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田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~ 作者:金髪ロリ文庫

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魔王復活 七

 プッシー共和国に発する難民の受け入れから数日が経過した。

 ドラゴンシティの規模拡大は、連日に渡り続けられている。ロリゴンと醤油顔が競い合うようにして建てた家屋の連なりは、数日と掛からずにプッシー共和国から訪れた人たちに対して、十分な数を提供するに至った。

 その数は今現在も、延々と増え続けている。

 また、そうして建てられた建造物には、ゴンちゃん率いる黄昏の団の皆様により手が入れられる。トリクリスより絶えず輸送されてくる物資が、次から次へと搬入されて、居住地としての体裁が整ってゆく。

 財源が某公爵のお財布である都合、一連の流れに滞りはない。

 おかげで彼らは騎士団というより、もっぱら模様替え業者みたいになってる。ただ、取り立てて不満の類は上がっていないようだ。めっちゃいい笑顔で、次はどこに当たればいい? などと尋ねられると、申し訳ない気分になってしまうのだが。

「随分と広がったものですね。当初の草原からは想像できません」

 場所は町長宅の執務室。

 その窓から、現在進行形で規模を増してゆく街を眺めつつ語る。

 傍らにはデスクに向かい書類と格闘するメイドさん。

 今この瞬間、ソフィアちゃんと過ごす二人だけの時間が愛おしい。

 ここ最近、意識して大切にしている、彼と彼女のシークレットタイム。

「え? あ、はい。そ、そうですね」

「なかなか感慨深いものがあります」

「は、はい」

 素っ気ないメイドさんの態度にも、多少は慣れた。

 こうして眺めていると、少なからず達成感じみたものが、胸の内に溢れてくるのを感じる。無性にお酒とか飲みたい気分だろうか。しかし、これだけでは終わらない。ノイマン氏の復権の為には、ここから先が重要になってくるのだ。

 仕込みはまだ始まったばかりなのである。

「…………」

 ところで、あの空白地帯はなんだろう。

 新たに広がった住宅街の一角、やたらと周りに広い庭の設けられた家屋がある。いや、庭というよりは、なんだろう、こう、他の家屋から避けられるようにして、寂しくポツネンと建っているような感じ。

 あの辺りを開拓していたのはロリゴンである。あれでなかなか、街作りに対しては並々ならぬ几帳面さを見せる町長だ。石畳を敷くこともなく、地面も剥き出しのまま、ああまでも露骨に空白地帯を残すのは、流石に変な気がするぞ。

「ソフィアさん。少しばかり確認したいのですが」

「な、なんでしょうか?」

「あちらの建物に関して、なにかご存知だったりしますか?」

「え?」

 メイドさんの視線は窓の外、醤油顔が指し示した先に向かう。

 すると、同所を一瞥したところで、彼女の表情には戸惑いが。どうやら何か知っている様子だ。伊達にこちらの街の財務を一括して預かって下さっていない。多分、細かいところでは自分より詳しいだろう。

「ご存知ですか?」

 割と気軽にお問い合わせ。

 するとまあ、返って来たご指摘は完全に想定外のもの。

「え、えっと、その、たしかロコロコさんの為にタナカさんが……」

「…………」

 そうだった。

 そうだったよ、ゴッゴルちゃん。

 なるほど、通りでロリゴンが避けて通る訳だ。

 ドラゴンシティの拡大に伴い、壁の外側、郊外にポツンと建っていた筈のゴッゴル邸が、今や完全に住宅街の一等地である。街作りに熱中し過ぎて、完全にその存在を失念していた。思い起こせば最後にお話したのは何日前だろう。

 これはもう、あぁ、困ったな。

 流石に不味い気がする。

 絶対に怒ってるよ、ゴッゴルさん。

「……あ、あの、どうされましたか?」

「すみません、少し出かけてきます」

「あ、はい」

 飛行魔法で窓から飛び出すと共に、ゴッゴル邸へと急いだ。



◇◆◇



 ゴッゴル邸の正面には立て札が立っている。

 竣工当時、自分が立てたものだ。

 曰く、『何人たりとも出入りするべからず。 タナカ男爵』。わざわざ貴族の肩書など入れた手前、これを正面から破る者は、未だに現れていないように思われる。固く閉ざされたドア正面には、いつのまに芽吹いたのか、ニラ紫の若葉が茂る。

 どうにもこうにも、切なさを感じさせる光景だろうか。

 いつぞや暗黒大陸に見つけたゴッゴルちゃんの旧居、竪穴式住居を思い起こす。

「…………」

 おっかなびっくりドアをノック。

 コンコンコンといった具合だ。

 しかし、反応はない。

 まさか留守だろうか。

 いやいやいや、そんな筈はない。

「……ロコロコさん、いらっしゃいませんか?」

 お声掛けなどしつつ、今一度、改めてドアをノック。

 すると、今度は反応があった。

 ドアノブに動きが見られたかと思いきや、ドアと戸口の間に僅かばかりの隙間が生まれた。しばらくを眺めていると、ドア枠との数センチほどの合間より、見知った相手が半身を覗かせた。他の誰でもない、同所に住まう褐色ロリータさんである。

 普段からジト目な彼女だけれど、本日は殊更にジトっている。

「すみません、お話に参りました」

「…………」

「申し訳ないのですが、家に入れて貰ってもいいですか?」

「…………」

 返事はない。

 ただ、ジッと見つめてくるばかり。

 めっちゃ怒っている。

 ゴッゴルちゃん、激怒の予感。

 ここは素直に謝った方が良いだろう。

「長らく暇にさせてしまったことは、申し訳ないと思います」

 ロリゴンとの街作りが、どうにもこうにも楽しかったのです。それは例えば幼少の折、授業を終えて放課後。小学校の校庭で日が暮れるまで、延々と砂場に遊んでいたような、そんな喜びがございました。まだ低学年の時分です。

 共に遊んでいた友達は、顔こそ寸毫も思い出せません。

 しかしながら、一緒に砂で山を作り、そこに前後から掘り進めたトンネルの只中、土を穿る互いの指先が触れ合い、やがて絡み合う、あの土にまみれたザラザラとした感触は、未だ鮮明に思い起こせます。

 そんな楽しさでございました。

「…………」

「……差し支えなければ、中庭に砂場を用立てても良いでしょうか?」

 あぁ、ゴッゴルちゃんの顔が少し怖くなった。

 ごめんなさい。

 無性にゴッゴルちゃんと砂遊びをしたい気分でした。一緒にトンネルを掘って、その中で指を絡め合いとうございました。デートで砂場、お山にトンネルとか、素敵じゃないですか。そういうおセンチな気分でありました。

 本当にごめんなさい。

「約束を守れなかった点、申し訳ありませんでした」

「…………」

 このままでは、一向にお口を聞いてもらえそうにない。

 勝手に迸る妄想のおかげで彼女の機嫌も急転直下。

 今まさに頂戴しているちょっとキツめのジト目は、これはこれで凄く可愛いから、個人的にはもう少しばかり堪能させて頂きたい。しかしながら、これ以上は彼女との関係が危ぶまれるレベルでエマージェンシー。

 幾ら忙しかったからとはいえ、約束を反故にしてしまったのだから。

 この場は何としても、しっかりと対応させて頂かなければ。

「……待ってた」

「はい、ロコロコさんは約束を守って下さいました」

「でも、来なかった」

「すみません。私は約束を守っておりませんでした」

「約束を守らないのは、良くないと思う」

「仰るとおりです。約束を守らないのは良くないことです」

「罰が必要」

「そうですね、約束を破った者には罰が必要だと思います」

「約束を破らなくなるような罰でないといけない」

「はい、その通りだと思います。キツい罰が必要です」

 でも駄目だ、ゴッゴルちゃんに責められるのマジ快感。

 これは癖になる。

 言葉攻めっぽい感じが、想像した以上に興奮する。不謹慎ながら、もう少し続けたいと願ってしまう。だって楽しい。普段は言葉数が少ない彼女だから、こういった状況でもないと、能動的に攻めてもらえないのだ。

「…………」

「…………」

 申し訳ないけれど、今この流れが喜ばしい。

 夜も更けて物静かとなった室内、ベッドの縁に腰掛けての穏やかなトークも、それはそれで良いものだ。しかしながら、たまにはこうして、一方的に責められる刺激的なトークがあっても良いのではなかろうか。

「…………」

「……あの、ロコロコさん」

 いかんな。

 思ったよりもゴッゴルちゃんに興奮している。

 これは出直すべきだろう。

 とてもではないが、謝罪をするという脳内状況ではない。

「すみませんが少しばかりお時間を頂戴して……」

「……魔法さえ封じたら、私でも攫える」

「…………」

 失礼なことばかり考えていたからだろう、遂に煽られてしまった。

 たしかに両者のステータスを比較すると、肉体性能はゴッゴルちゃんの方が一桁上である。訴えるところも然り。この肉体は容易に拿捕されてしまうだろう。それこそ赤子の手を捻るようなものだ。

 なるほど。

 そう考えると、魔法を封じるアイテムとか、最高に興奮できそうな気がしてきた。魔法を封じた状態でゴッゴルちゃんとトーク、堪らない。しかも今みたいに少し興奮気味のゴッゴルちゃんの前でとか、おいおい、これはやるしかないだろ。

 いつかエディタ先生にそういうアイテム、作れないものかお尋ねしてみよう。それで逆レイプしてもらえるなら、勢い余って殺されてしまっても、まあ、それなりに人生諦められそうな気がする。それはそれでピュアラブの一つの形だって。

「…………」

「あの、本当に申し訳なく思います。ただ、今は少しばかり……」

 攫われたい。

 ゴッゴルちゃんに攫われて、監禁されてしまいたい。

 突発的に同族のお友達とか呼んでみたらどうでしょう。

 褐色集団逆レイプを提案したい。

「……どうして諦めない?」

「あの、流石にそういったことを、昼間からお話するのは……」

 それこそネコが目の前で振られるネコじゃらしへ、否応にも反応してしまうようなものだ。どれだけ理性が抵抗したところで、本能に従い思考は働いてしまう。そこに穴があったら、とりあえず棒を突っ込んで見たくなるのが男という生き物だ。

 瓶口にコルク。コンセントにプラグ。ちくわにキュウリ。いつだって我々人類は、穴に棒を入れることで、困難を解決してきた。過酷な生存競争に勝利してきた。そして、これからも穴に棒を入れることで、進歩し続けることだろう。

 止めろと言われた日など、殊更に突っ込みたくなる。気分は木ネジだ。

 っていうか、あれだ。

 思い起こせばここ数日、街作りに熱中するあまり夜の処理を忘れていた。

「そうじゃない」

「そうじゃないというのは、すみません、どういった意味合いでしょうか?」

 ここは一つ、土下座とかするべきだろうか。

 するべきであろうな。

 名案である。

 現在の立ち位置、土下座の姿勢から上を見上げれば、これまで見えそうで見えなかったゴッゴルちゃんのスカートの奥深くが、最高のアングルから確認できるかもしれない。もしかしたら、これを阻止せんと頭を踏みつけてくれるかもしれない。

 最高だ。

 よし、するぞ。土下座。

「しなくていい」

「…………」

 くそう。

 心を読まれているというのは、こういう時に厄介だな。

 作戦失敗だ。

 謝罪をしつつオマンコを狙う、一石二鳥の名案が。

「……来たくないなら、もう、来なくていい」

「え? ちょっと待って下さい」

「無理、しなくてもいいよ。もう十分、良くしてもらったから」

「いえいえいえ、そんな滅相もないっ!」

 来たくなくて来てない訳じゃない。個人的にはずっと一緒でも何ら問題ない。むしろずっと一緒がいい。ここ最近では、心を読まれるという行為に、よく分からない安心感を覚え始めている。流石に危うい気がするので、距離感には気をつけたいところ。

 本人に嫌われてしまったら元も子もないしな。

「…………」

「ロコロコさん?」

 むしろこちらとしては、彼女の方が心配である。顔を合わせる都度、セクハラに晒されている。とても疲れると思うんだ。自分が逆の立場だったら、とてもではないが耐えられないだろう。どれだけ心が広いんだよって、思わず感心してしまうもの。

 っていうか、あれこれ考えていたら、段々と不安になってきたぞ。

 もしかしたら今この瞬間、彼女は距離を置こうとしているのかも。

「…………」

「もしも差し支えがあるようであれば、仰って頂けると嬉しいです」

 ロリゴンやエディタ先生と一緒に居たいが為に、こうして醤油顔に付き合って下さっているのだとしたら、これほど申し訳ないことはない。そういった背景があるのであれば、素直にお伝えして欲しい。残念ではあるが、交流の頻度を下げようと思う。

「…………」

「…………」

 ただ、願わくば逆レイプを頂戴しとうございました

 心を丸裸にされながらの逆レイプを。

 というか、あれだ。逆レイプ逆レイプと逆レイプのことばかり考えているから、逆レイプという言葉が酷く日常的な単語のように思えてきた。これ以上考えていると、ふとした拍子に逆レイプと鳴いてしまいそうで恐ろしい。

 過去、近親姦のことばかり考えていた時分のこと、初対面の相手に対して、親近感を近親姦と言い間違えた実績がある。人間の脳味噌というものは、思ったより適当に出来ているのだと理解した次第だ。

「すみません、やはり本日のところは出直して……」

「……やっとわかった」

 こちらの言葉を遮るよう一言、短く呟かれた。

 かと思えば、ふぅと溜息など吐いて、どこか達観した眼差しとなるゴッゴルちゃん。強張っていた頬の緊張が解けて見える。どういった心境の変化だろう。

「あの、ロコロコさん……」

 しかし、疑問に思ったところで、童貞野郎には異性の心の内側など、まるで分からない。ただでさえ感情の変化に乏しいゴッゴルちゃんであれば尚のこと。

「自分の力を疑ったのは初めて」

「はい?」

「心を律しているのかと疑っていた。そして、遂に挫けたと」

「どういうことですか?」

 律しているとは程遠い脳内をご存知だろうに。

 今更どういったお話だ。

「でも違った。貴方は普通だった」

「そんなまさか、普通ではいられませんよ。貴方との関係は大切です」

 ゴッゴルちゃんが何を言っているのかイマイチ不明だ。

 やっぱり、呆れられてしまっただろうか。

 だとしても、お別れだけは避けたい。ゴッゴルちゃんにセクハラできない生活など考えたくない。困った、これは本格的に困ったぞ。いよいよ本格的に中毒じゃんね。お薬でラリったロリゴンのこと、決して笑えない。

 誠意だ。誠意を示そう。

 ここは一つ誠意を示して、将来の逆レイプへの可能性を繋げよう。

「代わりになんでも一つ願いを叶える、というのは駄目でしょうか?」

 ピクリ、ゴッゴルちゃんの尻尾が動いた。

 スカートの上からだけれど、今間違いなく彼女のポッシーに動きが見られました。あぁ、こういう時に心を読まれていると、都合が良いかもしれない。読んでいるのだぜ。ブサメンは君の動揺を、多少ばかり読んでいるのだぜ。

「……なんでも?」

「はい、なんでもです」

 即座に頷いて応じる。

 聖水を飲めと仰るのであれば、グラスを用意いたしましょう。

 黄金を食せと仰るのであれば、ライスを用意いたしましょう。

「……もう少し近い場所で、暮らしたい」

「近い場所、ですか」

 何と、とは尋ねまい。

 こればかりは確信が持てる。

 皆と、である。

「…………」

 ご指摘の通り、現在のゴッゴル邸は酷く危うい立地条件にある。如何に立て札など立てたところで、人の好奇心には叶わない。万が一にも彼女の素性が知られては、ドラゴンシティの進退にも関わる大きな騒動となるだろう。

 同所を預かる身の上としては、本人から指摘されるまでもなく、他へ引っ越しするべきだと考えておりました。しかし、そうなると問題は新しい住居である。

 今後も広がりゆくだろうドラゴンシティだ。下手に郊外へ引っ越しては、再び開拓が追いついて、早々に立ち退きの憂き目を見かねない。尚且つ、それでは今まさに訴えられた近い場所、という条件より遠のいてしまう。

「分かりました。そういうことであれば一つ、適した当てがあります」

「どこ?」

「それは引っ越してからのお楽しみです」

 ロリゴンが作った塔である。

 あそこなら横ではなく縦に伸びている都合、街の中心部であっても十分な距離を設けることが可能だ。ゴッゴル距離にも対応可能である。同時に彼女が訴えたところ、面識のある皆々と比較的近しい位置に過ごすことが出来る。

「……引っ越してからのお楽しみ?」

「…………」

 申し訳ないとは思うよ。

 でも流石にこればかりは、どうにもならないじゃんね。

 サプライズしたかったのは本当なんですよ。ゴッゴルちゃん。

「……ありがとう」

「いえ、こちらこそ色々と迷惑ばかり掛けて、すみません」

「迷惑じゃない」

「ですが……」

 醤油顔が言葉に困っていると、ギィと音を立てて玄関が開かれた。今の今までドアと戸口の間から様子を伺っていた彼女の姿が顕となる。平素からの出で立ちは、例によってどこぞの民族衣装を思わせる姿格好だ。ミニスカート仕様、愛してる。

 エディタ先生のムチムチ太股も素敵だが、ゴッゴルちゃんの健康的で引き締まった太股もまた素晴らしい。前者の太股が顔面をホールドされたくなる太股だとすれば、後者の太股もまた、顔面をホールドされたくなる太股だ。顔面ホールドって最高だよな。

「毎日、お話する」

「良いのですか? いくらか頻度を減らそうかと思うのですが……」

「面倒なら私が行く」

「すみません。それは流石に問題なので、私が向かわせて頂きます」

 やった。

 どうやら許して貰えたようだ。

 スーパー嬉しいんですけれど。

 当面に渡りトークの約束を取り付けたところで、ようやっと人心地ついた気分である。無事に許してもらえて良かった。差し当たり今晩のお話には、注力させて頂きたく考えておりますとも。

 意識を改めるブサメン。

 その正面で不意に、ゴッゴルちゃんの表情に変化があった。

「……ずっとお話する。ずっと、ずっと、ずっと」

 語る口元には小さいけれど、間違いなく笑みが窺える。

 おう。

 思い起こせばゴッゴルちゃんの笑顔とか、最高にレアじゃないですか。以前、暗黒大陸で一度見た限りである。たしかグリーンシルフたちを血祭りに上げて直後の彼女と、ご自宅でエンカウントした際のことだ。

 あぁ、あまり思い出したい光景ではないな。

「そうですね。叶うことなら、ずっとお話していたいものです」

「……なんでもない。なんでもない。気にしない」

「そうですか?」

 お声掛けしたところ、すぐに元のクールビューティーに戻ってしまった。

 ほんの僅かな間の出来事であった。残念である。

「そう。その通り」

「では、本日は引っ越しを急ぐとしましょうか。場所の交渉してきますね」

「わかった。ここで待ってる」

「承知しました」

 ブサメンがあれこれと妙なことを考えていたので、気を遣って下さったのだろう。コミュ力は低いかもしれないけれど、気遣いが出来ない訳じゃないからな。

 なにはともあれ、ゴッゴルちゃんと仲直りできて良かった。



◇◆◇



 場所を移すこと新興住宅街の一角。

 醤油顔は土木作業の最中にあったロリゴンの下までやってきた。同所ではドレス姿のまま、ホコリまみれとなって、しかし、良い笑顔で事にあたる彼女の姿があった。これに声を掛けたところで、いざ、交渉に至った次第である。

 しかしながら、話し合いは難儀した。

 ゴッゴルちゃんの引っ越しを提案したところ、ロリゴンは大層のこと嫌がった。あの塔は自分が作ったものだ、ゴッゴル族など受け入れられるものか、どこへでも遠くへ引っ越していけばいい、云々。

 相変わらずのゴッゴル嫌いである。

 一度食べられてしまえば、これはこれで快感なのだが。

『絶対にだめだっ! だめだめだっ! 許さないぞっ!?』

 ただ、臆病なドラゴンは、その悦びを理解しない。

 ぐるるるる、喉を鳴らしてまで威嚇された。

 めっちゃ嫌そうだ。

 声をかけて当初の笑顔も完全に吹き飛んでしまった。

「最上階の部屋を、という訳ではありません。中層階で結構です。一つだけフロアをお借りしたいのです。もちろん、彼女が貴方の許しを得ずに、他のフロアへ移動するようなことも禁じましょう」

『嫌だ』

「どうしてもでしょうか?」

『どうしても嫌だ』

「……そうですか」

 思ったよりも頑なだ。

 しかし、他に町長宅の近隣で、ゴッゴルちゃんが住めそうな場所はない。かといって今更、町長宅を移設するのも大変である。あの辺りには他に黄昏の団の詰め所だの、エディタ先生や魔道貴族の研究棟だの、色々と重要な施設が合わせて敷設されている。

 仮に移動するとなったら、その全てを移動する必要がある。既に下水道の類まで敷いてしまった行政の中心部であるから、流石にそれは避けたいところである。街の拡張計画に対して大きな遅れとなってしまう。

 すると、こうなったらあれか。

「分かりました。私もまた一つ、塔を建てることにしましょう」

 ロリゴンに出来たのだ、ブサメンにだって、きっと出来る。

『っ……』

「そして、その一番高いところに、彼女には住んで頂きましょう」

 ついでに既存の塔を超えてしまったりとかしたら、おいおい、久しぶりに悔しそうな顔で唸るロリゴンを楽しめる可能性も然り。たまには醤油顔も威厳というヤツを示しておかないといけないだろうし、あぁ、案外悪くない選択ではなかろうか。

 そうと決まれば急いで着手しよう。

 踵を返すと共に、飛行魔法を行使すべく意識を空へ。

「お忙しいところ失礼しまし……」

『ま、待てっ! ちょっと待てっ!』

「なんですか?」

 すると、酷く慌てた調子で静止の声を掛けられた。

 何事かと元あった側に振り返る。

 ともすれば、そこには酷く慌てた様子のロリゴンが。

『……分かった。か、か、貸してやるっ!』

「いいのですか? つい今し方まではあんなに嫌がって……」

『いいっ! いいから借りろっ! だから貴様は絶対に作るなっ!』

「確かにフロアが借りられるのであれば、作ることはしませんが」

『本当だなっ!? ぜ、絶対に作らないなっ!? 絶対だぞっ!?』

「ええまあ」

『あ、で、でもっ、真ん中だけだっ! 真ん中だけっ!』

「ええ、承知してます」

『真ん中より上に来たら、殺すっ! 絶対に殺すからなっ!?』

「彼女にはしっかりと伝えておきます」

『ぐるるるるるる』

 今にも飛びかかってきそうな勢いで、喉を鳴らしてはブサメンを睨み付けるロリゴン。ここ最近は他の面々とも仲良くやっているような気がしていた。事実、先生やソフィアちゃんとの距離は随分と近づいて思える。

 ただ、やはりゴッゴルちゃんとの関係改善は、依然として敷居が高そうだ。

「ありがとうございます、クリスティーナさん」

『それは貴様が言う言葉ではないっ! あのゴッゴル族が言うべき言葉だっ』

「そうですね。彼女にも改めて貴方のところへ向かわせます」

『べ、べ、別に来させなくていいっ! 来させるなよっ!? ぜったいっ!』

 なんとも難儀な性格である。

 ただまあ、結果的には良かった。

 無事にゴッゴルちゃんの引越し先が決まったぞ。



◇◆◇



 急遽決まったゴッゴルちゃんのお引越し。

 その作業を手伝っている最中のことだった。

「おーい! タナカの旦那っ! おーいっ!」

 ゴッゴル邸より運びだした家具の類を、飛行魔法でピストン輸送していた醤油顔。これを地上から大声で呼ぶヤツがいた。何事かと視線を向ければ、そこにはこちらに向かい大きく腕を振るゴンちゃんの姿を発見だ。

 家具を宙に浮かせたまま、その下へと急行する。

 場所は町長宅の正面、玄関口から外に出てすぐのところだ。

「どうしました?」

「ノイマンのヤツを知らねぇか? 急ぎの用件なんだが」

「そういうことなら探してきましょうか?」

「忙しいところ悪いんだが、そうしては貰えねぇか?」

 間髪を容れずにお願いされた。

 ここまで急いでいるゴンちゃんも珍しい。自然とノイマン氏への用件とやらが気になってしまったぞ。差し支えなければ教えていただきたい。もしかしたら、醤油顔でも対応可能かもしれないし。

「承知しました。ところで、用件に関して伺っても?」

「ああ、ヤツの子供が来てるんだわ」

「本当ですか?」

「しかも母親の姿が見られねぇ。本人が言うには一人で来たって話だ」

「それはまたなんとも……」

 思わず胸がドキっとしてしまったぞ。

 ノイマン氏の家庭の事情を知っているだけに、これは急を要すると判断だ。どこで何をしているのかは知れないが、大急ぎで連れ戻したほうが良さそうである。多分、だからこそゴンちゃんも醤油顔に声を掛けたのだろう。

「頼めるか?」

「分かりました。すぐに連れて参ります。ところで、お子さんの面倒は……」

「任せとけ。クランの女連中に見させているからよ」

「助かります」

 流石はゴンちゃん、

 伊達にロリハーレムなど囲っていない。

 ちびっ子の扱いに関しては信頼できるぞ。

「すぐに戻りますので、しばらくお願いします」

 ノイマン氏の置かれた状況を思えば、これ以上に優先順位の高い仕事はない。そも彼のお子さんは、まだ小さかった筈だ。それが一人で首都からドラゴンシティまで来たとあらば、初めてのおつかいなんてレベルじゃないぞ。とんだ大冒険だ。

 相応に切羽詰まった状況だと思われる。

 とりあえず、今持っている分の家具を塔まで移動させよう。

 ゴッゴルちゃんに一声掛けることも忘れてはならない。

 急がなければ。



◇◆◇



 ここ最近のノイマン氏は、不倫の事実を忘れる為なのか、これまで以上に激しく働いている。それこそ朝起きてから夜眠るまで、食事や入浴の時間以外は、ずっと働いているのではないかと思われる。

 そんな彼は本日、新興住宅街で物資の搬入指揮を取っていた。

 スーパー役人であるノイマン氏が、わざわざ出張るほどのものでもない。

 ただ、それでも、身体を動かしていたかったのだろう。

 黄昏の団の面々に向かい、声も大きく指示を飛ばすノイマン氏。そんな彼に事情を説明して、飛行魔法により町長宅までひと飛び。ゴンちゃんと約束した通り、半刻と掛からずお連れさせて頂いた。

 そうして今、同所の応接室には、互いに向かい合う親子が一組。

「パパっ!」

「ミッシェルっ!」

 ドアを開いて今まさに部屋へ一歩を踏み入れたノイマン氏。

 その姿を認めて、歳幼い少女がダッシュだった。

 そのまま全力で彼のもとにダイブ。

 これをノイマン氏は両手で受け止めて、親子の抱擁が完成である。

「パパっ! 会いたかったっ! パパっ!」

「ミッシェル、どうしてこんなところまで……」

 パパを連呼する娘さんに対して、お父さんは困惑気味だ。

 そんな彼に彼女はしっかりとした調子で応える。

「パパに会いたかった! ここの街にいるって聞いたのっ!」

「いやしかし、こ、ここから首都カリスまでは距離が……」

 チラリ、ノイマン氏の視線がこちらに向かう。

 これに醤油顔はと言えば、もちろん首を横に振ってお答えである。

「……まさか、本当に一人でやって来たのか?」

「うんっ! パパに会いたかったのっ! パパァっ!」

「っ……」

 一瞬、ノイマン氏の表情がハニャってなったぞ。

 泣きそうな感じで。

 一方で娘さんはとても嬉しそうだ。

 年頃は小学生中学年ほどだろうか。腰下まで伸びた長い髪や、クリクリとした大きな瞳は、ノイマン氏とお揃いの色合い。ここへ至るまでには相応の苦労を重ねてきたのだろう。町娘然とした衣服は土埃に汚れており、ところどころ穴など開いている。

 父を訪ねて二百マイルといったところだろうか。

 非常に感動的な場面、大変に恐縮ではありますが、醤油顔的にどストライクでございます。幼さの中にも芯の強さを思わせるツリ目がちな眼差しが、心のオチンチンを的確に刺激する。単身、ドラゴンシティまで移動した行動力も相まっては倍ドン。

 ゴッゴルちゃん、やっぱり自分には嘘をつけないよ。

 心を込めてファックしたい。

「怪我はないか? 気分が悪くなったりしてないか?」

「大丈夫だよ! これくらい、なんともないものっ!」

「そ、そうかっ……」

 なんて微笑ましい光景だろう。

 感動すればいいのか、興奮すればいいのか、ロリコンの心が悲鳴を上げている。

 感動的なシーンで素直に感動できない業の深さに。

「ゴンザレスさん、行きましょう」

「そうだな」

 事情は後で聞けばいい。

 ゴンちゃんを伴って、ロリコン野郎は同所を後とする。だって、これ以上見ていたら危険である。脳内ファック余裕である。妄想が現実を侵食する。綺麗な光景は綺麗なまま終えたいと、僅かに残った理性が訴えた成果である。

 良かったじゃん、ノイマン氏。

 ただ、それでも醤油顔は、貴方の復権を諦めたくない。

 その可愛らしい娘さんの為にも、絶対に決めてやるのだわ。

 パパっていう生き物は、娘に格好良いところを見せてナンボだと思う。



◇◆◇



 ゴッゴルちゃんの引っ越しを終えたところで、執務室まで戻ってきた。

 傍らにはロリゴンの姿がある。我々が引っ越し作業の最中、彼女は終始、ゴッゴルちゃんの様子を窺うよう、つかず離れずしていた。万が一にも自ら与えた領域を逸脱しないよう、監視していたのだろう。

 以降、作業を終えてそのまま、場所を移すこと町長宅へと流れた形だ。

 ちなみにゴッゴルちゃんは新居で荷解きなど行っている。私物の類は皆無に等しいので、そう大した手間ではないだろう。後で引っ越しそばとか、そういう感じの差し入れでも持って行って、ご機嫌を取ろうと考えている。

「お、旦那と町長が来たぜ?」

 ドアを開いて早々、ゴンちゃんの威勢の良い声が響いた。

 同所には彼の他にソフィアちゃん、ノイマン氏、更にノイマン氏の娘さんの姿があった。どうやら感動の再開は一段落した様子だ。今は午後のティータイムといった風情で、ソファーに腰掛けては皆でケーキなど啄いていた。

「タナカ、面倒を掛けた。すまない」

 ドアの先に醤油顔を見つけて、いの一番、ノイマン氏が腰を上げた。

 かと思えば、謝罪の言葉と共に深々と頭を下げる。

 その隣に腰掛けていた娘さんもまた、これに習って立ち上がりお辞儀をした。

 なんて躾の出来た子だろうか。

 多分、父親に似たのだろうな。

『おい、その娘はなんだ?』

「ノイマンさんのお子さんです。失礼のないようにお願いします」

『……ヤツの子供か』

 ロリゴンからの問い掛けを適当にいなして、当人に向かう。

「頭を上げて下さい、ノイマンさん。決して面倒などではありませんよ。娘さんの一大事ではありませんか。これに協力するのは職場を共にする同僚として、当然の行いですよ。困ったときはお互い様です」

「いいや、全ては家庭の事情だ。職場に面倒を掛けて良いわけがない」

 しかしまあ、この生真面目さはどうしたものか。

 少しばかり行き過ぎてやいやしないか。

「ここは王宮とは異なります。そういう些末なこと気にしなくても良いではないですか。それを言ったら私など、私的な問題から皆さんに迷惑ばかり掛けております。町長に至っては、その日の気分で街を脱走している始末ですよ」

「い、いや、だがしかし……」

 困惑するノイマン氏。

 一方で父親と醤油顔のやり取りをジッと見つめている娘さん。

 パパの同僚として、値踏みされているような感覚が快感。

 ここは一つお父さんの上司として、格好良いところを披露するべきだろう。

「ここの近くに娘さんと一緒に暮らせる家を建てましょう」

「待てっ! そんなことをして良い筈がないっ!」

「町長の屋敷にも部屋は余っておりますが、それでもやはり、親子水入らずの時間と空間は、大切なものだと思います。娘さんもまだ小さいのですから、家庭環境は大切にした方が良いでしょう。如何せんこの屋敷は賑やかですし」

 若干一名、非常に危険なヤリチンとか住まっているし。

 非モテ的に考えて、今となってはロリゴン以上に危ない人物だ。

「しかし、それでは他の者に面目が立たないではないか!?」

 渋るノイマン氏。

 そんな彼に口を開いたのがゴンちゃんだ。

「おいおい、そんなこと言ったら俺らはどうなっちまうんだ? ノイマンよ」

「い、いや、だがな……」

 彼と彼の従える黄昏の団には、町長宅よりほど近い場所に専用の詰め所と集合住宅が設けられている。三桁を超える人員を誇る同クランであるから、その有り様は大規模マンションのような有り体だ。

 ただ、それでも街全体としては問題ない。

 こういった時の為にも、町長宅の周辺には幾らか土地にゆとりを持たせている。将来を見据えた都市設計というやつだ。今後、結婚を期に家庭を持つ関係者も増えてゆくだろうから、その手の施設には十分な余裕を考えておきたい。

 名目も騎士団の宿舎となっているし。

「しかしまあ、なんだって娘が一人でこんなところまで来ちまったんだ? 以前に聞いた話じゃあ、首都に住んでたんだろう? いくら紛争に一区切りついたとはいえ、危ないにも程がある。それに子供の足じゃあ随分な距離だろうが」

 そうこうしているうちに、話題を変えるようゴンちゃんが尋ねた。

 どうやらノイマン氏は、彼らにまだ家庭の秘密を伝えていないようだ。

 個人的には秘密のままにしてあげたい。

 切に思う。

「あぁ、いや、それはだな……」

 焦るノイマン氏。

 今まさに彼が直面している問題に、ブサメンは理解がある。

 心の底から共感できる。

 誰にだって、触れて欲しくないワードの一つや二つはあるものだ。

 例えば、ほら、いるじゃんね。何かにつけて童貞という単語を口にするヤツ。合コン童貞とか、海外旅行童貞とか。それも職場での何気ない業務トークに織り交ぜて、それとなく童貞を煽ってくる奴って。

 しかもそういうヤツに限って、イケメンじゃないのに可愛くて甲斐性のある彼女がいたりして。更にその事実を当然のように受け入れていたりするから、なんかもう、あぁ、チンチンを離散フーリエ変換してやりたくなる。

 アナル以外の選択肢を奪ってやりたくなるぞう。

 童貞も処女くらい容易に捨てられたのなら、男たちの世界はきっと平和だった。

 きっと争いも発生しなかった。

 心穏やかなまま、自らの世界で存分に羽ばたく一対の翼となれた。

 真なる自由が、そこにはあった。

「どうしたんだ? 俺で良ければ協力するぜっ!」

 しかもゴンちゃんの場合、全てが善意から来ているから質が悪い。

 少しは慎めよ。

 娘さんも同席しているのに。

「いや、その……なんだ。こういった場所で話すのは憚られるのだが……」

「どうした? アンタと俺の仲だろうが」

 このままでは良くない。

 現場に居合わせて終始を知る醤油顔がいざ参る。

 ノイマン氏の尊厳は我が守らねば。

「ゴンザレスさん、誰しも心の内側に秘めておきたいことの一つや二つ、あるものではありませんか? 私はゴンザレスさんに男色の気があったとしても、これを暖かな目で迎える余裕がありますよ?」

「お、おいおい、流石にそれは勘弁だな……」

 適当を語ったところ、早々に応じてくれたゴンちゃん。

 伊達にリア充していない。滅多でない醤油顔からの軽口を受けて、一連のやり取りにセンシティブなところを感じて下さったのだろう。こういった切り替えの早いところ、流石だと思いますとも。伊達にクランなど率いていない。

 だというに、どうしたことか。

「パ、パパは悪くないっ! ママが悪いのっ! ママが悪いんだからっ!」

 娘さんの方が反応した。

 パパを守るように、ノイマン氏の前に立って両手を広げている。

 果敢にも醤油顔やゴンちゃんに向き直り、必至の形相だ。

 前者はさておいて、後者などめちゃくちゃ顔怖いのに、頑張ってる。

「パパは悪くないっ! ママが変な男と一緒になったのが悪いのよっ! パパは一生懸命、頑張っているのに、ママはパパのことを悪く言うのっ! そんなのおかしいわっ! 毎日、遅くまで頑張って働いていたのにっ!」

「…………」

 なんて胸に響く言葉だろう。

 おかげで大切なところが全部、皆々にバレてしまったぞ。

「お、お願いします! パパに優しくして上げて下さい! 私でよければ、なんでもします! だから、どうか、どうかパパに優しくしてあげて下さいっ! パパは凄いのっ! パパは、私のパパは、とっても凄いのだからっ! 本当にっ!」

 必至の形相で訴えてくる。

 これを受けては誰もが返すところを失った。今の今まで我関せずを貫いていたメイドさんまでもが、帳簿から顔を上げて娘さんを見つめている。ロリゴンですら、何かを語りかけて、しかし、どうしたものかと口をモニョモニョと。

 ノイマン氏、想像した以上に愛されてるじゃんね。

 ちょっと目頭熱くなっちゃったよ。

 それとなく視線を向ければ、ノイマン氏、目元を指先で抑えてる。

 だよな。そうだよな。



◇◆◇



 娘さんの登場を受けて、ノイマン家の事情は赤裸々となった。

 ゴンちゃんやソフィアちゃんに対しては、ノイマン氏自身から経緯が説明された。更に続くところ娘さんのお口から、何故に単身、同所を訪れるまでに至ったのか。本日の騒動へ至るキッカケを伺うことができた。

 どうやら彼女は、奥さんの不貞を目の当たりとしていたらしい。

 更に奥さんと間男の間では、日常的にノイマン氏の悪口が交されていたそうだ。これを幾度となく耳にした彼女は、もはや我慢ならぬと、家出を決意したらしい。それがつい先週のことだそうな。

「なんつぅか、その、すまねぇ。要らねぇことを聞いちまった」

「いや、気にするな。すぐに知られるところだった」

 一頻りが語られたところ、お部屋の雰囲気はなんとも言えないものに。自ら尋ねた経緯も手伝ってだろう、ゴンちゃんが申し訳なさそうに口を開いた。これに応えるノイマン氏の表情はと言えば、全てを諦めて思える。

 このままは良くないよな。

「しかし、流石はノイマンさんのお子さんですね。自らの信じたところ、真っ直ぐに決断を下し、更に一人で街を越える行動力まで持ち合わせていらっしゃる。同じ年頃の子供たちとは比較するまでもありません」

 なんでも娘さん、近所に囁かれる噂から、自らの父親が勤め先を特定したらしい。

 そこから先は愛するパパを求めて一直線。首都カリスを立ってからドラゴンシティまで、大冒険を繰り広げたとのお話であった。流石の醤油顔も、そのお話の最中には手に汗握ってしまったわ。いつ何時ロリレイプが発生するとも知れない状況であった。

 実は既にその膜が失われているという可能性さえ思い浮かぶ。

「……ああ、そうだな。私には過ぎた娘だ」

 呟いて、自らの娘を慈しむよう見つめる。

「当面はこっちで面倒を見るんだろ? 必要なものがあったら幾らでも言ってくれよな! 優先して運び込んでおくからよ! あぁ、家ができるまでしばらくはここで暮らすんだよな? 部屋の準備をしねぇと」

「いや、流石にそれは駄目だろう。順番通りで良い」

「たまにはいいじゃねぇか。そういう気分なんだよっ」

 ノイマン氏を慰めるよう、普段より幾分か口数が多いゴンちゃん。

『子供か……』

 一連のやり取りを耳として、何かを感じたのだろう。誰に語るでもなく、ボソリ、ロリゴンが呟いた。平素より幾分か、穏やかに感じられる表情だ。ノイマン氏から娘さん、そして、自らの肉体へとロリゴンの視線が一巡する。

「どうしました? クリスティーナさん」

『な、なんでもないっ! なんでもないぞっ!?』

 ふと気になって声をかけると、ビクリ、肩を揺らして驚かれた。

 取り立てて驚くようなシーンでもなかろうに。

「そうですか? であれば良いのですが」

『ぶ、部下の子供ならば、面倒をみなければならないな! 町長としてっ!』

 慌て気味に吠えたところで、町長の口元にニィと笑みが浮かんだ。

 ヌイの件もそうだけれど、部下とか配下とか、その手の関係に肯定的な反応を示すケースが増えてきたのが、ここ最近のロリゴンだ。これまで延々と暴虐非道なワンマン人生を送ってきた反動だったりするのだろうか。

「おう、流石は我らが町長だぜ!」

『部下を養うのは町長として当然のことだ。そういうことなら立派な家を作らないとならないなっ! 私にまかせるといい! そこのニンゲンより、余程のこと上手く、良い家を建ててやるぞっ!』

 チラリ、ロリゴンがこちらへ視線をくれる。

 生意気にも流し目というやつだ。

「そうですね。彼らの新居は町長にお任せ致します」

『ふふんっ! そうだなっ! なんたって部下と部下の子供だからなっ!』

 素直に頷くと、いつになくドヤった顔をされた。

 もちもちのほっぺがぷにぷにだ。

 五割苛立ちつつ、五割微笑ましいのが悔しい。

「あの、パ、パパ、この子は誰? 私と同じくらいに見えるけど……」

 ロリゴンの眼力に萎縮している。

 その感覚は分からないでもない。夜中、廊下で不意に遭遇したりすると、割とマジでビビるんだよな。お化け屋敷のそれに近い。曲がり角でバッタリと出会った際など、反射的に悲鳴とか上げそうになったし。

「この街の町長だ。名前をクリスティーナという」

『そうだ、私が町長だ。町長っ! ……偉いんだぞ?』

「え? でも、あの、わ、私と同じくらいで……」

『誰かに虐められたら、ちゃんと私に言うんだぞ?』

「う、うん」

 なし崩し的に頷かさせられた娘さん。

 その表情は多分に疑問を孕んだものである。とてもではないが納得した様子はない。ただまあ、この場であれこれとやってロリゴンの機嫌を悪くする必要もあるまい。ノイマン氏もそう考えたようで、これといって言及は為されない。

 後で個別に説明が入るだろうさ。

『それじゃあ支度してくるぞっ! 支度っ!』

 言うが早いか、駆け足で部屋を飛び出してゆくロリゴン。

 ズダダダと足音も大きく遠退いていく。

「それではお手数ですが、後はお願いします。ゴンザレスさん、ソフィアさん」

「おうっ、任されたぜ」

「は、はいっ!」

 二人に残る面倒をお願いしたところで、醤油顔も執務室を後とする。

 何はともあれ娘さんが無事で良かった。

 この調子であれば、傷心の彼も幾らばかりか冷静となって、今後を過ごして下さるのではなかろうか。ここ数日のノイマン氏は自暴自棄なところがあったから心配だった。娘さんと共に暮らすことで、元のリズムを取り戻して頂けるとありがたい。

 そして、家族愛が与えた若干の猶予は、必ずや挽回へ繋げてみせよう。
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