下らない挨拶は良い。用件を言うと良い」

「はい。では詳しいところは、こちらの者から伝えさせて頂きます」

 果たしてリチャードさんはどこまでを陛下に伝えたのだろう。

 まあ、いずれにせよやることは変わらないか。

 事前の打ち合わせ通り、ここから先は醤油顔のステージである。

「陛下、お久しぶりでございます」

「……噂では処刑されたと聞いたが?」

「我が身も最早これまでかと、全てを諦めかけたところ、幸運にも慈悲深い王女殿下に拾って頂いた次第にございます。おかげで本日まで生き永らえることができました。まこと王女殿下は素晴らしい方でございます」

「っ……」

 陛下の顔がちょっと引き攣る。

 その様子を眺めては、フロアへ立ち並んだ貴族たちもまた、騒々しくなった。耳を澄ませば、そのやり取りが拾えるほどだ。その大半は驚愕が占めて思える。これまでの経緯を思うと、幾分か清々しい。

「この度は謁見の機会をありがとうございます」

「良い。さっさと申してみろ」

「それでは大変に恐縮ですが、申し上げさせて頂きます。まことに勝手なお話ではありますが、この度を持ってラジウス平原に存在する元タナカ男爵領は、本日より新たに国として独立したく思います」

「っ……」

 陛下の顔が渋いものとなった。

 ただ、どうやら彼としては想定の範囲内であったよう。多分、王女様の身柄が我々の側に渡ったところで、既にこうした話題が上がることは懸念していたのだろう。つい先日には陛下自身もまた、エディタ先生の魔法に巻き込まれて現地を確認しているし。

 一方で虚を突かれて思われるのが、宰相を筆頭とした他の貴族たちだ。

「王女殿下を囲って国を立ち上げる? そんなもの事実上の謀反ではないか! 反乱ですぞ!? この異邦人は一体なにを言っているのだっ! フィッツクラレンス公爵も何故に、このような輩の側にたっているのだっ!」

 顔を真っ赤にしてまくし立てる。

 謁見の間の喧騒も最高潮である。陛下の御前にありながら、そこらかしこで言葉が交され始める。あっちでわいわい、こっちでわいわい、蜂の巣を突いたような騒ぎである。ちらり様子を窺えば、今にも殴りかかって来そうな形相の人もちらほらと。

「誤解しないで下さい。私の行いは全てペニー帝国の為です」

「……続けよ、タナカ」

「はい」

 陛下に促されたところで、醤油顔は台詞を継続。

「既に誰もが御存知の通り、当代の魔王が蘇りました。過去、大聖国が偽ってきた紛い物とは異なります。五百年前に封ぜられた先代の魔王より転生した、正真正銘の魔王です。その力は皆さんも既に耳とされていることでしょう」

「…………」

「昨今の腐敗した大聖国には、これを打倒するだけの力がありません。このまま彼らに任せていたのでは、いずれ人類は魔王に敗北してしまうことでしょう。一方で我らが国には、これに抗するだけの力がございます」

 いつぞや牢屋で語ったところをもう一回。

 つい数週前に首都カリスの上空へ浮かんだ魔法陣、各地に出現するようになった下位魔族など、諸々を加味すれば、当時と比較しては信ぴょう性も段違いだと思われる。各国より伝わる被害状況も、陛下の立場であれば耳に入っていることだろう。

「……続けよ」

「へ、陛下! いけません! このような者の言葉に耳を傾けるなどっ!」

「この私が良いと言っているのだ。宰相は黙っておれ」

「ですがっ……」

 焦りに焦るタイムキーパー。

 醤油顔一人であったら、ここまでハッスルすることもなかっただろう。隣に立つリチャードさんの存在が、彼を慌てさせている。もしも自分が逆の立場だったら、絶対に慌てているだろう。伊達に一代でお家を建て直していないわ。

「つきましては本日、我らが国にとって最も近しい隣人として、ペニー帝国の現王より同盟と友好のお言葉を頂戴しに参りました。ペニー帝国の代表として我らが国家を認めると共に、その事実を国内外へ宣言して欲しいのです」

「随分と語るではないか、タナカよ」

「失礼ですが、我らが国の主力部隊は、ペニー帝国を一晩で三度滅ぼすだけの力を備えております。いつぞやのドラゴンは、我々が誇る武力の一端に過ぎません。それ以上の力を即日で示すことが可能です」

 今回ばかりは素直にお伝えさせていただく。

 すると、フロアに立ち並ぶ貴族らの表情が慄きに固まった。それまでくっちゃべっていた誰も彼もが、一様に口を閉じてこちらを見つめている。きっとロリゴンのマタニティーストライクは、宮中でも相応の噂となっているのだろう。

 些か強引なやり方だけれど、ここで折れる訳にはいかない。

 ノイマン氏の復権には必要なことなのだ。

「……武力だけで国が成り立つと思っているのか?」

「いいえ、思ってはおりません」

「この短期間で国としての体制が整うと、本当に考えているのか?」

 思ってないから、こんなまどろこしいことをしている。

 陛下もその辺りは承知しているのだろう。

 例えばドラゴンシティの食料自給率など一割未満である。隣国が結託して人の行き来を制限したのなら、早々に干上がってしまうだろう。力にモノを言わせて解決することも可能だろうが、それでは盗賊の根城と対して変わらない。

 故にこちらは、その可能性を示唆することで、ヤンデレ国家を全面アピール。

「国とはいっても、今はまだ街が一つある限りでございます。それも首都カリスと比較するまでもなく小さなものです。将来の話はさておいて、他所の国が魔王に滅ぼされるまでの間を耐え忍ぶというのであれば、十分に機能すると考えております」

「……そうであるか」

「はい」

 どこか諦めたような表情で頷く陛下。

 果たして今、彼はどんなことを考えているのだろう。

「陛下っ! 聞いてはなりませぬっ! そのような戯れ言、耳に入れてはいけませんぞっ!? そもそもこの者を認めては、大聖国からの顰蹙は免れません! 魔王から滅ぼされる前に、近隣諸国から干されてしまいます!」

「それは私も理解している」

「我々が考えるべきは、魔王の後の治世に他なりません。如何に魔王の攻勢を無傷で乗り越えたところで、他所の国から反感をかったのでは本末転倒ではございませんか! 仮にこの者たちが魔王を討てば良いですが、そうでなければ目も当てられませんぞ!?」

「…………」

 陛下、めっちゃ困ってるわ。

 すげぇ悩んでる。

 なんだかんだでタイムキーパーの爺さんが訴えるところも的を射ているから、両者の間で揉まれる陛下としては、堪ったものではないだろう。しかし、王様とは本来であれば、こういった存在であるべきだ。物事を判断して、その責任を取る存在だもの。

 今の彼が抱える悩みは、与えられる給与に対して相応しいものである。そう考えると、ペニー帝国の王族はまだ良心的だなんて考えてしまうのが、社畜として飼い慣らされた者の悲しいところだろうか。

「如何でしょうか?」

 醤油顔から牽制のプッシュ。

 すると、覚悟を決めた様子で陛下が口を開いた。

 どうやら我々に対する扱いを決定したようだ。

「タナカ、お主の言わんとするところは理解した」

「ありがとうございます」

 陛下の言葉に場の誰もが注目だ。

 王座のすぐ傍ら、駄目です、絶対に駄目ですぞ、必死に目で訴える宰相は当然のこと。同所に詰め掛けた他の貴族たちもまた、ゴクリ、喉を鳴らす勢いで聞き入っている。おかげで場はしんと静まり返って、いよいよといった雰囲気に。

「だがしかし、そのまま受け入れることは難しい」

「では、どのようなお返事を頂戴できるのでしょうか?」

 ちらり、リチャードさんの顔を窺えば、相変わらずのニコニコ笑顔。自分が想定したとおりに話が進んでいるから嬉しいのだろう。これまでの陛下の表情変化を鑑みれば、裏ネゴを取ってあったとも思えない。

 こうまでも自らの思い通り事を運んでしまうとは、恐ろしい人物である。

「ラジウス平原一帯の領地に関して、改めて貴殿に任せたい」

「それはペニー帝国の田中男爵として、でしょうか?」

「……いや、領地に相応しい地位を用意しよう」

 やったぜ。

 やってやったぜ。

 ノイマン氏、醤油顔は遂にやりましたぞ。

 その一言を受けては、謁見の間の各所よりわっと声が上がった。それこそサッカーやバスケットなどのリーグ決勝で、逆転ゴールが決まったような沸き立ち。それもゴールを決めた側ではなく、決められた側のである。

 発せられた声に喜びは感じられない。ただただ慄きの一色である。

「承知いたしました。謹んでお受けいたします」

「うむ」

 遂に陛下から言質を取ってやったぜ。

 これでもう、謁見イベントは制したも同然だ。

 与えられた達成感が、想像したよりもずっと嬉しい。

「へ、陛下っ! お待ち下さいっ! その者はっ! その者はぁっ!」

 タイムキーパーの爺さんがあれこれ騒いでいるけれど気にしない。陛下も気にしていない。醤油顔とリチャードさんの勝利だと考えて差し支え無いだろう。

 ホッと胸をなでおろす。

 もしかしたら先日、ソフィアちゃんとの一件が効いているのかもしれない。今更ながら、メイドさんのLUCの高さに感謝だろうか。

 すると、そんなブサメンに対して、おもむろに陛下から声が。

「ただ、一つ確認したい。娘は本当に安全なのだな?」

 チラリチラリ、醤油顔の傍らに立つ娘さんへ視線が。

 そりゃまあ人の親なら当然の確認である。

 その為にも本日、醤油顔は彼女を連れてきたのである。流石に王女様の元気な姿を伴わずに、話し合いを進めることは不可能である。当然、彼女には醤油顔の味方をしてくれるよう、事前にお願いしてある。

「はい、それはお約束……」

 致します。

 続けようとしたところで、当の王女様が声を上げた。

「お、お父様、助けてください。わたしは嫌です、もう、嫌なのです! この異国人に慰み者とされて、なんども、なんども、むりやり身体を求められる。そんな生活は、もう、耐えられません! どうか、どうか助けてくださいっ!」

 おう、マジかよ。

 ここへ来て王女様の性癖が発動だ。

 戦いの舞台はエクストラステージへ。

「な、なんだとっ……」

 元気を失っていた陛下の瞳が、クワと見開かれた。

 表情が一瞬にして般若である。

「なっ!?」

 醤油顔の隣では、リチャードさんもマジでビビってる。ビクリと全身が雷に撃たれたよう震えたかと思えば、ほっそい目をぎょろりと開いて、今まさに語る王女様と、話題に上がったブサメンへ注目だろうか。

「お父様、お願いです。助けてください。私はもう、もう耐えられません……」

「タ、タ、タナカァっ!? 貴様は娘になんということをっ……」

 王様が勢い良く玉座から立ち上がった。

 バタンと椅子が後ろに倒れた。

 拳をギュッと握り、今にもこちらへ向かい駆け出しそうな勢いだ。

 ヤバイ。

 こうなるとこの人、絶対に聞く耳を持たないぞ。

 更に問題なのは、王女様の証言を否定することが非常に困難である点だ。メルセデスちゃんの言葉が正しければ、その膣に膜は存在しない。元から処女性もへったくれもないのである。まさかこんなところで、自らのビッチ属性を利用してくるとは流石である。

 謁見の間には他に大勢、貴族たちの姿がある。

 それも身なりの具合からして、相応に身分の高い貴族たちばかりが並んでいる。

 そうした只中で、自らの貞操が何処の馬の骨ともしれないアジアン野郎に奪われたと公言することは、他の誰でもない彼女の価値を大きく貶める行為に他ならない。まだ見ぬ旦那のグレードが著しく下がることは間違いないだろう。最悪、籠の中の鳥。

 にも関わらず、堂々のカミングアウト。

 この王女様ってば、本当に他人を陥れることに人生を賭けているわ。ここまで一貫していると、逆に尊敬してしまう。彼女の中にある何が、ここまで絶望ウォッチングに情熱を向けさせるのか。ゴッゴルちゃんに頼んで確認したいほどである。

 ただまあ、今回ばかりは相手が悪かったな。

「王女殿下、私との夜は具合は如何でしたか?」

「ぇ?」

 ギョッとした顔でこちらを振り向く王女様。

 ここは一つ、楽しませて頂こう。

 公衆の面前でロイヤルセクシャルハラスメント。

 絶好の機会、まさか逃すものか。

「王女殿下も随分と楽しんでいたように思えますが」

「なっ! そ、そのようなことはありません! 私は今すぐにでも死んでしまいたい。有無をいわさず裸に剥かれて、あられもない姿を厭らしい視線に見つめられて、あのような醜態、とてもではありませんが耐えられません!」

「その割にはご自身もまた、随分と熱心に腰を振っていたように思います。行為に疲弊した私を無理やり起こし、もっとしてくれとせがんだのは貴方ではないですか。おかげでここ最近は連日に渡り寝不足ですよ」

「……そ、そんなことはありませんよっ」

 嘘には嘘で対抗だ。

 どうせ事実など一ミリも掠っていないのだから。

「しかし、まさか王女殿下が好きものとは、私も存じませんでした。当初より気になっていたのですが、処女はどこで捨てていらしたのですか? どこぞの近衛に確認すれば、随分と多くの方々とまぐわって来たとのお話ではありませんか」

「ぐっ……」

 そこはかとなく真実を混ぜてしまえ。

 どうよ、どうなんよ。

「どうされました? お顔が赤いようですが」

「だ、だ、黙りなさいっ」

「今も私のものが欲しくて、下腹部が疼いているのではありませんか? そうですか、仕方がありませんね。街に戻ったのならば、すぐにでも抱いてさし上げましょう。今晩は寝かせませんよ。存分に愛させて頂きます」

 これは勝手な想像だけれど、これまで全てを一撃必殺で済ませてきたのだろう。当初、予定していた展開に差異が発生したところで、随分と焦って思える。ブサメンの公開処刑に際しても、こちらが一歩を先んじたところで、少なからず気圧されていたし。

「う、嘘です! この者は嘘を言っています!」

「嘘は嘘で結構です。しかし、それはどこからどこまでを指しての話なのでしょうか」

「っ……」

「もしも貴方が本当に私の種を受けているというのであれば、私としては王女殿下を王妃として娶り、改めて国を起こすことも吝かではありません。王族の血を頂けるのであれば、これほど喜ばしいことはございません」

 そう、王女様は墓穴を掘った。

 今この瞬間、彼女の立場においては、決して挽回できない大きなミスだ。

 過去、常套手段であっただろう一手が、今回ばかりは最悪の一手である。

「我が国も大手を振って、ええ、ペニー帝国を名乗ることが出来ます」

「そ、それはっ……」

「素直に申し上げて、これほど喜ばしいことはありません」

 陛下の次は王女様だ。

 そのお顔がサァと真っ青になる。

 万が一にも嘘が正されなければ、陛下が行った交渉の全てが意味を失う。その先に待っているのは、元タナカ領の独立と、ペニー帝国に対する一方的なクーデターである。共にロリゴンのブレスを眺めた彼女なら、その結果は容易に判断できるだろう。

 陛下の治世も本日までだ。

 小さな地方都市が独立どうこうの話ではない。

 もちろん、醤油顔的にはノーサンキューな展開である。本日までの努力の全ては、ノイマン氏の名誉を求めてのこと。大切なのはペニー帝国で成り上がり、そして、ペニー帝国でいつぞやの間男をぶっちぎることである。

 ただ、それもこれも自身の胸に秘められた内情となる。誰も知らない。傍から眺めれば、爵位を頂戴するより、余程のこと楽しい事の運びだろう。一国一城の主とあらば、貴族なら誰だって憧れる立場である。そもそも話の切り口からして、元々はそこにある。

 彼女の視線は自ずと自らの父親の下へ向かった。

 対する王様はと言えば、少しばかり落ち着きを取り戻して、問いかけた。

「アンジェリカよ、まさかお前は本当に……」

「…………」

 問われて直後、反射的に顔を伏せた王女様。

 静まり返る謁見の間。

 沈黙はしばらく続いた。ただ、どれだけを待ったところで、誰が何を語ることもない。このまま放っておいても、勝手に事が転ぶことはないと彼女は判断したのだろう。難しい顔となって、何やらあれこれと頭を悩ませ始める。

 謁見の前に集まった誰もが、王女様の言葉に注目だ。

 ややあって、再びその可愛らしい顔が上げられる。

 その口が開かれて、粛々と言葉は続けられた。

「……申し訳ありません、お父様。このような真似は私も反対でした」

 とてもしおらしい振る舞いだ。

 他の誰に何を語らせる間も与えず、彼女は続ける。

「ただ、宰相にどうしてもと頼まれたのです。どうかタナカ男爵を貶めて欲しいと。ですから、このような小汚い嘘をついてまで、あぁ……ごめんなさい、タナカ男爵。男爵は潔白です。本当は、本当はこのようなこと、したくはなかったのですのに……」

 次いで矛先が向けられたのは、タイムキーパーの爺さん。

「なっ……」

 年齢の割に随分と表情豊かな彼は、驚愕の一色だ。

 あんぐりと口を開いていらっしゃる。

 そりゃそうだろう。

 絶対に嘘だ。

 醤油顔の攻略が不可能だと判断して、早々に宰相ルートへ進路変更。他に自分を取り繕うだとか、貞操を言い訳するだとか、人として行うべきがあるだろうに、その一切合財をうっちゃって、自らの性癖を充足させるべくスイッチ。

 清々しいまでの判断だ。

「お父様、私は大きな嘘を尽きました。タナカ男爵に非はありません。全てはそちらの宰相から、この国の行く先を考えているのであれば、素直に言うことを聞くようにと言われて、仕方なく行ったものなのです。あぁ、私はなんて愚かな女なのでしょう!」

「な、なにをおっしゃっているのですかっ!? 王女殿下っ!」

 ロイヤルビッチが迫真の演技。

 タイムキーパーの爺さん、陥落の予感。

 ここは乗っておく方が良さそうだ。

 チラリと王女様を窺えば、一瞬、視線があったところで口端がニヤリと。

 乗せられるのは癪だけれど、またアサシンとか送られてきたら嫌だし。エステルちゃんの件とか、リゾート施設の件とか、十中八九で出処はこの爺さんだろう。流石にこれだけ続けば宮中の内情に疎い自分でも分かる。

 何より今この瞬間、彼女が醤油顔のカウンターとして宰相をターゲットしたのが、その証拠である。彼が醤油顔を疎んでいたことを、この娘さんは知っていたのだろう。思い起こせば牢内で囚われの近衛レズも、宰相の名前を挙げていた。

 故に笑みである。

 たぶん。

 そういうことなら、こちとら乗らせて頂く限りだ。

「ということですので、陛下。ご判断を願えませんか?」

 陛下にプッシュ。

 当然、陛下の意識はタイムキーパーの爺さんへ。

「宰相、き、貴様という男は……私は貴様を信じていたというに……娘をそのような下らないことに巻き込んだというのか? 宰相という身分にありながら、未だ年端も行かぬ私の娘を……」

「か、勘違いでございます! 王女殿下の勘違いでございます!」

 二転三転する謁見タイム。

 陛下から始まって、王女様、宰相と進んだ、お偉方の顔芸の流れ。

 それもこれまでかと、ブサメン的には終了の兆し。

 流石に誰も彼も、手持ちを撃ち尽くしただろうと。

 一連の流れを傍から眺めると、今回の一件はリチャードさんの一人勝ちということになる。おかげで今まさに、同所に居合わせた貴族たちの意識は彼に向かい止まない。多分、謁見が終わり次第、彼の下には大勢の貴族が詰めかけることだろう。

 それとなく彼の表情を窺えば、例によってニコニコと人当たりの良い笑みを浮かべて、我関せず事の成り行きを眺めている。ペニー帝国の勢力図が、本日を機会に大きく塗り替わりそうな予感がある。

 なんて胸の内に考えていたのだけれど――。

「し、失礼するわっ!」

 バァンと大きな音を立てて、謁見の間のドアが開かれた。

 あまりにも大きな音が鳴ったものだから、今度は何事かと、居合わせた面々は一様に、酷く驚いた様子で、音の聞こえてきた側を振り向く。なんら遠慮のないドアオープンを受けて、自身もまた思わずビクリとしてしまった。

 同時、どうにもこうにも嫌な予感がした。

 何故ならば、その声色には覚えがあったからだ。

 自然と皆々の視線が、出入り口の側に向かう。

 すると、そこには見知ったビッチの姿が。

「……リ、リズ?」

 疑問の声は他の誰でもない実の父親から。

 そんな彼の視線が向かった先、実の娘の傍らには、あぁ、何故だろう。

 荒縄で簀巻にされて、猿ぐつわを噛まされた聖女様の姿がある。

 魔法で浮かされていた彼女は、先行するエステルちゃんが立ち止まるに応じて、ドサリと床に転がされた。際しては小さく呻き声が響く。その首には首輪のようなものが嵌められており、更にそこへ繋がれた鎖がビッチの手に伸びる。

「むー! むー! むーっ!」

 イモムシ状態で必死に呻き声を上げる聖女様。

 そんな彼女の頭部をエステルちゃんは、土足で遠慮無く踏みつけた。しかもグイグイと、相手の頬を床へ押し付けるように。拿捕されている側は、髪もボサボサで肌も土埃まみれ。随分と手酷く扱われてきた経緯が窺える。

「陛下! 諸悪の根源を連れて参りましたっ!」

 ロリビッチが満面の笑みで吠えた。

 見ていて気持ちの良い、清々しいまでの笑顔である。

 自分が正しいことをしていると信じて疑わない笑みである。

「…………」

 今度はリチャードさんの顔が真っ青だ。

 正直なところ訳が分からない。

 ただ、それでも一つ思うところがあるとすれば、ほら、あれだ。

 ペニー帝国ってば最高だよな。
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